JP2008243317A - 磁気記録媒体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた電磁変換特性及び走行耐久性に優れた磁気記録媒体を提供すること、並びに、前記の磁気記録媒体の製造方法を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体上に強磁性粉末を結合剤中に分散した磁性層を有し、該磁性層の表面が親水化処理されており、該親水化処理磁性層の表面上に潤滑剤層を有することを特徴とする磁気記録媒体、並びに、非磁性支持体上に強磁性粉末を結合剤中に分散した磁性層を塗設する工程、該磁性層表面に、コロナ処理、プラズマ処理、電子線照射及びフレーム処理よりなる群より選ばれた親水化処理を施す工程、及び、該親水化処理を施した該磁性層上に潤滑剤層を塗設する工程、を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、磁気記録媒体及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、非磁性支持体上に塗設された、強磁性微粉末を結合剤中に分散させた磁性層を有する磁気記録媒体において、電磁変換特性及び耐久性を改良した磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
磁気記録技術は、媒体の繰り返し使用が可能であること、信号の電子化が容易であり周辺機器との組み合わせによるシステムの構築が可能であること、信号の修正も簡単にできること等の他の記録方式にはない優れた特長を有することから、ビデオ、オーディオ、コンピューター用途等を始めとして様々な分野で幅広く利用されてきた。
近年の記録の大容量化、高記録密度化の要求に応える塗布型の磁気記録媒体は、その高度な電磁変換特性を達成するため、極めて平滑な表面を有する。この平滑な表面を記録ヘッドが高速で摺動すると、従来の技術では耐久性を確保することが極めて難しくなる。
特許文献1は、磁性層が未乾燥の湿潤状態にあるうちにオーバーコート層を設けるウェットオンウェット方式により、該磁性層表面に脂肪酸及び脂肪酸エステルからなる潤滑剤層を構成した塗布型磁気記録媒体をその一つの発明として含んでいる。
特許文献2には、APS(Advanced Photo System)用ハロゲン化銀写真感光材料に使用するための透明磁気記録媒体が記載されており、支持体上に少なくとも1層の磁性粒子を含む磁気記録層と潤滑剤層を有する磁気記録媒体が開示されている。ここで、透明磁気記録媒体とは、実質的に写真画像に影響を与えない程度の透明性を有した磁気記録層を有する媒体を意味する。高い磁気出力が得られる通常の磁気記録媒体は光透過性がないことからも解るように、透明磁気記録媒体では、塗布する磁性体のサイズや塗布量が少なく、高密度の磁気記録はできない。
特許文献3は、非磁性支持体上に、少なくとも結合剤と磁性粉末とを混練してなる磁性塗料を塗布してなる磁性層と、上記磁性層表面に配設された潤滑剤層とを備える磁気記録媒体において、上記磁性層表面を、フーリエ変換赤外分光法を用いた全反射吸収測定法により測定したときの2940〜2800cm-1の波長の吸収スペクトルの面積値をAとし、上記潤滑剤を除去した状態で上記磁性層表面を、フーリエ変換赤外分光法を用いた全反射吸収測定法により測定したときの2940〜2800cm-1の波長の吸収スペクトルの面積値をBとしたときに、(A−B)の値が0.01以上0.30以下である磁気記録媒体を開示している。
さらに、上記磁性層は、少なくとも結合剤と非磁性粉末とを混練してなる非磁性塗料を塗布してなる非磁性層上に、上記非磁性塗料が未乾燥状態のうちに上記磁性塗料を塗布することにより形成された上記の磁気記録媒体も開示されている。
特開平9−63040号公報 特開平11−16155号公報 特開2001−266327号公報
本発明が解決しようとする一つの課題は、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を提供することである。他の一つの課題は、走行耐久性に優れた磁気記録媒体を提供することである。本発明のさらに他の課題は、前記の磁気記録媒体の製造方法を提供することである。
上記の課題は、以下の手段(1)及び(4)により達成された。好ましい実施態様である(2)、(3)、(5)と共に列記する。
(1)非磁性支持体上に強磁性粉末を結合剤中に分散した磁性層を有し、該磁性層の表面が親水化処理を施されており、該親水化処理磁性層の表面上に潤滑剤層を有することを特徴とする磁気記録媒体、
(2)該潤滑剤層が、少なくとも1個の親水性極性基、及び、疎水性の、炭化水素鎖又はフッ素置換炭化水素鎖を分子中に併せ持つ潤滑剤を含む(1)に記載の磁気記録媒体、
(3)非磁性支持体及び磁性層の間に、非磁性粉末を結合剤中に分散した非磁性層を有する(1)又は(2)に記載の磁気記録媒体、
(4)非磁性支持体上に強磁性粉末を結合剤中に分散した磁性層を塗設する工程、該磁性層表面に、コロナ処理、プラズマ処理、電子線照射及びフレーム処理よりなる群より選ばれた親水化処理を施す工程、及び、該親水化処理を施した該磁性層上に潤滑剤層を塗設する工程、を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法、
(5)該潤滑剤層が、少なくとも1個の親水性極性基、並びに、疎水性の、炭化水素鎖又はフッソ素置換炭化水素鎖を分子中に併せ持つ潤滑剤を含む(4)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
本発明の磁気記録媒体は、特に磁気テープとして使用したときの電変換特性に優れ、かつ磁性層の表面が平滑であり走行耐久性が向上した。より詳しくは、繰り返し摺動しても磁気テープの摩擦係数が低下せず、また、磁気テープの損傷が少ない。また、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、前記の磁気記録媒体を効率よく製造することができる。
本発明の磁気記録媒体は従来品に比べ極めて高度な走行耐久性と電磁変換特性を達成するものである。
近年の記録の大容量化、高記録密度化の要求に応える磁気記録媒体は、その高度な電磁変換特性を達成するため極めて平滑な表面を必要とする。この平滑な表面を記録・再生ヘッドで摺動すると、従来の技術では耐久性を確保することが極めて難しかった。
従来から塗布型磁気記録媒体では、磁性塗料中に潤滑剤を内添することにより磁性層表層に潤滑剤を染み出させて、記録・再生ヘッドとの摺動安定性を確保してきた。しかしながら、近年の磁気記録媒体に対する大容量化の要求に応えるために、磁性層薄層化を図ってきた。このため、磁性層中から磁性層表面に染み出してくる潤滑剤量も相対的に減少し、摺動安定性の確保が難しくなってきている。磁性層の薄層化による潤滑剤の減少分を補うために磁性層中に内添する潤滑剤を増量すると、磁性層に含まれる結合剤の可塑化による耐久性劣化の弊害を伴ってしまう。
前記特許文献1、2及び3では本発明と同様に磁性層表面に十分な潤滑剤量を確保する手段として、オーバーコートによる潤滑剤層の付与を行っているものの、ウェットオンウェット方式や表面処理を伴わないウェットオンドライ方式では近年の平滑媒体で十分な摺動安定性、耐久性を確保することが困難であった。
高度な電磁変換特性を満足する平滑媒体で十分な摺動安定性を付与できない原因を鋭意調査した結果、塗布型媒体の磁性層表面は疎水性の結合剤で覆われているため、極性基と親油基を分子内に併せ持つ脂肪酸を始めとする境界潤滑剤との吸着作用が殆どなく、強固な潤滑膜を形成できていないことが分かった。そのため、塗布型媒体の磁性層表面と上記の境界潤滑剤との吸着性向上手段を鋭意検討した結果、本発明者らは、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理よりなる群から選ばれた表面親水化処理を行うことによって、強固な潤滑膜を形成できし、十分な摺動安定性、耐久性を確保できることを見いだし本発明を完成させるに至った。
(1)磁性層表面の親水化処理
本発明における磁性層は、強磁性粉末及び疎水性結合剤を含有し、この磁性層の表面は親水化処理を施されており、好ましくは親水性を有する。
磁性層の表面が親水性を有することは、磁性層表面の潤滑剤層を除去した後に、磁性層表面を赤外線反射スペクトルにより観測すると、親水性を有する水酸基及び/又はカルボキシル基等に基づく吸収があることで確認することができる。具体的には、水酸基に基づく1,300〜1,000cm-1の波数範囲の赤外線吸収、及び/又は、カルボキシル基等に基づく3,500〜2,500、1,800〜1,600cm-1の波数範囲の赤外線吸収が認められる。
磁性層の表面が親水性を有する別の確認方法は、この磁性層表面の潤滑剤層を除去した後に、磁性層表面の水の接触角を測定することにより親水性化されていることを確認することができる。
強磁性粉末及び疎水性結合剤を好ましく含有する磁性層の表面を親水化するためには、公知の親水化処理を施すことができ、コロナ処理、プラズマ処理、電子線照射及びフレーム処理からなる群から選ばれる親水化処理を施すことが好ましい。
上記の親水化処理方法のうち、コロナ処理の場合、例えば、気体中で10〜40kV程度の高電圧を発生するコロナ放電による表面処理を施すことができる。金属ロール等の導電性ロール(アース側)に沿って支持体に連続的に走行させ、ロールと平行に対設された一本のコロナ電極とロールとの間にコロナ放電を生じさせてもよく、また2本の平行な電極をロールと平行に対設することにより、両電極間に高電圧を印加し、電極−ロール−電極間に生ずる放電を利用してもよい。いずれの場合もロールに支持されない側、すなわち電極に面している側の支持体の表面に親水性処理が施される。
また、プラズマ処理とは、電離状態にした気体分子による処理であり、例えばDCプラズマ、RFプラズマ、ACプラズマ等のいずれも使用でき、またそれぞれマグネトロン方式であってもよい。プラズマ処理に用いるガスとしては、Arガスが好ましいが、それ以外のガスを用いることもできる。プラズマ処理を行う際、投入電力は10Wから1,000Wの範囲が好ましく、100Wから500Wの範囲がさらに好ましい。時間は1秒から2分の範囲が好ましいが、磁性層の変形や生産性を考慮すると、1秒から30秒の範囲がさらに好ましい。
また、電子線照射とは、電子を数千〜数十万Vの電圧下で加速して、真空中又は空気中で被照射体に衝突させる処理であり、スキャニング方式、ダブルスキャニング方式またはカーテンビーム方式等の加速器を用いて、加速電圧10〜300kV、吸収線量として10〜100kGy程度で電子線を磁性層表面全体に照射する。
フレーム処理は、火炎処理ともいい、化学的に不活性な表面にバーナー等から噴射したガス酸化炎等を吹きかけて、表面を酸化することにより親水性を向上させる処理をいう。
フレーム処理は当業者に公知であり、種々の公知の装置を使用して、磁性層表面に親水化処理を施すことができる。
(2)潤滑剤
本発明において潤滑剤層に含有させる潤滑剤は、少なくとも1個の親水性極性基、並びに、疎水性の、炭化水素鎖及び/又はフッ素置換の炭化水素鎖を分子中に併せ持つ化学構造を有する。炭化水素としては、脂肪族炭化水素が好ましい。フッ素置換がある場合フッ素置換は炭化水素に含まれるすべての水素原子が置換されていてもよく(いわゆるパーフルオロ置換)、一部の水素原子でもよい。
親水性極性基としては、カルボキシル基及び水酸基並びにこれらの誘導体であるエステル、アミド、エーテルの結合が好ましい。炭化水素鎖又はフッ素で置換された炭化水素鎖は、脂肪族炭化水素鎖であることが好ましく、炭素数11〜20の脂肪族炭化水素鎖が好ましい。
このような潤滑剤の具体例として以下を例示できる。
潤滑剤として、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸等の炭素数12〜18個の脂肪酸(R1COOH、R1は炭素数11〜17個のアルキル又はアルケニル基)、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、オクタンジカルボン酸などのジカルボン酸及び前記脂肪酸をフッ素変性したフッ素含有脂肪酸を使用できる。
その他脂肪酸以外に前記脂肪酸アミド、アルコール類(R1OH、R1は炭素数11〜17個のアルキル又はアルケニル基)、アミン類(R1NH2、R1は炭素数11〜17個のアルキル又はアルケニル基)、及びジアミド類、グリコールのエーテル類、グリセリンのエステル類、ジアミン類等であって、前記のR1又はフッ素原子で少なくとも一部又は全部の水素原子が置換されたR1を有する化合物を使用できる。
前記の極性基の他の極性基として、スルホン酸基、硫酸エステル基、ホスホン酸基、リン酸基等の酸性基、イソシアネート基、シラン系を始めとするカップリング基、トリクロロシリル基、カルボクロル基を挙げることができる。
前記潤滑剤以外に脂肪酸エステルを始めとする各種界面活性剤を併用できる。潤滑剤は磁性層表層にオーバーコートすることが必須であるが、磁性層にも同じ若しくは異なる潤滑剤を内添させることもできる。
本発明において、潤滑剤層には、異なった2種以上の潤滑剤(1)及び潤滑剤(2)を併用することが好ましい。
潤滑剤(1)としては、脂肪酸、パーフルオロ脂肪酸が挙げられ、好ましくは炭素数10〜18の脂肪酸であり、ステアリン酸やパーフルオロオクタデカン酸が例示できる。潤滑剤(2)としては、脂肪酸のエステルが好ましく、炭素数10〜18の脂肪酸の炭素数 1〜18のアルコールのエステルがより好ましく、sec−ブチルステアレートが例示できる。
