JP2008251518A - 色素増感型太陽電池用光電極の製造方法および色素増感型太陽電池用光電極、並びに色素増感型太陽電池 - Google Patents

色素増感型太陽電池用光電極の製造方法および色素増感型太陽電池用光電極、並びに色素増感型太陽電池 Download PDF

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Abstract

【課題】 透光性基板としてプラスチック製基板を使用した大面積のものであって、高い光電変換効率が得られ、かつ照射する光量を変化させても高いレベルの光電変換効率を維持できる色素増感型太陽電池用光電極およびその製造方法、並びに色素増感型太陽電池の提供。
【解決手段】 色素増感型太陽電池用光電極は、弾性を有するプラスチック製の透光性支持体上に透明導電層が形成されてなる透光性基板の前記透明導電層の表面上に集電配線部が設けられ、この集電配線部を含む透明導電層上に増感色素が担持された光電変換層が設けられたものであって、前記光電変換層は、プレス処理された層を有し、当該プレス処理された層は集電配線部を含む透明導電層に接触しており、前記プレス処理された層は、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子を含有しバインダーを含有しないものであることを特徴とする。
【選択図】 図2

Description

本発明は、色素増感型太陽電池用光電極の製造方法および色素増感型太陽電池用光電極、並びに色素増感型太陽電池に関する。
21世紀の人類が遭遇している深刻な問題として、産業革命以来の大量のエネルギー消費による地球温暖化と化石燃料の枯渇が挙げられる。このため化石燃料を使わず、二酸化炭素を排出しないクリーンで再生可能エネルギーの開発が求められており、このようなクリーンで再生可能エネルギーとしては、水力、風力、地熱、波力など様々あるが、場所を選ばず一定のエネルギーを確保できる太陽光エネルギーが、将来最も有望な再生可能エネルギーのひとつとして注目されている。
太陽光を利用したエネルギー技術の中では、太陽電池が最も広く用いられており、ここ数年来実用化の段階に入ってはいるが、この有望な技術も製造コストが割高であるため一般的な普及には至ってない。太陽光発電によるクリーンなエネルギーの大幅な導入には、低コストの太陽電池の開発が欠かせない条件となっており、このような低コストで製造できる太陽電池として、一般にグレッツェル電池と称される色素増感型太陽電池が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
この色素増感型太陽電池は、具体的には透光性支持体上に透明導電層が形成された透光性基板、およびこの透明導電層上に形成された、チタニア粒子などの半導体粒子に増感色素が担持されてなる光電変換層とよりなる光電極と、この光電極に電気的に接続された対極とを有し、これらの光電極と対極との間に電解質溶液を介在させて構成されている。
そして、この色素増感型太陽電池は、従来使用されているシリコン系太陽電池と同等以上の光電変換能を有し、さらに、材料である酸化チタンや増感色素、電解質溶液成分などについて、従来のシリコン系太陽電池に比して資源的な制約が少ないことに加え、大気圧下、印刷方式や流れ生産方式で製造でき、製造設備も高価なものは必要ないことから、低コストで大量に製造できるという利点を有する。
従来、色素増感型太陽電池に使用される透光性基板の透光性支持体の材料として、ガラスが挙げられる。透光性支持体としてガラスを用いた色素増感型太陽電池は、一般に、例えば導電性ガラス基板上に有機バインダーを含むチタニアナノ粒子からなるペーストを塗布し、400℃以上の温度で焼成することによって有機バインダーを燃焼させて純粋な酸化物半導体膜を作製しており、このような色素増感型太陽電池の光電変換効率は8%程度、最高でも11%程度である。
一方、近年、透光性基板として、透光性支持体がプラスチック板やプラスチックフィルムなどであるプラスチック製基板を用いることが注目されて検討されている。これは、軽量化やコストの低減が図れ、強靭であり、フレキシブルであることなどの長所を有することから、例えば、屋根の上などに設置したり、自動車のボデイーのような曲面に適用したりすることができ、また、携帯電話の電力源として用いることが期待されるためである。
しかしながら、プラスチック製基板は耐熱温度が低く、400℃以上の温度で焼成するようなガラス基板の場合に通常用いられてきたプロセスを、そのままプラスチック製基板に適用することができず、その結果、十分な光電変換効率が得られる色素増感型太陽電池を形成することができない、という問題があった。
この問題を解決するため、150℃程度の低温で光電変換層を形成させる方法、加圧法、泳導電着法、水熱合成法、マイクロ波加熱法などが提案されているが、いずれの手法を用いた場合においても、プラスチック製基板を用いた色素増感型太陽電池は、ガラス製のものを用いた色素増感型太陽電池の光電変換能を凌駕することはできない。
また、光電変換能の高い色素増感型太陽電池を意図して、プラスチック製基板上に光電変換層を形成するためには、通常、半導体粒子およびバインダーを含有するペーストが使用されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。このバインダーは、透光性基板上への塗工性を向上させ、透光性基板と半導体粒子との密着性を良好なものとし、得られる色素増感型太陽電池の耐久性を高いものとする目的で用いられている。
然るに、バインダーを含有するペーストは、当該バインダーを溶解させる溶媒によって調製されるところ、このような溶媒が有機溶剤であることも多く、透光性支持体としてプラスチック材料種が限定されてしまう、という問題がある。
例えば、特許文献2には、バインダーを含有し、増感色素が予め担持された1種類の半導体微粒子が分散されたペーストを、導電性PET基板(透光性基板)上に塗布後プレス処理して、光電変換層が形成された色素増感型太陽電池が開示されている。
しかしながら、このプレス処理において例えば当該導電性PET基板と半導体微粒子との密着性などを得るためなどの目的で1000MPa程度の高圧をかけると、導電性PET基板の導電性膜の破損や、当該導電性PET基板自体が歪むなどの問題が発生すると考えられる。
また、予め増感色素が担持された半導体微粒子を用いて形成された光電変換層は、プレス処理によって直接押圧を受ける半導体微粒子の表面の増感色素が剥離してしまう上に、増感色素によって半導体微粒子間の接触が妨げられて電子の移動が阻害され、その結果、得られる色素増感型太陽電池が性能の低いものとなってしまうと考えられる。
さらに、このようにバインダーを用いて製造した色素増感型太陽電池は、光電変換効率が低いことが検証されている。この理由としては、バインダーが半導体微粒子間および半導体微粒子と透光性基板との間に入り込み、それらの接合・接触が妨げられて電子の移動が阻害されるためであると推察される。
現在のところ、ガラス製の透光性基板を用いた色素増感型太陽電池と同程度あるいはそれ以上の高い光電変換効率が得られるプラスチック製基板による色素増感型太陽電池が、再現性良く安定して作製できた旨の報告はない。
また、プラスチック製基板による色素増感型太陽電池として、照射光量を変化させても高いレベルの光電変換効率を維持できるものが期待されているが、未だに達成されていないのが実情である。
さらに、色素増感型太陽電池の実用化には、大面積化を達成させる必要があるが、プラスチック製基板による色素増感型太陽電池において、それは未だ実現されていない。
この理由としては、透明導電層はシート抵抗値が高いため、色素増感型太陽電池を大面積化させるには、光電極に対して1cm程度ごとに低抵抗の集電配線を設けて発生した電子を損失を抑えて外部回路に取り出す必要があるところ、例えば特許文献4〜6に開示されているような、光電変換層に溝を形成させてその溝に集電配線を設ける方法によっては、例えば4cm×4cmの太陽電池を構成するセルを形成する場合に、光電変換層に幅1mmの集電配線を3本設けると、光電変換層において集電配線が占有する面積は合計1.2cm2 となって、発電に寄与する光電変換層が7.5%も失われることとなるからである。
Nature,353,p.737−740,1991 特開2006−19072号公報 特開2004−214129号公報 国際公開第2003/107471号パンフレット 特開2005−109031号公報 特開2005−109033号公報 特開2005−317225号公報
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その第1の目的は、透光性基板としてプラスチック製基板を使用した大面積の色素増感型太陽電池用光電極およびその製造方法、並びに当該色素増感型太陽電池用光電極によって得られる色素増感型太陽電池を提供することにある。
本発明の第2の目的は、高い光電変換効率が得られ、かつ照射する光量を変化させても高いレベルの光電変換効率を維持できる色素増感型太陽電池用光電極およびその製造方法、並びに当該色素増感型太陽電池用光電極によって得られる色素増感型太陽電池を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意努力した結果、プラスチック製基板に、電解液に耐食性を有する金属による集電配線を設け、この集電配線を含むプラスチック製基板上に機能性半導体層を形成することにより、発電に寄与する機能性半導体層の総面積を低減させることなく高い効率で発生した電子を収集できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の色素増感型太陽電池用光電極は、弾性を有するプラスチック製の透光性支持体上に透明導電層が形成されてなる透光性基板の前記透明導電層の表面上に集電配線部が設けられ、この集電配線部を含む透明導電層上に増感色素が担持された光電変換層が設けられた色素増感型太陽電池用光電極であって、
前記光電変換層は、プレス処理された層を有し、当該プレス処理された層は集電配線部を含む透明導電層に接触しており、前記プレス処理された層は、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子を含有しバインダーを含有しないものであることを特徴とする。
本発明の色素増感型太陽電池用光電極においては、前記集電配線部を含む透明導電層の表面上に接触して設けられた光電変換層よりなる、辺の長さが各々3〜20cmである矩形の作用極領域を有し、
