実施の形態1.
以下、図1乃至図3を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。
[エンジンシステムの構成の説明]
図1は本発明の実施の形態1としての内燃機関の空燃比制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。本実施形態にかかる内燃機関2の燃焼室4には、吸気通路6と排気通路8が接続されている。吸気通路6には燃焼室4内へ流入する空気の流量を調整するスロットル14が配置されている。また、吸気通路6における燃焼室4の近傍には、燃焼室4に燃料を供給するための燃料噴射弁12が取り付けられている。
燃料噴射弁12から噴射される燃料は図示しない燃料通路を通って燃料タンク20から供給される。燃料タンク20には内部で発生した蒸発燃料を抜き出すためのベーパ通路24が接続されている。ベーパ通路24の一端は、内部に蒸発燃料を吸着するための活性炭が充填されたキャニスタ18に接続されている。このため、燃料タンク20の内部で発生した蒸発燃料はベーパ通路24を通ってキャニスタ18に到達し、キャニスタ18の内部に吸着される。キャニスタ18には一端が大気に開放された大気供給通路26と、スロットル弁14の下流において吸気通路6に連通するパージ通路22とが接続されている。パージ通路22にはその内部を流れるガスの流量を制御するためのパージ制御弁16が設けられている。パージ制御弁16はデューティ制御されることにより任意の開度を実現する電磁弁である。パージ制御弁16は本発明にかかるパージ機構に相当している。
内燃機関2はその制御装置としてECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40は複数のセンサによって検出される内燃機関2の作動データに基づき内燃機関2の作動に係わる各種機器を総合的に制御する。ECU40の出力側には燃料噴射弁12とパージ制御弁16が接続されている。
ECU40の入力側には水温センサ30、回転速度センサ32、排気ガスセンサ34、エアフローメータ36、アクセルポジションセンサ38が接続されている。水温センサ30は内燃機関2のウォータジャケットに取り付けられ、冷却水温に応じた信号を出力する。冷却水温は内燃機関2の機関温度を代表している。回転速度センサ32はクランク軸の近傍に取り付けられ、機関回転速度に応じた信号を出力する。排気ガスセンサ34は排気通路8に設けられ、排気ガスの空燃比(排気空燃比)に対応する信号を出力する。エアフローメータ36はスロットル14の上流に配置され、吸入空気流量に応じた信号を出力する。また、アクセルポジションセンサ38は図示しないアクセルペダルに取り付けられ、アクセルポジションに応じた信号を出力する。
ECU40は各センサ30,32,34,36,38から作動データの供給を受けていると共に、各機器12,16に対して駆動信号を供給している。なお、ECU40にはこれらのセンサ32,34,36,38や機器12,16以外にも複数のセンサや機器が接続されているが、ここではその説明は省略する。
[パージ制御の概略説明]
ECU40が実施する内燃機関2の制御の一つとして、キャニスタ18に吸着された蒸発燃料をパージするパージ制御がある。このパージ制御は、内燃機関2の運転中、所定のパージ実行条件が成立する場合にパージ制御弁16を適宜にデューティ駆動することで実行される。パージ実行条件は、機関回転速度や吸入空気流量から定まる内燃機関2の運転状態が所定のパージ実行域に入っていることを条件とする。
パージ制御弁16に出力するデューティは、パージ率の目標値に従って制御される。パージ率とは吸入空気流量に対するパージガス流量の比であり、パージ制御弁16のデューティによって制御することができる。パージ率の目標値は機関回転速度や吸入空気流量に関連付けてマップに記憶されている。パージ制御時には、このマップから現在の機関回転速度や吸入空気流量に応じたパージ率の目標値が読み出され、その値に応じてパージ制御弁16がデューティ駆動される。
パージ制御弁16がデューティ駆動されることで、内燃機関2の吸気通路6の負圧がキャニスタ18に導かれる。その結果、キャニスタ18内の蒸発燃料は大気供給通路26から吸入された空気とともにパージガスとしてパージ通路22に放出される。放出されたパージガスはパージ通路22を通って吸気通路6に供給され、燃焼室4において燃焼処理される。
[空燃比制御の説明]
また、ECU40は、内燃機関2の制御の一つとして、燃焼室4内の混合気の空燃比を所望の目標空燃比にするための空燃比制御を実施している。空燃比制御は、内燃機関2の運転中、排気ガスセンサ34により測定される排気空燃比が目標空燃比になるように燃料噴射弁12からの燃料噴射量を制御するものである。本実施形態のシステムでは、パージ制御弁16の作動時は、燃料噴射弁12からの燃料に加えてパージガスに含まれる蒸発燃料も燃焼室4内に供給されるので、パージガスの供給に伴う空燃比の変動も考慮して燃料噴射量を制御する必要がある。
燃料噴射弁12からの燃料噴射量は、燃料噴射弁12の開弁時間である燃料噴射時間TAUにより決まる。下記の(1)式は、燃料噴射時間TAUの算出式である。(1)式中、TPは基本噴射時間であり、機関回転速度NEと吸入空気流量GAとの比(GA/NE)に所定の噴射係数を乗算することで算出される。KRICHは冷間時の増量補正、WOT時の増量補正、燃料カット後の触媒保護のための増量補正等、燃料の増量要求に応じて設定される増量係数である。
TAU=TP×(KRICH+FAF+FPG)+FMW ・・・(1)
上記(1)式において、FAFはフィードバック補正係数である。フィードバック補正係数FAFは、排気ガスセンサ34の出力から排気空燃比が目標空燃比よりもリッチであると判定されている間は、小さなステップで減少方向に更新される。その結果、燃料噴射時間TAUは僅かずつ減少し、排気ガスセンサ34の出力から測定される排気空燃比はやがて目標空燃比よりもリーンに反転する。排気空燃比が目標空燃比よりもリッチからリーンに反転すると、フィードバック補正係数FAFはその時点で大きく増加方向にスキップされる。そして、排気空燃比が目標空燃比よりもリッチに反転するまで、フィードバック補正係数FAFは小さなステップで増加方向に更新される。その結果、燃料噴射時間TAUは僅かずつ増加し、排気空燃比はやがて目標空燃比よりもリーンからリッチに反転する。排気空燃比が目標空燃比よりもリーンからリッチに反転すると、フィードバック補正係数FAFはその時点で大きく減少方向にスキップされる。以後、上述した更新処理が繰り返し実行されることにより、排気空燃比は目標空燃比の近傍に維持される。
ところが、キャニスタ18から吸気通路6にパージガスがパージされる場合は、その影響で燃焼室4内の混合気の空燃比に変化が生ずる。パージガスの空燃比が目標空燃比に等しければ、吸入空気流量に対する燃料噴射量の比率を目標空燃比に設定することで混合気の空燃比を目標空燃比とすることができる。しかし、パージガスがリッチである場合には、その影響が相殺できる程度に燃料噴射量を減量しなければ混合気の空燃比を目標空燃比とすることはできない。同様に、パージガスがリーンであれば、燃料噴射量を適当に増量しなければ混合気を目標空燃比にすることはできない。
そこで、上記(1)式においては、パージガスの影響を相殺するために燃料噴射時間TAUに施すべき補正係数としてパージ補正係数FPGが設定されている。パージ補正係数FPGは、次の(2)式に示すように、ベーパ濃度補正係数FGPGとパージ率PGRとの積として算出される。
FPG=FGPG×PGR ・・・(2)
(2)式におけるベーパ濃度補正係数FGPGは、パージガスの燃料濃度(パージガス中の蒸発燃料の濃度)に対応する補正係数であり、1%のパージ率PGRに対して燃料噴射時間TAUに施すべき補正量としての意味を有している。この補正量は、パージガスの燃料濃度が高いほど(リッチであるほど)負の大きな値とする必要があり、また、パージガスの燃料濃度が低いほど(リーンであるほど)正の大きな値とする必要がある。
パージガスの供給が空燃比に与える影響はパージガスの燃料濃度によって変化するため、空燃比を精度良く目標空燃比の近傍に維持する上では、パージガスの燃料濃度を把握することは重要である。ECU40は、パージ制御の実行中におけるフィードバック補正係数FAFのその基準値からの定常的なずれから、パージガスの燃料濃度に対応するベーパ濃度補正係数FGPGを学習する。燃料濃度の学習方法、すなわち、ベーパ濃度補正係数FGPGの学習方法については後述する。
また、上記(1)式におけるFMWは壁面付着補正量であり、これは内燃機関2の過渡運転時における壁面付着燃料量の変化を相殺するために設定された補正量である。内燃機関2の過渡運転時には、吸入空気流量や燃料噴射量の増減に伴い、壁面付着燃料量に変化が生ずる。壁面付着燃料量が増加する場合は、燃焼に用いられる燃料量が燃料噴射量に比して少量となり空燃比のリーン化を招く。一方、壁面付着燃料量が減少する過程では、燃料噴射量より多くの燃料が燃焼に使用されるため空燃比のリッチ化を招く。そこで、空燃比制御では、燃料噴射時間TAUに壁面付着補正量FMWを含ませることで、壁面付着燃料量の変化に伴う空燃比の変動を防止するようにしている。壁面付着補正量FMWは、機関回転速度、吸入空気流量、及び冷却水温に関連付けてマップに記憶されている。空燃比制御時には、このマップから現在の機関回転速度、吸入空気流量、及び冷却水温に応じた壁面付着補正量FMWが読み出され、燃料噴射時間TAUの計算に供せられる。
なお、壁面への燃料の付着や壁面からの燃料の脱離は、パージの有無の影響も受けている。蒸発燃料は燃料噴射弁12から噴射される液体燃料に比較して壁面に付着し難いため、パージの実行中はパージの停止中に比較して同一の運転条件(機関回転速度、吸入空気流量、冷却水温)での壁面付着燃料量が減少するためである。このため、壁面付着補正量FMWはパージの有無に応じて、或いはパージ率の大きさに応じて補正されるようになっている。
[燃料濃度学習の基本的な手順の説明]
図2のフローチャートは、本実施の形態において燃料濃度の学習に用いられる基本ルーチンを示している。以下では、図2のフローチャートに従って、本実施の形態にかかる濃度学習の基本的な手順について説明する。なお、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンは、内燃機関2の制御装置であるECU40によって所定の周期で実行される。
図2に示すルーチンの最初のステップS2では、次の(3)式に従ってフィードバック補正係数FAFの平滑化が行われる。(3)式においてAFFは空燃比の理論空燃比からのずれの程度を示す空燃比ずれ指標値であり、フィードバック補正係数FAF、若しくはその補正値である。NNは平滑化係数であり、1以上の値に設定されている。DFPGはAFFの平滑値であり、左辺のDFPGは更新後の平滑値、右辺のDFPGは更新前の平滑値である。なお、この空燃比ずれ指標平滑値DFPGは、パージカットの実行時にはリセットされ、パージカット中はそのままゼロに維持される。
DFPG=DFPG+(AFF−DFPG)/NN ・・・(3)
上記の(3)式において、排気ガスセンサ34がいわゆるO2センサ、つまり、排気空燃比に対し理論空燃比を基準にしてリッチ側とリーン側とで出力が急変するいわゆるZ特性を示すセンサである場合には、フィードバック補正係数FAFをそのまま空燃比ずれ指標値AFFとして用いる。一方、排気ガスセンサ34がいわゆるリニア空燃比センサ(A/Fセンサ)、つまり、排気空燃比に対してリニアな出力特性を示すセンサである場合には、以下の(4)式によってフィードバック補正係数FAFを補正したものを空燃比ずれ指標値AFFとして用いるのが好ましい。(4)式において、ABYFはリニア空燃比センサによって測定される排気空燃比、ABYF0は理論空燃比である。本実施の形態では、排気ガスセンサ34としてリニア空燃比センサが備えられているものとする。空燃比ずれ指標値AFFは、実際の空燃比が理論空燃比よりもリッチ側にずれているほど負の大きい値になり、リーン側にずれているほど正の大きい値になる。
AFF=FAF+(ABYF/ABYF0) ・・・(4)
次のステップS4では、学習カウンタCFGPGの値が一定値だけ増加させられる。ステップS6では、学習カウンタCFGPGが所定の基準回数KCSに達したか否か判定される。学習カウンタCFGPGが基準回数KCSに達するまでは、以降の処理はスキップされて濃度学習は実行されない。学習カウンタCFGPGが基準回数KCSに達したら、ステップS8で学習カウンタCFGPGのリセットが行われた後にステップS10以降の処理が実行される。これらステップS4,S6及びS8の処理により、濃度学習は一定の学習周期で実行されることになる。なお、パージカットが実行されたときには学習カウンタCFGPGはその段階でリセットされ、パージカット中はそのままゼロに維持される。
ステップS10及びステップS12の処理は、空燃比のずれが所定の不感帯域を超えているか否か判定するための処理である。ステップS10では、空燃比ずれ指標値AFFが不感帯域の上限値KAFFH以上か否か判定される。空燃比ずれ指標値AFFが不感帯域の上限値KAFFH未満の場合にはステップS12に進み、空燃比ずれ指標値AFFが不感帯域の下限値KAFFL以下か否か判定される。これらの判定の結果、空燃比ずれ指標値AFFが不感帯域内にある場合には、濃度度学習は禁止されて以降の処理はスキップされる。これに対し、空燃比ずれ指標値AFFが不感帯域を超えている場合には、ステップS14以降の処理が実行される。このように濃度学習に不感帯域を設けることで、誤差程度の空燃比のずれに応じて濃度学習が頻繁に実行されることは防止され、空燃比制御の安定性が維持される。
ステップS14では、パージ率PGRがゼロより大きいか否か、すなわち、現在、パージの実行中であるか否か判定される。パージが実行されていない状況での空燃比のずれは、パージガスの供給以外の要因によるものであり、そのような状況で濃度学習を継続すると燃料濃度を誤って学習してしまう。したがって、ステップS14の判定の結果、パージ率PGRがゼロより大きい場合に限ってステップS16以降の濃度学習処理が実行される。パージ率PGRがゼロの場合には、濃度度学習は中止されて以降の処理はスキップされる。
ステップS16では、パージ率PGRが所定の基準パージ率KPGRL以上か否か判定される。基準パージ率KPGRLはゼロよりも大きく、最大パージ率よりも小さい値に設定されている。パージ率PGRが基準パージ率KPGRL以上の場合には、ステップS18において濃度学習が完了しているか否か判定される。同様に、パージ率PGRが基準パージ率KPGRL未満の場合には、ステップS20において濃度学習が完了しているか否か判定される。濃度学習の完了は、例えば、学習値であるベーパ濃度補正係数FGPGが収束したかどうかによって判断することができる。
濃度学習の具体的な方法は、後述するように、ベーパ濃度補正係数FGPGの学習更新量DLFGPGを空燃比ずれ指標平滑値DFPGに応じて決定するというものである。ステップS16,S18及びS20の各判定は、学習更新量DLFGPGの決定方法として、パージガスの供給状態や濃度学習の進み具合に応じた適切な方法を選択するための処理である。判定の結果、パージ率PGRが基準パージ率KPGRL以上であって学習が完了している場合には、まず、ステップS22において学習更新係数KDLFGが決定される。学習更新係数KDLFGは、図中にグラフで示すように、空燃比ずれ指標平滑値DFPGの値に応じて設定されている。次のステップS30では、学習更新係数KDLFG、パージ率PGR及び空燃比ずれ指標平滑値DFPGを用いて、次の(5)式によって学習更新量DLFGPGが算出される。
DLFGPG=DFPG/PGR/2×KDLFG ・・・(5)
また、ステップS24で学習更新量DLFGPGが算出された場合には、ステップS32で濃度更新回数CFGCNGの値が一定値だけ増加させられる。
