JP2010116973A - 履歴ダンパおよび木造構造物の壁 - Google Patents

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Abstract

【課題】履歴ダンパについてせん断と引張の耐力の差を小さくし、それぞれの変形方向に対処できるようにすること。
【解決手段】くの字状のエネルギ吸収子3をスリット4を介して複数本並列し、各エネルギ吸収子の両端部を対向する支持板2に架設する平板状の履歴ダンパ1において、エネルギ吸収子は、その板幅Wをくの字の頂部31に向かって徐々に狭くし、頂部の両側にくびれ部32を備える。エネルギ吸収子は、くの字の板幅方向における内辺33と外辺34を、くの字の内側に向かって凹む円弧状とする。エネルギ吸収子は、くの字の板幅Wの中心線Cが、くの字の内角が狭くなる方向に段階的に屈曲する複数の直線と、屈曲部分を繋ぐR曲線とから構成する。軸組み6とパネル7の間にはその全周に亘って内外方向に間隔Gを設け、履歴ダンパの一方の支持板をパネルに、他方の支持板を軸組みに留める。
【選択図】 図1

Description

本発明は、鋼材などの弾塑性材の変形に伴うヒステリシスを活用して地震エネルギを吸収する履歴ダンパおよびその履歴ダンパを使用する木造構造物の壁に関する。
木造構造物に制震性能を付与する構造として、粘弾性ダンパや粘性ダンパを、パネルや柱や梁等の骨組みに組み込んだものがある(特許文献1)。
しかし、粘性ダンパは振幅・振動数・温度によって性能が変化するため、設計時に配慮が必要となる。また、粘弾性ダンパは高分子のため、材料特性の経年変化にも考慮する必要がある。
ダンパの中でも履歴ダンパは、層間変形や層せん断力を低減するのに、粘性系ダンパよりも有効であるとされており、振幅・振動数・温度・経年変化による影響を受けないため、安定した性能が期待できる。
また、木造構造物として合板耐力壁および合板パネル耐力壁などを釘で接合する耐力壁式構造がある。地震時におけるこれら耐力壁の履歴挙動は、せん断力がかかる釘接合部の挙動に支配される。このような耐力壁式構造に制震技術を取り込みつつ、エネルギー吸収能を高めるために、釘の代わりに履歴ダンパを用いることを、まず本発明者は考えた。
また、上記考えに用いる履歴ダンパとして、本発明者は次のものに着目した。即ち、対向するベースプレート間に、板状の振動エネルギ吸収格子を架設し、振動エネルギ吸収格子がスリットを介して並列するくの字状のエネルギ吸収体で構成されたものである(特許文献2)。
そして、本発明者は、次の制震構造の木造構造物を試作した。それは、柱と梁で軸組みを矩形に組み、軸組みの内側にパネルをその全周に亘って間隔をあけて配置し、パネルと軸組みを上述の履歴ダンパに対してビス留めしてあるものである。この試作物に地震時の横方向の力を加える実験を行うと、ビス留め箇所から梁又は土台に割れが生じることがあった。
その原因は、以下の通りである。地震等によって建物に横方向の力が加わると、軸組みがせん断変形することになる。このとき、パネルと軸組みとの間に相対変位が生じ、この相対変位による変形を利用して履歴ダンパがエネルギを吸収する。履歴ダンパに生じる変形は、取付部位によって異なり、柱とパネルとの間の場合には主にせん断変形であり(軸方向の変形も少しある。)、梁又は土台とパネルとの間の場合には主に軸方向の変形、つまり圧縮と引張り変形である(せん断変形も少しある)。履歴ダンパは、この軸方向の変形が不十分であったため、地震エネルギを吸収しきれず、梁又は土台が割れたのである。つまり、従来の履歴ダンパは、せん断方向に対する耐力に比べて、引張方向の耐力が大きすぎたのである。履歴ダンパがエネルギ吸収体の板幅をくの字のどの箇所においても均一にしていることに、原因があると、本発明者は考えた。ちなみに、粘弾性ダンパは、変形の方向性がないため、せん断方向及び軸方向の変形に対応する。
