JP2007314803A - ポリアリーレンスルフィドの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】重合反応終了後の有機アミド溶媒の回収・精製処理に伴うコストの大幅な低減を図り、かつ、機械強度、溶融安定性、成形性などに優れたポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供すること。
【解決手段】有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、反応系内に水を添加して生成ポリマーの濃厚相と希薄相とからなる液−液相分離状態を形成させ、反応終了後、200℃以上の高温状態とした反応混合物を、ノズルを通してフラッシュ用タンクに導入し、有機アミド溶媒を蒸発させて90%以上の回収率で回収する溶媒回収工程を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリアリーレンスルフィドの製造方法に関し、さらに詳しくは、機械強度、溶融安定性、成形性などに優れたポリアリーレンスルフィドを経済的に製造する方法に関する。
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略記)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略記)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であるため、電気・電子機器、自動車機器等の広範な分野において汎用されている。また、PASは、金属または他材料への粉体塗装の分野にも使用されている。
従来、PASの代表的な製造方法として、N−メチル−2−ピロリドン等の有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。この反応は、脱アルカリ金属ハライド(例えば、脱NaCl)縮合反応の繰り返しによってポリマーが生成する縮合重合反応である。PASの開発初期には、高重合度のポリマーを得ることができなかったため、低重合度のポリマーを重合した後、空気の存在下で加熱し、部分架橋を行って高分子量化を行っていた。このようなPASは、一般に、架橋タイプと呼ばれている。低重合度PASを空気の存在下に熱処理して酸化架橋させると、その成形品の強度を上げることができる。しかし、もともと、かなり低重合度のポリマーを高度に架橋しているため、靭性などの機械的特性が十分な成形品を得ることができなかった。また、低重合度PASは、熱処理や溶融成形時の加熱により、溶融粘度が著しく上昇するため、溶融安定性が悪く、かつ、その溶融粘度を所望の範囲に制御することが困難であった。そのため、成形加工性に劣り、また、物性の安定した成形品を得ることが難しかった。
その後、有機アミド溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させる際に、酢酸リチウムなどのアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤としてを用いることにより、重合時に高分子量PASを得る方法が開発された(特許文献2)。このようなPASは、一般に直鎖タイプと呼ばれている。
一方、重合反応終了後に、有機アミド溶媒、生成PAS、副生アルカリ金属ハライド(通常、食塩)、未反応モノマー、オリゴマーなどを含有する反応混合物からPASを回収する方法としては、過去においては、一般に溶媒フラッシュ法(solvent flashing process)が採用されていた。この溶媒フラッシュ法は、加圧下に高温に加熱された反応混合物を、その圧力よりも低い圧力の室内に噴出させると、急激に溶媒の蒸発が起こる現象を利用して、溶媒を回収する方法である。ところが、溶媒フラッシュ法を採用すると、反応混合物から粉末状のPASが回収される。この粉末状PASは、混在しているオリゴマーや低分子量不純物などの除去が難しいという問題があった。
そこで、重合反応終了後、PASが溶融相をなす温度より高温状態にある反応混合物に相分離剤を添加して、有機アミド溶媒からPAS濃厚相を相分離させ、次いで、攪拌下に徐冷することにより、PASスラリーを形成させて、粒状PASを回収する方法が提案された(特許文献3)。相分離剤としては、水、パラフィン系炭化水素、高沸点アルコール、高沸点エーテルなどが例示されている。この方法によれば、反応混合物から比較的大きくて粗い顆粒状PASを含有するスラリーを生成させることができる。したがって、このスラリーを濾別することにより、オリゴマーや低分子量不純物なども濾液とともに除去して顆粒状PASを回収することができる。また、この顆粒状PASは、洗浄によってもさらに不純物を容易に除去することができる。
また、有機アミド溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてPASを製造する方法において、反応系の共存水分量を低く調整して前段重合反応を行い、次いで、反応系に水を添加して共存水分量を上げるとともに、反応温度を上げて、溶融粘度が十分に上昇するまで反応を継続する方法が提案されている(特許文献4)。この二段階重合法によれば、前段重合工程では、共存水分量を低く調整しているため、水分の存在に起因する好ましくない副反応や分解反応を抑制することができる。後段重合工程では、十分な水分量の存在により、有機アミド溶媒中で溶融状態にある生成ポリマーがポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに液−液相分離する。後段重合工程では、反応系の攪拌下、この相分離状態での加熱反応が行われるため、ポリマー濃厚相での重合反応が進行し、直鎖状で高分子量のPASを得ることができる。この方法によれば、酢酸リチウムなどの高価な重合助剤を使用することなく、高分子量PASを得ることができる。しかも、重合反応終了後、反応混合物を冷却すれば、粒径が十分に大きい顆粒状PASを回収することができる。この顆粒状PASは、濾過及び洗浄により、回収しかつ精製することができる。
以上のように、最近では、重合時に、有機カルボン酸塩や水などを重合助剤または相分離剤として使用することにより、高分子量PASを合成し、重合反応終了後には、反応混合物から固−液分離が容易な顆粒状のPASを濾過により回収し、洗浄して精製する方法が主流となっている。ところが、このような高分子量の顆粒状PASの回収方法は、以下に詳述するように、溶媒の回収にコストが掛かり過ぎるという問題があった。
すなわち、反応混合物を冷却して顆粒状PASを含有するスラリーを形成させた後、濾過すると、多くの有機アミド溶媒を回収することができるものの、濾別した顆粒状PAS中には、大量の有機アミド溶媒が残存している。水洗では、有機アミド溶媒を十分に除去することが困難であり、また、洗浄後、大量の洗浄水と有機アミド溶媒とアルカリ金属ハライド(食塩)などを含む混合液から、有機アミド溶媒を分離・精製処理するのが困難である。そのため、濾過後に得られた顆粒状PASと有機アミド溶媒などを含有するウエットケーキは、一般に、アセトンなどの回収用溶媒を用いて洗浄して、有機アミド溶媒を除去している。この有機溶媒洗浄の後、水洗を行って、食塩などの水溶性成分の除去を行っている。有機溶媒洗浄により、有機アミド溶媒とともに、低分子量成分や揮発性成分も除去される。洗浄後、回収用溶媒、有機アミド溶媒、低分子量成分などを含有する溶媒混合物は、有機アミド溶媒の分離と精製、回収用溶剤の分離と精製などの処理を行う必要がある。しかしながら、このような各溶媒の分離・精製処理には、そのための設備とエネルギーを必要とする。また、前述の顆粒状PASを含有するスラリーから濾過により回収された有機アミド溶媒は、精製するために、再加熱して蒸留するなどの精製処理を行う必要がある。これらの処理が、PASの低価格化を妨げる大きな要因となっている。
