本発明は、L−アミノ酸を生産する能力のある微生物の発酵培養液を、分離膜で濾過し濾液から生産物を回収すると共に未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、その微生物の発酵原料を前記の発酵培養液に追加する連続発酵であって、前記の分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、その膜間差圧を0.1以上20kPa未満にして濾過処理することを特徴とする連続発酵によるL−アミノ酸の製造方法である。
本発明において分離膜として用いられる多孔性膜は、発酵に使用される微生物による目詰まりが起こりにくく、かつ、濾過性能が長期間安定に継続する性能を有するものであることが望ましい。そのため、本発明で使用される多孔性膜は、その平均細孔径が0.01μm以上1μm未満であることが重要である。
本発明で分離膜として用いられる多孔性膜の構成について説明する。本発明における多孔性膜は、被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能を有するものであり、阻止性能および透水性能や耐汚れ性という分離性能の点からは、多孔質樹脂層を含む多孔性膜であることが好ましい。このような多孔性膜は、多孔質基材の表面に、分離機能層として作用とする多孔質樹脂層を有している。多孔質基材は、多孔質樹脂層を支持して分離膜に強度を与えるものである。
多孔質基材の材質は、有機材料および無機材料等を用いることができるが、有機繊維が望ましく用いられる。好ましい多孔質基材は、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布であり、中でも、密度の制御が比較的容易であり製造も容易で安価な不織布が好ましく用いられる。
また、多孔質樹脂層は、上述したように分離機能層として作用するものであり、有機高分子膜を好適に使用することができる。有機高分子膜の材質としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などが挙げられる。有機高分子膜は、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であってもよい。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。中でも、多孔質樹脂層を構成する素材としては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂およびポリアクリロニトリル系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が最も好ましく用いられる。
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられるが、その他、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
本発明で用いられる多孔性膜は、平膜であっても中空糸膜であっても良い。多孔性膜が平膜の場合、その平均厚みは用途に応じて選択されるが、好ましくは20μm以上5000μm以下であり、より好ましくは50μm以上2000μm以下の範囲で選択される。
上述のように、本発明で用いられる分離膜は、多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されている多孔性膜であることが望ましい。その際、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。多孔質基材の平均厚みは、好ましくは50μm以上3000μm以下の範囲で選択される。
また、多孔性膜が中空糸膜の場合、中空糸の内径は好ましくは200μm以上5000μm以下の範囲で選択され、膜厚は好ましくは20μm以上2000μm以下の範囲で選択される。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編物を中空糸の内部に含んでいても良い。
まず、多孔性膜のうち平膜の作製法の概要について説明する。
多孔質基材の表面に、前記の樹脂と溶媒とを含む原液の被膜を形成すると共に、その原液を多孔質基材に含浸させる。その後、被膜を有する多孔質基材の被膜側表面のみを、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させると共に多孔質基材の表面に多孔質樹脂層を形成する。原液は、樹脂を溶媒に溶解させて調整する。原液に、さらに非溶媒を含ませることもできる。原液の温度は、製膜性の観点から、通常、15〜120℃の範囲内で選定することが好ましい。
ここで、原液には、開孔剤を添加することもできる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤を添加することにより、平均細孔径の大きさの制御することができる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであることが好ましい。開孔剤としては、例えば、塩化カルシウムや炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、開孔剤として、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールおよびポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物や、グリセリンを用いることができる。
また、溶媒は、樹脂を溶解するものである。溶媒は、樹脂および開孔剤に作用してそれらが多孔質樹脂層を形成するのを促す。このような溶媒としては、N−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N − メチル− 2 − ピロリドン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、シクロヘキサノン、イソホロン、γ − ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテール、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート、アセトンおよびメチルエチルケトンなどを用いることができる。中でも、樹脂の溶解性の高いNMP、DMAc、DMFおよびDMSOを好ましく用いられる。これらの溶媒は、単独で用いても良いし2種類以上を混合して用いても良い。原液は、先述の樹脂を好ましくは5重量%以上60重量%以下の濃度で、上述の溶媒に溶解させることにより調整することができる。
また、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびグリセリンなどの溶媒以外の成分を溶媒に添加しても良い。非溶媒は、樹脂を溶解しない液体である。非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水やメタノールおよびエタノールなどのアルコール類を用いることができる。中でも、価格の点から水やメタノールが好ましい。非溶媒は、これらの混合物であってもよい。
次に、多孔性膜のうち、中空糸膜の作製法の概要について説明する。
中空糸膜は、樹脂と溶媒からなる原液を二重管式口金の外側の管から吐出すると共に、中空部形成用流体を二重管式口金の内側の管から吐出して、冷却浴中で冷却固化して作製することができる。
原液は、上述の平膜の作成法で述べた樹脂を好ましくは20重量%以上60重量%以下の濃度で、上述の平膜の生成法で述べた溶媒に溶解させることにより調整することができる。また、中空部形成用流体には、通常気体もしくは液体を用いることができる。また、得られた中空糸膜の外表面に、新たな多孔性樹脂層をコーティング(積層)することもできる。積層は中空糸膜の性質、例えば、親水性・疎水性あるいは細孔径等を所望の性質に変化させるために行うことができる。積層される新たな多孔性樹脂層は、樹脂を溶媒に溶解させた原液を、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させることによって作製することができる。その樹脂の材質は、例えば、上述有機高分子膜の材質と同様のものが好ましく用いられる。また、積層方法としては、原液に中空糸膜を浸漬してもよいし、中空糸膜の表面に原液を塗布してもよく、積層後、付着した原液の一部を掻き取ったり、エアナイフを用いて吹き飛ばしすることにより積層量を調整することもできる。
本発明で用いられる多孔性膜は、支持体と組み合わせることによって分離膜エレメントとすることができる。支持体として支持板を用い、その支持板の少なくとも片面に、本発明で用いられる多孔性膜を配した分離膜エレメントは、本発明で用いられる多孔性膜を有する分離膜エレメントの好適な形態の一つである。この形態で、膜面積を大きくすることが困難な場合には、透水量を大きくするために、支持板の両面に多孔性膜を配することが好ましい。
分離膜としての多孔性膜の平均細孔径が上記のように0.01μm以上1μm未満の範囲内にあると、菌体や汚泥などがリークすることのない高い排除率と、高い透水性を両立させることができ、さらに目詰まりをしにくく、透水性を長時間保持することが、より高い精度と再現性を持って実施することができる。細菌類を用いた場合、多孔性膜の平均細孔径は好ましくは0.4μm以下であり、平均細孔径は0.2μm未満であればなお好適に実施することが可能である。平均細孔径は、小さすぎると透水量が低下することがあるので、本発明では、平均細孔径は0.01μm以上であり、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.04μm以上である。
ここで、平均細孔径は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めることができる。
上記の平均細孔径の標準偏差σは、0.1μm以下であることが好ましい。更に、平均細孔径の標準偏差が小さい、すなわち細孔径の大きさが揃っている方が均一な透過液を得ることができる。発酵運転管理が容易になることから、平均細孔径の標準偏差は小さければ小さい方が望ましい。
