発明の要約
本発明の目的は、ポア形成修飾タンパク質を用いて良性前立腺肥大症を治療または予防する方法を提供することである。
本発明の一つの態様によると、対象の前立腺の大きさを縮小させるのに使用するためにポア形成修飾タンパク質が提供され、前記ポア形成修飾タンパク質は、天然起源のポア形成タンパク質に由来し、前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列から選択された一つ以上の前立腺選択的修飾と、選択的に前立腺細胞を標的にすることができる、一つ以上の前立腺特異的標的領域とを含み、前記ポア形成修飾タンパク質は、選択的に前立腺細胞を殺すことができる。
本発明の別の態様によると、良性前立腺肥大症(BPH)の治療に使用するためのポア形成修飾タンパク質が提供され、前記ポア形成修飾タンパク質は、天然起源のポア形成タンパク質に由来し、前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列から選択された一つ以上の前立腺選択的修飾と、選択的に前立腺細胞を標的にすることができる、一つ以上の前立腺特異的標的領域とを含み、前記ポア形成修飾タンパク質は、選択的に前立腺細胞を殺すことができる。
本発明の別の態様によると、対象の前立腺の大きさを縮小させるための薬物の調製における、ポア形成修飾タンパク質の使用を提供し、前記ポア形成修飾タンパク質は、天然起源のポア形成タンパク質に由来し、前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列から選択された一つ以上の前立腺選択的修飾と、選択的に前立腺細胞を標的にすることができる、一つ以上の前立腺特異的標的領域とを含み、前記ポア形成修飾タンパク質は、選択的に前立腺細胞を殺すことができる。
本発明の別の態様によると、良性前立腺肥大症(BPH)治療のための薬物の調製における、ポア形成修飾タンパク質の使用を提供し、前記ポア形成修飾タンパク質は、天然起源のポア形成タンパク質に由来し、前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列から選択された一つ以上の前立腺選択的修飾と、選択的に前立腺細胞を標的にすることができる、一つ以上の前立腺特異的標的領域とを含み、前記ポア形成修飾タンパク質は、選択的に前立腺細胞を殺すことができる。
本発明の別の態様によると、対象の前立腺の大きさを縮小するための方法が提供され、前記対象へ有効量のポア形成修飾タンパク質の投与するステップを含む方法であり、前記ポア形成修飾タンパク質は、天然起源のポア形成タンパク質に由来し、前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列から選択された一つ以上の前立腺選択的修飾と、選択的に前立腺細胞を標的にすることができる、一つ以上の前立腺特異的標的領域とを含み、前記ポア形成修飾タンパク質は、選択的に前立腺細胞を殺すことができる。
本発明の別の態様によると、対象の良性前立腺肥大症(BPH)を治療するための方法が提供され、前記対象に有効量のポア形成修飾タンパク質を投与するステップを含み、前記ポア形成修飾タンパク質は、天然起源のポア形成タンパク質に由来し、前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列から選択された一つ以上の前立腺選択的修飾と、選択的に前立腺細胞を標的にすることができる、一つ以上の前立腺特異的標的領域とを含み、前記ポア形成修飾タンパク質は、選択的に前立腺細胞を殺すことができる。
本発明の別の態様によると、修飾プロアエロリジンタンパク質が提供され、これはラージローブ(large lobe)結合領域中の一つ以上の変異と、前立腺細胞を選択的に標的にできる前立腺特異的標的領域、および前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列から選択される一つ以上の前立腺特異的修飾とを含み、前記修飾プロアエロリジンタンパクは選択的に前立腺細胞を殺すことができる。
本発明のこれらおよびその他の特徴は、添付図を参照した以下の詳細な説明の中でさらに明白となるであろう。
発明の詳細な説明
本発明は、BPHの治療のためのポア形成修飾タンパク質の使用に関する。MPPは、細胞膜に進入し、標的細胞の細胞膜中にポアまたはチャネルを形成することにより細胞を殺し、細胞死をもたらす天然発生のポア形成タンパク質(nPP)に由来する。一つの実施形態では、MPPは不可逆的に細胞膜に進入し、故にバイスタンダー細胞は影響を受けない。他の組織と比較して選択的に正常前立腺細胞を標的とするMPPの能力をもたらす、前立腺選択的修飾をMPPは含む。MPPは生体内で正常前立腺細胞を選択的に殺すことができ、生体内で正常前立腺の重量または体積を縮小させることができる。故に、本発明によるMPPを単独で使用してもよく、またはBPHのための他の治療法との組み合わせで使用してもよい。これは限局したまたは転移性の前立腺癌を治療するための細胞溶解性修飾タンパク質の使用を記載する、U.S.Patent Application No.20040235095で記載される分子と対照的である。
定義
別に定義されない限り、本書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を持つ。
当技術分野で常用の方法と様々な一般的な参考文献(一般的にはSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2d ed.(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,を、そして、蛍光技術に関しては、Lakowicz,J.R. Principles of Fluorescence Spectroscopy,New York:Plenum Press(1983)を参照されたい)に従って、通常、技術および手技が実施される。化学合成、化学分析、または生物学的評価には通常の技術が使用される。開示を通じて用いているように、以下の用語は別記しない限り、以下の意味を持つものと理解されるものである。
本書で用いられているように、用語「およそ」は正常値から+/−10%の偏差を意味する。明確に言及されていてもいなくても、本書で示されるいかなる値にもこのような偏差が常に含まれることを理解すべきである。
実体や部分に関して本書で用いられる用語「前立腺特異的」は、実体/部分または実体/部分の特性が、他の細胞の種類と比較した場合に、前立腺細胞に対して選択的であることを示す。例えば、前立腺特異的実体/部分は、前立腺細胞によって選択的に発現されることができる、前立腺細胞と選択的に関連することができる、前立腺細胞によって選択的に活性化されることができる、前立腺細胞に選択的に結合できる、などが可能である。
本書で使用される用語「前立腺特異的活性化配列」は、一つ以上の前立腺特異的プロテアーゼ切断部位を含み、前立腺特異的プロテアーゼによって選択的に切断され、加水分解される、アミノ酸残基の配列を意味する。
本書で用いられる用語「前立腺特異的標的領域」は、他の細胞種に結合できる能力と比較した場合、前立腺細胞に選択的に結合できる、ペプチドリガンド、毒素、または抗体などの分子を意味する。
本書で用いられる用語「遺伝子」 は、コード配列の上流または下流に位置してもよい、プロモーター、オペレーター、ターミネーター、ならびに同様のものなどの、関連する調節領域と一緒に、個々のタンパクまたはRNAをコード化する核酸の断片を意味する(「コード配列」または「コード領域」としても用いられる)。
本書で用いられる用語「選択的にハイブリダイゼーションする」は、核酸が検出可能かつ特異的に第二の核酸へ結合する能力を意味する。ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、およびそれらの断片は、非特異的な核酸への検出可能な結合量が最小になるような、ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件下で、標的核酸鎖に選択的にハイブリダイズする。当分野で周知のように、ならびに本書で論じられているように、選択的なハイブリダイゼーション条件を達成するために、高ストリンジェントな条件を用いることができる。一般的には、ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、従来のハイブリダイゼーション処理に従って高ストリンジェンシーにて行われる。洗浄条件は一般的には、1〜3倍希釈のSSC、0.1〜1%SDSで50〜70℃で行われ、洗浄液をおよそ5〜30分で交換する。
用語「〜と対応する」は、ポリヌクレオチド配列が参照ポリヌクレオチド配列の全てまたは一部と同一であることを示す。対照的に、用語「相補的な」は、参照ポリヌクレオチド配列の相補鎖の全てまたは一部と同一であることを示すために、本書で用いられる。例として、ヌクレオチド配列「TATAC」は参照配列「TATAC」に対応し、参照配列「GTATA」に相補的である。
「参照配列」、「比較の枠」、「配列同一性」、「配列同一性の割合」、および「実質的な同一性」。という用語は、二つ以上のポリヌクレオチド間または二つ以上のポリペプチド間の配列の関係を説明するために本書で使用される。「参照配列」は配列比較の基準として用いられる定義された配列であり、参照配列は、例えばcDNA、遺伝子、またはタンパク質配列の全長の一部分として、より長い配列のサブセットであってもよく、または完全なcDNA、遺伝子、またはタンパク質配列を含んでもよい。一般的には、参照ポリヌクレオチド配列は長さが少なくとも20ヌクレオチドで、しばしば長さが少なくとも50ヌクレオチドである。参照ポリペプチド配列は、一般的には長さが少なくとも7アミノ酸であり、しばしば長さが少なくとも17アミノ酸である。
本書で用いられる「比較の枠」は、その断片について候補配列が参照配列と比較されてもよい、少なくとも15の連続するヌクレオチドの位置または少なくとも5つの連続するアミノ酸位置の参照配列の概念的な断片を意味し、比較の枠中の候補配列部位は、二つの配列の最適なアラインメントに対する参照配列(付加や欠失を含まないもの)と比較すると、20%以下の付加または欠失(すなわちギャップ)を含んでもよい。本発明は比較の枠について、参照配列または候補配列のいずれかの全長まで、ならびにそれを含む、様々な長さを意図するものである。比較の枠アライニングのための配列の最適なアラインメントは、SmithおよびWaterman(Adv. Appl.Math.(1981)2:482)による局所相同アルゴリズム、NeedlemanおよびWunsch(J.Mol.Biol.(1970)48:443)による相同アラインメントアルゴリズム、PearsonおよびLipman(Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.)(1988)85:2444)による類似法の検索を用いて、これらのアルゴリズムをコンピュータを用いて実行して(例えば、ウィスコンシン州マディソンのScience Dr.573に所在する、Genetics Computer GroupによるWisconsin Genetics Software Package Release 7.0のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)などの公的に利用できるコンピュータソフトウェアを用いて、または調査によって行われてもよい。最適なアラインメント(すなわち、比較の枠にわたって最大の割合の同一性をもたらす)が選択される。
用語「配列同一性」は、二つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が比較の枠にわたって同一であることを意味する(すなわち、ヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の単位で)。
参照配列に関して本書で用いられる用語「配列同一性の割合(%)」は、同類置換を配列同一性の一部として考慮することなしに、最大の配列同一性の割合を達成するために、必要ならば配列の最適なアラインメントやギャップの導入を行った後で、比較の枠について、参照ポリペプチド配列中の残基と同一である、候補配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の百分率として定義される。
本書で用いられる用語「実質的な同一性」は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の特徴を意味し、比較の枠にわたって参照配列と比較すると、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、少なくとも50%の配列同一性を持つ配列を含む。比較の枠にわたって参照配列と比較して、少なくとも60%の配列同一性、少なくとも70%の配列同一性、少なくとも80%の配列同一性、または少なくとも90%の配列同一性を持つポリヌクレオチドとポリペプチド配列もまた、参照配列と実質的な同一性を持つと考えられる。
本書で用いられる用語「機能的欠失」は、遺伝子配列にもたらされる、その部分の遺伝子配列を機能しなくしてしまう、変異、部分欠失または完全欠失、挿入、またはその他の変化を意味する。例えば、プロアエロリジン(PA)結合領域の機能的欠失は、PAが細胞膜に結合し、細胞膜上に集積する能力の減退につながる。この機能的欠失を、別の機能的結合領域、例えばLHRHペプチドなどの前立腺特異的標的領域をプロアエロリジンに挿入することで回復させることができる。機能的欠失のそのような回復を、本書では「機能的置換」と呼ぶ。別の例では、天然のPAフューリン切断部位の機能的欠失は、野生型PA分子と比較した場合、PAがフューリンによって切断され活性化される能力の減退につながる。
本書では置き換えて使用されてもよい用語「療法」と「治療」は、対象の状態を改善する目的で行われる診療を意味する。改善は主観的または客観的であってもよく、治療されている病気または疾患に関連する症状を寛解させること、治療されている病気または疾患の発症を予防すること、または治療されている病気または疾患の病態を変化させることに関連している。従って、用語、療法と治療は最も広い意義で使用され、様々な段階の病気または疾患の予防(予防法)、緩和、縮小、および治癒を含む。対象の状態の悪化の予防もまた用語に含まれる。故に療法/治療が必要な対象には、既に病気または疾患を持つ対象のみならず、病気または疾患を発症しやすい、または発症する危険がある対象、病気または疾患が予防されるべき患者が含まれる。
用語「寛解する」は、一時的ならびに長期の両方における、治療されている病気または疾患の一つ以上の症状、徴候、および特徴の停止、予防、減退、または改善を含む。
本書で用いられる用語「対象」または「患者」は、治療が必要な動物を意味する。
本書で用いられる用語「動物」は、ヒトおよび非ヒトの動物の両方を意味し、哺乳類、鳥類、魚類が含まれるがこれに限定されない。
一つ以上の追加的な治療剤または追加的な治療と「併用して」、本発明のタンパク質またはポリペプチドを投与することは、同時(併用)投与と連続投与を含むように意図されている。連続投与は、治療剤または追加的治療と本発明の化合物を、様々な順番と様々な経路によって対象に投与することを含む。
用語「抗原」と「抗原性物質」は、動物における免疫応答を誘発できる、全ての細胞および組織をも含む、一つの分子、複数の分子、一つの分子の一部分または複数部分、または複数分子の組み合わせを指すために、本書では置き換えて使用されてもよい。抗原性物質は、単一のエピトープまたは抗原性決定基を含んでもよいか、あるいは複数のエピトープまたは抗原決定基を含んでもよい。
本書で用いられる用語「免疫応答」は抗原または抗原性物質に応えて動物の免疫系の応答性が変化することを意味し、抗体の産生、細胞性免疫の誘発、補体活性化および/または免疫寛容の進展を含んでもよい。
本書で用いられる用語「抑制する」は、低下させる、減少させる、遅らせる、または妨げることを意味する。
「結合対」は、互いに対して親和性を持つ二つの部分(例えば化学的または生化学的)を意味する。結合対の例には、ホモ二量体、ヘテロ二量体、抗原/抗体、レクチン/アビジン、標的ポリヌクレオチド/プローブ、オリゴヌクレオチド、抗体/抗抗体、受容体/リガンド、酵素/リガンド、および同様のものなどが含まれる。「結合対の一要素」は、抗原またはリガンドなどの、対の一つの部分を意味する。
「単離されたポリヌクレオチド」は、その「単離されたポリヌクレオチド」という起源のおかげで、(1)自然界ではその内部に「単離されたポリヌクレオチド」が認められる細胞と結びついていない、または(2)自然界では連結されていないポリヌクレオチドに操作可能に連結されている、ゲノムDNA、cDNA、または合成起源、またはそれらの一部の組み合わせのポリヌクレオチドを意味する。
用語「ポリペプチド」は本書で、野生型(天然起源の)タンパク質配列、野生型タンパク質配列の断片、野生型タンパク質配列の変異体、野生型タンパク質配列の誘導体、または野生型タンパク質配列の類似体であってもよい、長さが少なくとも20アミノ酸のアミノ酸配列を意味するための総称として使用される。従って、本書で定義される天然のタンパク質配列および天然のタンパク質配列の断片、変異体、誘導体、類似体はポリペプチド類の種類と考えられる。
本書で用いられる用語「単離されたポリペプチド」は、その起源よって、自然界ではそれが通常結合している、他のポリペプチドと結びついておらず、および/または通常それが発生する細胞から単離されておりおよび/または同じ由来細胞からの他のポリペプチドを含んでいないおよび/または他の種由来の細胞によって発現され、および/または天然には発生しない、ポリペプチドを意味する。
本書で用いられる、対象物に適用される「天然起源の」または「天然の」は、対象物を天然に認めることができるという事実を意味する。例えば、天然にある原料から単離することができる微生物(ウィルスを含む)中に存在し、実験室で人間によって意図的に修飾されていないポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、天然起源である。
「操作可能に連結した」は、並べ替えを意味し、そのように説明される成分は、それらが意図された様態において機能することを可能にする関係にある。コード配列に「操作可能に連結した」制御配列は、制御配列に対応する条件の下でコード配列の発現が達成されるそのような様式でライゲーションされる。
「制御配列」は、それらがライゲーションされるコード配列および非コード配列の発現を達成するために必要な、ポリヌクレオチド配列を意味する。そのような制御配列の性質は宿主生物によって変わり、原核生物では、そのような制御配列は、一般的にプロモーター、リボソーム結合部位、および転写終結部位を含み、真核生物では、そのような制御配列は、一般的にプロモーターと転写終結部位を含む。用語「制御配列」はその存在が発現に影響する成分を最低限でも含むことを意図しており、またその存在が有利な追加的な成分、例えば、リーダー配列や融合パートナー配列などを含むことができる。
「ポリヌクレオチド」は、リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドのいずれか、またはいずれかの種類のヌクレオチドの修飾型である、長さが少なくとも10塩基のヌクレオチドの多量体型を意味する。用語はDNAまたはRNAの一本鎖および二本鎖の形状を含む。
「ポリペプチド断片」は、アミノ末端および/またはカルボキシ末端の欠失を持つが、残存するアミノ酸配列が、例えば完全長のcDNA配列などから排除された天然起源の配列中の対応する位置と通常同一であるポリペプチドを意味する。断片は一般的に少なくとも5、6、8 、または10アミノ酸長を持つ。一つの実施形態では、断片は少なくとも14アミノ酸長である。別の実施形態では、断片は少なくとも20アミノ酸長である。さらに別の実施形態では、断片は少なくとも50アミノ酸長である。さらにまた別の実施形態では、断片は少なくとも70アミノ酸長である。
用語「標識」または「標識された」は、放射性標識されたアミノ酸の結合、または標識化アビジン(例えば、光学的方法または比色法によって検出できる蛍光マーカーまたは酵素活性を含むストレプトアビジン)によって検出できる、ビオチン化部分のポリペプチドへの付着などによる、検出可能なマーカーの結合を意味する。ポリペプチドや糖タンパク質を標識する様々な方法が当分野では知られており、使用されてもよい。ポリペプチドに対する標識の例には、ラジオアイソトープ(例えば、3H、14C、35S、125I、131I)、蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン、ランタニド蛍光体)、酵素標識 (またはレポーター遺伝子)(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、βラクタマーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、化学発光法、ビオチニル基、二次レポーターによって認識される既定ポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシン・ジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)が含まれるがこれに限定されない。一部の実施形態では、立体障害の可能性を減らすために、様々な長さのスペーサーアームによって標識が結合される。
天然起源のアミノ酸は、ペプチド技術において一般的に受け入れられており、生化学命名法において国際純正応用化学連合−国際生化学連合によって推奨される、下記に示す伝統的な3文字または1文字の略号によって完全に識別される。
本書で提示するペプチド配列は、一般的に受け入れられている慣例に従って、N末端のアミノ酸が左側、C末端のアミノ酸が右側に記載する。慣例により、L−アミノ酸は大文字で、D−アミノ酸は小文字で表す。
ポア形成修飾タンパク質(MPP)
本発明のポア形成修飾タンパク質(MPP)は、天然起源のポア形成タンパク質(nPP)から導かれ、他の正常組織由来の細胞と比較して、それらが正常前立腺細胞を選択的に殺せるように、一つ以上の前立腺特異的修飾を含むように修飾された。他の正常組織由来の細胞と比較して、正常前立腺細胞を選択的に殺すことは、MPPが正常前立腺細胞を、例えば肺、脾臓、または血液細胞などの他の種類の正常細胞よりも効果的に殺せることを意味する。適切なMPPには、United States Patent Application No.20040235095に記載されるものが含まれる。
1. 天然起源のポア形成タンパク質(nPP)
本発明のMPPを誘導できる適切なmPPには、細胞死を導く、標的細胞の膜の中にポアまたはチャネルを形成できる様々な細菌毒素が含まれる。適切な細菌毒素には、活性体として産生され、追加的なプロセシングを必要としないものだけでなく、プロトキシンとして産生され、タンパク質分解的切断によって二次的に活性化されるものが含まれる。一つの実施形態では、nPPは、標的細胞の細胞膜内にポアまたはチャネルを形成するために、活性化配列でのプロテアーゼ切断によって活性化されるプロトキシンとして合成される大きな細胞毒性タンパク質であり、故に急速な細胞溶解性の細胞死を導く。この実施形態による適切なnPPは、プロテアーゼ切断を介して阻害ドメインを取り除くことによって活性化されるポア形成活動、一つ以上の結合領域を介して細胞膜上に存在する受容体に結合する能力などの特徴を持つ。多数のそのようなnPPがクローン化され、組み換え型が産生された(例えば、Imagawaら、FEMS.Microbiol.Lett.17:287−92,1994;Mezaら.FEMS Microbiol.Lett.145:333−9,1996を参照されたい)。
一つの実施形態では、MPPはアエロリジンまたはアエロリジン関連ポリペプチドなどのnPPに由来する。例には、炭疽菌保護抗原、コレラ菌のVCC毒素、ウェルシュ菌由来のε毒素、およびバチルス・チューリンゲンシスのδ毒素(Genbank Accession No.D00117)などのポリペプチドとともに、アエロモナス・ハイドロフィラ、アエロモナス・トロータ、アエロモナス・サルモニシダ由来のプロアエロリジンなどのアエロリジン同族体、クロストリジウム・セプチカム由来のα毒素(Ballardら,Infect.Immun.63:340−4, 1995;Gordonら.J.Biol.Chem.274:27274−80,1999;Genbank Accession No.S75954)が含まれるが、これに限定されない。
上記のアエロモナス属由来のプロアエロリジン(PA)ポリペプチドの特性が明らかにれた。これらのポリペプチドはそれらの間に、80%より大きい対の配列同一性を示す(Parkerら、Progress in Biophysics & Molecular Biology 88(2005)91−142)。これらのPAポリペプチドのそれぞれは、約470のアミノ酸残基を持つ約52kDaのプロトキシンである。アエロモナス・ハイドロフィラからの野生型PAのcDNA配列をSEQ ID NO:1(図7)に示し、この野生型PAの対応するアミノ酸配列をSEQ ID NO.2(図8)に示す。多くの天然起源のnPPのヌクレオチドとタンパク質配列が当分野で知られている。限定されない例を以下の表に記載する。
(表2)nPPと対応するGenBank
(商標) Accession Numberの例
1Hussleinら,Mol.Microbiol.2(4), 507−517(1988)
2Hironoら,Microb.Pathog.13(6), 433−446(1992)
3Kahnら,Appl.Environ.Microbiol.64(7),2473−2478(1998)
4Hironoら,Microb.Pathog.15(4),269−282(1993)
アエロモナス・ハイドロフィラPAタンパク質は、ポリペプチドのスモールローブ(small lobe)として知られ、本書でスモールローブ結合領域(SBD)と呼ばれるものの中に結合領域(SEQ ID NO.2の約1〜83のアミノ酸)を含み、またPAを活性化するための活性化配列においてプロテアーゼ切断によって除去される、C末端抑制ペプチド(CIP)領域(SEQ ID NO.2の約427〜470のアミノ酸)を含む。CIP領域を除去するための活性化配列における切断を、フューリンやトリプシンを含む、多くの遍在するプロテアーゼによって行うことができる。SEQ ID NO.2の約84〜426からのアミノ酸残基がPAポリペプチドのラージローブとして知られており、本書でラージローブ結合領域(LBD)と呼ばれる、毒素領域や第二の結合領域を含む、その他の機能領域を含む。野生型アエロモナス・ハイドロフィラPAのcDNA配列をSEQ ID NO:1に示す。
著しい配列同一性やその他の類似性に基づいて、クロストリジウム・セプチカム由来のα毒素は、プロアエロリジンの同族体と考えられる(Parkerら、supra)。α毒素は、C末端抑制ペプチド(CIP)領域を除去するための活性化配列におけるプロテアーゼ切断によって活性化される、46,450Daのプロトキシン(約443アミノ酸)として分泌され、それはまたグリコシル−ホスファチジルイノシトール(GPI)−アンカー型タンパク質に結合する。しかし、α毒素はPAのスモールローブに対応する領域を持たない。このポリペプチドの活性化は、フューリン切断部位におけるプロテアーゼ切断によって起こる(Gordonら、Infect.Immun. 65:4130−4、1997)。クロストリジウム・セプチカムのα毒素の核酸配列の例は、GenBank? Accession No.S75954(SEQ ID NO:73、図40)に提示され、クロストリジウム・セプチカムα毒素のタンパク質配列の例はGenBank? Accession No.AAB32892(SEQ ID NO:74、図41)に提示されている。配列の相同性に基づくと、GPI−アンカー型タンパク質に結合するような、同様の構造と同様の能力をα毒素が持つと考えられる。
バチルス・チューリンゲンシスδ毒素の活性化配列は、活性化内毒素を産生するような特定の昆虫の中腸内にあるプロテアーゼによって切断される(Mirandaら,Insect Biochem.Mol.Biol.31:1155−63, 2001)。この内毒素の構造は解明され、チャネル形成領域、結合領域、および安定化領域の三つの領域からなることが示された。
一つの実施形態では、本発明によるMPPはプロアエロリジンポリペプチドに由来する。さらなる実施形態では、MPPはアエロモナス・ハイドロフィラに由来するプロアエロリジンポリペプチドに由来する。本発明の別の実施形態では、MPP はα毒素ポリペプチドに由来する。
別の実施形態では、MPPは、活性化にプロテアーゼ切断を必要とせず、故に活性化配列を持たないnPPに由来する。これらのnPPを、前立腺特異的プロテアーゼ切断部位をnPPに挿入するために修飾し、前立腺細胞を殺すために選択的に活性化されることができるMPPをもたらすことができる。そのようなnPPの例には、黄色ブドウ球菌αヘモリジンが含まれる。このnPPの場合は、当分野で周知のように、ポア形成領域の中心に活性化配列を挿入できる(Panchalら、(1996)Nat.Biotech.14:852−856)。
本発明は、nPPの生物活性のある断片に由来するMPPをさらに含む。nPPの生物活性のある断片とは、ポアを形成でき、細胞を殺せるものである。適切な断片には、CIP領域の除去によって標的細胞内にポアを形成するために活性化されることができるものが含まれる。例えば、PAの場合、適切な断片はCIP領域および活性化配列とともにタンパク質の結合領域を含むものである。故に、本発明の一つの実施形態では、MPPは結合領域、CIP領域、 活性化配列を含むプロアエロリジンの断片に由来する。別の実施形態では、MPPは、結合領域、活性化配列を含むが、CIP領域の一部分のみを含むプロアエロリジンの断片に由来する。
2.前立腺特異的修飾
本発明によると、選択されたnPPは、一つ以上の前立腺特異的修飾を含むことによってMPPを形成するために修飾される。本発明によって意図される前立腺特異的修飾には、前立腺特異的活性化配列および/または一つ以上の結合領域の機能的欠失(機能的置換を含む)、および/または前立腺特異的標的領域の付加が含まれる。
一つの実施形態では、本発明によるMPPは前立腺細胞においてMPPを選択的に活性化できるようにする、前立腺特異的活性化配列を含む。前立腺特異的活性化配列は、nPPの天然起源の活性化配列の修飾によって作られてもよく、または天然起源の活性化配列を持たないnPPへの前立腺特異的活性化配列の付加によって作られてもよい。別の実施形態では、MPPは前立腺特異的活性化配列と一つ以上の前立腺特異的標的領域を含む。別の実施形態では、MPPは前立腺特異的活性化配列とSBDへの修飾を含む。別の実施形態では、MPPは前立腺特異的活性化配列とLBDへの修飾を含む。
一つの実施形態では、本発明によるMPPは、前立腺細胞においてMPPを選択的に活性化できるようにする、一つ以上の前立腺特異的標的領域を含む。別の実施形態では、MPPは一つ以上の前立腺特異的標的領域とSBDへの修飾を含む。別の実施形態では、MPPは前立腺特異的標的領域とLBDへの修飾を含む。
さらに別の実施形態では、MPPは前立腺特異的活性化配列、一つ以上の前立腺特異的標的領域、およびLBDへの修飾を含む。別の実施形態では、MPPは前立腺特異的活性化配列、一つ以上の前立腺特異的標的領域、およびSBDへの修飾を含む。
