JP2008079580A - ハタハタ卵巣の凍結加工品の製造方法 - Google Patents

ハタハタ卵巣の凍結加工品の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 ハタハタ卵巣を本来の食感を残しながら保存する方法を開発し、ハタハタの産卵期のみならず周年的にハタハタ卵巣を市場に供給可能とすること。
【解決手段】 ハタハタ卵巣を加熱処理した後、凍結処理する工程を含み、解凍後もハタハタ卵巣の粘りと卵の柔らかさが保持されることを特徴とする、ハタハタ卵巣の凍結加工品の製造方法、および、該製造方法によって得られたハタハタ卵巣の凍結加工品を用いて製造された飲食物を提供する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、解凍後もハタハタ卵巣の粘りと卵の柔らかさを残すハタハタ卵巣の凍結加工品の製造方法に関し、詳しくはハタハタ卵巣を加熱処理した後、凍結処理することを特徴とするハタハタ卵巣の凍結加工品の製造方法と、その凍結加工品を用いた飲食品とに関する。
ハタハタ(Arctoscopus japonicus)は全長約20cmで、主に日本海のやや深海から沿岸に生息する海魚である。産卵期の成熟したハタハタの卵は直径3mm程度で、卵巣には1000粒前後が含まれている。各卵はゼリー状皮膜に包まれ、各卵の皮膜糸状部の先端が絡まり、ゼリー状の塊を形成する。この粘質物は、卵巣を含むハタハタメスを塩焼きや鍋料理にしても熱凝固せずにさらに膨潤し、魚体内でゼリー状態を保っており、その食感が好まれている。
なお、本発明者らは、ハタハタ卵巣からの粘質物の分離に既に成功し、特許出願している(特許文献1参照)。
一方、粘質物を含むハタハタ卵巣の粘性は、熱には比較的安定なものの、長期の冷蔵、冷凍、塩蔵によって著しく失われることが知られている。また、その卵も冷蔵、塩蔵により非常に硬くなり、ハタハタ卵の本来の食感を残した保存加工が困難になる。以上の理由から、ハタハタ卵巣を長期保存する方法は殆ど無いのが現状であり、産卵期以外でも生に近いハタハタ卵巣を提供するための長期保存法の開発が望まれていた。
それ故、ハタハタ卵巣の保存には、ゼリー状粘質物の保持と卵硬化の問題点を解決する必要があるが、現状では本課題を解決できる方法は報告されていない。
特開2005−82525号公報
本発明は、上記の問題点を解消して、ハタハタメスおよび卵巣を本来の食感を残しながら長期保存し、産卵期のみならず周年的に市場供給することを目的とするものである。
本発明者らは、ハタハタ卵巣の粘りと本来の食感を残すことができるハタハタ卵巣の保存法の開発をすべく、特許文献1に記載の技術を基礎として鋭意研究を重ねた。
その結果、卵巣を加熱した後に凍結保存したものは、解凍、調理後も本来のゼリー状粘質物と卵の柔らかさを保持していることを見出した。すなわち、卵巣を加熱するとそのゼリー状粘質物は膨潤し、一旦膨潤したゼリー状粘質物は凍結・解凍しても変化がなく、魚卵の硬化も見られなくなった。
本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成したのである。
即ち、請求項1に係る本発明は、ハタハタ(Arctoscopus japonicus)卵巣を加熱処理した後、凍結処理する工程を含み、解凍後もハタハタ卵巣の粘りと卵の柔らかさが保持されることを特徴とする、ハタハタ卵巣の凍結加工品の製造方法である。
請求項2に係る本発明は、ハタハタ卵巣が魚体中にあり、かつ、加熱処理が、ハタハタの魚肉部分を加熱することなく、卵巣のみを加熱するものである、請求項1に記載の製造方法である。
請求項3に係る本発明は、ハタハタ卵巣が魚体中にあり、かつ、加熱処理をマイクロ波加熱により行う、請求項1又は2に記載の製造方法である。
請求項4に係る本発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法によって得られたハタハタ卵巣の凍結加工品を用いて製造された飲食物である。
