JP2008285796A - 炭素繊維およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】断面組織の少なくとも一部がラジアル構造であり、かつ繊維表面に実質的に欠損が存在しない炭素繊維を提供すること。
【解決手段】メソフェーズピッチを溶融紡糸して炭素繊維前駆体を製造するにあたり、キャピラリー内におけるメソフェーズピッチの溶融粘度が8〜30Pa・s、キャピラリー内の流速が0.05〜0.80m/sの範囲となるようにし、得られた炭素繊維前駆体を不融化、焼成して炭素繊維を製造する。
【選択図】図1
【解決手段】メソフェーズピッチを溶融紡糸して炭素繊維前駆体を製造するにあたり、キャピラリー内におけるメソフェーズピッチの溶融粘度が8〜30Pa・s、キャピラリー内の流速が0.05〜0.80m/sの範囲となるようにし、得られた炭素繊維前駆体を不融化、焼成して炭素繊維を製造する。
【選択図】図1
Description
本発明は放熱材料、樹脂補強材として好適に使用できる炭素繊維に関する。更に詳しくは、その断面組織の一部に少なくともラジアル構造を有する炭素繊維であり、従来の炭素繊維に比べて、優れた機械特性と放熱特性を有する炭素繊維に関する。
近年、携帯電話やPCの急速な発展に伴って高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱問題が取り上げられている。これらを解決するために、熱を効率的に処理する、いわゆるサーマルマネジメントの必要性が問われている。
熱伝導性の優れた物質として、例えば酸化アルミニウムや窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、石英、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などが知られている。しかし、金属材料系の充填材は比重が高く複合材としたときに重量が大きくなる或いは、強度劣化が起こる等の問題点を内在していた。これを解決する方法として、炭素系材料であるカーボンブラックを用いる方法が提案されている。しかしながら、添加量の増加に伴い、粉落ちが生じるなどの問題点があった。
これら問題を解決する手段として、炭素繊維を用いる方法が考案されている。炭素繊維は金属材料系の充填材に比べて、同体積における複合材の重量を軽くできるだけでなく、強度が向上するといった特徴を有する。
また、カーボンブラックに比べて、繊維特有のアンカー効果により粉落ちしにくいといった長所も有している。炭素繊維の放熱特性は、その黒鉛化性に大きく影響している。一般にPAN系炭素繊維よりも、高い黒鉛化性を達成できるピッチ系炭素繊維、特にメソフェーズピッチを原料にした炭素繊維が用いられている。メソフェーズピッチを原料にした炭素繊維の製造法としては、例えばメルトブロー紡糸による極細炭素繊維(紡糸時の平均繊維径5μm以下)の製造方法が公開されている(例えば、特許文献1参照)。メルトブロー法で作成した炭素繊維は、通常不織布の形態として得ることができる。しかしながら、先に述べたごとく、炭素繊維の熱伝導特性は黒鉛化性に大きく影響することが知られており、この黒鉛化性は炭素繊維の断面構造に強く影響することが報告されている(非特許文献1、2、3、4参照)。
機械特性、放熱特性はそのグラファイト結晶厚みに大きく依存することが知られており、グラファイトの結晶はラジアル構造で大きくなることが知られている。通常メソフェーズピッチを紡糸すると、その強い配向性のためにラジアル構造が主体となるが、このラジアル構造は炭化処理により繊維半径方向に割れが入り、機械特性の低下を引き起こすなどの問題を生じていた。
上記に述べたごとく、炭素繊維の熱伝導特性は黒鉛化性に大きく影響することが知られており、この黒鉛化性は炭素繊維の断面構造にも強く影響する。ラジアル構造から形成された炭素繊維は優れた熱伝導性を有することが期待できるが、従来炭化処理により繊維表面に実質的に欠損が発生し、熱処理温度を高くなるにつれて欠損部分が拡大してしまい、熱伝導性だけではなく機械特性の低下を引き起こすといった問題があった。