一つの実施形態では、MPPは前立腺特異的活性化配列と一つ以上の天然の結合領域への修飾を含む。別の実施形態では、MPPは前立腺特異的標的領域と天然の結合領域への一つ以上の修飾を含む。さらに別の実施形態では、MPPは前立腺特異的活性化配列、前立腺特異的標的領域、天然の結合領域への一つ以上の修飾を含む。
プロアエロリジンに対して加えることができる前立腺特異的修飾の組み合わせの代表的で限定されない例を図4、5、6に示す。
活性化配列の修飾
上述のとおり、前立腺特異的活性化配列を提供するために、天然起源の活性化配列の修飾によって、前立腺特異的活性化配列を組み込むようにnPPを修飾でき、または前立腺特異的活性化配列を天然起源の活性化配列を持たないnPPへ付加できる。本発明による前立腺特異的活性化配列は、一つ以上の前立腺特異的プロテアーゼ切断部位を組み込むアミノ酸の配列である。前立腺特異的プロテアーゼ切断部位は、前立腺特異的プロテアーゼによって認識され、選択的かつ効率的に加水分解(切断)されるアミノ酸の配列である。一つの実施形態では、前立腺特異的プロテアーゼは、他の細胞種に比べて前立腺細胞に高濃度に発現されているプロテアーゼである。前立腺特異的プロテアーゼの例には、PSA(前立腺特異抗原)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、およびHK2(ヒト腺性カリクレイン2)切断配列が含まれるが、これに限定されない。これらの前立腺特異的プロテアーゼによって認識される切断部位の多くの例が当分野で知られており、さらに下記で説明する。
前立腺特異的プロテアーゼ活性化配列をもたらすための、天然起源の活性化配列への修飾は、当分野で周知のように達成されてもよい。天然起源の活性化配列の修飾は天然の活性化配列の機能的欠失をもたらす。それを不活性化させる天然起源の活性化配列に対して加えられる、変異、部分欠失または完全欠失、挿入、またはその他の変化によって、機能的欠失を達成することができる。一つの実施形態では、nPPの天然起源の活性化配列は前立腺特異的活性化配列の挿入によって機能的に欠失する。別の実施形態では、天然起源の活性化配列の機能的欠失は、前立腺特異的活性化配列を作り出す天然の活性化配列の一つ以上のアミノ酸残基中の変異を通じて達成される。代替的な実施形態では、活性化配列の天然のプロテアーゼ切断部位を前立腺特異的プロテアーゼ切断部位で置換することによって、nPPの天然起源の活性化配列は機能的に欠失する。
一つの実施形態では、一つ以上の前立腺特異的プロテアーゼ切断部位は、MPPの天然のプロテアーゼ切断部位を機能的に置換する。例えば、前立腺特異的プロテアーゼ切断部位は、PAの天然のフューリン切断部位を機能的に置換できる(図4B参照)。この置換は、酵素的に活性な前立腺特異的プロテアーゼ、例えばPSA、PSMA、またはHK2の存在下で細胞溶解性に活性化するMPPをもたらす。適切なPSA、PSMA、またはHK2切断部位は当分野で知られており、下記に記載する。
本発明の別の実施形態では、nPPの天然のプロテアーゼ切断部位を欠失させることにより、および前立腺特異的活性化配列を挿入することにより本発明によるMPPを作り出せる。例えば、PAのフューリン切断部位(SEQ ID NO.2の427〜432のアミノ酸)を欠失させることができ、前立腺特異的プロテアーゼ切断部位、例えばPSA切断部位が挿入される(図4B参照)。
さらなる実施形態では、nPPの天然のプロテアーゼ切断部位は、それがもはや機能的でないように変異しており、前立腺特異的活性化配列は、変異プロテアーゼ切断部位内に挿入されるか、あるいは天然のプロテアーゼ切断部位のN末端またはC末端に付加される。例えば、PAのフューリン切断部位に変異を導入でき、前立腺特異的プロテアーゼ切断部位、例えばPSA切断部位が、変異フューリン部位のN末端またはC末端内に挿入されるか、あるいは付加される(図4C参照)。
さらに別の実施形態では、前立腺特異的活性化配列は天然起源の活性化配列を持たないnPPへ付加される。例えば、細胞を殺すために活性化されるためにプロテアーゼ切断を必要としない、黄色ブドウ球菌α−ヘモリジンは、一つ以上の前立腺特異的プロテアーゼ切断部位を含むように操作されてもよく、故にそれを前立腺細胞を殺すために選択的に活性化されることができるようにする。
前立腺特異的切断部位
上述のとおり、様々な前立腺特異的プロテアーゼと、それが認識するプロテアーゼ切断部位が当分野で知られている。例にはPSA、PSMA 、HK2が含まれるがこれに限定されない。
一つの実施形態では、MPPは、PSA特異的切断部位を含む、前立腺特異的活性化配列を含むように修飾される。PSA特異的切断部位は、前立腺特異抗原(PSA)によって認識され、選択的かつ効率的に加水分解(切断)されるアミノ酸の配列である。PSAは、特定のペプチド配列を認識し加水分解する能力を持つセリンプロテアーゼである。これは、酵素的に活性な形態で前立腺細胞によって分泌され、血液の循環に入った時点で不活性化する。血液と前立腺以外の正常組織のどちらも酵素的に活性なPSAを持たないため、前立腺においてMPPを活性化するためにPSAのタンパク質分解活性を使用できる。様々なPSA特異的切断部位が当分野で知られている。例には、SEQ ID NO:5、8、11、14〜21に示されるもの、ならびにU.S.PatNo.5,866,679、5,948,750、5,998,362、6,265,540、6,368,598、6,391,305に開示されるものが含まれるが、これに限定されない。一つの実施形態では、MPPは、SEQ ID NO:5に示されるPSA切断部位を含む活性化配列を持つ。
ヒト精子タンパク質、セミノゲリンIおよびIIのPSA切断地図、およびセルロース膜ベースアッセイ(表3およびDenmeadeら、Cancer Res.,57:4924−30、1997参照)に基づいて、さらなるPSA特異的切断部位が知られており、本発明による修飾MPPを作り出すために使用できる。当分野で周知のように、例えば、プロアエロリジンの野生型フューリンプロテアーゼ活性化部位を置換できる、表3に示すようなPSA切断部位のうち一つを含むように、本発明によるMPPを修飾できる(SEQ ID NO:2の427〜432のアミノ酸)。
一つの実施形態では、MPPは、PSA切断部位を含む活性化配列を含む、SEQ ID NO:3、4、6、7、9、10、12、13、24のうちの一つのアミノ酸配列を持つ。
(表3)PSA基質(PSA切断部位)とPSA加水分解の反応速度
*
*ペプチドを蛍光標識した(アミノメチルクマリン)。50mMトリス、0.1M NaCl、pH7.8でアッセイを行った。
別の実施形態では、MPPはPSMA特異的切断部位を含む前立腺特異的活性化配列を含む。適切なPSMA特異的切断部位の例が当分野で知られており、例えばInternational Publication No.WO02/43773に認められる。一般的に述べると、PSMA切断部位は、少なくともジペプチドX1X2を含む。このジペプチドは、X1の位置にアミノ酸GluまたはAspを含む。X2はGlu、Asp、Gln、またはAsnであってもよい。前述の通り定義されるX1とX2を持ち、Glu、Asp、Gln、またはAsnとしてX3を持つ、トリペプチドX1X2X3もまた適切である。前述の通り定義されるX1〜3を持ち、Glu、Asp、Gln、またはAsnとしてX4を持つ、テトラペプチドX1X2X3X4もまた適切である。前述の通り定義されるX1〜4を持ち、Glu、Asp、Gln、またはAsnをX5として持つ、ペンタペプチドX1X2X3X4X5もまた適切である。前述の通り定義されるX1〜5を持ち、Glu、Asp、Gln、またはAsnをX6として持つ、ヘキサペプチドX1X2X3X4X5X6もまた適切である。さらに長い配列のペプチドを同様の方式で構成できる。一般的には、ペプチドは、nが2〜30、2〜20、2〜15、または2〜6であり、X1はGlu、Asp、Gln、またはAsnである場合の、X1...Xnの配列である。一つの実施形態では、X1はGluまたはAspで、X2〜XnはGlu、Asp、Gln、およびAsnから独立して選択される。他の可能性のあるペプチド配列は、X2〜Xn−1がGluとAspから独立して選択され、XnがGlu、Asp、Gln、およびAsnから独立して選択されることを除くと上述のとおりである。PSMA切断部位の例は、Asp−Glu、Asp−Asp、Asp−Asn、Asp−Gln、Glu−Glu−Glu、Glu−Asp−Glu、Asp−Glu−Glu、Glu−Glu−Asp、Glu−Asp−Asp、Asp−Glu−Asp、Asp−Asp−Glu、Asp−Asp−Asp、Glu−Glu−Gln、Glu−Asp−Gln、Asp−Glu−Gln、Glu−Glu−Asn、Glu−Asp−Asn、Asp−Glu−Asn、Asp−Asp−Gln、Asp−Asp−Asnである。
追加的な実施形態では、MPPは、HK2特異的切断部位を含む前立腺特異的活性化配列を含む。HK2特異的切断部位の例はまた当分野で知られており、例えばInternational Publication No.WO01/09165に記載される。HK2によって認識される切断部位に少なくとも一つのアミノ酸配列X4X3X2X1が隣接する。このアミノ酸配列はアミノ酸であるアルギニン、ヒスチジン、またはリジンをX1の位置に持つ。X2はアルギニン、フェニルアラニン、リジン、またはヒスチジンであってよい。X3はリジン、セリン、アラニン、ヒスチジン、またはグルタミンであってよい。X4は0〜20のさらなるアミノ酸から選ばれてもよく、少なくとも二つのさらなるアミノ酸であってよい。一つの実施形態では、HK2切断部位は、認識されるセミノゲリン切断部位のN末端に対して4番目から24番目のアミノ酸である、野生型のセミノゲリンIまたはセミノゲリンII配列中の20アミノ酸と実質的に同一であるX4の配列を含む。このアミノ酸配列は、アミノ酸配列X4X3X2X1X−1を作り出すために、X1のカルボキシ末端に連結される、X−1をさらに含むことができる。X−1は最大さらなる10アミノ酸であり、様々なアミノ酸を含むことができる。X1は、X1のカルボキシ末端に連結されるロイシン、アラニン、またはセリンを持ってよい。X−1はLアミノ酸またはDアミノ酸を含んでよい。HK2切断部位はX1のカルボキシ末端側に位置する。
HK2切断部位の例を表4に示す(記号][がHK2切断部位を意味することに留意されたい)。
前立腺特異的標的領域の付加
本発明の一つの実施形態では、前立腺細胞を選択的に標的にできるように、MPPは一つ以上の前立腺特異的標的領域を含む。前立腺特異的標的領域はMPPを前立腺細胞に導くことができ、ここでMPPは活性化され、続いて前立腺細胞を殺すことができる。標的領域はMPPのN末端またはC末端、または両方に位置できる。代替的には、標的領域は、MPPのポア形成活動を妨げない限り、MPPの別の領域に位置できる。
適切な前立腺特異的標的領域の例には、他の細胞種よりも前立腺細胞に対して高い特異性を持つ、ペプチドリガンド、毒素、または抗体などの分子が含まれるが、これに限定されない。一つの実施形態では、前立腺組織特異的結合領域は、他の細胞種よりも前立腺組織または細胞に低いKD、例えば少なくとも、10分の1のKD、少なくとも20分の1、50分の1、75分の1、100分の1、またはさらに200分の1などのKDを持つ(すなわち、他の正常組織に比べて、前立腺組織に選択的に結合する)。MPPが前立腺を標的とするのに、そのような分子を使用できる。例には、PSA、PSMA、HK2、プロスタシン、およびヘプシンなどの、相対的に前立腺特異的である、タンパク質を認識する抗体や、天然および合成黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)などの、前立腺特異的受容体を持つリガンドや、エンドセリン(同種のエンドセリン受容体への結合)が含まれるが、これに限定されない。
本発明の一つの実施形態では、前立腺特異的標的領域の付加はnPPの天然の結合領域の機能的欠失をもたらす。別の実施形態では、プロアエロリジンの天然の非特異的GPIアンカー型タンパク質結合領域を機能的に欠失し、前立腺特異的標的領域と置換される。機能的に欠失した天然の結合領域を持つプロアエロリジンに由来するMPPの特定の例を、図4Dと5Bに表す。天然のプロアエロリジン結合領域を機能的に置換する前立腺特異的標的領域を含む、プロアエロリジンに由来するMPPの例を図4E、5A、5C、および5Dと6A〜6Dに示す。
一つ以上の前立腺組織特異的結合領域をMPPの一つ以上のアミノ酸に結合させることができるが、理想的には、細胞膜内にポアを形成する能力を著しく妨げないこと、または、適用できる場合はPSAなどの前立腺特異的プロテアーゼによって活性化されるMPPの能力を妨げてはいけない。タンパク質またはペプチドをMPPに結合させる方法は当分野で知られており、前立腺組織特異的結合領域のMPPへの結合を支援するために、例えば、タンパク質のN末端のアミノ酸を、前立腺組織特異的結合領域と結合する前に、システインまたはその他のアミノ酸に修飾されるように変換するステップが含まれる。
一つの実施形態では、前立腺組織特異的結合領域は、プロアエロリジンに由来するMPPのN末端および/またはC末端に連結しているか挿入されている(図4Eおよび5Cを参照)。ある実施例では、前立腺組織特異的結合領域のN末端への接着または結合がSEQ ID NO:2または4の84番のアミノ酸への結合をもたらすように、(図5Cおよび6C参照)、プロアエロリジンの天然の結合領域は欠損される(すなわちSEQ ID NO:2または4の1〜83番のアミノ酸)。その他の実施例では、前立腺組織特異的結合領域のN末端への接着または結合がSEQ ID NO:2または4の1番のアミノ酸(または天然のプロアエロリジン結合領域の機能的欠損後のN末端であるアミノ酸どちらでも)への結合をもたらすように、(図4Eおよび5D参照)、より小さな欠失または点変異がプロアエロリジンの天然の結合領域に導入される。
前立腺特異的標的領域としての抗体
一つの実施形態では、前立腺特異的標的領域は、前立腺細胞に関連する抗原に特異的に結合する抗体または抗体断片であり、故に前立腺細胞へMPPを標的とする。そのような前立腺特異的標的領域によって特異的に結合されてもよい、前立腺細胞に関連する抗原には、その発現が前立腺細胞で上昇している、PSA、PSMA、およびLHRH受容体が含まれる。当分野でよく知られている遺伝子融合法を用いて、抗体をMPPのN末端またはC末端に結合させることができる(例えば、Debinski and Pastan,Clin.Cancer Res.1:1015〜22,1995を参照)。代替的には、共有結合架橋によって抗体をMPPに結合させることができる(例えば、Wooら、Arch.Pharm.Res.22(5):459〜63,1999およびDebinskiおよびPastan、Clin.Cancer. Res.l(9):1015〜22,1995を参照)。架橋は、例えばホモ二官能性リジン反応性架橋剤を用いることによって、非特異的であってもよく、あるいは、例えば抗体上のアミノ基やMPP中に位置するシステイン残基と反応する架橋剤を用いることにより、特異的であってもよい。一つの実施形態では、SEQ ID NO:2のアミノ酸19番のシステイン、75番のシステイン、159番のシステイン、および/またはl64番のシステインなどのプロアエロリジンアミノ酸を、プロアエロリジン修飾分子に抗体を架橋するために使用できる。例えば、抗体はnPPの天然の結合領域を修飾するために置換でき、あるいは抗体を既に天然の結合領域に変異を持つMPPに付加できる。そのようなMPPはまた、特異性を高めるために前立腺特異的活性化配列を含むことができる。一つの実施形態では、抗体は、PAの毒素領域に融合されたPSMAに対する一本鎖の抗体である。
適切な抗体には、完全型抗体に加えて、抗体断片、例えば、(i)VL、VH、CL、およびCHl領域から成るFab断片、(ii)VHとCHl領域から成るFd断片、(iii)抗体の一つの腕のVLとVH領域から成るFv断片、(iv)VH領域から成るdAb断片(Wardら、Nature 341:544−6,1989)、(v)単離された相補性決定領域(CDR)、および(vi)ジスルフィド架橋によってヒンジ部で連結された二つのFab断片を含む二価の断片である、F(ab’)2断片などが含まれる。適切な抗体には一本鎖のFv抗体が含まれ、これは合成リンカーを介して連結されているFv断片の二つの領域をもたらす組み換え法によって調製され(Birdら、Science242:423−6,1988、およびHustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.85:5879−83,1988)、また、ラクダ化抗体(例えばTanhaら、J.Biol.Chem.276:24774−80,2001参照)が含まれる。
別の実施形態では、抗体断片はそれらの標的抗原、例えばF(ab')2断片などの二価の断片を架橋することができる。代替的には、自身をその標的抗原に架橋しない抗体断片(例えばFab断片)を、抗体断片を架橋するように機能しする二次抗体と同時に使用でき、それにより標的抗原を架橋することができる。従来の技法を用いて抗体を断片化でき、この断片は、抗体全体について説明したものと同様の、当分野で既知の手法で、その有用性についてスクリーニングができる。抗体はさらにナノボディや標的抗原に特異的に結合する二重特異性分子およびキメラ分子を含むように意図される。
抗体に関して使用される場合の「特異的に結合する」は、個々の抗体が特定の抗原と特異的に免疫反応する能力を意味する。結合は、抗体分子と抗原の抗原決定基の間の無作為でない結合反応である。所望の結合特異性は一般的に、特に二つの抗原が固有のエピトープを持つ場合に、抗体が特異的抗原や関連のない抗原を区別して結び付け、従って二つの異なる抗原を識別する能力の基準点から決定される。特定のエピトープに特異的に結合する抗体は「特異的な抗体」と呼ばれる。
前立腺特異的標的領域としての小ペプチドリガンド
一つの実施形態では、前立腺特異的標的領域は、前立腺細胞の膜上に発現する、それと同種の前立腺特異的受容体に結合する小ペプチドリガンドである。例には、LHRH受容体と高い親和性で結合する、天然および合成黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニストペプチド(例えば、Genbank Accession No.CAA25526およびSEQ ID NOS:22および23を参照)や、PSMAに選択的に結合できるペプチドが含まれるが、これに限定されない。LHRH受容体は、前立腺細胞と、その他のごく少数の細胞によって提示される。この差次的発現は結合特異性を提供する。
小ペプチドリガンドは、MPPへのそれらの結合を促進するために当分野で周知のように修飾されてもよい。例えば、6番目の位置のGly(Gly6)などのLHRHの特定の残基を、受容体結合親和性を低下させることなしに置換できる(Janakyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:972−6,1992;Nechushtanら,J.Biol.Chem.,272:11597−603,1997)。従って、精製LHRH D−Lys6(このリジンのεアミンで)に共有結合するMPP(その内部で天然の結合領域が機能的に欠失している)を産生できる。
LHRH D−Lys6(SEQ ID NO:23)を、前立腺特異的標的領域を持つMPPを提供するためにnPP内の様々な位置で結合できる。上述のとおり、小ペプチドリガンドの結合はポアを形成するために毒素が膜内に進入する能力を著しく妨げない。例えば、D−Lys6類似体のεアミンを、当分野で知られている方法、例えばジカルボン酸リンカーを用いてMPPのアミノ末端へ結合できる。活性化配列の切断によるMPPの活性化は、毒素がLHRH受容体に結合されたままで、C末端抑制部位の遊離をもたらす。
代替的に、または加えて、小ペプチドリガンドをMPPのC末端に直接結合できる。例えば、MPPのC末端へシステインを付加し、次にこのシステインをLHRHのD−Lys6類似体のεアミンへ架橋することにより、LHRHのD−Lys6類似体のεアミンをMPPのC末端のカルボキシに直接結合できる。この結合は、その内部でLHRHペプチドが C末端抑制領域に結合しているMPPを産生する。活性化配列の切断によるMPPの活性化はMPPを遊離させ、抑制断片をLHRH受容体に結合したままにする。さらに、その内部で修飾LHRHペプチドがMPPのN末端とC末端の両方と融合している、組み換え融合タンパク質を産生できる。
小ペプチドリガンドが、ジスルフィド架橋を介してMPPに結合されてもよいようにも意図されている。例えば、システイン残基はLHRHペプチドの6番目の位置と、ジスルフィド架橋を介してMPPへ結合されるペプチドへ導入される。ペプチドが一緒にジスルフィド架橋を形成するシステインは、天然のnPP配列内に存在できるか、またはシステイン残基を含むためにnPPを変異させることができる。一つの実施形態では、PAに由来するMPPは、導入されたシステイン残基を、例えばSEQ ID NO:2の215番および/または300番のアミノ酸に持つことができ、ここでアミノ酸215番および/または300番はシステインへと変異されている。
別の実施形態では、その内部でLHRHペプチドがMPPのアミノ末端と融合する、組み換えタンパク質が産生される。
代替的に、または加えて、MPPは一つ以上の前立腺特異的標的領域をMPPの他のアミノ酸に付着または結合することにより産生されてもよい。例えば、プロアエロリジンに由来するMPPに関しては、SEQ ID NO:2のまたは4の215番または300番のアミノ酸(例えば、図5A、5D、6B、6D参照)などのアミノ酸が一つ以上の前立腺特異的標的領域を付着させるために使用されてもよい。ある例では、システインアミノ酸は天然のアミノ酸をその位置で置換する。例えば、SEQ ID NO:2または4に対して以下の変更を行ってもよい:215番目のチロシンをシステインにする、または300番目のアラニンをシステインにする。代替的には、nPPの天然の配列中に存在するシステイン残基を利用してもよい。プロアエロリジンから誘導されるMPPに関しては、SEQ ID NO:2の19番のシステイン、75番のシステイン、159番のシステイン、および/または164番のシステインなどのアミノ酸がこの目的に適している。
一つの実施形態では、MPPはプロアエロリジンから誘導され、LHRHを前立腺特異的標的領域として含む、SEQ ID NOs:24および25から選択される配列を持つ。
MPPの天然の結合領域への修飾
本発明によるMPPは、当分野で周知のように一つ以上の結合領域を含むnPPから誘導される。本発明の文脈において、nPPが一つの結合領域を含むとき、それは「ラージローブ結合領域」と考えられる。本発明によるMPPは、当てはまるならば、一つ以上の結合領域に対する修飾を含んでもよい。例えば、アエロモナス属由来の天然のプロアエロリジンは二つの結合領域である、スモールローブ結合領域とラージローブ結合領域を含む。対照的に、クロストリジウム・セプチカム由来の天然のα毒素はラージローブ結合領域のみを含む。一つの実施形態では、結合領域の修飾には結合領域の機能的欠失が含まれる。MPP内の機能的に欠失した結合領域は、その細胞表面の受容体に結合する能力が低下しているが、なおポア形成能力を保持しているMPPをもたらす。機能的欠失は、MPPの一つ以上の結合領域を欠失または変異させることによって加えられる。一つの実施形態では、結合領域全体またはその一部分が欠失されてもよい。追加的な実施形態では、結合領域を機能的に欠失させるために、結合領域への異種配列の挿入が使用されてもよい。これらの異種配列の付加は、MPPに付加的な機能性を与えてもよい(すなわち結合領域の機能的置換)。例えば、異種配列の付加は、本書に記載するように、前立腺特異的標的領域として機能することができる領域の付加をもたらすことができる。さらに別の実施形態では、nPPの天然の結合領域のアミノ酸配列に対する点変異もまた、結合領域がその受容体に結合する能力を低下させるために行われる。これらの修飾に関する詳細を下記に記載する。
結合領域が不足しているMPPは、それらの細胞溶解活性を保持するが、細胞膜内の毒素の濃度を確保するために高い用量で投与される必要があるかもしれない。当分野で知られている方法を用いて結合領域に機能的欠失を持つMPPを調製してもよい。これらの方法には、上記Sambrookらに記載されるような組み換えDNA技術の使用が含まれる。代替的には、結合領域の機能的欠失は、続いて化学的に一緒に結合されてもよい、MPPの断片を産生するためのタンパク質分解などの、当分野で知られている方法に従ってタンパク質自身の修飾を導くことによって達成されてもよい。
本発明の一つの実施形態では、MPPは自身のスモールローブ結合領域(SBD)の機能的欠失によって修飾される。SBDの典型的機能的欠失は、以下のようにアエロモナス・ハイドロフィラのプロアエロリジンポリペプチド内に作られてもよい。SEQ ID NO:2の1〜83番のアミノ酸に対応するSBD全体が欠失されてもよいか、またはこの領域の一部分、例えばSEQ ID NO:2の45〜66番のアミノ酸が欠失されてもよい。代替的には、点変異は、W45A、I47E、M57A、Y61A、K66Qのように(アミノ酸番号はSEQ ID NO:2またはSEQ ID N0:4参照)、ならびにMackenzieら.J.Biol.Chem.274:22604−22609,1999に記述されるように作成できる。結合領域に一つ以上の変異を持つMPPの例を表す概略図を図4Dに示し、ここで*は一つ以上の変異または欠失を表す。
本発明の一つの実施形態では、nPPは自身のラージローブ結合領域(LBD)の機能的欠失によって修飾される。MPPを提供するために加えられるてもよいプロアエロリジンのLBDの典型的な機能的欠失(SEQ ID NO:2の84〜426番前後のアミノ酸残基に含まれる)は以下の通りである。プロアエロリジンのLBD全体が欠失してもよい。代替的には、本発明の一つの実施形態では、プロアエロリジンから誘導されるMPPは、アミノ酸残基Y162、W324、R323、R336、および/またはW127に対する一つ以上の点変異をLBD内に含む。本発明の別の実施形態では、プロアエロリジンから誘導されるMPPはW127および/またはR336の位置に一つ以上の点変異を含む。さらに別の実施形態では、プロアエロリジンから誘導されるMPPは点変異Y162Aおよび/またはW324Aを含む。さらなる実施形態では、プロアエロリジンから誘導されるMPPは点変異R336A、R336C、および/またはW127Tを含む。別の実施形態では、MPPは、GPI−タンパク質リガンドと直接反応する他の残基に対する変異を含む。
α毒素から誘導されるMPPのLBDに対する典型的な変異は下記に記載され、SEQ ID NO:33に示すような天然のα毒素の配列のアミノ酸残基53、54、62、84〜102、259〜274、および309〜315を含む、α毒素の受容体結合領域中に少なくとも一つの置換されたアミノ酸を含む。本発明の一つの実施形態では、α毒素から誘導されるMPPは以下の残基:W85、Y128、R292、Y293、R305の一つ以上に対する変異を含む。
MPPのさらなる修飾
本発明は、MPPが前立腺細胞を選択的に標的とする能力に影響を与えない、MPPのさらなる修飾を意図する。そのような修飾には、アミノ酸置換、挿入または欠失、抗原性を低下させるための修飾、安定性を高めるためまたはMPPの薬物動態を向上させるための修飾が含まれる。一つの実施形態では、MPPに対するさらなる修飾は、少数のアミノ酸だけによってMPPと異なるポリペプチドをもたらす。そのような修飾には、MPPが正常前立腺細胞を選択的に標的し、殺す能力を妨げない、欠失(例えば、1〜3つ以上のアミノ酸の)、挿入(例えば、1〜3つ以上の残基の)、または置換が含まれる。一つの実施形態では、MPPへのさらなる修飾は、MPPに対して少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、またはそれ以上の配列同一性を保持し、MPPが前立腺細胞を選択的に標的し、殺す能力を維持するポリペプチドをもたらす。
それによりアミノ酸配列中の少なくとも一つの残基が除去され、その場所に異なる残基が挿入される置換によって、MPPは修飾されてもよい。一つの実施形態では、置換は同類置換である。同類置換は、一つ以上のアミノ酸(例えば2、5、または10残基)が同様の生化学的特性を持つアミノ酸残基と置換されるものである。一般的には、同類置換は、結果として得られるポリペプチドの活性にほとんど〜まったく影響を及ぼさない。例えば、理想的には、一つ以上の同類置換を含むMPPは、対応するnPPの活性を保持する。タンパク質中の元のアミノ酸と置換されてもよく、同類置換と見なされるアミノ酸の例には、Alaに対するSer、Argに対するLys、Asnに対するGlnまたはHis、Aspに対するGlu、Cysに対するSer、Glnに対するAsn、Gluに対するAsp、Glyに対するPro、Hisに対するAsnまたはGln、Ileに対するLeuまたはVal、Leuに対するIleまたはVal、Lysに対するArgまたはGln、Metに対するLeuまたはIle、Pheに対するMet、LeuまたはTyr、Serに対するThr、Thrに対するSer、Trpに対するTyr、Tyrに対するTrpまたはPhe、Valに対するIleまたはLeuが含まれる。
部位特異的変異導入またはPCRなどの標準的な手技を用いて、そのポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列を操作することにより、一つ以上の同類置換を含むようにMPPを修飾できる。同類置換に関するより詳しい情報は、他の場所の中では、Ben−Bassatら、(J.Bacteriol.169:751−7,1987)、O’Reganら、(Gene 77:237−51,1989)、Sahin−Tothら、(Protein Sci.3:240−7,1994)、Hochuliら、(Bio/Technology 6:1321−5,1988)、WO 00/67796(Curdら)や、遺伝学および分子生物学の標準的なテキストに見つけることができる。
別の実施形態では、置換は許容置換である。許容置換は非同類アミノ酸置換であるが、さらにMPP活性を著しく変化させない。例は、プロアエロリジンポリペプチド中のSEQ ID NO:2または4の300番目の位置でのアラニンに対するシステインの置換である。
一つの実施形態では、単一残基の一つ以上のアミノ酸置換を含むようにMPPが修飾される。別の実施形態では、一つのアミノ酸置換を含むようにMPPが修飾される。別の実施形態では、約2〜約10のアミノ酸置換を含むようにMPPが修飾される。別の実施形態では、約3〜約5のアミノ酸置換を含むようにMPPが修飾される。
プロアエロリジンから誘導されるMPPに対するさらなる修飾の限定されない例を表5に記載する。
(表5)天然のプロアエロリジンポリペプチドから誘導されるMPPの典型的な単一変異