また、潤滑剤(1)と潤滑剤(2)の配合比率は、重量比で1:10〜10:1である。
<磁気記録媒体>
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に強磁性粉末を結合剤中に分散した少なくとも1層の磁性層を有し、該磁性層の表面に親水化処理が施されており、該親水化処理磁性層の表面上に潤滑剤層を有することを特徴とする。
従来から磁性層表面に存在する潤滑剤の作用として、表面の潤滑剤量はヘッドとテープの摺動特性と密接な関係にあることが判っている。磁性層表面に潤滑剤が安定に存在することにより、ヘッドとテープの摺動抵抗を小さくでき、走行耐久性を向上することができる。近年の磁気記録媒体の高容量化の要求に伴って、磁性層は薄層化していく必要があるが、薄層化にともない磁性層に含浸できる潤滑剤の量は少なくなってしまう。このため、記録/再生ヘッドによる摺動で潤滑剤が次第に除去されてしまい潤滑剤が不足すると、磁性層が削れ、停止等を発生してしまうことがあった。また、磁気特性の向上のため磁性層表面はますます平滑化が必要であり、このため従来の潤滑剤では十分な走行性、繰り返し走行性、耐久性に効果を発揮し得なくなってきている。従来は、その潤滑効果を高めるため潤滑剤の量を多くすると、磁性塗膜の機械的強度は弱くなり、磁性層が削れ、削れ粉が走行経路を汚したり、あるいは十分な繰返し走行耐久性が得られなかったりした。なお、磁性層の好ましい厚みについては後述する。
I.磁性層
本発明の磁気記録媒体における磁性層は、強磁性粉末を結合剤中に分散した層であり、磁気記録及びその再生に寄与する層である。
<強磁性粉末>
本発明の磁気記録媒体に使用される強磁性粉末は、コバルト含有強磁性酸化鉄又は強磁性合金粉末でSBET比表面積が、好ましくは40〜80m2/g、より好ましくは50〜70m2/gである。結晶子サイズは、好ましくは12〜25nm、より好ましくは13〜22nmであり、特に好ましくは14〜20nmである。長軸長は、好ましくは0.03〜0.25μmであり、より好ましくは0.07〜0.2μmであり、特に好ましくは0.08〜0.15μmである。
強磁性粉末としては、イットリウムを含むFe、Fe−Co、Fe−Ni、Co−Ni−Feが挙げられ、強磁性粉末中のイットリウム含有量は、鉄原子に対してイットリウム原子の比、Y/Feが0.5原子%〜20原子%が好ましく、さらに好ましくは5〜10原子%である。上記範囲であると、強磁性粉末が高σS化でき、また、鉄の含有量が適度であるため、磁気特性が良好であり、電磁変換特性に優れるので好ましい。さらに、鉄100原子%に対して20原子%以下の範囲内で、アルミニウム、ケイ素、硫黄、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、銅、亜鉛、モリブデン、ロジウム、パラジウム、錫、アンチモン、ホウ素、バリウム、タンタル、タングステン、レニウム、金、鉛、リン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、テルル、ビスマス等を含むことができる。また、強磁性金属粉末が少量の水、水酸化物又は酸化物を含むものなどであってもよい。
本発明の磁気記録媒体において、コバルト、イットリウムを導入した強磁性粉末の製造方法の一例を示す。第一鉄塩とアルカリを混合した水性懸濁液に、酸化性気体を吹き込むことによって得られるオキシ水酸化鉄を出発原料とする例を挙げることができる。このオキシ水酸化鉄の種類としては、α−FeOOHが好ましく、その製法としては、第一鉄塩を水酸化アルカリで中和してFe(OH)2の水性懸濁液とし、この懸濁液に酸化性ガスを吹き込んで針状のα−FeOOHとする第一の製法がある。一方、第一鉄塩を炭酸アルカリで中和してFeCO3の水性懸濁液とし、この懸濁液に酸化性気体を吹き込んで紡錘状のα−FeOOHとする第二の製法がある。このようなオキシ水酸化鉄は第一鉄塩水溶液とアルカリ水溶液とを反応させて水酸化第一鉄を含有する水溶液を得て、これを空気酸化等により酸化して得られたものであることが好ましい。この際、第一鉄塩水溶液にNi塩や、Ca塩、Ba塩、Sr塩等のアルカリ土類元素の塩、Cr塩、Zn塩などを共存させても良く、このような塩を適宣選択して用いることによって粒子形状(軸比)などを調整することができる。
第一鉄塩としては、塩化第一鉄、硫酸第一鉄等が好ましい。またアルカリとしては水酸化ナトリウム、アンモニア水、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等が好ましい。また、共存させることができる塩としては、塩化ニッケル、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、塩化クロム、塩化亜鉛等の塩化物が好ましい。次いで、鉄にコバルトを導入する場合は、イットリウムを導入する前に、硫酸コバルト、塩化コバルト等のコバルト化合物の水溶液を前記のオキシ水酸化鉄のスラリーに撹拌混合する。コバルトを含有するオキシ水酸化鉄のスラリーを調製した後、このスラリーにイットリウムの化合物を含有する水溶液を添加し、撹拌混合することによって導入することができる。
本発明の強磁性粉末には、イットリウム以外にもネオジム、サマリウム、プラセオジウム、ランタン、ガドリニウム等を導入することができる。これらは、塩化イットリウム、塩化ネオジム、塩化サマリウム、塩化プラセオジウム、塩化ランタン等の塩化物、硝酸ネオジム、硝酸ガドリニウム等の硝酸塩などを用いて導入することができ、これらは、二種以上を併用しても良い。強磁性粉末の形状に特に制限はないが、通常は針状、粒状、サイコロ状、米粒状及び板状のものなどが使用される。とくに針状の強磁性粉末を使用することが好ましい。
本発明の磁性層に使用する強磁性粉末としては六方晶フェライト粉末も使用できる。
六方晶フェライトとしてバリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトの各置換体、Co置換体等がある。具体的にはマグネトプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部スピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト等が挙げられ、その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nb、Zrなどの原子を含んでもかまわない。例えば、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn,Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを好ましく使用することができる。原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。
粒子サイズは六角板径で好ましくは10〜200nm、より好ましくは20〜100nmである。また、磁気抵抗ヘッドで再生する場合は、低ノイズにする必要があり、板径は40nm以下が好ましい。上記範囲であると、熱揺らぎが生じにくく安定な磁化が得られ、また、ノイズを低く抑えることができるので好ましい。
板状比(板径/板厚)は1〜15が好ましく、より好ましくは2〜7である。板状比が上記範囲であると、十分な配向性が得られ、また、粒子間のスタッキングが少なく、ノイズを低く抑えることができるので好ましい。この粒子サイズ範囲のBET法による比表面積(SBET)は10〜200m2/gを示す。比表面積は概ね粒子板径と板厚からの算術計算値と符合する。
結晶子サイズは、好ましくは50〜450Å(5〜45nm)、より好ましくは100〜350Å(10〜35nm)である。粒子板径・板厚の分布は通常狭いほど好ましい。数値化は困難であるが粒子TEM写真より500粒子を無作為に測定する事で比較できる。分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すとσ/平均サイズ=0.1〜2.0であることが好ましい。粒子サイズ分布をシャープにするには粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。たとえば酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。
磁性体で測定される抗磁力Hcは500 Oe〜5,000 Oe(39.8kA/m〜398kA/m)程度まで作製できる。Hcは高い方が高密度記録に有利であるが、記録ヘッドの能力で制限される。抗磁力Hcは、800 Oe〜4,000 Oe(63.7kA/m〜318.4kA/m)であることが好ましく、より好ましくは1,500 Oe(119.4kA/m)以上3,500 Oe(278.6kA/m)以下である。ヘッドの飽和磁化が1.4テスラーを越える場合は、2,000 Oe以上にすることが好ましい。Hcは粒子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等により制御できる。
飽和磁化σsは40emu/g〜80emu/g(40A・m2/kg〜80A・m2/kg)であることが好ましい。σsは高い方が好ましいが微粒子になるほど小さくなる傾向がある。σs改良のためマグネトプランバイトフェライトにスピネルフェライトを複合すること、含有元素の種類と添加量の選択等が良く知られている。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。
磁性体を分散する際に磁性体粒子表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。表面処理剤は無機化合物、有機化合物が使用される。主な化合物としてはSi、Al、P等の酸化物又は水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。量は磁性体に対して好ましくは0.1〜10%である。
磁性体のpHも分散に重要である。通常4〜12程度であり、分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から6〜10程度が好ましく選択される。磁性体に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが、好ましくは0.01〜2.0%である。
六方晶フェライトの製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後、洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し、1,100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。
また、本発明の磁気記録媒体における磁性層に使用することができる強磁性粉末としては、窒化鉄粒子も使用することができる。
本発明に用いることができる窒化鉄粒子は、Fe及びNを少なくとも構成元素とした球状又は回転楕円状の窒化鉄系磁性体である。ここで、「球状」とは粒子径の最大長/最小長の比が1以上2未満である粒子を意味し、「回転楕円体」とは粒子径の最大長/最小長の比が2以上4未満である粒子を意味する。
以下にこの窒化鉄系磁性体及びその製造方法を説明する。
窒化鉄粒子は、少なくともFe162相を含むことが望ましく、他の窒化鉄の相を含まないことが好ましい。これは、窒化鉄(Fe4NやFe3N相)の結晶磁気異方性は1×10-1J/cm3(1×105erg/cc)程度であるのに対し、Fe162相は2〜7×10-1J/cm3(2〜7×106erg/cc)の高い結晶磁気異方性を有するからである。これにより、微粒子化した際にも高い保磁力を維持することができる。
この高い結晶磁気異方性は、Fe162相の結晶構造に起因する。結晶構造は、N原子がFeの八面体格子間位置に規則的に入った体心正方晶であり、N原子が格子に入る際の歪が、高い結晶磁気異方性の発生原因と考えられる。Fe162相の磁化容易軸は窒化により伸びたC軸である。
Fe162相を含む粒子の形状は球状ないし回転楕円状であることが好ましい。さらに好ましくは球状である。これは、立方晶であるα−Feの等価な3方向のうち一方向が窒化により選ばれc軸(磁化容易軸)となるため、粒子形状が針状であれば、磁化容易軸が短軸方向、長軸方向にある粒子が混在することになり好ましくないからである。一つの粒子の最大径を長軸長、最小径を短軸長として、長軸長/短軸長の軸比の平均値は好ましくは1〜2であり、より好ましくは1〜1.5であり、粒径と記載されたものは長軸長を表すものとする。
磁性体であるFe162相の粒径としては5〜50nmが好ましく、10〜30nmがさらに好ましい。これは、粒径が5nm以上であると、熱揺らぎの影響が小さく、超常磁性化しないため、磁気記録媒体に好適にしようできるためである。また、磁気粘性のためヘッドで高速記録する際の保磁力が高くなり、記録しづらくなることがないので好である。一方、粒径50nm以下であると、飽和磁化を小さくすることができ、記録時の保磁力が適切であり、記録に好適に使用することができるので好ましい。また、粒子サイズ50nm以下であると、磁気記録媒体としたときの粒子性のノイズが低いので好ましい。
粒径分布は、単分散であることが好ましい。これは一般的には、単分散の方が、媒体ノイズが下がるためである。粒径の変動係数は好ましくは20%以下(1〜20%)であり、より好ましくは15%以下(2〜15%)であり、さらに好ましくは、10%以下(2〜10%)である。
