本発明は、微生物もしくは培養細胞の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると共に未濾過液を発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を発酵培養液に追加する連続発酵であって、分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用いて前記の発酵培養液を濾過処理し、かつ前記の発酵培養液から微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液の一部を抜き出すことにより、もともとの発酵培養液から微生物もしくは培養細胞を除去することを特徴とするものである。
本発明において分離膜として用いられる多孔性膜は、発酵に使用される微生物や培養細胞による目詰まりが起こりにくく、そして、濾過性能が長期間安定に継続する性能を有するものである。そのため、本発明で使用される多孔性膜は、平均細孔径が、0.01μm以上1μm未満であることが重要である。
本発明で分離膜として用いられる多孔性膜の構成について、具体的に説明する。本発明における多孔性膜は、被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能を有するものである。多孔性膜は、阻止性能および透水性能や耐汚れ性という分離性能の点からは、多孔質樹脂層を含む多孔性膜であることが好ましい。このような多孔性膜は、多孔質基材の表面に、分離機能層として作用とする多孔質樹脂層を有している。多孔質基材は、多孔質樹脂層を支持して分離膜に強度を与えるものである。
多孔質基材の材質は、有機材料および/または無機材料等からなり、なかでも有機繊維が望ましく用いられる。好ましい多孔質基材は、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布等である。なかでも、密度の制御が比較的容易であり製造も容易で安価な不織布が好ましく用いられる。
また、多孔質樹脂層は、上述したように分離機能層として作用するものであり、有機高分子膜を好適に使用することができる。有機高分子膜の材質としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂等が挙げられる。有機高分子膜は、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物からなるものであってもよい。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。中でも、多孔質樹脂層を構成する膜素材としては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂がより好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が最も好ましく用いられる。
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましいが、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。また、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンまたは塩素化ポリプロピレンが挙げられるが、塩素化ポリエチレンが好ましく用いられる。
本発明で用いられる多孔性膜は、平膜であっても中空糸膜であっても良い。多孔性膜が平膜の場合、その平均厚みは用途に応じて選択されるが、好ましくは20μm以上5000μm以下であり、より好ましくは50μm以上2000μm以下の範囲で選択される。
上述のように、本発明で用いられる分離膜は、多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されている多孔性膜を用いることが望ましい。その際、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。多孔質基材の平均厚みは、好ましくは50μm以上3000μm以下の範囲で選択される。また、多孔性膜が中空糸膜の場合、中空糸の内径は好ましくは200μm以上5000μm以下の範囲で選択され、膜厚は好ましくは20μm以上2000μm以下の範囲で選択される。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編物を中空糸の内部に含んでいても良い。
まず、多孔性膜のうち、平膜の作成法の概要の一例を例示して説明する。
多孔質基材の表面に、樹脂と溶媒とを含む原液の被膜を形成すると共に、その原液を多孔質基材に含浸させる。その後、被膜を有する多孔質基材の被膜側表面のみを、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させると共に、多孔質基材の表面に多孔質樹脂層を形成する。
原液は、樹脂を溶媒に溶解させて調整する。原液の温度は、製膜性の観点から、通常、5〜120℃の範囲内で選定することが好ましい。溶媒は、樹脂を溶解するものであり、樹脂に作用してそれらが多孔質樹脂層を形成するのを促すものである。溶媒としては、N−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N − メチル− 2 − ピロリドン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、シクロヘキサノン、イソホロン、γ − ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテール、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート、アセトンおよびメチルエチルケトンなどを用いることができる。中でも、樹脂の溶解性の高いN−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましく用いられる。これらの溶媒は、単独で用いても良いし2種類以上を混合して用いても良い。原液は、先述の樹脂を好ましくは5重量%以上60重量%以下の濃度で上述の溶媒に溶解させることにより調製することができる。
また、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびグリセリンなどの溶媒以外の成分を溶媒に添加しても良い。溶媒に非溶媒を添加することもできる。非溶媒は、樹脂を溶解しない液体である。非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水や、メタノールおよびエタノールなどのアルコール類を用いることができる。中でも、非溶媒として、価格の点から水やメタノールが好ましく用いられる。溶媒以外の成分および非溶媒は、混合物であってもよい。
原液には、開孔剤を添加することもできる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤を添加することにより、平均細孔径の大きさを制御することができる。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであることが好ましい。開孔剤としては、例えば、塩化カルシウムや炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、開孔剤として、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールおよびポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物や、グリセリンを用いることができる。
次に、多孔性膜のうち、中空糸膜の作成法の概要の一例を説明する。
中空糸膜は、樹脂と溶媒からなる原液を二重管式口金の外側の管から吐出すると共に、中空部形成用流体を二重管式口金の内側の管から吐出して、冷却浴中で冷却固化して作製することができる。
原液は、上述の平膜の作成法で述べた樹脂を好ましくは20重量%以上60重量%以下の濃度で、上述の平膜の生成法で述べた溶媒に溶解させることにより調整することができる。また、中空部形成用流体には、通常気体もしくは液体を用いることができる。また、得られた中空糸膜の外表面に、新たな多孔性樹脂層をコーティング(積層)することもできる。積層は中空糸膜の性質、例えば、親水・疎水性あるいは細孔径等を所望の性質に変化させるために行うことができる。積層される新たな多孔性樹脂層は、樹脂を溶媒に溶解させた原液を、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させることによって作製することができる。その樹脂の材質は、例えば、上述有機高分子膜の材質と同様のものが好ましく用いられる。また、積層方法としては、原液に中空糸膜を浸漬してもよいし、中空糸膜の表面に原液を塗布してもよく、積層後、付着した原液の一部を掻き取ったり、エアナイフを用いて吹き飛ばしすることにより積層量を調整することもできる。
本発明で用いられる多孔性膜は、支持体と組み合わせることによって分離膜エレメントとすることができる。支持体として支持板を用い、その支持板の少なくとも片面に、本発明で用いられる多孔性膜を配した分離膜エレメントは、本発明で用いられる多孔性膜を有する分離膜エレメントの好適な形態の一つである。この形態で、膜面積を大きくすることが困難な場合には、透水量を大きくするために、支持板の両面に多孔性膜を配することが好ましい態様である。