本発明によれば、ハタハタ卵巣を加熱した後に凍結保存することにより、解凍、調理後も本来のゼリー状粘質物と卵の柔らかさを保持させることが可能である。したがって、本発明のハタハタ卵巣凍結加工品の解凍物は、卵は柔らかいままでゼリー状粘質物も保持されているため、産卵期のハタハタメスが生で入手可能な時期以外でも、周年的に本来の食感、すなわち、卵巣の粘りと卵のやわらかさを残したハタハタおよびその卵巣を含有する飲食物を提供することができる。
以下に、本発明を詳しく説明する。
請求項1に係る本発明のハタハタ卵巣の凍結加工品の製造方法は、ハタハタ卵巣を加熱処理した後、凍結処理する工程を含み、解凍後もハタハタ卵巣の粘りと卵の柔らかさが保持されることを特徴とするものである。
本発明で用いるハタハタ卵巣は、生鮮物であればよく、特に成熟した3〜4歳のハタハタメスの卵巣が好ましい。また、卵巣はハタハタ魚体から取り出した状態、または魚体中にある状態のどちらでもよい。
本発明では、まず、上記のハタハタ卵巣に対して加熱処理を行う。
加熱処理方法としては特に限定されず、例えば温水に浸漬するなどの水中加熱、マイクロ波などの電磁波加熱、ヒーター加熱、水蒸気加熱、ジュール加熱など通常の方法で行うことができる。
請求項2に記載したように、ハタハタ卵巣が魚体中にある状態で加熱処理する場合は、魚肉部分を加熱することなく、卵巣のみを選択的に加熱するようにすることが好ましい。
魚体中の卵巣のみを選択的に加熱することができる方法としては、例えば、マイクロ波加熱による方法や、放卵口から腹腔内に棒状のヒーター等を挿入する方法、ジュール加熱による方法などが挙げられる。
なお、ジュール加熱とは、加熱の対象となる物質に交流電流を直接流し、その電気抵抗によってその物質自体を発熱させて加熱する技術である。ジュール加熱によって魚体中の卵巣のみを選択的に加熱する方法としては、例えば、電極で卵巣を外からはさみ込むようにして腹部に電極を当てながら電流を流す方法が挙げられる。
請求項3に記載したマイクロ波加熱による方法とは、マイクロ波エネルギーによって物質内部から熱を発生させる方法であり、効率的に卵巣のみを加熱できる特徴がある。
具体的には、ハタハタの腹部以外はマイクロ波を遮断するアルミホイルなどの素材で覆い、腹部を露出させた状態で、マイクロ波を当てることにより加熱すればよい。
あるいは、マイクロ波をハタハタの腹部に導波管を用いて部分照射することにより、卵巣のみを加熱してもよい。
このようなハタハタ魚体中の卵巣のみを選択的に加熱する方法によれば、魚肉は加熱されず生のままで、卵巣のみを加熱することができるため、凍結加工品を調理に用いる際に魚肉部分の煮崩れなどを防ぐことができる。
本発明の加熱処理条件としては、いずれの加熱処理方法による場合でも、ハタハタ卵巣に含まれる粘質物が膨潤し、透明かつ粘りのあるゼリー状になるような条件とすればよく、具体的には、卵巣の中心部が50〜100℃、好ましくは60〜80℃、更に好ましくは70℃で、1〜60分、好ましくは1〜10分、更に好ましくは約5分加熱されることにより目的が達成される。
例えば、水中加熱、ヒーター加熱、水蒸気加熱などにより、卵巣あるいは卵巣を含むハタハタ魚体に対して外部加熱を行う場合の条件としては、加熱温度は30〜100℃、好ましくは50〜90℃、更に好ましくは60〜80℃とすることができ、加熱時間は1〜60分、好ましくは5〜40分とすることができる。
また、例えば、マイクロ波加熱によりハタハタ卵巣を内部加熱する場合の条件は、周波数300〜30,000MHz(波長1〜100cm)、好ましくは電子レンジと同じ2450MHzで、10〜6,000W、好ましくは100〜200Wで、1〜60分、好ましくは3〜20分とすることができる。
さらに、例えば、ジュール加熱によりハタハタ卵巣を加熱する場合の条件は、5〜20kHz好ましくは20kHzで1〜60分、好ましくは3〜20分とすることができる。
本発明では、次に、加熱処理をしたハタハタ卵巣に対して凍結処理を行う。
凍結処理条件、方法としては特に制限はなく、例えばまず、ハタハタ卵巣が凍結しない0〜5℃に予冷した後、−10℃以下、好ましくは−30〜−50℃まで、急速凍結庫などによる通常の方法で凍結すればよい。
また、凍結後は−10〜−50℃で約2年間まで保存することができるが、特に限定されない。