なお、本明細書において「粒径の変動係数」とは、円相当径での粒径分布の標準偏差を求め、これを平均粒径で除したものを意味する。また「組成の変動係数」とは、粒径の変動係数と同様に、合金ナノ粒子の組成分布の標準偏差を求め、これを平均組成で除したものを意味する。本発明においては、これらの値を100倍して%表示とする。
粒径及び粒径の変動係数は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した合金ナノ粒子を載せて乾燥させ、TEM(日本電子(株)製1200EX)を用いて10万倍で撮影する。得られたネガを用いて粒径測定器(カールツァイス社製KS−300)により測定される算術平均粒径から算出することができる。
Fe162相を含む粒子において、鉄に対する窒素の含有量は、1.0〜20.0atm%が好ましく、より好ましくは5.0〜18.0atm%、特に好ましくは8.0〜15.0atm%である。これは、窒素の含有量が1.0atm%以上であると、Fe162相の形成量が良好であるためである。また、保磁力増加は窒化による歪に起因しており、窒素の含有量が1.0atm%以上であると、良好な保磁力が得られるためである。また、窒素の含有量が20.0atm%以下であると、Fe162相は準安定相であるため、分解して安定相である他の窒化物となることがあるが、このようなことが生じず、これに起因する、飽和磁化の低下が生じないので好ましい。
微粒子のFe162相は酸化安定性に乏しく、表面化合物相が無ければ発火する懸念がある。そこで、酸化物、窒化物、炭化物からなる表面化合物層を有するコア/シェル構造とすることが好ましく、酸化安定性の観点から、表面化合物層は酸化物であることが好ましい。
表面化合物層は、Fe162相を徐酸化して形成することもできるが、希土類元素あるいはホウ素、シリコン、アルミニウム、リンの中から選ばれた少なくとも1種の元素を含む表面化合物層を用いることが好ましい。
表面化合物層の厚さは1〜5nmが好ましい。表面化合物層の厚さが1nm以上であると、十分な酸化安定性が得られるので好ましい。また、5nm以下であると、磁性粉末中に占める表面化合物層の割合が少なく、粒子サイズを小さくしても、適度な飽和磁化量を維持できるので好ましい。
表面化合物層の組成は、鉄に対する希土類元素あるいはホウ素、シリコン、アルミニウム、リンの総含有量は、0.1〜40.0atm%が好ましく、より好ましくは1.0〜30.0atm%であり、さらに好ましくは3.0〜25.0atm%である。これらの元素の含有量が0.1atm%以上であると、表面化合物層を形成することができ、磁性粉末の磁気異方性が良好であり、また、良好な酸化安定性が得られるので好ましい。またこれらの元素の含有量が40.0atm%以下であると、良好な飽和磁化が得られるので好ましい。
Fe162相の飽和磁化(σs)は、50〜150emu/g(50〜150A・m2/kg)であることが好ましく、70〜130emu/g(70〜130A・m2/kg)であることがより好ましい。飽和磁化が150emu/g(150A・m2/kg)以下であると、記録時の保持力が適当であり、記録ヘッドでの記録に好適に使用できるので好ましい。また、再生においても、MRヘッドが飽和せず、出力の向上が望めるので好ましい。一方、50emu/g(50A・m2/kg)以上であると、良好な再生出力が得られるので好ましい。
また、この磁性粉末は、BET比表面積(SBET)が40〜100m2/gであることが好ましい。これは、BET比表面積が40m2/g以上であると、粒子サイズが適切であり、磁気記録媒体に適用すると粒子性ノイズが低く、また磁性層の表面平滑性が良好であり、良好な再生出力が得られるので好ましい。
また、BET比表面積が100m2/g以下であると、Fe162相を含む粒子が凝集しにくく、均一な分散物を得ることができ、平滑な表面を得ることができるので好ましい。
(α−Feの合成)
Fe162相を含む粒子の製造方法について、説明する。Fe162相はα−Feを窒化することにより得られる。α−Feを得るには鉄系酸化物又は水酸化物(たとえば、ヘマタイト、マグネタイト、ゲータイトなど)を気相中で還元して得る方法と、液相中で合成する方法がある。
まず、気相中で還元する方法について説明する。鉄系酸化物又は水酸化物の平均粒子サイズは、とくに限定されないが、通常は5〜100nm程度であるのが好ましい。粒子サイズが5nm以上であると、還元処理時に粒子間焼結が生じにくく、また粒子サイズが100nm以下であると、還元処理が均質となり、粒子径や磁気特性の制御が良好であるので好ましい。
また、鉄系酸化物又は水酸化物に対して、希土類元素あるいはホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの中から選ばれた少なくとも1種の元素を含む化合物を被着させ、焼結を防止することが好ましい。希土類元素の被着は、アルカリ又は酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素の塩を溶解させ、中和反応などにより原料粉末に希土類元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出することにより行うことができる。ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの中から選ばれた少なくとも1種の元素を含む化合物を被着させる場合は、原料粉末を浸漬した溶液にこれらの化合物を溶解させ、吸着により被着させるか、沈殿析出を行うことにより被着させる。
水酸化物や水和物に対して、希土類元素とホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの中から選ばれた少なくとも1種の元素を同時にあるいは交互に被着させてもよい。また、これらの被着処理を効率良く行うために、還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤などの添加剤を混入させることも好ましく行われる。
次に、化合物を被着させた水酸化物や水和物を、還元性ガス気流中で加熱する。還元ガスは、水素ガス、一酸化炭素ガスを用いることができる。処理後H2Oとなる水素が、環境適性の観点から好ましく用いられる。
還元温度としては、250〜600℃とすることが好ましく、より好ましくは300〜500℃である。この温度範囲では、還元温度が十分に進み、粒子の焼結も防止できるので好ましい。
気相還元での粒子の焼結を避ける方法として、α−Feを液相中で合成する方法が好ましく用いられる。鉄ナノ粒子(大きさがナノオーダーの鉄粒子)の製造法としては、沈殿法で分類すると、1級アルコールを用いるアルコール還元法、2級アルコール、3級アルコール、2価又は3価の多価アルコールを用いるポリオール還元法、熱分解法、超音波分解法、強力還元剤還元法が知られている。さらに、前記製造法は、反応系で分類すると、高分子存在法、高沸点溶媒法、正常ミセル法、逆ミセル法などが知られている。
まず、粒径の制御が容易で単分散の分散物を得やすく、本発明において好ましく用いられる逆ミセル法について説明を行う。
(鉄ナノ粒子の逆ミセル合成法)
次に合金ナノ粒子の製造方法を説明する。
合金ナノ粒子は、1種以上の金属化合物を含む逆ミセル溶液(I)と還元剤を含む逆ミセル溶液(II)とを混合して還元処理を施す還元工程と、必要に応じて前記還元処理後に熟成処理を施す熟成工程とにより製造できる。かかる製造方法により、鉄ナノ粒子が製造される。以下、各工程について説明する。
(還元工程)
まず、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒と1種以上の金属化合物を含む水溶液とを混合した逆ミセル溶液(I)を調製する。逆ミセル溶液(I)は、鉄ナノ粒子を形成するのに用いられる鉄塩が含有される。
前記界面活性剤としては、油溶性界面活性剤が用いられる。具体的には、スルホン酸塩型(例えば、エーロゾルOT(和光純薬製))、4級アンモニウム塩型(例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)、エーテル型(例えば、ペンタエチレングリコールドデシルエーテル)などが挙げられる。
前記界面活性剤を溶解する非水溶性有機溶媒として好ましいものは、アルカン及びエーテルである。アルカンは、炭素数7〜12のアルカン類であることが好ましい。具体的には、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンが挙げられる。一方、エーテルは、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルが好ましい。
非水溶性有機溶媒中の界面活性剤の添加量は、20〜200g/lであることが好ましい。
金属化合物の水溶液に含有される金属化合物としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩、塩素イオンを配位子とする金属錯体の水素酸、塩素イオンを配位子とする金属錯体のカリウム塩、塩素イオンを配位子とする金属錯体のナトリウム塩、シュウ酸イオンを配位子とする金属錯体のアンモニウム塩などが挙げられ、本発明の製造方法では、これらを任意に選択して使用することができる。
各々の金属化合物水溶液中の金属化合物としての濃度は、0.1〜2,000μmol/mlであることが好ましく、1〜500μmol/mlであることがより好ましい。
得られる粒子が均一な組成を有するよう、金属化合物水溶液中にキレート剤を添加することが好ましい。具体的には、DHEG(二ヒドロキシエチルグリシン)、IDA(イミノ二酢酸)、NTP(ニトリロ三プロピオン酸)、HIDA(二ヒドロキシエチルイミノ二酢酸)、EDDP(エチレンジアミン二プロピオン酸二塩酸塩)、BAPTA(二アミノフェニルエチレングリコール四酢酸四カリウム塩水和物)などをキレート剤として使用することが好ましい。また、キレート安定度定数(logK)は、10以下であることが好ましい。
キレート剤の添加量は、金属化合物1モル当たり、0.1〜10モルであることが好ましく、0.3〜3モルであることがより好ましい。
次に、還元剤を含む逆ミセル溶液(II)を調製する。逆ミセル溶液(II)は、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒と還元剤水溶液とを混合させて調製することができる。2種以上の還元剤を用いる場合、これらを一緒に混合して逆ミセル溶液(II)としてもよいが、溶液の安定性や作業性等を考慮し、それぞれ別々に非水溶性有機溶媒に混合して、別々の逆ミセル溶液((II’)、(II”)等)として調製し、これらを適宜混合等して使用することが好ましい。
還元剤水溶液は、例えば、アルコール類;ポリアルコール類;H2;HCHO、S26 2-、H2PO2 -、BH4 -、N25 +、H2PO3 -等と水とからなり、これらの還元剤を単独又は2種以上を併用することが好ましい。
水溶液中の還元剤量は、金属塩1モルに対して3〜50モルであることが好ましい。
逆ミセル溶液(II)で用いられる界面活性剤及び非水性有機溶媒としては、逆ミセル溶液(I)で用いたものを挙げることができる。
逆ミセル溶液(I)及び(II)のそれぞれに含有される水及び界面活性剤の重量比(水/界面活性剤)は、20以下とすることが好ましい。重量比が20以下であれば、沈殿が発生しにくく、かつ均一の粒子を得ることができるので好ましい。重量比は、15以下であることがより好ましく、0.5〜10であることがさらに好ましい。
逆ミセル溶液(I)と(II)の水及び界面活性剤の重量比は同一でも異なっていてもかまわないが、系を均一にするために重量比は同一であることが好ましい。
以上のようにして調製した逆ミセル溶液(I)と(II)とを混合する。混合方法は特に限定されるものではないが、還元の均一性を考慮して、逆ミセル溶液(I)を撹拌しながら、逆ミセル溶液(II)を添加して混合することが好ましい。混合終了後、還元反応を進行させることになるが、その際の温度は−5〜30℃の範囲で一定の温度とすることが好ましい。還元温度が−5℃以上であれば、水相が凝結することもなく還元反応を均一にすることができ、また30℃以下であれば、凝集又は沈殿が起こりにくく、系を安定化させることができるので好ましい。より好ましい還元温度は0〜25℃であり、さらに好ましくは5〜25℃である。
ここで、前記「一定温度」とは、設定温度をT(℃)とした場合、温度がT±3℃の範囲にあることをいう。なお、このようにした場合であっても、当該Tの上限及び下限は、上記還元温度(−5〜30℃)の範囲にあるものとする。
還元反応の時間は、逆ミセル溶液(I)及び(II)の量等により適宜設定する必要があるが、1〜30分とすることが好ましく、5〜20分とすることがより好ましい。
還元反応は、合金の粒径分布の単分散性に大きな影響を与えるため、できるだけ高速撹拌(例えば約3,000rpm以上)しながら行うことが好ましい。
好ましい撹拌装置は高剪断力を有する撹拌装置であり、詳しくは撹拌羽根が基本的にタービン型あるいはパドル型の構造を有し、さらに、その羽根の端又は羽根と接する位置に鋭い刃を付けた構造であり、羽根をモーターで回転させる撹拌装置である。具体的には、ディゾルバー(特殊機化工業(株)製)、オムニミキサー(ヤマト科学(株)製)、ホモジナイザー((株)SMT製)などの装置が有用である。これらの装置を用いることにより、単分散なナノ粒子を安定な分散液として合成することができるので好ましい。