特開2006−207292号公報 特開平2−300476号公報(第11図)
図8に示すグラフは、せん断又は引張り荷重に対する履歴ダンパの変位量をFEMで解析したものである。グラフ中の系列5、6は、上述した従来例の履歴ダンパの解析結果で、くの字の傾斜角度を45度とした場合のものである。系列5は、せん断荷重(上述した層間変形方向の荷重)がかかった場合、系列6は、引張り荷重(上述した層せん断方向の荷重)がかかった場合を示すものである。変位量10mmにおけるせん断と引張りの荷重の差は、系列5と6では、2.6倍となり、大きいことが分かる。
本発明は上記実情を考慮してなされたもので、その解決しようとする課題は履歴ダンパについてはせん断と引張の耐力の差を小さくし、それぞれの変形方向に対処できるようにすることである。また、その履歴ダンパを使って地震エネルギを十分に吸収できる木造構造物の壁を構築することである。
本発明の履歴ダンパは、くの字状のエネルギ吸収子をスリットを介して複数本並列し、各エネルギ吸収子の両端部を対向する支持板に架設してある平板状の履歴ダンパを前提とする。
そして、請求項1の発明は、エネルギ吸収子は、その板幅をくの字の頂部に向かって徐々に狭く形成し、頂部の両側にくびれ部を備えることを特徴とする。
エネルギ吸収子は、その内辺、および外辺の形状は問わず、例えば頂部に向かってその板幅の中心線が水平に対して一直線に傾き、内辺および外辺も一直線に傾くものであってもよいが、履歴ダンパについてせん断と引張の耐力の差をより小さくするには、請求項2の発明のようにすることが望ましい。即ち、エネルギ吸収子は、くの字の板幅方向における内辺および外辺を、くの字の内側に向かって凹む円弧状としてあるものである。
円弧状とは、純粋な円弧だけでなく、円弧に近似する線、例えば請求項3の発明のようなものであっても良い。即ち、エネルギ吸収子は、くの字の板幅の中点を結ぶ中心線が、くの字の内角が狭くなる方向に段階的に屈曲する複数の直線と、屈曲部分を滑らかに繋ぐR曲線とから構成してあるものである。
上述した履歴ダンパを有効に使うには請求項4の発明のような壁にする。即ち、軸組みの内側にパネルを配置し、軸組みとパネルとの間にはその全周に亘って内外方向に間隔を設け、請求項1、2、又は3の履歴ダンパを、前記間隔の周方向に沿って離して配置し、履歴ダンパの一方の支持板をパネルに、他方の支持板を軸組みにそれぞれ留めることを特徴とする壁である。
支持板をパネル等に留めるとは、支持板を直接、ビス等で留めることだけでない。例えば履歴ダンパが、支持板の外周部に接合板を屈曲して連続する場合には、接合板を軸組みの見込面に留めることも含まれる。
請求項1の発明は、くの字の頂部の両側に最も板幅の狭いくびれ部があることから、このくびれ部を起点としてエネルギ吸収子が変形することになり、従来に比べて、せん断と引張の耐力の差を一段と小さくでき、層間変形だけでなく層せん断力にも対処できるようになる。このことがFEM解析により、証明された。
請求項2、3の発明は、くの字の板幅方向における内辺および外辺を、くの字の内側に向かって凹む円弧状としてあるので、内辺および外辺をくの字の頂部に真っ直ぐ向かう直線とするものに比べれば、頂部を端部から遠ざけられ、その結果、せん断と引張の耐力の差を一段と小さくできる。
請求項4の発明は、地震時には木造構造物の軸組みが大きく変形しても、履歴ダンパが塑性変形し、パネルが軸組みとの間に設けられた間隔を利用して軸組みに接触しなくなり、地震時のエネルギを十分に吸収できる。また、履歴ダンパが一種類でありながらも、パネルの上、下、左、右に取り付けて、軸組みと接合できるので、製造コストも安価になる。
