JP2007309411A - ワイヤーの動吸振装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】ワイヤーの振動自体を非接触下に効果的に抑制し、これにより長期に亘る信頼性やメンテナンスの便を向上させるとともに、エレベータ等にも有効に適用可能とした動吸振装置を新たに提供する。
【解決手段】エレベータ1のワイヤー10に対し、常時非接触状態で、ワイヤー10を吸引する永久磁石121並びにこの永久磁石121を介してワイヤー10の振動エネルギーを吸収する板バネ製可動部122及びダンパー123からなるエネルギー吸収手段Aを設けたので、ワイヤー10の振動エネルギーをエネルギー吸収手段Aに吸収させて動吸振作用を営ませることができ、ワイヤーの寿命やメンテナンス性も有効に向上させることができる。
【選択図】図17
【解決手段】エレベータ1のワイヤー10に対し、常時非接触状態で、ワイヤー10を吸引する永久磁石121並びにこの永久磁石121を介してワイヤー10の振動エネルギーを吸収する板バネ製可動部122及びダンパー123からなるエネルギー吸収手段Aを設けたので、ワイヤー10の振動エネルギーをエネルギー吸収手段Aに吸収させて動吸振作用を営ませることができ、ワイヤーの寿命やメンテナンス性も有効に向上させることができる。
【選択図】図17
Description
本発明は、地震その他の要因でエレベータ等を構成するワイヤーが振動することによって生じる可能性のある災害等を未然に防止し得るようにしたワイヤーの動吸振装置に関するものである。
従来、地震その他の要因でワイヤーが振動することを防止する手立てを講じたものとして、特許文献1〜3に挙げるもの等が知られている。
これらは、いずれのものも斜張橋斜材ケーブルの制振装置に係るもので、風による振動を低減するために、磁石の吸着力を制御して斜材ケーブルの拘束・解放を行い、これにより斜材ケーブルの振動モードを変化させて、振動を制御するようにしている。
特開2001−64911号公報
特開平11−172618号公報
特開平10−195816号公報
しかしながら、特許文献1,2のものは、制振装置の一部がワイヤーと常時或いは間欠的に接触する構造であり、ワイヤーに直接物理的な力が加わるため、寿命やメンテナンス性を悪化させる要因となる。特に、エレベータのようにワイヤーが移動するものに適用しようとした場合、接触部分が摺動することになるため、寿命やメンテナンスへの悪影響が著しいものとなる。また、これらは風速に応じてワイヤーに対する拘束・解放を制御しているに過ぎず、地震動の特性等に対する配慮は一切なされていない。
加えて、特許文献1〜3のものはいずれも、振動モードを高次へと移行させて振幅を小さくすることにより減衰を早めるメカニズムであって、制御機構が必要である上に、振動自体に積極的な抑制を掛けるものではない。特許文献2にはダンパーが併記されてはいるものの、このダンパーは単にワイヤーと主桁の間を物理的に接続する状態で配置されているに過ぎず、またワイヤーを解放したときのみ働く構造であって常時稼動し得る状態で配されているものではない。
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、ワイヤーの振動自体を非接触下に効果的に抑制し、これにより長期に亘る信頼性やメンテナンスの便を向上させるとともに、エレベータ等にも有効に適用可能とした動吸振装置を先ずもって提供しようとするものである。
加えて本発明は、従来の制振装置では対応できない地震波に対しても有効な手段を提示するものである。すなわち、従来よりエレベータのワイヤーには特段の地震対策は不要とされてきたが、近年において地震でワイヤーが周囲の機器に衝突して損傷、破損したり、運行が停止するなどの事故が発生した。本発明者が検討したところ、地震波は通常P波、S波で伝播するがこれに続く第3の揺れとして長周期振動があり、これがワイヤーの固有振動と共振してワイヤーに想定を超える加振がなされたことが確かめられた。この長周期地震動は人体には感じられない程弱く、このため先行研究や対策がほとんどなされて来なかったものと考えられる。
本発明は、このような新たな知見に基づき、上記動吸振装置を用いてワイヤーの固有振動数付近における加振現象にも有効に対応する手立てを同時に提示しようとするものである。
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
