以下、本発明に係る耐火柱およびこれを使用したユニット建物の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る耐火柱を構成する建物ユニットの斜視図、図2は、複数の建物ユニットを水平に連設するとともに垂直に積み重ねて構成された三階建のユニット建物を概略的に示す立面図、図3は、図2のA−A矢視方向から見た水平断面図、図4は、図3の柱集結部Bを拡大して示す水平断面図である。
図1〜4において、建物ユニット1は、4本の床大梁2,2…と、4本の天井大梁3,3…と、桁側(長辺側)の天井大梁3,3間に架け渡される複数の天井小梁4,4…と、4本の柱5,5…とから箱形の躯体が構成される。そして、この箱形の躯体の床大梁2,2…に床パネル6,6…が装着され、天井小梁4,4…の下方に図示していない天井面材が固定される。建物ユニット1は、図3に示すように、複数個が連設配置されたユニット建物Uの状態で、壁パネル7(外壁パネル7A、内壁パネル7B、界壁パネル7C)が、タッピングビス、スタッドピン、ボルト、ワンサイドリベット等の接合具を用いて取り付けられて構成される。床大梁2,2…および天井大梁3,3…は、溝形鋼で形成され、この例においては、桁側(長辺側)には長さ5.5〜5.6m程度の梁材が、また、妻側(短辺側)には長さ2.1〜2.2m程度の梁材が用いられている。柱5,5…は、100mm角の角型鋼管で形成され、天井小梁4,4…は、断面コ字型の溝形鋼で形成されている。
床パネル6には、厚さ125mmのALC(気泡コンクリート)板が用いられ、これにより、耐火時間2時間以上(JIS A 1304 建築構造部分の耐火試験方法による)の耐火性能が確保されている。また、壁パネル7のうち、外壁パネル7Aには厚さ100mmのALC板、内壁パネル7Bには総厚68mmの石綿珪酸カルシウム板と石膏ボードとの積層板、界壁パネル7Cには総厚116mmの石綿珪酸カルシウム板とガラス繊維入り石膏ボードとの積層板がそれぞれ用いられ、これにより、耐火時間1時間以上(JIS A 1304 建築構造部分の耐火試験方法による)の耐火区画が構成され、外壁パネル7Aと内壁パネル7Bとの間には、ガラスウールやロックウール等の断熱吸音材(図示せず)が充填されている。なお、壁パネルの材質は前記のものに限られないことは勿論である。
前記した構成の建物ユニット1は、建物の工業生産化率を高めるために、予め工場において、運搬可能な大きさの箱形のものとして生産された後、建築現場に輸送されて、施工、組立される。組立は、建築現場に、予め構築された基礎8の上に建物ユニット1をクレーンで吊り上げ、まず、一階を構成する建物ユニット1(以下、一階ユニット1a,1a…という)が、相互に所定の間隔を開けて据え付けられ、基礎8に対してアンカーボルトで締結される。次に、クレーンにより、二階を構成する建物ユニット(以下、二階ユニット1b,1b…という)が、一階ユニット1a,1a…の上部に積み重ねられ、二階ユニット1b,1b…の柱脚と一階ユニット1a,1a…の柱頭とが相互にボルトで緊結されて結合される。この後、三階を構成する建物ユニット(以下、三階ユニット1c,1c…という)が、二階ユニット1b,1b…の上に積み重ねられ、同様にして二階ユニット1b,1b…に対して結合される。このようにして複数の建物ユニットを、水平方向および垂直方向に連設配置して三階建ユニット建物Uを完成させている。
このようにして構成されたユニット建物Uでは、4つの建物ユニットが水平方向に「田」の字に連設配置されたときに建物中央部に、図3に示されるように、建物ユニット1の複数(4本)の鋼管柱5,5…が「田」の字に隣接して配列されて柱集結部Bが構成され、この柱集結部を耐火構造とすることで、本実施形態の耐火柱10が構成される。本実施形態では、三階建ての建物を示しているため建物ユニット1,1…を水平方向に連設配置すると共に、垂直方向にも連設配置している。すなわち、4つの建物ユニットを水平方向に田の字に配置すると、中央部の4本の柱は田の字に配置される。本実施形態では、複数の建物ユニットを水平方向に並置したときにユニット建物の中央部に形成される柱集結部Bを耐火ボードで被覆して耐火柱とするものであり、図示していないが各階の中央部に柱集結部が形成される。
図4に示す4本の鋼管柱5,5…が隣接する柱集結部Bにおいて、建物ユニット1,1…の躯体を構成する4本の鋼管柱5,5…は外形が100mm角で厚さ6mm程度のものが使用されている。そして、これらの鋼管柱はそれぞれ10〜15mm程度の隙間を有して「田」の字に隣接配置されている。4本の鋼管柱5,5…の外周面には、複数の鋼管柱を火災等から保護するための後述する4枚の耐火ボード15を鋼管柱から空隙を有して固定するための4本の角パイプ11,11…がサポートとして固定されている。このサポート11は厚さが0.4mm程度の亜鉛鉄板を屈曲形成し、断面形状が長辺40mm、短辺5mmの角パイプに形成されている。なお、サポートの形状は前記の矩形の断面形状に限られないことは勿論であり、鋼管柱に耐火ボードを固定できれば、どのような形状でもよく、例えばアングル形状でもよい。また、サポートは鋼管柱に沿う長尺状のものを示したが、短尺状のサポートを柱に沿わせて部分的に固定してもよい。
