本発明の一実施形態について図1から図52までに基づいて説明すれば、以下の通りである。
〔実施の形態1〕
まず、図1・図2に基づき、本発明の一実施形態である磁気記録媒体11の構成について説明する。図1は、磁気記録媒体11の構成を示す断面図である。
本実施形態の磁気記録媒体11は、図1に示すように、基板12上に、磁気情報が記録される磁性層(磁性体)13が形成され、磁性層13に積層して保護層14、及び必要に応じて潤滑層15が形成される。
基板12としては、金属基板、酸化物基板、窒化物基板、及び樹脂製基板等を用いることができ、例えば、SiO2基板やガラス基板、NiPをコートしたAl基板や、ポリカーボネート基板を用いることができる。
磁性層13は、複数の第1領域(以下で説明する高Ku領域(第1領域,記録領域)13a)と、該複数の第1領域間の隙間を占める第2領域(以下で説明する低Ku領域(第2領域,非記録領域)13b)とを備えている。なお、ここでは、磁気情報の記録に際して、高Ku領域13aに記録磁界が印加されて記録磁区(以下、適宜「磁区」、「孤立磁区」などと呼ぶ場合がある。)が形成されるものとして説明するが、低Ku領域13bに記録磁区を形成するような場合を排除する趣旨ではない。
なお、前記複数の第1領域は、互いに分離されていると共に閉じた領域であり、かつ前記基板の表面に沿って並置された領域であっても良い。すなわち、本発明の磁気記録媒体は、いわゆるパターンドメディア方式の磁気記録媒体に適用することが可能である。
また、磁性層13の第1領域と第2領域との境界には、基板12の表面方向における磁壁エネルギーの変化が存在している。
このような、磁壁エネルギーの変化を生じさせる構成としては、例えば、前記第1領域の方が、前記第2領域よりも、磁気異方性エネルギーが大きい、すなわち、第1領域が磁気異方性エネルギーが高い領域となり、第2領域が磁気異方性エネルギーが低い領域となるように磁性層13が形成されたものを考えることができる。
ここでは、第1領域が磁気異方性エネルギーが高い領域(以下、「高Ku領域13a」と呼ぶ。)であり、第2領域が磁気異方性エネルギーが低い領域(以下、「低Ku領域13b」と呼ぶ。)である場合について説明するが、磁気異方性エネルギーの大きさの関係が第1領域と第2領域とで逆となっていても構わない。
次に、図2に基づき磁気記録媒体11における磁性層13を、図1の紙面上側から見た場合の状態について説明する。図2は、磁気記録媒体11における磁性層13を、図1の紙面上側から見た場合の状態を示す上面図である。
図2に示すように、磁性層13の高Ku領域13aは、互いに分離されていると共に閉じた領域である複数の高Ku領域13aが、基板12の表面に沿って繰り返し配置(並置)されている。低Ku領域13bは、これらの複数の高Ku領域13aの隙間を埋める(占める)ように形成されている。
ここでは、磁性層13の高Ku領域13aは、基板12の表面(以下、磁性層13の磁性膜の表面と基板12の表面とが平行であるものとして、磁性膜の表面という意義で、単に「膜面」と言うことがある。)に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直磁化膜から構成されている場合について説明する。このような材料としては、垂直磁気記録方式のハードディスク媒体に一般的に用いられる磁性材料や、光磁気記録媒体に用いられる磁性材料等が適用できる。
具体的には、例えば、Co、Fe、又はCoFeの合金を基体とし、Cr、Ta、Ni、Pt、Pd、B、Zr、Nb、及び/又はRh等を加えた材料や、希土類金属を加えた、TbFe、TbFeCo、GdFe、GdFeCo、DyFe、DyFeCo、GdTbFeCo、TbDyFeCo、及び/又はSmCo等の希土類−遷移金属磁性体を用いることができる。
磁性層13の低Ku領域13bは、構成材料としては、高Ku領域13aの場合と同様の磁性材料を用いることが可能であるが、膜面に垂直な方向の磁気異方性が高Ku領域13aよりも小さくなるように、材料、組成比、及び製法を選択する。
なお、低Ku領域13bは必ずしも膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直磁化膜である必要は無く、膜面に平行な方向に磁化容易軸を有する面内磁化膜であっても構わない。
保護層14は、磁気ヘッド等の外部からの物理的な接触から磁性層13を保護するための役割と、磁性層13の酸化劣化を防ぐ酸化防止層としての役割とを兼ねるものであり、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜やAlN(窒化アルミニウム)、SiN(窒化シリコン)、CN(窒化炭素)等の窒化膜等を適用できる。
潤滑層15は、磁気ヘッド等の外部からの物理的な接触によって磁気記録媒体11又は磁気ヘッドが破損することを防ぐためのものであり、例えば、パーフルオロポリエーテルを骨格とする分子膜を使用することができる。
磁気記録媒体11の基板12と磁性層13との間には、必要に応じて軟磁性層(軟磁性下地層)16(不図示)が形成されていてもよい。軟磁性層16は磁性層13に外部磁界を印加して記録を行う際に、膜面に垂直な方向の磁界を増強して記録を補助するための層であり、SUL(soft underlayer)とも称される層である。
軟磁性層16は、例えば、NiFe、NiFeTa、及びCoZrやこれらを主体とする軟磁性体を用いて形成される。軟磁性層16を形成する場合には、磁性層13と軟磁性層16の間に更に非磁性層が形成されていても構わない。
以上の構成を採用することにより、磁気記録媒体11は、高Ku領域13aに磁気情報を記録した場合における該磁気情報の記録が保持される領域である記録磁区(以下で説明する図3に示す記録磁区130)の範囲が、高Ku領域13aの範囲よりも大きくなるようにすることができる。言い換えると、記録磁界が印加された際の記録磁区130は、その後、高Ku領域13aの範囲をはみ出して大きくなり、記録磁区の体積が拡大する。
すなわち、高Ku領域13aに記録された記録磁区130が、その周囲を占める低Ku領域13b内に侵入することで拡大して(又は高Ku領域13aをはみ出して)保持されるため、記録磁区130から発生する漏洩磁界を大きくでき、引いては、再生信号品質を向上させることができる。要するに、磁気記録媒体11は、信号情報(以下「漏洩磁界」と呼ぶ。)の発生する記録磁区の体積を拡大できるようになっている。
なお、このような磁気記録媒体11の特性は、以下で説明する基板12の表面に凹凸を形成した磁気記録媒体であっても、凹凸を形成しない磁気記録媒体であっても構わない。
また、磁気記録媒体11は、低Ku領域13bにおいて、基板12の表面(基板表面)に対して垂直な方向の磁気異方性エネルギーよりも、基板12の表面に対して平行な方向の磁気異方性エネルギーの方が大きくても良い。
前記構成によれば、高Ku領域13aとの交換結合力によって、低Ku領域13bの境界近傍の磁化が基板12の表面に垂直な方向に立ち上がり、図3に示す、高Ku領域13aに記録された記録磁区の体積を拡大させることができる。
加えて、記録磁区130を微細化しつつ磁気記録媒体11の表面の平坦性を確保できる。従って、光(熱)アシスト磁気記録媒体に適用される凹凸構造を有する軟磁性下地層を必要とする場合に比べて、磁気ヘッドが磁気記録媒体11に接触して破損することを防ぐことができる。
また、基板が凹凸構造を有する(又は、軟磁性層が凹凸構造を有していても良い)磁気記録媒体においては、以下で説明するように、基板の凸部上に形成された磁性体の部分が第1領域に相当し、基板12の凹部上に形成された磁性体の部分が第2領域に相当するように構成できる。このとき、第2領域において、基板の表面に対して平行な磁気異方性が強い特性を得られるので、例えば、第1領域に形成された垂直磁化の記録ビットの情報を第2領域に形成された磁性体が転写することがなく、隣接する記録領域同士が個別の情報を安定して保持することができる。
また、磁気記録媒体11は、高Ku領域13aを、磁気情報を記録する記録領域として用い、低Ku領域13bを、磁気情報を記録しない非記録領域として用いることが好ましい。
前記構成によれば、高Ku領域13aは、高Ku領域13aの隙間を占める低Ku領域13bによって互いに分離されているため、高Ku領域13aを磁気情報を記録する記録領域として用いることにより、記録された磁気情報が、隣の高Ku領域13aと直接接して交換結合してしまうことが無く、高密度な記録磁区130を安定保持できるという効果が得られる。
また、以下で説明する基板の凹凸構造の存在により、第1領域及び第2領域が形成されているような磁気記録媒体の場合、磁気記録媒体上から磁気ヘッドを用いて記録再生する場合に、凸部上の第1領域は、凹部上の第2領域より磁気ヘッドに近くなるために、より低い磁界出力で記録が行え、かつ大きな再生信号が得られる。
ここで、図3に基づき、磁気記録媒体11が漏洩磁界の発生する体積を大きくできる理由について説明する。図3は、磁気記録媒体11における動作原理を示す斜視図である。
以下では、図3に示すように、磁気記録前における磁性層13全体の磁化の向きが上向きで揃っており、特定の高Ku領域13aに下向きの記録磁界が印加された場合を考える。なお、磁性層13全体の磁化の向きは、このような場合に限られず、必要に応じて適宜決定すれば良い。
このとき、磁気記録前において磁性層13全体の磁化の向きが上向きに揃っているのは、強磁性的に交換結合しているからであるが、図3に示すように、記録磁界の印加により、特定の高Ku領域13aに下向きの磁化を生じさせた場合、高Ku領域13aには、周囲とは逆方向(反平行)の記録磁区130が形成されることになる。
このとき、互いに逆方向に向いた磁区同士の間(記録磁界が印加された高Ku領域13aとその周囲の低Ku領域13bとの間)には、交換結合力によって生じるエネルギーを緩和するための磁壁131が形成される。
このとき、互いに逆方向に向いた磁区同士の間(記録磁界が印加された高Ku領域13aとその周囲の低Ku領域13bとの間)には、交換結合力によって生じるエネルギーを緩和するための磁壁131が必ず形成される。
さて、磁気記録媒体11における磁性層13のように、磁性層13全域が磁性材料で構成され、磁性層13中に形成される記録磁区130(以下、単に「磁気ビット」ということがある。)の挙動を、磁壁移動モデルで考えることができる場合には、記録磁区130に加わる力は、磁界の次元に変換して次式(1)によって表せることが知られている。
ここで、磁界Htotalは記録磁区130に対して加わる全磁界、磁界Hexは外部磁界、磁界Hdは浮遊磁界、エネルギーσωは磁壁エネルギー(以下、「磁壁エネルギーσω」と呼ぶ。)、半径rは記録磁区130の半径である。更に、磁壁エネルギーσωは、以下の次式(2)で表すことができる。
ここで、定数Aは交換スティフネス定数であり、定数Kuは、磁気異方性定数である。
式(1)の磁界Htotalの絶対値が、磁性層13の保磁力Hc以下であれば、記録磁区130の磁壁移動は起こらず、半径rの記録磁区130は安定に存在することができるが、磁界Htotalの絶対値が保磁力Hcよりも大きい場合には、保磁力Hcよりも小さくなるように、半径rが変化(磁壁移動)し、保磁力Hcよりも小さくなった時点で記録磁区130が保持されることになる。
半径rが変化(磁壁移動)しても保磁力Hcよりも小さくならない場合には、磁界Htotalの符号に応じて記録磁区130は消失、又は、磁性層13の全面に拡大することになる。具体的には、磁界Htotalが負の場合、記録磁区130は縮小して消失し、正の場合は全面に拡大する。
磁気記録媒体11について、図3に示すように、磁化が一方向に揃えられた(図3中では上向きの磁化)磁性層13に対し、磁化が一方向に揃えられた領域と逆の向きを有する記録磁区130(図3中では下向きの磁化)を、高Ku領域13aの一つに対して形成した場合について、式(1)に当てはめて考えてみる。
式(1)の右辺第1項は、磁気記録媒体11の外部から加わる外部磁界Hexであり、記録磁区130の磁化方向と同じ向き(図3中の下向き)に外部磁界Hexが印加される場合には、記録磁区130の半径rが大きくなる方向の力となる。
一方、記録磁区130の磁化方向と逆の向き(図3中の上向き)に外部磁界Hexが印加される場合には、記録磁区130の半径rが小さくなる方向の力となる。
右辺第2項は、記録磁区130以外の周囲の磁性層13から生じ、記録磁区130に加わる浮遊磁界Hdであり、周囲の磁性層13の自発磁化の向きと反対向きであり、単位体積当りの磁化量に比例する。
図3に示すように、記録磁区130の周囲を取り巻く領域が、記録磁区130の磁化方向と逆の向きに揃った状態では、浮遊磁界Hdは記録磁区130の磁化方向と同じ向き(周囲の磁化の向きと逆向き)に加わる。このため、浮遊磁界Hdが大きいほど記録磁区130の半径rが拡大する方向の力となる。
次に、右辺第3項は、記録磁区130の磁壁131が受ける交換結合力の影響を表す項であり、その絶対値が大きい程、記録磁区130の半径rが小さくなる方向の力となる。
右辺第4項は、磁性層13の基板12の表面と平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在する場合、磁壁エネルギーσωが大きい領域から磁壁エネルギーσωが小さい領域に向かって、磁壁131を移動させようとする力が働くことを示す項である。
前記のような、磁界Htotalの絶対値が、磁壁131が存在する箇所において保磁力Hcよりも大きくなると、記録磁区130は安定に存在できなくなる。具体的には、磁界Htotalが、正方向に大きくなった場合には、記録磁区130が磁壁移動によって拡大し、磁界Htotalが負方向に小さくなった場合には、記録磁区130が縮小する。
磁気記録媒体11では、図1・図2に示すように高Ku領域13aと低Ku領域13bとが基板12の表面に平行な方向に隣り合って配置(並置)されている。ここで、図3に示すように、特定の高Ku領域13aに記録磁区130を形成すると、低Ku領域13bとの境界部近傍に記録磁区130の磁壁131が形成される。
そうすると、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部では、磁気異方性定数Kuが異なる磁性体が接していることで、磁性層13のが基板12の表面と平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在することになる。従って、式(1)の右辺第4項が示すように、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部では、高Ku領域13aから低Ku領域13bへ向かって磁壁131を移動させようとする力が生じることになる。
ここで、磁界Htotalが、正方向に保磁力Hcを超えて大きくなった場合、磁壁131は高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部から低Ku領域13b側へと移動することになる。このことは、記録磁区の体積が高Ku領域13aの体積よりも大きくなることを意味する。
ここで、低Ku領域13bで安定形成される磁壁131の磁壁幅δは、次式(3)で表される。なお、定数Aは、交換スティフネス定数であり、定数Kuは、磁気異方性定数である。
よって、磁壁幅δよりも低Ku領域13bの幅(隣接する高Ku領域13a間の最短距離)が大きければ、磁壁131は高Ku領域13a(ここで言う「高Ku領域13a」とは、「記録磁界が印加された特定の高Ku領域の周囲に存在する、該特定の高Ku領域13a以外の高Ku領域13a」だけではなく、「記録磁界が印加された特定の高Ku領域13a」自身も含む。)に掛からずに、低Ku領域13b内で形成されることになる。
また、磁壁幅δが低Ku領域13bの幅よりも大きい場合でも、高Ku領域13aと低Ku領域13bの境界部における磁界Htotalが保磁力Hcよりも大きければ、磁壁131は低Ku領域13bに押し出され、低Ku領域13bの中に押し込められる。これにより、記録磁区130と、他の磁区とを磁気分離し、記録磁区の体積を拡大して安定保持することが可能となる。
ここで、磁壁131は記録磁区130の磁化方向から、反対の磁化方向まで磁化が反転していく過渡状態の領域であるので、磁壁131内においても記録磁区130に近い領域(磁壁131幅の半分まで)では、記録磁区130と同じ方向の磁化が存在する。従って、磁壁131の幅の半分までの範囲で、記録磁区130と同方向の漏洩磁界を生じる。
以上のように、磁気記録媒体11は、高Ku領域13aに記録された記録磁区130の磁壁131が高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界に存在する磁壁エネルギーσωの変化によって、低Ku領域13bの中に押し出され、記録磁区130が高Ku領域13aよりも大きな体積となる。これにより、従来のパターンドメディアのように磁性体(複数の高Ku領域13aに相当)の間が非磁性体で占められている場合に比べて、同じ面記録密度を保ちながら信号情報となる漏洩磁界が発生する面積を広くでき、媒体から発生する信号量を大きくできるとともに、面積利用効率の高い磁気記録媒体を提供できる。
ここで、定性的に考えると、仮に、磁性層13全体に亘って磁壁エネルギーσωの変化が存在しないような場合、例えば、交換結合力が強い従来の記録媒体においては、強磁性的な結合が強いために、磁化が高周期で互いに逆方向を向くことを許さず、広い面積(大きい体積)で同じ方向を向いた記録磁区130が形成されてしまうか、記録磁区130が消失してしまうことになる。
すなわち、記録磁区130の消失を防ぎ、安定な記録磁区130を形成しようとすれば、個々の記録磁区130が大きくなってしまうため、記録密度を向上させることができなくなる。
一方、上述のように、高Ku領域13aが磁気異方性エネルギーが高い領域であり、低Ku領域13bが磁気異方性エネルギーが低い領域であるように磁性層13を構成すれば、高Ku領域13aに生じた記録磁区130と、その周囲の低Ku領域13bとの間の交換結合力を、前記従来の記録媒体よりも、弱めることが可能となる。そうすると、個々の記録磁区130は、小さくても安定に存在できるため、互いに逆方向を向いた磁区が高密度に存在することが許される記録媒体となる。
また、磁気記録媒体11では、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界には、基板12の表面方向における磁壁エネルギーσωの変化が存在しており、例えば、高Ku領域13aが磁気異方性エネルギーが高い領域であり、低Ku領域13bが磁気異方性エネルギーが低い領域であるような場合には、前記境界の高Ku領域13a側の磁壁エネルギーσωは大きく、前記境界の低Ku領域13b側の磁壁エネルギーσωは小さくなる。
そうすると、磁壁131には、磁壁エネルギーσωの大きい方向から小さい方向へと移動させる力が働くので、この磁壁131を高Ku領域13a側から低Ku領域13b側へ移動させることが可能となる。よって、高Ku領域13aに記録磁界を印加することによって生じた記録磁区130を、その周囲の低Ku領域13b内へ拡大して保持することが可能となる。なお、このような、記録磁区130の拡大が可能となるという磁気記録媒体11の特性は、あらかじめ生じさせている磁性層13全体の磁化の向きに拠らない。
以上より、磁気記録媒体11は、高Ku領域13aに磁気情報を記録した場合における該磁気情報の記録が保持される領域である記録磁区130の範囲は、高Ku領域13aの範囲よりも大きくすることが可能となる。
すなわち、高Ku領域13aに記録された記録された記録磁区130が、低Ku領域13bに拡大して保持されるため、記録磁区130から発生する漏洩磁界を大きくでき、引いては、再生信号品質を向上させることができる。
また、記録磁区130が拡大することで記録磁区の体積が増加し、熱揺らぎに対する耐性を高めることができる。
なお、このような磁気記録媒体11の特性は、基板12に凹凸を形成した磁気記録媒体であっても、凹凸を形成しない磁気記録媒体であっても構わない。
以上より、基板に凹凸を形成した磁気記録媒体であるか否かに関わらず、記録磁区130から発生する漏洩磁界を大きくすることが可能であり、記録密度を高めても、熱揺らぎに対する耐性が高く再生信号品質が低下することのない磁気記録媒体11を提供することができる。
ところで、磁気記録媒体11の磁気情報記録方法としては、複数の高Ku領域13aのうち少なくとも一つの高Ku領域13aと、高Ku領域13aと隣接する低Ku領域13bとに跨って記録磁界を印加することも考えられる。
前記構成によれば、複数の高Ku領域13aのうち少なくとも一つの高Ku領域13aと、高Ku領域13aと隣接する低Ku領域13bとに跨って記録磁界を印加する。それゆえ、磁気記録媒体11に形成された記録磁区130の少なくとも一部が、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部よりも外側にはみ出して形成されるので、記録磁区130が磁壁エネルギーσωの影響で縮小、又は消滅してしまうことを防ぐことができる。
なお、「高Ku領域13aと隣接する低Ku領域13bとに跨って記録磁界を印加する」とは、高Ku領域13aを包含した上で、高Ku領域13aの範囲を超えて記録磁区130を印加する場合と、高Ku領域13aを包含していないが、高Ku領域13aをはみ出して高Ku領域13aの範囲を超えて記録磁界を印加する場合などが考えられる。
同様に、図4に基づき、磁気記録媒体11における磁気情報の記録方法として、磁気記録媒体11において2つ以上の高Ku領域13aに跨って記録磁区130が形成された場合について考えてみる。従来のパターンドメディア(磁気記録媒体11の低Ku領域13bを非磁性体で形成したもの)では、磁性体(高Ku領域13aに相当)の境界が非磁性体で構成されているため、2つ以上の磁気ビットに跨って同じ向きの記録磁区130が形成された場合であっても、記録された磁化を保持するのは個々の磁性体であって、これは、単一の磁性体に記録磁区130が形成された場合と何ら変わりが無い。
一方、磁気記録媒体11では、高Ku領域13aの間を磁性体である低Ku領域13bが埋めているため、2つ以上の高Ku領域13aに跨って記録磁区130が形成された場合には、間に配置された低Ku領域13bの磁化も交換結合力によって記録磁区130が形成された高Ku領域13aと同じ方向を向き、記録磁区の体積を大きくする。このような磁気記録媒体11の上面の様子を示す上面図を図4に示す。
このように、2つ以上の高Ku領域13aに跨って記録磁区130が形成された場合には、信号情報となる漏洩磁界が大きくなるとともに、低Ku領域13bが架橋となって高Ku領域13a同士を磁気的に結合させるので、従来のパターンドメディアに比べて記録磁区の体積を格段に増やすことができ、熱揺らぎ耐性の高い磁気記録媒体11を提供できる。
なお、磁気記録媒体11に対する記録方式としては、外部磁界のみで記録する磁気記録方式であっても良く、光又は熱と磁界とを組み合わせて記録する光(熱)アシスト磁気記録方式であっても構わない。
光(熱)アシスト磁気記録を行う場合には、磁性層13に希土類−遷移金属合金からなるフェリ磁性体を用いれば、キュリー温度を300℃以下程度に抑えることができ、且つ、室温近傍で高い保磁力Hcを有する磁気記録媒体11を作製可能であるので、光(熱)アシスト磁気記録に特に好適な磁気記録媒体11を提供できる。
ここで、従来のパターンドメディア以外にも、光磁気記録媒体や光(熱)アシスト磁気記録媒体で一般に使用されるように、磁性層13が全て一様な定数Kuの磁性材料を用いて構成された場合についても比較してみる。
まず、磁性層13を全て高Ku領域13aの材料で作製した場合について考えてみる。この場合、磁性層13に記録された記録磁区130の磁壁131は、高Ku領域13aの内部に存在することになる。
このため、定数Kuが大きいことによって磁壁エネルギーσωも大きくなり、式(1)の右辺第3項に示されている記録磁区の体積を小さくしようとする力が、磁気記録媒体11よりも強く働くことになる。
また、磁気記録媒体11で安定に形成可能な微小な記録磁区130が、磁性層13を全て高Ku領域13aの材料で作製した場合には記録磁区の体積を小さくしようとする力に負けて縮小してしまう。このとき、磁性層13は一様な定数Kuを有しているため、記録磁区130の縮小を止める力は発生せず、記録磁区130はそのまま消滅してしまう。
一方、磁気記録媒体11では、まず、低Ku領域13bの磁壁エネルギーσωが高Ku領域13aの磁壁エネルギーσωよりも小さいために、低Ku領域13bに磁壁131が形成されることで、磁壁131に加わる力(式(1)の右辺第3項の絶対値)を小さくすることができる。
さらに、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部において、両者の定数Kuの差に起因する磁壁エネルギーσωの変化が存在し、式(1)の右辺第4項の作用により、磁壁131を低Ku領域13b側に押し出す力が働く。従って、磁性層13を一様な定数Kuの材料のみで構成した場合であれば消滅してしまうような微小な記録磁区130について、消滅してしまうことを防ぐ効果を持つ。このことは、磁気記録媒体11が一様な定数Kuの材料で形成された媒体に比べて、面記録密度を向上させることができることを示している。
次に、磁性層13を全て低Ku領域13bの材料で作製した場合について考えてみると、定数Kuが小さいために、記録磁区130を磁気記録媒体11に比べて安定に保持できず、相対的に小さな外部磁界等の外乱によって容易に記録磁区130が消滅してしまう問題が発生する。
また、記録磁区130を保持できる場合であっても、記録磁区130のサイズが小さくなると、高Ku領域13aの場合と同じように、記録磁区の体積を小さくしようとする力(式(1)の右辺第3項の絶対値)が大きくなり、記録磁区130は消滅してしまう。
これに対し、磁気記録媒体11では、記録磁区130は高Ku領域13aを核にして形成されているために、磁性層13を全て低Ku領域13bの材料で構成した場合に比べて、外乱に強い高安定の磁気記録媒体11を提供できる。
さらに、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部において、両者の定数Kuの差に起因する磁壁エネルギーσωの変化が存在し、式(1)の右辺第4項の作用により、磁壁131を低Ku領域13b側に押し出す力が働く。従って、記録磁区130のサイズを小さくした場合においても記録磁区130の消滅を防ぐことができる。
また、従来のパターンドメディアと異なり、磁気記録媒体11は、高Ku領域13aと低Ku領域13bとが共に磁性材料で構成されている。このため、高Ku領域13aに希土類金属を含む磁性材料を用いる場合であっても、従来のパターンドメディアのように、磁性体を取り囲む非磁性体の影響によって希土類金属が酸化するおそれが無い。
具体的には、従来のパターンドメディアで磁性体を取り囲む非磁性体に酸化物を用いた場合、磁性体の希土類金属が酸化劣化してしまうおそれがあった。これに対し、磁気記録媒体11は、高Ku領域13aと低Ku領域13bとが共に磁性材料で構成されているため、このような酸化劣化のおそれが無い。
