JP2009011229A - 酸性濃厚流動食用ゲル化剤、及び該ゲル化剤を用いて調製された酸性ゲル状濃厚流動食 - Google Patents

酸性濃厚流動食用ゲル化剤、及び該ゲル化剤を用いて調製された酸性ゲル状濃厚流動食 Download PDF

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Abstract

【課題】pHが3〜4といった低pHの酸性濃厚流動食であっても、均質化工程を経ずに、タンパク質や脂質の凝集がない滑らかなゲル状物を調製することが可能な酸性濃厚流動食用ゲル化剤を提供する。
【解決手段】酸性濃厚流動食用ゲル化剤として、脱アシル型ジェランガム、グルコマンナン及び/又はグァーガムを併用する。
【選択図】図2

Description

本発明は、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として用いられる酸性ゲル状濃厚流動食を調製するためのゲル化剤に関する。詳細には、pHが3〜4といった低pHにおいてもタンパク質や脂質が凝集、分離することなく滑らかな外観、食感を有する酸性ゲル状濃厚流動食を調製することができる、ゲル化剤に関する。更には口腔・咽頭や、経管投与用のチューブへの付着性が少なく、特に経管投与用の咀嚼・嚥下困難者用食品として適した酸性ゲル状濃厚流動食を提供できるゲル化剤に関する。
濃厚流動食には、体に必要な各種の栄養素(タンパク質、糖質、脂質、ミネラル、ビタミン、水分等)が十分量バランスよく配合されており、食物の咀嚼・嚥下が困難な患者の他、寝たきり老人等の高齢者に必要な栄養を補給する栄養食として広く使用されている。係る濃厚流動食は、咀嚼・嚥下困難者への経口摂取を目的として、ゲル化剤を用いて以下に係る物性を付与することが試みられている。1)適度なかたさを有すること、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)に優れること、3)口腔及び咽頭への付着性が小さいこと、及び4)保水性が高いこと(離水が少ないこと)。例えば、糖質30〜90重量%、脂質5〜40重量%、タンパク質2〜60重量%、ゲル化剤を0.2〜5重量%含有してなる複合栄養補給用ゲル状食品であって、ゲル化剤として、ペクチン、ファーセレラン、カラゲーナン、寒天、ローカストビーンガム、グァーガム及びアラビアガムからなる群から選択される少なくとも一種を用いる技術(特許文献1)などである。
更に、経口摂取が難しい患者には、経鼻・経口経管栄養法や胃瘻・腸瘻経管栄養法が用いられている。ここで、経鼻・経口経管栄養法は、鼻または口から挿入して食道、胃、十二指腸、空腸の何れかの部位まで到達させたチューブを介して、また胃瘻・腸瘻経管栄養法は、食道や胃、空腸(多くは胃)に手術的または内視鏡的に外瘻を増設して留置したチューブを介して、濃厚流動食を持続的に投与する方法である。特に、経管投与(経管栄養法)に用いられる濃厚流動食は、細菌汚染の観点からpHを酸性側に調整する必要があり、酸性領域においても良好なチューブ流動特性(チューブ付着性、チューブ詰まりの防止等)を備えることが求められている。
濃厚流動食やタンパク質含有食品にジェランガムを用いた技術としては、ゲル化剤として、ジェランガム、カラギーナン、グルコマンナン及びローカストビーンガムを含有する高タンパクゲル状食品(特許文献2)、ジェランガムを含有する、総合栄養補給用ゲル状飲料組成物(特許文献3)、少なくとも食物繊維及びジェランガムを含み均質化されていることを特徴とする濃厚流動食(特許文献4)、及びゲランガム及びアルギン酸を配合したことを特徴とする経管栄養食品用ゲル化剤(特許文献5)が開示されている。また、特許文献6には、ペクチン、二価金属イオン、ゲル化剤としてジェランガムを含有し、タンパク質含量が0.1〜10重量%である不均一系ゲル組成物が咀嚼・嚥下困難者用食品として適用できることが開示されているが、むしろ特許文献6に記載の発明は食品中でのペクチンの凝集ゲル化を利用した発明である。