集電配線部においては、1本以上の幅0.2〜1.5mmの集電配線が、前記作用極領域の一辺からこれと対向する他辺に向かって伸びるよう設けられている構成とすることができる。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極においては、前記集電配線部を構成する集電配線が、前記透明導電層の構成材料よりも導電性の高い材料よりなるものであることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極においては、当該色素増感型太陽電池用光電極の光電変換層の引っ掻き強度が2H〜4Hであることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極においては、前記半導体粒子が、いずれもアナターゼ結晶型のチタニア粒子であることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極においては、前記平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子に含有される半導体粒子が、平均粒子径が3〜40nmの半導体小粒子、および平均粒子径が50nm以上の半導体大粒子の2種であることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極においては、前記半導体粒子における半導体小粒子の含有割合が50〜95質量%であることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極においては、前記光電変換層が、プレス処理された層と、当該プレス処理された層上に積層されたプレス処理されていない少なくとも1層の非プレス処理層とによる多層構造であり、当該非プレス処理層は、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子を含有しバインダーを含有しないものであることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極においては、前記光電変換層のプレス処理された層の厚みが、3〜40μmであることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極においては、前記光電変換層のプレス処理された層は、クラックが埋められた痕跡を有することが好ましい。
本発明の色素増感型太陽電池は、上記の色素増感型太陽電池用光電極を備え、
当該色素増感型太陽電池用光電極が、電解質部分を介して対極と対向するよう設けられていることを特徴とする。
本発明の色素増感型太陽電池としては、100mW/cm2 の光量を照射して得られる光電変換効率の値が、照射する光量を20〜120mW/cm2 の範囲で変化させた場合において、光電変換効率の値が前記100mW/cm2 の光量を照射して得られる光電変換効率の値の87%以上であるものが好ましい。
本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、弾性を有するプラスチック製の透光性支持体上に透明導電層が形成されてなる透光性基板の当該透明導電層の表面上に集電配線部が設けられ、当該集電配線部を含む透明導電層上に光電変換層が積層して形成された色素増感型太陽電池用光電極の製造方法であって、
前記光電変換層は、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子と、増感色素とを含有し、
前記半導体粒子として、半導体金属のアルコキサイドを4級アンモニウム塩によって加水分解する塩基性法により得られたものを用い、
前記透光性基板の前記透明導電層上に前記集電配線部を設ける工程と、
バインダーおよび有機溶剤を含有せず、前記半導体粒子を含有する水性ペーストを、前記透明導電層上に設けられた集電配線部の表面上に塗布して形成される塗膜をプレス処理する工程と、当該プレス処理して得られる層に増感色素を担持させる工程とを含むことを特徴とする。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、前記透光性基板が、透明導電層の表面が超音波洗浄処理、エッチング処理および/またはUV−オゾン処理されたものであることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、前記光電変換層は、前記水性ペーストの塗膜をプレス処理して得られる機能性半導体層に増感色素を担持させて得られるものであることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、前記プレス処理は、機能性半導体層における波長400〜800nmの光透過率が、プレス処理前の値の110〜130%となる条件で行われることが好ましい。
本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、前記光電変換層は、前記水性ペーストの塗膜をプレス処理して得られる層上に、バインダーおよび有機溶剤を含有せず、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子を含有する水性ペーストの塗膜よりなる層を1層以上形成させて機能性半導体層を得、この機能性半導体層に増感色素を担持させて得られるものであることを特徴とする。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、前記透光性基板および前記機能性半導体層のプレス処理された層よりなる積層体の波長500nmの光透過率が20〜65%であり、かつ、波長700nmの光透過率が30〜75%であることが好ましい。
本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、前記プレス処理は、前記水性ペーストの塗膜をプレス処理して得られる層における波長400〜800nmの光透過率が、プレス処理前の値の110〜130%となる条件で行われることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、増感色素を担持する前に、前記水性ペーストの塗膜をプレス処理する工程を経て得られる機能性半導体層をUV−オゾン処理することが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、水性ペーストにおける平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子の含有割合が5〜30質量%であることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、前記水性ペーストに含有される半導体粒子が、平均粒子径が3〜40nmの半導体小粒子、および平均粒子径が50nm以上の半導体大粒子の2種であることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、プレス処理は、室温で行われることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、プレス処理は、5MPa以上500MPa以下の圧力で行われることが好ましい。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法においては、前記プラスチック製の透光性支持体の耐熱温度より低い温度で加熱処理しながら当該透光性支持体上にスパッタリング法によってインジウム−スズ複合酸化物(ITO)からなる透明導電層を形成させることが好ましい。
本発明の色素増感型太陽電池用光電極によれば、集電配線部が透明導電層上に設けられ、さらに集電配線部を含む透明導電層上に光電変換層が形成されていることによって、集電配線部の直上においても光電変換層によって光電変換が行われ、当該色素増感型太陽電池用光電極よりなる色素増感型太陽電池を大面積のものとして構成したとしても、発生する電子の集電性能の低下が抑制されながら光電変換層の総面積が低減されることがないために高い光電変換効率が得られる。
本発明の特定の水性ペーストを用いてプレス処理を行う色素増感型太陽電池用光電極の製造方法によれば、集電配線部が設けられない色素増感型太陽電池用光電極の製造工程中に、集電配線部を透光性基板上に形成する工程を加えるだけで色素増感型太陽電池用光電極を製造することができる。なお、一般に、集電配線を有する太陽電池用光電極の製造方法においては、集電配線を形成するために、集電配線の配設、集電配線の保護層の作製、当該保護層の形状に適合するチタニア膜の形成などの多数の工程が必要となる。また、焼成など加熱する工程が必要である製造方法によっては、集電配線を構成する金属が酸化されてしまったり、熱膨張率の差によって透光性基板が破断されてしまうことがある。
また、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法よれば、光電変換層に特定の平均粒子径の異なる2種以上の半導体粒子が含有されるので当該光電変換層に含有される増感色素についていわゆる光閉じ込め効果による高い光吸収効率を達成させることができる。
また、本発明の製造方法によれば、この光電変換層が特定の水性ペーストを用いてその塗膜をプレス処理するという特定の方法によって形成されるので、プレス処理によって半導体粒子同士が密に結合し、弾性を有するプラスチック製の透光性支持体を用いるために、その弾性によって半導体粒子が透光性基板の透明導電層表面に食い込むように密着し、しかも、半導体粒子間、半導体粒子と透明導電層表面との間、および半導体粒子と集電配線部との間にバインダーが入り込むこともないために、極めて良好な電子の流れが達成され、その結果、照射光量を変化させても高いレベルの光電変換効率を維持できる色素増感型太陽電池が得られ、それに用いられる色素増感型太陽電池用光電極を再現性よく確実に製造することができる。
また、本発明の製造方法によれば、室温条件下で行えるので作業を簡易に進めることができると共に加熱をほとんど要せず、使用すべき材料が従来の製造方法に比して少種であるために製造コストが低減され、また、有機溶剤を使用しないために環境性に優れ、さらに、プレス処理が低圧で十分であるために省エネルギーであるなどの利点が得られる。
本発明の色素増感型太陽電池用光電極によれば、照射光量を変化させても高いレベルの光電変換効率を維持できる色素増感型太陽電池を提供することができる。
本発明の色素増感型太陽電池用光電極による色素増感型太陽電池の特性の一例を挙げれば、例えば、5cm×5cmの作用極領域を有するものである場合に、100mW/cm2 の光量を照射して得られる光電変換効率の値(基準値)が、照射する光量を20〜120mW/cm2 の範囲で変化させた場合において、前記基準値の87%以上となる性能を有する。
以下、本発明について具体的に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の色素増感型太陽電池を構成するセルの構成の一例を示す説明用断面図である。
〔光電変換素子〕
この色素増感型太陽電池を構成するセル(以下、「光電変換素子」ともいう。)10は、弾性を有するプラスチック製の透光性支持体21a(図2(a)参照。)上に透明導電層21b(図2(a)参照。)が形成されてなる透光性基板21上に光電変換層23が形成された色素増感型太陽電池用光電極(以下、単に「光電極」ともいう。)20と、透光性基板(図示せず)上に例えば白金などよりなる導電層(図示せず)が形成された対極16とが、これらの光電変換層23および導電層が電解質部分12を介して対向するよう配置されている。
光電極20は、負極として作用するものであって、具体的には、透明導電層21b(図2(a)参照。)を有する透光性基板21と、この透光性基板21の透明導電層21bの表面に設けられた集電配線部27(図3参照。)と、集電配線部27を含む透明導電層21b上に積層して設けられた光電変換層23とを備えるものである。
このような構造とすることによって、例えば、従来、光電変換効率が1%程度であった4cm角のプラスチック製の色素増感型太陽電池の性能が、光電変換効率3〜4%程度に向上する。