ステップS16,S18の判定の結果、パージ率PGRが基準パージ率KPGRL以上であって学習が完了していない場合には、ステップS24において学習更新量DLFGPGが決定される。学習更新量DLFGPGは、図中にグラフで示すように、空燃比ずれ指標平滑値DFPGの値に応じて設定されている。
ステップS16,S20の判定の結果、パージ率PGRが基準パージ率KPGRL未満であって学習が完了している場合には、ステップS26において学習更新量DLFGPGが決定される。学習更新量DLFGPGは、図中にグラフで示すように、空燃比ずれ指標平滑値DFPGの値に応じて設定されている。
ステップS16,S20の判定の結果、パージ率PGRが基準パージ率KPGRL未満であって学習が完了していない場合には、ステップS28において学習更新量DLFGPGが決定される。学習更新量DLFGPGは、図中にグラフで示すように、空燃比ずれ指標平滑値DFPGの値に応じて設定されている。なお、グラフを比較して分かるように、ステップS28で決定される学習更新量DLFGPGは、同一の空燃比ずれ指標平滑値DFPGで比較した場合、ステップS24,S26で決定される学習更新量DLFGPGよりも小さい値とされている。
ステップS30,S24,S26,S28の何れかで学習更新量DLFGPGが決定されたら、次にステップS34以降の処理が実行される。ステップS34では、学習更新量DLFGPGを制限する更新ガード値KDLFGMが決定される。更新ガード値KDLFGMは、図中にグラフで示すように、空燃比ずれ指標平滑値DFPGの値に応じて設定されている。次のステップS36では、学習更新量DLFGPGが更新ガード値KDLFGM以上になっているか否か判定される。学習更新量DLFGPGが更新ガード値KDLFGM未満であれば、学習更新量DLFGPGはそのまま使用される。一方、学習更新量DLFGPGが更新ガード値KDLFGM以上であれば、次のステップS38で学習更新量DLFGPGは更新ガード値KDLFGMに制限される。つまり、更新ガード値KDLFGMが学習更新量DLFGPGに置き換えられる。
ステップS40では、上述の処理によって決定された学習更新量DLFGPGを用い、次の(6)式によってベーパ濃度補正係数FGPGの更新が行われる。(6)式において左辺のFGPGは更新後のベーパ濃度補正係数、右辺のFGPGは更新前のベーパ濃度補正係数である。
FGPG=FGPG+DLFGPG ・・・(6)
最後のステップS42では、次の(7)式によってフィードバック補正係数FAFの補正が行われ、(8)式によって空燃比ずれ指標平滑値DFPGの補正が行われる。ステップS42の処理は、フィードバック補正係数FAFとパージ補正係数FPGとの間で学習更新量DLFGPGの分が二重補正にならないようにするための処理である。(7)式において左辺のFAFは補正後のフィードバック補正係数、右辺のFAFは補正前のフィードバック補正係数である。また、(8)式において左辺のDFPGは補正後の空燃比ずれ指標平滑値、右辺のDFPGは補正前の空燃比ずれ指標平滑値である。
FAF=FAF+DLFGPG×PGR ・・・(7)
DFPG=DFPG+DLFGPG×PGR ・・・(8)
[壁面付着燃料量の変化に伴う課題]
前述のように、内燃機関2の過渡運転時における壁面付着燃料量の変化は、燃料噴射時間TAUに壁面付着補正量FMWを含ませることで相殺されるようになっている。しかしながら、壁面付着燃料の付着状態が不安定になるのは過渡運転時に限ったものではない。具体例を挙げると、パージカットやパージ開始に伴って蒸発燃料の供給量に変化が生じた場合にも、壁面付着燃料の付着状態は不安定になりやすい。蒸発燃料の供給は空燃比に影響を与えるため、前述のように燃料噴射時間TAUの算出にあたっては基本噴射時間TPにパージ補正係数FPGが反映されている。ところが、蒸発燃料の供給量の変化を相殺するように燃料噴射弁12の燃料噴射量が変化すると、吸気通路の壁面に付着している燃料量の安定量(安定壁面付着燃料量)も変化することになる。このため、蒸発燃料の供給量が変化したときには、その前後における安定壁面付着燃料量の差を補償するように壁面への燃料の付着や壁面からの燃料の脱離が起こる。そして、壁面付着燃料量の変化に伴って実際に燃焼に用いられる燃料量と燃料噴射量との間に差が生じ、目標空燃比と実際の空燃比との間にずれが生じることになる。
前述の空燃比制御によれば、壁面付着燃料量の変化に伴う空燃比のずれはフィードバック補正係数FAFによって吸収される。ところが、前述のようにフィードバック補正係数FAFからはベーパ濃度補正係数FGPGが学習されている。このため、壁面付着燃料量の変化に起因するフィードバック補正係数FAFのずれまでもがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることになる。つまり、壁面付着燃料量の変化に起因して空燃比にずれが生じたにもかかわらず、パージガスの燃料濃度の変化に起因したものとしてベーパ濃度補正係数FGPGが誤学習されてしまう。学習値であるベーパ濃度補正係数FGPGは現時点のみならず将来的にも影響するため、誤った学習を行ってしまうと壁面付着燃料の付着状態の安定後も暫くの間は空燃比制御の精度を低下させてしまうことになる。
[実施の形態1にかかる空燃比制御の特徴]
そこで、本実施の形態にかかる空燃比制御では、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。修正制御では、壁面付着燃料の付着状態の安定度に関係するパラメータを取得し、取得したパラメータの値に応じて燃料濃度の学習方法を修正する。学習方法を壁面付着燃料の付着状態の安定度に応じて修正することとすれば、パージ量の増減等に伴って燃料付着状態が不安定になっている場合であっても、それに起因した燃料濃度の誤学習を防止することが可能になる。
本実施の形態では、学習方法を修正する具体的な手法として、濃度学習ルーチンのステップS10,S12の判定にかかる空燃比ずれ指標値AFFの不感帯域を、燃料付着状態の安定度の低さに応じて拡大する方法を採る。空燃比ずれ指標値AFFが不感帯域内で変化している限りは、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新は行われず、空燃比のずれがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることはない。したがって、燃料付着状態の安定度が低いときにはベーパ濃度補正係数FGPGの更新を行わない不感帯域が拡大されることで、壁面付着燃料量の変化がベーパ濃度補正係数FGPGに与える影響を抑えることができる。
なお、安定時の壁面付着燃料の付着状態(安定付着状態)を示すパラメータとしては、燃焼に使用される総燃料量(燃料噴射量と蒸発燃料量との和)に対する燃料噴射量の比率を使用することができる。この比率は蒸発燃料の供給が無いとき最大値1となり、総燃料量に対する燃料噴射量の割合が小さくなるほど小さい値となる。これは、蒸発燃料の供給に伴って燃料噴射量が少なくなると壁面付着燃料量が減少することに対応している。以下、前記比率を基本付着割合と称する。
また、実際の壁面付着燃料の付着状態は、安定時の壁面付着燃料量の変化に遅れて連続的に変化するため、基本付着割合を時間方向に平滑化することによって壁面付着燃料の付着状態の変化を精度良く推定することができる。ここでは、基本付着割合の平滑値を壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとして使用する。そして、基本付着割合と基本付着割合の平滑値との偏差を燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして取得し、前記偏差の値に応じて不感帯域を拡大する。
[実施の形態1における具体的処理]
本実施の形態では、図3のフローチャートに従って不感帯域の拡大が行われる。図3のフローチャートは学習方法の修正制御としての不感帯拡大制御のルーチンを示している。なお、図3に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図3に示すルーチンの最初のステップS100では、次の(9)式により、基本付着割合WPBSが算出される。(9)式において、TP×KRICHは燃焼に使用される総燃料量に相当している。TP×(KRICH+FPG)は燃料噴射弁12による燃料噴射量に相当している。(9)式によれば、パージによる蒸発燃料の供給量が多くなるほどパージ補正係数FPGは負の大きな値となり、基本付着割合WPBSは小さい値となる。前述のように、基本付着割合WPBSは壁面付着燃料の安定付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
WPBS=TP×(KRICH+FPG)/(TP×KRICH) ・・・(9)
次のステップS102では、燃料カット(F/C)の実行中か否か判定される。燃料カットの実行中は基本噴射時間TPがゼロに設定されるため、(9)式では基本付着割合WPBSの値が定まらない。一方、燃料カットの実行中は壁面からの燃料の脱離が進み、壁面付着燃料はほとんど無くなってしまう。そこで、燃料カットの実行中と判定された場合には、ステップS104において基本付着割合WPBSはゼロに設定される。
次のステップS106では、基本付着割合WPBSの平滑化に用いる平滑化係数nが冷却水温THWに基づいて決定される。平滑化係数nは1以上の値であり、図中に示すように、冷却水温THWが高いほど小さい値に設定される。これは、冷却水温THWが高くなるに従い、つまり、内燃機関2の暖機が進むに従って吸気通路6の壁面温度も高くなり、壁面付着燃料の付着状態の安定も速くなるためである。
次のステップS108では、ステップS106で決定された平滑化係数nを用い、以下の(10)式に従って基本付着割合WPBSの時間方向への平滑化が行われる。(10)式において、WPは基本付着割合WPBSの平滑値であり、左辺のWPは更新後の平滑値、右辺のWPは更新前の平滑値である。前述のように、基本付着割合平滑値WPは壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
WP=WP+(WPBS−WP)/n ・・・(10)
次のステップS110では、以下の(11)式に示すように、ステップS108で算出された基本付着割合平滑値WPと、ステップS100或いはステップS104で算出された基本付着割合WPBSとの偏差ΔWPが算出される。前述のように、偏差ΔWPは燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとしての意味を有している。偏差ΔWPが正の大きい値であるほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して過剰になっている、つまり、壁面からの燃料の脱離が進んでいることになる。逆に、偏差ΔWPが負の大きい値であるほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して不足している、つまり、壁面への燃料の付着が進んでいることになる。
ΔWP=WP−WPBS ・・・(11)
次のステップS112では、ステップS110で算出された偏差ΔWPに応じて不感帯域の上限値KAFFHと下限値KAFFLとが決定される。図中に示すように、偏差ΔWPがゼロを中心とする所定範囲にある場合には、上限値KAFFH、下限値KAFFLともに一定値となっている。しかし、偏差ΔWPが所定範囲を超えて正の大きい値になると、偏差ΔWPの値に応じて下限値KAFFLが負の大きい値に拡大される。一方、上限値KAFFHは偏差ΔWPの値によらず一定値のままである。つまり、壁面からの燃料の脱離が進む状況では、不感帯域は負の方向に拡大されることになる。逆に、偏差ΔWPが所定範囲を超えて負の大きい値になると、偏差ΔWPの値に応じて上限値KAFFHが正の大きい値に拡大される。一方、下限値KAFFLは偏差ΔWPの値によらず一定値のままである。つまり、壁面への燃料の付着が進む状況では、不感帯域は正の方向に拡大されることになる。
図3に示すルーチンで決定された不感帯域の上限値KAFFHは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS10の判定に用いられる。また、図3に示すルーチンで決定された不感帯域の下限値KAFFLは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS12の判定に用いられる。
パージカット時のように壁面への燃料の付着が進む状況では、空燃比のリーン化に伴って空燃比ずれ指標値AFFは正の方向にずれることになる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図3に示すルーチンによれば、壁面への燃料の付着が進む状況では不感帯域の上限値KAFFHが拡大される。したがって、空燃比ずれ指標値AFFが正の方向へずれたとしても、上限値KAFFHの拡大によって不感帯域内に収まるようになり、空燃比ずれ指標値AFFのずれがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることは防止される。
逆に、パージ開始時のように壁面からの燃料の脱離が進む状況では、空燃比のリッチ化に伴って空燃比ずれ指標値AFFは負の方向にずれることになる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図3に示すルーチンによれば、壁面からの燃料の脱離が進む状況では不感帯域の下限値KAFFLが拡大される。したがって、空燃比ずれ指標値AFFが負の方向へずれたとしても、下限値KAFFLの拡大によって不感帯域内に収まるようになり、空燃比ずれ指標値AFFのずれがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることは防止される。
以上のように、図3に示すルーチンを実行して修正制御としての不感帯拡大制御を行うことで、燃料付着状態の安定度の低さに応じてベーパ濃度補正係数FGPGの更新を行わない不感帯域を拡大することができ、壁面付着燃料量の変化がベーパ濃度補正係数FGPGに与える影響を抑えることができる。また、上記の不感帯拡大制御によれば、不感帯域の拡大方向が壁面付着燃料量の変化の方向に限定されるので、壁面付着燃料量の変化の影響を受けない方向では通常通りにベーパ濃度補正係数FGPGを更新することができ、学習精度の低下を抑えることができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が前述の空燃比制御において(1)式に従って燃料噴射時間TAUを計算することで、第1の発明にかかる「燃料噴射量算出手段」が実現されている。(1)式で計算される燃料噴射時間TAUは、「燃料噴射量算出手段」で算出される燃料噴射量に対応している。そして、燃料噴射時間TAUの計算過程において、ECU40がフィードバック補正係数FAFを計算することで、第1の発明にかかる「フィードバック補正係数算出手段」が実現されている。また、燃料噴射時間TAUの計算過程において、ECU40がパージ補正係数FPGを計算することで、第1の発明にかかる「パージ補正係数算出手段」が実現されている。
また、本実施の形態においては、ECU40が図2に示すルーチンを実行することにより、第1及び第2の発明にかかる「濃度学習手段」が実現されている。図2に示すルーチンで計算されるベーパ濃度補正係数FGPGは、「濃度学習手段」で学習されるパージガスの燃料濃度に対応している。
さらに、本実施の形態においては、ECU40が図3に示すルーチンを実行することで、第1、第2、第3及び第13の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。図3に示すルーチンで算出される偏差ΔWPは、第1、第2、第3及び第13の発明において「学習方法修正手段」で取得される壁面付着燃料の付着状態の安定度に関係するパラメータに対応している。
実施の形態2.