前記逆ミセル溶液(I)及び(II)の反応後に、アミノ基又はカルボキシ基を1〜3個有する少なくとも1種の分散剤を、作製しようとする合金ナノ粒子1モル当たりに0.001〜10モル添加することが好ましい。分散剤の添加量は、0.001〜10モルであれば、合金ナノ粒子の単分散性をより向上させることができ、かつ凝集も起こらないので好ましい。
前記分散剤としては、合金ナノ粒子表面に吸着する基を有する有機化合物が好ましい。具体的には、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基又はスルフィン酸基を1〜3個有するものであり、これらを単独又は併用して用いることができる。
構造式としては、R−NH2、H2N−R−NH2、H2N−R(NH2)−NH2、R−COOH、HOCO−R−COOH、HOCO−R(COOH)−COOH、R−SO3H、HOSO2−R−SO3H、HOSO2−R(SO3H)−SO3H、R−SO2H、HOSO−R−SO2H、HOSO−R(SO2H)−SO2Hで表される化合物であり、式中のRは直鎖、分岐若しくは環状の飽和又は不飽和の炭化水素残基である。
分散剤として特に好ましい化合物はオレイン酸である。オレイン酸はコロイドの安定化において周知の界面活性剤であり、鉄ナノ粒子を保護するのに用いられる。オレイン酸の比較的長い鎖は粒子間の強い磁気相互作用を打ち消す重要な立体障害を与える(オレイン酸は18炭素鎖を有し、長さは2nm程度(20オングストローム程度)であり、二重結合を1つ有する。)。オレイン酸は、例えばオリーブ油などから容易に入手できる安価な天然資源であるため好ましい。また、オレイン酸から誘導されるオレイルアミンもオレイン酸同様有用な分散剤である。
その他、エルカ酸やリノール酸など類似の長鎖カルボン酸もオレイン酸と同様に用いることができる(例えば、8〜22の炭素原子を有する長鎖有機酸を単独又は組み合わせて用いることができる。)。
分散剤の添加時期は、特に限定されるものではないが、還元反応直後から下記の熟成工程開始までの間であることが好ましい。かかる分散剤を添加することで、より単分散で、凝集のない鉄ナノ粒子を得ることができる。
(熟成工程)
本発明の製造方法は、前記還元反応が終了した後、さらに反応後の溶液を熟成温度まで昇温させる熟成工程を有する。
熟成温度は、30〜90℃の間で一定の温度とすることが好ましく、その温度は、前記還元反応の温度より高くすることが適当である。また、熟成時間は、5〜180分とすることが好ましい。熟成温度及び熟成時間が上記範囲内であれば、凝集や沈殿が起こり難く、かつ反応を完結させ、組成を一定にすることができるので好ましい。より好ましい熟成温度及び熟成時間は40〜80℃、10〜150分であり、さらに好ましい熟成温度及び熟成時間は40〜70℃、20〜120分である。
ここで、前記「一定温度」とは、還元反応の温度の場合と同義(但し、この場合、「還元温度」は「熟成温度」となる。)であるが、特に、上記熟成温度の範囲(30〜90℃)内で、前記還元反応の温度より5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。当該温度を5℃以上高くすることにより、処方通りの組成を得ることができるので好ましい。
以上のような熟成工程では、熟成時の温度で撹拌速度を適宜調整することにより、所望の粒径を有する鉄ナノ粒子を作製することができる。
前記熟成を行った後は、水と1級アルコールとの混合溶液で前記熟成後の溶液を洗浄し、その後、1級アルコールで沈殿化処理を施して沈殿物を生成させ、該沈殿物を有機溶媒で分散させる洗浄・分散工程を設けることが好ましい。かかる洗浄・分散工程を設けることにより、不純物が除去され、磁気記録媒体の磁性層形成時の塗布性をより向上させることができる。
上記洗浄及び分散は、少なくともそれぞれ1回、好ましくはそれぞれ2回以上行う。
洗浄で用いられる1級アルコールは、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール等が好ましい。水と1級アルコールの体積混合比(水/1級アルコール)は、10/1〜2/1の範囲にあることが好ましく、5/1〜3/1の範囲にあることがより好ましい。水の比率が高いと、界面活性剤が除去されにくくなることがあり、逆に1級アルコールの比率が高いと、凝集を起こしてしまうことがある。
鉄を還元析出あるいは熱析出させる際に保護コロイドを存在させる事でナノ粒子を安定して調製することができる。熱析出には鉄カルボニルを熱分解して鉄を得る方法が知られている。保護コロイドとしてはポリマーや界面活性剤を使用することが好ましい。前記ポリマーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリN−ビニル−2−ピロリドン(PVP)、ゼラチン等が挙げられる。なかでも、特に好ましくはPVPである。また、分子量は2万〜6万が好ましく、より好ましくは3万〜5万である。ポリマーの量は生成する硬磁性ナノ粒子の重量の0.1〜10倍であることが好ましく、0.1〜5倍がより好ましい。
保護コロイドとして好ましく用いられる界面活性剤は、式:R−Xで表される長鎖有機化合物である「有機安定剤」を含むことが好ましい。上記式中のRは、直鎖若しくは分岐ハイドロカーボン又はフルオロカーボン鎖である「テール基」であり、通常8〜22個の炭素原子を含む。また、上記式中のXは、ナノ粒子表面に特定の化学結合を提供する部分(X)である「ヘッド基」であり、スルフィネート(−SOOH)、スルホネート(−SO2OH)、ホスフィネート(−POOH)、ホスホネート(−OPO(OH)2)、カルボキシレート、及び、チオールのいずれかであることが好ましい。
前記有機安定剤としては、スルホン酸類(R−SO2OH)、スルフィン酸類(R−SOOH)、ホスフィン酸類(R2POOH)、ホスホン酸類(R−OPO(OH)2)、カルボン酸類(R−COOH)、チオール類(R−SH)等のいずれかであることが好ましい。これらの中でも、オレイン酸が特に好ましい。
オレイン酸はコロイドの安定化において周知の界面活性剤であり、鉄系ナノ粒子の保護に好適である。オレイン酸は18炭素鎖を有し、その長さは〜20オングストローム(〜2nm)である。また、オレイン酸には脂肪族ではなく二重結合が1つ存在する。そして、オレイン酸の比較的長い鎖は粒子間の強い磁気相互作用を打ち消す重要な立体障害を与える。エルカ酸やリノール酸など類似の長鎖カルボン酸もオレイン酸同様に(例えば、8〜22の間の炭素原子を有する長鎖有機酸を単独で又は組み合わせて用いることができる)用いられてきが、オレイン酸は(オリーブ油など)容易に入手できる安価な天然資源であるので、特に好ましい。
前記ホスフィンと有機安定剤との組み合わせ(トリオルガノホスフィン/酸等)は、粒子の成長及び安定化に対する優れた制御性を提供することができる。ジデシルエーテル及びジドデシルエーテルも用いることができるが、フェニルエーテル又はn−オクチルエーテルはその低コスト及び高沸点のため溶媒として好適に用いられる。
反応は必要なナノ粒子及び溶媒の沸点により80℃〜360℃の範囲の温度で行うことが好ましく、80℃〜240℃がより好ましい。温度が上記範囲であると、粒子が十分成長し、また、粒子の成長に対する制御性に優れ、副産物の生成が抑制することができる。
粒子サイズを大きくするため、種晶法を用いることが好ましい。その際、種晶の鉄粒子の酸化が懸念されるため、予め粒子を水素化処理することが好ましい。
鉄ナノ粒子合成後に溶液から塩類を除くことは、ナノ粒子の分散安定性を向上させる意味から好ましい。脱塩にはアルコールを過剰に加え、軽凝集を起こし、自然沈降あるいは遠心沈降させ塩類を上澄みと共に除去する方法があるが、このような方法では凝集が生じやすいため、限外濾過法を採用することが好ましい。
(窒化処理)
窒化処理に先立ち、鉄ナノ粒子の酸化が懸念される場合には、水素あるいは水素と不活性ガス(H2、Ar、He等)との混合ガス気流中還元処理を行うことができる。温度としては200℃〜300℃が好ましく、より好ましくは250℃〜300℃である。上記範囲であると、粒子の融着が起こらず、また、十分に還元することができるので好ましい。
鉄ナノ粒子を窒素含有ガス気流中で加熱することでFe162相を得ることができる。
窒化ガスについては、窒素ガス、窒素+水素の混合ガス、アンモニアガス等が使用できるが、アンモニアガスが使用に便宜である。
NH3雰囲気中での窒化処理は、アンモニア(NH3)気流中あるいはアンモニアガスを含んだ混合ガス気流中(例えばアルゴン、水素、窒素のいずれか一つ以上のガスを含んだ、アンモニアガスとの混合ガス)で行うのが好ましく、しかも100〜250℃の比較的低温度域で行うのがより好ましい。窒化処理温度が上記範囲であると、Fe162相が十分得られ、また、Fe162相生成の進行が十分速い。なお、これらのガスは高純度(5N以上)もしくは酸素量が数ppm以下であることが好ましい。
100〜250℃の温度範囲で0.5〜48時間の範囲が工業的に好ましく、処理時間は粒径にも依存するが、0.5〜24時間で処理することがより好ましい。
このような窒化処理にあたり、得られる磁性粉末中の鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが好ましい。上記窒素の量が1.0原子%以上であると、Fe162の生成量が良好であり、保磁力向上の効果が得られるので好ましい。また上記窒素の量が20原子%以下であると、Fe4NやFe3N相などが形成されにくく、良好な保磁力が得られ、また、飽和磁化の低下を引き起こしにくいので好ましい。
(酸化皮膜)
酸化皮膜を形成するには酸素濃度1〜5%の不活性ガス(N2、Ar、He、Ne等)の雰囲気下で0〜100℃の温度で1〜10時間処理することにより前述の厚みの酸化皮膜を形成することができる。
希土類元素を被着するには、通常は、アルカリ又は酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素の塩を溶解させ、中和反応などにより、Fe162を主に含む粒子に希土類元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させるようにすればよい。
また、シリコンやアルミニウムさらに必要によりホウ素やリンなどの元素で構成された化合物を溶解させ、これにFe162を主に含む粒子を浸漬して、Fe162を主に含む粒子に対して、シリコンやアルミニウムなどを被着させるようにしてもよい。これらの被着処理を効率良く行うため、還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤などの添加剤を混入させてもよい。
これらの被着処理として、希土類元素とシリコン、アルミニウムなどを同時にあるいは交互に被着させるようにしてもよい。
<結合剤(バインダー)>
本発明において、磁性層に用いることができる結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物が使用される。
熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が好ましくは−100〜150℃、数平均分子量が好ましくは1,000〜200,000、より好ましくは10,000〜100,000、重合度が好ましくは50〜1,000である。
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル等を構成単位として含む重合体又は共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂が挙げられる。
また、熱硬化性樹脂又は反応型樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。
これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を非磁性層(下層)、又は、磁性層(上層)に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独又は組み合わせて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、及び、ニトロセルロースよりなる群から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組み合わせ、又はこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものが挙げられる。
前記結合剤の具体的な例としては、ユニオンカーバイト社製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業社製MPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、電気化学社製1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、日本ゼオン社製MR110、MR100、400X110A、日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209、東洋紡社製UバイロンR8200、UR8300、RV530、RV280、大日精化社製ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020、三菱化成社製MX5004、三洋化成社製サンプレンSP−150、旭化成社製サランF310、F210などが挙げられる。