この光電極20は、集電配線部27を含む透明導電層21bに接触して設けられた光電変換層23よりなる作用極領域が、辺の長さが各々3〜20cmである矩形のものとすることができる。すなわち、作用極領域の面積は9〜100cm2 の範囲とすることができる。
この光電極20は、光電変換層23の表面硬度が、JIS K 5400−1990に準拠して鉛筆を用いて行われる引っ掻き試験の結果(引っ掻き強度)が、2H〜4Hであるものであることが好ましい。
本発明において、引っ掻き強度とは、プレス処理後、増感色素が担持されていない状態のもの、すなわち、透光性基板21上に機能性半導体層23α(図2(c)参照。)が形成された状態のものについて測定される値である。
引っ掻き強度が上記の範囲であることによって、後述する半導体粒子間、半導体粒子と透明導電層23表面との間、および半導体粒子と集電配線部27との間にバインダーなどの異物の存在がなく、かつ密な接着が得られることが示される。
〔光電変換層〕
光電変換層23は、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子(以下、「特定の半導体粒子群」という。)と、増感色素とを含有し、プレス処理されたものであり、具体的には、バインダーおよび有機溶剤を含有せず、特定の半導体粒子群を含有する水性ペーストの塗膜23A(図2(b)参照。)がプレス処理された機能性半導体層23α(図2(c)参照。)に、増感色素が担持されたものである。
光電変換層23がプレス処理された機能性半導体層23αを有することにより、当該機能性半導体層23αを多数のナノ細孔が形成されたものとすることができるため、透光性基板21の単位面積当たりの半導体粒子の表面積の割合が極めて大きくなり、これにより、十分な量の増感色素を担持させることができ、結局、高い光吸収効率が得られる。
また、光電変換層23が平均粒子径の異なる2種以上の半導体粒子を含有することにより、例えば平均粒子径20nm程度のナノサイズの半導体粒子は、長波長の光を透過しやすい傾向にあるところ、例えば平均粒子径100nm程度の大粒径の半導体粒子が混在することにより光が散乱され、機能性半導体層23α中における光路長が増大される、いわゆる光閉じ込め効果を十分に得ることができる。その結果、増感色素について十分な光吸収効率が得られ、従って、色素増感型太陽電池において高い光電変換効率が達成される。
この光電変換素子10においては、集電配線部27を含む透光性基板21上に機能性半導体層23αが設けられた光電極構造体20K(図2(c)参照。)の波長500nmの光透過率が20〜65%であり、かつ、波長700nmの光透過率が30〜75%であることが好ましい。
この光透過率が過大であると、内部散乱が起きずに光が透過してしまうために光電極において十分な光吸収効率を得ることができなくなるおそれがあり、一方、光透過率が過小であると、表面反射が生じて光電極内に光が入射しないおそれがある。
〔半導体粒子〕
半導体粒子は、電子伝達作用を発揮するものであって、このような半導体粒子を構成する半導体としては、具体的には、例えばTiO2 、SnO、ZnO、WO3 、Nb2 5 、In2 3 、ZrO2 、Ta2 5 、TiSrO3 などの酸化物半導体;CdS、ZnS、In2 S、PbS、Mo2 S、WS2 、Sb2 3 、Bi2 3 、ZnCdS2 、CuS2 などの硫化物半導体;CdSe、In2 Se2 、WSe2 、PbSe、CdTeなどの金属カルコゲナイド;GaAs、Si、Se、InPなどの元素半導体などが挙げられ、例えばSnOとZnOとの複合体、TiO2 とNb2 5 の複合体などの、これらの2種以上よりなる複合体を用いることもできる。また、半導体の種類はこれらに限定されるものでは無く、2種類以上混合して用いることもできる。
半導体粒子を構成する半導体としては、上記の中でTi、Zn、Sn、Nbの酸化物が好ましく、特にTiO2 が好ましい。
TiO2 よりなるチタニア粒子としては、アナターゼ結晶型のものおよびルチル結晶型のものが挙げられて共に使用可能であるが、特にアナターゼ結晶型のチタニア粒子を用いると、プラスチックフィルムよりなる透光性支持体による色素増感型太陽電池において、確実に所期の性能が得られる。
特定の半導体粒子群に含有される平均粒子径の異なる2種以上の半導体粒子は、互いに同種のものであってもよく、異種のものであってもよいが、同種のものであることが好ましい。
半導体粒子としては、平均粒子径の異なる2種以上の半導体粒子のいずれもチタニア粒子を用いることが好ましい。
特定の半導体粒子群を構成する半導体粒子のうちの平均粒子径が小さい半導体小粒子の平均粒子径は好ましくは3〜40nm、より好ましくは15〜25nmである。また、特定の半導体粒子群を構成する半導体粒子のうちの平均粒子径が大きい半導体大粒子は、光散乱能を有するものであって、その平均粒子径は好ましくは50nm以上、より好ましくは80〜400nm、特に好ましくは90〜120nmである。
光電変換層23を構成する特定の半導体粒子群における半導体小粒子の含有割合は、50〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは60〜70質量%である。半導体小粒子の割合が過多であると、半導体大粒子による十分な光閉じ込め効果を得ることができず、増感色素について高い光吸収効率が得られない。一方、半導体小粒子の割合が過少であると、光電変換能が十分に得られないものとなる。
また、光電変換層23を形成すべき機能性半導体層23αの厚みは、3〜40μmであることが好ましく、より好ましくは6〜15μmである。
光電変換層を形成すべき機能性半導体層の厚みが過小である場合は、十分な量の増感色素を担持できないために得られる色素増感型太陽電池が十分な光電変換効率を得ることができないものとなってしまう。一方、光電変換層を形成すべき機能性半導体層の厚みが過大である場合は、得られる光電変換層において増感色素から注入された電子の拡散距離が増大するために電荷の再結合によるエネルギーロスが大きくなってしまう。
〔増感色素〕
光電変換層23において半導体粒子に担持される増感色素としては、増感作用を示すものであれば特に限定されず、N3錯体、N719錯体(N719色素)、Ruターピリジン錯体(ブラックダイ)、Ruジケトナート錯体などのRu錯体;クマリン系色素、メロシアニン系色素、ポリエン系色素などの有機系色素;金属ポルフィリン系色素やフタロシアニン色素などを挙げることができ、この中ではRu錯体が好ましく、特に、可視光域に広い吸収スペクトルを有するため、N719色素およびブラックダイが好ましく挙げられる。
N719色素は(RuL2 (NCS)2 ・2TBA)で表される化合物であり、Black dye色素は(RuL´2 (NCS)3 ・2TBA)で表される化合物である。ただし、Lは、4,4´−ジカルボキシ−2,2´−ビピリジン、L´は、4,4´,4″−テトラ−カルボキシ−2,2´,2″−ターピリジン、TBAは、テトラブチルアンモニウムカオチンである。
これらは単独でもしくは2種類以上を混合して用いることができる。
光電変換層23における増感色素の担持量は、機能性半導体層23αの単位表面積当たりの量が1×10-8〜1×10-7mol/cm2 、好ましくは3×10-8〜7×10-8mol/cm2 とされることが好ましい。増感色素の担持量がこの範囲内であることにより、半導体粒子の表面に増感色素が単分子層として担持されるため、増感色素において励起された電子が電解質部分の電解質を還元するなどのエネルギーロスが発生せずに十分な光吸収効率が得られる。
〔透光性基板〕
この例の光電変換素子10を構成する透光性基板21は、弾性を有するプラスチック製の透光性支持体21a上に透明導電層21bが形成されてなるものである。
プラスチック製の透光性支持体21aとしては、後述するプレス処理が施されることによって半導体粒子が適度に食い込むよう柔軟性、可撓性などの弾性を有するものであることが必要であり、さらに、透光性、耐熱性、耐化学薬品特性などの観点から、例えば、板状またはフィルム状のシクロオレフィン系ポリマー、板状またはフィルム状のアクリル尿素系ポリマー、板状またはフィルム状のポリエステル、板状またはフィルム状のポリエチレンナフタレートなどを用いることが好ましい。
弾性を有するプラスチック製の透光性支持体21aを用いることによって、プレス処理によって特定の水性ペースト中の半導体粒子同士が密に結合し、透光性支持体21aの弾性によって半導体粒子が集電配線部27を含む透明導電層21b表面に食い込むように密着し、しかも、半導体粒子間、半導体粒子と集電配線部27、および半導体粒子と透明導電層21b表面の間にバインダーやその他の異物が入り込むこともないために、極めて良好な電子の流れが達成され、その結果、良好な性能の色素増感型太陽電池を得ることができる。
透光性基板21の表面抵抗は100Ω/□以下であることが好ましく、15Ω/□以下であることがより好ましい。
〔透明導電層〕
透光性支持体21aの一面に形成される透明導電層21bは、例えば、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)などよりなるものが挙げられる。
〔集電配線部〕
透明導電層21bの表面に設けられる集電配線部27は、例えば作用極領域のどの位置において発生した電子に対しても離間距離が約0.5cm以内となるよう、集電配線27aが配設されて構成されている。
具体的には、例えば、図3に示されるように、作用極領域が辺の長さが各々3〜20cmである矩形のものである場合においては、長辺の長さに応じた数の、短辺の長さと同じ長さの集電配線27aを、短辺とほぼ平行な状態に1cmずつ離間させて設けられる。
集電配線27aの幅は、0.2〜1.5mmであることが好ましい。
集電配線27aを構成する材料としては、例えば、チタン、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられる。この集電配線27aを構成する材料としては、透明導電層21bを構成する材料よりも導電性が高いものが好ましく、また、電解質への耐食性が高いものが好ましい。
集電配線部27においては、さらなる集電性能の向上策として、集電配線27aを配設した透明導電層21bの4辺の周縁領域にインジウムなどの導電膜よりなる電流導出用金属領域27bを設けてもよい。
〔光電変換層の形成方法〕
本発明の光電極の形成方法としては、透明導電層21b上に集電配線部27を設ける工程と、特定の半導体粒子群を含有しバインダーおよび有機溶剤を含有しない水性ペーストを、前記集電配線部27を含む透明導電層21b上に塗布して形成される塗膜をプレス処理する工程と、このプレス処理後に増感色素を担持する工程を含み、前記半導体粒子群が半導体金属のアルコキサイドを4級アンモニウム塩によって加水分解して得られるものを用いる方法が、特に有効である。すなわち、このような製法によって得られた光電極は、高い光電変換効率が得られ、かつ照射する光量を変化させても高いレベルの光電変換効率を維持できる。
以上のような光電極20の光電変換層23は、図2に示されるように、以下の必須工程(1)〜(5)をこの順に経て製造することができる。
(1) 透光性支持体21a上に透明導電層21bを形成させて透光性基板21を得、必要に応じて表面処理を施した後、透明導電層21b上に集電配線部27を形成する透光性基板製造工程(図2(a)参照。)。
