以下、本発明の光走査装置を実施するための最良の形態について説明する。説明する際には、本明細書と同時に提出する図面を適宜参照する。
図1によって、本形態の光走査装置の実施の一形態を説明する。図1(b)、(c)は図1(a)の一つの結像光学系について、折り返しミラーを展開し、適切な仮想ミラーを挿入した状態における、主走査断面および副走査方向の断面図である。
光源としての半導体レーザから放射された発散性の光束はカップリングレンズにより以後の斜入射光学系に適した光束形態に変換される。カップリングレンズにより変換された光束形態は、平行光束であることも、弱い発散性あるいは弱い集束性の光束であることもできる。
カップリングレンズからの光束はシリンダレンズにより副走査方向に集光され、ポリゴンミラーを回転させる回転多面鏡(光偏向器)の偏向反射面に入射する。図に示すように、光源側からの光束は、ポリゴンミラーの偏向反射面の回転軸に直交する平面に対して傾いて入射する。従って、偏向反射面により反射された光束も、前記平面に対して傾いている。回転多面鏡の回転軸に直交する平面に対し角度を有する光ビームは、所望の角度に光源装置、カップリング光学系、第1光学系を傾けて配置しても良いし、折返しミラーを用いて角度をつけても良い。また、第1光学系の光軸を副走査方向にシフトすることで、偏向反射面に向かう光ビームに角度をつけても構わない。
ここで、偏向面に入射する光ビームは、第1レンズ群(L1)の光学面基準軸(両面の光学面基準軸は一致)を含み主走査方向に平行な平面(偏向器の回転軸と垂直な平面)に対して異なる二つの入射角度で両側から、計4本の光束が入射している。本実施例では±1.46degおよび±3.30degとしている。第1レンズ群(L1)の光学面基準軸を含み主走査方向に平行な平面に対して結像光学系は面対称であるため、以下の説明では片側についてのみ述べる事とする。
偏向反射面により反射された光束は、ポリゴンミラーの等速回転とともに等角速度的に偏向し、第2レンズ群(L2)を含む走査光学系を透過して、被走査面上に集光する。これにより、偏向光束は被走査面上に光スポットを形成し、被走査面の光走査を行う。
水平入射片側走査方式の光走査装置においては、図2(a)に示した通り、各々対応する被走査面に向かう光束を分離するのに必要な間隔Zを得るためにポリゴンミラーの副走査方向の厚さが非常に厚くなってしまう。4段化ポリゴンを使用する方法も考えられるが、高速化、低コスト化に不向きとなる。
一方、本形態の様な斜入射光学系では、ポリゴンミラーの偏向反射面において、複数の光ビームを副走査方向に所定の間隔を持たせる必要がない。つまり、図2(b)に示した通り、ポリゴンミラーの反射面の法線に対し副走査方向に異なる角度を持つ複数光源装置からの光ビームの対を、偏向器の回転軸に垂直な平面の上下方向より同一の反射面に入射させることで、ポリゴンミラーの偏向反射面を形成する多面体を一段で、かつ、副走査方向の厚みを低減でき、回転体としてのイナーシャを小さくでき起動時間を短くできる。
このように、片側で4つの異なる被走査面に対応する光学系においては、全ての光ビーム、即ち4つの異なる被走査面に向かう全ての光ビームを、光偏向器の反射面の法線に対し角度を持つ、すなわち副走査方向に角度を持つ光ビームとすることで、光走査装置を構成する部品でコスト比率の高い光偏向器のコストを下げ、消費電力や騒音を低減可能な、環境を考慮した光走査装置が提供可能となる。
従来の水平入射に対し、副走査方向に斜め入射させる方式では、走査レンズに副走査方向に角度を持って入射することにより、諸収差量が増大し光学性能が劣化することは公知である。
これに対して、特許文献6では、水平入射と斜入射の光束を共に通過させる共用レンズにおいて、斜入射した光束が通過する領域のみをチルト偏心させた特殊面を用いることで波面収差を良好に補正している。しかし、この実施例では水平入射の光束が二つあるために二段ポリゴンミラー(ないしは副走査方向に厚いポリゴンミラー)を用いる必要があり高コストである。平面の一部をチルト偏心させるためには、加工上の要請から副走査断面内において光束間に一定の距離を必要とする。このため、低コストなポリゴンミラーを用いるために全ての光束を斜入射とした場合には、光束の分離に必要な距離を確保するためには偏向器から共用レンズまでの距離が伸びてしまい、装置の大型化を招いてしまう。