磁性層に用いることができる結合剤としては、上記の中でも、塩化ビニル系バインダー、又は、ポリウレタン系バインダーが好ましく、特に好ましくは極性基を含有し骨格に芳香環を3.5mmol/g〜7mmol/g含むポリウレタンである。
前記ポリウレタン系バインダーとしては、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリエーテルエステルウレタン、アクリル系ポリウレタン等を好適に用いることができる。前記のポリウレタン系バインダーは上記潤滑剤との親和性が高く表面潤滑剤量を最適な範囲に制御することができるため好ましい。
結合剤が有していてもよい極性基としては、スルホン酸塩、スルファミン酸塩、スルホベタイン、リン酸塩、ホスホン酸塩などが好ましい。極性基の量は1×10-5eq/g〜2×10-4eq/gが好ましい。
磁性層のバインダー量は、硬化剤を含めて強磁性粉末100重量部に対し10〜25重量部であることが好ましく、非磁性層(非磁性下層)のバインダー量は、非磁性粉末100重量部に対し25〜40重量部であることが好ましく、また、磁性層及び非磁性層のバインダー量は下層の方にバインダー量を多くすることが好ましい。
特に非磁性層用バインダーは、SO3Naのような強い極性基と骨格に芳香環を多く含有する骨格を有することが好ましい。これにより潤滑剤と非磁性層バインダーとの親和性がより高まり、潤滑剤が非磁性層に多く且つ安定的に存在することができる。
潤滑剤とバインダーとの親和性が適度であると、バインダーと潤滑剤とが完全に分子レベルで相溶せず、潤滑剤は上層に移行することができるため好ましい。
<研磨剤>
本発明の磁気記録媒体における磁性層は、研磨剤を含有することが好ましい。
研磨剤としては無機質非磁性粉末が使用できる。無機質非磁性粉末としては、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の無機質化合物から選択することができる。無機質化合物としては例えば、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどを単独又は組合せて使用することができる。特に好ましいのは、α−アルミナ、べんがら、酸化クロムである。炭酸カルシウムは水溶性金属イオンの供給源となるので好ましくない。本発明において用いられる研磨剤は、磁性層表面の特性が所望の範囲になるように、種類、量、粒径、組み合わせ、形状等を種々変えて使用することが好ましい。
研磨剤を1種のみ使用する場合、本発明で使用する研磨剤の粒径は、平均粒径0.05〜0.4μmのものが好ましく、平均粒径0.1〜0.3μmのものがより好ましい。平均粒径より0.1μm以上大きい粒径の粒子が1〜40%存在していることが好ましく、5〜30%であることがより好ましく、10〜20%であることが最も好ましい。この研磨剤単体での粒子サイズは、実際の磁性層表面に存在している研磨剤粒子の粒子サイズに影響は与えるが等しくはない。磁性層表面に存在する研磨剤粒子の粒子サイズは研磨剤の分散条件等よっても変化するし、塗布乾燥工程でも磁性層表面に出やすい粒子と出にくい粒子がある。
平均粒径の異なる2種以上の研磨剤を組み合わせて使用することもできる。この場合は使用する2種以上の研磨剤の実際の使用比率に応じた加重平均値において、平均粒径と平均粒径より0.1μm以上大きい粒径の粒子が上記の範囲になるようにすることができる。また、2種の研磨剤それぞれの分散条件を変えて、粒子サイズを制御することもできる。例えば研磨剤Aをあらかじめ結合剤と溶剤とともに分散しておき、これと、粉体のままの研磨剤Bを、別途結合剤と溶剤とともに混練処理した強磁性金属粉末の混練処理液に添加して、分散処理を行えば、研磨剤Aと研磨剤Bで分散処理条件を違えることができる。すなわち、Bに比べてAは強く分散される。研磨剤粉末のタップ密度は0.05〜2g/mlであることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.5g/mlである。研磨剤粉末の含水率は好ましくは0.05〜5重量%、より好ましくは0.2〜3重量%である。研磨剤の比表面積は好ましくは1〜100m2/g、より好ましくは5〜50m2/gである。DBP(ジブチルフタレート)を用いた吸油量は好ましくは5〜100ml/100g、より好ましくは10〜80ml/100gである。比重は好ましくは1〜12、より好ましくは3〜6である。形状は針状、球状、多面体状、板状のいずれでもよい。これらの研磨剤の表面は、当該研磨剤の主成分とは異なる化合物で、その少なくとも一部が被覆されていてもよい。この例として、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOを挙げることができる。特にAl23、SiO2、TiO2、ZrO2を用いると分散性が良好になる。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いてもよい。
本発明の磁性層に用いる研磨剤の粉末の具体例としては、昭和電工(株)製のナノタイト;住友化学工業(株)製のHit100、Hit82、Hit80、Hit70、Hit60A、Hit55、AKP20、AKP30、AKP50、ZA−G1;レイノルズ製のERC−DBM、HP−DBM、HPF−DBM、HPFX−DBM、HPS−DBM、HPSX−DBM;不二見研摩材製のWA8000、WA10000;上村工業(株)製のUB20、UB40B、メカノックスU4;昭和軽金属(株)製のUA2055、UA5155、UA5305;日本化学工業(株)製のG−5、クロメックスM、クロメックスS1、クロメックスU2、クロメックスU1、クロメックスX10、クロメックスKX10;日本電工(株)製のND803、ND802、ND801;東ソー(株)製のF−1、F−2、UF−500;戸田工業(株)製のDPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BXTF−100、TF−120、TF−140、DPN−550BX、TF−180;昭和鉱業(株)製のA−3、B−3;セントラル硝子(株)製のベータSiC、UF;イビデン(株)製のベータランダムスタンダード、ベータランダムウルトラファイン;帝国化工製のJR401、MT500B;石原産業(株)製のTY−50、TTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、E270、E271;チタン工業(株)製のSTT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C;テイカ(株)製のMT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、MT−600B、MT−100F、MT−500HD;堺化学工業(株)製のFINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M;北開化学製のHZn、HZr3M、同和鉱業(株)製のDEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル(株)製のAS2BM、TiO2P25;宇部興産(株)製の100A、500A;チタン工業(株)製のY−LOP及びそれを焼成したものが挙げられる。
<添加剤>
本発明の磁気記録媒体における磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。
これら添加剤としては、例えば、二硫化タングステン、グラファイト、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基を持つシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸基、フェネチルホスホン酸、α−メチルベンジルホスホン酸、1−メチル−1−フェネチルホスホン酸、ジフェニルメチルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ベンジルフェニルホスホン酸、α−クミルホスホン酸、トルイルホスホン酸、キシリルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、クメニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ヘプチルフェニルホスホン酸、オクチルフェニルホスホン酸、ノニルフェニルホスホン酸等の芳香族環含有有機ホスホン酸及びそのアルカリ金属塩、オクチルホスホン酸、2−エチルヘキシルホスホン酸、イソオクチルホスホン酸、イソノニルホスホン酸、イソデシルホスホン酸、イソウンデシルホスホン酸、イソドデシルホスホン酸、イソヘキサデシルホスホン酸、イソオクタデシルホスホン酸、イソエイコシルホスホン酸等のアルキルホスホン酸及びそのアルカリ金属塩、リン酸フェニル、リン酸ベンジル、リン酸フェネチル、リン酸α−メチルベンジル、リン酸1−メチル−1−フェネチル、リン酸ジフェニルメチル、リン酸ビフェニル、リン酸ベンジルフェニル、リン酸α−クミル、リン酸トルイル、リン酸キシリル、リン酸エチルフェニル、リン酸クメニル、リン酸プロピルフェニル、リン酸ブチルフェニル、リン酸ヘプチルフェニル、リン酸オクチルフェニル、リン酸ノニルフェニル等の芳香族リン酸エステル及びそのアルカリ金属塩、リン酸オクチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソオクチル、リン酸イソノニル、リン酸イソデシル、リン酸イソウンデシル、リン酸イソドデシル、リン酸イソヘキサデシル、リン酸イソオクタデシル、リン酸イソエイコシル等のリン酸アルキルエステル及びそのアルカリ金属塩、アルキルスルホン酸エステル及びそのアルカリ金属塩、フッ素含有アルキル硫酸エステル及びそのアルカリ金属塩、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸ブチル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルカ酸等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していてもよい一塩基性脂肪酸及びこれらの金属塩、又は、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブトキシエチル、アンヒドロソルビタンモノステアレート、アンヒドロソルビタンジステアレート、アンヒドロソルビタントリステアレート等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していてもよい一塩基性脂肪酸と炭素数2〜22の不飽和結合を含んでも分岐していてもよい1〜6価アルコール、炭素数12〜22の不飽和結合を含んでも分岐していてもよいアルコキシアルコール又はアルキレンオキサイド重合物のモノアルキルエーテルのいずれか一つとからなるモノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エステル又は多価脂肪酸エステル、炭素数2〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミンなどが使用できる。また、上記炭化水素基以外にもニトロ基及びF、Cl、Br、CF3、CCl3、CBr3等の含ハロゲン炭化水素等炭化水素基以外の基が置換したアルキル基、アリール基、アラルキル基を持つものでもよい。
また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフエノールエチレンオキサイド付加体等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウム又はスルホニウム類等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル基等の酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸又はリン酸エステル類、アルキルベタイン型等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。
上記分散剤、併用してもよい潤滑剤等の添加剤は必ずしも純粋ではなく主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれても構わない。これらの不純分は30重量%以下が好ましく、さらに好ましくは10重量%以下である。
これらの添加物の具体例としては、例えば、日本油脂社製:NAA−102、ヒマシ油硬化脂肪酸、NAA−42、カチオンSA、ナイミーンL−201、ノニオンE−208、アノンBF、アノンLG、竹本油脂社製:FAL−205、FAL−123、新日本理化社製:エヌジェルブOL、信越化学社製:TA−3、ライオンアーマー社製:アーマイドP、ライオン社製:デュオミンTDO、日清製油社製:BA−41G、三洋化成社製:プロファン2012E、ニューポールPE61、イオネットMS−400等が挙げられる。