平均細孔径の標準偏差σは、上述の9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔数をNとして、測定した各々の直径をXkとし、細孔直径の平均をX(ave)とした下記の(式1)により算出される。
本発明で用いられる多孔性膜においては、発酵培養液の透過性が重要点の一つであり、透過性の指標として、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、多孔性膜の純水透過係数は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9m3/m2/s/pa以上であることが好ましい。純水透過係数が2×10−9m3/m2/s/pa以上6×10−7m3/m2/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。より好ましい純水透過係数は、2×10−9m3/m2/s/pa以上1×10−7m3/m2/s/pa以下である。
本発明で用いられる多孔性膜の膜表面粗さは、分離膜の目詰まりに影響を与える因子である。膜表面粗さが好ましくは0.1μm以下のときに、分離膜の剥離係数や膜抵抗を好適に低下させることができ、より低い膜間差圧で連続発酵が実施可能である。従って、目詰まりを抑えることにより、安定した連続発酵が可能になることから、表面粗さは小さければ小さいほど好ましい。
また、多孔性膜の膜表面粗さを低くすることにより、微生物の濾過において、膜表面で発生する剪断力を低下させることが期待でき、微生物の破壊が抑制され、多孔性膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が可能になると考えられる。
ここで、膜表面粗さは、下記の原子間力顕微鏡装置(AFM)を使用して、下記の装置と条件で測定することができる。
・装置:原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments(株)製Nanoscope IIIa)
・条件:探針 SiNカンチレバー(Digital Instruments(株)製)
:走査モード コンタクトモード(気中測定)
水中タッピングモード(水中測定)
:走査範囲 10μm、25μm 四方(気中測定)
5μm、10μm 四方(水中測定)
:走査解像度 512×512
・試料調製:測定に際し膜サンプルは、常温でエタノールに15分浸漬後、RO水中に24時間浸漬し洗浄した後、風乾し用いた。RO水とは、濾過膜の一種である逆浸透膜(RO膜)を用いて濾過し、イオンや塩類などの不純物を排除した水を指す。RO膜の孔の大きさは、概ね2nm以下である。
膜表面粗さdroughは、上記のAFMにより各ポイントのZ軸方向の高さから、下記の(式2)により算出する。
本発明において、微生物を分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、微生物および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にして濾過処理することが重要である。膜間差圧は、好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPaの範囲である。上記の膜間差圧の範囲を外れた場合、微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
濾過の駆動力としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホンにより多孔性膜に膜間差圧を発生させることが可能である。また、濾過の駆動力として多孔性膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよいし、多孔性膜の発酵培養液側に加圧ポンプを設置することも可能である。膜間差圧は、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差を変化させることにより制御することができる、また、膜間差圧を発生させるためにポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができ、更に発酵培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵培養液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
また、本発明において使用される多孔性膜は、濾過処理する膜間差圧として、0.1kPa以上20kPa以下の範囲で濾過処理することができる性能を有するものであることが好ましい。また、本発明で使用される多孔性膜は、上述のように、使用前の純水透過係数が、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9m3/m2/s/pa以上の範囲であることが好ましく、さらに2×10−9m3/m2/s/pa以上6×10−7m3/m2/s/pa以下の範囲にあることが好ましい。
本発明で使用される微生物の発酵原料としては、発酵培養する微生物の生育を促し、目的とする発酵生産物であるL−アミノ酸を良好に生産させ得るものであれば良い。発酵原料としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する液体培地等が好ましく用いられる。
上記の炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、サトウキビ搾汁、更には酢酸、フマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類およびグリセリン等が使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指す。
また、上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
また、上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、およびマンガン塩等を適宜添加使用することができる。
本発明で使用される微生物が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加することができる。また、消泡剤も必要に応じて添加使用することができる。
本発明において、発酵培養液とは、発酵原料に微生物が増殖した結果得られる液のことを言い、追加する発酵原料の組成は、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。発酵原料組成から追加する発酵原料の組成に変更する場合、目的とするL−アミノ酸の生産性が高くなるような変更が好ましい。例えば、上記の炭素源に対する窒素源、無機塩類、アミノ酸およびビタミンなどの有機微量栄養素の重量比率を低下させることにより、L−アミノ酸の生産コストの低減、すなわち広義でL−アミノ酸の生産性の向上が実現できる場合もある。一方、上記炭素源に対する窒素源、無機塩類、アミノ酸およびビタミンなどの有機微量栄養素の重量比率を増加させることにより、L−アミノ酸の生産性を向上させることができる場合もある。
本発明では、発酵培養液中の糖類など発酵原料の濃度は、5g/l以下に保持されるようにすることが好ましい。その理由は、発酵培養液の引き抜きによる発酵原料の流失を最小限にするためである。そのため発酵原料の濃度は、可能な限り小さいことが望ましい。
微生物の発酵培養は、通常、pHが4〜8で温度が20〜40℃の範囲で行われることが多い。発酵培養液のpHは、無機の酸または有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節される。
微生物の発酵培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を21%以上に保つ、発酵培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。逆に、酸素の供給速度を下げる必要がある場合は、炭酸ガス、窒素およびアルゴンなど酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
本発明においては、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って微生物濃度を高くした後に連続培養(引き抜き)を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。適当な時期から、発酵原料液の供給および培養物の引き抜きを行うことが可能である。発酵原料液供給と培養物の引き抜きの開始時期は、必ずしも同じである必要はない。また、発酵原料液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。発酵原料液には、上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。
発酵培養液中の微生物の濃度は、効率よい生産性を得る上で、発酵培養液の環境が微生物の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが好ましい。一例として、濃度を乾燥重量として5g/L以上に維持することにより、より良好な生産効率が得られる。また、連続発酵装置の運転上の不具合や生産効率の低下を招かなければ、微生物の濃度の上限値は特に限定されない。
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、培養管理上、通常、単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることもあり得る。この場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても、発酵生産物の高生産性は得られる。
本発明においては、微生物を発酵反応槽に維持したままで、発酵反応槽からの発酵培養液の連続的かつ効率的な抜き出しが可能となることから、微生物を連続的に培養し、十分な増殖を確保した後に発酵原料液組成を変更し、目的とする化学品を効率よく製造することも可能である。
