JP2007314435A - テトラカルボン酸類またはこれらから誘導されるポリエステルイミド及びその製造方法 - Google Patents

テトラカルボン酸類またはこれらから誘導されるポリエステルイミド及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高ガラス転移温度、低誘電率、高透明性、低吸水率およびアルカリエッチング特性を併せ持つ脂環構造とエステル結合を含有するポリイミドを提供する。
【解決手段】一般式(4)[式中、X〜Xは水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基等を示し、Zは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。]で表される構成単位を含むポリエステルイミド。このポリエステルイミドは、エステル基含有半脂環式テトラカルボン酸無水物とジアミンとを反応させて得られるポリエステルイミド前駆体を、加熱あるいは脱水試薬を用いて環化反応(イミド化)させることにより製造される。
Figure 2007314435

【選択図】なし

Description

本発明は、高ガラス転移温度、低誘電率、高透明性、低吸水率およびエッチング特性を併せ持つ、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜およびフレキシブルプリント配線基材、液晶ディスプレー用基材、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基材、太陽電池用基板、半導体素子の保護膜および層間絶縁膜、ハードディスクドライブ(HDD)の回路付サスペンション用絶縁膜、感光材料等として有用な、脂環構造を含有するポリエステルイミドと、その前駆体、さらにその原料となる新規モノマーであるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物またはそのテトラカルボン酸類並びにこれらの製造方法に関する。
ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、フレキシブルプリント配線回路用基材、テープオートメーションボンディング用基材、半導体素子の保護膜および層間絶縁膜、ハードディスクドライブ(HDD)の回路付サスペンション用絶縁膜等、様々な電子デバイスに現在広く利用されている。ポリイミドはまた製造方法の簡便さ、高い膜純度、物性改良のしやすさの点で、非常に有用な材料であり、近年様々な用途毎に適した機能性ポリイミドの材料設計がなされている。
多くのポリイミドは有機溶媒に不溶で、ガラス転移温度以上でも溶融しないため、ポリイミドそのものを成型加工することは通常容易ではない。そのため、ポリイミドは一般に、無水ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸無水物とジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとをN−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性有機溶媒中で等モル反応させて、先ず高重合度のポリイミド前駆体を重合し、この溶液を膜などに成形し、250℃ないし350℃で加熱脱水閉環(イミド化)して製造される。
ポリイミドは、上記のように様々な電子材料用途、特に、回路用耐熱絶縁膜に適用されているが、通常、金属導体層との積層体として用いられる。その際に解決すべき重要な問題点として積層体における熱応力が挙げられる。
すなわち、ポリイミド/金属基板積層体をイミド化温度から室温へ冷却する過程で発生する熱応力はしばしば積層体の反り、膜の剥離、割れ等の深刻な問題を引き起こす。近年、電子回路の高密度化に伴い、多層配線基板が採用されるようになってきたが、たとえ膜の剥離や割れにまで至らなくても、多層基板における応力の残留はデバイスの信頼性を著しく低下させる。
そこで、従来ポリイミド/金属基板積層体の熱応力を低減するためにいくつかの方策、例えば、1)金属基板と同等の低い線熱膨張係数を有するポリイミドを使用すること、2)ポリイミド膜を低弾性率化すること、3)イミド化反応触媒をポリイミド前駆体膜中に添加して、イミド化温度そのものを下げること、4)溶媒可溶性ポリイミドを使用すること、等が検討されている。
このうち、方策4)は汎用有機溶媒に可溶なポリイミドを使用するものである。これは高温での熱イミド化工程を必要としないため、金属基板上にポリイミドの有機溶媒溶液(ワニス)を塗布後、熱イミド化温度よりずっと低い温度で溶媒を蒸発・乾燥するだけでポリイミド膜を形成することができ、金属基板/絶縁膜積層体における熱応力を低減することが可能である。しかしながら、ポリイミドは元来有機溶媒に溶解しにくいため、溶媒可溶性にするにはポリイミド主鎖中への屈曲構造の導入や、側鎖として嵩高い置換基や含フッ素置換基を導入するなどして分子間力を弱める必要があり、それによりガラス転移温度の著しい低下等、好ましくない結果を生ずる恐れがある。
有機溶媒に可溶で且つ耐熱性や優れた膜物性を保持した実用的なポリイミドは殆ど知られておらず、そのようなポリイミドの開発が待ち望まれている。
一方で、近年、重要になりつつある要求特性として低吸水性が挙げられる。すなわち、ポリイミドは一般に吸水率が高いことが知られており、汎用のポリイミドでは2〜3重量%も吸湿する。絶縁層における吸水は絶縁膜の寸法変化、電気特性の低下、導体層のコロージョン、膜の剥離等の深刻な問題を引き起こす。低吸水率を実現するための分子設計として、ポリイミド骨格へのエステル結合の導入が有効であると報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
また、近年、特にマイクロプロセッサーの演算速度の高速化やクロック信号の立ち上がり時間の短縮化が情報処理・通信分野で重要な課題になってきているが、そのためには絶縁膜として使用されるポリイミド膜の誘電率をできるだけ下げることが必要となる。また電気配線長の短縮のための高密度配線および多層配線回路化にとっても、絶縁膜の誘電率が低いほど絶縁層を薄くできる等の点で有利である。
ポリイミドの低誘電率化には骨格中へのフッ素置換基の導入が有効である(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、過度のフッ素化基の導入は基板との密着性の著しい低下を招く恐れがあり、製造コストの点でも不利である。また、芳香族単位を脂環族単位に置き換えてπ電子を減少することも低誘電率化に有効な手段である(例えば、非特許文献3参照)。
しかしながら、低誘電率、低吸水率および溶媒可溶性を同時に有し、かつ耐熱性を保持するポリイミドを得ることは分子設計上容易ではなく、このような要求特性を満足する実用的な材料は今のところ知られていない。ポリイミド以外の低誘電率高分子材料や無機材料も検討されているが、誘電率、耐熱性および靭性の点で要求特性が十分に満たされていないのが現状である。
さらに近年、光学材料用途へ展開する要望から、可視光領域で高い透明性を示すポリイミドの要求が高まっている。この透明性に加えて、耐熱性、可溶性、適度な靭性を兼ね備えたポリイミドが得られれば、液晶ディスプレーやELディスプレー用フレキシブル基板として好適に使用することできるが、このような物性を兼ね備えた材料は知られていないのが現状である。
また、絶縁層としてのポリイミド膜にビアホール形成等の微細加工を施す目的で、ポリイミドあるいはその前駆体自体に感光性能を付与した感光性ポリイミドシステムが盛んに研究されている。一方、非感光性のポリイミド自体を微細加工する場合もある。例えばHDDにおける回路付サスペンションの製造工程では、非感光性のポリイミド膜を強アルカリ等でエッチングする工程が不可欠である。非感光性のポリイミドは有害なヒドラジン系溶液やエタノールアミン等特殊な塩基でエッチングすることができるが、これらの取り扱いや後処理の問題が指摘されている。また、水酸化ナトリウム水溶液等の汎用のアルカリでは通常エッチング速度が遅く、実用性に欠ける。
上記要求特性を有し且つ、汎用の塩基により容易にエッチングできるような材料が開発されれば、上記産業分野において極めて有益な材料を提供しうるが、そのような材料は知られていないのが現状である。
高分子討論会予稿集,53,4115(2004) Macromolecules,24,5001(1991) Macromolecules,32,4933(1999)
本発明は、高ガラス転移温度、低誘電率、高透明性、低吸水率およびアルカリエッチング特性を併せ持つ、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜およびフレキシブルプリント配線基材、液晶ディスプレー用基材、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基材、太陽電池用基板、半導体素子の保護膜および層間絶縁膜、ハードディスクドライブ(HDD)の回路付サスペンション用絶縁膜、感光材料等として有益な脂環式ポリエステルイミドと、その前駆体、さらにその原料となる新規モノマーであるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物またはそのテトラカルボン酸類と、それらの製造方法を提供するものである。
本発明者らは、以上の課題に鑑みて鋭意研究を積み重ねた結果、下記一般式(1)および(2)で表されるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物またはそのテトラカルボン酸類を原料としてジアミンと反応させて得られる、下記一般式(3A)〜(3D)で表される脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体をイミド化することにより誘導される、下記一般式(4)で表される脂環構造含有ポリエステルイミドが、上記産業分野において有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下を要旨とするものである。
