JP2008214826A - 繊維構造体の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】極細繊維が束にならずに単繊維状に分散している繊維構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】溶解性の異なる複数のポリマーからなるポリマーアロイ繊維を含む繊維構造体を形成し、該溶解性の異なるポリマーの少なくとも1種を除去することによって繊維径10〜1000nmの極細繊維を発現せしめることによって得られた、該極細繊維が集合した繊維束を含む繊維構造体に0.1〜20Mpaの高圧流体流を噴射する。
【選択図】図3

Description

本発明は、極細繊維が束を形成しておらず、開繊した状態で存在している繊維構造体を製造する方法に関する。かかる繊維構造体は、眼鏡拭き等のワイピングクロス、さらにはハードディスク、シリコンウエハ、集積回路基盤や精密機器、光学部品などの製造工程で用いられる研磨布やクリーニングテープに好適に用いることができる。
単繊維直径が2〜5μmの所謂マイクロファイバーは、従来からめがね拭きやレンズ、電子機器のディスプレイ用のワイピングクロス等に好適に利用されている。最近では、さらに布帛の緻密化により拭き取り性や寸法安定性を向上させるため、マイクロファイバーと高収縮糸の混繊糸からなるものも提案されている(特許文献1)。
しかし、従来のワイピングクロスはワイピング操作により、対象物によっては、対象物そのものを傷付けやすい場合があった。さらに、日常生活中のワイピングでは、ワイピング中にワイピングクロスと対象物との間に異物が混入し、さらに大きなスクラッチ傷を作りやすいものであった。このため、従来のワイピングクロスの適用範囲はメガネや家庭用デジタルビデオカメラの液晶画面などに限定されており、例えばコンタクトレンズや銀製品などの柔らかで傷つきやすい対象物には適用できないという問題があった。
さらに従来のワイピングクロスは、対象物中の微細な凹凸に入り込んだ汚れに対しての拭き取り性は充分とは言えないものであった。これは、従来のマイクロファイバーは単繊維直径が2〜5μm程度であり、対象物に押しつけた場合、対象物表面に応力集中が起こりやすいことが傷を付けやすい一因と考えられる。また、ワイピングクロスと対象物との間に異物が混入した場合は、さらに異物が押しつけられるため、異物により研磨している状態となり、スクラッチ傷が発生しやすいと考えられる。また、対象物のミクロンレベルの凹凸に汚れが入り込んでいる場合は、凹凸のサイズよりもマイクロファイバー単繊維が小さいとしても、マイクロファイバーの曲げ剛性がまだ大きく、凹凸に沿ってたわんで入り込めないため、汚れを掻き出せないこともワイピング性が不十分なことの原因の1つであると推測される。
これに対し、有機ポリマーからなり数平均による単繊維直径が1〜500nmである所謂ナノファイバーを含むワイピングクロスが提案されている。(特許文献2)
しかし、このワイピングクロスに含まれるナノファイバーは、1本1本の直径はナノオーダーであるが、かかるナノファイバーは凝集力が非常に強いために、繊維構造体としてはそれらが数百本〜数万本凝集した直径数μmの束となって存在している。従って上記マイクロファイバーを用いてなるワイピングクロスの問題点をある程度は解決しているものの、完全に満足いくレベルには至っていない。
一方、ハードディスク、シリコンウエハ、集積回路基盤や精密機器、光学部品については、ますます要求される性能が高度化しており、それに伴って、基板表面加工の一層の高精度化が必要となっている。ここでいう基板表面加工の高精度化とは、具体的には主として基板表面の平滑性の向上とスクラッチの低減であり、これらの問題を解決する手段として、例えば極細繊維(ミクロンレベル)を用いて織物状としたもの(例えば特許文献3)や、不織布状としたもの(例えば特許文献4)が開示されている。極細繊維を用いることにより、砥粒にかかる力が分散されたり、スクラッチの原因となる砥粒の凝集や研磨屑の生成が抑制されることにより、これらの技術はある程度の効果はあるものの、さらなる改善が求められている。
また、さらに細い繊維としてナノファイバーを用いた研磨布も開示されているがこの場合もワイピングクロスの場合と同様、ナノファイバーが束状になっているため本来の繊維径の細さを十分活かしきれておらず、十分な効果は得られていない。
ところで、極細繊維を含んでなる布帛に高圧流体流を噴射することは公知であるが、いずれも本発明とはその目的、効果が異なるものである。
例えば、特許文献5に主として0.2〜0.00001デニールの超極細繊維からなる糸を主体とした織編物を作り、次いで少なくとも5〜200Kg/cmの液体を多数の小孔より該織編物に噴射させて織編物を収縮させることを特徴とする超極細繊維織編物の製造方法が開示されている。しかし、該技術は織物に含まれる極細繊維を絡ませることを目的としており、そのため、流体の圧力が高すぎると繊維の切断が起こるので好ましくない旨が記載されている。
また、特許文献6には、単繊維繊度が0.001デシテックス以上、1.0デシテックス以下の合成繊維で構成された布帛であって、該布帛が高圧水流処理された編織物からなることを特徴とする皮膚洗浄用布帛、およびその製造方法として、海島構造または剥離構造を有する複合繊維を用いて製織または編成してなる布帛を熱水中またはアルカリ液中で処理し、海成分を除去、または剥離した後、高圧水流処理することを特徴とする皮膚洗浄用布帛の製造方法が開示されている。その製造方法から明らかな通り、該技術の極細繊維は連続糸であり、繊維間隙を適度に広げることを目的としている。
さらに、特許文献7には、数平均による単糸繊度が1.3×10−5〜3.2×10−4dtexであり、単糸繊度1.3×10−5〜3.2×10−4dtexの単糸繊度比率の和が60%以上であるナノファイバー集合体から形成されてなることを特徴となる人工皮革が例示されており、その中で、高圧水流処理を行っても良いことが記載されている。しかし、かかる高圧水流処理は繊維構造体を構成する繊維を絡合せしめて繊維構造体の強力を高めたり、繊維を繊維構造体の厚み方向に配向させて風合いを改善することが目的であり、ポリマーアロイ繊維から1成分を除去して極細繊維を発現させる前に絡合処理を施している。
特開平9−19393号公報 特開2005−307379公報 特開平11−90810号公報 特開2003−236739号公報 特開昭60−39439号公報 特開2005−23435号公報 特開2004−256983号公報
本発明は、極細繊維が束にならずに単繊維状に分散している繊維構造体の製造方法を提供するものである。本発明によると、繊維の柔軟性、高い表面積という極細繊維本来の特徴最大限発揮できるので、研磨布及びクリーニング布に好適な繊維構造体を得ることが出来る。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有する。