分離膜の平均細孔径が上記のように0.01μm以上1μm未満の範囲内にあると、菌体や汚泥などがリークすることのない高い排除率と、高い透水性を両立させることができ、さらに目詰まりをしにくく、透水性を長時間保持することが、より高い精度と再現性を持って実施することができる。微生物として細菌類を用いた場合、多孔性膜の平均細孔径は好ましくは0.4μm以下であり、平均細孔径は0.2μm未満であればなお好適に実施することが可能である。平均細孔径は、小さすぎると透水量が低下することがあるので、本発明では、平均細孔径は0.01μm以上であり、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.04μm以上である。
ここで、平均細孔径は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めることができる。
上記の平均細孔径の標準偏差σは、0.1μm以下であることが好ましい。更に、平均細孔径の標準偏差が小さい、すなわち細孔径の大きさが揃っている方が均一な透過液を得ることができる。発酵運転管理が容易になることから、平均細孔径の標準偏差は小さければ小さい方が望ましい。
平均細孔径の標準偏差σは、上述の9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔数をNとして、測定した各々の直径をXkとし、細孔直径の平均をX(ave)とした下記の(式1)により算出される。
本発明で用いられる多孔性膜においては、発酵培養液の透過性が重要点の一つであり、透過性の指標として、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、多孔性膜の純水透過係数は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9m3/m2/s/pa以上であることが好ましい。純水透過係数が2×10−9m3/m2/s/pa以上6×10−7m3/m2/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。より好ましい純水透過係数は、2×10−9m3/m2/s/pa以上1×10−7m3/m2/s/pa以下である。
本発明で用いられる多孔性膜の膜表面粗さは、分離膜の目詰まりに影響を与える因子である。膜表面粗さが好ましくは0.1μm以下のときに、分離膜の剥離係数や膜抵抗を好適に低下させることができ、より低い膜間差圧で連続発酵が実施可能である。従って、目詰まりを抑えることにより、安定した連続発酵が可能になることから、表面粗さは小さければ小さいほど好ましい。
また、多孔性膜の膜表面粗さを低くすることにより、微生物や培養細胞の濾過において、膜表面で発生する剪断力を低下させることが期待でき、微生物や培養細胞の破壊が抑制され、多孔性膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が可能になると考えられる。
ここで、膜表面粗さは、下記の原子間力顕微鏡装置(AFM)を使用して、下記の装置と条件で測定することができる。
・装置:原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments(株)製Nanoscope IIIa)
・条件:探針 SiNカンチレバー(Digital Instruments(株)製)
:走査モード コンタクトモード(気中測定)
水中タッピングモード(水中測定)
:走査範囲 10μm、25μm 四方(気中測定)
5μm、10μm 四方(水中測定)
:走査解像度 512×512
・試料調製 測定に際し膜サンプルは、常温でエタノールに15分浸漬後、RO水中に24時間浸漬し洗浄した後、風乾し用いた。RO水とは、濾過膜の一種である逆浸透膜(RO膜)を用いて濾過し、イオンや塩類などの不純物を排除した水を指す。RO膜の孔の大きさは、概ね2nm以下である。
膜表面粗さdroughは、上記AFMにより各ポイントのZ軸方向の高さから、下記の(式2)により算出する。
本発明で使用される微生物や培養細胞の発酵原料は、発酵培養する微生物や培養細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであればよい。発酵原料としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地等が好ましく用いられる。
上記の炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉、澱粉加水分解物、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ケーンジュース、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの抽出物もしくは濃縮液、甜菜糖蜜またはケーンジュースの濾過液、シラップ(ハイテストモラセス)、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された原料糖、菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された精製糖、更には酢酸やフマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリンなどが使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指す。
また、上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
また、上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加使用することができる。
本発明で使用される微生物や培養細胞が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加することができる。また、消泡剤も必要に応じて添加使用することができる。
本発明において、発酵培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言う。追加する発酵原料の組成は、目的とする化学品の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更することができる。
本発明では、発酵培養液中の糖類濃度は5g/l以下に保持されるようにすることが好ましい。その理由は、発酵培養液の引き抜きによる糖類の流失を最小限にするためである。そのため、糖類の濃度は可能な限り小さいことが望ましい。
微生物の発酵培養は、通常、pHが4〜8で温度が20〜45℃の範囲で行われることが多い。発酵培養液のpHは、無機の酸あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節される。
培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を好適には21%以上に保つ、発酵培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。逆に、酸素の供給速度を下げる必要があれば、炭酸ガス、窒素およびアルゴンなど酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
本発明においては、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って微生物濃度を高くした後に連続培養を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。適当な時期から発酵原料の供給、濾過および微生物もしくは培養細胞の発酵培養液からの抜き出しを行うことが可能である。発酵原料供給、濾過および微生物もしくは培養細胞の発酵培養液からの抜き出しの開始時期は、必ずしも同じである必要はない。また、発酵原料の供給、濾過および微生物もしくは培養細胞の発酵培養液からの抜き出しは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。発酵原料には、上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。
本発明においては、発酵培養液を平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用いて濾過処理する一方で、発酵培養液から微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液の一部を系外に抜き出す。すなわち、発酵培養液から発酵培養液の一部を系外抜き出し、抜き出した発酵培養液に含まれる微生物や培養細胞を発酵培養液から除く処理を行う。本処理により分離膜の閉塞を抑えることができ、良好な生産効率が得られる。
本発明において、発酵培養液から発酵培養液から微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液を抜き出す際は、微生物もしくは培養細胞の濃度が減少して発酵生産物の生産性が低下しないように、微生物もしくは培養細胞の比増殖速度または発酵培養液の濁度に基づいて適宜調整することが好ましい。