また、磁気記録媒体11において、式(1)で示されるような磁壁移動型のモデルをより効果的に利用する(磁壁移動が起こりやすくする)ためには、磁性層13に適用する材料、特に低Ku領域13bに用いる材料には、非晶質の磁性材料を用いることが望ましい。
磁壁移動を効果的に生じさせるためには、磁気特性が磁性材料内部で均一であることが要求されるが、結晶質の磁性材料では、結晶粒界の存在、相の異なる領域の存在、格子の不整合など、均一性を損なう要素が多数存在する。
結晶質材料でこれを防ぐには単結晶化する必要があり、原料が高価になる、製法が複雑になる、大面積化が困難、加熱が必要で基板の種類が限定されるなどの問題が発生する。非晶質材料であればこのような問題を招くことなく、均一な磁気特性を実現できる。
以上のように、低Ku領域13bが非晶質材料で形成すれば、低Ku領域13bが結晶質の磁性材料で形成された場合に比べて、低Ku領域13b中の磁気特性を均一にできる。このため低Ku領域13b内における記録磁区130の磁壁131の移動が効率良く実現できるので、記録磁区130の拡大がスムーズに行われ、記録磁区130を効率的に大きくできる。
また、磁気記録媒体11は、高Ku領域13a及び低Ku領域13bは、非晶質の磁性材料で形成されていることが好ましい。
前記構成によれば、結晶質の金属材料を磁性体に用いる場合に比べて、格子欠損や記録ビット中での意図しない結晶方位の変化等によって、磁気記録媒体11中の個々の記録ビットの磁気特性分散を生じることなく、各ビットが同等の磁気特性を示すことから、安定な性能の磁気記録媒体11を提供するのに好適である。
また、高Ku領域13aと低Ku領域13bがともに非晶質材料で形成されているため、結晶質の磁性材料で形成された場合に比べて高Ku領域13a中及び低Ku領域13b中の磁気特性を均一にできる。このため磁性層13全域に渡る記録磁区130の磁壁131の移動が効率良く実現できるので、記録磁区130の拡大がスムーズに行われ、記録磁区130をより効率的に大きくできる。
また、上述したように、磁気記録媒体11は、非晶質の磁性材料は、希土類金属と遷移金属とを含むフェリ磁性体であることが好ましい。
前記構成によれば、キュリー温度を比較的低くしながら室温での保磁力Hcを大きくできるため、光又は熱と磁界とを利用して磁気情報を記録する光(熱)アシスト磁気記録方式に好適な磁気記録媒体11を提供することができる。
また、磁気記録媒体11は、フェリ磁性体は、Gd、Ho、Tb、及びDyの中から選択される少なくとも1つ以上の希土類金属と、Fe及びCoから選択される少なくとも1つ以上の3d遷移金属とを含んでいることが好ましい。
前記構成によれば、希土類金属と3d遷移金属の互いの磁化が反平行に揃うフェリ磁性体となり、合金組成を調整して室温近傍に補償点を設定し、室温で高保磁力Hcを得られるので、記録情報を安定に保持できるとともに、キュリー温度を比較的低く設定できるため、光(熱)アシスト磁気記録に好適な磁気記録媒体11を提供できる。また、Tb、Fe、及びCoの合金は高い垂直磁気異方性エネルギーを得られるので、本実施形態の磁気記録媒体として用いるのに好適である。
以上まとめると、磁気記録媒体11は、複数の高Ku領域13aの隙間を低Ku領域13bで埋める(占める)ことで、記録磁区130の磁壁131が高Ku領域13aと接する低Ku領域13bに押し出される。
これによって、低Ku領域13bからも漏洩磁界(信号情報)が得られる。すなわち、信号量が増加し再生信号品質が向上する利点がある。加えて、記録磁区の体積が増加するので熱揺らぎ耐性を向上できる。
また、複数の高Ku領域13aを跨いで同じ向きの磁気情報が記録された場合には、磁気情報が記録された複数の高Ku領域13aの間に存在する低Ku領域13bの磁化が、交換結合力によって高Ku領域13aと同じ方向を向き、信号情報となる漏洩磁界が低Ku領域13bからも発生して、信号量が増加するのに加え、隣り合う高Ku領域13a同士を低Ku領域13bが磁気的に繋いで記録磁区の体積を増加させ、熱揺らぎ耐性を格段に向上できる効果が得られる。
さらに、パターンドメディアを形成するためのマスク材や、自己組織化材料の制約から高Ku領域13a(従来のパターンドメディアにおける磁性体)が小さくなった場合や、高Ku領域13aの間隔が広くなった場合にも、高Ku領域13aの体積以上に大きな記録磁区130が形成されることになるので、記録密度を低下させること無く、再生信号量を増加させることが可能で、且つ、熱揺らぎに対して耐性の強い磁気記録媒体11を提供できる。
さらに、高Ku領域13aを希土類金属等の酸化され易い金属を含む磁性体で構成する場合、これを囲む低Ku領域13bも金属磁性体であれば、高Ku領域13aが周囲からの影響で酸化劣化することを防げる。
なお、磁気記録媒体11における低Ku領域13bは、膜面に垂直な方向の磁気異方性定数Ku’が高Ku領域13aのKuよりも小さな面内磁化膜であっても構わない。これによれば、高Ku領域13aとの交換結合力によって、低Ku領域13bの境界近傍の磁化が膜面に垂直な方向に立ち上がり、高Ku領域13aに記録された記録磁区の体積を拡大する効果が得られる。
さらに、磁気記録媒体11では、記録磁区130を微細化しつつ磁気記録媒体11表面の平坦性を確保できるので、主に光(熱)アシスト磁気記録媒体に適用される特許文献6に開示されているような、凹凸を有する下地層(軟磁性下地層など)を必要とする場合に比べて、磁気ヘッドが磁気記録媒体に接触して破損することを防ぐことができる。
次に、本実施形態の磁気記録媒体11の製造方法を図5(a)〜(d)を用いて説明すれば以下の通りである。
以下では、エッチングを用いた磁気記録媒体11の製造方法の概要を説明し、その後、製造方法のより具体的な説明を行う。
エッチングを用いた磁気記録媒体11の製造方法の例としては、以下の2通りの場合を例示することができるが、このような製造方法に限られる訳ではない。
まず、基板12上に高Ku領域13aを構成する磁性材料を全面に形成する工程と、該磁性材料を部分的にエッチングする工程と、該部分的にエッチングした領域に低Ku領域13bを構成する磁性材料を埋め込む工程とを有する製造方法が考えられる。
次に、基板12上に低Ku領域13bを構成する磁性材料を全面に形成する工程と、該磁性材料を部分的にエッチングする工程と、該部分的にエッチングした領域に高Ku領域13aを構成する磁性材料を埋め込む工程とを有する製造方法が考えられる。
以上の製造方法によれば、磁気記録媒体11の高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界を明瞭に形成できるため、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部で記録磁区130を拡大させる効果が高い磁気記録媒体11を提供することができる。また、磁気記録媒体11の表面を極めて平滑に形成できるため、磁気ヘッドが接触や衝突することによる磁気ヘッドと磁気記録媒体11の損傷を防ぐことができる。
次に、より具体的に説明すると、図5(a)に示すように、基板12上に磁性層13の高Ku領域13aを構成する磁性材料を膜厚10nmから50nm程度で形成する。磁性層13の形成にはスパッタ法や蒸着法、電鋳法を用いることができる。さらに、磁性層13の上部から保護層14を膜厚2nmから10nm程度で形成する。
続いて、図5(b)に示すように、磁性層13及び保護層14を加工するためのマスク材としてレジスト膜17を積層し、電子ビーム露光法で露光・現像して、高Ku領域13aとなる領域の上部のみにレジスト膜17を残す。続いて、イオンミリング法や、RIE(リアクティブイオンエッチング)法を用いて、高Ku領域13aとなる領域を除いて磁性層13及び保護層14を削る。
なお、図5(b)の工程で使用するマスク材としては、この他にも特許文献1に開示されているような、ブロックコポリマーを用いた自己組織化膜を用いる方法や、特許文献8に開示されているような、生体蛋白に囲まれた金属粒又は酸化物粒をマスク材として用いる手法を用いても良い。
続いて、図5(c)に示すように、低Ku領域13bとなる磁性材料と、保護層14とを、それぞれ、高Ku領域13aの膜を形成した際と同じ膜厚となるように形成して高Ku領域13aの間を埋めた上でレジスト膜17を剥離する。
ここで、レジスト膜17上に形成された磁性膜や保護膜の影響により、レジスト膜17の剥離が困難な場合や、剥離後に剥離に伴う凹凸が発生する場合には、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて保護層14より上の不要な部分を削り取る。続いて、保護層14上に潤滑層15を塗布形成して磁気記録媒体11を完成する。
前記製造方法において、高Ku領域13aの間に低Ku領域13bを形成する工程では、高Ku領域13a上に予め形成された保護層14の側壁部分に、低Ku領域13bを構成する磁性材料が付着してしまう場合がある。この場合は、付着した膜を逆スパッタ等のクリーニング手法で除去することが可能である。また、本実施形態の磁気記録媒体11の製造にはこの他にも図6(a)〜(d)に示す製造方法を用いても構わない。該製造方法を具体的に説明すれば以下の通りである。
まず、図6(a)に示すように、基板12上に磁性層13の低Ku領域13bを構成する磁性材料を膜厚10nmから50nm程度で形成する。磁性層13の形成にはスパッタ法や蒸着法、電鋳法を用いることができる。さらに、磁性層13の上部から保護層14を膜厚2nmから10nm程度で形成する。
続いて、図6(b)に示すように、磁性層13及び保護層14を加工するためのマスク材としてレジスト膜17を積層し、電子ビーム露光法で露光・現像する。このとき、図5(a)〜(d)の製造工程と異なり、低Ku領域13bとなる領域の上部のみにレジスト膜17を残す。続いて、イオンミリング法や、RIE(リアクティブイオンエッチング)法を用いて、低Ku領域13bとなる領域を除いて磁性層13及び保護層14を削る。
なお、図6(b)の工程で使用するマスク材としては、この他にも、特許文献7に開示されているような、アルミナナノホールを用いても良く、レジスト膜17の加工には電子ビーム以外にも凹凸構造が形成されたスタンパをレジスト膜17に押し付けるナノインプリント法を用いても良い。
続いて、図6(c)に示すように、高Ku領域13aとなる磁性材料と、保護層14とを、それぞれ、低Ku領域13bの膜を形成した際と同じ膜厚となるように形成して低Ku領域13bの間を埋めた上で、レジスト膜17を剥離する。
レジスト膜17上に形成された磁性膜や保護膜の影響により、レジスト膜17の剥離が困難な場合や、剥離後に剥離に伴う凹凸が発生する場合には、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて保護層14より上の不要な部分を削り取る。続いて、保護層14上に潤滑層15を塗布形成して磁気記録媒体11を完成する。
なお、本実施形態の磁気記録媒体11の製造方法は必ずしも前記の方法に則ったものである必要は無く、図1及び図2に示したように、高Ku領域13aの周囲を低Ku領域13bが取り囲む構成の磁性層13が作製できる製造方法であればどのような方法を選択しても構わない。
例えば、非特許文献1に記載のSiO2ナノリアクター法を利用することも可能である。具体的には、前記文献に記載の方法でFePt(高Ku領域)を核に持つナノパターンを作製した後、フッ素系ガスを用いたRIEによってSiO2コートを除去した後、FePtよりもKuが小さい磁性材料を低Ku領域13bとして形成してFePtの間を埋め、FePtの上部に付着した余分な低Ku領域13bの磁性材料はCMP法で除去することで、高Ku領域13aが低Ku領域13bに囲まれた磁性層13を作製可能である。
本実施形態の磁性層13について、特に高Ku領域13aを形成する磁性材料に関しては、異方性磁界Hkが大きすぎて市販の磁気力計では印加可能磁界が不足し、Kuを確認できない場合が考えられる。
このような場合には、磁化困難軸方向について測定可能な印加磁界範囲で磁化曲線を測定し、それを外挿することで定数Kuを推定する手法や、膜面に垂直な方向(磁化容易軸方向)の磁化曲線を測定し、その飽和磁化Msと保磁力Hcの積(Ms・Hc)の大小から定数Kuの大小を判断する手法を取る事ができる。
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について図7〜図10(c)に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
図7には、本発明の実施の形態2に係る磁気記録媒体21の断面概略図を示す。図7に示すように本実施形態の磁気記録媒体21は、実施の形態1に示した磁気記録媒体11における低Ku領域13bと基板12との間に基板12の表面よりも高い撥水性を示す有機物層(シラン化合物)22が形成されている以外は実施の形態1に示した磁気記録媒体11と同じ構成・材料のものである。また、以下で説明するように、有機物層22の構成材料は、シラン化合物であることが好ましい。
前記構成によれば、シラン化合物が典型例である高い撥水性を示す有機物層22上に形成される磁性層13の磁気特性を変化させ磁気異方性エネルギーを低くする効果が高いので、高Ku領域13a及び低Ku領域13bの磁気特性差を大きくできる。従って、高Ku領域13aから低Ku領域13bに記録磁区130を拡大させる力を強めることができ、記録磁区130が拡大する作用をより大きく得られる。
ところで、高Ku領域13a及び低Ku領域13bは、同一の磁性材料で形成されていることが好ましい。
前記構成によれば、一度の磁性層13の成膜によって高Ku領域13aと低Ku領域13bとを同時に形成できるため、製造工程を簡略化できるとともに、磁性層13の加工時に生じうる酸化劣化等の問題を回避することができる。
例えば、高Ku領域13aに希土類金属を含む磁性材料を用いる場合であっても、従来のパターンドメディアのように、磁性体を取り囲む非磁性体の影響によって希土類金属が酸化するおそれが無い。
言い換えれば、従来のパターンドメディアで磁性体を取り囲む非磁性体に酸化物を用いた場合、磁性体の希土類金属が酸化劣化してしまうおそれがあった。これに対し、前記構成によれば、高Ku領域13aと低Ku領域13bとが共に同一の磁性材料で構成されているため、このような酸化劣化のおそれが無い。
以下、磁気記録媒体21の構成の詳細について説明する。有機物層22は、この上に形成された磁性層13(低Ku領域13b)の磁気特性が、有機物層22を形成しない領域(基板12上)に形成された磁性層13(高Ku領域13a)の磁気特性と異なる磁気特性を示すように形成されるものである。
より具体的には、磁性層13が有機物層22上に形成されることにより、磁性層13の初期層の磁気特性が乱され、その上に形成される磁性層13が、元々有する膜面に垂直な方向の異方性を十分に発現出来なくなって、磁気異方性定数Ku’が、有機物層22が形成されていない領域上の磁性層13の磁気異方性定数Kuよりも小さくなるものである。
このような有機物層22を基板12上の一部(低Ku領域13bとなる箇所)に予め形成しておくことで、磁性層13を基板12上に一様に形成しても、磁性層13中に高Ku領域13aと低Ku領域13bとを同時に形成することが可能となる。
このようにして、図2に示すように高Ku領域13aを低Ku領域13bが囲むような磁性層13が形成でき、実施の形態1で説明した内容と同じ効果が得られる磁気記録媒体21を作製できる。
加えて、本実施形態の磁気記録媒体21では、実施の形態1の磁気記録媒体11のエッチングによる製造方法のように、磁性層13を削る工程が不要となるので、磁性層13に希土類金属のような酸化し易い金属を用いた場合においても、製造過程での酸化劣化のおそれが無く信頼性の高い磁気記録媒体21を提供できる効果を奏する。
有機物層22は、上述したように、その表面が基板12表面よりも高い撥水性を示す有機物層22であって、末端に有機物を有するシランカップリング剤を基板12に塗布した後、乾燥させ、場合によっては加熱して定着させることで形成可能である。
前記シランカップリング剤としては、有機物層22の表面が基板12表面よりも高い撥水性を示すものであれば適用可能である。
具体的に、例えばメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、及びアミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤を適用できる。有機物層22は使用するシランカップリング剤にもよるが、非常に薄く1nm程度の膜厚で形成可能である。
次に、本実施形態の磁気記録媒体21の製造方法について図8(a)〜(c)を用いて説明する。
以下で説明する磁気記録媒体21の製造方法は、基板12上に有機物層22を部分的に形成する工程と、有機物層22が部分的に形成された基板12上に磁性材料を全面に形成する工程とを有する方法である。
前記方法によれば、磁性材料を削り取る工程が不要となるので、磁性材料に希土類金属等の酸化劣化しやすい材料を用いる場合においても耐久性の高い磁気記録媒体21を提供できる。
この製造方法をより詳細に説明すれば、以下の通りである。図8(a)において、基板12上に有機物層22を形成する。具体的には、シランカップリング剤を質量比10〜40%程度の濃度で溶解させたトルエン等の有機溶剤中に基板12を浸し、有機物層22を形成する。
このときの基板12には、シランカップリング剤の結合を強固にするために、表面が酸化物になっている基板12を用いることが望ましく、且つ、予め基板クリーニングを行って表面の不要な吸着物を除去しておくことが望ましい。このとき、有機物層22は基板12の表面全面に形成される。
続いて、有機物層22を形成した基板12を乾燥させ、必要に応じてベーキングを行った後、図8(b)に示すように、電子ビーム露光装置を用いて、高Ku領域13aに相当する領域の有機物層22を除去する。具体的には、電子ビーム露光装置から発生させた電子線を有機物層22に照射し、有機物層22を局所的に分解する。このとき、電子ビームのドーズ量を400μC/cm2程度とすることで有機物層22を効率的に分解できる。
続いて、図8(c)に示すように、基板12をスパッタ装置等の薄膜形成装置に投入し、磁性層13及び保護層14を形成した後、潤滑層15を塗布して磁気記録媒体21が出来上がる。
本実施形態の磁気記録媒体21の製造に当たっては、この他にも図9(a)〜(c)に示すような製造方法を選択することもできる。これについて以下に説明する。まず、基板12としてSi基板又は金属基板を用いるか、もしくは、基板12上にSi又は金属のバッファ膜23(図示しない)を形成する。基板12としてSi基板又は金属基板を用いる場合には予め基板クリーニングを行って表面の不要な吸着物を除去しておくことが望ましい。
図9(a)に示すように、走査型プローブ顕微鏡を用いて基板12の有機物層22を形成しようとする領域(低Ku領域13bとなる領域)のみを局所酸化処理する。具体的には、大気中で走査型プローブ顕微鏡のプローブと基板12との間に電圧を印加することにより、基板12表面を局所酸化し、酸化領域24を形成する。このときプローブ側に例えば+10V程度の電圧を印加することにより基板12の局所酸化が可能である。
続いて、図9(b)に示すように、シランカップリング剤を質量比10〜40%程度の濃度で溶解させたトルエン等の有機溶剤中に基板12を浸し、有機物層22を形成する。このとき、基板12の酸化領域24に対して選択的に有機物層22が形成される。
続いて、図9(c)に示すように、有機物層22を形成した基板12を乾燥させた後、スパッタ装置等の薄膜形成装置に投入し、磁性層13、保護層14を形成した後、潤滑層15を塗布して磁気記録媒体21が出来上がる。
更に、本実施形態の磁気記録媒体21の製造に当っては特許文献9に開示されているリソグラフィー法を用いても構わない。この方法について図10(a)〜(c)を用いて説明する。
まず、図10(a)において、基板12上に有機物層22を形成する。このときの基板12には、シランカップリング剤の結合を強固にするために、表面が酸化物になっている基板12を用いることが望ましく、且つ、予め基板クリーニングを行って表面の不要な吸着物を除去しておくことが望ましい。このとき、有機物層22は、基板12の表面全面に形成される。
続いて、図10(b)に示すように、石英等の紫外線に対する透過率が高い基体201上に、TiO2からなる光触媒膜202が部分的に形成されたリソグラフィーマスク210を基板12の有機物層22に対向させ、基体201の背面から波長358nmの紫外光を照射して光触媒膜202からOHラジカルを発生させ、有機物層22を局所的に分解する。
このときの光触媒膜202は、有機物層22を除去したい領域に対応するよう、予め基体201上で加工されて形成されている。有機物層22を除去したい領域とは、すなわち、磁気記録媒体21において高Ku領域13aが形成される領域に相当する。
このようにして有機物層22を除去した後、図10(c)に示すように、磁性層13を形成し、さらに続いて保護層14、及び潤滑層15を形成することにより、磁気記録媒体21が出来上がる。
前記磁気記録媒体21は、基板12に残った有機物層22上に成膜された磁性層13が低Ku領域13bとなり、有機物層22が除去された基板12の上に成膜された磁性層13が高Ku領域13aとなる。
本実施形態の磁気記録媒体21の製造方法は必ずしも図8(a)から図10(c)までに示した方法に則ったものである必要は無く、図7及び図2に示したように、高Ku領域13aの周囲を低Ku領域13bが取り囲む構成の磁性層13が作製できる製造方法であればどのような方法を選択しても構わない。
(実施例1)
以下、実施例1として、実施の形態1に示した磁気記録媒体11を、図5(a)〜(d)に示した製造工程を用いて作製する例を示す。
実施例1では、基板12としてSiO2を、磁性層13のうち、高Ku領域13aに希土類遷移金属合金であるTbFeCoを、低Ku領域13bにTbFeCoよりも定数Kuが小さい希土類遷移金属合金であるGdFeCoを用いてそれぞれArガス雰囲気中でスパッタ装置を用いて形成する。
磁性層13形成時のArガス圧力は高Ku領域13aのTbFeCo、及び低Ku領域13bのGbFeCoともに0.4Paとし、TbFeCo合金及びGdFeCo合金ターゲットへの投入電力密度はともに50kW/m2とする。高Ku領域13aと低Ku領域13bとの膜厚はともに20nmとする。前記TbFeCoとGdFeCoはともに、非晶質のN型フェリ磁性体である。保護層14には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)を膜厚3nmで用い、潤滑層15には、パーフルオロポリエーテルを骨格とする分子膜を用いる。
図11及び図12には、実施例1の磁気記録媒体11において高Ku領域13aに用いるTbFeCoと低Ku領域13bとに用いるGdFeCoの室温における磁化曲線を示した。なお、図11及び図12に示す磁化曲線は、高Ku領域13aに用いるTbFeCoと低Ku領域13bに用いるGdFeCoそれぞれを個別に基板12上に形成し、保護層14を形成した上で、振動試料型磁気力計(VSM)を用いて膜面に垂直な方向の磁化曲線を測定したものである。
図11及び図12に示すように、高Ku領域13aに用いるTbFeCoは低Ku領域13bに用いるGdFeCoに比べて、飽和磁化Msと保磁力Hcの積Ms・Hcが大きな材料であった。
また、磁化困難軸方向である膜面に平行な方向の磁化曲線を測定して異方性磁界Hkを求め、Ku=Ms・Hk/2の関係を用いて定数Kuを算出したところ、高Ku領域13aに用いるTbFeCoの定数Kuは8.0×106erg/cm3であったのに対し、低Ku領域13bに用いるGdFeCoの定数Kuは7.0×105erg/cm3と1桁以上小さな値を示した。
なお、前記TbFeCoの異方性磁界Hk導出に際しては、振動試料型磁気力計(VSM)の印加可能磁界が十分ではなく、磁化困難軸方向の測定においてTbFeCoの磁化を飽和させることが出来なかった。このため、磁化困難軸方向の磁化曲線において高磁界領域の測定結果を外挿し、磁化容易軸方向の測定から得られた飽和磁化Msの値に到達する磁界を異方性磁界Hkとした。
前記TbFeCoとGdFeCoとを磁性層13に用いた磁気記録媒体11について、TbFeCoからなる高Ku領域13aの一つに記録磁区130を形成した場合の磁壁131の振る舞いについて式(1)を用いて求めた。
計算に際して、式(2)に用いる交換スティフネス定数Aは分子場近似を用いて求め、TbFeCoに対しては2.4×10−7erg/cm、GdFeCoに対しては3.0×10−7erg/cmを適用した。
また、式(1)の右辺第1項の外部磁界Hexは0とした。右辺第2項については、記録磁区130に加わる周囲からの浮遊磁界Hdに加えて、記録磁区130の自己減磁界(反磁界)の影響についても計算に入れた。記録磁区130以外の磁性層13については、磁化方向が全て記録磁区130と反対を向いているものとした。
以下、磁性層13に形成された記録磁区130の磁壁131が、高Ku領域13a内部(以下、「領域1」という場合がある)、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(以下、「領域2」という場合がある)、低Ku領域13b内部(以下、「領域3」という場合がある)に存在する場合に分けて計算結果を説明する。
まず、磁壁131が高Ku領域13a内部(領域1)に存在する場合、言い換えれば、記録磁区130が一つの高Ku領域13a内に完全に収まっている場合について説明する。この場合には、膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(1)の右辺第4項は0となる。
図13には、前記磁壁131が高Ku領域13a内部(領域1)に存在する場合に、記録磁区130に加わる磁界Htotalを記録磁区130の半径rに対して示した。図13には、磁化曲線から得られた実施例1の高Ku領域13a(TbFeCo)の保磁力Hcの値についても合わせて示した。図13において、磁界Htotalが保磁力Hcを上回る範囲では、磁壁131の移動が起こることを意味する。図13において、磁界Htotalの向きは、図13に示した半径rの範囲内で式(1)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、記録磁区130を縮小させる方向である。
図13から、記録磁区130の半径rが9nm以下になると、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131が記録磁区130を縮小させる方向に移動することで、記録磁区130が消滅してしまうことが分かる。このことは、実施例1の磁気記録媒体11において、高Ku領域13aの半径rが9nm以上で形成され、且つ、高Ku領域13aの内部に磁壁131が完全に収まるように半径rが9nm以下の記録磁区130が形成されてしまうと、記録磁区130は消滅してしまうことを意味する。
