ところで、セリアのような酸素吸蔵材を有する三元触媒が排気浄化触媒として排気系に配設された内燃機関において、排気空燃比が理論空燃比よりもリーン側の空燃比であるような機関運転が継続されている際に、急な加速などにより排気空燃比がリッチ空燃比に移行された場合、三元触媒に吸蔵されていた硫黄成分がH2S(二硫化水素)として一気に大量に大気に排出され、強い異臭がもたらされる場合がある。このことは、セリアのような酸素吸蔵材を有する三元触媒においては、酸素吸蔵材が有する酸素吸蔵能に起因して、リーン空燃比である場合には燃料中の硫黄成分が吸蔵され、リッチ空燃比である場合には吸蔵されている硫黄成分が脱離されるということに起因してもたらされるものである。
このような問題を解決する手段として、理論空燃比よりもわずかばかりリッチ側の空燃比(以下、スライトリッチ空燃比と称す)を通常走行における目標空燃比として内燃機関を運転させることが考えられる。
排気空燃比がスライトリッチ空燃比となるように内燃機関が継続して運転されている場合においては、三元触媒に硫黄成分が吸蔵されている場合であっても該硫黄成分は三元触媒から小出しに脱離されるため、該硫黄成分がH2Sとして大気に排出されたとしても、その量は少量であり強い異臭をもたらすことはない。また、排気空燃比がスライトリッチ空燃比となるように内燃機関が継続して運転されている場合においては、小出しに三元触媒から硫黄成分が脱離されているため、三元触媒に硫黄成分が吸蔵されているとしても、その量はわずかであり、急に加速され排気空燃比がスライトリッチ空燃比よりも更にリッチ側の空燃比にされたとしてもH2Sの発生量は少なく、異臭の発生を抑制することができる。更に、排気空燃比がスライトリッチ空燃比である場合、排気空燃比がリッチ側の空燃比にある場合には浄化されにくいとされるCOやHCの排出量も僅かであり、排気エミッションに対する影響は少ない。
排気浄化触媒は、一般的に、幾つかの触媒金属が含有されて構成されるが、これらの触媒金属が含有された一層コートの排気浄化触媒においては、継続使用されているうちに各触媒金属の融点の差異など起因して一部の触媒金属同士が固溶してしまい、排気浄化性能の劣化がもたらされる場合がある。
例えば三元触媒においては、一般的に、排気空燃比がリッチ空燃比である場合においてはNOxの浄化特性は高いとされているが、一層コートの三元触媒においては、白金とロジウムとが同一層に含有されているが故に、継続使用されているうちに白金とロジウムとの融点の差異などに起因してロジウムと白金とが固溶(合金化)してしまい、排気空燃比がリッチ空燃比である場合においてもNOxの浄化性能の劣化がもたらされる場合がある。
従って、排気浄化触媒として一層コートの三元触媒が排気系に配設された内燃機関においては、異臭となるH2Sの発生を抑制すべく、スライトリッチ空燃比を通常走行における目標空燃比として内燃機関を運転させることは、排気エミッションの観点で問題となる場合がある。
これに対して、下層と該下層を覆う上層とを具備し、排気と直接的に接することになる上層に酸素吸蔵材を含有させることで、酸素吸蔵材が下層に含有された場合と比較して、酸素吸蔵材による酸素の出入りを容易にし、より確実に排気中の酸素濃度の変動を吸収し、排気浄化性能の改善を図る排気浄化触媒がある。また、該排気浄化触媒においては、上層と下層のそれぞれに主として含有させる触媒金属を異なるものとすることができ、含有された各触媒金属の融点の差異などに起因して発生する排気浄化性能の劣化を抑制し、排気浄化触媒の排気浄化性能の改善を図ることが可能となる。
例えば、主たる触媒金属としてロジウムが含有された上層と、主たる触媒金属として白金が含有された下層とを有する2層コートの三元触媒であって、排気と直接的に接する上層にセリアのような酸素吸蔵材が含有された三元触媒がある。
排気と直接的に接する上層にセリアのような酸素吸蔵材が含有されたこのような三元触媒によれば、酸素吸蔵材が下層に含有された場合と比較して、酸素吸蔵材による酸素の出入りを容易にし、より確実に排気中の酸素濃度の変動を吸収し、三元触媒の排気浄化性能を高めることができる。また、白金とロジウムとが同一層に殆ど混在しない三元触媒によれば、上記のような白金とロジウムとが同一層に混在するが故に発生するリッチ空燃比領域におけるNOxの浄化性能の劣化を抑制することができる。これらのことにより、スライトリッチ空燃比を通常走行における目標空燃比として内燃機関を運転させることが可能となる。