すなわち、本発明に係るワイヤーの動吸振装置は、適用対象であるワイヤーに対し、常時非接触状態で、ワイヤーを吸引する永久磁石およびこの永久磁石を介して前記ワイヤーの振動エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段を設けたことを特徴とする。
このように、ワイヤーの振動エネルギーをエネルギー吸収手段に吸収させることで、ワイヤーに対する動吸振作用を営むことができる。しかも、エネルギー吸収手段をワイヤーに直接接触させるとワイヤーの寿命やメンテナンス性を悪化させる要因になるが、永久磁石を介して非接触で関連づけるようにしているので、そのような不具合を伴うこともない。
具体的なエネルギー吸収手段の構成としては、永久磁石の吸引力によりワイヤーの振動に連動して当該永久磁石の移動とともに所定弾性率の下に変位若しくは変形するように配置した可動部と、この可動部の変位若しくは変形を所定減衰率の下に抑制するように該可動部に係わり合わせた減衰要素とを備えているものが挙げられる。
ワイヤーが永久磁石に接近すると、吸引力が高まり、これにつれて可動部が弾性的に変位若しくは変形しながら永久磁石もワイヤーに近づく。逆に、ワイヤーが遠ざかると、吸引力が弱まり、これにつれて永久磁石も元の位置に戻ろうとする。このようにワイヤーと永久磁石が相互に接近、離反を繰り返す中、本発明はワイヤーのエネルギーを可動部を介して取り出し、これを減衰要素において消費若しくは蓄積することにより減衰するので、非接触な状態でワイヤーに対する動吸振作用を有効に営むことができる。しかも可動部は弾性的に配置されているため、無振動時には永久磁石ともども所定位置にオフセットされた状態を適切に保つこととなる。
固有振動数と共振した振動を効果的に防止するには、永久磁石の吸引力を適宜値のバネ定数に近似し、動吸振装置のパラメータである質量、弾性率(弾性係数)及び減衰率(減衰係数)のうち質量に適宜値を与えるとともに、ワイヤの振動を弦の振動と捉えて弦を適宜値の質量の質点とバネ定数のバネに置き換えたときのワイヤー固定端から所定距離離れた位置における等価モデルより外部入力に対する弦の変位の伝達関数を求め、定点理論によって弦の無限次までの全振動モードの和をとった応答曲線の定点における傾きが零ないし略零となるように前記弾性率(弾性係数)及び減衰率(減衰係数)を規定していることが望ましい。
すなわち、定点理論で応答曲線の定点における傾きが零ないし略零になる条件が満たされるよう設定すると、可動部にワイヤーの振動の振幅に近い変位又は変形が起こり、振動エネルギーを効率良く減衰要素に移すことができるようになる。しかも、弦の無限次までの全振動モードの和をとった応答曲線の定点における傾きに着目しているので、1次モードのみを抑えるように構成する場合と異なり高次の振動成分が残る不都合もなく、長周期振動との共振現象も効果的に低減することができる。
適用対象がエレベータのワイヤーである場合、当該ワイヤーは一端でエレベータ籠を懸吊支持し、他端側をエレベータ籠の上方に位置する天井壁を通過して駆動機構に係わり合わせられるが、前記永久磁石及びエネルギー吸収手段を、そのエレベータ籠の上壁近傍又は当該エレベータ籠の上方に位置する天井壁近傍に設けておくことが望ましい。
このような位置にエネルギー吸収手段を設ければ、エレベータ籠が昇降しても該エネルギー吸収手段がエレベータ籠と干渉することを有効に防止することができ、また、後記のように動吸振作用も有効に担保することができる。
本発明は、以上説明した構成であるから、ワイヤーの振動自体を非接触下に効果的に抑制し、これにより長期に亘る信頼性やメンテナンスの便を向上させるとともに、エレベータのように長手方向に移動するワイヤー等にも有効に適用可能な動吸振装置を新たに提供することが可能となる。
また、この動吸振装置を用いればワイヤーの固有振動数付近における加振現象にも有効に対応することができ、地震等による長周期振動にも動吸振効果の高い動吸振装置とすることが可能となる。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
この実施形態に係るワイヤーの動吸振装置は、エレベータのワイヤーに適用されるもので、エレベータ1の一般的構造は図1に示すように、エレベータ籠11の昇降路12に沿ってガイドレール13を配置し、その昇降路12の上方に位置する機械室14に巻上機15aや制御盤15b、調速器15c等を含む駆動機構15を配設して、図2に模式的に示すように巻上機15aに巻き掛けたワイヤー10の一端でエレベータ籠11を懸吊支持し、巻上機15aによって巻上げ又は繰出しを行うものである。機械室14はコンクリートスラブ製の天井壁16の上方に位置しており、ワイヤー10は天井壁16を貫通して巻上機15aに巻き掛けられ、他端に釣り合いおもり17が取り付けられている。図1及び図2中、符号18で示すものは乗り場である。