特開2006−248981号公報 特開2006−304727号公報 国際公開第04/010796号パンフレット 特開2003−289830号公報 特開2000−169396号公報 国際公開第01/95742号パンフレット
しかし、タンパク質や糖質、脂質を多量に含有する濃厚流動食は、特許文献2に開示されているような通常の水系ゲル状食品とは異なり、脂肪や糖質、タンパク質を複合的に含むため、ゲル化剤を添加した場合に、タンパク質の凝集や脂質の分離が生じ、最終食品が荒れ、ザラツキや離水が生じる、ゲル状食品の付着性が強く、咀嚼・嚥下困難者用として適した物性を付与できないなどの各種問題を抱えていた。実際、特許文献1に開示されているペクチン等を用いてゲル状濃厚流動食を用いた場合は、形成されたゲルの付着性が高く、咀嚼・嚥下困難者用として適した物性を付与できなかった。更に、特許文献1に開示されている栄養補給用ゲル状飲料は、そのゲル自体がタンパク質の等電点ゲル(タンパク質から形成されるゲル)と例えばペクチン、キサンタンガムなどのゲル化剤(増粘剤)のゲルとの複合ゲルであることを必須としている。このため、タンパク質を凝集(ゲル化)後、ホモジナイズし、得られる乳化液をゲル化剤によるゲル化したものであるため、ホモジナイズの程度によってはタンパク質のゲルが舌触りに悪影響を与える不利があった。
特に、経管投与(経管栄養法)に用いられる濃厚流動食は、細菌汚染の観点からpHを酸性側に調整する必要があるが、pH3〜4といった酸性条件下では、脂質を含有する濃厚流動食をゲル状に調製すること自体が困難であり、通常市販されているゲル状濃厚流動食は主にpH6.0〜7.5程度の中性タイプのものである。また、たとえ酸性濃厚流動食をゲル化した場合であっても、従来のゲル化剤を用いた場合は、酸性側に等電点を有するタンパク質の凝集・沈殿が顕著に発生する、脂質が分離しゲル状物が均一とならない等、もはや咀嚼・嚥下困難者用の経口・経管ゲル状濃厚流動食として適用できるものではなかった。実際、特許文献6に開示のジェランガムとアルギン酸を併用した経腸栄養食品用ゲル化剤も、胃内に到達した後はゲル化するが、チューブ内ではゲル化させず流動性を付与させることを特徴としている。このように、ジェランガム単独(特許文献3、4)や、ジェランガムとアルギン酸を併用した場合は(特許文献5)、タンパク質の凝集・沈殿や脂質の分離が顕著に発生し、食感がざらつく、経管投与に使用するチューブが詰まる等の問題点を抱えていた。
更に、咀嚼・嚥下困難者用の経口・経管投与に用いられる食品に、求められる重要な物性の一つとして付着性(チューブ付着性)が小さいことが挙げられるが、濃厚流動食はタンパク質、糖質、脂質含量が高いため、通常の咀嚼・嚥下困難者用食品に比較して格段にチューブ付着性が大きくなる傾向がある。加えて、現状の増粘剤やゲル化剤は、チューブに対する付着性が強く、注入が困難になったり、経管投与後に洗浄しても、チューブに付着物が残り、微生物増殖の原因となるなど、咀嚼・嚥下に適したゲル強度(かたさ)を付与しつつも、付着性を小さくすることが課題とされてきた。
そこで本発明は、酸性の濃厚流動食であってもタンパク質や脂質が凝集、分離することなく、咀嚼・嚥下困難者用に適したゲル強度(かたさ)を付与することができる、酸性濃厚流動食用ゲル化剤を提供することを目的とする。更には、咀嚼・嚥下に適したゲル強度(かたさ)を付与しつつも、口腔・咽頭やチューブへの付着性の小さい、酸性濃厚流動食用ゲル化剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、ジェランガム、及びグルコマンナン及び/又はグァーガムを酸性ゲル状濃厚流動食用ゲル化剤として用いることにより、タンパク質や脂質が凝集、分離してゲル状濃厚流動食が荒れることなく、咀嚼・嚥下困難者用食品として適したゲル状濃厚流動食を提供できることを見出して本発明に至った。更に、本発明の酸性濃厚流動食用ゲル化剤は、脂質、糖質、及びタンパク質含量の高い濃厚流動食を用いているにも関わらず、口腔・咽頭やチューブへの付着性が小さく、特に経管投与用の酸性濃厚流動食用ゲル化剤として適していることを見出して本発明を完成した。