微生物もしくは培養細胞を培養すると、一般に指数増殖期といって細胞量が時間の指数関数で増加する時期がみられる。このとき、細胞量全体の増加速度は時間に伴って増加する。しかし、各時点の細胞量全体の増加速度をその時点での細胞量で割った数字は、条件が一定であれば分裂を一定の間隔で繰り返すため、一定になる。このように、増殖速度を細胞量で割った数値を比増殖速度と言う。即ち、培養時間に対し細胞濃度の自然対数をプロットすると直線関係が得られ、その勾配が比増殖速度である。比増殖速度に基づいて発酵培養液から微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液の抜き出しを調節する際は、発酵培養液中の微生物もしくは培養細胞の増殖速度を考慮し、その濃度が減少しない抜き出し速度および量以下とすることが好ましい。なお、微生物もしくは培養細胞の比増殖速度は、その種類、培養条件、培養時間などの条件により変化するため、抜き出し速度も微生物もしくは培養細胞の種類、培養条件、培養時間などにあわせて選択することができる。
発酵培養液を抜き出す速度を微生物および培養細胞の比増殖速度で決定する場合、例えば、酵母の場合、連続発酵における比増殖速度が0.0074/hであるときは、94時間かけて発酵反応槽内にある発酵培養液体積を抜き出す場合が発酵培養液中の酵母の濃度に増減を生じない抜き出し速度となり、これ以下の速度で抜き出すことが好ましい。乳酸菌の場合、連続発酵における比増殖速度が0.0072/hであるときは、96時間かけて発酵反応槽内にある発酵培養液体積を抜き出す場合が発酵培養液中の酵母の濃度に増減を生じない抜き出し速度となり、これ以下の速度で抜き出すことが好ましい。一方、抜き出し速度は、抜き出すことによる長期安定化の効果があらわれる程度以上であることが好ましい。具体的には、酵母の場合は、濾過速度の1/10〜1/100を抜き出し速度とすることが好ましく、濾過速度の1/20〜1/50を抜き出し速度とすることがより好ましい。また、乳酸菌の場合は、濾過速度の1/10〜1/100を抜き出し速度とすることが好ましく、濾過速度の1/20〜1/50を抜き出し速度とすることがより好ましい。
発酵培養液の濁度を測定して発酵培養液から微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液の抜き出しを調節する場合、微生物もしくは培養細胞が酵母の場合、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度(600nmでの吸光度)が200を超えないように抜き出しをすることが好ましく、180を上回らないように抜き出しをすることがより好ましく、150を上回らないように抜き出しをすることがさらに好ましい。乳酸菌の場合、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度が120を超えないように抜き出しをすることが好ましく、100を超えないように抜き出しをすることがより好ましく、90を超えないように抜き出しをすることがさらに好ましい。
発酵培養液の濁度を測定して発酵培養液から微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液の抜き出しを調節する場合、抜き出し量は特に制限されない。また、抜き出しは一定速度で行ってもよいし、間欠に抜き出してもよい。液体の添加方法によるが逆流洗浄を行う場合、間欠に抜き出す方が装置構成上より好ましい。
発酵培養液から微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液の一部を系外に抜き出した後は、抜き出された微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液の体積と実質的に等しい量の液体を、もとの発酵培養液に添加し、発酵反応槽内の発酵培養液の液体積を一定にすることが好ましい。微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液の抜き出しと、抜き出し量と等量の液体の添加のタイミングは同時であっても別々であってもよいが、微生物若しくは培養細胞を含む発酵培養液を抜き出した後に等量の液体を添加することが好ましい。
液体の添加方法としては発酵反応槽に該液体を直接添加する方法が好ましい例として挙げられるが、分離膜の目詰まりを改善するという効果を併せ持つ分離膜の逆流洗浄を行いながら添加する方法も好ましい態様の1つである。逆流洗浄の速度としては、逆流による圧力によって分離膜が破損しない程度で行うことが好ましい。添加する液体は、発酵を阻害する液体でなければよく、好ましくは発酵原料、酸、アルカリ溶液、エタノールおよび濾液のいずれかを含む液体であり、更に好ましくは濾液である。
発酵培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、発酵培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが効率的でよい生産性を得る上で好ましい態様である。一例として、濃度を、乾燥重量として5g/L以上に維持することにより、良好な生産効率が得られる。連続発酵装置の運転上の不具合や生産効率の低下を招かなければ、発酵培養液中の微生物または培養細胞の濃度の上限は特に限定されない。
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、培養管理上、通常、単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続発酵培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることもあり得る。その場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても、発酵生産物の高生産性は得られる。
本発明においては、微生物や培養細胞を発酵反応槽に維持したままで、発酵反応槽からの発酵培養液の連続的かつ効率的な濾過が可能である。そのため、微生物や細胞を連続的に発酵培養し、十分な増殖を確保した後に発酵原料液組成を変更し、目的とする化学品を効率よく製造することも可能である。
本発明で使用される微生物や培養細胞としては、真核細胞または原核細胞が用いられ、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌、乳酸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞および昆虫細胞などが挙げられる。使用する微生物や細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
本発明で用いられる真核細胞の最も際立った特徴は、細胞内に細胞核(核)と呼ばれる構造を持ち。細胞核(核)を有さない原核生物とは明確に区別される。本発明では、その真核細胞のうちで更に好ましくは酵母を好ましく用いることができる。本発明において好適な酵母としては、例えば、サッカロミセス属(Genus Saccharomyces)に属する酵母とサッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母が挙げられる。
本発明で用いられる原核細胞の最も際立った特徴は、細胞内に細胞核(核)と呼ばれる構造をもたないことであり、細胞核(核)を有する真核生物とは明確に区別される。本発明では、その真核細胞のうちで乳酸菌を好ましく用いることができる。
本発明の製造方法で得られる化学品は、上記の微生物や培養細胞が発酵培養液中に生産する物質である。化学品としては、例えば、アルコール、有機酸、アミノ酸および核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。また、本発明は、酵素、抗生物質および組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。例えば、アルコールとしては、エタノール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、カダベリンおよびグリセロール等が挙げられる。また、有機酸としては、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸およびクエン酸等を挙げることができ、核酸であればイノシン、グアノシンおよびシチジン等を挙げることができる。
本発明で乳酸を製造する場合、真核細胞であれば酵母、原核細胞であれば乳酸菌を用いることが好ましい。このうち酵母は、乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を細胞に導入した酵母が好ましい。このうち乳酸菌は、消費したグルコースに対して対糖収率として50%以上の乳酸を産生する乳酸菌を用いることが好ましく、更に好ましくは対等収率として80%以上の乳酸菌であることが好適である。
本発明で乳酸を製造する場合に好ましく用いられる乳酸菌としては、例えば、野生型株では、乳酸を合成する能力を有するラクトバチラス属(Lactobacillus)、バチラス属(Bacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)、テトラゲノコッカス属(Genus Tetragenococcus)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、バゴコッカス属(Genus Vagococcus)、ロイコノストック属(Genus Leuconostoc)、オエノコッカス属(Genus Oenococcus)、アトポビウム属(Genus Atopobium)、ストレプトコッカス属(Genus Streptococcus)、エンテロコッカス属(Genus Enterococcus)、ラクトコッカス属(Genus Lactococcus)およびスポロラクトバチルス属(Genus Sporolactobacillus)に属する細菌が挙げられる。