従って、実施例1の磁気記録媒体11において、記録磁区130の消滅を防ぐためには、高Ku領域13aの半径rを9nm未満で形成するか、9nm以上で形成する場合には、磁壁131が高Ku領域13a内に完全に収まってしまうことが無いように記録する必要がある。
次に、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)に磁壁131の一部が掛かっている場合には、前記境界部で膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在するため、式(1)の右辺第4項の影響が現れる。具体的には、高Ku領域13aから低Ku領域13bに向かう方向に磁壁131を動かそうとする力が働く。
磁壁131を動かそうとする力は、式(1)の右辺第4項からも分かるように、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部における磁壁エネルギーσωの変化幅が狭い程(高Ku領域13aから低Ku領域13bへ磁気特性が急激に変化する程)より大きくなる。
図14は、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部に磁壁131が形成された際に、記録磁区130に加わる磁界Htotalのうち式(1)の右辺第4項の成分を磁界Hbndとし、これを、高Ku領域13aと低Ku領域13bの境界幅(磁壁エネルギーσωの変化幅、すなわち高Ku領域13aと低Ku領域13bの混成領域幅に相当)に対して示したものである。なお、このときの磁界Hbndの向きは、記録磁区130を拡大させる方向である。
図14に示す範囲、すなわち、高Ku領域13aと低Ku領域13bの境界幅が5nm以下の範囲では、磁界Hbndは10kOe以上の非常に大きな値を示すことが分かる。この値は、図13に示した磁界Htotalの値と図14に示した磁界Hbndの向きが逆向きであることを考慮すると、半径rが4nm程度の記録磁区130であっても、磁界Hbndまで含めた磁界Htotalの値を高Ku領域13aの保磁力Hc以下に抑えることができる値である。
すなわち、半径rが4nm程度の記録磁区130まで安定に保持できることを意味している。さらに、高Ku領域13aと低Ku領域13bの境界幅を1nm以下まで小さくすれば、磁界Hbndは50kOeを超え、図13に示した磁界Htotalの値と比べると、半径rが2nm以下と極めて小さな記録磁区130も保持することができる。
このように、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)に磁壁131が形成されると、領域1とは異なり、記録磁区130は消滅すること無く、体積を拡大する方向に磁壁131を移動させ、高Ku領域13aよりも大きな体積の記録磁区130が形成されることになる。
以上のように、実施の形態1に示したエッチングを用いる製造方法を用いれば、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界を明瞭に形成できるので、高Ku領域13aと低Ku領域13bの境界幅は数nm以下とすることが可能である。
次に、低Ku領域13b内部(領域3)においては、領域1と同様に膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(1)の右辺第4項は0となる。この領域に磁壁131が形成された場合について、記録磁区130に加わる磁界の大きさ磁界Htotalと記録磁区130の半径rとの関係を図15に示した。
磁界Htotalの向きは、図15に示した半径rの範囲内で、式(1)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、領域1と同様に記録磁区130を縮小させる方向である。
図15に示す、記録磁区130の半径rが20nm以下の範囲では、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131は記録磁区130を縮小させる方向に移動する。しかしながら、縮小した記録磁区130の磁壁131は、上述の領域2の説明で示したように、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)において、記録磁区130を拡大させる方向の力(図14に示した磁界Hbnd)を受けて高Ku領域13aに入ることができずに停止する。
具体的には、図14に示したように、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界幅が5nm以下のとき、領域2に入ろうとする磁壁131は、記録磁区130を拡大する方向に10kOeを超える磁界を受けることになる。
これに対し、図15に示すように領域3で記録磁区130を縮小させようとする磁界Htotalは、半径rが3nmでも高々5kOe程度であり、領域2に磁壁131が入り込むほど記録磁区130が縮小することは無い。
ここで、磁壁131は記録磁区130と同じ磁化方向から、反対の磁化方向まで磁化が反転していく過渡領域であるので、磁壁131幅の中心よりも記録磁区130に近い領域では、記録磁区130と同じ方向の磁化成分が存在し、この領域からも信号情報となる漏洩磁界が発生する。
なお、式(3)から求められる実施例1の低Ku領域13bにおける磁壁幅δは21nmである。従って、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅が前記磁壁幅δよりも大きい場合には、記録磁区130が形成された高Ku領域13aの周囲の低Ku領域13b内に、前記幅δの磁壁が形成されることになる。
また、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅が磁壁幅δ以下の場合には、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)における磁界Htotalが、磁界Hbndの影響で非常に大きくなっている(高Ku領域13aや低Ku領域13bの保磁力Hcよりも大きい)ために前記境界部内には磁壁131が存在できず、見かけ上、低Ku領域13bに押し出されて、低Ku領域13bと同じ幅の磁壁(幅δよりも狭い磁壁)が高Ku領域13aの間に形成されることになる。
このように、実施例1の磁気記録媒体11では、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界に磁壁131の一部が掛かるか、それ以上の大きさで記録磁区130を形成(記録)することにより、磁壁131が低Ku領域13bに押し出された状態で高Ku領域13aに記録磁区130が保持される。従って、高Ku領域13aの体積よりも大きな記録磁区130が安定に存在できる。このことは、磁気記録媒体11が従来のパターンドメディアと同じ面記録密度を保ちながら、信号情報である漏洩磁界を大きくできることを示している。
更に、実施例1の磁気記録媒体11では、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)において磁壁エネルギーσωの変化が存在することにより、領域2で記録磁区130を拡大させる方向の力が働き、これによって、磁性層13が膜面に平行な方向に1種類の磁性材料で構成された場合に比べて、より小さな記録磁区130を安定保持できる。
ここで実施例1では、記録磁区130以外の周囲の磁性層13については、磁化方向が全て記録磁区130と反対を向いているものとして計算を行っているため、式(1)の右辺第2項で考慮されている周囲磁区からの浮遊磁界Hdは全て記録磁区130を拡大する方向に作用する。
実際の磁気記録媒体11では、両方向の磁化が混在しているため浮遊磁界Hdは記録磁区130を縮小する方向の成分も含むことになると考えられる。しかしながら、実施例1において式(1)の右辺第2項の浮遊磁界Hdは高々1kOe程度の大きさであり、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)で発生する記録磁区130を拡大させる方向の磁界Hbndと比較して小さな値である(図14参照)。
更に、記録磁区130と隣接する記録磁区は必ず記録磁区130と逆向きの磁化を持つ(同じ向きを向くならば記録磁区130と一体となるため)こと、記録磁区130に近い磁区程、浮遊磁界Hdに対する寄与分が大きいことを考えると、前記1kOe程度の浮遊磁界Hdが極端に減少し、又は、逆方向に強く加わることは無い。すなわち、実際の磁気記録媒体11で、記録磁区の磁界の向きが混在した場合においても、実施例1の効果は十分に得られる。
実施例1の磁気記録媒体11を図5(a)〜(d)に示した製造方法で実際に作製し(以下、「サンプル1」と呼ぶ)、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて磁化状態の観察を行った。比較のため、実施例1の磁気記録媒体11において、低Ku領域13bを構成するGdFeCoに代わり、SiNから成る非磁性体を形成した磁気記録媒体(以下、「比較サンプル1」と呼ぶ)についても合わせて観察を行った。
作製したサンプル1及び比較サンプル1とは、ともに、高Ku領域13aの半径rを20nm、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅が、最も狭いところで20nmとなるように作製した。
また、観察に先立って、サンプル1と比較サンプル1とは、何れも膜面に垂直な方向に磁界を加えてACイレーズを行い、媒体トータルでの磁化量が0となるようにした。
サンプル1と比較サンプル1とを磁記録顕微鏡(MFM)で観察した結果、比較サンプル1では、高Ku領域13aに形成された記録磁区130が、高Ku領域13aの体積を超えて広がる様子は観察されず、また、当然ながら、2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130も観察されなかった。
一方、サンプル1では、単一の高Ku領域13aに形成された記録磁区130は高Ku領域13aの体積を超えて半径が10nm程度大きくなっている様子が見られ、また、低Ku領域13bを介して2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区も確認できた。
以上のように、実施例1の磁気記録媒体11では、面記録密度を保ちながら高Ku領域13aよりも大きな記録磁区130を形成でき、これによって、漏洩磁界(信号情報)が増加する効果が得られ、記録磁区の体積が増加するので熱揺らぎ耐性を向上できる。
さらに、複数の高Ku領域13aを跨いで同じ向きの磁気情報が記録された場合には、高Ku領域13aの間に存在する低Ku領域13bが、交換結合力によって高Ku領域13aと同じ方向を向き、信号情報となる漏洩磁界が低Ku領域13bからも発生して、信号量が増加するのに加え、隣り合う高Ku領域13a同士を低Ku領域13bが磁気的に繋いで記録磁区の体積を増加させ、熱揺らぎ耐性を格段に向上できる効果が得られる。
さらに、磁性層13を高Ku領域13aの材料又は低Ku領域13bの材料のみで構成した媒体では安定保持することの出来ない、微小サイズの記録磁区130を安定保持できる。
以上のような効果は、磁壁131が単一の高Ku領域13aに完全に収まることが無いように磁気記録媒体11に対する記録を行うことで実現できる。なお、実施例1では、磁性層13にTbFeCoとGdFeCoとを組み合わせて用いた例について示したが、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの間で定数Kuが異なっていればどのような磁性材料を用いても構わない。例えば、双方に同じTbFeCoを用い、且つ、組成比を変えることや非磁性金属を添加することによって、定数Kuに違いを持たせたものを適用しても構わない。
(実施例2)
次に、実施例2として、実施の形態1に示した磁気記録媒体11を、図6(a)〜(d)に示した製造工程を用いて作製する例を示す。すなわち、低Ku領域13bの磁性体材料を先に形成した例について示す。
実施例2においても実施例1と同様に、基板12としてSiO2を、磁性層13のうち、高Ku領域13aに実施例1と同じTbFeCoを、低Ku領域13bに実施例1と同じGdFeCoを用いてそれぞれ形成する。高Ku領域13aと低Ku領域13bとの膜厚は実施例1と同様に20nmとする。保護層14、及び潤滑層15についても実施例1と同様にダイヤモンドライクカーボン(DLC)3nmとパーフルオロポリエーテルを骨格とする分子膜を用いる。
図6(a)〜(d)に示した製造工程を用いて作製した実施例2の磁気記録媒体11(以下、「サンプル2」という)と、図6(a)〜(d)に示した製造工程を用いるが、低Ku領域13bのGdFeCoに代えて、非磁性体であるSiNを用いた磁気記録媒体(以下、「比較サンプル2」という)について、実施例1と同様に磁記録顕微鏡(MFM)で観察した。
なお、実施例2における高Ku領域13aの半径rは実施例1と同様に20nm、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅についても実施例1と同様に、最も狭いところで20nmとした。
磁記録顕微鏡(MFM)での観察に先立って、サンプル2と比較サンプル2とは、実施例1と同様に、何れも膜面に垂直な方向に磁界を加えてACイレーズを行い、媒体トータルでの磁化量が0となるようにした。
サンプル2と比較サンプル2とを磁記録顕微鏡(MFM)で観察した結果、実施例1の場合と同様に、比較サンプル2では、高Ku領域13aに形成された記録磁区130が、高Ku領域13aの体積を超えて広がる様子は観察されず、また、当然ながら、2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130も観察されなかった。
一方、サンプル2では、実施例1の場合と同様に、単一の高Ku領域13aに形成された磁区は高Ku領域13aの体積を超えて半径で10nm程度大きくなっている様子が見られ、また、低Ku領域13bを介して2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130も確認できた。
以上のように、実施例の磁気記録媒体11では、図6(a)〜(d)に示したような低Ku領域13bを高Ku領域13aに先立って形成する方法であっても、実施例1と同じ効果が得られることが確認できた。
(実施例3)
次に、実施例3では、実施の形態2に示した磁気記録媒体21の一例として図8(a)〜(c)の製造工程を用いて作製する磁気記録媒体21について示す。
実施例3では、基板12としてSiO2を用い、表面に有機物層22を形成する。有機物層22の形成に際しては、シランカップリング剤であるオクタデシルトリエトキシシランをトルエンに質量比20%の濃度で溶かした溶液中に基板12を浸し、溶液をスタイラーで攪拌しながら室温で2時間放置した後、基板12を溶液から引き上げて一晩乾燥させる。前記有機物層22の膜厚は1nm程度で形成される。
ここで、前記基板12上に有機物層22を形成したものと、しなかったもののそれぞれについて、純水を滴下して接触角測定を行ったところ、有機物層22を形成しない場合には、接触角が23°であったのに対し、有機物層22を形成した場合には、接触角が102°であった。すなわち、有機物層22を形成することにより、有機物層22を形成しない場合に比べて基板12表面が高い撥水性を示すことが確認された。
次に、高Ku領域13aに対応する領域の有機物層22について、電子ビーム露光装置を用いて分解除去した後、スパッタ装置に取り付けて磁性層13を形成する。磁性層13(高Ku領域13a及び低Ku領域13b)には実施例1及び2で高Ku領域13aに用いたものと全く同じTbFeCoを用い、Arガス雰囲気中にて膜厚20nmで形成する。磁性層13形成時のArガス圧力は0.4Paとし、TbFeCo合金ターゲットへの投入電力密度は50kW/m2とする。保護層14には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)を膜厚3nmで用い、潤滑層15には、パーフルオロポリエーテルを骨格とする分子膜を用いる。
図16には、実施例3の磁気記録媒体21における低Ku領域13bのTbFeCo(有機物層22上)の室温における磁化曲線を示した。なお、高Ku領域13aの磁化曲線は既に図11に示した通りである。図16に示す磁化曲線は、基板12上全面に有機物層22を形成し、その上に磁性層13を全面形成した試料について、保護層14を形成した上で、振動試料型磁気力計(VSM)を用いて膜面に垂直な方向の磁化曲線を測定したものである。図11に示す試料と図16に示す試料とは、有機物層22の有無を除いては、作製条件ならびに膜厚、組成は全く同じものである。
図11及び図16に示すように、有機物層22上に形成した低Ku領域13bのTbFeCo(図16)は、基板12上に直接形成した高Ku領域13aのTbFeCo(図11)に比べて、磁化曲線の肩の部分がなだらかになっており、保磁力Hcも小さくなっている。
このため、飽和磁化Msと保磁力Hcの積Ms・Hcが高Ku領域13aのTbFeCoよりも小さかった。また、磁化困難軸方向である膜面に平行な方向の磁化曲線を測定して異方性磁界Hkを求め、Ku=Ms・Hk/2の関係を用いて磁気異方性定数Kuを算出したところ、高Ku領域13aに用いるTbFeCo(図11)の定数Kuは8.0×106erg/cm3であったのに対し、低Ku領域13bに用いるTbFeCo(有機物層22上に形成したもの:図16)の定数Kuは5.8×106erg/cm3と高Ku領域13aのTbFeCoよりも小さな値を示した。
これは、高い撥水性を有する有機物層22上に磁性層13が形成されることにより、磁性層13の磁気特性が乱され、磁性層13が元々有する膜面に垂直な方向の異方性を十分に発現出来なくなって、磁気異方性Kuが、有機物層22を形成しない場合(高Ku領域13aのTbFeCo)に比べて小さくなったものと推察される。
なお、前記TbFeCoの異方性磁界Hk導出に際しては、振動試料型磁気力計(VSM)の印加可能磁界が十分ではなく、磁化困難軸方向の測定においてTbFeCoの磁化を飽和させることが出来なかった。このため、磁化困難軸方向の磁化曲線において高磁界領域の測定結果を外挿し、磁化容易軸方向の測定から得られた飽和磁化Msの値に到達する磁界を異方性磁界Hkとした。
前記TbFeCoを磁性層13に用いた磁気記録媒体11について、高Ku領域13aの一つに記録磁区130を形成した場合の磁壁131の振る舞いについて実施例1と同様に式(1)を用いて求めた。
交換スティフネス定数Aは、実施例1と同じ2.4×10−7erg/cmを適用した。式(1)の右辺第1項の外部磁界Hexは0とした。右辺第2項については、記録磁区130に加わる周囲からの浮遊磁界Hdに加えて、記録磁区130の自己減磁界(反磁界)の影響についても計算に入れた。記録磁区130以外の磁性層13については、磁化方向が全て記録磁区130と反対を向いているものとした。
以下、実施例1と同様に、高Ku領域13a内部(以下、「領域1」と呼ぶ)、高Ku領域13aと低Ku領域13bの境界部(以下、「領域2」と呼ぶ)、低Ku領域13b内部(以下、「領域3」と呼ぶ)に分けて説明するが、領域1については、実施例1と同じ結果(図13参照)となるので説明を省略する。
高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)に磁壁131の一部が掛かっている場合には、前記境界部膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在するため、式(1)の右辺第4項の影響が現れる。具体的には、高Ku領域13aから低Ku領域13bに向かう方向に磁壁131を動かそうとする力が働く。
図17は、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部に磁壁131が形成された際に、記録磁区130に加わる磁界Htotalのうち式(1)の右辺第4項に起因する成分を磁界Hbndとし、これを、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界幅(磁壁エネルギーσωの変化幅、すなわち高Ku領域13aと低Ku領域13bとの混成領域幅に相当)に対して示したものである。なお、このときの磁界Hbndの向きは、記録磁区130を拡大させる方向である。
図17に示す範囲、すなわち、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界幅が5nm以下のとき、磁界Hbndは2kOe以上の値を示すことが分かる。この値は、図13に示した磁界Htotalの値と図17に示した磁界Hbndの向きが逆向きであることを考慮すると、半径rが7nm程度の記録磁区130まで保持できることを意味している。
さらに、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界幅を1nm以下まで小さくすれば、磁界Hbndは10kOeを超え、図13に示した磁界Htotalの値と比べると、半径rが4nm以下と極めて小さな記録磁区130も保持することができる。
このように、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)に磁壁131が形成されると、領域1とは異なり、記録磁区130は消滅すること無く、体積を拡大する方向に磁壁131を移動させ、高Ku領域13aよりも大きな体積の記録磁区130が形成されることになる。
実施の形態2に記載の製造方法を用いれば、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界を極めて明瞭に形成できるので、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界幅は数nm以下とすることが可能である。
次に、低Ku領域13b内部(領域3)においては、領域1と同様に膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(1)の右辺第4項は0となる。この領域に磁壁131が形成された場合について、記録磁区130に加わる磁界の大きさ磁界Htotalと記録磁区130の半径rとの関係について、図18に示した。磁界Htotalの向きは、図18に示した半径rの範囲内で式(1)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、領域1と同様に記録磁区130を縮小させる方向である。
図18に示すように、記録磁区130の半径rが8nm以下の範囲では、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131は記録磁区130を縮小させる方向に移動する。
しかしながら、縮小した記録磁区130の磁壁131は、上述の領域2の説明で示したように、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部において、記録磁区130を拡大させる方向の力(図17に示した磁界Hbnd)を受けて高Ku領域13aに入ることができずに停止する。
具体的には、図17に示したように、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界では、記録磁区130を拡大させる方向に磁界Hbndが加わるため、図18に示す領域3で記録磁区130を縮小させようとする磁界Htotalから磁界Hbndを引いた差が、境界部における保磁力Hcを上回らない限りは、領域2に磁壁131が入り込むほど記録磁区130が縮小することは無い。
ここで、磁壁131は記録磁区130と同じ磁化方向から、反対の磁化方向まで磁化が反転していく過渡領域であるので、磁壁131幅の中心よりも記録磁区130に近い領域では、記録磁区130と同じ方向の磁化成分が存在し、この領域からも信号情報となる漏洩磁界が発生する。
なお、式(3)から求められる実施例3の低Ku領域13bにおける磁壁幅δは6.4nmである。従って、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅が磁壁幅δよりも大きい場合には、記録磁区130が形成された高Ku領域13aの周囲の低Ku領域13b内に、前記幅δの磁壁が形成されることになる。
また、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅が磁壁幅δ以下の場合には、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)における磁界Htotalが、磁界Hbndの影響で非常に大きくなっている(高Ku領域13aや低Ku領域13bの保磁力Hcよりも大きい)ために領域2には磁壁131が存在できず、見かけ上、低Ku領域13bに押し出されて、低Ku領域13bと同じ幅の磁壁(幅δよりも狭い磁壁)が高Ku領域13aの間に形成されることになる。
このように、実施例3の磁気記録媒体21では、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界に磁壁131の一部が掛かるか、それ以上の大きさで記録磁区130を形成(記録)することにより、磁壁131が低Ku領域13bに押し出された状態で高Ku領域13aに記録磁区130が保持される。従って、高Ku領域13aの体積よりも大きな記録磁区130が安定に存在できる。このことは、磁気記録媒体11が従来のパターンドメディアと同じ面記録密度を保ちながら、信号情報である漏洩磁界を大きくできることを示している。
更に、実施例3の磁気記録媒体21では、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部において磁壁エネルギーσωの変化が存在することにより、領域2で記録磁区130を拡大させる方向の力が働き、これによって、磁性層13が膜面に平行な方向に1種類の磁性材料で構成された場合に比べて、より小さな記録磁区130を安定保持できる。
ここで実施例3では、記録磁区130以外の周囲の磁性層13については、磁化方向が全て記録磁区130と反対を向いているものとして計算を行っているため、式(1)の右辺第2項で考慮されている周囲磁区からの浮遊磁界Hdは全て記録磁区130を拡大する方向に作用する。
実際の磁気記録媒体21では、両方向の磁化が混在しているため浮遊磁界Hdは記録磁区130を縮小する方向の成分も含むことになると考えられる。しかしながら、実施例3において式(1)の右辺第2項のHdは高々1kOe程度の大きさであり、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部で発生する記録磁区130を拡大させる方向の磁界Hbnd(図17)と比較して小さな値である。
更に、記録磁区130と隣接する記録磁区は必ず記録磁区130と逆向きの磁化を持つ(同じ向きを向くならば記録磁区130と一体となるため)こと、記録磁区130に近い磁区程、浮遊磁界Hdに対する寄与分が大きいことを考えると、1kOe程度の浮遊磁界Hdが極端に減少し、又は、逆方向に強く加わることは無い。