ペプチド模倣薬およびオルガノミメティックの実施形態もまた意図され、それによりそのようなペプチド模倣薬およびオルガノミメティックスの化学成分の三次元配列は、ポリペプチド骨格の三次元配列とポリペプチド中の構成要素のアミノ酸側鎖を模倣し、前立腺細胞を溶解する能力を持つ、MPPのそのようなペプチド模倣薬およびオルガノミメティックスをもたらす。コンピュータモデリングの応用については、 薬理作用団は、生物学的活性のための構造条件の、理想化された三次元の定義である。最新のコンピュータモデリングソフトウェアを用いて(コンピュータ支援薬剤デザインすなわちCADDを用いて)、ペプチド模倣薬およびオルガノミメティックスを、各薬理作用団に適合するようにデザインできる。CADDで用いられるテクニックの説明については、Waltersの、「Computer−Assisted Modeling of Drugs」(Klegerman & Groves,eds.,1993)、Pharmaceutical Biotechnology,Interpharm Press:Buffalo Grove,Ill.165〜174ページ、およびPrinciples of Pharmacology(ed.Munson,1995)、102章を参照されたい。
MPPに加えられてもよいその他の修飾には、例えばカルボキシ末端または側鎖にかかわらず、MPPのカルボン酸基に対する修飾が含まれ、ここでこれらの基は、医薬的に許容できる陽イオンの塩の形で存在するか、またはC1−C16エステルを形成するようにエステル化されている、あるいは式NR1R2のアミドに変換され、そこでは、R1とR2がそれぞれ独立してHまたはC1−C16アルキルであるか、または5員または6員環などの複素環を形成するように組み合わせられる。アミノ末端または側鎖にかかわらず、ポリペプチドのアミノ基は、例えば塩化水素、臭化水素、酢酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、マレイン酸、酒石酸、その他の有機塩などの医薬的に許容できる酸付加塩の形であってもよく、またはC1−C16アルキルまたはジアルキルアミノに修飾されるか、あるいはさらにアミドに変換されてもよい。
その他の修飾には、広く認められたテクニックを用いた、ポリペプチド側鎖のヒドロキシル基からC1−C16アルコキシまたはC1−C16エステルへの変換が含まれる。ポリペプチド側鎖のフェニル環およびフェノール環を一つ以上のフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素などのハロゲン原子と、またはC1−C16アルキル、C1−C16アルコキシ、カルボン酸、およびそのエステル、またはそのようなカルボン酸のアミドと置換できる。ポリペプチド側鎖のメチレン基を同族のC2−C4アルキレンに伸長できる。アセトアミド基などの、広く知られている多くの保護基のうち一つによってチオールを保護できる。当業者もまた、安定性の向上をもたらす構造に対する構造制約を選択し提供するための、本書に記載されるポリペプチドに環状構造を導入する方法を理解するであろう。例えば、酸化された場合にポリペプチドがジスルフィド結合を有し、環状ペプチドを作るように、カルボキシ末端またはアミノ末端システイン残基をポリペプチドに付加できる。その他のペプチドの環化法には、チオエーテルとカルボキシ末端およびアミノ末端アミドおよびエステル形成が含まれる。
本発明はまた、MPPは表面、例えばビーズなどに結合または固定化される、MPPに対するさらなる修飾を意図する。ビーズはさらに、前立腺細胞に対する標的を高めるために、前立腺特異的リガンドを含むことができる。固定化は、固体表面などの表面への結合を意味する。固体表面は、ポリスチレンまたは ポリプロピレンなどの、重合体であってもよい。固体表面はビーズの形態であってもよい。一つの実施形態では、表面は固定化MPPを含み、他の実施形態は、LHRHペプチド、PSMA抗体、およびPSMA一本鎖抗体などの、一つ以上の前立腺特異的結合リガンドをさらに含む。別の実施形態では、ひとたび前立腺細胞標的にビーズが到達すると、MPPはビーズから遊離する。ペプチドを固体表面上に固定化する方法は当分野で知られており、WO94/29436およびU.S.Pat.No.5,858,358に認められる。
本発明は、対象に投与された場合に分子の薬物速度論的特性を向上することを目的とする、さらなる修飾をMPPが含んでもよいことをさらに意図している。免疫原性を減少させるおよび/または治療上のタンパク質の半減期を伸ばす様々な修飾が当分野で知られている。例えば、当分野で知られている標準的な方法に従って、MMPは糖鎖付加、異性化、または脱グリコシル化を受けることができる。同様に、非天然起源の共有結合修飾、例えばポリエチレングリコール部分の付加(PEG化)または脂質化によってMPPを修飾できる。一つの実施形態では、本発明のMPPは、それらの薬物動態プロファイルを向上させるために、ポリエチレングリコールと結合する(PEG化)。結合は当業者に知られているテクニックによって行われてよい(例えば、Deckertら、Int.J.Cancer 87:382−390,2000;Knightら、Platelets 15:409−418,2004;Leongら、Cytokine 16:106−119,2001;Yangら、Protein Eng.16:761−770,2003を参照)。一つの実施形態では、変異導入法によって、抗原性エピトープを識別し変化させることができる。抗原性エピトープを識別する方法は、そのような抗原性エピトープを変異させる方法と同様に当分野で知られている(例えば、Setteら、Biologicals 29:271−276参照)。
MPPの調製方法
当分野で周知のように、多くの標準的な方法によって本発明によるMPPを調製できる。例えば、MPPをコード化している核酸を組み換えDNA技術を用いて遺伝子操作することによってMPPに対する修飾を行える。代替的には、化学修飾および/または制限タンパク質分解を用いて、MPPポリペプチド自身を修飾することによって、MPPに対する修飾が行われてもよい。当技術分野で周知のように、本発明によるMPPを調製するために、これらの方法の組み合わせもまた用いられてもよい。
組み換え法を用いたMPPの調製
当分野で周知のように、タンパク質の遺伝子操作は、タンパク質をコード化している核酸がまず単離され、クローン化されることを一般的に必要とする。本書で述べるように、様々なnPPの配列がGenBankから入手できる。これらのタンパク質をコード化している核酸配列の単離とクローニングは故に、標準的なテクニックを用いることによって達成される[例えば、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology,Wiley & Sons,NY(1997と改訂版);Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold−Spring Harbor Press,NY(2001)参照]。例えば、mRNAを標準的なテクニックによって抽出し、次にmRNAの鋳型からcDNAを合成することによって(例えばRT−PCRで)、アエロモナス・ハイドロフィラなどの適切な微生物から核酸配列を直接得ることができる。代替的には、標準的な手技によって、適切なcDNAまたはゲノムDNAライブラリーから、nPPをコード化している核酸配列を得ることができる。次に、単離されたcDNAまたはゲノムDNAを適切なベクターに挿入する。使用されるこのベクターが本発明にとって重大なものではないことを当業者は理解するであろう。適切なベクターの例には、プラスミド、ファージミド、コスミド、バクテリオファージ、バキュロ・ウィルス、レトロウィルス、またはDNAウィルスが含まれるが、これに限定されない。ベクターはクローニングベクターであってもよいか、または発現ベクターであってもよい。
ひとたびnPPをコードする核酸配列が得られたら、結合領域または活性化配列のうちの一つ以上における変異を、当分野で広く知られているin vitro部位特異的変異導入技術を用いて、特定の前もって選択した場所に導入できる。コード配列を作っている一つ以上の適切なヌクレオチドの欠失、挿入、置換、逆位、またはそれらの組み合わせによって変異を導入できる。これは例えば、一つ以上のヌクレオチドの不一致、挿入、または欠失を組み込むようにプライマーが設計される、PCRベースのテクニックによって達成できる。変異の存在は、例えば限定解析またはDNA塩基配列決定法などの、多くの標準的なテクニックによって確認できる。
必要ならば、適切な変異または複数の変異の導入後に、MPPをコード化する核酸配列を適切な発現ベクターに挿入できる。適切な発現ベクターの例には、プラスミド、ファージミド、コスミド、バクテリオファージ、バキュロ・ウィルスおよびレトロウィルス、ならびにDNAウィルスが含まれるが、これに限定されない。
発現ベクターが、MPPをコード化している配列の効率的な転写に必要とされる、転写要素などの調節要素をさらに含んでもよいことを当業者は理解するであろう。ベクターに組み込むことができる調節要素の例には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、およびポリアデニル化信号が含まれるが、これに限定されない。従って本発明は、遺伝子操作されたMPPをコード化している核酸配列に操作して連結される調節要素を含むベクターを提供する。当業者は、適切な調節要素の選択が、遺伝子操作されたMPPの発現のために選ばれた宿主細胞に依存し、そのような調節要素は、細菌、真菌、ウィルス、哺乳類、または昆虫の遺伝子を含む様々な起源から誘導されてもよいことを理解するであろう。
例えば、前立腺細胞中の遺伝子発現を促進するために、テストステロンやその他のアンドロゲンに応答する前立腺特異的プロモーターを使用できる。例には、プロバシンプロモーター、前立腺特異抗原(PSA)プロモーター、前立腺特異的膜抗原(PSMA)プロモーター、およびヒト腺性カリクレイン2(HK2)プロモーターが含まれるが、これに限定されない。
本発明の文脈において、発現ベクターは、発現したMPPの精製を促進する異種核酸配列を追加的に含んでもよい。そのような異種核酸配列の例には、金属親和性標識などの親和性標識、ヒスチジン標識、アビジン/ストレパビジンコード化配列、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)コード化配列、およびビオチンコード化配列が含まれるが、これに限定されない。当分野で知られている方法に従って、使用する前に核酸の発現に対応するアミノ酸を、発現されたMPPから除去することができる。代替的には、異種核酸配列の発現に対応するアミノ酸を、前立腺細胞を標的として殺すMPPの能力をそれらが妨げないのであれば、MPP上に残してもよい。
本発明の一つの実施形態では、ヒスチジン標識タンパク質としてMPPは発現される。別の実施形態では、ヒスチジン標識はMPPのカルボキシ末端の位置にある。
当分野で知られている様々な方法のうちの一つによって、発現ベクターを適切な宿主細胞または組織に導入することができる。そのような方法は、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology,Wiley & Sons,NY(1997と改訂版);Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold−Spring Harbor Press,NY(2001)に一般的に記載されているのを認めることができ、また、例えば安定なまたは一過性トランスフェクション、リポフェクション、電気せん孔法、ならびに組み換えウィルスベクターの感染を含む。MPPの発現のための適切な宿主細胞の選択が選択されたベクターに依存することを、当業者は理解するであろう。宿主細胞の例には、細菌、酵母、昆虫、植物、および哺乳類の細胞が含まれるが、これに限定されない。
さらに、挿入された配列の発現を調節する、または遺伝子産物を特定の所望の方式において修飾および加工する、宿主細胞を選択してもよい。タンパク質産物のそのような修飾(例えば糖鎖付加)およびプロセシング(例えば切断)はタンパク質の機能にとって重要かもしれない。異なった宿主細胞は、タンパク質および遺伝子産物の翻訳後のプロセシングおよび修飾に関して、特徴と特定のメカニズムを持っている。発現された異種タンパク質の正しい修飾やプロセシングを確保するために、適切な細胞株または宿主システムを選ぶことができる。そのために、一次転写産物の適切なプロセシングや、遺伝子産物の糖鎖付加やリン酸化反応などの翻訳後の修飾に対する細胞の機構を持つ、真核生物の宿主細胞を使用できる。そのような哺乳類の宿主細胞には、CHO、VERO、BHK、HeLa、COS、MDCK、293、3T3、WI38が含まれるが、これに限定されない。
タンパク質をクローニングし、発現させる方法は当分野でよく知られおり、組み換えタンパク質の発現のためのテクニックとシステムの詳細な説明は、例えばCurrent Protocols in Protein Science(Coligan,J.Eら、Wiley & Sons,New York)などに認めることができる。組み換えタンパク質を提供するために、多種多様の発現システムを使用できることを、分子生物学の分野の業者は理解するであろう。正確にどの宿主細胞が使用されるかはは本発明にとって重大なものではない。結果として、本発明は、原核生物の宿主(例えば、大腸菌、アエロモナス・サルモニシダ、または枯草菌)中、または真核生物の宿主(例えば、サッカロミセス属またはピチア属、例えば、COS、NIH 3T3、CHO、BHK、293、またはHeLa細胞などの哺乳類の細胞、または昆虫の細胞)中でMPPが作られることを意図する。
当分野で知られている標準的なテクニックによって、MPPを宿主細胞から精製することができる。必要ならば、完全型のタンパク質またはそのタンパク質分解断片のいずれかを用いて、標準的なペプチド配列決定法によって、タンパク質へ遺伝子操作により導入されたアミノ酸配列における変化を決定することができる。
天然起源のポア形成タンパク質へ変異を導入するための直接法の代替法として、当分野で知られているテクニックによって、ポア形成タンパク質を発現しているクローン化した遺伝子に対してランダム変異導入法を行うことができる。このようにして作られたタンパク質の変異型の二次的な発現とスクリーニングは、本発明によるMPPの識別と単離を可能にするものである。
本発明によるMPPを、断片または融合タンパク質として調製することもできる。融合タンパク質は、正常前立腺細胞を選択的に標的として殺すMPPの能力を妨げない、他のアミノ酸配列に結合しているMPPを含むものである。一つの実施形態では、他のアミノ酸配列は、長さが5、6、7、8、9、10、20、30、または50アミノ酸残基を超えない。
融合タンパク質を作る方法は当業者に良く知られている。例えばU.S.Pat.No.6,057,133は、ヒトインターロイキン3(hIL−3)変異体、または第二のコロニー刺激因子、サイトカイン、リンフォカイン、インターロイキン、造血成長因子、またはIL−3変異体に機能的に結合している変異タンパク質から成る、融合分子を作る方法を開示する。U.S.Pat.No.6,072,041(Davisら)は、治療用タンパク質と共有結合している膜貫通型受容体に向けられる一本鎖のFv分子を含む融合タンパク質の作成を開示する。
前立腺特異的標的領域(例えばLHRHまたは抗体)などの他のアミノ酸配列に結合している、MPP(またはその変異体、断片など)を含む融合タンパク質を作成するために、同様の方法を用いることができる。タンパク質の二つの部分を互いに距離をあけて配置するため、またそれらの間に可動性を提供するために、リンカー領域を使用できる。リンカー領域は一般的には、長さが1から500アミノ酸の間のポリペプチド、例えば長さが30アミノ酸より短いものである。通常は、二つの分子をつなぐリンカーを、(1)二つの分子がフォールドし互いに独立して機能するのを可能にするように、(2)二つのタンパク質の機能領域を妨げるような二次秩序構造を発達させる傾向をもたないように、(3)機能性タンパク質領域と反応できる最低限の疎水性または荷電特性を持つように、および/または(4)二つの領域の立体構造の分離を提供するように設計できる。通常、可動タンパク質領域にある表面アミノ酸には、Gly、Asn、およびSerが含まれる。ThrやAlaなどのその他の中性アミノ酸もまた、リンカー配列において使用できる。融合の構成を促進するために、リンカー配列に独自の制限酵素部位を提供する目的で、追加的なアミノ酸をリンカーに含めてもよい。必要に応じて他の部分も含めてよい。これらは、アビジンまたはエピトープなどの結合領域、または融合タンパク質の精製やプロセシングに有用であるポリヒスチジン標識などの標識を含むことができる。さらに、体内または細胞内での融合タンパク質の移動を便利に監視できるように、検出可能なマーカーを融合タンパク質に付着させることもできる。そのようなマーカーには、放射性核種、酵素、蛍光プローブ、および同様のものが含まれる。
MPPの核酸配列と別のタンパク質(またはその変異体、断片など)の核酸配列の融合を、中間ベクターを使用することによって行うことができる。代替的には、一つの遺伝子を、他の遺伝子を含むベクターに直接導入してもよい。核酸配列を結合するためだけでなく、制限酵素部位が関心領域の内部にある、失われた配列を置換するためにもリンカーやアダプターを使用できる。一つのポリペプチド、ペプチドリンカー、ならびに他のポリペプチドをコード化している遺伝物質(DNA)は、原核細胞または真核細胞、例えば細菌、酵母、昆虫の細胞、または哺乳類の細胞を形質転換するために使用される、適切な発現ベクターに挿入される。形質転換された生物は成長し、タンパク質は、標準的なテクニック、もしポリヒスチジン標識を用いた場合は、例えばニッケルキレート親和性クロマトグラフィーなどの検出可能なマーカーを用いて単離される。従って、結果として得られる産物は、新しいタンパク質である、融合タンパク質であり、任意でリンカーを介して第二のタンパク質に結合されたMPPを持つ。融合タンパク質が発現していることを確かめるために、精製タンパク質について、例えばSDSポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行い、確立された方法を用いてニトロセルロース膜フィルター上に移してもよい。タンパク質産物を、個々の要素、すなわちポリヒスチジン標識および/またはMPPに対する抗体を用いて、ウエスタンブロット解析によって識別できる。
もし本発明によるMPPが融合遺伝子の発現によって産生される場合は、ペプチド結合はMPPと前立腺特異的標的領域の間のリンカーとして機能する。例えば、抗体の一本鎖Fv断片とポア形成タンパク質毒素の組み換え融合タンパク質は、当分野で知られている方法、例えば、Hustonら、Meth.Enzymol.203:46−88,1991に従って作成できる。
コード化されたタンパク質の生物学的活性に影響することなしに、多くの方法でDNAを変化させることができることを当業者は理解するであろう。例えば、MPPをコード化するDNA配列に変化をもたらすために、PCRを用いることができる。MPPをコード化しているDNA配列中のそのような変化は、宿主細胞中のコドン選択を最適化するためにタンパク質を発現するために使用されるてもよいし、または発現を促進する他の配列変化を含んでもよい。
MPPを調製する他の方法
前立腺特異的標的領域や上述の任意のリンカーは、共有結合または非共有結合、あるいは両方を介して本発明のMPPに付加されてもよい。非共有相互作用は、ロイシン・ジッパーに関与する相互作用または抗体‐タンパク質Gの相互作用など(Derrickら、Nature 359:752,1992)の、イオン性、疎水性、または親水性であってもよい。追加的な非共有相互作用の例には、抗原またはハプテンと抗体、抗体と抗抗体、受容体とリガンド、酵素または酵素断片と基質、基質類似体、またはリガンド、ビオチンまたはレクチンとアビジンまたはストレプトアビジン、レクチンと炭水化物、ロイシンジッパー・モチーフの対(例えば、U.S.Patent No. 5,643,731参照)とともに、当分野で知られている様々なホモ二量体やヘテロ二量体などの結合対が含まれるがこれに制限されない。当分野で周知のように、MPPは結合対の一つの要素を含むように修飾されてもよく、前立腺特異的標的領域は結合対の他の要素を含むように修飾されてもよい。
共有結合はジスルフィド結合の形をとってもよい。固有のシステインコドンを含むように、要素のうちの一つをコード化するDNAを遺伝子操作できる。代替的には、天然起源のシステイン残基を使用してもよい。第一の要素のシステインに反応性のスルフヒドリル基を用いて、第二の要素を誘導体化できる。代替的には、スルフヒドリル基は、それ自身またはシステイン残基の一部としてのいずれかで、固相ポリペプチド技術を用いて誘導されることができる。例えば、ペプチドへのスルフヒドリル基の誘導はHiskey(Peptides 3:137,1981)によって記述されている。
スルフヒドリル基を添加する標準的なテクニックによって、タンパク質を化学的に修飾できる。例えば、リジン残基またはN末端アミンなどの、1級アミン上にスルフヒドリル基を導入するために、トラウト試薬(2−イミノチオラン−HCl)(Pierce Chemicals社、Rockford、I11)を使用できる。トラウト試薬を用いて修飾されたタンパク質またはペプチドは次に、N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)またはスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)(Pierce Chemicals社、Rockford、I11)などの試薬で修飾されたタンパク質またはペプチドと反応できる。ひとたび正しいスルフヒドリル基が各要素に存在すると、二つの要素は精製され、各要素上の硫黄基は還元され、要素が混合され、室温でジスルフィド結合形成が完了まで進行するのが許される。結合反応の効率を高めるために、要素のうち一つのシステイン残基、例えばシステイン−MPPを、5,5’−ジチオビス(2−ニトロベンゾイック)アシッド(DTNB)または2,2’−ジチオピリジンを用いた反応混合物への添加の前に、当分野で知られている方法を用いて活性化することができる。反応後、複合していない分子を除去するために、リン酸緩衝生理食塩水で混合物を透析する。次に、Sephadexクロマトグラフィーまたは同様のものを、本発明の化合物を、大きさに基づいてその成分から分離するために実施する。
Maitiら、Int.J.Cancer Suppl.3:17−22,1988に記載されているように、ポリマー、モノメトキシ−ポリエチレングリコール(mPEG)を用いても要素を結合できる。
カルボジイミド媒介結合(例えば、DCC、EDC、または活性化EDC)などの、当分野で知られている標準的な共役化学を用いて、また架橋のためにεアミノ基をチオールに変換するための2−イミノチオランと、m−マレイミドベンゾイル−n−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(MBS)を架橋剤として用いても、前立腺特異的標的領域とnPPまたはMPPを結合させることができる。前立腺特異的標的領域とnPPまたはMPPを結合させるために、当分野で知られている様々な他の結合の方法を用いることができる。
MPPの大量調製
組み換えタンパク質の生産のための大量発酵処理や、組み換えタンパク質の精製のための限外ろ過、イオン交換クロマトグラフィー、固定化金属イオン親和性クロマトグラフィーなどの、当分野で知られている標準的なテクニックを用いて、例えば製造目的のためにMPPの調製を大規模に行うこともできる。
MPPをテストする方法
本発明によるMPPはそれらのポア形成活性を保持し、前立腺細胞を選択的に殺す。前立腺細胞を選択的に殺すMPPの能力を、当分野で知られている標準的なテクニックを用いてテストできる。候補となるMPPをテストする一般的な方法を下記と、本書に含まれる実施例に示す。候補となるMPPをテストする他の方法は、当分野で知られており、また本発明によるMPPをテストするのにも適していることを、当業者は理解するであろう。
in vitroの方法
前立腺特異的活性化配列を含む本発明によるMPPを、当分野で知られている方法に従って、適切な前立腺特異的プロテアーゼによって切断されるそれらの能力についてテストできる。例えば、様々な濃度の適切なプロテアーゼを用いてMPPをインキュベートでき、インキュベーション産物をSDS−PAGEゲル上で電気泳動でき、MPPの切断をゲル上でのポリペプチドのサイズを調べることによって評価できる。
プロテアーゼを用いてインキュベートしたMPPがポア形成活性、従ってプロテアーゼを用いたインキュベーション後に細胞を殺す能力を持つかどうかを検討するために、当分野で知られている溶血アッセイで反応産物をテストできる。適切なアッセイの例はHoward,S.PおよびBuckley,J.T.1985.Activation of the hole−forming toxin aerolysin by extracellular processing.J.Bacteriol.163:336−340に記述されている。
本発明によるMPPを、当分野で周知のように、前立腺細胞を殺すそれらの能力に関してテストできる。例えば、前立腺細胞を殺すMPPの能力を、適切な前立腺細胞株を用いてin vitroで分析できる。一般的には、選択された試験細胞株の細胞は、適切な濃度まで増殖させ、候補となるMPPを添加する。適切なインキュベーション時間の後、(例えば、およそ48〜72時間)、細胞生存率を評価する。細胞生存率を測定する方法は当分野でよく知られており、レザズリン還元試験(Fields & Lancaster(1993)Am.Biotechnol.Lab.11:48−50;O’Brienら、(2000)Eur.J.Biochem.267:5421−5426、およびU.S.Patent No.5,501,959参照)、スルホローダミンアッセイ(Rubinsteinら、(1990)J.Natl.Cancer Inst.82:113−118)、ニュートラルレッド色素試験(Kitanoら、(1991)Euro.J.Clin.Investg.21:53−58; Westら、(1992)J.Investigative Derm.99:95−100)またはトリパンブルーアッセイが含まれるが、これに限定されない。また、例えばCellTiter 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(プロメガ)などの多くの市販のキットを用いてもよい。処理した培養液中の細胞生存率と一つ以上の対照培養液、例えば未処理の培養液および/または対照化合物(一般的には既知の治療薬)を用いて前処理された培養液、またはその他の適切な対照中の細胞生存率の比較によって、細胞毒性は測定される。正常な前立腺細胞を殺すのに効果的と考えられるMPPは、例えば少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%、細胞生存率を減少させることができる。
例えば、MPPが正常前立腺細胞を殺す能力をそれらがその他の組織由来の細胞を殺す能力と比較することによって、前立腺特異的標的領域を含むMPPを、選択的に前立腺細胞を標的とするそれらの能力について評価できる。代替的には、当分野で周知のように、前立腺特異的標的領域を含むMPPが前立腺細胞を選択的に標的とできるかどうかを決定するために、フローサイトメトリーによる方法を用いてもよい。さらに別の代替法として、前立腺特異的標的領域の結合リガンドを人工脂質膜に組み込むことができ、チャネルを形成するMPPの能力を当業者に周知の方法を用いて測定できる。
本発明によるMPPを、特異的前立腺細胞を溶解するそれらの能力についてテストするために用いることができるアッセイを、例えば実施例2および3に記載する。例えばPSA切断部位を持つMPPを、それが非PSA産生細胞を溶解する能力と比較して、それがPSA産生細胞を特異的に溶解する能力について評価できる。本発明によるMPPは、PSA産生細胞(前立腺細胞など)と接触した場合、非PSA産生細胞を殺すのに必要とされるよりも低い濃度、例えば、少なくとも2分の1、5分の1、10分の1、または100分の1の濃度で細胞の溶解と死を促進する。
候補となるMPPをテストするのに適切な様々な前立腺細胞株が当分野で知られており、多くは市販されている(例えばAmerican Type Culture Collection, Manassas,VAから)。in vitro試験に適切な前立腺細胞株の例には、PNT1A、PNT2、BPH−1、DuK50、NRP152、PS−1細胞株が含まれるが、これに限定されない。
必要ならば、非前立腺細胞に対するMPPの毒性もまた、初めに標準的なテクニックを用いてin vitroで評価することができる。例えば、ヒト初代線維芽細胞をin vitroでMPPを用いてトランスフェクションし、次に、処理後の異なる時点において、上述アッセイなどの標準的な生死判別試験、またはトリパンブルー排除アッセイを用いてそれらの生存率についてテストできる。細胞を、それらがDNAを合成する能力については、チミジン取り込みアッセイなどを用いて、また細胞周期動態における変化については、fluorocytometerセルソーター(FACS)と併用して標準的な細胞選別アッセイなどを用いて評価できる。
当分野で周知のように、血漿または血清中の本発明によるMPPの活性もまたテストできる。例えば、血清を用いてMPPを適切な時間インキュベートでき、その後、例えば電気泳動や電気泳動した活性化されたMPPに対応するバンドの濃度解析を用いてMPPの活性化の度合いが測定される。
in vivoの方法
当分野で知られている方法に従って、本発明によるMPPの毒性をin vivoでテストできる。例えば、実施例4に記述するように、単回の静脈注射後にマウスの100%を殺す用量を測定することによって(すなわちLD100)MPPの総合的な全身毒性をテストできる。MPPの全身投与または前立腺内投与による毒性もまた、例えばMPPをイヌ、ラット、またはサルに投与することにより、in vivoで評価できる。
本発明によるMPPが前立腺の大きさを縮小する能力、故にBPHの治療への適性を示す能力を、当分野で知られている動物モデルを用いてin vivoでテストできる。例えば、MPPのin vivoでの活性を、イヌ、または非ヒト霊長類、例えばカニクイザル、チンパンジー、およびヒヒを用いてテストできる。例えば肛門周囲前立腺内注射によって、MPPを投与できる。例えば、磁気共鳴映像法または前立腺組織の検視および/または前立腺の重量の測定によって、投与後の前立腺の体積の変化を評価できる。
上述のように、動物モデルにおいて前立腺の大きさを縮小できる、または前立腺のさらなる増殖を抑えることができるMPPはBPHの治療に適していると考えられる。前立腺の大きさの縮小は、前立腺の重量または体積の減少を意味し、前立腺のさらなる増殖を抑えることは、試験化合物の投与後に、動物において、前立腺の重量または体積に最小の増加がある、または増加がない状態を意味する。一つの実施形態では、本発明によって意図されるMPPは、動物に投与された場合、例えば少なくとも10%、20%、30%、40%、または50%、前立腺の大きさを減少させることができる。
MPP抗原性の測定と低減
治療用タンパク質は、対象に投与された場合、ある程度の抗体反応を導く可能性があり、一部のケースでは、場合によって重篤な副作用につながることがある。従って、必要ならば、MPPの抗原性を当分野で周知のように評価でき、下記に記載する。さらに、潜在的な抗原性を減少させる方法を記載する。