また、乳酸の対糖収率や光学純度が高い乳酸菌を選択して用いることができ、例えば、D−乳酸を選択して生産する能力を有する乳酸菌としてはスポロラクトバチルス属に属するD−乳酸生産菌が挙げられ、好ましい具体例として、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)またはスポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus)が使用できる。さらに好ましくは、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC 23492、ATCC 23493、ATCC 23494、ATCC 23495、ATCC 23496、ATCC 223549、IAM12326、IAM 12327、IAM 12328、IAM 12329、IAM 12330、IAM 12331、IAM 12379、DSM 2315、DSM 6477、DSM 6510、DSM 6511、DSM 6763、DSM 6764、DSM 6771などとスポロラクトバチルス・イヌリナスJCM 6014などが挙げられる。
L−乳酸の対糖収率が高い乳酸菌としては、例えば、ラクトバシラス・ヤマナシエンシス(Lactobacillus yamanashiensis)、ラクトバシラス・アニマリス(Lactobacillus animalis)、ラクトバシラス・アジリス(Lactobacillus agilis)、ラクトバシラス・アビアリエス(Lactobacillus aviaries)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruekii)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバシラス・ルミニス(Lactobacillus ruminis)、ラクトバシラス・サリバリス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバシラス・シャーピイ(Lactobacillus sharpeae)、ラクトバシラス・デクストリニクス(Pediococcus dextrinicus)、およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)などが挙げられ、これらを選択して、L−乳酸の生産に用いることが可能である。
本発明において、微生物や培養細胞の発酵培養液を分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、微生物や培養細胞および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にして濾過処理することが重要である。膜間差圧は、好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPaの範囲である。上記膜間差圧の範囲を外れた場合、原核微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
濾過の駆動力としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホンにより多孔性膜に膜間差圧を発生させることができる。また、濾過の駆動力として多孔性膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよいし、多孔性膜の発酵培養液側に加圧ポンプを設置することも可能である。上記の範囲に膜間差圧を制御する手段としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差を変化させることにより制御することができる、また、膜間差圧を発生させるためにポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができる。更に、発酵培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵培養液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
本発明において、乳酸の連続発酵の長期的に安定な運転が可能とするためには膜間差圧が0.1kPa以上20kPa以下であることが好ましいが、膜間差圧の上昇は培養環境によって異なっているものの、本発明での安定した連続発酵の場合、発酵培養液のOD600の濁度に起因される場合が多い。したがって、発酵培養液のOD600の濁度によって膜間差圧を制御することも可能であり、具体的には連続発酵において、発酵時間経過による膜間差圧と発酵培養液のOD600の濁度の変化を測定およびモニタリングし、好ましい膜間差圧と連動する発酵培養液のOD600の濁度を設定することで、膜間差圧を制御することができる。
また、本発明において使用される多孔性膜は、濾過処理する膜間差圧として、0.1kPa以上20kPa以下の範囲で濾過処理することができる性能を有することが好ましい。
本発明の化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置のうち、分離エレメントが発酵反応槽の内部に設置された代表的な一例を図1の概要図に示す。図1は、本発明の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。
図1において、連続発酵装置は、分離膜エレメント2を備えた発酵反応槽1と水頭差制御装置3で基本的に構成されている。発酵反応槽1内の分離膜エレメント2には、多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを使用することができる。分離膜エレメントに関しては、追って詳述する。
次に、図1の連続発酵装置による連続発酵の形態について説明する。
培地供給ポンプ7によって、培地を、発酵反応槽1に連続的もしくは断続的に投入する。培地については、発酵反応槽1への投入前に必要に応じて加熱殺菌、あるいはフィルターを用いた滅菌を行うことができる。発酵生産時には、必要に応じて攪拌機5で発酵反応槽1内の発酵培養液を攪拌し、また必要に応じて気体供給装置4によって必要とする気体を供給し、また必要に応じてpHセンサ・制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵培養液のpHを調整し、また必要に応じて温度調節器10によって発酵培養液の温度を調節することにより生産性の高い発酵生産を行うことができる。
また、本発明においては、後述する発酵培養液の濾過処理と共に、発酵培養液抜き出しポンプ23によって、発酵反応槽1内の発酵培養液から、一部の発酵培養液を抜き出すことができる。抜き出される発酵培養液には、微生物もしくは培養細胞が含まれており、この処理により一部の微生物もしくは培養細胞が発酵反応槽1中の発酵培養液から抜き出される。
また本発明では、系外に抜き出された微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液の体積と実質的に等しい量の液体を、逆洗ポンプ24によって分離膜を逆流洗浄しながら、発酵反応槽1内の発酵培養液に添加することができる。
ここでは、計装・制御装置による発酵液の物理化学的条件の調節に、pHおよび温度を例示したが、必要に応じて溶存酸素やORPの制御、更にはオンラインケミカルセンサーなどの分析装置により発酵培養液中の化学品の濃度を測定し、それを指標とした物理化学的条件の制御を行うことができる。また、培地の連続的もしくは断続的投入の形態に関しては、上記計装装置による発酵培養液の物理化学的環境の測定値を指標として、培地投入量および速度を適宜調節することができる。
発酵培養液は、発酵反応槽1内に設置された分離膜エレメント2によって微生物もしくは培養細胞と発酵生産物に濾過・分離され、発酵生産物は装置系から取り出される。また、濾過・分離された微生物もしくは培養細胞は、装置系内にとどまることで装置系内の微生物もしくは培養細胞濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離には発酵反応槽1の水面との水頭差圧によって行い、特別な動力は必要ない。また、必要に応じてレベルセンサ6および水頭差圧制御装置3によって分離膜エレメント2の濾過・分離速度および発酵反応槽内の発酵培養液量を適当に調節することができる。上記、分離膜エレメントによる濾過・分離には水頭差圧によって行うことを例示したが、必要に応じてポンプ等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより濾過・分離することもできる。
図2は、本発明の化学品の製造方法で用いられる他の連続発酵装置の例を説明するための概要側面図である。図2は、分離膜エレメントが、発酵反応槽の外部に設置された連続発酵装置の代表的な例である。
図2において、連続発酵装置は、発酵反応槽1と、膜分離膜エレメント2を備えた膜分離槽12と、水頭差制御装置3とで基本的に構成されている。ここで、分離膜エレメント2には、多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜と分離膜エレメントには、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを使用することが好適である。また、膜分離槽12は、発酵培養液循環ポンプ11を介して発酵反応槽1に接続されており、発酵培養液の流通を可能にしている。
