JP2008021981A - 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ及びその製造方法 - Google Patents

絶縁ゲートバイポーラトランジスタ及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】特性が安定した絶縁ゲートバイポーラトランジスタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】IGBT1において、p型エミッタ層2と、p型エミッタ層2上に設けられたn型バッファ層3と、n型バッファ層3上に設けられn型バッファ層3よりも抵抗率が高いn型ベース層4と、n型ベース層4の上面の一部に設けられたp型ベース層5と、p型ベース層の上面の一部に設けられたn型ソース層6と、n型ソース層6及びp型ベース層5を貫通してn型ベース層4に到達するトレンチ7と、トレンチ7内に設けられたゲート電極9と、ゲート電極9とトレンチ7の内面との間に設けられたゲート絶縁膜と、を形成する。そして、p型エミッタ層2の厚さを、5乃至50μmとし、不純物濃度を、2×1016乃至1×1018cm−3とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ及びその製造方法に関する。
絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下、「IGBT」(Insulated Gate Bipolar Transistor)ともいう)は、半導体基板内にpnpn構造を形成し、n型ソース層から電子を注入し、p型エミッタ層から正孔を注入することにより、半導体基板内にその厚さ方向に沿って電流を流すデバイスである。
IGBTにおいて、オン電圧の低減とターンオフ時間の短縮とを両立させるためには、正孔の供給源であるp型エミッタ層全体の不純物量を適正な範囲に規制することが有効である。但し、p型エミッタ層は、正極との間でオーミックコンタクトを実現しなくてはならないため、不純物濃度はある程度高くする必要がある。このため、p型エミッタ層を薄く形成して、高い不純物濃度を維持しつつ、全体の不純物量を抑制する技術が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、この従来の技術においては、以下に示すような問題がある。すなわち、上述の薄いp型エミッタ層を有するIGBTを製造する際に、プロセス上の誤差によりp型エミッタ層の厚さがばらつくと、IGBTの特性がばらついてしまう。
特開2002−261282号公報
本発明の目的は、特性が安定した絶縁ゲートバイポーラトランジスタ及びその製造方法を提供することである。
本発明の一態様によれば、p型エミッタ層と、前記p型エミッタ層上に設けられたn型バッファ層と、前記n型バッファ層上に設けられ前記n型バッファ層よりも抵抗率が高いn型ベース層と、前記n型ベース層の上面の一部に設けられたp型ベース層と、前記p型ベース層の上面の一部に設けられたn型ソース層と、前記n型ソース層及び前記p型ベース層を貫通して前記n型ベース層に到達するトレンチと、前記トレンチ内に設けられたゲート電極と、前記ゲート電極と前記トレンチの内面との間に設けられたゲート絶縁膜と、を備え、前記p型エミッタ層の厚さは、5乃至50μmであり、前記p型エミッタ層の不純物濃度は、2×1016乃至1×1018cm−3であることを特徴とする絶縁ゲートバイポーラトランジスタが提供される。
本発明の他の一態様によれば、p型不純物を2×1016乃至1×1018cm−3の濃度で含有しその厚さが50μmよりも厚いp型基板上に、n型バッファ層及び前記n型バッファ層よりも抵抗率が高いn型ベース層を形成する工程と、前記n型ベース層の上面の一部にp型ベース層を形成する工程と、前記p型ベース層の上面の一部にn型ソース層を形成する工程と、前記n型ソース層及び前記p型ベース層を貫通して前記n型ベース層に到達するトレンチを形成する工程と、前記トレンチの内面にゲート絶縁膜を形成する工程と、前記トレンチの内部にゲート電極を形成する工程と、前記p型基板を5乃至50μmの厚さまで減厚加工する工程と、を備えたことを特徴とする絶縁ゲートバイポーラトランジスタの製造方法が提供される。
本発明によれば、特性が安定した絶縁ゲートバイポーラトランジスタ及びその製造方法を実現することができる。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るIGBTを例示する断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るIGBT1においては、p型エミッタ層2が設けられており、p型エミッタ層2上にはn型バッファ層3が設けられており、n型バッファ層3上にはn型ベース層4が設けられている。n型ベース層4は、n型バッファ層3よりも不純物濃度が低く、抵抗率が高い層である。また、n型ベース層4の上面の一部には、p型ベース層5が設けられており、p型ベース層5の上面の一部には、n型ソース層6が設けられている。p型エミッタ層2、n型バッファ層3、n型ベース層4、p型ベース層5及びn型ソース層6は、例えば、いずれも不純物を含むシリコンにより形成されている。
また、p型エミッタ層2、n型バッファ層3、n型ベース層4、p型ベース層5及びn型ソース層6からなる積層体10における上面、すなわち、p型ベース層5及びn型ソース層6が露出している側の面には、n型ソース層6及びp型ベース層5を貫通してn型ベース層4に到達するトレンチ7が形成されている。更に、トレンチ7の内面上にはゲート絶縁膜8が形成されており、ゲート絶縁膜8上にはトレンチ7内を埋めるように、ゲート電極9が形成されている。すなわち、ゲート電極9はトレンチ7内に設けられており、ゲート電極9とトレンチ7の内面との間にゲート絶縁膜8が設けられている。これにより、ゲート電極9は、ゲート絶縁膜8により、n型ベース層4、p型ベース層5及びn型ソース層6から絶縁されている。例えば、ゲート絶縁膜8はシリコン酸化物により形成されており、ゲート電極9はポリシリコンにより形成されている。