すなわち、溶解性の異なる複数のポリマーからなるポリマーアロイ繊維を含む繊維構造体を形成し、該ポリマーアロイ繊維の溶解性の異なる複数のポリマーのうちの少なくとも1種を除去して繊維径10〜1000nmの極細繊維を発現せしめて該極細繊維が集合した繊維束とし、該極細繊維が集合した繊維束を含む繊維構造体に0.1〜20MPaの高圧流体流を噴射することを特徴とする繊維構造体の製造方法である。
本発明によれば、極細繊維が単繊維上に分散した繊維構造体を容易に得ることができる。かかる繊維構造体は研磨布として用いた場合は、単繊維状に分散された極細繊維に研磨荷重が分散されるので、平滑性の高い均一な研磨を行うことができる。さらに、極細繊維間に適度な空隙が存在するため、砥粒を保持する能力が高く、研磨布として用いた場合は砥粒の凝集が抑制されてスクラッチが発生しにくく、ワイパーとして用いた場合は、汚れを取り込む能力が高い。
本発明の繊維構造体の製造方法は溶解性の異なる複数のポリマーからなるポリマーアロイ繊維を含む繊維構造体を形成し、該溶解性の異なるポリマーの少なくとも1種を除去することによって繊維径10〜1000nmの極細繊維を発現せしめることによって得られた、該極細繊維が集合した繊維束を含む繊維構造体に0.1〜20MPaの高圧流体流を噴射することを特徴とする。
本発明でいうポリマーとはポリエステルやポリアミド、またはポリオレフィンに代表される熱可塑性ポリマーやフェノール樹脂などのような熱硬化性ポリマー、DNAのような生体ポリマーのことをいうが、熱可塑性ポリマーが成型性の点から好ましい。中でもポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高いものが多く、より好ましい。また、後で説明する溶解性の異なるポリマーの少なくとも1種を除去した後に発現する極細繊維となるポリマーの融点は165℃以上であると極細繊維の耐熱性が良好であり好ましい。例えば、ポリ乳酸(PLA)は170℃、ポリエチレンテレフタレート(PET)は255℃、ナイロン6(N6)は220℃である。また、ポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤などの添加物を含有させていてもよい。また、ポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。
また、本発明において溶解性の異なるとは、ある溶媒に対する溶解性が異なることをいい、溶媒とは、水、アルカリ溶液や酸性溶液、また有機溶媒、さらには超臨界流体等のことを言うものである。かかる溶解性の差は他の特性に影響が無い範囲で大きければ大きいほど、溶解性の高いポリマーのみを選択的に除去できるので、工程の安定性の点で好ましい。なお、以下では、相対的に溶解性の高いポリマーを易溶解性ポリマー、相対的に溶解性の低いポリマーを難溶解性ポリマーとも記す。
次に本発明におけるポリマーアロイ繊維について説明する。本発明の製造方法においては、溶解性の異なる2種類以上のポリマーをアロイ化したポリマーアロイ溶融体となし、これを紡糸した後、冷却固化して繊維化する。そして必要に応じて延伸・熱処理を施しポリマーアロイ繊維を得る。
ここで、極細繊維の前駆体であるポリマーアロイ繊維中で易溶解性ポリマーを海(マトリックス)、難溶解性ポリマーを島(ドメイン)となし、その島サイズを制御することが重要である。ポリマーアロイ繊維の海成分を除去することによって、島成分が極細繊維となるからである。ここで、島サイズは、ポリマーアロイ繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察し、直径換算で評価したものである。前駆体中での島サイズにより極細繊維の直径がほぼ決定されるため、島サイズの分布は本発明の極細繊維の直径分布に準じて設計される。このため、アロイ化するポリマーの混練が非常に重要であり、本発明では混練押出機や静止混練器等によって高混練することが好ましい。
かかるポリマーアロイから得られるポリマーアロイ繊維を用いることが本発明では重要である。すなわち、一旦アロイ化したポリマーを作成してから、繊維化することにより最終的に得られる極細繊維の太さが均一になると同時に、極細繊維の長さも有限長となるため、後の高圧流体流の処理により容易に均一に分散させることが可能となる。これは単一種のポリマーからなる複数のポリマー流を紡糸機や口金内で複合する方法や1種類のポリマーからなるチップを混合して直接紡糸する方法によって得られる繊維では達成することができない。
具体的に混練を行う際の目安としては、組み合わされるポリマーにもよるが、混練押出機を用いる場合は、2軸押出混練機を用いることが好ましく、また静止混練器を用いる場合は、その分割数は100万以上とすることが好ましい。
また、島が小さいほうが最終的に得られる繊維が細くなる点から好ましいが、それにはポリマーの組み合わせも重要である。
なお、極細繊維断面を円形に近づけるためには、島ポリマーと海ポリマーは非相溶であることが好ましい。しかしながら、単なる非相溶ポリマーの組み合わせでは島ポリマーが十分微分散化し難い。このため、組み合わせるポリマーの相溶性を最適化することが好ましいが、このための指標の一つが溶解度パラメータ(SP値)である。SP値とは(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメータであり、SP値が近い物同士では相溶性が良いポリマーアロイが得られる可能性がある。SP値は、種々のポリマーで知られているが、例えば、「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載されている。2つのポリマーのSP値の差が1〜9(MJ/m1/2であると、非相溶化による島ドメインの円形化と超微分散化が両立させやすく好ましい。例えば、N6とPETはSP値の差が6(MJ/m1/2程度であり好ましい組合せの例であるが、N6とポリエチレン(PE)はSP値の差が11(MJ/m1/2程度であり好ましくない例として挙げられる。
また、ポリマー同士の融点差が20℃以下であると、特に押出混練機を用いた混練の際、押出混練機中での融解状況に差を生じにくいため高効率混練しやすく、好ましい態様である。また、熱分解や熱劣化し易いポリマーを1成分に用いる際は、混練や紡糸温度を低く抑える必要があるが、これにも有利となるのである。ここで、ポリマーが非晶性ポリマーの場合は、融点が存在しないためガラス転移温度や熱変形温度あるいはビカット軟化温度でこれに代える。
さらに、溶融粘度も重要であり、島を形成するポリマーの方の溶融粘度を低く設定すると剪断力による島ポリマーの変形が起こりやすいが、島ポリマーを過度に低粘度にすると海化しやすくなり、繊維全体に対するブレンド比を高くできないため、島ポリマー粘度は海ポリマー粘度の1/10以上とすることが好ましい。
