JP2009002042A - 耐震板壁の構造 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】木造建物における左右の柱間に横長帯板状の壁板2を多段に積み重ねて装着し、それら壁板間に形成される各段の横目地にダボを介装し、そのダボの全てもしくは一部を木製ダボ4に比較して減衰性能に優れる制震ダボ5とする。制震ダボ5は木材からなる本体部材と減衰材料からなる減衰部材とを組み合わせて一体化した構造とすることが好ましく、本体部材と減衰部材とをいずれも板状として減衰部材の両面に本体部材を一体に固着するか、柱状の本体部材に中心孔を設けて棒状の減衰部材を嵌入すると良い。制震ダボ5を耐震板壁全体に均等に分散配置するか、あるいは制震ダボ5を所定段の横目地にのみ集中配置して他の段の横目地には木製ダボ4を配置すると良い。
【選択図】図5
Description
これは、図11〜図12に示すように左右の柱1間にたとえば桧材からなる横長帯板状の壁板2を多段に積み重ねた状態で装着して板壁3を形成するものであるが、特に壁板2として貫2aと力板2bとを交互に組み合わせて使用するものである。
図12(b)に示すように、貫2aはその両端部が柱1に形成したほぞ穴1aに対して楔により係止されて装着されるものであるが、力板2bの両端部は柱1に形成した縦溝1bに単に差し込まれた状態で装着されるものである。
そして、この板壁3では各壁板2間(すなわち貫2aと力板2bとの間)に形成される各段の横目地に所定間隔で木製ダボ4を介装することによって、それら木製ダボ4により上下の壁板2間の水平方向の相対変位(すなわち横ずれ)が効果的に規制されるようになっている。木製ダボ4は一般的には欅材を素材としてたとえば図12(c)に示すような形状・寸法の角柱状ないし角棒状に加工されたものである。
特に、上述したように木製ダボ4による振動減衰効果が期待できるとはいえ、その効果には自ずと限界があり、現代建築に要求されるような高度の減衰性能を確保することは困難である。
そのため、この種の板壁3に高度の減衰性能を持たせるためには、たとえばオイルダンパーや鋼材ダンパーといった現代的な制震要素を組み込む必要があるが、伝統的な木造軸組に現代的なダンパーの類を違和感なく組み込むことは困難であるし、意匠的にもそぐわないものとなるので好ましいことではない。
具体的には、制震ダボにおける本体部材と減衰部材とをいずれも板状として減衰部材の両面に本体部材を一体に固着した構造のものや、本体部材を中心孔を有する柱状としてその中心孔に棒状の減衰部材を嵌入した構造のものが好適である。勿論、異なる構造の制震ダボを様々に組み合わせて使用することも考えられる。
勿論、本発明の耐震板壁は外観上は通常の板壁と変わるものではないし、施工手順も通常の板壁の場合と全く同様であり、制震ダボもさして特殊な素材や複雑な構造となるものではないから安価に製作可能であってそれに要するコストは些少であり、そのため、たとえば既存の板壁を改修する際に全てのもしくは一部の木製ダボを制震ダボに置換するだけで本発明の耐震板壁に改修することができ、特に老朽化した木造建物を改修する際に適用して好適である。
なお、以下で説明する制震ダボ5の形状や寸法、構造はあくまで一例であり、図示例のように通常の木製ダボ4と同等の外形・寸法とすることはもとより、板壁3を構成する壁板2(貫2aおよび力板2b)の素材や板厚、板壁3に要求される減衰性能や用途、その他の諸条件を考慮して、制震ダボ5の各部の形状や寸法、構造は適宜設計すれば良い。
本体部材6の素材としての木材は通常の木製ダボ4と同様にたとえば欅材が好適に採用可能であり、減衰部材7の素材としての減衰材料としては減衰性能に優れる金属材料たとえば鉛が好適に採用可能である。
本例の制震ダボ5Aはそれら本体部材6と減衰部材7をいずれも板状に加工し、減衰部材7を挟んでその両面側に本体部材6を貼り合わせて一体に固着したものとされている。
なお、図1において(a)に示すものと(b)に示すものは各部の寸法比が異なるだけで他は共通である。つまり、図1に例示しているように全体の外形寸法を図12(c)に例示した通常の木製ダボ4と同一形状、同一寸法とした場合において、(a)に示すものは減衰部材7の厚みを5.5mm(したがって本体部材6の厚みをそれぞれ7.75mm)としており、(b)に示すものは減衰部材7の厚みを2.0mm(したがって本体部材6の厚みをそれぞれ9.5mm)としており、両者の相違はその点だけである。