特公昭45−3368号 特公昭52−12240号公報 特開昭59−1536号公報 特公昭63−33775号公報
本発明の目的は、有機アミド溶媒中、水等の相分離剤の存在下に、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、重合反応終了後の有機アミド溶媒の回収・精製処理に伴うコストの大幅な低減を図り、かつ、機械強度、溶融安定性、成形性などに優れたポリアリーレンスルフィドを製造する方法を提供することにある。
本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、水添加による相分離重合を行った後、有機アミド溶媒を蒸発または蒸留させて回収することによって、前記目的が達成できることを見いだした。
従来、相分離剤または重合助剤を用いて高分子量PASを重合する方法では、反応終了後、攪拌下に反応混合物の温度を下げて、溶融状態の生成ポリマーを粒状化して、有機アミド溶媒中に粒状化したポリマーを含むスラリーを形成させ、次いで、このスラリーを濾過して、顆粒状PASを回収していた。顆粒状PASは、有機アミド溶媒からの濾過が容易であり、また、濾過及び洗浄により、副生物、未反応物、低分子量物などの不純物を除去することも容易である。しかし、この方法は、有機アミド溶媒の分離・精製などにコストが嵩む。
本発明者らは、水添加による相分離重合を行った後、反応混合物にフラッシュによる蒸発手段を適用して有機アミド溶媒の回収を行うことにより、
(1)重合反応終了後、反応混合物が高温状態にある間に、有機アミド溶媒の蒸発を行うことができるため、エネルギーコストを低減することができること、
(2)比較的純度の高い有機アミド溶媒を回収することができ、また、有機アミド溶媒の回収に先立って、相分離剤として使用した水の蒸発または蒸留を行うことにより、回収する有機アミド溶媒の純度を高めることができること、
(3)相分離剤の存在下に重合して得られたPASは、従来の低重合度PASとは異なり、熱処理を行っても、溶融粘度の急激な上昇がなく、熱処理による溶融粘度の制御が容易であり、しかも、熱処理後に、機械強度、溶融安定性、成形性などに優れたポリマーとして得ることができること、
を見いだした。
本発明では、重合反応終了後、有機アミド溶媒回収前に、相分離剤として使用した水を蒸発または蒸留などの方法で先に除去することができる。その場合、反応混合物中の水が減少することにより、副生した食塩などのアルカリ金属ハライドの少なくとも一部が析出して溶媒中に溶け込む割合が減少する。その後、有機アミド溶媒を除去した場合、ポリマー中のアルカリ金属ハライドの含有量は少なくなり、しかも水洗によって容易に洗浄が可能になる。水洗したポリマーを乾燥した後、ポリマーの溶融粘度が増大する条件下に熱処理を行うと、残存する低分子量物や揮発性成分を除去することができる。
このように、本発明の製造方法によれば、重合反応の途中で反応系内に水を添加し、相分離重合させるPASの重合法(水添加二段階重合法)と、フラッシュでの蒸発による有機アミド溶媒の分離・回収法とを組み合わせることにより、比較的短い重合時間でPASを生成させ、機械的強度、溶融安定性、成形性などに優れたPASを提供することができる。特に、二段階重合法において、昇温重合法を採用すると、重合時間の短縮が容易になる。同時に、有機アミド溶媒の回収にかかるコストを大幅に削減することができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明によれば、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、
(A)有機アミド溶媒、アルカリ金属硫化物、及びジハロ芳香族化合物を含有する混合物を加熱して反応させるとともに、反応開始後から反応終了前までの間の所望の時点で、反応系内に水を添加し、それによって、生成ポリマーの濃厚相と希薄相とからなる液−液相分離状態を形成させるに足る量の水を存在させ、次いで、反応終了まで加熱反応を継続させる反応工程;及び
(B)反応終了後、有機アミド溶媒、生成ポリマー、水、及び副生アルカリ金属ハライドを含有し、かつ、200℃以上の高温状態とした反応混合物を、ノズルを通してフラッシュ用タンクに導入し、有機アミド溶媒を蒸発させて90%以上の回収率で回収する溶媒回収工程;
の各工程を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法が提供される。
本発明の製造方法は、溶媒回収工程(B)の後、(C)反応混合物からの溶媒回収後に残存する生成ポリマーと副生アルカリ金属ハライドとを含有する混合物を水洗して、アルカリ金属ハライドを除去し、そして、(D)水洗後の湿潤ポリマーを乾燥する各工程を含むことが好ましい。
また、本発明の製造方法は、乾燥工程(D)の後、(E)乾燥ポリマーを熱処理して、ポリマーの溶融粘度を増大させる工程をさらに含むことが好ましい。
反応工程(A)において、反応開始後、ジハロ芳香族化合物の転化率が50〜98モル%の範囲になった時点で、反応系内に水を添加し、それによって、液−液相分離状態を形成させるとともに、この液−液相分離状態で反応終了まで加熱反応を継続することが好ましい。
溶媒回収工程(B)において、有機アミド溶媒の回収に先立って、反応混合物から、少なくとも一部の水を蒸発または蒸留させて除去する工程を配置することが好ましい。
本発明の製造方法によると、溶媒回収を低コストで行なうことができるため、PASを安価に製造することができる。また、相分離剤として水を使用する重合を行なうので、短時間で比較的高分子量のPASが得られる。重合、溶媒回収、水洗、乾燥の工程で比較的溶融粘度の高いPASを得た後、熱処理すると、所望の溶融粘度のPASを得るのに、穏やかな熱処理を行なうだけでよい。
本発明の方法により得られたPASは、熱処理時の溶融粘度上昇率が低いので、溶融粘度のコントロールが容易で、所望の溶融粘度のPASを得るのが容易である。よって、溶融粘度のロット間のバラツキが少なく、ポリマーの加工を安定に行うことができ、得られる成形品も諸特性のバラツキの少ない物が得られる。また、重合反応終了後に、反応混合物の脱水を行ってから溶媒回収を行うと、所望の溶融粘度や分子量を有するPASを安定的に得ることができ、しかも金属成分の含有量が少ないPASを得ることができる。
以下、本発明について詳述する。
(アルカリ金属硫化物)
本発明で使用されるアルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。これらのアルカリ金属硫化物は、通常、水和物として市販され、使用される。水和物としては、例えば、硫化ナトリウム9水塩(Na2S・9H2O)、硫化ナトリウム5水塩(Na2S・5H20)等が挙げられる。アルカリ金属硫化物は、水性混合物として使用してもよい。また、アルカリ金属硫化物は、硫化水素またはアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、有機アミド溶媒中で、in situで調製することができる。アルカリ金属硫化物は、他の反応缶で調製したものを利用することもできる。アルカリ金属硫化物中に微量存在することがあるアルカリ金属水硫化物やアルカリ金属チオ硫酸塩と反応させるために、アルカリ金属水酸化物を併用して、これらの微量成分を除去ないしはアルカリ金属硫化物への変換を行うことができる。アルカリ金属硫化物の中でも、硫化ナトリウム及び水硫化ナトリウムが、安価であることから特に好ましい。
本発明の製造方法において、脱水工程で脱水されるべき水分とは、上記の水和水、水性混合物の水媒体、及びアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応により副生する水などである。
