JP2008192280A - 開口フィルタ及び波長板機能付開口フィルタ - Google Patents

開口フィルタ及び波長板機能付開口フィルタ Download PDF

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Abstract

【課題】波長板を構成する圧電基板に開口フィルタを成膜しても反りが生じないようにすることを目的とする。
【解決手段】波長板を形成する第1の水晶基板3の一方の表面上には、位相調整膜6と波長選択膜7とからなる開口フィルタ5が成膜されている。また、第1の水晶基板3の他方の面には、第1の水晶基板3の一方の面に成膜された開口フィルタ5により生ずる圧縮応力を打ち消すために所定の材質の矯正用光学薄膜8を成膜するようにした。
【選択図】図1

Description

本発明は波長板機能付開口フィルタに関し、特に複屈折性を有する透明基板を2枚積層した構造の波長板の一方の透明基板の表面上に開口フィルタを形成することにより一体化した波長板機能付開口フィルタに関するものである。
CDやDVD等の光記録媒体(以下、光ディスクと称す)に対して情報の記録や再生を行う際は、光ピックアップが使用される。そして、一つの光ピックアップでCDやDVD等に対応するために、互いに波長の異なる複数の光源から出射される複数の波長の光線を一つの対物レンズで光ディスクのピット上に集光できるように絞り機能を有する波長選択フィルタ(以下、開口フィルタと称す)が用いられる。
特許文献1、特許文献2には、波長780nm帯のCD、波長660nm帯のDVD、波長405nmの青紫色レーザを用いたBlu−ray DiscやHD DVD等の次世代光ディスク(以下、BDと称す)の複数のフォーマットの光ディスクを記録再生することができる光ピックアップに使用される開口フィルタが開示されている。
また、光ピックアップには、半導体レーザ光源から出射された直線偏光の光線を円偏光に変換するために1/4波長板が使用される。1/4波長板は、2波長以上のレーザ光に対して使用する場合、広帯域で位相差が90°となる広帯域1/4波長板が必要となり、2枚の例えば複屈折性を有する材料からなる透明基板を夫々の光学軸が所定の角度で交差するように積層してなる積層波長板が多く用いられている。
尚、1/4波長板として用いる複屈折性材料としては、延伸により複屈折性を持たせたポリカーボネートフィルムや有機系高分子フィルム、複屈折性を有する有機材料をガラス基板上に配向させたもの、ガラス基板上に異方性蒸着などの成膜方法で複屈折性を持たせて形成したTiO2などの無機材料等があり、更に水晶、LiNbO3等の複屈折性を有する無機材料がある。
特許文献3、特許文献4、特許文献5には、所定の波長において位相差180°となる第1の波長板と位相差90°となる第2の波長板とを積層して構成される広帯域1/4波長板が開示されている。更に、特許文献6には、所定の波長において位相差が4次モードで255°となる第1の波長板と位相差が2次モードで130°となる第2の波長板とを積層して構成された複数の波長で1/4波長板として機能する積層波長板、或いは所定の波長において位相差が5次モードで180°となる第1の波長板と位相差が2次モードで270°となる第2の波長板とを積層して構成することにより、複数の波長で1/4波長板として機能する積層波長板が開示されている。
一方、従来、光ピックアップを小型化するため、複数の機能を有する複合型の光学デバイスが実用化されており、前記開口フィルタと波長板の機能を有する波長板機能付開口フィルタもその一つである。
図8は、従来の波長板機能付開口フィルタの外観構造を示す図である。図8(a)は、上面図を示し、図8(b)は側面図を示す。波長板機能付開口フィルタ101は、1/4波長板102を構成する第1の水晶基板103と第2の水晶基板104と、多層薄膜からなる開口フィルタ105とにより構成する。図8(a)に示した上面図は、開口フィルタの構造を示しており、第1の水晶基板103の表面上のA領域に位相調整膜106が形成され、B領域に波長選択膜107が形成されている。位相調整膜106と波長選択膜107とは異なる薄膜構成を有しており、夫々、低屈折率材料(SiO2など)と高屈折率材料(Ta25など)とを交互に複数層成膜することにより形成されている。
一方、図8(b)に示す1/4波長板102は、例えば、特許文献5に開示されているように所定の波長において位相差90°となる厚さt1≒0.2mmの第1の水晶基板103と、所定の波長において位相差180°となる厚さt2≒0.4mmの第2の水晶基板104とを積層して構成され、広帯域1/4波長板として機能する。