履歴ダンパ1は例えば鋼材から作られるもので、図1に示すように打ち抜いた平板であって、対向する二枚の支持板2と、二枚の支持板2に架設される複数本のエネルギ吸収子3とから構成してある。複数本のエネルギ吸収子3は、スリット4を介して均等に並列しており、その両端部を支持板2に連続してある。
支持板2は図1では縦長の矩形の板であって、適宜箇所に抜穴21をあけ、抜穴21からビス又はドリフトピンなどで、部材に接合するものである。
エネルギ吸収子3は、くの字状であって、くの字の頂部31に向かって対称角度で屈曲している。また、エネルギ吸収子3は、第一に、くの字の頂部31に向かって板幅Wを徐々に狭くし、くびれ部32を頂部31の両側に備え、くびれ部32の板幅Wを、頂部31のそれを含めて最も狭くしてある。第二に、図2に示すように、くの字の板幅方向における内辺33および外辺34を、くの字の内側に向かって凹む円弧状としてある。図2の傾斜線K1、K2は、内辺33と外辺34が凹んでいることを明示するものである。
上述したエネルギ吸収子3の内辺33および外辺34は、次の手順で設計する。まず、図3に示すように、複数のエネルギ吸収子3が、頂部31を下向きにして鉛直方向にスリット4を介して並列するように設計するものとする。ここでは、くの字は、頂部31を下向きにしたことから、右片部35と左片部36が頂部31で連続するものと把握する。そして、右片部35の内辺33、および外辺34の製図の仕方について詳述する。
一番目に、図3(イ)に示すように、水平線に対して45度の角度で右肩上がりとなる直線(45度直線)を描く。二番目に、水平線に対してより急角度の直線、具体的には55度直線を、右片部35の中間部分から頂部31に向かって、先の45度直線と交差するように描く。この45度直線と55度直線が、くの字の板幅Wの中点を結ぶ中心線Cの大半を形成する。
三番目に図3(ロ)に示すように、45度直線の内側(図では上側)に50度直線を描く。この50度直線が内辺33の一部となる。四番目に、45度直線の外側(図では下側)に40度直線を描く。なお、50度直線と40度直線が下方に向かうにつれて45度直線に近づき、且つ45度直線を中心にして対称的になるようにする。このようにすると、頂部31に向かって徐々に板幅Wが狭くなっていく。
五番目に、55度直線の内側に60度直線を描き、六番目に55度直線の外側に前述とは別の50度直線を、60度直線と対称形状となるように描く。
七番目に、図3(ハ)に示すように、内辺33となる50度直線と60度直線を滑らかに連続させるために、その交点部に、50度直線と60度直線が接線となるR曲線を描く。八番目に、同じ要領で、外辺34となる40度直線と50度直線を滑らかに連続させるために、その交点部に、40度直線と50度直線が接線となるR曲線(内辺33よりも半径の小さいR曲線)を描く。これら直線、R曲線を描く際には、頂部31に向かって徐々に板幅Wが小さくなるように留意する。最後に、図3(ニ)に示すように、不要な線を除去して、内辺33、外辺34を完成させる。
くの字の左片部36は、右片部35と同じ要領で完成させる。最後に、頂部31については、右片部35と左片部36の内辺33同士、ならびに外辺34同士が滑らかに連続するように下側に膨らむ円弧状の曲線を連続して描く。また、エネルギ吸収子3は、スリット4を介して鉛直方向に均等に並列するものなので、同様の要領で、鉛直方向に等ピッチずつ離して、くの字を所望の数量だけ描く。そして、スリット4の両側に位置するくの字の内辺33と外辺34を、外側に膨らむ円弧状の曲線で連続して、スリット4を形成する。あとは、左右の支持板2、抜穴21を描けば、履歴ダンパ1の設計が完成する。