本発明で好適に発酵生産されるアミノ酸としては、L−スレオニン、L−リジン、L−グルタミン酸、L−トリプトファン、L−イソロイシン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−アラニン、L−ヒスチジン、L−プロリン、L−フェニルアラニン、L−アスパラギン酸、L−チロシン、L−メチオニン、L−セリン、L−バリンおよびL−ロイシン等が挙げられ、特に、L−スレオニン、L−リジンおよびL−グルタミン酸が好適である。
本発明で使用される微生物は、本発明の本質が発酵培養の効率化にあることから、L−アミノ酸を生産する能力を持つもので、例えば、従来L−アミノ酸を効率よく生産することが可能な微生物を好適に利用することができる。このような微生物としては、例えば、発酵工業においてよく使用される大腸菌やコリネ型細菌などの細菌が挙げられる。
L−アミノ酸生産菌は、対応するL−アミノ酸を生産する能力のある細菌である。
L−スレオニン生産菌としては、エシェリシア属(Genus Escherichia)、プロビデンシア属(Genus Providencia)、コリネバクテリウム属(Genus Corynebacterium)、ブレビバクテリウム属(Genus Brevibacterium)またはセラチア属(Genus Serratia)に属する細菌等が挙げられる。そして特に好ましい細菌は、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、プロビデンシア・レトゲリ(Providencia rettgeri)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)およびセラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)である。
また、L−リジン生産菌としては、エシェリシア属、コリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属に属する細菌等が挙げられる。そして特に好ましい細菌は、エシェリシア・コリ、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバムおよびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムである。
L−グルタミン酸生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバムおよびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムが好ましい。
L−トリプトファン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)およびエシェリシア・コリ等が挙げられる。
L−イソロイシン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムおよびセラチア・マルセセンス等が挙げられる。
L−グルタミン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムおよびフラボバクテリウム・リゲンス(Flavobacterium rigense)等が挙げられる。
L−アルギニン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバム、セラチア・マルセセンス、エシェリシア・コリおよびバチルス・サブチリス等が挙げられる。
L−アラニン生産菌としては、ブレビバクテリウム・フラバムおよびアルスロバクター・オキシダンス(Arthrobacter oxydans)等が挙げられる。
L−ヒスチジン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバム、ブレビバクテリウム・アモニアジェネス(Brevibacterium ammoniagenes)、セラチア・マルセセンス、エシェリシア・コリ、バチルス・サブチリスおよびストレプトマイセス・コエリコラー(Streptomyces coelicolor)等が挙げられる。
L−プロリン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、カルチア・カテナフォルマ(Kurthia catenaforma)、セラチア・マルセセンスおよびエシェリシア・コリ等が挙げられる。
L−フェニルアラニン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムまたはエシェリシア・コリ等が挙げられる。
L−アスパラギン酸生産菌としては、ブレビバクテリウム・フラバム、バチルス・メガテリウム(Bacillus megatherium)、エシェリシア・コリおよびシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)等が挙げられる。
L−チロシン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムおよびエシェリシア・コリ等が挙げられる。
L−メチオニン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカムが好ましい。
セリン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムおよびアルスロバクター・オキシダンス等が挙げられる。
L−セリン生産菌としては、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)およびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム等が挙げられる。
L−バリン生産菌としては、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム、セラチア・マルセセンスおよびクレブシェラ・ニューモニア(Klebsiella pneumoniae)等が挙げられる。
L−ロイシン生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムおよびセラチア・マルセセンス等が挙げられる。
上記のL−スレオニン等のL−アミノ酸の生産能力を持つ微生物は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。一例として、特開平2−219582号公報に記載されているL−スレオニン生産性の向上したプロビデンシア・レトゲリや、特表平3−500486号パンフレットに記載されているL−アラニン生産性の向上したコリネバクテリウム・グルタミカム等が挙げられる。
本発明の連続発酵によるL−アミノ酸の製造方法により製造された濾過・分離発酵液に含まれるL−アミノ酸の分離・精製は、従来知られている濃縮、蒸留および晶析などの方法を組み合わせて行うことができる。
本発明の連続発酵によるL−アミノ酸の製造方法で用いられる連続発酵装置の1つの例は、主に、L−アミノ酸生産菌を保持しL−アミノ酸を製造するための発酵反応槽、およびL−アミノ酸生産菌と培養液を濾過分離するための多孔性膜を含む分離膜エレメントから構成される。分離膜エレメントは、発酵反応槽の内部または外部のいずれに設置されてもよい。
本発明の連続発酵によるL−アミノ酸の製造方法は、分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の多孔性膜を使用し、濾過圧力である膜間差圧が0.1から20kPaの範囲で濾過処理することを特徴としている。そのため、特別に発酵反応槽内を加圧状態に保つ必要がないことから、濾過分離装置と発酵反応槽間で発酵培養液を循環させる動力手段が不要となり、分離膜エレメントを発酵反応槽内部に設置して発酵培養装置をコンパクト化することもできる。
本発明の連続発酵によるL−アミノ酸の製造方法で用いられる連続発酵装置のうち、分離膜エレメントが発酵反応槽の内部に設置された代表的な一例を図1に示す。図1は、本発明で用いられる膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。図1において、膜分離型の連続発酵装置は、微生物を発酵培養させる発酵反応槽1と、その発酵反応槽1の中の発酵培養液の量を制御するための水頭差制御装置3で基本的に構成されている。発酵反応槽1内には分離膜エレメント2が配設されており、その分離膜エレメント2には多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを使用することができる。分離膜エレメントに関しては、追って詳述する。
次に、図1の膜分離型の連続発酵装置による連続発酵の形態について説明する。培地供給ポンプ7によって、培地を発酵反応槽1に連続的もしくは断続的に投入する。培地については、発酵反応槽1内に投入する前に、必要に応じて加熱殺菌、加熱滅菌あるいはフィルターを用いた滅菌処理を行うことができる。発酵生産時には、必要に応じて、発酵反応槽1内の攪拌機5で発酵反応槽1内の発酵液を攪拌することができる。また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を発酵反応槽1内に供給することができる。このとき、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4に供給することができる。また必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵反応槽1内の発酵液のpHを調整することができる。また必要に応じて、温度調節器10によって発酵反応槽1内の発酵培養液の温度を調節することにより生産性の高い発酵生産を行うことができる。
ここでは、計装・制御装置による発酵培養液の物理化学的条件の調節に、pHおよび温度の調節を例示したが、必要に応じて、溶存酸素やORPの制御を行うことができ、更にはオンラインケミカルセンサーなどの分析装置により発酵培養液中のL−アミノ酸の濃度を測定し、それを指標とした物理化学的条件の制御を行うことができる。また、培地の連続的もしくは断続的投入の形態に関しては、特に限定されるものではないが、上記の計装装置による発酵培養液の物理化学的環境の測定値を指標として、培地投入量および速度を適宜調節することができる。