(2) 半導体粒子を含有する水性ペーストを塩基性法により調整する水性ペースト調製工程。
(3) 集電配線部27を含む透明導電層21b上に水性ペーストを塗布して乾燥させた塗膜23Aを得る塗膜形成工程(図2(b)参照。)。
(4) 集電配線部27を含む透明導電層21b上に形成された塗膜23Aをプレス処理して機能性半導体層23αを得るプレス処理工程(図2(c)参照。)。
(5) 機能性半導体層23αに増感色素を担持させる色素担持工程(図2(d)参照。)。
〔透光性基板製造工程〕
透光性基板21は、透光性支持体21a上に対して例えばスパッタリング法などによって透明導電層21bが形成されることにより、得られる。
透明導電層21bの形成は、透明導電層21bの透光性支持体21aに対する密着性や耐久性の観点から、加熱処理しながら行われることが好ましい。
加熱処理の温度は、透光性基板21を構成する透光性支持体21aを構成するプラスチックの耐熱温度より低い温度とされる。
ここに、「耐熱温度」とは、プラスチックの軟化点温度または融点温度のいずれか低い方の温度を意味する。
〔透光性基板の表面処理〕
以上の透光性基板21は、超音波洗浄処理、エッチング処理およびUV−オゾン処理などの表面処理のうち1つまたは2つ以上を組み合わせて、その表面、すなわち透明導電層21bの表面に表面処理が施されたものであってもよく、このような表面処理が施された透光性基板21は、得られる色素増感型太陽電池が優れた光電変換効率を示すものとなる。
この理由としては、表面処理を施すことによって透光性基板21上に水性ペーストを塗布する際の濡れ性およびプレス処理後の半導体粒子の透光性基板21との密着性が共に向上したものとなることによると考えられ、例えば、表面処理前の透光性基板21の表面の接触角は90°より大きく、表面処理後の接触角は80〜90°程度に減少することが確認されている。
この透光性基板21の表面処理法は、超音波洗浄処理、エッチング処理およびUV−オゾン処理以外に、スパッタリングなどの他の処理法も適宜使用可能であり、これらに限定されない。
超音波洗浄処理は、超音波洗浄器および超音波洗浄用洗剤を用い、洗浄剤を入れた容器内に透光性基板を浸漬し、その容器を水で満たした超音波洗浄器に入れ、数分〜10分間超音波を発信させることにより、当該透光性基板の表面における微細な付着物などを洗浄・除去する処理である。
また、エッチング処理は、高周波スパッタ装置「SVC−700RFII」(サンユー電子(株)製)に透光性基板をセットし、高真空条件(5Pa)とした後、逆スパッタ(エッチング)処理を20W、10分間の条件で行われるものである。具体的には、高周波の交流電位をかけることによりプラズマを発生させ、その内のプラス電荷を帯びたアルゴン原子をマイナス電荷をかけた基板に衝突させることによって、基板上の付着物を除去する。
さらに、UV−オゾン処理は、処理対象物をUV−オゾン洗浄装置「OC−2506」(岩崎電気(株)製)に入れ、5分間前後紫外線照射を行うことにより、行われるものである。
〔集電配線部の形成〕
集電配線部27を形成する方法としては、限定されないが、集電配線27aを構成する材料がチタン、ニッケル、アルミニウムなどの金属である場合には、スパッタリング法を採用することができる。
スパッタリング法を行う場合には、集電配線27aの形状に対応する形状の穴部を形成したマスク用シートを、透明導電層21b上に被覆させて行う方法が簡便である。マスク用シートとしては、ポリイミドなどの材料のものを用いることができる。
〔水性ペースト調製工程〕
本発明の製造方法に用いられる水性ペーストは、半導体粒子と水とのみからなり、バインダーおよび有機溶剤を含有しないものである。
なお、半導体大粒子の作製工程を含むこの水性ペースト調製工程において、有機溶剤を使用する場合があるが、当該有機溶剤を積極的に除去するために、残渣として水性ペースト中に有機溶剤が含まれている場合にも、作製する光電極の性能に影響しない限り、本発明においては「有機溶剤は含有しない」ものとする。
光電変換層23を構成する特定の半導体粒子群を含有する水性ペーストの調製方法は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明者らが創出したアルコキサイドを4級アンモニウム塩により加水分解する塩基性法が好ましく用いられる。この塩基性法は、具体的には、半導体小粒子を得るためのアルコキサイドを、4級アンモニウム塩によって加水分解することにより得、同様にして半導体大粒子を得るためのアルコキサイドを、4級アンモニウム塩によって加水分解することにより得、これらを混合することにより、調製することができる。
得られる半導体粒子の平均粒子径は、加水分解に供される4級アンモニウム塩の添加量を調整することにより、制御することができ、4級アンモニウム塩の添加量を大きくするに従って、平均粒子径の小さい半導体粒子を得ることができる。
4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を用いることができるが、メチル基については限定されず、炭素数が1〜4個のアルキル基を有するものを例示することができる。
また、半導体大粒子を得るためのアルコキサイドとしては、上述の半導体粒子を構成する金属のアルコキサイド用いることができる。
具体的には、例えば半導体粒子がチタニア粒子である場合は、半導体粒子のアルコキサイドとしてTi(OC3 5 4 を用い、4級アンモニウム塩として、TMAHを用いることができる。
水性ペースト中の特定の半導体粒子群の含有割合は、5〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは8〜15質量%である。
〔塗膜形成工程〕
この工程は、集電配線部27を含む透明導電層21b上に水性ペーストを塗布して乾燥させた塗膜23Aを得る工程であって、集電配線部27を含む透明導電層21b上に水性ペーストを塗布する方法としては特に制限はなく、例えばドクターブレード法やスプレー法など、公知の種々の方法に従って行うことができる。
また、乾燥温度は、例えば室温とすることができる。
集電配線部27を含む透明導電層21b上における水性ペーストが塗布された領域が作用極として機能し、用途によってこの作用極領域の面積を適宜に選択することができる。
本発明の製造方法によって製造することができる作用極の面積は、後述のプレス処理工程に用いられるプレス機の性能によっても異なるが、例えば10cm×10cm程度の大きさ、あるいはそれ以上の大きさの領域を有するものを作製することもできる。
〔プレス処理工程〕
この工程は、塗膜23Aをプレス処理して機能性半導体層23αを得る工程であって、プレス処理を行うことによって、塗膜23A中の半導体粒子同士が十分に密着され、高い電子伝達能を得ることができる。
このプレス処理が行われないと、透明導電層上に水性ペーストから形成される塗膜には乾燥に伴ってランダムに蛇行した多数の線状クラックが不可避的に発生するところ、このクラックをそのまま放置することとなり、得られる色素増感型太陽電池が所期の性能を有するものとならないおそれが大きい。また、このクラックを放置した場合に、剥がれなどが生じ、十分な耐久性が得られないおそれがある。透明導電層上において水性ペーストから形成される塗膜にクラックが発生する理由は、塗膜の膜厚が極めて薄い上に、塗布液が有機溶剤を含有しない水性ペーストであってバインダーを含有しないものであることによるものと考えられる。
すなわち、本発明の製造方法において、このプレス処理工程は、クラックを埋めることによって高い電子伝達能が達成される。
プレス処理前のクラックが発生した状態およびプレス処理後のクラックが埋められた状態(クラックの痕跡)は、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)によって目視で観察することができる。
なお、クラックの痕跡は、プレス処理工程および色素担持工程を経て得られた増感色素が担持されたものについても、SEM観察によって明確に確認することができる。
水性ペーストのプレス処理の方法としては特に限定されず、平板式のプレス機などを用いるプレス成型法、ロールプレス法やカレンダー法などの公知の種々の方法を挙げることができる。
また、プレス処理は、室温において行われることが好ましい。なお、「室温」とは、通常、20〜35℃である。
そして、このプレス処理は、集電配線部27を含む透光性基板21上に機能性半導体層23αが形成された積層体における波長400〜800nmの光透過率が、プレス処理前の値の105〜170%、より好ましくは110〜170%、特に好ましくは110〜130%となる条件で行われることが好ましく、例えばプレス処理が5MPa以上、好ましくは30MPa以上の圧力で行われることが好ましく、また、500MPa以下、好ましくは150MPa以下の圧力で行われることにより、上記の光透過率を実現し、かつ水性ペーストの塗膜において不可避的に発生してしまうクラックを埋めることができる。
プレス処理に係る圧力が高すぎる場合は、このプラスチック製の透光性支持体自体が歪んで色素増感型太陽電池の性能に悪影響を及ぼすのみならず、さらに当該透光性支持体上に形成された透明導電層が破損することがあるため、好ましくない。
また、プレス処理が行われることにより、機能性半導体層23αの厚みは、プレス処理前の値の80〜30%となることが好ましい。
〔UV−オゾン処理〕
プレス処理工程後であって次の色素担持工程前に、必要に応じて、プレス処理された機能性半導体層23αの表面処理としてUV−オゾン処理を行うことができる。透光性基板21の表面処理としてUV−オゾン処理を行った場合も行わなかった場合も、このUV−オゾン処理を行うことができる。
このUV−オゾン処理を施すことによって、機能性半導体層23αを構成する半導体粒子の表面を洗浄できるばかりでなく、半導体粒子の親水基を増加させて、増感色素を吸着しやすい状態とすることにもなると考えられ、結果的に、得られる色素増感型太陽電池を光電変換効率の高いものとすることができる。
なお、水性ペースト調製工程において塩基性法によるチタニア粒子の作製に使用されるTMAHが未反応物として機能性半導体層23α中に残留してしまうことがあるが、UV−オゾン処理によってこのTMAHを分解して半導体粒子を表面洗浄することができる。
このUV−オゾン処理は、透光性基板21についてのUV−オゾン処理と同様にして行うことができる。
〔色素担持工程〕
増感色素を光電極構造体20Kの機能性半導体層23αに担持させる方法としては特に限定されず、例えば増感色素をアルコール類、ニトリル類、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ジメチルスルホキシド、アミド類、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、エステル類、炭酸エステル類、ケトン類、炭化水素、水などの溶媒あるいはこれらの2種以上による混合溶媒に溶解させ、これに機能性半導体層23αが形成された光電極構造体20Kを浸漬する浸漬法や、スプレー塗布法、印刷塗布法などが挙げられる。
以上の製造方法によって得られた光電極20は、集電配線部27を含む透光性基体21上に光電変換層23が設けられたものであって、前記光電変換層23は特定の半導体粒子群および増感色素を含有し、バインダーを含有しないものである。