(ジハロ芳香族化合物)
本発明で使用されるジハロ芳香族化合物は、芳香環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するジハロゲン化芳香族化合物である。ジハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられる。ここで、ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、同一ジハロ芳香族化合物において、2つのハロゲン原子は、同じでも異なってもよい。これらのジハロ芳香族化合物において、2つのハロゲン原子は、同じでも異なってもよい。ジハロ芳香族化合物は、カルボシキル基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基等の置換基を1つ以上有していても構わない。ジハロ芳香族化合物が置換基を複数固有する場合、置換基の種類は、単独でも、異なる種類の組み合わせであっても構わない。これらジハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明におけるジハロ芳香族化合物の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常、0.9〜1.2モルである。
(分子量調整剤、分岐・架橋剤)
生成PASの末端を変性させ、あるいは重合反応や分子量を調節する等のために、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)を併用することができる。分岐または架橋重合体を生成させるために、3個以上のハロゲン原子が結合したポリハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物等を併用することも可能である。分岐・架橋剤としてのポリハロ化合物として、好ましくはトリハロベンゼンが挙げられる。
(有機アミド溶媒)
本発明では、重合反応の溶媒として、有機アミド溶媒(すなわち、非プロトン性極性有機溶媒)を用いる。有機アミド溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと呼ぶ)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物またはN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。これらの有機アミド溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの有機アミド溶媒の中でも、N−アルキルピロリドン化合物、N−シクロアルキルピロリドン化合物、及びN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、特に、NMP、N−メチル−ε−カプロラクタム、及び1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。本発明の重合反応に用いられる有機アミド溶媒の使用量は、アルカリ金属硫化物1モル当たり、通常、0.1〜10kg、好ましくは0.15〜1kgの範囲である。
(相分離剤)
本発明では、重合反応を促進させ、高分子量PASを短時間で得るために、相分離剤として水を使用する。必要に応じて、水と水以外の相分離剤を併用してもよいが、水単独または水を主成分とすることが好ましい。反応系に相分離剤を存在させると、有機アミド溶媒中で溶融状態にある生成ポリマー(プレポリマーを含む)が、ポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに液−液相分離する。このような相分離状態で加熱反応を継続すると、重合度が高まり、高分子量PASを得ることができる。相分離剤は、このような相分離が生じるのに十分な量で反応系に存在させる。
本発明では、相分離剤として水を使用するが、補助的に、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウム、リン酸アルカリ金属塩などを加えることは構わない。しかしながら、これらの金属塩を使用すると、重合反応により生成するスラリーの粘度が高くなったり、乾燥したポリマー中に金属などの不純物が残り、ポリマーの機械的特性及び電気的特性が低下する。これに対して、相分離剤として、水を単独で、あるいは水を主成分として使用することにより、重合反応後に得られる重合反応混合物の粘度を比較的低くすることができ、かつ、ポリマーの機械的特性及び電気的特性を悪くする要素を除去ないしは抑制することができる。
相分離剤の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01〜10モル、好ましくは2.0モル超過、10モル以下となる範囲である。相分離剤の一部は、重合の仕込み時から共存していても構わないが、重合反応の途中で相分離剤を添加して、相分離を形成するのに十分な量に調整することが望ましい。有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてPASを製造する方法では、通常、仕込み段階で、共存水分量を調整することが多く、その場合、相分離剤の水の一部は、仕込み段階から共存している。しかし、重合初期から多量の水が存在すると、望ましくない副反応や分解反応を生じやすいので、仕込み時には、共存水分量を限定された範囲内に制御し、重合反応の途中で、反応系に水を添加して、共存水分量の全体が相分離に必要な量となるように調整することが望ましい。
(重合反応)
本発明では、有機アミド溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させることにより、PASを製造する。この重合反応では、一般に、重合工程に先立ち、有機アミド溶媒とアルカリ金属硫化物と水分とを含む混合物を加熱脱水して、重合反応系の水分量を調節する(脱水工程)。脱水工程の後、当該脱水工程で得られた組成物とジハロ芳香族化合物とを混合し、有機アミド溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを加熱して重合反応させる(重合工程)。
(脱水工程)
脱水工程は、望ましくは不活性ガス雰囲気下、アルカリ金属硫化物を有機アミド溶媒中で加熱し、蒸留により水を反応系外へ分離することにより実施する。アルカリ金属硫化物は、通常、水和物または水性混合物として使用するため、必要量以上の水分を含有している。また、硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合は、等モル程度のアルカリ金属水酸化物を添加し、有機アミド溶媒中で両者をin situで反応させてアルカリ金属硫化物に変換する。この変換反応では、水が副生する。脱水工程では、これらの水和水(結晶水)や水媒体、副生水などからなる水分を必要量の範囲内になるまで脱水する。脱水工程では、重合反応系の共存水分量が、アルカリ金属水硫化物1モルに対して、通常、0.3〜5モル程度になるまで脱水する。二段階重合法を採用する場合には、好ましくは0.5〜2.4モル、より好ましくは0.5〜2.0モル程度になるまで脱水する。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、生成ポリマーの分解などの望ましくない副反応を生じやすいので、重合工程の前に水を添加して所望の水分量に調節することが望ましい。