発酵培養液は、発酵反応槽1内に設置された分離膜エレメント2によって、微生物と発酵生産物に濾過・分離され装置系から取り出される。また、濾過・分離された微生物は装置系内に留まることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離は発酵反応槽1の水面との水頭差圧によって行い、特別な動力を必要としない。また、必要に応じて、レベルセンサ6および水頭差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度およびよび発酵反応槽1内の発酵液量を適当に調節することができる。上記の分離膜エレメント2による濾過・分離は水頭差圧によって行うことを例示したが、必要に応じて、ポンプや、液体や気体等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより、濾過・分離することもできる。
次に、本発明の連続発酵によるL−アミノ酸の製造方法で用いられる連続発酵装置のうち、分離膜エレメントが、発酵反応槽の外部に設置された代表的な一例を図2の概要図に示す。図2は、本発明で用いられる他の膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。
図2において、膜分離型の連続発酵装置は、微生物を培養発酵させるための発酵反応槽1と、その発酵反応槽1に発酵培養液循環ポンプ11を介して接続され内部に分離膜エレメント2を備えた膜分離槽12と、発酵反応槽1内の発酵培養液の量を制御するための水頭差制御装置3で基本的に構成されている。ここで、分離膜エレメント2には、多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜、および分離膜エレメントを使用することが好適である。
図2において、培地供給ポンプ7によって培地を発酵反応槽1に投入し、必要に応じて、攪拌機5で発酵反応槽1内の発酵培養液を攪拌することができる。また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を供給することができる。このとき、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4で供給することができる。また、必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびよびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵培養液のpHを調整することができる。また必要に応じて、温度調節器10によって発酵培養液の温度を調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。さらに、装置内の発酵培養液は、発酵培養液循環ポンプ11によって発酵反応槽1と膜分離槽12の間を循環する。発酵生産物を含む発酵培養液は、分離膜エレメント2によって微生物と発酵生産物に濾過・分離され、発酵生産物を装置系から取り出すことができる。
また、濾過・分離された微生物は、装置系内に留まることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離は膜分離槽12の水面との水頭差圧によって行うことができ、特別な動力を必要としない。また、必要に応じて、レベルセンサ6および水頭差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度および装置系内の発酵培養液量を適当に調節することができる。また、必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を膜分離槽12内に供給することができる。
上記のように、分離膜エレメント2による濾過・分離は水頭差圧によって行うことができるが、必要に応じて、ポンプや、液体や気体等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより濾過・分離することもできる。このような手段により、膜間差圧を調整制御することができる。
次に、本発明で用いられる分離膜エレメントの好適な形態の例である国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを、以下に図面を用いてその概略を説明する。図3は、本発明で用いられる分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概略斜視図である。
分離膜エレメントは、図3に示すように、剛性を有する支持板13の両面に、流路材14と前記の分離膜15をこの順序で配し構成されている。支持板13は、両面に凹部16を有している。分離膜15は、発酵培養液を濾過する。流路材14は、分離膜15で濾過された濾液を効率よく支持板13に流すためのものである。支持板13に流れた濾液は、支持板13の凹部16を通り、集水パイプ17を介して連続発酵装置外部に取り出される。濾液を取り出すための動力として、水頭差圧、ポンプ、液体や気体等による吸引濾過、あるいは装置系内を加圧するなどの方法を用いることができる。
図4は、本発明で用いられる別の分離膜エレメントの他の実施の形態を説明するための概略斜視図である。分離膜エレメントは、図4に示すように、中空糸膜(多孔性膜)で構成された分離膜束18と上部樹脂封止層19と下部樹脂封止層20によって主に構成されている。分離膜束18は、上部樹脂封止層19および下部樹脂封止層20よって束状に接着・固定化されている。下部樹脂封止層20による接着・固定化は、分離膜束18の中空糸膜(多孔性膜)の中空部を封止しており、培養液の漏出を防ぐ構造になっている。一方、上部樹脂封止層19は、分離膜束18の中空糸膜(多孔性膜)の内孔を封止しておらず、集水パイプ22に濾液が流れる構造となっている。この分離膜エレメントは、支持フレーム21を介して連続発酵装置内に設置することが可能である。分離膜束18によって濾過された発酵生産物を含む濾液は、中空糸膜の中空部を通り、集水パイプ22を介して連続発酵装置外部に取り出される。濾液を取り出すための動力として、水頭差圧、ポンプ、液体や気体等による吸引濾過、あるいは装置系内を加圧するなどの方法を用いることができる。
本発明のL−アミノ酸の製造方法で用いられる連続発酵装置の分離膜エレメントを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作に耐性の部材であることが好ましい。連続発酵装置内が滅菌可能であれば、連続発酵時に好ましくない微生物による汚染の危険を回避することができ、より安定した連続発酵が可能となる。分離膜エレメントを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作の条件である、121℃で15分間に耐性であることが好ましい。分離膜エレメント部材には、例えば、ステンレスやアルミニウムなどの金属、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、PVDF、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂およびポリサルホン系樹脂等の樹脂を好ましく選定することができる。
本発明のL−アミノ酸の製造方法で用いられる連続発酵装置では、分離膜エレメントは、図1のように発酵反応槽内に設置しても良いし、図2のように発酵反応槽外に設置しても良い。分離膜エレメントを発酵反応槽外に設置する場合には、別途、膜分離槽を設けてその内部に分離膜エレメントを設置することができ、発酵反応槽と膜分離槽の間を培養液を循環させながら、分離膜エレメントにより培養液を連続的に濾過することができる。
本発明のL−アミノ酸の製造方法で用いられる連続発酵装置では、膜分離槽は、高圧蒸気滅菌可能であることが望ましい。膜分離槽が高圧蒸気滅菌可能であると、雑菌による汚染回避が容易である。
本発明の連続発酵によるL−アミノ酸の製造方法に従って連続発酵を行った場合、従来のバッチ式の発酵と比較して、高い体積生産速度が得られ、極めて効率のよい発酵生産が可能となる。ここで、連続培養における発酵生産速度は、次の(式3)で計算される。
・発酵生産速度(g/L/hr)=抜き取り液中の生産物濃度(g/L)×発酵培養液抜き取り速度(L/hr)÷装置の運転液量(L) ・・・・(式3)
また、バッチ式培養による発酵生産速度は、原料炭素源をすべて消費した時点の生産物量(g)を、炭素源の消費に要した時間(h)とその時点の発酵培養液量(L)で除して求められる。
本発明の連続発酵によるL−アミノ酸の製造方法で得られるL−アミノ酸は、主に、飼料添加物、医薬品、医薬中間体および食料添加物等としての用途があり、本発明によって、より安価にL−アミノ酸を提供することが可能となる。
以下、本発明の連続発酵によるL−アミノ酸の製造方法をさらに詳細に説明するために、図1および図2の概略図に示す連続発酵装置を用いることによる、連続的なL−スレオニンおよびL−リジンの発酵生産について、実施例を挙げて説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
下記のL−スレオニンの製造方法に関する実施例においては、L−スレオニンを生産させる微生物として、プロビデンシア・レトゲリのうちプロビデンシア・レトゲリ SGR588−77株(FERM P−10528)を用い、L−リジンの製造方法に関する実施例においては、L−リジンを生産させる微生物として、コリネバクテリウム・グルタミカムのうちコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032を遺伝子改変した株を用いた。
また、発酵原料のうち炭素源にはグルコースを用い、窒素源と無機塩類には、下記の実施例で説明する原料を用いた。
(参考例1)L−スレオニン、L−リジンおよびグルコースの定量法