すなわち、実際の磁気記録媒体21で、記録磁区130の向きが混在した場合においても、実施例3の効果は十分に得られる。
実施例3の磁気記録媒体21を図8(a)〜(c)に示した製造方法で実際に作製し(以下、「サンプル3」とよぶ)、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて磁化状態の観察を行った。比較のため、実施例3の磁気記録媒体21において、基板12上に有機物層22を一切形成せずに、磁性層13及び保護層14を形成した磁気記録媒体(以下、「比較サンプル3」と呼ぶ)についても合わせて観察を行った。比較サンプル3は、有機物層22を形成しないため、磁性層13の全域に渡ってサンプル3の高Ku領域13aと同じ磁気特性を示す。
作製したサンプル3及び比較サンプル3は、ともに、高Ku領域13aの半径rを10nm、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅が、最も狭いところで20nmとなるように作製した。
また、観察に先立って、サンプル3と比較サンプル3とは、何れも膜面に垂直な方向に磁界を加えてACイレーズを行い、媒体トータルでの磁化量が0となるようにした。
サンプル3と比較サンプル3とを磁記録顕微鏡(MFM)で観察した結果、サンプル3では、単一の高Ku領域13aに形成された孤立磁区(少なくとも1つ以上の高Ku領域13aと低Ku領域13bとに跨って形成された記録磁区130も含む。)が観察され、且つ、前記孤立磁区は高Ku領域13aの体積を超えて半径で5nm程度大きくなっている様子が見られた。また、低Ku領域13bを介して2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130も確認できた。
一方、比較サンプル3では、サンプル3で見られたような微小サイズの孤立磁区は一切見られず、メイズ状の連続した磁区のみが観察された。前記メイズ状の磁区は小さいものでも幅100nm以上あった。
これは、比較サンプル3では、サンプル3のように、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界が存在しないために、微小なサイズで形成した記録磁区を安定に保持することができず、周囲の記録磁区と結合して大きな記録磁区を形成してしまったものと考えられる。
また、実施例3のサンプル3は実施例1に示した比較サンプル1(低Ku領域13bを非磁性体で形成)の結果と比較しても、低Ku領域13bが磁性体で構成されていることにより、高Ku領域13aに形成された記録磁区130を高Ku領域13aの体積を超えて拡大できる効果が明らかである。
以上のように、実施例3の磁気記録媒体21では、面記録密度を保ちながら高Ku領域13aよりも大きな記録磁区130を形成でき、これによって、漏洩磁界(信号情報)が増加する効果が得られ、記録磁区の体積が増加するので熱揺らぎ耐性を向上できる。
さらに、複数の高Ku領域13aを跨いで同じ向きの磁気情報が記録された場合には、高Ku領域13aの間に存在する低Ku領域13bが、交換結合力によって高Ku領域13aと同じ方向を向き、信号情報となる漏洩磁界が低Ku領域13bからも発生して、信号量が増加するのに加え、隣り合う高Ku領域13a同士を低Ku領域13bが磁気的に繋いで記録磁区の体積を増加させ、熱揺らぎ耐性を格段に向上できる効果が得られる。
さらに、磁性層13を高Ku領域13aの材料又は低Ku領域13bの材料のみで構成した媒体では安定保持することの出来ない、微小サイズの記録磁区130を安定保持できる。以上のような効果は、磁壁131が単一の高Ku領域13aに完全に収まることが無いように磁気記録媒体21に対する記録を行うことで実現できる。
(実施例4)
次に、実施例4では、実施例3と同様に図8(a)〜(c)の製造工程を用いて作製する磁気記録媒体21について示すが、実施例4では実施例3で磁性層13の形成時に用いたArガスに代わり、Arよりも分子量の大きいXeガスを用いた例について示す。
すなわち、磁気記録媒体21は、このように、磁性層13中にXe、又はKrを含んでいることが好ましい。
ここで、高い撥水性を示す有機物を利用した製造方法の場合には、有機物層22上に形成される磁性層13の磁気特性をより大きく変化させると共に、磁気異方性エネルギーを低減させる効果がより顕著になる。
さらに、有機物層22が無い領域に形成される磁性層13の磁気異方性エネルギーを大きくできる。このため、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの磁気特性差がさらに大きくなり、記録磁区130を高Ku領域13aから低Ku領域13bに拡大させる力をさらに強めることができる磁気記録媒体21を提供することが可能となる。
さて、実施例4においても、実施例3と同様に基板12としてSiO2を用い、表面に有機物層22を形成する。有機物層22の形成に際しては、シランカップリング剤であるオクタデシルトリエトキシシランをトルエンに質量比20%の濃度で溶かした溶液中に基板12を浸し、溶液をスタイラーで攪拌しながら室温で2時間放置した後、基板12を溶液から引き上げて一晩乾燥させる。前記有機物層22の膜厚は1nm程度で形成される。
ここで、実施例3と同様に、基板12上に有機物層22を形成したものと、しなかったもののそれぞれについて、純水を滴下して接触角測定を行ったところ、有機物層22を形成しない場合には、接触角が23°であったのに対し、有機物層22を形成した場合には、接触角が102°であった。すなわち、有機物層22を形成することにより、有機物層22を形成しない場合に比べて基板12表面が高い撥水性を示すことが確認された。
次に、高Ku領域13aに対応する領域の有機物層22について、電子線リソグラフィー装置を用いて分解除去した後、スパッタ装置に取り付けて磁性層13を形成する。磁性層13(高Ku領域13a及び低Ku領域13b)には実施例1から3までで、高Ku領域13aに用いたものと同じTbFeCo合金ターゲットを用い、Xeガス雰囲気中にて膜厚20nmで形成する。
磁性層13形成時のXeガス圧力は0.4Paとし、TbFeCo合金ターゲットへの投入電力密度は50kW/m2とする。保護層14には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)を膜厚3nmで用い、潤滑層15には、パーフルオロポリエーテルを骨格とする分子膜を用いる。
図19及び図20には、実施例4の磁気記録媒体21における高Ku領域13aと低Ku領域13bとのTbFeCoの室温における磁化曲線を示した。なお、図19及び図20に示す磁化曲線は、基板12上に直接、磁性層13を形成した試料(高Ku領域13aに相当)と、基板12上に有機物層22を形成し、その上に磁性層13を形成した試料(低Ku領域13bに相当)それぞれについて、個別に作製し、保護層14を形成した上で、振動試料型磁気力計(VSM)を用いて膜面に垂直な方向の磁化曲線を測定したものである。前記2種の試料は、有機物層22の有無を除いては、作製条件ならびに膜厚、組成は全く同じものである。
図19及び図20に示すように、有機物層22上に形成した低Ku領域13bのTbFeCo(図20)は、基板12上に直接形成した高Ku領域13aのTbFeCo(図19)に比べて、磁化曲線の肩の部分がなだらかになっており、保磁力Hcも小さくなっている。このため、飽和磁化Msと保磁力Hcの積Ms・Hcが高Ku領域13aのTbFeCoよりも小さかった。
一方、磁化困難軸方向である膜面に平行な方向の磁化曲線を測定して異方性磁界Hkを求め、Ku=Ms・Hk/2の関係を用いて磁気異方性定数Kuを算出したところ、高Ku領域13aに用いるTbFeCo(図19)の定数Kuは1.0×107erg/cm3であり、実施例3で示した高Ku領域13aの値よりも大きくなった。
これに対し、低Ku領域13bに用いるTbFeCo(有機物層22上に形成したもの、図20参照)の定数Kuは4.2×106erg/cm3と高Ku領域13aのTbFeCoよりも小さく、且つ、実施例3で示した低Ku領域13bの値よりも小さくなった。すなわち、実施例4の磁性層13においては、高Ku領域13aと低Ku領域13bの定数Kuの差が実施例3よりも大きくなった。
実施例4において、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの定数Kuの差が実施例3よりも大きくなる理由は明らかではないが、低Ku領域13bの定数Kuの値が実施例3での値よりも小さくなる理由として、以下のようなことが考えられる。
実施例4では、磁性層13の形成時に実施例3よりも分子量の大きいXeガスを用いており、Arガスを用いた場合と同じ投入電力でスパッタリングを行った場合であっても、ターゲットに衝突する分子の運動エネルギーはArガスよりも大きくなる。
このような高エネルギーの分子によって叩き出されたTbFeCo粒子は、高い撥水性を示す有機物層22に対してArガスを用いた場合よりも高い運動エネルギーで衝突することになる。
このため、TbFeCoが有機物層22と混ざり合うことによってArガスを用いた場合よりも磁性が弱くなり(異方性が小さくなり)、定数Kuの値が小さくなっている可能性が考えられる。又は、高撥水状態の有機物層22表面に高エネルギーのTbFeCo粒子が衝突することで、TbFeCo初期層がより大きな接触角で有機物層22上に形成され、膜面に対して垂直方向に異方性が発現するTbFeCoにおいて、基板12の面直方向からの異方性の分散が大きくなり、定数Kuの値が小さくなっている可能性が考えられる。
このように実施例4では、有機物層22の影響が実施例3よりもより強く現れ、TbFeCoの膜面に垂直な方向の磁気異方性がより強く乱されて、実施例3の低Ku領域13bよりも磁気異方性定数Kuが小さくなっていることが考えられる。
なお、前記TbFeCoの異方性磁界Hk導出に際しては、振動試料型磁気力計(VSM)の印加可能磁界が十分ではなく、磁化困難軸方向の測定においてTbFeCoの磁化を飽和させることが出来なかった。このため、磁化困難軸方向の磁化曲線において高磁界領域の測定結果を外挿し、磁化容易軸方向の測定から得られた飽和磁化Msの値に到達する磁界を異方性磁界Hkとした。
TbFeCoを磁性層13に用いた磁気記録媒体について、高Ku領域13aの一つに記録磁区130を形成した場合の磁壁131の振る舞いについて実施例1及び3と同様に式(1)を用いて求めた。
交換スティフネス定数Aは、実施例1と同じ2.4×10−7erg/cmを適用した。式(1)の右辺第1項の外部磁界Hexは0とした。右辺第2項については、記録磁区130に加わる周囲からの浮遊磁界Hdに加えて、記録磁区130の自己減磁界(反磁界)の影響についても計算に入れた。記録磁区130以外の磁性層13については、磁化方向が全て記録磁区130と反対を向いているものとした。
以下、実施例1及び3と同様に、高Ku領域13a内部(領域1)、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)、低Ku領域13b内部(領域3)に分けて説明する。
まず、磁壁131が高Ku領域13a内部(領域1)に存在する場合、言い換えれば、記録磁区130が一つの高Ku領域13a内に完全に収まっている場合について説明する。この場合には、膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(1)の右辺第4項は0となる。
図21には、磁壁131が、高Ku領域13a内部(領域1)に存在する場合に、記録磁区130に加わる磁界Htotalを記録磁区130の半径rに対して示した。図21には、磁化曲線から得られた実施例4の高Ku領域13a(TbFeCo)の保磁力Hcの値についても合わせて示した。
図21において、磁界Htotalが保磁力Hcを上回る範囲では、磁壁131の移動が起こることを意味する。図21において、磁界Htotalの向きは、図21に示した半径rの範囲内で式(1)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、記録磁区130を縮小させる方向である。
図21から、記録磁区130の半径rが8nm以下になると、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131が記録磁区130を縮小させる方向に移動することで、記録磁区130が消滅してしまうことが分かる。
このことは、実施例4の磁気記録媒体21において、高Ku領域13aの半径rが8nm以上で形成され、且つ、高Ku領域13aの内部に磁壁131が完全に収まるように半径rが8nm以下の記録磁区130が形成されてしまうと、記録磁区130は消滅してしまうことを意味する。
従って、実施例4の磁気記録媒体21において、記録磁区130の消滅を防ぐためには、高Ku領域13aの半径rを8nm未満で形成するか、8nm以上で形成する場合には、磁壁131が高Ku領域13a内に完全に収まってしまうことが無いように記録する必要がある。
次に、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)に磁壁131の一部が掛かっている場合には、前記境界部で膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在するため、式(1)の右辺第4項の影響が現れる。具体的には、高Ku領域13aから低Ku領域13bに向かう方向に磁壁131を動かそうとする力が働く。
図22は、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部に磁壁131が形成された際に、記録磁区130に加わる磁界Htotalのうち式(1)の右辺第4項に起因する成分を磁界Hbndとし、これを、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界幅(磁壁エネルギーσωの変化幅、すなわち高Ku領域13aと低Ku領域13bの混成領域幅に相当)に対して示したものである。
なお、このときの磁界Hbndの向きは、記録磁区130を拡大させる方向である。図22には、実施例3の高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部における磁界Hbndについても合わせて示した。
図22に示す範囲、すなわち、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界幅が5nm以下の範囲では、磁界Hbndは実施例3よりも大きな6kOe以上の値を示すことが分かる。この値は、図21に示した磁界Htotalの値と、図22に示した磁界Hbndの向きが逆向きであることを考慮すると、半径rが5nm程度の記録磁区130まで、安定に保持できることを意味している。
さらに、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界幅を1nm以下まで小さくすれば、磁界Hbndは30kOeを超え、図21に示した磁界Htotalの値と比べると、半径rが2nm以下と極めて小さな記録磁区130も保持することができる。
実施の形態2に記載の製造方法を用いれば、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界を極めて明瞭に形成できるので、磁壁エネルギーσωの変化幅(混成領域幅)は数nm以下とすることが可能である。
このように、実施例4の磁気記録媒体21では、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部で磁壁エネルギーσωの変化に起因して生じる磁界Hbndを実施例3よりも大きくすることができ、実施例3よりも小さな記録磁区130を安定保持できる。
次に、低Ku領域13b内部(領域3)においては、領域1と同様に膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(1)の右辺第4項は0となる。
この領域に磁壁131が形成された場合について、記録磁区130に加わる磁界の大きさ磁界Htotalと記録磁区130の半径rとの関係を図23に示した。磁界Htotalの向きは、図23示した半径rの範囲内で式(1)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、領域1と同様に記録磁区130を縮小させる方向である。
図23に示すように、記録磁区130の半径rが7nm以下の範囲では、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131は記録磁区130を縮小させる方向に移動する。
しかしながら、実施例3と同様に縮小した記録磁区130の磁壁131は、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部において、記録磁区130を拡大させる方向の力(図22に示した磁界Hbnd)を受けて高Ku領域13aに入ることができずに停止する。
具体的には、図22に示したように、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界では、記録磁区130を拡大させる方向に磁界Hbndが加わるため、図23に示す領域3で記録磁区130を縮小させようとする磁界Htotalから磁界Hbndを引いた差が、境界部における保磁力Hcを上回らない限りは、領域2に磁壁131が入り込むほど記録磁区130が縮小することは無い。
ここで、磁壁131は記録磁区130と同じ磁化方向から、反対の磁化方向まで磁化が反転していく過渡領域であるので、磁壁131幅の中心よりも記録磁区130に近い領域では、記録磁区130と同じ方向の磁化成分が存在し、この領域からも信号情報となる漏洩磁界が発生する。
なお、式(3)から求められる実施例4の低Ku領域13bにおける磁壁幅δは8.4nmである。従って、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅が、磁壁幅δよりも大きい場合には、記録磁区130が形成された高Ku領域13aの周囲の低Ku領域13b内に、前記幅δの磁壁が形成されることになる。
また、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅が磁壁幅δ以下の場合には、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部(領域2)における磁界Htotalが、磁界Hbndの影響で非常に大きくなっている(高Ku領域13aや低Ku領域13bの保磁力Hcよりも大きい)ために前記境界部には磁壁131が存在できず、低Ku領域13bと同じ幅の磁壁(幅δよりも狭い磁壁)が高Ku領域13aの間に形成されることになる。
このように、実施例4の磁気記録媒体21では、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界に磁壁131の一部が掛かるか、それ以上の大きさで記録磁区130を形成(記録)することにより、磁壁131が低Ku領域13bに押し出された状態で高Ku領域13aに記録磁区130が保持される。
このとき、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの定数Kuの差が実施例3よりも大きいので磁壁エネルギーσωの差が大きくなり、磁壁131を低Ku領域13bに押し出す力がより強く働くことになる。
従って、実施例3の磁気記録媒体21よりも小さな記録磁区130を安定保持できる。更に、高Ku領域13aのKuが実施例3の高Ku領域13aのKuよりも大きいので、記録磁区130の熱揺らぎに対する耐性をさらに高められる。
ここで実施例4では、記録磁区130以外の周囲の磁性層13については、磁化方向が全て記録磁区130と反対を向いているものとして計算を行っているため、式(1)の右辺第2項で考慮されている周囲磁区からの浮遊磁界Hdは全て記録磁区130を拡大する方向に作用する。
実際の磁気記録媒体21では、両方向の磁化が混在しているため浮遊磁界Hdは記録磁区130を縮小する方向の成分も含むことになると考えられる。しかしながら、実施例4において式(1)の右辺第2項の浮遊磁界Hdは高々1kOe程度の大きさであり、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部で発生する記録磁区130を拡大させる方向の磁界Hbnd(図22)と比較して小さな値である。
更に、記録磁区130と隣接する記録磁区は必ず記録磁区130と逆向きの磁化を持つ(同じ向きを向くならば記録磁区130と一体となるため)こと、記録磁区130に近い磁区程、浮遊磁界Hdに対する寄与分が大きいことを考えると、1kOe程度の浮遊磁界Hdが極端に減少し、又は、逆方向に強く加わることは無い。すなわち、実際の磁気記録媒体21で、記録磁区の向きが混在した場合においても、実施例4の効果は十分に得られる。
実施例4の磁気記録媒体21について実際に作製し(以下「サンプル4」と呼ぶ)、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて観察を行った。作製したサンプル4は、実施例3のサンプル3と同様に高Ku領域13aの半径rを10nm、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅が、最も狭いところで20nmとなるように作製した。
また、観察に先立って、サンプル4は、膜面に垂直な方向に磁界を加えてACイレーズを行い、媒体トータルでの磁化量が0となるようにした。
サンプル4を磁記録顕微鏡(MFM)で観察した結果、単一の高Ku領域13aに形成された孤立磁区が観察され、且つ、前記孤立磁区は高Ku領域13aの体積を超えて半径で5nm程度大きくなっている様子が見られた。
また、低Ku領域13bを介して2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130(以下、少なくとも1つ以上の高Ku領域13aを含んで拡大した記録磁区130などのように、閉じた領域である記録磁区のことを孤立磁区と呼ぶ場合がある。)も確認できた。さらに、実施例3のサンプル3との比較を行うため、記録磁区130の磁化方向と逆向きに、膜面に垂直な方向に直流磁界を印加し、前記単一の高Ku領域13aに形成された孤立磁区が消滅する磁界の大きさについて調べた。
その結果、実施例3のサンプル3では、3kOeの直流磁界印加後に測定したMFM像で、前記孤立磁区が観察できなくなったのに対し、実施例4のサンプル4では、高Ku領域13aは、保磁力Hcに近い7kOeの印加磁界まで孤立磁区が確認できた。
このように、実施例4の磁気記録媒体21は、実施例3に示した効果に加え、微小な記録磁区を外乱に対して安定保持できるとともに、熱揺らぎに対する耐性の高い磁気記録媒体21を提供できる。
以上のような効果は、磁壁131が単一の高Ku領域13aに完全に収まることが無いように磁気記録媒体21に対する記録を行うことで実現できる。なお、実施例4で用いたXeガスと同様に、Arガスよりも分子量が大きいKrガスを用いて磁性層13を形成した場合についても検討したところ、Krガスを用いた場合にも、高Ku領域13aと低Ku領域13bの定数Kuの差がArガスを用いた場合よりも大きくなり、高Ku領域13aのKuが、Arガスを用いた場合の高Ku領域13aの定数Kuよりも大きくなる結果が得られた。
このことは、Krガスを用いた場合でも高Ku領域13aと低Ku領域13bとの境界部で生じる磁界Hbndを、Arガスを用いた場合(実施例3)よりも大きく出来、実施例3の磁気記録媒体21よりも小さな記録磁区130を安定に保持できる効果が得られることを示すとともに、熱揺らぎに対する耐性も高い磁気記録媒体21を提供できることを示している。
(実施例5)
つぎに、実施例5では、実施例1に示した磁気記録媒体11において、高Ku領域13aについてはTbFeCoに代わって、TbFeCoと同様に膜面に垂直な磁化を有するFeNiPtを用い、低Ku領域13bについてはGdFeCoに代わって、面内磁化を有する非晶質磁性体であるCoFeBを用いた場合について示す。
実施例5の磁気記録媒体11の材料、製造方法は、磁性層13及び保護層14の部分を除いて実施例1の磁気記録媒体11と同じものである。磁性層13の製造に当たっては、まず、高Ku領域13aとしてFeNiPtを基板12上にスパッタ装置を用いてArガス雰囲気中で形成する。
具体的には、0.07PaのArガス雰囲気中で投入電力密度を80kW/m2で形成する。このときの膜厚は20nmとする。前記FeNiPt薄膜を、水素ガスを含むArガス中で750℃2時間アニールを行うことで膜面に垂直な磁気異方性を付与する。
続いて、保護層14としてダイヤモンドライクカーボン(DLC)を膜厚3nm形成した後、図5(c)に示すように高Ku領域13aの削り出しを行う。このときの高Ku領域13aの半径rを20nm、高Ku領域13aに挟まれた低Ku領域13bの幅が、最も狭いところで20nmとなるようにする。
続いて、CoFeBからなる低Ku領域13bを膜厚が20nmになるように形成し、図5(d)に示すように保護層14の形成、レジスト膜17の除去を行った後、潤滑層15を塗布して磁気記録媒体11を完成する。
実施例5における高Ku領域13aのFeNiPtは、膜面に垂直な方向の保磁力が8kOe、定数Kuが1.1×107erg/cm3の垂直磁化膜であった。また、低Ku領域13bのCoFeBは面内方向の保磁力Hcが20Oe、定数Kuが4.2×105erg/cm3の面内磁化膜であった。
実施例5の磁気記録媒体11について、実施例1〜4と同様に振動試料型磁気力計(VSM)によるACイレーズを行った後、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて磁区観察を行った。
その結果、実施例5の磁気記録媒体11においても高Ku領域13aの単一の高Ku領域13aに形成された記録磁区130は高Ku領域13aの体積を超えて半径で10nm程度大きくなっている様子が見られ、また、低Ku領域13bを介して2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130も確認できた。
実施例5で低Ku領域13bに用いたCoFeBは面内磁化膜であるが、垂直方向に強い異方性を持つFeNiPtと接して形成されたことにより、交換結合力によって磁化が膜面に垂直な方向に立ち上がり、前記のように記録磁区130を拡大させる効果が得られたものと考えられる。
このように、磁気記録媒体11においては、低Ku領域13bに用いる磁性体は面内磁化膜でも構わない。実施例5の低Ku領域13bに用いたCoFeBは非晶質材料であって磁壁移動を妨げる要因となる粒界や結晶構造の内部変化が存在しないため、前記の記録磁区の体積拡大や、2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130の形成を確認できた。
(実施例6)