更にまた、積層体10の上面上におけるゲート電極9を覆う領域には、例えばTEOS(Tetra-Etyl-Ortho-Silicate:正珪酸四エチル(Si(OC2H5)4))からなる絶縁膜11が設けられており、積層体10の上面及び絶縁膜11を覆うように、金属膜からなるカソード電極12が設けられている。これにより、カソード電極12は、n型ソース層6及びp型ベース層5に接続されている。また、積層体10の上面上には、ゲート電極9に接続された制御電極(図示せず)も設けられている。一方、積層体10の下面上には、金属膜からなるアノード電極13が設けられており、p型エミッタ層2に接続されている。
そして、p型エミッタ層2の厚さは、5乃至50μm(ミクロン)であり、例えば、10乃至50μmであり、例えば、15乃至50μmであり、例えば、20乃至30μmである。また、p型エミッタ層2の不純物濃度は、2×1016乃至1×1018cm−3であり、例えば、2×1016乃至3×1017cm−3であり、例えば、1×1017cm−3である。p型エミッタ層2内においては、n型バッファ層3との界面付近を除けば、不純物濃度は略均一である。これは、後述するように、p型エミッタ層2は、p型不純物を略均一に含有したp型基板を減厚加工して形成されているためである。n型バッファ層3との界面付近では、拡散によって不純物の一部が失われるため、不純物濃度がやや低下している。なお、本明細書において「不純物濃度」とは、p型又はn型のキャリアの供給に寄与する正味の不純物濃度をいう。
また、十分な静耐圧を得るためには、n型バッファ層3及びn型ベース層4の不純物量、すなわち、n型バッファ層3及びn型ベース層4の不純物濃度の電流方向の積分値が、3×1012cm−2以上であることが好ましい。また、この積分値は、2×1013cm−2以下であることがより好ましい。そして、n型バッファ層3の不純物濃度は、p型エミッタ層2の不純物濃度よりも低く設定されている。
次に、本実施形態に係るIGBT1の製造方法について説明する。
図2乃至図4は、本実施形態に係るIGBTの製造方法を例示する断面図である。
先ず、図2に示すように、p型基板22を用意する。p型基板22は、例えば、p型不純物が均一に注入されたシリコン基板であり、その厚さは50μmよりも厚く、例えば数百μmである。また、p型基板22の不純物濃度は、2×1016乃至1×1018cm−3であり、例えば、2×1016乃至3×1017cm−3であり、例えば、1×1017cm−3である。
次に、p型基板22上に、n型不純物が注入されたシリコンからなるn型バッファ層3及びn型ベース層4を形成する。このとき、n型ベース層4の不純物濃度はn型バッファ層3の不純物濃度よりも低くし、抵抗率を高くする。そして、通常の方法により、n型ベース層4の上面の一部にp型ベース層5をイオン注入及び拡散により形成し、p型ベース層5の上面の一部にn型ソース層6をイオン注入及び拡散により形成する。
次に、図3に示すように、p型基板22、n型バッファ層3、n型ベース層4、p型ベース層5及びn型ソース層6からなる積層体の上面に、n型ソース層6及びp型ベース層5を貫通してn型ベース層4に到達するトレンチ7を形成する。そして、例えば酸化雰囲気中で熱処理を行うことにより、トレンチ7の内面上にシリコン酸化物からなるゲート絶縁膜8を形成する。次に、トレンチ7の内部に例えばポリシリコン等の導電材料を埋め込み、その後、積層体上に堆積された導電材料を除去することにより、ゲート電極9を形成する。
次に、図4に示すように、p型基板22(図3参照)の下面を例えば研削加工することにより、p型基板22を5乃至50μmの厚さまで減厚加工する。これにより、厚さが5乃至50μmのp型エミッタ層2が形成される。なお、p型エミッタ層2の厚さは、10乃至50μmとすることが好ましく、15乃至50μmとすることがより好ましく、20乃至30μmとすることがより好ましい。
次に、図1に示すように、積層体10上にTEOS膜を形成し、これをパターニングして、ゲート電極9の直上域を含む領域のみに選択的に残留させることにより、絶縁膜11を形成する。そして、積層体10及び絶縁膜11を覆うように、カソード電極12及び制御電極(図示せず)を形成する。このとき、カソード電極12はp型ベース層5及びn型ソース層6に接続されるようにし、制御電極はゲート電極9に接続されるようにする。一方、積層体10の下面上に、p型エミッタ層2に接続されるように、アノード電極13を形成する。これにより、IGBT1が作製される。
次に、このIGBT1の動作について説明する。
IGBTにおいて、負荷短絡SOA(Safe Operation Area:安全動作領域)を可及的に広くするためには、IGBT内の電子電流と正孔電流との比率を適正化することが有効である。
以下、IGBT内の電子電流と正孔電流との適正比率について説明する。先ず、「MOSFETモード動作」を定義する。図1に示すn型バッファ層3とn型ベース層4との界面において、この界面を通過する全電流に対する正孔電流の比率を注入効率γとする。なお、注入効率γは、p型エミッタ層の注入効率とn型バッファ層3の輸送効率との積に等しい。一方、電子の移動度をμとし、正孔の移動度をμとするとき、γMOSを下記数式(1)のように定義する。このとき、「MOSFETモード動作」とは、γ<γMOSとなる状態として定義される。