図2において、培地供給ポンプ7によって、培地を発酵反応槽1に投入し、必要に応じて、攪拌機5で発酵反応槽1内の発酵培養液を攪拌し、また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を供給することができる。このとき、供給された気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4で供給することができる。また必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびよびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵培養液のpHを調整し、また必要に応じて、温度調節器10によって発酵培養液の温度を調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。さらに、装置内の発酵培養液は、発酵培養液循環ポンプ11によって発酵反応槽1と膜分離槽12の間を循環する。
また、発酵培養液抜き出しポンプ23によって、発酵反応槽1内の発酵培養液から、一部の発酵培養液を抜き出すことができる。抜き出される発酵培養液には、微生物もしくは培養細胞が含まれており、この処理により一部の微生物もしくは培養細胞が発酵反応槽1中の発酵培養液から抜き出される。
また本発明では、系外に抜き出された微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液の体積と実質的に等しい量の液体を、逆洗ポンプ24によって分離膜を逆流洗浄しながら、膜分離槽12内の発酵培養液に添加することができる。
発酵生産物を含む発酵培養液は、分離膜エレメント2によって微生物もしくは培養細胞と発酵生産物に濾過・分離され、発酵生産物を装置系から取り出すことができる。また、濾過・分離された微生物もしくは培養細胞は、装置系内にとどまることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。
ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離は、膜分離槽12の水面との水頭差圧によって行うことができ、特別な動力を必要としない。必要に応じて、レベルセンサ6および水頭差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度および装置系内の培養液量を適当に調節することができる。必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を膜分離槽12内に供給することができる。このとき、供給された気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4で膜分離槽12内に供給することができる。
分離膜エレメント2による濾過・分離は、必要に応じて、ポンプ等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより、濾過・分離することもできる。また、別の培養槽(図示せず)で連続発酵に微生物または培養細胞を培養し、それを必要に応じて発酵反応槽内に供給することができる。別の培養槽で連続発酵に微生物または培養細胞を培養し、得られた培養液を必要に応じて発酵槽内に供給することにより、常にフレッシュで化学品の生産能力の高い微生物または培養細胞による連続発酵が可能となり、高い生産性能を長期間維持した連続発酵が可能となる。
次に、本発明の化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置で、好ましく用いられる分離膜エレメントについて説明する。
図3に示す分離膜エレメントについて説明する。図3は、本発明で用いられる分離膜エレメントを例示説明するための概略斜視図である。本発明の化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置では、好ましくは、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを用いることができる。分離膜エレメントは、図3に示されるように、剛性を有する支持板13の両面に、流路材14と前記の分離膜15(多孔性膜)をこの順序で配し構成されている。支持板13は、両面に凹部16を有している。分離膜15は、培養液を濾過する。流路材14は、分離膜15で濾過された濾液を効率よく支持板13に流すためのものである。支持板13に流れた濾液は、支持板13の凹部16を通り、集水パイプ17を介して連続発酵装置外部に取り出される。濾液を取り出すための動力として、水頭差圧、ポンプ、液体や気体等による吸引濾過、あるいは装置系内を加圧するなどの方法を用いることができる。
図4に示す分離膜エレメントについて説明する。図4は、本発明で用いられる別の分離膜エレメントを例示説明するための概略斜視図である。分離膜エレメントは、図4に示すように、中空糸膜(多孔性膜)で構成された分離膜束18と上部樹脂封止層19と下部樹脂封止層20によって主に構成される。分離膜束18は、上部樹脂封止層19および下部樹脂封止層20よって束状に接着・固定化されている。下部樹脂封止層20による接着・固定化は、分離膜束18の中空糸膜(多孔性膜)の中空部を封止しており、培養液の漏出を防ぐ構造になっている。一方、上部樹脂封止層19は、分離膜束18の中空糸膜(多孔性膜)の内孔を封止しておらず、集水パイプ22に濾液が流れる構造となっている。この分離膜エレメントは、支持フレーム21を介して連続発酵装置内に設置することが可能である。分離膜束18によって濾過された濾液は、中空糸膜の中空部を通り、集水パイプ22を介して連続発酵装置外部に取り出される。濾液を取り出すための動力として、水頭差圧、ポンプ、液体や気体等による吸引濾過、あるいは装置系内を加圧するなどの方法を用いることができる。
本発明の化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置の分離膜エレメントを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作に耐性の部材であることが好ましい。連続発酵装置内が滅菌可能であれば、連続発酵時に好ましくない微生物による汚染の危険を回避することができ、より安定した連続発酵が可能となる。分離膜エレメントを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作の条件である、121℃で15分間に耐性であることが好ましい。分離膜エレメント部材は、例えば、ステンレスやアルミニウムなどの金属、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、PVDF、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂およびポリサルホン系樹脂等の樹脂を好ましく選定できる。
本発明の化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置では、分離膜エレメントは、図1のように発酵反応槽内に設置しても良いし、図2のように発酵反応槽外に設置しても良い。分離膜エレメントを発酵反応槽外に設置する場合には、別途、膜分離槽を設けてその内部に分離膜エレメントを設置することができ、発酵反応槽と膜分離槽の間を培養液を循環させながら、分離膜エレメントにより培養液を連続的に濾過することができる。
本発明の化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置では、膜分離槽は、高圧蒸気滅菌可能であることが望ましい。膜分離槽が高圧蒸気滅菌可能であると、雑菌による汚染回避が容易である。
本発明に従って連続発酵を行った場合、従来のバッチ発酵と比較して、高い体積生産速度が得られ、極めて効率のよい発酵生産が可能となる。ここで、連続発酵培養における生産速度は、次の式(3)で計算される。
・発酵生産速度(g/L/hr)=抜き取り液中の生産物濃度(g/L)×発酵培養液抜き取り速度(L/hr)÷装置の運転液量(L)・・・・(式3)。
また、バッチ培養での発酵生産速度は、原料炭素源をすべて消費した時点の生産物量(g)を、炭素源の消費に要した時間(h)とその時点の発酵培養液量(L)で除して求められる。
以下、本発明の連続発酵による化学品の製造方法をさらに詳細に説明するために、上記の発酵生産物として乳酸を選定し、連続的な乳酸の発酵生産について実施例を挙げて説明する。
ここで、L−乳酸を生産させる微生物には、酵母サッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisae)を用いた。サッカロミセス・セレビセは、本来L−乳酸発酵を持たないが、L−乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子をサッカロミセス・セレビセに導入することによりL−乳酸発酵能力をもつサッカロミセス・セレビセ株を造成し実施した。具体的には、ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することにより、L−乳酸発酵能力を持つ酵母株を造成して使用した。またD−乳酸を生産させる微生物には、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)またはスポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus)を用いた。