上述した説明では、板幅Wの中心線Cは、くの字の内角が狭くなる方向に段階的に屈曲する複数の直線(45度直線と55度直線)だけを描き、屈曲部分を滑らかに繋ぐR曲線は描いていない。しかし、内辺33、外辺34についてR曲線を用いたことから勘案すれば、中心線Cについても、45度直線と55度直線をその屈曲部分で滑らかに繋ぐR曲線が描けることが分かる。従って、エネルギ吸収子3は、中心線Cが段階的に屈曲する複数の直線と、その屈曲部分で直線同士を滑らかに繋ぐR曲線とから構成してあると言える。
上述した履歴ダンパ1の性能が優れていることをFEM解析により確認した。図8のグラフのうち、系列1、2は、くの字の中心線Cが45度直線と、55度直線を基に形成され、頂部31の両側にくびれ部32を有し、くの字の板幅方向における内辺33および外辺34を、くの字の内側に向かって凹む円弧状とした前述の履歴ダンパ1である。また、系列3、4は、くの字の中心線Cが45度直線だけで形成され、くびれ部32を有する履歴ダンパ1である。系列5、6は、背景技術の欄でも説明したように、比較対象となる従来品の履歴ダンパであって、中心線Cという概念がなく、くの字の傾斜角度を45度とし、くびれ部32のない板幅Wを均一としたものである。
系列1、3、5は、せん断荷重がかかった場合、系列2、4、6は、引張り荷重がかかった場合を示すものである。変位量10mmにおけるせん断と引張りの荷重の差は、系列5と6(従来)では、2.6倍と大きいが、系列3と4では1.74倍、系列1と2では1.37倍と小さくなる。従って、くびれ部32を設けることの利点、くの字の板幅方向における内辺33および外辺34を、くの字の内側に向かって凹む円弧状とすることの利点が、確認できる。
木造構造物(木造住宅)に上述の履歴ダンパ1を使用することによって、図5に示すように壁5を作ることができる。壁5は、矩形に組まれた軸組み6と、軸組み6の内側にその全周に亘って間隔Gをあけて収容されるパネル7と、この間隔Gを跨ぎながら軸組み6とパネル7を接合する複数の履歴ダンパ1から構成される。図5の例の壁5は、室内側から見て、履歴ダンパ1の内側の支持板2をパネル7の見付面の反対面(背面)に、外側の支持板2を軸組み6の見付面の反対面にそれぞれビス留めするものである。
軸組み6は、土台61と梁62の間に左右の柱63を介在して矩形に組むと共に、矩形に組んだ枠の幅中央部に間柱64を介在するものである。間柱64は、最終的には軸組み6の一部となるが、組み付け前の段階ではパネル7の一部であって、パネル7に予め留められた状態で、その端部のほぞ64aを、土台61と梁62のほぞ穴61a、62aに嵌めて組みつけられる。土台61、梁62、および柱63の背面には履歴ダンパ1の支持板2をその肉厚分収容する凹溝65を形成し、凹溝65に支持板2を収容することによって履歴ダンパ1が軸組み6の背面に対して面一となる。また、柱63の見込面の奥行き幅63aに対して、パネル7(間柱64を含む)と履歴ダンパ1を合わせた分の厚み幅Tを一致させるか又は狭くすることによって、パネル7が軸組み6の正面側に食み出さなくなる。
パネル7は、合板からなる矩形の面板71の外周部に補強用の枠材72を釘付け等して留め、また、組み付け前の段階の間柱64も面板71に釘付け等して留めたものである。軸組み6とパネル7との内外方向の間に設けられる間隔Gは、地震時に軸組み6が大きく変形しても、パネル7が軸組み6に接触せずに、地震エネルギを履歴ダンパ1で十分に吸収できるようにする役割を果たすものである。この役割を果たすことができる程度に間隔Gをあけることを考慮して、パネル7と軸組み6の相対的な大きさが設計される。