γMOS=μ/(μ+μ) …(1)
電子及び正孔の移動度は電界強度の関数であるため、γMOSの値は、IGBT内の電界が変化すると大きく変化する。
図5は、横軸に電界強度をとり、縦軸にγMOSの値をとって、γMOSの電界依存性を示すグラフ図である。
図5に示すように、MOSFETモード動作は(γ<γMOS)となる領域であるため、順方向の電圧及び内部電界強度が変化すると、IGBTの動作モードも変化する。
図6は、横軸にIGBT内における電流方向の位置をとり、縦軸に不純物濃度、電界強度及び電流密度をとって、順方向の高電圧が印加されたときのIGBTの状態を示すグラフ図である。なお、図6には、このグラフ図の横軸に対応させてIGBTの構成を示す模式図も示している。この模式図に付した符号は、図1に付した符号と同じ符号である。
図6に示すように、IGBTに極めて高い順方向電圧が印加されている場合、先ず、pベース層5とn型ベース層4との界面において、強い電界が形成される。しかしながら、電流密度が高いときには、強い電界はアノード側にも出現する。以下、この理由を説明する。
ウェーハを薄くしたPTIGBT(Punch Through IGBT:パンチスルー型IGBT)において、n型ベース層におけるキャリアのライフタイムは十分に長く設定されている。このとき、全電流密度に対する正孔電流密度の比率は、高電界領域全体にわたって均一であると仮定する。仮に、高電界領域がn型ベース層全体に広がり、n型バッファ層に到達していれば、この比率は、注入効率γに等しい。高電界領域における電子密度をnとし、正孔密度をpとすると、この電子密度n及び正孔密度pは、全電流密度をJとし、電子電流密度をJとし、正孔電流密度をJとし、電子速度をvとし、正孔速度をvとし、電荷をqとすれば、下記数式(2)乃至(4)により計算可能である。

γ=J/J …(2)

n=J/(q×v) …(3)

p=J/(q×v) …(4)
上記数式(2)乃至(4)により、高電界領域における正味の電荷量ρは、下記数式(5)に示すドナー密度Nの関数として与えられる。

ρ=N+p−n=N+{γ/v+(γ−1)/v}×J/q …(5)
仮に、γ<γMOSであれば、上記数式(5)の右辺の第2項は負となる。従って、電流密度Jが増加すると、正味の電荷量ρは正の値から減少していき、ついには負に転ずる。ρ=0となるときの電流密度Jを臨界電流密度Jとすると、J=Jとなるとき、ρ=0となり、電界強度は電流方向に関してフラットになる。この場合について、上記数式(5)をJについて解くと、下記数式(6)が導出される。

=q×N/{(1−γ)/v−γ/v} …(6)
一旦、正味の電荷量ρが負になると、電界のピークはn型バッファ層とn型ベース層との界面に向かってシフトする。
図7(a)は、横軸にIGBT内における電流方向の位置をとり、縦軸にTCADによりシミュレートされた電界強度及びキャリア濃度をとって、IGBT内の電界分布及びキャリア濃度分布を示すグラフ図であり、(b)は、横軸にIGBT内における電流方向の位置をとり、縦軸に解析的に計算された電界強度をとって、IGBT内の電界分布を示すグラフ図である。図7(a)は、1200V型の薄ウェーハ型PTIGBTに600Vの順方向電圧を印加した場合を示しており、図1に示すP型ベース層5及びn型ソース層6からp型エミッタ層2までの部分を示している。一方、図7(b)は、図1に示すn型ベース層4の部分、すなわち、ゲート絶縁膜8の下面からn型ベース層4とn型バッファ層3との界面までの部分のみを示している。なお、図7(a)及び(b)に示す数値は一例である。
図7(b)に示す計算結果は、図7(a)に示すシミュレート結果とよく一致している。この計算方法は後述する。
上述の如く、J=Jであるとき、電界強度は電流方向において均一になる。そして、電流密度Jが臨界電流密度Jを超えて更に増加すると、n型バッファ層3(図1参照)とn型ベース層4(図1参照)との界面において、極めて強い電界が出現する。このn型バッファ層とn型ベース層との界面における電界強度のピークが臨界値Eを超えると、アバランシェ降伏が発生する。この現象は、npnバイポーラトランジスタの二次降伏と類似している。電流密度の増加及び正味の電荷量ρの変化により、オン状態の降伏電圧が変化する。
図7(a)及び(b)に示すように、能動素子においては、注入効率γの値は一定ではなく、動作条件に依存して変化する。例えば、電流密度の増加に伴い、γの値は0.28乃至0.36の範囲で変化する。その理由は、n型バッファ層とn型ベース層との界面における電界強度のピークが増大することによって、n型バッファ層の一部が消耗するからである。この結果、n型バッファ層における輸送係数αが増加する。
図8は、横軸にオン状態の降伏電圧をとり、縦軸に最大電流密度をとって、注入効率γをパラメータとして解析的に求められた負荷短絡SOAの境界を示すグラフ図である。図8は、1200V型の薄ウェーハ型PTIGBTにおいて、n型ベース層の不純物濃度Nを7×1013cm−3とし、n型ベース層の厚さを100μmとした場合を示している。このとき、このPTIGBTの構造を、π領域のドーズ量が上記数式(5)により見積られたpπnダイオード構造とみなして、降伏電圧を計算している。また、降伏が発生する電界強度のピークの臨界値Eを、1.8×10V/cmとしている。
図8より、電流密度Jが臨界電流密度Jと等しくなるときに、オン状態の降伏電圧がピーク値をとることが推定される。また、注入効率γの値が低下すると、負荷短絡SOAが著しく劣化することも推定される。一方、注入効率γが0.45よりも大きいと、n型ベース層における正味の電荷量は常に正となり、電流密度Jが増加すると、オン状態の降伏電圧は単調減少する。図8においては、γ=0.47の場合も示しているが、γの値が0.47から0.45に近づくと、SOAは急激に増大する。理論上は、注入効率γの値が{v/(v+v)}の値に等しいとき、すなわち、γ=0.45のときに、負荷短絡SOAは無限大になる。