[参考例1]乳酸生産能力を持つ酵母株の作製
乳酸生産能力を持つ酵母株を、下記のように造成した。具体的には、ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することにより、L−乳酸生産能力を持つ酵母株を造成する。ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)には、La−Taq(宝酒造社製)あるいはKOD−Plus−polymerase(東洋紡社製)を用い、付属の取扱説明に従って行った。
ヒト乳ガン株化細胞(MCF−7)を培養回収後、TRIZOL Reagent(Invitrogen)を用いてtotal RNAを抽出し、得られたtotal RNAを鋳型としてSuperScript Choice System(Invitrogen)を用いた逆転写反応によりcDNAの合成を行った。これらの操作の詳細は、それぞれ付属のプロトコールに従った。得られたcDNAを、続くPCRの増幅鋳型とした。
上記の操作で得られたcDNAを増幅鋳型とし、配列番号1および配列番号2で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたKOD−Plus−polymeraseによるPCRにより、L−ldh遺伝子のクローニングを行った。各PCR増幅断片を精製し末端をT4 Polynucleotide Kinase(TAKARA社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、DNA Ligation Kit Ver.2(TAKARA社製)を用いて行った。
ライゲーションプラスミド産物で大腸菌DH5αを形質転換し、プラスミドDNAを回収することにより、各種L−ldh遺伝子(配列番号3)がサブクローニングされたプラスミドを得た。得られたL−ldh遺伝子が挿入されたpUC118プラスミドを制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られた各DNA断片を酵母発現用ベクターpTRS11(図5)のXhoI/NotI切断部位に挿入した。このようにして、ヒト由来L−ldh遺伝子発現プラスミドpL−ldh5(L−ldh遺伝子)を得た。ヒト由来のL−ldh遺伝子発現ベクターである上記pL−ldh5は、プラスミド単独で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1中央第6)にFERMAP−20421として寄託した(寄託日:平成17年2月21日)。
ヒト由来LDH遺伝子を含むプラスミドpL−ldh5を増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号5で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより、1.3kbのヒト由来LDH遺伝子およびサッカロミセス・セレビセ由来のTDH3遺伝子のターミネーター配列含むDNA断片を増幅した。また、プラスミドpRS424を増幅鋳型として、配列番号6および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより、1.2kbのサッカロミセス・セレビセ由来のTRP1遺伝子を含むDNA断片を増幅した。それぞれのDNA断片を、1.5%アガロースゲル電気泳動により分離し、常法に従い精製した。
ここで得られた1.3kb断片と1.2kb断片を混合したものを増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCR法によって得られた産物を1.5%アガロースゲル電気泳動して、ヒト由来LDH遺伝子およびTRP1遺伝子が連結された2.5kbのDNA断片を、常法に従い調整した。この2.5kbのDNA断片で、出芽酵母NBRC10505株を常法に従いトリプトファン非要求性に形質転換した。
得られた形質転換細胞が、ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結されている細胞であることの確認は、下記のようにして行った。まず、形質転換細胞のゲノムDNAを常法に従って調製し、これを増幅鋳型とした配列番号8および配列番号9で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより、0.7kbの増幅DNA断片が得られることにより確認した。
また、形質転換細胞が乳酸生産能力を持つかどうかは、SC培地(METHODS IN YEAST GENETICS 2000 EDITION、 CSHL PRESS)で形質転換細胞を培養した培養上澄に乳酸が含まれていることを、下記に示す条件でHPLC法により乳酸量を測定することにより確認した。
[測定条件]
・カラム:Shim−Pack SPR−H(島津社製)
・移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
・反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
・検出方法:電気伝導度
・温度:45℃。
また、L−乳酸の光学純度測定は、下記の条件でHPLC法により測定した。
・カラム:TSK−gel Enantio L1(東ソー社製)
・移動相 :1mM 硫酸銅水溶液
・流速:1.0ml/min
・検出方法 :UV254nm
・温度 :30℃。
また、L−乳酸の光学純度は、次式で計算される。
・光学純度(%)=100×(L−D)/(L+D)。
ここで、LはL−乳酸の濃度であり、DはD−乳酸の濃度を表す。
HPLC分析の結果、4g/LのL−乳酸が検出され、D−乳酸は検出限界以下であった。以上の検討により、この形質転換体がL−乳酸生産能力を持つことが確認された。得られた形質転換細胞を、酵母SW−1株として、後の実施例で用いた。
[参考例2]多孔性膜の作製(その1)
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、また溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
[原液]
・PVDF:13.0重量%
・DMAc:87.0重量%。
次に、上記原液を25℃の温度に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm3で、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布(多孔質基材)に塗布し、直ちに次の組成を有する25℃の温度の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質基材に多孔質樹脂層が形成された多孔性膜を得た。
[凝固浴]
・水 :30.0重量%
・DMAc:70.0重量%。
この多孔性膜をガラス板から剥がした後、80℃の温度の熱水に3回浸漬してDMAcを洗い出し、分離膜を得た。多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.1μmであった。次に、上記分離膜について純水透水透過係数を評価したところ、50×10-9m3/m2/s/Paであった。純水透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差は0.035μmで、膜表面粗さは0.06μmであった。
[参考例3]多孔性膜の作製(その2)
次に示す組成の原液を用いた他は、参考例2と同様にして分離膜を得た。
[原液]
・PVDF:13.0重量%
・PEG : 5.5重量%
・DMAc:81.5重量%。
この分離膜の原液を塗布した側における、多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.19μmであり、この分離膜について純水透水量を評価したところ、100×10−9m3/m2/s/Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差 は0.060μmで、膜表面粗さは0.08μmであった。
[参考例4]多孔性膜の作製(その3)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ-ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解し原液を作製した。この原液をγ-ブチロラクトンを中空部形成液体として随拌させながら口金から吐出し、温度20℃のγ-ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社、CAP482−0.5)を1重量%、N-メチル-2-ピロリドンを77重量%、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(三洋化成株式会社、商品名イオネットT−20C)を5重量%、および水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して原液を調整した。この原液を、上記で得られた中空糸膜の表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させた本発明で用いる中空糸多孔性膜を製作した。得られた中空糸多孔性膜の被処理水側表面の平均細孔径は、0.05μmであった。次に、上記の分離膜である中空糸多孔性膜について純水透水量を評価したところ、5.5×10-9m3/m2・s・Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差 は0.006μmであった。