次に、図4を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図4に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態2にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態1にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS10,S12の判定にかかる空燃比ずれ指標値AFFの不感帯域を、燃料付着状態の安定度の低さに応じて拡大する方法を採る。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして内燃機関2の冷却水温を取得し、冷却水温の低さに応じて不感帯域を拡大する。壁面付着燃料の付着状態は冷間時において特に不安定であり、内燃機関の暖機が進むにつれて安定してくる。したがって、冷却水温の低さに応じて不感帯域を拡大することとすれば、冷間時における誤学習を効果的に防止することができると考えられる。
[実施の形態2における具体的処理]
本実施の形態では、図4のフローチャートに従って不感帯域の拡大が行われる。図4のフローチャートは学習方法の修正制御としての不感帯拡大制御のルーチンを示している。なお、図4に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図4に示すルーチンの最初のステップS120では、不感帯域の拡大値KEXPが冷却水温THWに基づいて決定される。図中に示すように、拡大値KEXPは冷却水温THWが高くなるに従って小さい値に設定され、冷却水温THWがある温度以上ではゼロに設定される。これは、冷却水温THWが高くなるに従い、つまり、内燃機関2の暖機が進むに従って吸気通路6の壁面温度も高くなり、壁面付着燃料の付着状態が安定してくるからである。
次のステップS122では、ステップS120で得られた拡大値KEXPを用い、以下の(12)式によって、不感帯域の上限値KAFFHが拡大される。右辺のKAFFHは基準の上限値(一定値)、左辺のKAFFHは拡大された上限値である。
KAFFH=KAFFH+KEXP ・・・(12)
また、ステップS124では、ステップS120で得られた拡大値KEXPを用い、以下の(13)式によって、不感帯域の下限値KAFFLが拡大される。右辺のKAFFLは基準の下限値(一定値)、左辺のKAFFLは拡大された下限値である。
KAFFL=KAFFL−KEXP ・・・(13)
図4に示すルーチンで決定された不感帯域の上限値KAFFHは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS10の判定に用いられる。また、図4に示すルーチンで決定された不感帯域の下限値KAFFLは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS12の判定に用いられる。
冷間時は壁面付着燃料の付着状態が不安定になり、壁面への燃料の付着や壁面からの燃料の脱離によって空燃比が目標空燃比からずれやすい状況となる。このような状況では、空燃比のずれに伴って空燃比ずれ指標値AFFの基準値からのずれも大きくなる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図4に示すルーチンによれば、不感帯域の上限値KAFFHと下限値KAFFLの何れもが拡大される。したがって、空燃比ずれ指標値AFFが正の方向へずれたとしても、或いは、負の方向へずれたとしても、上限値KAFFH及び下限値KAFFLの拡大によって不感帯域内に収まるようになり、空燃比ずれ指標値AFFのずれがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることは防止される。
以上のように、図4に示すルーチンを実行して修正制御としての不感帯拡大制御を行うことで、燃料付着状態の安定度の低さに応じてベーパ濃度補正係数FGPGの更新を行わない不感帯域を拡大することができ、壁面付着燃料量の変化がベーパ濃度補正係数FGPGに与える影響を抑えることができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図4に示すルーチンを実行することで、第1、第2及び第14の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態3.
次に、図5を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図5に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態3にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態1にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS10,S12の判定にかかる空燃比ずれ指標値AFFの不感帯域を、燃料付着状態の安定度の低さに応じて拡大する方法を採る。
本実施の形態にかかる修正制御では、実施の形態2と同様、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして内燃機関2の冷却水温を取得し、冷却水温の低さに応じて不感帯域を拡大する。さらに、実施の形態1と同様、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして基本付着割合WPBSと基本付着割合WPBSの平滑値WPとの偏差ΔWPも取得し、前記偏差ΔWPの値に応じても不感帯域を拡大する。偏差ΔWPの値に応じて不感帯域を拡大することで、壁面への燃料の付着状況、或いは、壁面からの燃料の脱離状況に応じた不感帯域の拡大が可能になり、壁面付着燃料量の変化が学習値に与える影響を効果的に抑えることができる。加えて、冷却水温の低さに応じて不感帯域を拡大することで、冷間時における誤学習を防止することができる。
[実施の形態3における具体的処理]
本実施の形態では、図5のフローチャートに従って不感帯域の拡大が行われる。図5のフローチャートは学習方法の修正制御としての不感帯拡大制御のルーチンを示している。なお、図5に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図5に示すルーチンの最初のステップS130では、不感帯域の拡大係数K1が冷却水温THWに基づいて決定される。図中に示すように、拡大係数K1は冷却水温THWが高くなるに従って小さい値に設定される。これは、冷却水温THWが高くなるに従い、つまり、内燃機関2の暖機が進むに従って吸気通路6の壁面温度も高くなり、壁面付着燃料の付着状態が安定してくるからである。
次のステップS132では、ステップS130で得られた拡大係数K1を用い、以下の(14)式によって、不感帯域の上限値KAFFHが拡大される。右辺のKAFFHは基準の上限値(一定値)、左辺のKAFFHは拡大された上限値である。ΔWPは、基本付着割合WPBSと基本付着割合WPSの平滑値WPとの偏差であり、ステップS100乃至S110の手順で算出される。ただし、(14)式で使用される偏差ΔWPはゼロ以下に限定され、偏差ΔWPがゼロより大きいときには、ΔWPにはゼロが代入される。したがって、上限値KAFFHは、壁面への燃料の付着が進む状況でのみ、冷却水温THWの低さに応じて拡大されることになる。
KAFFH=KAFFH×(1−K1×ΔWP(≦0)) ・・・(14)
また、ステップS134では、ステップS130で得られた拡大係数K1を用い、以下の(15)式によって、不感帯域の下限値KAFFLが拡大される。右辺のKAFFLは基準の下限値(一定値)、左辺のKAFFLは拡大された下限値である。偏差ΔWPは、ステップS100乃至S110の手順で算出されるが、(15)式で使用される偏差ΔWPはゼロ以上に限定され、偏差ΔWPがゼロより小さいときには、ΔWPにはゼロが代入される。したがって、下限値KAFFLは、壁面からの燃料の脱離が進む状況でのみ、冷却水温THWの低さに応じて拡大されることになる。
KAFFL=KAFFL×(1+K1×ΔWP(≧0)) ・・・(15)
図5に示すルーチンで決定された不感帯域の上限値KAFFHは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS10の判定に用いられる。また、図5に示すルーチンで決定された不感帯域の下限値KAFFLは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS12の判定に用いられる。
パージカット時のように壁面への燃料の付着が進む状況では、空燃比のリーン化に伴って空燃比ずれ指標値AFFは正の方向にずれることになる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図5に示すルーチンによれば、壁面への燃料の付着が進む状況では不感帯域の上限値KAFFHが拡大される。さらに、壁面への燃料の付着は、壁面付着燃料の付着状態が不安定になる冷間ほど大きくなるが、図5に示すルーチンによれば、冷却水温の低さに応じて上限値KAFFHが拡大される。したがって、空燃比ずれ指標値AFFが正の方向へずれたとしても、上限値KAFFHの拡大によって不感帯域内に収まるようになり、空燃比ずれ指標値AFFのずれがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることは防止される。
逆に、パージ開始時のように壁面からの燃料の脱離が進む状況では、空燃比のリッチ化に伴って空燃比ずれ指標値AFFは負の方向にずれることになる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図5に示すルーチンによれば、壁面からの燃料の脱離が進む状況では不感帯域の下限値KAFFLが拡大される。さらに、壁面からの燃料の脱離は、壁面付着燃料の付着状態が不安定になる冷間ほど大きくなるが、図5に示すルーチンによれば、冷却水温の低さに応じて下限値KAFFLが拡大される。したがって、空燃比ずれ指標値AFFが負の方向へずれたとしても、下限値KAFFLの拡大によって不感帯域内に収まるようになり、空燃比ずれ指標値AFFのずれがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることは防止される。
以上のように、図5に示すルーチンを実行して修正制御としての不感帯拡大制御を行うことで、燃料付着状態の安定度の低さに応じてベーパ濃度補正係数FGPGの更新を行わない不感帯域を拡大することができ、壁面付着燃料量の変化がベーパ濃度補正係数FGPGに与える影響を抑えることができる。また、上記の不感帯拡大制御によれば、不感帯域の拡大方向が壁面付着燃料量の変化の方向に限定されるので、壁面付着燃料量の変化の影響を受けない方向では通常通りにベーパ濃度補正係数FGPGを更新することができ、学習精度の低下を抑えることができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図5に示すルーチンを実行することで、第1、第2、第3、第13及び第14の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態4.
次に、図6を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図6に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態4にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態1にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS10,S12の判定にかかる空燃比ずれ指標値AFFの不感帯域を、燃料付着状態の安定度の低さに応じて拡大する方法を採る。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして燃料カットからの復帰後の経過時間を取得し、経過時間の短さに応じて不感帯域を拡大する。燃料カットが実行されると壁面から燃料が脱離していき、壁面付着燃料はほとんど無くなってしまう。このため、燃料カットからの復帰時には壁面への燃料の付着が進み、その分、空燃比がリーン化しやすくなる。壁面への燃料の付着は、壁面付着燃料が少ないほど、すなわち、燃料カットからの復帰後の経過時間が短いほど顕著になる。したがって、経過時間の短さに応じて不感帯域を拡大することとすれば、燃料カットからの復帰時における誤学習を効果的に防止することができると考えられる。
[実施の形態4における具体的処理]
本実施の形態では、図6のフローチャートに従って不感帯域の拡大が行われる。図6のフローチャートは学習方法の修正制御としての不感帯拡大制御のルーチンを示している。なお、図6に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図6に示すルーチンの最初のステップS140では、不感帯域の拡大値KEXPが燃料カットからの復帰後の経過時間に基づいて決定される。図中に示すように、拡大値KEXPは燃料カットからの復帰後の経過時間が長くなるに従って小さい値に設定され、経過時間がある時間以上ではゼロに設定される。これは、燃料カットからの復帰後、時間が経過するに従って壁面への燃料の付着が進み、壁面付着燃料の付着状態が安定してくるからである。また、拡大値KEXPの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、復帰後の経過時間が同じでも内燃機関2の温度が高ければ拡大値KEXPは小さい値に設定される。
次のステップS142では、ステップS140で得られた拡大値KEXPを用い、以下の(16)式によって、不感帯域の上限値KAFFHが拡大される。右辺のKAFFHは基準の上限値(一定値)、左辺のKAFFHは拡大された上限値である。
KAFFH=KAFFH+KEXP ・・・(16)
また、ステップS144では、不感帯域の下限値KAFFLが基準の下限値(一定値)に設定される。つまり、燃料カットからの復帰後の経過時間によらず、下限値KAFFLの拡大は行われない。燃料カットからの復帰に起因する現象は壁面への燃料の付着であり、空燃比ずれ指標値AFFの負の方向へずれには影響しないからである。
図6に示すルーチンで決定された不感帯域の上限値KAFFHは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS10の判定に用いられる。また、図6に示すルーチンで決定された不感帯域の下限値KAFFLは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS12の判定に用いられる。
燃料カットからの復帰後は、燃料カット中に脱離した分を補填するように壁面への燃料の付着が進むため、空燃比がリーン化しやすい状況となる。このような状況では、空燃比のリーン化に伴って空燃比ずれ指標値AFFの正の方向へのずれが大きくなる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図6に示すルーチンによれば、燃料カットからの復帰後の経過時間に応じて不感帯域の上限値KAFFHが拡大される。したがって、空燃比ずれ指標値AFFが正の方向へずれたとしても、上限値KAFFHの拡大によって不感帯域内に収まるようになり、空燃比ずれ指標値AFFのずれがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることは防止される。
以上のように、図6に示すルーチンを実行して修正制御としての不感帯拡大制御を行うことで、燃料付着状態の安定度の低さに応じてベーパ濃度補正係数FGPGの更新を行わない不感帯域を拡大することができ、壁面付着燃料量の変化がベーパ濃度補正係数FGPGに与える影響を抑えることができる。また、上記の不感帯拡大制御によれば、不感帯域の拡大方向が燃料カットからの復帰が影響する方向に限定されるので、燃料カットからの復帰が影響しない方向では通常通りにベーパ濃度補正係数FGPGを更新することができ、学習精度の低下を抑えることができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図6に示すルーチンを実行することで、第1、第2、第3、第14及び第15の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態5.