しかしながら、下層と該下層を覆う上層とを具備し、排気と直接的に接することになる上層に酸素吸蔵材を含有させた排気浄化触媒においては、酸素吸蔵材が含有され1層コートで構成された三元触媒あるいは上層に酸素吸蔵材が含有されていない2層コートの三元触媒と比較して、理論空燃比及びリッチ空燃比領域におけるNOxの浄化性能を改善できる一方で、該触媒の反応特性に起因して多量の水素(H2)の発生がもたらされる場合があることが、本出願人の研究により判明した。より具体的には、主たる触媒金属としてロジウムが含有された上層と、主たる触媒金属として白金が含有された下層とを有する2層コートの三元触媒であって、排気と直接的に接する上層に酸素吸蔵材を含有させた三元触媒においては、酸素吸蔵材が含有され1層コートで構成された三元触媒あるいは上層に酸素吸蔵材が含有されていない2層コートの三元触媒と比較して、理論空燃比及びリッチ空燃比領域におけるNOxの浄化性能を改善できる一方で、該触媒の反応特性に起因して多量の水素(H2)の発生がもたらされる場合があることが、本出願人の研究により判明した。水素が発生する要因としては、水性ガス還元反応や水蒸気改質反応などが考えられ、これらの反応が上記のような現象をもたす一要因になっていることが考えられる。
ところで、排気中の酸素濃度に基づいて排気空燃比を検出するO2センサ等の空燃比センサを使用し機関空燃比を制御する場合には、排気中に水素が存在すると正確な空燃比制御ができなくなる問題があることが知られている。一般に、O2センサ等の排気中の酸素濃度に基づいて排気空燃比を検出する空燃比センサでは、センサの検出部(電極)に到達する排気中の酸素濃度と外部大気中の酸素濃度との差により生じる起電力等により排気中の酸素濃度を検出し、この排気酸素濃度から排気空燃比を検出している。このため、検出部に到達する排気の酸素濃度と実際の排気酸素濃度との間に差が生じると正確な空燃比検出を行うことができなくなる。例えば、排気中に水素が存在する場合には、水素の影響によりセンサ検出部に到達する排気の酸素濃度が実際の排気酸素濃度から変化してしまうため、空燃比センサ出力に誤差を生じ空燃比を正確に目標値に制御できなくなる場合が生じる。
水素は、酸素分子よりも小さく、空燃比センサ検出部(電極)外側の保護層内での拡散速度が速いため排気中に水素が存在すると空燃比センサ検出部には酸素よりも早く水素が到達する傾向がある。このため、保護層内側のセンサ検出部では酸素濃度に対する水素濃度の比率が外部排気における比率より高くなる。この結果、検出部(電極)上で水素と酸素が反応すると、検出部における排気中の酸素濃度は外部排気の平衡化した酸素濃度より低くなってしまう。
ここで、「平衡化した酸素濃度」とは排気中の可燃成分(水素等)が排気中の酸素と完全に反応した後の酸素濃度であり、真の排気空燃比に対応する酸素濃度である。上記のように、排気中に水素が存在するとセンサ検出部での酸素濃度は平衡化した排気酸素濃度より低くなるため、空燃比センサは実際の排気空燃比よりリッチな出力を発生することになる。このため、実際の排気空燃比がリッチからリーンに変化した場合も、実際の空燃比がかなりリーンになるまで空燃比センサはリッチ空燃比出力を発生するようになる。従って、このような状態の空燃比センサ出力に基づいて空燃比を、例えば理論空燃比に制御しようとすると、空燃比が理論空燃比よりリーン側に誤制御されてしまう問題が生じうる。
また、上述の問題は、O2センサのみならず、例えば片側を排気に接触させ、もう一方の側を大気に接触させた固体電解質に電圧を印加することにより、排気側(低酸素濃度側)から大気側(高酸素濃度側)に酸素イオンを移動させる酸素ポンプを形成し、酸素イオンの移動に伴う電流値の排気酸素濃度による変化に基づいて空燃比に比例する電圧を出力する、いわゆるリニア空燃比センサについても同様の問題が生じうる。
本発明は上記課題に鑑み、排気系に排気浄化触媒が配設された内燃機関の排気浄化装置において、排気浄化触媒として、下層と該下層を覆う上層とを具備し、排気と直接的に接触することなる上層に酸素吸蔵材を含有させた排気浄化触媒を適用することで、リッチ空燃比領域におけるNOxの浄化性能の改善を図るとともに、該排気浄化触媒の反応特性に起因して多量の水素が発生し、該水素の影響により空燃比センサの出力に誤差が生じた場合においても、空燃比を所望の空燃比に制御することが可能な内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的としている。