本書に記載するMPPに対する抗体反応の反応速度と規模を、例えば、免疫応答マウスなどにおいて測定でき、免疫が保たれているヒトにおいて使用できる、投与計画の開発を促進するために使用できる。C57−BL6系統などの、免疫応答マウスにMPPの静脈内投与を行う。マウスを様々な間隔で屠殺し(例えば、単回投与後、複数回投与後)、血清を得る。抗MPP抗体の存在を検出するために、ELISAベースアッセイを使用できる。
本発明によるMPPの抗原性を減少させるために、MPPの天然の結合領域を、例えば上述のような前立腺特異的標的領域を用いて機能的に欠失させ、置換することができる。天然の結合領域の部位が欠如している、様々な計画のMPPに曝露した後に、上述した方法を用いてそのようなMPPの抗原性を測定できる。MPPを用いた継続治療を可能にするために用いられても良い別の方法は、連続的に投与される、抗原性の重複のない他のnPPに由来する代替的なMPPを使用することである。例えば、 プロアエロリジンから誘導されるMPPを、クロストリジウム・セプチカムのα毒素またはバチルス・チューリンゲンシスのδ毒素に由来するMPPと一緒に交互に用いることができる。これらのMPPの全ては、前立腺細胞を標的とするものだが、同一の抗体によって認識されない、または中和されない。別の例は、細胞傷害性ヒトT細胞によって産生されるヒトパーフォリンなどの、ヒト組織由来のMPPを使用することである。そのようなMPPが投与されてもよく、タンパク質がヒト由来であるため、抗体反応を引き起こすことができない。
医薬品組成物
本発明は、MPPと一つ以上の非毒性の医薬的に許容できる担体、希釈剤、賦形剤および/またはアジュバントを含む、医薬品組成物を提供する。必要ならば、他の有効成分が化合物中に含まれてもよい。上記のとおり、そのような化合物はBPHの治療に使用される。
医薬品組成物は、およそ1%〜およそ95%の本発明のMPPを含んでもよい。単回投与用に調製される組成物は、例えば、およそ20%〜およそ90%の本発明のMPP含んでもよい一方で、単回投与用ではない組成物は、およそ5%〜およそ20%の本発明のMPPを含んでもよい。最終製剤中のMPPの濃度は、0.01μg/mLまで低くても良い。例えば、最終製剤中の濃度は、およそ0.01μg/mL〜およそ1,000μg/mLの間でもよい。一つの実施形態では、最終製剤中の濃度は、およそ0.01μg/mL〜およそ100μg/mLの間である。単位用量の形態の限定されない例には、糖衣錠、錠剤表、アンプル、バイアル、坐薬、およびカプセルが含まれる。単位用量の形態の限定されない例には、糖衣錠、錠剤、アンプル、バイアル、坐薬、およびカプセルが含まれる。
組成物は溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸薬、カプセル、徐放製剤、またはパウダーであってもよい。固体組成物(例えば、パウダー、丸薬、錠剤、またはカプセルの形態)については、従来の非毒性固形担体は、例えば、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、でんぷん、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウム、またはステアリン酸マグネシウムを含むことができる。組成物は、トリグリセリドなどの伝統的な結合剤や担体を用いて、坐薬として調剤されてもよい。
動物への投与については、医薬品組成物は、様々な経路での投与のために調剤されてもよい。例えば、組成物は経口的、経皮的、直腸、または注射投与、または吸入またはスプレーによる投与のために調剤されてもよい。本書で用いられる用語、注射には、皮下注射、静脈、筋肉、髄膜、胸骨内注射または注入技術が含まれる。前立腺への直接注射または注入もまた計画される。タンパク質毒素の標準的な投与技術である、対流増加投与(CED)もまた、本発明によって計画される。
医薬的に許容できる賦形剤と一緒にMPPを投与できる。理想的には、そのような賦形剤は安定性および/または投与特性を向上させる。従って、本発明は、人工膜小胞(リポソーム、ノイソーム、ナノソームおよび同様のものを含む)、微粒子、またはマイクロカプセルなどの適切な賦形剤を用いたMPPの製剤、または医薬的に許容できるポリマーを含むコロイド製剤としてのMPPの製剤も提供する。そのような賦形剤/ポリマーの使用は、MPPの持続放出を得るのに有用であるかもしれない。代替的に、または加えて、MPP製剤は、in vivoでタンパク質を安定化させるために、ヒト血清アルブミンなどの添加剤、あるいは当分野で知られているタンパク質治療薬のその他の安定化剤を含むことができる。
錠剤、トローチ、薬用キャンディー、水性懸濁液または油性懸濁液、分散性パウダーまたは顆粒、エマルジョンハードカプセルまたはソフトカプセル、またはシロップまたはエリキシル剤として、経口投与用の医薬品組成物を調製できる。そのような組成物を、医薬品組成物の製造業者に知られている標準的な方法に従って調製でき、医薬的に洗練されていて口当たりのよい製剤を提供するために、甘味剤、着香料、着色料、および保存料のグループから選択される、一つ以上の物質を含んでもよい。錠剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウムなどの不活性希釈剤、コーンスターチ、またはアルギン酸などの造粒剤や崩壊剤、でんぷん、ゼラチンまたはアカシアなどの結合剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルクなどの潤滑剤を含む、適切な非毒性の医薬的に許容できる賦形剤を用いた混合剤中に有効成分を含む。錠剤はコーティングされていなくてもよい、または消化管中での分解と吸収を遅らせ、それによりより長い時間持続作用を提供するために既知のテクニックによってコーティングされてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンなどの遅延材料などを用いてもよい。
経口投与用の医薬品組成物は、有効成分は例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリンなどの不活性固形希釈剤と混合される、硬ゼラチンカプセルとして、または有効成分は水またピーナツオイル、流動パラフィン、またはオリーブ油などの油性の溶媒と混合される軟ゼラチンカプセルとして提供されてもよい。
水溶性懸濁液として調製される医薬品組成物は、カルボキシルメチル・セルロース・ナトリウム、メチル・セルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、トラガカントゴムおよびアカシアゴムなどの懸濁化剤、例えばレシチンなど天然起源のリン脂質、またはポリオキシエチレンステアレートなどのアルキレンオキサイドと脂肪酸の縮合生成物、またはヘプタデカエチレンオキシセタノールなどの、エチレンオキサイドと長鎖脂肪族アルコールの縮合生成物、またはポリオキシエチレンソルビトールモノオレエートなどの、エチレンオキサイドと、脂肪酸とヘキシトール由来の部分エステルの縮合生成物、またはポリエチレンソルビタンモノオレエートなどの、エチレンオキサイドと、脂肪酸とヘキシトール無水物由来の部分エステルの縮合生成物などのなどの分散剤または湿潤剤を用いた一つ以上の適切な賦形剤との混合物中に、活性のある化合物を含む。水溶性懸濁液は、エチル−またはn−プロピルp−ヒドロキシベンゾエートなどの一つ以上の保存料、一つ以上の着色料、一つ以上の着香料、またはショ糖またはサッカリンなどの一つ以上の甘味料を含んでもよい。
活性のある化合物を、ラッカセイ油、オリーブ油、ごま油、またはココナッツ油などの植物性油脂、または流動パラフィンなどの鉱物油に懸濁させることによって、医薬品組成物を油性懸濁液として調製することができる。油性懸濁液は、蜜ろう、固形パラフィン、またはセチルアルコールなどの増粘剤を含んでもよい。上記で説明したものなどの甘味料および/または着香料を、口当たりのよい経口剤を提供するために添加してもよい。アスコルビン酸などの酸化防止剤を加えることによって、これらの組成物を保存できる。
引き続き水を添加することによって水溶性の懸濁液を調製するために使用できる、分散性パウダーまたは顆粒として、医薬品組成物を調製できる。そのような分散性パウダーまたは顆粒は、一つ以上の分散剤または湿潤剤、懸濁化剤および/または保存料を用いた混合物中に有効成分を提供する。上述したものが、適切な分散剤または湿潤剤と懸濁化剤の良い例となる。甘味剤、着香料、着色料、などの追加的な賦形剤もこれらの組成物中に含まれてもよい。
本発明の医薬品組成物を水中油型乳剤として調製することもできる。油相はオリーブ油またはラッカセイ油などの植物性油脂、または流動パラフィンなどの鉱物油であってもよく、またはこれらの油の混合であってもよい。これらの組成物中に含まれるための適切な乳化剤には、アカシアゴムやトラガカントゴムなどの天然起源のゴム、大豆、レシチンなどの天然起源のリン脂質、またはソルビタンモノオレエートなどの、脂肪酸とヘキシトール、無水物由来のエステルまたは部分エステルや、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどの、前記部分エステルとエチレンオキシドの縮合生成物が含まれる。エマルジョンは、甘味料や着香料を任意で含んでもよい。
医薬品組成物は、グリセロール、プロピレン・グリコール、ソルビトール、またはショ糖などの一つ以上の甘味料と有効成分を混合することによって、シロップまたはエリキシル剤として調製されてもよい。そのような製剤は、一つ以上の粘滑薬、保存料、着香料、および/または着色料を任意で含むこともできる。
医薬品組成物は、当分野で知られている方法に従って、また上述したものなどの適切な一つ以上の分散剤または湿潤剤および/または懸濁化剤を使用して、無菌水溶性注射剤または油性懸濁液として調製されてもよい。無菌注射製剤は、無菌注射溶液または非毒性の母体として許容できる希釈剤または溶媒中の懸濁液、例えば1,3−ブタンジオール中の溶液などであってもよい。使用することができる許容できる賦形剤および溶媒には、水、リンガー溶液、乳酸リンガー溶液、および等張食塩水が含まれるが、これに限定されない。その他の例には、溶媒または懸濁化剤として従来用いられている無菌、不揮発性油や、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む様々な無刺激不揮発性油が含まれる。オレイン酸などの脂肪酸も、注射剤の調製に使用されてもよい。
他の医薬品組成物と医薬品組成物を調製する方法は当分野で知られており、例えば、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」(以前は「Remingtons Pharmaceutical Sciences」);Gennaro,A.,Lippincott,Williams & Wilkins,Philidelphia,PA(2000)などに記載されている。
上述の本発明の医薬品組成物は、意図された目的を達成するのに効果的な量の一つ以上の本発明のMPPを含む。従って、用語「治療上有効な投与量」は、BPHの症状や特徴を寛解するMPPの量を意味する。化合物の治療上有効な投与量の測定は、当業者の能力の範囲内にある。例えば、治療上有効な投与量を、初めに細胞培養アッセイ、または本書で説明したような動物モデルのいずれかにおいて推定できる。適切な濃度の範囲と投与経路を決定するために動物モデルを使用することもできる。そのような情報は次に、当業者に知られている標準的な方法を用いて、ヒトを含む他の動物における有用な用量と経路を決定するために使用されてもよい。
例えば、50%有効量、すなわちED50(つまり、集団の50%に治療上有効な用量)や50%致死量、すなわちLD50(つまり、集団の50%に致死的な用量)を測定するなどの、標準的な製剤手技を用いて治療上の有効性と毒性も測定できる。治療効果と毒性効果間の用量比は、「治療指数」として知られ、LD50/ED50の比で表すことができる。細胞培養アッセイと動物試験から得られるデータを、ヒトまたは動物に使用するための投薬量の範囲を調整するために使用することができる。そのような組成物に含まれる投薬量は、通常はED50を含む濃度の範囲内にあり、毒性をほとんど示さないか、あるいはまったく示さない。投薬量は、用いられる投薬形態、対象の感受性、および投与経路、または同様のものに応じて、この範囲内で変化する。
対象に投与されるべき正確な投薬量は、治療を必要とする対象に関連する要素の観点から、施術者によって決定されてもよい。投薬量と投与は、十分なレベルのMPPを提供するためおよび/または所望の効果を維持するために調製される。適切な投薬量を決定する際に考慮されてもよい要素には、病状の重篤度、対象の総合的な健康、対象の年齢、体重、および性別、食事、投与の時間と頻度、複合薬、反応感受性、および治療に対する耐性/反応が含まれる。投与計画は、上記の要素に加えて特定の製剤の半減期や除去率に応じて施術者によって設計されてもよい。
非経口、経口、経鼻、直腸、局所、経皮投与、または同様のもののために、従来の方法に従って、医薬的に許容できる担体を用いて、医薬的に効果的な量の本発明のMPPを調製できる。製剤は一つ以上の希釈剤、充てん剤、乳化剤、保存料、緩衝液、賦形剤、および同様のものをさらに含んでもよく、たとえば、液体、パウダー、エマルジョン、坐薬、リポソーム、経皮貼布剤、および錠剤として提供されてもよい。多くの生物高分子(生物学に基づくシステム)、リポソームを用いるシステム、ポリマー輸送システムのどれかを含む、徐放性または持続放出輸送システムを、持続性を持たせ、あるいは、長期間MPPを提供するために、本書に記載される組成物と一緒に利用することもできる。そのような徐放システムを製剤、例えば、経口、局所および非経口使用に適用できる。用語「医薬的に許容できる担体」は有効成分の生物学的活性の有効性を妨げない、宿主または患者に毒性を示さない担体溶媒を意味する。当業者は、適切な様式において、またRemington:The Science and Practice of Pharmacy, Gennaro,ed.,Mack Publishing Co.,Easton PA.,19th ed.,1995に開示されるような慣例に従って、本発明の化合物を調剤してもよい。
一つの実施形態では、例えば安定性または循環半減期を高めるため、または免疫原性を低下させるために、MPPは水溶性高分子と結合する。臨床的に許容できる水溶性高分子には、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニル・アルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリプロピレングリコールホモ重合体(PPG)、ポリオキシエチル化ポリオール(POG)(グリセロールなど)およびその他のポリオキシエチル化ポリオール、ポリオキシエチル化ソルビトール、またはポリオキシエチル化グルコース、および他の炭水化物ポリマーが含まれるが、これに限定されない。ポリペプチドを、PEGなどの水溶性高分子に結合させる方法は、例えばU.S.Patent Pub.No.20050106148やそれに引用されている参照文献に記載されている。
良性前立腺肥大症(BPH)の治療に対するMPPの使用
本発明によるMPPは、他の正常組織と比較して、選択的に正常前立腺細胞を殺す。従って、本発明によるMPPは、BPHの治療または予防に有用である。
一つの実施形態では、BPHの治療は、BPHを持つ対象における前立腺の大きさの縮小を意味する。前立腺の大きさを、例えば、面積測定、長楕円体積計算(HWL)、楕円体積測定技術を含む、当分野で知られている方法によってその体積に関して測定できる。直接、例えば直腸指診、直腸超音波検査または細胞検査によって、または間接的に、例えば血中PSA濃度の変化や血液中の遊離PSAと総PSAの割合の変化を測定することによって、前立腺の大きさを測定できる。
一つの実施形態では、MPPの投与は、対象の前立腺の体積を減少させる。例えば、開示された方法は、前立腺の体積を、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、または少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%減少させることができる。
別の実施形態では、BPHの治療は一つ以上BPHのの症状の重篤度の減少を意味する。BPHの症状には、排尿躊躇、尿流出の途切れや弱さ、性急や漏れまたは尿滴下、または排尿回数の増加、特に夜間におけるものなどの、排尿に関する変化または問題が含まれる。これらの症状は下部尿路症状(LUTS)として知られている。当分野で周知のように、米国泌尿器科学会(AUA)症状指数、Madsen−Iversenスコアシステム、またはBoyarskyシステムを用いてLUTSを測定できる。
別の実施形態では、BPHの治療は、前立腺の持続的な増殖の予防または抑制を意味し、体積の増加率または血中PSAの増加率における減少、または上述のようにBPHの症状の減少によって測定できる。
併用療法
本発明によるMPPを、単独に、またはBPHに対する一つ以上の追加的な治療法と併用して使用できる。BPHに対する追加的な治療法には、α−1−アドレナリン受容体拮抗薬や5−αレダクターゼ阻害剤などの薬の投与、植物療法、外科処置、および低侵襲手術手技が含まれる。
α−1−アドレナリン受容体拮抗薬の例は、アルフゾシン/プラゾシン、タムスロシン、テラゾシン、およびドキサゾシンである。5−αレダクターゼ抑制剤の例は、フィナステリドとデュタステリドである。
植物療法の例には、ノコギリパルメットの果実/チャボサバル(Serenoa repens)、アフリカンプラムバーク(Pygeum africanum)、南アフリカスターグラス/βシトステロール(Hipoxis rooperi)、ムラサキバレンギク(Echinacea purpurea)、カボチャの種(Cucurbita pepo)、ライ麦(Secale cereale)、およびイラクサ(Urtica dioica)が含まれる。外科手技の例は、経尿道的前立腺切除術(TURP)、経尿道的ニードルアブレーション(TUNA)、経尿道的前立腺切開術(TUIP)、経尿道的マイクロ波温熱療法(TUMT)、レーザー前立腺摘除術、バルーン拡張、電気的蒸気療法、前立腺開腹摘除術である。
必要ならば、MPPに対する全身免疫応答を減少させるために、免疫抑制療法をMPPと併用して施行してもよい。免疫抑制療法の例には、全身または局所性コルチコステロイド(Sugaら、Ann.Thorac.Surg.73:1092−7,2002)、シクロスポリンA(Fangら、Hum.Gene Ther.6:1039−44,1995)、シクロホスファミド(Smithら、Gene Ther.3:496−502,1996)、デオキシスパーガリン(Kaplanら、Hum.Gene Ther.8:1095−1104,1997)、T細胞および/またはB細胞に対する抗体[例えば、抗CD40リガンド、抗CD4抗体、抗CD20抗体(リツキシマブ)](Manningら、Hum.Gene Ther.9:477−85,1998)が含まれるが、これに限定されない。MPPの投与前、投与中、または投与後にそのような薬剤を投与できる。本発明のMPPは上述の治療法と個別に、連続的に、または同時に投与されてもよい。
MPPの投与
治療上有効な量の本発明によるMPP、またはMPPをコード化する核酸を、当分野で知られている方法を用いて、BPHを持つ対象に局所的または全身に投与できる。
一つの実施形態では、BPHを持つ対象において、MPPは前立腺に注射される(前立腺内)。例えば、近接照射療法の多重注入法と同様の投与法を使用でき、この場合適切な投薬形態で組成物または製剤として適用される、多数に分割した精製ペプチドを会陰を介して針を用いて注射してもよい。
さらに、または代替的には、例えば 静脈内、筋肉内、皮下、または経口的に、BPHを持つ対象に対してMPPを全身に投与できる。
治療上有効な量のMPPは、所望の生物学的作用を達成するのに十分な量、例えば、前立腺の大きさ(すなわち体積および/または重量)を縮小させる、または前立腺のさらなる増殖を抑える、あるいは、BPHの症状を軽減するのに有効な量を意味する。一つの実施形態では、それは対象におけるBPHの徴候または症状を軽減するのに十分な量である。特定の例では、前立腺の体積を少なくとも10%、20%、30%、40%、または50%だけ減少させるのに効果的な量である。別の実施形態では、前立腺の体積または重量におけるさらなる増加を予防するのに十分な量である。in vitroまたは動物モデル試験システムから導かれる用量反応曲線から、効果的な用量を外挿によって推定できる。
効果的な量のMPPを、単回投与または例えば毎日数回投与で、治療期間中に投与できる。しかし、効果的な量のMPPは、治療を受けている対象、治療されている症状の重篤度や種類、および投与の方式に依存する。一つの実施形態では、治療上有効な量のMPPは、前立腺内投与で、前立腺の重量1グラム当たりおよそ0.01〜50μgで変動してもよい。別の実施形態では、前立腺内投与で、治療上有効な量のMPPは前立腺の重量1グラム当たりおよそ0.02〜40μgで変動してもよい。別の実施形態では、治療上有効な量のMPPは、前立腺内投与で、およそ0.02〜35μgで変動してもよい。別の実施形態では治療上有効な量のMPPは、前立腺内投与で、およそ0.03〜25μgで変動してもよい。別の実施形態では、治療上有効な量のMPPは、前立腺内投与で、およそ0.04〜20μgで変動してもよい。別の実施形態では、治療上有効な量のMPPは、前立腺内投与で、およそ0.04〜10μgで変動してもよい。
一つの実施形態では、70kgのヒトに対する効果的な前立腺内静脈投与量はおよそ1mg〜およそ10mgのMPPである。別の実施形態では、効果的な静脈投与量はおよそ1mg〜およそ5mgである。別の実施形態では、効果的な静脈投与量はおよそ1mg〜およそ3mgである。さらに別の実施形態では、効果的な静脈投与量はおよそ2.8mgである。一つの実施形態では、70kgのヒトに対するMPPの効果的な前立腺内投与量は、およそ10mg〜およそ100mgのMPPである。別の実施形態では、70kgのヒトに対するMPPの効果的な前立腺内投与量は、およそ10mg〜およそ50mgのMPPです。別の実施形態では、70kgのヒトに対するMPPの効果的な前立腺内投与量は、およそ10mg〜およそ30mgのMPPである。別の実施形態では、効果的なMPPの前立腺内投与量は、70kgのヒトに対しておよそ28mgである。
MPPのin vivoでの発現
BPHを治療するためのMPPの投与に対する代替法(または追加法)として、MPPをコード化する核酸をin vivoで発現させることにより、BPHの長期または全身治療を達成できる。
MPPをコード化する核酸
本発明は、BPHの治療のために、MPPをコード化する核酸またはDNA分子の使用を意図する。そのようなDNA分子は、標準的な分子生物学的実験テクニックと本書で開示される配列情報を介して得ることができる。
それらが機能的MPPをコード化するのであれば、適切なDNA分子とヌクレオチドには、ストリンジェントな条件下で、開示されるDNA配列とハイブリダイズするもの、またはその断片が含まれる。特定の程度のストリンジェンシーをもたらすハイブリダイゼーションの条件は、ハイブリダイゼーション方法の種類と、使用されたハイブリダイズするDNAの構成と長さに応じて変化する。一般的には、ハイブリダイゼーションの温度とハイブリダイゼーション緩衝液のイオン強度(特にNa+濃度)がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する。特定の量のストリンジェンシーを得るのに必要な、ハイブリダイゼーション条件に関する計算はSambrookら、(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989、チャプター9と11)によって考察されている。[32P]−dCTPで標識した標的プローブを用いたハイブリダイゼーションは、溶融温度Tmよりおよそ5〜25℃低い温度で、一般的には、6倍希釈のSSCなど高イオン強度の溶液中で行われる。ストリンジェントな条件の例は、pH7.0〜8.3で少なくともおよそ0.01〜1.0MのNaイオン濃度の塩の濃度(または他の塩)と、短いプローブ(例えば10〜50ヌクレオチド)に対して少なくともおよそ30℃の温度である。ホルムアミドなどの不安定化剤を添加して、ストリンジェントな条件を得ることができる。例えば、25〜30℃で5倍希釈のSSPE(750mMの塩化ナトリウム、50mMのリン酸ナトリウム、5mMのEDTA、pH7.4)の条件は、対立遺伝子特異的プローブハイブリダイゼーションに適している。
遺伝暗号の縮重は、コード化されたタンパク質のアミノ酸配列を維持しながら、DNA分子のヌクレオチド配列中の変異体をさらに可能にする。例えば、アミノ酸Alaは、ヌクレオチドコドントリプレットGCT、GCG、GCC、およびGCAによってコード化されている。従って、コード化されたタンパク質のアミノ酸組成物、またはタンパク質の特性に影響を与えることなしに、ヌクレオチド配列は変更されることができる。遺伝子暗号の縮重に基づいて、上述したような標準的なDNA変異導入技術を用いて、またはDNA配列の合成によって、参照DNA分子から変異体DNA分子が誘導されてもよい。ストリンジェントな条件下で、遺伝子暗号の縮重に基づく配列変異のおかげで、開示されるDNA配列にハイブリダイズしないDNA配列もまた、本開示に含まれる。
本発明は、MPP、例えば修飾プロアエロリジンポリペプチドをin vivoで細胞または組織内に発現させる方法を提供する。一つの実施例では、細胞または組織のトランスフェクションはin vitroで起こる。この実施例では、細胞または組織(例えば移植片)は対象から除去され、次に目的とするタンパク質をコード化しているcDNAを含む発現ベクターを用いてトランスフェクトされる。トランスフェクト細胞は機能的タンパク質を産生し、対象に再び導入されることができる。別の実施例では、目的とするタンパク質をコード化している核酸は、直接対象に投与され(例えば静脈、または前立腺内投与)、トランスフェクションはin vivoで起こる。
ヒト細胞トランスフェクションに必要とされる科学的および医学的手技は現在では日常的なものである。遺伝子をドナー細胞に移入するための一般的な方法は、U.S.Pat.No.5,529,774に開示されている。一般的には、治療上望ましい効果を持つタンパク質をコード化している遺伝子は、ウィルスの発現ベクターにクローンされ、そのベクターは次に標的微生物に導入される。ウィルスは細胞に感染して、タンパク質配列をin vivoで産生し、そこで、それが所望の治療上の効果を持つ(Zabnerら、Cell 75:207−16,1993)。
DNAまたはタンパク質要素を特定の細胞または組織中、例えば前立腺に導入することだけが必要であるかもしれない。しかし、一部の例では、例えば血管内投与(i.v.)または経口投与によって、対象の細胞の全てを治療する、すなわちより広くベクターを分散させるのが、治療上より効果的および容易であるかもしれない。
MPPをコード化する核酸配列は、適切なプロモーターの制御下にある。使用できる適切なプロモーターには、遺伝子の天然のプロモーター、レトロウィルスLTRプロモーター、またはアデノウィルスの主要後期プロモーターなどのアデノウィルスプロモーター、CMVプロモーター、RSVプロモーター、MMTVプロモーターなどの誘導できるプロモーター、メタロチオネインプロモーター、熱ショックプロモーター、アルブミンプロモーター、ヒストンプロモーター、(x−actinプロモーター、TKプロモーター、B19パルボウィルスプロモーター、およびApoAIプロモーターが含まれるが、これに限定されない。一つの実施例では、プロモーターはプロバシンプロモーターなどの前立腺特異的プロモーターである。しかし、開示は特定の外来遺伝子またはプロモーターに限定されない。
組み換え核酸が適切な細胞に到達できるようにする、既知の方法によって組み換え核酸を対象に投与できる。これらの方法には、注射、注入、沈着、移植、または局所投与が含まれる。注射は、皮内または皮下であってもよい。下記でさらに説明するように、組み換え核酸は、アビポックス・ウイルス、組み換えワクシニアウイルス、複製欠損性アデノウィルス株、またはポリオウィルスなどの、ウィルスベクターの一部として、または裸のDNAまたはリポソーム封入されたDNAなどの、非感染形態として投与されてもよい。
アデノウィルスベクターは基本的に、完全なアデノウィルスのゲノムを含む(Shenkら、Curr.Top.Microbiol.Immunol.111:1−39,1984)。代替的には、アデノウィルスベクターは、アデノウィルスのゲノムの少なくとも一部が欠失している修飾アデノウィルスベクターである。一つの実施例では、ベクターは、アデノウィルス5’ITR、アデノウィルス3’ITR、アデノウィルス、キャプシド形成シグナル、治療剤をコード化するDNA配列、および治療剤をコード化するDNA配列の発現のためのプロモーターを含む。ベクターは、アデノウィルスE1およびE3DNA配列の少なくとも大部分を含まないが、E2およびE4DNA配列の全て、およびアデノウィルス主要後期プロモーターによって転写される、アデノウィルスタンパク質をコード化するDNA配列を必ずしも含まないわけではない。別の実施例では、ベクターはU.S.Pat.No.4,797,368(Carterら.)やMcLaughlinら、(J.Virol.62:1963−73,1988)に記載されるような、アデノ随伴ウィルス(AAV)および4型AAV(Chioriniら.J.Virol.71:6823−33,1997)、5型AAV(Chioriniら.J.Virol.73:1309−19,1999)である。
標準的なテクニックに従って、5’末端から始まり、アデノウィルス5’ITR、アデノウィルスキャプシド形成シグナル、およびE1aエンハンサー配列、プロモーター(アデノウィルスプロモーターまたは外来プロモーターであってもよい)、三連のリーダー配列、複数のクローニング部位(本書に記載されるようなものであってもよい)、ポリAシグナル、およびアデノウィルスゲノムの断片に対応するDNA断片を含む、シャトルプラスミドを用いてそのようなベクターを構成できる。DNA断片は、修飾されたまたは変異されたアデノウィルスを用いた相同的組み換えの基質として機能し、3329塩基〜6246塩基の長さを超えないアデノウィルス5’ゲノムを含んでもよい。プラスミドも選択可能なマーカーと複製起点を含むことができる。複製起点は細菌性の複製起点であってもよい。治療剤をコード化する所望のDNA配列をプラスミドの複数のクローニング部位に挿入できる。
本書で開示される方法を実施するのに使用できるベクターの例には、WO 95/27512(Wooら)、WO 01/127303(Walshら)、U.S. Pat.No.:6,221,349(Coutoら)、U.S.Pat.No.:6,093,392(Highら)で開示されるものが含まれるが、これに限定されない。
臨床試験
in vitroと動物モデルにおけるBPHの治療のためのMPPの有効性が示された後で、MPPは、BPHの治療におけるそれらの有効性をさらに評価するために、また治療上の使用に対する規制認可を得るために、臨床試験においてテストされるべきであることを当業者は理解するであろう。当分野で周知のように、臨床試験は第I、II、III、IV相と特定される、試験の相を通じて進行する。