壁5を施工する場合は次の手順で行う。床面に、間柱64付きのパネル7を置いた状態で、パネル7の面板71の外周部における上下左右に履歴ダンパ1をそれぞれ一つまたは複数離して、凹溝65に対応する箇所に配置し、履歴ダンパ1の内側の支持板2を予めビス11で留め、外側の支持板2には特に何もしないでおく。なお、履歴ダンパ1をこのように現場で取り付けても良いが、パネル7を工場で製作する際に履歴ダンパ1をパネル7に予め取り付けておくことが、施工精度上望ましい。また、間柱64のない軸組み6に対して、予め凹溝65、ほぞ穴61a、62aを掘っておく。この軸組み6に対して、パネル7を起こしてからその間柱64のほぞ64aを土台61、梁62のほぞ穴61a、62aにそれぞれ嵌め込む。深く嵌め込むと、軸組み6の凹溝65に外側の支持板2が嵌り、パネル7の外周全周に亘って軸組み6との間に、前記した間隔Gが自然と設けられる。最後に、外側の支持板2を軸組み6にビス留めする。以上により壁5の施工が完了する。
図6の例の壁5は、履歴ダンパ1の外側の支持板2を軸組み6における内側の見込面のスリット67に挿入し、ドリフトピン12で接合するものである。スリット67は、土台61、梁62、および柱63の内側の見込面から外側の見込面に貫通して形成してある。また、ドリフトピン12を打ち込むピン孔13は、土台61などの見付面から背面に向かってスリット67を貫通して形成してある。なお、間柱64は、パネル7の面板71の背面に留めてある。
この例の壁5を施工する場合は次の手順で行う。床面に間柱64付きのパネル7を用意しておく。また、間柱64のない軸組み6にスリット67やピン孔13を予め掘っておく。この軸組み6に対して、パネル7に付いた間柱64を前例と同様に嵌め込む。その後に、土台61、梁62、柱63の外側の見込面からスリット67に履歴ダンパ1を挿入し、履歴ダンパ1の外側の支持板2をドリフトピン12で柱63などに接合し、履歴ダンパ1の内側の支持板2をパネル7の枠材72にビス留めする。以上により壁5の施工が完了する。
図4は別の例の履歴ダンパ1を示すものである。この履歴ダンパ1は、外側の支持板2の外周部に接合板8を直角に屈曲して連続し、屈曲する支持板2と接合板8とで断面L字状とし、接合板8を軸組み6の見込面に当てて接合するものである。接合板8にはビス留め用の抜穴21があけてある。この場合、金属板を打ち抜いた後に折り曲げることによって、履歴ダンパ1が形成できる。
図7の例の壁5は、図4の履歴ダンパ1を用いたものである。この例の履歴ダンパ1で壁5を施工する場合は次の通りである。最初の例と同様、現場もしくは工場で間柱64付きのパネル7に履歴ダンパ1の内側の支持板2を予めビス11で留めておく。また、間柱64のない軸組み6に対して、パネル7を起こしてからその周囲の履歴ダンパ1の接合板8を軸組み6の内側の見込面に当てる。これにより、パネル7の外周全周に亘って軸組み6との間に、前記した間隔Gが自然と設けられる。最後に、接合板8を軸組み6にビス留めする。以上により壁5の施工が完了する。
図9は別の例の履歴ダンパ1を示すものである。この履歴ダンパ1は、エネルギ吸収子3の内辺33および外辺34が頂部31の両側のくびれ部32に向かって一直線に傾くものである。
上述した壁5に地震等によって横方向の力が加わると、軸組み6がせん断変形し、それに伴って、パネル7と軸組み6との間に相対変位が生じ、この相対変位による変形を利用して履歴ダンパ1がエネルギを吸収する。柱63とパネル7との間の履歴ダンパ1に生じる変形は、主にせん断変形であり(軸方向の変形も少しある。)、土台61又は梁62とパネル7との間の履歴ダンパ1に生じる変形は、主に軸方向の変形、つまり圧縮と引張り変形である(せん断変形も少しある)。いずれの履歴ダンパ1も、双方向の変形を十分に吸収し、軸組み6のビス留め箇所に割れが生じない。
