JP2008048531A - 交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法 - Google Patents

交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法 Download PDF

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Abstract

【課題】空間ベクトル変調に、入出力電圧の高調波低減およびコモンモード電圧の低減を図り、または入出力の磁束ベクトルの脈動抑制を図る。
【解決手段】3相交流出力の線間電圧を2相の静止αβ軸上に展開した基本空間ベクトルの状態を、線間電圧指令ベクトルVo*が存在するセクターの単振動ベクトルX軸、Y軸で最大のベクトルVXmax、VYmaxと、中間のベクトルVXmid、VYmidと、最小のベクトルVXmin、VYminと、相電圧の中間電圧となる零ベクトルVzと、セクター内に1つ存在する回転ベクトルVrotを基本ベクトルとし、これら8つの基本ベクトルによってセクター内を8つの領域D1〜D8に分け、線間電圧指令ベクトルVo*が領域D1〜D8のいずれの領域にあるかによってPWM制御に使用する3つの基本ベクトルを決定し、かつ3つの基本ベクトルのデューティを決定する。
【選択図】図8

Description

本発明は、多相の交流電源から任意の電圧または周波数に変換した多相出力を得る交流−交流直接変換装置(マトリックスコンバータ)に係り、特に時々刻々と大きさ・位相が変化する空間ベクトルを入力/出力それぞれで表現し、使用する基本ベクトルを選択してデューティ演算する空間ベクトル変調方法に関する。
従来から存在するこの種の交流−交流直接変換装置は、自己消弧形の半導体素子を用いた双方向スイッチを高速に切換え、単相または多相の交流入力を任意の電圧または周波数の電力に変換する変換装置であり、図1に基本構成を示す。三相交流電源1のR、S、Tの各相に入力フィルタ(InputFilter)2と双方向スイッチS1〜S9構成の交流−交流直接変換回路3を介挿し、制御装置(コントローラ)4によって各双方向スイッチを電源周波数よりも十分高い周波数でPWM制御することにより、入力電圧をモータなどの負荷Loadに直接に印加しながら任意の電圧または周波数に制御したU、V、Wの交流出力を得る。なお、双方向スイッチは、図示のように単方向スイッチを複数用いて構成する場合もある。
ここで、交流−交流直接変換装置の制御法には、大きく分けて仮想DCリンク形(間接変換法)と直接AC−AC変換形との2つの方式がある。仮想DCリンク方式では、仮想的に直流リンクを考えて仮想入力コンバータと仮想出力インバータを独立に制御できるように工夫したもので、従来の電流形PWMコンバータ+電圧形PWMインバータの構成に似ており、制御の考え方が容易になる。一方で、入力側と出力側の各相が1:1で全て異なる相に結線するような6つのスイッチングパターンが発生しないという制約条件がある。直接AC−AC変換形では、上記のスイッチングパターンに制約条件が無い。
また、PWM制御するスイッチングパターンを生成する変調方式としては、主にキャリア比較方式と空間ベクトル方式がある。キャリア比較方式は三角波キャリアと正弦波との大小比較によりスイッチングパターンを生成するもので、仮想DCリンク方式に適用したキャリア比較方式としては、仮想コンバータのキャリア及び仮想PWMパルスから仮想インバータキャリアを生成することで、PWM制御のスイッチング回数を少なくかつ同数にしてスイッチング損失やノイズを低減し、出力電圧の制御精度を向上させるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
仮想DCリンク形でキャリア比較による変調方式とする交流−交流直接変換装置で、仮想コンバータの仮想直流電圧の大きさをPAM(Pulse Amplitude Modulation)方式で制御することで出力電圧の大きさを調整し、仮想インバータでは出力周波数のみを制御する方法も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。この制御方法では、出力電圧が低出力領域の時に、電圧高低差の少ないパルスを用いるため、電圧高低差が大きいパルスに比べて、パルス幅を広くできる。また、コモンモード電圧が入力中間相電圧を基準にして変動する。これらによって、出力電圧の高調波低減やコモンモード電圧を低減できる。