次に、図7を参照して、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図7に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態5にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態1にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS10,S12の判定にかかる空燃比ずれ指標値AFFの不感帯域を、燃料付着状態の安定度の低さに応じて拡大する方法を採る。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、燃料増量の影響の残留度を取得し、残留度の大きさに応じて不感帯域を拡大する。内燃機関2では、WOT時に燃料噴射量の一時的な増量が実施される。また、燃料カットからの復帰後にも触媒の保護のために燃料噴射量の一時的な増量が実施される場合がある。燃料噴射量が増量された分、壁面に付着する燃料も多くなり、壁面付着燃料量は一時的に増大する。しかし、その後、燃料増量から通常の空燃比フィードバック制御に復帰すると、過剰に付着した燃料が壁面から脱離していき、その分、空燃比はリッチ化しやすくなる。壁面からの燃料の脱離は、壁面付着燃料量が過剰なほど、すなわち、燃料増量の影響が残っているほど顕著になる。したがって、燃料増量の影響の残留度に応じて不感帯域を拡大することとすれば、燃料増量からの復帰時における誤学習を効果的に防止することができると考えられる。
[実施の形態5における具体的処理]
本実施の形態では、図7のフローチャートに従って不感帯域の拡大が行われる。図7のフローチャートは学習方法の修正制御としての不感帯拡大制御のルーチンを示している。なお、図7に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図7に示すルーチンの最初のステップS150では、まず、次の(17)式によって増量係数KRICHXの時間方向への平滑化が行われる。増量係数KRICHXは、(1)式で燃料噴射時間TAUの算出に用いられる増量係数KRICHから、冷間時の増量補正分を除いたものである。つまり、増量係数KRICHXは、WOT時の増量補正と燃料カット後の触媒保護のための増量補正とに対応している。(17)式において、RICHSMは基本増量係数KRICHXの平滑値であり、左辺のRICHSMは更新後の平滑値、右辺のRICHSMは更新前の平滑値である。nは平滑化係数である。
RICHSM=RICHSM+(KRICHX−RICHSM)/n ・・・(17)
続いて、以下の(18)式に示すように、増量係数平滑値RICHSMと現在の増量係数KRICHXとの偏差ΔRICHが算出される。増量係数平滑値RICHSMは現在の壁面付着燃料量を示すパラメータであり、現在の増量係数KRICHXは壁面付着燃料量の安定量を示すパラメータである。したがって、偏差ΔRICHが大きいほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して過剰になっている、つまり、燃料増量の影響が多く残っていると言える。したがって、偏差ΔRICHは燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとしての意味を有している。
ΔRICH=RICHSM−KRICHX ・・・(18)
次のステップS152では、ステップS150で算出された偏差ΔRICHに基づいて不感帯域の拡大値KEXPが決定される。図中に示すように、拡大値KEXPは偏差ΔRICHに比例して大きい値に設定される。偏差ΔRICHが大きいほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して過剰になっており、壁面からの燃料の脱離が進むからである。また、拡大値KEXPの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、偏差ΔRICHが同じでも内燃機関2の温度が高ければ拡大値KEXPは小さい値に設定される。
ステップS154では、不感帯域の上限値KAFFHが基準の上限値(一定値)に設定される。つまり、偏差ΔRICHによらず上限値KAFFHの拡大は行われない。燃料増量からの復帰に起因する現象は壁面からの燃料の脱離であり、空燃比ずれ指標値AFFの正の方向へずれには影響しないからである。
次のステップS156では、ステップS152で得られた拡大値KEXPを用い、以下の(19)式によって、不感帯域の下限値KAFFLが拡大される。右辺のKAFFLは基準の下限値(一定値)、左辺のKAFFLは拡大された下限値である。
KAFFL=KAFFL−KEXP ・・・(19)
図7に示すルーチンで決定された不感帯域の上限値KAFFHは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS10の判定に用いられる。また、図7に示すルーチンで決定された不感帯域の下限値KAFFLは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS12の判定に用いられる。
燃料増量からの復帰後は、燃料増量中に過剰に付着した分、壁面からの燃料の脱離が進むため、空燃比がリッチ化しやすい状況となる。このような状況では、空燃比のリッチ化に伴って空燃比ずれ指標値AFFの負の方向へのずれが大きくなる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図7に示すルーチンによれば、燃料増量の影響の残留度に応じて不感帯域の下限値KAFFLが拡大される。したがって、空燃比ずれ指標値AFFが負の方向へずれたとしても、下限値KAFFLの拡大によって不感帯域内に収まるようになり、空燃比ずれ指標値AFFのずれがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることは防止される。
以上のように、図7に示すルーチンを実行して修正制御としての不感帯拡大制御を行うことで、燃料付着状態の安定度の低さに応じてベーパ濃度補正係数FGPGの更新を行わない不感帯域を拡大することができ、壁面付着燃料量の変化がベーパ濃度補正係数FGPGに与える影響を抑えることができる。また、上記の不感帯拡大制御によれば、不感帯域の拡大方向が燃料増量からの復帰が影響する方向に限定されるので、燃料増量からの復帰が影響しない方向では通常通りにベーパ濃度補正係数FGPGを更新することができ、学習精度の低下を抑えることができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図7に示すルーチンを実行することで、第1、第2、第3、第14及び第16の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態6.
次に、図8を参照して、本発明の実施の形態6について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図8に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態6にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態1にかかる修正制御とは異なり、濃度学習ルーチンのステップS40の処理においてベーパ濃度補正係数FGPGの更新に用いられる学習更新量DLFGPGを、燃料付着状態の安定度の低さに応じ縮小する方法を採る。これによれば、壁面付着燃料量の変化に起因して空燃比にずれが生じたとしても、学習更新量DLFGPGが縮小されることでベーパ濃度補正係数FGPGへの反映量を小さくすることができ、壁面付着燃料量の変化がベーパ濃度補正係数FGPGに与える影響を抑えることができる。
また、本実施の形態にかかる修正制御は、濃度学習ルーチンのステップS2の平滑化処理にかかる平滑化係数NNを、燃料付着状態の安定度の低さに応じて大きくする方法も採る。これによれば、壁面付着燃料量の変化が学習更新量DLFGPGの算出に使用される空燃比ずれ指標平滑値DFPGへ反映される速度を低下させることができ、ひいては、壁面付着燃料量の変化がベーパ濃度補正係数FGPGに与える影響を抑えることができる。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態1と同様、基本付着割合WPBSと基本付着割合WPBSの平滑値WPとの偏差ΔWPを取得する。そして、この偏差ΔWPの値に応じて学習更新量DLFGPGを縮小させ、また、偏差ΔWPの値に応じて平滑化係数NNを大きくする。偏差ΔWPを前記パラメータとして修正制御を行うことで、壁面への燃料の付着状況、或いは、壁面からの燃料の脱離状況に応じて学習更新量DLFGPG及び平滑化係数NNを適宜に変化させることができ、壁面付着燃料量の変化が学習値に与える影響を効果的に抑えることができる。
[実施の形態6における具体的処理]
本実施の形態では、図8のフローチャートに従って更新量の縮小が行われる。図8のフローチャートは学習方法の修正制御としての更新縮小制御のルーチンを示している。なお、図8に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図8に示すルーチンの最初のステップS200では、前記の(9)式により、基本付着割合WPBSが算出される。基本付着割合WPBSは壁面付着燃料の安定付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
次のステップS202では、燃料カットの実行中か否か判定される。燃料カットの実行中と判定された場合には、ステップS204において基本付着割合WPBSはゼロに設定される。
次のステップS206では、基本付着割合WPBSの平滑化に用いる平滑化係数nが冷却水温THWに基づいて決定される。平滑化係数nは1以上の値であり、図中に示すように、冷却水温THWが高いほど小さい値に設定される。
次のステップS208では、ステップS206で決定された平滑化係数nを用い、前記の(10)式に従って基本付着割合WPBSの時間方向への平滑化が行われる。ここで算出される基本付着割合平滑値WPは、壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
次のステップS210では、前記の(11)式に示すように、ステップS208で算出された基本付着割合平滑値WPと、ステップS200或いはステップS204で算出された基本付着割合WPBSとの偏差ΔWPが算出される。この偏差ΔWPは燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとしての意味を有している。
次のステップS212では、ステップS210で算出された偏差ΔWPに応じて学習更新量DLFGPGの更新比率KHWPが決定される。図中に示すように、偏差ΔWPがゼロを中心とする所定範囲にある場合には、更新比率KHWPは1に設定される。つまり、偏差ΔWPが所定範囲内であるならば、図2に示すルーチンで算出された学習更新量DLFGPGがそのままベーパ濃度補正係数FGPGの更新に用いられる。しかし、偏差ΔWPが所定範囲を超えて正の大きい値になると、つまり、壁面からの燃料の脱離が進む状況では、偏差ΔWPの値に応じて更新比率KHWPは1よりも小さい値に設定される。また、偏差ΔWPが所定範囲を超えて負の大きい値になった場合も、つまり、壁面への燃料の付着が進む状況でも、偏差ΔWPの値に応じて更新比率KHWPは1よりも小さい値に設定される。なお、更新比率KHWPの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、偏差ΔWPが同じでも内燃機関2の温度が高ければ更新比率KHWPは大きい値に設定される。
ステップS214では、ステップS212で得られた更新比率KHWPを用い、以下の(20)式によって、学習更新量DLFGPGの補正が行われる。(20)式において右辺のDLFGPGは補正前の学習更新量、左辺のDLFGPGは補正後の学習更新量である。
DLFGPG=DLFGPG×KHWP ・・・(20)
次のステップS216では、ステップS210で算出された偏差ΔWPに応じて空燃比ずれ指標値AFFの平滑化に使用する平滑化係数NNが決定される。図中に示すように、偏差ΔWPがゼロを中心とする所定範囲にある場合には、平滑化係数NNは一定値(第1所定値)に設定される。しかし、偏差ΔWPが所定範囲を超えて正の大きい値になると、つまり、壁面からの燃料の脱離が進む状況では、平滑化係数NNは第1所定値よりも大きい第2所定値に設定される。また、偏差ΔWPが所定範囲を超えて負の大きい値になった場合も、つまり、壁面への燃料の付着が進む状況でも、平滑化係数NNは第1所定値よりも大きい第2所定値に設定される。なお、平滑化係数NNの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、偏差ΔWPが同じでも内燃機関2の温度が高ければ前記の第2所定値は小さい値に設定される。また、内燃機関2の温度が高いほど、偏差ΔWPが大きい段階で第1所定値へ切り替えられる。
図8に示すルーチンで補正された学習更新量DLFGPGは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS40の処理においてベーパ濃度補正係数FGPGの更新に用いられる。また、図8に示すルーチンで決定された平滑化係数NNは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS2の平滑化処理に用いられる。
パージカット時のように壁面への燃料の付着が進む状況では、空燃比のリーン化に伴って空燃比ずれ指標値AFFは正の方向にずれることになる。逆に、パージ開始時のように壁面からの燃料の脱離が進む状況では、空燃比のリッチ化に伴って空燃比ずれ指標値AFFは負の方向にずれることになる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図8に示すルーチンによれば、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新に使用される学習更新量DLFGPGが縮小されることで、空燃比ずれ指標値AFFのずれのベーパ濃度補正係数FGPGへの反映量を小さくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。また、図8に示すルーチンによれば、平滑化係数NNが大きくされることで、空燃比ずれ指標値AFFのずれが学習更新量DLFGPGの算出に使用される空燃比ずれ指標平滑値DFPGへ反映される速度を小さくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図8に示すルーチンを実行することで、第1、第4、第5、第13及び第14の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態7.
次に、図9を参照して、本発明の実施の形態7について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図9に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態7にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態6にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS40の処理においてベーパ濃度補正係数FGPGの更新に用いられる学習更新量DLFGPGを、燃料付着状態の安定度の低さに応じ縮小する方法を採る。また、本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態6にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS2の平滑化処理にかかる平滑化係数NNを、燃料付着状態の安定度の低さに応じて大きくする方法も採る。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態4と同様、燃料カットからの復帰後の経過時間を取得する。そして、復帰後の経過時間の短さに応じて学習更新量DLFGPGを縮小し、また、経過時間の短さに応じて平滑化係数NNを大きくする。壁面への燃料の付着は、燃料カットからの復帰後の経過時間が短いほど顕著になるので、経過時間の短さに応じて学習更新量DLFGPGを縮小したり、経過時間の短さに応じて平滑化係数NNを大きくしたりすれば、燃料カットからの復帰時における誤学習を効果的に防止することができると考えられる。
[実施の形態7における具体的処理]
本実施の形態では、図9のフローチャートに従って更新量の縮小が行われる。図9のフローチャートは学習方法の修正制御としての更新縮小制御のルーチンを示している。なお、図9に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図9に示すルーチンの最初のステップS220では、学習更新量DLFGPGの更新比率KHWPCが燃料カットからの復帰後の経過時間に基づいて決定される。図中に示すように、更新比率KHWPCは燃料カットからの復帰後の経過時間が長くなるに従って大きい値に設定され、経過時間が所定時間以上になると1に設定される。これは、燃料カットからの復帰後、時間が経過するに従って壁面への燃料の付着が進み、壁面付着燃料の付着状態が安定してくるからである。また、更新比率KHWPCの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、復帰後の経過時間が同じでも内燃機関2の温度が高ければ更新比率KHWPCは大きい値に設定される。
ステップS222では、ステップS220で得られた更新比率KHWPCを用い、以下の(21)式によって、学習更新量DLFGPGの補正が行われる。(21)式において右辺のDLFGPGは補正前の学習更新量、左辺のDLFGPGは補正後の学習更新量である。
DLFGPG=DLFGPG×KHWPC ・・・(21)
次のステップS224では、空燃比ずれ指標値AFFの平滑化に使用する平滑化係数NNが燃料カットからの復帰後の経過時間に基づいて決定される。図中に示すように、平滑化係数NNは燃料カットからの復帰後の経過時間が所定時間以上では一定値(第1所定値)に設定される。しかし、経過時間が所定時間に達するまでは平滑化係数NNは第1所定値よりも大きい第2所定値に設定される。また、平滑化係数NNの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、復帰後の経過時間が同じでも内燃機関2の温度が高ければ前記の第2所定値は小さい値に設定される。また、内燃機関2の温度が高いほど早い時期に第1所定値へ切り替えられる。
図9に示すルーチンで補正された学習更新量DLFGPGは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS40の処理においてベーパ濃度補正係数FGPGの更新に用いられる。また、図9に示すルーチンで決定された平滑化係数NNは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS2の平滑化処理に用いられる。
燃料カットからの復帰後は、燃料カット中に脱離した分を補填するように壁面への燃料の付着が進むため、空燃比がリーン化しやすい状況となる。このような状況では、空燃比のリーン化に伴って空燃比ずれ指標値AFFの正の方向へのずれが大きくなる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図9に示すルーチンによれば、燃料カットからの復帰後の経過時間が短いときには学習更新量DLFGPGが縮小されることで、空燃比ずれ指標値AFFのずれのベーパ濃度補正係数FGPGへの反映量を小さくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。また、図9に示すルーチンによれば、燃料カットからの復帰後の経過時間が短いときには平滑化係数NNが大きくされることで、空燃比ずれ指標値AFFのずれが学習更新量DLFGPGの算出に使用される空燃比ずれ指標平滑値DFPGへ反映される速度を小さくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図9に示すルーチンを実行することで、第1、第4、第5、第14及び第15の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態8.