実施例6では、実施例1に示した磁気記録媒体11において、高Ku領域13aについては実施例1に用いたものと同じTbFeCoを、低Ku領域13bについてはGdFeCoに代わって非晶質の希土類遷移金属合金であるTbFeを用いた場合の例について示す。
実施例6の磁気記録媒体11のこれ以外の材料及び製造方法は、実施例1の磁気記録媒体11と全く同じである。
実施例6における低Ku領域13bのTbFeは、TbFeCoと同じく膜面に垂直な方向に磁化容易軸を有し、定数Kuが3.6×106erg/cm3と、高Ku領域13aのTbFeCoよりも低い値であった。
実施例6の磁気記録媒体11について、実施例1〜5と同様に振動試料型磁気力計(VSM)によるACイレーズを行った後、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて磁区観察を行った。
その結果、高Ku領域13aの単一の高Ku領域13aに形成された記録磁区130は高Ku領域13aの体積を超えて半径で5nm程度大きくなっている様子が見られ、また、低Ku領域13bを介して2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130も確認できた。
(実施例7)
実施例7では、実施例1に示した磁気記録媒体11において、高Ku領域13aについては実施例1に用いたものと同じTbFeCoを、低Ku領域13bについては、高Ku領域13aに用いたTbFeCoに非磁性材料であるAlを添加したTbFeCoAlを用いた場合の例について示す。
実施例7の磁気記録媒体11のこれ以外の材料及び製造方法は、実施例1の磁気記録媒体11と全く同じである。
実施例7における低Ku領域13bのTbFeCoAlは、TbFeCoと同じく非晶質であり、膜面に垂直な方向に磁化容易軸を有し、定数Kuが5.2×106erg/cm3と、高Ku領域13aのTbFeCoよりも低い値であった。
実施例7の磁気記録媒体11について、実施例1〜6と同様に振動試料型磁気力計(VSM)によるACイレーズを行った後、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて磁区観察を行った。
その結果、高Ku領域13aの単一の高Ku領域13aに形成された記録磁区130は高Ku領域13aの体積を超えて5nm程度大きくなっている様子が見られ、また、低Ku領域13bを介して2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130も確認できた。このように、磁性層13に高Ku領域13aの磁性材料に非磁性材料を添加して、定数Kuを小さくし、低Ku領域13bの材料として適用することが可能である。
(実施例8)
実施例8では、実施例1に示した磁気記録媒体11において、高Ku領域13aについて、実施例1に用いたTbFeCoに変えてTbFeCoと同じく希土類遷移金属合金であるDyFeCoを、低Ku領域13bについては、実施例1に用いたものと同じGdFeCoを用いた場合の例について示す。
実施例8の磁気記録媒体11のこれ以外の材料及び製造方法は、実施例1の磁気記録媒体11と全く同じである。
実施例8における高Ku領域13aのDyFeCoは、TbFeCoと同じく非晶質であり、膜面に垂直な方向に磁化容易軸を有し、定数Kuが7.1×106erg/cm3と、低Ku領域13bのGdFeCoよりも高い値であった。
実施例8の磁気記録媒体11について、実施例1〜7と同様に振動試料型磁気力計(VSM)によるACイレーズを行った後、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて磁区観察を行った。
その結果、高Ku領域13aの単一の高Ku領域13aに形成された記録磁区130は高Ku領域13aの体積を超えて10nm程度大きくなっている様子が見られ、また、低Ku領域13bを介して2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130も確認できた。
(実施例9)
実施例9では、実施例3に示した磁気記録媒体21において、磁性層13を、実施例3に用いたTbFeCoに変えて、TbFeCoと同じ希土類遷移金属合金であるDyFeCoを用いた場合の例について示す。
実施例9の磁気記録媒体21のこれ以外の材料及び製造方法は、実施例3の磁気記録媒体21と全く同じである。
実施例9におけるDyFeCoは高Ku領域13a、低Ku領域13bともに、TbFeCoと同じく非晶質であり、膜面に垂直な方向に磁化容易軸を有していた。高Ku領域13aのDyFeCoは、定数Kuが7.1×106erg/cm3であった。一方、有機物層22上に形成された低Ku領域13bのDyFeCoは、5.3×106erg/cm3と高Ku領域13aのDyFeCoよりも小さな値を示した。
実施例9の磁気記録媒体21について、実施例1〜8と同様に振動試料型磁気力計(VSM)によるACイレーズを行った後、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて磁区観察を行った。
その結果、高Ku領域13aの単一の高Ku領域13aに形成された記録磁区130は高Ku領域13aの体積を超えて5nm程度大きくなっている様子が見られ、また、低Ku領域13bを介して2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130も確認できた。
(実施例10)
実施例10では、実施例4に示した磁気記録媒体21において、磁性層13を、実施例3に用いたTbFeCoに変えて、TbFeCoと同じ希土類遷移金属合金であるDyFeCoを用いた場合の例について示す。言い換えれば、実施例9において、成膜時の導入ガスをArガスからXeガスに変更した例について示す。
実施例10の磁気記録媒体21のこれ以外の材料及び製造方法は、実施例4の磁気記録媒体21と全く同じである。
実施例10におけるXeガスで成膜したDyFeCoは、実施例9と同様に非晶質であり、膜面に垂直な方向に磁化容易軸を有していた。高Ku領域13aのDyFeCoの定数Kuは9.4×106erg/cm3と、実施例9(Arガスで成膜)の高Ku領域13aのDyFeCoよりも大きな値であった。
一方、有機物層22上に形成された低Ku領域13bのDyFeCoの定数Kuは3.8×106erg/cm3と実施例10の高Ku領域13aのDyFeCoよりも小さな値であり、且つ、実施例9の低Ku領域13bのDyFeCoよりもを示した。
実施例10の磁気記録媒体21について、実施例1〜9と同様に振動試料型磁気力計(VSM)によるACイレーズを行った後、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて磁区観察を行った。
その結果、高Ku領域13aの単一の高Ku領域13aに形成された記録磁区130は高Ku領域13aの体積を超えて5nm程度大きくなっている様子が見られ、また、低Ku領域13bを介して2つ以上の高Ku領域13aに跨った連続的な記録磁区130も確認できた。
また、実施例9との比較を行うため、記録磁区130の磁化方向と逆向きに、膜面に垂直な方向に直流磁界を印加し、前記単一の高Ku領域13aに形成された孤立磁区が消滅する磁界の大きさについて調べた。
その結果、実施例9のサンプル3では、3kOeの直流磁界印加後に測定したMFM像で、前記孤立磁区が観察できなくなったのに対し、実施例10のサンプル4では、6kOeの印加磁界まで孤立磁区が確認できた。
このように、実施例10の磁気記録媒体21は、実施例9に示した効果に加え、微小な記録磁区130を外乱に対して安定保持できるとともに、熱揺らぎに対する耐性の高い磁気記録媒体を提供できる。
なお、実施の形態1に関わる実施例(実施例1、2及び5〜8)においては、高Ku領域13aと低Ku領域13bとにそれぞれ異なる材料を用いる例について示したが、この他にも高Ku領域13aと低Ku領域13bとに同一の磁性材料を用い、磁性層形成時のガス種を変更する方法を用いても良い。
具体的には、低Ku領域13bを形成するに当っては、Arガスを用い、高Ku領域13aを形成するに当っては、KrガスやXeガスを用いて形成することにより、異方性の差を導出できる。このような方法は、特にGd、Tb、Dyに代表される希土類金属を含む材料系において好適である。
以上のように、磁気記録媒体11は、磁性層13中にXe、又はKrを含んでいることが好ましい。
ここで、高い撥水性を示す有機物を利用した製造方法の場合には、有機物層22上に形成される磁性層13の磁気特性をより大きく変化させると共に、磁気異方性エネルギーを低減させる効果がより顕著になる。
さらに、有機物層22が無い領域に形成される磁性層13の磁気異方性エネルギーを大きくできる。このため、高Ku領域13aと低Ku領域13bとの磁気特性差がさらに大きくなり、記録磁区130を高Ku領域13aから低Ku領域13bに拡大させる力をさらに強めることができる磁気記録媒体11を提供することが可能となる。
〔実施の形態3〕
本発明のさらに他の実施の形態について図24(a)〜図32に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1及び2と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1及び2の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
図24(a)は、本発明の一実施形態である磁気記録媒体31の構成を示す断面図である。また、図24(b)は、磁気記録媒体31のの平面図である。
図24(a)・(b)に示すように、磁気記録媒体31は、表面に複数の凸部と、前記凸部を囲む凹部とから構成される凹凸構造(基板凹凸構造)を有する基板32と、前記凹凸構造の上に連続的に形成される磁性体33から成るパターンドメディアである。
すなわち、基板32は、基板表面に複数の凸部と前記複数の凸部間の隙間を占める凹部とからなる基板凹凸構造を有している。
磁性層は、前記基板凹凸構造上に連続的に形成された磁性体(磁性層)33から構成されている。この磁性体33は、その磁気特性から2つの部分に分けることができる。
すなわち、詳細は後で詳しく説明するが、上述の高Ku領域13aに相当する領域である高Ku領域(第1領域,記録領域)33aは、基板32の複数の凸部上に形成された磁性体33の部分から構成されている。
一方、上述の低Ku領域13bに相当する領域である低Ku領域(第2領域,非記録領域)33bは、基板32の凹部上に形成された磁性体33の部分から構成されている。
このような構成により、例えば、磁化容易軸を基板表面に垂直な方向とした場合、基板凹凸構造の効果により、基板32の凹部上に形成される磁性体33の部分(低Ku領域33b)の基板表面に垂直な方向の磁気異方性エネルギーを、基板32の凸部上に形成される磁性体33の部分(高Ku領域33a)の基板表面に垂直な方向の磁気異方性エネルギーよりも小さくすることができる。
よって、基板32の凸部上に形成される磁性体33の部分においては熱揺らぎに対して安定な高い磁気異方性エネルギーを有し、且つ、隣接する基板32の凸部上に形成される磁性体33の部分(高Ku領域33a)同士の磁気的な結合力は弱いために、基板32の凸部上に形成される磁性体33の部分のサイズ並びに、以下で説明する基板32の凹部の溝幅を小さくしても、凸部上に形成される磁性体33の部分の磁気情報を個々に独立して安定に保つことができる。
基板32の凸部上に成膜された磁性体33の部分が高Ku領域33aとして基板面S(基板表面)に垂直な方向の磁気異方性定数Kuを有して、記録ビットを形成する。
磁気記録媒体31では、主に高Ku領域33aに情報の記録を行う。一方、基板32の凹部上に成膜された磁性体33の部分は、基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Ku’が、基板32の凸部上に形成された領域の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Kuに比べて小さい低Ku領域33bとなっている。
ここで、基板32の凹部においては、凹部上に形成された磁性体33の部分によって凹部が埋められており、基板凹凸構造上に連続的に形成された磁性体33の基板32と異なる側の磁性体表面には、磁性体凹凸構造が存在しており、磁性体凹凸構造における(磁性体33の表面における)凹凸深さ(磁性体凹凸深さ)t1は、基板凹凸構造における(基板32の表面における)凹凸深さ(基板凹凸深さ)t2未満となっていることが好ましい。すなわち、凹凸深さt2よりも磁性体33表面における凹凸深さt1の方が小さくなっていることが好ましい。
前記構成によれば、基板凹凸構造の影響を受けた、磁性体凹凸構造が存在しており、磁気記録媒体31上から磁気ヘッドを用いて記録再生する場合、凸部上の高Ku領域33aは、凹部上の低Ku領域33bより磁気ヘッドに近くなるために、より低い磁界出力で記録が行え、かつ大きな再生信号が得られる。
また、磁性体凹凸構造における凹凸深さt1は、前記基板凹凸構造における凹凸深さt2未満となっている。
すなわち、凹部が磁性体によって埋められた状態にある。上述のように凹部上の磁性体33の部分の磁気異方性エネルギーが、凸部上に形成された磁性体33の部分の磁気異方性エネルギーよりも小さいために凹部が磁性体33で埋まっていても、凸部上に形成される磁性体33の部分が個々の磁気情報を安定保持できるため、磁性体の表面の凹凸(磁性体凹凸構造)が小さく、ヘッドの浮上安定性が高く、且つ十分な再生信号強度が得られる磁気記録媒体31を提供できる。
また、磁気記録媒体31は、基板32の表面方向における凹部の溝幅t3は、磁性体33の厚み(膜厚)t4の2倍未満であり、かつ基板表面における凹凸深さt2未満であることが好ましい。
前記構成によれば、基板の凹部の溝幅t3が上記のような条件を満たしていることにより、基板の凹部上に形成される磁性体33が、該凹部を埋めながら膜成長していき、その後、前記凹部の対向する側壁上に形成される磁性体33の磁性体表面(基板と異なる側の表面)のそれぞれが、前記凹部内で互いに接触するように膜成長することになる。その結果、基板表面に対して平行な磁化(接触する磁性体表面のそれぞれの磁化の向きは、基板表面に対して平行である。)が混合されるので、基板32の凹部内での基板表面に対して平行な磁気異方性がさらに強い磁気特性を得ることが可能となる。
したがって、基板32の凸部上に形成された記録ビットの情報を基板32の凹部上に形成された磁性体33の部分が転写することがなく、隣接する記録ビット同士が個別の情報をより安定に保持できる。
なお、ここで、図1で示すように、基板32の表面に凹凸構造がある面と反対側のフラットな面を基板面(基板表面)Sと定義している。基板32は、表面に複数の凸部と、凸部を囲む凹部とが形成されている。この基板表面凹凸は、基板32上に形成される磁性体33の凹部上の低Ku領域33bと凸部上の高Ku領域33aとで、磁気異方性の大きさを変化させる役割を持つ。
基板32の材質としては、SiO2、ガラス、Al、及び/若しくは、アルチック(Al2O3・TiC)や、並びに/又はZnO、Al2O3、TiO2、及び/若しくはCrO2、CeO2等の酸化物絶縁体や、SiNなどの窒化物絶縁体、そして、プラスチックなどを用いることができる。半導体基板を用いても良い。なお、基板32は凹凸構造を形成できれば良く、前記の材質にこだわらなくてもよい。
磁性体33は、基板32上に高Ku領域33a、及び低Ku領域33bとして連続的に形成される。磁性体33を構成する磁性材料は、現在の磁気記録媒体で一般的に用いられている磁性材料を使用できる。
例えば、高Ku領域33a及び低Ku領域13bは、非晶質の磁性材料で形成されていることが好ましい。
前記構成によれば、結晶質の金属材料を磁性体33に用いる場合に比べて、格子欠損や記録ビット中での意図しない結晶方位の変化等によって、磁気記録媒体31中の個々の記録ビットの磁気特性分散を生じることなく、各ビットが同等の磁気特性を示すことから、安定な性能の磁気記録媒体31を提供するのに好適である。
また、高Ku領域33aと低Ku領域33bとがともに非晶質材料で形成されているため、結晶質の磁性材料で形成された場合に比べて、高Ku領域33a中及び低Ku領域33b中の磁気特性を均一にできる。このため磁性層全域に渡る記録磁区130の磁壁移動が効率良く実現できるので、記録磁区130の拡大がスムーズに行われ、記録磁区130をより効率的に大きくできる。
また、非晶質の磁性材料は、希土類金属と遷移金属とを含むフェリ磁性体であることが好ましい。すなわち、3d遷移金属であるCoやFeを基体とし、これにNi、Cr、Pt、Ta、Pd、Si、O、B等の元素を加えた磁性体33を用いることができる。さらには、3d遷移金属であるCo、FeとNd、Sm、Gd、Ho、Tb、Dy等の希土類金属との合金を用いることができる。Tb、Fe、Coの合金は高い垂直磁気異方性エネルギーを得られるので、磁気記録媒体31として用いるのに好適である。
加えて、前記希土類金属とCo、Feとの合金ではアモルファス金属となることから、結晶質の金属材料を磁性体33に用いる場合に比べて、格子欠損や記録ビット中での意図しない結晶方位の変化等によって、磁気記録媒体31中の個々の記録ビットにおける磁気特性分散を生じることなく、各ビットが同等の磁気特性を示すことから、安定な性能の磁気記録媒体31を提供するのに好適である。
前記構成によれば、キュリー温度を比較的低くしながら室温での保磁力を大きくできるため、光又は熱と磁界とを利用して磁気情報を記録する光(熱)アシスト磁気記録方式に好適な磁気記録媒体31を提供することができる。
以上のように、フェリ磁性体は、Gd、Ho、Tb、及びDyの中から選択される少なくとも1つ以上の希土類金属と、Fe及びCoから選択される少なくとも1つ以上の3d遷移金属とを含んでいることが好ましい。
すなわち、重希土類金属であるGd、Ho、Tb、及びDyとの合金では互いの磁化が反平行に揃うフェリ磁性体となり、合金組成を調整して室温近傍に補償点を設定することができるので、記録情報を安定に保持できるとともに、キュリー温度を比較的低く設定できるため、光(熱)アシスト磁気記録に好適な磁気記録媒体31を提供できる。
ところで、基板32上に連続的に磁性体33が形成された磁気記録媒体31に記録された記録ビットの大きさや形状は、記録密度や信号品質に直接関連していることが知られている。そして、連続磁性膜中に記録ビットがどのような大きさで存在できるかは、磁壁にかかる磁界と、記録ビットに加わる磁界が関係しており、次のB.G.Huthの等式で表すことができる。
Hc=│Hex+Hd−σω/2rMs−δσω/δr(1/2Ms)│・・式(4)
ここで、Hcは保磁力、Hexは外部磁界、Hdは浮遊磁界(反磁界を含めている場合もある。)、Msは飽和磁化、rは記録ビット半径である。
また、磁壁エネルギーσωは、
σω=4(A・Ku)(1/2)・・・式(5)で表される。
ここで、定数Aは、交換スティフネスであり、定数Kuは、磁気異方性定数である。式(4)右辺の第一項、及び第二項はそれぞれ記録ビットを拡大しようとする磁界であり、第三項、及び第四項は記録ビットを縮小しようとする磁界である。これらと、式(4)左辺の保持力Hcがバランスをとるrが記録ビットの安定半径となる。
ここで、磁壁部分の垂直磁気異方性エネルギーを記録ビット部分の垂直磁気異方性エネルギーより小さくすると、式(5)で示される磁壁エネルギーσωが小さくなり、式(4)の記録ビットを縮小しようとする磁界の項であるσω/2rMsが小さくなる。従って、より小さな記録ビット半径で記録ビットを安定化させることができる。
つまり、磁気記録媒体の記録ビットとなる磁性体の垂直磁気異方性エネルギーを大きい値に維持しつつ、記録ビットと記録ビットの間における磁壁の磁性体の垂直磁気異方性エネルギーを小さくすることができれば、記録ビットを孤立させて、小さな記録ビットを独立して安定的に情報を記録できる。
これを実現するために、基板32に、記録ビット間に相当する部分に凹形状を形成し、記録ビットに相当する部分はフラットな平面になるよう、凹凸構造を形成する。そして、前記凹形状が、記録ビット間の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性を低減する効果を導出する。
すなわち、基板32上に凹形状が存在することで、基板凹部上に形成される磁性体33の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性が小さくなり、基板凸部上に形成される磁性体33が記録ビットとして磁気的に孤立し、小さな記録ビットを独立して安定的に情報を記録できる。このとき、基板凸部上に形成される磁性体33は高Ku領域33aとして基板面Sに垂直な方向の磁気異方性を有し、熱揺らぎに耐性を持つ。
ここで、基板32の凹形状によって磁性体33の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性が低減する効果について以下に説明する。
図25、及び図26には、それぞれ、実施の形態3の磁気記録媒体31の基板32の凸部上に形成される磁性体33の磁化状態を再現すべく平坦なガラス基板上に磁性体33を形成し、その磁気特性を測定した結果を示す。なお、ここでは、磁性体33としてTbFeCoを膜厚20nmで形成し、酸化防止のためAlNを2nm続けて形成した。磁化測定は、VSM(振動試料型磁力計)を用いて室温で測定を行った。図25には、基板面Sに対して垂直方向に磁場を印加した測定結果を表し、図26には面内方向に磁場印加した測定結果をそれぞれ示した。
一方、図27及び図28には凹部の側壁上に形成される磁性体33の磁化状態を再現すべく平坦なガラス基板を、ターゲットカソードと対向する面に対し垂直に立てた状態で磁性体33を成膜し、その磁気特性を測定した結果を示す。
ここで、図27は前記平坦なガラス基板の面内方向、すなわち図24(a)に示した基板32における基板面Sに対して垂直方向に磁場を変化させた時の磁化過程を示した。また、図28には前記平坦なガラス基板の垂直方向、すなわち、図24(a)に示した基板32上における基板面Sに対して面内方向に磁場を変化させた時の磁化過程を示した。
また、比較例として、図29のように、本実施形態の磁気記録媒体31において、基板32の表面に凹凸構造を形成せず、フラットな基板32上に磁性体33を形成した磁気記録媒体71を考える。比較例の場合、磁性体33の磁化の磁場依存性は、基板32に凹凸構造が無いので磁性体全域で図25(基板面Sに対して垂直方向)及び図26(基板面Sに対して面内方向)に示した磁気特性と同じ磁気特性を示す。
ここで、図25、及び図28より、磁気記録媒体31と比較例の磁気記録媒体71の、基板面Sに垂直な方向の磁気異方性エネルギーを比較する。
一軸異方性を有する磁性体の磁気異方性定数Kuは、困難軸方向の磁化測定から、異方性磁界Hkを求め、飽和磁化Msとの積を2で割ることで導出される。ここで、異方性磁界Hkは磁化が飽和するときの磁場の値である。
磁気記録媒体31の高Ku領域33aや比較例の磁性体33では、図25及び図26に示す通り、基板面Sに対して垂直方向に強い磁気異方性を示した容易軸を有し、基板面Sに対して面内方向に困難軸を有する。なお、図26で示すように、今回の測定では20kOeまでしか磁場を印加できなかった。
そのため、磁化が飽和する異方性磁界Hkを測定することができなかったが、これはすなわち、異方性磁界Hkが20kOe以上であることを意味している。
一方、磁気記録媒体31の低Ku領域33bでは、図27及び図28に示す通り、何れの方向から測定しても20kOe以上の印加磁場で磁化が飽和しており、明らかに低Ku領域33bの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Ku’が、高Ku領域33aと比較例の磁気記録媒体71の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Kuより小さいことがわかる。
ここで、表面に凹状形状を有した基板32に磁性体33を成膜するときの、磁性体33の膜成長の様子を図30で示す。なお、図30に示す矢印は基板32表面各所における磁性体33の成長方向を示している。
図30に示すように、凹部においては、底面と、側面とにそれぞれ磁性体33が成膜され、それぞれが、成膜が進むに従って膜厚を増して行く。このため、凹部が磁性体33に埋められた状態(凹凸深さt1<凹凸深さt2)になったとき、凹部上には凹部の側壁から成長した磁性体33、すなわち、磁気異方性エネルギーが凸部上に形成された磁性体33よりも小さな磁性体33が存在することになる。
このような磁気異方性エネルギーの小さな磁性体の上に引き続いて形成される磁性体は、下地の磁性体の磁気特性を引きずって、磁気異方性エネルギーが小さくなるため、凹部上に形成された磁性体33のトータルの磁気異方性エネルギーは、凸部上に形成された磁性体33の磁気異方性エネルギーよりも小さくなる。
以上のことから、B.G.Huthの式(4)より、磁気記録媒体31の低Ku領域33bの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Ku’が小さくなることで、式(5)で示される磁壁エネルギーσωが小さくなり、記録ビットを小さくしようとする力が比較例と比べて小さくなる。
この力は式(5)のσω/rの項であり、磁気記録媒体31の低Ku領域33bに小さな基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Ku’を持つことにより、より小さな記録ビットを安定させることができることがわかる。加えて、高Ku領域33aでは基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Kuが比較例の磁気記録媒体71と変わらず、基板面Sに垂直な方向の強い磁気異方性を示すことから、熱揺らぎ耐性の強い磁気記録媒体31を提供することができる。
このように、本実施形態の磁気記録媒体31は、磁性体33を基板32上に高Ku領域33a、及び低Ku領域33bとして連続的に形成し、低Ku領域33bの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Ku’を、高Ku領域33aの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Kuより小さくすることで、高Ku領域33aと低Ku領域33bとの間で物理的な溝や磁気的な断絶を必要としない。
つまり、特許文献4に開示されたパターンドメディアのように、基板32の凹凸を反映した磁性体33の凹凸構造を形成する必要がなく、特許文献5に開示されたディスクリート・トラックメディアのように、低Ku領域33bの凹部側面に形成されたそれぞれの磁性体33が凹状構造を保つ必要が無い。
特許文献4及び特許文献5においては、図53に示す、磁性体103の凹部で基板面Sに垂直な方向の磁気異方性エネルギーが小さくなることに関して、一切触られておらず、凹部が磁性体103に埋められても良いことは到底想定できるものではない。
さらに、本実施形態の磁気記録媒体31は、基板凹部の溝幅t3が高Ku領域33aの磁性体33の膜厚t4の2倍より小さく、且つ、基板表面における凹凸深さt2未満であることが好ましい。