尚、特許文献1及び特許文献2において、下層と該下層を覆う上層とを具備する排気浄化触媒であって、排気と直接的に接する上層に酸素吸蔵材が混入させた排気浄化触媒が開示されているが、このような課題及びその解決手段についての記載はない。
請求項1に記載の発明によれば、下層と該下層を覆う上層とを具備し、排気中の酸素濃度が高いときに酸素を吸蔵し且つ排気中の酸素濃度が低いときに酸素を放出する酸素吸蔵能を有する酸素吸蔵材を前記上層に含有させた排気浄化触媒と、前記排気浄化触媒の下流に配設された空燃比センサと、前記空燃比センサからの出力と前記排気浄化触媒で生じた水素に起因する前記空燃比センサの出力の誤差とに基づいて、実際の空燃比が目標空燃比に一致するようにする空燃比制御手段と、を具備することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置が提供される。
すなわち、請求項1に発明では、下層と該下層を覆う上層とを具備し、酸素吸蔵材が上層に含有された排気浄化触媒を具備することで、リッチ空燃比領域におけるNOxの浄化性能の改善を図る。更に、空燃比センサからの出力と、排気浄化触媒で生じた水素に起因する空燃比センサの出力の誤差とに基づいて実際の空燃比を目標空燃比に一致するようにする空燃比制御手段を具備することで、排気浄化触媒の反応特性に起因して多量の水素の発生がもたらされた場合であっても、空燃比を目標空燃比に制御することを可能とする。これらにより、通常走行時の目標空燃比をスライトリッチ空燃比とする場合、通常走行時にスライトリッチ空燃比で内燃機関を運転させることができ、異臭となるH2Sの発生を抑制することが可能となる。
請求項2に記載の発明によれば、前記上層は主たる触媒金属としてロジウムが含有され、前記下層は主たる触媒金属として白金が含有される、ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置が提供される。
請求項3に記載の発明によれば、前記目標空燃比は、理論空燃比よりもわずかばかりリッチ側の空燃比とされる、ことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置が提供される。
請求項4に記載の発明によれば、前記実際の空燃比を、理論空燃比よりもわずかばかりリッチ側の空燃比を挟んで所定の振幅で強制的に振動させる、ことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置が提供される。
すなわち請求項4の発明では、実際の空燃比を、理論空燃比よりもわずかばかりリッチ側の空燃比を挟んで所定の振幅で強制的に振動させることで、更なる排気エミッションの改善を図る。尚、所定の振幅は、設計仕様などにより適宜設定されるものであり、例えば、排気浄化触媒の硫黄成分の吸蔵量に基づいて設定されてもよい。
各請求項の記載の発明によれば、排気系に排気浄化触媒が配設された内燃機関の排気浄化装置において、排気浄化触媒として、下層と該下層を覆う上層とを具備し、排気と直接的に接触することになる上層に酸素吸蔵材を含有させた排気浄化触媒を適用することで、リッチ空燃比領域におけるNOxの浄化性能の改善を図るとともに、該排気浄化触媒の反応特性に起因して多量の水素が発生し、該水素の影響により空燃比センサの出力に誤差が生じた場合においても、排気空燃比を所望の空燃比に制御することが可能な共通の効果を奏する。
以下、添付図面を用いて本発明の実施形態について説明する。図1は本発明を自動車用内燃機関に適用した場合の全体構成を示す概略図である。図1において、1は内燃機関本体を示す。本実施形態では内燃機関は多気筒機関が使用されており、図1はそのうちの1つの気筒についてのみ示しているが、他の気筒についても同一の構成となっている。