そこで本形態では、レンズの高さを抑えるために共用レンズの副走査断面を円弧形状とし、かつ、像高に応じて副走査方向の曲率が変化する面(以下、「特殊トロイダル面」という。)を有する共用レンズを用いて前記光学性能の劣化を補正している。これにより、異なる斜入射角度の光束に対しても同一形状面で補正しているため、各光束をより隣接させることが可能である。よって、ポリゴンミラーの偏向反射面の法線に対する角度(副走査方向に斜入射する角度)を小さくして光学性能の劣化を小さく抑えることが可能となり、良好な光学性能を実現できる。この結果、安定したビームスポット径を得ることが可能となり、ビームスポット径の小径化による画質向上にも有利となる。
片側走査方式の場合、図3(b)に示すような、全ての光ビームがポリゴンミラーの偏向反射面の法線に対し水平であった従来の光走査装置においては、良好な光学性能が得られる反面、各光源装置からの光ビーム、つまり互いに異なる被走査面に導かれる光ビーム間の間隔は、光ビームごとに分離するのに必要な間隔(図中△d)、通常3mmから5mmの間隔を持つことが必要である。そのため、偏向手段(ポリゴンミラー)の高さ(副走査方向の高さ)hが高くなり、空気との接触面積が増大して、風損の影響による消費電力アップ、騒音の増大、コストアップなどの問題が生じていた。特に、光走査装置の構成部品で偏向手段の占めるコスト比率は高く、コスト面での課題が大きかった。
その点、前述の本形態にかかる光走査装置の実施形態によれば、偏向手段としてのポリゴンミラーの偏向反射面で反射される、複数の光源装置からの光ビームは、ポリゴンミラーの偏向反射面の法線に対し、角度を持つ(副走査方向に角度を持つ)光ビームとして走査レンズに入射させることで、図3(c)に示すように、ポリゴンミラーの高さhを大幅に低減することが可能となり、対向走査方式の説明と同様に、ポリゴンミラーの偏向反射面を形成する多面体を一段で、かつ、副走査方向の厚みを低減でき、回転体としてのイナーシャを小さくでき起動時間を短くできる。また、従来の対向走査方式における2段化されたポリゴンミラーに対し、コストダウン可能である。
片側走査方式で最も斜入射角を小さく設定するためには、図3(a)の様な水平入射と斜入射の組合せが考えられるが、ポリゴンミラーの小型化に対しては、従来の水平入射に比べ改善されるが、(c)の形態が最も小型化で諸課題の解決が可能となる。
水平入射方式に対し副走査方向に斜入射させる本方式では、「走査線曲がり」が大きいという問題がある。この走査線曲がり発生量は、前記各光ビームの副走査方向の斜入射角により異なり、各々の光ビームで描かれた潜像を各色のトナーにより重ね合わせ可視化した際に、色ずれとなって現れてしまう。また、斜入射することにより、光束が走査レンズにねじれて入射することで、波面収差も増大し、特に周辺の像高で光学性能が著しく劣化し、ビームスポット径が太ってしまい、高画質化を妨げる要因となる。
斜入射による走査線曲がりの発生について説明する。例えば、走査光学系を構成する走査レンズ、特に副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズ(図1では第2走査結像レンズ)入射面の主走査方向の形状が、偏向反射面の光ビームの反射点を中心とする円弧形状でない限り、主走査方向のレンズ高さにより光偏向器の偏向反射面から走査レンズ入射面までの距離は異なる。通常、走査レンズを前記形状にすることは、光学性能を維持する上で困難である。つまり、図1の様に、通常の光ビームは、光偏向器により偏向走査され、各像高にて主走査断面において、レンズ面に対し垂直入射することはなく、主走査方向にある入射角を持って入射する。
斜入射されているため、副走査方向に角度を持っていることにより、光偏向器により偏向反射された光ビームは、像高により光偏向器の偏向反射面から走査レンズ入射面までの距離は異なり、走査レンズへの副走査方向の入射高さが周辺に行くほど中心より高い位置、もしくは低い位置(光ビームの副走査方向にもつ角度の方向により異なる)に入射される。この結果、副走査方向に屈折力を持つ面を通過する際に、副走査方向に受ける屈折力が異なり走査線曲がりが発生してしまう。通常の水平入射であれば、偏向反射面から走査レンズ入射面までの距離が異なっても、光ビームは走査レンズに対し水平に進行するため、走査レンズ上での副走査方向の入射位置が異なることはなく、走査線曲がりの発生が生じない。