3波長対応の光ピックアップに使用されている夫々のレーザ光の波長λ101,λ102,λ103においては、波長λ101がHD DVDに対応した405nm帯であり、波長λ102がDVDに対応した660nm帯であり、波長λ103がCDに対応した780nm帯である。
夫々の光源から波長λ101,λ102,λ103のレーザ光が出射されると、開口フィルタ105のA領域は、波長λ101と波長λ102と波長λ103の光線を共に透過し、開口フィルタ105のB領域は、波長λ101と波長λ102の光線のみを透過して波長λ103の光線は反射する。従って、光源より出射されたレーザ光は、波長λ103のレーザ光が所定の範囲に絞り込まれる。
特開2003−67972号公報 特開2006−228306号公報 特開平10−68816号公報 特開2001−101700号公報 特開2005−158121号公報 WO特許第2003/091768号公報 特許第3034668号公報 特開平7−209516号公報 特開2005−43755号公報
しかしながら、従来の波長板機能付開口フィルタは、以下のような問題があった。
波長板機能付開口フィルタを製造する際は、先ず、1/4波長板を構成する第1の水晶基板と、第2の水晶基板とを製造し、その後、第1の水晶基板の一方の表面上に、開口フィルタとなる多層の光学薄膜を成膜する。多層膜からなる光学薄膜は、イオンアシスト法やイオンプレーティング法やスパッタリング法等を用いて、前述したように、低屈折率材料(SiO2など)と高屈折率材料(Ta25など)とを交互に複数層蒸着することにより成膜されているが、成膜した光学薄膜の膜の密度が高いために圧縮応力が発生して第1の水晶基板に反りが生ずる。
図9は、第1の水晶基板103に圧縮応力が加わり反りが生じた様子を示す図である。図9に示す如く、1/4波長板102を構成する第1の水晶基板103の一方の表面上に、位相調整膜106と波長選択膜107を成膜すると、第1の水晶基板103に圧縮応力が加わり、第1の水晶基板103の板厚が0.2mmと薄いために反りが生ずる。従って、次工程において第1の水晶基板103に第2の水晶基板104を貼り合わせる際に困難が伴うと共に、第1の水晶基板103と第2の水晶基板104の貼り合わせ面の形状が不一致のため、波長板機能付開口フィルタの面精度が著しく悪化し、光学特性に悪影響を与えるという問題点があった。
これに対して、文献7には、光学薄膜の内部応力による基板の変形を抑制するために、基板の裏面に基板と略等しい屈折率を有する多層膜を、基板表面に形成した光学薄膜の物理膜厚と略等しい厚さとなるように形成することが開示されている。更に、文献8には、光学フィルタを構成する40層以上からなる光学多層膜を基板の両主面に振り分けて、両主面に形成する多層膜の層数の差を20〜30層以内とすることにより基板の反りを改善することが開示されている。更に、文献9には、基板の一方の面に通常の真空蒸着により成膜した光学多層膜に生じた応力(SiO2による強い圧縮応力と、TiO2の弱い引張り応力との合計により基板に圧縮応力が発生している)による基板の反りを抑制するために、基板の他方の面にイオンアシスト法によるSiO2の単層膜を矯正膜として形成することにより、前記多層膜による圧縮応力と前記矯正膜による圧縮応力とにより基板に加わる応力を緩和することが開示されている。
しかしながら、文献7では、基板の裏面に光学特性上マッチングを取る膜を多層にわたって形成しているので製造コストが高くなってしまうという問題があった。文献8と文献9では、厳密な応力バランスの観点からは不十分であり、405nm帯(BD)〜780nm帯(CD)の広帯域で厳格な光学的特性が要求される、例えば波面収差の抑圧等においては仕様を満足することができないという問題があった。即ち、位相調整膜と波長選択膜とから構成される開口フィルタのように基板の表面上に互いに膜厚の異なる複数のパターンが構成された場合、基板に対して位相調整膜により生じる応力と波長選択膜により生じる応力とを解析した上で、最適な矯正膜を設計しなければならないという新たな問題に直面したのである。
そこで、本発明は上述したような問題を解決するためになされたものであって、無機材料基板に開口フィルタを成膜しても反りを生じることなく、405nm帯(BD)〜780nm帯(CD)の広帯域で光学的特性上の厳格な仕様を満足する開口フィルタ及び波長板機能付開口フィルタを実現することを目的とする。