本発明者らは、放熱および機械特性に優れた炭素繊維およびその製造方法について検討したところ、その断面組織の少なくとも一部がラジアル構造であり、かつ炭化処理により、繊維表面に実質的に欠損が存在しない炭素繊維を、特定の粘度特性を有するメソフェーズピッチを用い、かつ特定の条件で紡糸することで製造できることを見いだし、本発明に到達した。
すなわち、本発明の炭素繊維は、(1)メソフェーズピッチを溶融紡糸して炭素繊維前駆体を製造する工程、(2)炭素繊維前駆体を酸化性ガス雰囲気下で不融化して、不融化炭素繊維を製造する工程、(3)不融化炭素繊維を焼成して炭素繊維を製造する工程よりなる炭素繊維の製造において、炭素繊維前駆体を製造する工程(1)のキャピラリー内における溶融粘度が8〜30Pa・s(80〜300ポイズ)、キャピラリー内の流速が0.05〜0.80m/sの範囲にあることで製造される。
なお、本発明では、330℃に加熱したメソフェーズピッチのせん断速度7000s−1における溶融粘度が、0.5〜50Pa・s(5〜500ポイズ)であるメソフェーズピッチを用いる事、溶融紡糸に用いるメソフェーズピッチの軟化点が250℃以上340℃以下であること、メソフェーズピッチをメルトブロー法で溶融紡糸すること、本発明で製造された炭素繊維は、その繊維径が1〜20μmであって、断面組織の少なくとも一部がラジアル構造であることも包含される。
上記方法により、繊維径が1〜20μmであって、断面組織の少なくとも一部がラジアル構造であり、かつ繊維表面に実質的に欠損が存在しない炭素繊維を製造できる。
上記方法により、繊維径が1〜20μmであって、断面組織の少なくとも一部がラジアル構造であり、かつ繊維表面に実質的に欠損が存在しない炭素繊維を製造できる。
本発明の炭素繊維は、その断面組織を制御して製造することで、ラジアル構造を有するにも関わらず、炭化処理により、かつ繊維表面に実質的に欠損が存在しない。このため、優れた機械特性と放熱特性を有する。
次に、本発明の実施の形態について順次説明する。
本発明の炭素繊維はメソフェーズピッチから作成した炭素繊維であって、その断面組織の一部に少なくともラジアル構造を有する。炭素繊維の断面組織は、通常1300℃以上に焼成した炭素繊維の断面顕微鏡観察から確認することが出来る。
本発明の炭素繊維はメソフェーズピッチから作成した炭素繊維であって、その断面組織の一部に少なくともラジアル構造を有する。炭素繊維の断面組織は、通常1300℃以上に焼成した炭素繊維の断面顕微鏡観察から確認することが出来る。
炭素繊維の断面構造としては、ラジアル構造、オニオン構造、ランダム構造、これら構造が複合した外層オニオン内層ラジアル構造、外層オニオン内層ランダム構造、ラジアルウェッジ構造、コンセントリック構造などが報告されているが、グラファイトの結晶を成長させるためには、炭素繊維の断面組織の少なくとも一部がラジアル構造であることが、優れた機械特性を達成するため、特に、繊維表面に実質的に欠損が存在しない炭素繊維であることが必要であることを見出したものである。
ここで、繊維表面に実質的に欠損が存在しないとは、対象とする炭素繊維を走査型電子顕微鏡(倍率8000倍)で観察したとき、繊維表面(側面部及び端部)に割れ、ひび等の構造欠陥が見当らないことを意味する。
ここで、繊維表面に実質的に欠損が存在しないとは、対象とする炭素繊維を走査型電子顕微鏡(倍率8000倍)で観察したとき、繊維表面(側面部及び端部)に割れ、ひび等の構造欠陥が見当らないことを意味する。
本発明の炭素繊維の平均繊維径は1〜20μmの範囲にあることが好ましい。繊維径が1μm未満であると、炭素繊維前駆体を製造する際、特にメルトブロー紡糸においては不織布の形状を保持できなくなり、ハンドリングの低下を招くことがあり好ましくない。また、粉砕時のハンドリング性も低下し好ましくない。一方、20μmを越えると、不融化工程での不融化ムラが大きくなり部分的に融着が起こることがある。その結果、炭素繊維の品質を低下させることがあるため好ましくない。平均繊維径のより好ましい範囲は3〜18μm、さらに好ましくは5〜15μmである。