図9は、横軸にオン状態の降伏電圧をとり、縦軸に最大電流密度をとって、n型ベース層の不純物濃度Nをパラメータとして計算された負荷短絡SOAの境界を示すグラフ図である。なお、図中の数字はn型ベース層の不純物濃度N(cm−3)である。
図9より、n型ベース層の不純物濃度が増加するに伴い、負荷短絡SOAが増大することが推定される。
図10は、横軸に注入効率γをとり、縦軸に最大電流密度をとって、理論的及び実験的に求められた最大電流密度の注入効率依存性を示すグラフ図である。図10においては、順方向に600Vの電圧を印加した場合を示している。
図11は、横軸に注入効率γをとり、縦軸に最大電流密度をとって、他の実験により求められた最大電流密度の注入効率依存性を示すグラフ図である。
図10及び図11より、理論計算の結果は、注入効率γの値が{v/(v+v)}の値に近づくほど、負荷短絡SOAが増大することを示しており、実験結果も同じ傾向を示している。
このように、負荷短絡SOAを最大化するためには、J=Jとして電界を均一化し、大電流通電時にn型ベース層に一様な電界がかかるようにして、インパクトイオン化が生じにくくすることが有効である。このとき、γ=0.45である。γの値が0.45より小さくなっても大きくなっても負荷短絡SOAは低下するが、γの値が0.45から減少する場合は、負荷短絡SOAは相対的に緩やかに減少し、γの値が0.45から増加する場合は、負荷短絡SOAは相対的に急激に減少する。従って、例えば、電流密度が2000A/cm以上となる高注入時においては、γの値は0.3乃至0.5の範囲とすることが好ましく、例えば、電流密度が10000A/cm以上の場合には、γの値は0.430乃至0.457の範囲とすることがより好ましい。
このように、IGBTを一次元モデルを使用して解析すれば、注入効率γを0.45とすると負荷短絡SOAが最大となり、γの値が0.45を含む上述の範囲になるように、IGBTを設計することが好ましいことがわかる。これに対して、デバイスシミュレータを使用して、IGBTを二次元モデルにより解析すると、注入効率γの値は0.385乃至0.399の範囲とすることが好ましいことがわかる。これは、二次元モデルの解析によれば、IGBTの非動作部分に滞留する正孔の影響を考慮できるため、一次元モデルを使用した解析結果とは若干異なる結果が導出されるためである。
そして、注入効率γの値を上述の好適範囲に制御するためには、p型エミッタ層の不純物量を制御すればよい。但し、従来の技術の項において説明したように、p型エミッタ層とアノード電極との間でオーミックコンタクトをとる必要があるため、p型エミッタ層の不純物濃度はある程度の値以上とする必要がある。従って、p型エミッタ層の不純物量を好適範囲に制御するためには、p型エミッタ層の厚さを薄くすればよいが、そうすると、製造プロセスの誤差に起因してp型エミッタ層の厚さがばらつくと、p型エミッタ層内の不純物量もばらつき、注入効率γの値がばらついて、負荷短絡SOAの大きさもばらついてしまう。
そこで、本実施形態においては、図1に示すように、p型エミッタ層2を従来よりも厚くした上で、p型エミッタ層2の不純物の濃度を制御することにより、注入効率γの値を制御し、ひいては負荷短絡SOAの大きさを制御している。p型エミッタ層2の厚さを十分に厚くすることにより、n型バッファ層3内の電子は、p型エミッタ層2を貫通してアノード電極13まで到達しなくなる。これにより、n型バッファ層3からp型エミッタ層2に流れる電子電流が減少し、その分、全電流に対する正孔電流の割合、すなわち、注入効率γが増大する。また、このとき、p型エミッタ層2におけるn型バッファ層3の反対側の部分は、その厚さを変えても、電子電流の流れに実質的に寄与しなくなる。このため、p型エミッタ層2におけるn型バッファ層3側の部分の不純物濃度のみで、注入効率γを制御できるようになる。そして、不純物濃度は層厚よりも制御しやすいため、本実施形態によれば、注入効率γの値を安定して精度よく制御することができる。
但し、p型エミッタ層を過度に厚くすると、p型エミッタ層の抵抗値が大きくなってしまい、IGBTのオン抵抗が増大する。従って、p型エミッタ層の厚さは、電子の拡散長程度の厚さを確保した上で、可及的に薄くすることが好ましい。キャリアの拡散長Lは、このキャリアの拡散係数をDとし、ライフタイムをtとすると、下記数式(7)によって与えられる。

L=√(D×t) …(7)
なお、拡散係数Dは、電子の移動度をμとし、ボルツマン定数をkとし、絶対温度をTとし、電荷をqとするとき、下記数式(8)によって与えられる。

D=μ×(k×T/q) …(8)

なお、(k×T/q)の値は例えば0.025である。
また、図12は、横軸に不純物濃度をとり、縦軸に移動度μをとって、移動度の不純物濃度依存性を示すグラフ図である。
次に、上述の議論から導かれるp型エミッタ層の厚さ及び不純物濃度の好適範囲について説明する。
p型エミッタ層の厚さ:5乃至50μm
p型エミッタ層内の電子の拡散長は、電子のライフタイムによって変動するが、p型エミッタ層の厚さを5μm以上とすれば、注入効率γに及ぼす影響として、p型エミッタ層内の全不純物量よりもn型バッファ層側の不純物濃度の方が支配的になる。このため、注入効率γは、p型エミッタ層の厚さの影響を受けにくくなる。その理由の1つとして、現状の加工技術によれば、p型基板を研削してp型エミッタ層を形成する際に、p型エミッタ層の厚さを0.5μm程度の精度で制御することができるため、p型エミッタ層の厚さを5μm以上とすれば、厚さのばらつきを10%以内に抑えることが可能となることが挙げられる。これにより、p型エミッタ層内の不純物の総量のばらつきを10%以内に抑えられ、デバイスの特性のばらつきを、実用上問題がない程度に抑制することができる。従って、p型エミッタ層の厚さは5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがより好ましい。