培養液中に含まれるL−スレオニン量の測定は、次の方法で行った。測定するL−スレオニンを含む発酵培養液を25μL取り、そこに150μlのNaHCO3(75mM)および内標として25μlのL−メチオニン(2g/L)を加える。上記の溶液に、さらに900μlのエタノールおよび150μlの0.2Mジニトロフルオロベンゼン(DNFB)を加え混合する。上記の溶液を37℃の温度で1時間静置後、下記条件でHPLC分析を行った。
・カラム:CAPCELLPAK C18 TYPE SG120(資生堂)
・移動相:0.1%(w/v)H3PO4:アセトニトリル=7:3(流速1.2mL/min)
・検出方法:UV(360nm)
・温度:23℃
検量線は、濃度既知のL−スレオニンを標品として分析を行い、横軸にL−スレオニン濃度、縦軸にL−スレオニン面積/L−メチオニン(内標)面積の面積比をプロットして作製した。
培養液中に含まれるL−リジン量の測定は、次の方法で行った。測定するL−リジンを含む発酵培養液を25μL取り、そこに400μLのNaHCO3(75mM)および内標として25μLの1,4−ブタンジオール(2g/L)を加える。上記の溶液に、150μlの0.2MDNFBを添加後、37℃で1時間反応させた。
その溶液50μlをアセトニトリル1mLに溶解し、10,000rpmで5分間遠心した上清10μlを以下の条件でHPLCにより分析した。
・カラム :CAPCELLPAK C18 TYPE SG120(資生堂)
・移動相 :0.1%(w/w)リン酸水溶液:アセトニトリル=45:55(流速1mL/min)
・検出方法:UV(360nm)
・温度:23℃
検量線は、濃度既知のL−リジンを標品として分析を行い、横軸にL−リジン濃度、縦軸にL−リジン面積/1,4−ブタンジオール(内標)面積の面積比をプロットして作製した。
また、グルコース濃度の測定には、“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬社製)を用いた。
(参考例2)多孔性膜の作製(その1)
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、また溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
・PVDF:13.0重量%
・DMAc:87.0重量%
次に、上記の原液を25℃の温度に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm3で、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布(多孔質基材)に塗布し、直ちに次の組成を有する25℃の温度の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質基材に多孔質樹脂層が形成された多孔性膜を得た。
・水 :30.0重量%
・DMAc:70.0重量%
この多孔性膜をガラス板から剥がした後、80℃の温度の熱水に3回浸漬してDMAcを洗い出し、分離膜を得た。この分離膜の凝固浴と接触した側における、多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は2.0μmであった。また、反対側における、多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.1μmであった。次に、上記の分離膜について純水透水量を評価したところ、50×10-9m3/m2・s・Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差 は0.035μmで、膜表面粗さは18μmであった。
(参考例3) 多孔性膜の作製(その2)
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、また開孔剤として分子量が約20,000のポリエチレングリコール(PEG)を、溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を、そして非溶媒として純水をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
・PVDF:13.0重量%
・PEG : 5.5重量%
・DMAc:78.0重量%
・純水 : 3.5重量%
次に、上記の原液を25℃の温度に冷却した後、密度が0.48g/cm3 、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布(多孔質基材)に塗布し、塗布後、直ちに25℃の温度の純水中に5分間浸漬し、さらに80℃の温度の熱水に3回浸漬してDMAcおよびPEGを洗い出し、多孔質樹脂層を有する多孔性膜(分離膜)を得た。この分離膜の原液を塗布した側における、多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.02μmであった。この分離膜について純水透水量を評価したところ、2×10-9m3/m2・s・Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。平均細孔径の標準偏差 は0.0055μmで、膜表面粗さは0.1μmであった。
(参考例4) 多孔性膜の作製(その3)
下記組成の原液を用いた他は参考例2と同様にして、多孔質樹脂層を有する多孔性膜(分離膜)を得た。
・PVDF:13.0重量%
・PEG : 5.5重量%
・DMAc:81.5重量%
この分離膜の原液を塗布した側における、多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.2μmであり、この分離膜について純水透水量を評価したところ、100×10-9m3/m2・s・Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差 は0.060μmで、膜表面粗さは0.08μmであった。
(参考例5) 多孔性膜の作製(その4)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ-ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解し、原液を作製した。この原液を、γ-ブチロラクトンを中空部形成液体として随拌させながら口金から吐出し、温度20℃のγ-ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社、CAP482−0.5)を1重量%、N-メチル-2-ピロリドンを77重量%、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(三洋化成株式会社製、商品名“イオネットT−20C”(登録商標))を5重量%、および水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して、原液を調整した。この原液を、上記で得られた中空糸膜の表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて本発明で用いる中空糸膜(多孔性膜)を製作した。得られた中空糸膜(分離膜)の被処理水側表面の平均細孔径は、0.05μmであった。次に、上記の分離膜である中空糸膜について純水透水量を評価したところ、5.5×10-9m3/m2・s・Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差 は0.006μmであった。
(実施例1) 連続発酵によるL−スレオニンの製造(その1)
図1に示す連続発酵装置を稼働させることにより、L−スレオニンが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地には表1に示す培地を用いた。この培地は、121℃の温度で15分間、高圧(2気圧)蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする前述の参考例2で作製した多孔性膜を用いた。この多孔質膜の特性を調べたところ、平均細孔径が0.1μmであり、純水透過係数が50×10-9m3/m2/s/paであった。この実施例1における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:37(℃)
・発酵反応槽通気量:1.5(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む発酵反応槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧(2気圧)蒸気滅菌。
・pH調整:28%アンモニア水溶液によりpH7に調整
・膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(連続発酵開始後〜100時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御
100時間〜200時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御)
微生物として、プロビデンシア・レトゲリ(Providencia rettgeri)SGR588−77株(FERM P−10528)を用い、培地として表1に示す組成のL−スレオニン発酵培地を用いた。発酵培養液に含まれるL−スレオニンおよびグルコースの濃度測定は、参考例1に示した方法で行った。