また、平均繊維に対する繊維径の分散値の百分率として求められるCV値は、20%以下であることが望ましい。より望ましくは17%以下である。CV値が20%を超えると不融化工程でトラブルを起こしやすい繊維径20μmを超える炭素繊維前駆体が増え、生産性の観点より望ましくない。
通常メルトブロー法で紡糸した炭素繊維は、不織布として得ることができる。本発明の炭素繊維は不織布を粉砕して、粉砕物としても良い。不織布の粉砕方法としては、特に限定されるものではないが、乾式法では例えばボールミルを用いた方法、粉砕室に送られた原料が衝撃爪(ピン)と蓋に取り付けられた爪状のステータ(固定盤)との回転の結果、衝撃、せん断作用により微粉化する方法(インパクトミル)、圧縮空気で粉体の相互衝突、相互摩擦により粉砕を行う方法(ジェットミル)などを例示することができる。一方、湿式法としては、例えば水またはN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤中でジルコニアボールなどと一緒に仕込み、衝突・せん断などにより粉砕する方法などを例示することができる。本発明の炭素繊維は、上述の粉砕により平均繊維径1〜20μm、平均繊維長0.01〜5mmの粉砕物としても良い。
本発明の炭素繊維は放熱材料として好適に使用される。熱伝導は主としてフォノンによって担われており、欠陥のない強い結合で結ばれていることが必要となる。炭素繊維の場合、黒鉛を形成する結晶において、結晶の厚み方向よりはむしろ六角網面の成長方向に熱が伝導することが知られている。このため、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが大きな役割を果たすことになる。本発明の炭素繊維の断面組織の少なくとも一部はラジアル構造であるが、このラジアル構造が優れた熱伝導性、機械特性を有するのは、ひとえに他の断面構造に比べて六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが大きいことに起因する。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは公知の方法によって求めることができ、X線回折法にて得られる炭素結晶の(110)面からの回折線によって求めることができる。本発明の炭素繊維は六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが20〜150nmである。結晶子サイズが20nm未満であると、十分な熱伝導特性を有することが出来ず好ましくない。一方、150nmを越えると炭素繊維の引っ張り強度が低下し好ましくない。熱伝導と機械特性のバランスを取るためには20〜130nmが好ましく、さらには30〜120nmが好ましい。
本発明の炭素繊維は、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが20〜150nmを達成するために、メソフェーズピッチを原料に用いるのが好ましい。メソフェーズピッチとしては、ナフタレン、アントラセンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げることができる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が特に好ましい。なお、ここで言うメソフェーズピッチとは光学的異方性を有するピッチを指している。
一般に、ピッチの溶融紡糸はせん断速度3000〜12000s−1の領域で実施される。本発明で使用するメソフェーズピッチは330℃の加熱下において、7000s−1における溶融粘度が、0.5〜50Pa・s(5〜500ポイズ)であることが好ましい。溶融粘度が0.5Pa・s(5ポイズ)未満の場合、メソフェーズピッチに多くの低沸点成分が含まれている場合があり、紡糸時にガス発生による断糸を引き起こしやすいため好ましくない。また、粘度が低いため表面張力で紡糸直後、繊維形状を崩壊させてしまう場合があるため好ましくない。一方、50Pa・s(500ポイズ)を超える場合、低沸点成分が非常に少ない場合があり、紡糸に適した粘度にするために370℃以上の高温を必要にする場合があり、メソフェーズピッチの分解を引き起こすことがあるため好ましくない。また、低温高粘度で紡糸した場合には、断面組織は全ラジアルを引き起こしやすく、不融化炭素繊維を焼成して炭素繊維を製造する工程において、繊維半径方向に割れが入り、機械特性の低下を引き起こすことがあるため好ましくない。メソフェーズピッチの330℃加熱下におけるせん断速度7000s−1での溶融粘度のより好ましい範囲は2〜30Pa・s(20〜300ポイズ)である。