また、島ポリマーのブレンド比は繊維構造体の目付を高くする観点から重要である。例ば、島ポリマーのブレンド比が10重量%であると、残りの90重量%の海ポリマーを全て除去すると、繊維構造体の目付は最初の1/10程度となるため、繊維構造体がルーズな構造となり寸法安定性が大きく低下してしまう。繊維構造体の寸法安定性を向上させるためには、島ポリマーのブレンド比はポリマーアロイ繊維全体に対し20重量%以上であることが好ましく、より好ましくは40重量%以上である。ただし、島ポリマーのブレンド比を大きくすると島化しにくくなるため、海ポリマーとの溶融粘度バランスにもよるが島ポリマーのブレンド比を60重量%以下とすることが好ましい。
ポリマーアロイ中では、島ポリマーと海ポリマーが非相溶であるため、島ポリマー同士は凝集した方が熱力学的に安定である。しかしながら、島ポリマーを無理に超微分散化するために、このポリマーアロイでは通常の分散径の大きいポリマーブレンドに比べ、非常に不安定なポリマー界面が多くなっている。このため、このポリマーアロイを単純に紡糸すると、不安定なポリマー界面が多いため、口金からポリマーを吐出した直後に大きくポリマー流が膨らむ「バラス現象」が発生したり、ポリマーアロイ表面の不安定化による曳糸性不良が発生し、糸の太細斑が過大となるばかりか、紡糸そのものが不能となる場合がある。このような問題を回避するため、口金から吐出する際の、口金孔壁とポリマーとの間の剪断応力を低くすることが好ましい。ここで、口金孔壁とポリマーとの間の剪断応力はハーゲンポワズユの式(剪断応力(dyne/cm)=R×P/2L)から計算する。ここでR:口金吐出孔の半径(cm)、P:口金吐出孔での圧力損失(dyne/cm)、L:口金吐出孔長(cm)である。またP=(8LηQ/πR)であり、η:ポリマー粘度(poise)、Q:吐出量(cm/sec)、π:円周率である。CGS単位系の1dyne/cmはSI単位系では0.1Paとなる。
例えば、通常のポリエステルの溶融紡糸では、口金孔壁とポリマーとの間の剪断応力は1MPa以上であるが、本発明のようなポリマーアロイを溶融紡糸する際は0.3MPa以下とすることが好ましい。このためには、口金孔径は大きく、口金孔長は短くする傾向であるが、過度にこれを行うと口金孔でのポリマーの計量性が低下し、繊度斑や紡糸性悪化が発生してしまうため、吐出孔より上部にポリマー計量部を有する口金を用いることが好ましい。ポリマー計量部は、具体的には孔径を吐出孔より絞った部位とすることが好ましい。
また、溶融紡糸での曳糸性や紡糸安定性を十分確保する観点から、口金面温度は海ポリマーの融点から25℃以上とすることが好ましい。上記したように、本発明で用いる超微分散化したポリマーアロイを紡糸する際は、紡糸口金設計が重要であるが、糸の冷却条件も重要である。上記したようにポリマーアロイは非常に不安定な溶融流体であるため、口金から吐出した後に速やかに冷却固化させることが好ましい。このため、口金から冷却開始までの距離は1〜15cmとすることが好ましい。ここで、冷却開始とは糸の積極的な冷却が開始される位置のことを意味するが、実際の溶融紡糸装置ではチムニー上端部でこれに代える。
紡糸速度は特に限定されないが、紡糸過程でのドラフトを高くする観点から高速紡糸ほど好ましい。紡糸ドラフトとしては100以上とすることが、得られる極細繊維直径を小さくする観点から好ましい態様である。
また、紡糸されたポリマーアロイ繊維には、延伸と熱処理を施すことが好ましいが、延伸の際の予熱温度は島ポリマーのガラス転移温度(Tg)以上の温度とすることで、糸斑を小さくすることができる。
また、かかるポリマーアロイ繊維の形態としては、単純な単成分の丸断面繊維の他にも、異種あるいは同種のポリマーからなる複合繊維、捲縮繊維、異形断面繊維、中空繊維、仮撚加工繊維等、短繊維からなる紡績糸、カバリング糸、強撚糸な目的に応じて適宜選択することができる。
次に、かかるポリマーアロイ繊維を含む繊維構造体を形成する。繊維構造体としては、特に限定は無く、織物、編物、不織布及びそれらの複合体、さらに、フィルム、発泡ポリウレタン樹脂等の繊維以外との複合体を例示することができる。編物としては、サテントリコット編、ゴム編、ハーフトリコット編、パイル編、平編、両面編などが、代表例として挙げられるが、特にこれらに限定されない。織物としては、1重、2重、3重、多重組織の平織、綾織、朱子織など、さらには2重ビロード、単・複パイル2重ビロード、両面ビロード、チンチラ織などが、代表例として挙げられるが、特にこれらに限定されない。また、不織布としては、一旦、ポリマーアロイからなる短繊維を形成した後、カードや抄紙により不織布を得る方法や、ポリマーアロイからメルトブロー法やスパンボンド法により直接不織布を形成する方法を採用することができる。
上記繊維構造体に、必要に応じて、樹脂、薬品を付与したり、表面を起毛、プレス等で加工したり、ニードルパンチにより繊維を切断したり、高圧流体流で繊維を絡合することもできる。また、ニードルパンチや高圧流体により、繊維構造体同士をバインダーを用いずに、複合体とすることができる。
本発明は、このようにして得られたポリマーアロイ繊維を含む繊維構造体から海ポリマーである易溶解ポリマーを溶剤で溶出することで、極細繊維が集合した繊維束を得る。ここでポリマーアロイ繊維から海ポリマーを溶出して得られる極細繊維の本数が多いほど、ポリマーアロイ繊維中でのポリマーの混合度合いが良く、極細繊維の長さも短くなる。従って高圧流体流で処理した後の繊維の分散性に優れるのである。ポリマーアロイ繊維から易溶解ポリマーを溶出する溶剤としては水溶液系の溶剤を用いることが環境負荷を低減する観点から好ましい。具体的には、中性〜アルカリ性の水溶液を用いることが好ましい。
ここでいう中性〜アルカリ性の水溶液とは、pH6〜14を示す水溶液であり、使用する薬剤等は特に限定されるものではない。例えば有機または無機塩類を含む水溶液で上記範囲のpHを示すものであればよく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、必要によりトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアミンや減量促進剤、キャリアー等を併用することもできる。中でも水酸化ナトリウムが価格や取り扱いの容易さ等の点で好ましい。さらにシートに上述の中性〜アルカリ性の水溶液処理を施した後、必要に応じて中和、洗浄して残留する薬剤や分解物等を除去してから乾燥を施すことが好ましい。
このため、易溶解ポリマーとしては、ポリエステル等のアルカリ加水分解されるポリマーやポリアルキレングリコールやポリビニルアルコールおよびそれらの誘導体等の熱水可溶性ポリマーが好ましく用いられる。