一方、通常の条件において、p型エミッタ層における電子の拡散長が50μmを超えることはほとんどないため、p型エミッタ層の厚さを50μmを超えて厚くしても、p型エミッタ層の厚さのばらつきによる注入効率γの変動を抑制する効果は増大せず、単にオン抵抗が増加するのみである。従って、p型エミッタ層の厚さは50μm以下とすることが好ましい。
また、例えば、p型エミッタ層の不純物濃度が1×1018である場合は、拡散係数D=7cm/秒であり、ライフタイムt=1×10−6秒であるため、上記数式(7)より、L≒27μmとなる。一方、実際のp型エミッタ層における電子の拡散長を実験的に求めると、約30μmとなる。また、p型エミッタ層の厚さをある程度厚くすると、負荷短絡時に流れる電流を制限することができる。
p型エミッタ層の不純物濃度:5×10 16 乃至5×10 18 cm −3
n型バッファ層の不純物濃度はp型エミッタ層の不純物濃度よりも低く設定されているため、n型バッファ層の不純物濃度は、電流が流れたときのn型ベース層のキャリア濃度よりも低くなり、注入効率γは、p型エミッタ層の不純物濃度及びn型ベース層の蓄積キャリア濃度によって決まる。IGBT内を流れる電流が増大すると、n型ベース層の内部に蓄積されるキャリア濃度(電子濃度)が増加するため、一般に注入効率γ(全電流に対する正孔電流の比)は低下する。大電流通電時、すなわち、電流密度が高いときの蓄積キャリア濃度よりも、p型エミッタ層の不純物濃度を低くしておけば、電流密度が増大すると必ず注入効率γが低下するため、自然に適正なγ値になる。p型エミッタ層の不純物濃度を増加させるとキャリア濃度も増加するが、キャリア濃度は5×1018cm−3でほぼ飽和するため、p型エミッタ層の不純物濃度を調整することによりγ値を抑制するためには、p型エミッタ層の不純物濃度は5×1018cm−3以下とすることが好ましい。より好ましくは、1×1018cm−3以下とする。
一方、p型エミッタ層とアノード電極との間でオーミックコンタクトを実現すると共に、p型エミッタ層内に大電流を流すためには、p型エミッタ層の不純物濃度はある程度以上の濃度とすることが必要である。電流密度が100Acm−2であるとき、n型ベース層内には約2×1016cm−3のキャリアが蓄積されるため、p型エミッタ層内における電圧降下を抑制するためには、p型エミッタ層の不純物濃度を2×1016cm−3以上とすることが好ましい。より好ましくは5×1016cm−3以上である。
従って、上述の議論によれば、p型エミッタ層の不純物濃度の好適範囲は、2×1016乃至1×1018cm−3であり、より好ましくは5×1016乃至1×1018cm−3であると考えられる。
なお、p型エミッタ層を、n型バッファ層側に設けられた前述した適度に厚いp型層と、アノード電極側に設けられた極めて薄いp型層との2層構造としてもよい。このp型層はイオン注入とアニールで形成できる。これにより、アノード電極との間のオーミック抵抗を低減することができる。p型層の厚さは、例えば0.3μm以下とすることが好ましい。この場合、p型層の不純物量は少なく、且つ、n型バッファ層から離れているため、上述の議論の結果に影響を与えずに、p型エミッタ層とアノード電極との間のオーミック抵抗のみを改善することができる。
以下、本実施形態に係るIGBTの特性をシミュレーションによって計算した結果について説明する。
本シミュレーションにおいては、図1に示す構成のIGBTであって、p型エミッタ層2の厚さ及び不純物濃度を相互に異ならせた複数のIGBTを想定し、これらのIGBTの特性をデバイスシミュレータを用いて計算した。以下、シミュレート結果について説明する。
図13は、横軸にIGBTにおける電流方向の位置をとり、縦軸に不純物濃度をとって、本シミュレーションにおいて設定したIGBTのうち、一のIGBTの不純物濃度プロファイルを例示するグラフ図である。
図13に示すように、このIGBTにおいては、p型エミッタ層2の厚さは約14μmであり、p型エミッタ層2におけるn型バッファ層3の反対側の面に、厚さが約0.2μmで不純物濃度が1×1018cm−3である極めて薄いp型層が形成されている。また、p型エミッタ層2におけるp型層以外の部分の不純物濃度は約2×1016cm−3であり、n型バッファ層3の不純物濃度は約2×1015cm−3であり、n型ベース層4の不純物濃度は約1.2×1014cm−3である。なお、図13に示す不純物濃度プロファイルは、実際の製品の不純物濃度プロファイルに近いものである。
図14(a)及び(b)は、横軸にp型エミッタ層の厚さtpeをとり、縦軸にIGBTのドレイン電流の大きさをとって、p型エミッタ層の厚さがIGBTの電流特性に及ぼす影響を例示するグラフ図であり、(a)はp型エミッタ層の不純物濃度Cpeが1×1017cm−3である場合を示し、(b)はCpeが5×1016cm−3である場合を示す。
図14(a)及び(b)に示す結果は、ドレイン電圧を3Vとした場合の結果である。図14(a)及び(b)に示すように、ドレイン電流の大きさはp型エミッタ層の厚さtpeに依存しており、厚さtpeが20μm程度のときにドレイン電流の大きさは最大となる。すなわち、厚さtpeが20μm以下の範囲では厚さtpeの増加に伴ってドレイン電流が増加し、厚さtpeが20μm以上の範囲では厚さtpeの増加に伴ってドレイン電流は緩やかに減少する。また、厚さtpeが20μm以下の範囲におけるドレイン電流の変化率は、厚さtpeが薄いほど大きい。すなわち、厚さtpeが薄いほど、ドレイン電流は小さく、且つp型エミッタ層の厚さtpeに対して敏感であり、従って不安定である。