以上のような製造方法によって得られる色素増感型太陽電池用光電極を用いて作製される本発明の色素増感型太陽電池は、光電変換効率が、透光性支持体がガラス製のものである場合の光電変換効率より高くなる。これは、柔らかいプラスチック製の透光性支持体上で半導体粒子を加圧することにより、半導体粒子が多少透明導電層内にめり込むような構造となり、より密接な接合が得られるためと推察される。ガラスなどの固い材質の透光性支持体の場合はこのような弾性を有さないため、プラスチックの透光性支持体を用いたものよりも性能が低くなるものと推察される。
〔電解質部分〕
本発明の色素増感型太陽電池において、光電極20および対極16との間に介在される電解質部分12は、液体状、固体状、凝固体状、常温溶融塩状態のいずれのものであってもよい。
また、この電解質部分12の厚み、すなわち光電極20と対極16との離間距離は、例えば1〜100μmとされる。
電解質部分12が例えば溶液状のものである場合は、この電解質部分12は、電解質、溶媒、および添加物で構成されることが好ましい。
電解質としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウムなどの金属ヨウ化物とヨウ素の組み合わせや、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなどの第4級アンモニウム化合物のヨウ素塩−ヨウ素の組み合わせ、あるいは前記ヨウ素、ヨウ素化合物のかわりに臭素化合物−臭素の組み合わせでもよい。電解質がイオン性液体の場合は、特に溶媒を用いなくてもよい。電解質は、ゲル電解質、高分子電解質、固体電解質でもよく、また、電解質の代わりに有機電荷輸送物質を用いてもよい。
電解質部分12が溶液状のものである場合の溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリルのようなニトリル系溶媒や、エチレンカーボネートのようなカーボネート系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒などが挙げられる。
電解質部分12が溶液状のものである場合、電解質溶液における電解質の濃度は、電解質の種類によっても異なるが、例えば電解質がヨウ素塩−ヨウ素の組み合わせである場合は、0.1〜5.0Mであることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.0Mである。
〔対極〕
対極16は、光電変換素子10の正極として機能するものであり、対極16を構成する材料としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウムなどの金属、炭素、ITO、FTOなどの導電性金属酸化物などが挙げられる。対極16は、通常、導電性の支持体や、それと同様の導電性層を有する支持体に、上記の金属や炭素、導電性酸化物よりなる導電性膜が設けられて構成されていてもよいが、十分な強度および密封性が得られるのであれば、支持体を有することは必須ではない。
〔光電変換素子の製造方法〕
以上の光電変換素子10は、例えば電解質部分12が液状のものである場合は、光電極20および対極16を適宜のスペーサを介して対向配置させ、これらの光電極20および対極16間に電解質部分12を封入することにより、色素増感型太陽電池を構成する光電変換素子10が得られる。
以上の光電変換素子10は、用途に応じて様々な形状で作製することが可能であり、その形状は特に限定されない。
この色素増感型太陽電池における光電変換は、以下のように行われる。
まず、光電極20の透光性基板21を透過して入射した太陽光が、光電変換層23の半導体粒子の表面に担持された基底状態の増感色素に吸収されてこの増感色素が励起され、電子が発生される。この電子が半導体粒子に注入され、この半導体粒子に注入された電子は光電変換層23中を拡散して、集電配線部27を経て、透明導電層21bおよび結線17を経由して対極16へ導かれる。一方、電子を失った増感色素は、電解質部分12から電子を受け取って基底状態に戻る。そして、電子を渡して酸化された電解質部分12は、対極16から電子を受け取って還元され、基の状態に戻る。以上の一連の過程により、光電変換層23と電気的に接続された透光性基板21と、対極16との間に起電力が発生する。
本発明の色素増感型太陽電池は、100mW/cm2 の光量を照射して得られる光電変換効率の値(基準値)が、照射する光量を20〜120mW/cm2 の範囲で変化させた場合において、光電変換効率の値が前記基準値の87%以上となる性能を有することが好ましい。
以上の光電変換素子10からなる色素増感型太陽電池によれば、色素増感型太陽電池用光電極20の光電変換層23に特定の平均粒子径の異なる2種以上の半導体粒子が含有されるので当該光電変換層23に含有される増感色素についていわゆる光閉じ込め効果による高い光吸収効率を達成させることができると共に、この光電変換層23を特定の水性ペーストを用いて特定の方法によって形成することにより、透光性基板21の透光性支持体21aが従来高い光吸収効率を得ることが困難であったプラスチック製基板でも当該光電変換層23を高い密着性で透光性基板21上に形成することができ、その結果、照射光量を変化させても高いレベルの光電変換効率を維持できる。
〔変形例〕
以上の光電変換素子においては、種々の変更を加えることができる。
例えば、図4に示されるように、光電変換層23の表面上に、半導体大粒子のみよりなる光散乱層25が形成されたものであってもよい。この光電変換素子10Aの光散乱層25は、例えばバインダーおよび有機溶剤を含有せず、半導体大粒子を含有する水性ペーストの塗膜よりなるものとすることができる。
光散乱層25の厚みは、例えば1〜15μmとすることができる。
このような光散乱層25が形成されてなる色素増感型太陽電池用光電極20Aを有する光電変換素子10Aによれば、極めて高い光閉じ込め効果を得ることができ、その結果、極めて高い光電変換効率が達成された色素増感型太陽電池を構成することができる。
<第2の実施形態>
この例の色素増感型太陽電池を構成する色素増感型太陽電池用光電極は、光電変換層を形成すべき機能性半導体層が、水性ペーストの塗膜をプレス処理して得られる層上に、特定の半導体粒子群を含有し、バインダーおよび有機溶剤を含有しない水性ペーストの塗膜よりなる非プレス処理層を1層以上形成させた多層構造であることの他は第1の実施形態と同様の構成を有するものである。
この光電変換層26(図5(c)参照。)は、具体的には、第1の実施形態における機能性半導体層23αと同様にして得られる、すなわちバインダーおよび有機溶剤を含有せず、特定の半導体粒子群を含有する水性ペーストの塗膜をプレス処理して得られる層23B(図5(a)参照。)上に、バインダーおよび有機溶剤を含有せず、特定の半導体粒子群を含有する水性ペーストの塗膜23C(図5(b)参照。)を1層以上形成させた機能性半導体層23βに、増感色素を担持させたものである。
水性ペーストの塗膜23Cは、1〜3層積層させることができる。
また、この水性ペーストの塗膜23Cを形成させるための水性ペーストに含有される特定の半導体粒子群の種類や含有割合は、前記塗膜をプレス処理して得られる層23Bを形成させるための水性ペーストに含有される特定の半導体粒子群の種類や含有割合と同じであっても異なっていてもよい。
この例の光電変換素子においては、塗膜をプレス処理して得られる層23Bの層厚が例えば1〜20μmとされ、1層の水性ペーストの塗膜23Cの層厚が例えば1〜15μmとされる。
この色素増感型太陽電池用光電極の製造方法としては、図5(a)〜(c)に示されるように、第1の実施形態において形成される光電極構造体20K、すなわち透光性支持体21a上に透明導電層21b、集電配線部27、および塗膜をプレス処理して得られる層23Bがこの順に形成されたものにおける当該層23B上に、水性ペーストの塗膜23Cを形成させた光電極構造体20Lを形成し、この光電極構造体20Lにおける機能性半導体層23βに増感色素を上述の方法などによって担持させる方法を挙げることができる。具体的には、上記の第1の実施形態における製造工程のプレス処理工程(4)の後に、水性ペーストの塗膜23Cを1〜3層形成し、その後、色素担持工程(5)を行う。
透光性基板21上に塗膜をプレス処理して得られる層23Bを得るための当該塗膜を形成した状態において行われるプレス処理は、第1の実施の形態におけるプレス処理と同様の条件で行うことができる。すなわち、プレス処理は、透光性基板21上に塗膜をプレス処理して得られる層23Bが形成された積層体における波長400〜800nmの光透過率が、プレス処理前の値の105〜170%、より好ましくは110〜170%、特に好ましくは110〜130%となる条件で行われることが好ましく、例えばプレス処理が5MPa以上、好ましくは30MPa以上であり、500MPa以下、好ましくは150MPa以下の圧力で行われることにより、上記の光透過率を実現し、かつ水性ペーストの塗膜において不可避的に発生してしまうクラックを埋めることができる。
プレス処理に係る圧力が高すぎる場合は、当該透光性支持体自体が歪んで色素増感型太陽電池の性能に悪影響を及ぼすのみならず、さらに当該透光性支持体上に形成した透明導電層が破損することがあるため、好ましくない。
また、このプレス処理が行われることにより、機能性半導体層23βを構成する塗膜をプレス処理して得られる層23Bの厚みが、プレス処理前の値の80〜30%となることが好ましい。
また、プレス処理工程後の水性ペーストの塗膜23Cを積層させた後であって、次の色素担持工程前に、必要に応じて、機能性半導体層23βの表面処理として第1の実施の形態における場合と同様の方法によってUV−オゾン処理を行うことができる。透光性基板21の表面処理としてUV−オゾン処理を行った場合も行わなかった場合も、このUV−オゾン処理を行うことができる。
このUV−オゾン処理を施すことによって、機能性半導体層23βを構成する半導体粒子の表面を洗浄できるばかりでなく、半導体粒子の親水基を増加させて、増感色素を吸着しやすい状態とすることにもなると考えられ、結果的に、得られる色素増感型太陽電池を光電変換効率の高いものとすることができる。
なお、水性ペースト調製工程において塩基性法によるチタニア粒子の作製に使用されるTMAHが未反応物として機能性半導体層23β中に残留してしまうことがあるが、UV−オゾン処理によってこのTMAHを分解して半導体粒子を表面洗浄することができる。
この例の光電変換素子10Aからなる色素増感型太陽電池用光電極によれば、第1の実施形態における光電変換素子10と同様の効果を得ることができる。
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
(集電配線部が設けられた透光性基板の作製)
弾性を有する、4.9cm×4.8cmの矩形の、シート抵抗13Ω/□のITO/PEN(ポリエチレンナフタレート)基板(王子トービ製)よりなる透光性基板に、下記のUV−オゾン処理を施し(5分間)、次いで、形成すべき集電配線の形状に対応する形状の穴が形成されたポリイミドシートよりなるマスク材によって透光性基板を被覆し、20W、4〜5Paの条件で10分間逆スパッタリングを行い、長さ4.8cmの一辺(以下、「辺A」という。)にほぼ平行である集電配線を、3本、等間隔に離間させた状態で、透光性基板の辺Aに隣接する長さ4.9cmの辺Zからこれと対向する辺Z’に向かって伸びるよう配設させた。チタン膜の1本の幅は約1mmとした。さらに、矩形の周縁部にインジウムを塗布し、これにより集電配線部を設けた透光性基板を作製した。以下、この集電配線部を設けた透光性基板をプラスチック透光性基板〔1〕ともいう。