4本のサポート11,11…はそれぞれ鋼管柱5,5…の外周面に、例えば溶接やねじ止めにより固定され、長辺方向に鋼管柱の外周面から5mm突出するように固定されている。すなわち、4本の鋼管柱の4つの角部に対応してサポート11が固定されている。この構成によりサポートを介して、鋼管柱5,5…の外側に4枚の耐火ボード15を配置固定させると、鋼管柱と耐火ボードとの間に5mmのクリアランス(空隙)が形成されるように構成されている。また、耐火ボード15は4本の鋼管柱の4つの角部に対して固定されるため、固定状態が安定する。
耐火ボード15は不燃材と熱膨張性耐火シートとを積層したボードで構成されている。不燃材と熱膨張性耐火シートとの積層は、予め接着剤等を用いて固定したものや、施工時に貼り付けて積層したもの等、適宜用いられる。不燃材として、本実施形態では9.5mm厚の石膏ボード16が使用されており、熱膨張性耐火シートとして熱膨張性耐火材料から構成される1mm厚の加熱膨張シート17が使用されている。そして、石膏ボード16の表面に加熱膨張シート17が粘着支持されて積層され、10.5mm厚の薄い耐火ボード15が構成されている。耐火ボード15のベースとなる不燃材として使用される石膏ボード16は、所望の耐火性能を得るために、その厚さが9.5mm以上であることが好ましく、より好ましくは12.5mm以上の厚さが好ましい。なお、図示していないが、耐火ボード15の室内側にグラスウール等の断熱材を挟んで石膏ボード等の内装材を設けることが好ましいが、クロス等の内装仕上げ材を耐火ボードに直接貼り付けてもよい。
このように構成された耐火ボード15,15…は、4本の鋼管柱5,5…からなる柱集結部Bの外周に沿って連続して配置され、柱集結部の外周全周を被覆して耐火構造としており、火災時等の加熱から耐火柱10の鋼管柱5,5…を保護する機能を有している。耐火ボード15はサポート11,11…を介して鋼管柱に空隙を有して配置されたとき、相互に隙間が生じないような幅に切断されている。すなわち、1枚の耐火ボードの一方の端面が、隣の耐火ボードの内面に当接するような幅に切断されている。所定の幅に切断された帯状の耐火ボードは外周面からビス18等の固定具でねじ込んで固定されている。ビス18には直径20mm程度の大径の座金19が使用されている。このようにして耐火柱10は、複数の鋼管柱5,5…を耐火ボード15で全周被覆して耐火構造として構成され、本実施形態では鋼管柱の外周にクリアランス(5mm)を空けて、10.5mm以上の薄手の耐火ボード15が隙間無く連続配置されて構成されている。なお、耐火柱10は鋼管柱5,5…の外周に空隙を有しない状態で耐火ボード15を固定したものでもよい。また、4枚の耐火ボード15,15…は、4枚すべてがビスで鋼管柱5,5…の4面に固定されているが、2枚の耐火ボードが少なくと2面に固定され、他の2枚の耐火ボードは固定された耐火ボードに固定するように構成してもよい。
前記の加熱膨張シート17を構成する熱膨張性耐火材料は、火災等により加熱されたときに膨張して断熱層を形成し内側の不燃材を保護する材料であれば特に限定されないが、好ましくは50kW/m2の加熱条件下で30分間加熱した後の体積膨張率が3〜50倍の材料である。体積膨張率が3倍を下回ると、膨張成分の厚さが十分でなく耐火性能が低下するため、また50倍を超えると、膨張断熱層の強度が下がり、火炎の貫通を防止する効果が低下するため、前記の範囲が好ましい。より好ましくは、体積膨張率が5〜40倍であり、さらに好ましくは8〜35倍である。
熱膨張性耐火材料は、前記のように膨張断熱層が内側の不燃材を保護するため、炭化成分と膨張成分が複合化されて所定の強度を有する材料であることが好ましい。膨張断熱層の強度としては、圧縮試験器にて0.25cm2の圧子を用いて、前記体積膨張後のサンプルを0.1m/sの圧縮速度で測定した場合の破断点応力が0.05kgf/cm2以上が必要である。破断点応力が0.05kgf/cm2を下回ると、膨張断熱層が火勢により破壊されやすく耐火性能が低下する。より好ましくは、0.1kgf/cm2以上である。
つぎに、前記した加熱膨張シート17を構成する熱膨張性耐火材料について詳細に説明する。
耐火ボードの表面に貼着される熱膨張性耐火材料を構成する樹脂組成物の樹脂成分としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂が用いられる。
また、前記の熱可塑性樹脂の代わりに、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ポリブタジエンゴム(1,2−BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム物質を使用することができる。さらに、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の熱硬化性樹脂を使用することも可能である。
これらの樹脂のうち、後述する熱膨張性無機物、特に熱膨張性黒鉛を配合する場合に、その膨張温度以下で成形可能であるという観点から、ポリオレフィン系樹脂またはゴム物質が好ましく、中でもポリエチレン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレン単独重合体、エチレンを主成分とする共重合体、これらの混合物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体等が挙げられる。