斜入射による波面収差劣化について説明する。先の説明の通り、走査光学系を構成する走査レンズ入射面の主走査方向の形状が、偏向反射面の光ビームの反射点を中心とする円弧形状でない限り、像高により光偏向器の偏向反射面から走査レンズ入射面までの距離は異なる。通常、走査レンズを前記形状にすることは、光学性能を維持する上で困難である。つまり、通常の光ビームは、光偏向器により偏向走査され、各像高にて主走査断面において、レンズ面に対し垂直入射することはなく、主走査方向にある入射角を持って入射する。
光偏向器により偏向反射された光ビームの光束は、主走査方向にある幅を持っており、光束内で主走査方向の両端の光ビームは、光偏向器の偏向反射面から走査レンズ入射面までの距離が異なり、斜入射されているために副走査方向に角度を持っていることにより、走査レンズにねじれた状態で入射することになる(図4参照)。この結果、波面収差が著しく劣化し、ビームスポット径が太る。主走査方向の入射角は、周辺像高に行くほどきつくなり、光束のねじれは大きくなり、周辺に行くほど波面収差の劣化によるビームスポット径の太りは大きくなる。
本形態においては、特殊トロイダル面を採用し、波面収差及び走査線曲がりを補正している。また、走査線曲がりの補正は、レンズ面を副走査方向にチルト偏芯させることでも補正可能である。像高間での副走査方向の走査位置、及び、劣化した波面収差量のバランスを取ることにより、各像高での走査位置や波面収差を補正し、被走査面上での走査線曲がりや波面収差の劣化によるビームスポット径の太りを補正している。
しかし、レンズ面に入射する光束のねじれ(スキュー)による波面収差の劣化量や、回転多面鏡に斜入射する事による像高間での物点の副走査方向の変化量、偏向反射面からレンズ面までの距離は、像高間で異なるため、波面収差の補正や走査線曲がりの補正を完全に行うことはできない。
そこで本形態においては、結像光学系の内、共通で使用される第1レンズ群(L1)を、光学面基準軸を含む副走査断面におけるパワーをゼロかゼロに近いレンズ一枚とし、かつ、射出面は像高に応じて副走査断面内の曲率が変化する特殊トロイダル面とすることで波面収差の補正を実施している。
ここで、副走査断面内のパワーを略ゼロとしているのは、光学面基準軸近傍ではレンズ面に入射する光束のねじれ(スキュー)による波面収差の劣化が少ないことと、製造誤差や組み付け時の偏心による性能の変動を低減させるためである。なお、「光学面基準軸」とはレンズ形状を表現する式の原点を結んだ線のことを指す。また、周辺像高に向かう光束に対しては、光学面基準軸から離れるに従い副走査断面内においてパワーの強くなるレンズとして、像高が高いほど光束を、第1レンズ群(L1)の光学面基準軸を含み主走査方向に平行な平面(以下、「光学基準面」という。)から離れるように跳ね上げることで波面収差補正を行っている。
また、斜入射光学系ではレンズ面による反射光が偏向面に戻ると、本来とは異なる感光体に光束が到達し、画質の劣化を引き起こす可能性がある。本形態においてはレンズ面の反射光の曲率の変化を射出面にのみ持たせることで、第1レンズ群(L1)の入射面による反射光は光学基準面から離れるように反射し、光束が偏向面に再度戻ることがないようにしている。
さらに好ましくは、前記レンズ面を副走査方向に最も屈折力の大きなレンズより光偏向器側に配設するのがよい。
波面収差の劣化は、特に副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズへの入射時に、光束がねじれることにより大きく発生するため、波面収差の補正のためには、前記副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズへの入射高さを補正し、被走査面上で一点に集光するようにする必要がある。