本発明は、以下の態様を有する咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を調製するためのゲル化剤に関する;
項1.脱アシル型ジェランガム、及びグルコマンナン及び/又はグァーガムを含有することを特徴とする酸性濃厚流動食用ゲル化剤。
項2.以下の条件を満たす濃厚流動食に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の酸性濃厚流動食用ゲル化剤;
タンパク質 3〜12質量%、
脂質 2〜10質量%、
糖質 10〜30質量%、
pH3〜4。
項3.脱アシル型ジェランガム1質量部に対し、グルコマンナン及び/又はグァーガムを1〜30質量部含有することを特徴とする、項1又は2に記載の酸性濃厚流動食用ゲル化剤。
項4.酸性濃厚流動食が経管投与に用いられることを特徴とする、項1〜3のいずれかに記載の酸性濃厚流動食用ゲル化剤。
更に、本発明は以下の態様を有する酸性ゲル状濃厚流動食に関する;
項5.項1〜4のいずれかに記載の酸性濃厚流動食用ゲル化剤を添加することにより調製された酸性ゲル状濃厚流動食。
従来は、ゲル化物を調製すること自体が困難とされていた酸性濃厚流動食を用いて、咀嚼・嚥下困難者用食品、特には、経管投与用食品として適した、酸性のゲル状濃厚流動食を提供することができる。詳細には、本発明に係る酸性濃厚流動食用ゲル化剤は、pHが3〜4といった低pHの酸性濃厚流動食であっても、均質化工程を経ずに、タンパク質や脂質の凝集がない滑らかなゲル状物を調製することが可能であるため、咀嚼・嚥下困難者やその介護者が簡便に酸性のゲル状濃厚流動食を調製することができる。加え、調製された酸性ゲル状濃厚流動食は口腔・咽頭やチューブへの付着性が小さく、特に経管投与用食品として適している。
本発明の酸性濃厚流動食用ゲル化剤は、脱アシル型ジェランガム、グルコマンナン及び/又はグァーガムを含有することを特徴とする。
本発明で用いる脱アシル型ジェランガムは、Sphingomonas elodeaが産出する発酵多糖類を脱アセチル化したものである。この多糖類は、グルコース、グルクロン酸、グルコースととL−ラムノースの4つの糖の反復ユニットで直鎖状に結合したものである。なお、脱アシル型ジェランガムの商業的に入手可能な製品として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のゲルアップ[商標]K−S、ケルコ社製のケルコゲルなどを挙げることができる。
本発明で用いるグルコマンナンは、コンニャク芋に含まれる多糖類であり、D−グルコースとD−マンノースがほぼ、1:1.6のモル比で、β−1,4結合により多数結合した複合多糖類(難消化性多糖類)であり、その分子量は約100万〜200万である。
本発明で用いるグァーガムは、豆科の1年草の植物グァープラントの種子の胚乳から得られる主としてマンノースとガラクトースからなる多糖類を主成分とするガラクトマンナンである。詳細には、β−1,4−D−マンナンの主鎖骨格に側鎖としてα−D−ガラクトースが1,6結合した、マメ科植物由来の中性多糖類であり、食品産業界では増粘剤として、ソース類、麺類、アイスクリーム類等に使用されている。グァーガム中のマンノースとガラクトースの比率は約2:1で、工業的に生産されている他のガラクトマンナン類(タラガム、ローカストビーンガム)に比べて側鎖基含量が高く、水への溶解性も高い。なお、グァーガムには精製タイプ、未精製タイプのいずれもが適応可能である。
本発明のゲル化剤は、脱アシル型ジェランガム1質量部に対し、グルコマンナン及び/又はグァーガムを1〜30質量部含有することが好ましい。上記割合にて脱アシル型ジェランガムとグルコマンナン及び/又はグァーガムを併用することにより、タンパク質、脂質、及び糖質を高添加量含有する酸性濃厚流動食であっても、ゲル化剤を用いてゲル化、もしくは半固形化した場合に生じるタンパク質の凝集・沈殿や、脂質の分離を顕著に抑制でき、栄養素に優れながらも、咀嚼・嚥下困難者用食品として適した酸性ゲル状濃厚流動食を調製することができる。特に、pHが3〜4の低pHの酸性濃厚流動食を脱アシル型ジェランガム単独でゲル化させた場合は、タンパク質の凝集や沈殿が顕著に発生し、ゲル状濃厚流動食の食感がざらつき、咀嚼・嚥下困難者用として適した物性を付与できないが、グルコマンナン及び/又はグァーガムと併用することにより、均質化工程を経ずとも滑らかな食感の酸性ゲル状濃厚流動食となる。