初めに、MPPは第I相試験で評価される。一般的には、第I相試験は投与の最良の形態(例えば、丸薬または注入によって)、投与の頻度、化合物に対する毒性を決定するために使用される。第I相試験は、患者の体内における候補治療薬の効果を評価するために、血液検査や生検などの臨床試験を頻繁に含む。第I相試験については、BPHを持つ小人数の患者のグループのが特定の用量のMPPで治療される。試験中は、化合物に関連する最大耐量(MTD)や用量規定毒性(DLT)を決定するために、用量は一般的にグループごとに増量される。この過程は続いて行われる第II相試験において使用される適切な用量を決定する。
MPPの有効性と安全性をさらに評価するために第II相試験を行うことができる。第II相試験では、第I相試験において効果があると認められた投薬量を用いて、BPHを持つ患者の複数のグループにMPPを投与する。
第III相試験はMPPが標準的な、または広く受け入れられている治療にどの程度匹敵するかを検討することに焦点を当てている。第III相試験では、二つ以上の「治療群」のうちの一つに患者は無作為に割り当てられる。二つの治療群を用いた試験では、例えば、一つの治療群は基準治療を受け(対照群)、もう一つの治療群はMPP治療を受ける(治験群)。
MPPの長期的安全性と有効性をさらに評価するために第IV相試験を用いる。第IV相試験は第I、II、およびIII試験と比べて一般的ではなく、MPPの標準的使用が認可された後に行われる。
臨床試験に対する患者の適格性
参加者の適格基準は、一般的なもの(例えば、年齢、性別、病気の種類)から特定のもの(例えば、前治療の種類と数、病気の特徴、血球数、臓器機能)にわたる。一つの実施形態では、適格とされる患者はBPHの診断を受けている。適格基準は、試験の相によっても変化するかもしれない。臨床試験に適格とされる患者は、尿路閉塞の客観的な判定や、BPHへの経口治療に対して反応しないことに基づいて選ばれても良い。例えば、第I相と第II相試験では、臓器の異常機能やその他の要因により、治験治療により危険にさらされる可能性がある患者が基準から除外されることが多い。第IIと第III相試験では、病気の種類と病期、および前治療の数と種類に関して、追加的基準が含められることが多い。
第I相試験には通常、他の治療オプションが有効でなかった15〜30人の参加者が含まれる。第II相試験には一般的に、薬物療法あるいは手術を受けたが、治療が有効でなかった最大100人の参加者が含まれる。第II相試験への参加は、以前に受けた治療に基づいて制限されることが多い。第III相試験には通常、数百から数千の参加者が含まれる。MPPと標準的な治療の有効性の間に真の違いがあるかどうかを検討するために、この多数の参加者が必要である。第III相には、病気の連続性を対象とするために、BPHと新規に診断された患者から広範囲な疾患を持つ患者までが含まれてもよい。
範囲を狭めて定義された集団と同様に治療が効果的であるかを検討するために、試験集団が多様になりすぎないようにしつつ、可能な限り包括的なものとなるように臨床試験をデザインするべきであることを、当業者は理解するであろう。試験に含められる集団が多様になればなるほど、特に第III相試験においては、一般的な集団に対して結果がより適用されやすくなる。臨床試験の各相における適切な参加者の選択は、当業者の通常の技量の範囲内にあると考えられる。
治療前の患者の評価
試験を開始する前に、最初に患者を分類するために、当分野で知られているいくつかの方策を用いることができる。例えば、Family Practice Notebookウェブサイトの、良性過形成の症状指数を用いて、患者は最初に評価される。患者の病気の種類および/または病期、および/または前立腺の大きさに従って、患者を分類してもよい。
臨床試験におけるMPPの投与
MPPは一般的に、試験参加者に注射によって投与される。一つの実施形態では、MPPは前立腺内注射によって投与される。
さまざまなMPPの投与量を試験することができる。前臨床試験による情報を与えられれば、熟練した施術者は、臨床試験で用いるための適切なMPPの投与量を容易に決定することができる。一つの実施形態では、用量範囲はおよそ0.01μg/g前立腺〜およそ50μg/g前立腺である。一つの実施形態では、用量範囲はおよそ0.02μg/g前立腺〜およそ40μg/g前立腺である。一つの実施形態では、用量範囲はおよそ0.02μg/g前立腺〜およそ35μg/g前立腺である。一つの実施形態では、用量範囲はおよそ0.03μg/g前立腺〜およそ25μg/g前立腺である。一つの実施形態では、用量範囲はおよそ0.04μg/g前立腺〜およそ20μg/g前立腺である。一つの実施形態では、用量範囲はおよそ0.04μg/g前立腺〜およそ10μg/g前立腺である。一つの実施形態では、用量範囲はおよそ0.1μg/g前立腺〜およそ5μg/g前立腺である。一つの実施形態では、用量範囲はおよそ0.2μg/g前立腺〜およそ3μg/g前立腺である。一つの実施形態では、用量範囲はおよそ0.5μg/g前立腺〜およそ2μg/g前立腺である。
薬物動態のモニタリング
第I相の基準を満たすために、定期的に採取された血液や尿などの試料の化学的分析などによって、MPPの分布をモニターする。例えば、注入の開始からおよそ72時間後まで、試料を定期的に採取してもよい。
もし分析をすぐに行わない場合は、採取後は試料をドライアイス上に静置し、続いて、分析を行える時まで、−70℃で保存するために冷凍庫に移しても良い。当分野で知られている標準的なテクニックを用いて試料を分析のために調製することができ、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって存在するMPPの量を測定できる。
熟練した臨床薬理学者と共同で、薬物動態データを作成し、分析することができ、例えば、除去、半減期、および最大血漿濃度を決定するために使用できる。
患者の予後の監視
臨床試験の評価項目は、評価中の化合物の有効性を示す測定可能な結果である。評価項目は、試験の開始前に設定され、臨床試験の種類と相に応じて変化する。 評価項目の例には、例えば、前立腺の体積の低下、血中PSA濃度の低下、尿路症状の改善、尿流の改善、急性尿閉の減少がある。その他の評価項目には、毒性やQOLが含まれる。
医薬品キット
本発明は、BPHの治療に使用するための、一つ以上のMPP、または一つ以上のMPPを含む医薬品組成物を含む、治療キットまたはパックをさらに提供する。キットでは、MPPを単位投与形態で提供できる。キットの個々の構成要素を、個別の容器に包装してもよく、該当する場合、調合薬または生物学的製品の製造、使用、または販売を規制する行政機関によって規定される書式の注意書きが添付されてもよく、この注意書きはヒトまたは動物への投与に関する製造、使用、または販売の機関による承認を反映する。本発明のMPPと併用して使用するための、一つ以上の他の治療剤を、キットはさらに任意で含むことができる。MPPおよび/または追加的な治療剤のための使用方法または投与計画を大まかに説明する使用説明書または取り扱い説明書を、キットは任意で含んでもよい。
キットの構成要素が一つ以上の溶液で提供される場合は、溶液は、滅菌水溶液などの水溶液であってもよい。この場合は、容器そのものが、そこから組成物を患者に投与してもよい、または他の構成要素に添加して混合することのできる、吸入容器、シリンジ、ピペット、点眼容器、または他の同様な器具であってよい。
キットの構成要素は、乾燥または凍結乾燥状態で提供されてもよく、キットは凍結乾燥構成要素の溶解のために、適切な溶媒を追加的に含んでもよい。容器の数や種類にかかわらず、本発明のキットは、患者に組成物を投与するのを支援する器具を含んでもよい。そのような器具は、吸入器、シリンジ、ピペット、鉗子、計量スプーン、点眼容器、または類似の医学的に承認された投与手段であってもよい。
ここで具体的な実施例を参照して本発明を説明する。以下の実施例は本発明の実施形態を説明することを意図しており、本発明をどのようにも限定することを意図していないことが理解されるであろう。
実施例
実施例1:PSAによって活性化されたMPPの作成
この実施例は、表6に示すような、PSAによって活性化される本発明の実施形態によるMPPを作成するために使用される方法を記載する。これらのMPPは、 プロアエロリジンから誘導される。PSAまたはその他の前立腺特異的プロテアーゼによって活性化される、その他のMPPを作成するために類似の方法を使用できることを当業者は理解するであろう。そのようなタンパク質を、プロアエロリジンのフューリン配列を、PSA特異的切断配列などの前立腺特異的プロテアーゼ切断部位で置換することによって産生してよい。
(表6)PSAによって切断されるプロテアーゼ切断部位を持つ活性化配列を持つMPPと野生型プロアエロリジンの比較
表6に示すMPPには、その内部で、6つのアミノ酸フューリンプロテアーゼ認識部位(SEQ ID NO:2の427〜432番のアミノ酸)がPSA切断部位と置換される、プロアエロリジン配列(SEQ ID NOS:1と2に示される野生型PA)が含まれる。例えば、MPP1(SEQ ID NOS:3と4)は、その内部でフューリン切断部位がPSA基質HSSKLQ(SEQ ID NO:5)で置換された、プロアエロリジン配列を含む。
前述の方法を用いて(Valletteら、Nucl.Acids Res.17:723−33,1988)、アエロリジンのフューリン部位(SEQ ID NO:2の427〜432番のアミノ酸)をPSA特異的切断部位(SEQ ID NO:5、8、11、または14)で置換するために組み換えPCRを用いた。手短に言うと、pfu反応バッファー[20mMのトリスHCl(pH8.8)、10mMのKCl、10mMの(NH4)2SO4、2mMのMgSO4、0.1%のTriton X−100、および0.1mg/mlのBSA]中に、0.2mMのデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、0.5μMのフォワードおよびリバースプライマー、0.1μgのテンプレートDNA、および2.5単位のクローン化pfuポリメラーゼを含む、50μlの最終量で組み換えPCRを行った。
プロアエロリジンの挿入のための形質転換細胞のスクリーニングを、Taqポリメラーゼを用いてPCRで行った。0.2 mMのdNTP、0.5μMのフォワードおよびリバースプライマー、および5単位のTaqポリメラーゼを含むPCR反応バッファー[50mMのKCl、1.5mMのMgCl2、および10mMのトリスHCl(pH9.0)]中で混合物を調製した。この混合物の10μlの試料を0.2mlのチューブに添加し、形質転換細胞を滅菌した爪楊枝を用いて加えた。
最終PCR産物を適切な制限酵素を用いて消化し、次に増幅のためにクローニングベクターpTZ18u(バイオラッド社)に連結した。手短に言うと、DNA1μgに対して、およそ1単位の制限酵素を含む、ファルマシア社のOne−Phor−All buffer[10mMのトリスアセテート(pH7.5)、10mMのマグネシウムアセテート、および50mMのカリウムアセテート]中で、制限酵素消化を37℃で90分間行った。結果得られた挿入とpTZ18uベクターDNAを約5:1の割合で混合し、15分間45℃で加熱した。続いて、One−Phor All buffer中で試料を希釈し、ATPの最終濃度が、付着末端ライゲーションに対しては1mM、または平滑末端ライゲーションに対しては0.5mMになるように加えた。次に、11単位のT4DNAリガーゼを各資料に加え、試料を穏やかに混合した。ライゲーションを13℃で4時間(付着末端ライゲーション)または16時間(平滑末端ライゲーション)実施した。
正しい置換が加えられたことを確認するために、DNA塩基配列決定法を行った。続いてクローニングベクターから挿入を単離し、大腸菌での発現のために、広宿主域プラスミドpMMB66HEにサブクローニングした(Fursteら、Gene 48:119−131,1986)。前述したCaCl2洗浄方法(Cohenら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 69:2110−4,1972)を用いて大腸菌DH5α細胞をコンピテントにした。対数増殖期にある細胞(OD600=0.4〜0.7)を遠心分離で収集し、1/4量の100mM冷MgCl2中で洗浄した。細胞を再びペレット状にし、2倍量の100mM冷CaCl2中に再懸濁した。次に細胞を約45分間氷上でインキュベートした。その後細胞を遠心分離し、1/10量の100mM CaCl2中に再懸濁した。15%の最終濃度になるようにグリセロールを添加する前に、さらに45分間インキュベーションを続けた。コンピテント細胞を使用まで−70℃で保存した。
組み換えプラスミドの、コンピテント大腸菌細胞への形質転換をInoueら、(Gene 96:23−8,1990)の方法に従って行った。コンピテント細胞(200μl分注)を0.5〜10ngのDNAと一緒に氷上で一時間インキュベートした。次に細胞に対して42℃で4分間の熱ショックを行った。細胞を素早く5分間氷上に戻した。続いて、500μlのLB培地を各試料に加え、穏やかに攪拌しながら細胞を37℃で一時間インキュベートした。50μg/mlアンピシリンを含むLB寒天培地上で分注量(150μl)を培養した。これらの平板培地を37℃で一晩培養した。
Harayamaら(Mol.Gen.Genet.180:47−56、1980)のフィルターメーティング(filter−mating)技術を用いた結合によって、組み換えpMMB66HEクローンを、アエロモナス属サルモニシダ株CB3(Buckley,Biochem.Cell.Biol.68:221−4,1990参照)に移入した。アエロモナス・サルモニシダのこのプロテアーゼ欠乏株の使用は、活性化されたアエロリジンによって汚染されていないMPPの産生をもたらし、また、多量のタンパク質の産生をもたらした。上述したように(Buckley,Biochem.Cell.Biol.68:221−4,1990)、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーとイオン交換クロマトグラフィーによってMPPを精製した。この方法は、バッチ間で同一のMPPの調製をもたらした。
実施例2:MPP1はin vitroで特異的にPSA産生細胞を溶解する
この実施例は、実施例1で述べたような本発明の実施形態によるMPPの特異性を検討するために使用する方法を記載する。PSA特異的切断部位を含むMPPの特異性をテストするためにそのような方法を使用できる。
MPP1を、PSA産生LNCaP細胞(American Type Culture Collection,Manassas,Va.)と非PSA産生TSU細胞(Dr.T.Itzumi、帝京大学、日本)に対してテストした。10−12M〜10−6M MPP1の存在下で24時間細胞をインキュベートした。続いて、細胞をカウントし、トリパンブルーを排除する能力に基づいて、生存細胞の割合についてスコア化した。細胞の50%(IC50)を殺すのに必要な濃度を、LNCaPとTSU細胞株の両方に対するMPP1について決定した。
PSA産生細胞に対するMPP1のLD50は10−10Mであった。対照的に、非PSA産生TSU細胞に対しては、LD50はおよそ5×10−8Mであった。この結果は、PSA産生対非PSA産生ヒト細胞株に対する毒性における500倍の差から明らかなように、MPP1はPSAによって特異的に活性化されることを示す。
実施例3:MPP1はPSAを含む血液中で活性化されない
過剰なモル濃度α1−抗キモトリプシンやα2−マクログロブリンなどの血清プロテアーゼ阻害剤の存在によりPSAは血中で酵素的に不活性化されているので、PSA切断部位を含むMPPは血液中では活性化されないものである。
その他の血清プロテアーゼとヒト血清中のPSAによる、MPP1の非特異的な活性化をテストするために、以下のように高感度溶血アッセイを実施した。赤血球(RBC、2%v/v)を血漿またはMPP1±PSAを含む緩衝液に添加した。上清中に放出されるヘモグロビンを測定することによって、溶血の程度を分析した。0.1%トリトンの添加は、数秒間で100%の溶血をもたらし、陽性コントロールとして使用した。加水分解の量は、Triton処理試料の吸光度に対する540nmでの試料の吸光度の割合として表した。赤血球を加える前の1時間の水性緩衝液単独の中でPSAと一緒のMPP1(10−8M)のプレインキュベーションは、およそ45%の溶血をもたらした(図2)。
ヒト血漿中でMPP1が活性化されるかどうかを検討するために、MPP1(10−8M)を50%ヒト血漿中で1時間インキュベートした。関連する実験では、過剰なPSA(10,000ng/ml)を最初にヒト血漿に加え、数時間インキュベートした。次に血漿±PSAを含むMPP1をヒト赤血球(2%v/v)とともにインキュベートした。ヒト血漿、または高濃度のPSAでスパイクしたヒト血漿へののMPP1の添加は、明らかな溶血をもたらさなかった(すなわち図2のTriton対照の1%未満)。これらの結果は、たとえもし血液が測定可能なPSAを含んでいたとしても、血中での著しい活性化なしにMPP1を全身に投与できることを示す。
実施例4:MPP1、MPP2、およびMPP3のin vitroとin vivoでの毒性
この実施例は、in vitroとin vivoでのMPPの毒性を測定するために使用される方法を記載する。
in vitroでの毒性を測定するために、細胞の生死判別アッセイを以下のように実施した。EL4マウスT細胞リンパ腫細胞(ATCC TIB−39)を、MTS/PMS Cell Titer96(プロメガ社)中で1ウェルにつき105個の細胞で培養した。1×10−13M〜1×10−7MのMPP1、MPP2、およびMPP3を図3に示すように添加し、細胞とともに37℃で4時間インキュベートした。続いて、MTS/PMSキットの製造業者によって指示されるように、プレートリーダーでプレートを読み込むことにより細胞生存率を測定した。図3に示すように、野生型のLC50が1.5×10−10であるのと対照的に、LC50は、4×10−9(MPP1)、1×10−9(MPP2)、および1×10−7(MPP3)で、MPPは野生型のプロアエロリジンよりも毒性が低い。
in vivoでの毒性を測定するために、MPPをマウスに静脈投与した。野生型プロアエロリジン(SEQ ID NO:2)はマウスに対して高度な毒性を示し、1μgの用量は、一時間以内の死をもたらし、単回IV注射後24時間でのLD100(すなわち、動物の100%を24時間以内に殺す用量)は0.1μgであった。対照的に、注射後24時間でのMPP1(SEQ ID NO:4)のLD100は25倍高かった(すなわち2.5μgの総投与量)。
実施例5:MPP5(ヒスチジン標識MPP)の調製
本発明によるヒスチジン標識MPP(MPP5)を以下のように調製した。MPP1をコードする遺伝子を含むプラスミド挿入を、精製と収率を容易にするために修飾した。転写された場合に、タンパク質の産生の低下をまねく二次ループ構造を形成する、リボソーム結合部位とATG開始コドンを含む、一続きの35ヌクレオチド(Burrら、J.Bacteriol.183:5956−63,2001)を、ループ形成を防ぐために、ATG開始コドンの上流の23ヌクレオチドを残して修飾した(Diepら、Mol.Microbiol.30:341−52,1998)。これにより、CB3の培養上清中に放出されるMPPの量が増加した(Burrら、J.Bacteriol.183:5956−63,2001)。新しい上流配列を持つ構造は、γ123プロモーター構造として設計される。MPP1構造をKpnIとEcoRIで切断することにより変更が行われ、続いて結果得られる断片を、γ123−αerA::pTZ18UのKpnI/EcoRI部位に結合した。結果得られる構造をγ123−MPP1::pTZ18Uと呼んだ。
2−step QuikChange(ストラタジーン社)のプロトコルを用いてHis標識の付加を行った。二つのプライマー、EndHis1(センス):5’−GCT GCC AAT CAA CAT CAT CAT TAA CGG CAG CGC−3’(SEQ ID NO:26)とEndHis1(アンチセンス)5’−GCG CTG CCG TTA ATG ATG ATG TTG ATT GGC AGC−3’(SEQ ID:27)を合成することにより(3つのCATコドンは残りのHis残基をコードする)、はじめの処理で、3つのHis残基をγ123−MPP1DNAの終端に付加した。
QuikChangeキットについてストラタジーン社によって提案されるプロトコルにおいて、これらのプライマーを使用した。ひとたび3つのHis残基に対するDNAの付加が塩基配列決定法によって確認されたら、最後の3つのHis残基に対してヌクレオチドを付加するために、QuikChangeの二次反応を行った。この処理において使用されたプライマーは、EndHis2(センス)5’−GCC AAT CAA CAT CAT CAT CAT CAT CAT TAA CGG CAG CGC−3’(SEQ ID NO:28)とEndHis2(アンチセンス)5’−GCC AAT CAA CAT CAT CAT CAT CAT CAT TAA CGG CAG CGC−3’(SEQ ID NO:29)であった。
二回目のPCRの後、6つのHis残基が、正しいリーディング・フレームの中で正しくγ123−MPP1の終端に挿入されたことと、γ123−MPP1配列に対して他の変更が加えられていないことを確かめるために、クローンをスクリーニングし、配列を決定した。結果得られるプラスミドをγ123−MPP5::pTZ18Uと名づけ、γl23−PSAH6挿入領域の配列を決定した(図34参照)。
γl23−MPP5の核酸配列は、ATG開始コドンの前の領域においてγl23プロモーターが通常のaerA上流配列を置換しており、MPP1構造の核酸配列を異なる。配列はまた、TAA停止コドンの直前で追加的なCATの反復を持つ。γl23−MPP5のオープン・リーディング・フレームがアミノ酸配列に翻訳された場合、MPP1のアミノ酸配列と比べて認められる唯一の違いは、タンパク質のC末端への6つのヒスチジン残基の付加である。
pMMB208発現ベクターへのγl23−MPP5の導入
γ123プロモーターとHis標識の付加の結果によって作成された、γl23−MPP5をプラスミドpMMB208に導入した。クロラムフェニコール耐性を持ち、IPTG誘導性tacプロモーターを含み、トランス接合によってアエロモナス属サルモニシダに動員することができるため、このプラスミドを選択した。従ってγ123−PSA PAH6の挿入を、pMMB208プラスミドのHindIIIとEcoRI部位に導入した。得られたプラスミド、γl23−MPP5::208を、MPP5の産生のためにアエロモナス・サルモニシダ株CB3にトランス接合した。
GLP MPP5を精製するために、初期pH6.90±0.15と温度27℃に設定された30Lの滅菌と定義された培地に、約1%v/vの振盪フラスコ接種材料を接種した。発酵の間、滅菌済みの酸/アルカリを自動的に添加することによって、培地のpHを6.90±0.15に維持した。20%を上回る容器内溶存酸素圧(DOT)を常に保つために、発酵槽RPMとSLMを調整した。MPP5の発現は、細胞密度が600nmで0.3〜0.6のODに達した時に、イソプロピルチオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導された。発現したタンパク質を培地中に分泌させ、誘導後数時間収集した。MPP5を含む上清を60SP CUNOフィルターを用いて回収した。細胞分離後、30,000NMWC TFF膜を用いて上清を濃縮させた。濃縮した上清を、 二度のクロマトグラフィー処理をし、許容できる純度のタンパク質をもたらした。すなわち、ニッケルキレートクロマトグラフィーと、その後の陰イオン交換クロマトグラフィーとを用いて精製した。陰イオン交換クロマトグラフィー処理からの画分を含むMPP5を貯留させ、得られる物質を限外ろ過によって約1mg/mLまで濃縮し、続いてダイアフィルターを用いて調製緩衝液中に濾過した。0.22μmアブソリュートフィルタを用いて、認定された生物学的安全キャビネット中で精製MPP5を滅菌濾過し、必要になるまで−70℃に凍結した。この過程を用いた精製MPP5の最終収量は約100mg/Lであった。
実施例6:アルビノラットにおけるMPP5の急性期前立腺内または静脈ボーラス注入毒性試験
この実施例は、ヒスチジン標識MPP(MPP5)のラットへの前立腺内投与が前立腺の重量を低下させることができることを示す、試験の予備段階の結果を示す。
結果の概要
この試験の目的は、オスのラットに対する単回の前立腺内注射または静脈内ボーラス注入後、1、14、または28日の観察期間の後に、最大耐量(MTD)を確認することと、MPP(MPP5)の潜在的毒性と毒性動態を調査することである。MPP5は、PSA切断部位を含むヒスチジン標識プロアエロリジン分子である。
表7と8に試験デザインの詳細を示す。
(表7)試験デザイン
MTD試験
IP−前立腺内、IV−静脈内、48時間の観察期間後に動物を屠殺した。
(表8)主要および毒性動態試験デザイン
IP−前立腺内(20μL)、IV−静脈内(0.05mL)、TK−毒性動態
臨床的徴候、体重、摂食量、眼科学、血液学、血清化学、尿検査、毒性動態、、剖検時の肉眼観察、臓器重量および組織病理学を評価した。体重、体重増加、摂食量、眼科学、または尿検査条件には影響がなかった。前立腺内40μgの投与を受けた一匹のMTDの動物が、2日目に死んでいるのが認められた。死の前には、投与に関連した臨床的徴候はなかった。胃に黒い病巣が認められ、黒い領域と腫脹が注射部位(前立腺)に認められた。前立腺内25μgの投与を受けた主要試験の2匹の動物が、2日目に死んでいるのが認められた。死の前には、投与に関連した臨床的徴候は一匹の動物には見られなかったが、毛の着色(鼻口部)、青い皮膚、活動性の低下、衰弱、筋肉の緊張の低下、透明な液体排出物(眼窩周囲)、青白い目、苦しい呼吸、横向きに寝る、触ると冷たいのが、もう一匹の動物に認められた。一匹の動物の肉眼的所見には、注射部位(前立腺)に黒い領域、睾丸に黒い病巣、肝臓の近くの青白い物質を含む腹腔内の色の薄い透明な液体が含まれた。もう一方の動物には、変色を含む、脂肪と空腸中に病巣が認められた。肝臓に癒着が認められ、脾臓の肥大、胃と胸腺に複数の黒い領域、および副睾丸の近傍の腹部脂肪に黒い病巣が認められた。これらの2匹のオスに関して具体的な死亡原因は特定されていないが、腎臓の近傍での前立腺の炎症の重症度と、同時に起こった全身性の退行性変性がこれらの動物の死の一因となったことが推測される。
投与に関連した臨床的徴候が、全てのMTDのIP投与レベルで投与された動物に認められた。1日目から4日目の間に、鼻口部、顎、前足、眼窩周囲、腹側/背側頸部を含むひとつ以上の部位での毛の赤い変色が、全てのグループの一部の動物に認められ。40μgの一匹の動物における泌尿生殖器の腫脹を含む、皮膚の青い変色(手術部位、腹部、泌尿生殖器、または鼠径部)が20および40μgでそれぞれ1/3の動物に認められた。静脈投与を受けたMTDの動物では、50μgの投与を受けた動物においてより高い頻度で、毛の赤い着色(鼻口部および/または眼窩周囲)が認められた。
主要試験の対照を含む全ての前立腺内投与レベルからの動物において、毛の赤い着色(鼻口部)が主に認められたが、投与を受けた動物において概して頻度は高かった。この臨床的徴候は恐らく投与に関連があると考えられた。毛の赤い着色(鼻口部)は、全ての主要試験の静脈内投与動物にも認められた。追加的な臨床的徴候が注射部位(尾)に認められ、皮膚の痂皮および/または発赤またはその他の変色が含まれた。さらに、病変と自傷の疑いのために、2匹の動物は尾の切断を必要とした。これらの後者の変化は、試験製剤の刺激性の可能性を示唆し、これはその後の組織病理学的検査でさらに裏付けられた。
主要試験の前立腺投与を受けた動物において、2日目に用量に関連した増加が一部の白血球要素に認められた。白血球、好中球、単球、および好塩基球数が、10および/または25μgで投与された全てのグループにおいて増加した。25μgのMCHCと全ての投与レベルのMPVにおいても増加が認められた。全ての投与レベルで、網状赤血球の割合と絶対数で減少が記録された。活性化部分トロンボプラスチン時間における、わずかではあるが、しかし投与関連性の増加が全ての前立腺内投与レベルに認められた。25μgの静脈内投与を受けた動物において同様の変化が認められた。白血球、好中球と好塩基球数が増加した。MCHC、MPV、および赤血球分布幅(RDW)も増加し、網状赤血球の割合と絶対数が減少した。14日間の観察の後、屠殺された動物では、RDWとMPVのみに増加が認められ、28日間の後は、血液学の要素に違いは認められなかった。1日の観察の後で屠殺された動物に認められた変化は、試験物質に関連すると考えられた。15日と28日の観察期間後に示された結果はこれらの変化からの回復を示した。
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼとアラニン・アミノトランスフェラーゼの平均濃度の、投与量と関連した増加が2日目に認められ、25μgで著しいと考えられた。直接ビリルビン、尿素、クレアチニン、およびトリグリセリドにおける上昇も、25μgの前立腺投与で認められた。25μgでグルコース濃度に減少が認められ、10μg以上で、グロブリンに対するアルブミンの割合の関連減少とともに、アルブミン濃度は減少し、総タンパク質濃度は25μgのみで減少した。25μgの静脈内投与を受けた動物では、尿素とカルシウム濃度にわずかな上昇が認められ、グロブリンに対するアルブミンの割合における対応する減少とともに、グロブリン濃度におけるわずかな上昇も認められた。これらの変化は、注射部位に認められた炎症に関連すると考えられた。29日目には、アラニンアミノホスファターゼの濃度における上昇と、間接ビリルビンの濃度における減少が25μgの前立腺内投与にのみ認められた。
化合物の終末半減期は、静脈内投与に関しては12.8時間と推定された。Cmaxを、時間0まで逆算して値81.3ng/mLと推定することができた。観察されたピーク値(第一サンプリング時での)は74.3ng/mLであった。全身クリアランス(CL)と分配量(Vz)はそれぞれ46.3mL/hと841mLと推定された。前立腺内投与後、観察されたtmaxは全てのケースについて投与後4時間で起こり、ピーク濃度は、10と25μgでそれぞれ2.95と3.51ng/mLであった。観察された異なるtlastのため、観察されたAUC0−tlastはより高い用量で減少するように思われた。前立腺内経路に対する用量直線性をCmaxとAUC0−tlastを用いて推定した。用量標準化した暴露パラメータはともに10μgから25μg減少し、対応する推定生体利用効率は23.7と4.38%であり、これらの全ては、投与レベルの増加に伴う、前立腺からの体循環中のMPP5の限定された吸収を示唆するものである。
MTD期では、オスのラットにおける40μgのMPP5の単回IP投与は明らかな死因をもたない死と関連していた。オスのラットにおけるMPP5の単回IV投与は、最大用量の50μgまで耐えることができた。
主要試験期では、オスのラットにおけるMPP5の単回IP注射は、25μgでの2匹のラットの死と、2μg以上での、前立腺注射部位の肉眼的、顕微鏡的、および臓器重量の変化をもたらした。2匹のオスの死因は定かでないが、前立腺の炎症の重症度と関連変化がこれらの動物の悪化/死の一因となったことが予想される。その他の試験物質に関連する変化は回復期の2、15、および/または29日目に認められた。他の組織における肉眼的変化、顕微鏡的変化、臓器重量変化は、前立腺注射部位の変化に続発するものと考えられた。