このような製造方法により、繊維長が数十μmから場合によってはcmオーダー以上の極細繊維が集合した繊維束が得られるのである。
また、本発明においては、極細繊維の直径は10〜1000nmであることが必要である。繊維径が10nm未満では繊維強力が低すぎるために、強力や耐摩耗性が不十分となり、研磨布、ワイパー等に用いることが出来ない。また、繊維径が1000nmを超えるものでは極細繊維の特長である柔軟性や高い表面積が得られないうえに、高圧流体流による繊維の分散効果も非常に小さく、本発明の目的を達成することができない。
なお、上記極細繊維が集合した繊維束が、数平均による繊維直径が10〜300nmであり、繊維直径が10〜300nmの極細繊維の数比率が60%以上である繊維束であることは、繊維径の均一性が高く、また、太い繊維が混在していないために、高圧流体流で処理した後に、繊維が高度に分散された平滑性の高い表面を得ることが出来るので好ましい。
なお、本発明において、極細繊維の直径はTEMによる繊維横断面写真を画像処理ソフトを用い、極細繊維断面積を求め、該極細繊維断面が円であると仮定して単繊維直径を計算により求める。
本発明の製造方法は、かかる極細繊維束を含む繊維構造体に高圧流体流を噴射することを特徴とする。ここでいう高圧流体流を噴射するとは、0.1MPa以上の液体を繊維構造体に衝突させることであり、極細繊維を単分散・開繊することが目的である。かかる処理に用いる液体としては作業性、コスト、衝突エネルギー量、効率などの点から液体としては水が好ましい。水の中に他の成分、例えば、有機溶剤、アルカリ、酸、染料、樹脂、平滑剤、柔軟剤、シリコーン、ウレタンなどを混合した水溶液、分散液、乳化液なども含む。かかる高圧流体の圧力としては、0.1〜20MPaとするが、1〜10MPaが好ましい。圧力が低いと、上記の極細繊維の分散効果が十分でなく、圧力が高すぎると、極細繊維が処理中に脱落したり、繊維構造体が破断するので好ましくない。なお、ここでいう流体流の圧力とはノズル内部での流体の圧力をさす。高圧流体を噴射するノズルの口径は、50〜700μm、好ましくは100〜500μm程度のものであり、ノズルの間隔は1mm以下が好ましい。また、噴射時間、回数については、任意に選択できる。複数回の処理を行う場合は、処理するごとに圧力、処理速度を変えることもできる。
なお、かかる高圧流体流を噴射する前に、繊維構造体に水浸漬処理を行ってもよい。さらに表面の品位を向上させるために、ノズルヘッドと不織布を相対的に移動させる方法、交絡後に不織布とノズルの間に金網等を挿入して散水処理する方法等を行うこともできる。
かかる処理においては、繊維構造体の表面に均一に高圧流体流が噴射されることが好ましい。具体的には、水流があたった繊維構造体の表面の面積を繊維構造体の全表面積で割ったカバーファクターが80%以上であることが好ましい。カバーファクターを高める方法としては、ノズルヘッドをシートの走行方向と直角に揺動させたり、ノズルを千鳥上に配置させたり、パターンの異なるノズルで複数回処理することにより達成することが出来る。かかるカバーファクターは例えば以下の方法で計算することができる。
(1)1列に並んだ円孔を有するノズルを固定して用いる場合
円孔の直径をR、円孔のピッチ(中心の間隔)をPとすると、カバーファクターは下記の式1で求めることが出来る。
(2)1列に並んだ円孔を有するノズルを揺動して用いる場合
円孔の直径をR、円孔のピッチ(中心の間隔)をP、シートの進行方向に対して円孔からの水流の軌跡が為す角度をθとすると、カバーファクターは下記の式2で求めることが出来る。
ここで、揺動の幅をL(mm)、シートの走行速度をS(mm/秒)、揺動の周波数をC(Hz)とすると、上記式2は下記の式3で求めることができる。
(3)複数回処理を行う場合等
1列のノズルで複数回処理を行う場合は処理ごとのカバーファクターを上述の方法で求め、得られたカバーファクターの和を処理全体のカバーファクターとする。また、1つのノズルに2列、3列等、複数の列で孔が存在する場合は、それぞれの列を1回の処理と見なしてカバーファクターを求め、得られたカバーファクターの和を処理全体のカバーファクターとする。
また、高圧流体の流体温度は常温〜100℃まで任意の温度が適用可能である。繊維構造体は、有孔メツシュの金網や開口部のあるドラムなどに乗せ、ベルトコンベアなどの運搬方式で、走行させ、連続的に処理を行なうのが好ましい。ノズルを編織物の長さ方向、あるいは幅方向に揺動させることができるし、片面だけでなく両面処理を行うことも出来る。
特開昭60−39439号公報に記載された技術は織物に含まれる極細繊維を絡ませることを目的としており、そのため、流体の圧力が高すぎると繊維の切断が起こるので好ましくない旨が記載されている。一方、本発明の目的は繊維束を構成している極細繊維を単分散させ、繊維構造体の表面に均一に分布させることが目的であり、極細繊維からなる繊維束を実質上切断することから、上記技術とは根本的に発想が異なる。本発明の方法により、表面の外観が極細繊維が膜状に表面を覆っている繊維構造体が得られ、その優れた表面の平滑性、均一性により、研磨布として用いた場合には研磨後の基板の平滑性が向上する。また、繊維の実質的な表面積も大きくなるため、ワイピングクロスとして用いた場合の拭き取り性も著しく向上する。
また、特開2005−23435号公報とは、布帛を構成する極細繊維を高圧水流で処理するという点では本発明と共通する。しかし、その製造方法から明らかな通り、該技術の極細繊維は連続糸であり、繊維間隙を適度に広げることを目的としている。一方、本発明は極細繊維を単分散させて繊維構造体表面に均一に分布させることを目的としており、目的とする効果及び処理によって得られる繊維構造体の形態として全く異なる。
さらに、特開2004−256983号公報には、ナノファイバー集合体から形成された人工皮革が例示され、高圧水流処理を行ってもよいことが記載されている。しかし、かかる高圧水流処理は繊維構造体を構成する繊維を絡合せしめて繊維構造体の強力を高めたり、繊維を繊維構造体の厚み方向に配向させて風合いを改善することが目的であり、ポリマーアロイ繊維から1成分を除去して極細繊維を発現させる前に絡合処理を施していることからも、本発明の技術とは思想、効果の点で全く異なるものである。
上記高圧流体流を噴射した後に、100℃以上の温度で熱処理することは本発明の好ましい態様の1つである。本発明によって得られる繊維構造体は、極細繊維が凝集してなる繊維束を流体の運動エネルギーおよび場合によっては膨潤作用により単分散させたものであるが、それにより繊維構造体の形態保持性は低下する。また、単分散した極細繊維は脱落しやすくなるため、クリーンルーム内で使用するワイパー等、用途によっては使用できない場合がある。そのような場合は、単分散した極細繊維を上記熱処理により部分的に融着させることにより、繊維構造体の形態保持性を改善したり、繊維の脱落を防止することができる。かかる熱処理の温度は100℃以上、好ましくは120℃以上、さらには130℃以上が好ましい。また、繊維を構成するポリマーが溶融すると、極細繊維の特徴である柔軟性が損なわれて、研磨布やワイピングクロスとして用いた場合にスクラッチが発生するため、上記ポリマーの融点以下、好ましくは融点よりも10℃以上低い温度で処理することが好ましい。