これらの原料の仕込みは、一般的には、常温から300℃、好ましくは常温から200℃の温度範囲内で行われる。原料の仕込み順序は、順不同でよく、さらには、脱水操作の途中で各原料を追加してもかまわない。脱水工程に使用される溶媒としては、前記有機アミド溶媒を用いる。この有機アミド溶媒は、重合工程に使用される有機アミド溶媒と同一であることが好ましく、両者ともNMPであることが特に好ましい。有機アミド溶媒の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり、通常、0.1〜10kgである。
脱水操作は、仕込み後の組成物を、通常、300℃以下、好ましくは60℃から280℃の温度範囲で、通常、15分間から24時間、好ましくは30分間〜10時間、加熱して行われる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両方法の組み合わせがある。脱水工程は、バッチ式、連続式、または両方式の組み合わせ方式などにより行われる。脱水工程を行う装置は、重合工程に用いられる反応缶あるいは反応槽と同じであっても、あるいは異なるものであってもよい。脱水工程では、通常、有機アミド溶媒の一部が水とともに共沸して排出される。水は、有機アミド溶媒との共沸混合物としてか、あるいは蒸留により有機アミド溶媒と水とを分離して、水のみとして排出される。脱水工程では、水または水と有機アミド溶媒との共沸混合物とともに、多くの場合、硫化水素が排出される。この排出される硫化水素を、アルカリ水溶液や有機アミド溶媒による吸収等の適当な方法で回収し、アルカリ金属硫化物などの硫黄源として再利用することが可能である。
(重合工程)
重合工程は、脱水工程終了後の組成物とジハロ芳香族化合物とを混合し、その混合物を加熱することにより行われる。この混合物を調製する際には、通常、有機アミド溶媒量や共存水分量などの調整を行う。また、この際に、重合助剤その他の添加物を混合してもよい。脱水工程終了後に得られた組成物とジハロ芳香族化合物との混合は、通常、100〜350℃、好ましくは120〜350℃の温度範囲内で行われる。混合順序は、特に制限なく、両成分を部分的に少量ずつ、あるいは一時に添加することにより行われる。
重合反応は、一般に、100〜350℃、好ましくは150〜330℃の範囲で行われる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両方法の組み合わせによる方法が用いられる。重合反応時間は、一般に、10分間〜72時間の範囲であり、望ましくは30分間〜48時間である。本発明の方法を採用すれば、多くの場合、1〜10時間の反応時間で、望ましい物性のPASを回収することができる。重合工程で使用される有機アミド溶媒の量は、前記したとおり、アルカリ金属硫化物1モル当たり、通常、0.1〜10kg程度であるが、この範囲内であれば、重合反応途中でその量を変化させてもかまわない。
重合反応開始時の共存水分量は、アルカリ金属水硫化物1モルに対して、通常0.3〜5モル、好ましくは0.5〜2.4モル、より好ましくは0.5〜2.0モル程度である。ただし、低分子量ポリマーやオリゴマーを得たい場合、あるいは特別の重合方法を採用する場合などには、共存水分量をこの範囲外としてもよい。例えば、共存水分量を、アルカリ金属硫化物1モル当たり、0.1〜15モル、好ましくは0.5〜10モルの範囲内に調整することができる。しかしながら、本発明の方法を適用して高分子量PASを得るには、通常、重合反応初期の共存水分量を前記範囲内に調整することが望ましく、アルカリ金属硫化物1モルに対して、共存水分量を0.5〜2.0モルの範囲内に調整することが特に望ましい。
本発明の製造方法では、反応開始後から反応終了前までの間の所望の時点で、反応系内に水を添加し、それによって、生成ポリマーの濃厚相と希薄相とからなる液−液相分離状態を形成させ、その状態で加熱反応を継続することにより、高分子量または比較的高分子量のPASを生成せしめる。相分離剤としては、コスト、ポリマーからの除去等の理由から、水が望ましい。共存水分量を増加させて相分離状態を形成させる場合、水添加の時期は、重合開始から終了までの間であれば任意の時間に行うことができる。しかし、生成ポリマーの分解や望ましくない副反応の生起を抑制するために、多くの場合、重合反応の初期には、共存水分量を少なくし、モノマー(例えば、ジハロ芳香族化合物)の転化率が50モル%以上、好ましくは50〜98モル%となった段階で、水を添加して、共存水分量を相分離に必要な量にまで高める方法が望ましい。一般的には、少なくとも反応終了時より前に、相分離に必要な量の水を存在させて、液−液相分離状態を形成させるとともに、この液−液相分離状態で加熱反応をさらに継続して重合反応を終了させることが望ましい。
重合反応の途中で共存水分量を増加させる方法としては、例えば、
(1)前段工程:仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.5〜2.0モルの水が存在する状態で、180〜235℃の温度範囲内で反応を行って、ジハロ芳香族化合物の転化率50〜98モル%でプレポリマーを生成させ、次いで、
(2)後段工程:反応系内に、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり2.0モル超過、10.0モル以下の水が存在する状態となるように水を添加するとともに、245〜290℃の温度範囲内に昇温して、加熱反応を継続する
方法(特公昭63−33775号公報)がある。
この二段階重合法によれば、相分離剤として水を使用して、高分子量のPASを得ることができる。特に、水分量を増大させて加熱反応継続する後段重合工程では、相分離剤の水が十分な量で存在するため、有機アミド溶媒中で溶融状態にある生成ポリマーがポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに液−液相分離する。この相分離状態で加熱反応を継続すると、ポリマー濃厚相での重合反応が効率よく進行し、直鎖状で高分子量のPASを得ることができる。この二段階重合法を本発明の方法に組み込むと、10時間以内の短時間の重合反応でも良好な物性を有するPASを得ることができる。
また、このような二段階重合反応において、前段重合工程を昇温させながら行うことにより、後段重合工程に短時間で切り替えることができる。この場合の好ましい昇温重合条件としては、
(1)工程1:仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.5〜2.0モルの水を含有する有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを170〜270℃の温度範囲内で反応させ、その際、この温度範囲内の少なくとも220℃から240℃までの間を平均0.1〜1℃/分の昇温速度で昇温させながら反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率50〜98モル%でプレポリマーを生成させ、次いで、
(2)工程2:仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり2.0モル超過、10モル以下の水が存在する状態となるように、反応系内に水を235℃以上の温度で添加するとともに、245〜290℃の温度範囲内で反応を継続する
方法(特開平8−183858号公報)がある。
本発明では、その他公知の各種重合方法、あるいはその変形方法を適用することができ、特に、特定の重合方法に限定されない。重合反応方式は、バッチ式、連続式、あるいは両方式の組み合わせでもよい。バッチ式重合では、重合サイクル時間を短縮する目的のために、2つ以上の反応缶を用いる方式を用いてもかまわない。
(重合反応後の脱水工程)