厚さtpeが5μm未満の範囲では、ドレイン電流は小さく、ドレイン電流の変化率は大きい。これに対して、p型エミッタ層の厚さtpeが5μm以上の範囲では、p型エミッタ層の厚さに対するドレイン電流の変化は小さくなる。p型エミッタ層の厚さが15μm以上50μm以下の範囲では、p型エミッタ層の厚さに対するドレイン電流の変化は十分小さい。厚さtpeが20μm以上の範囲においては、p型エミッタ層の厚さtpeの増加に伴ってドレイン電流が少し減少しているが、これは、p型エミッタ層の抵抗が増加しているためと考えられる。以上の傾向は、p型エミッタ層の不純物濃度Cpeの値が変わっても、ほとんど変わらない。また、ドレイン電圧を3Vよりも高くすると、厚さtpeが20μm以上の範囲におけるドレイン電流の変化が小さくなる。従って、電流特性の観点からは、p型エミッタ層の厚さtpeは5μm以上であることが必要である。また、より大きなドレイン電流をより安定して得るためには、p型エミッタ層の厚さtpeは10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。一方、p型エミッタ層の抵抗を抑制するためには、p型エミッタ層の厚さtpeは50μm以下とすることが好ましく、30μm以下とすることがより好ましい。
図15は、横軸にp型エミッタ層の厚さtpeをとり、縦軸にIGBTの注入効率γをとって、p型エミッタ層の厚さtpeがIGBTの注入効率に及ぼす影響を例示するグラフ図であり、p型エミッタ層の不純物濃度Cpeが5×1016cm−3であり、ドレイン電圧Vが3.0V及び1.2Vである場合を示している。
図15に示すように、注入効率γはp型エミッタ層の厚さtpeに依存しており、厚さtpeが増加すると注入効率γも増加する。これは、p型エミッタ層の厚さが増加することにより、p型エミッタ層に含まれるp型不純物の総量が増加し、ホールの供給が増加するためであると考えられる。また、注入効率γの変化率も厚さtpeに依存しており、厚さtpeが小さいほど大きくなる。前述の如く、十分な負荷短絡SOAを確保するためには、注入効率γの値は0.3乃至0.5の範囲とすることが好ましいが、図15より、γを0.3以上とするためには、p型エミッタ層の厚さtpeは5μm以上とすることが必要である。一方、厚さtpeを50μm以上としても、注入効率γを向上させる効果は飽和する。
図16は、横軸に時間をとり、縦軸にドレイン電流及びドレイン電圧をとって、IGBTがターンオフするときの挙動を例示するグラフ図である。
本シミュレーションにおいては、p型エミッタ層の厚さtpeが20μmであるチップと厚さtpeが30μmであるチップとを並列に接続して、同時に動作させている。そして、図16には、厚さtpeが20μmのチップのドレイン電流、厚さtpeが30μmのチップのドレイン電流、及びこれらの2つのチップの合計のドレイン電流を示している。
図16に示すように、ゲート電位が正電位から負電位に移行して、IGBTがオン状態からオフ状態に切り替わる過渡期において、厚さtpeが20μmであるチップに流れるドレイン電流の大きさと、厚さtpeが30μmであるチップに流れるドレイン電流の大きさとの間に、差が生じる。この差は、2つのチップ間でp型エミッタ層に含まれているキャリア量が異なり、ターンオフしたときに掃き出される電荷量が異なるために発生する。しかし、厚さtpeが30μmであるチップは、厚さtpeが20μmであるチップと比較して、不純物量は50%多いが、ドレイン電流の大きさの差は50%よりもかなり小さい。このため、2つのチップを並列に接続して同時に動作させても、問題が生じることはない。
図17(a)及び(b)は、横軸にp型エミッタ層の不純物濃度Cpeをとり、縦軸にドレイン電流をとって、p型エミッタ層の不純物濃度CpeがIGBTの電流特性に及ぼす影響を例示するグラフ図であり、(a)はドレイン電圧Vが3.0Vである場合を示し、(b)はドレイン電圧Vが1.2Vである場合を示す。また、図17(a)及び(b)には、p型エミッタ層の厚さtpeが20μmである場合と30μmである場合とを示している。
図17(a)及び(b)に示すように、ドレイン電流の大きさは、p型エミッタ層の不純物濃度Cpeに依存し、Cpeの値が大きくなるほど増加する。一方、不純物濃度Cpeが2×1016乃至1×1018cm−3の範囲においては、p型エミッタ層の厚さtpeが20μmである場合と30μmである場合とで、ドレイン電流の大きさはほとんど変わらない。従って、p型エミッタ層の不純物濃度Cpeが2×1016乃至1×1018cm−3の範囲にある場合は、不純物濃度Cpeを一定値に制御すれば、p型エミッタ層の厚さtpeがある程度変動しても、ドレイン電流の大きさを略一定とすることができる。
図18は、横軸にp型エミッタ層の不純物濃度Cpeをとり、縦軸に注入効率γをとって、p型エミッタ層の不純物濃度CpeがIGBTの注入効率に及ぼす影響を例示するグラフ図である。
図18に示すように、注入効率γの値は不純物濃度Cpeに依存し、不純物濃度Cpeの増加に伴って増加する。これは、p型エミッタ層の不純物濃度Cpeが大きいほど、ホールの供給が増加するためである。前述の如く、負荷短絡SOAの観点からは、注入効率γの値は0.3乃至0.5であることが好ましい。従って、図18より、p型エミッタ層の不純物濃度Cpeは、2×1016乃至3×1017cm−3であることが好ましい。