特殊トロイダル面で波面収差を補正する場合、第2レンズ群(L2)への入射高さを高くし、光束内の主走査方向両端の光ビームについても、周辺に行くほど副走査方向に強い屈折力を持つ第2レンズ群(L2)への副走査方向の入射高さを高くすることで補正可能となる。
つまり、最も副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズより光偏向器側の走査レンズに、光偏向器の偏向反射面の法線に対し副走査方向に角度を持つ光ビームに対し、光学面基準軸より離れるにつれて副走査断面内におけるパワーがより大きくなるように特殊トロイダル面を形成し、副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズへの副走査方向の入射位置を調整することで、波面収差の劣化を補正可能となる。このため、波面収差の補正を行うために用いる特殊トロイダル面は、副走査方向に最も強い屈折力を持つ走査レンズより、光偏向器側のレンズに設けることが望ましい。
さらに望ましくは、第2レンズ群(L2)には、副走査方向の形状を、曲率を持たない平面形状とし、かつ、レンズ長手方向(主走査方向)のレンズ高さに応じてレンズ短手方向(副走査方向)の偏芯角度(チルト量)が異なる特殊チルト偏心面を設けて走査線曲がりの補正を実施するとよい。前記特殊チルト偏心面のチルト量(偏芯角度)とは、光学素子の光学面における短手方向の傾き角を言う。チルト量が0であるときには傾きがない状態、つまり通常のレンズと同じ状態となる。
このように、光偏向器に近い走査レンズ(少なくとも副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズより光偏向器側の走査レンズ)の特殊トロイダル面で波面収差補正を行い、被走査面に近い走査レンズ(副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズ)の特殊チルト偏心面で走査線曲がり補正を行うように、それぞれの補正機能を分離することで、ビームスポット径の更なる小径化と走査線曲がりの低減を達成可能となる。もちろん、完全に機能分離させなければならないわけではなく、それぞれの特殊チルト偏心面で、波面収差補正の一部、走査線曲がり補正の一部を受け持つこともできる。
図5に本形態による波面収差、走査線曲がり補正後の光路図を示す。図に示す光線は、カップリングレンズ通過後に配置されているアパーチャの副走査方向中心、主走査方向両端の2本の光線である。また、副走査方向に強い屈折力を持つレンズは、第2レンズ群(L2)である。
更に、図中「仮想面」とは、実際には存在しない面であり、図中において第2レンズ群(L2)を第1レンズ群(L1)と水平に配置させるための仮想ミラー面である。第1レンズ群(L1)の第2面には特殊トロイダル面を採用し波面収差の補正を行っている。第2レンズ群(L2)への入射高さを高くし、光束内の主走査方向両端の光ビームについても、周辺に行くほど副走査方向に強い屈折力を持つ第2レンズ群(L2)への副走査方向の入射高さを高くしている。
通常、走査レンズはポリゴンミラーの偏向反射点を中心として主走査方向で同心円上になるようにレンズ面を形成することは、所望の光学性能を確保するためには難しい。
このため、光偏向器としてのポリゴンミラーにて偏向反射された光ビームは、周辺に行くほど、光偏向器の偏向反射面の法線に対し副走査方向に角度を持つ方向に高く、走査レンズに入射する。つまり、図5の光路図で示した様に、偏向反射面にて光ビームが跳ね上げられた場合、走査レンズの入射面では、周辺像高に行くほど走査レンズの上部(第2レンズ群(L2)で像高0の光ビーム通過位置を基準としたとき、+110像高では副走査方向の高さでプラス側)を光ビームが通過する。
特殊トロイダル面で波面収差を補正する場合、第2レンズ群(L2)への入射高さを高くし、光束内の主走査方向両端の光ビームについても、周辺に行くほど副走査方向に強い屈折力を持つ第2レンズ群(L2)への副走査方向の入射高さを高くすることで補正可能となる。つまり、最も副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズより光偏向器側の走査レンズに、光偏向器の偏向反射面の法線に対し副走査方向に角度を持つ光ビームに対し、周辺に向かうより前記法線に対する角度を大きくするように特殊トロイダル面を形成し、副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズへの副走査方向の入射位置を調整することで、波面収差の劣化を補正可能となる。