本発明で使用するメソフェーズピッチは、その軟化点が230℃以上350℃以下であることが好ましい。軟化点が230℃未満であると、炭素繊維前駆体を酸化性ガス雰囲気下で不融化して、不融化炭素繊維を製造する工程において多大の時間を要するため好ましくない。一方、軟化点が350℃を超える場合、紡糸に適した粘度にするために370℃以上の高温を必要とする場合があり、メソフェーズピッチの分解を引き起こすことがあり好ましくない。軟化点のより好ましい範囲は250℃以上330℃未満である。
本発明のもう一つの目的は、メソフェーズピッチから作成した繊維径1〜20μmの炭素繊維であって、繊維表面に実質的に欠損が存在せず、かつその断面組織の少なくとも一部がラジアル構造である炭素繊維を製造する方法を提供することにある。
本発明の炭素繊維は、(1)メソフェーズピッチから炭素繊維前駆体を製造する工程、(2)炭素繊維前駆体を酸化性ガス雰囲気下で不融化して、不融化炭素繊維前駆体を製造する工程、(3)不融化炭素繊維前駆体を焼成して炭素繊維を得る工程を経て製造される。以下に各工程について順に説明する。
(1)メソフェーズピッチから炭素繊維前駆体を製造する工程
本発明の第一の工程は、メソフェーズピッチから炭素繊維前駆体を製造する。断面組織の少なくとも一部がラジアル構造である炭素繊維を製造するためには、メソフェーズピッチから炭素繊維前駆体を製造する本工程が最も重要な工程となる。具体的には、紡糸時のキャピラリー内の溶融粘度が8〜30Pa・s(80〜300ポイズ)、キャピラリー内の流速が0.05〜0.80m/sの範囲であることが好ましい。キャピラリー内の溶融粘度が8Pa・s(80ポイズ)未満であると、炭素繊維の断面構造にラジアル構造が発現しないため好ましくない。一方、キャピラリー内の溶融粘度が30Pa・s(300ポイズ)を超える場合、メソフェーズピッチ特有の分子配向により、非常に強いラジアル構造が発現し、結果として炭化処理により繊維半径方向に割れが入り、機械特性の低下を引き起こすため好ましくない。キャピラリー内の溶融粘度のより好ましい範囲は8〜20Pa・s(80〜200ポイズ)である。ピッチの溶融粘度は、その樹脂温度やキャピラリーを通過する際の剪断速度により大きく変化し、ニュートン流体または非ニュートン流体的な振る舞いをする。従って、キャピラリー内の溶融粘度を目的の範囲に入れるためには、あらかじめキャピラリーレオメーター等の測定装置により、溶融粘度の温度依存性とせん断速度依存性を求めておき、キャピラリーを通過するピッチの溶融粘度をせん断速度と温度で制御することが必要となる。
本発明の第一の工程は、メソフェーズピッチから炭素繊維前駆体を製造する。断面組織の少なくとも一部がラジアル構造である炭素繊維を製造するためには、メソフェーズピッチから炭素繊維前駆体を製造する本工程が最も重要な工程となる。具体的には、紡糸時のキャピラリー内の溶融粘度が8〜30Pa・s(80〜300ポイズ)、キャピラリー内の流速が0.05〜0.80m/sの範囲であることが好ましい。キャピラリー内の溶融粘度が8Pa・s(80ポイズ)未満であると、炭素繊維の断面構造にラジアル構造が発現しないため好ましくない。一方、キャピラリー内の溶融粘度が30Pa・s(300ポイズ)を超える場合、メソフェーズピッチ特有の分子配向により、非常に強いラジアル構造が発現し、結果として炭化処理により繊維半径方向に割れが入り、機械特性の低下を引き起こすため好ましくない。キャピラリー内の溶融粘度のより好ましい範囲は8〜20Pa・s(80〜200ポイズ)である。ピッチの溶融粘度は、その樹脂温度やキャピラリーを通過する際の剪断速度により大きく変化し、ニュートン流体または非ニュートン流体的な振る舞いをする。従って、キャピラリー内の溶融粘度を目的の範囲に入れるためには、あらかじめキャピラリーレオメーター等の測定装置により、溶融粘度の温度依存性とせん断速度依存性を求めておき、キャピラリーを通過するピッチの溶融粘度をせん断速度と温度で制御することが必要となる。