空間ベクトル方式は、交流−交流直接変換装置の出力電圧指令値に応じて瞬時空間ベクトルを選択する方式であり、この選択によりスイッチングパターンが決定される。この空間ベクトル方式を採用した交流−交流変換装置も提案されている(例えば、非特許文献2参照)。この空間ベクトル方式においては、時間積分した磁束鎖交数ベクトルの指令値軌跡に近づくように、回転ベクトル、最大単振動ベクトルおよび零ベクトルとを組み合わせて出力電圧の空間ベクトルを選ぶことにより、高調波成分の小さい出力電圧波形を得ると共に、高電圧出力時に誘導電動機駆動時の磁気騒音、トルクリップルを低減することができる。
さらに、変調方式が空間ベクトルではないが、直接AC/AC変換形の交流−交流直接変換装置で、空間ベクトルを用いて27つあるスイッチングパターンを適切に選ぶことで波形歪みを低減している(例えば、非特許文献3参照)。
特開2005−168198号公報 仮想AC/DC/AC変換方式に基づいたマトリックスコンバータのPAM制御法、平成17年電気学会産業応用部門大会、1−43、1−203〜1−206 石黒章夫、 古橋武、 石田宗秋、 大熊繁、 内川嘉樹:「空間ベクトルを用いたPWM制御サイクロコンバータの出力電圧制御法」、電学論D、 Vol.110、 No.6、 pp.655−663 (1990) P.Mutschler、M.Marcks:"A Direct Control Method for Matrix Converters" IEEE trans. on Industrial Electronics. Vol49、No.2、p362−(2002)
例えば、特許文献1や非特許文献1では、変調方式がキャリア比較方式で出力電圧の制御精度の向上、または出力電圧の高調波低減やコモンモード電圧の低減を行っているが、スイッチングによる位相、大きさの遷移を空間ベクトルの挙動によって把握することができる空間ベクトル方式ではスイッチングパターンを生成するプロセスが異なり、適用できない。
また、非特許文献2においては、出力電圧の高調波低減と高出力時のモータ負荷のトルクリップルを低減できるが、入力電流を任意の正弦波に制御することができないため、装置入力側の高調波が非常に大きくなる。したがって、この手法は、入力が系統電源に接続されないような用途に限定されてしまう。また、低出力領域における出力電圧の誤差やコモンモード電圧の低減はできない。
一方、非特許文献3は、直接トルク制御/直接電力制御/切り換え制御則等を用いているが、入出力電流を直接切り換え制御するため、出力電流だけでなく入力電流も検出する必要がある。また、基本ベクトルの電圧誤差や位相差が大きくなるスイッチングパターンもあり、この場合には制御が遅くなることやスイッチング回数、スイッチング順序に無駄が生じ、高速な制御に不向きであることや低出力領域の出力電圧の誤差低減、コモンモード電圧の低減ができない。
本発明の目的は、キャリア比較方式とスイッチングパターンを生成するプロセスが異なる空間ベクトル方式による変調方式で、出力電圧の誤差低減、入出力電圧の高調波低減およびコモンモード電圧の低減を図ることができ、または入出力の磁束ベクトルの脈動抑制を図ることができる交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法を提供することにある。
前記の課題を解決するための本発明は、以下の方法を特徴とする。
(1)多相の交流電源から交流−交流直接変換器の双方向スイッチを直接AC/AC変換形の空間ベクトルによる変調でPWM制御する交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法であって、
多相交流出力の線間電圧を2相の静止αβ軸上に展開したベクトルの状態を、線間電圧指令値ベクトルVo*が存在するセクターの位相が遅れている単振動ベクトル軸をX軸、進んでいる単振動ベクトル軸をY軸と定義して、それぞれの軸で最大のベクトルVXmax、VYmaxと、中間のベクトルVXmid、VYmidと、最小のベクトルVXmin、VYminと、相電圧の中間電圧となる零ベクトルVzと、セクター内に1つ存在する回転ベクトルVrotを基本ベクトルとし、これら8つの基本ベクトルによってセクター内を8つの領域D1〜D8に分け、