[1] 下記一般式(1)および(2)のいずれかで表されるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸無水物またはそのテトラカルボン酸類。
Figure 2007314435
(式(1)および(2)中、X、X、X、X、X、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルキニル基、あるいは炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。Y、Y、Y、Yは全てヒドロキシ基、あるいはYとYのいずれか一方がヒドロキシ基で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基で且つYとYのいずれか一方がヒドロキシ基で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基、あるいはYとYのいずれか一方がハロゲン原子で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基で且つYとYのいずれか一方がハロゲン原子で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基である。)
[2] 核水素化トリメリット酸無水物を酸ハライドに変換し、得られた酸ハライドと4−ヒドロキシフタル酸無水物を塩基の存在下で反応させることを特徴とする請求項1に記載のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸無水物またはそのテトラカルボン酸類の製造方法。
[3] 下記一般式(3A)〜(3D)のいずれかで表される構成単位を含むポリエステルイミド前駆体。
Figure 2007314435
(式(3)中、X、X、X、X、X、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルキニル基、あるいは炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。Zは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、あるいはシリル基を表す。)
[4] 固有粘度が0.1〜5.0dL/gの範囲である、[3]に記載のポリエステルイミド前駆体。
[5] 下記一般式(4)で表される構成単位を含むポリエステルイミド。
Figure 2007314435
(式(4)中、X、X、X、X、X、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルキニル基、あるいは炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。Zは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。)
[6] [3]または[4]に記載のポリエステルイミド前駆体を、加熱あるいは脱水試薬を用いて環化反応(イミド化)させることを特徴とする、[5]に記載のポリエステルイミドの製造方法。
[7] [3]または[4]に記載のポリエステルイミド前駆体を経由することなしに、[1]に記載のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物とジアミンを溶媒中、高温下で重縮合反応させることを特徴とする、[5]に記載のポリエステルイミドの製造方法。
本発明によれば、高ガラス転移温度、低誘電率、高透明性、有機溶媒溶解性およびアルカリエッチング特性を併せ持つポリイミド、およびその製造原料を提供することができる。
すなわち、本発明のポリエステルイミドの原料であるエステル結合と脂環構造とを含有する無水物において、2つの酸無水物基のうちの1つがシクロヘキサン環上に結合していることに由来して、得られるエステル結合と脂環構造とを含有するポリエステルイミドにおけるπ電子共役および分子内・分子間電荷移動相互作用を部分的に抑制することで、透明性を高め、且つ誘電率を低下することが可能となる。またこのポリエステルイミド中のエステル結合により、汎用のアルカリ水溶液によるエッチングが可能となる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
<エステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物またはそのテトラカルボン酸類>
本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物またはそのテトラカルボン酸類は、下記一般式(1)または(2)のいずれかで表される。この中でも、重合反応性が高い点で一般式(1)で表されるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物が好ましい。
Figure 2007314435
(式(1)および(2)中、X、X、X、X、X、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルキニル基、あるいは炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。Y、Y、Y、Yは全てヒドロキシ基、あるいはYとYのいずれか一方がヒドロキシ基で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基で且つYとYのいずれか一方がヒドロキシ基で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基、あるいはYとYのいずれか一方がハロゲン原子で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基で且つYとYのいずれか一方がハロゲン原子で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基である。)
一般式(1)で表されるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物のうち、X、X、X、X、X、Xがすべて水素原子である構造のものがより好ましい。また、一般式(2)で表されるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸類のうち、X、X、X、X、X、Xがすべて水素原子であり、Y、Y、Y、Yは全てヒドロキシ基である化合物がより好ましい。
なお、本発明においては、一般式(1)および(2)に示されるような、酸無水物環が脂環と芳香環に1つずつ縮環した化合物を半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物、さらに、この酸無水物環が開環した、一般式(2)で示される化合物を半脂環式テトラカルボン酸類と表記する。
<エステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物またはそのテトラカルボン酸類の製造方法>
本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物またはそのテトラカルボン酸類は、芳香環が水素化されたトリメリット酸無水物(以下、「核水素化トリメリット酸無水物」と称す)と4−ヒドロキシフタル酸無水物を原料として製造できる。なお、下記に製造方法を記載するが、エステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物またはそのテトラカルボン酸類を製造できればよく、その製法は限定されない。
まず、本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物の製造方法について説明する。
その原料としての核水素化トリメリット酸無水物の製造方法は、公知公用の方法を採用することができ、特に限定されない。
核水素化トリメリット酸無水物の製造方法の具体例としては、トリメリット酸、トリメリット酸無水物を水素化する方法が挙げられる。あるいは、トリメリット酸のエステルを核水素化し、その後エステル部分を加水分解、分子内脱水して酸無水物化することでも製造することができる。具体的には、米国特許出願公開第5412108号明細書に開示されるトリメリット酸無水物の核水素化により製造することができる。該米国出願公開明細書においては、核水素化に使用可能な水素化触媒として、Rh金属がある特定の担体に担持されたRh触媒が有効であるとされているが、この他にもPd,Ru,Ni,Ptなどの芳香核を水素化できる金属を使用した触媒であれば特に制限なく使用することができる。これら金属触媒は、担体に担持されていてもよく、また、金属単独で使用することも可能であり、さらにはこれら金属に必要に応じて他の成分を添加して用いてもよい。
水素化反応後の生成物において一部またはすべての酸無水物環が開環してジカルボン酸となった場合には、減圧下に加熱処理をすることにより、ジカルボン酸を酸無水物環に変換する。その際採用される温度は、下限が通常50℃、好ましくは120℃、上限が通常250℃、好ましくは200℃である。その際採用される減圧度の下限には制限はなく、上限は通常0.1MPa、好ましくは0.05MPaである。
ジカルボン酸を酸無水物環に変換する方法としては、上記した減圧下に加熱する方法の他に有機酸の酸無水物と処理する方法も採用することができる。その際に使用される有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、過剰に使用した際の除去の容易さから無水酢酸が好適に用いられる。
また、その際採用される温度は、下限が通常30℃、好ましくは50℃、上限が通常200℃、好ましくは150℃である。
次に、こうして得られた核水素化トリメリット酸無水物と4−ヒドロキシフタル酸無水物からエステル化反応を行う。その際、通常有機合成的なエステル化反応として知られた反応を任意に採用できる。例えば、カルボン酸とアルコールから直接脱水してエステル化する方法、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCCと略される)や、ジエチルアゾジカルボキシレート/トリフェニルホスフィンの組み合わせなどの脱水試薬を用いて脱水縮合させる方法、カルボン酸とカルボン酸のアルコールエステルからエステル交換反応させる方法、カルボン酸を酸ハライドに変換した後に塩基の存在下にアルコールと反応させる方法、カルボン酸を酸無水物に変換した後に塩基の存在下にアルコールと反応させる方法、脂環式テトラカルボン酸をエステル交換法により製造する方法(J.Polym.Sci.Part A,4,1531−1541(1966))などである。