かかる熱処理の方法は特に制限は無く、以下に例示する方法から目的に応じて適宜選択することができる。例えば、温度の高い空気に曝す方法、赤外線を照射する方法、高温の水蒸気に曝す方法、熱水に浸漬する方法等を採用することができる。また、その際の装置としては、被処理物をコンベア等で移送させる連続式乾燥機や、タンブラー等のバッチ式の乾燥機、スチーマー、液流染色機等を例示することができる。
また、繊維構造体が複数の層からなることは用途によっては好ましい様態の1つであるため、複数の繊維構造体を積層することも好ましい。ここでいう繊維構造体が複数の層からなるとは、上記表層と形態、繊維からなる層を、1つ以上、該繊維構造体中に含むことをいう。かかる複数の層を含むことにより表層が極細繊維が単分散したという特徴を有しながら、繊維構造体全体としての強力、弾性、圧縮特性、透水性等の特性も所望の範囲に適正化することができる。例示すると、上述の表層の下層に、より繊維系の太い繊維からなる不織布層を配することによりクッション性を付与することができる。また、織物を複合することにより強力を向上せしめ形態安定性を改善することができる。また、表層を親水性ポリマー、下層を疎水性ポリマーとすることにより、基板と接している表層に選択的に水分を保持することにより研磨やクリーニングの効率を向上させることができる。
かかる表層およびそれ以外の層に含まれる繊維を構成するポリマーは繊維形成能を有する高分子であれば特に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々のものを選択することができる。例えば、本発明の繊維構造体を研磨布として用いる場合は研磨する基板の材質や用いる砥粒等で、研磨布に使用する繊維種を変更することもできる。また、耐摩耗性や砥粒の保持性や分散性、表面平滑性の観点からは、繊維を構成するポリマーがポリアミドであることが好ましい。ポリアミドとしては、たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、等のアミド結合を有するポリマーを挙げることができる。一方、基板材質が堅い場合等には繊維を構成するポリマーがポリエステルであることが好ましい。特に、ガラス基板からなる記録ディスクのテクスチャー加工用研磨布としては、直接ガラスを研削するために、高い研削力が必要あるため好ましい用途となる。なお、ポリエステルとしては、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体から合成されるポリマーであって、繊維として用いることが可能なものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。本発明は、中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
上記複数の繊維構造体を積層する方法としては特に限定はなく、以下に例示する方法を採用することができる。例えば複数の繊維構造体を積層した状態でニードルパンチや高圧流体流で繊維構造体を繊維の絡合で一体化させる方法を採用することができる。かかる方法はバインダーを用いる必要がないため繊維構造体の通気性や通液性、柔軟性を損なわないため好ましい。かかる方法を採用する場合は繊維構造体を構成する繊維がある程度自由に動けることが望ましいため、繊維構造体が短繊維織編物、短繊維不織布、糸長差のある複合糸を用いた長繊維織編物、ニードルパンチ等で部分的に切断された長繊維不織布等である場合に特に好ましく採用することが出来る。また、繊維構造体同士を接着剤を介して一体化することもできる。かかる接着剤に特に制限はなく、一般のアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ビニル系接着剤を用いることが出来る。また接着剤を付与するに当たっては、接着剤をグラビアロール等で塗布する方法、スプレーで付与する方法、接着剤を含んでなるシートを積層する方法等を採用し、適宜、圧力や熱を加えて一体化することができる。
本発明の製造方法においては、得られる繊維構造体の効果を損なわない範囲でウレタン等の高分子弾性体を付与してもよい。かかる高分子弾性体としては、適宜目的とする風合い、物性、品位が得られるものを種々選択して使用することができ、例えばポリウレタン、アクリル、スチレン−ブタジエン等が挙げられる。この中で柔軟性の点でポリウレタンを用いることが好ましい。ポリウレタンの製造方法としては、特に限定されるものではなく、従来から知られている方法、すなわち、ポリマーポリオール、ジイソシアネート、鎖伸張剤を適宜反応させて製造することができる。また、溶剤系であっても水分散系であってもよいが、作業環境の点で水分散系の方が好ましい。
高分子弾性体を含浸する際には、実質的に表面に高分子弾性体が露出しないように、十分注意する必要がある。その観点から、高分子弾性体が含まれる量は、全重量の10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。また、溶剤系高分子弾性体を用いる場合は湿式凝固法を採用し、水分散型高分子弾性体を用いる場合は、感熱凝固性のものを用いるなど、表面への高分子弾性体のマイグレーションを抑制することが好ましい。
しかしながら、本発明によって得られる繊維構造体の特徴がより明確であり、従来と比較してより優れる点で、実質的に高分子弾性体を含まず、主として繊維素材からなることが好ましい。さらに、繊維素材についても実質的に非弾性ポリマーの繊維からなることが好ましい。
また、繊維構造体の柔軟性を向上する目的で揉み処理を行ってもかまわない。揉み処理は、一般に風合い加工機や染色機と呼ばれる装置によっておこなうことができ、具体的には液流染色機やウィンス染色機、ジッガー染色機、タンブラー、リラクサー等を用いることができる。本発明において、揉み処理は高圧流体流処理を行った後に行うことが好ましい。高圧流体流処理を行う前に揉み処理を行う場合は、その効果は高圧流体流処理によって大きく低減するため好ましくない。