前記エチレンを主成分とする共重合体としては、例えば、エチレン部を主成分とするエチレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられ、α−オレフィンとしては、例えば、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ブテン、1−ペンテン等が挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体の具体的商品としては、デュポンダウ社製の「CGCT」、エクソンモービルケミカル社製の「EXACT」等の市販品が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、耐火性能をより向上させるために、充填剤を多量に配合することが可能であるという観点からは、上述のゴム物質が好ましい。
さらに前記したように、熱膨張性耐火材料からなる加熱膨張シート17を不燃材である石膏ボード16との貼り合わせを可能にするため、樹脂組成物自体に粘着性を有することが好ましく、その方法としては、例えば、ゴム物質に粘着付与樹脂、可塑剤、油脂類、低分子量化合物等を添加することが挙げられる。粘着付与樹脂としては特に限定されず、例えば、ロジン、ロジン誘導体、ダンマル樹脂、コーパル、クマロン−インデン樹脂、ポリテルペン、非反応性フェノール樹脂、アルキッド樹脂、石油系炭化水素樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
粘着性を付与する可塑剤は、単独で粘着性を発現させることは難しいが、前記粘着付与樹脂との併用で粘着性を向上させることができる。例えば、フタル酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤、リシノール酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、塩化パラフィン等が挙げられる。
粘着性を付与する油脂類は、可塑剤と同じ作用を有するため、可塑性付与と粘着調整剤の目的で用いることができる。油脂類としては特に限定されず、例えば、動物性油脂、植物性油脂、鉱物油、シリコーン油等が挙げられる。また粘着性を付与する低分子量化合物は、粘着性付与以外に耐寒性向上、流動調整の目的を兼ねて用いることができる。低分子量化合物としては特に限定されず、例えば、低分子量ブチルゴムや、ポリブテン系化合物等が挙げられる。
さらに、樹脂自体の難燃性を上げて耐火性能を向上させるという観点から、フェノール樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。特に分子構造の選択が広範囲で、樹脂組成物の耐火性能や力学物性を調整することが容易であることから、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、基本的にはエポキシ基を持つモノマーと硬化剤を反応させて得られる樹脂である。エポキシ基をもつモノマーとしては、2官能のグリシジルエーテル型、2官能のグリシジルエステル型、多官能のグリシジルエーテル型が挙げられる。
2官能のグリシジルエーテル型のモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1,6−ヘキサンジオール型、トリメチロールプロパン型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、プロピレンオキサイド−ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型等が挙げられる。また、2官能のグリシジルエステル型のモノマーとしては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、p−オキシ安息香酸型等が挙げられる。
さらに、多官能のグリシジルエーテル型としては、例えば、フェノールノボラック型、オルトクレゾール型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン・フェノール型等が挙げられる。これらは単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。また、前記したエポキシ基を持つモノマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
エポキシ基を持つモノマーと反応させてエポキシ樹脂を得るための硬化剤としては、重付加型、触媒型のものが挙げられる。重付加型の硬化剤としては、脂肪族ポリアミンまたはその変性アミン、芳香族ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン等が挙げられる、また、触媒型の硬化剤としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、ルイス酸、ルイス塩基等が挙げられる。なお、前記硬化剤は、単独で用いてもよく、2種以上が併用されてもよい。