上述の方法の中でも、直接脱水する方法とエステル交換法、酸ハライドに変換する方法が、経済性、反応性の点で好ましい。
以下により具体的な方法を記載するが、本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物またはそのテトラカルボン酸類を製造する方法は以下の方法に特に限定されない。
なお、以下において、酸ハライド化の具体例として、酸クロリド化を例示して説明するが、酸ブロミド化等の他の酸ハライド化についても、同様に、対応する酸ハライド化剤を用いて実施することができる。
核水素化トリメリット酸無水物を酸クロリド化し、これと4−ヒドロキシフタル酸無水物から核水素化トリメリット酸無水物のジエステルを製造することにより、本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物を製造する方法においては、まず核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリドを合成する。その合成法としては、カルボン酸から対応する酸クロリドを合成する通常の方法を用いることができる。具体的な例としては、塩化チオニルを用いる方法、オキザリルクロリドを用いる方法、三塩化リンを用いる方法、安息香酸クロリドなどの他の酸クロリドを使用する方法などが挙げられる。中でも過剰に使用した塩素化試剤の留去のしやすさの点から塩化チオニルを用いるのが好ましい。
塩化チオニルを用いて核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリドを製造する方法としては例えば、特開2004−203792号公報に開示された方法が知られている。
また、塩素化剤を用いて核水素化トリメリット酸無水物を酸クロリド化する際、N,N−ジメチルホルムアミドやピリジン等の触媒を用いることもできるが、これらを用いなくても反応に大きな支障はない。触媒の存在により、得られた酸クロリドが著しく着色する場合があるので、目的物のポリエステルイミドの透明性を重視する用途の場合は、生成物の着色に注意が必要であるので、その場合はこれら触媒を使用しないで製造するのが好ましい。
使用する塩素化試剤の量は、反応等量、もしくは過剰量が採用されるが、通常下限が1モル等量、好ましくは5モル等量、さらに好ましくは10モル等量である。一方、上限は特に制限はないものの、経済的な観点から100モル等量、好ましくは50モル等量の量が使用される。
反応は室温でも行えるが、通常加熱して行う。採用される加熱温度は、下限が通常30℃、好ましくは50℃、上限は使用する塩素化試剤の還流温度である。
反応後は、過剰に使用した塩素化試剤を除去する。除去の方法は特に制限されず、蒸留、抽出などが適用できる。蒸留により留去する場合には、より効率を上げるために塩素化試剤と共沸組成物を形成する溶媒を添加して留去してもよい。例えば、塩化チオニルを留去する場合には、ベンゼンやトルエンを添加して共沸留去させることができる。
得られた核水酸化トリメリット酸無水物の酸クロリドは、ヘキサンやシクロヘキサン等の無極性溶媒を用いて再結晶することでより純度を高めることができるが、そのような精製操作を行わなくても通常十分高純度なものが得られるので、場合によってはそのまま次の反応工程に使用しても差し支えない。
このようにして得られた核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリドを塩基の存在下に4−ヒドロキシフタル酸無水物と反応させてエステル化することにより、前記一般式(1)に示されるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物を合成することができる。
この反応における試剤の添加の方法には特に制限がなく任意の添加法が採用できる。例えば、4−ヒドロキシフタル酸無水物と塩基を溶媒に溶解し、これに同一の溶媒に溶解した実質的に等モルの上記核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリドをゆっくりと滴下する方法、あるいは、逆に必要に応じて溶媒に溶解した上記の核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリド中に4−ヒドロキシフタル酸無水物と塩基の混合溶液を滴下する方法、さらには、核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリドと4−ヒドロキシフタル酸無水物の混合溶液の中へ塩基を滴下する方法、などが採用可能である。
核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリドと4−ヒドロキシフタル酸無水物を反応させて該エステル基含有半脂環式テトラカルボン酸無水物を合成する際に使用可能な溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等のエーテル溶媒、ピコリン、ピリジン等の芳香族アミン溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のようなケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の様な芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のような含ハロゲン溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のようなアミド系溶媒、ヘキサメチルホスホルアミド等のような含リン溶媒、ジメチルスルホオキシド等のような含イオウ溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のようなエステル系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のような含窒素溶媒、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等の水酸基を有する芳香族系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸無水物を得る反応における反応液中の溶質の濃度は、下限が通常5重量%、好ましくは10重量%、上限が通常50重量%、好ましくは40重量%で行われる。副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮すると、この溶質の濃度は10重量%以上40重量%以下の範囲で行われるのがより好ましい。
本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸無水物を合成する際、採用される反応温度は下限が通常−10℃、好ましくは−5℃、より好ましくは0℃、上限が通常80℃、好ましくは50℃、より好ましくは20℃である。反応温度が80℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
反応は通常、常圧で行われるが、必要に応じて加圧下、または減圧下でも実施することができる。通常、反応は、窒素雰囲気下で行われる。反応容器は密閉型反応容器でも開放型反応容器でもよいが、反応系を不活性雰囲気に保つため、開放型の場合には不活性ガスでシールできるものを用いる。
塩基は、反応の進行とともに発生する塩化水素を中和するために用いる。この際使用される塩基の種類としては特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基を用いることができる。これらの塩基は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
塩基存在下の4−ヒドロキシフタル酸無水物と核水酸化トリメリット酸無水物の酸クロリドの反応により生成した沈殿物は、目的物と塩酸塩の混合物である。例えば、塩基としてピリジンを用いた場合、反応の進行とともに副生成物である白色のピリジン塩酸塩が目的物と共に沈殿として生じる。目的物の溶解度が高い場合は、目的物は殆ど濾液中に存在するので、濾液からエバポレーターで溶媒を留去し、100〜250℃で24時間真空乾燥して粉末状の粗生成物を得ることができる。目的物の溶解度が低い場合には、目的物と塩酸塩の混合物を濾別し、これを大量の水で洗浄して塩酸塩のみ溶解除去する。塩酸塩を分離除去するために、沈殿物をクロロホルムや酢酸エチル等で抽出溶解し、分液ロートを用いて有機層を水洗する方法も可能であるが、沈殿物を単に十分水洗するだけでも、塩酸塩を完全に除去することができる。水洗による塩酸塩の除去は、洗浄液について1%硝酸銀水溶液による塩化銀の白色沈殿の生成の有無を分析することにより、容易に判断することができる。
水洗操作の際、エステル基含有半脂環式テトラカルボン酸無水物は一部加水分解を受けて、エステル基含有半脂環式テトラカルボン酸に変化するが、これは、減圧下に加熱処理をすることにより、一部加水分解して生成したエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸を容易にエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸無水物に戻すことができる。その際、採用される温度は、下限が通常100℃、好ましくは120℃、上限が通常250℃、好ましくは200℃である。その際、採用される減圧度の下限には制限はなく、上限は通常0.1MPa、好ましくは0.05MPaである。
また、加水分解によりエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸となった場合の再閉環の方法としては、上記した減圧下に加熱する方法の他に、有機酸の酸無水物と処理する方法も採用することができる。その際に使用される有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、過剰に使用した際の除去の容易さから無水酢酸が好適に用いられる。