図6により特殊チルト偏心面について説明を加える。特殊チルト偏心面の面形状は、以下の形状式(数1)による。ただし、この発明の内容は以下の形状式に限定されるものではなく、同一の面形状を別の形状式を用いて特定することも可能である。光軸を含み、主走査方向に平行な平断面である「主走査断面」内の近軸曲率半径をRy、光軸から主走査方向の距離をY、高次係数をAi(i=1,2,・・・)とし、主走査断面に直交する「副走査断面」内の近軸曲率半径をRzとする。
但し、Cm = 1/Ry ,Cs(Y) = 1/Rz とする。
(F0 + F1*Y+ F2*Y^2 + F3*Y^3 + F4*Y^4 + ・・・)Zは、チルト量を表す部分であり、チルト量を持たないとき、F0,F1,F2,・・・は全て0である。F1,F2,・・・が0で無いとき、チルト量は、主走査方向に変化することになる。
上記各係数に種々の数値を入力したときの結果を数値実施例1として表1に、また、数値実施例2として表2にまとめておく。
更に、特殊チルト偏心面の副走査方向の形状を、曲率を持たない平面形状としている理由について説明する。
副走査方向に曲率を付けた場合、副走査方向の高さ毎に主走査方向の形状が大きく変化し、温度変動、光学素子の組み付け誤差により副走査方向に光ビームの入射位置がずれた場合に倍率誤差変動が大きく発生し、カラー機においては、各色間でのビームスポット位置がずれ色ずれが発生してしまう。そこで、本形態の様に特殊チルト偏心面の副走査方向の面形状は、曲率を持たない平面形状とすることで、副走査方向の高さ毎に主走査方向の形状誤差は小さくでき、副走査方向に光ビームの入射位置がずれた場合の倍率誤差変動を小さくすることができ、色ずれの発生を抑えることができる。
実際には、特殊チルト偏心面を用いることで主走査形状は副走査方向の高さにより変化するが、その量は僅かであり、副走査方向に曲率を付けた場合に比べ主走査形状の変化を小さくできる。この結果、温度分布発生による光ビーム間での倍率変動の差は小さくでき、同期を取ることで書き出し位置と書き終わり位置を各光ビームで一致させたときの中間像高での色ずれを低減できる。
また、図7(b)に示したように入射光線が副走査方向にシフトした場合、特殊チルト偏心面は屈折力を持たないため光線の進行方向もシフトするのみで、その方向の変化は小さい。副走査方向に曲率を持つ、つまり屈折力を持つ面では、図7(a)の様に入射光線が副走査方向にシフトした場合、屈折力が変わることにより光線の進行方向が変わる。各像高でこの進行方向の変化量が異なると、走査線曲がりが大きく発生してしまう。以上の理由から、特殊チルト偏心面における副走査方向の形状は、曲率を持たない平面形状とする必要がある。
本形態によれば、走査線曲がりについて特殊チルト偏心面により各像高に向かう光ビームの副走査方向の方向を、走査レンズの主走査方向に異なるチルト量を最適に与えることで補正可能となる。
またこのとき、特殊チルト偏心面を有するレンズは光学面基準軸近傍を中心像高に向かう光線が通過するように副走査断面内においてレンズ全体を傾けてられている。なお、両面の光学面基準軸は一致している。このために、光軸近傍では走査レンズに対し光束のスキューや走査線曲がりがほとんど発生しない。このため、本形態における特殊チルト偏心面において、光学面基準軸上における偏心量はゼロとすることができる。
本形態の光走査装置をさらに小型で低コストなものとするためには、光偏向器での反射点と、最も偏向器に近いレンズへの入射点とが、前記偏向器の回転軸と直交し前記レンズの光学面基準軸を含む平面(以下、「基準平面」という。)に対して互いに反対側に配置させるとよい。図8(a)に従来の斜入射光学系の副走査方向の軌跡(破線)と本形態による副走査方向の軌跡(実線)を図示した。従来の斜入射光学系では偏向器での反射点と基準平面を一致させている。本形態では副走査方向に対し、Zrだけ第1走査結像レンズの入射点と反対側にシフトさせているため、第1走査結像レンズの副走査方向の高さを少なくでき、ひいては光走査装置全体の高さを低減することが可能になる。偏向器の副走査方向の高さも若干増加してしまうが、第1走査結像レンズの高さの低減量が更に大きいために問題となり得ない。