また、エポキシ樹脂には、他の樹脂が添加されていてもよい。他の樹脂の添加量が多くなると、エポキシ樹脂の効果が発現されなくなるので、エポキシ樹脂1に対して他の樹脂の添加量は5(重量比)以下が好ましい。エポキシ樹脂には、種々の板厚の不燃材に貼着することが可能になるように、可撓性が付与されてもよく、可撓性を付与する方法としては、次の方法が挙げられる。
(1)架橋点間の分子量を大きくする。
(2)架橋密度を小さくする。
(3)軟質分子構造を導入する。
(4)可塑剤を添加する。
(5)相互侵入網目(IPN)構造を導入する。
(6)ゴム状粒子を分散導入する。
(7)ミクロボイドを導入する。
前記(1)の方法は、予め分子鎖の長いエポキシモノマー及び/又は硬化剤を用いて反応させることで、架橋点の間の距離が長くなり可撓性を発現させる方法である。硬化剤として、例えばポリプロピレンジアミン等が用いられる。前記(2)の方法は、官能基の少ないエポキシモノマー及び/又は硬化剤を用いて反応させることにより、一定領域の架橋密度を小さくして可撓性を発現させる方法である。硬化剤として、例えば2官能アミン、エポキシモノマーとして、例えば1官能エポキシ等が用いられる。
前記(3)の方法は、軟質分子構造をとるエポキシモノマー及び/又は硬化剤を導入して可撓性を発現させる方法である。硬化剤として、例えば複素環状ジアミン、エポキシモノマーとして、例えばアルキレンジグリコールジグリシジルエーテル等が用いられる。前記(4)の方法は、可塑剤として非反応性の希釈剤、例えば、DOP、タール、石油樹脂等を添加する方法である。
前記(5)の方法は、エポキシ樹脂の架橋構造に別の軟質構造をもつ樹脂を導入する相互侵入網目(IPN)構造で可撓性を発現させる方法である。前記(6)の方法は、エポキシ樹脂マトリックスに液状又は粒状のゴム粒子を配合分散させる方法である。エポキシ樹脂マトリックスとしてポリエステルエーテル等が用いられる。前記(7)の方法は、1μm以下のミクロボイドをエポキシ樹脂マトリックスに導入させることにより、可撓性を発現させる方法である。エポキシ樹脂マトリックスとして、分子量1000〜5000のポリエーテルが添加される。
前記エポキシ樹脂の剛性、可撓性を調整することによって、硬い板状物から柔軟性を有するシートが得られ、種々の板厚の不燃材に応じて、加熱膨張シートを貼着することが可能となる。前記した樹脂は、いずれも単独で用いても、樹脂の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため2種以上の樹脂をブレンドしたものを用いてもよい。さらに、樹脂組成物の耐火性能を阻害しない範囲で、樹脂の架橋や変性が施されていてもよい。架橋又は変性の方法としては特に限定されず、公知の方法で行うことができる。架橋又は変性は、本発明で用いる各種充填剤を配合した後、又は配合と同時に行ってもよく、あるいは予め架橋又は変性した樹脂を用いてもよい。
加熱膨張シートを構成する熱膨張性耐火材料に含有される熱膨張性無機物としては、加熱して膨張する熱膨張性無機物であれば特に限定されないが、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛、ケイ酸金属塩、ホウ酸塩等が挙げられる。これらの中でも、膨張開始温度が低くかつ膨張度が高いことから熱膨張性黒鉛が好ましい。
熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたもので、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。このように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、さらにアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和したものを使用するのが好ましい。
脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さく、十分な膨張断熱層が得られず、また粒度が20メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、樹脂に配合する際に分散性が悪くなり、物性の低下が避けられない。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP−EG」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。
熱膨張性耐火材料を構成する樹脂組成物に、さらに無機充填剤を配合することが好ましい。無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩等が挙げられる。
また、無機充填剤としては、これらの他に硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」(商品名)、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。無機充填剤の中でも、含水無機物及び/又は金属炭酸塩が好ましい。