本発明では、キャピラリー内の流速も、断面組織の少なくとも一部がラジアル構造である炭素繊維を製造するための重要な要因となる。すなわち、キャピラリー内の流速が0.05m/s未満であると、メソフェーズピッチから炭素繊維前駆体を良好に製造することができるが、その断面構造がラジアル構造にならないため好ましくない。一方、0.80m/sを越えると、非常に強いラジアル構造が発現し、結果として炭化処理により繊維半径方向に割れが入り、機械特性の低下を引き起こすため好ましくない。キャピラリー内の流速のより好ましい範囲は、0.07〜0.30m/sの範囲であることが好ましい。キャピラリーを通過するピッチはギヤポンプで定量的に送液される。従って、キャピラリーを通過するピッチの流速はギヤポンプの回転数により制御することができる。キャピラリーを通過するピッチの流速は、口金のホール数、キャピラリーの形状、時間当たりのピッチの送液量が決まれば一義的に決定される。
キャピラリー形状については特に制約はされるものではないが、キャピラリー孔の長さとキャピラリー径の比が20よりも小さいものが好ましく用いられ、更に好ましくは10以下のものが用いられる。紡糸時のノズルの温度についても特に制約はないが、安定した紡糸状態が維持できる温度として、メソフェーズピッチの種類にもよるが、おおよそ250〜400℃の範囲にあることが好ましく、300〜360℃の範囲にあることが特に好ましい。
メソフェーズピッチをメルトブロー法で溶融紡糸する場合には、キャピラリー孔から吐出されたメソフェーズピッチは、250〜400℃に加温されたガスを細化点近傍で毎分100〜10000mの流速で吹き付けられ、繊維化され、炭素繊維前駆体となる。吹き付けるガスは空気、窒素、アルゴン等を用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気が特に望ましい。炭素繊維前駆体は金網ベルト上に捕集され、連続的な不織布として巻き取ることが出来る。
(2)炭素繊維前駆体を酸化性ガス雰囲気下で不融化して不融化炭素繊維前駆体を製造する工程
本発明の第二の工程では、上記で得た炭素繊維前駆体を酸化性ガス雰囲気下で不融化して、不融化炭素繊維前駆体を製造する。炭素繊維前駆体の不融化処理は、炭素化もしくは黒鉛化された炭素繊維を得るために必要な工程であり、これを実施せず次工程である焼成工程に移ると、炭素繊維前駆体が熱分解したり、溶融して融着したりするなどの問題を生じる。使用するガス成分としては、酸化性ガスであれば特に制限はないが、例えば空気、酸素、ハロゲンガス、二酸化窒素、オゾンなどを採択することができる。これらの中でも、コストパフォーマンスと低温で速やかに不融化させうるという点から空気および/またはハロゲンガスを含む混合ガスである事が好ましい。
本発明の第二の工程では、上記で得た炭素繊維前駆体を酸化性ガス雰囲気下で不融化して、不融化炭素繊維前駆体を製造する。炭素繊維前駆体の不融化処理は、炭素化もしくは黒鉛化された炭素繊維を得るために必要な工程であり、これを実施せず次工程である焼成工程に移ると、炭素繊維前駆体が熱分解したり、溶融して融着したりするなどの問題を生じる。使用するガス成分としては、酸化性ガスであれば特に制限はないが、例えば空気、酸素、ハロゲンガス、二酸化窒素、オゾンなどを採択することができる。これらの中でも、コストパフォーマンスと低温で速やかに不融化させうるという点から空気および/またはハロゲンガスを含む混合ガスである事が好ましい。
なお、ハロゲンガスとしてはフッ素、ヨウ素、臭素などを取り上げることが出来るが、これらの中でもヨウ素が特に好ましい。ガス気流下での不融化の具体的な方法としては、温度150〜350℃、好ましくは180〜320℃で、1時間以下、好ましくは0.5時間以下で所望のガス雰囲気中で処理する事が好ましい。
上記不融化により炭素繊維前駆体の軟化点は著しく上昇し、不融化炭素繊維前駆体となるが、所望の炭素繊維を得るという目的から、不融化炭素繊維前駆体の軟化点が400℃以上となる事が好ましく、500℃以上である事がさらに好ましい。