上記の方法により得られる本発明のハタハタ卵巣または卵巣を含むハタハタの凍結加工品は、解凍しても、加熱処理を行わずに凍結保存、解凍した卵巣が粘質物の粘りが少なく卵が硬くなることと比較して、凍結前の状態に近いゼリー状粘質物の粘りと卵の柔らかさを維持している。
なお、本発明の凍結加工品の解凍条件、方法は特に限定されない。
さらに、本発明のハタハタ卵巣または卵巣を含むハタハタの凍結加工品は、従来の生ハタハタまたは冷凍ハタハタと同様の方法で、焼きハタハタ、煮物、鍋物等の調理に用い、食用に供すことができる。
このように、本発明の方法によって得られた凍結加工品を用いて製造された飲食物を提供するのが、請求項4に係る本発明である。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
実施例1
成熟した3歳の生ハタハタメス(秋田県男鹿市産)から採卵し、卵巣を得た(図1、2)。この卵巣をポリプロピレン製袋に入れて密封し、70℃の温水に15分浸漬し、直ちに冷却水で5℃まで冷却した。その後、−30℃の凍結庫で凍結し、−20℃で12ヶ月保存した。
次に、室温で自然解凍した卵巣をポリプロピレン製袋から取り出し、蒸留水を加えて70℃まで攪拌しながら加熱すると、粘質物と魚卵が分離して、魚卵はさらに個々に分離した。分離した粘質物の量と粘り、および魚卵の硬さを、以下の方法で分析した(加熱)。
粘質物量の測定は、上記において分離した粘質物および魚卵を各々回収して真空凍結乾燥し、得られた乾燥物(固形分)の質量を測定することにより行った。測定結果を、卵全体に対する粘質物量の固形分質量比として表1に示す。
粘質物の粘りの評価は、上記の如く分離回収した粘質物について、10人のパネラーによる官能評価により行った。評価は◎:よく粘る(4点)、○:粘る(3点)、△:粘りが弱い(2点)、×:粘りがない(1点)の4段階で行い、平均を表1に示す。
魚卵の硬さの評価は、上記の如く分離回収した魚卵について、10人のパネラーによる官能評価により行った。評価は◎:柔らかい(4点)、○:やや柔らかい(3点)、△:やや硬い(2点)、×:硬い(1点)の4段階で行い、平均を表1に示す。
同時に、採卵後加熱せずにそのままポリプロピレン製袋に入れて密封し、上記と同様に凍結保存したハタハタ卵巣も、同様に処理し分析に供した(非加熱)。
その結果、表1のように、加熱処理した卵巣のほうが明らかに粘質物量が多く、よく粘っていた。

※粘質物量=B/A+B (A=卵固形分、B=粘質物固形分)
実施例2
成熟した3歳の生ハタハタメス(秋田県男鹿市産)の放卵口から腹腔内に棒状のヒーター(60W)を挿入し、卵巣の中心部が70℃に達してから約5分加熱した(ヒーター加熱)。この方法によると、ハタハタの魚肉は加熱されず生のままで、卵巣のみを加熱することができた。
また、生ハタハタメスの腹部以外はマイクロ波を遮断するアルミホイルで覆い、腹部は露出させた状態で、卵巣の中心部が70℃で約10分加熱されるマイクロ波加熱処理(100W、2450MHz)を行った(マイクロ波加熱)。この方法でも、ハタハタの魚肉は加熱されず生のままで、卵巣のみを加熱することができた。
上記の方法で加熱したハタハタメスおよび加熱処理を行わない生ハタハタメス(無処理ハタハタ)を、−30℃の凍結庫で急速凍結させ、−20℃で12ヶ月保存した。次いで、実施例1と同様に室温で自然解凍した後、卵巣を魚体から取り出し、蒸留水を加え70℃まで攪拌しながら加熱すると、粘質物と魚卵が分離して、魚卵はさらに個々に分離した。分離した粘質物量と魚卵の硬さを測定した。
一方、加熱処理も凍結保存も行わない生ハタハタの卵巣についても、上記と同様に粘質物と魚卵を分離して分析した。
なお、粘質物量の測定は、実施例1と同じ方法で測定した。図3に、卵全体に対する粘質物量の固形分質量比(B/A+B(%)、A=卵固形分、B=粘質物固形分)を示す。
また、ハタハタ卵の硬さは、円柱状プランジャ(φ10mm)を装着した単軸圧縮・引張型レオメータを用いて圧縮速度1mm/s、ひずみを0.8に設定し、ハタハタ卵一粒の硬さを測定した。圧縮時の最大力(N)を卵の硬さ(破断力)と定義した。測定結果を図4に示す。