更に、本発明の酸性濃厚流動食用ゲル化剤を用いて調製された酸性ゲル状濃厚流動食は、上記割合にて脱アシル型ジェランガム、及びグルコマンナン及び/又はグァーガムを併用することにより、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として適したゲル強度(かたさ)を付与しつつも、口腔・咽頭やチューブへの付着性が小さくなる。ここで、口腔・咽頭への付着性が大きいと、咀嚼・嚥下困難者用食品として適したゲル強度(かたさ)が付与されている場合であっても、嚥下自体が困難になる。また付着性の大きい酸性ゲル状濃厚流動食を経管投与に用いた場合は、経管投与自体の時間が増大したり注入が困難になる他、経管投与後にチューブを洗浄しても、チューブ内壁に付着物が残り、細菌汚染のリスクが生じてしまう。係る点、本発明の酸性濃厚流動食用ゲル化剤を用いて調製した酸性ゲル状濃厚流動食は、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として適したゲル強度(かたさ)を付与しつつも、付着性が小さく、特に経管投与用の酸性濃厚流動食用ゲル化剤として好適である。
本発明のゲル化剤が対象とする酸性濃厚流動食の好適な例としては、下記タンパク質、脂質、糖質含量及びpHを有する酸性濃厚流動食を挙げることができる。タンパク質:3〜12質量%、脂質:2〜10質量%、糖質:10〜30質量%、及びpH3〜4である酸性濃厚流動食。以下、本発明で用いられる酸性濃厚流動食を構成する各成分につき詳述する。
タンパク質
本発明の酸性濃厚流動食を構成するタンパク質としては、従来から食品に汎用されているものであれば特に限定されず、各種タンパク質を用いることができる。具体的には、脱脂粉乳、脱脂豆乳粉末、カゼイン、ホエイタンパク質、全乳タンパク質及び大豆タンパク質、小麦タンパク質、上記タンパク質の塩類分解物等が挙げられる。係るタンパク質、特に乳タンパク質は酸性条件下で著しく凝集する傾向を示す。しかし、本発明に係るゲル化剤を用いた場合は、乳タンパク質を含有する場合においても、タンパク質の凝集や沈殿が抑制され、滑らかな食感で付着性の小さい酸性ゲル状濃厚流動食を提供できる。本発明の対象である酸性濃厚流動食中のタンパク質の含有量としては、1〜20質量%、好ましくは3〜12質量%である。
脂質
本発明の酸性濃厚流動食を構成する脂質は、一般に食用として利用されている脂質であれば特に限定されず、各種脂質を用いることができる。具体的には、大豆油、綿実油、サフラワー油、コーン油、米油、ヤシ油、シソ油、ゴマ油、アマニ油等の植物油や、イワシ油、タラ肝油等の魚油、ガマ油等の、必須脂肪酸源としての長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)を挙げることができる。また、該脂質成分は、好ましくは通常炭素数が8〜10である中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)であることもできる。長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)に代わり、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を用いることによって、経口、経腸投与後の脂質の吸収性を高めることが可能であるが、MCTを用いることによって濃厚流動食の付着性が大きくなったり、固形物が沈殿する傾向がみられる。しかし、本発明に係るゲル化剤を用いた場合は、MCTを含有する場合においても、脂質の分離や固形物の沈殿を抑制し、更に付着性の小さい酸性ゲル状濃厚流動食を提供できる。本発明の対象である酸性濃厚流動食中の脂質の含有量としては、1〜20質量%、好ましくは2〜10質量%である。
糖質