本発明の製造方法においては、重合反応終了後に、反応混合物から有機アミド溶媒を回収するが、この溶媒回収工程の前に、反応混合物の脱水を行うことが望ましい。脱水は、重合反応終了時の温度を保持しながら、あるいはポリマーが析出しない温度まで連続的に若しくは段階的に降温して行う。脱水は、通常180〜290℃、好ましくは200〜280℃の範囲の脱水温度で行う。脱水温度が290℃を越えると、溶媒の分解等の好ましくない反応が起こり、所定の溶融粘度や分子量のポリマーを得ることが困難になる。脱水温度が180℃より低くなると、次工程で有機アミド溶媒を蒸発または蒸留により回収する際に、有機アミド溶媒の回収効率が低下したり、あるいは、回収効率を上げるために、多くの熱エネルギーが必要となるため、経済的に不利である。脱水時間は、通常、1分間〜12時間、好ましくは5分間〜10時間である。
脱水は、重合反応混合物中の水分量を、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり、2.0モル以下、好ましくは1.8モル以下、より好ましくは1.5モル以下になるまで行う。反応混合物中の水分量が多すぎると、次の有機アミド溶媒の回収工程に至るまでの間や、当該溶媒回収工程中にも、重合反応がさらに進行しやすく、その結果、生成ポリマーの分子量が顕著に変化することがある。したがって、所望の分子量を有する均一性の高いポリマーを安定的に得るには、この脱水工程で、反応混合物中の水分量をできるだけ減らすことが望ましい。
脱水は、反応混合物中の水を蒸発により分離することにより行う。その際、蒸発分留により水のみを分離する方法、水と反応混合物中の有機アミド溶媒の一部と一緒に蒸発させて分離する方法を用いることができる。また、脱水の際に、例えば、未反応のジハロ芳香族化合物、分子量調整剤、分岐・架橋剤、未反応のアルカリ金属硫化物またはその分解により生成した硫黄化合物などが蒸発または揮散する。蒸発または揮散したこれらの化合物は、そのまま分離することが好ましいが、生成ポリマーと一緒に回収しても、洗浄または熱処理により容易に分離、除去できる場合には、これらの化合物を脱水中もしくは脱水終了後に、反応混合物中に戻しても構わない。
脱水は、通常、加圧状態で行い、脱水の進行とともに、系内の圧力は減少するが、加圧または減圧操作により、一定圧力を保ちながら行ってもよい。脱水は、常圧で行うこともできる。脱水終了後、必要に応じて、次工程に適した圧力になるように、加圧または減圧を行って、系内の圧力を調整することができる。
(重合溶媒の回収)
本発明の製造方法においては、重合反応終了後に、有機アミド溶媒、生成ポリマー、相分離剤、及び副生アルカリ金属ハライドを含有する反応混合物から、有機アミド溶媒を蒸発または蒸留させて回収する。反応混合物中には、上記各成分以外に、通常、未反応モノマー、オリゴマー等の低分子量物、各種添加剤(添加した場合)などが含まれる。アルカリ金属ハライドは、通常、食塩である。
反応混合物から有機アミド溶媒を蒸発(揮発を含む)または蒸留により回収するには、通常、高温状態にある反応混合物を蒸発または蒸留させる。この際、必要があれば、反応混合物を加熱または再加熱して、蒸発または蒸留に必要な温度に調整することができる。有機アミド溶媒及び生成ポリマーの回収が容易であること、操作性が良好であることから、本発明では、溶媒フラッシュ法により、有機アミド溶媒を蒸発させて回収する。有機アミド溶媒の回収に先立って、反応混合物中の水を留去することにより、溶融粘度や分子量の均一性の高いポリマーを得ることができる。また、脱水により、後の洗浄において、生成ポリマーから副生アルカリ金属ハライドを分離しやすくなり、最終ポリマー中の金属成分の含有量が少なくなる。さらに、脱水により、有機アミド溶媒の回収率及び純度を改良することができる。
溶媒フラッシュ法は、広く一般に既知の方法によって行うことができる。具体的には、例えば、重合反応終了後、高温状態にある反応混合物をノズルを通してフラッシュ用タンクに導入し、気化させる方法が挙げられる。この際、有機アミド溶媒の回収効率を高めるために、フラッシュ用タンク内を真空または減圧にすることが望ましい。また、フラッシュ用タンク内で蒸発した有機アミド溶媒をフラッシュ用タンク外に効率良く排出して回収するために、気体を流通させることもできる。この気体としては、不活性気体が望ましい。この不活性気体としては、窒素ガス、炭酸ガス、水蒸気などを挙げることができる。これらの中でも、コストの点で窒素ガスが好ましい。
重合反応混合物は、バッチ的(回分的)、または連続的にあるいはこれらを組み合せて、ノズルを通して、溶媒フラッシュしながらフラッシュ用タンクに導入する。有機アミド溶媒の回収が不十分な場合には、フラッシュ系に、別途、熱を供給して、回収率を向上させることも可能である。熱の供給法としては、例えば、フラッシュ用タンクをバンドヒーター等で加温する方法を挙げることができる。蒸発した有機アミド溶媒のフラッシュ用タンク外への排出を促進するために気体を流通させる場合には、この気体を加温して流通させることにより、熱を供給する方法も採用することができる。また、フラッシュした混合物をフラッシュ用タンクから排出しながら、あるいは排出してから、熱を供給したり、真空、減圧にしたり、さらには、これらを組み合せて、有機アミド溶媒の回収率を高めることもできる。
フラッシュする際、フラッシュ用タンクに供給する反応混合物の温度は、沸点やフラッシュ用タンク内の圧力などを勘案して、溶媒回収率が高くなる温度に調整する。例えば、有機アミド溶媒としてNMPを使用した場合、通常200℃以上、好ましくは220℃以上、より好ましくは240℃以上とすることが望ましい。フラッシュした混合物は、バッチ的(回分的)または連続的にあるいはこれらを組み合せてフラッシュ用タンクから取り出す。
このようにして、溶媒フラッシュ法での蒸発により、反応混合物から有機アミド溶媒とその他の成分とを分離する。この溶媒回収工程では、有機アミド溶媒を90%以上、好ましくは95%以上の回収率で回収する。多くの場合、98%以上の回収率で反応混合物から有機アミド溶媒を回収することができる。
溶媒回収後に残る成分は、生成ポリマーと副生アルカリ金属ハライドとを含有する混合物であり、通常、固形である。相分離剤として、有機スルホン酸金属塩やハロゲン化リチウム、有機カルボン酸金属塩、リン酸アルカリ金属塩などを用いた場合には、これらの金属塩も固形の混合物(固形分)中に含まれる。また、オリゴマーなどの低分子量成分や各種添加剤(添加した場合)も、固形分中に含まれる。このような固形分中に残存する有機アミド溶媒の量は、溶媒回収効率の点から見て、生成ポリマーに対して、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下とすることが望ましい。
溶媒回収後に残存する固形分には、生成ポリマーが粉末状または粒状の形態で含まれている。溶媒回収時の混合物の温度が、粒状化した生成ポリマーを含有するスラリーを形成するのに十分な程度に低い場合には、粒状化しやすく、高温であれば、粉末状になりやすい。
(水洗)
本発明では、溶媒回収後に残存する生成ポリマーと副生アルカリ金属ハライドとを含有する混合物(固形分)を水洗して、アルカリ金属ハライドを除去する。
固形分中に水に可溶性の金属塩(相分離剤)が存在している場合には、この水洗工程によって除去される。水洗は、バッチ式、連続式、及びこれらを組み合わせて行なうことができる。バッチ式の場合、攪拌を行ないつつ水洗を行なうことが好ましい。この時の水対PASの重量比は、水/PAS=2〜15、好ましくは5〜10である。洗浄1回当たりの時間としては、食塩の如きアルカリ金属ハライド及びその他の水溶性不純物を十分に溶解するのに十分な時間があればよく、好ましくは1〜60分間、より好ましくは5〜30分間である。
水洗後、洗浄水を含むPASを固形分として洗浄水より濾別した後に、固形分中に含まれる洗浄水を水で置換する、いわゆるリンス操作を行なうと、水洗の効率が向上し、水洗回数の低減を図ることができる。