次に、図10を参照して、本発明の実施の形態8について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図10に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態8にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態6にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS40の処理においてベーパ濃度補正係数FGPGの更新に用いられる学習更新量DLFGPGを、燃料付着状態の安定度の低さに応じ縮小する方法を採る。また、本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態6にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS2の平滑化処理にかかる平滑化係数NNを、燃料付着状態の安定度の低さに応じて大きくする方法も採る。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態5と同様、燃料増量の影響の残留度を取得する。そして、残留度の大きさに応じて学習更新量DLFGPGを縮小し、また、残留度の大きさに応じて平滑化係数NNを大きくする。壁面からの燃料の脱離は、壁面付着燃料量が過剰なほど、すなわち、燃料増量の影響が残っているほど顕著になるので、燃料増量の影響の残留度に応じて学習更新量DLFGPGを縮小したり、燃料増量の影響の残留度に応じて平滑化係数NNを大きくしたりすれば、燃料増量からの復帰時における誤学習を効果的に防止することができると考えられる。
[実施の形態8における具体的処理]
本実施の形態では、図10のフローチャートに従って更新量の縮小が行われる。図10のフローチャートは学習方法の修正制御としての更新縮小制御のルーチンを示している。なお、図10に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図10に示すルーチンの最初のステップS230では、まず、前記の(17)式によって増量係数KRICHXの時間方向への平滑化が行われる。また、前記の(18)式によって増量係数平滑値RICHSMと現在の増量係数KRICHXとの偏差ΔRICHが算出される。
次のステップS232では、ステップS230で算出された偏差ΔRICHに基づいて学習更新量DLFGPGの更新比率KHWPRが決定される。図中に示すように、更新比率KHWPRは偏差ΔRICHが大きくなるに従って小さい値に設定される。偏差ΔRICHが大きいほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して過剰になっており、壁面からの燃料の脱離が進むからである。また、更新比率KHWPRの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、偏差ΔRICHが同じでも内燃機関2の温度が高ければ更新比率KHWPRは大きい値に設定される。
ステップS234では、ステップS232で得られた更新比率KHWPRを用い、以下の(22)式によって、学習更新量DLFGPGの補正が行われる。(22)式において右辺のDLFGPGは補正前の学習更新量、左辺のDLFGPGは補正後の学習更新量である。
DLFGPG=DLFGPG×KHWPR ・・・(22)
次のステップS236では、ステップS230で算出された偏差ΔRICHに基づいて空燃比ずれ指標値AFFの平滑化に使用する平滑化係数NNが決定される。図中に示すように、平滑化係数NNは偏差ΔRICHが所定値以下では一定値(第1所定値)に設定される。しかし、偏差ΔRICHが所定値以上になると平滑化係数NNは第1所定値よりも大きい第2所定値に設定される。また、平滑化係数NNの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、偏差ΔRICHが同じでも内燃機関2の温度が高ければ前記の第2所定値は小さい値に設定される。また、内燃機関2の温度が高いほど偏差ΔRICHが大きい段階で第1所定値へ切り替えられる。
図10に示すルーチンで補正された学習更新量DLFGPGは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS40の処理においてベーパ濃度補正係数FGPGの更新に用いられる。また、図10に示すルーチンで決定された平滑化係数NNは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS2の平滑化処理に用いられる。
燃料増量からの復帰後は、燃料増量中に過剰に付着した分、壁面からの燃料の脱離が進むため、空燃比がリッチ化しやすい状況となる。このような状況では、空燃比のリッチ化に伴って空燃比ずれ指標値AFFの負の方向へのずれが大きくなる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図10に示すルーチンによれば、燃料増量の影響の残留が大きいときには学習更新量DLFGPGが縮小されることで、空燃比ずれ指標値AFFのずれのベーパ濃度補正係数FGPGへの反映量を小さくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。また、図10に示すルーチンによれば、燃料増量の影響の残留が大きいときには平滑化係数NNが大きくされることで、空燃比ずれ指標値AFFのずれが学習更新量DLFGPGの算出に使用される空燃比ずれ指標平滑値DFPGへ反映される速度を小さくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図10に示すルーチンを実行することで、第1、第4、第5、第14及び第16の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態9.
次に、図11を参照して、本発明の実施の形態9について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図11に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態9にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態1にかかる修正制御とは異なり、濃度学習ルーチンのステップS6の判定にかかる基準回数KCSを、燃料付着状態の安定度の低さに応じて大きくする方法を採る。基準回数KCSを大きくすることで、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期を延長することができる。更新周期が延長されれば、その分、ステップS2での平滑化処理の継続期間も延長されることから、壁面付着燃料量の変化に起因して空燃比に一時的なずれが生じたとしても、そのずれはステップS2での平滑化処理によって十分に吸収できるようになる。その結果、空燃比のずれの影響が緩和された空燃比ずれ指標平滑値DFPGに基づいた学習更新量DLFGPGの算出が可能になり、壁面付着燃料量の変化がベーパ濃度補正係数FGPGに与える影響を抑えることができる。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態1と同様、基本付着割合WPBSと基本付着割合WPBSの平滑値WPとの偏差ΔWPを取得する。そして、この偏差ΔWPの値に応じて基準回数KCSを大きくし、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期を延長する。偏差ΔWPを前記パラメータとして修正制御を行うことで、壁面への燃料の付着状況、或いは、壁面からの燃料の脱離状況に応じて更新周期を適宜に延長することができ、壁面付着燃料量の変化が学習値に与える影響を効果的に抑えることができる。
[実施の形態9における具体的処理]
本実施の形態では、図11のフローチャートに従ってベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期の延長が行われる。図11のフローチャートは学習方法の修正制御としての更新周期延長制御のルーチンを示している。なお、図11に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図11に示すルーチンの最初のステップS300では、前記の(9)式により、基本付着割合WPBSが算出される。基本付着割合WPBSは壁面付着燃料の安定付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
次のステップS302では、燃料カットの実行中か否か判定される。燃料カットの実行中と判定された場合には、ステップS304において基本付着割合WPBSはゼロに設定される。
次のステップS306では、基本付着割合WPBSの平滑化に用いる平滑化係数nが冷却水温THWに基づいて決定される。平滑化係数nは1以上の値であり、図中に示すように、冷却水温THWが高いほど小さい値に設定される。
次のステップS308では、ステップS306で決定された平滑化係数nを用い、前記の(10)式に従って基本付着割合WPBSの時間方向への平滑化が行われる。ここで算出される基本付着割合平滑値WPは、壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
次のステップS310では、前記の(11)式に示すように、ステップS308で算出された基本付着割合平滑値WPと、ステップS300或いはステップS304で算出された基本付着割合WPBSとの偏差ΔWPが算出される。この偏差ΔWPは燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとしての意味を有している。
ステップS312では、ステップS310で算出された偏差ΔWPに応じて基準回数KCSが決定される。図中に示すように、偏差ΔWPがゼロを中心とする所定範囲にある場合には、基準回数KCSは一定値に設定される。しかし、偏差ΔWPが所定範囲を超えて正の大きい値になると、つまり、壁面からの燃料の脱離が進む状況では、偏差ΔWPの値に応じて基準回数KCSは大きくされる。また、偏差ΔWPが所定範囲を超えて負の大きい値になった場合も、つまり、壁面への燃料の付着が進む状況でも、偏差ΔWPの値に応じて基準回数KCSは大きくされる。
図11に示すルーチンで決定された基準回数KCSは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS6の判定に用いられる。
パージカット時のように壁面への燃料の付着が進む状況では、空燃比のリーン化に伴って空燃比ずれ指標値AFFは正の方向にずれることになる。逆に、パージ開始時のように壁面からの燃料の脱離が進む状況では、空燃比のリッチ化に伴って空燃比ずれ指標値AFFは負の方向にずれることになる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図8に示すルーチンによれば、基準回数KCSが大きくされてベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期が延長されることで、空燃比ずれ指標値AFFのずれのベーパ濃度補正係数FGPGへの反映量を小さくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図11に示すルーチンを実行することで、第1、第6及び第13の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態10.
次に、図12を参照して、本発明の実施の形態10について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図12に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態10にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態9にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS6の判定にかかる基準回数KCSを、燃料付着状態の安定度の低さに応じて大きくする方法を採る。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態2と同様、内燃機関2の冷却水温を取得する。そして、冷却水温の低さに応じて基準回数KCSを大きくする。壁面付着燃料の付着状態は冷間時において特に不安定であり、内燃機関の暖機が進むにつれて安定してくる。したがって、冷却水温の低さに応じて基準回数KCSを大きし、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期を延長することとすれば、冷間時における誤学習を効果的に防止することができると考えられる。
[実施の形態10における具体的処理]
本実施の形態では、図12のフローチャートに従ってベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期の延長が行われる。図12のフローチャートは学習方法の修正制御としての更新周期延長制御のルーチンを示している。なお、図12に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図12に示すルーチンのステップS320では、基準回数KCSが冷却水温THWに基づいて決定される。図中に示すように、基準回数KCSは冷却水温THWが低いうちは大きく、冷却水温THWが高くなるに従って小さい値に設定される。これは、冷却水温THWが高くなるに従い、つまり、内燃機関2の暖機が進むに従って吸気通路6の壁面温度も高くなり、壁面付着燃料の付着状態が安定してくるからである。
図12に示すルーチンで決定された基準回数KCSは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS6の判定に用いられる。
冷間時は壁面付着燃料の付着状態が不安定になり、壁面への燃料の付着や壁面からの燃料の脱離によって空燃比が目標空燃比からずれやすい状況となる。このような状況では、空燃比のずれに伴って空燃比ずれ指標値AFFの基準値からのずれも大きくなる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図12に示すルーチンによれば、基準回数KCSが大きくされてベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期が延長されることで、空燃比ずれ指標値AFFのずれのベーパ濃度補正係数FGPGへの反映量を小さくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図12に示すルーチンを実行することで、第1、第6及び第14の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態11.
次に、図13を参照して、本発明の実施の形態11について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図13に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態11にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態9にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS6の判定にかかる基準回数KCSを、燃料付着状態の安定度の低さに応じて大きくする方法を採る。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態4と同様、燃料カットからの復帰後の経過時間を取得する。そして、復帰後の経過時間の短さに応じて基準回数KCSを大きくする。壁面への燃料の付着は、燃料カットからの復帰後の経過時間が短いほど顕著になるので、経過時間の短さに応じて基準回数KCSを大きし、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期を延長することとすれば、燃料カットからの復帰時における誤学習を効果的に防止することができると考えられる。
[実施の形態11における具体的処理]
本実施の形態では、図13のフローチャートに従ってベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期の延長が行われる。図13のフローチャートは学習方法の修正制御としての更新周期延長制御のルーチンを示している。なお、図13に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図13に示すルーチンのステップS330では、基準回数KCSが燃料カットからの復帰後の経過時間に基づいて決定される。図中に示すように、基準回数KCSは燃料カットからの復帰後の経過時間が長くなるに従って小さい値に設定され、経過時間が所定時間以上になると一定値に設定される。これは、燃料カットからの復帰後、時間が経過するに従って壁面への燃料の付着が進み、壁面付着燃料の付着状態が安定してくるからである。また、基準回数KCSの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、復帰後の経過時間が同じでも内燃機関2の温度が高ければ基準回数KCSは小さい値に設定される。
図13に示すルーチンで決定された基準回数KCSは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS6の判定に用いられる。
燃料カットからの復帰後は、燃料カット中に脱離した分を補填するように壁面への燃料の付着が進むため、空燃比がリーン化しやすい状況となる。このような状況では、空燃比のリーン化に伴って空燃比ずれ指標値AFFの正の方向へのずれが大きくなる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図13に示すルーチンによれば、基準回数KCSが大きくされてベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期が延長されることで、空燃比ずれ指標値AFFのずれのベーパ濃度補正係数FGPGへの反映量を小さくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図13に示すルーチンを実行することで、第1、第6、第14及び第15の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態12.
次に、図14を参照して、本発明の実施の形態12について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図14に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態12にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態9にかかる修正制御と同じく、濃度学習ルーチンのステップS6の判定にかかる基準回数KCSを、燃料付着状態の安定度の低さに応じて大きくする方法を採る。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態5と同様、燃料増量の影響の残留度を取得する。そして、残留度の大きさに応じて基準回数KCSを大きくする。壁面からの燃料の脱離は、壁面付着燃料量が過剰なほど、すなわち、燃料増量の影響が残っているほど顕著になるので、燃料増量の影響の残留度に応じて基準回数KCSを大きし、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期を延長することとすれば、燃料増量からの復帰時における誤学習を効果的に防止することができると考えられる。
[実施の形態12における具体的処理]
本実施の形態では、図14のフローチャートに従ってベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期の延長が行われる。図14のフローチャートは学習方法の修正制御としての更新周期延長制御のルーチンを示している。なお、図14に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図14に示すルーチンの最初のステップS340では、まず、前記の(17)式によって増量係数KRICHXの時間方向への平滑化が行われる。また、前記の(18)式によって増量係数平滑値RICHSMと現在の増量係数KRICHXとの偏差ΔRICHが算出される。
次のステップS342では、ステップS340で算出された偏差ΔRICHに基づいて基準回数KCSが決定される。図中に示すように、基準回数KCSは偏差ΔRICHが所定値を超えるまでは一定回数(第1所定回数)に設定される。しかし、偏差ΔRICHが所定値を超えるときには偏差ΔRICHが大きいほど基準回数KCSも大きい値に設定される。偏差ΔRICHが大きいほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して過剰になっており、壁面からの燃料の脱離が進むからである。偏差ΔRICHがある程度まで大きくなると、基準回数KCSは前記の第1所定回数よりも大きい第2所定回数に保持される。
図14に示すルーチンで決定された基準回数KCSは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS6の判定に用いられる。
燃料増量からの復帰後は、燃料増量中に過剰に付着した分、壁面からの燃料の脱離が進むため、空燃比がリッチ化しやすい状況となる。このような状況では、空燃比のリッチ化に伴って空燃比ずれ指標値AFFの負の方向へのずれが大きくなる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図14に示すルーチンによれば、燃料増量の影響の残留が大きいときには基準回数KCSが大きくされてベーパ濃度補正係数FGPGの更新周期が延長されることで、空燃比ずれ指標値AFFのずれのベーパ濃度補正係数FGPGへの反映量を小さくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図14に示すルーチンを実行することで、第1、第6及び第16の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態13.