上記不融化により炭素繊維前駆体の軟化点は著しく上昇し、不融化炭素繊維前駆体となるが、所望の炭素繊維を得るという目的から、不融化炭素繊維前駆体の軟化点が400℃以上となる事が好ましく、500℃以上である事がさらに好ましい。
(3)不融化炭素繊維前駆体を焼成して炭素繊維を得る工程
本発明の第三の工程では、上記で得た不融化炭素繊維前駆体を不活性ガス雰囲気中で炭素化もしくは黒鉛化し炭素繊維を製造する。不融化炭素繊維前駆体の焼成は真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス中で焼成されるが、常圧で、且つコストの安い窒素中で実施するのが特に好ましい。炭素化の温度としては500〜2000℃、より好ましくは800〜1800℃である。通常2000℃を超える炭素繊維の焼成は黒鉛化と呼ばれ、窒素ガス等は電離を起こしてしまうため、アルゴン、クリプトンといった不活性ガスを使用する。炭素繊維の熱伝導率を高くするためには、2300〜3500℃で処理することが好ましく、さらには2500〜3200℃で処理するのが特に好ましい。
本発明の第三の工程では、上記で得た不融化炭素繊維前駆体を不活性ガス雰囲気中で炭素化もしくは黒鉛化し炭素繊維を製造する。不融化炭素繊維前駆体の焼成は真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス中で焼成されるが、常圧で、且つコストの安い窒素中で実施するのが特に好ましい。炭素化の温度としては500〜2000℃、より好ましくは800〜1800℃である。通常2000℃を超える炭素繊維の焼成は黒鉛化と呼ばれ、窒素ガス等は電離を起こしてしまうため、アルゴン、クリプトンといった不活性ガスを使用する。炭素繊維の熱伝導率を高くするためには、2300〜3500℃で処理することが好ましく、さらには2500〜3200℃で処理するのが特に好ましい。
上述の(1)メソフェーズピッチから炭素繊維前駆体を製造する工程、(2)炭素繊維前駆体を酸化性ガス雰囲気下で不融化して、不融化炭素繊維を製造する工程、(3)不融化炭素繊維を焼成して炭素繊維を得る工程を経ることで、繊維径が1〜20μmであって、断面組織の少なくとも一部がラジアル構造である炭素繊維を得ることができる。上述の処理に従って製造した炭素繊維は通常不織布として得られるが、場合によっては上述で述べた粉砕処理を施し、粉砕物としても良い。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。尚、実施例中の各値は以下の方法に従って求めた。
(1)炭素繊維の繊維径、および繊維一本の断面組織:
2000℃に焼成した炭素繊維の破断面を走査型電子顕微鏡S−2400(株式会社日立製作所製)で観察することで確認した。なお、任意の60本の繊維径を測定しこれらの平均値を平均繊維径とした。
(2)炭素繊維の結晶子サイズ:
X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(3)メソフェーズピッチの粘度特性:
キャピラリーレオメーターCAPILOGRAPH 1D(株式会社東洋精機製作所)を用いて評価した。
(4)紡糸におけるメソフェーズピッチのキャピラリー内流速:
ギヤポンプから送液される時間当たりの送液量からキャピラリーを通過する樹脂速度を算出することで求めた。
(5)キャピラリー内におけるメソフェーズピッチの溶融粘度:
紡糸時の樹脂温度とキャピラリー内流速から、キャピラリーレオメーターを用いて評価した。
(6)軟化点
軟化点はMETTLER FP90(メトラー・トレド株式会社製)を用い、窒素雰囲気下230℃から1℃/分で昇温することで得た。
(1)炭素繊維の繊維径、および繊維一本の断面組織:
2000℃に焼成した炭素繊維の破断面を走査型電子顕微鏡S−2400(株式会社日立製作所製)で観察することで確認した。なお、任意の60本の繊維径を測定しこれらの平均値を平均繊維径とした。
(2)炭素繊維の結晶子サイズ:
X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(3)メソフェーズピッチの粘度特性:
キャピラリーレオメーターCAPILOGRAPH 1D(株式会社東洋精機製作所)を用いて評価した。
(4)紡糸におけるメソフェーズピッチのキャピラリー内流速:
ギヤポンプから送液される時間当たりの送液量からキャピラリーを通過する樹脂速度を算出することで求めた。
(5)キャピラリー内におけるメソフェーズピッチの溶融粘度:
紡糸時の樹脂温度とキャピラリー内流速から、キャピラリーレオメーターを用いて評価した。
(6)軟化点
軟化点はMETTLER FP90(メトラー・トレド株式会社製)を用い、窒素雰囲気下230℃から1℃/分で昇温することで得た。
[実施例1]
330℃に加熱したメソフェーズピッチのせん断速度7000s−1における溶融粘度が、13.6Pa・s、軟化点が286.5℃である、メソフェーズピッチを原料に用いた。この原料を323℃において、直径0.2mmφ、長さ2mmのキャピラリーからなる口金を用い、キャピラリー内流速0.078m/s(せん断速度:3116s−1)で送液し、かつキャピラリー横のスリットから毎分5500mで325℃の空気を吹き付けて、溶融メソフェーズピッチを牽引して平均直径12μmの炭素繊維前駆体からなる不織布を作成した。
なお、キャピラリーレオメーターで評価した320℃、0.078m/sにおけるキャピラリー内の溶融粘度は23.7Pa・s(237ポイズ)であった。
330℃に加熱したメソフェーズピッチのせん断速度7000s−1における溶融粘度が、13.6Pa・s、軟化点が286.5℃である、メソフェーズピッチを原料に用いた。この原料を323℃において、直径0.2mmφ、長さ2mmのキャピラリーからなる口金を用い、キャピラリー内流速0.078m/s(せん断速度:3116s−1)で送液し、かつキャピラリー横のスリットから毎分5500mで325℃の空気を吹き付けて、溶融メソフェーズピッチを牽引して平均直径12μmの炭素繊維前駆体からなる不織布を作成した。
なお、キャピラリーレオメーターで評価した320℃、0.078m/sにおけるキャピラリー内の溶融粘度は23.7Pa・s(237ポイズ)であった。
上記炭素繊維前駆体からなる不織布を、空気雰囲気下200℃から300℃まで30分で昇温して不融化炭素繊維からなる不織布を得た。次いで、左記不織布をアルゴンガス雰囲気下で室温から1時間掛けて2000℃に焼成した。2000℃焼成した炭素繊維の断面顕微鏡観察(図1参照)から、繊維横断面の中心点から半径方向に組織が配列したラジアル構造であることが確認できた。
次いで、左記炭素繊維をさらにアルゴンガス雰囲気下2800℃で焼成した。得られた黒鉛化炭素繊維の平均繊維径は10μmであり、繊維表面に欠損は認められなかった。また、X線測定から六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは45nmであった。
次いで、左記炭素繊維をさらにアルゴンガス雰囲気下2800℃で焼成した。得られた黒鉛化炭素繊維の平均繊維径は10μmであり、繊維表面に欠損は認められなかった。また、X線測定から六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは45nmであった。
[比較例1]
実施例1と同じメソフェーズピッチを原料に用いた。この原料を317℃において、直径0.2mmφ、長さ2mmのキャピラリーからなる口金を用い、キャピラリー内流速0.078m/s(せん断速度:3116s−1)で送液し、かつキャピラリー横のスリットから毎分5500mで318℃の空気を吹き付けて、溶融メソフェーズピッチを牽引して平均直径11μmの炭素繊維前駆体からなる不織布を作成した。なお、キャピラリーレオメーターで評価した310℃、0.078m/sにおけるキャピラリー内の溶融粘度は32.7Pa・s(327ポイズ)であった。