水による洗浄回数としては、1回以上、より好ましくは4回以上である。水洗時の水の温度を、高くすると、食塩等の水溶性不純物の除去効率は高くなる。しかし、高温での水洗の回数をあまり多くするとコスト的に不利であるので、高温での水洗回数は、通常、3回以下、好ましくは2回以下である。もちろん、高温水での洗浄を省略してもよい。高温洗浄の水温は、通常、120〜270℃、好ましくは150〜200℃である。
本発明では、生成ポリマーを含む固形分の洗浄は、基本的に水だけで行うが、必要があれば、アセトンなどの有機溶媒洗浄を行ってもよい。また、次の乾燥工程を容易にするために、水と親和性のあるアルコールなどの低沸点溶媒での洗浄を行ってもよい。これらの洗浄液中には、有機アミド溶媒が少量しか含まれていないため、洗浄に使用した溶媒の回収が容易である。また、洗浄での使用量も少なくて済む。ただし、コスト高を避けるには、これらの洗浄用溶媒の使用量を極力抑制し、さらには、水だけで洗浄することが好ましい。なお、PASを酸や塩化アンモニウムなどの塩を含有する水溶液で処理することもできる。
(乾燥)
このようにして水洗を行い、溶媒回収工程で得られた固形分から、食塩などのアルカリ金属ハライドを主成分とする水溶性成分を十分に除去し、然る後、通常の方法により乾燥する。乾燥温度は、特に限定されないが、乾燥効率の観点からは、100℃以上の乾熱雰囲気下で行うことが好ましい。乾燥温度の上限は、乾燥時間にもよるが、PASが実質的に空気酸化による粘度上昇が起きない条件とすることが好ましく、この観点から、150℃未満が好ましい。ただし、200℃程度までの高温であっても、短時間の乾燥でポリマー粒子表面の水分を除去することができ、粘度上昇を実質的に伴わなければ、採用することができる。
乾燥は、バッチ式、連続式のどちらの方法も可能である。また、これらの方法を組み合わせて操作することもできる。なお、連続式で乾燥を行なう場合には、乾燥器内の温度分布やポリマー分布を調節することにより、乾燥後の熱処理まで含めて連続で行なうこともできる。
前記の重合工程、溶媒回収工程、水洗工程、及び乾燥工程により得られるPASは、粉末状または粒状である、高温での溶媒フラッシュ法を採用すると、多くの場合、平均粒径10〜200μmの粉体として得られる。また、得られるPASは、高分子量または比較的高分子量のポリマーであり、その溶融粘度(310℃、剪断速度1200/秒で測定)は、通常、3Pa・s以上、好ましくは5Pa・s以上、より好ましくは10Pa・s以上である。
(熱処理)
前記乾燥工程により得られた乾燥ポリマーは、アルカリ金属ハライドなどの水溶性の副生物や不純物、添加剤等は除去されているものの、水不溶の揮発性成分や低分子量成分は除去されていない。これらの成分は、PASの成形加工時に不具合を引き起こすので、高温での熱処理により除去または低減することが望ましい。
すなわち、本発明では、乾燥ポリマーを、その溶融粘度が増大する条件下で熱処理を行う。この乾燥ポリマーの特徴は、酸素の存在下(通常、空気中)で熱処理を行った場合、溶融粘度の上昇率が小さいことにある。したがって、この乾燥ポリマーを、その溶融粘度が上昇する条件下で熱処理をすることにより、揮発性成分や低分子量物を除去することができるとともに、所望の粘度に増粘させることができ、それによって、機械的強度などの諸物性に優れたポリマーとすることができる。これに対して、相分離剤を使用しないで製造したポリマーを熱処理すると、溶融粘度の上昇率が高く、しかも、機械的強度に劣るポリマーしか得られない。
本発明の方法における熱処理は、通常、150℃以上、ポリマーの融点以下、好ましくは200℃以上、ポリマーの融点−10℃の温度範囲で行う。この熱処理により、乾燥ポリマーの溶融粘度(310℃、剪断速度1200/秒)を増大させる。溶融粘度の上昇率は、特に限定されないが、通常、1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上の上昇率で上昇させる。溶融粘度の上昇率が低すぎると、揮発性成分や低分子量物の除去効率が低く、また、乾燥ポリマーの溶融粘度が十分高くない場合には、機械的強度の改善効果が小さくなる。熱処理による溶融粘度の上昇率の上限は特になく、必要に応じて、10倍または15倍程度まで上昇させることも可能である。これらの溶融粘度の上昇率は、乾燥ポリマーを空気中で260℃/2時間の熱処理条件で熱処理した場合を標準とすることが、ポリマーの物性を特定する上で便利である。
熱処理は、連続式、バッチ式のどちらの方法も可能である。熱処理は、通常の乾燥器または熱処理装置を使って行うことができる。ポリマーは、静置状態でも構わないが、大量のポリマーを均一に熱処理する場合には、何らかの方法でポリマー粒子を流動させることが望ましい。ポリマー粒子を流動させながら熱処理する方法としては、攪拌羽、パドル、または攪拌スクリューを備えた乾燥器または熱処理装置を使用する方法が挙げられる。
熱処理は、通常、空気中で行うが、所望により、減圧下、低酸素濃度の雰囲気下、あるいは、窒素ガス、炭酸ガス、または水蒸気等の不活性な雰囲気下で行うこともできる。ただし、酸素が存在しない雰囲気下で熱処理を行うと、溶融粘度の上昇率を低く抑えることができ、着色の程度も小さいというメリットがあるものの、熱処理コストが高くなる。熱処理は、これらのうち、空気中で行うのがコスト的に最も好ましい。空気中などの酸化性雰囲気下で熱処理を行うと、PASの溶融粘度の上昇率が比較的高くなるが、一方では、ポリマーの成形性、成形物の機械物性が改善されることが多い。すなわち、相分離剤の存在下に重合して得られるPASは、一般に直鎖状の高分子量ポリマーであって、かつ、溶融安定性が良好であるため、溶融粘度を高めても、機械的物性の低下なく、むしろ改善されることが多い。本発明における乾燥ポリマーは、溶融安定性が良好であるが、熱処理後に得られたポリマーも溶融安定性が良好であり、通常の溶融成形加工時の成形性に優れている。
(生成ポリマー)
本発明の製造方法において、熱処理工程を経たPASの溶融粘度は、任意である。このPASは、単独で、もしくは所望により、各種無機充填剤、繊維状充填剤、各種合成樹脂、エラストマー、安定剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤などを配合して、射出成形、押出成形、圧縮成形などの各種成形法により、シート、フィルム、繊維、パイプ、各種成形部品などを成形することができる。また、PASは、粉体のままで、粉体塗料などとしても使用することができる。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、物性の測定方法は、次の通りである。
(1)溶融粘度ポリマーの溶融粘度は、温度310℃、剪断速度1200/秒で測定した。
(2)機械物性(引張強度、曲げ強度)は、引張強度については、ASTM D638、また、曲げ強度については、ASTM D790に従って、それぞれ測定した。
[実施例1]
(重合)
20リットルオートクレーブ(反応缶)に、NMP6,000gと46.30重量%の硫化ナトリウム(NaS)を含む硫化ナトリウム・5水塩3,800gとを仕込み、窒素ガスで置換後、3.5時間かけて、攪拌しながら、徐々に200℃まで昇温して、水1,650gとNMP1,100gを溜出させた。この際、0.50モルのHSが揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効NaSは、22.04モルとなった。HS揮散分は、仕込みNaSの2.22モル%に相当した。
上記脱水工程の後、22.04モルの有効NaSを含む反応缶を180℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)3435g〔pDCB/NaS=1.06(モル比)〕、NMP2815g、水183g〔缶内の合計水量/NaS=1.40(モル比)〕、及び缶内の合計NaOH量が有効NaSに対して6.00モル%となるように純度97%のNaOH13.3gを加えた。なお、反応缶内には、HSが揮散することにより生成したNaOH(1.00モル)が含まれている。