さらに小型化を推し進めるためには、図8(b)にあるように、複数光束を同一反射点にそれぞれ異なる斜入射角で入射させるとよい。さらに図8(c)にあるように、前記基準平面に対して面対称となるように複数光源を配置することが望ましい。なお、ここでいう鏡面対称とは、ポリゴンミラーにて偏向反射された以降の折返しミラーを全て省略した状態で、ポリゴンミラーの反射面の法線に水平で、ポリゴンミラーにより反射偏向された複数の光ビームの副走査方向中心を含む面に対するものである。
また、走査線曲がりの発生を小さく抑えるためには、結像光学系の副走査断面内における結像倍率を1.0倍以下の縮小光学系とするとよい。このようにすることで、走査光学系の製造上の誤差および組み付け上の誤差が発生したとしても、走査線曲がりの変化の影響を小さく抑えることができる。
本形態による走査線曲がり補正の効果を図9に示す。図中2つの曲線はそれぞれ本形態による特殊チルト偏心面を有する光学系と特殊チルト偏心面を用いない光学系の走査線曲がりを示している。図より明らかなように特殊チルト偏心面によって斜入射光学系の走査線曲がりは良好に補正されている。
また、本走査光学系をより偏心や環境変動に強い光走査装置とするためには、第1レンズ群(L1)においてすべてのレンズ高さで副走査断面形状が平面となるような面を持たせるとよい。第1レンズ群(L1)は光学面基準軸から離れるに従い副走査断面内でパワーを持つが、曲率を有する面を1面に集約させ、もう1面は平面形状とすることで、レンズの偏心の影響を低減可能となる。
さらに望ましくは、すべてのレンズ高さで副走査断面形状が平面となる面は第1レンズ群(L1)の入射面側に設けるとよい。レンズ面における反射光が像面や光源に到達すると画質が劣化するが、このようにすることで第1レンズ群(L1)の入射面における反射光は再び偏向器に入射して像面や光源に到達しなくなる。また、このとき第1レンズ群(L1)の光学面基準軸を含まない副走査断面内におけるレンズのパワーは負のパワーを有する(図10参照)。
前記説明の特殊チルト偏心面を、異なる被走査面に向かう光ビームごと、つまり光偏向器の反射面の法線に対する副走査方向の角度(斜入射角度)毎に最適に設定することで、全ての光ビームにおいて良好な波面収差補正、及び、走査線曲がり補正が可能となる。この場合、斜入射角度が異なっても、本特殊チルト偏心面を用い形状式の係数を変え最適に設計することで対応可能となる。
更に、図1に示したように、回転多面鏡の偏向反射面に入射する光ビームを走査レンズに干渉させないように主走査方向に角度を持って入射させることで、副走査方向の入射角度を小さく設定できる。先に述べた様に、副走査方向の斜入射させる角度が大きいと前記光学性能の劣化が大きくなるため、良好な補正は困難になってしまう。このため、回転多面鏡の偏向反射面に入射する光ビームを主走査方向に角度を持って入射させることが望ましい。
本形態の光走査装置をさらに高速なものとするためには、最も被走査面に近いレンズに像高に応じて副走査方向の曲率が異なる面を少なくとも一面用いると良い。このような構成にすることで像高間の倍率偏差を十分に低減することができる。また、副走査方向の像面湾曲をより良好に補正する効果も期待できる。
さらに好ましくは、前記副走査方向の曲率が、基準軸を中心として主走査方向に非対称に変化させると良い。本実施例の光走査装置において、光ビームを主走査方向に角度を持って光偏向器に入射させている。この結果、前記回転多面鏡による「光学的サグ」の発生は、走査レンズの基準軸に対して主走査方向に対称に発生しない。つまり、諸収差が発生する原因となる光路長差が中心に対し左右対称とならないため諸収差の発生も左右非対称に発生するため、このような構成とすることで効果的な収差補正が可能となる。
本形態による光走査装置においてさらに低コスト化を推し進めるためには、走査結像レンズをプラスチックレンズとするのがよい。走査結像レンズをプラスチックとすることで、面形状の自由度が増し、より良好な光学性能を達成できるという効果も期待できる。