さらに、高圧流体流処理を行った後、カレンダーによって100〜250℃の温度で厚みを0.1〜0.8倍に圧縮すると、繊維見掛け密度を増加させることができ、また表面平滑性が優れ、容易に表面粗さを本発明の範囲に調整できる点で好ましい。0.1倍未満に圧縮すると風合いが堅すぎて好ましくない。また0.8倍を越えてもよいが、圧縮の効果が少なくなる。さらに、100℃未満で処理しても、圧縮の効果が少なくなり、好ましくない。また250℃を越える温度で処理すると、繊維の融着等によってスクラッチが発生しやすくなるため、好ましくない。なお、高圧流体流処理の前に圧縮すると、高圧流体流処理による絡合が進みにくくなるため、好ましくない。
さらに、繊維構造体の表面にエンボス加工等により凹凸や溝を形成することは、本発明の繊維構造体を研磨布として用いる場合は好ましい。かかる表面を有する繊維構造体は砥粒や研磨屑の供給、排出が容易であり研磨の均一性向上やスクラッチの低減に有効である。
ここでいうエンボス加工とは凹凸模様を彫刻した金属製ローラーと弾力性のある圧縮コットン、圧縮ペーパーもしくはゴム製等のローラー間に布帛を通して一定の温度に保ちながら布に凹凸模様をつける加工のことをいう。ここでエンボス柄について記述すると、該柄は特定されるものでないが、梨地柄、格子柄、市松柄、シープ柄やカンガルー柄などの彫刻ローラーが好適に用いられる。
また、本発明においてエンボス加工された繊維構造体全体の面積に占める凹面の面積は4%〜80%(凸面面積は96%〜20%)が好ましく、より好ましくは10%以上、45%以下である。加熱ローラの温度は、加工速度、押圧、繊維構造体の厚さ、エンボス加工回数によって最適条件を選定すればよい。この中で押圧加工における好ましい条件範囲を例示するならば、加工温度は、極細繊維の融点より10℃低い温度以下が加工安定性の点から好ましい。線圧は5〜400kg/cm、加工速度は0.5〜20m/分で加工、通し回数は1〜10回とするとよい。
また、線圧が400kg/cm以上及び/または加工速度が0.5m/分未満の場合は過度の押圧となり破れが発生するなどの問題があり好ましくない。一方、線圧が5kg/cm未満、加工速度が10m/分を越えると押圧作用が不十分となり好ましくない。
本発明によって得られる繊維構造体は極細繊維が束を形成しておらず、開繊した状態で存在しているため、極細繊維の特長である柔軟さ、表面積の大きさを生かした用途に好適に用いることが出来る。例えば、眼鏡拭き等のワイピングクロスに用いた場合、拭き取り性に優れるのみならず、対象物に傷を生じさせないという特長がある。さらにはハードディスク、シリコンウエハ、集積回路基盤や精密機器、光学部品などの製造工程で用いられる研磨布として用いる場合、砥粒を把持する効果が高いために砥粒の凝集が起こりにくいのでスクラッチの発生が少なく、また、繊維構造体の平滑性が高いために、被研磨物の表面平滑性も非常に高くすることができる。また、生体適合性を生かして人工血管や細胞培養用基材としても用いることができる。
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.ポリマーの溶融粘度
東洋精機キャピログラフ1Bによりポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
B.融点
パーキンエルマー(Perkin Elmer) DSC−7を用いて2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。この時の昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
C.TEMによる繊維横断面観察
繊維の横断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維横断面を観察した。また、ナイロンはリンタングステン酸で金属染色した。
TEM装置 : 日立社製H−7100FA型
D.極細繊維の数平均による単繊維直径
上記D項のTEMで少なくとも300本の単繊維を1視野中に観察できる倍率で観察し、観察による写真から画像処理ソフトを用いて、単繊維のそれぞれの直径の単純な平均値を求めた。この際、同一視野内で無作為に抽出した、300本の直径を解析し、計算に用いた。
E.SEM観察
繊維に白金−パラジウム合金を蒸着し、走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維側面を観察した。
SEM装置 : 日立社製S−4000型
F.力学特性
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JISL1013 8.5.1に基づき、つかみ間隔20cm、引っ張り速度20cm/分で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
G.拭き取り性
シリコーンオイルSH200(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)を注射針で約5mgガラス板上に落とし、直径45mm、重さ1Kgfの円柱状荷重の一端面に固定した試料(ワイピングクロス)をガラス板上に乗せ1m/minの速度で移動し、シリコーンを拭き取る。次に、乾式複写機用トナー(SF−76T:シャープ株式会社製)をガラス板上に振りかけ、そのトナーを圧縮空気(1kgf/m)で吹き飛ばす。ガラス板表面に“セロテープ”(積水化学工業株式会社製、登録商標)を張り付けてガラス板上の残留トナーを剥ぎ取り、“セロテープ”に付着したトナーの程度を判定する。トナーが全く付着しないもの(ガラス板のシリコーンを完全に拭き取ったもの)を5級、トナーが極めて多量に残るものを1級として5段階で肉眼判定した。
H.通気度
JIS L−1096に規定の方法(フラジール形法)に基づき測定を行った。
I.反射率
5cm角のサンプルを準備し、分光光度計U−3410((株)日立製作所製)にφ60積分球130−063((株)日立製作所製)および10°傾斜スペーサーを取付けた状態で380〜780nmの反射率を測定した。これを3つのサンプルで行い、560nmの値を単純平均して反射率を求めた。尚、標準白色板は装置に添付のもの((株)日立製作所製)を用いた。
J.研磨加工特性
繊維構造体(シート)をスリットして38mm幅のテープとし、以下の条件で研磨加工を行った。すなわち、アルミニウム基板にNi−Pメッキ処理した後、ポリッシング加工し平均表面粗さ0.2nmに制御したディスクを用い、研磨布表面に1次粒子径1〜10nmのダイヤモンド結晶からなる遊離砥粒スラリーを10ml/分の供給量で滴下し、ディスクの回転数を300rpm、テープのディスクへの押付圧を1.0kg/cm、テープ走行速度を6cm/分の条件で30秒間研磨を実施した。
JIS B0601(2001年度版)に準拠して、シュミットメジャーメントシステム社(Schmitt Measurement Systems,Inc)製TMS−2000表面粗さ測定器を用いて、テクスチャー加工後のディスク基板サンプル表面の任意の10カ所について表面粗さを測定し、10カ所の測定値を平均することにより基板表面粗さを算出した。数値が低いほど高性能であることを示す。