線間電圧指令値ベクトルVo*が前記領域D1〜D8のいずれの領域にあるかによってPWM制御に使用する3つの前記基本ベクトルを決定し、かつ線間電圧指令ベクトル値Vo*から前記3つの基本ベクトルのデューティを決定して空間ベクトルとすることを特徴とする。
(2)前記基本ベクトルの決定は、常に60度位相差以下のベクトルを使用するとともに、線間電圧指令値ベクトルVo*の大きさに近い瞬時値の基本ベクトルとすることを特徴とする。
(3)前記各領域D1〜D8を決定する基本ベクトルのスイッチング状態遷移条件として、<条件1>出力1相ごとに切り替わること、<条件2>入力最大相と最小相間の直接転流がないこと、<条件3>コモンモード電圧を低減することの各条件をクリアできる遷移パターンが存在しない領域D4〜D7を一括して前記ベクトルVXmid、VYmid、Vzの3種を用いて空間ベクトルを構成することを特徴とする。
(4)前記各領域D1〜D8を決定する基本ベクトルのスイッチング状態遷移条件として、入力最大相と最小相間の直接転流がないことの条件をクリアできる遷移パターンが存在しない領域D2、D3、D5のうち、領域D2,D3は統合して前記回転ベクトルを利用して別の基本ベクトルを選択し、領域D5は前記回転ベクトルを利用して別の基本ベクトルを選択することを特徴とする。
以上のとおり、本発明によれば、直接AC−AC変換形で空間ベクトルによる変調方式とした場合の交流−交流直接変換装置で、出力電圧誤差低減、入出力電圧の高調波低減およびコモンモード電圧の低減を図ることができ、または入出力の磁束ベクトルの脈動抑制を図ることができる。
図1の3相入力、3相出力の交流−交流直接変換装置を例に挙げ、以下に説明する。入力電源の短絡と出力電流の不連続を起こさないスイッチング条件を考えると、9つの双方向スイッチは表1に示す27(33)パターンの組み合わせに限定される。
Figure 2008048531
この表1中、空間ベクトル上に存在する個々のベクトル(以下、基本ベクトル)について説明すると、S1,S2,S3は3相のうち2相のみを使ったスイッチングになる単振動ベクトルのグループ、R1は反時計方向回転ベクトルのグループ、R2は時計方向回転ベクトルのグループ、Zは出力電圧が常に零になる零ベクトルのグループである。
したがって、図1の交流−交流直接変換装置を正常に動作させるには、この27パターンの中から任意の状態を選択して制御する必要がある。そこで、これら27のスイッチングパターンを、3相/2相変換により3相交流から2相の静止αβ軸上に展開すると、出力電圧の空間ベクトルは図2のように表現でき(図2は、入力相電圧位相θ=15度の例)、以下に本発明に適用する直接AC−AC変換形の空間ベクトルによる変調方式を簡単に説明する。。
交流−交流直接変換装置の出力UV間の線間電圧Vuvを静止α軸方向として基準にし、図2のような出力電圧の空間ベクトルを構成する。図2は、入力相電圧位相θが15度の例で、交流−交流直接変換装置はその瞬時の入力電圧の位相状態や大きさにより27つある基本ベクトルが変動し、入力電圧が3相交流電源であれば、電源周波数(例えば50Hz/60Hz)に同期して空間ベクトルも変動することになる。この点が、通常のインバータ制御と異なる点である(通常のインバータで用いられる空間ベクトルは、入力電圧が直流のため、長さや位相が固定された6角形となる)。
また、交流−交流直接変換装置において仮想的に直流リンクを考えて制御する方式では、仮想コンバータと仮想インバータに分離して考えることができるため、入力側と出力側で個別に6角形の固定長・固定位相の空間ベクトルを用いることができる。したがって、制御が従来通りに単純化して容易になるが、仮想直流リンクは仮想上2本の線で入力相と出力相を結線する必要があるので、入力3相と出力3相のすべてを用いて接続する状態(表1におけるSTATE19〜24の6つのスイッチング状態)が表現できない。そこで、本発明ではこの6つのスイッチング状態を有効活用するために、直接AC/AC変換形の空間ベクトルによる変調方式で制御を考えていく。