まず、100mlのグルコースブイヨン培地(1%グルコース、3%ブイヨン(ニッスイ社製))を投入した500ml容の三角フラスコに、寒天培地から掻き取ったプロビデンシア・レトゲリ SGR588−77株を植菌した。これを温度37℃、回転数140rpmで撹拌しながら培養を行った(前々培養)。得られた前々培養液を、1LのL−スレオニン前培養培地(表2)を投入した図1に示す連続発酵装置に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と37℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後、直ちに、表1のL−スレオニン発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量が1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL−スレオニンの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、連続発酵開始後〜100時間は0.1kPa以上5kPa以下で制御し、100時間〜200時間は0.1kPa以上2kPa以下で制御した。適宜、膜透過濾液中の生産されたL−スレオニン濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、L−スレオニンと投入グルコースから算出されたL−スレオニン生産速度を表4に示した。200時間の発酵試験を行った結果、図1に示した連続発酵装置を用いることにより、安定したL−スレオニンの連続発酵による製造が可能であることが確認することができた。連続発酵の期間中の膜間差圧は、0.1kPa以上2kPa以下で推移した。
(実施例2)連続発酵によるL−スレオニンの製造(その2)
分離膜として参考例3で作製した多孔性膜を用い、実施例1と同様のL−スレオニン連続発酵試験を行った。その結果を表4に示す。その結果、安定したL−スレオニンの連続発酵による製造が可能であることが確認できた。また、連続発酵の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
(実施例3)連続発酵によるL−スレオニンの製造(その3)
分離膜として参考例4で作製した多孔性膜を用い、実施例1と同様のL−スレオニン連続発酵試験を行った。その結果を表4に示す。その結果、安定したL−スレオニンの連続発酵による製造が可能であることが確認できた。また、連続発酵の期間中の膜間差圧は、0.1kPa以上2kPa以下で推移した。
(実施例4)連続発酵によるL−スレオニンの製造(その4)分離型・平膜3
図2に示す連続発酵装置を稼働させることにより、L−スレオニンが得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地には表1に示す培地を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、参考例4で作成したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性膜を用いた。該多孔質膜の平均細孔径は0.1μmであり、純水透過係数は50×10-9m3/m2/s/paである。この実施例4における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・膜分離槽容量:0.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:37(℃)
・発酵反応槽通気量:1.5(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20minの
オートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
・pH調整:28%アンモニア水溶液によりpH7に調整
・ 膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
微生物として、プロビデンシア・レトゲリ(Providencia rettgeri)SGR588−77株(FERM P−10528)を用い、培地として表1に示す組成のL−スレオニン発酵培地を用いた。発酵培養液に含まれるL−スレオニンおよびグルコースの濃度測定は、参考例1に示した方法で行った。
まず、100mlのグルコースブイヨン培地(1%グルコース、3%ブイヨン(ニッスイ社製))を投入した500ml容の三角フラスコに、寒天培地から掻き取ったプロビデンシア・レトゲリ SGR588−77株を植菌した。これを温度37℃、回転数140rpmで撹拌しながら培養を行った(前々培養)。得られた前々培養液を、1LのL−スレオニン前培養培地(表2)を投入した図2に示す連続発酵装置に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と37℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後、直ちに、表1のL−スレオニン発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量が1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL−スレオニンの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過濾液中の生産されたL−スレオニン濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、L−スレオニンと投入グルコースから算出されたL−スレオニン生産速度を表4に示した。200時間の発酵試験を行った結果、図2に示した連続発酵装置を用いることにより、安定したL−スレオニンの連続発酵による製造が可能であることが確認することができた。
(実施例5)連続発酵によるL−スレオニンの製造(その5)
図1に示す連続発酵装置を稼働させることにより、L−アミノ酸が連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地には表1に示す培地を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、参考例5で作成したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性膜を用いた。この実施例5における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:37(℃)
・発酵反応槽通気量:1.5(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20minの
オートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
・pH調整:28%アンモニア水溶液によりpH7に調整
・膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
微生物として、プロビデンシア・レトゲリ(Providencia rettgeri)SGR588−77株(FERM P−10528)を用い、培地として表1に示す組成のL−スレオニン発酵培地を用いた。発酵培養液に含まれるL−スレオニンおよびグルコースの濃度測定は、参考例1に示した方法で行った。
まず、100mlのグルコースブイヨン培地(1%グルコース、3%ブイヨン(ニッスイ社製))を投入した500ml容の三角フラスコに、寒天培地から掻き取ったプロビデンシア・レトゲリ SGR588−77株を植菌した。これを温度37℃、回転数140rpmで撹拌しながら培養を行った(前々培養)。得られた前々培養液を、1LのL−スレオニン前培養培地(表2)を投入した図1に示す膜分離型の連続発酵装置に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と37℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後、直ちに、表1のL−スレオニン発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量が1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL−スレオニンの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過濾液中の生産されたL−スレオニン濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、L−スレオニンと投入グルコースから算出されたL−スレオニン生産速度を表4に示した。200時間の発酵試験を行った結果、図1に示した連続発酵装置を用いることにより、安定したL−スレオニンの連続発酵による製造が可能であることが確認することができた。
(比較例1) バッチ発酵によるL−スレオニンの製造
微生物を用いた発酵形態として最も典型的なバッチ発酵を2L容のジャーファーメンターを用いて行い、そのL−スレオニン生産性を評価した。バッチ培養開始時の培地には表2に示す培地を用いた。この培地は、121℃の温度で15分間、高圧(2気圧)蒸気滅菌処理して用いた。この比較例1では、微生物として実施例1と同様なプロビデンシア・レトゲリ SGR588−77株を用い、発酵液に含まれるL−スレオニンおよびグルコースの濃度測定は、参考例1に示した方法で行った。比較例1の運転条件は、下記のとおりである。
・発酵反応槽容量(L−スレオニン発酵培地量):1(L)
・温度調整:37(℃)
・発酵反応槽通気量:1(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・pH調整:28%アンモニア水溶液によりpH7に調整
まず、90mlのグルコースブイヨン培地(1%グルコース、3%ブイヨン(ニッスイ社製))を投入した500ml容の三角フラスコに、寒天培地から掻き取ったプロビデンシア・レトゲリ SGR588−77株を植菌した。これを温度37℃、回転数140rpmで撹拌しながら培養を行った(前培養)。得られた前培養液を810mlの表2に示す培地を投入したミニジャーファーメンターに植菌し、バッチ発酵を行った。培養途中で追加した培地の組成を表3に示した。培地の追加は、培養開始後24時間、32時間、40時間、48時間に50mLずつ行った。バッチ発酵の結果を、上記実施例1〜5の連続発酵試験で得られたL−スレオニン発酵生産性と比較して表4に示す。
表4の結果から、本発明で用いられる図1および図2に示した連続発酵装置を用いることにより、L−スレオニンの生産速度が大幅に向上することを確認することができた。
(実施例6) 連続発酵によるL−リジンの製造(遺伝子組換え株の作製)