前記の含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて耐火性能を向上させる点、及び加熱後に酸化物が残存しこれが骨材となって働くことで膨張層の強度が向上する点で好ましい。含水無機物の中でも、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物は、生成する水の量が多く、より耐火性能を発揮するため特に好ましい。また、水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広がり、効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。
前記の金属炭酸塩は、加熱中に脱炭酸反応によって炭酸ガスが発生し、膨張層の形成を促進させる点、及び加熱後に酸化物が残存しこれが骨材となって働くことで膨張層の強度が向上する点で好ましい。金属炭酸塩の中でも、周期律表II族に属する金属炭酸塩、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウムは、炭酸反応が生起しやすいため、特に好ましい。
無機充填剤の粒径としては、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm未満になると二次凝集が起こり、分散性が悪くなる。添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、粒径の大きいものが好ましい。粒径が100μmを超えると、成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性が低下する。
また、無機充填剤は、粒径の大きい無機充填剤と粒径の小さいものを組み合わせて使用することがより好ましく、組み合わせて用いることにより、膨張断熱層の力学的性能を維持したまま、高充填化することが可能となる。無機充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウムでは、粒径18μmの「ハイジライトH−31」(昭和電工社製)、粒径25μmの「B325」(ALCOA社製)、炭酸カルシウムでは、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(備北粉化工業社製)、粒径8μmの「BF300」(備北粉化工業社製)等が挙げられる。
熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物では、膨張断熱層の強度を増加させ耐火性能を向上させるために、前記の各成分に加えて、さらにリン化合物を添加してもよい。リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、耐火性能の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム類、及び、下記化学式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、コスト等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
化学式(1)中、R1及びR3は、水素、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、または、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、または、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。ポリリン酸アンモニウム類としては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取り扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、Budenheim Iberica社製「FR CROS 484」、「FR CROS 487」等が挙げられる。
化学式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。中でも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。前記のリン化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
リン化合物は、火災等の高温にさらされると、ポリリン酸系化合物へと変化し、それが無機バインダーとして働き、膨張断熱層の強度を向上させる効果を発揮する。また前記の金属炭酸塩のうち、周期律表II族に属する金属炭酸塩、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウムは、前記リン化合物、特にポリリン酸アンモニウムと併用すると、金属炭酸塩の脱炭酸反応の温度が低下するため、膨張断熱層の形成を促進する。さらに、前記化合物を併用することにより、リン化合物のポリリン酸系化合物への変化を促進し、膨張断熱層の強度をさらに向上する効果を発揮する。特に、ポリリン酸アンモニウムと炭酸カルシウムを併用すると、前記の両方の効果が最も発揮されるため好ましい。