基板凹部両側面から成長した磁性体33の膜が互いに接触し、これによって基板凹部が埋められることからさらなる効果を生じる。これについて以下に説明する。
基板32の凹部の溝幅t3が上記のような条件を満たしていることにより、基板32の凹部上に形成される磁性体33が、該凹部を埋めながら膜成長していき、その後、前記凹部の対向する側壁上に形成される磁性体33の磁性体表面(基板32と異なる側の表面)のそれぞれが、前記凹部内で互いに接触するように膜成長することになる。その結果、基板表面に対して平行な磁化(接触する磁性体表面のそれぞれの磁化の向きは、基板表面に対して平行である。)が混合されるので、基板の凹部内での基板表面に対して平行な磁気異方性がさらに強い磁気特性を得ることが可能となる。
したがって、基板の凸部上に形成された記録ビットの情報を基板の凹部上に形成された磁性体の部分が転写することがなく、隣接する記録ビット同士が個別の情報をより安定に保持できる。
本実施形態の磁気記録媒体31では、図27、及び図28の磁化測定結果から、凹部に形成された磁性体33が飽和磁化に達する磁場は、基板面Sに垂直な方向(図27)と平行な方向(図28)で、それぞれ11kOe、9kOeであることから、基板32の凹部上に形成された磁性体33は、基板面Sに対して垂直な方向よりも面内の方向に強い異方性を有することが分かる。
ここで、特許文献4及び特許文献5の磁気記録媒体101の断面図を図53に示す。特許文献4及び特許文献5では、図53で示すように、基板102の凹部側面に形成されたそれぞれの磁性体103が向かい合った基板102の凹部側面から図30に示したようにそれぞれ垂直方向に膜成長し、そして、凹形状に沿って欠如無く均一な膜厚で積層し、基板102の凹部上に形成される磁性体103が互いに接触していない磁気記録媒体101が開示されている。
なお、特許文献4及び特許文献5では、基板101と記録層となる磁性体103の間に軟磁性層(不図示)を挟んだ構造となっているが、軟磁性層の形状が基板102の形状と同様に凹凸構造となるため軟磁性層を省略し図示していない。
ここで、基板102の凸部上に形成される磁性体103を凸部領域103aとし、基板凹部側面に形成される磁性体103を凹部領域103bと定義する。特許文献4及び特許文献5の磁気記録媒体101は、凸部領域103aが凹部領域103bを経由して、隣の凸部領域103aへと連続的に繋がっている構造となっている。
つまり、基板102の凹部側面に形成された磁性体103は、図27、及び図28で示したように基板面Sに対して平行な磁気異方性が強い特性であるので、基板102の凸部上に形成された凸部領域103aの情報を基板102の凹部上に形成された凹部領域103bの磁性体103が転写してしまう虞があり、本実施形態の磁気記録媒体31と比べて、隣接する凸部領域103a同士が個別の情報を安定保持することが難しい。
これは、図31(a)で示すように、下地の凹凸構造を反映した磁性体103の凹凸構造を直線状にのばして考えると理解しやすい。なお、矢印は磁気異方性の向きを表している。ここで、特許文献4及び特許文献5の磁気記録媒体101を、基板面Sに垂直な方向の磁気異方性の大きい凸部領域103aから、基板101の凹凸構造を反映した磁性体103を引き伸ばして考える。
このとき、基板面Sに垂直な方向の磁気異方性を有した凹部領域103bを通って、基板面Sに垂直な方向の磁気異方性の大きい隣の凸部領域103aへと連続的に繋がっている。
また、特許文献4及び特許文献5の磁気記録媒体101は垂直磁気記録媒体であるので、ある凸部領域103aに垂直に記録された情報を、隣接する凸部領域103aへと伝えてしまう虞がある。
一方、本実施形態の磁気記録媒体31ように、基板32の凹部上に形成される低Ku領域33bの磁性体33を向かい合った基板32の凹部側面からそれぞれ膜成長させ、積極的に互いを接触させ、磁性体33の凹凸深さt1を基板の凹凸深さt2未満にした磁気記録媒体31は、図27及び図28の測定結果より上述したように、低Ku領域33bの基板面Sに対してより面内方向に強い磁気異方性を持つことが言える。
磁気記録媒体31の磁性体33の高Ku領域33a、低Ku領域33b、及びそれぞれの磁気異方性の向きを図31(b)に示す。
そして、磁気記録媒体31が垂直磁気記録媒体であるとすると、面内磁気異方性では情報の記録がなされず、高Ku領域33aの垂直に記録された情報を隣接ビットすなわち隣接する高Ku領域33aに伝えることが無い。
このように、磁気記録媒体31では、高Ku領域33aに記録された情報を、隣接する低Ku領域33b、あるいは隣の高Ku領域33a、すなわち記録ビットに磁気転写させる隣接ビット間の磁気的結合の状態が変化することによって、記録ビットが安定する効果を有する。このことは、低Ku領域33bの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Ku’を高Ku領域33aの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Kuより小さくすることと相まって、より小さな高Ku領域33a、すなわち記録ビットが個々に独立して情報保持できることに寄与する。
また、このとき、向かい合った基板32の凹部側面に形成される低Ku領域33bの磁性体33がそれぞれ膜成長し、互いに接触することで、磁性体33の界面で交換結合力が発生し、より安定な方向に、すなわち二つの磁化を同一方向に向けようとする力が働き、基板面Sに対する面内磁気異方性がさらに強くなるように変化する。このことは、前記の効果をさらに強めることになる。
また、基板32の凹部底面に成膜される磁性体33は、基板32上に磁性体33を形成する過程において、基板32の凹部側面から成長し磁性体同士で接触する磁性体33によって、基板32の凹部底面からの成長を阻害される。
すなわち、基板32の凹部底面に成膜される磁性体33は、図25で示すような基板面Sに対して垂直方向の磁気異方性を持つが、基板32の凹部側面から成長する磁性体33にカバーされて、側面から成長した磁性体33の上部に現れることがない。よって、磁気記録媒体31の低Ku領域33bの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Ku’は、高Ku領域33aの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Kuよりもさらに小さくすることが可能である。
基板32の凹部上に形成される低Ku領域33bの磁性体33を向かい合った基板32の凹部側面からそれぞれ膜成長させ、積極的に基板凹部の磁性体33を互いに接触させることで生じるさらなる効果として、基板32の凹部の溝幅t3を磁性体33の厚みt4より大きくする必要が無いので、高Ku領域33a、すなわち記録ビットを形成できる面積が増え、記録密度の向上が図れる。
また、磁性層3の膜厚t4を大きくすることができるので、磁性層の体積に依存する信号強度を強くすることができる。また、基板32の凹部が埋まって、表面ラフネスが低減するので、磁気ヘッドの浮上安定性が向上する。
次に、本実施形態の磁気記録媒体31の製造方法の例について説明する。
また、磁気記録媒体31の製造方法の一例を簡単に説明すると、基板32の表面に基板凹凸構造を形成する工程と、基板32上に磁性体33を形成する工程とを含むことが好ましい。
また、前記方法に加えて、前記基板凹凸構造を形成する工程は、基板32上に複数のランド部を形成するような高い凝集性を示す凝集性金属を、基板32上に成膜する工程を有することが好ましい。
また、前記方法に加えて、前記基板凹凸構造を形成する工程は、前記凝集性金属をマスクとして基板32をエッチング加工する工程と、その後、前記凝集性金属を剥離する工程とを有することが好ましい。
以上の方法によれば、磁性体を切削加工せずとも、簡易な製造方法で磁気記録媒体31を作製することができる。
以上の製造方法の一例を、図32(a)〜(e)を用いて示せば以下の通りである。まず、基板32上にレジスト膜36を形成した後、電子線リソグラフィや光リソグラフィを用いて、図24(b)で示した高Ku領域33aと低Ku領域33bに相当する微細パターンを露光する。その後、露光されたレジスト膜36を取り除く現像を行い、基板32上にレジスト膜36の島を形成する(図32(a))。
次に、図32(b)に示すように、レジスト膜36で作製した高Ku領域33aに相当する箇所の微細パターンをマスクとして、RIE(Reactive Ion Etching)を用いて、基板32を加工し、凹状の溝を形成する。
このとき、基板32上にレジスト膜36が残っていない箇所がエッチングされ、基板の凹部が形成される。レジスト膜36が基板32上をマスクしている箇所は、レジスト膜36が基板32表面を覆っているため、直接のエッチングを防ぐ。このとき、基板表面における凹凸深さt2を基板凹部の溝幅t3より大きくする。
次に、図32(c)に示すように、基板32上からレジスト膜36を取り除くことで、基板表面に凹凸構造を有した基板32を得ることができる。
次に、図32(d)に示すように、表面に凹凸構造を有した基板32上に磁性体33を形成する。このとき、磁性体33の膜厚t4を基板32の凹部の溝幅t3の二分の一より大きくなるように形成する。
その結果、向かい合った基板32の凹部側面に形成される非記録領域(低Ku領域33b)の磁性体33がそれぞれ膜成長し、互いに接触するので、磁性体33の表面における凹凸深さt1が基板32の表面における凹凸深さt2未満となる。
最後に、図32(e)に示すように、磁性体33を形成した後、磁性体33の酸化防止のための保護層38と、磁気ヘッドの安定浮上のための潤滑層39を形成する。以上の工程により、本実施形態の磁気記録媒体31が完成する。
また、図33(a)〜(e)で示すような、レジスト膜36の代わりにメタルマスク(マスク,凝集性金属)37を用いた製造方法でもよい。メタルマスク37を形成させる方法としてはTa、Ti、Pt、及びRu等の金属膜を成膜しリソグラフィを用いて凸部上部のみに金属膜を残す方法や、Al等の凝集しやすい材料(凝集性金属)を島(ランド部)状成長させ、この隙間をエッチングする方法を用いることができる。すなわち、基板32上に複数のランド部を形成するような高い凝集性を示す凝集性金属を用いることが好ましい。
このうち、メタルマスク37としてAlを基板32上にスパッタ装置を用いて形成する場合について示す。図33(a)で示すように、Alは膜厚が数nmから10nm程度と薄い場合は島状成長し、Alの島(ランド部)と島の間にAlがほとんど存在しない形状を得られる。このとき、Alの成膜時間やスパッタレートを調整することで、Alの島の大きさを制御することができる。
次に、図33(b)に示すように、例えばCF4やCHF3、SF6等のフッ素系ガスを用いてRIE加工を行い、基板32に凹状の溝を形成する。このとき、基板32上にメタルマスク37が残っていない箇所がエッチングされ、基板32の凹部が形成される。メタルマスク37が基板32上をマスクしている箇所は、メタルマスク37が基板32表面を覆っているため、直接のエッチングを防ぐ。このとき、基板表面における凹凸深さt2を基板凹部の溝幅t3より大きくする。
次に、図33(c)に示すように、ウェットエッチングでメタルマスク37を取り除くことで、表面に凹凸構造を有した基板を得ることができる。
次に、図33(d)で示すように、表面に凹凸構造を有した基板32上に磁性体33を形成する。このとき、磁性体33の膜厚t4を基板32の凹部の溝幅t3の二分の一より大きくなるように形成する。
その結果、向かい合った基板32の凹部側面に形成される低Ku領域33bの磁性体33がそれぞれ膜成長し、互いに接触するので、磁性体33の表面における凹凸深さt1が基板32の表面における凹凸深さt2未満となる。
最後に、図33(e)に示すように、磁性体33を形成した後、磁性体33の酸化防止のための保護層38と、磁気ヘッドの安定浮上のための潤滑層39を形成する。以上の工程により、本実施形態の磁気記録媒体31が完成する。
メタルマスク37はこれ以外にも基板32を部分的にマスクできるものであれば良く、例えば、カーボンナノチューブを用いても良い。さらには、メタルマスク37は基板32のエッチング後取り除かずに、そのまま基板として使用しても良い。
また、マスクを用いずに、FIB(Focused Ion Beam)を用いて基板32上に直接凹凸構造(基板凹凸構造)を形成しても良い。
前記の通り、磁性体33を形成した後、この磁性体33を記録ビットの大きさに、化学的、物理的な手段を用いた切削加工分断を行わないので、熱や化学侵食で磁気記録層の劣化を引き起こすことがない。また、磁性体33の削りカスが発生しないので、製造プロセスが簡略化できる。
(実施例11)
実施の形態3に示した磁気記録媒体31について作製した実施例を以下に示す。まず、SiO2からなる基板32上に電子線用のレジスト膜36を厚さ300nm塗布した後、高Ku領域33aに相当する箇所にレジスト膜36が残るよう、電子線リソグラフィによりレジスト膜36を露光し、現像した。
続いてRIE(Reactive Ion Etching)を用いて、CF4ガスにて基板を加工し、図32(c)に示す凹凸構造(基板凹凸構造)を形成した。このとき形成した凹凸の形状は、凸部の径が25nm、凹部深さt2が20nm、凹部の溝幅t3が最も狭いところで10nmであった。
レジスト膜36を剥離した後、磁性体33としてTbFeCoを膜厚20nmでArガス中にてスパッタ成膜した。このときスパッタリングに使用したスパッタ装置はターゲットと基板ホルダとが対向し基板ホルダが自公転する方式のスパッタ装置を用いた。続いて、保護層38としてAlNを2nm、DLC(Diamond like Carbon)を2nmそれぞれ成膜した後、潤滑層39を塗布し、磁気記録媒体31を完成した。
次に、実施例11の磁気記録媒体31と凹凸構造の無いフラットな基板32上に実施例1の磁気記録媒体31と同組成のTbFeCoを成膜した比較例の磁気記録媒体71(図29参照)を用いて、それぞれ、VSM装置を用いてACイレーズを行った後、MFMを用いて磁化反転サイズの観察を行った。
ACイレーズとは、一旦、保磁力Hc以上の磁場をかけた後、少しずつ印加する磁場を小さくし、最後にゼロ磁場にすることで、媒体全体の磁化量をゼロにする手法である。MFM観察の結果、実施例11の磁気記録媒体31では、凸形状の直径にほぼ相当する約30nmの磁化反転を観察することができた。
一方、比較例の磁気記録媒体71では大きさ30nm程度の磁化反転を確認することができず、磁化領域が数100nm単位で繋がったメイズ状磁区となっていた。これについては、まず、実施例11の磁気記録媒体31では、基板32上に凹形状が存在することで、基板32の凹部上に形成される磁性体33の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性が小さくなり、基板32の凸部上に形成される磁性体33が高Ku領域、すなわち、記録ビット(高Ku領域33a)として磁気的に孤立し、記録ビット間の磁気結合力が弱まり、微小な記録ビットのサイズでも安定して形成されている。これに対し、比較例の磁気記録媒体71では、記録ビット間の結合力が強いので微小な記録ビットが安定せず、磁化反転を起こすことで大きな記録ビットで安定化しているためであると考えられる。
また、実施例11の磁気記録媒体31の磁性体33の表面形状を観察したところ、基板32の凹凸深さよりも浅い凹凸が観察され、基板凹凸構造を直接反映した記録層を持つ特許文献5の磁気記録媒体に比べて、表面ラフネスの低減があり、磁気ヘッドの浮上安定性が向上することがわかった。
以上のように、実施例11の磁気記録媒体31は、基板面Sに垂直な方向の磁気異方性の大きい高Ku領域33aと、基板面Sに垂直な方向の磁気異方性の小さい低Ku領域33bとを形成することで、高Ku領域33aと低Ku領域33bとの間に磁気的な断絶や物理的な溝が無くても、微小サイズの記録ビットを形成できるとともに熱揺らぎ耐性が強い、高記録密度に対応した磁気記録媒体31を提供できる。
これに加えて、実施例11では、凹部の溝幅t3が磁性体の膜厚t4の2倍未満であり、且つ、溝幅t3が基板32の凹凸深さt2よりも小さいので、基板凹部の両側壁から成長した磁性体33が互いに接触し、面内方向の磁気異方性を強めるとともに、凹部底面からの磁性体33の成長を抑える効果がある。
なお、実施例11ではTbFeCoを磁性体33に用いた場合の磁気特性データを示したが、この他にも希土類金属であるDy、Gd、及びHoとFeCoの合金においても基板32をTbFeCoと同様に、ターゲットカソードと対向する面に対し垂直に立てた状態で成膜することにより、TbFeCoと同様に基板32に垂直に成膜した場合と比べて、基板面Sに対して垂直な方向の異方性が小さくなり、かつ基板面Sに対して垂直な方向の異方性よりも水平な方向の異方性が大きくなる結果が得られた。
また、実施例11では、ターゲットカソードと対向する面に対し基板32を垂直に立てた状態で成膜することにより基板面Sに対して垂直な方向の異方性が小さくなることと、これと同時に基板面Sに対して垂直な方向よりも、基板面Sに対して面内な方向の異方性が大きくなることについて示した。しかしながら、この内の基板面Sに対して垂直な方向よりも、基板面Sに対して面内な方向の異方性が大きくなることについては必ずしも本実施形態の磁気記録媒体31において必須ではなく、基板面Sに対して垂直な方向の異方性の大きさが小さくなることのみでも凸部上に形成された個々の高Ku領域33a、すなわち記録ビットを独立させて記録情報を保持させることが可能であることは、式(4)及び、式(5)の示す通りである。
〔実施の形態4〕
本発明のさらに他の実施の形態について及び図34(a)〜図36(d)に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1〜3と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1〜3の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
まず、図34(a)・(b)に基づき、本発明の実施の形態4に係る磁気記録媒体41について説明する。
図34(a)は、実施の形態4の磁気記録媒体41の構成の断面図である。図34(b)には、実施の形態4の磁気記録媒体41の平面図を示している。図34(a)・(b)に示すように、本実施形態の磁気記録媒体41は、高Ku領域43aと低Ku領域43bとがトラック幅方向に平行に規則的に形成されたディスクリート・トラックメディアである。
本実施形態の製造方法は、実施の形態3で示した電子線リソグラフィや光リソグラフィを用いた製造方法と同じ製造方法を用いる。異なることは、加工する基板42の形状である。具体的には、基板42上にレジスト膜36(不図示)を形成した後、電子線リソグラフィや光リソグラフィを用いて、図34(b)で示した高Ku領域(第1領域,記録領域)43aと低Ku領域(第2領域,非記録領域)43bとに相当する帯状の微細パターンを露光し、その後、露光されたレジストを取り除く現像を行い、基板42上にトラック幅方向に平行に規則的に形成されたレジストの帯を形成し、RIE(Reactive Ion Etching)を用いて、基板42を加工し、凹状の溝を形成する。
(実施例12)
実施の形態4に示した磁気記録媒体41について作製した実施例を以下に示す。まず、SiO2からなる基板42上に電子線用のレジスト膜36を厚さ300nm塗布した後、高Ku領域43aに相当する箇所にレジスト膜36が残るよう、電子線リソグラフィによりレジスト膜36を露光し、現像した。
続いてRIE(Reactive Ion Etching)を用いて、CF4ガスにて基板42を加工し凹凸構造を形成した。このとき形成した凹凸の形状は、凸部のトラック方向幅が25nm、凹部深さt2が20nm、凹部の溝幅t3が10nmの帯状形状である。
レジスト膜36を剥離した後、磁性体43としてTbFeCoを膜厚20nmでArガス中にてスパッタ成膜した。続いて、保護層38としてAlNを2nm、DLC(Diamond like Carbon)を2nmそれぞれ成膜した後、潤滑層39を塗布し、磁気記録媒体41を完成した。
次に、実施例12の磁気記録媒体41を用いて、ACイレーズを行った後、MFMを用いて磁化反転サイズの観察を行い、実施例11の磁気記録媒体31と比較を行った比較例の磁気記録媒体71、すなわち凹凸構造の無いフラットな基板上に実施例11の磁気記録媒体31と同組成のTbFeCoを成膜した磁気記録媒体71と比較した。
MFM観察の結果、実施例12の磁気記録媒体41は、凸部のトラック方向幅にほぼ相当する約30nm幅の磁化反転を観察することができた。一方、比較例の磁気記録媒体71では、磁化領域が数100nmの幅で繋がったメイズ状磁区となっていた。
これは、以下のように考えることができる。まず、実施例12の磁気記録媒体41では、基板42上に凹形状が存在することで、基板凹部上に形成される磁性体43の部分の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性が小さくなり、基板凸部上に形成される磁性体43の部分が高Ku領域43a、すなわち記録ビットとして磁気的に孤立し、記録ビット間の磁気結合力が弱まり、微小な記録ビットのサイズでも安定して形成されている。これに対し、比較例の磁気記録媒体71では、記録ビット間の結合力が強いので微小な記録ビットが安定せず、磁化反転を起こすことで大きな記録ビットで安定化していると考えられる。
また、実施例12の磁気記録媒体41の磁性体43の表面形状を観察したところ、基板42の凹凸深さt2よりも浅い凹凸が観察され、基板凹凸構造を直接反映した記録層を持つ特許文献5の磁気記録媒体に比べて、表面ラフネスの低減があり、磁気ヘッドの浮上安定性が向上することがわかった。
以上のように、実施例12の磁気記録媒体41は、基板面Sに垂直な方向の磁気異方性の大きい高Ku領域43aと基板面Sに垂直な方向の磁気異方性の小さい低Ku領域43bを形成することで、高Ku領域43aと低Ku領域43bの間に磁気的な断絶や物理的な溝が無くても、微小サイズの記録ビットを形成できるとともに熱揺らぎ耐性が強い、高記録密度に対応した磁気記録媒体41を提供できる。
これに加えて、実施例12では、凹部の溝幅t3が磁性体の膜厚t4の2倍未満であり、且つ、溝幅t3が基板42の凹凸深さt2よりも小さいので、基板凹部の両側壁から成長した磁性体43が互いに接触し、面内方向の磁気異方性を強めるとともに、凹部底面からの磁性体43の成長を抑える効果がある。
なお、実施例12では、傾斜面に対して成膜することにより基板面Sに対して垂直な方向の異方性が小さくなり、かつ基板面Sに対して垂直な方向よりも、基板面Sに対して面内な方向の異方性が大きくなる事例について示したが、この内の、基板面Sに対して垂直な方向よりも、基板面Sに対して面内な方向の異方性が大きくなることは必ずしも必須ではなく、基板面Sに対して垂直な方向の異方性が小さくなることのみでも凸部上に形成された個々の記録ビットを独立させて記録情報を保持させることが可能である。
また、図35(a)に示すように、実施の形態3及び4において、表面が凹凸構造である基板32(又は基板42)上に、基板凹凸構造を反映した軟磁性層100を形成し、その後、軟磁性層100上に磁性体33(又は磁性体43)を形成しても構わない。
また、実施の形態3及び4において、表面がフラットな基板32上に、軟磁性層100を形成し、その後、軟磁性層100上に凹凸構造を加工し、図35(b)に示すように、軟磁性層100上に磁性体33(又は磁性体43)を形成しても構わない。
軟磁性層100は、磁気ヘッドを用いた記録再生の際に、面内方向への磁化の向きを有するので、媒体とヘッド間で安定した磁束ループを形成する役割を持つ。軟磁性層100としては、NiFe、CoNiFe、CoFeB、及びCoZr等を基体とした軟磁性合金が望ましい。
また、実施の形態3及び4において、同一材料で基板面Sに垂直な方向の磁気異方性の異なる磁性体33(又は磁性体43)、すなわち基板面Sに垂直な方向の磁気異方性の大きい高Ku領域33a(又は高Ku領域43a)と基板面Sに垂直な方向の磁気異方性の小さい低Ku領域33b(又は低Ku領域43b)を形成するために、基板の凹部構造は、凹部上に形成された磁性体33(又は磁性体43)の部分の基板面Sに垂直な異方性が、凸部上に形成された磁性体33(又は磁性体43)の部分の基板面Sに垂直な方向の異方性よりも小さくなる形状であれば良く、図24(a)・図34(a)に示すように側壁が基板面Sに対して垂直な形状となっている必要はない。
例えば、図36(a)のように側壁が傾斜していても良く、図36(b)・図36(c)のように凹形状がV字やU字であってもかまわない。さらには、図36(d)に示すように傾斜が繰り返し形成されたものでも良い。
つまり、高Ku領域33a(又は高Ku領域43a)となる磁性体33(又は磁性体43)が形成される領域の基板32(又は基板42)はフラットであり、低Ku領域33b(又は低Ku領域43b)となる磁性体33(又は磁性体43)が形成される基板32(又は基板42)部分が、低Ku領域33b(又は低Ku領域43b)の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Ku’を高Ku領域33a(又は高Ku領域43a)の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Kuより小さくする形状であればどのような形状であってもかまわない。
(実施例13)
実施例13として、図37に示すように、基板面Sに対する基板52の凹部側壁の傾斜角θを変化させた場合の磁気記録媒体51について示す。作製方法としては、まず、SiO2からなる基板52上に電子線用のレジスト膜36を厚さ300nm塗布した後、高Ku領域53aに相当する箇所の微細パターンをマスクとして、電子線リソグラフィによりレジスト膜36を露光し、現像した。
続いてRIE(Reactive Ion Etching)を用いて、CF4ガスにて基板52を加工し、基板52の凹部側壁が基板面Sに対して、傾斜角θの傾斜を持つ基板凹凸構造を形成した。傾斜角θは、RIEにおいて基板加工時にCF4ガスを調整することで変化させて形成することが可能である。
レジスト膜36を剥離した後、磁性体(磁性層)53としてTbFeCoを膜厚25nmでArガス中にてスパッタ成膜した。このときスパッタリングに使用したスパッタ装置はターゲットと基板ホルダとが対向し基板ホルダが自公転する方式のスパッタ装置を用いた。
続いて、保護層38(不図示)としてAlNを2nm、DLC(Diamond like Carbon)を2nmそれぞれ成膜した後、潤滑層39(不図示)を塗布し、磁気記録媒体51を完成した。なお、図中では保護層38と潤滑層39とを省略して図示している。