次に、図15を参照して、本発明の実施の形態13について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図15に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態13にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態1にかかる修正制御とは異なり、燃料付着状態の安定度が低いときにはベーパ濃度補正係数FGPGの更新を中断する方法を採る。ステップS4での学習カウンタCFGPGのインクリメントを停止、或いは、強制的にゼロにリセットすることで、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新を中断することができる。更新を中断することで、壁面付着燃料量の変化による空燃比のずれがベーパ濃度補正係数FGPGに取り込まれることを防止することができる。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態1と同様、基本付着割合WPBSと基本付着割合WPBSの平滑値WPとの偏差ΔWPを取得する。そして、この偏差ΔWPの値に基づいてベーパ濃度補正係数FGPGの更新の中断を判断する。偏差ΔWPを前記パラメータとして修正制御を行うことで、壁面への燃料の付着状況、或いは、壁面からの燃料の脱離状況を正確に把握して更新の中断を判断することができ、壁面付着燃料量の変化が学習値に与える影響を効果的に抑えることができる。
[実施の形態13における具体的処理]
本実施の形態では、図15のフローチャートに従ってベーパ濃度補正係数FGPGの更新の中断が行われる。図15のフローチャートは学習方法の修正制御としての更新中断制御のルーチンを示している。なお、図15に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図15に示すルーチンの最初のステップS400では、前記の(9)式により、基本付着割合WPBSが算出される。基本付着割合WPBSは壁面付着燃料の安定付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
次のステップS402では、燃料カットの実行中か否か判定される。燃料カットの実行中と判定された場合には、ステップS404において基本付着割合WPBSはゼロに設定される。
次のステップS406では、基本付着割合WPBSの平滑化に用いる平滑化係数nが冷却水温THWに基づいて決定される。平滑化係数nは1以上の値であり、図中に示すように、冷却水温THWが高いほど小さい値に設定される。
次のステップS408では、ステップS406で決定された平滑化係数nを用い、前記の(10)式に従って基本付着割合WPBSの時間方向への平滑化が行われる。ここで算出される基本付着割合平滑値WPは、壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
次のステップS410では、前記の(11)式に示すように、ステップS408で算出された基本付着割合平滑値WPと、ステップS400或いはステップS404で算出された基本付着割合WPBSとの偏差ΔWPが算出される。この偏差ΔWPは燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとしての意味を有している。
ステップS412及びS414の処理は、ステップS410で算出された偏差ΔWPが許容範囲を超えているか否か判定するための処理である。ステップS412では、偏差ΔWPが許容範囲の上限値KWP以上か否か判定される。偏差ΔWPが許容範囲の上限値KWP未満の場合にはステップS414に進み、偏差ΔWPが許容範囲の下限値KWP以下か否か判定される。これらの判定の結果、偏差ΔWPが許容範囲内にある場合には、ステップS418の処理によりベーパ濃度補正係数FGPGの更新を許可するフラグが立てられる。これに対し、偏差ΔWPが許容範囲を超えている場合には、ステップS416の処理によりベーパ濃度補正係数FGPGの更新を不許可とするフラグが立てられる。
図15に示すルーチンによりなされた更新中断の判断結果は、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS4の処理に反映される。具体的には、ステップS418の処理によって更新許可フラグが立てられているときには、ステップS4では学習カウンタCFGPGのインクリメントが行われる。これに対し、ステップS416の処理によって更新不許可フラグが立てられているときには、ステップS4では学習カウンタCFGPGのインクリメントは停止、或いは、強制的にゼロにリセットされる。その結果、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新は中断される。
パージカット時のように壁面への燃料の付着が進む状況では、空燃比のリーン化に伴って空燃比ずれ指標値AFFは正の方向にずれることになる。逆に、パージ開始時のように壁面からの燃料の脱離が進む状況では、空燃比のリッチ化に伴って空燃比ずれ指標値AFFは負の方向にずれることになる。空燃比ずれ指標値AFFのずれはベーパ濃度補正係数FGPGに反映されるが、図15に示すルーチンによれば、空燃比ずれ指標値AFFのずれが大きい状況ではベーパ濃度補正係数FGPGの更新は中断されるので、空燃比ずれ指標値AFFのずれがベーパ濃度補正係数FGPGに反映されることはなく、ベーパ濃度補正係数FGPGの誤学習を防止することができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図15に示すルーチンを実行することで、第1、第7及び第13の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態14.
次に、図16を参照して、本発明の実施の形態14について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態13のシステムにおいて、ECU40に、前述の図15に示すルーチンの一部を後述する図16に示すルーチンのように変更して実行させることにより実現される。
[実施の形態14にかかる空燃比制御の特徴]
図15に示すルーチンによれば、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新が中断されているときに偏差ΔWPが再び許容範囲内に入った場合には、その時点においてベーパ濃度補正係数FGPGの更新は再開される。しかしながら、吸気通路6から排気ガスセンサ34までにはガスの輸送遅れが生じるため、壁面付着燃料量の変化が排気ガスセンサ34の出力に表れるまでには幾らかのタイムラグがある。本実施の形態では、このタイムラグを考慮して、偏差ΔWPが再び許容範囲内に入った後、ある程度の時間が経過してからベーパ濃度補正係数FGPGの更新を再開することとしている。これによれば、壁面付着燃料量の変化が学習値に与える影響をより確実に抑えることができる。
[実施の形態14における具体的処理]
本実施の形態では、図16のフローチャートに従ってベーパ濃度補正係数FGPGの更新の中断が行われる。図16のフローチャートは更新中断制御のルーチンの一部であり、図15に示すルーチンのステップS412以降を図16に示すルーチンのように変更して実施する。
まず、図16に示すルーチンのステップS420及びS422の処理は、図15に示すルーチンのステップS410で算出された偏差ΔWPが許容範囲を超えているか否か判定するための処理である。ステップS420では、偏差ΔWPが許容範囲の上限値+KWP以上か否か判定される。偏差ΔWPが許容範囲の上限値+KWP未満の場合にはステップS422に進み、偏差ΔWPが許容範囲の下限値-KWP以下か否か判定される。
ステップS420及びS422の判定の結果、偏差ΔWPが許容範囲内にある場合には、ステップS426の処理により経過時間カウンタCWPの値が一定値だけ増加させられる。この経過時間カウンタCWPは、偏差ΔWPが許容範囲内に入ってからの経過時間に相当する。偏差ΔWPが許容範囲を超えている場合には、ステップS424の処理により経過時間カウンタCWPはゼロにリセットされる。
次のステップS428では、経過時間カウンタCWPの基準回数KTWPWPが読込まれる。本実施の形態では、基準回数KTWPWPは一定値(適合値)に固定されている。ステップS430では、経過時間カウンタCWPが基準回数KTWPWPに達したか否か判定される。経過時間カウンタCWPが基準回数KTWPWPに達するまでは、ステップS434の処理によりベーパ濃度補正係数FGPGの更新を不許可とするフラグが立てられる。これに対し、経過時間カウンタCWPが基準回数KTWPWPに達したら、ステップS432の処理によりベーパ濃度補正係数FGPGの更新を許可するフラグが立てられる。
図16に示すルーチンによりなされた更新中断の判断結果は、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS4の処理に反映される。ステップS434の処理によって更新不許可フラグが立てられている間は、ステップS4では学習カウンタCFGPGのインクリメントは停止、或いは、強制的にゼロにリセットされる。これに対し、ステップS432の処理によって更新許可フラグが立てられたときには、ステップS4では学習カウンタCFGPGのインクリメントが再開され、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新が再開される。
本実施の形態においては、ECU40が図15に示すルーチンの一部を変更して図16に示すルーチンを実行することで、第1、第7、第8及び第13の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態15.
次に、図17を参照して、本発明の実施の形態15について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態14のシステムにおいて、ECU40に、前述の図16に示すルーチンの一部を後述する図17に示すルーチンのように変更して実行させることにより実現される。
[実施の形態15にかかる空燃比制御の特徴]
図16に示すルーチンでは、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新の再開基準となる基準回数KTWPWPを一定値に固定している。これに対し、本実施の形態では、内燃機関2の冷却水温を取得し、冷却水温の低さに応じて基準回数KTWPWPを大きくするようにしている。壁面付着燃料の付着状態は冷間時において特に不安定であり、内燃機関の暖機が進むにつれて安定してくる。したがって、冷却水温の低さに応じて基準回数KTWPWPを大きくし、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新再開までの時間を長くとることとすれば、冷間時における壁面付着燃料量の変化が学習値に与える影響を抑えることができると考えられる。
[実施の形態15における具体的処理]
本実施の形態では、図17のフローチャートに従って基準回数KTWPWPの設定が行われる。図17のフローチャートは更新中断制御のルーチンの一部であり、図16に示すルーチンのステップS428を図17に示すルーチンのように変更して実施する。
図17に示すルーチンのステップS440では、基準回数KTWPWPが冷却水温THWに基づいて決定される。図中に示すように、基準回数KTWPWPは冷却水温THWが低いうちは大きく、冷却水温THWが高くなるに従って小さい値に設定される。これは、冷却水温THWが高くなるに従い、つまり、内燃機関2の暖機が進むに従って吸気通路6の壁面温度も高くなり、壁面付着燃料の付着状態が安定してくるからである。また、基準回数KTWPWPの設定には内燃機関2の回転速度NEも考慮されている。回転速度NEが大きいほどガスの輸送遅れは少なくなるので、冷却水温THWが同じでも回転速度NEが高ければ基準回数KTWPWPは小さい値に設定される。
図17に示すルーチンで決定された基準回数KTWPWPは、図16に示すルーチンに取り込まれてステップS430の判定に用いられる。
実施の形態16.
次に、図18を参照して、本発明の実施の形態16について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態14のシステムにおいて、ECU40に、前述の図16に示すルーチンの一部を後述する図18に示すルーチンのように変更して実行させることにより実現される。
[実施の形態16にかかる空燃比制御の特徴]
図16に示すルーチンでは、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新の再開基準となる基準回数KTWPWPを一定値に固定している。これに対し、本実施の形態では、燃料カットからの復帰後の経過時間を取得し、復帰後の経過時間の短さに応じて基準回数KTWPWPを大きくするようにしている。壁面への燃料の付着は、燃料カットからの復帰後の経過時間が短いほど顕著になる。したがって、復帰後の経過時間の短さに応じて基準回数KTWPWPを大きくし、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新再開までの時間を長くとることとすれば、燃料カットからの復帰時における壁面付着燃料量の変化が学習値に与える影響を抑えることができると考えられる。
[実施の形態16における具体的処理]
本実施の形態では、図18のフローチャートに従って基準回数KTWPWPの設定が行われる。図18のフローチャートは更新中断制御のルーチンの一部であり、図16に示すルーチンのステップS428を図18に示すルーチンのように変更して実施する。
図18に示すルーチンのステップS450では、基準回数KTWPWPが燃料カットからの復帰後の経過時間に基づいて決定される。図中に示すように基準回数KTWPWPは燃料カットからの復帰後の経過時間が長くなるに従って小さい値に設定される。これは、燃料カットからの復帰後、時間が経過するに従って壁面への燃料の付着が進み、壁面付着燃料の付着状態が安定してくるからである。また、基準回数KTWPWPの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が高いほど壁面付着燃料の付着状態は安定するので、復帰後の経過時間が同じでも内燃機関2の温度が高ければ基準回数KTWPWPは小さい値に設定される。
図18に示すルーチンで決定された基準回数KTWPWPは、図16に示すルーチンに取り込まれてステップS430の判定に用いられる。
実施の形態17.
次に、図19を参照して、本発明の実施の形態17について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態14のシステムにおいて、ECU40に、前述の図16に示すルーチンの一部を後述する図19に示すルーチンのように変更して実行させることにより実現される。
[実施の形態17にかかる空燃比制御の特徴]
図16に示すルーチンでは、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新の再開基準となる基準回数KTWPWPを一定値に固定している。これに対し、本実施の形態では、燃料増量の影響の残留度を取得し、残留度の大きさに応じて基準回数KTWPWPを大きくするようにしている。壁面からの燃料の脱離は、壁面付着燃料量が過剰なほど、すなわち、燃料増量の影響が残っているほど顕著になる。したがって、燃料増量の影響の残留度に応じて基準回数KTWPWPを大きくし、ベーパ濃度補正係数FGPGの更新再開までの時間を長くとることとすれば、燃料増量からの復帰時における壁面付着燃料量の変化が学習値に与える影響を抑えることができると考えられる。
[実施の形態17における具体的処理]
本実施の形態では、図19のフローチャートに従って基準回数KTWPWPの設定が行われる。図19のフローチャートは更新中断制御のルーチンの一部であり、図16に示すルーチンのステップS428を図19に示すルーチンのように変更して実施する。
図19に示すルーチンの最初のステップS460では、まず、前記の(17)式によって増量係数KRICHXの時間方向への平滑化が行われる。また、前記の(18)式によって増量係数平滑値RICHSMと現在の増量係数KRICHXとの偏差ΔRICHが算出される。
次のステップS462では、ステップS460で算出された偏差ΔRICHに基づいて基準回数KTWPWPが決定される。図中に示すように、基準回数KTWPWPは偏差ΔRICHが所定値を超えるまでは一定回数(第1所定回数)に設定される。しかし、偏差ΔRICHが所定値を超えるときには偏差ΔRICHが大きいほど基準回数KTWPWPも大きい値に設定される。偏差ΔRICHが大きいほど、壁面付着燃料量がその安定量に対して過剰になっており、壁面からの燃料の脱離が進むからである。偏差ΔRICHがある程度まで大きくなると、基準回数KTWPWPは前記の第1所定回数よりも大きい第2所定回数に保持される。
図19に示すルーチンで決定された基準回数KTWPWPは、図16に示すルーチンに取り込まれてステップS430の判定に用いられる。
実施の形態18.