図3において(a)に示すものと(b)に示すものは、減衰部材7の径寸法が異なるだけで他は共通であり、全体の外形を21×21×45mmとした場合において(a)では減衰部材7の径寸法を12mmφとし、(b)では7mmφとしている。
すなわち、通常の木製ダボ4は剪断変形を受けてめり込み変形を生じた際にはすぐには元の形状に復帰せず、したがって繰り返し載荷時にはダボ穴との間に隙間が生じてスリップ的な復元力特性になる。つまり、その復元特性を表すQ(荷重)−δ(変位)ループは図4(a)に示すように全体的に横長のパターンとなってその履歴減衰は比較的小さいものであり、そのことが図11〜図12に示したような従来の板壁3においては必ずしも充分な振動減衰効果が得られない原因であると考えられる。
それ故に、図11〜図12に示した通常の板壁3における木製ダボ4の全てもしくは一部を上記のような制震ダボ5に置換することのみで、板壁全体としての減衰性能を向上させることができ、その耐震性能を向上させることが可能である。
図5(a)は通常の木製ダボ4のみを使用した通常の板壁3に相当するものであり、これは木製ダボ4の剛性による充分な復元力を有して粘り強い変形性能を持つものではあるが、上述したように充分な振動減衰効果が得られず板壁全体としての減衰性能は高くないものである。
これは図5(a)に示した通常の板壁3と、図5(b)〜(d)に示した実施形態の耐震板壁8A〜8Cとを併設したもので、図6に示しているように通常の板壁3を主に外陣の角部に配置することを基本としながら、大きな開口を必要とする正面部には耐震板壁8Aを配置することによって充分な剛性を確保しつつ減衰性能を向上させ、壁の集中する背面部は変形が小さいので耐震板壁8Bを配置し、適度に壁を確保し得る側面には耐震板壁8Cを配置している。
このように、建物の平面形状や開口部の位置等を考慮して各耐震板壁8を使い分けて適正配置することにより、建物全体の減衰性能や変形性能を効果的にかつバランス良く向上させることが可能である。
勿論、上記のように本発明の耐震板壁8と通常の板壁3とを組み合わせることに限らず、通常の板壁3を一切省略して全てを本発明の耐震板壁8としても良いし、その場合においては上記のように各種の耐震板壁8A〜8Cを混用することに限らずいずれかの構造の耐震板壁8のみを単独で使用しても差し支えない。
試験体は図7に示すように3枚の板(桧材:図11〜図12に示した板壁3における壁板2としての貫2aおよび力板2bに相当)にダボ2本を挟み込んだ左右対象な形状とし、中央の板に鉛直方向の繰り返し荷重を加えた。試験体の上端と左右端はボルトで留めた。板の間の隙間幅については加力開始時にはゼロとしたが、特に拘束することなく加力中にこれを一定に保つような措置はしていない。
それらのダボのうち、(a)に示すNo.A01と(b)に示すNo.A02は同一のものであって、これは図12(c)に示した単なる木製ダボ4(欅材)に相当するものであるが、向きを変えて別の試験体として試験を行った。
(c)に示すNo.A03は図1(a)に示した制震ダボ5Aであり、本体部材は欅材、減衰部材は厚さ5.5mmの鉛材とした。
(d)に示すNo.A04は図2に示した制震ダボ5Bであり、全体を無垢の鉛材とした。
(e)に示すNo.A05は図3(a)に示した制震ダボ5Cであり、本体部材は欅材、減衰部材は12mmφの鉛材とした。
図10に各試験体のQ−δループを示す。横軸の変位δは側板に対する中央板の加力方向の相対変位である。
全試験体ともQ−δループはスリップ性状を示し、正負で非対称となるが、これは正載荷側で板の角部がダボ両側面にめり込み、負載荷側に移行した際はこのめり込み分スリップした後にめり込みの底に角部が当たった所から荷重が上昇し始めるためと思われる。したがって、負側の荷重ピーク値のレベルはその1サイクル前の正側の荷重ピーク値のレベルに概ね等しくなる。
《No.A01およびNo.A02》
・板の角部とダボの接触点で双方が大きくめり込みながら変形の増加とともに荷重が増加していく。
・ダボの割れなどの損傷が広がった点で荷重最大となる。
・ダボの短いホゾ穴側が抜け出して側板と中央板の間に挟まれる形となり、ダボと板の接触面で滑るたびにパキパキ音とともに荷重の上下を繰り返しながら全体としては徐々に荷重が低下していく。