L−リジン生産能力をもつ微生物として、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032(以下ATCC13032株と略す。)のホモセリンデヒドロゲナーゼ(HOM)遺伝子破壊株の作製を行った。
(1)レバンスクラーゼ(SacB)遺伝子のクローニング
バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)由来のSacB遺伝子のクローニングを行った。
データベース(GenBank)に登録されているSacB遺伝子(AccessionNo.X02730)の塩基配列を参考に、オリゴヌクレオチドプライマー(配列番号1,2)を合成した。バチルス・サブチリス IFO13719株から常法に従い調整したゲノムDNAの溶液を増幅鋳型として0.2mlのミクロ遠心チューブに0.2μlづつ取り、各プライマーを20pmol、トリス塩酸緩衝液pH8.0(20mM)、塩化カリウム(2.5mM)、ゼラチン(100μg/ml)、各dNTP(50μM)、LATaqDNAポリメラーゼ(2単位)(宝酒造製)となるように各試薬を加え、全量を50μlとした。DNAの変性条件を94℃、30秒、プライマーのアニーリング条件を55℃、30秒、DNAプライマーの伸長反応条件を72℃、3分の各条件でBioRad社のサーマルサイクラーを用い、30サイクルポリメラーゼ連鎖反応を行わせた(以下PCR法と略す)。この実施例6におけるPCR法は特に断らない限り、本条件にて行った。このPCR法により得られた産物を1%アガロースにて電気泳動し、SacB遺伝子を含む約1.4kbのDNA断片をゲルから切り出しジーン・クリーン・キット(BIO101社製)により精製した。この断片を、制限酵素のSacIで消化し、得られた1.4kbのSacI断片を、予めSacIで消化しておいたpHSG298(宝酒造製)のEcoRI/BamHI間隙にライゲーションキットver.1(宝酒造社製)を用いて挿入し、得られたプラスミドをpTM38と命名した。
(2)ホモセリンデヒドロゲナーゼ(HOM)遺伝子のクローニング
HOM活性を欠損させるために、N末端から300アミノ酸領域に該当する遺伝子のクローニングを行った。
データベース(GenBank)に登録されているHOM遺伝子(Accession No.BA000036)の塩基配列を参考に、オリゴヌクレオチドプライマー(配列番号3,4)を合成した。ATCC13032株から常法に従い調整したゲノムDNAの溶液を増幅鋳型として、配列番号3,4のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRを行い、このPCRにより得られた産物を1%アガロースにて電気泳動し、HOM遺伝子を含む約0.9kbのDNA断片をゲルから切り出しジーン・クリーン・キット(BIO101社製)により精製した。この断片を、制限酵素のSphIおよびBamHIで消化し、得られた0.9kbのSphI−BamHI断片を、予めSphIおよびBamHIで消化しておいたpTM38のSphI/BamHI間隙にライゲーションキットver.1(宝酒造社製)を用いて挿入し、得られたプラスミドをpTM44と命名した。
(3)クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm遺伝子)のクローニング
データベース(GenBank)に登録されているpHSG399(AccessionNo.M19087)の塩基配列を参考に、オリゴヌクレオチドプライマー(配列番号5,6)を合成した。
pHSG399を増幅鋳型として、配列番号5,6のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRを行い、このPCRにより得られた産物を1%アガロースにて電気泳動し、Cm伝子を含む約1.0kbのDNA断片をゲルから切り出しジーン・クリーン・キット(BIO101社製)により精製した。この断片を、制限酵素のAor51HIで消化し、得られた1kbのAor51HI断片を、予めAor51HIで消化しておいたpTM44のAor51HI間隙にライゲーションキットver.1(宝酒造社製)を用いて挿入し、得られたプラスミドをpTM62と命名した。
(4)ホモセリンデヒドロゲナーゼ遺伝子の破壊
ATCC13032株にプラスミドpTM62を、電気穿孔法[FEMS Microbiology Letters,65,p.299(1989)]により導入し、カナマイシン(25μg/ml)が添加されているLB(トリプトン(10g/l)(Bacto社製)、酵母エキス(5g/l)(Bacto社製)、塩化ナトリウム(10g/l))寒天培地上で選択した。
このようにして選択された形質転換体から常法に従いゲノムDNA溶液を調整した。このゲノムDNAを鋳型として、オリゴヌクレオチド(配列番号:3,4)をプライマーセットとして用いたPCR法を行い、得られた産物を1.0%アガロースゲルにて電気泳動したところ、約2.4kbのバンドが観察された。このことから、選択された形質転換体が、HOM遺伝子座にCm遺伝子が挿入され、破壊されていることを確認することができた。この形質転換体を、コリネバクテリウム・グルタミカム delta−HOM株(以下、delta−HOM株と略す。)と命名した。
(実施例7)連続発酵によるL−リジンの製造(その1)
図1に示す連続発酵装置を稼働させることにより、L−リジンが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地には表5に示す培地を用いた。この培地は、121℃の温度で15分間、高圧(2気圧)蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする前述の参考例4で作製した多孔性膜を用いた。この多孔質膜の平均細孔径は上述のとおり0.1μmであり、純水透過係数は50×10-9m3/m2/s/paである。この実施例7における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:2(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:650(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む発酵反応槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧(2気圧)蒸気滅菌。
・pH調整:4N NH4OHによりpH7.3に調整
・膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
微生物として、実施例6で作製したdelta−HOM株を用い、培地として表5に示す組成のL−リジン発酵培地を用いた。発酵培養液に含まれるL−リジンおよびグルコースの濃度測定は、参考例1に示した方法で行った。
まず、5mlのBY培地(0.5%イーストエキストラクト、0.7%ミートエキストラクト、1%ペプトン、0.3%塩化ナトリウム)を投入した試験管に、寒天培地から掻き取ったdelta−HOM株を植菌し、これを温度30℃で24時間振とう培養を行った(前々々培養)。得られた前々々培養液を、表5に示した培地を50mL投入した500mLの三角フラスコに全量植菌し、30℃で24時間振とう培養した(前々培養)。得られた前々培養液を、表5に示した培地を1L投入した図1に示す連続発酵装置に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって650rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と30℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後、直ちに、表5に示す培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量が1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL−リジンの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過濾液中の生産されたL−リジン濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、L−リジンと投入グルコースから算出されたL−リジン生産速度を表6に示した。200時間の発酵試験を行った結果、図1に示した連続発酵装置を用いることにより、安定したL−リジンの連続発酵による製造が可能であることが確認することができた。
(実施例8)連続発酵によるL−リジンの製造(その2)
図1に示す連続発酵装置を稼働させることにより、L−リジンが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地には表5に示す培地を用いた。この培地は、121℃の温度で15分間、高圧(2気圧)蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする前述の参考例5で作製した多孔性膜を用いた。この多孔質膜の平均細孔径は上述のとおり0.1μmであり、純水透過係数が50×10-9m3/m2/s/paである。この実施例9における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:2(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:650(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む発酵反応槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧(2気圧)蒸気滅菌。
・pH調整:4N NH4OHによりpH7.3に調整
・膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
微生物として、実施例6で作製したdelta−HOM株を用い、培地として表5に示す組成のL−リジン発酵培地を用いた。発酵培養液に含まれるL−リジンおよびグルコースの濃度測定は、参考例1に示した方法で行った。