本発明に係る開口フィルタは、透明基板の一方の主面上に互いに波長の異なる複数の光線のうち、全ての波長の光線を透過する第一の領域と所定の波長の光線の透過を阻止する第二の領域とを有した開口フィルタであって、前記第一の領域は低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に複数積層してなる第一の光学多層薄膜からなり、前記第二の領域は低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に複数積層してなる第二の光学多層薄膜からなり、前記透明基板の他方の主面上に所定の膜厚を有する単層の光学薄膜を形成したことを特徴としている。
これによれば、開口フィルタは、透明基板の一方の面上に開口フィルタを成膜した際に発生する応力を、基板の他方の面上に成膜した単層の光学薄膜の応力により打ち消すことができる。従って、基板が反ることを防止し、開口フィルタの波面収差等の光学特性を改善する上で大きな効果を発揮する。
本発明に係る開口フィルタは、前記第一の光学多層薄膜及び前記第二の光学多層薄膜の少なくとも一方の光学多層薄膜の何れかの層に中間屈折率材料からなる薄膜を形成したことを特徴としている。
これによれば、開口フィルタは、開口フィルタの薄膜材料として中間屈折率材料を成膜した場合においても本発明を適用することができ、多くの種類の開口フィルタに汎用的に対応可能である。
本発明に係る波長板機能付開口フィルタは、複屈折性を有する第1の透明基板の一方の主面上に互いに波長の異なる複数の光線のうち、全ての波長の光線を透過する第一の領域と所定の波長の光線の透過を阻止する第二の領域とからなる開口フィルタを形成し、前記第一の領域は低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に複数積層してなる第一の光学多層薄膜からなり、前記第二の領域は低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に複数積層してなる第二の光学多層薄膜からなり、前記第1の透明基板の他方の主面上に所定の膜厚を有する単層の光学薄膜を形成し、前記第1の透明基板の前記単層の光学薄膜が形成された面側に複屈折性を有する第2の透明基板を積層したことを特徴としている。
これによれば、波長板機能付開口フィルタは、第1の透明基板の一方の表面上に開口フィルタを成膜した際に発生する応力を、第1の基板の他方の表面上に成膜した単層の光学薄膜により打ち消すことができる。従って、第1の基板が反ることを防止し、第1の基板に第2の基板を貼り付ける作業が、容易に精度よく行うことができることから、波長板機能付開口フィルタの波面収差等の光学特性とコストを改善する上で大きな効果を発揮する。
本発明に係る波長板機能付開口フィルタは、前記単層の光学薄膜の膜厚は、前記第1の透明基板に形成した開口フィルタにより生ずる応力に応じて決定されることを特徴としている。
これによれば、矯正用光学薄膜は、薄膜材料として、例えば、成膜した際の圧縮応力の発生が大きいSiO2を用いており、必要な圧縮応力に応じて光学薄膜の膜厚を適宜に設定することにより、容易に単層の矯正用光学薄膜を形成することが可能である。また、透明基板として、白板ガラスなどを使用すると、矯正用光学薄膜の材料として使用したSiO2と屈折率が近似しているので、透明基板に矯正用光透明基板として、複屈折性を有する水晶等を透明基板に矯正用光学薄膜を成膜しても波長板機能付開口フィルタの波面収差等の光学特性に影響を与えることはない。
本発明に係る波長板機能付開口フィルタは、前記第一の光学多層薄膜及び前記第二の光学多層薄膜の少なくとも一方の光学多層薄膜の何れかの層に中間屈折率材料からなる薄膜を形成したことを特徴としている。
これによれば、波長板機能付開口フィルタは、開口フィルタの薄膜材料として中間屈折率材料を成膜した場合においても本発明を適用することができ、多くの種類の開口フィルタに汎用的に対応可能である。
本発明に係る波長板機能付開口フィルタは、前記複数の光線の波長が夫々780nm帯、660nm帯、及び405nm帯であることを特徴としている。
これによれば、開口フィルタは、3波長のうち何れかの所定の波長の光線を所定の範囲に絞りこむことができる。
本発明に係る開口フィルタは、前記低屈折率材料は、SiO2、或いはMgF2であり、前記高屈折率材料は、Ta25、TiO2、或いはNb25であることを特徴としている。
これによれば、開口フィルタは、薄膜材料として汎用的に使用されている光学材料を使用しているので、容易に低コストな開口フィルタを実現することが可能である。
本発明に係る波長板機能付開口フィルタは、前記低屈折率材料は、SiO2、或いはMgF2であり、前記高屈折率材料は、Ta25、TiO2、或いはNb25であることを特徴としている。
これによれば、開口フィルタは、薄膜材料として汎用的に使用されている光学材料を使用しているので、容易に低コストな波長板機能付開口フィルタを実現することが可能である。