先述した基本ベクトルについて、表1に示すように6つのグループに分け、位相角30度の方向を正軸とした単振動ベクトルのグループを単振動ベクトルS1、位相角150度方向を正軸とした単振動ベクトルS2、位相角270度方向を正軸とした単振動ベクトルS3、長さは最大一定で反時計方向に回転する回転ベクトルR1、同じく長さ一定で時計方向に回転する回転ベクトルR2、および6角形の中心零点で固定された零ベクトルZ、以上6つのグループに分ける。これら各々の基本ベクトルは、入力電圧の位相θに依存、つまり入力電圧の角速度ωiに同期して変動する。また、ベクトルの長さ(6角形の大きさ)は入力線間電圧の大きさに対応する。
一方、入力電流の空間ベクトルについても同様の考え方で定義することができる。図3は、出力電流位相φ=15度のときの入力電流の空間ベクトルを示しており、入力R相電流を静止α軸基準としている。交流−交流直接変換装置(マトリックスコンバータのような電源周波数より十分高い周波数でスイッチの切り替え制御するもの)は、出力電圧制御は入力電圧を切り刻んでPWM制御する電圧形インバータの要領で行い、入力電流制御は誘導性負荷を想定した出力電流(負荷電流)を切り刻んでPWM制御する電流形コンバータと同様になる。したがって、入力電流の空間ベクトルは出力電流位相φ、つまり出力電流の角速度ωoに依存して変動する基本ベクトルによって表現される。また、ベクトルの長さはそのときの負荷(出力電流の大きさ)に依存する。
ここで、図2の出力電圧の空間ベクトルと、図3の入力電流の空間ベクトルの違いに着目する。表1で示したグループ分けは、図2の出力電圧の空間ベクトルを形成する基本ベクトルの種類に対応しており、図3の入力電流には対応していない。図4は、入力電流の空間ベクトル(左)と、出力電圧の空間ベクトル(右)を比較した例である(入力電圧位相θ=15度、出力電流位相φ=15度の場合)。図4(b)の出力電圧の空間ベクトルで単振動する基本ベクトルのグループは、図4(a)の入力電流の空間ベクトルでは同じ長さの基本ベクトルに展開される。図4の負荷条件/位相条件で例えると、出力電圧の基本ベクトルで30度方向の単振動ベクトルS1軸は、入力側では6方向の軸それぞれにおける最大長の基本ベクトルに展開されている(図中のiRTT,iSTT,iSRR,iTRR,iTSS,iRSS)。また、回転ベクトルに関しては、出力電流位相に従って回転し、軸の基準がずれているものの出力側と同様に、固定長ベクトルで表現される。
以下、本発明の実施形態になる直接AC−AC変換形の空間ベクトル変調方式について述べる。
(実施形態1)
先述した従来の直接AC/AC変換形の空間ベクトル変調方式をベースに、出力電圧の誤差低減を最優先した手法を以下に説明する。
図5は、直接AC/AC変換形の出力電圧の空間ベクトルについて、セクターを定義したものである。ここで、図中の出力セクター「1」(位相−30度〜+30度)に出力線間電圧指令ベクトルが存在する場合を例に挙げて説明する。図6は、出力セクター「1」における基本ベクトル(単振動ベクトル、回転ベクトルおよび零ベクトル)の状態を拡大して示したものである。図6において、反時計方向に位相が進むと考えて位相が遅れている単振動ベクトル軸をX軸、進んでいる単振動ベクトル軸をY軸と定義して、それぞれの軸で最大のものは添え字にmax、中間のものをmid、最小のものをminとしている(VXmax、VXmid、VXmin、VYmax、VYmid、VYmin)。零ベクトルVzは、コモンモード電圧を低減することを目的に、入力相電圧の中間電圧となる相を用いる(例えば、3相入力相電圧の瞬時値関係がVr(R相電圧)>Vs(S相電圧)>Vt(T相電圧)のとき、零ベクトルVzにはS相を用いた零ベクトルSSS:表1のSTATE26を用いる)。
また、直接AC−AC変換形による出力電圧の空間ベクトルにおいては、どのような状況でも回転ベクトルVrotが、必ず1つずつ各セクター内に存在する。8つの基本ベクトル(VXmax、VXmid、VXmin、VYmax、VYmid、VYmin、Vrot、Vz)には、表1で示す27つのスイッチングパターンの内、入力電圧の位相に依存してどれかが適用されることになる。
非特許文献2では、電圧指令値ベクトルVo*と使用する基本ベクトルの位相差が最も低減できる手法として、単振動ベクトルの最大相(VXmaxもしくはVYmax)と回転ベクトルVrotと零ベクトルVzの3種を用いて変調している。なお、VXmaxとVYmaxの選択の仕方は、Vrotの位相と電圧指令値ベクトルVo*の位相を比較して、Vo*が反時計方向基準で進んでいるときはVYmaxを、遅れているときはVXmaxを使用するように選択している。つまり、常に60度よりも小さい位相差の基本ベクトルを使用することにより、モータ磁束ベクトル軌跡=トルク脈動への悪影響が極力低減できる、としている。