本発明の磁気記録媒体における磁性層で用いられる有機溶剤は、公知のものが使用できる。有機溶剤は、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾールなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロロヒドリン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン、テトラヒドロフラン等を使用することができる。
これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下である。本発明で用いる有機溶媒は磁性層と非磁性層でその種類は同じであることが好ましい。その添加量は変えてもかまわない。非磁性層に表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の安定性を上げる、具体的には磁性層(上層)溶剤組成の算術平均値が非磁性層溶剤組成の算術平均値を下回らないことが肝要である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
本発明の磁気記録媒体における磁性層で用いられるこれらの分散剤、界面活性剤は磁性層及び後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じ使い分けることができる。例えば、無論ここに示した例のみに限られるものではないが、分散剤は極性基で吸着もしくは結合する性質を有しており、磁性層においては主に強磁性粉末の表面に、また後述する非磁性層においては主に非磁性粉末の表面に前記の極性基で吸着もしくは結合し、一度吸着した有機リン化合物は金属あるいは金属化合物等の表面から脱着しがたいと推察される。したがって、本発明の強磁性粉末表面あるいは後述する非磁性粉末表面は、アルキル基、芳香族基等で被覆されたような状態になるので、強磁性粉末あるいは非磁性粉末の結合剤樹脂成分に対する親和性が向上し、さらに強磁性粉末あるいは非磁性粉末の分散安定性も改善される。また、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させるなどが考えられる。また本発明で用いられる添加剤のすべて又はその一部は、磁性層あるいは非磁性層用塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
また、本発明の磁気記録媒体における磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。
カーボンブラックの種類はゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。放射線硬化層のカーボンブラックは所望する効果によって、以下のような特性を最適化すべきであり、併用することでより効果が得られることがある。
カーボンブラックの比表面積は、好ましくは100〜500m2/g、より好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、好ましくは20〜400ml/100g、より好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
本発明に用いることができるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000,1300,1000,900,800,880,700、VULCAN XC−72、三菱化成工業社製#3050B,#3150B,#3250B,#3750B,#3950B,#950,#650B,#970B,#850B,MA−600,MA−230,#4000,#4010、コロンビアカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN 8800,8000,7000,5750,5250,3500,2100,2000,1800,1500,1255,1250、アクゾー社製ケッチェンブラックEC、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。
カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。本発明で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
これらのカーボンブラックは単独又は組み合わせで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合、磁性体の重量に対して0.1〜30重量%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。したがって本発明で使用されるこれらのカーボンブラックは、磁性層でその種類、量、組み合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性を基に目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。
II.非磁性層
次に、非磁性層(本発明において、非磁性下層、下層塗布層ともいう)に関する詳細な内容について説明する。
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末を結合剤に分散させた少なくとも1層の非磁性層を有していてもよい。
本発明において、非磁性層と磁性層とを非磁性支持体上に同時に塗布することもでき、又は逐次に塗布することもできる。いずれにしても、非磁性層は、磁性層よりも支持体に近い側にあり、磁性層を上層と呼び、非磁性層を下層と呼ぶのはこのためである。
<非磁性粉末>
非磁性層に使用する非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、非磁性層には非磁性粉末と共に、必要に応じてカーボンブラックを混合してもよい。
本発明における下層塗布層に用いられる無機粉末は、非磁性粉末であり、例えば、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の無機質化合物から選択することができる。
無機化合物としては例えばα化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカ−バイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどが単独又は組み合わせで使用される。特に好ましいのは、粒度分布の小ささ、機能付与の手段が多いこと等から、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウムであり、さらに好ましいのは二酸化チタン、α酸化鉄である。
これら非磁性粉末の粒子サイズは0.005〜2μmが好ましいが、必要に応じて粒子サイズの異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましいのは非磁性粉末の粒子サイズは0.01μm〜0.2μmである。特に、非磁性粉末が粒状金属酸化物である場合は、平均粒子径0.08μm以下が好ましく、針状金属酸化物である場合は、長軸長が0.3μm以下であることが好ましい。タップ密度は、好ましくは0.05〜2g/ml、より好ましくは0.2〜1.5g/mlである。非磁性粉末の含水率は、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.2〜3重量%、さらに好ましくは0.3〜1.5重量%である。非磁性粉末のpHは好ましくは2〜11であるが、pHは5.5〜10の間が特に好ましい。非磁性粉末の比表面積は、好ましくは1〜100m2/g、より好ましくは5〜80m2/g、さらに好ましくは10〜70m2/gである。非磁性粉末の結晶子サイズは0.004μm〜1μmが好ましく、0.04μm〜0.1μmがさらに好ましい。DBP(ジブチルフタレート)を用いた吸油量は、好ましくは5〜100ml/100g、より好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、好ましくは1〜12、より好ましくは3〜6である。形状は針状、球状、多面体状、板状のいずれでも良い。
強熱減量は20重量%以下であることが好ましく、本来ないことが最も好ましいと考えられる。本発明に用いられる上記非磁性粉末のモース硬度は4以上10以下のものが好ましい。これらの粉体表面のラフネスファクターは0.8〜1.5が好ましく、さらに好ましいラフネスファクターは0.9〜1.2である。非磁性粉末のSA(ステアリン酸)吸着量は、好ましくは1〜20μmol/m2、より好ましくは2〜15μmol/m2、さらに好ましくは3〜8μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は200erg/cm2〜600erg/cm2(20μJ/cm2〜60μJ/cm2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。pHは3〜6の間にあることが好ましい。非磁性粉末の水溶性Naは0〜150ppm、水溶性Caは0〜50ppmであることが好ましい。
これらの非磁性粉末の表面にはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnO、Y23で表面処理することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用しても良いし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いても良いし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、又はその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
本発明の磁気記録媒体における下層塗布層(非磁性層)に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100,ZA−G1、戸田工業社製αヘマタイトDPN−250,DPN−250BX,DPN−245,DPN−270BX,DBN−SA1,DBN−SA3、石原産業製酸化チタンTTO−51B,TTO−55A,TTO−55B,TTO−55C,TTO−55S,TTO−55D,SN−100、αヘマタイトE270,E271,E300,E303、チタン工業製酸化チタンSTT−4D,STT−30D,STT−30,STT−65C、αヘマタイトα−40、テイカ製MT−100S,MT−100T,MT−150W,MT−500B,MT−600B,MT−100F,MT−500HD、堺化学製FINEX−25,BF−1,BF−10,BF−20,ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y,DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM,TiO2P25、宇部興産製100A,500A、及びそれを焼成したものが挙げられる。
特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
α−酸化鉄(ヘマタイト)は以下のような諸条件の基で実施される。即ち、本発明に用いることができるα−Fe23粒子粉末は、通常の(1)第一鉄水溶液に等量以上水酸化アルカリ水溶液を加えて得られる水酸化第一鉄コロイドを含む懸濁液をpH11以上にて80℃以下の温度で酸素含有ガスを通気して酸化反応を行うことにより針状ゲータイト粒子を生成させる方法、(2)第一鉄塩水溶液と炭酸アルカリ水溶液とを反応させて得られるFeCO3を含む懸濁液に酸素含有ガスを通気して酸化反応を行うことにより紡錘状を呈したゲータイト粒子を生成させる方法、(3)第一鉄塩水溶液に等量未満の水酸化アルカリ水溶液又は炭酸アルカリ水溶液を添加して得られる水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液に酸素含有ガスを通気して酸化反応を行うことにより針状ゲータイト核粒子を生成させ、次いで、該針状ゲータイト核粒子を含む第一鉄塩水溶液に、該第一鉄塩水溶液中のFe2+に対し等量以上の水酸化アルカリ水溶液を添加した後、酸素含有ガスを通気して前記針状ゲータイト核粒子を成長させる方法、及び(4)第一鉄水溶液と等量未満の水酸化アルカリ又は炭酸アルカリ水溶液を添加して得られる水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液に酸素含有ガスを通気して酸化反応を行うことにより針状ゲータイト核粒子を生成させ、次いで、酸性乃至中性領域で前記針状ゲータイト核粒子を成長させる方法等により得られた針状ゲータイト粒子を前駆体粒子とする。
なお、ゲータイト粒子の生成反応中に粒子粉末の特性向上等のために通常添加されているNi、Zn、P、Si等の異種元素が添加されていても支障はない。前駆体粒子である針状ゲータイト粒子を200〜500℃の温度範囲で脱水するか、必要に応じて、さらに350〜800℃の温度範囲で加熱処理により焼き鈍しをして針状α−Fe23粒子を得る。なお、脱水又は焼き鈍しされる針状ゲータイト粒子の表面にP、Si、B、Zr、Sb等の焼結防止剤が付着していても支障はない。350〜800℃の温度範囲で加熱処理により焼き鈍しをするのは、脱水されて得られた針状α−Fe23粒子の粒子表面に生じている空孔を焼き鈍しにより、粒子の極表面を溶融させて空孔をふさいで平滑な表面形態とさせることが好ましいからである。