図1において、2は機関1の吸気管、16は吸気管2に配置され運転者のアクセルペダル21の操作量に応じた開度をとるスロットル弁、2aは吸気管2に設けられたサージタンク、2bは各気筒の吸気ポートとサージタンク2aとを接続する吸気マニホルド、7は機関の各気筒の吸気ポートに加圧燃料を噴射する燃料噴射弁を示す。また、図1において、18は機関の吸入空気量を検出するエアフローメータである。
本実施形態では、スロットル弁16には、スロットル弁開度に応じた電圧信号を発生するスロットル開度センサ17が配置されており、また、サージタンク2aにはサージタンク内の絶対圧力に応じた電圧信号を発生する吸気管圧力センサ3が接続されている。また、図1において11は各気筒の排気ポートを共通の集合排気管14に接続する排気マニホルドを示している。
集合排気管14には、排気浄化触媒として、排気の空燃比が理論空燃比近傍のときに排気中のHC、CO、NOX の三成分を同時に浄化可能な三元触媒15が配設されている。該三元触媒は、下層と該下層を覆う上層とを具備し、排気中の酸素濃度が高いときに酸素を吸蔵し且つ排気中の酸素濃度が低いときに酸素を放出する酸素吸蔵能を有する酸素吸蔵材を前記上層に含有させたものである。具体的には、排気と直接的に接触する上層であって主たる触媒金属としてロジウムが含有された上層と、該上層に覆われる下層であって主たる触媒金属として白金が含有された下層とを有する2層コートの三元触媒であって、少なくとも上層にセリアのような酸素吸蔵材が含有された2層コートの三元触媒である。
三元触媒15の下流側排気管には空燃比センサ13が設けられている。本実施形態では、空燃比センサ13として、排気中の酸素成分濃度に応じた電圧信号を発するO2サンサが用いられる。
図1において、機関本体1のシリンダブロックのウォータジャケット8には、冷却水の温度を検出するための水温センサ9が設けられている。水温センサ9は冷却水の温度に応じたアナログ電圧の電気信号を発生する。なお、上述のO2センサ13、スロットル弁開度センサ17、エアフローメータ18、吸気管圧力センサ3及び水温センサ9の出力信号は、後述するECU10のマルチプレクサ内蔵A/D変換器101に入力される。
図1に5、6で示すのは、それぞれ機関1のクランク回転角を検出するクランク角センサである。クランク角センサ5は、機関1のカム軸(図示せず)近傍に設けられ、カム軸回転角が、例えばクランク軸回転角に換算して720°毎に基準位置検出用パルス信号を発生する。また、クランク角センサ6は、クランク軸近傍に設けられ、クランク軸回転角30°毎にクランク角検出用パルス信号を発生する。これらクランク角センサ5、6のパルス信号はECU10の入出力インターフェイス102に供給され、このうちクランク角センサ6の出力はCPU103の割込み端子に供給される。
ECU(電子制御ユニット)10は、たとえばマイクロコンピュータとして構成され、A/D変換器101、入出力インターフェイス102、CPU103の他に、ROM104、RAM105、バックアップRAM106、クロック発生回路107等が設けられている。本実施形態では、ECU10は、機関の燃料噴射制御、点火時期制御等の基本制御を行う他、後述するように、O2センサ13からの出力と三元触媒15で生じた水素に起因するO2センサの出力の誤差とに基づいて、実際の空燃比が目標空燃比に一致するようにする空燃比制御手段として機能している。
ECU10の、ダウンカウンタ108、フリップフロップ109、および駆動回路110は燃料噴射弁7を制御するためのものである。すなわち、燃料噴射量(噴射時間)TAUが演算されると、噴射時間TAUがダウンカウンタ108にプリセットされると共にフリップフロップ109がセットされる。この結果、駆動回路110が燃料噴射弁7の付勢を開始する。他方、ダウンカウンタ108がクロック信号(図示せず)を計数して最後にその出力端子が“1”レベルとなったときに、フリップフロップ109がリセットされて駆動回路110は燃料噴射弁7の付勢を停止する。つまり、上述の燃料噴射時間TAUだけ燃料噴射弁7は付勢され、時間TAUに応じた量の燃料が機関の燃焼室に供給されることになる。
機関の回転数(回転速度)データは、クランク角センサ6のパルス間隔に基づいて所定のクランク角毎(例えば30°毎)の割込により演算され、RAM105の所定領域に格納される。つまり、RAM105には常に最新の回転速度データが格納されている。