本発明の酸性濃厚流動食を構成する糖質は、一般に食用として利用されている糖質であれば特に限定されず、各種糖質を用いることができる。具体的には、グルコース、フラクトース等の単糖類、マルトース、蔗糖等の二糖類等の通常の各種の糖類や、キシリトール、ソルビトール、グリセリン、エリスリトール等の糖アルコール類、デキストリン、シクロデキストリン等の多糖類、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクトスクロース等のオリゴ糖類等が挙げられ、好ましくは、デキストリンを用いることができる。味覚に与える影響が糖質の中では低いためである。本発明の対象である酸性濃厚流動食中の糖質の含有量としては、5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%である。ここで、糖質の含有量が50質量%より高くなると、味や浸透圧に与える影響が大きくなり、また、粘度調製が難しくなるといった問題がある。
本発明で用いられる濃厚流動食は、酸性であることを特徴とする。一方、通常はpH3〜4といった酸性条件下では、タンパク質や脂質を高添加量含有する濃厚流動食をゲル状に調製すること自体が困難であり、通常市販されているゲル状濃厚流動食は主にpH6.0〜7.5程度の中性タイプのものである。しかし、中性タイプの濃厚流動食を用いた場合は、例えば経口用濃厚流動食であれば、添加する酸味料や果汁によって凝集を生じることがあり、味のバリエーションを付与することができない等の不具合があった。一方、経管投与に用いられる濃厚流動食であれば、中性タイプの濃厚流動食は、増殖できる微生物の種類が多いため、細菌汚染等のリスクが高く、長期の保存に適しにくいものであった。更に、中性タイプの濃厚流動食は、通常100℃以上(一般には120℃、10分間)の加熱殺菌処理が必要であり、栄養成分の損失や風味の劣化が起こるなどの不具合があり、酸性タイプのゲル状濃厚流動食が切望されていた。本発明のゲル化剤は、係る問題点に鑑みてなされた発明であり、タンパク質や脂質の凝集や分離を顕著に抑制し、長期保存にも適した酸性ゲル状濃厚流動食を提供することができる。本発明で用いられる酸性濃厚流動食のpHは2.8〜4.2、更に3.0〜4.0の範囲であることが好ましい。
また、本発明は、上記酸性濃厚流動食用ゲル化剤を添加することにより調製された、酸性ゲル状濃厚流動食に関する発明である。本発明の酸性濃厚流動食に対するゲル化剤の添加量としては、調製するゲル状食品の種類(経口、経管投与等)や、必要とされるゲル強度等によっても適宜調節することが可能であるが、具体的には、酸性ゲル状濃厚流動食に対し、脱アシル型ジェランガムが0.001〜1質量%、好ましくは0.005〜0.5質量%、更に好ましくは0.01〜0.3質量%、酸性ゲル状濃厚流動食に対し、グルコマンナン及び/又はグァーガムが0.05〜1.5質量%、好ましくは0.1〜1.0質量%、更に好ましくは0.2〜0.8質量%となるように添加することができる。
そして、酸性濃厚流動食をゲル化することによって、以下の利点が得られる。
(1)咀嚼・嚥下困難者の経口摂取が可能となる。なお、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品に適した物性として、前述のとおり、1)適度なかたさを有すること、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)に優れること、3)口腔及び咽頭への付着性が少ないこと、及び4)保水性が高いこと(離水が少ないこと)などが挙げられる。ゲル状濃厚流動食のゲル強度としては、20℃におけるゲル強度が5×10〜5×10N/m、好ましくは5×10〜5×10N/m、更に好ましくは5×10〜1×10N/mであることが挙げられる。この場合のゲル強度とは、厚生労働省特別用途食品「高齢者用食品」のかたさの測定方法で測定したときの圧縮応力をいう。なお、本発明においてゲル強度の測定は、テクスチャーアナライザー(TA−XT2i,Stable Micro Systems社)を用い、プランジャー:直径20mmの円柱形、圧縮速度:10mm/秒、クリアランス:5mmで行った。本発明のゲル化剤は、タンパク質、脂質及び糖質を複合的に含有し、安定的にゲルを形成しにくい酸性濃厚流動食であっても良好なゲル化性を示すため、品質の安定化が図れる。