本形態に係る光走査装置において、光源を、例えば、複数の発光点を有する半導体レーザアレイや、単数の発光点もしくは複数の発光点を有する光源を複数用いたマルチビーム光源装置とし、複数の光ビームを感光体表面に同時に走査するように構成するとよい。こうすることにより、高速化、高密度化を図った光走査装置および画像形成装置を構成することができ、かかる光走査装置および画像形成装置を構成した場合も、これまで説明してきた効果と同様の効果を得ることができる。図11はマルチビーム光源装置を構成する光源ユニットの例を示す。
図11(a)において、半導体レーザ403、404は各々ベース部材405の裏側に形成した図示しない嵌合孔405−1、405−2に個別に嵌合されている。上記嵌合孔405−1、405−2は主走査方向に所定角度、実施例では約1.5°微小に傾斜していて、この嵌合孔に嵌合された半導体レーザ403、404も主走査方向に約1.5°傾斜している。半導体レーザ403、404は、その円筒状ヒートシンク部403−1、404−1に切り欠きが形成されていて、押え部材406、407の中心丸孔に形成された突起406−1、407−1を上記ヒートシンク部の切り欠き部に合わせることによって発光源の配列方向が合わせられている。押え部材406、407はベース部材405にその背面側からネジ412で固定されることにより、半導体レーザ403、404がベース部材405に固定されている。また、コリメートレンズ408、409は各々その外周をベース部材405の半円状の取り付けガイド面405−4、405−5に沿わせて光軸方向の調整を行い、発光点から射出した発散ビームが平行光束となるよう位置決めされ接着されている。
なお、上記実施例では、各々の半導体レーザからの光線が主走査面内で交差するように設定するため、光線方向に沿って嵌合孔405−1、405−2および半円状の取り付けガイド面405−4,405−5を傾けて形成している。ベース部材405の円筒状係合部405−3をホルダ部材410に係合し、ネジ413を貫通孔410−2に通してネジ孔405−6、405−7に螺合することによって、ベース部材405がホルダ部材410に固定され、光源ユニットを構成している。
上記光源ユニットのホルダ部材410は、その円筒部410−1が光学ハウジングの取り付け壁411に設けた基準孔411−1に嵌合され、取り付け壁411の表側よりスプリング611を挿入してストッパ部材612を円筒部突起410−3に係合することで、取り付け壁411の裏側に密着して保持され、これによって上記光源ユニットが保持されている。スプリング611の一端を取り付け壁411の突起411−2に引っ掛け、スプリング611の他端を光源ユニットに引っ掛けることで、光源ユニットに円筒部中心を回転軸とした回転力を発生している。この光源ユニットの回転力を係止するように設けた調節ネジ613を具備していて、この調節ネジ613により、光軸の周りであるθ方向にユニット全体を回転しピッチを調節することができるように構成されている。光源ユニットの前方にはアパーチャ415が配置され、アパーチャ415には半導体レーザ毎に対応したスリットが設けられ、光学ハウジングに取り付けられて光ビームの射出径を規定するように構成されている。
図11(b)は、光源ユニットの第2の実施形態を示す。図11(b)において、4個の発光源を持つ半導体レーザ703からの各光ビームは、ビーム合成手段を用いて合成するように構成されている。符号706は押え部材、705はベース部材、708はコリメートレンズ、710はホルダ部材をそれぞれ示している。この実施の形態では光源としての半導体レーザ703は1個であり、これに応じて押え部材706が1個である点が図11(a)に示す実施の形態と異なっており、他の構成は基本的に同じである。
図11(c)は、図11(b)に示す例に準じる構成のものであって、4個の発光源を持つ半導体レーザアレイ801からの光ビームを、ビーム合成手段を用いて合成する例を示している。基本的な構成要素は図11(a)、(b)と同様であるから、ここでは説明を省略する。