図10のグラフは、図5の壁5についてのせん断試験結果を示すものである。ここでは、履歴ダンパ1には、図9のタイプを用いた。また、図11のグラフは、図7の壁5についてのせん断試験結果を示すものである。ここでは、履歴ダンパ1には、図1のタイプを用いた。試験方法は、耐力壁の面内せん断試験の柱脚固定式に準じたが、加力方法は通常の正負交番繰り返し加力に加えて1/35、1/25rad.で各2回の正負交番加力を行った。試験結果は図10、11に示すとおりで、紡錘型の履歴挙動が得られ、エネルギー吸収性能に優れることが確認された。
本発明は上記例に限定されるものではない。例えば、上述した例の履歴ダンパ1は、金属板を打ち抜いたり、折り曲げたりするだけで製造できる点でコストを抑えることができるものであるが、接合板8を支持板2に溶着するものであっても良い。また、間柱64は、パネル7に予め取り付けずに、土台61、梁62等に取り付けておいても良い。なお、軸組み6は、横架材同士の間であれば土台61と柱63に限られない。さらに、履歴ダンパ1は、せん断と引張の耐力の差が小さいことを利用して、木造構造物に限らず、鉄筋コンクリート構造物に使用することも可能である。
履歴ダンパの一例を示す一部拡大正面図である。 図1の履歴ダンパのエネルギ吸収子の形状を説明する拡大図である。 (イ)〜(ニ)図は図1の履歴ダンパのエネルギ吸収子を設計する手順を示す説明図である。 (イ)〜(ハ)図は履歴ダンパの別例を示す平面図、正面図、左側面図である。 壁の一例を示す正面図、A−A線断面図である。 壁の別例を示す正面図である。 壁の別例を示す正面図である。 履歴ダンパの性能を示すグラフである。 履歴ダンパの別例を示す正面図である。 図5の壁のせん断試験結果を示すグラフである。 図7の壁のせん断試験結果を示すグラフである。
符号の説明
1履歴ダンパ、2支持板、21抜穴、
3エネルギ吸収子、31頂部、32くびれ部、W板幅、33内辺、34外辺、
35右片部、36左片部、C中心線、K1傾斜線、K2傾斜線、
4スリット、5壁、6軸組み、
61土台、61aほぞ穴、62梁、62aほぞ穴、63柱、63a奥行き幅、64間柱、
64aほぞ、65凹溝、T厚み幅、67スリット、
7パネル、71面板、72枠材、
8接合板、G間隔、
11ビス、12ドリフトピン、13ピン孔

Claims (4)

  1. くの字状のエネルギ吸収子(3)をスリット(4)を介して複数本並列し、各エネルギ吸収子(3)の両端部を対向する支持板(2)に架設してある平板状の履歴ダンパ(1)において、
    エネルギ吸収子(3)は、その板幅(W)をくの字の頂部(31)に向かって徐々に狭く形成し、頂部(31)の両側にくびれ部(32)を備えることを特徴とする履歴ダンパ。
  2. エネルギ吸収子(3)は、くの字の板幅方向における内辺(33)および外辺(34)を、くの字の内側に向かって凹む円弧状としてあることを特徴とする請求項1記載の履歴ダンパ。
  3. エネルギ吸収子(3)は、くの字の板幅(W)の中点を結ぶ中心線(C)が、くの字の内角が狭くなる方向に段階的に屈曲する複数の直線と、屈曲部分を滑らかに繋ぐR曲線とから構成してあることを特徴とする請求項2記載の履歴ダンパ。
  4. 矩形の軸組み(6)の内側にパネル(7)を配置し、軸組み(6)とパネル(7)との間にはその全周に亘って内外方向に間隔(G)を設け、請求項1、2、又は3記載の履歴ダンパ(1)を、前記間隔(G)の周方向に沿って離して配置し、履歴ダンパ(1)の一方の支持板(2)をパネル(7)に、他方の支持板(2)を軸組み(6)にそれぞれ留めることを特徴とする木造構造物の壁。
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