(2)本発明の酸性ゲル状濃厚流動食を経管投与に用いた場合、液状の濃厚流動食を経管投与する場合に比べ、液漏れが少なく取り扱いに優れ、また一度に投与する濃厚流動食の量を多くすることができるため、その投与時間を大幅に短くすることができる。また、ゲル化(半固形化)されているため、経管投与に用いるシリンジの口径やチューブの内径、その他の条件に関わらず、一定したゲル強度のまま酸性ゲル状濃厚流動食を経管投与することが可能となる。更に、本発明のゲル化剤を用いて調製した酸性ゲル状濃厚流動食を経管投与した場合は、胃内部においても濃厚流動食の形状はゲル状を維持するため、経管投与した濃厚流動食が胃から逆流してしまう胃食道逆流やダンピング症候群を防ぐことができる。
(3)更に、本発明の酸性ゲル状濃厚流動食は、付着性に極めて優れている。前述したとおり、付着性が大きいと、嚥下性やチューブ残渣の衛生面から嚥下・咀嚼困難者用濃厚流動食としての適性を著しく低下させるが、本発明に係るゲル化剤を用いることにより、タンパク質、脂質及び糖質を高添加量含有する濃厚流動食を用いて、更にゲル化剤、増粘剤を用いても付着性の小さい酸性ゲル状濃厚流動食を調製できる。
本発明の濃厚流動食用ゲル化剤には、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、カラギナン(カッパ、イオタ、ラムダ、あるいはそれらのハイブリッド型など共重合物)、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、ガラクトマンナン(ローカストビーンガム、タラガム等)、タマリンドシードガム(側鎖を除去したものも含む)、カシアガム、サイリウムシードガム、大豆多糖類、ペクチン(ローメトキシル型、ハイメトキシル型、ローメトキシアミド型、シュガービード由来のペクチンなど)、アラビアガム、ガティガム、トラガントガム、カラヤガム、寒天、プルラン、カードラン、マクロホモプシスガム、ゼラチン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、水溶性ヘミセルロース、加工・化工でん粉、未加工でん粉(生でん粉)、デキストリンなどから選ばれる1種又は2種以上のゲル化剤、増粘剤等を併用することができる。酸性領域におけるタンパクの安定化目的で大豆多糖類、ペクチン及びCMCナトリウムからなる一種以上を好適に用いることができ、特に好ましいのは大豆多糖類である。
本発明のゲル化剤には、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート)、レシチン、ステアロイル乳酸塩(ナトリウムもしくはカルシウム)、ユッカ抽出物等の乳化剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、塩酸、塩化ナトリウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、フィチン酸等の有機酸、無機酸やその塩類を添加することができる。更には、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール等の糖アルコール類、スクラロース、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリン等の高甘味度甘味料類、カテキン、カルニチン、グルコサミン、コンドロイチン、イソフラボン、リグナン、プロポリス、コラーゲン、ヒアルロン酸等の機能性素材などを添加することができる。更に、天然香料、合成香料等の香料類、カラメル色素等の着色料、調味料を添加することができる。
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「質量部」、「%」は「質量%」を意味するものとする。
実験例1:酸性濃厚流動食用ゲル化剤の評価
(酸性濃厚流動食用ゲル化剤の調製)
下記、表1に示す処方に従い、各組成物を粉体混合し、実施例1〜4及び比較例1の酸性濃厚流動食用ゲル化剤を調製した。