本発明において用いられるα−Fe23粒子粉末は前記脱水又は焼き鈍しをして得られた針状α−Fe23粒子を水溶液中に分散して懸濁液とし、Al化合物を添加しpH調整をして前記α−Fe23粒子の粒子表面に前記添加化合物を被覆した後、濾過、水洗、乾燥、粉砕、必要によりさらに脱気・圧密処理等を施すことにより得られる。
用いられるAl化合物は酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩やアルミン酸ソーダ等のアルミン酸アルカリ塩を使用することができる。
この場合のAl化合物添加量はα−Fe23粒子粉末に対してAl換算で0.01〜50重量%である。上記範囲であると、結合剤樹脂中における分散が十分であり、粒子表面に浮遊するAl化合物同士が少なく、Al化合物同士が相互作用しにくいため好ましい。
本発明における非磁性層(下層)の非磁性粉末においては、Al化合物とともにSi化合物を始めとして、P、Ti、Mn、Ni、Zn、Zr、Sn、Sbから選ばれる化合物の1種又は2種以上を用いて被覆することもできる。Al化合物とともに用いるこれらの化合物の添加量はそれぞれα−Fe23粒子粉末に対して0.01〜50重量%の範囲であることが好ましい。上記範囲であると、添加による分散性向上の効果が十分得られ、また、粒子表面以外に浮遊する化合物同士が少なく、前記化合物同士が相互作用しにくいため好ましい。
二酸化チタンの製法に関しては以下の通りである。これらの酸化チタンの製法は主に硫酸法と塩素法がある。硫酸法はイルミナイトの源鉱石を硫酸で蒸解し、Ti,Feなどを硫酸塩として抽出する。硫酸鉄を晶析分離して除き、残りの硫酸チタニル溶液を濾過精製後、熱加水分解を行って、含水酸化チタンを沈殿させる。これを濾過洗浄後、夾雑不純物を洗浄除去し、粒径調節剤などを添加した後、80〜1,000℃で焼成すれば粗酸化チタンとなる。ルチル型とアナターゼ型は加水分解の時に添加される核剤の種類によりわけられる。この粗酸化チタンを粉砕、整粒、表面処理などを施して作製する。塩素法の原鉱石は天然ルチルや合成ルチルが用いられる。鉱石は高温還元状態で塩素化され、TiはTiCl4に、FeはFeCl2となり、冷却により固体となった酸化鉄は液体のTiCl4と分離される。得られた粗TiCl4は精留により精製した後核生成剤を添加し、1,000℃以上の温度で酸素と瞬間的に反応させ、粗酸化チタンを得る。この酸化分解工程で生成した粗酸化チタンに顔料的性質を与えるための仕上げ方法は硫酸法と同じである。
表面処理は上記酸化チタン素材を乾式粉砕後、水と分散剤を加え、湿式粉砕、遠心分離により粗粒分級が行われる。その後、微粒スラリーは表面処理槽に移され、ここで金属水酸化物の表面被覆が行われる。まず、所定量のAl、Si、Ti、Zr、Sb、Sn、Znなどの塩類水溶液を加え、これを中和する酸、又はアルカリを加えて、生成する含水酸化物で酸化チタン粒子表面を被覆する。副生する水溶性塩類はデカンテーション、濾過、洗浄により除去し、最終的にスラリーpHを調節して濾過し、純水により洗浄する。洗浄済みケーキはスプレードライヤー又はバンドドライヤーで乾燥される。最後にこの乾燥物はジェットミルで粉砕され、製品になる。
また、水系ばかりでなく酸化チタン粉体にAlCl3、SiCl4の蒸気を通じその後水蒸気を流入してAl、Si表面処理を施すことも可能である。その他の顔料の製法については、G. D. Parfitt and K. S. W. Sing”Characterization of Powder Surfaces”Academic Press, 1976を参考にすることができる。
非磁性層(下層塗布層)にカ−ボンブラックを混合させて公知の効果である表面電気抵抗Rsを下げること、光透過率を小さくすることができるとともに、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。また、非磁性層(下層)にカーボンブラックを含ませることで潤滑剤貯蔵の効果をもたらすことも可能である。カーボンブラックの種類はゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。下層のカーボンブラックは所望する効果によって、以下のような特性を最適化すべきであり、併用することでより効果が得られることがある。
非磁性層(下層)のカーボンブラックの比表面積は、好ましくは100〜500m2/g、より好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、好ましくは20〜400ml/100g、より好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000,1300,1000,900,800,880,700、VULCAN XC−72、三菱化成工業社製#3050B,#3150B,#3250B,#3750B,#3950B,#950,#650B,#970B,#850B,MA−600,MA−230,#4000,#4010、コンロンビアカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN 8800,8000,7000,5750,5250,3500,2100,2000,1800,1500,1255,1250、アクゾー社製ケッチェンブラックEC、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。
カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは上記無機質粉末に対して50重量%を越えない範囲、非磁性層総重量の40%を越えない範囲で使用することが好ましい。これらのカーボンブラックは単独、又は組合せで使用することができる。本発明で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
また非磁性層(下層塗布層)には有機質粉末を目的に応じて、添加することもできる。例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
下層塗布層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
III.非磁性支持体
本発明で用いる非磁性支持体として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド、ポリベンズオキシダゾールなどの公知のフィルムを例示することができる。特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートもしくはアラミド樹脂を用いた非磁性支持体が好ましい。これらの非磁性支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理などを行ってもよい。本発明の目的を達成するには、非磁性支持体の表面粗さは好ましくは2〜30nm、より好ましくは5〜25nm、さらに好ましくは10〜20nmである。また、これらの非磁性支持体は単に中心線平均表面粗さが小さいだけではなく、1μm以上の粗大突起がないことが好ましい。また、表面の粗さ形状は必要に応じて非磁性支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーとして、Al、Ca、Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩で結晶性、非晶質を問わないものの他、アクリル系、メラミン系などの有機微粉末があげられる。また、走行耐久性との両立を図るためには、バックコート層を塗布する面の粗さは磁性層を塗布する面よりも粗いことが好ましい。非磁性支持体の磁性層塗布面とバックコート層塗布面とは、表面粗さが同一であっても違っていてもかまわない。粗さを変える場合には、デュアル構成の支持体を用いてもよいし、コーティング層を設けることによって変えても構わない。
本発明に用いられる非磁性支持体のF−5値は、テープ走行方向、幅方向ともに好ましくは70〜300MPa(7〜30kg/mm2)であり、テープの長手方向のF−5値がテープ幅方向のF−5値より高いのが一般的であるが、特に幅方向の強度を高くする必要があるときはその限りでない。また、非磁性支持体のテープ走行方向及び幅方向の100℃、30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。破断強度は両方向とも50〜1,000MPa(5〜100kg/mm2)、弾性率は1,000〜20,000MPa(100〜2,000kg/mm2)が好ましい。また、本発明での900nmでの光透過率は30%以下が好ましく、さらに好ましくは3%以下である。
IV.製造方法
本発明の目的を達成するためには、従来公知の製造技術、すなわち磁性塗料を製造し、これを非磁性支持体上に塗布、配向、乾燥し、表面平滑化処理を行って、所定の幅に裁断することによって得られる。磁性塗料は、強磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤などの成分を、通常は溶剤とともに混練分散することによって調製する。混練、分散の際に用いられる溶剤としては、通常磁性塗料の調製に使用されているメチルエチルケトン、トルエン、酢酸ブチル、シクロヘキサノンなどの溶剤を用いることができる。混練分散の方法は、通常磁性塗料の調製に利用されている方法であれば特に制限はなく、各成分の添加順序も適宜設定できる。さらに成分の一部をあらかじめ予備分散しておいてから添加したり、別に分散しておき最後に混合することもできる。磁性塗料の調製には、通常の混練機、例えば、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、サンドグラインダー、アトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、ディスパー、ニーダー、高速ミキサー、ホモジナイザー、及び超音波分散機などを使用することができる。混練分散に関する技術の詳細は、T. C. Patton "Paint Flow and Pigment Dispersion", John Wiley & Sons (1964)や田中信一著「工業材料」25巻37頁(1977年)などに記載されている。また、米国特許第2,581,414号明細書及び同第2,855,515号明細書にも記載がある。本発明においても上記の引用文献に記載された方法に準じて混練分散を行い、磁性塗料を調製することができる。
調製された磁性塗料は、前述の非磁性支持体上に塗布する。その際、磁性層の乾燥後の層厚が好ましくは4nm〜1.0μmの範囲内、より好ましくは4nm〜100nmの範囲内になるように塗布する。多層構成の場合は、複数の磁性塗料を逐次あるいは同時に重層塗布してもよい。上記磁性塗料を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコード、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば株式会社「総合技術センター」発行の「最新コーテイング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。塗布された磁性塗料の塗布層は、磁性塗料の塗布層中に含まれる強磁性粉末を磁場配向処理を施した後に乾燥される。
磁性層の塗設後に、磁性層の表面に既述の親水化処理及び潤滑剤層の塗設を行う。好ましくはカレンダー処理後に上記の親水化処理及び潤滑剤層のオーバーコートを行う。このオーバーコートとは、潤滑剤とこれと相溶性があり、磁性層を溶解・膨潤しない有機溶媒との混合物をバーコーター等を用いて均一に塗布し乾燥する工程をいう。オーバーコートには結合剤を使用しないことが好ましい。また、オーバーコート用の有機溶媒としては、n−ヘキサンやメタノールが例示できる。
磁場配向処理は、1.25T(1,000ガウス)以上のソレノイドと2.51T(2,000ガウス)以上のコバルト磁石を同極対向で併用することが好ましく、さらには乾燥後の配向性が最も高くなるように配向前に予め適度の乾燥工程を設けることが好ましい。
非磁性支持体の磁性塗料が塗布されていない面にはバックコート層が設けられていてもよい。通常バックコート層は、非磁性支持体の磁性塗料が塗布されていない面に、研磨剤、帯電防止剤などの粒状成分と結合剤とを有機溶剤に分散したバックコート層形成塗料を塗布して設けた層である。なお、非磁性支持体の磁性塗料及びバックコート層形成塗料の塗布面に接着剤層を設けてもよい。
なお、バックコート層の塗設は磁性層の塗布乾燥後に行うのが好ましいが、磁性層の塗布前でも、次に述べる表面平滑化処理の後でもかまわない。塗布層の形成及び乾燥後、表面平滑化処理を施す。表面平滑化処理には、たとえばスーパーカレンダーロールなどが利用される。表面平滑化処理を行うことにより、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理ロールとして各種金属ロール、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチックロールを使用する。カレンダー処理時のカレンダーロールの温度は好ましくは60〜150℃の範囲、より好ましくは70〜130℃の範囲、特に好ましくは80〜110℃の範囲にする。圧力は好ましくは1,000〜5,000N/cm(100〜500kg/cm)の範囲、より好ましくは2,000〜4,500N/cm(200〜450kg/cm)の範囲、特に好ましくは2,500〜4,000N/cm(250〜400kg/cm)の範囲で作動させることによって行われる。カレンダー処理の後、サーモ処理することもできる。サーモ処理は40〜80℃で6〜120時間行うことが好ましい。この後、スリッターなどの裁断機で所望の幅に裁断する。さらに裁断後又は裁断前、磁性層表面をサファイア刃等でブレード処理することもできる。