本発明に係る波長板機能付開口フィルタは、前記中間屈折率材料は、Al23であることを特徴としている。
これによれば、開口フィルタは、薄膜材料として汎用的に使用されている光学材料を使用しているので、容易に低コストな波長板機能付開口フィルタを実現することが可能である。
以下、図示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
本発明においては、無機材料からなる基板の表面上に光学多層膜から構成される開口フィルタを形成しても反りが生じないように、基板の他方の表面上に、基板の反りを打ち消すよう所定の膜厚の矯正用光学薄膜を成膜した。前述したように、イオンアシスト法、イオンプレーティング法やスパッタリング法を用いて、基板の表面上に各種の誘電体材料を成膜すると、一般的に圧縮応力が発生して基板が反ることが知られているが、基板の反り量は、光学薄膜の厚さに比例し、基板の厚さの二乗に反比例する。
従って、基板の他方の表面上に成膜する矯正用光学薄膜の材料と膜厚を適宜選択することにより最適な矯正用の圧縮応力を得ることができ、基板の反りを打ち消すことが可能となる。また、矯正用光学薄膜は、開口フィルタの光学特性や、基板が複屈折性を有した無機材料からなる波長板である場合に当該波長板の光学特性に悪影響を与えることのない単層の光学薄膜としている。
図1は、本発明に係る波長板機能付開口フィルタの外観構造を示す図であり、図1(a)は、第1の水晶基板の一方の表面上に開口フィルタを成膜した後、他方の表面上に所定の膜厚の矯正用光学薄膜を成膜した状態を示す。また、図1(b)は、さらに、第1の水晶基板の他方の表面上に成膜した矯正用光学薄膜の面に第2の水晶基板を貼り付けて、波長板機能付開口フィルタを完成させた状態を示す。
図1(a)において、広帯域1/4波長板2を構成する複屈折性を備えている第1の水晶基板3の一方の表面上には、位相調整膜6と波長選択膜7とからなる開口フィルタ5が成膜されている。位相調整膜6は、波長λ1,λ2,λ3のレーザ光を共に透過する光学多層薄膜であり、波長選択膜7は、波長λ1及び波長λ2のレーザ光のみを透過して波長λ3のレーザ光は反射する光学多層薄膜である。従って、光源より出射されたレーザ光は、波長板機能付開口フィルタ9の入射面に入射すると、波長λ3のレーザ光のみが所定の範囲に絞り込まれて、波長板機能付開口フィルタ9の出射面から出射される。
また、第1の水晶基板3の他方の面には、第1の水晶基板3の一方の面に開口フィルタ5を成膜したことにより発生する圧縮応力を打ち消すために、所定の誘電体材料からなる矯正用光学薄膜8が成膜されている。従って、第1の水晶基板3には反りが生じない。この矯正用光学薄膜8の種類、必要な膜厚などについては後述する。図1(b)において、矯正用光学薄膜8が成膜された第1の水晶基板3の面に、複屈折性を備えている第2の水晶基板4が貼り付けられ、波長板機能付開口フィルタ9が完成される。つまり、本実施形態の波長板機能付開口フィルタ9は、広帯域1/4波長板を構成する第1の水晶基板3及び第2の水晶基板4と、第1の水晶基板3の一方の面上に成膜される開口フィルタ5と、第1の水晶基板3の他方の面上に成膜される所定膜厚の矯正用光学薄膜8と、を備え、矯正用光学薄膜8の面に第2の水晶基板4を積層するようにしている。
次に、本発明の原理を詳しく説明するため、水晶基板に開口フィルタを成膜した際に生ずる圧縮応力の詳細と、それを打ち消すために必要な矯正用光学薄膜の仕様について説明する。
先ず、水晶基板に開口フィルタを成膜した際に発生する圧縮応力の詳細について、開口フィルタの製造工程を例として説明する。
図2は、開口フィルタを水晶基板の一方の表面上に成膜する際の工程を示す図である。図2の工程図を説明すると、所定の形状に加工された複屈折性を備えている水晶基板10の一方の表面上にフォトレジスト11を塗布した後(ステップS1)、所定のマスクを介して露光し、現像することにより所望のパターンのフォトレジスト膜12を得る(ステップS2)。次に、所望のパターンのフォトレジスト膜12が形成された水晶基板10の表面上の全域に、入射する全ての波長の光線を透過する位相調整膜13を成膜する(ステップS3)。位相調整膜13は、誘電体多層膜であり、低屈折率材料と高屈折率材料の薄膜を交互に積層したものである。例えば、低屈折率材料としては、SiO2が、高屈折率材料としては、Ta25が使用される。そして、水晶基板10に形成されているフォトレジスト膜12を剥離すると、水晶基板10には、所望のパターンの位相調整膜14が形成される(ステップS4)。