[参考例5]
[OD値モニタリング法]
連続発酵の際、主発酵槽にはオンライン濁度測定装置をセットして、ODがオンラインで経時的にまた正確に測定できるようにした。オンライン濁度測定装置としては優れた濁度測定装置であるレーザー濁度計LA−401/GT−250C(オートマチックシステムリダーチ社)を用いた。濁度のモニタリングとしては、発酵槽にオンライン濁度測定装置を装着し、発酵開始後、発酵が終了になるまでの間にオンライン濁度測定装置で測定した濁度と、発酵培養液を1ml採取し、OD600nmにおける吸光度を経時的に測定した濁度との相関関係を求めて検量線を作成し、オンライン濁度測定装置が示したその時点での濁度を検量線に当てはめることで濁度をモニタリングした。また、連続発酵の際、12時間毎サンプルを採取してOD600nmにおける吸光度を測って、レーザー濁度計が示すその時点での培養液の濁度をもう一度検証を行った。OD600nmにおける吸光度の測定は以下の通りにした。
(1)分光光度計測定セル(島津製作所製、角型セル、光路長10mm)に、連続発酵に用いた発酵培地1000μLを均一撹拌した後、コントロールとし、濁度(α1)を計測した。なお、濁度の計測は、バイオクロム社のUltrospec1100pro(測定波長:600nm)を使用した。
(2)分光光度計測定セル(島津製作所製、角型セル、光路長10mm)に、発酵培養液または発酵培地を用いて10倍から1000倍まで希釈した発酵培養液1000μLを均一撹拌した後、検体とし、濁度(α2)を計測した。濁度(α2)が1以上にならないように前述の希釈倍数を決めた。なお、濁度の計測は、バイオクロム社のUltrospec1100pro(測定波長:600nm)を使用した。
(3)[{濁度(α2)}−{濁度(α1)}]×発酵培養液の希釈倍数をOD600nmにおける吸光度で測定した濁度(β)とした。
[実施例1]連続発酵によるL−乳酸の製造(その1)
微生物として前記の参考例1で造成した酵母SW−1株を用い、培地に表1に示す組成の乳酸発酵培地を用いて、図1の連続発酵装置でL−乳酸連続発酵を行った。該乳酸発酵培地は、121℃の温度で15分間、高圧蒸気滅菌して用いた。分離膜には、前記の参考例2で作製した多孔性膜を用いた。運転条件は下記のとおりである。
[運転条件]
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・分離膜エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:0.2(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・pH調整:8N NaOHによりpH5に調整。
生産物であるL−乳酸の濃度の評価には、前記の参考例1に示したHPLCを用いた。分離膜の目詰まりにより濾過液が出てこなくなる時間を測定することにより、連続発酵の安定運転の比較を行った。
まず、試験管中で5mlの乳酸発酵培地を用い、SW−1株を一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコ中で24時間、30℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示した連続発酵装置の発酵反応槽中1の1.5Lの乳酸発酵培地に植菌し、攪拌、通気量の調整、温度調整およびpH調整を行った。培養24時間後に、乳酸発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵反応槽1中の発酵培養液量を1.5Lとなるように連続培養し、連続発酵によるL−乳酸の製造を行った。また、発酵培養液抜き出しポンプ23を用い発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度が150を上回らないように、酵母SW−1株を含む発酵培養液を抜き出し、抜き出し後に抜き出し量と等量の乳酸発酵培地または濾過液を発酵反応槽に添加した。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、膜分離槽水頭を2m、すなわち膜間差圧が0.1kPaから20kPa以下となるように水頭差を調節した。濾液のL−乳酸を分析したところ40g/Lの蓄積濃度で安定して推移し、40g/Lの乳酸濃度で安定した連続発酵運転は350時間まで濾過することができ、長時間の安定運転が可能となった。図1の連続発酵装置を用いることにより、安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
[比較例1]連続発酵によるL−乳酸の製造(その2)
発酵培養液の抜き出しを行わなかったこと以外は、実施例1と同様にL−乳酸連続発酵を行った。濾液のL−乳酸を分析したところ40g/Lの蓄積濃度で推移したが、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度は220まで上昇し、その結果、40g/Lの乳酸濃度で安定した連続発酵運転は200時間までしか行うことができなかった。
[実施例2]連続発酵によるL−乳酸の製造(その3)
前記の参考例3で作製した多孔性膜を用いたこと以外は、実施例1と同様にL−乳酸連続発酵を行った。濾液のL−乳酸を分析したところ40g/Lの蓄積濃度で推移し、その乳酸濃度で安定した連続発酵運転は320時間まで濾過することができ、長時間の安定運転が可能となった。
[比較例2]連続発酵によるL−乳酸の製造(その4)
発酵培養液の抜き出しを行わなかったこと以外は、実施例2と同様にL−乳酸連続発酵を行った。濾過液のL−乳酸を分析したところ40g/Lの蓄積濃度で推移したが、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度は220まで上昇し、その結果、その乳酸濃度で安定した連続発酵運転は180時間までしか行うことができなかった。
[実施例3]連続発酵によるL−乳酸の製造(その5)
微生物として前記の参考例1で造成した酵母SW−1株を用い、培地に表1に示す組成の乳酸発酵培地を用いて、図2の連続発酵装置でL−乳酸連続発酵を行った。該乳酸発酵培地は、121℃の温度で15分間、高圧蒸気滅菌して用いた。分離膜には、前記の参考例4で作製した多孔性膜を用いた。運転条件は下記のとおりである。
[運転条件]
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・膜分離槽容量:0.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・分離膜エレメント有効濾過面積:4000平方cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:0.2(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・pH調整:8N NaOHによりpH5.0に調整
・培養液循環速度:100ml/min
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽および使用培地は、総て121℃の温度で20分間のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌した。
生産物であるL−乳酸の濃度の評価には、前記の参考例1に示したHPLCを用いた。分離膜の目詰まりにより濾過液が出てこなくなる時間を測定することにより、連続発酵の安定運転の比較を行った。
まず、試験管中で5mlの乳酸発酵培地を用い、SW−1株を一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮なL−乳酸発酵培地50mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図2に示した連続発酵装置の発酵反応槽中1の2.0LのL−乳酸発酵培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整および培養液循環速度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、L−乳酸発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵反応槽中1の発酵培養液量を2.0Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL−乳酸の製造を行った。また、発酵反応槽1から発酵培養液抜き出しポンプ23を用い、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度が150を上回らないように、酵母SW−1株を含む発酵培養液を抜き出し、抜き出し後に抜き出し量と等量の乳酸発酵培地または濾過液を発酵反応槽に添加した。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、膜分離槽水頭を2m、すなわち膜間差圧が0.1kPaから20kPa以下となるように水頭差を調節した。発酵濾過液のL−乳酸を分析したところ40g/Lの蓄積濃度で安定して推移し、40g/Lの乳酸濃度で安定した連続発酵運転は300時間まで濾過することができ、長時間の安定運転が可能となった。図2の連続発酵装置で中空糸膜を用いて、安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
[比較例3]連続発酵によるL−乳酸の製造(その6)