実施例1
溶融粘度212Pa・s(262℃、剪断速度121.6sec−1)、融点220℃のN6と重量平均分子量12万、溶融粘度30Pa・s(240℃、2432sec−1)、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)を用い、N6の含有率を45重量%とし、混練温度を220℃として溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。なお、ポリ乳酸の重量平均分子量は以下のようにして求めた。試料のクロロホルム溶液にTHF(テトラヒドロフラン)を混合し測定溶液とした。これをWaters社製ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)Waters2690を用いて25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。また、このポリL乳酸の215℃、1216sec−1での溶融粘度は86Pa・sであった。
これを溶融温度230℃、紡糸温度230℃(口金面温度215℃)、紡糸速度3500m/分で溶融紡糸を行い92dtex36フィラメントの高配向未延伸糸を得た。
この高配向未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率1.39倍、熱セット温度130℃として延伸熱処理した。得られた延伸糸は67dtex、36フィラメントであり、強度3.6cN/dtex、伸度40%、であった。またこのポリマーアロイ繊維中でN6は数平均による直径が110nmで均一に分散していた。このポリマーアロイ繊維を縦糸、横糸に用いてツィル織物を作成した。この織物を3%の水酸化ナトリウム水溶液(95℃、浴比1:100)で2時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の海ポリマーの99%以上を加水分解除去した。この結果得られた織物から繊維を引き出し、繊維横断面をTEM観察することで繊維の単繊維直径を求めたところ130nmであった。この状態の織物をSEMで観察したところ、極細繊維が500本以上集合した繊維束を形成していた。この織物を0.1mmφの穴が0.6mm間隔で開いているノズルから圧力3MPaの水流を噴射した。なお、処理速度は1m/分であり、ノズルは幅方向に振幅4mmで18.6Hzで揺動させながら処理を行った。この場合のカバーファクターは150%であった。この処理により極細繊維の集合した繊維束はほぐされて、極細繊維は単繊維状に分散されていることがSEMによる観察で確認された。この織物を用いて拭き取り性、通気性、反射率を評価した結果を表1に示す。該織物は拭き取り性が良好であり、ワイパーに好適であると同時に、通気性が低いので衣料に用いた場合の防風性、防寒性に優れ、さらに高い光反射率を有していることから液晶ディスプレーバックライト用反射板や紙の代替としての印刷用基材に優れている。
比較例1
水流を噴射しない以外は実施例1と同様の方法で織物を作成した。この織物を用いて拭き取り性を評価した結果を表1に示す。該織物はある程度良好なワイピング性を有しているものの、実施例1の織物には劣るものであった。また、通気性、光反射率は一般的な織物の範疇に入るものであった。
比較例2
特開平9−19393号公報の実施例1に準じ、海成分に実施例1で用いた共重合ポリエステル、島成分として実施例1で用いたN6を用い、海島の比率は10/90、極細繊維は50デニール(55.5dtex)9フィラメント、70島/フィラメントの海島型繊維を得た。
実施例1で得られたポリマーアロイ繊維の代わりに、ここで得られた海島型繊維を用いる以外は実施例1と同様の方法で織物を作成した。水流を噴射した後の織物をSEMで観察したところ、極細繊維の集合した束が存在し、その束内、束間の極細繊維の絡合はわずかにみられる程度であった。この織物を用いて拭き取り性を評価した結果を表1に示す。該織物はある程度良好なワイピング性を有しているものの、実施例1の織物には劣るものであった。また、通気性、光反射率は一般的な織物の範疇に入るものであった。
実施例2
溶融粘度1200poise(262℃、121.6sec−1)、融点225℃のポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリアルキレングリコール誘導体の熱水可溶性ポリマーである第一工業製薬株式会社製“パオゲンPP−15”((登録商標)溶融粘度3500poise、262℃、121.6sec −1、融点55℃)を、実施例1同様に混練、溶融紡糸した。このときのポリマーのブレンド比はPBTが20重量%、熱水可溶性ポリマーが80重量%、PBTの溶融温度は255℃、熱水可溶性ポリマーの溶融温度は80℃、紡糸温度は265℃、とし、60dtex36フィラメント、強度3.0cN/dtex、伸度45%のポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、熱水可溶性ポリマーが海、PBTが島の海島構造を示し、島PBTの数平均による直径は62nmであり、PBTが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。
このポリマーアロイ繊維を縦糸、横糸に用いて平織物を作成した。この実施例1と同様の方法でポリマーアロイ繊維中の海ポリマーの99%以上を除去した。この結果得られた織物から繊維を引き出し、繊維横断面をTEM観察することで繊維の単繊維直径を求めたところ78nmであった。この状態の織物をSEMで観察したところ、極細繊維が500本以上集合した繊維束を形成していた。この織物を0.25mmφの穴が1.25mm間隔で開いているノズルから圧力3MPaの水流を噴射した。なお、処理速度は3m/分であり、ノズルは幅方向に振幅3mmで24Hzで揺動させながら処理を行った。この場合のカバーファクターは61%であった。この処理により極細繊維の集合した繊維束はほぐされて、極細繊維は単繊維状に分散されていることがSEMによる観察で確認された。この織物を用いて拭き取り性、通気性、反射率を評価した結果を表1に示す。該織物は拭き取り性が良好であり、ワイパーに好適であると同時に、通気性が低いので衣料に用いた場合の防風性、防寒性に優れ、さらに高い光反射率を有していることから液晶ディスプレーバックライト用反射板や紙の代替としての印刷用基材に優れている。
実施例3
水流の噴射する処理を2回繰り返す以外は実施例2と同様の方法で織物を得た。この場合のカバーファクターは122%であった。この処理により極細繊維の集合した繊維束はほぐされて、極細繊維は単繊維状に分散されていることがSEMによる観察で確認された。この織物を用いて拭き取り性、通気性、反射率を評価した結果を表1に示す。該織物は拭き取り性が良好であり、ワイパーに好適であると同時に、通気性が低いので衣料に用いた場合の防風性、防寒性に優れ、さらに高い光反射率を有していることから液晶ディスプレーバックライト用反射板や紙の代替としての印刷用基材に優れている。