なお、図18より、p型エミッタ層の不純物濃度Cpeを4×1016cm−3から1×1017cm−3に増加させると、注入効率γは0.35から0.40程度まで増加するが、この変化量は、図15に示すように、p型エミッタ層の厚さtpeを15μmから30μmに増加させたときの変化量に相当する。
図19は、横軸にp型エミッタ層の不純物濃度Cpeをとり、縦軸にターンオフタイムをとって、p型エミッタ層の不純物濃度がIGBTの動作速度に及ぼす影響を例示するグラフ図である。
図19に示すように、ターンオフタイム、すなわち、IGBTをオン状態からオフ状態に切り替えたときにドレイン電流が停止するまでの時間は、p型エミッタ層の不純物濃度Cpeに依存し、濃度Cpeが増加するほど増大する。IGBTが通常の用途で要求される動作速度、例えば、1kHz以上の周波数で動作させようとすると、1周期の長さは1ms(ミリ秒)以下となる。デバイスの実効的な動作時間を確保するためには、スイッチング時間は1周期の1%以下とすることが好ましいため、スイッチングに使える時間は、1周期(1ms)の1%である10μs(マイクロ秒)以下となる。また、スイッチングにはターンオン及びターンオフがあるため、一方のスイッチング、例えばターンオフに使える時間は、その半分の5μs以下となる。そして、図19より、ターンオフタイムを5μs以下とするためには、p型エミッタ層の不純物濃度Cpeは1×1018cm−3以下とすることが必要である。また、IGBTをより高速化して、高速動作用途に好適に使用するためには、不純物濃度Cpeを3×1017cm−3以下として、ターンオフ速度を2.5μs以下とすることが好ましい。
以上のシミュレーションの結果から、p型エミッタ層の厚さtpeは5乃至50μmとすることが好ましく、10乃至50μmとすることが好ましく、15乃至50μmとすることがより好ましく、20乃至30μmとすることがより好ましい。また、p型エミッタ層の不純物濃度Cpeは、2×1016乃至1×1018cm−3とすることが必要であり、2×1016乃至3×1017cm−3とすることが好ましい。このシミュレーションの結果は、前述の議論の結果とほぼ一致する。
そして、前述の議論の結果と、本シミュレーションの結果とをまとめると、p型エミッタ層の厚さ及び不純物濃度は以下のようになる。すなわち、p型エミッタ層の厚さは、一定量のドレイン電流を確保し、また、ドレイン電流のp型エミッタ層の厚さに対する依存性を低減するために、5μm以上とする。p型エミッタ層の厚さは、好ましくは10μm以上とし、より好ましくは15μm以上とし、より好ましくは20μm以上とする。一方、オン抵抗の増大を抑制するために、p型エミッタ層の厚さは50μm以下とする。好ましくは30μm以下とする。
また、p型エミッタ層の不純物濃度は、注入効率γを0.3以上としてデバイスをIGBTとして適正に動作させると共に、十分な負荷短絡SOAを確保するために、2×1016cm−3以上とする。一方、IGBTの動作速度を確保するために、p型エミッタ層の不純物濃度は1×1018cm−3以下とする。また、動作速度のより一層の高速化を図るため、及び、十分な負荷短絡SOAを確保するために、p型エミッタ層の不純物濃度は3×1017cm−3以下とすることが好ましい。
このように、本実施形態に係るIGBT1(図1参照)においては、p型エミッタ層2の厚さが5乃至50μmの範囲にあれば、その特性のp型エミッタ層2の厚さに対する依存性は比較的小さい。従って、IGBTの作製にあたり、p型エミッタ層2の厚さのばらつきが許容されるため、薄ウェーハ型PTIGBTの作製が容易になる。例えば、基板上に、p型エミッタ層2、n型バッファ層3及びn型ベース層4を順次エピタキシャル成長させ、次いで、ゲート電極9等の上部構造を形成した後、基板をラッピングして取り除く方法により、IGBTを比較的容易に作製することができる。このとき、ラッピングによりp型エミッタ層2の厚さがばらついても、IGBTの特性が大きくばらつくことはない。この結果、高濃度のp型エミッタ層を形成するために、レーザーアニールを用いる必要がない。
一例では、p型エミッタ層2の不純物濃度の目標値を5×1016cm−3とし、そのばらつきを±10%以下に制御した上で、p型エミッタ層2の厚さを25±4μmの範囲に抑えることができれば、高速動作用途及び大電流用途に好適な薄ウェーハ型PTIGBTを、レーザーアニール法を用いず上述のエピタキシャルプロセスにより、容易に作製することができる。又は、p型エミッタ層の厚さと不純物濃度との積によって与えられるドーズ量のばらつきを、±25%以内に抑えてもよい。
このように、本実施形態によれば、薄いp型エミッタ層を用いずに薄いウェーハのIGBTを実現できるため、素子特性がp型エミッタ層の厚さの変動に起因して変動することがなく、特性が安定したIGBTを容易に得ることができる。
また、本実施形態に係るIGBTの特性は、p型エミッタ層のn型バッファ層側の部分の不純物濃度によって決定されるが、本実施形態においては、予めp型不純物が注入されたp型基板を減厚加工することによりp型エミッタ層を形成しているため、ウェーハを薄くしてからこのウェーハにp型不純物を注入してp型エミッタ層を形成する方法と比較して、不純物濃度を均一に且つ精度よく制御することができる。これにより、特性が安定したIGBTを作製することができる。
従って、本実施形態によれば、特性が優れたIGBTを歩留まり良く製造することができる。