このようにして得られた粗生成物を適当な溶媒で再結晶、洗浄、加熱真空乾燥工程を経て重合に供することのできる高純度のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物を得ることができる。
次に、前記一般式(2)中、Y、Y、Y、Yが共にヒドロキシ基である本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸の合成方法について説明するが、その合成方法は以下の方法に限定されるものではない。
本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸は、上述のようにして製造された一般式(1)で表されるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物を加水分解することで容易に得られる。具体的には該エステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物をテトラヒドロフラン等の水溶性溶媒に溶解し、これを室温〜100℃に保持したpH7〜10の希アルカリ水溶液中へ撹拌しながら滴下する。生成した沈殿を濾別・水洗し、これをテトラヒドロフラン等の水溶性溶媒に再溶解し、室温〜100℃に保持したpH3〜7の希酸性水溶液中へ撹拌しながら滴下する。生成した沈殿を濾別・水洗し、40〜100℃で真空乾燥することで目的のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸が得られる。
次に、前記一般式(2)中、YとYのいずれか一方がヒドロキシ基で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基で且つYとYのいずれか一方がヒドロキシ基で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基である場合、すなわちエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸のジアルキルエステルの合成方法について説明するが、その合成方法は以下の方法に限定されるものではない。
本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸のジアルキルエステルは、上述のようにして製造された一般式(1)で表されるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物より容易に得られる。具体的には 一般式(1)で表されるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物に過剰量の脱水アルコール類を加えて1〜12時間加熱還流することで定量的にジカルボン酸ジアルキルエステルを得ることができる。この際、アルコールとして反応後の留去のしやすさの点からメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが好適に用いられる。
次に、前記一般式(2)中、YとYのいずれか一方がハロゲン原子で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基で且つYとYのいずれか一方がハロゲン原子で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基である場合、すなわちエステル基含有テトラカルボン酸のジアルキルエステルジハライドの合成方法について説明するが、その合成方法は以下の方法に限定されるものではない。
本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸のジアルキルエステルハライドは、上述のようにして製造されたテトラカルボン酸のジアルキルエステルに過剰量の塩素化剤等のハロゲン化剤を加えて加熱し、カルボン酸部位を塩素化等のハロゲン化することで重合に供することのできる高純度のジアルキルエステルジカルボン酸ジクロリド等のジハライドを定量的に合成することができる。塩素化反応後の塩素化剤除去が容易であるという点から、塩素化剤として塩化チオニルが好適に用いられる。塩化チオニルで塩素化を行う場合、反応を早めるためにN,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン等の触媒を添加することも可能である。さらに純度を高めるためにジアルキルエステルジカルボン酸ジクロリドを無極性溶媒を用いて再結晶することも可能である。この際、再結晶溶媒としてn−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、酢酸エチル、エーテル、クロロホルム等の低極性で不活性な溶媒、あるいはこれらの混合物が好適に用いられる。
本発明に係るエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物およびエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸ジエステルジハライドの保存は、前者に対しては加水分解による酸無水物環の開環、後者に対しては脱ハロゲン化を防ぐために、高湿を避けた低温下で保存することが望ましい。具体的には、シール性の良い容器で冷蔵庫にて保管すれば長期間の保存に耐える。エステル基含有半脂環式テトラカルボン酸は、特に湿度を管理する必要もなく、室温で長期間保存することができる。
<脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体>
本発明の脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体(本発明では、「脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体」ともいう。)は、下記一般式(3A)〜(3D)のいずれかで表される構成単位を含むものである。具体的には、下記一般式(3A)で表される構成単位と、下記一般式(3B)で表される構成単位と、下記一般式(3C)で表される構成単位と、下記一般式(3D)で表される構成単位とがランダムに配列した共重合体である。
Figure 2007314435
(式(3)中、X、X、X、X、X、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルキニル基、あるいは炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。Zは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、あるいはシリル基を表す。)
一般式(3)においてさらには、X、X、X、X、X、Xのすべてが水素原子であるものが好ましい。R、Rについては、さらに水素原子ならびに炭素数1〜4のアルキル基であるものが好ましい。
Zについては、基本的に2価の芳香族基または脂肪族基であれば任意の構造を取り得るが、環状の構造を有すると、得られるポリエステルイミドの耐熱性が向上するので好ましい。Zはさらに好ましくは、2価のフェニレン基、ナフチレン基、シクロヘキシレン基、ビフェニレン基、ベンゾフェノン基(−ph−C(O)−ph−(ただし、phはフェニレン基))、ビフェニルエーテル基(−ph−O−ph−(ただし、phはフェニレン基))、ビフェニルスルホン基(−ph−S(O)−ph−(ただし、phはフェニレン基))、ジシクロヘキシルエーテル(−ch−O−ch−(ただし、chはシクロへキシレン基))基等が挙げられ、これらの中でもフェニレン基、ビフェニレン基、ビフェニルエーテル基、ベンゾフェノン基、シクロヘキシレン基等が剛直な構造を持つ点で特に好ましい。
前記一般式(3A)〜(3D)のいずれかで表される構成単位を含む本発明の脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は、下限が通常0.1dL/g、好ましくは0.3dL/g、さらに好ましくは0.5dL/gであり、上限が通常5.0dL/g、好ましくは4.0dL/g、さらに好ましくは3.0dL/gである。
また、本発明の脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体の重量平均分子量は、下限が2000、好ましくは3000、さらに好ましくは5000、上限は、特にその制限はないが通常100万、好ましくは50万、さらに好ましくは30万である。
<脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体の製造方法>
本発明のポリエステルイミド前駆体を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。通常、重合溶媒中で、本発明のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物またはそのテトラカルボン酸類を、実質的に等モルのジアミンと反応させることで、本発明の脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体を容易に製造することができる。
本発明の脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体を製造するために使用されるジアミンとしては、前駆体製造の際の重合反応性、脂環式ポリエステルイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で自由に選択可能である。具体的に使用可能なジアミンとしては例えば、p−フェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、ベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、4−アミノ−2−メチルフェニル−4’−アミノベンゾエート、p−ターフェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジアミンの他、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンが例として挙げられる。これらのジアミンは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と実質的に等モルのジアミンとの重合により、本発明の脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体を合成する方法は、具体的には、以下の方法により行うことができる。