実施例1と同じメソフェーズピッチを原料に用いた。この原料を317℃において、直径0.2mmφ、長さ2mmのキャピラリーからなる口金を用い、キャピラリー内流速0.078m/s(せん断速度:3116s−1)で送液し、かつキャピラリー横のスリットから毎分5500mで318℃の空気を吹き付けて、溶融メソフェーズピッチを牽引して平均直径11μmの炭素繊維前駆体からなる不織布を作成した。なお、キャピラリーレオメーターで評価した310℃、0.078m/sにおけるキャピラリー内の溶融粘度は32.7Pa・s(327ポイズ)であった。
上記炭素繊維前駆体からなる不織布を、空気雰囲気下200℃から300℃まで30分で昇温して不融化炭素繊維からなる不織布を得た。次いで、左記不織布をアルゴンガス雰囲気下で室温から1時間掛けて2000℃に焼成した。2000℃焼成した炭素繊維の断面顕微鏡観察(図2参照)から、繊維横断面の中心点から半径方向に組織が配列したラジアル構造であるが、繊維表面に欠損が認められた。
[比較例2]
実施例1と同じメソフェーズピッチを原料に用いた。この原料を346℃において、直径0.2mmφ、長さ2mmのキャピラリーからなる口金を用い、キャピラリー内流速0.156m/s(せん断速度:6232s−1)で送液し、かつキャピラリー横のスリットから毎分5500mで348℃の空気を吹き付けて、溶融メソフェーズピッチを牽引しようとしたが、キャピラリー出口で表面張力により球形となり繊維状にすることが出来なかった。
なお、キャピラリーレオメーターで評価した348℃、せん断速度:6232s−1におけるキャピラリー内の溶融粘度は2.3Pa・s(23ポイズ)であった。
実施例1と同じメソフェーズピッチを原料に用いた。この原料を346℃において、直径0.2mmφ、長さ2mmのキャピラリーからなる口金を用い、キャピラリー内流速0.156m/s(せん断速度:6232s−1)で送液し、かつキャピラリー横のスリットから毎分5500mで348℃の空気を吹き付けて、溶融メソフェーズピッチを牽引しようとしたが、キャピラリー出口で表面張力により球形となり繊維状にすることが出来なかった。
なお、キャピラリーレオメーターで評価した348℃、せん断速度:6232s−1におけるキャピラリー内の溶融粘度は2.3Pa・s(23ポイズ)であった。
Claims (5)
- (1)メソフェーズピッチを溶融紡糸して炭素繊維前駆体を製造する工程、(2)炭素繊維前駆体を酸化性ガス雰囲気下で不融化して、不融化炭素繊維前駆体を製造する工程、(3)不融化炭素繊維前駆体を焼成して炭素繊維を製造する工程を含む炭素繊維の製造において、
炭素繊維前駆体を製造する工程(1)の溶融紡糸におけるキャピラリー内におけるメソフェーズピッチの溶融粘度が8〜30Pa・s(80〜300ポイズ)、キャピラリー内の流速が0.05〜0.80m/sの範囲にあることを特徴とする炭素繊維の製造方法。 - 330℃に加熱したメソフェーズピッチのせん断速度7000s−1における溶融粘度が、0.5〜50Pa・s(5〜500ポイズ)であるメソフェーズピッチを用いる、請求項1記載の炭素繊維の製造方法。
- 溶融紡糸に用いるメソフェーズピッチの軟化点が250℃以上340℃以下である請求項1または2記載の炭素繊維の製造方法。
- (1)メソフェーズピッチをメルトブロー法で溶融紡糸して炭素繊維前駆体を製造する工程、(2)炭素繊維前駆体を酸化性ガス雰囲気下で不融化して、不融化炭素繊維前駆体を製造する工程、(3)不融化炭素繊維前駆体を焼成して炭素繊維を製造する工程を含む炭素繊維の製造方法において、
炭素繊維前駆体を製造する工程(1)のメルトブロー法におけるキャピラリー内でのメソフェーズピッチの溶融粘度が8〜30Pa・s(80〜300ポイズ)、キャピラリー内の流速が0.05〜0.80m/sの範囲にあることを特徴とする炭素繊維の製造方法。 - 請求項1記載の方法で製造された、繊維径が1〜20μmであって、繊維表面に実質的に欠損が存在せず、断面組織の少なくとも一部がラジアル構造である炭素繊維。
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JP2007133994A JP2008285796A (ja) | 2007-05-21 | 2007-05-21 | 炭素繊維およびその製造方法 |
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