・ダボの抜け出しがある程度大きくなりダボが板に沿って滑るだけの状態になると荷重値がほぼ一定になる。
・板の角部とダボの接触点で双方がめり込むが、ダボの木部(本体部材)に比べて鉛部(減衰部材)の板の角部へのめり込みは小さい。
・ダボの損傷が大きくなる点で荷重最大となる。
・No.A01やNo.A02と同様、ダボの短いホゾ穴側が抜け出して側板と中央板の間に挟まれながら荷重の上下を繰り返すが、ダボの鉛部は木部とは別個に変形し続ける。
・ダボの木部の大部分と鉛部全体が2つに分断され、木部が板に沿って滑るだけの状態になると荷重値がほぼ一定になる。
・板の角部とダボの接触点で双方がめり込むが、板の角部へのめり込みよりもダボへのめり込みの方が大きい。
・ダボの損傷が大きくなる点で荷重最大となる。
・ダボが変形しながら荷重低下し、2つに分断された点で概ね荷重ゼロとなり、変形のみ進む。
・板の角部とダボの接触点で双方がめり込む。
・ダボの木部に大きな折損が生じた点で荷重最大となる。
・ダボの木部と鉛部が変形しながら荷重低下するが、ダボの木部が荷重最大時に大きく損傷したため、No.A01〜No.A03に比べて板との接触面での滑りは小さい。
本発明の制震ダボ5A〜5CであるNo.A03〜No.A05は、通常の木製ダボ4であるNo.A01やNo.A02に比べ、Q−δループ面積はそれぞれ約46%、8%、6%増大し、減衰材料としての鉛を組み込むことで図4に示したようなQ−δループの膨らみとそれによるエネルギー吸収能力の向上効果が実証された。
特に、No.A03タイプのもの、つまり図1に示したように減衰材料からなる板状の減衰部材7を木材からなる本体部材6に挟み込んで一体に固着した構造の制震ダボ5Aを使用し、その減衰部材7を加力方向に並行にした向きで使用した場合に最も大きな効果が見られた。
たとえば、上記実施形態では制震ダボ5における減衰部材7の材料として鉛を用いるものとしたが、それに限定すべきものではなく、所望の減衰性能が得られるものであれば鋼材やステンレスあるいはその他の金属材料、さらには各種の樹脂材料、プラスチック類等も減衰部材7の素材として採用可能である。勿論、本体部材6の材料である木材も欅材に限らず適宜の木材が採用可能である。
また、上記実施形態では制震ダボ5の外形をいずれも角柱状(角棒状)としたが、丸柱状(丸棒状)とする他、扁平な板状とすることも可能であるし、図3に示した制震ダボ5Cにおいては減衰部材7を丸棒状とすることに代えて角棒状とする(その場合は中心孔を角形断面とする)ことでも良い。
2 壁板
2a 貫
2b 力板
3 板壁
4 木製ダボ
5(5A、5B、5C) 制震ダボ
6 本体部材
7 減衰部材
8(8A、8B、8C) 耐震板壁
Claims (6)
- 木造建物における左右の柱間に横長帯板状の壁板を多段に積み重ねて装着し、それら壁板間に形成される各段の横目地に上下の壁板どうしの水平方向の相対変位を規制するダボを介装してなる耐震板壁の構造であって、
前記ダボの全てもしくは一部として、木製ダボに比較して減衰性能に優れる制震ダボを用いてなることを特徴とする耐震板壁の構造。 - 請求項1記載の耐震板壁の構造であって、制震ダボは木材からなる本体部材と、減衰材料からなる減衰部材とが組み合わされて一体化されてなることを特徴とする耐震板壁の構造。
- 請求項2記載の耐震板壁の構造であって、制震ダボにおける本体部材と減衰部材とがいずれも板状とされ、減衰部材の両面に本体部材が一体に固着されて制震ダボが形成されてなることを特徴とする耐震板壁の構造。
- 請求項2記載の耐震板壁の構造であって、制震ダボにおける本体部材が中心孔を有する柱状とされ、該本体部材における中心孔に棒状の減衰部材が嵌入されて制震ダボが形成されてなることを特徴とする耐震板壁の構造。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の耐震板壁の構造であって、制震ダボを耐震板壁全体に均等に分散配置してなることを特徴とする耐震板壁の構造。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の耐震板壁の構造であって、制震ダボを所定段の横目地にのみ集中配置して他の段の横目地には木製ダボを配置してなることを特徴とする耐震板壁の構造。
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