オスのラットにおけるMPP5の単回IV注射は、25μg以上の用量で尾静脈注射部位の肉眼的および/または顕微鏡的変化ををもたらした。これらの変化は、25μgでの段階的な回復とともに、回復期の2、15、および29日目に認められ、試験物質の刺激作用を示唆するものである。他の組織における肉眼的および顕微鏡的変化は注射部位の変化に続発するものと考えられた。2日目の肝臓と脾臓の臓器重量の変化は顕微鏡学的相関はなく、15日目までに回復した。
結論として、最大40μgの投与レベルでの単回の前立腺内注射による、または最大50μgの投与レベルでの静脈内注射によるMPP5の投与は、25μgと40μgの前立腺内投与での、明らかな死因を示さない死をもたらしたが、腎臓に近い、試験物質に関連する前立腺の炎症の程度と、同時に起こる全身性退行が死の有力な要因であると考えられた。主に可逆性の変化が、臨床的徴候(2μg以上)、10μg以上での血液学、および臨床生化学要素に認められた。病理学的変化は、全ての投与レベルで投与量依存的に存続したが、静脈内投与を受けた動物における退行の証拠は示さなかった。結果として、無影響濃度(NOEL)は前立腺内または静脈内経路のいずれにも決定されなかった。
実験手順
3.1. テストシステム
合計180匹のオスSprague Dawley(Crl:CD(登録商標) (SD) IGS BR)ラット(ドブネズミ)を使用した。処置開始時での動物は、12から15週齢で399から495gの体重範囲であった。
3.2 獣医学的処置
自傷の疑いがあるため、4日および7日目に、動物5010および5004のそれぞれに尾部切断を実施した。これらの動物は経静脈的に処置したため、病理学的評価のために10%の中性緩衝ホルマリン中に切断組織を保持した。
処置前に、すべての動物の重さを量り、コンピュータによる無作為化手順を使用して処置グループへ無作為に割り当てた。無作為化は、パラメータとして体重を使用して階層化することにより行われた。病弱の動物は、グループに割り当てられなかった。研究デザインの詳細を、表9(MTD)および表7(主要)に示す。
(表9)MTDの研究
IP―前立腺内、IV―静脈内
MTDの研究に割り当てられた動物は、48時間観察期間後で屠殺した。1日目に、技術的ミス(割り当てられた用量の10倍の過剰摂取)があったため、IP用法に割り当てられた動物6001および8001をそれぞれの予備の動物6101および8101に取り換えた。同日の後で、動物8001(400μg)は、投与からおよそ4時間後に死亡が確認され、動物6001(100μg)は、健康状態が悪かったため、1日目の終りに安楽死させた。これらの動物に対し、外部および内部の精査を含め剖検を行ったが、組織病理学検査用の組織を保持しなかった。死亡前の動物6001の臨床的徴候は、衰弱、筋緊張の減少、眼が半開きの状態、体温の低下、活動の低下および異常歩行などであった。動物8001の臨床的徴候は、横向き寝、呼吸困難、呼吸数の低下、青白い肌、蒼白な眼、体温の低下、活動の低下、衰弱および筋緊張の減少などであった。動物6001に対する肉眼的検査は、投与部位(前立腺)での単一の黒い領域のみを示した。動物8001に関しては、下顎のリンパ節に相互的な黒い変色が認められ、注射部位(前立腺)で腫れが認められた。これらの死亡は、恐らく、MPP5の多量投与に関連すると考えられ、本研究において、MTDに対するさらなる参考を提供するために報告される。
40μg以下での観察では限度があったため、13日目に(MTDの研究)、静脈経路によるMPP5の毒性をさらに探求するために、さらに本経路による50μgの用量レベルでの動物を追加した。
投薬開始前に、動物1025は歯列不整であるために不適切であると考えられ、予備の動物と取り替えられ、その動物は1125として割り当てられた。群に割り当てられなかったすべての動物は、研究の対象外とされ、その動物の処分は、文書で記録された。
3.3.被験物質および賦形剤対照物質
被験物質は、3.2mg/mLの濃度でのMPP5(Lot Number PTIC−MF−PAL−DS−001)であり、冷凍時は、被験物質は無色固体であり、−20℃の直射日光のない場所で保存された。賦形剤対照は、リン酸緩衝生理食塩水−EDTA、pH7.4であった。
3.4 投与製剤の調製
投与製剤を使用日に調製した。各日に、MPP5の3.2mg/mLの適量原液を測定し、PBS, 1mM EDTAの適量で希釈した。
3.5 被験物質/対照物質の投与
MTD研究
3.2節および表9に説明されているように、各3匹から成るラットの群は、1日に前立腺内または静脈内のいずれかで投薬され、投薬後最大48時間までの臨床的症状および潜在毒性を観察した。静脈内投与に関しては、尾静脈経由で静脈注射により0.5mLの投与量の 被験物質を投与した。
前立腺群に関しては、イソフルレンを使用して、投与前に動物に麻酔した。少なくとも術前1時間および術後2日まで、動物は筋肉内にベンザチンペニシリンGおよびプロカインペニシリンG(0.1mL)の抗生物質注射を受けた。さらに、動物は手術日にブプレノルフィン(0.05mg/kg)の皮下注射を受けた。
手術用メスの刃を使用して、陰茎の頭側の0.5cmから開始し、およそ2cmの正中切開を行った。腹部を同様の長さに切った。前立腺の2つの腹葉を限局し、20μLの処方済みのMPP5またはPBS/EDTA pH 7.4を適切な注射器を使用して右腹葉に注射した。縫合前に、温かい(およそ37℃)米国薬局方0.9%の塩化ナトリウム注射 で部位を洗浄した。適切な縫合材料を使用して層をなして部位を縫合した。
静注経路へ割り当てられた動物に関しては、 尾静脈経由で静脈注射により0.5mLの投与量の 被験物質を投与した。
主要研究
MTDの段階中で決定された手順によって、動物は薬剤を投与された。静注経路へ割り当てられた動物に関しては、しては、 尾静脈経由で静脈注射により0.05mLの投与量の 被験物質を投与した。処置完了後、1日、14日または28日の回復期間中、主要研究の動物は投与しないで保持した。
3.6 観察
臨床的観察:
全研究期間を通して死亡および健康障害の徴候および/または 処置への反応に対して、すべての動物を1日2回(到着日および剖検日には1回)観察した。さらに、処置開始前に少なくとも1回、処置期間および回復期間には毎日精密検査を実施した。(主要およびMTD研究の動物)
体重:
無作為割当した日、および処置期間および回復期間中、週2回、すべての動物のそれぞれの体重を量った(主要研究動物)。さらに、予定した剖検前にそれぞれの主要研究/回復した動物の体重を量った(絶食した)。投与前、および屠殺前に、MTD研究の動物の体重を量った。
飼料消費:
すべての主要研究の動物に対する個々の飼料消費を前治療期間の最終週に開始して、処置期間および回復期間中に毎週測定した。
眼科学:
処置開始前に一回(すべての動物)および剖検前にもう一回(主要検査動物)、有資格の動物眼科医が眼底検査(間接検眼法)および生体顕微鏡検査(細隙灯)を実施した。
実験室での検査:
血液学的検査および血液生化学的検査のための血液採取が2日、15日および29日目の剖検ですべての主要研究の動物に実施された。血液採取前に動物から飼料を一晩中除去した。イソフルラン麻酔下で、腹大動脈から血液試料を採取した。
およそ16時間の回収期間、飼料なしで代謝ケージに入れられた主要研究の動物から、2日、15日および29日目の剖検前に尿試料を回収した。
検査を受けた血液学的パラメータは以下のものである:活性化した部分トロンボプラスチン時間、血球形態学、赤血球恒数(MCV、MCH、MCHCおよびRDW);ヘモグロビン・ヘマトクリット値、平均血小板容積、血小板数、プロトロンビン時間、赤血球数、網状赤血球数(絶対計数および割合)、白血球数(総数、分画絶対数および分画割合)。
検査を受けた血液生化学検査、パラメータは以下のものである:A/G比(算出された)アラニン・アミノトランスフェラーゼ、アルブミン、アルカリ性ホスファターゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、血中尿素窒素、塩化カルシウム、コレステロール、クレアチニン、グロブリン(算出された)、グルコース、無機リン、カリウム、ナトリウム、総ビリルビン、総タンパク量、トリグリセリド。
検査を受けた尿検査のパラメータは以下のものである:ビリルビン、潜血、色および外観、クレアチニン、グルコース、ケトン体、遠心での沈殿物の亜硝酸塩の顕微鏡検査、pH、タンパク質、比重、ウロビリノーゲン、容積。
免疫原性評価(14日目および28日目の主要研究のみ)
血液試料は、 主要研究のそれぞれのラットから、 投与前(ベースライン)は頸静脈で、 および屠殺時は、イソフルラン麻酔の後、腹大動脈で(臨床病理学のための血液試料とともに)採血した。試料は、血清分離管に置かれ、数回逆さにし、20から30分間室温で凝血させ、その後、およそ4℃で10分間、ほぼ1200gで遠心分離機にかけた。
3.7 毒物動態学
研究1日目で、投与前、投与後15分、30分および1、2、4、8、24および48時間後の時点ごと、群ごとに3匹の毒物動態学から代わる代わるK3 EDTA管に頸静脈の静脈穿刺で血液試料(〜0.5mL)を採取した。10分間、およそ2700rpmで冷凍遠心(およそ2〜8℃)で分離するまで濡れた氷上に直ちに血液試料を置いた。血漿を分離し、2番目の管に移し、ドライアイス上に置いた。およそ−20℃で血漿試料を保存し、MPP5値について分析した。
抗体サンドイッチ法に基づいた、酵素免疫測定法(ELISA)により血漿試料を分析した。96ウェルマイクロタイタープレートにMPP5に特異性のある捕捉抗体(マウス抗アエロリジン単クローン抗体)を塗布して、固相を形成し、標準および品質管理試料にある検体を捕捉した。その後、検体分子の異なるエピトープに結合する二次抗体(ウサギ抗アエロリジンポリクローナル抗体)を抗体−検体−抗体のサンドイッチを完成するために追加した。その後、ウサギIgG抗体の定常領域に結合する検出抗体酵素複合体(ヤギ抗ウサギIgG、horse radish peroxidase複合体)を追加した。テトラメチルベンジジン基質を使用して、捕捉した複合体を視覚化し、SpectraMAXプレートリーダーを使用して、450nmで測定した。
前立腺投与経路に関しては、血漿濃度データについての非コンパートメント毒物動態学分析を実施した。実用的に、毒物動態学分析は、tmax、Cmax、AUC、kおよびt1/2の評価を含んだ。tmaxおよびCmaxは、測定値である。可能であれば、標準コンピュータソフトウェアプログラムWinNonlin(バージョン3.2)を使用して、台形公式法によりAUCパラメータを算出した(GibaldiおよびPerrier、1982)。濃度に対する時間の曲線の見掛け末期の選択した時点の直線回帰分析により、kを決定した。見掛け消失半減期は以下のように算出された:
t1/2=ln2/k。
静脈内投与経路に関しては、血漿濃度データについての非コンパートメント毒物動態学分析を実施した。実用的に、毒物動態学分析は、tmax、Cmax、AUC、k、t1/2、VzおよびCLの評価を含んだ。Cmaxは、0時間の時点へ溯って外挿されるであろう。標準コンピュータソフトウェアプログラムWinNonlin(バージョン3.2)を使用して、台形公式法によりAUCパラメータを算出した(GibaldiおよびPerrier、1982)。濃度に対する時間の曲線の見掛け末期の選択した時点の直線回帰分析により、kを決定した。見掛け消失半減期は以下のように算出された:
t1/2=ln2/k。Dose/AUCでクリアランス(CL)を算出し、分布の見掛け体積(Vz)はCL/kとして算出された。
3.8 最終手順
肉眼的病理学:
研究中に死亡が確認されたMTD研究の動物は、組織保存することなく剖検の対象になった。研究中に死亡が確認されたすべての主要研究および回復した動物は、剖検の対象であり、組織試料は保存された。
処置期間および回復期間の完了において、すべての生存動物は、イソフルラン麻酔後、腹大動脈から放血され、室内実験のために血液試料を採取した。自家融解の変化を避けるために、死体の完了肉眼的病理検査は、すべての主要研究動物の安楽死後、できるだけ早く実施された。
臓器の重量:
予定した剖検で安楽死したそれぞれの主要研究動物に関しては、以下の臓器を脂肪を残さずに解剖し、重量を量った:副腎、脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、睾丸、下垂体、前立腺、脾臓、胸腺、甲状腺葉(副甲状腺付き)。対の臓器は、一緒に重量を量り、体重に対して臓器重量を算出した。
組織保存:
それぞれの主要研究動物の剖検の完了において、以下の組織および臓器を保持した:異常部位、動物識別部、副腎(胸部)、骨および骨髄(胸骨)、脳(大脳、小脳、中脳および延髄)、盲腸、大腸、十二指腸、副睾丸、食道、眼、ハーダー腺、心臓(大動脈の切片を含む)、回腸、注射部位(前立腺)群1〜4、注射部位(尾静脈)群5、空腸、腎臓、涙腺、肝臓(2葉の試料)、肺(2葉の試料)、リンパ節(下顎および腸間膜)、乳腺(鼠径)、鼻腔および膿瘻(3レベル)、視神経、膵臓、下垂体、前立腺(注射されていない葉)、直腸、唾液腺、坐骨神経、精嚢、骨格筋、皮膚(鼠径)、脊髄(頚椎)、脾臓、胃、睾丸、胸腺、甲状腺葉(および副甲状腺)、舌、気管、尿管(両側性)、膀胱。
副睾丸、眼、視神経および睾丸を除いて、組織固定法および保存のために中性緩衝液の10%ホルマリンを使用し、副睾丸、眼、視神経および睾丸は、Zenker’s fluid(安楽死した動物のみ)に固定した。すべての安楽死した動物に関しては、3つの大腿骨髄の塗抹標本を準備し、着色した。塗抹標本を保存したが、評価しなかった。
組織病理学:
パラフィンろうに組織を埋め込み、区分化され(区分化する前に鼻腔および膿瘻、胸骨および尾静脈注射部位を脱灰した)、ヘマトキシリンおよびエオシンで着色し、以下のように病理組織学的に検査を行った。
第1、第4および第5群:組織保存下で記載された組織(動物識別部および直腸を除く)
第2群および第3群:処置関連の所見を示す組織、すべての肉眼的病変組織および以下に記載する標的組織。
脳、心臓、腎臓、肝臓、リンパ節、注射部位(前立腺)、前立腺(注射されていない葉)、脾臓、甲状腺葉(および副甲状腺)、尿管および膀胱を含む標的組織の組織試料は、すべての投与群のすべての主要研究動物について処理し、検査を行った。眼、甲状腺および皮膚のそれぞれの所定の切断された部分にある場合にのみ、視神経、副甲状腺および乳腺の病理組織学的検査を行った。
統計分析
研究実施中に得た数値データは、群平均および標準偏差の計算をほどこした。関心のそれぞれのパラメータについて、0.05の有意水準でレーベンテストを使用して、群分散を比較した。群分散の間の違いに有意性が見られない場合には、パラメトリック一元配置分散分析(ANOVA)を実施した。平均間で有意な差異がANOVA(p≦0.05)により示された場合、対照群とそれぞれの処置群の間で群平均の比較を実施するためにダネット「t」検定を使用した。
レーベンテストが不均一群分散を示す(p≦0.05)場合にはいつでも、すべての考慮された群を比較するためにノンパラメトリックのKruskal−Wallis testを使用した。Kruskal−Wallis testが有意あった(p≦0.05)場合、対照群とそれぞれの処置群との間の有意な差異をDunn’s testを使用して評価した。
それぞれの関心の一対群比較に関しては、0.05、0.01および0.001の水準で有意を報告した。
結果および考察
1. 投与製剤の分析
研究で使用される投与製剤のpH、重量オスモル濃度および密度評価の結果は、表10に示される。
(表10)投与製剤pH、重量オスモル濃度および密度
2. 死亡
MTD研究
2日目に、動物8101(40μg、IP)の死亡が確認された。死亡前に、処置関連の臨床的徴候はなかった。剖検で、黒色の病巣が胃の中に見られ、注射部位(前立腺)に黒色領域および腫れが指摘された。明確な死亡原因は断定されなかった。
主要研究
2日目に、動物4005および4013(25μg、IP)の死亡が確認された。死亡前に、動物4013に対する処置関連の臨床的徴候はなかった。毛の染色(鼻口部)、青い皮膚、活動の低下、衰弱、筋緊張の減少、透明の液体の放出(眼窩周囲)、蒼白な眼、呼吸困難、横向き寝、体温の低下などが動物4005に対して指摘された。
動物4005に対する剖検で、肉眼で見える見解には以下のものが含まれた:注射部位(前立腺)の黒色領域、睾丸内の黒色病巣、腹腔内の薄い色の透明な液体、肝臓に隣接する薄い色の物質を含む。動物4013に関しては、脂肪および空腸内に変色を含む、病変が見られた。癒着が肝臓内で見られ、膵臓の肥大、胃および胸腺内の多数の黒色領域、副睾丸に隣接する腹部脂肪内の黒色病巣が見られた。双方の症例の死因は、不確かであるが、腎臓への隣接部で病理組織学的に観察された前立腺炎症の重症度、および、同時発症した全身変性変化は、これらの動物の死に一因すると推測された。
3. 臨床的観察
MTD研究
すべてのMTD IPの投与水準(10〜40μg)で処置された動物に処置関連の影響が見られた。1日目と4日目の間で、鼻口部、顎、前足、眼窩周囲、および腹部/背部頚椎を含む、一つ以上の部位ですべての群からの動物の2/3に赤い毛の染色が見られた。動物8002(40μg)の泌尿生殖器の腫れを含み、20および40μgのそれぞれの動物の1/3で青い皮膚の変色(手術部位、腹部、泌尿生殖器または鼠蹊部位)が指摘された。これらの観察は外科手技に関連している場合もあるが、発生率と重症度は40μgで増加した。
静脈投与で処置された動物において、処置関連の臨床的徴候は、赤い毛の染色(鼻口部および/または眼窩周囲)に限定され、50μgで処置された動物においてより発生率が高くなることが指摘された。1日目から4日目の間、50μgより少ない場合に、これらの徴候が観察された1/3と比較して、これらの徴候が高投与量の動物の最高5/5に見られた。
主要研究
2日目の終了
対照動物の3/7、2μgの動物の1/7、10μgの動物の5/7、25μgの動物の3/7を含む、すべてのIP用量水準からのいくつかの動物に赤い毛の染色(鼻口部、眼窩周囲、および/または頭蓋)が指摘された。動物4014(25μg)は、両眼から赤色の放出物が観察され、2日目の剖検前に、動物4015は、活動の低下、および体温の低下があった。
4.飼料消費
飼料消費に影響がなかった。
5.眼科学
眼科学の見解はなかった。
6.血液学
2日目に終了したIP動物において、投与関連の2倍またはそれ以上の増加がいくつかの白血球パラメータに見られた。白血球(WBC)、好中球、単核細胞および好塩基球の数は、すべての処置群で増加し、10および/または25μgで統計的に有意であった。統計的に有意な増加はまた、25μgでの平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)およびすべての投与水準での平均血小板容積(MPV)に見られた。すべての投与水準での網赤血球の割合および絶対値の減少が記録された。わずかではあるが、活性部分的なトロンボプラスチン時間における投与関連の増加がすべてのIP投与水準でみとめられ、25μgで統計的に有意であった。
類似の変化がMPP5の25μgで静脈投与の処置をされた動物に観察された。WBC、好中球および好塩基球の数は、増加した。さらに、MCHC、MPVおよび赤血球分布幅(RDW)を増加し、網赤血球の割合および絶対値を減少した。観察の14日後に終了した動物において、RDWおよびMPVのみの増加が見られた。観察の28日後に、血液学パラメータにおける差異は指摘されなかった。観察の1日後に終了した動物において指摘された変化は、被験物質関連であると考えられ、病理組織学的に相関性があった。15日および28日の観察期間後に示される結果は、これらの変化から回復の証拠を示す。その他のわずかな差異は、偶発的であり、処置に関係ないと考えられた。
7.血清化学
2日目に、IPの25μgで統計的有意な水準まで、投与関連の増加がアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの平均およびアラニン・アミノトランスフェラーゼ濃度に見られた。これらは、25μgで著しい変化があると考えられた。また、直接ビリルビン、尿素、クレアチニンおよびトリグルセリド濃度の増加がIPの25μgで指摘された。25μgでグルコース濃度の減少が見られた。アルブミン濃度は、アルブミンとグロブリンの比の減少に関連して10μg以上の場合に減少し、総タンパク質濃度が25μgの場合のみ減少した。
IVの25μgで処置された動物において、わずかな増加が尿素およびカルシウム濃度に見られた。グロブリン濃度のわずかな増加もまた、それに対応するアルブミンとグロブリンの(A/G)比の減少とともに指摘された。グロブリンの変化(および結果として、A/G比)は、注射部位での炎症に関連する可能性があると考えられた。
15日目に、IV処理の動物を含むすべての投与水準で統計的に有意な減少がトリグリセリド濃度で見られた。これらは、毒物学的には有意ではなく、脂質代謝におけるわずかな変化に関連がある可能性があると考えられた。
29日目に、アラニンアミノホスファターゼ濃度の増加および間接ビリルビンの減少がIPの25μgのみに指摘された。これらの変化は、病理組織学的に説明される二次変化に関連かのうせいがある。
その他の毒物学的に有意な変化はなかった。
8.尿検査
尿検査パラメータにおいて明白な影響はなかった。
9.毒物動態学
MPP5の血漿濃度は、一般的にはそれぞれの時点でそれぞれの群の個々の動物間で類似したものであった。投与水準が体重または前立腺の重量により正規化されなかったので、血漿濃度値の変動が予想された。MPP5は、対照動物から採取した試料または投与前に採取した試料において定量化することができなかった。
検査群において、MPP5の血漿濃度は、2μgでの動物から採取したいずれの試料において、検出可能な濃度がなく、一般的には前立腺に投与した被験物質の投与レベルの増加に伴い増加した。MPP5は、10μgで処置された動物において、最高24時間、25μgで処置された動物において、8時間、第5群(25μg、静脈投与)で48時間まで検出可能であった。すべてにおいて、3つの複合プロファイルを取得し、さらなる評価のために検討した。
末期は、複合IVプロファイルのために推定でき、末期半減期は、12.8時間として推定された。残りのプロファイルに関しては、信頼性をを持って末期を推定できなかった。従って、kから、誘導されるすべてのパラメータ(t1/2、AUC0−infおよび%の予想)は報告されなかった。IVプロファイルに関しては、AUC0−tlastから外挿されたAUC0−infの割合は、6%より低く、このプロファイルが実験データからうまく特性化されたものであることを示した。
前立腺投与後、観察されたtmaxは、すべての場合において、投与後4時間後に起こり、10および25μgでは、それぞれ、2.95および3.51ng/mLのピーク水準であった。観察されたAUC0−tlastは、高投与量(48.5対22.4ng・h/mL)で減少した。しかしながら、この結果は、IPの25μg(IPの10μgで8時間対24時間)で観察されたより短いtlastにより偏向された。IV投与後、Cmaxは、81.3ng/mLの値で、0時間まで逆外挿することができた。観察されたピーク値(初試料時間)は、74.3ng/mLであった。全身クリアランス(CL)および分配量(Vz)は、それぞれ、46.3mL/hおよび841mLと推定された。
前立腺投与後、、投与正規化平均ピーク血漿濃度および曲線暴露パラメータ(それぞれCmaxおよびAUC0−tlast)の下の領域を使用して、10から25μgの投与水準で投与量直線性を評価した。投与正規化暴露パラメータの双方は、10μgと25μgの間で減少した。これは、MPP5の前立腺から全身循環への限定的な吸収をを示している可能性がある。
前立腺投与後、中度から高投与量において観察された領域に基づいて(AUC0−tlast)、これらの領域(投与水準へ正規化されている)を静脈内投与後に得た投与正規化領域と比較することにより、バイオアベイラビリティの割合を決定した。推定したバイオアベイラビリティは、23.7および4.38%であった。
10.臓器重量
前立腺注射
時折、統計的有意に水準まで、すべての屠殺日における前立腺において、および2日目の屠殺における脾臓において、絶対および相対臓器重量(体重に対する臓器の重量)の変化がみとめられた。前立腺の重量は、2日目の10μgおよび25μgの動物において、対照動物と比較すると26%から45%高くなっていた。前立腺の重量は、15日目における処置された動物で、対照動物と比べると16%から24%低く、29日目の10μg以上の場合には、19%から21%低い。これらの変化は、観察した顕微鏡的所見と一致した。脾臓の重量は、対照動物と比べると2日目の25μgの場合、およそ36%低かった。これは、二次変化と考えられ、15日目に回復した。
静脈注射
2日目に、IVの25μgの動物は、組織学的相関なく、対照動物と比較すると肝臓および脾臓の重量はおよそ21%高く、15日目に回復した。
11. 肉眼的病理
MTDの研究
前立腺の注射部位の変化は、すべてのIP投与水準で認識された。変化は、黒い変色/領域、まだら、および腫脹/腫れなどを含んだ。1日目に置換された動物(番号6001、8001)またはIP注射後2日目に死亡が確認された動物(番号8101)は、上記に説明されているように前立腺の注射部位の変化がいくつかあった。特定の死因は、決定されなかった。尾静脈内の静脈(IV)注射は、第8群および第9群の動物の尾にある疥癬に関連があった。その他の変化は、処置関連ではなく、散発性、手順関連または末期であると考えられた。
主要研究
前立腺の注射部位の変化は、すべての屠殺日に認識された。2日目の変化は、すべての投与水準で黒い変色/領域/病巣、癒着、腫脹/腫れにより特徴付けられた。15日目および29日目の変化は、10μg以上の動物において、蒼白領域、隆起、堅固、および/または小さいと記載された。癒着および蒼白領域は、しばしば10μg以上の15日目および29日目の屠殺日に肝臓および脾臓にみとめられ、前立腺の注射部位の変化の二次症状のようであった。2日目に死亡が確認された動物4005(IPの25μg)は、上記に説明されているように前立腺の注射部位に変化がいくつかあった。特定の死因は、決定されなかった。
尾静脈内の静脈注射は、すべての殺処分日において、尾にある疥癬に関連があった。尾端の喪失の有無にかかわらず、15日目と29日目に潰瘍があった。肝臓の膨張が2日目の屠殺日にみとめられた。
その他の変化は、処置関連ではなく、散発性、手順関連または末期であると考えられた。
12. 組織病理学
前立腺の注射
MPP5によるものとされる顕微鏡的変化が、2日、15日および29日目に2μg以上の場合、前立腺の注射部位で観察された。軽度から重度の急性炎症が、2日目にはすべての投与で観察され、一般的には投与依存重症度において増加があった。炎症はフィブリン、混合細胞浸潤、および腺房腺の壊死などにより特徴付けられた。処置および対照動物において、浮腫および出血が観察され、従って、部分的に手順関連であると考えられた。軽度から著しい慢性炎症および/または繊維症が15日目および29日目のすべての投与水準で観測され、一般的には重症度において投与依存の増加があった。繊維症、単核球浸潤および腺房腺の壊死が炎症を特徴付けた。しばしば、同時発生の腺房萎縮/膨張がこれらの変化に付随して起こった。軽度の繊維症および腺房萎縮/膨張は、29日目にほとんど観察されなかったため、主として処置関連であると考えられた。また、急性および慢性の変化は、隣接する前立腺葉で観察され、一般的には発生率の低下および重症度の変化があった。急性炎症、浮腫および出血は、2日目に前立腺の重量が多いことと関連し、繊維症および腺房萎縮/膨張は、15日目および29日目に前立腺の重量が少ないことと関連し、一般的には肉眼的所見と関連した。これらの変化は、前立腺の注射部位でMPP5の刺激性の効果を示す。
他の組織における頻繁な顕微鏡上の観察は、隣接する骨盤内器官および腹腔を通じて、または全身反応および/または変性変化のいずれかによる前立腺の注射部位の炎症の二次的な症状あると考えられた。膨張皮膜表面または漿膜の表面の出血および繊維症を伴って、あるいは、伴わずに、急性および慢性炎症は、脂肪、肝臓、それぞれ大腸および小腸、膵臓、脾臓、胃、精嚢、副睾丸、睾丸よび膀胱で観察された。反応および/または変性変化は以下のものを含んだ:骨髄性の過形成、脾臓内の髄外造血の増加、リンパ節、脾臓および胸腺内のリンパ性の萎縮および/または過形成、肝臓の単核浸透物、単細胞壊死および有糸分裂像の増加、および精巣萎縮(副睾丸オリゴ/無精子症の同時発生を伴う)。脾臓のリンパ性の萎縮は、2日目の25μgの場合のオスにおいて、脾臓の重量が少ないことを説明し、従って、二次的であると考えられた。
特定の死因は、2日目に死亡が確認された2匹のオス(25μg)には認識されなかった。しかしながら、腎臓への隣接部で前立腺炎症の重症度および同時発症全身変性変化は、これらの動物の死に一因すると推測された。
その他の変化は、散発性、偶発的、末期であり、またはこの年齢およびラットの系統には予期されることであり、直接に処置関連はなかった。
静脈注射
MPP5によるものとされる顕微鏡的変化が、2日、15日および29日目に、尾静脈の注射部位で観察された。2日目に皮膚および皮下組織の軽度から著しい急性炎症が、表皮腫瘍および痂皮形成を伴い、あるいは伴わず、動物の大部分において、フィブリン、出血、壊死および混合細胞浸潤などにより特徴付けられた。1匹の動物には、隣接した組織および所属リンパ節に広がる中度の壊死があった。15日目および29日目における発生率の低下および変化の重症度の低下は、段階的回復を示唆した。線維症および単核球浸潤により特徴付けられた慢性炎症は、表皮腫瘍および痂皮形成および希な壊死および隣接した骨の炎症を伴い、あるいは伴わずに、観察された。顕微鏡的所見は、一般的には肉眼的変化と関連した。これらの変化は、特に、注射部位での血管周囲の組織で、MPP5の刺激性の効果を示す。
その他の組織における変化の低発生率は、2日目に観察された注射部位の炎症性変化に対して二次的であると考えられ、一般的には15日目および29日目に回復した。これらには、脾臓内の壊死および炎症、血管周囲の好中球、単核球浸潤または混合細胞の副睾丸、精嚢、睾丸および肝臓への浸潤、骨髄性の過形成、リンパ節浮腫、リンパ節、脾臓および胸腺内のリンパ球萎縮、および29日目に観察された睾丸の萎縮が含まれた。2日目における肝臓および脾臓の重量増加は、顕微鏡的な相関がなかった。
5.結論
結論では、最高40μgまでの投与水準で単一前立腺注射または最高50μgまでの投与水準で静脈注射によるMPP5の投与は、IPの25μgおよび40μgで死亡するという結果を生じ、これは、明確な死因はないが、前立腺炎症に関連する被験物質および腎臓への隣接部の範囲および併用全身変性変化は、死亡にいたる潜在的一因であると考えられた。ほとんどの可逆変化は、臨床的徴候(≧2μg)、10μg以上の場合に、血液学および臨床生化学パラメータに見られた。病理学的変化は、投与関連の形態ですべての投与水準で持続したが、静脈投与で処置された動物において退行の証拠を示した。従って、無影響量(NOEL)は、前立腺経路または静脈経路のいずれかに対しても決定されなかった。
参考文献
Dunn,OJ.1964,Multiple Comparisons using Rank Sums,Technometrics,6,241−256.