(UV−オゾン処理)
処理対象物をUV−オゾン洗浄装置「OC−2506」(岩崎電気(株)製)に入れ、5分間紫外線照射を行った。
(チタニア半導体粒子懸濁液の調製)
オルトチタン酸テトライソプロピル56.8gを、イオン交換水200mL中によく撹拌しながら滴下し、滴下終了後、さらに1時間撹拌を続けることで加水分解を完結させ、目的とする水酸化チタンの沈殿物を得た。沈殿物は濾紙を用いて濾別し、イオン交換水で十分に洗浄した。
5.8gのテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を溶解させたイオン交換水にこの沈殿物を加え、さらにイオン交換水を追加して試料の全量を160gとした。
この試料を、140℃で4時間加熱還流を行った後、ガラスフィルターでマイクロクリスタルを除去することで、白濁半透明なコロイド溶液を得た。
得られたコロイド溶液を密閉したオートクレーブ容器に移し260℃で8時間水熱合成を行い、この水熱合成後、エバポレーターを用いてコロイド溶液の溶媒をエタノールに置換した後、超音波分散の処理を行い、平均粒子径20nmのアナターゼ結晶型のチタニア粒子〔A〕を含むエタノール懸濁液〔A〕を得た(以上の操作を「半導体粒子懸濁液の調製操作」という。)。
なお、TMAHが分解して生成されるトリメチルアミンは、コロイド溶液の溶媒をエタノールに置換する操作の際にほぼ全量除去される。
この半導体粒子懸濁液の調製操作において、TMAHの添加量を1.5gとしたことの他は同様にして、平均粒子径100nmのアナターゼ結晶型のチタニア粒子〔B〕を含むエタノール懸濁液〔B〕を得た。
なお、エタノール懸濁液〔A〕、〔B〕に含有されるチタニア粒子について、エタノール懸濁液をスライドガラス上にドクターブレード法で塗布・乾燥後、XRDパターンを測定し、得られたXRDパターンから半価幅を求め、Scherrerの式(D=K×λ/βcosθ)を用いることにより、平均粒子径を算出し、かつ、チタニア粒子の結晶型を確認した。ただし、式中、Dは結晶子の長さ、βは半価幅、θは回折角、K=0.94、λ=1.5418である。
チタニア粒子〔A〕およびチタニア粒子〔B〕は、その結晶型がほぼ100%アナターゼ結晶型であり、ルチル結晶型の存在は確認されなかった。
(光電変換層形成用水性ペーストの調製)
これら2種類のエタノール懸濁液〔A〕,〔B〕について、各々のチタニア粒子の濃度を、まず、るつぼの質量(W)を電子天秤で秤り、その後、るつぼにエタノール懸濁液を取り、るつぼとエタノール懸濁液の総質量(W1 )を秤り、これを電気炉内に入れ、150℃で2時間保持してエタノール懸濁液の溶媒を完全に除去し、次いで、再び質量(W2 )を秤り、式{チタニア粒子の濃度(wt%)=(W2 −W)/(W1 −W)×100}から求めた。
そして、それぞれの濃度に基づいて、チタニア粒子〔A〕およびチタニア粒子〔B〕が重量比で7:3となるように混合し、この混合液を再びエバポレーターを用いて溶媒をほぼ完全に水で置換した上で濃縮することにより、最終的に、チタニア粒子の濃度が10wt%であって水を媒体とする光電変換層形成用水性ペースト〔1〕を得た。
(光電変換層形成用水性ペーストの塗布およびプレス処理)
この光電変換層形成用水性ペースト〔1〕を、プラスチック透光性基板〔1〕に、ドクターブレード法により、4.7cm×4.4cmの大きさの作用極領域に塗布した後、室温で乾燥させて塗膜を得、この塗膜に対して、油圧式プレス機を用い、圧力40MPaで60秒間プレス処理を行い、透光性基板上に機能性半導体層が形成された光電極構造体を得た。
なお、市販のチタニア「P−25」(日本エアロゾル社製)が10wt%の濃度で含有される水性ペーストは透光性基板に塗布することができないところ、上記の光電変換層形成用水性ペースト〔1〕がチタニア粒子が10wt%の濃度で含有されているにもかかわらず透光性基板に塗布することができた理由は明確ではないが、残留している可能性のあるTMAHによって当該光電変換層形成用水性ペースト〔1〕の粘性が高められていることが考えられる。
このプレス処理を行うことにより、機能性半導体層における波長400〜800nmの光透過率は、プレス処理前の値に対して110%増加し、層厚は70%に減少し、8μmであった。セル実効面積については、デジタルマイクロスコープおよび校正スケールを用い、有効数字4桁での補正を行った。この光電極構造体の波長200〜900nmの光透過率の測定結果を図6(b)に示す。なお、図6(a)は、プレス処理前の透光性基板上に塗膜が形成されたものの光透過率である。
また、プレス処理前の、光電変換層形成用水性ペースト〔1〕を用いて透光性基板上に形成した塗膜をSEM観察したところ、千倍の撮影倍率のSEM写真において長さ10〜100μm程度の線状クラックがランダムに多数形成されていることが観察され、さらに、2万倍の撮影倍率のSEM写真においてこのクラックを観察したところ、個々のチタニア粒子が単独に存在していることが確認された。
一方、プレス処理後の、千倍および2万倍のSEM写真を観察したところ、多数形成されていたクラックはほぼ全て埋められてその痕跡が確認され、また、チタニア粒子同士が密に結合している状態が観察された。
ここに、プレス処理によって埋められたクラックの痕跡が観察されることによって、クラックが埋められて半導体粒子と透明導電層との接触面積が増大し、色素増感型太陽電池の性能が向上されたものと推察される。
また、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものを用いて、JIS K 5400−1990に準じて引っ掻き試験を行い、引っ掻き強度を測定した。結果を表1に示す。
なお、引っ掻き強度が高いほど、半導体粒子間、半導体粒子と集電配線、および半導体粒子と透明導電層の密着性が高いことを示す。
(増感色素の担持・光電極の作製)
一方、増感色素としてシス−ビス(イソチオシアナート)−ビス(2,2’−ジピリジル−4,4’−ジカルボン酸)−ルテニウム(II)ビス−テトラブチルアンモニウムを用い、エタノール中に0.2mMの濃度で溶解させて色素溶液を得、この色素溶液中に上記の機能性半導体層を形成させた光電極構造体を24時間浸漬させ、機能性半導体層に増感色素が担持された光電極〔1〕を得た。
なお、この光電極〔1〕について上記と同様にしてSEM観察を行ったところ、プレス処理後のSEM観察において確認されたクラックの痕跡が同様に観察された。
(色素増感型太陽電池の作製)
電解質溶液として、ヨウ素、ヨウ化リチウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドおよびt−ブチルピリジンが溶解されたアセトニトリル溶液を用いた。これらはそれぞれ0.05M、0.1M、0.6Mおよび0.5Mになるよう窒素雰囲気下でアセトニトリルに溶解されたものである。
対極としては、ITO−PETフィルムに白金が蒸着されたものを用いた。
上記の光電極〔1〕に、厚さ50μmの熱可塑性樹脂フィルム「サーリン」(三井デュポンケミカル社製)からなる絶縁スペーサ、対極の順に組み合わせ、光電極〔1〕と対極との間にマイクロシリンジで電解質溶液を注入することにより、色素増感型太陽電池〔A〕を作製した。
作製された色素増感型太陽電池は極めて優れた性能を有し、TMAHの影響は観察されなかった。これは、プレス処理後の機能性半導体層にTMAHが存在していたとしても、そのTMAHは増感色素のエタノール溶液に光電極構造体を浸漬することにより、増感色素がチタニア粒子と強く結合すると同時に、エタノールに溶解して除去され、この結果、チタニア粒子間およびチタニア粒子および透光性基板の間にTMAHが入り込むことがないからであると推察される。
(色素増感型太陽電池の性能評価)
この色素増感型太陽電池〔A〕に、「ソーラーシミュレータ」(ペクセル社製)を用いて、AM1.5、100mW/cm2 の擬似太陽光を照射しながら「2400型ソースメータ」(KEITHLEY社製)を用いてI−V特性を測定して短絡電流、開放電圧、形状因子ffの値を得ると共に、これらの値を用いて下記式(1)により、光電変換効率を算出した。擬似太陽光の光量は、シリコンフォトダイオードを用いて測定して確認した。結果を表1に示す。
式(1);光電変換効率(%)=[短絡電流値(mA/cm2 )×開放電圧値(V)
×{形状因子ff/照射光(mW/cm2 )}]×100
〔実施例2〕
実施例1において、作用極領域を4.6cm×4.2cmの大きさのものとすることの他は同様にして、色素増感型太陽電池〔B〕を得、この色素増感型太陽電池〔B〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表1に示す。
〔比較例1〕
実施例1において、集電配線部が設けられていない透光性基板を用いることの他は同様にして、比較用の色素増感型太陽電池〔X〕を得、この比較用の色素増感型太陽電池〔X〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表1に示す。
〔比較例2〕
比較例1において、圧力を90MPaとしたことの他は同様にして、比較用の色素増感型太陽電池〔Y〕を得、この比較用の色素増感型太陽電池〔Y〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表1に示す。
〔参考実施例1〕
実施例1において、プレス処理の圧力を100MPaとし、作用極領域を0.5cm×0.5cmとし、さらに集電配電部を設けなかったことの他は同様にして、色素増感型太陽電池〔1〕を得、この色素増感型太陽電池〔1〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表2に示す。
〔参考実施例2〕
チタニア粒子〔A〕およびチタニア粒子〔B〕が重量比で6:4となるように混合したことの他は、参考実施例1と同様にして色素増感型太陽電池〔2〕を得、この色素増感型太陽電池〔2〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表2に示す。
なお、機能性半導体層における波長400〜800nmの光透過率は、プレス処理前の値に対して130%増加し、層厚は70%に減少し、7μmであった。
〔参考実施例3〕
ITO/PEN基板の代わりにITO/シクロオレフィンポリマー基板「ゼオノア基板」(日本ゼオン製)を用いたことの他は、参考実施例2と同様にして色素増感型太陽電池〔3〕を得、この色素増感型太陽電池〔3〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表2に示す。
〔参考実施例4〕
作用極領域を0.5cm×4.5cmとし、プレス処理の条件を圧力80MPaとしたことの他は参考実施例3と同様にして色素増感型太陽電池〔5〕を得、この色素増感型太陽電池〔5〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表2に示す。
なお、機能性半導体層における波長400〜800nmの光透過率は、プレス処理前の値に対して130%増加し、層厚は70%に減少し、6μmであった。
〔参考実施例5〕