発酵培養液の抜き出しを行わなかったこと以外は、実施例3と同様にL−乳酸連続発酵を行った。濾液のL−乳酸を分析したところ40g/Lの蓄積濃度で推移したが、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度は220まで上昇し、その結果、40g/Lの乳酸濃度で安定した連続発酵運転は200時間までしか行うことができなかった。
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2および比較例3の結果を表2にまとめた。
その結果、分離膜の平均細孔径および発酵培養液の抜き出しを合わせることにより、長時間にわたり連続発酵の安定運転が行えることを確認することができた。
[実施例4]連続発酵によるD−乳酸の製造(その7)
微生物としてスポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC23492株を用い、培地にグルコース80g/Lと酵母エキス3g/Lを含む乳酸発酵培地を用いて、図1の連続発酵装置でD−乳酸連続発酵を行った。該乳酸発酵培地は、121℃の温度で15分間、高圧蒸気滅菌して用いた。分離膜には、前記の参考例2で作製した多孔性膜を用いた。運転条件は下記のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・分離膜エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:37(℃)
・発酵反応槽通気量:窒素ガス0.2(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・pH調整:8N Ca(OH)2によりpH6.0に調整。
生産物であるD−乳酸の濃度の評価には、前記の参考例1に示したHPLCを用いた。分離膜の目詰まりにより濾過液が出てこなくなる時間を測定することにより、連続発酵の安定運転の比較を行った。
まず、試験管中で10mlの乳酸発酵培地を用い、ATCC23492株を嫌気条件下で一晩培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し、嫌気条件下、500ml容坂口フラスコ中で24時間、37℃の温度で培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示した連続発酵装置の発酵反応槽中1の1.5Lの乳酸発酵培地に植菌し、攪拌、通気量の調整、温度調整およびpH調整を行った。培養24時間後に、乳酸発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵反応槽1中の発酵培養液量を1.5Lとなるように連続培養し、連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。また、発酵培養液抜き出しポンプ23を用い、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度が90を上回らないように、乳酸菌を含む発酵培養液を抜き出し、抜き出し後に抜き出し量と等量の乳酸発酵培地または濾過液を発酵反応槽に添加した。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、膜分離槽水頭を2m、すなわち膜間差圧が0.1kPaから20kPa以下となるように水頭差を調節した。濾液のD−乳酸を分析したところ70g/Lの蓄積濃度で安定して推移し、70g/Lの乳酸濃度で安定した連続発酵運転は350時間まで濾過することができ、長時間の安定運転が可能となった。図1の連続発酵装置を用いることにより、安定したD−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
[比較例4]連続発酵によるD−乳酸の製造(その8)
発酵培養液の抜き出しを行わなかったこと以外は、実施例4と同様にD−乳酸連続発酵を行った。濾液のD−乳酸を分析したところ70g/Lの蓄積濃度で推移したが、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度は130まで上昇し、その結果、70g/Lの乳酸濃度で安定した連続発酵運転は200時間までしか行うことができなかった。
[実施例5]連続発酵によるD−乳酸の製造(その9)
微生物としてスポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC 23492株を用い、培地にグルコース80g/Lと酵母エキス3g/Lを含む乳酸発酵培地を用いて、図2の連続発酵装置でD−乳酸連続発酵を行った。該乳酸発酵培地は、121℃の温度で15分間、高圧蒸気滅菌して用いた。分離膜には、前記の参考例4で作製した多孔性膜を用いた。運転条件は下記のとおりである。
[運転条件]
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・膜分離槽容量:0.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・分離膜エレメント有効濾過面積:4000平方cm
・温度調整:37(℃)
・発酵反応槽通気量:窒素ガス0.2(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・pH調整:8N Ca(OH)2によりpH6.0に調整
・培養液循環速度:100ml/min
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽および使用培地は、総て121℃の温度で20分間のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌した。
生産物であるD−乳酸の濃度の評価には、前記の参考例1に示したHPLCを用いた。分離膜の目詰まりにより濾過液が出てこなくなる時間を測定することにより、連続発酵の安定運転の比較を行った。
まず、試験管中で10mlの乳酸発酵培地を用い、ATCC23492株を嫌気条件下で一晩培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、37℃で培養した(前々培養)。前々培養液を、図2に示した連続発酵装置の発酵反応槽中1の2.0LのL−乳酸発酵培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整および培養液循環速度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、乳酸発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵反応槽中1の発酵培養液量を2.0Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。また、発酵反応槽1から発酵培養液抜き出しポンプ23を用い、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度が90を上回らないように、乳酸菌を含む発酵培養液を抜き出し、抜き出し後に抜き出した量と等量の乳酸発酵培地または濾過液を発酵反応槽に添加した。発酵培養液を抜き出し後、10ml/分の速度で、逆洗ポンプ24を用いて濾液を膜分離槽12に抜き出した液量と等量を添加した。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、膜分離槽水頭を2m、すなわち膜間差圧が0.1kPaから20kPa以下となるように水頭差を調節した。発酵濾過液のD−乳酸を分析したところ70g/Lの蓄積濃度で安定して推移し、70g/Lの乳酸濃度で安定した連続発酵運転は300時間まで濾過することができ、長時間の安定運転が可能となった。図2の連続発酵装置で中空糸膜を用いて、安定したD−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
[比較例5]連続発酵によるL−乳酸の製造(その10)
発酵培養液の抜き出しを行わなかったこと以外は、実施例5と同様にD−乳酸連続発酵を行った。濾過液のD−乳酸を分析したところ70g/Lの蓄積濃度で推移したが、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度は130まで上昇し、その結果、70g/Lの乳酸濃度で安定した連続発酵運転は200時間までしか行うことができなかった。
[実施例6]連続発酵によるD−乳酸の製造(その11)
前記のスポロラクトバチルス・イヌリナスJCM6014株を用い、前記の参考例3で作製した多孔性膜を用いたこと以外は、実施例4と同様にD−乳酸連続発酵を行った。濾液のD−乳酸を分析したところ70g/Lの蓄積濃度で推移し、70g/Lの乳酸濃度で安定した連続発酵運転は320時間まで濾過することができ、膜間差圧も20kPa以下で長時間にわたり低く維持できた。
[比較例6]連続発酵によるD−乳酸の製造(その12)
発酵培養液の抜き出しを行わなかったこと以外は、実施例6と同様にD−乳酸連続発酵を行った。濾過液のD−乳酸を分析したところ70g/Lの蓄積濃度で推移したが、発酵反応槽内にある発酵培養液のOD600での濁度は130まで上昇し、その結果、70g/Lの乳酸濃度で安定した連続発酵運転は180時間までしか行うことができなかった。
実施例4、実施例5、実施例6、比較例4、比較例5および比較例6の結果を表3にまとめた。
その結果、分離膜の平均細孔径および発酵培養液の抜き出しを合わせることにより、長時間にわたり連続発酵の安定運転が行えることを確認することができた。