熱膨張性耐火材料を構成する樹脂組成物において、熱膨張性無機物の配合量は、樹脂成分100重量部に対して10〜300重量部が好ましい。配合量が10重量部未満では、体積膨張率が低く耐火ボードを構成する不燃材への断熱が十分行われないため耐火性能が低下し、300重量部を超えると機械的強度の低下が大きく、使用に耐えられなくなる。より好ましくは、20〜250重量部である。樹脂組成物において、無機充填剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対して30〜400重量部が好ましい。配合量が30重量部未満では、熱容量の低下に伴い十分な耐火性能が得られなくなり、400重量部を超えると機械的強度の低下が大きく使用に耐えられなくなる。より好ましくは40〜350重量部である。
樹脂組成物において、リン化合物を添加する場合、リン化合物の配合量は、樹脂成分100重量部に対して30〜300重量部である。配合量が30重量部を下回ると、膨張断熱層の強度を向上させる効果が十分でなくなり、300重量部を超えると、機械的強度の低下が大きく使用に耐えられなくなる。より好ましくは40〜250重量部である。
熱膨張性無機物と無機充填剤の合計量は、樹脂成分100重量部に対して40〜500重量部が好ましい。合計量が40重量部未満になると、十分な膨張断熱層が得られず、500重量部を超えると、機械的強度の低下が大きく使用に耐えられなくなる。より好ましくは、70〜400重量部である。
さらにリン化合物を添加させる場合、リン化合物、熱膨張性無機物及び無機充填剤の合計量は、樹脂成分100重量部に対して70〜500重量部が好ましい。合計量が70重量部未満になると十分な膨張断熱層が得られず、500重量部を超えると機械的強度の低下が大きく使用に耐えられなくなる。より好ましくは100〜400重量部である。
また、樹脂組成物には、その物性を損なわない範囲で、さらにフェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料等が添加されてもよい。また、一般的な難燃剤を添加してもよく、難燃剤による燃焼抑制効果により耐火性能を向上させることができる。
熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物の成形体は、前記の樹脂組成物の混練物を作製した後成形し、シート状またはロール状の成形体を作製してから切断することにより、所定幅の加熱膨張シートを得ることができる。さらに溶剤を混練時に添加してから成形後、溶剤を揮発させる方法であってもよい。
樹脂組成物の混練物は、前記の各成分を押出機、ハンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール等、またエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の場合は、さらに、ライカイ機、遊星式撹絆機等、公知の混練装置を用いることにより得ることができる。また二液性の熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂の場合は、二液それぞれと充填剤の混練物を、前記混練方法にて別々に作製しておき、プランジャーポンプ、スネークポンプ、ギアポンプ等でそれぞれの混練物を供給し、スタティックミキサー、ダイナミックミキサー等で混合を行って混錬物を作製してもよい。
樹脂組成物の成形方法としては、前記の混練物を例えば、プレス成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等、公知の方法を用いて成形することができる。また二液性の熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂の成形方法としては、さらにSMC(Sheet Molding Compound)等によるロール成形、ロールコーターやブレードコーターによるコーター成形等、適宜形状に応じて公知の方法を用いることができる。
熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂の硬化方法は、特に限定されず、前記プレスやロールによる加熱、または成形ライン中の加熱炉等、成形と硬化を連続で行う方法、あるいは成形後加熱炉に投入する方法等、公知の方法によって行うことができる。また、溶剤を用いて成形する場合は、前記と同様な方法にて溶剤を揮発することができる。
前記の成形方法によって成形されたシート状またはロール状の成形体を、所定の幅に切断する方法としては、切断加工、スリット加工、輪切り加工等公知の方法を用いることができる。樹脂組成物の成形体がシート状の場合の厚みは、0.1〜3mmが好ましい。厚みが0.1mm未満であると、加熱によって形成される膨張断熱層の厚みが薄くなり、十分な耐火性能を発揮することができない。また、3mmを超えると自由に湾曲できなくなり、下地となる不燃材との密着性が低下する。より好ましくは0.3〜2mmである。
樹脂組成物は、膨張断熱層の強度をさらに向上させるために、不燃性繊維状材料からなるネットまたはマットが積層されていてもよい。不燃性繊維状材料からなるネットまたはマットとしては、無機繊維あるいは金属繊維状材料からなるものが好ましく、例えば、ガラス繊維の織布(ガラスクロス、ロービングクロス、コンティニュアスストランドマット等)あるいは不織布(チョップドストランドマット等)、セラミック繊維の織布(セラミッククロス等)あるいは不織布(セラミックマット等)、炭素繊維の織布あるいは不織布、ラスまたは金網から形成されるネットまたはマットが好適に用いられる。