次に、位相調整膜14が形成された水晶基板10の表面上の全域に、フォトレジスト11を塗布した後(ステップS5)、所定のマスクを介して露光し、現像することにより所望のパターンのフォトレジスト膜15を得る(ステップS6)。次に、所望のパターンのフォトレジスト膜15が形成された水晶基板10の表面上の全域に、入射する所定の波長の光線のみを透過する波長選択膜16を成膜する(ステップS7)。波長選択膜16は、誘電体多層膜であり、低屈折率材料と高屈折率材料の薄膜を交互に積層したものである。例えば、低屈折率材料としては、SiO2が、高屈折率材料としては、Ta25が使用される。次に、水晶基板10に形成されているフォトレジスト膜15を剥離すると、水晶基板10には、所望のパターンの波長選択膜17が形成され、開口フィルタが完成する(ステップS8)。
次に、上述したような開口フィルタの製造工程においては、位相調整膜や波長選択膜を形成するために、水晶基板にフォトレジストを塗布して所定のパターンのフォトレジスト膜を形成している。一般的に、このようなフォトレジスト膜を形成する工程を有する場合、前記ステップS3やステップS7において、誘電体多層膜からなる位相調整膜14や波長選択膜17を成膜する際は、フォトレジストの形状や厚みの破壊を防止するため、低温成膜(蒸着温度:150℃以下)を行うことが必要である。また、開口フィルタにおいては、その光学薄膜の屈折率をn、光学薄膜の厚み(物理膜厚)をdとすると、光学薄膜の光路長(光学膜厚)n×dが位相調整膜14と波長選択膜17において等しくすることが必要である。そこで、開口フィルタを形成する工程においては、光学薄膜を成膜する際に低温成膜であることと、光学薄膜は、屈折率の変動が少ないことが必要になる。
また、光学薄膜の屈折率nについては、一般的な使用環境である周囲温度−40℃〜+85℃、高温高湿60℃・90%において、その変動が所定値以内となるような性能が求められている。従って、上述したような条件より、水晶基板に開口フィルタを成膜する手法としては、真空蒸着装置内にイオンガンを設置したイオンアシスト法や、真空中にプラズマを発生させるイオンプレーティング法やスパッタリング法などのイオン化蒸着法が採用される。これらの方法を用いて成膜することによって光学薄膜の密度が高くなると共に、成膜後の光学薄膜の有する光学特性の変化も少なく安定した光学薄膜が得られる。また、このような蒸着方法によると、光学薄膜を成膜した際に、ほとんどの蒸着物質が圧縮応力を発生するという性質を持っている。また、光学薄膜を形成する低屈折率材料として最も使用されるSiO2は、特に圧縮応力が強いという特性を有しており、水晶基板に成膜した際に問題となる。
次に、低屈折率材料として最も使用されるSiO2と、高屈折率材料として最も使用されるTa25について、水晶基板に成膜した際に、具体的にどの程度の圧縮応力が発生するかを計算により求める。
テスト基板として、基板の板厚bが0.47mmのBK7(硼珪酸ガラス)を使用した。測定した薄膜の長さ(測定長)L=60mmに対するテスト基板の反り量を求めると、薄膜の膜厚d=0.450μmのSiO2膜の場合のテスト基板の反り量δは16.208μm、薄膜の膜厚d=0.750μmのTa25膜の場合のテスト基板の反り量δは7.296μmであった。
次に、薄膜が基板に蒸着されたときの基板に働く圧縮応力σは、下式(1)により求めることができる。
σ=Es×b2×δ/[{3×(1−Vs)}×d×L2]・・・・(1)
但し、Es=テスト基板のヤング率(BK7のEs=8.0×1010(N/m2))
Vs=テスト基板のポアソン比(BK7のVs=0.205)
b=テスト基板の厚み(0.47mm)
d=薄膜の厚み
L=測定長(薄膜の長さ)(60mm)
δ=テスト基板の反り量
とする。
従って、式(1)に上記の値を代入すると、
σ=Es×b2×δ/[{3×(1−Vs)}×d×L2]=8.0×1010×(0.47×10-32/[{3×(1−0.205)}×(60×10-32]×(δ/d)=20.58×106×(δ/d)(Pa)
よって、圧縮応力σを、下式(2)のように表すことができる。
σ=20.58×δ/d(MPa)・・・・(2)
そこで、式(2)において、
SiO2膜の場合、
膜厚d=0.450(μm)=0.450×10-6(mm)
テスト基板の反り量δ=16.208(μm)=16.208×10-6(mm)
を代入し、
Ta25膜の場合、
膜厚d=0.750(μm)=0.750×10-6(mm)
テスト基板の反り量δ=7.296(μm)=7.296×10-6(mm)
を代入すると、各薄膜の単位面積当たりの圧縮応力は、下記の通りとなる。
SiO2膜の圧縮応力σ(SiO2
σ(SiO2)=20.58×(δ/d)
=20.58×16.208×10-6/0.450×10-6