特に高層ビルの場合、ワイヤー10の長さは数百メートルにおよび、地震による長周期振動でワイヤー10が共振すると、昇降路12の壁面やその付設物にワイヤー10が衝突して、それらの部位に損傷や破損をもたらし、運行が停止するなどの事故が起こる場合がある。このため、ワイヤー10に対してこの種の振動を抑制する手段が不可欠になってきていることは既に述べた通りである。
そこで、本実施形態は、図2に示すように、ワイヤー10に対し非接触状態で動吸振装置2を取り付けることを試みる。この動吸振装置2は、エレベータ籠11の昇降動作の妨げにならないようにする必要があり、また、エレベータ籠11の昇降に伴ってエレベータ籠11への取付部から巻取機15aへの巻き掛け部までのワイヤー10の実効長が大きく変化することを踏まえて、エレベータ籠11の上壁近傍か、天井壁16の近傍か、少なくとも何れか一方を選択する(図2では併記してあるが必ずしも双方に設けるものではない)。
動吸振装置2は、図5に示すように、ワイヤー10に常時非接触状態で永久磁石21を、バネ22を用いて所定弾性率kの下に変位を許容するように配置し、かつ、その変位時に駆動されてワイヤー10の振動エネルギーを積極的に減衰させる減衰要素たるダンパー23を採用する。本発明の可動部は永久磁石21の移動とともにバネ22の下に変位若しくは変形する箇所を指称するため、バネ22が板バネである場合にはその板バネ自体が本発明の可動部をなし、永久磁石21が剛体に支持されその剛体をバネ22で支持する場合にはその剛体が本発明の可動部をなす。或いは、永久磁石21を直接バネ22で支持する場合には永久磁石21上のバネ接続部分が本発明の可動部となる。そして、これらの可動部及びダンパー23が本発明のエネルギー吸収手段Aを構成する。
図6は、ワイヤー10の一振動方向に対して永久磁石21の重量m及び吸着力−km(後述する)、弾性率k、ダンパーの減衰率cを各々どのような値に設定するかを探索するための概念的な解析モデルであり、実際に永久磁石10をどのように保持し弾性率kの弾性をどこに具現しダンパー23をどこに設けるか、さらにはワイヤー10の全方位への揺れにいかに対処するか等を検討した具体的な取付構造については、後述する。
この解析モデルについて、各パラメータm、−km、k、cの最適値を決定し、その効果を検証するにあたり、先ず、ワイヤー10の振動の特性や、動吸振装置2によって外力fを及ぼした場合にワイヤー10の振動にどのように影響するか等を線形的に取り扱えるようにしておく必要がある。そこで、ここでは波動方程式を適用するためにワイヤー10を弦と見立てて、両端固定弦の固有振動数と固有関数を解析し、次に地震動を想定して境界端(固定端)が変位する場合の振動を解析し、これを踏まえて一点に外力fをが加わる場合の振動を解析する。
(両端固定弦の固有周波数と固有関数)
図5においてワイヤー10を弦として捉えた場合、その波動方程式は端点からの距離をx、変位をy、弦の線密度をρ、張力をTとすると、
図5においてワイヤー10を弦として捉えた場合、その波動方程式は端点からの距離をx、変位をy、弦の線密度をρ、張力をTとすると、
次に、これらを踏まえて、図3のように弦の両固定端が振動する場合を考える。弦の絶対変位をyとすると、先述のように波動方程式は、
数12の式では、弦の平衡位置からの相対変位yRを用いているので、両端固定の固有関数を用いて展開できる。つまり、
ちなみに、中越地震の際の関東平野でのエレベータワイヤー破断事故に関して、その固有周期は、表1より、
動吸振装置2を適用する場合、その部位においてワイヤー10に外力(負荷)を作用させることになるため、図4のように、両端が静止した弦のある点x0に力fが加わる場合を考える必要がある。この時、弦の従う波動方程式は、数12の式のように、
以上を踏まえて、図5に示したワイヤー10と動吸振装置2からなる解析モデルに戻る。弦の線密度をρ、全長をL、張力をTとし、装置2の取り付け位置をワイヤー10の上端からdの位置とする。動吸振装置2を質量mの質点、バネ22のバネ定数をk、減衰係数をc、永久磁石21による吸引力の近似的なバネ定数を−kmとする。同図では、動吸振装置2の結合は天井壁に取り付けた板バネを想定しているが、取付構造は後述のようにこれに限定されるものではない。