作用極領域を0.5cm×9.0cmとし、プレス処理の条件を圧力80MPaとしたことの他は参考実施例3と同様にして色素増感型太陽電池〔6〕を得、この色素増感型太陽電池〔6〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表2に示す。
なお、機能性半導体層における波長400〜800nmの光透過率は、プレス処理前の値に対して130%増加し、層厚は70%に減少し、7μmであった。
〔参考比較例1〕
プレス処理を行わなかったことの他は参考実施例1と同様にして比較用の色素増感型太陽電池〔1〕を得、この比較用の色素増感型太陽電池〔1〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表2に示す。
〔参考比較例2〕
光電変換層形成用水性ペースト〔1〕の代わりに市販のペースト「PECC−01−06」(ペクセル社製)を使用し、プレス処理を行わず、150℃で10分間、加熱処理を行ったことの他は参考実施例1と同様にして比較用の色素増感型太陽電池〔2〕を得、この比較用の色素増感型太陽電池〔2〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表2に示す。
〔参考比較例3〕
塗膜に対してプレス処理を行わず、150℃で10分間、加熱処理を行ったことの他は参考実施例1と同様にして比較用の色素増感型太陽電池〔3〕を得、この比較用の色素増感型太陽電池〔3〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表2に示す。
〔参考比較例4〕
光電変換層形成用水性ペースト〔1〕の代わりに、チタニア粒子〔A〕のみよりなる比較用の光電変換層形成用水性ペースト〔Z〕を用いたことの他は参考実施例1と同様にして比較用の色素増感型太陽電池〔4〕を得、この比較用の色素増感型太陽電池〔4〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表2に示す。
なお、機能性半導体層における波長400〜800nmの光透過率は、プレス処理前の値に対して130%増加し、層厚は70%に減少し、7μmであった。
〔参考比較例5〕
参考実施例1において、光電変換層形成用水性ペースト〔1〕の代わりに、チタニア粒子〔A〕およびチタニア粒子〔B〕を合わせて10重量%、ヒドロキシプロピルセルロース0.5重量%および水からなり、かつチタニア粒子〔A〕とチタニア粒子〔B〕を重量比で7:3の割合で含む比較用の光電変換層形成用水性ペースト〔W〕を用いることの他は同様にして、厚さ8.1μmの光電変換層が形成された比較用の色素増感型太陽電池〔5〕を得、この比較用色素増感太陽電池〔5〕について、実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表2に示す。
表2から明らかなように、参考実施例1〜5に係る本発明の色素増感型太陽電池においては、高い光電変換効率が得られていることが確認された。
参考実施例1に係る色素増感型太陽電池〔1〕が、他の参考実施例2〜5に係る色素増感型太陽電池に比して高い光電変換効率を示すのは、形状因子ffの値が高く、すなわちチタニア粒子と透光性基板との接合性が良好であることによると考えられる。
また、参考実施例1,3の結果を比較することにより、透光性基板を構成する透光性支持体の材質の違いが光電変換効率の大きさに影響することが示された。
また、参考実施例1,4,5の結果を比較することにより、作用極領域を大きくすると光電変換効率の大きさに影響し多少低くなる傾向を示すが、特に参考実施例5の結果から、作用極領域を大きくしても6%以上の高い光電変換効率が得られることが確認された。
一方、プレス処理を行わなかった比較用色素増感型太陽電池に係る参考比較例1〜3の結果から、プレス処理を行わないと高い光電変換効率が得られないことが確認された。これは、プレス処理を行わなかった結果、チタニア粒子間およびチタニア粒子と透光性基板との接合性が低いものとなってしまうことが大きな要因であるが、さらに水性ペーストから形成されることに起因して生じるクラックがそのまま存在し残ることも要因として考えられる。
また、参考比較例4の結果から、粒径の小さい1種類の半導体粒子のみを用いた太陽電池は、粒径の異なる2種の半導体粒子を用いる本発明のものに比して高い光電変換効率が得られないことが確認された。
さらに、参考比較例5の結果から、バインダーを含有する光電変換層を有する太陽電池は、バインダーを含有しない光電変換層を有する本発明のものに比して高い光電変換効率が得られないことが確認された。これは、バインダーがチタニア粒子間やチタニア粒子と透光性基板との間に入り込む結果、接合性が低いものとなって電子移動が阻害されるためであると推察される。
〔参考実験例1〜5〕
参考実施例1〜5とそれぞれ同様にして同じ構成の色素増感型太陽電池を9個づつ合計45個作製し、全ての色素増感型太陽電池について、実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を測定したところ、表1に示される参考実施例1〜5の対応する値に対して9個づつの色素増感型太陽電池はすべて±0.2%の誤差範囲にある値を示した。
この参考実験例により、本発明の製造方法によれば、高い光電変換効率を有する色素増感型太陽電池を再現性よく安定的に製造できることが確認された。
〔参考実施例6〜17〕
以下に、透光性基板の表面処理および機能性半導体層のUV−オゾン処理によって得られる効果について、確認実験を行った。
具体的には、参考実施例1と同じ透光性基板(シート抵抗13Ω/□のITO/PEN基板)の表面に、以下のような超音波洗浄処理、エッチング処理および上述のUV−オゾン処理を単独あるいは2つ以上組み合わせた表面処理を表3に従って施した後、その表面上に実施例1と同様にして得られた光電変換層形成用水性ペースト〔1〕を塗布し、表3に示される層厚が得られるようにプレス処理して機能性半導体層を形成し、必要に応じてこの機能性半導体層にUV−オゾン処理を施し、その後、増感色素を担持させることにより、色素増感型太陽電池〔6〕〜〔17〕を得、これらの色素増感型太陽電池〔6〕〜〔17〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表3に示す。
(超音波洗浄処理)
超音波洗浄器および超音波洗浄用洗剤を用い、洗浄剤を入れた容器内に透光性基板を浸漬し、その容器を水で満たした超音波洗浄器に入れ、10分間超音波を発信させることにより、当該透光性基板の表面における微細な付着物などを洗浄・除去した。
(エッチング処理)
高周波スパッタ装置「SVC−700RFII」(サンユー電子(株)製)に透光性基板をセットし、高真空条件(5Pa)とした後、逆スパッタ(エッチング)処理を20W、10分間の条件で行った。具体的には、高周波の交流電位をかけることによりプラズマを発生させ、その内のプラス電荷を帯びたアルゴン原子をマイナス電荷をかけた基板に衝突させることによって、基板上の付着物を除去した。
表3から明らかなように、透光性基板に表面処理を施すことにより、表面処理を施さない場合は例えば参考実施例1では光電変換効率が7.1%であるのに比して、7.2〜7.6%と高い光電変換効率が得られることが示され、また、透光性基板に表面処理を施すことに加えて機能性半導体層にUV−オゾン処理を施すことにより、これを行わなかった場合は例えば参考実施例6〜9では光電変換効率が7.2〜7.3%であるのに対して7.3〜7.6%と高い光電変換効率を得られることが示された。
これは、機能性半導体層へのUV−オゾン処理により、機能性半導体層に含有される半導体粒子の親水基が増加されて当該半導体粒子が色素吸着しやすいものとなり、その結果、得られる色素増感型太陽電池が高い光電変換効率を得られると推察される。
また、表面処理法のうち特にUV−オゾン処理を行うと、超音波洗浄処理およびエッチング処理を行うことに比して、高い光電変換効率が得られる傾向が示されているが、この理由は、紫外線によって生じたオゾンが処理対象物表面の有機汚染物質を分解除去する上に、オゾンからの活性酸素が表面分子と結合して処理対象物表面の親水性が増加することによって、水の接触角が表面処理前に比べて大きく減少し、その結果、透光性基板に対する水性ペーストの密着性が高くなるためであると考えられる。
〔参考実施例18,19〕
参考実施例1において、プレス処理後であってかつ色素担持工程前の機能性半導体層にUV−オゾン処理を施し、さらに、色素担持工程に使用する溶媒としてアセトニトリルおよびt−ブチルアルコールの重量比1:1の混合溶媒を用いることの他は同様にして色素増感型太陽電池〔18〕,〔19〕を作製した。この色素増感型太陽電池〔18〕,〔19〕を構成する機能性半導体層の層厚はそれぞれ7.6μm、8.1μmであった。
これらの色素増感型太陽電池〔18〕,〔19〕を用い、実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表4に示す。
表4から明らかなように、プレス処理後の機能性半導体層にUV−オゾン処理を施すことにより、色素増感型太陽電池の性能を向上させることができることが確認された。
〔参考実施例20〕
以下に、本発明の色素増感型太陽電池が、照射光量を変化させても高いレベルの光電変換効率を維持できるものであることを検証した。
具体的には、参考実施例1と同様にして作製した色素増感型太陽電池〔1〕を用い、照射光量を20〜200mW/cm2 の範囲で変化させ、照射光量をそれぞれ23mW/cm2 、48.5mW/cm2 、70mW/cm2 、100mW/cm2 、または170mW/cm2 とした場合における光電変換効率を測定した。結果を表5に示す。また、実施例1と同様にして透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定したところ、3Hであった。
表5から明らかなように、照射光量が23〜170mW/cm2 の範囲において、照射光量を変化させても6.2〜7.1%と高いレベルの光電変換効率を維持できることが確認された。また、短絡電流は照射光量に比例して高くなる傾向にあることが示された。
〔参考実施例21〕
参考実施例13と同様にして作製した、表面処理した透光性基板を使用し、さらにプレス処理後の機能性半導体層をUV−オゾン処理して作製した色素増感型太陽電池〔13〕を用い、照射光量を20〜200mW/cm2 の範囲で変化させ、照射光量をそれぞれ20.9mW/cm2 、31.4mW/cm2 、46.0mW/cm2 、69.0mW/cm2 、100mW/cm2 、または170mW/cm2 とした場合における光電変換効率を測定した。結果を表6に示す。また、実施例1と同様にして透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定したところ、3Hであった。
表6から明らかなように、照射光量が20.9〜170mW/cm2 の範囲において、照射光量を変化させても6.9〜7.5%と高いレベルの光電変換効率を維持できることが確認された。また、短絡電流は照射光量に比例して高くなる傾向にあることが示された。また、透光性基板および機能性半導体層に表面処理を施さなかった色素増感型太陽電池に比してより高いレベルの光電変換効率が達成された。
〔参考実施例22〕