=741.2458(MPa)
=741.2(MPa)
Ta25膜の圧縮応力σ(Ta25
σ(Ta25)=20.58×(δ/d)
=20.58×7.296×10-6/0.750×10-6
=200.2022(MPa)
=200.2(MPa)
従って、薄膜材料としては、SiO2の圧縮応力が大きいことが分かる。
次に、開口フィルタの具体的な光学薄膜の構成例を示し、位相調整膜と波長選択膜のそれぞれに発生する圧縮応力と、そのときに水晶基板の反りを打ち消すために必要な矯正用光学薄膜の膜厚を求める。
図3は、開口フィルタの構造例を示す図であり、図4は、開口フィルタの具体的な光学多層薄膜の数値データ例を示す図であって、図4は位相調整膜20の膜構成を示し、図5は波長選択膜21の膜構成を示す。図3に示すように、開口フィルタ18は、複屈折性を備えている水晶基板19の一方の表面上に積層して成膜され、位相調整膜20と、波長選択膜21とにより構成する。また、位相調整膜20は、低屈折率材料であるSiO2と高屈折率材料であるTa25とを交互に16層積層した構造であり、波長選択膜21は、低屈折率材料であるSiO2膜と高屈折率材料であるTa25膜とを交互に19層積層した構造である。
また、位相調整膜20と波長選択膜21を構成するそれぞれの層の薄膜の膜厚は、図4及び図5に示す通りである。従って、位相調整膜20を構成するSiO2膜のトータルの膜厚は、1265.66nmであり、Ta25膜のトータルの膜厚は、880.07nmである。
一方、波長選択膜21を構成するSiO2膜のトータルの膜厚は、1368.77nmであり、Ta25膜のトータルの膜厚は、811.02nmである。
尚、位相調整膜20の物理膜厚と波長選択膜21の物理膜厚とを比較すると膜厚に差が見られるが、光学膜厚に換算すると、位相調整膜20の光学膜厚(3760.70μm)と波長選択膜21の光学膜厚(3760.61μm)とはほぼ同等であるので光学特性上影響はない。
次に、上述したような薄膜構成からなる開口フィルタの場合に必要となる矯正用光学薄膜の膜厚を求める。なお、矯正用光学薄膜の薄膜材料は、SiO2とする。
先ず、位相調整膜20と波長選択膜21のそれぞれに生ずる圧縮応力を算出する。
位相調整膜の圧縮応力は、SiO2膜とTa25膜のそれぞれのトータルの膜厚に単位面積当たりの圧縮応力を乗算することにより、下式のとおり求められる。
SiO2膜の圧縮応力=1265.56(トータルの膜厚)×741.2(単位面積当たりの圧縮応力)=938033.07(MPa)
Ta25膜の圧縮応力=880.07(トータルの膜厚)×200.2(単位面積当たりの圧縮応力)=176190.01(MPa)
従って、位相調整膜全体の圧縮応力σ1は、
圧縮応力σ1=938033.07+176190.01=1114223.08(MPa)
となる。
一方、波長選択膜の圧縮応力は、SiO2膜とTa25膜のそれぞれのトータルの膜厚に単位面積当たりの圧縮応力を乗算することにより、下式のとおり求められる。
SiO2膜の圧縮応力=1368.77(トータルの膜厚)×741.2(単位面積当たりの圧縮応力)=1014532.32(MPa)
Ta25膜の圧縮応力=811.02(トータルの膜厚)×200.2(単位面積当たりの圧縮応力)=162366.20(MPa)
従って、波長選択膜の圧縮応力σ2は、
圧縮応力σ2=1014532.32+162366.20=1176898.52(MPa)
となる。
以上の計算結果により、水晶基板には、位相調整膜20の領域にσ1の圧縮応力が、また、波長選択膜21の領域にσ2の圧縮応力が加わることとなる。
次に、水晶基板全体に加わる圧縮応力の値を求める。
ここで、図3において、位相調整膜20の領域に生じる圧縮応力σ1と波長選択膜21の領域に生じる圧縮応力σ2とにより生じる水晶基板19の圧縮応力について図7を用いて検討するにあたり、図7に示すように、波長板機能付開口フィルタ1の外形寸法を縦をL1、横をL2とし、開口部としてのA領域の直径をL3と定義する。
波長板機能付開口フィルタ1の外形寸法L1=L2=3.50(mm)とすると、A領域の直径L3は、およそ2.50(mm)〜2.79(mm)である。
まず、波長板機能付開口フィルタ1において、L1=L2=3.50(mm)及びL3=2.50(mm)の場合を考えると、A領域の面積Sa1とB領域の面積Sb1は以下の通りとなる。
Sa1=(2.50/2)2×π=4.90873(mm2
Sb1=3.502−(2.50/2)2×π=7.34127(mm2
よって、Sa1とSb1の面積比を求めると、
Sa1:Sb1=4.90873:7.34127=2.00:2.99
となり、全体の面積を1とすると、
Sa1:Sb1=0.4:0.6