Figure 2009011229
(酸性ゲル状濃厚流動食の調製)
下記、表2に記す添加量に従い、イオン交換水及びヤシ油を混合した溶液に、乳タンパク質濃縮物(MPC)、デキストリン、カゼインナトリウム、乳化剤(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製 ホモゲン※No.897:グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル含有製剤)、食物繊維(グァーガム分解物)を加え80℃で10分間加熱溶解した。この溶液に、別途調製しておいた10%大豆多糖類溶液を10質量部加え、更に混合したのち、酸性メタ燐酸ナトリウムでpH3.8に調整し、全量が50重量部になるようにイオン交換水にて補正した。補正後、均質機(14700kPa=150kgf/cm)に通し、酸性濃厚流動食用混合液(タンパク質4.4質量%、脂質2.8質量%、糖質14.3質量%)を得た。先に調製しておいた実施例1〜4及び比較例1からなる本発明のゲル化剤を、イオン交換水にて、80℃で10分間加熱溶解し、50重量部に調製した。上記酸性濃厚流動食用混合液と実施例1〜4、比較例1〜2の溶液とを各々混合攪拌した後、85℃で30分間殺菌し、酸性タイプのゲル状濃厚流動食を得た。得られた酸性ゲル状濃厚流動食を、外観、食感、付着性及び総合評価の観点で評価した。評価結果を表3に示す。
Figure 2009011229
Figure 2009011229
<評価基準>
外観:タンパク質の凝集、沈殿や脂質の分離が見られず良好な外観を示したものを◎、タンパク質の凝集、沈殿や脂質の分離が顕著に発生したものを×として、◎>○>△>×の4段階で評価した。
食感:滑らかな食感を有するものを◎、ざらつきが感じられるものを×として、◎>○>△>×の4段階で評価した。
喉への付着性:喉への付着性が小さく、飲み込みやすかったものを◎、喉への付着性が大きく粘りがあり、飲み込みにくかったものを×として、◎>○>△>×の4段階で評価した。
総合評価:◎>○>△>×の4段階で評価した。
実施例1〜4の酸性濃厚流動食用ゲル化剤を用いて調製された酸性ゲル状濃厚流動食は、酸性条件にも関わらず、タンパク質の凝集や脂質の分離が抑制され、ざらつきもなく、のどへの付着性も感じられず、良好な酸性ゲル状濃厚流動食となった。一方、比較例1及び2の酸性濃厚流動食用ゲル化剤を用いて調製された酸性ゲル状濃厚流動食は、食したときのざらつきが食味に大きな影響を与え、更にのどへの付着性も大きなものであった。
実験例2:酸性ゲル状濃厚流動食用ゲル化剤のチューブ流動特性評価
(酸性濃厚流動食用ゲル化剤の調製)
下記、表4に示す処方に従い、各組成物を粉体混合し、実施例5〜8及び比較例3の酸性濃厚流動食用ゲル化剤を調製した。
Figure 2009011229
(酸性ゲル状濃厚流動食の調製)
下記、表5に記す添加量に従い、イオン交換水及びヤシ油を混合した溶液に、乳タンパク質濃縮物(MPC)、デキストリン、カゼインナトリウム、乳化剤(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製 ホモゲン※No.897:グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル含有製剤)、食物繊維(グァーガム分解物)を加え80℃で10分間加熱溶解した。この溶液に、別途調製しておいた10%大豆多糖類溶液を10質量部加え、更に混合したのち、酸性メタ燐酸ナトリウムでpH3.8に調整し、全量が50重量部になるようにイオン交換水にて補正した。補正後、均質機(14700kPa=150kgf/cm)に通し、酸性濃厚流動食用混合液(タンパク質4.4質量%、脂質2.8質量%、糖質14.3質量%)を得た。先に調製しておいた実施例5〜8及び比較例2からなる本発明のゲル化剤を、イオン交換水にて、80℃で10分間加熱溶解し、50重量部に調製した。上記酸性濃厚流動食用混合液と実施例5〜8、比較例3の溶液とを各々混合攪拌した後、85℃で30分間殺菌し、酸性タイプのゲル状濃厚流動食を得た。