V.物理特性
本発明の磁気記録媒体の磁気特性は磁場7.96×102kA/m(10kOe)でVSM(振動試料型磁力計)を用いて測定した場合、テープ走行方向の角形比は0.70以上であることが好ましく、より好ましくは0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上である。テープ走行方向に直角な二つの方向の角型比は走行方向の角型比の80%以下となることが好ましい。磁性層のSFD(Switching Field Distribution)は0.7以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.6以下である。
磁性層の表面粗さRaは1〜10nmが好ましいが、その値は目的により適宜設定されるべきである。電磁変換特性を良好にするためには(Ra)は小さいほど好ましいが、走行耐久性を良好にするためには逆に大きいほど好ましい。AFMによる評価で求めたRMS表面粗さ(RRMS)は2nm〜15nmの範囲にあることが好ましい。本発明の磁気記録媒体の磁性層面及びその反対面のSUS420Jに対する摩擦係数は、好ましくは0.1〜0.5、さらに好ましくは0.2〜0.3である。表面固有抵抗は好ましくは104〜1012オーム/sq、磁性層の0.5%伸びでの弾性率は走行方向、幅方向とも好ましくは1,000〜20,000MPa(100〜2,000kg/mm2)、破断強度は好ましくは10〜300MPa(1〜30kg/cm2)、磁気記録媒体の弾性率は走行方向、幅方向とも好ましくは1,000〜15,000MPa(100〜1,500kg/mm2)、残留伸びは好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、もっとも好ましくは0.1%以下で、0%が理想である。磁性層のガラス転移温度(110HZで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は、50℃以上120℃以下が好ましい。損失弾性率は、1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が0.2以下であると粘着故障が生じにくいので好ましい。
磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。磁性層が有する空隙率は、好ましくは40容量%以下、さらに好ましくは30容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるデータ記録用磁気記録媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。本発明の磁気記録媒体は磁性層を少なくとも一層有するが、目的に応じてこれを複層構造のものとしてもよい。また、磁性層と非磁性支持体の間に少なくとも非磁性粉末と結合剤からなる非磁性層を設けてもよい。そして、各層で各種の物理特性を変えることができるのは容易に推定されることである。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りを良くするなどである。
VI.層構成
本発明で用いられる磁気記録媒体の構成において、非磁性支持体の好ましい厚さは、1〜100μmである。また、非磁性支持体と非磁性層又は磁性層の間に平滑化層を設けた場合、平滑化層の厚さは0.01〜2.0μmであることが好ましく、0.02〜0.8μmであることがより好ましい。また、非磁性支持体の非磁性層及び磁性層が設けられた面とは反対側の面に設けられたバックコート層の厚さは、0.1〜2.0μmであることが好ましく、0.1〜1.0μmであることがより好ましい。
なお、平滑化層としては、放射線硬化性化合物を含む層を電子線又は紫外線等の放射線により硬化した層が好ましい。
磁性層の厚さは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、4nm〜1μm以下であることが好ましく、4nm〜200nmであることがより好ましい。また、磁性層の厚さ変動率は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±40%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
非磁性層の厚さは、0.2〜3.0μmであることが好ましく、0.2〜2.5μmであることがより好ましく、0.2〜2.0μmであることがさらに好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体における非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT(100G)以下又は抗磁力が7.96kA/m(100 Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
本発明の磁気記録媒体は、磁気記録媒体に磁気記録された信号を再生するヘッドについては特に制限はないが、MRヘッドのために用いることが好ましい。本発明の磁気記録媒体の再生にMRヘッドを用いる場合、MRヘッドには特に制限はなく、例えばGMRヘッドやTMRヘッドを用いることもできる。また、磁気記録に用いるヘッドは特に制限されないが、飽和磁化量が1.0T以上であることが好ましく、1.5T以上であることがより好ましい。
以下の実施例の記載において「部」の表示は「重量部」を示す。
(実施例1)
磁性液の調製
強磁性金属粉末(Co/Fe=30原子%、Hc:2,350エルステッド(187kA/m)、SBET:55m2/g、表面処理層:Al23,SiO2、Y23、平均長軸長:50nm、平均針状比:7、σs:120A・m2/kg)100部をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いで
カーボンブラック(平均粒径80nm) 2部
塩化ビニル樹脂(日本ゼオン(株)製MR−110) 10部
ポリエステルポリウレタン(東洋紡績(株)製:UR8300) 6部(固形分)
メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=1/1 60部
を加えて60分間混練した。この混練物にオープンニーダーを運転しながら、
メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=1/1 200部
を6時間かけて添加した。次いで、
α−Al23分散液 20部
を加えてサンドグラインダーで120分間分散した。さらに
ポリイソシアネート 4部(固形分)
(日本ポリウレタン工業(株)製コロネート3041)
ステアリン酸 0部
sec−ブチルステアレート 2部
ステアリン酸アミド 0.2部
トルエン 50部
を加えて20分間撹拌混合した。その後、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性塗料を調製した。
非磁性液の調製
酸化チタン(平均粒径0.035μm、結晶型ルチル、TiO2含有量90%以上、表面処理層;アルミナ、SBET 35〜42m2/g、真比重4.1、pH6.5〜8.0) 85部、及び
カーボンブラック ケッチェンブラックEC(ケッチェンブラックインターナショナル社製) 15部
をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いで
塩化ビニル系共重合体MR110(日本ゼオン(株)製) 17部、及び
スルホン酸含有ポリウレタン樹脂東洋紡製UR8200 10部(固形分)、及び
シクロヘキサノン60部を添加して60分間混練し、次いで
メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=6/4 200部
を加えてサンドミルで120分間分散した。
これに表1に記載の潤滑剤と
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製コロネート3041)5部(固形分)
ステアリン酸 0部
secブチルステアレート 2部
オレイン酸 1部
メチルエチルケトン 50部
を加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性塗料を調製した。
(オーバーコート用潤滑剤塗料(OL1)の調製)
ステアリン酸 1部
n−ヘキサン 50部
メタノール 50部
(塗設)
得られた非磁性塗料を乾燥後の膜厚が1.5μmになるように塗布し、さらにその直後に磁性塗料を乾燥後の厚さが0.2μmになるように、厚さ62μmのポリエチレンテレフタレート支持体の表面に同時重層塗布した。磁性塗料が未乾燥の状態で5,000ガウスのCo磁石と4,000ガウスのソレノイド磁石で磁場配向を行ない、溶剤を乾燥後、金属ロールのみから構成される7段のカレンダで速度100m/min、線圧300kg/cm、温度90℃で表面平滑化処理を行った後、コロナ処理を実施した。
コロナ処理は空気中で金属製導電ロール(アース側)に沿って上記媒体を連続的に走行させ、ロールと平行に敷設された2本の電極間に10kVを印加し、電極−ロール−電極間に生ずるコロナ放電を利用して、ロールに支持されない側、すなわち電極に面している側の支持体の表面を親水化処理した。
コロナ処理を行った磁性層上に乾燥後の潤滑剤層が1mg/m2以上100mg/m2以下の潤滑剤を含むように潤滑剤層用の塗料液をワイヤーバーで塗布、乾燥した後、70℃で48時間加熱処理を行い、1/2インチ(17.7mm)幅にスリットし磁気テープを作成した。
(実施例2〜5及び比較例1〜7)
実施例2〜5及び比較例1〜7の磁気テープを、表1に記載した変更を加えた以外は、実施例1と同様にして製造した。
(測定方法)
(1)表面十点平均粗さRz
十点平均粗さRzは小坂研究所製触針式粗度計を用いJISB0601に準拠して測定した。
(2)電磁変換特性
記録ヘッド(MIGギャップ0.15μm、1.8T)と再生用MRヘッドをドラムテスタ−にとりつけて測定した。ヘッドとメディアの相対速度1〜3m/min、面記録密度0.57Gbit/(インチ)2(0.88Mbit/mm2)で測定した時の再生出力を測定し比較例1を0dBとした場合の相対値で示した。
(3)耐久性
テープの摺動耐久性を40℃10%環境下で磁性層面をAlTiC製の円柱棒に接触させて、荷重100g(T1)をかけ、巻きつけ角180°で20mm/secの摺動速度で摺動させる際に必要な張力(T2)を測定した。繰り返し100パスまで摺動を行った時の測定値を基に下記計算式で摩擦係数を算出した。また、1万パスまで繰り返し摺動させた時のテープダメージ、円柱への付着物の有無を以下のランクで評価した。
摩擦係数 μ=1/π・ln(T2/T1)
優秀:ややキズが見られるが、キズのない部分の方が多い。円柱棒への付着物なし
良好:キズがない部分よりもキズがある部分の方が多い。円柱棒への付着物なし
不良:磁性層が完全に剥離している。円柱棒への付着物あり
(4)磁性層表面の親水性
親水性化処理により磁性層表面の親水性が向上することを示すことを裏付けるデータをその測定条件と共に示す。
(磁性層表面の水の接触角の変化)
親水化処理した磁性層表面の水の接触角を測定した。測定法は23℃50%環境にて、蒸留水2μlを磁性層表面に乗せた際の、接触角を実測した。実施例1の磁性層表面は、親水化処理前では70度であったのに対して、親水化処理後では30度まで水の接触角は低減し、親水化されていることを確認した。
Figure 2008243317

Claims (5)

  1. 非磁性支持体上に強磁性粉末を結合剤中に分散した磁性層を有し、該磁性層の表面が親水化処理を施されており、該親水化処理磁性層の表面上に潤滑剤層を有することを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 該潤滑剤層が、少なくとも1個の親水性極性基、及び、疎水性の、炭化水素鎖又はフッ素置換炭化水素鎖を分子中に併せ持つ潤滑剤を含む請求項1に記載の磁気記録媒体。
  3. 非磁性支持体及び磁性層の間に、非磁性粉末を結合剤中に分散した非磁性層を有する請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
  4. 非磁性支持体上に強磁性粉末を結合剤中に分散した磁性層を塗設する工程、
    該磁性層表面に、コロナ処理、プラズマ処理、電子線照射及びフレーム処理よりなる群より選ばれた親水化処理を施す工程、及び、
    該親水化処理を施した該磁性層上に潤滑剤層を塗設する工程、を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
  5. 該潤滑剤層が、少なくとも1個の親水性極性基、並びに、疎水性の、炭化水素鎖又はフッソ素置換炭化水素鎖を分子中に併せ持つ潤滑剤を含む請求項4に記載の磁気記録媒体の製造方法。
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