まず、5mlのBY培地(0.5%イーストエキストラクト、0.7%ミートエキストラクト、1%ペプトン、0.3%塩化ナトリウム)を投入した試験管に、寒天培地から掻き取ったdelta−HOM株を植菌し、これを温度30℃で24時間振とう培養を行った(前々々培養)。得られた前々々培養液を、表5に示した培地を50mL投入した500mLの三角フラスコに全量植菌し、30℃で24時間振とう培養した(前々培養)。得られた前々培養液を、表5に示した培地を1L投入した図1に示す連続発酵装置に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって650rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と30℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後、直ちに、表5に示す培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量が1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL−リジンの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過濾液中の生産されたL−リジン濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、L−リジンと投入グルコースから算出されたL−リジン生産速度を表6に示した。200時間の発酵試験を行った結果、図1に示した連続発酵装置を用いることにより、安定したL−リジンの連続発酵による製造が可能であることが確認することができた。
(実施例9)連続発酵によるL−リジンの製造(その3)
図2に示す連続発酵装置を稼働させることにより、L−リジンが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地には表5に示す培地を用いた。この培地は、121℃の温度で15分間、高圧(2気圧)蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする前述の参考例4で作製した多孔性膜を用いた。この多孔質膜の平均細孔径は上述のように0.1μmであり、純水透過係数が50×10-9m3/m2/s/paである。この実施例9における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:2(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:650(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む発酵反応槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧(2気圧)蒸気滅菌。
・pH調整:4N NH4OHによりpH7.3に調整
・膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
微生物として、実施例6で作製したdelta−HOM株を用い、培地として表5に示す組成のL−リジン発酵培地を用いた。発酵培養液に含まれるL−リジンおよびグルコースの濃度測定は、参考例1に示した方法で行った。
まず、5mlのBY培地(0.5%イーストエキストラクト、0.7%ミートエキストラクト、1%ペプトン、0.3%塩化ナトリウム)を投入した試験管に、寒天培地から掻き取ったdelta−HOM株を植菌し、これを温度30℃で24時間振とう培養を行った(前々々培養)。得られた前々々培養液を、表5に示した培地を50mL投入した500mLの三角フラスコに全量植菌し、30℃で24時間振とう培養した(前々培養)。得られた前々培養液を、表5に示した培地を1L投入した図2に示す連続発酵装置に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって650rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と30℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後、直ちに、表5に示す培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量が1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL−リジンの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過濾液中の生産されたL−リジン濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、L−リジンと投入グルコースから算出されたL−リジン生産速度を表6に示した。200時間の発酵試験を行った結果、図2に示した連続発酵装置を用いることにより、安定したL−リジンの連続発酵による製造が可能であることが確認することができた。
(実施例10) 連続発酵によるL−リジンの製造(その4)
図2に示す連続発酵装置を稼働させることにより、L−リジンが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地には表5に示す培地を用いた。この培地は、121℃の温度で15分間、高圧(2気圧)蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする前述の参考例5で作製した多孔性膜を用いた。この多孔質膜の平均細孔径は上述のとおり0.1μmであり、純水透過係数が50×10-9m3/m2/s/paである。この実施例10における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:2(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:650(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む発酵反応槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧(2気圧)蒸気滅菌。
・pH調整:4N NH4OHによりpH7.3に調整
・膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
微生物として、実施例6で作製したdelta−HOM株を用い、培地として表5に示す組成のL−リジン発酵培地を用いた。発酵培養液に含まれるL−リジンおよびグルコースの濃度測定は、参考例1に示した方法で行った。
まず、5mlのBY培地(0.5%イーストエキストラクト、0.7%ミートエキストラクト、1%ペプトン、0.3%塩化ナトリウム)を投入した試験管に、寒天培地から掻き取ったdelta−HOM株を植菌し、これを温度30℃で24時間振とう培養を行った(前々々培養)。得られた前々々培養液を、表5に示した培地を50mL投入した500mLの三角フラスコに全量植菌し、30℃で24時間振とう培養した(前々培養)。得られた前々培養液を、表5に示した培地を1L投入した図2に示す連続発酵装置に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって650rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と30℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後、直ちに、表5に示す培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量が1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL−リジンの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過濾液中の生産されたL−リジン濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、L−リジンと投入グルコースから算出されたL−リジン生産速度を表6に示した。200時間の発酵試験を行った結果、図2に示した連続発酵装置を用いることにより、安定したL−リジンの連続発酵による製造が可能であることが確認することができた。
(比較例2)バッチ発酵によるL−リジンの製造
微生物を用いた発酵形態として最も典型的なバッチ発酵を2L容のジャーファーメンターを用いて行い、そのL−リジン生産性を評価した。バッチ培養開始時の培地には表5に示す培地を用いた。この培地は、121℃の温度で15分間、高圧(2気圧)蒸気滅菌処理して用いた。この比較例1では、微生物として、実施例6で作製したdelta−HOM株を用い、発酵培養液に含まれるL−リジンおよびグルコースの濃度測定は、参考例1に示した方法で行った。比較例1の運転条件は、下記のとおりである。
・発酵反応槽容量(L−リジン発酵培地量):1.5(L)
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:2(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:650(rpm)
・pH調整:4N NH4OHによりpH7.3に調整
まず、5mlのBY培地(0.5%イーストエキストラクト、0.7%ミートエキストラクト、1%ペプトン、0.3%塩化ナトリウム)を投入した試験管に、寒天培地から掻き取ったdelta−HOM株を植菌し、これを温度30℃で24時間振とう培養を行った(前々培養)。得られた前々培養液を、表5に示した培地を50mL投入した500mLの三角フラスコに全量植菌し、30℃で24時間振とう培養した(前々培養)。得られた前々培養液を、表5に示した培地を1450mL投入したミニジャーファーメンターに植菌し、バッチ培養を行った。バッチ発酵の結果を、上記の実施例7〜10の連続発酵試験で得られたL−リジン発酵生産性と比較して表6に示す。
表6の結果から、本発明で用いられる図1および図2に示した連続発酵装置を用いることにより、L−リジンの生産速度が大幅に向上することを確認することができた。