ところで、本出願人は、1層コートで構成され酸素吸蔵材が含有された三元触媒(試料1)と、2層コートで構成され酸素吸蔵材が下層のみに含有された三元触媒(試料2)と、2層コートで構成され酸素吸蔵材が上層及び下層の両層に含有された三元触媒(試料3)との三つの層構造が異なる三元触媒を使用して、NOx浄化性能の比較、及び、H2発生量の比較を行った。一層コートで構成された三元触媒では、同じ層の中に触媒貴金属として白金及びロジウムが含有された。また、2層コートで構成される三元触媒では、排気と直接的に接する上層には主たる触媒金属としてロジウムが含有され、下層には主たる触媒金属として白金が含有された。尚、酸素吸蔵材としては、共通してセリアが使用された。
図2は、NOx浄化性能の比較の一例を示すグラフである。また、図3は水素発生量の比較の一例を示すグラフである。図2及び図3において、1層コートで構成され酸素吸蔵材が含有された三元触媒については試料1として示し、2層コートで構成され酸素吸蔵材が下層のみに含有された三元触媒については試料2として示し、2層コートで構成され酸素吸蔵材が上層及び下層の両層に含有された三元触媒については試料3として示す。
図2から、2層コートで構成され酸素吸蔵材を上層に含有させた三元触媒(試料3)は、他の三元触媒(試料1及び試料2)と比較して、リッチ空燃比及び理論空燃比(ストイキ)領域においてNOxの浄化性能が優れていることが理解される。このことから、酸素吸蔵材を上層に含有させた2層コートの三元触媒は、1層コートで構成された三元触媒あるいは上層に酸素吸蔵材が含有されていない2層コートの三元触媒と比較して、リッチ空燃比及び理論空燃比領域におけるNOxの浄化性能を改善できることが理解される。
一方で、図3から、2層コートで構成され酸素吸蔵材を上層に含有させた三元触媒(試料3)は、他の三元触媒(試料1及び試料2)と比較して、リッチ空燃比及び理論空燃比状態において、多くの水素の発生がもたらされることが理解される。このことから、酸素吸蔵材を上層に含有させた2層コートの三元触媒は、1層コートで構成された三元触媒あるいは上層に酸素吸蔵材が含有されていない2層コートの三元触媒と比較して、リッチ空燃比及び理論空燃比領域において、該触媒の反応特性に起因して多量の水素(H2)の発生がもたらされる場合があることが判明した。また、触媒の反応特性に起因して発生する水素量は、三元触媒の層構造や酸素吸蔵材がどの層に含有されるのか等により違うことが判明した。
上述したように、排気中の酸素濃度に基づいて空燃比を検出するO2センサ等の空燃比センサを使用して空燃比を制御する場合には、排気中にH2が存在すると正確な空燃比制御ができなくなる問題が生じうる。
図4はO2センサ13の概略構造を説明する図である。O2センサ13は、例えば酸化ジルコニウム(ZrO2 )等の固体電解質1305の両側に2つの白金電極1301、1303を配置した構成とされ、白金電極1303側は多孔質の保護層1307を介して排気に接触し、白金電極1301は大気に接触するように排気通路に挿入される。このように、固体電解質1305の両側の白金電極1301と1303に酸素濃度の異なる気体(大気と排気)を接触させると、電極相互の酸素濃度差により、大気(高酸素濃度)側電極1301上では大気中の酸素分子がイオン化し酸化ジルコニウム中を酸素イオンが排気(低酸素濃度)側電極1303に向けて移動して電極1303上で酸素分子になる。このため、電極1301と1303との間には酸化ジルコニウム中を流れる酸素イオンの量に応じた起電力が生成される。また、単位時間当たりに流れる酸素イオンの量は大気と排気の酸素濃度差に応じて変化するため、上記起電力を出力電圧として取り出すことにより、排気中の酸素濃度に応じた信号を得ることができる。なお、図4に1311で示したのは、機関始動時等の低温時に固体電解質層1305中を酸素イオンが移動可能な温度まで早期に昇温させるための電気ヒータである。図5はO2センサ13の出力特性を示す図である。図5に示すように、O2センサ13出力は理論空燃比近傍で比較的急激に変化する、いわゆるZ特性を示す。