次に、本形態に係る光走査装置を用いた画像形成装置の一実施形態を、図12を参照しながら説明する。本実施形態は、本形態に係る光走査装置をタンデム型フルカラーレーザプリンタに適用した例である。図12において、装置内の下部側には水平方向に配設された給紙カセット13から給紙される記録材(例えば転写紙)Sを搬送する搬送ベルト17が設けられている。この搬送ベルト17上にはイエロー(Y)用の感光体7Y、マゼンタ(M)用の感光体7M、シアン(C)用の感光体7C及びブラック(K)用の感光体7Kが、転写紙Sの搬送方向上流側から下流側に向けて順に等間隔で配設されている。なお、以下、符号に対する添字Y、M、C、Kを適宜付けて区別するものとする。これらの感光体7Y、7M、7C、7Kは全て同一径に形成されたもので、その周囲には、電子写真プロセスにしたがって各プロセスを実行するプロセス部材が順に配設されている。感光体7Yを例に採れば、帯電チャージャ8Y、光走査装置9の光走査光学系6Y、現像装置10Y、転写チャージャ11Y、クリーニング装置12Y等が順に配設されている。なお、他の感光体7M、7C、7Kに対しても同様である。
本実施形態では、感光体7Y、7M、7C、7Kの表面を各色毎に設定された被走査面(または被照射面)とするものであり、各々の感光体7Y、7M、7C、7Kに対して光走査装置9の光走査光学系6Y、6M、6C、6Kが1対1の対応関係で設けられている。但し、図1と同様に、光偏向器5と、該光偏向器5に近い側の第1レンズ群L1は、4つの光走査光学系6Y、6M、6C、6Kで共通使用しており、感光体(被走査面)7Y、7M、7C、7Kに近い側の第2レンズ群L2は各光学系にそれぞれ設けられている。なお、複数の光源装置やカップリングレンズ、アパーチャ、シリンドリカルレンズ等の偏向器前光学系の図示は省略している。
搬送ベルト17は駆動ローラ18と従動ローラ19に支持されて図中の矢印の方向に回転され、その周囲には、感光体7Yよりも上流側に位置させてレジストローラ16と、ベルト帯電チャージャ20が設けられ、感光体7Kよりもベルト17の回転方向下流側に位置させてベルト分離チャージャ21、ベルト除電チャージャ22、ベルトクリーニング装置23等が順に設けられている。また、ベルト分離チャージャ21よりも転写紙搬送方向下流側には加熱ローラ24aと加圧ローラ24bからなる定着装置24が設けられ、排紙トレイ26に向けて排紙ローラ25で結ばれている。
このような概略構成のレーザープリンタにおいて、例えば、フルカラーモード(複数色モード)時であれば、各感光体7Y、7M、7C、7Kを帯電チャージャ8Y、8M、8C、8Kで帯電した後、各感光体7Y、7M、7C、7Kに対してY、M、C、K用の各色の画像信号に基づき光走査装置9の各々の光走査光学系6Y、6M、6C、6Kによる光ビームの光走査で、各感光体表面に、各色信号に対応した静電潜像が形成される。これらの静電潜像は各々の対応する現像装置10Y、10M、10C、10KでY、M、C、Kの各色のトナーにより現像されてトナー像となる。この画像形成プロセスにタイミングを合わせて給紙カセット13内の転写紙Sが給紙ローラ14と搬送ローラ15により給紙され、レジストローラ16により搬送ベルト17に送り出される。搬送ベルト17に給紙された転写紙Sは、ベルト帯電チャージャ20の作用により搬送ベルト17に静電的に吸着されて感光体7Y、7M、7C、7Kに向けて搬送され、各感光体7Y、7M、7C、7K上の画像が転写紙S上に順次転写されることにより重ね合わせられ、転写紙S上にフルカラー画像が形成される。このフルカラー画像が転写された転写紙Sはベルト分離チャージャ21により搬送ベルト17から分離されて定着装置24に搬送され、定着装置34でフルカラー画像が転写紙Sに定着された後、排紙ローラ25により排紙トレイ26に排紙される。
上記画像形成装置の光走査光学系6Y、6M、6C、6Kを、前述の実施形態に係る光走査装置とすることで、走査線曲がりと波面収差の劣化を有効に補正し、色ずれが無く、高品位な画像再現性が確保できる画像形成装置を実現することができる。
なお、上述した形態は、本形態の光走査装置等を実施するための最良のものであるが、かかる実施形式に限定する趣旨ではない。従って、本形態の要旨を変更しない範囲内においてその実施形式を種々変形することが可能である。