(運動方程式)
(運動方程式)
先ず、弦の運動方程式を立てて、周波数応答を数値計算するための伝達関数を求める。
x=dの位置での弦の絶対変位y(d)と動吸振装置2の絶対変位ymについて、次の運動方程式が成り立つ。
x=dの位置での弦の絶対変位y(d)と動吸振装置2の絶対変位ymについて、次の運動方程式が成り立つ。
ここで、数10、数11の式のように平衡線の座標を導入してy(x)=yR(x)+yG(x)、ym=yRm+yG(d)と相対変位に変換すると、
ここで、図5に示した動吸振装置2の最適なパラメータを決定するために、周波数応答の最大値を抑えるという定点理論を用いる。そこで、図6のように弦を質量M(n、d)の質点と剛性K(n、d)のバネを用いて装置取付位置における等価モデルに置き換える。これらはモード次数n、装置取り付け位置dの関数であり、次のように表される。また、ここでは境界が静止している場合を考える。
しかしながら、実際の振動は無限次の振動モードが重なり合ったものであるため、1次モードを低減するだけでは、他の振動モードが現れて不十分である。そこで、全振動モードの和をとった応答曲線の定点における傾きが零となるようなkとζの真値を探すべく、上述した1次モードだけの近似解(k=251、ζ=0.11)を初期値に、定点理論の考えに基づき、kを操作して定点の高さを揃え、次にその定点で傾きが0になるようなζを求める操作を数46、数47、数48の式に対してなし、真値の探索を行った。これにより得られた結果を表4に示す(特にk=340、ζ=0.11である点を参照)。
次に、このようにして求めた表4のパラメータに基づいて、弦の周波数応答のシミュレーションを試みる。
(最適条件下での周波数応答)
(最適条件下での周波数応答)
数46、数47、数48の式より、弦の周波数応答は図8のようになる。GL/2はx=L/2での応答、Gmaxは各周波数で振幅が最大になる位置での応答を示す。ピークが約20dB抑えられており、制振効果が確認できる。また、1次モード付近では、GL/2はGmaxとほぼ一致しており、実験において評価点はx=L/2とするのが妥当であると確認できる。
(非最適条件下での応答)
(非最適条件下での応答)
エレベータなど、ワイヤーの全長が変化する対象の場合、パッシブな動吸振装置2は最適点を外れる。そのような場合を考慮して、表4に示した諸元の下、ワイヤー長Lを変化させてシミュレーションを行った。その周波数応答Gmaxを図9に示す。ここで、動吸振装置2のパラメータはL=200[m]で最適となるように設定した。仮にエレベータが0〜200mあるとして、振動が問題になるのは、エレベータ籠が昇降動作する範囲においてワイヤーの実効長が長くなる160〜200mの間だからである。さらに、各ワイヤー長に対して周波数応答の最大値をプロットすると、図10のようになる。図9、図10より、最適点を外れた場合でも、動吸振装置2の減衰作用によりワイヤーに対して制振効果が期待できることがわかる。このことより、動吸振装置2のパラメータがL=200[m]以外のところで最適となるように設定されても同様の事が言える。
(動吸振装置の特性)
(動吸振装置の特性)
質量比による変化
図11に、動吸振装置2の質量mを変化させて定点理論を適用した場合の周波数応答Gmaxを示す。ここで、質量比は数49の式よりμ=m/Mを用いた。
質量が小さいほど高い制振効果を得られることが分かる。質量比に対して、周波数応答の最大値をプロットすると、図12のようになる。これより、最大振幅はμに比例すると考えられる。
図11に、動吸振装置2の質量mを変化させて定点理論を適用した場合の周波数応答Gmaxを示す。ここで、質量比は数49の式よりμ=m/Mを用いた。
質量が小さいほど高い制振効果を得られることが分かる。質量比に対して、周波数応答の最大値をプロットすると、図12のようになる。これより、最大振幅はμに比例すると考えられる。
剛性比による変化
図13に、剛性kmを変化させて定点理論を適用した場合の周波数応答Gmaxを示す。ここで、剛性比は数50の式よりε=km/Kを用いた。
図13に、剛性kmを変化させて定点理論を適用した場合の周波数応答Gmaxを示す。ここで、剛性比は数50の式よりε=km/Kを用いた。
剛性が大きいほど高い制振効果が得られることが分かる。剛性比に対して、周波数応答の最大値をプロットすると、図14のようになる。これより、最大振幅はε−1に比例すると考えられる。