ところが、排気中に水素が生成されると前述したように保護層1307内での拡散速度の差等により、排気側電極1303近傍では外部の排気より水素濃度が高くなり、電極上での水素と酸素の反応により排気側電極1303上での酸素濃度が保護層1307外側の排気より低くなってしまうため、O2センサ13は、保護層1307外部の排気の空燃比がかなりリーンにならないとリーン出力を発生しなくなる。すなわち、排気中に水素が存在すると、保護層1307外部の排気空燃比に対してO2センサ13出力は図5に点線で示したように変化するようになる。このため、空燃比のリッチからリーンへの変化の検出に遅れが生じるようになる。このような状態のO2センサ出力に基づいて空燃比を、例えば理論空燃比に制御しようとすると、空燃比が理論空燃比よりもリーン側に誤制御されてしまう問題が生じうる。
これらのことに基づいて、図1に示された本発明の排気浄化装置が適用された内燃機関においては、排気浄化触媒として、下層と該下層を覆う上層とを具備し、排気と直接的に接触することになる上層に酸素吸蔵材を含有させた排気浄化触媒を適用し、より具体的には、主たる触媒金属としてロジウムが含有された上層と、主たる触媒金属として白金が含有された下層とを有する2層コートの三元触媒であって、排気と直接的に接する上層に酸素吸蔵材としてセリアが含有された2層コートの三元触媒を適用し、リッチ空燃比領域におけるNOxの浄化性能の改善を図り、スライトリッチ空燃比を通常走行における目標空燃比として内燃機関を運転させることを可能とし、H2Sが排出されることによる異臭の発生を抑制することを可能とする。更に、空燃比センサからの出力と排気浄化触媒で生じた水素に起因する空燃比センサの出力の誤差とに基づいて空燃比制御を実行することで、該排気浄化触媒の反応特性に起因して多量の水素が発生し、該水素の影響により空燃比センサの出力に誤差が生じた場合においても、実際の空燃比を目標空燃比に一致させるようにすることを可能とする。
また、本発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、リッチ空燃比領域におけるNOxの浄化性能が改善されるために、三元触媒の酸素吸蔵量を所定量に維持すべく、機関運転中に燃料供給を停止するフューエルカットが実行された後にリッチ制御が実行されるような場合においても、その際のNOxの排出を抑制することが可能となる。
図6は、図1に示された本発明の排気浄化装置が適用された内燃機関において実行される、O2センサ13からの出力と三元触媒15で生じた水素に起因するO2センサ13の出力の誤差とに基づいて、実際の空燃比が目標空燃比に一致するようにする空燃比制御の制御ルーチンの第一の実施形態を示す図である。
図6に示される第一の実施形態の空燃比制御ルーチンにおいては、三元触媒15で生じた水素に起因するO2センサ13の出力誤差量が算出され、該出力誤差量に基づいて実際の空燃比を目標空燃比に一致させるための見かけ上の目標空燃比が設定され、該見かけ上の目標空燃比にて内燃機関を運転することで、実際の空燃比を目標空燃比に一致させるものである。この際、目標空燃比は、スライトリッチ空燃比すなわち理論空燃比よりもわずかばかりにリッチ側の空燃比とされる。以下に本制御ルーチンの各ステップを説明する。
まず、ステップ201及びステップ202においては、現状の内燃機関の運転状態が通常走行運転状態にあるか否かを判定する上で、機関回転数や吸入空気量などの各データがECU10に取り込まれ、該各データから触媒温度が算出され、触媒温度が所定値以上、例えば排気浄化触媒の浄化機能が正常に作用する触媒活性温度以上であるか否かの判定がなされる。触媒温度が所定値以上であると判定されると、すなわち、現状の内燃機関の運転状態が通常走行運転状態にあると判定されると、続くステップ203に進む。尚、該触媒温度の算出に当たっては、試験評価や解析評価などにより予め作成されECU10のメモリー内に格納されたマップであって、機関回転数や吸入空気量などから触媒温度を算出する第一のマップを使用して算出される。
ステップ203においては、目標空燃比がスライトリッチ空燃比に設定される。
上述したように、三元触媒15で多量の水素が発生すると、該水素の影響によりO2センサ出力に誤差が生じる。具体的には、O2センサ13は実際の空燃比よりリッチな出力を発生し、実際の空燃比がリッチからリーンに変化した場合も、実際の空燃比がかなりリーンになるまでO2センサ13はリッチ空燃比出力を発生するようになる。従って、このような状態のO2センサ出力に基づいて空燃比を、目標空燃比に制御しようとすると、空燃比が目標空燃比よりリーン側に誤制御されてしまう問題が生じうる。