これらのネットまたはマットのうち、熱膨張性耐火材料を製造する場合の容易さとコストの観点から、ガラス繊維の織布あるいは不織布が好ましく、製造時にガラスの飛散が少なくないことから、ガラスクロスがより好ましい。さらに、取り扱い性が向上すること、及び樹脂との接着性がよくなることから、ガラスクロスをメラミン樹脂やアクリル樹脂等で処理してもよい。また熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂の場合は、前記ネットまたはマットが樹脂組成物中に含浸されていてもよい。
不燃性繊維状材料からなるネットまたはマットの1m2当たりの重量は、5〜2000gである。1m2当たりの重量が5g未満であると、膨張断熱層の形状保持性を向上させる効果が低下し、2000gを超えるとシートが重くなって施工が困難になる。より好ましくは10〜1000gである。この不燃性繊維状材料からなるネットまたはマットの厚みは、0.05〜3mmが好ましい。厚みが0.05mm以下であると、熱膨張性耐火材が膨張する際にその膨張圧に耐えられなくなる。また、厚さが3mmを超えると、熱膨張性耐火材のシートを丸めることが困難になる。より好ましくは、0.1〜2mmである。
不燃性繊維状材料からなるネットの場合には、その開き目は0.1〜50mmであることが好ましい。開き目が0.1mm未満であると、熱膨張性耐火材が膨張する際にその膨張圧に耐えられなくなる。また、50mmを超えると膨張断熱層の形状保持性を向上させる効果が低くなる。より好ましくは0.2〜30mmである。この不燃性繊維状材料からなるネットまたはマットを熱硬化性樹脂組成物に含浸させる場合、ネットまたはマットの位置は、熱膨張性耐火材の厚み方向においていずれの位置であってもよいが、膨張層の形状保持性をより高めることから、火炎にさらされる表面側であることが好ましい。
熱膨張性耐火材は、樹脂組成物の成形体の片面または両面に、施工性や膨張層の強度を改善する目的で基材層が積層されていてもよい。基材層に用いられる材料としては、例えば、布、ポリエステルやポリプロピレン等からなる不織布、紙、プラスチックフィルム、割布、ガラスクロス、アルミガラスクロス、アルミ箔、アルミ蒸着フィルム、アルミニウム箔積層紙、及び、これらの材料の積層体等が挙げられる。これらの基材層のうち、粘着剤または接着剤の塗工や塗布がしやすいことから、ポリエチレンラミネートポリエステル不織布が、耐火性能上有利に働くことから、アルミニウム箔積層紙、アルミガラスクロスが好ましい。また基材層の厚みは、耐火性能あるいは施工上影響を及ぼさなければいずれでもよいが、好ましくは0.25mm以下である。
さらに、熱膨張性耐火材は、不燃性繊維状材料からなるネットまたはマットと基材層との積層体を、樹脂組成物からなるシート表面に積層して形成してもよい。積層体としては、例えば、アルミガラスクロスあるいはポリフィルムとガラスクロスの積層体等が挙げられる。基材層または不燃性繊維状材料からなるネットまたはマットを積層あるいは含浸させる方法としては、樹脂組成物を成形する段階で一体化する方法が挙げられる。
熱膨張性耐火材に、粘着剤または接着剤を予め塗工あるいは施工時に塗布し、耐火ボードを構成する不燃材に貼り付ける場合、用いる粘着剤または接着剤としては、合成樹脂製部材の樹脂に接着または粘着するものであればいずれでもよいが、例えば、アクリル系、エポキシ系、ゴム系等が挙げられる。また、予め成形体に粘着剤または接着剤層を有する基材を積層する場合は、成形時に積層してもよく、両面に粘着剤または接着剤を有する基材を成形体に積層してもよい。
熱膨張性耐火材は、前記のように耐火性能に優れているため、耐火性能を発現するのに必要な熱膨張性材料を減らすことが可能になり、耐火ボードの薄型化、軽量化と低コスト化を図ることが可能となる。また、前記のように、公知の技術を用いて簡単にボード状積層体を製造可能であり、ベースとなる不燃材の表面に容易に貼り付けて一体化することができ、簡便に耐火柱を形成することが可能となる。
前記の如く構成された本実施形態の耐火柱の施工について以下に説明する。梁と柱とから躯体が構成されてなる鉄骨系の建物ユニットを、複数、水平方向および垂直方向に連設配置してユニット建物Uを構成する。ユニット建物Uは複数の建物ユニット1,1…が連設配置されることで、複数の鋼管柱5,5…が隣接する柱集結部が構成される。そして、この柱集結部を耐火ボード15,15…で被覆して耐火構造し、耐火柱10とする施工が行われる。
複数の鋼管柱5,5…の外周に沿って耐火被覆して耐火構造とする施工について、以下に説明する。複数の鋼管柱5,5…の外周に耐火ボード15,15…を固定するためのサポート11,11…を溶接等で固定する。つぎに、固定されたサポート11に対して耐火ボード15を押し付け、鋼管柱と耐火ボードとの間に空隙12を形成した状態でビス18等の固定具をねじ込んでサポート11,11に耐火ボード15を固定する。ビス18をねじ込む際に座金19の代わりに長尺の金属板材の受け板19Aを挟んで固定すると固定状態が安定する。受け板19Aを用いて耐火ボード15,15…を挟むことにより、加熱されて加熱膨張シート17が膨張したとき、膨張断熱層が不燃材である石膏ボード16から剥離しにくく、耐火性能が安定する。