となる。
従って、位相調整膜20と波長選択膜21の面積比が0.4:0.6であるので、水晶基板全体に加わる圧縮応力σtは、下式により求めることができる。
σt=0.4×σ1+0.6×σ2
=0.4×1114223.08+0.6×1176898.52
=1151828.344MPa
ここで、図1において、第1の水晶基板3に成膜する矯正用光学薄膜8の膜厚sは、前記圧縮応力σtに対応する膜厚とすればよいので、矯正用光学薄膜8の薄膜材料をSiO2とすると、SiO2膜の単位面積当たりの圧縮応力は741.2(MPa)であるから、矯正用光学薄膜8として必要な膜厚sは下式の通り求めることができる。
s=σt/741.2
=1151828.344/741.2
=1554.00(nm)
次に、波長板機能付開口フィルタ1において、L1=L2=3.50(mm)及びL3=2.79(mm)の場合を考えると、A領域の面積Sa1とB領域の面積Sb1は以下の通りとなる。
Sa1=(2.79/2)2×π=6.11361(mm2
Sb1=3.502−(2.79/2)2×π=6.136639(mm2
よって、Sa1とSb1の面積比を求めると、
Sa1:Sb1=6.11361:6.136639=1.00:1.00となり、全体の面積を1とすると、
Sa1:Sb1=0.5:0.5
となる。
従って、位相調整膜20と波長選択膜21の面積比が0.5:0.5であるので、水晶基板全体に加わる圧縮応力σtは、下式により求めることができる。
σt=0.5×σ1+0.5×σ2
=0.5×1114223.08+0.5×1176898.52
=1145560.800MPa
同様に、図1において、第1の水晶基板3に成膜する矯正用光学薄膜8の膜厚sは、前記圧縮応力σtに対応する膜厚とすればよいので、矯正用光学薄膜8の薄膜材料をSiO2とすると、SiO2膜の単位面積当たりの圧縮応力は741.2(MPa)であるから、矯正用光学薄膜8として必要な膜厚sは下式の通り求めることができる。
s=σt/741.2
=1145560.800/741.2
=1545.54(nm)
従って、図3、図4及び図5に示した開口フィルタの例においては、水晶基板19の他方の面に、SiO2を薄膜材料として、前述の計算結果から1545.54〜1554.00(nm)の範囲における中心値に膜厚を設定すると、
s=(1554.00+1545.54)/2
=1549.77(nm)
となり、1549.77(nm)の膜厚の矯正用光学薄膜を成膜することにより、水晶基板の反りを生じることなく、405nm帯(BD)〜780nm帯(CD)の広帯域で光学的特性上の波面収差の規格等の厳格な仕様を満足することができた。従って、矯正用光学薄膜の膜厚を1550.0±5.0(nm)に設定すれば良いことが分る。
ゆえに、以上のことから、矯正用光学薄膜の膜厚を設計する場合、以下の条件式(3)〜(5)を満足するようにすれば良い。
Sa+Sb=1 ・・・(3)
σt=Sa×σ1+Sb×σ2 ・・・(4)
s=σt/σs ・・・(5)
尚、SaはA領域(位相調整膜)の面積、SbはB領域(波長選択膜)の面積Sb、σ1はA領域により生じる応力、σ2はB領域により生じる応力、σtは基板全体に加わる応力、σsは矯正用光学薄膜の応力、sは矯正用光学薄膜の膜厚である。
以上、2枚の水晶基板を積層した波長板の一方の表面に開口フィルタを成膜した実施形態について説明したが、本発明は、波長板の構成として水晶基板を使用したものに限らず、樹脂フィルムを使用した波長板に適応することも可能である。
例えば、図6は樹脂波長板と開口フィルタとの組み合せた波長板機能付開口フィルタ23の構造図である。波長板機能付開口フィルタ23は、一方に開口フィルタ5が形成された白板ガラス24の他方の面にSiO2からなる矯正用光学薄膜8を形成し、矯正用光学薄膜8上にフィルム製波長板25を積層し、更に白板ガラス22を積層して構成される。
また、本実施形態において、開口フィルタの積層薄膜の構成が、低屈折率薄膜材料としてSiO2と高屈折率薄膜材料としてTa25とを交互に積層した場合について説明したが、これに限らず低屈折率材料としてMgF2、高屈折率材料としてTiO2やNb25等を用いてもよいことは言うまでもない。更に、低屈折率薄膜材料と高屈折率薄膜材料からなる光学多層膜のうちいくつかの層を例えば、Al23のような中間屈折率材料に置き換えてなる開口フィルタに適応させることも可能である。但し、Al23は前述の圧縮応力よりも引張り応力の方が強いので、水晶基板にAl23を形成しときに引張り応力により水晶基板のAl23形成面側に反りが生じた場合、水晶基板の光学多層膜が形成されていない側の面に矯正用光学薄膜としてAl23を形成すればよい。尚、Al23の屈折率は、水晶、BK7(硼珪酸ガラス)、B270(白板ガラス)等の屈折率に近い値なので素子の光学特性への影響はほとんどない。