SAS Institute Inc.,1999.SAS/STAT(登録商標)User’s Guide,Version 8,Cary,NC:SAS Institute Inc.,3884 pp.
実施例7:サルにおけるMPP5の急性毒性
本実施例は、PSA切断部位(MPP5)を備えるヒスチジンで標識されたMPPの前立腺投与が前立腺に投与依存の損傷を生じることを示す研究の予備段階の結果を示す。本研究の目的は、性的に成熟しているオスのカニクイザルにおけるMPP5の単一前立腺注射の潜在的な局所毒性を2週間の間評価することであった。
実験的設計の概要
概要:
合計16匹のオスのカニクイザル(Macaca fascicularis)を下記の表11に示すように処置群に割り当てた。動物の年齢は、およそ3.6から11.7歳であり、体重はおよそ2.8から7.9kgであった。動物は、中国、ベトナム、インドネシア、およびモーリシャス共和国から輸入された。
(表11)
1前立腺の重量は、前立腺の重量と体重との間の従来確立された関係から推定される。用量の2分の1が前立腺の各葉に注入される。
すべての動物は、肛門周囲の前立腺注射によって全身麻酔のもとで一度投与された。投与初日を1日目と指定した。動物は、臨床的徴候(1日2回)、飼料消費(1日1回)、体重(1日目、3日目、8日目、および15日目)、心電図(研究前および2日目および14日目)、および眼科的状態(研究前および14日目)の変化に対して評価された。研究前および3日目および14日目に、臨床病理学指数(血清化学[C反応性タンパク質を含む]、血液学および凝固)を決定した。投与後、各時点で、毒物動態学分析、被験物質への抗体および前立腺特異抗原(PSA)に対する血液試料を採取した。表11に示すように、3日目および15日目に8匹の動物を安楽死させた。終了時に、すべての動物において、全剖検を実施し、組織(選択した前立腺組織を含む)を採取し、保存し、処理し、顕微鏡によって検査した。本研究は、MPP5の急性局所毒性を評価した。
被験物質は、MPP5、ロット番号PTIC−MF−PAL−DS−001であり、対照物質は、PBS−EDTAであった。被験物質の溶液は、その活性成分の濃度が、3.2mg/mLであり、調製日に投与液を調製する前に、適切な0.22ミクロンPVDFフィルターを通してフィルター処理された。対照賦形剤のよるフィルター処理済みの被験物質の保存液の希釈は、目的とする投与を達成するために適切な濃度で投与液を産出するために投与日に実施された。
USDA動物保護法(9 CFR、Parts 1、2および3)に定められ、動物実験に関する指針(ILAR publication、1996、National Academy Press)にも説明されている方法に従って動物を収容した。
最初に、下記の表に示すように、サルの原産に反映するProvantis番号を動物に割り当てた。6001〜6008のProvantis番号に割り当てられた動物は、中国産であった。7001〜7004のProvantis番号に割り当てられた動物は、インドネシア産であった。8001〜8003のProvantis番号に割り当てられた動物は、モーリシャス共和国産であった。9001のProvantis番号に割り当てられた動物は、ベトナム産であった。
動物の原産および体重が広範囲であるため、下表により、処置群へ無作為に動物を割り当てた。
被験物質および対象物質の投与、群の割り当て、および投与水準:
1前立腺の重量は、前立腺の重量と体重との間の従来確立された関係から推定される。
2投与の半分が前立腺の各葉に注射される、すなわち、一葉あたりおよそ25μl/g前立腺である。
投与は以下のように実施された。注射経路は、肛門周囲の前立腺ボーラス注射であり、頻度は、一度であった。初めに、ケタミンの筋肉内注射でサルを落ち着かせ、外科手技中、鎮静剤および/または麻酔薬の投与で一時的な静脈内カテーテルを設置した。肛門下の肛門周囲領域に小さい皮膚切開を行い、前立腺の視覚化および識別をするために筋肉および皮下組織を鈍的切開した。被験物質および対象物質は、前立腺の重量に従って与された。前立腺のおよその重量は、動物の体重および体重と前立腺の重量との間の従来確立された関係から推定され(前立腺の重量(g)=0.07294+(−0.2309×kg)+(0.06296×kg2)、kgは体重である)。被験物質および対象物質は、前立腺の左葉および右葉のそれぞれにほぼ同じ量でが投与された。
被験物質を直接前立腺へ投与する最も的確な手段であるため、肛門周囲の経路を選択した。被験物質はまた、ヒトにおいて、前立腺へ局所的に投与されるであろう。
ケージの横からの観察:これらは、投与日前の少なくとも7日目から始められ、試料採取の最終日まで継続され、1日2回(午前および午後)行われた。それぞれの動物は、全体的な様子および行動における変化を観察された。
飼料消費は、投与日前の少なくとも7日目から始められ、試料採取の最終日まで継続され(下記に記載された場合を除く)、日常のケージの横からの観察の一部として、1日1回おこなわれた。前日の給餌から残っているビスケットの数を観察した。この手順の例外は、研究手順のために絶食日であった。
体重の測定は、以下の手順により、第一投与前(1日目)、3日目、8日目および15日目に行われた。飼料は、体重測定前には控えた。
心電図は、導線:I、II、III、aVR、aVLおよびaVFを使用して、研究前、2日目および14日目に記録された。モンキーチェアーでケージ外の手順のためにサルを一時的に拘束したが、落ち着かせなかった。
眼科的検査が獣医により研究前(1日目の3週間以内)および14日目に行われた。ケタミンを使用した軽度の沈静のもとで、直接検眼鏡を眼の前眼房および後眼房を検査するために使用した。検査を容易にするために、数滴の散瞳薬液(通常、1%のトロピカミド)をそれぞれの眼にしみ込ませた。
1週目および3日目(剖検前)および14日目(眼科的検査前)にすべての動物から血清化学、血液学および凝固パラメータの評価用の血液試料を採取した。血清化学のための採血前に、少なくとも8時間(適切な正当化なしでは、16時間を越えなかった。)、動物を絶食させた。
研究前および投与後の午前(2日目、投与後およそ24時間)にケージパンを回収、およびそれぞれ剖検で膀胱穿刺により終了した動物において(3日目および15日目)尿を採取した。
a)血清化学採取手順
採取方法:静脈注射―いずれの使用可能な静脈、好ましくは、大腿骨
(表12)
*疑わしい被験物質関連の総ビリルビンの増加が起こった場合、直接および間接ビリルビン濃度は決定される。
b)血液学
いずれの使用可能な静脈、好ましくは大腿骨への静脈注射により、血液試料を採取した。採取量は、1mlであり、使用した抗凝血剤は、EDTAであった。
分析されたパラメータ:
(表13)
*総白血球、複数に分画された 好中球、バンド好中球、リンパ球、単核細胞、好酸性、好塩基球、および適切であれば、その他の細胞計数を含む。
**各時点で、すべての動物からの血液塗抹標本を検査する(検査前を含む)。
c)凝固パラメータ
いずれの使用可能な静脈、好ましくは大腿骨への静脈注射により、試料を採取した。採取量は、1.8mlであり、抗凝血剤は、クエン酸ナトリウムであった。血漿へ試料を処理し、以下のパラメータを分析した:活性部分的なトロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)、および線維素原。
d)尿検査
ケージパン回収方法(研究前および投与後およそ24時間)、および剖検では膀胱穿刺により試料を採取した。採取量は、使用可能であれば、最高5mLであった。従来知られている標準手順により試料を処理した。
F.実施された分析:
1.毒物動態学試料
いずれの使用可能な静脈、好ましくは大腿骨への静脈注射により、血液試料を採取した。投与前、および投与してから1、2、4、8、24および48時間後に試料を採取した。採取量は、2mLであり、抗凝血剤は使用しなかった。血清に試料を処理した。
ほぼ同量の2つのアリコットに血清を分割した。動物番号、投与群、採取日、日付、名目上の収集時間、研究番号およびアリコット番号でそれぞれの試料をラベル表示した。およそ−70℃で試料を保存し、ELISA法でMPP5濃度を分析した。
2.抗体試料
すべての使用可能な群/動物からの試料を検査した。研究前および14日目に、いずれの使用可能な静脈、好ましくは大腿骨への静脈注射により試料を採取した。採取量は、2mLであった。抗凝血剤は使用しなかった。血清に試料を処理した。およそ−70℃で試料を保存した。
前立腺特異抗原分析
すべての使用可能な群/動物からの試料を検査した。研究前および2、3、10日目に、いずれの使用可能な静脈、好ましくは大腿骨への静脈注射により試料を採取した。採取量は、2mLであった。抗凝血剤は使用しなかった。血清に試料を処理し、およそ−70℃で試料を保存した。
処分手順および解剖病理学
処分:ケタミンおよびBeuthanasia(登録商標)−Dまたは同等物で誘導された深い麻酔下で、放血により動物を処分した。屠殺前の一晩は、食糧供給を控えた。以下の予定により動物を殺処分した:
最終体重:
すべての予定したおよび予定していない屠殺のために剖検で終了時の体重を量った。臓器/体重比および臓器/脳の重量比を計算するために本体重を使用した。
肉眼的剖検:
研究中、死亡が確認、または屠殺された(予定および未予定の殺処分の双方)すべての動物において全肉眼的剖検を実施した。剖検には以下の検査を含んだ:死体および筋骨格系、すべての外部の表面および開口部、頭蓋腔および脳の外部の表面、随伴器官および組織がある首、胸部、随伴器官および組織がある腹腔および骨盤腔。
尿試料:
剖検で膀胱から尿(使用可能であれば最高5mLまで)を採取し、本プロトコルの臨床病理学のセクションに説明されているように分析した。
臓器の重量:
固定前に以下の臓器(存在する場合)の重量を量った。肉眼的異常がなければ、一組の臓器は一緒に重量を量り、異常がある場合には、別々に重量を量る。下垂体は固定後に重量を量った。
臓器/脳の重量比と同様に、臓器/体重比を計算した(剖検前に得た最終体重を使用)。
組織採取および保存:
以下の組織および臓器(またはその一部)を採取し、中性緩衝化した10%のホルマリン(眼は除く。眼は最適な固定のためにDavidsonの固定剤に保存された)で保存した。
a日常組織セクションからの副甲状腺腺の不定期な不在は、セクションを再び切る必要がない。
組織病理学:
剖検したすべての動物に関しては、上表に記載された組織(入れ墨を除く)をパラフィン内に埋め込み、区分化し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、ACVPにより認定された獣医病理学者により検査された。
統計分析
体重、臨床病理学パラメータ(非数値データを除く)、および臓器の重量データを含む、Sierra法により得たすべての数値データのために群平均および標準偏差値を計算した。
さらなる統計分析は、SAS(登録商標)システム、バージョン8.1で実施された。有意な群間の差異は、分散分析法(ANOVA)の使用により評価され、多重比較テストに続いた。パラメトリックANOVA法の使用を可能にする条件は、データの正規性のためのShapiro−Wilkesテスト、分散の均一性のためのレーベンテストを使用して認証され、条件を拒絶するためにどちらのテストにも必要とするp≦0.001の水準の有意性を用いた。双方の条件が満たされる場合、有意水準p≦0.05を使用して、動物群を要因とする、単一要因のANOVA法を適用する。パラメトリックANOVAがp≦0.05で有意である場合、有意水準0.05で対照群とそれぞれの被験物質処置群との間で統計的に有意な差異を同定するためにダネット検定を使用する。パラメトリックの条件のどちらかが満たされない場合、Kruskal−Wallisのノンパラメトリック法の手順を群間の差異(p≦0.05)を評価するために使用する。本ANOVA法が有意である場合、有意水準p≦0.05を再度使用して、ダンの多重比較検定を適用するであろう。
予備の結果
前立腺:
すべての処置された動物は、前立腺内に病変があった(図32C〜Hおよび33C〜Hを参照)。第1群(対照)の動物は、注射への反応および回復と一致して、3日目にわずかな炎症、出血、繊維症、および15日目に繊維症があった。第3群および第4群(図32E〜32H、図33E〜H)および33F)内に有意な重度の病変があった。第3群(5μg/g、前立腺)と第4群(25μg/g、前立腺)との間で病巣の範囲または重症度において差異はなかった。第2群(1μg/g、前立腺)では有意性があり、重度のより低い病変があった。(図32C、32D、33C、33D)
3日目に、被験物質への一次反応は、大量の出血、および混合細胞の炎症を伴う、前立腺の大部分で凝固の壊死であった。炎症は、好酸性、リンパ球、およびマクロファージの数がより少ない、主として好中球であった。いくつかの領域では、液化壊死があった。凝固壊死は、第2群で軽度であり、第3群および第4群では、中度から著しかった。
第2群の3日目には、扁平上皮化生に進展した上皮の著しい腺の再生過形成を伴う大規模な修復の進行があり、凝固壊死の領域端で、中度から著しい間質細胞の活性および増殖があった。第3群および第4群の3日目に、中度の間質細胞の活性および増殖が修復を示し始めたばかりであった。
第2群の15日目に、壊死および出血は消散した。前立腺のキャビテーションは、みとめられなかった。病巣は、軽度から中度の進行中の再生過形成および腺の扁平上皮化生を伴い繊維を形成した。炎症は、多形核白血球の数がより少ない、主としてマクロファージおよびリンパ球であった。ある動物では、これらは、主として好酸球であった。
第3群および第4群の15日目に、進行中の凝固壊死および出血があり、さらに重度の液化壊死および前立腺のキャビテーション、および進行中の混合細胞の炎症を伴った。これらの群における修復は、壊死性病巣端で間質における中度から著しい繊維症および線維増殖から成り、腺の扁平上皮化生に進展した再生過形成を伴った。炎症は、進行中の壊死の領域では主として好中球であり、繊維症の病巣領域端では、リンパ球およびマクロファージの割合が比較的高かった。
前立腺組織:
3日目の処置された動物の第5/6群の精嚢は、腺内腔内に軽度から中度の分泌の無機化があった。これは、時折、背景所見として観察されるが、今回の程度ほどではなく、ここで見られるように頻繁ではない。従って、前立腺の変化の二次症状と考えられる。15日目には、病気に冒された動物は対照のみであった。
前立腺の尿道は、炎症細胞浸潤があり、前立腺変化の二次症状と考えられる。
実施例8:前立腺組織によるMPP5の活性
本発明によるMPPを活性化するために様々な動物の前立腺抽出物の能力を検査した。in vitroの研究は、ラット、イヌ、サル、およびヒトの前立腺組織の抽出物をMPP5と共にインキュベートし、MPPの活性の割合を決定することで実施した。
実験プロトコルは以下の通りであった。1匹のSprague Dawleyラットおよび1匹のビーグル犬から新鮮な前立腺組織を取得した。1匹のカニクイザルおよび1人のヒトから冷凍した前立腺組織を取得した。Johns Hopkins大学のIRBの承認済みの臨床研究から保存された研究物質としてヒトの前立腺組織を取得した。本分析に関しては、前立腺を区分化し(〜100から500mgの片)、同じ組織量あたりの媒体量の濃度で、無血清RPMI 1640細胞培養液に懸濁させた。組織試料を37℃で2時間、この媒体にインキュベートした。遠心分離後、懸濁物を−80℃で冷凍した。
溶血アッセイ:
試料を37℃で解凍し、遠心分離し、上清を採取した。ブラッドフォード分析を使用して、それぞれの上清のタンパク質濃度を決定した。試料を同じ初期たんぱく質濃度に希薄した。標準ELISA(Hybritech(登録商標)、Beckman Coulter)法を使用してPSAを決定するために、サルおよびヒトの試料からの上清のアリコートを取得した。フェノールレッド不含のハンクス平衡塩溶液(HBSS)に懸濁した2%の新鮮なヒト赤血球(RBC)溶液が、毎日調製された。赤血球をペレット化し、余分な血清を除去するために3倍量のHBSSに再懸濁し、フェノールレッド不含のHBSS中の50%の溶液を生成するために再懸濁した。被験試料を調製するために、50%のRBC試料を軽くボルテックスし、RBCを懸濁した。RBCのアリコットを230μLのフェノールレッド不含HBSSに加え、4%(v/v)の溶液を生成した。この懸濁液にRPMI培地に調製された前立腺の切片の240μLのアリコットを加え、続いて、100μg/mLの保存からMPP5の10μLのアリコットを加え、アッセイごとに加えたMPP5の合計が1μgでアッセイの最終用量が500μLになるようにした。このRBC/MPP5/組織溶液を1時間、室温でインキュベートした。その後、試料を遠心分離し、溶解していないRBCをペレット化し、それぞれの試料から上清の100μLのアリコットを取得し、RBC溶解であるため、ヘモグロビン遊離のために540nmで、分光光度法で直ちに測定した。対照は、偽の処置をされたRBC(負の対照)および1%のトリトン−x100で溶解されたRBC(正の対照)を含んだ。加水分解の程度を比較するために、前立腺組織を調製された培地のそれぞれの試料の連続希釈液を分析した。1:1、1:2、1:4、1:8、1:16、および1:32の希薄抽出物を本研究で使用した。すべての試料を3倍に溶血のために分析した。
結果は、ヒト前立腺組織がMPP5を最も活発に切断することを示したのに対し、ラットおよびサルの前立腺組織がより低い反応を示し、イヌ前立腺組織は、MPP5に対して活性化をまったく示さなかった(図36)。ラットはPSA遺伝子が欠損しているが、ヒトPSA(Onozawaら、2001)と同族のS3カリクレインを持つことが示されている。ラットの腹部前立腺に同定されるPSA様タンパク質は、ヒトPSAに対して、それぞれ64%のヌクレオチドおよび49%のアミノ酸配列のホモロジーを示す。さらに、ラットS3カリクレインおよびヒトPSAは、類似の等電点および分子の重量を有する。従って、ラット前立腺組織中では、このPSA様のS3カリクレインによりMPP5を活性化することが起こり得る。
イヌの前立腺による活性の欠損は、イヌがPSA遺伝子を所有しないという観察と一致する。
実施例9:血漿/血清によるMPP5の活性
ヒト、サル、イヌ、ラットまたはマウスからの血清のMPP5を切断する能力は、以下のように決定された。
MPP5(1.073mg/mL)を4℃で氷上で解凍し、アリコット化され、−80℃で再冷凍した。2つのアッセイは、それぞれの状態について実施された。5μgのMPP5を150mMのNaClおよび25μLのヒト、サル、イヌ、ラットまたはマウス血清を含む20mMのHEPES緩衝液(pH7.4)の総容積250μL中で、37℃で10分間、インキュベートした。対照実験において、血清を追加する前に、25μgのキモトリプシンを反応混合物に追加した(正の対照)。その他の対照実験において、血清を緩衝液の同一用量で置換した(負の対照)。5μLの100mMのPMSF含有イソプロピルアルコールを追加することにより、反応物を停止し、氷で冷却した。停止した反応混合物の15μLのアリコットを同量の0.5%のβ−メルカプトエタノールを含む2倍BioRad試料ローディングバッファに追加し、95℃で5分間加熱し、すべてのタンパク質を変性し、タンパク質−タンパク質の相互作用をブロックした。5μLの試料は、100Vで60分間、XTのMOPSのランニングバッファ(BioRad Laboratories)を使用して、あらかじめ成型された4〜12%のBis−トリスジェル(Invitrogen)上で電気泳動した。ジェル内のタンパク質をニトロセルロース(BioRad Laboratories)にトランスブロットし、その膜をノンファットミルクでブロックした(1時間、室温で、0.1%のTween20(TBST)でトリス緩衝液にされた5%の生理食塩水)。1時間、室温で、TBST中で1:250,000の希薄で精製された多クローン性のラット抗MPP5中で膜をインキュベートすることにより、MPP5を検出した。TBSTで3回洗浄後、TBST中で1:20,000の希薄で、HRPにリンクしたヤギ抗−ラット抗体(Jackson ImmunoResearch)でブロットをインキュベートした。キット製造者(Cell Signaling)の説明に従がって、化学発光を使用して膜への抗体結合を検出し、飽和状態を防ぐため、化学発光自動露出設定とともに、4メガピクセルCCDカメラを使用するAlpha Innotech FluorChem SPを使用してリアルタイムに記録した。ボクセルベースプログラム(ImageQuantソフトウェア、Alpha Innotech、San Leandro、CA)を使用して、ブロットを濃度測定的に定量化した。バックグラウンドの修正後、切断したタンパク質の残りの割合を無傷のバンドと切断したバンドの合計により切断したバンドの密度で割ることによりそれぞれのレーンのために決定した。切断した割合は、その後、非血清および血清プラスキモトリプシンの対照と比較した。
MPP5の切断の割合の概算は、ウエスタンブロット法の電気泳動および濃度測定の定量化により達成された。その後、切断の割合をMPP5のみ(負)およびMPP5+キモトリプシン(正)対照と比較し、MPP5が血清酵素により切断されているか否かを決定した。これらの実験状態の下で、ヒト、サル、イヌ、ラットまたはマウスの血清によるMPP5の切断は検出されなかった。表14は、さまざまな血清とのインキュベート後、切断されるMPP5の割合を示す。図37は、様々な血清の有無における、10分間のインキュベート後のMPP5のウエスタンブロット法を示す。パネルAは、250μLのアッセイ用量中で、ヒト男性(H)(レーン2〜5)またはカニクイザル(Mk)(レーン6〜7)のいずれかの25μLの血清でインキュベートしたMPP5を示す。レーン3は、MPP5、ヒト血清およびキモトリプシンを含むが、インキュベートされなかった。レーン8は、分子重量マーカーである。(B)250μLのアッセイ用量中で、マウス(Mu)(レーン2〜5)、イヌ(D)(レーン6〜7)またはラット(R)(レーン8〜9)のいずれかの25μLの血清でインキュベートしたMPP5を示す。レーン3は、MPP5、ヒト血清およびキモトリプシンを含むが、インキュベートされなかった。レーン10は、分子重量マーカーである。
(表14)血清中においてMPP5が切断された割合の種別の比較
これらの結果は、MPP5が正常ヒト血清中で活性化されず、また、MPP5が血清PSAの非常に高水準な男性にでさえ、前立腺注射後、血液への漏出の際に活性化されないことを暗示する。これらの結果は、PSAが血清プロテアーゼ抑制剤、主として、αl−抗キモトリプシンおよびα2−マクログロブリンにより血液内に酵素的に不活性であることを示す既報のデータと一致している(Liljaら、1991;Ottoら、1998)。
実施例10:ノンPSAプロテアーゼによるMPP5の活性
in vitro研究を実施し、プロドラッグが前立腺外の組織に不注意にも露出される場合に、潜在的に遭遇可能なノンPSAプロテアーゼへのMPP5の感度を決定した。特に、、PSA、フューリン、トリプシン、キモトリプシン、トロンビン、MMP−7、システインプロテアーゼカテプシンB、およびセリンプロテアーゼhKl、hK2、uPAを含む、いくつかの一般のプロテアーゼが、MPP5を切断する潜在性を評価した。
アッセイを以下のように実行した。1.073mg/mLで、天然プロアエロリジン(wt PA;0.84mg/mL)およびMPP5は、フューリンを有するアッセイ2を除くすべてのプロテアーゼをアッセイ検査するために使用され、アッセイ2では、1mg/mlで、MPP5のロット番号N−PTIC−MF−PAL−BXを使用した。
PSA切断による活性化を測定するために、5μgの天然のプロアエロリジンまたはMPP5を150mMのNaClを含む20mMのHEPESの緩衝液(pH7.4)でインキュベートした。様々な量のPSAを追加し(対数のスケールによる0〜10μgのPSA)、総容積250μL中で、37℃で60分間、インキュベートした。100mMのPMSFを含有するイソプロピルアルコール5μLを追加することにより、反応物を停止し、氷で冷却した。停止した反応混合物の15μLのアリコットを0.5%のβ−メルカプトエタノールを含む同量の2倍BioRad試料ローディングバッファに追加し、95℃で5分間加熱した。試料は、200Vで30分間、XTのMOPSのランニングバッファ(BioRad Laboratories)を使用して、あらかじめ成型された10%のトリスHClジェル上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
研究1におけるフューリン切断による活性化を測定するために、5μgの天然PAまたはMPP5を150mMのNaClおよび様々な量のフューリン(対数のスケールによる0〜3.2ngのフューリン)を含む20mMのHEPES緩衝液(pH7.4)の総容積250μL中で、37℃で10分間、インキュベートした。100mMのPMSFを含有するイソプロピルアルコール5μLを追加することにより、反応物を停止し、氷で冷却した。停止した反応混合物の15μLのアリコットを0.5%のβ−メルカプトエタノールを含む同量の2倍BioRad試料ローディングバッファに追加し、95℃で5分間加熱した。試料は、200Vで30分間、XTのMOPSのランニングバッファ(BioRad Laboratories)を使用して、あらかじめ成型された10%のトリスHClジェル上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
研究2におけるフューリン切断による活性化を測定するために、5μgの天然PAまたはMPP5を150mMのNaCl、1mMのCaCl2および0から3単位のフューリンを含む20mMのHEPES緩衝液(pH7.4)の総容積250μL中で、37℃で60分間、インキュベートした。ここで留意すべきは、前述の実験(フューリン、研究1)では、インキュベートの時間は、同一酵素濃度で、10分間であることである。100mMのPMSFを含有するエタノール2.5μLを追加することにより、反応物を停止し、氷で冷却した。停止した反応混合物の15μLのアリコットを0.5%のβ−メルカプトエタノールを含む同量の2倍BioRad試料ローディングバッファに追加し、95℃で5分間加熱した。試料は、200Vで50分間、MOPS−SDSのランニングバッファを使用して、あらかじめ成型された10%のNovexビス−トリスNupageジェル(Invitrogen)上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
キモトリプシンによる活性化を測定するために、5μgの天然PAまたはMPP5を150mMのNaClおよび様々な量のキモトリプシン(対数のスケールによる0〜500ngのキモトリプシン)を含む20mMのHEPESの緩衝液(pH7.4)の総容積250μL中で、37℃で10分間、インキュベートした。100mMのPMSFを含有するイソプロピルアルコール5μLを追加することにより、反応物を停止し、氷で冷却した。停止した反応混合物の15μLのアリコットを0.5%のβ−メルカプトエタノールを含む同量の2倍BioRad試料ローディングバッファに追加し、95℃で5分間加熱した。試料は、200Vで30分間、XTのMOPSのランニングバッファ(BioRad Laboratories)を使用して、あらかじめ成型された10%のトリスHClジェル上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
研究1におけるトロンビンによるMPP5の活性化を測定するために、5μgのアエロリジン関連のタンパク質(天然のPAまたはMPP5)を150mMのNaClおよび様々な量のトロンビン(対数のスケールによる0〜12μgの0.23単位/μgのトロンビン)を含む20mMのHEPES緩衝液(pH7.4)の総容積250μL中で、37℃で10分間、インキュベートした。100mMのPMSFを含有するイソプロピルアルコール5μLを追加することにより、反応物を停止し、氷で冷却した。停止した反応混合物の15μLのアリコットを0.5%のβ−メルカプトエタノールを含む同量の2倍BioRad試料ローディングバッファに追加し、95℃で5分間加熱した。試料は、200Vで30分間、XTのMOPSのランニングバッファ(BioRad Laboratories)を使用して、あらかじめ成型された10%のトリスHClジェル上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