他の増感色素の種類を用いた場合の性能を検証するため、参考実施例13において、増感色素としてRuターピリジン錯体(ブラックダイ)を用い、エタノール中に0.2Mの濃度で溶解させて色素溶液を得、これを使用したことの他は同様にして色素増感型太陽電池〔22〕を得、この色素増感型太陽電池〔22〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表7に示す。
なお、機能性半導体層の層厚は7.3μmであった。
〔参考実施例23〕
他の電解質の溶媒を用いた場合の性能を検証するため、参考実施例13において、電解質の溶媒としてアセトニトリル(沸点81℃)の代わりにメトキシプロピオニトリル(沸点165℃)としたことの他は同様にして色素増感型太陽電池〔23〕を得、この色素増感型太陽電池〔23〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。また、実施例1と同様にして、透光性基板上に機能性半導体層が形成された状態のものの引っ掻き強度を測定した。結果を表11に示す。
なお、機能性半導体層の層厚は8.4μmであった。
本発明の色素増感型太陽電池を構成するセルの構成の一例を示す説明用断面図である。 本発明の色素増感型太陽電池用光電極を製造する方法の一例を示す説明用断面図である。 本発明の色素増感型太陽電池用光電極を構成する集電配線部が設けられた透光性基板の構成の一例を示す説明用平面図である。 本発明の色素増感型太陽電池を構成するセルの構成の別の一例を示す説明用断面図である。 本発明の別の例の色素増感型太陽電池用光電極を製造する方法の一例を示す説明用断面図である。 実施例1の結果を示すグラフである。
符号の説明
10,10A 光電変換素子
12 電解質部分
16 対極
17 結線
20,20A 光電極
20K,20L 光電極構造体
21 透光性基板
21a 透光性支持体
21b 透明導電層
23,26 光電変換層
23A 塗膜
23B 層
23C 塗膜
23α,23β 機能性半導体層
25 光散乱層
27 集電配線部
27a 集電配線
27b 電流導出用金属領域

Claims (25)

  1. 弾性を有するプラスチック製の透光性支持体上に透明導電層が形成されてなる透光性基板の前記透明導電層の表面上に集電配線部が設けられ、この集電配線部を含む透明導電層上に増感色素が担持された光電変換層が設けられた色素増感型太陽電池用光電極であって、
    前記光電変換層は、プレス処理された層を有し、当該プレス処理された層は集電配線部を含む透明導電層に接触しており、前記プレス処理された層は、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子を含有しバインダーを含有しないものであることを特徴とする色素増感型太陽電池用光電極。
  2. 前記集電配線部を含む透明導電層の表面上に接触して設けられた光電変換層よりなる、辺の長さが各々3〜20cmである矩形の作用極領域を有し、
    集電配線部においては、1本以上の幅0.2〜1.5mmの集電配線が、前記作用極領域の一辺からこれと対向する他辺に向かって伸びるよう設けられていることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型太陽電池用光電極。
  3. 前記集電配線部を構成する集電配線が、前記透明導電層の構成材料よりも導電性の高い材料よりなるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の色素増感型太陽電池用光電極。
  4. 当該色素増感型太陽電池用光電極の光電変換層の引っ掻き強度が2H〜4Hであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極。
  5. 前記半導体粒子が、いずれもアナターゼ結晶型のチタニア粒子であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極。
  6. 前記平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子に含有される半導体粒子が、平均粒子径が3〜40nmの半導体小粒子、および平均粒子径が50nm以上の半導体大粒子の2種であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極。
  7. 前記半導体粒子における半導体小粒子の含有割合が50〜95質量%であることを特徴とする請求項6に記載の色素増感型太陽電池用光電極。
  8. 前記光電変換層が、プレス処理された層と、当該プレス処理された層上に積層されたプレス処理されていない少なくとも1層の非プレス処理層とによる多層構造であり、当該非プレス処理層は、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子を含有しバインダーを含有しないものであることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極。
  9. 前記光電変換層のプレス処理された層の厚みが、3〜40μmであることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極。
  10. 前記光電変換層のプレス処理された層は、クラックが埋められた痕跡を有することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極。
  11. 請求項1〜請求項10のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極を備え、
    当該色素増感型太陽電池用光電極が、電解質部分を介して対極と対向するよう設けられていることを特徴とする色素増感型太陽電池。
  12. 100mW/cm2 の光量を照射して得られる光電変換効率の値が、照射する光量を20〜120mW/cm2 の範囲で変化させた場合において、光電変換効率の値が前記100mW/cm2 の光量を照射して得られる光電変換効率の値の87%以上であるものであることを特徴とする請求項11に記載の色素増感型太陽電池。
  13. 弾性を有するプラスチック製の透光性支持体上に透明導電層が形成されてなる透光性基板の当該透明導電層の表面上に集電配線部が設けられ、当該集電配線部を含む透明導電層上に光電変換層が積層して形成された色素増感型太陽電池用光電極の製造方法であって、
    前記光電変換層は、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子と、増感色素とを含有し、
    前記半導体粒子として、半導体金属のアルコキサイドを4級アンモニウム塩によって加水分解する塩基性法により得られたものを用い、
    前記透光性基板の前記透明導電層上に前記集電配線部を設ける工程と、
    バインダーおよび有機溶剤を含有せず、前記半導体粒子を含有する水性ペーストを、前記透明導電層上に設けられた集電配線部の表面上に塗布して形成される塗膜をプレス処理する工程と、当該プレス処理して得られる層に増感色素を担持させる工程とを含むことを特徴とする色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  14. 前記透光性基板が、透明導電層の表面が超音波洗浄処理、エッチング処理および/またはUV−オゾン処理されたものであることを特徴とする請求項13に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  15. 前記光電変換層は、前記水性ペーストの塗膜をプレス処理して得られる機能性半導体層に増感色素を担持させて得られるものであることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  16. 前記プレス処理は、機能性半導体層における波長400〜800nmの光透過率が、プレス処理前の値の110〜130%となる条件で行われることを特徴とする請求項15に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  17. 前記光電変換層は、前記水性ペーストの塗膜をプレス処理して得られる層上に、バインダーおよび有機溶剤を含有せず、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子を含有する水性ペーストの塗膜よりなる層を1層以上形成させて機能性半導体層を得、この機能性半導体層に増感色素を担持させて得られるものであることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  18. 前記プレス処理は、前記水性ペーストの塗膜をプレス処理して得られる層における波長400〜800nmの光透過率が、プレス処理前の値の110〜130%となる条件で行われることを特徴とする請求項17に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  19. 前記透光性基板および前記機能性半導体層のプレス処理された層よりなる積層体の波長500nmの光透過率が20〜65%であり、かつ、波長700nmの光透過率が30〜75%であることを特徴とする請求項13〜請求項18のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  20. 増感色素を担持する前に、前記水性ペーストの塗膜をプレス処理する工程を経て得られる機能性半導体層をUV−オゾン処理することを特徴とする請求項13〜請求項19のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  21. 水性ペーストにおける平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子の含有割合が5〜30質量%であることを特徴とする請求項13〜請求項21のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  22. 前記水性ペーストに含有される半導体粒子が、平均粒子径が3〜40nmの半導体小粒子、および平均粒子径が50nm以上の半導体大粒子の2種であることを特徴とする請求項13〜請求項21のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  23. プレス処理が、室温で行われることを特徴とする請求項13〜請求項22のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  24. プレス処理は、5MPa以上500MPa以下の圧力で行われることを特徴とする請求項13〜請求項23のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
  25. 前記弾性を有するプラスチック製の透光性支持体の耐熱温度より低い温度で加熱処理しながら当該透光性支持体上にスパッタリング法によってインジウム−スズ複合酸化物(ITO)からなる透明導電層を形成させることを特徴とする請求項13〜請求項24のいずれか一に記載の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
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