攪拌機を250rpmで攪拌しながら、220℃で4.5時間反応させた(前段重合工程:ジハロ芳香族化合物の転化率=約90モル%)。その後、攪拌数を400rpmに上げて攪拌を続けながら、相分離剤としての水417gを圧入し〔缶内の合計水量/NaS=2.45(モル比)〕、次いで、260℃に昇温して1.0時間反応させた(後段重合工程:相分離重合)。なお、この時のトータルの重合時間は、5.5時間であった。
(重合反応後の脱水)
重合終了後、缶内の温度を260℃に維持したまま、攪拌を維持しながら反応缶上部に取り付けたバルブを解放し、蒸留塔を通して655gの水を溜去した。その際に、少量のpDCBも溜出した。溜去した水の量は、仕込有効NaSの1モル当たり1.65モルであり、この結果、缶内に残された水量は、缶内残存NaSの1モル当たり0.8モルとなった。
(フラッシュ操作)
脱水後、溜去用バルブを閉じ、窒素の圧力で反応缶内の内容物を、ノズルを通して容量80Lのフラッシュ用タンクに移送した。この時、フラッシュ用タンク内には窒素ガスを流通しておき、揮発するNMPをフラッシュ用タンク外に排出し、コンデンサーにより冷却捕集した。捕集されたNMPは、7,632gであった(NMP回収率=99%)。PPSポリマー、及び塩化ナトリウムを含有する固形分5,100gを得た。
(水洗及び乾燥)
フラッシュ操作で得られた固形分中に含まれるPPSに対して、重量で10倍量の水を加え、室温及び170℃にて15分間洗浄し、吸引濾過による固形分の濾取を合計4回繰り返し、得られたウェットポリマーを105℃にて8時間乾燥した。乾燥後のPPSの収量は、2,309g(収率=97%)であった。また、PPSの溶融粘度は、16Pa・sであった。ポリマー中のナトリウム含量は、1,680ppmであった。
(熱処理)
このポリマーの一部を空気循環式オーブン中で260℃/2時間の熱処理を行なったところ、溶融粘度は、36Pa・sに上昇した。この時の溶融粘度上昇率は、2.3倍であった。
[比較例1]
実施例1において、後段重合工程で水を添加しなかったこと、重合反応後の脱水工程において、240gの水(仕込有効Na2 Sの1モル当たり0.6モルの水)を脱水したこと以外は、同様に実施し、乾燥PPSを得た。この時のトータルの重合時間は、実施例1と同じく5.5時間であった。得られた乾燥PPSの溶融粘度は、8Pa・sであった。このポリマーの一部を空気循環式オーブンで260℃/2時間の熱処理を行なったところ、溶融粘度は、53Pa・sにまで増大し、この時の溶融粘度上昇率は、6.6倍であった。
[比較例2]
比較例1において、前段重合時間を10時間で行なう以外は、全て比較例1と同様に実施した。この時のトータル重合時間は、11時間であった。このPPSの乾燥後の溶融粘度は、20Pa・sであった。このポリマーの一部を空気循環式オーブンで260℃/2時間の熱処理を行なったところ、溶融粘度は、86Pa・sにまで増大し、この時の溶融粘度上昇率は、4.3倍であった。
[実施例2]
実施例1と同様にして、脱水工程を行い仕込操作を行った。缶内温度は140℃まで低下した。攪拌機で250rpmで攪拌しながら、缶内温度を140℃から180℃まで30分間かけて昇温し、次いで、缶内温度を180℃から220℃まで60分間かけ昇温した(この時のジハロ芳香族化合物のハロゲン基の反応率は29%であった)。反応缶内温度220℃に達した時点を前段重合工程の開始時間とした。次いで、220℃から240℃までの間を60分間かけ連続昇温(平均昇温速度=0.33℃/分)した(ジハロ芳香族化合物のハロゲンの反応率は78%となった)。さらに、240℃から260℃まで30分間かけ連続昇温し(平均昇温速度0.67℃/分)、前段重合を終了した。前段重合に要した時間は、合計90分(1.5時間)であった(ジハロ芳香族化合物の転化率=約90モル%)。
前段重合終了後、直ちに攪拌機の回転数を400rpmにまで上げ、水417gを260℃にて圧入した(缶内の合計水量は、仕込有効NaSに対してmol比で2.45mol/mol)。この時缶内温度が若干低下した。再び260℃に復帰した時点を後段重合工程の開始時刻とした。260℃に保持し1時間反応させた。後段重合に要した時間は60分(1時間)であった。前段と後段の重合時間の合計は、2.5時間であった。
重合反応終了後の脱水、フラッシュ操作、乾燥、熱処理等の操作は、全て実施例1と同様に行なった。
[比較例3]
実施例2において、後段重合において水を添加しなかったこと除いては、全て実施例2と同様に実施した。
以上の結果を表1に示す。
Figure 2007314803
本発明の製造方法によれば、重合溶媒をフラッシュ法で高い回収率で回収することができ、その後の水洗、乾燥、熱処理工程により、実用性に優れたPPSを得ることができる。表1の結果から明らかなように、本発明の方法によれば、溶融安定性が良好なPPSを得ることができ、熱処理により、所望の溶融粘度に増粘することができる。また、本発明の方法において、後段重合において、相分離剤としての水を添加することにより、短時間の重合で、溶融粘度が高く、しかも熱処理時の粘度上昇率が低く、熱処理で粘度を上昇させる時に粘度コントロールが容易なポリマーが得られることがわかる。また、水添加前の前段重合に昇温重合法を採用することで、前段重合時間を大幅に短縮することができ、引き続き、水を添加し、後段重合を行なうことで、得られる乾燥ポリマーは、溶融粘度が高く、熱処理時の溶融粘度上昇率が低いことが明確に示された。したがって、本発明の方法において、特定の二段階重合法と組み合わせることの利点が示されている(実施例1及び2)。
これに対して、後段重合において水を添加しない場合には、同じ条件で熱処理した場合、熱処理時の粘度上昇率が大きく、また、長時間の重合時間が必要である。溶融粘度が高く、熱処理時の溶融粘度上昇率が低いPPSを短時間で調製するには、重合の後段で相分離剤としての水を添加するのが効果的である。
[比較例4]
実施例1と同様にして、後段相分離重合まで行なった。フラッシュ操作で重合溶媒(NMP)を回収するかわりに、以下に示すとおり、ポリマーの濾別、回収溶剤(アセトン)による重合溶媒の回収、水洗、乾燥を行なった。
具体的には、反応終了後、攪拌を維持しながら、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、重合溶媒と分離した。ポリマー中に残存するNMPを回収するために、アセトン洗を2回行なった。さらに水洗を4回行い、洗浄ポリマーを得た。得られた粒状ポリマーは、105℃で3時間乾燥した。このようにして得られた直鎖状の粒状ポリマーの収率は、85%で、溶融粘度は、51Pa・sであった。この方法では、粒状ポリマーが得られるものの、微粉体などが除かれるため、収率は85%と低く、また、低粘度物が少ないため、溶融粘度が高くなっている。
<機械的物性の測定>
実施例1及び比較例1で得られた各ポリマーを熱処理した各熱処理ポリマー、及び比較例4で得られたポリマーの射出成形物の機械物性を調べた。これらのポリマーの溶融粘度を揃えるために、実施例1で得られた乾燥後ポリマーについては、空気循環式オーブン中で260℃で5時間熱処理して、溶融粘度が56Pa・sのポリマーを得た。比較例1で得られた乾燥後ポリマーについては、260℃で2時間熱処理して、溶融粘度が53Pa・sのポリマーを得た。比較例4で得られたポリマー(粘度=51Pa・s)については、そのまま使用した。
各ポリマー59.6重量部、ガラス繊維(直径13μm)40重量部、及びペンタエリスリトールテトラステアレート(PETS)0.4重量部を配合し、二軸押出機を用いて溶融混練して、PPS樹脂組成物を作製した。このようにして得られた各組成物を用いて、試験片を射出成形法によって成形し、引張強度及び曲げ強度を測定した。結果を表2に示す。