本発明の実施形態に係るIGBTを例示する断面図である。 本実施形態に係るIGBTの製造方法を例示する工程断面図である。 本実施形態に係るIGBTの製造方法を例示する工程断面図である。 本実施形態に係るIGBTの製造方法を例示する工程断面図である。 横軸に電界強度をとり、縦軸にγMOSの値をとって、γMOSの電界依存性を示すグラフ図である。 横軸にIGBT内における電流方向の位置をとり、縦軸に不純物濃度、電界強度及び電流密度をとって、順方向の高電圧が印加されたときのIGBTの状態を示すグラフ図である。 (a)は、横軸にIGBT内における電流方向の位置をとり、縦軸にTCADによりシミュレートされた電界強度及びキャリア濃度をとって、IGBT内の電界分布及びキャリア濃度分布を示すグラフ図であり、(b)は、横軸にIGBT内における電流方向の位置をとり、縦軸に解析的に計算された電界強度をとって、IGBT内の電界分布を示すグラフ図である。 横軸にオン状態の降伏電圧をとり、縦軸に最大電流密度をとって、注入効率γをパラメータとして解析的に求められた負荷短絡SOAの境界を示すグラフ図である。 横軸にオン状態の降伏電圧をとり、縦軸に最大電流密度をとって、n型ベース層の不純物濃度Nをパラメータとして計算された負荷短絡SOAの境界を示すグラフ図である。 横軸に注入効率γをとり、縦軸に最大電流密度をとって、理論的及び実験的に求められた最大電流密度の注入効率依存性を示すグラフ図である。 横軸に注入効率γをとり、縦軸に最大電流密度をとって、他の実験により求められた最大電流密度の注入効率依存性を示すグラフ図である。 横軸に不純物濃度をとり、縦軸に移動度μをとって、移動度μの不純物濃度依存性を示すグラフ図である。 横軸にIGBTにおける電流方向の位置をとり、縦軸に不純物濃度をとって、シミュレーションにおいて設定したIGBTのうち、一のIGBTの不純物濃度プロファイルを例示するグラフ図である。 (a)及び(b)は、横軸にp型エミッタ層の厚さtpeをとり、縦軸にIGBTのドレイン電流の大きさをとって、p型エミッタ層の厚さがIGBTの電流特性に及ぼす影響を例示するグラフ図である。 横軸にp型エミッタ層の厚さtpeをとり、縦軸にIGBTの注入効率γをとって、p型エミッタ層の厚さtpeがIGBTの注入効率に及ぼす影響を例示するグラフ図である。 横軸に時間をとり、縦軸にドレイン電流及びドレイン電圧をとって、IGBTがターンオフするときの挙動を例示するグラフ図である。 (a)及び(b)は、横軸にp型エミッタ層の不純物濃度Cpeをとり、縦軸にドレイン電流をとって、p型エミッタ層の不純物濃度CpeがIGBTの電流特性に及ぼす影響を例示するグラフ図であり、(a)はドレイン電圧Vが3.0Vである場合を示し、(b)はドレイン電圧Vが1.2Vである場合を示す。 横軸にp型エミッタ層の不純物濃度Cpeをとり、縦軸に注入効率γをとって、p型エミッタ層の不純物濃度CpeがIGBTの注入効率に及ぼす影響を例示するグラフ図である。 横軸にp型エミッタ層の不純物濃度Cpeをとり、縦軸にターンオフタイムをとって、p型エミッタ層の不純物濃度がIGBTの動作速度に及ぼす影響を例示するグラフ図である。
符号の説明
1 IGBT、2 p型エミッタ層、3 n型バッファ層、4 n型ベース層、5 p型ベース層、6 n型ソース層、7 トレンチ、8 ゲート絶縁膜、9 ゲート電極、10 積層体、11 絶縁膜、12 カソード電極、13 アノード電極、22 p型基板

Claims (7)

  1. p型エミッタ層と、
    前記p型エミッタ層上に設けられたn型バッファ層と、
    前記n型バッファ層上に設けられ前記n型バッファ層よりも抵抗率が高いn型ベース層と、
    前記n型ベース層の上面の一部に設けられたp型ベース層と、
    前記p型ベース層の上面の一部に設けられたn型ソース層と、
    前記n型ソース層及び前記p型ベース層を貫通して前記n型ベース層に到達するトレンチと、
    前記トレンチ内に設けられたゲート電極と、
    前記ゲート電極と前記トレンチの内面との間に設けられたゲート絶縁膜と、
    を備え、
    前記p型エミッタ層の厚さは、5乃至50μmであり、
    前記p型エミッタ層の不純物濃度は、2×1016乃至1×1018cm−3であることを特徴とする絶縁ゲートバイポーラトランジスタ。
  2. 前記p型エミッタ層の不純物濃度は、3×1017cm−3以下であることを特徴とする請求項1記載の絶縁ゲートバイポーラトランジスタ。
  3. 前記p型エミッタ層の厚さは、10μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁ゲートバイポーラトランジスタ。
  4. 前記p型エミッタ層の厚さは、15μm以上であることを特徴とする請求項3記載の絶縁ゲートバイポーラトランジスタ。
  5. 前記p型エミッタ層の厚さは、20乃至30μmであることを特徴とする請求項4記載の絶縁ゲートバイポーラトランジスタ。
  6. 前記p型エミッタ層は、p型不純物を含有したp型基板を減厚加工して形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の絶縁ゲートバイポーラトランジスタ。
  7. p型不純物を2×1016乃至1×1018cm−3の濃度で含有しその厚さが50μmよりも厚いp型基板上に、n型バッファ層及び前記n型バッファ層よりも抵抗率が高いn型ベース層を形成する工程と、
    前記n型ベース層の上面の一部にp型ベース層を形成する工程と、
    前記p型ベース層の上面の一部にn型ソース層を形成する工程と、
    前記n型ソース層及び前記p型ベース層を貫通して前記n型ベース層に到達するトレンチを形成する工程と、
    前記トレンチの内面にゲート絶縁膜を形成する工程と、
    前記トレンチの内部にゲート電極を形成する工程と、
    前記p型基板を5乃至50μmの厚さまで減厚加工する工程と、
    を備えたことを特徴とする絶縁ゲートバイポーラトランジスタの製造方法。
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