例えば、目標空燃比を14.6と設定し、実際の空燃比が目標空燃比の14.6であるにもかかわらず、三元触媒15での水素発生の影響によりO2センサ13では実際の空燃比よりもリッチ側の例えば14.4で出力される場合がある。この場合、O2センサ出力に基づいて行われる通常の空燃比フィードバック制御においては、O2センサ13で出力された空燃比に基づいて実際の空燃比が目標空燃比よりもリッチ側にあるものと判断して、空燃比をリーン側へ移行させるようなフィードバック制御が実行されてしまう。このことは、実際の空燃比が目標空燃比であるにもかかわらず、リーン側への制御してしまうことになる。
このことに基づいて、ステップ204及びステップ205においては、三元触媒15で発生した水素に起因するO2センサ13の出力誤差量が算出され、該出力誤差量に基づいて、実際の空燃比を目標空燃比に一致させるための見かけ上の目標空燃比が設定される。つまり、三元触媒15で発生した水素に起因するO2センサ13の出力誤差量が算出され、この出力誤差量により、フードバック制御の際に、どれくらい誤って空燃比をリーン側へ移行させてしまうのかが判断され、誤ってリーン側へ移行されてしまう量だけ目標空燃比よりもリッチ側へ移行した見かけ上の目標空燃比が設定される。該見かけ上の目標空燃比にて内燃機関が運転された場合、実際の空燃比は、O2センサ13の出力誤差により誤ってリーン側へ移行されてしまう量だけ、見かけ上の目標空燃比よりもリーン側の移行された空燃比となるため、実際の空燃比を目標空燃比に一致させることができることになる。
ステップ204においては、まず、ステップ201で算出された触媒温度に基づいて三元触媒15での水素発生量を算出する第二のマップを使用して水素発生量が算出される。次に、該水素発生量に基づいてO2センサ13の出力誤差量を算出する第三のマップを使用してO2センサ13の出力誤差量が算出される。
ステップ205においては、O2センサ13の出力誤差量に基づいて、フィードバック制御する際に誤ってリーン側へ移行されてしまう量が第四のマップを使用して算出され、誤ってリーン側へ移行されてしまう量だけ目標空燃比よりもリッチ側へ移行した見かけ上の目標空燃比が設定される。尚、上記第二、第三及び第四のマップは、評価試験や解析評価等により予め作成され、ECU10のメモリー内に格納されている。
ステップ206においては、ステップ205において設定された見かけ上の目標空燃比にて内燃機関が運転される。これにより、実際の空燃比を目標空燃比に一致させることが可能となる。また、本実施形態においては、通常走行運転時の目標空燃比をスライトリッチ空燃比とすることで、異臭となるH2Sの発生を抑制することを可能とする。
図7は、図1に示された本発明の排気浄化装置が適用された内燃機関において実行される、O2センサ13からの出力と三元触媒15で生じた水素に起因するO2センサ13の出力の誤差とに基づいて、実際の空燃比が目標空燃比に一致するようにする空燃比制御の制御ルーチンの第二の実施形態を示す図である。
HC、CO及びNOxの各成分の最高浄化率の範囲の網羅できる振幅で空燃比を強制的に振動させることで排気エミッションの改善を図ることが知られている。しかしながら、リッチ空燃比領域においてNOxの浄化性能の劣化がもたらされる場合においては、この効果が十分に得られない場合がある。
図8は、三元触媒の浄化性能を示す図である。図8中において実線は、HC、CO及びNOxの各成分の浄化性能を示し、点線は、含有された各触媒金属の融点の差異などに起因して排気浄化性能が劣化した状態のNOxの浄化性能を示す。また、図8中においては、Aは空燃比を振動制御する際の振幅を示す。図8から理解される如く、NOxの浄化性能が劣化する前においては、図8中においてBにて示される領域(以下、B領域と称す)においてはNOxに対してほぼ最高浄化率にあり、図8中においてCにて示される領域(以下、C領域と称す)においてはHC及びCOに対してほぼ最高浄化率あり、これにより、空燃比を振動させることによる排気エミッションの改善効果が得られている。しかしながら、NOxの浄化性能が点線で示されるように劣化すると、B領域は、NOx、HC及びCOの全ての成分が最高浄化率にない領域となってしまい、空燃比を振動させることによる排気エミッションの改善効果が得られないことになる。