図3,4から、ハタハタ卵巣を加熱処理を行わずに凍結保存、解凍したものは、粘質物量が少なく、卵が硬くなることが分かった。これと比較して、加熱後に凍結保存したハタハタ卵巣は、解凍しても、凍結前の状態に近い粘質物量と卵の柔らかさを維持していた。
また、加熱処理をマイクロ波加熱により行ったハタハタ卵巣は、ヒーター加熱によるものよりも粘質物量が多く、生ハタハタに近い量となることが分かった。
実施例3
成熟した3歳の生ハタハタメス(秋田県男鹿市産)を、実施例2と同様にマイクロ波加熱処理を行った(マイクロ波加熱)。一方、生ハタハタメス全体を70℃で15分蒸気加熱した(全体加熱)。
上記の方法で加熱したハタハタメスおよび加熱処理を行わない生ハタハタメス(非加熱)を、−30℃の凍結庫で凍結させ、−20℃で12ヶ月保存した。
この3種類の冷凍ハタハタを自然解凍したものを用いて、以下のようにして秋田県の郷土料理である「しょっつる鍋」を調理した。
すなわち、ハタハタに対して約30%の食塩を加え、約2年間発酵・熟成させて得られた魚醤の一種である「しょっつる」で味付けした出汁に、上記の解凍したハタハタメスや、ネギ、豆腐等を加えて「しょっつる鍋」を作った。
得られた「しょっつる鍋」に入っているハタハタについて、10名のパネラーによる官能評価を行った。評価項目は「(卵巣の粘質物の)粘り」、「(魚卵の)硬さ」、「(卵巣以外の魚肉部分の)肉質」、「総合」の4項目とした。
粘りの評価は◎:よく粘る(4点)、○:粘る(3点)、△:粘りが弱い(2点)、×:粘りがない(1点)の4段階で行った。硬さの評価は◎:柔らかい(4点)、○:やや柔らかい(3点)、△:やや硬い(2点)、×:硬い(1点)の4段階で行った。また、肉質および総合は、それぞれ◎:大変良い(4点)、○:良い(3点)、△:やや悪い(2点)、×:悪い(1点)の4段階評価を行った。各評価結果の平均を表2に示す。
表2に示すように、加熱処理後に凍結させたハタハタは、調理後も両者とも卵巣の粘質物の粘りや魚卵の硬さは良好であった。しかし、ハタハタ全体を加熱した方は、魚肉部分が過熱により身崩れを起こしていた。これと比較してマイクロ波加熱を行った方は、魚肉の肉質も良好で、生のハタハタを使用した場合とほぼ同じ食感の肉質となった。
一方、生ハタハタメスをそのまま凍結保存したものは、魚肉の肉質は良好であるが卵巣の粘質物の粘りが少なく、魚卵は硬くなり、凍結していない生のハタハタを使用した場合とはほど遠い食感であった。
以上の結果から、本発明においては、ハタハタ卵巣を加熱した後に凍結保存する方法により、解凍、調理後も本来のゼリー状粘質物の保持と卵の柔らかさを残すことが可能であることが分かった。このように、本発明により得られるハタハタ卵巣の凍結加工品では、卵は柔らかいままでゼリー状粘質物も保持されているため、産卵期のハタハタメスが生で入手可能な時期以外でも周年的に、本来の食感を残した焼きハタハタやしょっつる鍋など、ハタハタを使用した食品、料理を提供することができる。
本発明によれば、ハタハタメスおよび卵巣を本来の食感を残しながら保存し、産卵期のみならず周年的に市場供給することができる。したがって、本発明は水産加工業、外食産業などの食品産業に貢献することができる。
ハタハタメスの図である。 ハタハタメスから採卵した卵巣の図である。 ハタハタ卵巣のゼリー状粘質物量に与える加熱方法の影響を示す図である。 ハタハタ卵の硬さに与える加熱方法の影響を示す図である。

Claims (4)

  1. ハタハタ(Arctoscopus japonicus)卵巣を加熱処理した後、凍結処理する工程を含み、解凍後もハタハタ卵巣の粘りと卵の柔らかさが保持されることを特徴とする、ハタハタ卵巣の凍結加工品の製造方法。
  2. ハタハタ卵巣が魚体中にあり、かつ、加熱処理が、ハタハタの魚肉部分を加熱することなく、卵巣のみを加熱するものである、請求項1に記載の製造方法。
  3. ハタハタ卵巣が魚体中にあり、かつ、加熱処理をマイクロ波加熱により行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法によって得られたハタハタ卵巣の凍結加工品を用いて製造された飲食物。
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