これに対し、本実施形態では8つの中から3つの基本ベクトルを用いて空間ベクトルを変調し、出力するPWMパルスの電圧落差に着目して、出力線間電圧の高調波低減を最優先している。
いま、図7のような電圧指令値ベクトルVo*および基本ベクトル状態が与えられたとする。非特許文献2の手法であると、図7の状態においては、VXmax、Vrot、Vzの3つの基本ベクトルを使用してPWM制御するが、本実施形態では、図7の斜線部分で示す領域に指令値が存在することを判別し、VXmax、Vrot、およびVXmidを用いてPWM制御する。
非特許文献2の従来法であると、電圧指令値Vo*の大きさは、Vz(すなわち零電圧)に対して大きな落差となり、PWMパルスも狭くて高い電圧となる。このようなパルスはデッドタイムの影響で出力時間が削られ、電圧誤差の原因となりやすいとともに、波高値の高いパルスであるために高調波も大きくなる。
一方、本実施形態の手法であると、指令値に対して電圧落差の大きいVzの代わりに、電圧値が電圧指令値ベクトルVo*に近接したVXmidを用いているため、パルス幅が広くなり、電圧誤差を極力低減できるとともに、波高値を低く抑えることができるため、出力電圧の高調波を最小限に抑制できる。
図8は、本実施形態の手法を用いて、セクター内の領域D1〜D8に分けた様子を示している(出力セクター「1」の例)。3つの基本ベクトルを選択する際に、電圧指令値ベクトルVo*との電圧誤差の低減を最も優先させている。
図9は、図8における領域D1〜D8の決定フローチャートの一例である。まず、電圧指令値とその位相情報から電圧指令値ベクトルVo*をX軸方向に分解した成分Vo*xとY軸方向に分解した成分Vo*yを求める。VXmidとVYmidを結ぶ線は、(1)−A式のように表現できるため、この左辺の値が1より大きいか小さいかを判別することで領域分けできる。すなわち、左辺の値が1より大きい場合は、領域D1〜D3のいずれかになり、1より小さい場合は領域D4〜D8のいずれかと分かる。
Figure 2008048531
以下、図9に従い、(1)−B式が成立しかつ電圧指令値ベクトルVo*の位相が回転ベクトルVrot位相より小さい場合に電圧指令値ベクトルVo*をX軸方向とR軸方向(R軸:回転ベクトルVrotの位相を基準とした軸)に分解して(1)−Cが成立すれば領域D2,成立しなければ領域D3,等しいもしくは大きい場合に電圧指令値ベクトルVo*をY軸方向とR軸方向に分解して(1)−D式が成立すれば領域D1,成立しなければ領域D3,(1)−B式が成立せずかつ(1)−E式が成立すれば領域D8,(1)−H式が成立せず電圧指令値ベクトルVo*の位相がX軸寄りで(1)−F式もしくは(1)−G式が成立すれば領域D5、成立しなければ領域D7、電圧指令値ベクトルVo*のY軸寄りで(1)−H式もしくは(1)−I式が成立すれば領域D4,成立しなければ領域D6となり、D1〜D8の領域分けができる。この領域分けが完了すると、自動的に使用する3つの基本ベクトルが決定される。表2は、領域と使用するベクトルをまとめたものである。
Figure 2008048531
表2により使用する3つの基本ベクトルが決定されたら、それらのデューティを演算する。3つの基本ベクトルで構成される3角形を考えて三角公式を利用、もしくは逆行列演算などから求めることができる。ここでは例として、逆行列演算の解法を述べる。
電圧指令値ベクトルVo*、および単振動ベクトルVXmax、VXmid、VXmin、VYmax、VYmid、VYmin、回転ベクトルVrot、零ベクトルVzをそれぞれ静止αβ軸上の値に分解し、添え字にα、βを付す。例えば電圧指令値ベクトルVo*が領域D3にあるときは、表2より、VXmid、VYmid、Vrotの3種を用いるので、(2)式に示す行列方程式が成り立つ。(VXmidのデューティをd1、VYmidのデューティをd2、Vrotのデューティをd3とおく。)
Figure 2008048531
求めたい解はデューティd1、d2、d3であるので、(3)式のような逆行列を利用して解くことができる。
Figure 2008048531
以上が本実施形態1におけるデューティ演算までのプロセスの説明であり、電圧指令値の大きさに近い基本ベクトルを選択して使用することで、非特許文献2の手法と比較して出力線間電圧のPWMパルスの電圧誤差を低減できる。