しかしながら、本発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、リッチ空燃比領域におけるNOxの浄化性能の改善が図れるために、上記のようにB領域にて、NOx、HC及びCOの全ての成分が最高浄化率にないような状況を回避することができ、空燃比を振動させることによる排気エミッションの改善効果が十分に得られる。更に、空燃比をストイキリッチ空燃比を挟んで強制的に振動させることができ、異臭をもたらすH2Sの発生を抑制することが可能となる。
このことに基づいて、図7に示される第二の実施形態の空燃比制御ルーチンにおいては、実際の空燃比をスライトリッチ空燃比を挟んで所定の振幅で強制的に振動させるように目標空燃比が設定される。尚、実際の空燃比を目標空燃比に一致させる手段については、図6に示された第一の実施形態と同様に、三元触媒15で生じた水素に起因するO2センサ13の出力誤差量が算出され、該出力誤差量に基づいて実際の空燃比を目標空燃比に一致させるための見かけ上の目標空燃比が設定され、該見かけ上の目標空燃比にて内燃機関を運転することで、実際の空燃比を目標空燃比に一致させるものである。
以下に本制御ルーチンの各ステップを説明する。
図7に示されたステップ303を除く各ステップは、図6に示されたステップ201、202及びステップ204〜ステップ206の各ステップと同様であり、ここでの説明は省略する。
ステップ303においては、実際の空燃比がスライトリッチ空燃比を挟んで所定の振幅で強制的に振動されるように目標空燃比が設定される。三元触媒15に硫黄成分が吸蔵されている場合、該振幅を調整することにより、三元触媒15から脱離させる硫黄成分量を調整することができる。例えば、強い異臭をもたらすような多量のH2Sを発生させないようなリッチ空燃比範囲で該振幅を大きくすれば、三元触媒15に硫黄成分が吸蔵されている場合においても、強い異臭をもたらすことなく、効率的に硫黄成分を三元触媒15から脱離させることができる。このことに基づいて、本実施形態においては、所定の振幅は三元触媒15の硫黄成分の吸蔵量に基づいて算出される。尚、該所定の振幅は、少なくともHC、CO及びNOxの各成分の最高浄化率の範囲の網羅できる振幅とされればよく、他の方法で算出されもよい。
図9は、実際の空燃比をスライトリッチ空燃比を挟んで所定の振幅で強制的に振動させる際の振幅の所定値を算出する制御ルーチンを示す図である。図9に示す制御ルーチンにおいては、まずステップ401にて三元触媒15の硫黄成分の吸蔵量が算出される。本実施形態においては、走行距離などから三元触媒15の硫黄成分の吸蔵量を算出する第五のマップを使用して算出される。ステップ401に続くステップ402においては、算出された硫黄成分の吸蔵量に基づいて、実際の空燃比をスライトリッチ空燃比を挟んで所定の振幅で強制的に振動させる際の振幅の所定値が、第六のマップを使用して算出される。該第六のマップにおいては算出される所定の振幅は、少なくともHC、CO及びNOxの各成分の最高浄化率の範囲の網羅できる振幅であって、強い異臭をもたらすような多量のH2Sを発生させないようなリッチ空燃比範囲を越えない振幅とされる。尚、上記第五及び第六のマップは、評価試験や解析評価等により予め作成され、ECU10のメモリー内に格納されている。これにより、三元触媒15に硫黄成分が吸蔵されている場合においても、強い異臭をもたらすことなく、効率的に硫黄成分を三元触媒15から脱離させることができるとともに、空燃比を振動させることによる排気エミッションの改善効果を十分にもたらすことを可能とする。
尚、排気浄化触媒の反応特性に起因して多量の水素の発生がもたらされた場合であっても、実際の空燃比を目標空燃比に一致するようにする空燃比制御として、以上述べてきた空燃比制御ルーチン以外の制御ルーチンが適用されてもよい。例えば、O2センサ13の出力と三元触媒15で生じた水素に起因するO2センサ13の出力誤差に基づいて、空燃比フィードバック制御における制御定数を変更することで実際の空燃比を目標空燃比に一致するようにする空燃比制御とされてもよい。また、O2センサ13の出力と三元触媒15で生じた水素に起因するO2センサ13の出力誤差に基づいて、O2センサ15の出力自体を補正することで、実際の空燃比を目標空燃比に一致するようにする空燃比制御とされてもよい。