この反応はジアミンと一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を溶媒の存在下に混合して行う。これらジアミンとテトラカルボン酸二無水物の反応器への仕込みの方法は任意に選択することができる。例えば、ジアミンを溶媒に溶解しておき、これに式(1)のテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加する方法、逆に、テトラカルボン酸二無水物の溶液にジアミンを徐々に添加する方法、さらには、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物粉末をあらかじめ溶媒を仕込んだ反応器に同時に添加する方法などが採用可能である。中でもジアミンを溶媒に溶解しておきテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加する方法が、ポリエステルイミド前駆体の重合度が高くなりやすいという点で有利に採用される。
反応温度は、あまり低すぎると試剤の溶解性が低下することと十分な反応速度が得られないこと、高すぎると反応の進行をコントロールしにくくなることから好ましくない。反応温度の下限は通常−20℃、好ましくは−10℃、さらに好ましくは0℃であり、上限は通常150℃、好ましくは100℃、さらに好ましくは80℃が採用される。
反応時間は特に制限なく採用できるが、十分な試剤の変換率を達成するためには、下限が10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間、上限は特に制限はないが反応が終了すれば必要以上に反応時間を延ばす必要はない。例えば、100時間、好ましくは50時間、さらに好ましくは30時間が採用される。
重合反応は、溶媒を用いて行う。この際使用される溶媒としては、原料モノマーであるジアミンと式(1)のテトラカルボン酸二無水物が溶媒と反応せず、且つこれら原料が溶解する溶媒であれば問題はなく、特にその構造は限定されない。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−プチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−プチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノ−ル、4−クロロフェノ−ル等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、すなわちフエノ−ル、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソプチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルプ、プチルセロソルプ、2−メチルセロソルプアセテート、エチルセロソルプアセテート、プチルセロソルプアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジプチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソプチルケトン、ジイソプチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども添加して使用できる。中でも原料の溶解性が高いことからN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性溶媒が好ましい。なお、ジアミンとして脂環式ジアミンを用いた場合、より高濃度では形成された塩が溶解、消失するまでに長い重合時間を必要とし、生産性の低下を招く恐れがある。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
溶媒の使用量は、原料である式(1)のテトラカルボン酸二無水物とジアミンの総量の重量濃度が以下に示す範囲に入るような量の溶媒が使用されるのが好ましい。すなわち、これら溶質の濃度の下限が通常1重量%、好ましくは5重量%、さらに好ましくは10重量%、上限は特に制限はないものの、テトラカルボン酸二無水物の溶解性の観点から、50重量%、好ましくは40重量%、さらに好ましくは30重量%が採用される。このテトラカルボン酸二無水物の濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度の本発明のポリエステルイミド前駆体を含む溶液を得ることができる。
目的とするポリエステルイミドに膜靭性を付与するためには、本発明のポリエステルイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが好ましく、上記濃度範囲よりも低濃度で重合を行うと、得られるポリエステルイミド前駆体の十分な重合度が得られず、最終的に得られるポリエステルイミド膜が脆弱になる恐れがあり好ましくない。反応は、進行中撹拌しながら行うのが好ましい。
また、本発明の脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体は、対応するテトラカルボン酸のジアルキルエステルのジクロリド等の二酸ハロゲン化物とジアミンより公知の方法に従って低温溶液重縮合させることによっても合成することができる(例えば、High Performance Polymers,10,11(1998)などに記載の方法)。具体的には、溶媒の存在下にジアミンとテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物を反応させることで実施される。
これらジアミンとテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物の反応器への仕込みの方法は任意に選択することができる。例えば、ジアミンを溶媒に溶解しておき、これにテトラカルボン酸ジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物を徐々に添加する方法、逆に、テトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物の溶液にジアミンを徐々に添加する方法、さらには、ジアミンとテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物をあらかじめ溶媒を仕込んだ反応器にそれぞれ同時に添加する方法などが採用可能である。中でもジアミンを溶媒に溶解しておきテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物を徐々に添加する方法が、反応制御の容易性から有利に採用される。
この場合の反応温度は、あまり低すぎると試剤の溶解性が低下することと十分な反応速度が得られないこと、高すぎると反応の進行をコントロールしにくくなることから好ましくない。反応温度の下限としては通常−20℃、好ましくは−10℃、さらに好ましくは0℃が、上限としては通常150℃、好ましくは100℃、さらに好ましくは80℃が採用される。
反応時間は特に制限なく採用できるが、下限が通常10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間、上限は特に制限はないが、通常150時間、好ましくは100時間、さらに好ましくは50時間が採用される。
重合反応は、溶媒を用いて行う。この際使用される溶媒としては、上記したジアミンとテトラカルボン酸二無水物の反応で使用される溶媒を用いることができる。
溶媒の使用量は、原料であるテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物とジアミンの総量の重量濃度が以下の範囲に入るような量の溶媒が使用されるのが好ましい。すなわち、これら溶質の濃度の下限が1重量%、好ましくは5重量%、さらに好ましくは10重量%、上限は特に制限はないものの、テトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物の溶解性の観点から、50重量%、好ましくは40重量%、さらに好ましくは30重量%が採用される。
反応の際には、塩基(脱酸剤)を使用することができる。本発明において使用可能な塩基は、3級のアミンや無機塩基である。具体的には、ピリジンなどの芳香族3級アミン、トリエチルアミン、N−メチルピペリジン等の脂肪族3級アミンや、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、燐酸のナトリウム塩やナトリウム水素塩等の無機塩基が使用可能である。中でも、入手の容易性や操作性からピリジンやトリエチルアミンが好ましい。これら塩基は、あらかじめ反応の際に使用する溶媒に溶解して添加しておくことが好ましい。塩基の使用量は、テトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物から生成する酸の量により任意に変えて使用することができる。テトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物中に反応により発生する酸が全くないならば、塩基を使用しないことも可能である。酸が発生する場合の塩基の使用量は、重合に使用するテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物のモル数に対して、下限が2倍モル以上、好ましくは3倍モル以上である。反応は、撹拌しながら行うのが好ましい。
このジアミンとテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物との重合反応は界面重縮合法でも行うことが可能である。界面重縮合法においては、使用する溶媒に特徴がある。すなわち、ジアミンは、3級アミン等の塩基を溶解した水溶液に溶解する。一方、テトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物は、水に溶解しない無極性有機溶媒に溶解する。この際使用される無極性溶媒としては、トルエンやキシレンなどの芳香族系溶媒や、シクロヘキサンやヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサノン等の脂肪族系炭化水素溶媒が用いられる。
界面重縮合反応を行う場合には、これら2つの溶液を混合し、激しく撹拌することでポリエステルイミド前駆体を得ることが可能である。この際、ジアミンとテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物の仕込量は等モルでなくても支障はない。
さらに本発明の脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体は、テトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物と等モルのジアミンを用いて、縮合剤の存在下に製造することができる。例えば、縮合剤としてジアミンと等モルの亜リン酸トリフェニルを用い、ピリジンの存在下に直接重縮合することも可能である。また、他の縮合剤としてN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドを用いても同様に直接重縮合可能である。
また、本発明の脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体の製造は、公知の方法(高分子討論会予稿集,49,1917(2000))に従ってジアミンのジシリル化物と式(1)のテトラカルボン酸二無水物あるいはテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物を上記と同様に低温溶液重縮合することによっても可能である。
<脂環構造含有ポリエステルイミド>
本発明のポリエステルイミド(本発明では「脂環構造含有ポリエステルイミド」ともいう。)は、下記一般式(4)で表される構成単位を含むものである。
Figure 2007314435
(式(4)中、X、X、X、X、X、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルキニル基、あるいは炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。Zは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。)
上記一般式(4)においてさらには、X、X、X、X、X、Xのすべてが水素原子であるものが好ましい。
Zについては、基本的に2価の芳香族基または脂肪族基であれば任意の構造を取り得るが、環状の構造を有すると得られるポリエステルイミドの耐熱性が向上するので好ましい。Zはさらに好ましくは、2価のフェニレン基、ナフチレン基、シクロヘキシレン基、ビフェニレン基、ベンゾフェノン基(−ph−C(O)−ph−(ただし、phはフェニレン基))、ビフェニルエーテル基(−ph−O−ph−(ただし、phはフェニレン基))、ビフェニルスルホン基(−ph−S(O)−ph−(ただし、phはフェニレン基))、ジシクロヘキシルエーテル(−ch−O−ch−(ただし、chはシクロへキシレン基))基等が挙げられ、これらの中でもフェニレン基、ビフェニレン基、ビフェニルエーテル基、ベンゾフェノン基、シクロヘキシレン基等が剛直な構造を持つ点で特に好ましい。
本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドの重量平均分子量は、下限が通常2000、好ましくは3000、さらに好ましくは5000、上限は、特にその制限はないが通常100万、好ましくは50万、さらに好ましくは30万である。
この重量平均分子量は、通常、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析で求めることができる。
本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドのガラス転移温度は、下限が通常180℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは220℃であり、上限は通常500℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃である。
このガラス温度は、動的粘弾性測定により求めることができる。
本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドで紫外線を測定した際のカットオフ波長は、下限が通常200nm、好ましくは250nm、さらに好ましくは300nmであり、一方上限は通常450nm、好ましくは400nm、さらに好ましくは380nmである。
このカットオフ波長は、通常、紫外可視光吸収スペクトルを測定することで求めることができる。
本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドの線熱膨張係数は、通常下限が10ppm/K、好ましくは20ppm/K、さらに好ましくは25ppm/Kであり、一方上限は、100ppm/K、好ましくは80ppm/K、さらに好ましくは60ppm/Kである。
この線熱膨張係数は、通常、熱機械分析を行うことにより測定することができる。
また、本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドは、後述の実施例の項に記載される測定方法で測定される固有粘度が0.1〜5dL/g、特に0.3〜4dL/g、とりわけ0.5〜3dL/gであることが好ましい。
<脂環構造含有ポリエステルイミドの製造方法>
本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドは、前述の方法で得られた脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。この際脂環構造含有ポリエステルイミドの使用可能な形態は、フィルム、粉末、成型体および溶液である。
まず、脂環構造含有ポリエステルイミドのフィルムは以下の様にして製造することができる。
すなわち、まず、前記脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン中で乾燥する。その際に採用される乾燥の温度は、下限が通常40℃、好ましくは50℃、さらに好ましくは60℃である。一方、上限は通常200℃、好ましくは150℃、さらに好ましくは100℃である。乾燥の時間は、溶媒が十分に除去されるならば特に制限なく採用できるが、下限が通常10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間、上限は特に制限はないが、通常50時間、好ましくは30時間、さらに好ましくは10時間が採用される。
次に、こうして得られた乾燥された脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中で高温度に加熱してイミド化する。この時採用される温度は、下限が通常180℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは250℃である。一方、上限は通常500℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃である。加熱温度が低いとイミド化の閉環反応が不完全であったりするため好ましくなく、また高すぎると生成した脂環構造含有ポリエステルイミドエステルフィルムが着色したりする可能性があるため好ましくない。また、イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えはない。加熱時間はイミド化が十分に進行する時間が採用されるが、下限が通常5分、好ましくは10分、さらに好ましくは20分、上限は特に制限はないが、通常20時間、好ましくは10時間、さらに好ましくは5時間が採用される。
また、イミド化反応は、熱処理に代えて、脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体フィルムを3級アミン存在下、脱水試薬を含有する溶液に浸漬することによって行うことも可能である。この時使用できる3級アミンは、ピリジンなどの芳香族3級アミン、トリエチルアミン、N−メチルピペリジン等の脂肪族3級アミン等の1種または2種以上が挙げられる。また、使用可能な脱水試薬としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、トリフルオロメタンスルホン酸無水物等の酸無水物、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド類の1種または2種以上が挙げられ、この中でも無水酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド類が好ましく、さらには、無水酢酸が入手の容易性、経済性の点でより好ましい。
また、前述の脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体の重合溶液をそのままあるいは同一の溶媒で適度に希釈した後溶液中で加熱することでも、本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドの溶液(ワニス)を容易に製造することができる。この時の加熱温度は、下限が通常100℃、好ましくは120℃、さらに好ましくは150℃である。一方、上限は目的物の着色が起こらない温度であれば自由に設定可能であるが、通常300℃、好ましくは250℃、さらに好ましくは200℃である。この際、イミド化の副生成物である水等を共沸留去するために、トルエンやキシレン等の共沸溶媒を添加し、これら溶媒とともに生成する水を留去しながら反応を行っても差し支えない。イミド化の触媒として塩基を添加して反応を行ってもよい。本発明において使用可能な塩基触媒の例としては、ピリジン、γ−ピコリン、ピラジン等の芳香族系アミン類の1種または2種以上を挙げることができる。