また、デッドタイム(半導体スイッチ切換の転流時間)でパルス出力時間が欠けることによる電圧誤差の低減に繋がる。これは、電圧指令値と似通った瞬時値を持つ基本ベクトルを使用することで、PWMパルスの高さを減少し、PWMパルス幅が広がるためである。
(実施形態2)
実施形態1は、出力線間電圧のPWMパルスの電圧落差を最も低減して空間ベクトル変調する手段であるが、その際に使用する基本ベクトルの位相差は、図8における領域D1,D2を除き、60度位相差の基本ベクトルを用いている。このような基本ベクトルの位相差状態は非特許文献2で述べられているモータ磁束鎖交数ベクトル軌跡の脈動、すなわちモータトルクリップルや騒音に影響を与える。図8における領域D1,D2と同様に、常に60度位相差以下の基本ベクトルで空間ベクトルを構成するには、回転ベクトルVrotを常時利用しつつ、単振動ベクトルのX軸もしくはY軸のどちらか一方のみを用いる必要がある。以上を踏まえて領域分けすると、図10のように表現できる。
本実施形態では図10の領域D1〜D6分けに基づいて空間ベクトル変調することにより、常に60度位相差以下のベクトルを使用するとともに、電圧落差についてもなるべく低減できるように、電圧指令値ベクトルVo*に近い瞬時値の基本ベクトルを選択する。領域D1〜D6分けプロセスについては図11に決定フローチャートで示し、デューティ演算等は実施形態1と同様の考え方で導くことができる。
本実施形態では、常に60度位相差以下の基本ベクトルを使用することで、モータ負荷等の磁束鎖交数ベクトルの脈動を低減するとともに、60度位相差以下で電圧指令値ベクトルVo*の大きさに近い基本ベクトルを使用することで、電圧誤差の低減も可能となる。
(実施形態3)
実施形態1の手法について、スイッチング回数の低減に着目して、各領域の基本ベクトルのスイッチングパターンの遷移を考える。電圧指令値ベクトルVo*がセクター「1」の中にあり、図12のような領域分けの状態を例に挙げる。スイッチングパターンの遷移を決定づける要素として、
<条件1>出力1相ごとに切り替わること(例:uvw:RTT→uvw:RSSは、V相とW相が同時にT→Sに切り替わっているため不可)
<条件2>入力相電圧の最大相と最小相間の直接転流がないこと(例:入力相電圧の相関係がR>S>Tの時、中間相=S相なので、R相とT相間のスイッチングは不可)
<条件3>コモンモード電圧を低減すること(入力相電圧の中間相で構成された零ベクトルを使用、R>S>TならばSSS)
以上3つの条件となる制御とする。表3は、図12における各領域D1〜D8において上述の制約条件を考慮したスイッチングパターンの遷移例である。領域D4〜D7においては、制約条件をクリアできる遷移パターンが存在せず、どうしても2相以上の同時スイッチングを引き起こしてしまい、スイッチング回数・損失の増加を伴う。
Figure 2008048531
そこで、本実施形態では、領域D4〜D7においては図12におけるSTT、STS(VXminとVYmin)を使用せずに、領域D4〜D7を一括してVXmid、VYmid、Vzの3種の基本ベクトルを用いて空間ベクトルを構成する。このときの領域分けは、図13のようになる。
本実施形態を適用することにより、実施形態1より電圧誤差は大きくなる領域があるが、スイッチングに関しては最適なパターンで遷移することができるため、スイッチング回数を低減することができ、コモンモード電圧を低減して電圧落差の大きい転流を防止することができる。これにより、スイッチングによる損失の低減、発生ノイズの低減、絶縁劣化の抑制、高調波の抑制が可能となる。
(実施形態4)
実施形態2の手法についても、スイッチング回数の低減に着目して、各領域の基本ベクトルのスイッチングパターンの遷移を考える。電圧指令値ベクトルVo*がセクター「1」の中にあり、図14のような領域分けの状態を例に挙げて説明する。実施形態3と同様にして、1相ごとのスイッチングと入力電圧の最大相と最小相間の直接転流防止を制約条件とした場合、図14の各領域のスイッチングパターンは表4のとおりである。
Figure 2008048531
この例では、領域D2、D3,D5のときに条件をクリアできるスイッチングパターンが存在しないため、以下のように領域分けを変更する。