このようにして複数の鋼管柱5,5…が耐火ボード15,15…で被覆された耐火柱10は、薄い構成の耐火ボード15で4本の鋼管柱5を被覆して耐火構造としているため、耐火被覆の容積を小さくすることができる。このため、ユニット建物Uにおいて、耐火柱10の室内への張り出しを少なくすることができ、有効面積を増大させることができる。しかも、火災時等においては、耐火ボード15の表面に配置された加熱膨張シート17が膨張して膨張断熱層を形成し、不燃材である石膏ボード16への熱の伝達を遮断するため、薄い構成の耐火ボード15で十分な耐火性能を得ることができる。また、耐火柱10は、鋼管柱5,5…に固定されたサポート11,11…に対して薄手の耐火ボード15,15…をビス18等で固定するのみで耐火構造とすることができ、現場での施工が容易で安全性に優れており、作業ばらつきの少ない耐火構造を得ることができる。
また、複数の鋼管柱5,5…を被覆する耐火被覆は、耐火ボードを固定するだけの乾式で構成されるため、ロックウールを吹き付ける等の煩雑な工事を必要とせず、しかも安全な施工が可能となる。さらに、耐火ボード15は不燃材である石膏ボード16と加熱膨張シート17とを予め積層して一体化しており、被覆材を部品化できるため作業ばらつきの影響を受けにくい。そして、ALC板やRC造で耐火被覆する仕様と比較して、安価に作ることができ、軽量であるため施工負荷を低くすることができる。
このように構成された本実施形態の耐火柱10に対して、耐火評価を実施した。評価は、財団法人建材試験センター、試験業務方法書、耐火床評価方法に準拠して行った。その結果は、以下の表1に示されるように、判定基準全てに合格することが確認された。4本柱の各面に9.5mm以上の石膏ボード16と1mm以上の加熱膨張シート17とを積層した耐火ボード15を鋼管柱5,5…の外周に沿って配置することで、躯体を構成する柱に対する遮熱性を向上させることができ、柱の加熱による耐力低下を防止することができる。
本発明の他の実施形態を図5,6に基づき詳細に説明する。図5は本発明に係る耐火柱の他の実施形態の水平断面図、図6は図5のサポートの拡大断面図である。なお、この実施形態は前記した実施形態に対し、耐火ボードを固定するサポートの形状が異なると共に、耐火ボードの形状と、耐火ボードをサポートに固定する固定具が異なることを特徴とする。そして、他の実質的に同等の構成については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
図5,6において、耐火ボード15Aは不燃材から形成される石膏ボード16と加熱膨張シート17Aとから形成され、加熱膨張シート17Aは、その延長部17aが石膏ボード16の端面まで被覆している。また、サポート11Aは断面が正方形状の鋼製パイプの1つの角部を取り除いた形状をしており、直交する2つの長辺11a,11aと、これらの長辺の端部から直角に連続する短辺11b,11bとを備えており、短辺の端部が鋼管柱5,5…に溶接され、鋼管柱5に固定されている。
このように形成されたサポート11Aに、耐火ボード15Aを固定する固定具は皿ねじ18Aが使用されている。皿ねじ18Aは、耐火ボード15Aにねじ込まれて、この耐火ボードを鋼管柱5に固定した状態では、ねじ頭の部分が耐火ボードの表面と平坦となり、耐火ボードの表面に直接内装材として、クロス等を貼付することができる。また、この耐火ボード15Aは、その端面まで加熱膨張シートの延長部17aで覆われているため、前記の実施形態と比較して耐火性能が向上する。
耐火ボード15Aは、石膏ボード16の一方の端面を加熱膨張シート17Aの延長部17aで覆い一体化したものを用いてもよく、石膏ボードと加熱膨張シートとは予め一体化されておらず、サポート11Aに石膏ボード16を固定した後、加熱膨張シート17Aを貼り付けて積層するものでもよい。
前記の実施形態では、建物ユニット1,1…を水平方向に連設すると共に、垂直方向に三階建てに積み重ねてユニット建物Uを連設する例を示したが、水平方向に連設するのみで垂直方向には連設しない一階建ての場合にも適用できることは勿論である。また、耐火ボードと柱との間の空隙は5mmの例を示したが、この空隙を大きくすることにより耐火性能をより向上させることができる。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、不燃材として石膏ボードの例を示したが、これに限られるものでなく珪酸カルシウム板等の他の材料より形成した不燃材を用いることもできる。
また、複数の柱は所定の間隔を有して隣接して配置する構成としたが、間隔を有していない状態で配置された場合でも本発明を適用できる。さらに、複数の鋼管柱と、これらの柱を被覆する耐火ボードとの間に空隙を有する構成を示したが、空隙が無い状態で耐火ボードと鋼管柱とを密着させて耐火柱を形成してもよい。
1:建物ユニット、5:鋼管柱(複数の柱)、10:耐火柱、11:サポート、12:空隙、15:耐火ボード、15A:耐火ボード、16:石膏ボード(不燃材)、17:加熱膨張シート(熱膨張性耐火シート)、17A:加熱膨張シート、17a:加熱膨張シートの延長部、18:ビス、18A:皿ねじ、19:座金、19A:受け板、U:ユニット建物