次に、図20を参照して、本発明の実施の形態18について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図20に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態18にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態1にかかる修正制御とは異なり、壁面付着燃料量の変化がフィードバック補正係数FAFに与える影響を相殺するための補正値を算出し、この補正値を濃度学習ルーチンで使用する空燃比ずれ指標値AFFに反映させる方法を採る。壁面付着燃料量の変化がフィードバック補正係数FAFに与える影響を予め空燃比ずれ指標値AFFから排除しておけば、その空燃比ずれ指標値AFFに基づいて算出される学習更新量DLFGPGに壁面付着燃料量の変化の影響が含まれることはない。したがって、本実施の形態で採る方法によれば、燃料付着状態が不安定になっている場合であっても、高い精度でベーパ濃度補正係数FGPGを学習することができる。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして、実施の形態1と同様、基本付着割合WPBSと基本付着割合WPBSの平滑値WPとの偏差ΔWPを取得する。そして、壁面付着燃料量の変化がフィードバック補正係数FAFに与える影響を相殺するための補正値として、この偏差ΔWPを使用する。偏差ΔWPは、その値が正のときは、壁面からの燃料の脱離に伴う空燃比のリッチ側へのずれの程度を示すパラメータとなり、その値が負のときは、壁面への燃料の付着に伴う空燃比のリーン側へのずれの程度を示すパラメータとなる。したがって、偏差ΔWPを補正値として使用し、空燃比ずれ指標値AFFに加算することで、壁面付着燃料量の変化が空燃比に与える影響を空燃比ずれ指標値AFFから確実に排除することができる。
[実施の形態18における具体的処理]
本実施の形態では、図20のフローチャートに従って壁面付着燃料量の変化の影響を削除するための空燃比ずれ指標値AFFの補正が行われる。図20のフローチャートは学習方法の修正制御としての影響削除制御のルーチンを示している。なお、図20に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図20に示すルーチンの最初のステップS500では、前記の(9)式により、基本付着割合WPBSが算出される。基本付着割合WPBSは壁面付着燃料の安定付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
次のステップS502では、燃料カットの実行中か否か判定される。燃料カットの実行中と判定された場合には、ステップS504において基本付着割合WPBSはゼロに設定される。
次のステップS506では、基本付着割合WPBSの平滑化に用いる平滑化係数nが冷却水温THWに基づいて決定される。平滑化係数nは1以上の値であり、図中に示すように、冷却水温THWが高いほど小さい値に設定される。
次のステップS508では、ステップS506で決定された平滑化係数nを用い、前記の(10)式に従って基本付着割合WPBSの時間方向への平滑化が行われる。ここで算出される基本付着割合平滑値WPは、壁面付着燃料の現在の付着状態を示すパラメータとしての意味を有している。
次のステップS510では、前記の(11)式に示すように、ステップS508で算出された基本付着割合平滑値WPと、ステップS500或いはステップS504で算出された基本付着割合WPBSとの偏差ΔWPが算出される。この偏差ΔWPは、壁面付着燃料の付着状態が不安定となる状況での空燃比のずれの方向及び程度を示すパラメータとしての意味を有している。
ステップS512では、ステップS510で得られた偏差ΔWPを用い、以下の(23)式によって空燃比ずれ指標値AFFが算出される。(23)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFは、前記の(4)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFに、さらに偏差ΔWPと増量係数KRICHとを加算したものに相当する。
AFF=FAF+(ABYF/ABYF0)+ΔWP+KRICH ・・・(23)
図20に示すルーチンで算出された空燃比ずれ指標値AFFは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS2の計算、及びステップS10、S12の判定に用いられる。
フィードバック補正係数FAFには、空燃比の目標空燃比からのずれが反映されるが、その中にはパージガスの影響による空燃比のずれの他、壁面付着燃料量の変化に起因する空燃比のずれや、燃料増量の影響による空燃比のずれも含まれている。図20に示すルーチンによれば、偏差ΔWP及び増量係数KRICHがフィードバック補正係数FAFに加算されることで、これらパージガス以外の要因がフィードバック補正係数FAFに与える影響を相殺することができる。したがって、(23)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFは、パージガスの影響による空燃比のずれのみを反映したものとなり、この空燃比ずれ指標値AFFを使用して学習更新量DLFGPGを算出することで、壁面付着燃料の付着状態が不安定となる状況でのベーパ濃度補正係数FGPGの学習精度を向上させることができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図20に示すルーチンを実行することで、第1、第9及び第13の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態19.
次に、図21を参照して、本発明の実施の形態19について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態20のシステムにおいて、ECU40に、前述の図20に示すルーチンの一部を後述する図21に示すルーチンのように変更して実行させることにより実現される。
[実施の形態19にかかる空燃比制御の特徴]
図2に示すルーチンでは、空燃比ずれ指標値AFFが所定の不感帯域を超えている場合に限って濃度学習が実施されるようになっている。不感帯域を設けることは、ノイズ成分の影響を排除して空燃比制御の安定性を維持する上で有効である。しかし、その反面、パージガスの影響によって空燃比ずれ指標値AFFにずれが生じている場合でも、空燃比ずれ指標値AFFが不感帯域内にあるときには濃度学習が進まないという課題がある。そこで、本実施の形態では、空燃比ずれ指標値AFFから学習更新量DLFGPGを算出する際に、以下の(24)式で表される空燃比ずれ指標値AFFによって学習更新量DLFGPGを算出するようにしている。
AFF=FAF+(ABYF/ABYF0)+ΔWP+KRICH+ΔDL ・・・(24)
(24)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFは、前記の(23)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFに、さらに水増し値ΔDLを加算したものに相当する。水増し値ΔDLは、不感帯域の上限値KAFFH或いは下限値KAFFLに相当し、空燃比ずれ指標値AFFのずれの方向に応じてその値が設定される。水増し値ΔDLを加算することで、空燃比ずれ指標値AFFが不感帯域を超えて濃度学習が実施されることになったときの学習更新量DLFGPGを大きくすることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの学習速度を速めることが可能になる。
[実施の形態19における具体的処理]
本実施の形態では、図21のフローチャートに従って壁面付着燃料量の変化の影響を削除するための空燃比ずれ指標値AFFの補正が行われる。図21のフローチャートは学習方法の修正制御としての影響削除制御のルーチンの一部であり、図20に示すルーチンのS512を図21に示すルーチンのように変更して実施する。
まず、図21に示すルーチンのステップS520では、以下の(25)式によって空燃比の補正方向を示すパラメータである補正方向指標値AFFOが算出される。補正方向指標値AFFOは、前記の(4)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFに増量係数KRICHを加算したものに相当する。増量係数KRICHの加算により燃料増量の影響は排除される。したがって、補正方向指標値AFFOには、パージガスの影響による空燃比のずれ、及び、壁面付着燃料量の変化に起因する空燃比のずれのみが反映されることになる。
AFFO=FAF+(ABYF/ABYF0)+KRICH ・・・(25)
ステップS522では、次の(26)式によって補正方向指標値AFFOの時間方向への平滑化が行われる。(26)式において、AFFOSMは補正方向指標値AFFOの平滑値であり、左辺のAFFOSMは更新後の平滑値、右辺のAFFOSMは更新前の平滑値である。NAは平滑化係数である。
AFFOSM=AFFOSM+(AFFO−AFFOSM)/NA ・・・(26)
次のステップS524では、図2に示すルーチンのステップS32でカウントされている濃度更新回数CFGCNGが所定の基準回数KCNG0以上になっているか否か判定される。濃度更新回数CFGCNGが基準回数KCNG0を超えているならば、濃度学習が十分に進んでいると判断する。一方、濃度更新回数CFGCNGが基準回数KCNG0未満であるならば、ベーパ濃度補正係数FGPGの学習速度を速めて濃度学習を進めることが必要と判断する。
ステップS524の判定の結果、濃度更新回数CFGCNGが基準回数KCNG0以上の場合、ステップS530の処理が実施される。ステップS530では、前述の水増し値ΔDLの値は所定値KΔDL0に設定される。ステップS530が選択される場合には、既に濃度学習が十分に進んでいる状況であるので、学習速度を速めるための空燃比ずれ指標値AFFの水増しは必要ない。したがって、所定値KΔDL0はゼロに設定するのが好ましい。
ステップS526の判定の結果、濃度更新回数CFGCNGが基準回数KCNG0未満の場合は、ステップS526,S528の判定が実施される。これらの判定は、ステップS522で算出された補正方向指標平滑値AFFOから補正方向を検出するための処理である。ここでは、-KDFPG〜+KDFPGの範囲を水増し値ΔDLによる水増し補正を行わない不感帯域としている。不感帯域はノイズ等の影響による誤差を考慮して設定されている。ステップS526では、補正方向指標平滑値AFFOSMが不感帯域の上限値+KDFPG以上か否か判定される。補正方向指標平滑値AFFOSMが上限値+KDFPG未満の場合にはステップS528に進み、補正方向指標平滑値AFFOSMが下限値-KDFPGKWP以下か否か判定される。
ステップS526,S528の判定の結果、補正方向指標平滑値AFFOSMが不感帯域の下限値-KDFPG以下の場合は、ステップS532の処理が実施される。ステップS532では、前述の水増し値ΔDLの値は所定値KΔDL1に設定される。ステップS532が選択されるときは空燃比がリッチ側にずれている状況であるので、空燃比ずれ指標値AFFの値はリッチ方向、すなわち、マイナス方向に水増しすればよい。そうすることで、学習更新量DLFGPGをマイナス方向、すなわち、高濃度方向に大きくすることができ、その分、ベーパ濃度補正係数FGPGの高濃度方向への学習速度を速めることができる。したがって、所定値KΔDL1は負の値、特に、図2に示すルーチンのステップS12で設定されている不感帯域の下限値KAFFL、或いはそれ以下の値に設定するのが好ましい。
一方、ステップS526,S528の判定の結果、補正方向指標平滑値AFFOSMが不感帯域の上限値+KDFPG以上の場合は、ステップS534の処理が実施される。ステップS534では、前述の水増し値ΔDLの値は所定値KΔDL2に設定される。ステップS534が選択されるときは空燃比がリーン側にずれている状況であるので、空燃比ずれ指標値AFFの値はリーン方向、すなわち、プラス方向に水増しすればよい。そうすることで、学習更新量DLFGPGをプラス方向、すなわち、低濃度方向に大きくすることができ、その分、ベーパ濃度補正係数FGPGの低濃度方向への学習速度を速めることができる。したがって、所定値KΔDL2は正の値、特に、図2に示すルーチンのステップS10で設定されている不感帯域の上限値KAFFH、或いはそれ以上の値に設定するのが好ましい。
ステップS526,S528の判定の結果、補正方向指標平滑値AFFOSMが不感帯域内にある場合は、空燃比ずれ指標値AFFの水増し補正の方向が定まらない。したがって、ステップS530の処理によって前述の水増し値ΔDLの値は所定値KΔDL0、つまり、ゼロに設定される。
ステップS536では、ステップS530,S532,S534の何れかで設定された水増し値ΔDLを用い、前述の(24)式によって空燃比ずれ指標値AFFが算出される。ステップS536で算出された空燃比ずれ指標値AFFは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS2の計算に用いられる。なお、ステップS10、S12の判定には、(24)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFではなく、(23)式によって算出される空燃比ずれ指標値AFF、すなわち、水増し補正がされる前の空燃比ずれ指標値AFFが用いられる。
図21に示すルーチンによれば、空燃比がリーン側にずれている場合には、不感帯域の上限値KAFFH以上に設定された水増し値ΔDLがフィードバック補正係数FAFに加算されることで、図2に示すルーチンで算出される学習更新量DLFGPGを低濃度方向に水増しすることができる。逆に空燃比がリッチ側にずれている場合には、不感帯域の下限値KAFFL以下に設定された水増し値ΔDLがフィードバック補正係数FAFに加算されることで、学習更新量DLFGPGを高濃度方向に水増しすることができる。これによれば、不感帯域を設けつつも学習速度を速めることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの学習精度を早期に高めることが可能になる。
また、図21に示すルーチンによれば、図20に示すルーチンと同様、偏差ΔWP及び増量係数KRICHもフィードバック補正係数FAFに加算されることで、これらパージガス以外の要因がフィードバック補正係数FAFに与える影響は相殺される。その結果、パージガスの影響による空燃比のずれのみが反映され学習更新量DLFGPGを得ることが可能となり、壁面付着燃料の付着状態が不安定となる状況でのベーパ濃度補正係数FGPGの学習精度を向上させることができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図20に示すルーチンの一部を変更して図21に示すルーチンを実行することで、第1、第9、第10及び第13の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態20.