図25及び図38には、傾斜角θを変化させた磁気記録媒体51の一例として、傾斜角θが75度の実施例の磁気記録媒体51において、高Ku領域(第1領域,記録領域)53aのTbFeCoと、低Ku領域(第2領域,非記録領域)53bのTbFeCoの室温における磁化曲線を示した。ここで、図25に示す磁化曲線は高Ku領域53aのTbFeCo、そして、図38に示す磁化曲線は低Ku領域53bのTbFeCoを、それぞれ個別に基板52上に形成し、保護層38を形成した上で、振動試料型磁気力計(VSM)を用いて磁化曲線を測定したものである。
具体的には、図25には実施例13の磁気記録媒体51の基板52の凸部上に形成される磁性体53の磁化状態を再現すべく、平坦なガラス基板上に磁性体53を形成し、基板面Sに対して垂直方向に磁場を印加した測定結果を示している。
一方、図38には、実施例13の基板面Sに対して傾斜している基板52の凹部側壁上に形成される磁性体53の磁化状態を再現すべく、平坦なガラス基板を、ターゲットカソードと対向する面に対して傾斜角θが75度の角度を持つように立てた状態で磁性体53を成膜し(図39)、図37に示した基板52上における基板面Sに対して垂直方向に磁場を変化させた時の磁化過程を示した。
図25及び図38に示すように、高Ku領域53aのTbFeCoは低Ku領域53bのTbFeCoに比べて、飽和磁化Msと保磁力Hcとの積Ms・Hcが大きくなっている。
この積Ms・Hcは基板面Sに対して垂直方向の異方性の大きさを表す指標となるので、高Ku領域53aのTbFeCoの方が低Ku領域53bのTbFeCoに比べて、基板面Sに対して垂直方向の磁気異方性が大きいことがわかる。
ここで、基板面Sに対する基板52の凹部側壁の傾斜角θを0度から90度までの間で変化させた場合の実施例13の磁気記録媒体51における、低Ku領域53bのTbFeCoの基板面Sに対して垂直方向の異方性について説明する。
基板面Sに対して基板52の凹部側壁が傾斜角θを持った状態を再現するために、ガラス基板を図39のように基板面Sに対して傾斜角がθとなるようにし、それぞれの傾斜の状態で磁性体53を成膜し、前記で述べた通りの方法で基板面Sに対して垂直方向の異方性を表す飽和磁化Msと保磁力Hcの積Ms・Hcを算出した結果を図40に示す。
図40で示されるように、傾斜角θが大きくなるにつれ、積Ms・Hc、すなわち基板面Sに対して垂直方向の異方性が傾斜角θに依存して小さくなり、傾斜角θが90度の場合に最小となることがわかる。
これは、B.G.Huthの式(4)より、基板面Sに対する基板52の凹部側壁の傾斜角θを大きくすると、低Ku領域53bのTbFeCoの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性が小さくなるので、式(5)で示される磁壁エネルギーσωが小さくなり、記録ビットを小さくしようとする力が小さくなることを示している。
この力は、式(5)のσω/rの項から生じたものであり、低Ku領域53bに小さな基板面Sに垂直な方向の磁気異方性を持つことにより、より小さな記録ビットを安定させることができることがわかる。加えて、高Ku領域53aでは基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Kuが基板面Sに垂直な方向の強い磁気異方性を示すことから、熱揺らぎ耐性の強い磁気記録媒体51を提供することができる。
ここで、実施例13の磁気記録媒体51が安定保持できる記録ビットの最小サイズを、式(4)を用いて計算から求める。図3を参照して、実施例13の磁気記録媒体51について、磁化が一方向に揃えられた(図3中では上向きの磁化)磁性体53(高Ku領域13aと低Ku領域13bとから構成される磁性層13に相当)に対し、前記磁化が一方向に揃えられた領域と逆の向きを有する記録磁区(記録ビット)130(図中では下向きの磁化)を、高Ku領域53a(高Ku領域13aに相当)の一つに対して形成した場合について考える。
この場合について、基板面Sに対する基板52の凹部側壁の傾斜角θを65度にし、前記TbFeCoを磁性体53に用いた場合の磁気記録媒体51について、すなわち、高Ku領域53aの一つに記録磁区130を形成した場合の磁壁131の振る舞いについて式(4)を用いて求めた。
計算に際して、式(5)に用いる交換スティフネス定数Aは分子場近似を用いて求め、2.17×10−7erg/cmを適用した。また、式(4)の右辺第1項の外部磁界Hexは0とした。
右辺第2項については、記録磁区130に加わる周囲からの浮遊磁界Hdに加えて、記録磁区130の自己減磁界(反磁界)の影響についても計算に入れた。記録磁区130以外の磁性体53については、磁化方向が全て記録磁区130と反対を向いているものとした。なお、ここでの磁気異方性定数Kuは磁性体53の磁化困難軸方向の磁化曲線を測定して異方性磁界Hkを求め、Ku=Ms・Hk/2の関係を用いて磁気異方性定数Kuを算出した。
以下、磁性体53に形成された記録磁区130の磁壁131が、高Ku領域53a内部(領域1)、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部(領域2)、低Ku領域53b内部(領域3)に存在する場合に分けて計算結果を説明する。
まず、磁壁131が高Ku領域53a内部(領域1)に存在する場合、言い換えれば、記録磁区130が一つの高Ku領域53a内に完全に収まっている場合について説明する。この場合には、膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(4)の右辺第4項は0となる。
図41には、磁壁131が高Ku領域53a内部(領域1)に存在する場合に、記録磁区130に加わる磁界Htotalを記録磁区130の半径rに対して示した。図41には、磁化曲線から得られた実施例13の高Ku領域53aの保磁力Hcの値についても合わせて示した。
図41において、磁界Htotalが保磁力Hcを上回る範囲では、磁壁131の移動が起こることを意味する。図41において、磁界Htotalの向きは、図41に示した半径rの範囲内で式(4)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、記録磁区130を縮小させる方向である。
図41から、記録磁区130の半径rが9nm以下になると、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131が記録磁区130を縮小させる方向に移動することで、記録磁区130が消滅してしまうことが分かる。
このことは、実施例13の磁気記録媒体51において、高Ku領域53aの半径rが9nm以上で形成され、且つ、高Ku領域53aの内部に磁壁131が完全に収まるように半径rが9nm以下の記録磁区130が形成されてしまうと、記録磁区130は消滅してしまうことを意味する。
従って、実施例13の磁気記録媒体51において、記録磁区130の消滅を防ぐためには、高Ku領域53aの半径rを9nm未満で形成するか、9nm以上で形成する場合には、磁壁131が高Ku領域53a内に完全に収まってしまうことが無いように記録する必要がある。
次に、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部(領域2)に磁壁131の一部が掛かっている場合には、前記境界部で膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在するため、式(4)の右辺第4項の影響が現れる。具体的には、高Ku領域53aから低Ku領域53bに向かう方向に磁壁131を動かそうとする力が働く。
前記磁壁131を動かそうとする力は、式(4)の右辺第4項からも分かるように、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部における磁壁エネルギーσωの変化幅が狭い程(高Ku領域53aから低Ku領域53bへ磁気特性が急激に変化する程)より大きくなる。
図42は、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部に磁壁131が形成された際に、記録磁区130に加わる磁界Htotalのうち式(4)の右辺第4項の成分を磁界Hbndとし、これを、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界幅(磁壁エネルギーσωの変化幅、すなわち、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの混成領域幅に相当)に対して示したものである。なお、このときの磁界Hbndの向きは、記録磁区130を拡大させる方向である。
図42に示す範囲、すなわち、高Ku領域53aと低Ku領域53bの境界幅が5nm以下の範囲では、磁界Hbndは4kOe以上の大きな値を示すことが分かる。この値は、図41に示した磁界Htotalの値と、図42に示した磁界Hbndの向きが逆向きであることを考慮すると、半径rが6nm程度の記録磁区130であっても、磁界Hbndまで含めた磁界Htotalの値を高Ku領域53aの保磁力Hc以下に抑えることができる値である。
すなわち、半径rが6nm程度の記録磁区130まで安定に保持できることを意味している。さらに、高Ku領域53aと低Ku領域53bの境界幅を1nm以下まで小さくすれば、磁界Hbndは20kOeを超え、図41に示した磁界Htotalの値と比べると、半径rが2.5nm以下と極めて小さな記録磁区130も保持することができる。
なお、実施の形態3に記載の製造方法を用いれば、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界を極めて明瞭に形成できるので、高Ku領域53aと低Ku領域53bの境界幅は数nm以下とすることが可能である。
次に、低Ku領域53b内部(領域3)においては、領域1と同様に膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(4)の右辺第4項は0となる。この領域に磁壁131が形成された場合について、記録磁区130に加わる磁界の大きさ磁界Htotalと記録磁区130の半径rとの関係を図43に示した。
図43には、磁化曲線から得られた実施例13の低Ku領域33bの保磁力Hcの値についても合わせて示した。磁界Htotalの向きは、図43に示した半径rの範囲内で、式(4)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、領域1と同様に記録磁区130を縮小させる方向である。図43に示す、記録磁区130の半径rが11nm以下の範囲では、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131は記録磁区130を縮小させる方向に移動する。
しかしながら、縮小した記録磁区130の磁壁131は、前記の領域2の説明で示したように、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部において、記録磁区130を拡大させる方向の力(図42に示した磁界Hbnd)を受けて高Ku領域53aに入ることができずに停止する。
具体的には、図42に示したように、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界幅が5nm以下のとき、領域2に入ろうとする磁壁131は、記録磁区130を拡大する方向に4kOeを超える磁界を受けることになる。
これに対し、図43に示すように領域3で記録磁区130を縮小させようとする磁界Htotalは、半径rが6nmでも高々7kOe程度であり、低Ku領域53bの保磁力Hcが3.5kOe以上であることから、磁界Hbndまで含めた磁界Htotalの値を低Ku領域33bの保磁力Hc以下に抑えることができる値であり、領域2に磁壁131が入り込むほど記録磁区130が縮小することは無い。
ここで、図29で示すように、磁性体53(磁性体33に相当)が全て凹凸構造の無い平坦な基板52(基板32に相当)上に形成され、一様な磁気異方性定数Kuである場合の磁気記録媒体71を比較例とすると、この場合は、磁性体53が全て、図25で示される通りの磁化曲線を持つ高Ku領域53aであるので、磁性体53に記録された記録磁区130の磁壁131は、高Ku領域53aの内部に存在することになる。このとき、膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(4)の右辺第4項は0となる。
以上のことから、実施例13の磁気記録媒体51は、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部において磁壁エネルギーσωの変化が存在することにより、前記境界部で記録磁区130を拡大させる方向の力が働き、これによって、より小さな記録磁区130を安定保持できる。
具体的には、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界幅が、例えば1nmで形成された場合は、実施例13の磁気記録媒体51の安定保持できる記録ビット半径は2.4nmになり、境界幅が5nmで形成された場合は、安定保持できる記録ビット半径は5.8nmになる。
ここで、基板面Sに対する基板52の凹部側壁の傾斜角θを65度より大きくし、TbFeCoを磁性体53に用いた場合の磁気記録媒体51について、それぞれ安定保持できる最小の記録ビット半径rを、式(4)を用いて計算した。その結果を図44に示す。なお、図44には、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部における磁壁エネルギーσωの変化幅(境界幅、遷移幅)が1nmと5nmの場合について示している。
図44が示すように、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部における磁壁エネルギーσωの変化幅(境界幅)を小さくすると、安定保持できる記録ビット半径rが小さくなることがわかる。また、傾斜角θが65度より大きくなるにつれて、安定保持できる記録ビット半径rが小さくなり、その結果、記録密度が向上する。
なお、図44には示していないが、基板面Sに対する基板52の凹部側壁の傾斜角θが0度から65度の間においても、式(4)を用いて計算した結果より、傾斜角θが大きくなるにつれて、安定保持できる記録ビット半径rが単調的に小さくなることがわかっている。
ここで、図29で示すように、磁性体53(磁性体33に相当)が全て凹凸構造の無い平坦な基板52(基板32に相当)上に形成され、一様な磁気異方性定数Kuをもつ場合の磁気記録媒体71を比較例とする。この場合は、磁性体53が全て、図25で示される通りの磁化曲線を持つ高Ku領域53aであるので、磁性体53に記録された記録磁区130の磁壁131は、高Ku領域53aの内部に存在することになる。
このとき、膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(4)の右辺第4項は0となる。また、比較例の磁気記録媒体71は、磁壁131が全て一様な高Ku領域53a内部に存在する場合にあてはまることになる。
ここで、図45には、比較例の磁気記録媒体71の記録磁区130に加わる磁界Htotalを記録磁区130の半径rに対して示した。図45には、磁化曲線から得られた高Ku領域53aの保磁力Hcの値についても合わせて示した。図45において、磁界Htotalが保磁力Hcを上回る範囲では、磁壁131の移動が起こることを意味する。図45において、磁界Htotalの向きは、図45に示した半径rの範囲内で式(4)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、記録磁区130を縮小させる方向である。
図45から、記録磁区130の半径rが9nm以下になると、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131が記録磁区130を縮小させる方向に移動することで、記録磁区130が消滅してしまうことが分かる。
以上のことから、基板面Sに対する基板52の凹部側壁の傾斜角θを65度とした場合の実施例13の磁気記録媒体51と、比較例の磁気記録媒体71を比較すると、実施例13の磁気記録媒体51は、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部において磁壁エネルギーσωの変化が存在することにより、前記境界部で記録磁区130を拡大させる方向の力が働く。この力によって、表面に凹凸構造の無い基板52上に磁性体53を構成した比較例に磁気記録媒体71と比べて、より小さな記録磁区130を安定保持できる。
具体的には、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界幅が例えば1nmで形成された場合は、実施例13の磁気記録媒体51の安定保持できる記録ビット半径は2.4nmになる。
このような効果を得るためには、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部において磁壁エネルギーσωの変化を存在させることが重要であり、すなわち、高Ku領域53aと低Ku領域53bの磁気異方性定数Kuに差があることが重要である。
ところで、磁気記録媒体51は、向かい合った基板52の凹部側面に形成される低Ku領域53bの磁性体53がそれぞれ膜成長し、互いに接触することで、磁性体53の界面で交換結合力が発生し、より安定な方向に、すなわち二つの磁化を同一方向に向けようとする力が働き、基板面Sに対する面内磁気異方性がさらに強くなるように変化することが重要である。そこで、どの傾斜において、前記の通りに基板面Sに対する面内磁気異方性がさらに強くなるように変化するのかを調べた。
ここで、図46に、平坦なガラス基板をターゲットカソードと対向する面に対して傾斜角θが45度の角度を持つように立てた状態で磁性体53を成膜し、磁化測定を行った結果を示す。図46は、図39で示した成膜方向(方向A)と、基板面Sに平行な方向(方向B)に磁場を印加して磁化測定を行った結果を示している。
これらの2方向の磁化測定結果より、成膜方向(方向A)の磁化測定で磁気異方性が強く現れた結果が示されており、基板面Sに平行な方向(方向B)の磁化測定結果に弱い磁気異方性が示されていることから、磁化容易軸方向は基板面Sに平行な方向(方向B)よりも、成膜方向(方向A)に優勢であることがわかる。
これはすなわち、傾斜角θが45度の場合、磁化容易軸方向は基板面Sに対して面内方向よりも垂直方向に優勢であることを示しており、基板凹部上に形成される低Ku領域53bの磁性体53を向かい合った基板52の凹部側面からそれぞれ膜成長させ、積極的に互いを接触させても、磁性体53の界面で交換結合力が発生し、より安定な方向に、すなわち二つの磁化を同一方向に向けようとする力が働き、基板面Sに対して垂直方向の磁気異方性が強くなるように変化してしまい、基板面Sに対して面内方向の磁気異方性が弱まってしまうことを示している。
ここで、磁化容易軸方向が基板面Sに対して垂直方向よりも面内方向に強くなる基板傾斜を調べるため、傾斜角θを変化させて磁性体53を成膜した試料を作製し、前記θが45度の場合と同様に、成膜方向(方向A)と基板面Sに平行な方向(方向B)とについて磁化測定を行った。
その結果、傾斜角θが65度以上の場合に、飽和磁化と保持力の積Ms・Hcが、方向Aよりも方向Bの方が大きくなり、傾斜角θを65度以上にすることで、磁化容易軸方向が基板面Sに対して面内優勢になった。
このような場合、基板凹部上に形成される低Ku領域53bの磁性体53を向かい合った基板52の凹部側面からそれぞれ膜成長させ、積極的に互いを接触させると、磁性体53の界面で交換結合力が発生し、また、磁性体53の界面がなくなることによる反磁界減少により、安定な方向に、すなわち二つの磁化を同一方向に向けようとする力が働き、基板面Sに対する面内磁気異方性が強くなるように変化する。
以上のことから、基板52の凹部側壁が基板面Sに対して垂直に形成されていなくても、基板面Sに対して基板52の凹部側壁の傾斜角θを65度から90度の範囲にとることで、本実施形態の磁気記録媒体51では、高Ku領域33aに記録された情報を、隣接する低Ku領域53b、あるいは隣の高Ku領域53aに磁気転写させる隣接ビット間の磁気的結合の状態が変化することによって、記録ビットが安定する効果を有する。
以上より、磁気記録媒体51は、基板52の凹部の側壁が基板表面に対して傾いており、前記凹部の側壁の前記基板表面に対する傾斜角θが65度以上、90度以下であることが好ましい。
前記構成によれば、高Ku領域53aに記録された情報を、隣接する低Ku領域53b、あるいは隣の高Ku領域53aに磁気転写させる隣接ビット間の磁気的結合の状態が変化することによって、記録ビットが安定する効果を有する。
このことは、低Ku領域53bの基板表面に垂直な方向の磁気異方性エネルギーを高Ku領域53aの基板表面に垂直な方向の磁気異方性エネルギーより小さくすることと相まって、より小さな高Ku領域53aが個々に独立して情報保持できることに寄与する。
また、このとき、向かい合った基板52の凹部側面に形成される低Ku領域53bの磁性体53がそれぞれ膜成長し、互いに接触することで、磁性体53の界面で交換結合力が発生し、より安定な方向に、すなわち二つの磁化を同一方向に向けようとする力が働き、基板面Sに対する面内磁気異方性がさらに強くなるように変化する。このことは、前記の効果をさらに強めることになる。
ここで、実施例13では、記録磁区130以外の周囲の磁性体53については、磁化方向が全て記録磁区130と反対を向いているものとして計算を行っているため、式(4)の右辺第2項で考慮されている周囲磁区からの浮遊磁界Hdは全て記録磁区130を拡大する方向に作用する。
実際の磁気記録媒体では、両方向の磁化が混在しているため浮遊磁界Hdは記録磁区130を縮小する方向の成分も含むことになると考えられる。しかしながら、実施例13において式(4)の右辺第2項の浮遊磁界Hdは高々1kOe程度の大きさであり、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部で発生する記録磁区130を拡大させる方向の磁界Hbnd(図42)と比較して小さな値である。
更に、記録磁区130と隣接する記録ビットは必ず記録磁区130と逆向きの磁化を持つ(同じ向きを向くならば記録磁区130と一体となるため)こと、記録磁区130に近い磁区程、浮遊磁界Hdに対する寄与分が大きいことを考えると、1kOe程度の浮遊磁界Hdが極端に減少し、又は、逆方向に強く加わることは無い。すなわち、実際の磁気記録媒体で、記録ビットの向きが混在した場合においても、実施例13の効果は十分に得られる。
(実施例14)
実施例4として、図37に示すように基板52の凹部側壁が基板面Sに対して、傾斜角θの角度で傾斜しており、基板52上に形成される磁性体53中にXeを含んでいる磁気記録媒体51の例を示す。実施例13とは、磁性体53中にXeが含まれていることだけが異なり、その他の条件は実施例13と同じである。
作製方法としては、実施例13で説明した方法とほぼ同じで、磁性体53としてTbFeCoをスパッタ成膜する際に、Xeガス中にて成膜を行うことだけが異なる。ここで、本実施形態の磁気記録媒体51が安定保持できる記録ビットの最小サイズを計算して求める。
基板面Sに対する基板52の凹部側壁の傾斜角θを65度にし、TbFeCoを磁性体53に用いた場合の磁気記録媒体51について、高Ku領域53a高の一つに記録磁区130を形成した場合の磁壁131の振る舞いについて、実施例13と同様に、式(4)を用いて求めた。
まず、磁壁131が高Ku領域53a内部(領域1)に存在する場合、言い換えれば、記録磁区130が一つの高Ku領域53a内に完全に収まっている場合について説明する。この場合には、膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(4)の右辺第4項は0となる。
図47には、磁壁131が高Ku領域53a内部(領域1)に存在する場合に、記録磁区130に加わる磁界Htotalを記録磁区130の半径rに対して示した。図47には、磁化曲線から得られた実施例14の高Ku領域53aの保磁力Hcの値についても合わせて示した。図47において、磁界Htotalが保磁力Hcを上回る範囲では、磁壁131の移動が起こる。また、磁界Htotalの向きは、半径rの範囲内で式(4)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、記録磁区130を縮小させる方向である。
図47から、記録磁区130の半径rが8nm以下になると、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131が記録磁区130を縮小させる方向に移動することで、記録磁区130が消滅してしまうことが分かる。このことは、実施例14の磁気記録媒体51において、高Ku領域53aの半径rが8nm以上で形成され、且つ、高Ku領域53aの内部に磁壁131が完全に収まるように半径rが8nm以下の記録磁区130が形成されてしまうと、記録磁区130は消滅してしまうことを意味する。
従って、実施例14の磁気記録媒体51において、記録磁区130の消滅を防ぐためには、高Ku領域53aの半径rを8nm未満で形成するか、8nm以上で形成する場合には、磁壁131が高Ku領域53a内に完全に収まってしまうことが無いように記録する必要がある。
次に、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部(領域2)に磁壁131の一部が掛かっている場合には、前記境界部で膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在するため、式(4)の右辺第4項の影響が現れる。具体的には、高Ku領域53aから低Ku領域53bに向かう方向に磁壁131を動かそうとする力が働く。
磁壁131を動かそうとする力は、式(4)の右辺第4項からも分かるように、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部における磁壁エネルギーσωの変化幅が狭い程(高Ku領域53aから低Ku領域53bへ磁気特性が急激に変化する程)より大きくなる。
図48は、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部に磁壁131が形成された際に、記録磁区130に加わる磁界Htotalのうち式(4)の右辺第4項の成分を磁界Hbndとし、これを、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界幅(磁壁エネルギーσωの変化幅、すなわち、高Ku領域53aと低Ku領域33bとの混成領域幅に相当)に対して示したものである。なお、このときの磁界Hbndの向きは、記録磁区130を拡大させる方向である。
図48に示す範囲、すなわち、高Ku領域53aと低Ku領域53bの境界幅(以下、磁壁エネルギーσωの「変化幅」又は「遷移幅」ということがある。)が5nm以下の範囲では、磁界Hbndは6kOe以上の大きな値を示すことが分かる。この値は、図47に示した磁界Htotalの値と、図48に示した磁界Hbndの向きが逆向きであることを考慮すると、半径rが4.5nm程度の記録磁区130であっても、磁界Hbndまで含めた磁界Htotalの値を高Ku領域53aの保磁力Hc以下に抑えることができる値である。