本発明に係る波長板機能付開口フィルタの外観構造を示す図。 本発明に係る開口フィルタを水晶基板の一方の面に成膜する際の工程を示す図。 本発明に係る開口フィルタの構造例を示す図。 本発明に係る開口フィルタの光学薄膜を仕様を示す図であり、位相調整膜の光学薄膜の構成を示す図。 本発明に係る開口フィルタの光学薄膜を仕様を示す図であり、波長選択膜の光学薄膜の構成を示す図。 本発明に係る樹脂波長板と開口フィルタとの組み合せた波長板機能付開口フィルタの構造図。 本発明に係る開口フィルタの寸法を示す図。 従来の波長板機能付開口フィルタの外観構造を示す図。 水晶基板に圧縮応力が加わり反りが生じた様子を示す図。
符号の説明
1,9,23…波長板機能付開口フィルタ、2…広帯域1/4波長板、3…第1の水晶基板、4…第2の水晶基板、5,18…開口フィルタ、6,13,14,20…位相調整膜、7,16,17,21…波長選択膜、8…矯正用光学薄膜、10,19…水晶基板、11…フォトレジスト、12,15…フォトレジスト膜、22,24…白板ガラス、25…フィルム製波長板。

Claims (9)

  1. 透明基板の一方の主面上に互いに波長の異なる複数の光線のうち、全ての波長の光線を透過する第一の領域と所定の波長の光線の透過を阻止する第二の領域とを有した開口フィルタであって、前記第一の領域は低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に複数積層してなる第一の光学多層薄膜からなり、前記第二の領域は低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に複数積層してなる第二の光学多層薄膜からなり、前記透明基板の他方の主面上に所定の膜厚を有する単層の光学薄膜を形成したことを特徴とする開口フィルタ。
  2. 前記第一の光学多層薄膜及び前記第二の光学多層薄膜の少なくとも一方の光学多層薄膜の何れかの層に中間屈折率材料からなる薄膜を形成したことを特徴とする請求項1に記載の開口フィルタ。
  3. 複屈折性を有する第1の透明基板の一方の主面上に互いに波長の異なる複数の光線のうち、全ての波長の光線を透過する第一の領域と所定の波長の光線の透過を阻止する第二の領域とからなる開口フィルタを形成し、前記第一の領域は低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に複数積層してなる第一の光学多層薄膜からなり、前記第二の領域は低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に複数積層してなる第二の光学多層薄膜からなり、
    前記第1の透明基板の他方の主面上に所定の膜厚を有する単層の光学薄膜を形成し、
    前記第1の透明基板の前記単層の光学薄膜が形成された面側に複屈折性を有する第2の透明基板を積層したことを特徴とする波長板機能付開口フィルタ。
  4. 前記単層の光学薄膜の膜厚は、前記第1の透明基板に形成した開口フィルタにより生ずる応力に応じて決定されることを特徴とする請求項3に記載の波長板機能付開口フィルタ。
  5. 前記第一の光学多層薄膜及び前記第二の光学多層薄膜の少なくとも一方の光学多層薄膜の何れかの層に中間屈折率材料からなる薄膜を形成したことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の波長板機能付開口フィルタ。
  6. 前記複数の光線の波長が夫々780nm帯、660nm帯、及び405nm帯であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の波長板機能付開口フィルタ。
  7. 前記低屈折率材料は、SiO2、或いはMgF2であり、前記高屈折率材料は、Ta25、TiO2、或いはNb25であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の開口フィルタ。
  8. 前記低屈折率材料は、SiO2、或いはMgF2であり、前記高屈折率材料は、Ta25、TiO2、或いはNb25であることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の波長板機能付開口フィルタ。
  9. 前記中間屈折率材料は、Al23であることを特徴とする請求項3〜6、8のいずれか一項に記載の波長板機能付開口フィルタ。
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