実施例4
実施例1で用いたポリマーアロイチップを紡糸温度240℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4500m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し、圧着率16%のエンボスロールで、温度80℃、線圧20kg/cmの条件で熱圧着し、単繊維繊度2.0dtex、目付150g/mの長繊維不織布を得た。
該ポリマーアロイ繊維からなる不織布に油剤(SM7060:東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)を繊維重量に対し2重量%付与し、1000本/cmのパンチ本数でニードルパンチを施すことで、目付120g/m、密度0.09g/cmのポリマーアロイ繊維からなる不織布を得た。この不織布を単繊維繊度0.1dtexのポリエステル短繊維からなるニードルパンチ不織布と積層した状態で0.1mmφの穴が0.6mm間隔で開いているノズルから圧力12Mpaの水流を噴射して一体化せしめ、複合シートを得た。なお、処理速度は1m/分であり、ノズルは幅方向に振幅4mmで18.6Hzで揺動させながら処理を行った。この場合のカバーファクターは150%であった。この複合シートを3%の水酸化ナトリウム水溶液(95℃、浴比1:100)で2時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の海ポリマーの99%以上を加水分解除去した。この状態の複合シートをSEMで観察したところ、極細繊維が500本以上集合した繊維束を形成していた。複合シートから繊維を引き出し、繊維横断面をTEM観察することで繊維の単繊維直径を求めたところ、80nmであった。さらにこの複合シートに水流の圧力が2MPaである以外は上記の高圧水流処理と同じ条件で処理を行った。
この複合シートを用いて拭き取り性、通気性、反射率を評価した結果を表1に示す。該複合シートは拭き取り性が良好であり、ワイパーに好適であると同時に、高い光反射率を有していることから液晶ディスプレーバックライト用反射板や紙の代替としての印刷用基材に優れている。
さらに、得られた複合シートをスリットして38mm幅のテープとし、研磨加工特性を評価した。研磨加工後のディスクの表面粗さは0.13nmと非常に平滑性に優れるものであった。
比較例3
ポリマーアロイ繊維を水酸化ナトリウム水溶液で処理した後に水流を噴射しない以外は実施例4と同様の方法で複合シートを作製した。
この複合シートを用いて拭き取り性、通気性、反射率を評価した結果を表1に示す。該複合シートは実施例4の複合シートと比較して拭き取り性、通気性、光反射率いずれも劣っていた。
また、実施例4と同様に研磨加工特性を評価した。研磨加工後のディスクの表面粗さは0.24nmと実施例4で得られたものと比較して平滑性に劣るものであった。
実施例5
実施例4のニードルパンチ不織布の代わりに横糸に流体により嵩高性を付与したPET加工糸織物を積層し、0.25mmφの穴が2.5mm間隔で開いているノズルから圧力10MPaの水流を噴射する処理を2回行うことにより一体化せしめ、複合シートを得た。なお、処理速度は3m/分であり、ノズルは幅方向に振幅6mmで24Hzで揺動させながら処理を行った。この場合のカバーファクターは117%であった。
この複合シートを3%の水酸化ナトリウム水溶液(95℃、浴比1:100)で2時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の海ポリマーの99%以上を加水分解除去した。この状態の複合シートをSEMで観察したところ、極細繊維が500本以上集合した繊維束を形成していた。複合シートから繊維を引き出し、繊維横断面をTEM観察することで繊維の単繊維直径を求めたところ81nmであった。さらにこの複合シートに水流の圧力が2MPaである以外は上記の高圧水流処理と同じ条件で処理を行った。この複合シートを用いて拭き取り性、通気性、反射率を評価した結果を表1に示す。該複合シートは拭き取り性が良好であり、ワイパーに好適であると同時に、通気性が低いので衣料に用いた場合の防風性、防寒性に優れ、さらに高い光反射率を有していることから液晶ディスプレーバックライト用反射板や紙の代替としての印刷用基材に優れている。
また、得られた複合シートをスリットして38mm幅のテープとし、実施例4と同様に研磨加工特性の評価を行った。研磨加工後のディスクの表面粗さは0.14nmと非常に平滑性に優れるものであった。
本発明の繊維構造体は、例えば、眼鏡拭き等のワイピングクロス、さらにはハードディスク、シリコンウエハ、集積回路基盤や精密機器、光学部品などの製造工程で用いられる研磨布やクリーニングテープに好適に用いることができる。
実施例1で作成した本発明の繊維構造体の表面SEM写真(図面代用写真、低倍率)。 比較例1で作成した従来の繊維構造体の表面SEM写真(図面代用写真、低倍率)。 実施例1で作成した本発明の繊維構造体の表面SEM写真(図面代用写真、高倍率)。 比較例1で作成した従来の繊維構造体の表面SEM写真(図面代用写真、高倍率)。

Claims (4)

  1. 溶解性の異なる複数のポリマーからなるポリマーアロイ繊維を含む繊維構造体を形成し、
    該ポリマーアロイ繊維の溶解性の異なる複数のポリマーのうちの少なくとも1種を除去して繊維径10〜1000nmの極細繊維を発現せしめて該極細繊維が集合した繊維束とし、
    該極細繊維が集合した繊維束を含む繊維構造体に0.1〜20MPaの高圧流体流を噴射する、
    ことを特徴とする繊維構造体の製造方法。
  2. 前記溶解性の異なる複数のポリマーを、押出混練機および/ または静止混練器でポリマーアロイとなしてから、紡糸してポリマーアロイ繊維を得ることを特徴とする請求項1に記載の繊維構造体の製造方法。
  3. 前記極細繊維が集合した繊維束が、数平均による繊維直径が10〜300nmであり、かつ繊維直径が10〜300nmの極細繊維の数比率が60%以上である繊維束であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維構造体の製造方法。
  4. 高圧流体流を噴射した後に、100℃以上の温度で熱処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維構造体の製造方法。
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