すなわち、半径rが4.5nm程度の記録磁区130まで安定に保持できることを意味している。さらに、高Ku領域53aと低Ku領域53bの境界幅を1nm以下まで小さくすれば、磁界Hbndは31kOeを超え、図47に示した磁界Htotalの値と比べると、半径rが2nm以下と極めて小さな記録磁区130も保持することができる。
次に、低Ku領域53b内部(領域3)においては、領域1と同様に膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(4)の右辺第4項は0となる。この領域に磁壁131が形成された場合について、記録磁区130に加わる磁界の大きさ磁界Htotalと記録磁区130の半径rとの関係を図49に示した。
図49には、磁化曲線から得られた実施例14の低Ku領域53bの保磁力Hcの値についても合わせて示した。磁界Htotalの向きは、図49に示した半径rの範囲内で、式(4)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、領域1と同様に記録磁区130を縮小させる方向である。
図49に示す、記録磁区130の半径rが12nm以下の範囲では、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131は記録磁区130を縮小させる方向に移動する。しかしながら、縮小した記録磁区130の磁壁131は、前記の領域2の説明で示したように、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部において、記録磁区130を拡大させる方向の力(図48に示した磁界Hbnd)を受けて高Ku領域53aに入ることができずに停止する。
具体的には、図48に示したように、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界幅が5nm以下のとき、領域2に入ろうとする磁壁131は、記録磁区130を拡大する方向に6kOeを超える磁界を受けることになる。
これに対し、図49に示すように領域3で記録磁区130を縮小させようとする磁界Htotalは、半径rが5nmでも高々8kOe程度であり、低Ku領域53bの保磁力Hcが3kOeであることから、磁界Hbndまで含めた磁界Htotalの値を低Ku領域53bの保磁力Hc以下に抑えることができる値であり、領域2に磁壁131が入り込むほど記録磁区130が縮小することは無い。
以上のことから、実施例14の磁気記録媒体51は、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部において磁壁エネルギーσωの変化が存在することにより、前記境界部で記録磁区130を拡大させる方向の力が働き、これによって、より小さな記録磁区130を安定保持できる。
具体的には、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界幅が、例えば1nmで形成された場合は、実施例14の磁気記録媒体51の安定保持できる記録ビット半径は1.8nmになり、境界幅が5nmで形成された場合は、安定保持できる記録ビット半径は4.5nmになる。
ここで、基板面Sに対する基板52の凹部側壁の傾斜角θを65度より大きくし、TbFeCoを磁性体53に用いた場合の磁気記録媒体51について、それぞれ安定保持できる最小の記録ビット半径rを、式(4)を用いて計算した。その結果を図50に示す。
なお、図50には、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部における磁壁エネルギーσωの変化幅(遷移幅)が1nmと5nmの場合について示している。なお、図50には、実施例13のArガスで作製した磁気記録媒体51の結果についても合わせて示している。
図50が示すように、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部における磁壁エネルギーσωの変化幅を小さくすると、安定保持できる記録ビット半径rが小さくなることがわかる。また、傾斜角θが65度より大きくなるにつれて、安定保持できる記録ビット半径rが小さくなり、その結果、記録密度が向上する。
ここで、図29で示すように、Xeガスを用いて磁性体53(磁性体33に相当)が全て凹凸構造の無い平坦な基板52(基板32に相当)上に形成され、一様な磁気異方性定数Kuをもつ場合の磁気記録媒体71を比較例とすると、この場合は、磁性体53が全て高Ku領域53aであるので、磁性体53に記録された記録磁区130の磁壁131は高Ku領域53aの内部に存在することになる。
このとき、膜面に平行な方向に磁壁エネルギーσωの変化が存在しないので、式(4)の右辺第4項は0となる。また、磁壁131が全て一様な高Ku領域53a内部に存在する場合にあてはまることになる。ここで、図51には、比較例の磁気記録媒体71の記録磁区130に加わる磁界Htotalを記録磁区130の半径rに対して示した。
図51には、比較例の磁気記録媒体71において、磁壁131が全て一様な高Ku領域53a内部に存在する場合に、記録磁区130に加わる磁界Htotalを記録磁区130の半径rに対して示した。図51には、磁化曲線から得られた高Ku領域53aの保磁力Hcの値についても合わせて示した。
図51において、磁界Htotalが保磁力Hcを上回る範囲では、磁壁131の移動が起こる。図51において、磁界Htotalの向きは、図51に示した半径rの範囲内で式(4)の右辺第3項が常に右辺第2項よりも大きいために、記録磁区130を縮小させる方向である。
図51から、記録磁区130の半径rが8nm以下になると、磁界Htotalは保磁力Hcを上回っており、磁壁131が記録磁区130を縮小させる方向に移動することで、記録磁区130が消滅してしまうことが分かる。
以上のことから、実施例14の磁気記録媒体51と比較例の磁気記録媒体71を比較すると、実施例14の磁気記録媒体51は、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部において磁壁エネルギーσωの変化が存在することにより、前記境界部で記録磁区130を拡大させる方向の力が働き、これによって、表面に凹凸構造の無い基板上に磁性体53を構成した場合と比べて、より小さな記録磁区130を安定保持できる。
具体的には、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界幅が、例えば1nmで形成された場合には、実施例14の磁気記録媒体51の安定保持できる記録ビット半径は1.8nmになる。
このような効果を得るためには、高Ku領域53aと低Ku領域53bとの境界部において磁壁エネルギーσωの変化を存在させることが重要であり、すなわち、高Ku領域53aと低Ku領域53bの磁気異方性定数Kuに差があることが重要である。
また、Arガスで作製した磁気記録媒体51に比べて、Xeガスで作製した磁気記録媒体51の方が、同じ傾斜角θの安定保持できる記録ビット半径rが小さく、Xeガスを用いることで記録密度が向上することがわかる。
ところで、本発明の磁気記録媒体51は、実施例13で述べた磁気記録媒体51と同様に、向かい合った基板52の凹部側面に形成される低Ku領域53bの磁性体53がそれぞれ膜成長し、互いに接触することで、磁性体53の界面で交換結合力が発生し、より安定な方向に、すなわち二つの磁化を同一方向に向けようとする力が働き、基板面Sに対する面内磁気異方性がさらに強くなるように変化することが重要である。
そこで、どの傾斜において、前記の通りに基板面Sに対する面内磁気異方性がさらに強くなるように変化するのかを調べた。実施例13と同様に、磁化容易軸方向が基板面Sに対して垂直方向よりも面内方向に強くなる基板傾斜を調べると、傾斜角θを65度にすることで磁化容易軸方向が基板面Sに対して面内優勢になった。
このような場合、基板凹部上に形成される低Ku領域53bの磁性体53を向かい合った基板52の凹部側面からそれぞれ膜成長させ、積極的に互いを接触させると、磁性体53の界面で交換結合力が発生し、また、磁性体53の界面がなくなることによる反磁界減少により、安定な方向に、すなわち二つの磁化を同一方向に向けようとする力が働き、基板面Sに対する面内磁気異方性が強くなるように変化する。
以上のことから、基板52の凹部側壁が基板面Sに対して垂直に形成されていなくても、基板面Sに対して基板52の凹部側壁の傾斜角θを65度から90度の範囲にとることで、本実施形態の磁気記録媒体51では、高Ku領域53aに記録された情報を、隣接する低Ku領域53b、あるいは隣の高Ku領域53aに磁気転写させる隣接ビット間の磁気的結合の状態が変化することによって、記録ビットが安定する効果を有する。
このことは、低Ku領域53bの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Ku’を高Ku領域53aの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Kuより小さくすることと相まって、より小さな記録ビットが個々に独立して情報保持できることに寄与する。
また、このとき、向かい合った基板52の凹部側面に形成される低Ku領域53bの磁性体53がそれぞれ膜成長し、互いに接触することで、磁性体53の界面で交換結合力が発生し、より安定な方向に、すなわち二つの磁化を同一方向に向けようとする力が働き、基板面Sに対する面内磁気異方性がさらに強くなるように変化する。このことは、前記の効果をさらに強めることになる。
なお、実施例14の磁気記録媒体51、あるいは実施例13の磁気記録媒体51は、必ずしも基板52の凹部側壁が全体にわたって平坦である必要は無く、側壁の一部が傾斜65度以上90度以下であればよい。
例えば、図52で示すように、凹部側壁の一部が傾斜65度以上90度以下であれば、基板62の凹部側壁の基板面Sに対しての傾斜が90度以上を超える領域を持った形状であっても良い。
つまり、高Ku領域(第1領域,記録領域)63aとなる磁性体(磁性層)63が形成される領域の基板62はフラットであり、低Ku領域(第2領域,非記録領域)63bとなる磁性体63が形成される基板62部分が、低Ku領域63bの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Ku’を高Ku領域63aの基板面Sに垂直な方向の磁気異方性定数Kuより小さくし、さらには、低Ku領域63bの磁性体63の磁化容易軸方向が基板面Sに対して垂直方向よりも面内方向に強くなる場合であれば、図52のような形状であってもかまわない。
なお、本実施形態ではTbFeCoをXeガスで成膜した場合について説明したが、TbFeCoをKrガスで成膜した場合についても同様の効果が得られた。
以上のように、磁気記録媒体51及び磁気記録媒体61としては、磁性層中にXe、又はKrを含んでいることが好ましい。基板52(又は基板62)の凹部の側壁が基板表面に対して傾いている基板凹凸構造を備えた磁気記録媒体51及び磁気記録媒体61の製造方法の場合には、Arガスで作製した磁気記録媒体51及び磁気記録媒体61に比べて、同じ基板52(又は基板62)の凹部の側壁の基板表面に対する傾斜において、安定保持できる記録ビット半径が小さく、記録密度が向上した磁気記録媒体51及び磁気記録媒体61の作製が可能である。
また、磁気記録媒体51及び磁気記録媒体61の製造方法は、前記方法に加えて、基板52(又は基板62)上に磁性層を形成する工程は、スパッタガスにXeガス、又はKrガスを用いることが好ましい。
基板52(又は基板62)の凹部の側壁が基板表面に対して傾いている基板凹凸構造を備えた磁気記録媒体51及び磁気記録媒体61の製造方法の場合には、Arガスで作製した磁気記録媒体51及び磁気記録媒体61に比べて、同じ基板52(又は基板62)の凹部の側壁の基板表面に対する傾斜において、安定保持できる記録ビット半径が小さく、記録密度が向上した磁気記録媒体51及び磁気記録媒体61の作製が可能である。
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
(1) なお、本発明の磁気記録媒体は、基板上に、磁気情報が記録される磁性層を有し、前記磁性層は異なる磁気異方性を持つ領域a(第1領域)と領域b(第2領域)とを有し、磁性層の面内方向に領域aが領域bに囲まれて形成され、領域aの方が領域bよりも磁気異方性が大きくても良い。
(2) また、本発明の磁気記録媒体は、基板上に、磁気情報が記録される磁性層を有し、前記磁性層は異なる磁気異方性を持つ領域aと領域bとを有し、磁性層の面内方向に領域aが領域bに囲まれて形成され、領域aの方が領域bよりも磁気異方性が大きく、且つ、領域bは基板と磁性層との間に有機物層が形成されていても良い。
(3) また、(1)又は(2)の磁気記録媒体においては、記録磁区が前記領域aに記録され、且つ、前記記録磁区の面積が、前記領域aの面積よりも大きくても良い。
前記(1)〜(3)の磁気記録媒体によれば、領域aに記録された記録磁区が、領域bに拡大して保持されるため、記録磁区から発生する漏洩磁界を大きくでき、引いては、再生信号品質を向上できる。また、記録磁区が拡大することで記録磁区の体積が増加し、熱揺らぎに対する耐性の高い磁気記録媒体が提供できる。さらに、2つ以上の高Ku領域に跨って磁気情報が記録された際、間に存在する低Ku領域が、高Ku領域との交換結合力により、高Ku領域と同じ磁化方向となる。これによっても、記録磁区の面積が大きくなり記録磁区から発生する漏洩磁界を大きくできるとともに、記録磁区の体積が増加するので、熱揺らぎに対する耐性の高い効果が得られる。
(4) また、(1)〜(3)の磁気記録媒体においては、領域bが非晶質の磁性材料で形成されていても良い。
前記(4)の磁気記録媒体においては、領域bが非晶質材料で形成されているため、領域bが結晶質の磁性材料で形成された場合に比べて、領域b中の磁気特性を均一にできる。このため領域b内における記録磁区の磁壁移動が効率良く実現できるので、記録磁区の拡大がスムーズに行われ、記録磁区を効率的に大きくできる効果が得られる。
(5) (1)〜(4)の磁気記録媒体においては、領域aと、前記領域bとが、ともに非晶質の磁性材料で形成されていても良い。
前記(5)の磁気記録媒体においては、領域aと領域bがともに非晶質材料で形成されているため、結晶質の磁性材料で形成された場合に比べて領域a中及び領域b中の磁気特性を均一にできる。このため磁性層全域に渡る記録磁区の磁壁移動が効率良く実現できるので、記録磁区の拡大がスムーズに行われ、記録磁区をより効率的に大きくできる効果が得られる。
(6) (1)〜(5)の磁気記録媒体においては、領域aと、前記領域bとが、ともに希土類金属と遷移金属を含むフェリ磁性体で形成されていても良い。
前記(6)の磁気記録媒体においては、(1)〜(5)の効果に加えて、キュリー温度を比較的低くしながら室温での保磁力を大きくできるため、光又は熱と磁界とを利用して磁気情報を記録する光(熱)アシスト磁気記録方式に好適な磁気記録媒体を提供できる。
(7) (2)の磁気記録媒体においては、前記領域aと前記領域bとが、同一の磁性材料で形成されていても良い。
前記(7)の磁気記録媒体においては、一度の磁性層成膜によって領域aと領域bとを同時に形成できるため、製造工程を簡略化できるとともに、磁性層加工時に生じうる酸化劣化等の問題を回避できる効果が得られる。
(8) (2)又は(7)の磁気記録媒体においては、有機物層の構成材料がシラン化合物であっても良い。
(9) (2)、(7)又は(8)の磁気記録媒体においては、有機物層表面が高い撥水性を示しても良い。
前記(8)、(9)の磁気記録媒体においては、有機物層上に形成される磁性層の磁気特性を変化させKuを低くする効果が高いので、領域aと領域bの磁気特性差を大きくできる。従って、領域aから領域bに記録磁区を拡大させる力を強めることができ、記録磁区が拡大する作用をより大きく得られる。
(10) 本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に、磁気情報が記録される磁性層を有し、前記磁性層は磁気異方性が異なる領域aと領域bとを有し、磁性層の面内方向に領域aが領域bに囲まれて形成され、領域aの方が領域bよりも磁気異方性が大きい磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法は、基板上に領域aを構成する磁性材料を全面に形成する工程と、前記磁性材料を部分的にエッチングする工程と、前記部分的にエッチングした領域に領域bを構成する磁性材料を埋め込む工程とを、有していても良い。
(11) 本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に、磁気情報が記録される磁性層を有し、前記磁性層は磁気異方性が異なる領域aと領域bとを有し、磁性層の面内方向に領域aが領域bに囲まれて形成され、領域aの方が領域bよりも磁気異方性が大きい磁気記録媒体を製造する、磁気記録媒体の製造方法は、基板上に領域bを構成する磁性材料を全面に形成する工程と、前記磁性材料を部分的にエッチングする工程と、前記部分的にエッチングした領域に領域aを構成する磁性材料を埋め込む工程とを、有していても良い。
前記(10)又は(11)の製造方法を用いれば、磁気記録媒体の領域aと領域bの境界を明瞭に形成できるため、領域aと領域bとの境界部で記録磁区を拡大させる効果が高い磁気記録媒体を提供できる。また、磁気記録媒体表面を極めて平滑に形成できるため、磁気ヘッドが接触や衝突することによる磁気ヘッドと磁気記録媒体の損傷を防ぐことができる。
(12) 本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に、磁気情報が記録される磁性層を有し、前記磁性層は磁気異方性が異なる領域aと領域bとを有し、磁性層の面内方向に領域aが領域bに囲まれて形成され、領域aの方が領域bよりも磁気異方性が大きく、且つ、領域bは基板と磁性層との間に有機物層が形成されている磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法は、基板上に撥水性を有する有機物層を部分的に形成する工程と、前記有機物層が部分的に形成された基板上に磁性材料を全面に形成する工程とを有していても良い。
前記(12)の製造方法を用いれば、(10)、(11)の製造方法の効果に加え、磁性材料をエッチングする工程が不要となるので、磁性材料に希土類金属等の酸化劣化しやすい材料を用いる場合においても耐久性の高い磁気記録媒体を提供できる。
(13) (12)の磁気記録媒体の製造方法においては、前記磁性材料をKr又はXeガス雰囲気中で形成しても良い。
前記(13)の製造方法においては、有機物層上に形成される磁性層の磁気特性をより大きく変化させKuを低くする効果がより高い。さらに、有機物層が無い領域に形成される磁性層のKuを大きくできる。このため、領域aと領域bの磁気特性差がさらに大きくなり、記録磁区を領域aから領域bに拡大させる力をさらに強めることができる磁気記録媒体を提供可能となる。
(14) (1)〜(10)の磁気記録媒体に磁気情報を記録するための磁気情報記録方法は、前記領域aの少なくとも一つをはみ出して記録磁界が印加されても良い。
前記(14)の磁気情報記録方法を用いれば、磁気記録媒体に形成された記録磁区の少なくとも一部が領域aと領域bとの境界部よりも外側にはみ出して形成されるので、記録磁区が磁壁エネルギーの影響で縮小、消滅してしまうことを防ぐことができる。
以上より、パターンドメディアと同じ面記録密度を保ちつつ広い面積から漏洩磁界を発生させることが可能であり、かつ熱揺らぎに対する耐性も高い磁気記録媒体などを提供することができる。
なお、本発明の磁気記録媒体は、表面に複数の凸部と、前記凸部を個々に囲む凹部とを有する基板と、前記凹凸構造の上に連続的に形成された磁性体とを少なくとも備え、前記磁性体のうち、前記基板の凹部上に形成された磁性体(第1領域)の基板面に垂直な方向の磁気異方性定数Ku’が、前記基板の凸部上に形成された磁性体(第2領域)の基板面に垂直な方向の磁気異方性定数Kuに比べて小さく、かつ、磁性体表面における凹凸深さt1が基板表面における凹凸深さt2未満であっても良い。
また、本発明の磁気記録媒体は、表面に連続的に形成された凸部と、前記凸部を両側から挟む凹部とを有する基板と、前記凹凸構造の上に連続的に形成された磁性体とを少なくとも備え、前記磁性体のうち、前記基板の凹部上に形成された磁性体の基板面に垂直な方向の磁気異方性定数Ku’が、前記基板の凸部上に形成された磁性体の基板面に垂直な方向の磁気異方性定数Kuに比べて小さく、且つ、磁性体表面における凹凸深さt1が基板表面における凹凸深さt2未満であっても良い。
これらによれば、基板凹部上に形成される磁性体の基板面に垂直な方向の磁気異方性定数Ku’が、基板凸部上に形成される磁性体の基板面に垂直な方向の磁気異方性定数Kuよりも小さいことで、基板凸部上に形成される磁性体においては熱揺らぎに対して安定な高Kuを有し、且つ、隣接する基板凸部上に形成される磁性体同士の磁気的な結合力は弱いために、基板凸部上に形成される磁性体のサイズ並びに基板凹部幅を小さくしても、凸部上に形成される磁性体の磁気情報を個々に独立して安定に保つことができる。
加えて、磁性体表面における凹凸深さt1が基板表面における凹凸深さt2未満である。すなわち、凹部が磁性体によって埋められた状態にある。上述のように凹部上の磁性体の磁気異方性定数Ku’が凸部上に形成された磁性体の磁気異方性定数Kuよりも小さいために凹部が磁性体で埋まっていても、凸部上に形成される磁性体が個々の磁気情報を安定保持できるため、凹凸が小さく、ヘッドの浮上安定性が高く、且つ十分な再生信号強度が得られる磁気記録媒体を提供できる。
また、本発明の磁気記録媒体は、前記基板の凹部上に形成された磁性体が、基板面に対して垂直な方向の磁気異方性よりも、基板面に対して平行な方向の磁気異方性の方が、より強い磁気異方性を持っても良い。
これによれば、凹部において基板面に対して平行な磁気異方性が強い特性を得られるので、基板凸部上に形成された垂直磁化の記録ビットの情報を基板凹部上に形成された磁性体が転写することがなく、隣接する記録領域同士が個別の情報を安定保持できる。
また、本発明の磁気記録媒体は、前記磁性体の前記凸部上に形成された高Ku領域を、主に磁気情報を記録する記録領域として用い、前記凹部上に形成された低Ku領域を、主に磁気情報を記録しない非記録領域として用いても良い。
これによれば、基板凸部上に形成された磁性体の基板面に垂直な方向の磁気異方性定数Ku’が、基板凹部上に形成された磁性体の基板面に垂直な方向の磁気異方性定数Kuよりも小さいことで、記録領域においては熱揺らぎに対して安定な高Kuを有する高Ku領域を実現し、且つ、隣接する高Ku領域同士の磁気的な結合力は弱いために、高Ku領域、すなわち記録ビットのサイズを小さくしても、記録ビットの情報を個々に独立して安定に保つことができる。磁気記録媒体上から磁気ヘッドを用いて記録再生する場合、凸部上の高Ku領域は凹部上の低Ku領域より磁気ヘッドに近くなるために、より低い磁界出力で記録が行え、かつ大きな再生信号が得られる。
また、本発明の磁気記録媒体は、前記基板の凹部の溝幅t3が磁性体の膜厚t4の2倍未満、且つ、基板表面における凹凸深さt2未満であっても良い。
これによれば、基板凹部上に形成される低Ku領域の磁性体が、向かい合った基板凹部側面からそれぞれ膜成長し、基板凹部内でそれぞれの磁性体が基板凹部を埋めて、互いに接触し、基板面に対して平行な磁気異方性がさらに強い特性を得られるので、基板凸部上に形成された記録ビットの情報を基板凹部上に形成された磁性体が転写することがなく、隣接する記録ビット同士が個別の情報をより安定に保持できる。
また、本発明の磁気記録媒体は、前記磁性体は非晶質磁性体であっても良い。
これによれば、結晶質の金属材料を磁性体に用いる場合に比べて、格子欠損や記録ビット中での意図しない結晶方位の変化等によって、磁気記録媒体中の個々の記録ビットの磁気特性分散を生じることなく、各ビットが同等の磁気特性を示すことから、安定な性能の磁気記録媒体を提供するのに好適である。
また、本発明の磁気記録媒体は、前記磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される希土類金属とFe、Coから選択される3d遷移金属とを含んで成っても良い。
これによれば、希土類金属と3d遷移金属の互いの磁化が反平行に揃うフェリ磁性体となり、合金組成を調整して室温近傍に補償点を設定し、室温で高保磁力を得られるので、記録情報を安定に保持できるとともに、キュリー温度を比較的低く設定できるため、光(熱)アシスト磁気記録に好適な磁気記録媒体を提供できる。また、Tb、Fe、Coの合金は高い垂直磁気異方性エネルギーを得られるので、本願の磁気記録媒体として用いるのに好適である。
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、表面が凹凸構造である基板を形成する工程と、この基板上に磁性体を形成する工程とを含んでも良い。
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、前記基板に凹凸構造を形成する工程は、基板上にAlを成膜する工程を有しても良い。
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、前記基板に凹凸構造を形成する工程は、基板上のAlをマスクとして基板をエッチング加工する工程と、その後、Alを剥離する工程とを有しても良い。
これらによれば、磁性体を切削加工せずとも、簡易な製造方法で前記特徴を持った磁気記録媒体を形成することができる。
また、本発明の磁気記録媒体は、前記基板の基板凹部側壁が基板面に対して傾いており、基板凹部側壁の基板面に対する傾斜が65度以上90度以下であっても良い。
これによれば、高Ku領域に記録された情報を、隣接する低Ku領域、あるいは隣の高Ku領域に磁気転写させる隣接ビット間の磁気的結合の状態が変化することによって、記録ビットが安定する効果を有する。このことは、低Ku領域の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性Ku’を高Ku領域の基板面Sに垂直な方向の磁気異方性Kuより小さくすることと相まって、より小さな高Ku領域が個々に独立して情報保持できることに寄与する。
また、本発明の磁気記録媒体は、前記磁性体中にXe、Krを含んでいても良い。
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、前記基板上に磁性体を形成する工程は、スパッタ成膜ガスにXeガス、Krガスを用いても良い。
これらによれば、Arガスで作製した磁気記録媒体に比べて、同じ基板凹部側壁の基板面に対する傾斜において、安定保持できる記録ビット半径rが小さく、記録密度が向上した磁気記録媒体の作製が可能である。