Figure 2007314803
実施例1と比較例1との結果の比較から、熱処理によって同程度の溶融粘度に調整する場合、熱処理前の溶融粘度が大きいものを使った方が優れた機械物性を示すことがわかる。また、実施例1と比較例4との比較から、熱処理前の溶融粘度が大きいものを使って、熱処理により粘度上昇を行なえば、同程度の粘度を有する直鎖状PPS(比較例4)を使った場合と比べ、遜色の無い機械物性を得ることができる。
[実施例3]
実施例1において、後段重合終了後に脱水を行った後、缶内の温度を260℃に維持したまま12時間保持したこと以外は、全て実施例1と同様に行った。乾燥後のPPSの収量は、2,285g(収率=96%)で、溶融粘度は、15Pa・sであった。また、ポリマー中のナトリウム含量は、1,710ppmであった。このポリマーを実施例1と同様に熱処理したところ、溶融粘度は、37Pa・sに上昇し、この時の溶融粘度上昇率は、2.5倍であった。
このように、重合反応終了後に脱水すると、高温で長時間(12時間)保持しても、得られるポリマーの溶融粘度の変化が少なく、得られたポリマーを熱処理しても、溶融粘度上昇率もあまり変化しないことがわかる。また、ポリマー中のナトリウム含量も少ないことがわかる。
[実施例4]
実施例1において、後段重合終了後に脱水を行うことなく、かつ、缶内の温度を260℃に維持したまま12時間保持したこと以外は、全て実施例1と同様に行った。フラッシュにより捕集されたNMPは、7,564gであり(NMP回収率=98%)、PPSポリマー及び塩化ナトリウムを含有する固形分5,150gを得た。洗浄、乾燥を実施例1と同様に行った後のPPSの収量は、2,273g(収率=96%)であり、溶融粘度は、45Pa・sであった。また、ポリマー中のナトリウム含量は、1,890ppmであった。このポリマーを実施例1と同様に熱処理したところ、溶融粘度は89Pa・sに上昇し、この時の溶融粘度上昇率は2.0倍であった。
このように、重合反応終了後に脱水せずに、高温状態を長時間(12時間)維持すると、得られるポリマーの溶融粘度は大きく増大し、ナトリウム含量も多くなることがわかる。すなわち、重合反応終了後に脱水をせずに、そのままフラッシュ法を適用するなど、反応混合物の高温での保持時間が長くなると、重合反応が進行して溶融粘度や分子量が著しく変化するため、所望の溶融粘度や分子量を有するポリマーを安定的に得ることが難しくなる。また、ポリマー中のナトリウム含有量が大きくなると、電気的特性が低下する。したがって、重合反応終了後に脱水工程を配置することが望ましい。
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィドは、機械強度、溶融安定性、成形性などに優れたエンジニアリングプラスチックとして、各種成形品、フィルム、シート、パイプ、繊維等に成形可能であり、粉体塗料としても使用することができるため、電気・電子機器、自動車機器等の広範な分野において利用することができる。

Claims (9)

  1. 有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、
    (A)有機アミド溶媒、アルカリ金属硫化物、及びジハロ芳香族化合物を含有する混合物を加熱して反応させるとともに、反応開始後から反応終了前までの間の所望の時点で、反応系内に水を添加し、それによって、生成ポリマーの濃厚相と希薄相とからなる液−液相分離状態を形成させるに足る量の水を存在させ、次いで、反応終了まで加熱反応を継続させる反応工程;及び
    (B)反応終了後、有機アミド溶媒、生成ポリマー、水、及び副生アルカリ金属ハライドを含有し、かつ、200℃以上の高温状態とした反応混合物を、ノズルを通してフラッシュ用タンクに導入し、有機アミド溶媒を蒸発させて90%以上の回収率で回収する溶媒回収工程;
    の各工程を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  2. 溶媒回収工程(B)の後、
    (C)反応混合物からの溶媒回収後に残存する生成ポリマーと副生アルカリ金属ハライドとを含有する混合物を水洗して、アルカリ金属ハライドを除去する水洗工程;及び
    (D)水洗後の湿潤ポリマーを乾燥して、乾燥ポリマーを得る乾燥工程;
    の各工程をさらに含む請求項1記載の製造方法。
  3. 乾燥工程(D)の後、
    (E)乾燥ポリマーを熱処理して、ポリマーの溶融粘度を増大させる熱処理工程をさらに含む請求項2記載の製造方法。
  4. 反応工程(A)において、反応開始後、ジハロ芳香族化合物の転化率が50〜98モル%の範囲になった時点で、反応系内に水を添加し、それによって、液−液相分離状態を形成させるとともに、この液−液相分離状態で反応終了まで加熱反応を継続する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 溶媒回収工程(B)において、有機アミド溶媒の回収に先立って、反応混合物から、少なくとも一部の水を蒸発または蒸留させて除去する脱水工程を配置する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 熱処理工程(E)において、150℃以上、ポリマーの融点未満の熱処理温度で、酸素の存在下に熱処理する請求項3記載の製造方法。
  7. 熱処理工程(E)において、温度310℃、剪断速度1200/秒で測定したポリマーの溶融粘度を、乾燥ポリマーの溶融粘度の1.3倍以上の上昇率で増大させる請求項3記載の製造方法。
  8. 反応工程(A)において、
    (1)前段工程:仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.5〜2.0モルの水が存在する状態で、180〜235℃の温度範囲内で反応を行って、ジハロ芳香族化合物の転化率50〜98モル%でプレポリマーを生成させ、次いで、
    (2)後段工程:反応系内に、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり2.0モル超過、10.0モル以下の水が存在する状態となるように水を添加するとともに、245〜290℃の温度範囲内に昇温して、加熱反応を継続する
    方法によりポリマーを生成させる請求項1ないし7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. 反応工程(A)において、
    (1)工程1:仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.5〜2.0モルの水を含有する有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを170〜270℃の温度範囲内で反応させ、その際、この温度範囲内の少なくとも220℃から240℃までの間を平均0.1〜1℃/分の昇温速度で昇温させながら反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率50〜98モル%でプレポリマーを生成させ、次いで、
    (2)工程2:仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり2.0モル超過、10モル以下の水が存在する状態となるように、反応系内に水を235℃以上の温度で添加するとともに、245〜290℃の温度範囲内で反応を継続する
    方法によりポリマーを生成させる請求項1ないし7のいずれか1項に記載の製造方法。
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