領域D2,D3は統合し、RSS、RTS、SSSのベクトルを用いてRTS→RSS→SSSもしくはSSS→RSS→RTSの順でスイッチングする。
領域D5のときは、RTS、RTR、STSのベクトルを用いてRTR→RTS→STSもしくはSTS→RTS→RTRの順にスイッチングする。
以上のように、回転ベクトル(RTS)を利用しつつ、制約条件を満たす別の基本ベクトルを選択することでスイッチングを最適化する。
本実施形態により、実施形態2の手法よりもスイッチング回数を低減しつつ、常に60度位相差以下の基本ベクトルを使用して磁束鎖交数ベクトル軌跡の脈動を極力低減し、電圧落差の大きい転流を防止することができる。これにより、損失の低減、発生ノイズの低減、絶縁劣化の抑制、高調波の抑制が可能となる。
交流−交流直接変換装置の基本構成図。 出力電圧の基本空間ベクトル図。 入力電流の基本空間ベクトル図。 入力側空間ベクトル図(a)と出力側空間ベクトル図(b)。 空間ベクトルの「出力側」セクターの定義例。 出力セクター「1」における基本空間ベクトルの状態図。 電圧指令値ベクトルおよび基本電圧ベクトル状態図。 セクター内の領域D1〜D8の例。 領域D1〜D8の決定フローチャートの例。 セクター内の領域分けの例。 領域D1〜D6の決定フローチャートの例。 セクター内の領域D1〜D8分けの例。 セクター内の領域分けの例。 セクター内の領域D1〜D8分けの例。
符号の説明
1 交流電源
2 入力LCフィルタ
3 交流−交流直接変換回路
4 制御装置

Claims (4)

  1. 多相の交流電源から交流−交流直接変換器の双方向スイッチを直接AC/AC変換形の空間ベクトルによる変調でPWM制御する交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法であって、
    多相交流出力の線間電圧を2相の静止αβ軸上に展開したベクトルの状態を、線間電圧指令値ベクトルVo*が存在するセクターの位相が遅れている単振動ベクトル軸をX軸、進んでいる単振動ベクトル軸をY軸と定義して、それぞれの軸で最大のベクトルVXmax、VYmaxと、中間のベクトルVXmid、VYmidと、最小のベクトルVXmin、VYminと、相電圧の中間電圧となる零ベクトルVzと、セクター内に1つ存在する回転ベクトルVrotを基本ベクトルとし、これら8つの基本ベクトルによってセクター内を8つの領域D1〜D8に分け、
    線間電圧指令値ベクトルVo*が前記領域D1〜D8のいずれの領域にあるかによってPWM制御に使用する3つの前記基本ベクトルを決定し、かつ線間電圧指令ベクトル値Vo*から前記3つの基本ベクトルのデューティを決定して空間ベクトルとすることを特徴とする交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
  2. 前記基本ベクトルの決定は、常に60度位相差以下のベクトルを使用するとともに、線間電圧指令値ベクトルVo*の大きさに近い瞬時値の基本ベクトルとすることを特徴とする請求項1に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
  3. 前記各領域D1〜D8を決定する基本ベクトルのスイッチング状態遷移条件として、<条件1>出力1相ごとに切り替わること、<条件2>入力最大相と最小相間の直接転流がないこと、<条件3>コモンモード電圧を低減することの各条件をクリアできる遷移パターンが存在しない領域D4〜D7を一括して前記ベクトルVXmid、VYmid、Vzの3種を用いて空間ベクトルを構成することを特徴とする請求項1に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
  4. 前記各領域D1〜D8を決定する基本ベクトルのスイッチング状態遷移条件として、入力最大相と最小相間の直接転流がないことの条件をクリアできる遷移パターンが存在しない領域D2、D3、D5のうち、領域D2,D3は統合して前記回転ベクトルを利用して別の基本ベクトルを選択し、領域D5は前記回転ベクトルを利用して別の基本ベクトルを選択することを特徴とする請求項1に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
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