次に、図22及び図23を参照して、本発明の実施の形態20について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態20のシステムにおいて、ECU40に、前述の図20に示すルーチンの一部を後述する図22に示すルーチンのように変更して実行させることにより実現される。
[実施の形態20にかかる空燃比制御の特徴]
図21に示すルーチンでは、空燃比のずれの方向に応じた水増し値ΔDLを空燃比ずれ指標値AFFに加算することで、燃料濃度の濃淡に応じた方向に学習更新量DLFGPGを水増しし、それによってベーパ濃度補正係数FGPGの学習速度を速めるようにしている。ところが、パージガスの燃料濃度は、キャニスタ18に吸着されている蒸発燃料の量によって決まり、キャニスタ18に吸着される蒸発燃料の量は、燃料タンク20内で蒸発した燃料量によって決まる。このため、燃料タンク20内での燃料の蒸発状態が不安定なときには、パージガスの燃料濃度も不安定になる可能性が高い。具体的には、燃料タンク20内の温度が高温のときである。このような状況で、空燃比ずれ指標値AFFの水増し補正を実施すると、濃度度学習の精度を却って低下させてしまう可能性がある。そこで、本実施の形態では、燃料タンク20内の温度が高温のときには、空燃比ずれ指標値AFFの水増し補正は禁止することとしている。
また、キャニスタ18に吸着されている蒸発燃料量は、パージに伴って次第に減少していき、それに応じてパージガスの燃料濃度も低下していく。したがって、パージの積算量がある程度まで大きくなったら、空燃比ずれ指標値AFFの値をリーン方向、すなわち、プラス方向に水増しするのが好ましい。そうすることで、学習更新量DLFGPGを低濃度方向に水増ししてベーパ濃度補正係数FGPGの低濃度方向への学習速度を速めることができるからである。そこで、本実施の形態では、図2に示すルーチンのステップS32でカウントされている濃度更新回数CFGCNGが所定の回数まできたら、学習更新量DLFGPGの算出に使用する空燃比ずれ指標値AFFの値をプラス方向に水増しすることとしている。
[実施の形態20における具体的処理]
本実施の形態では、図22のフローチャートに従って壁面付着燃料量の変化の影響を削除するための空燃比ずれ指標値AFFの補正が行われる。図22のフローチャートは学習方法の修正制御としての影響削除制御のルーチンの一部であり、図20に示すルーチンのS512を図22に示すルーチンのように変更して実施する。
まず、図22に示すルーチンのステップS540では、前記の(25)式によって空燃比の補正方向を示すパラメータである補正方向指標値AFFOが算出される。続くステップS542では、前記の(26)式によって補正方向指標値AFFOの時間方向への平滑化が行われる。
ステップS544では、燃料タンク20内の温度THAが所定の基準温度KTH以上になっているか否か判定される。タンク内温度THAが基準温度KTH以上になっている状況では、燃料タンク20内での燃料の蒸発状態が不安定となり、キャニスタ18からのパージガスの燃料濃度も不安定になっている可能性が高い。そこで、タンク内温度THAが基準温度KTH以上のときには、ステップS554の処理が実施される。ステップS554では、前記の(24)式における水増し値ΔDLの値が所定値KΔDL0に設定される。この所定値KΔDL0は前述のようにゼロに設定されている。
タンク内温度THAが基準温度KTH未満の場合には、次にステップS546の判定が実施される。ステップS546では、図2に示すルーチンのステップS32でカウントされている濃度更新回数CFGCNGが所定の基準回数KCNG2以上になっているか否か判定される。濃度更新回数CFGCNGが基準回数KCNG2を超えているならば、濃度学習が十分に進んでいると判断することができる。そこで、濃度更新回数CFGCNGが基準回数KCNG2を超える場合はステップS554の処理が実施され、前記の(24)式における水増し値ΔDLの値は所定値KΔDL0に設定される。
濃度更新回数CFGCNGが基準回数KCNG2未満の場合には、次にステップS548の判定が実施される。ステップS548では、濃度更新回数CFGCNGが所定の基準回数KCNG1以下になっているか否か判定される。基準回数KCNG1は基準回数KCNG2よりも小さい値である。濃度更新回数CFGCNGが基準回数KCNG1を超えているならば、キャニスタ18からの蒸発燃料のパージが進み、パージガスの燃料濃度が低下していることが予想される。そこで、濃度更新回数CFGCNGが基準回数KCNG1を超える場合はステップS558の処理が実施され、水増し値ΔDLの値は所定値KΔDL2に設定される。この所定値KΔDL2は前述のように不感帯域の上限値KAFFH以上の値に設定されている。
ところで、パージガスの燃料濃度の低下が予想される状況では、その学習値であるベーパ濃度補正係数FGPGも速やかに低濃度方向、すなわち、プラス方向に変化させたい。そこで、本実施の形態では所定値KΔDL2は一定値ではなく、図23に示すようにベーパ濃度補正係数FGPGに応じて決定される。図23に示す設定によれば、ベーパ濃度補正係数FGPGが高濃度方向、つまり、マイナス方向に大きいほど、所定値KΔDL2は正の大きな値となる。このような設定とすることで、ベーパ濃度補正係数FGPGが高濃度方向にあるほど学習更新量DLFGPGをプラス方向、すなわち、低濃度方向に大きくすることができ、その分、ベーパ濃度補正係数FGPGの低濃度方向への学習遅れを回避することができる。
ステップS548の判定の結果、濃度更新回数CFGCNGが基準回数KCNG1以下の場合は、補正方向指標平滑値AFFOから補正方向を検出するための処理として、ステップS550,S552の判定が実施される。ここでは、-KDFPG〜+KDFPGの範囲を水増し値ΔDLによる水増し補正を行わない不感帯域としている。ステップS550では、補正方向指標平滑値AFFOSMが不感帯域の上限値+KDFPG以上か否か判定される。ステップS552では、補正方向指標平滑値AFFOSMが下限値-KDFPGKWP以下か否か判定される。
ステップS550,S552の判定の結果、補正方向指標平滑値AFFOSMが不感帯域の下限値-KDFPG以下の場合は、空燃比がリッチ側にずれている状況と判断することができる。この場合はステップS556の処理が実施され、水増し値ΔDLの値は所定値KΔDL1に設定される。この所定値KΔDL1は前述のように不感帯域の上限値KAFFH以上の値に設定されている。所定値KΔDL1が水増し値ΔDLとして加算されることで、空燃比ずれ指標値AFFの値をリッチ方向に水増しすることができる。
一方、ステップS550,S552の判定の結果、補正方向指標平滑値AFFOSMが不感帯域の上限値+KDFPG以上の場合は、空燃比がリーン側にずれている状況と判断することができる。この場合はステップS558の処理が実施され、水増し値ΔDLの値は所定値KΔDL2に設定される。所定値KΔDL2が水増し値ΔDLとして加算されることで、空燃比ずれ指標値AFFの値をリーン方向に水増しすることができる。
ステップS550,S552の判定の結果、補正方向指標平滑値AFFOSMが不感帯域内にある場合は、空燃比ずれ指標値AFFの水増し補正の方向が定まらない。したがって、ステップS554の処理によって水増し値ΔDLの値は所定値KΔDL0、つまり、ゼロに設定される。
ステップS560では、ステップS554,S556,S558の何れかで設定された水増し値ΔDLを用い、前述の(24)式によって空燃比ずれ指標値AFFが算出される。ステップS560で算出された空燃比ずれ指標値AFFは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS2の計算に用いられる。なお、ステップS10、S12の判定には、(24)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFではなく、(23)式によって算出される空燃比ずれ指標値AFF、すなわち、水増し補正がされる前の空燃比ずれ指標値AFFが用いられる。
図22に示すルーチンによれば、燃料タンク20内の温度が高くてパージガスの燃料濃度が不安定な状況では、空燃比ずれ指標値AFFの水増し補正は禁止される。この場合は、水増しのない空燃比ずれ指標値AFFに基づいて学習更新量DLFGPGが算出されるので、燃料タンク20内での燃料の蒸発状況が燃料濃度の学習精度に与える影響を抑えることができる。
また、図22に示すルーチンによれば、パージ開始からの積算パージ量がある程度まで大きくなったら、所定値KΔDL2の加算によって空燃比ずれ指標値AFFはリーン方向に水増し補正される。この場合は、リーン方向に水増しされた空燃比ずれ指標値AFFに基づいて学習更新量DLFGPGが算出されるので、キャニスタ18からの蒸発燃料のパージが進み、パージガスの燃料濃度が低下してくると想定される状況での低濃度側への学習速度を速めることができ、燃料濃度の学習精度を早期に高めることが可能になる。
また、図22に示すルーチンによれば、図21に示すルーチンと同様、空燃比がリーン側にずれている場合には、所定値KΔDL2が水増し値ΔDLとしてフィードバック補正係数FAFに加算されることで、学習更新量DLFGPGを低濃度方向に水増しすることができる。逆に空燃比がリッチ側にずれている場合には、所定値KΔDL1が水増し値ΔDLとしてフィードバック補正係数FAFに加算されることで、学習更新量DLFGPGを高濃度方向に水増しすることができる。これによれば、不感帯域を設けつつも学習速度を速めることができ、ベーパ濃度補正係数FGPGの学習精度を早期に高めることが可能になる。
さらに、図22に示すルーチンによれば、図20或いは図21に示すルーチンと同様、偏差ΔWP及び増量係数KRICHもフィードバック補正係数FAFに加算されることで、これらパージガス以外の要因がフィードバック補正係数FAFに与える影響は相殺される。その結果、パージガスの影響による空燃比のずれのみが反映され学習更新量DLFGPGを得ることが可能となり、壁面付着燃料の付着状態が不安定となる状況でのベーパ濃度補正係数FGPGの学習精度を向上させることができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図20に示すルーチンの一部を変更して図22に示すルーチンを実行することで、第1、第9、第10、第11、第12及び第13の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
実施の形態21.
次に、図24を参照して、本発明の実施の形態21について説明する。本実施の形態のシステムは、実施の形態1のシステムにおいて、ECU40に、前述の図3に示すルーチンに代えて、後述する図24に示すルーチンを実行させることにより実現される。
[実施の形態21にかかる空燃比制御の特徴]
本実施の形態にかかる空燃比制御でも、燃料濃度の学習に関し、図2のフローチャートに示す濃度学習ルーチンを基本として、さらに、以下に説明するように学習方法の修正制御を実施することとしている。本実施の形態にかかる修正制御は、実施の形態18にかかる修正制御と同じく、壁面付着燃料量の変化がフィードバック補正係数FAFに与える影響を相殺するための補正値を算出し、この補正値を濃度学習ルーチンで使用する空燃比ずれ指標値AFFに反映させる方法を採る。
本実施の形態にかかる修正制御では、燃料付着状態の安定度に関係するパラメータとして燃料カットの影響の残留度を取得し、この残留度に基づいて壁面付着燃料量の変化がフィードバック補正係数FAFに与える影響を相殺するための補正値を決定する。壁面への燃料の付着は、燃料カットから復帰したときの付着燃料量が少ないほど、すなわち、燃料カットの影響が残っているほど顕著になる。したがって、影響の残留度に応じて大きくなる補正値を空燃比ずれ指標値AFFに加算することで、燃料カットからの復帰時における壁面への燃料の付着が空燃比に与える影響を空燃比ずれ指標値AFFから確実に排除することができる。
また、本実施の形態にかかる修正制御では、実施の形態5と同様に燃料増量の影響の残留度も取得し、この残留度にも基づいて前記補正値を決定する。壁面からの燃料の脱離は、壁面付着燃料量が過剰なほど、すなわち、燃料増量の影響が残っているほど顕著になる。したがって、影響の残留度に応じて大きくなる補正値を空燃比ずれ指標値AFFに加算することで、燃料増量からの復帰時における壁面からの燃料の脱離が空燃比に与える影響を空燃比ずれ指標値AFFから確実に排除することができる。
[実施の形態21における具体的処理]
本実施の形態では、図24のフローチャートに従って壁面付着燃料量の変化の影響を削除するための空燃比ずれ指標値AFFの補正が行われる。図24のフローチャートは学習方法の修正制御としての影響削除制御のルーチンを示している。なお、図24に示すルーチンは、図2に示すルーチンとともに内燃機関2の制御装置であるECU40により実行される。
図24に示すルーチンの最初のステップS570では、燃料カット(F/C)の実行中か否か判定される。判定の結果、燃料カットが実行されていない場合には、ステップS574において燃料噴射カウンタCINJの値が一定値だけ増加させられる。一方、燃料カットの実行中の場合には、ステップS572において燃料噴射カウンタCINJの値は一定値だけ減少させられる。燃料噴射カウンタCINJには増加方向、減少方向のそれぞれに制限値が設けられている。増加方向の制限値は最大値Mであり、減少方向の制限値は最小値ゼロである。
燃料カットからの復帰後の壁面付着燃料量は、燃料カットが実行されていた時間が長いいほど少なく、復帰後の経過時間に応じて増大する。ステップS572の処理は燃料カットの実行時間をカウントしていることに等しく、ステップS574の処理は復帰後の経過時間をカウントしていることに等しい。したがって、前記の燃料噴射カウンタCINJの値は、燃料カットからの復帰後の壁面付着燃料量に関係するパラメータとしての意味を有している。また、復帰後の壁面付着燃料が少ないほど、壁面への燃料付着に伴って空燃比はリーン化することから、燃料噴射カウンタCINJの値は、燃料カットからの復帰後における空燃比のリーン方向へのずれの程度を示すパラメータとしての意味も有している。
次のステップS576では、ステップS572或いはS574で増減された燃料噴射カウンタCINJの値に基づき、空燃比ずれ指標値AFFに反映させるべき補正値ΔWPCが決定される。この補正値ΔWPCは、燃料カットからの復帰後における空燃比のリーン方向へのずれを相殺するための補正値であることから、図中に示すように、マイナスの値に設定されている。また、補正値ΔWPCは、燃料噴射カウンタCINJの値が大きくなるに従ってゼロに近づき、燃料噴射カウンタCINJが所定値以上ではゼロに設定される。これは、燃料噴射カウンタCINJの値が大きいほど壁面付着燃料の付着状態が安定し、空燃比のリーン方向へのずれが小さくなるからである。また、補正値ΔWPCの設定には内燃機関2の温度(冷却水温)も考慮されている。内燃機関2の温度が低いほど壁面付着燃料の付着状態は不安定になるので、燃料噴射カウンタCINJの値が同じでも内燃機関2の温度が低ければ補正値ΔWPCはマイナス方向に大きい値に設定される。
次のステップS578では、まず、前記の(17)式によって増量係数KRICHXの時間方向への平滑化が行われる。また、前記の(18)式によって増量係数平滑値RICHSMと現在の増量係数KRICHXとの偏差ΔRICHが算出される。この偏差ΔRICHは、燃料増量からの復帰後における空燃比のリッチ方向へのずれの程度を示すパラメータとしての意味を有している。
ステップS580では、ステップS576で得られた補正値ΔWPC、及びステップS578で得られた偏差ΔRICHを用い、以下の(27)式によって空燃比ずれ指標値AFFが算出される。(27)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFは、前記の(4)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFに、さらに補正値ΔWPCと増量係数KRICHと偏差ΔRICHとを加算したものに相当する。
AFF=FAF+(ABYF/ABYF0)+ΔWPC+KRICH+ΔRICH ・・・(27)
図24に示すルーチンで算出された空燃比ずれ指標値AFFは、図2に示すルーチンに取り込まれてステップS2の計算、及びステップS10、S12の判定に用いられる。
フィードバック補正係数FAFには、空燃比の目標空燃比からのずれが反映されるが、その中にはパージガスの影響による空燃比のずれの他、壁面付着燃料量の変化に起因する空燃比のずれも含まれている。特に、燃料カットからの復帰後や燃料増量からの復帰後は、壁面付着燃料量の変化に起因する空燃比のずれが顕著になる。図24に示すルーチンによれば、補正値ΔWPC、増量係数KRICH及び偏差ΔRICHがフィードバック補正係数FAFに加算されることで、これらパージガス以外の要因がフィードバック補正係数FAFに与える影響を相殺することができる。したがって、(27)式で算出される空燃比ずれ指標値AFFは、パージガスの影響による空燃比のずれのみを反映したものとなり、この空燃比ずれ指標値AFFを使用して学習更新量DLFGPGを算出することで、燃料カットからの復帰後や燃料増量からの復帰後のように、壁面付着燃料の付着状態が特に不安定となる状況でのベーパ濃度補正係数FGPGの学習精度を向上させることができる。
なお、本実施の形態においては、ECU40が図24に示すルーチンを実行することで、第1、第9、第14、第15及び第16の発明にかかる「学習方法修正手段」が実現されている。
その他.
以上、本発明の代表的な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上記の各実施の形態にかかる修正制御を適宜に組み合わせて実施してもよい。