Figure 2009011229
(酸性ゲル状濃厚流動食のチューブ流動特性)
経管投与の際のチューブ流動性、付着性を検討するため、実施例5〜8及び比較例3のゲル化剤を用いて調製した酸性ゲル状濃厚流動食をシリコンチューブ(口径8mm)に注入し、水平状態にチューブをセットし、5mlの空気又はイオン交換水で試料を押し出し残存物を評価した。結果を図1(チューブ中の試料を空気で押し出した場合)及び図2(チューブ中の試料をイオン交換水で押し出した場合)に示す。
図1及び図2より、本発明のゲル化剤(実施例5〜8)を用いて調製された酸性ゲル状濃厚流動食は(図1及び2において上から1〜4番目)、比較例3のゲル化剤を用いて調製された酸性ゲル状濃厚流動食(図1及び2において一番下のチューブ)に比べ、空気又はイオン交換水で試料を押し出した際の残存物が少なく、チューブ流動性及びチューブ付着性(付着防止)に優れていた。特に、図2においてイオン交換水で本発明のゲル化剤(実施例5〜8)を用いて調製された酸性ゲル状濃厚流動食を押し出した場合は、チューブにゲル状濃厚流動食が付着することもなく、更に優れたチューブ流動性を示した。濃厚流動食は、タンパク質や脂質、糖質を高添加量で含み、更に本実験例2ではゲル化剤も含むため、比較例3のゲル化剤を用いて調製された流動食ではチューブの内壁に付着物が残存しやすい傾向を示すが、本発明に係るゲル化剤を用いることにより、付着性の小さい酸性ゲル状食品を調製することが可能である。これは、注入の容易さ、及び衛生上の観点からも、特に経管投与用の酸性ゲル状濃厚流動食として適した性質である。
本発明のゲル化剤を用いることにより、従来は、ゲル化物を調製すること自体が困難とされていた酸性濃厚流動食を用いて、咀嚼・嚥下困難者用食品、特には、経管投与用食品として適した、酸性のゲル状濃厚流動食を提供することができる。詳細には、本発明に係る酸性濃厚流動食用ゲル化剤は、pHが3〜4といった低pHの酸性濃厚流動食であっても、均質化工程を経ずに、タンパク質や脂質の凝集がない滑らかなゲル状物を調製することが可能であるため、咀嚼・嚥下困難者やその介護者が簡便に酸性のゲル状濃厚流動食を提供することができる。
実験例2において、調製した酸性ゲル状濃厚流動食を、シリコンチューブ(口径8mm)に注入し、水平状態にチューブをセットし、5mlの空気で試料を押し出した後のチューブの様子である。上から順に、実施例5〜8、及び比較例3のゲル化剤を用いて調製した酸性ゲル状濃厚流動食を試料として用いた。 実験例2において、調製した酸性ゲル状濃厚流動食を、シリコンチューブ(口径8mm)に注入し、水平状態にチューブをセットし、5mlのイオン交換水で試料を押し出した後のチューブの様子である。上から順に、実施例5〜8、及び比較例3のゲル化剤を用いて調製した酸性ゲル状濃厚流動食を試料として用いた。

Claims (5)

  1. 脱アシル型ジェランガム、及びグルコマンナン及び/又はグァーガムを含有することを特徴とする酸性濃厚流動食用ゲル化剤。
  2. 以下の条件を満たす濃厚流動食に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の酸性濃厚流動食用ゲル化剤;
    タンパク質 3〜12質量%、
    脂質 2〜10質量%、
    糖質 10〜30質量%、
    pH3〜4。
  3. 脱アシル型ジェランガム1質量部に対し、グルコマンナン及び/又はグァーガムを1〜30質量部含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸性濃厚流動食用ゲル化剤。
  4. 酸性濃厚流動食が経管投与に用いられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の酸性濃厚流動食用ゲル化剤。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の酸性濃厚流動食用ゲル化剤を添加することにより調製された酸性ゲル状濃厚流動食。
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