こうして得られたワニスを大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過し、脂環構造含有ポリエステルイミドを粉末として単離することができる。また、一旦単離した脂環構造含有ポリエステルイミド粉末を例えば、重合の際に使用した溶媒に再溶解してポリエステルイミドワニスとすることもできる。
上記脂環構造含有ポリエステルイミドワニスは、基板上に塗布し、乾燥することにより脂環構造含有ポリエステルイミドフィルムを形成することができる。乾燥の際の温度は、下限が40℃、好ましくは70℃、さらに好ましくは100℃で行うことができ、一方、上限は通常350℃、好ましくは300℃、さらに好ましくは250℃である。
また、上記のようにして得られた脂環構造含有ポリエステルイミド粉末は加熱圧縮することで脂環構造含有ポリエステルイミドの成型体を作製することができる。その際に加熱する温度は、下限が通常150℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは250℃であり、一方、上限は通常450℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃である。
脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体溶液中に、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ無水酢酸等の脱水試薬を添加・撹拌して反応させることにより、ポリエステルイミドの異性体であるポリエステルイソイミドを製造することができるが、このイソイミド化反応は上記脱水試薬を含有する溶液中にポリエステルイミド前駆体フィルムを浸漬することでも実施可能である。
このポリエステルイソイミドワニスは例えば上記と同様な手順で製膜した後、熱処理することによりポリエステルイミドへ容易に変換することができる。この際の温度は、下限が通常250℃、好ましくは280、さらに好ましくは300℃であり、一方、上限は、通常500℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃である。
なお、本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドおよびその前駆体には、必要に応じて酸化安定剤、フイラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤等の添加物を加えることができる。
また、強度向上、耐熱性の増強、吸水性の低下など樹脂に要求される物性を達成するために、本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドに他の樹脂を混合することも可能である。その際に使用される樹脂は、本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドと均一に混合することができれば問題なく、特に制限はされない。
<用途>
本発明の脂環構造含有ポリエステルイミドは、高ガラス転移温度、高透明性、有機溶媒溶解性およびアルカリエッチング特性を併せ持つため、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜およびフレキシブルプリント配線回路用基材、テープオートメーションボンディング用基材、液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、感光材料、半導体素子の保護膜および層間絶縁膜、ハードディスクドライブ(HDD)の回路付サスペンション用絶縁膜等に利用できる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
<赤外吸収スペクトル>
日本分光社製フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR5300)を用い、透過法にてエステル基含有脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体およびその硬化薄膜(5μm厚)の赤外吸収スペクトルを測定した。また、合成したエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二酸無水物等の分子構造を確認するためにKBr法により赤外吸収スペクトルを測定した。
<プロトンNMRスペクトル>
合成したエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸類の分子構造を確認するために、日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用いて、ジメチルスルホキシド(DMS)中で合成物のプロトンNMRスペクトルを測定した。
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
合成したエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸類の融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分で測定した。
<固有粘度>
0.5重量%のポリエステルイミド前駆体溶液について、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリエステルイミドフィルム(20μm厚)のガラス転移温度を求めた。
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の線熱膨張係数を求めた。
<5%重量減少温度:T
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
<複屈折:Δn>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)(ナトリウムランプ使用、波長589nm)を用いて、ポリエステルイミドフィルム(20μm厚)に平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率を測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。この値が高いほど、ポリマー鎖の面内配向度が高いことを意味する。
<誘電率:εcal
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、ポリエステルイミドフィルムの平均屈折率〔nav=(2nin下付+nout)/3〕に基づいて、次式:εcal=1.1×nav により1MHzにおけるポリエステルイミドフィルムの誘電率(εcal)を算出した。
<吸水率>
50℃で24時間真空乾燥したポリエステルイミドフィルム(膜厚20〜30μm)を24℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、重量増加分から吸水率(%)を求めた。殆どの用途においてこの値が低いほど好ましい。
<弾性率、破断伸び>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、ポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力−歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを意味する。
[実施例1]
<エステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物の合成>
以下の方法で、まず核水素化トリメリット酸無水物の塩素化を行った。
窒素導入菅およびコンデンサー付反応容器中に、核水素化トリメリット酸無水物7.93g(40mmol)を入れ、これに塩化チオニル80mL(1.1mol)を加え、窒素雰囲気中、80℃で2時間還流した。その後、反応溶液に無水ベンゼン加え、オイルバス中で溶媒を減圧留去した。さらに、無水ベンゼンを加えて留去し、残留塩化チオニルを完全に除去した。生成物を室温で15時間真空乾燥し、核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリドの白色針状結晶を定量的に得た。
次に、300mLナス型フラスコ中で核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリド8.785g(40mmol)に無水テトラヒドロフラン28mLを加え、セプタムキャップでシールした。また、別のナス型フラスコ中で、4−ヒドロキシフタル酸無水物6.564g(40mmol)およびピリジン5mL(60mmol)を無水テトラヒドロフラン22mLに溶解し、同様にセプタムキャップでシールした。氷浴中で0℃に保持したこの溶液へ、無水テトラヒドロフランに溶解した上記核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリドの溶液をシリンジにて1.5時間かけて滴下し、さらに24時間撹拌した。エバポレーターで溶媒を除去後、フラスコ中にイオン交換水を注ぎ、ピリジン塩酸塩のみ水に溶解させて、デカンテーションによりピリジン塩酸塩を除去した。フラスコ中に残った白色固体を150℃で20時間真空乾燥し、収率60%で白色粉末を得た。
この化合物は示差走査熱量分析により、鋭い吸熱ピーク(融点179℃)を示した。また赤外吸収スペクトルおよびプロトンNMRスペクトルより、得られた生成物は、下記構造式(1A)で表される、目的物のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物であることが確認された。この化合物の赤外吸収スペクトル、プロトンNMRスペクトル、示差走査熱量曲線をそれぞれ図1〜3に示す。
Figure 2007314435
[実施例2]
<脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体の重合、製膜、イミド化および物性評価>
よく乾燥した撹拌機付密閉反応容器中に4,4’−オキシジアニリン10mmolをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、この溶液に実施例1で合成したエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物粉末10mmolを徐々に加えた(モノマー濃度:30重量%)。溶液粘度が増加したため、同一の重合溶媒を用いて最終的にモノマー濃度を12.6重量%まで希釈した。
この溶液を室温で48時間撹拌して、透明で粘稠な脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体溶液を得た。この脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体溶液は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。
N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃で測定した脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は1.95dL/gであり、極めて分子量の大きい高重合体であった。
この脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃で2時間で乾燥して得た脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体膜を、基板上、減圧下350℃で1時間加熱することによりイミド化を行い、透明な脂環構造含有ポリエステルイミド膜を得た。残留歪を除去するために、基板から膜を剥がしてさらにガラス転移温度直下の230℃で1時間熱処理し、膜厚30μmの透明なフィルムを得た。
このフィルムは180°折り曲げ試験により、破断せず、可撓性を示した。膜物性は、ガラス転移温度264℃と比較的高い耐熱性およびカットオフ波長385nm、400nmでの透過率0.94%であった。またこの樹脂は、複屈折Δn=0.0005と極めて小さい値を示し光学材料に適していることがわかった。誘電率は2.98と比較的低い値であった。また、線熱膨張係数は54.1ppm/K、5%重量減少温度は窒素中で430℃、空気中で416℃であった。
なお、この実施例2で作製した脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体膜と脂環構造含有ポリエステルイミド膜の赤外吸収スペクトルをそれぞれ図4,5に示す。
[実施例3]
ジアミンとして4,4’−オキシジアニリンの代わりにp−フェニレンジアミンを使用した以外は実施例2に記載した方法に従って脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体を得た。得られた脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は1.18dL/gであり、高重合体が得られた。また、この脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体溶液を用いて実施例2と同様にしてガラス基板に塗布することにより、靭性のあるポリエステルイミド膜が得られた。
[比較例1]
よく乾燥した撹拌機付密閉反応容器中に、p−フェニレンジアミン1.08g(10mmol)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミド15mLに溶解した後、この溶液に実施例1で合成したエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物に対応する、下記構造式(1X)で表されるエステル基含有芳香族テトラカルボン酸二無水物粉末4.58g(10mmol)を徐々に加えた。
Figure 2007314435
溶液粘度が急激に増加したため、適宜溶媒で希釈して一時間後に52mLを加え希釈した。さらに、室温で24時間撹拌し、透明、均一で粘稠な芳香族ポリエステルイミド前駆体溶液を得た。
N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定した芳香族ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は5.19dL/gであった。この芳香族ポリエステルイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃で2時間乾燥して得た芳香族ポリエステルイミド前駆体膜を基板上で、減圧下、250℃で2時間加熱することによりイミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がしてさらに350℃で1時間熱処理を行い、膜厚20μmの芳香族ポリエステルイミド膜を得た。
この芳香族ポリエステルイミド膜は如何なる有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。膜物性を測定したところ、ガラス転移温は45℃まで未検出であった。また、カットオフ波長は369nm、400nmでの透過率22%と、実施例2で得られた脂環構造含有ポリエステルイミドと比較すると透明性が著しく低かった。これは原料モノマーとしてエステル基含有芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いたため、紫外線領域の吸収が大きいことが原因である。この樹脂の複屈折は、Δn=0.219と極めて大きく光学材料に全く適していないことがわかった。また、誘電率は3.22と比較的高い値であった。その他の物性として吸水率1.4%、5%重量減少温度は窒素中で480.7℃、空気中で463.2℃であった。
実施例1で合成した脂環構造含有テトラカルボン酸二無水物の赤外吸収スペクトルを表すチャートである。 実施例1で合成した脂環構造含有テトラカルボン酸のDMSO中で測定したNMRスペクトルを表すチャートである。 実施例1で合成した脂環構造含有テトラカルボン酸の示差走査熱量曲線を表すチャートである。 実施例2で合成した脂環構造含有ポリエステルイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルを表すチャートである。 実施例2で合成した脂環構造含有ポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを表すチャートである。

Claims (7)

  1. 下記一般式(1)および(2)のいずれかで表されるエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸無水物またはそのテトラカルボン酸類。
    Figure 2007314435
    (式(1)および(2)中、X、X、X、X、X、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルキニル基、あるいは炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。Y、Y、Y、Yは全てヒドロキシ基、あるいはYとYのいずれか一方がヒドロキシ基で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基で且つYとYのいずれか一方がヒドロキシ基で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基、あるいはYとYのいずれか一方がハロゲン原子で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基で且つYとYのいずれか一方がハロゲン原子で他方が炭素数1〜6のアルコキシ基である。)
  2. 核水素化トリメリット酸無水物を酸ハライドに変換し、得られた酸ハライドと4−ヒドロキシフタル酸無水物を塩基の存在下で反応させることを特徴とする請求項1に記載のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸無水物またはそのテトラカルボン酸類の製造方法。
  3. 下記一般式(3A)〜(3D)のいずれかで表される構成単位を含むポリエステルイミド前駆体。
    Figure 2007314435
    (式(3)中、X、X、X、X、X、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルキニル基、あるいは炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。Zは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、あるいはシリル基を表す。)
  4. 固有粘度が0.1〜5.0dL/gの範囲である、請求項3に記載のポリエステルイミド前駆体。
  5. 下記一般式(4)で表される構成単位を含むポリエステルイミド。
    Figure 2007314435
    (式(4)中、X、X、X、X、X、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルキニル基、あるいは炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。Zは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。)
  6. 請求項3または4に記載のポリエステルイミド前駆体を、加熱あるいは脱水試薬を用いて環化反応(イミド化)させることを特徴とする、請求項5に記載のポリエステルイミドの製造方法。
  7. 請求項3または4に記載のポリエステルイミド前駆体を経由することなしに、請求項1に記載のエステル基含有半脂環式テトラカルボン酸二無水物とジアミンを溶媒中、高温下で重縮合反応させることを特徴とする、請求項5に記載のポリエステルイミドの製造方法。
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