研究2におけるトロンビンによるMPP5の活性化を測定するために、2種類のトロンビン希釈液、1/66および1/25をこれらの実験に使用されるトロンビンキット(Novagen)に提供されているトロンビン希釈緩衝液内に作成した。トロンビンキットに提供されている、等倍の切断緩衝液中に10μgのMPP5(N−PTIC−MF−PAL−BX)を含む2つの反応混合物を調製した。His tag(PA−EndHis)を有する天然のプロアエロリジンを含む2つの反応混合物を同一の方法で調製した。0.15ユニットでPA−EndHisの混合物の一つおよび0.4ユニットでMPP5の混合物の一つにトロンビンを追加した。インキュベーション用量の合計は、それぞれの場合において、50μLであった。反応混合物を室温で6.5時間インキュベートし、フェニルメチル・スルホニル・フッ化物(Sigma)を1mMの最終濃度に追加することによりタンパク質分解の抑制をした。試料を4℃で氷上で一晩中保存した。その後、等倍のLDS試料緩衝液(Invitrogen)中で調製し、70℃で10分間加熱した後、非還元状態の下で、200Vの定電圧で50分間、等倍のMOPS−SDSランニングバッファ中で、10%のBis−トリスNuPAGEジェル(Invitrogen)を取り込み、処理した。タンパク質を銀染色法により検出した。
トリプシンによる活性化を測定するために、5μgのアエロリジン関連のタンパク質(wtPAまたはMPP5)を150mMのNaClおよび様々な量のタイプIトリプシン(対数のスケールによる0〜500ngのトリプシン)を含む20mMのHEPES緩衝液(pH7.4)の総容積μL中で、37℃で10分間、インキュベートした。100mMのPMSFを含有するイソプロピルアルコール5μLを追加することにより、反応物を停止し、氷上で冷却した。停止した反応混合物の15μLのアリコットを0.5%のβ−メルカプトエタノールを含む同量の2倍BioRad試料ローディングバッファに追加し、95℃で5分間加熱した。試料は、200Vで30分間、XTのMOPSのランニングバッファ(BioRad Laboratories)を使用して、あらかじめ成型された10%のトリスHClジェル上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
uPAによる活性化を測定するために、5μgのPAおよびMPP5を150mMのNaClおよび10〜0.16μgのuPAを含む20mMのHEPES緩衝液(pH7.4)の総容積250μL中で、37℃で4時間、別々にインキュベートした。100mMのPMSFを含有するイソプロピルアルコール5μLを追加することにより、反応物を停止し、氷上で冷却した。停止した反応混合物の15μLのアリコットを0.5%の2−メルカプトエタノールを含む等倍の試料緩衝液(Invitrogen)で調製し、95℃で5分間加熱した。試料(100ng)は、200Vで50分間、還元状態の下で、等倍のMOPS−SDSランニングバッファ中を使用して、あらかじめ成型された10%のNovex Bis−トリスNuPAGEジェル(Invitrogen)上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
カテプシンBによる活性化を測定するために、5μgのPAおよびMPP5を150mMのNaCl、1mMのEDTA、5mMのL−システイン、および24〜0.375単位のカテプシンBを含む20mMのHEPES緩衝液(pH7.4)の総容積250μL中で、37℃で4時間、別々にインキュベートした。ロイペプチンを最終濃度の2μMに追加すること(シグマ方式)により、反応物を停止し、氷上で冷却した。停止した反応混合物の15μLのアリコットを0.5%の2−メルカプトエタノールを含む等倍の試料緩衝液(Invitrogen)で調製し、95℃で5分間加熱した。試料(100ng)は、200Vで50分間、還元状態の下で、等倍のMOPS−SDSランニングバッファ中を使用して、あらかじめ形成された10%のNovex Bis−トリスNuPAGEジェル(Invitrogen)上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
MMP−7による活性化を測定するために、5μgのPAおよびMPP5を150mMのNaCl、10mMのCaCl2および1.5〜0.0234μgのMMP−7を含む20mMのHEPES緩衝液(pH7.4)の総容積250μL中で、37℃で3時間、別々にインキュベートした。8.4μLの31mMの1、10−フェナントロリン一水和物(1μMの最終)を含有するエタノールを追加することにより、反応物を停止し、氷上で冷却した。停止した反応混合物の15μLのアリコットを0.5%の2−メルカプトエタノールを含む等倍の試料緩衝液(Invitrogen)で調製し、95℃で5分間加熱した。試料(100ng)は、200Vで50分間、還元状態の下で、等倍のMOPS−SDSランニングバッファ中を使用して、あらかじめ形成された10%のNovex Bis−トリスNuPAGEジェル(Invitrogen)上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
hKlによる活性化を測定するために、50μlのTCN緩衝液(50mMのトリス、10mMのCaCl2、0.15MのNaCl、pH7.5)の最終容積で、0.05μgのテルモリジンにより5μgのhKlを活性化し、37℃で1時間、インキュベートし、さらに、2.5μlの200mM 1、10−フェナントロリン一水和物を含有する95%のエタノールで抑制した(R&Dシステム方式)。1μgのPAおよびPSA−PAH1を150mMのNaCl、1mMのEDTA、および1〜0.015625μgの活性化したhKlを含む20mMのHEPES緩衝液(pH7.4)の総容積50μL中で、37℃で4時間、別にインキュベートした。PMSF含有のイソプロピルアルコールを加え、最終濃度2mMで、反応物を停止し、氷上で冷却した。停止した反応混合物の5μLのアリコットを0.5%の2−メルカプトエタノールを含む等倍の試料緩衝液(Invitrogen)で調製し、95℃で5分間加熱した。試料(100ng)は、200Vで50分間、還元状態の下で、等倍のMOPS−SDSランニングバッファを使用して、あらかじめ成型された10%のNovex Bis−トリスNuPAGEジェル(Invitrogen)上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
hK2による活性化を測定するために、1μgのPAおよびMPP5を150mMのNaCl、および0.25〜0.0039μgのhK2を含む20mMのHEPES緩衝液(pH7.4)の総容積50μL中で、37℃で1時間、別々にインキュベートした。イソプロピルアルコールのPMSFを追加して最終濃度の2mMで、反応物を停止し、氷上で冷却した。停止した反応混合物の10μLのアリコットを0.5%の2−メルカプトエタノールを含む等倍の試料緩衝液(Invitrogen)で調製し、95℃で5分間加熱した。試料(100ng)は、200Vで50分間、還元状態の下で、等倍のMOPS−SDSランニングバッファを使用して、あらかじめ成型された10%のNovex Bis−トリスNuPAGEジェル(Invitrogen)上で電気泳動した。タンパク質を銀染色法により検出した。
この研究の結果は、感受性プロファイルが、MPP5とプロアエロリジン(PA)間で非常に異なることを示し、それは、天然のプロアエロリジン(PA)は上記の様々なロテアーゼ(PSAを除く)に対して、MPP5よりさらに感受性あるということである(表15)。
(表15)In Vitroプロテアーゼの感受性に関する研究結果
注意:報告されたユニットは、原データに記録されているユニットを反映する。
実施例11:ラットにおけるMPP5の生体内分布
単一の前立腺内投与後の前立腺において、および、可能性のある周囲の組織におけるMPP5の生体内分布を確立するために、125I−MPP5を使用して放射性標識量的全身オートラジオグラフィーの研究をSprague−Dawleyラットのオスにおいて実施した。投与製剤における放射能濃度(±S.D.)は、1.6×109±44.02×106dpm/g(730.94μC/g)であった。標準偏差および平均濃度の周りの分散係数に基づいて、投与製剤は均一であると考えられた。前立腺へ注射投与された調整済みのされた125I−MPP5の平均被曝線量は、8.73μg/動物であった(10μLの容積中で5.86μCi/動物)。
血液の複製のアリコット(2×50μL)を放射能分析のための試料とした。血液は、4℃でおよそ10分間、3500rpmで遠心分離機にかけ(採取の60分以内)、血漿の複製のアリコット(2×50μL)を放射能分析のための試料とした。全血の複製の計量済みのアリコットを可溶化し(Soluene−350)、放射能測定のためにシンチレーション液と混合する前に過酸化水素(30%w/v)で脱色した。血漿の複製アリコットを放射能測定のためにシンチレーション液と直接混合した。
定量全身オートラジオグラフィーに関しては、ヘキサンとドライアイスの混合物内で20分間、動物を凍結状態にした。その後、矢状の全身の部位を採取するために標準操作手順による冷凍フレームを使用して2%のCMC培地で右側を下向きにして動物を組み込んだ。10の125I標準液および2つの品質管理液を連携させるためにそれぞれの冷凍CMCブロック内に12の穴を作成した。14Cまたは125Iを混ぜた血液をそれぞれのCMCブロックの4つのドリル穴に挿入し、もし必要であれば、低い放射能水準または低い対照を示す構造の識別のために参照の点として使用された。それぞれの動物標本ブロックをLeica CM3600人体冷凍を使用して、分割した。30μmの切片を採取し、動物番号、時点、区分日およびメスの位置を識別した。
結果は、単一前立腺内投与に続いて、血液および血漿中の放射能濃度が低く、前立腺内投与に続いて、ほとんど目に見える吸収がないことを示す。最高の放射能濃度(9.445μgEq/g)を右腹部前立腺の注射部位から初めのサンプリング時点(3時間)で取得した。高水準の放射能はまた、前立腺のその他の葉(左腹部、および左右背部葉)で観察されたが、96時間の最終サンプリング点まで時間と共に減少した。この最終時点で、前立腺内の放射能濃度は、右腹部の前立腺注射部位(0.268μgEq/g)を除いた前立腺のすべての領域で低かった。前立腺以外では、膀胱および甲状腺だけが血液か血漿のいずれかよりも高い放射能濃度を示した。放射能の甲状腺レベル(125I)は、投与後、12から48時間に時間とともにに増加し、処置してから最終時点の96時間後まで高い状態であった。甲状腺内の125Iの腐骨化は、甲状腺への自由125I分布のを表している可能性がある。放射能濃度の低さは、副腎(≦0.034μgEq/g)、腎臓(≦0.032μgEq/g)、肝臓(≦0.045μgEq/g)、肺(≦0.041μgEq/g)および膵臓(≦0.022μgEq/g)内に観察された。脳は、最低の放射能濃度を示した(≦0.003μgEq/g)。極端に低い放射能レベルは、常にすべてのほかの腫瘍臓器内で示され、有意な全身への分布が起こらなかったことを暗示した。血漿レベルへの組織レベルは、時間と共に増加し、MPP5は、組織からよりも血漿レベルからより速く除去されることが明らかであることを示した。従って、この生体内分布研究では、MPP5が主に投与の局所部位で残留し、限定された末梢分布および周囲の細胞への毒性のみがあることを示している。
実施例12:サルにおけるMPP5の毒物動態学
実施例7に説明されているように、性的に成熟しているオスのカニクイザルにおける前立腺投与に続くMPP5の毒物動態学も確立された。群あたり4匹のサルに2×25μLの注射(25μL/葉)を使用して、対照塩水または0.35、4.14、または25.79μgのMPP5/g(前立腺組織)を、前立腺内に投与した。投与前、投与してから1、2、4、8、24、および48時間後に、血液試料をすべてのサル(16)から採取した。本研究の準備段階結果はまた、実施例7に示されている。以下は、本研究の最終的な毒物動態学の結果を示す。
有効なELISA法を使用して、MPP5のために研究試料を分析した。ELISA法の定量限界値(LLOQ)は、多重分析における50μLの血清を使用して5ng/mLであった。MPP5の感知できるほどの全身レベルは、前立腺内投与後、検出されなかった。第2群内のある動物は、すべての時点に対して、LLOQ(5ng/mL)を越える濃度を示した。これは、同一投与群からの動物と比較して異常であると考えられ、この動物からすべての試料を確認のために、その後の分析評価に繰り返された。すべての本来の結果を反復分析において確認した。投与前の試料がまたLLOQを越えたていたので、この動物における観察された濃度がマトリクス干渉であるために起こったものであり、処置関連でないことを決定した。
実施例13:MPP5で処置されたサルにおける前立腺形態学の評価
実施例7および12で説明された研究において採取されたサル前立腺の切片のさらなる分析が実施された。処置された前立腺の形態学を調べるために、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色を実施し、PSAの分布を調べるためにPSA用の免疫組織化学的染色を実施し、MPP5の分布を調べるためにMPP5染色を実施した。使用したプロトコルを以下に説明する。
材質および試薬:
対照およびMPP5で処置されたサルの前立腺からの切片の96スライド(1匹のサルあたり6スライド)を密封容器に室温で保存した。賦形剤または0.35、4.1または25μgMPP5/g(前立腺)を伴う、前立腺内に投与したサルからの前立腺組織の切片を調製し、H&Eで染色した。また、従来知られている方法によりPSAおよびMPP5のために免疫組織化学的に切片を染色した。
画像分析:
サルの前立腺の組織切片を1.25倍の対物レンズを使用して評価した。損傷を起こした前立腺の総領域およびMPP5の総領域を概説するために、Metamorph(商標)ソフトウェアパッケージ(分子素子、Sunnyvale、CA)を使用した。このソフトウェアは、ピクセル数として総領域を提供する。1×1cmの正方形をピクセル/cm2の数を決定するために標準として、それぞれのスライド上に設置した。その後、MPP5のそれぞれの投与からの損傷領域を決定し、損傷のcm2に変換した。損傷領域/総前立腺領域の割合に100を掛けることにより損傷の領域割合を決定した。
対照(正常)サルの前立腺の分析は、カニクイザルの前立腺は、腺性形態学の観点では、ヒトの前立腺に類似しており、PSAの分布は、管を覆っている円柱状の上皮細胞に制限されていることを示した。ヒトの前立腺のように、サルの前立腺は、尿道を取り囲んでいる。従って、サルの前立腺は、前立腺内に注射する場合、活性化PSAの活性化したタンパク質毒素、MPP5を研究するために最も使用可能な動物モデルであることを示す。
本研究から前立腺におけるPSAおよびMPP5の前立腺組織および分布の形態学的特殊化は、0.35から4.14μg/gの前立腺投与から前立腺の損傷領域/割合における用量反応を示したが、4.14から25.79μg/g(前立腺)までは有意な増加はなかった(表15)。算出された損傷の最大領域は、4.14μg/gの前立腺投与を受けるサルにおいて観察され、葉あたり25μLの単一注射は、総腺のおよそ50%を損傷した。結果は、最大損傷が前立腺の葉あたりの25μLの注射用量の総分布により制限されていることを示す。
MPP5が正常の腺組織の有意な梗塞を起こす処置された領域において、PSA染色が著しく減少し、それに対して、隣接した、前立腺の損傷していない領域において、PSA染色が分布および程度において正常であった。これらの結果は、MPP5は腺内の円柱状の上皮細胞を殺すと、PSA生成を除外することを示す。また、結果は、MPP5の分布は、図38に示すように、中度および高度な投与水準で梗塞領域で重なり合うことを示した。15日の投与後、MPP5の残留が中度の投与水準では観察されなかった。さらに、MPP5は、本研究で評価された切片のいずれにおいても、前立腺カプセルを浸透することを示さなかった。
(表15)MPP5からの前立腺の損傷
1の領域および割合
1葉あたり25μLの注射に続く損傷(総腺の領域/割合)
MPP5が正常の腺組織の有意な梗塞を起こして処置された領域において、PSA染色が著しく減少した。隣接した、前立腺の損傷していない領域において、PSA染色が分布および程度において正常であった。これらの結果は、MPP5が腺内の円柱状の上皮細胞を殺すと、PSA生成を除外することを示す。しかしながら、MPP5は、損傷していない領域において、PSA生成を変えず、PSAのより低い水準を生成する上皮細胞に対しても選択しない。PSA染色は、尿道周辺の筋性カフで観察されなかった。尿道組織内PSA染色が示されないことは、尿道の有意な損傷が何も見られないことを部分的に説明してもよい。従って、前立腺の単一葉へのMPP5の少容量(25μL)の注射は、非PSA生成構造(例、尿道)への有意な損傷なく、正常サルの前立腺において、PSA生成の腺組織の大きな領域の有意な梗塞を生成することができる。
実施例14:イヌにおけるMPP5の毒性
MPP5の単一前立腺投与後、潜在的な直接前立腺の毒性およびMTDを確立するために、オスのビーグル犬において、試験的な毒物学研究を実施した。100μLの投与用量において(前立腺の重量に基づいて、これらの投与は、それぞれ、0、22、24.4、40、および72.2μg/g(前立腺)に同等した)、0、50、107、200、または400μgの前立腺注射を通して、オスのビーグル犬(1/群)にMPP5を投与した。投与してから1週間、動物を観察した。臨床的観察、体重、飼料消費、または臨床的病理学において死亡率、または処置関連の効果はなかった。前立腺の重量において、MPP5関連の効果は示さなかった。肉眼的病理変化は、前立腺の左葉および隣接する腹部脂肪で認識され、前立腺の柔組織へ広がる前立腺の黒色の領域からなった。腹部脂肪内への癒着および/または黒色の領域は、前立腺内に示されたMPP5関連の影響に関連した。400μgで処置されたイヌにおいて、黒色の領域がさらに多くなり、前立腺の左葉を拡大した。これらの病理学的変化についての重症度の増加は、MPP5の予想された薬理学的効果によるものと考えられた。有意な特別な前立腺毒性を何も示さなかった。全体的に見て、見かけの処置関連の肉眼的変化が前立腺中に観察され、腹部脂肪組織の周辺または隣接部に限定された関連効果があり、400μg水準で重症度を増した。
イヌの前立腺は、ヒトの前立腺と構造上の類似性を有し、腺房管の2つの葉構造、本質、および豊富な間質の存在を含む(Wientjesら、2005)。ヒトは、イヌの前立腺よりも高い間質組織の破片を所有するが、繊維質の区分のアーキテクチャ、および血液および腺病質排出パターンがどの程度ヒトとイヌの前立腺との間で異なるのかは知られていない。それにもかかわらず、イヌは前立腺注射の効果を研究するために役に立つモデルとして、前述に示されている(Rosserら、2004)。しかしながら、MPP5の場合では、ビーグル犬は、本化合物の細胞溶解の効果に対して顕著な感受性を示さなかった。これは、イヌにおけるPSA発現の欠失(またはMPP5を切断するのに可能なその他の非特定酵素)による結果と考えられる。イヌ科の動物モデルは、PSAの欠如において、非活性化のプロドラックの安全性を示し、MPP5は極度に高い投与で、活性化されていないことを示す。対照的に、ラットおよびヒトでない霊長類は、PSA様カリクレインおよびPSAのそれぞれを発現すると知られており、低濃度のMPP5でさえ、感受性があることを示す。従って、イヌの前立腺が解剖学的にヒトの前立腺に類似しているが、MPP5の活性化の点からヒトの腺との機能的な関係があることを示さない、故に、イヌはMPP5に対する毒性モデルとしてさらに追求されなかった。しかしながら、イヌの研究は、PSAにより切断されない場合、MPP5が薬理学的に不活性であることを示すのに役立ち、非PSA生成組織中にある場合、有意な毒性を生成しない確信を提供した。
実施例15:サルにおけるMPP5の毒性
内因性のPSAを生成する齧歯動物でない種において、MPP5の毒性を確立するために、実施例7に説明されているように、0.35、4.14、または25.79μgMPP5/gの前立腺組織を注射したオスのカニクイザル(4/群)において、前立腺毒性研究を実施した。前立腺のそれぞれの葉に1つずつ(25μL/葉)、2つの会陰部への注射を投与した。本研究の準備段階の結果を実施例7に示す。最終結果の説明は、以下に示す。
直接前立腺内投与後、2日あるいは14日の観察期間後に、MPP5に関連する毒性は、周囲の組織またはその他の明白な全身的な効果への損傷がほとんどなく、前立腺に限定された。血液分析の結果は、オスのカニクイザルがPSAの検出可能な水準を発現し、MPP5の前立腺内投与がPSAの有意な量を血液/血清に放出することを示した。PSA水準は、処置してから10日後、基準水準近くまで戻った。臨床的徴候、体重、眼科的状態、尿検査、または心電図(ECG)評価において、いずれの投与水準でも、処置関連の効果は観察されなかった。血清化学および血液学評価は、一過性細胞および炎症反応を示した。一過性急性期免疫反応は、研究3日目にすべての群において観察され、外科手技に関連する炎症および前立腺への局部的な炎症であると考えられた。研究3日目にみとめられたC反応性タンパク質(CRP)の増加は、一般的には投与関連であり、混合細胞の範囲の炎症および顕微鏡的に観察された前立腺の壊死と一致した。
肉眼的および顕微鏡的な病理学変化は、3日目に、すべてのMPP5の投与水準で前立腺において観察された。これらの変化は、壊死、出血、および混合細胞の浸潤により特徴付けられ、中投与量および高投与量でMPP5を受けた動物において、さらに重症であった。低投与量群におけるサルはまた、3日目に、間質(間葉)組織中の上皮組織および線維増殖における再生過形成および扁平上皮化生を含む、修復で一致した組織学的変化を示した。中投与量および高投与量群における修復は、3日目には、最小〜全く無かった。15日目には、壊死は分解し、修復は低投与量群において進行中であった。中投与量および高投与量群において、壊死は15日には進行中で、修復と一致する変化は壊死の病巣端に制限された。対照的に、3日目か15日目のいずにおいても、前立腺の周囲または全身性の組織においてMPP5に起因する変化はなかった。
実施例16:サルにおけるMMP5の免疫応答
MPP5への潜在的な免疫応答はまた、評価された。実施例7に説明されているように、動物をMPP5で処置した。MPP5への潜在的な免疫応答は、以下の通り決定された。
サル群は、下表に示すように、MPP5の様々な投与量を直接前立腺へ受けた。血清(およそ0.5mL)を注射日前および注射してから14日後再度、動物から採取した。血清は、アッセイまで−70℃で保存した。免疫グロブリン反応を別に説明されているように、ELISA法により測定した。簡潔には、プロアエロリジン(リン酸緩衝生理食塩水中の0.5μg/mL)を4℃で一晩中、コーティングすることによりEIA皿に固定した。非特異的結合は、室温で5%のBSA(Sigma)でコーティングすることにより抑制された。正常サルのプ−ル血清の一連の10倍の希薄液(1:100〜1:1,000,000)を4つ1組で使用し、MPP5の投与後、各回で採取した動物からの血清において、力価測定のための比較曲線を形成した。MPP5で処置されたサルからの血清試料を10倍(1:100〜1:1,000,000)に希薄し、濃度を正常血清に提供した。ペルオキシダーゼ抱合されたヤギ抗ラットIgG(Jackson ImmunoResearch)をプロアエロリジンでコーティングしたウェルに結合した抗体に結合した。製造者の説明に従ってOPDのペルオキシダーゼ基質の追加により色を作成した。分子動力学VERSAmaxマイクロプレートリーダーにおいて490nmでの吸収を測定した。力価は、吸収値がは、正常プール血清希釈+同血清の希釈の標準偏差X2より少なく希釈より高い希釈として定義した。
MPP5の投与前に、賦形剤の対照動物の一つを除いたすべてのサルには、検出可能な力価がなかった。その対照動物は、小さい力価の出現が14日目の試料において確認され、再度アッセイすることにより再度確認されたので、研究前に免疫原に曝露されたことを示す。1μg/gのMPP5を受けた2匹の動物のうち1匹は、力価を示した。同様に、5μg/gのMPP5を受けた2匹の動物のうち1匹は、力価を示した。同様に、25μg/gのMPP5を受けた双方の動物は、力価を示した。
投与前および投与後の採血でのそれぞれの動物の力価を表16に記載する。
(表16)MPP5の投与後、サルにおける抗体力価
*本動物は投与前に同一の小さい力価を示した。
図39は、MPP5の投与後、サルにおける抗体力価を示す。力価は、104を上回るものがなかった。これは、MPP5の前立腺内投与が強い免疫応答を引き出さないことを示す。しかしながら、6匹の処置された動物のうち4匹は、プール血清を越える力価を示した。
0.35または4.14μg/g(前立腺)で処置された2匹のサルのうち1匹が抗体力価を示し、25.79μg/g(前立腺)を受けた双方の動物が、力価を示した。従って、MPP5の投与は、何匹かのサルにおいて、検出可能であるが、免疫応答の低い力価を誘発した。
実施例11、12および15にある所見に基づいて、いずれかの投与水準においても前立腺毒性の徴候はなく、従って、全身性のNOAELは、25.79μg/g(前立腺)(実際の前立腺の重量に基づく)で、検査されたMPP5の最高投与量であった。前立腺内で観察された効果は、投与量依存的であり、周知のMPP5の活性の機構に基づき、予想されたものであった。前立腺内での効果は、低投与量で検査された、0.35μg/g(前立腺)を含む、すべての投与水準で観察され、前立腺のおよそ25%が損傷した。従って、局所前立腺の効果に対する最低副作用発現量(LOAEL)は、本研究では、0.35μg/g(前立腺)であった。
前述の実施例は、オスのアルビノラットにおける静脈または前立腺内投与後、およびヒトでない霊長類における前立腺注射後の、MPP5の薬物代謝および毒物動態学の検査を説明する。MPP5で行われた非臨床的薬物代謝薬物動態学(DMPK)研究の概要は、表17に示される。
(表17)MPP5で実施された非臨床的薬物代謝薬物動態学研究のリスト
実施例17:BPHに対する治験におけるMPP5投与の用量の選択および方法
BPH中のMPP5の治験に対する開始用量の選択のための模範的論拠は、下記に記述した。MPP5投与の模範的な方法もまた記述した。
カニクイザルの前立腺とヒトの前立腺との間のPSA発現および生理的類似に基づいて、ここに説明される単一投与のサルの研究は、ヒトにおける安全な前立腺への開始用量を推定するための基準として、選択される。イヌは、ラットおよびサルとの比較において、MPP5の効果に感度がよくなかったため、イヌは、MPP5の安全な開始用量を推定するための適切なモデルであると見なされなかった。ここに説明されるラットの研究からのデータは、ラットがPSAのコーディング遺伝子を有さないという事実にもかかわらず、MPP5がラットの腹部前立腺に識別されるPSA様S3カリクレインにより活性化されると示す(Onozawaら、2001)。
BPHの治験におけるMPP5の開始用量は、0.03μg/gから0.25μg/g(前立腺)の範囲から選択される。単一投与サルの研究(0.35μg/g、前立腺)において検査した最小用量の10倍の安全要因の適用に基づいて、潜在的な開始用量を0.03μg/g(前立腺)に設定する。0.35μg/gの前立腺投与を受けたサルにおいて、局地的な前立腺の変化が指摘されたが、全身毒性は観察されなかった。すべての3つの用量は、前立腺組織の局所切除を示したが、中用量および高用量は、注射してから14日後、最も著しい変化および回復の欠如を示した。最小用量(0.35μg/g、前立腺組織)は、組織学か実験室分析のいずれかによる全身的所見を示さないことと、限定されているが、およそ25%の前立腺除去を伴う明らかに観察可能な局所的な前立腺効果であることの、有用な組み合わせを有すると結論付けた。これは、サルにおいて安全用量であると考えられた。これらのデータを使用して、少なくとも10倍の安全要因が適用され、ヒトの前立腺についてグラムあたり0.03μgのMPP5の開始用量をBPH治験の第一群に対して選択する。
BPH治験のMPP5投与の模範的な方法は、投与あたり4つのみの注射(それぞれの側葉に2つの注射)を用いるのが、一般的投与の経直腸的経路である。注射中の誘導に関しては、例えば、経直腸超音波を使用可能である。BPH治験の投与される総容積は、50μL/g(前立腺)である。注射中の逆流を削減するために、例えば、ジェルまたは粘性剤形を使用可能である。
ある特定の実施形態に関連して本発明を説明しているが、その様々な修正は、ここに添付されている請求項に概説されているように、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者にとっては明白であろう。
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