取り付け位置比による変化
図15に、取り付け位置dを変化させて定点理論を適用した場合の周波数応答Gmaxを示す。ここで、取り付け位置比はλ=d/Lとする。
図15に、取り付け位置dを変化させて定点理論を適用した場合の周波数応答Gmaxを示す。ここで、取り付け位置比はλ=d/Lとする。
取り付け位置が大きいほど高い制振効果が得られることが分かる。取り付け位置比に対して、周波数応答の最大値をプロットすると、図16のようになる。これより、最大振幅はλ−1に比例すると考えられる。
このような定点理論と数値計算によって、無限次のモードを重ね合わせた周波数応答のピークが抑えられることを確認し、また、ワイヤー長が変化して最適点を外れるような場合でも制振効果が期待できることを確認した。
さらに、各パラメータが動吸振装置2の効果にどのような影響を与えるのか、様々な値に対して定点理論を適用することで定量的に把握できた。その結果、定点での振幅は
次に、永久磁石を実際にどのように配置し、弾性をエネルギー吸収手段のどこに具現するのか、或いはワイヤーの全方位への揺れにいかに対処するのか等を踏まえた具体的な取付構造に言及する。
先ず、図17(A)に示すものは、図5のモデルをより具体的な取付構造に展開したもので、コンクリートスラブ等により構成される天井壁16に基端を固定し自由端側を垂下させてL字状の板バネ122を設け、この板バネ122の当該自由端側に永久磁石121を取り付けたものである。この板バネ122はワイヤー10の振動に応じて物理的に変形する箇所となり、本発明の可動部に相当する。平面視すると地震動は直交2方向の成分に分解できることから、同図(B)に示すように直交2軸上に永久磁石121を一対に配置し、ワイヤー10が何れの方向に振れても対応する1又は2の永久磁石121が反応するように構成してある。或いは、感度を上げるために同図(C)に示すように6個の永久磁石121を円周上の等角位置に配置してもよいし、更には相互に独立した吸引力が保障されればこれ以上の永久磁石を密接に配置することもできる。この場合、対称性を考慮するならば偶数個であることが望ましい。
そして、前記板バネ122と天井壁16との間に、減衰要素であるダンパー123を設けている。このダンパー123には、ショックアブゾーバ、粘性流体を利用したダンパーのほか、エネルギーを蓄積するようなものを用いることが可能である。板バネ122及びダンパー123が本発明のエネルギー吸収手段Aを構成している。
板バネ122の弾性率kやダンパー123の減衰率cは、上記解析に基づく値と実質的に等価となるように決定すればよい。巻上機15aのドラム中心n1から永久磁石121の中心n2までの距離は、2〜3m程度に設定しておく。このような振動の節近くに動吸振装置2を配置しても実効を伴う点は既に確認済である。
図示の構成に基づき本発明の基本的作用を再確認するならば、地震動によりワイヤー10が特定の永久磁石121に接近したとき、当該永久磁石121との間の吸引力が高まり、これにつれて板バネ122が弾性的に変形しながら永久磁石121もワイヤー10に近づく。逆に、ワイヤー10が遠ざかると、当該永久磁石121との間の吸引力が弱まり、これにつれてその永久磁石121も元の位置に戻ろうとする。板バネ122の弾性率kが定点理論に基づいて適切な値に設定されれば、板バネ122とワイヤー10とは丁度その中間に鏡が存して互いに鏡像であるかのごとくに振る舞い、かかる作用はワイヤー10が何れの方向に振れても営まれる。そして、板バネ122は変位の際に減衰要素であるダンパー123を引きずり、このダンパー123において振動エネルギーを消費するので、非接触な状態であっても板バネ122及びダンパー123からなるエネルギー吸収手段Aがワイヤー10に対する動吸振作用を有効に営むことになる。しかも板バネ122はその弾性により無振動時には永久磁石121ともどもワイヤー10に対し所定位置にオフセットされた状態を保持するため、突発的な地震動に対して適切な待機状態を維持することができる。また、高次モードの加振にも対応するような形で定点理論を導入して動吸振装置のパラメータ設定を行うことで、地震動による長周期振動にワイヤー10が大きく共振することも有効に回避することが可能となる。
なお、エレベータは、実際にはワイヤー10を複数本並設することが多く、この場合には上記構造に若干工夫を凝らす必要がある。そこで、図18(a)、(b)に示すように、ワイヤー10の配列方向に沿って配置すべき永久磁石221bと、その配列方向と直交する方向に沿って配置すべき永久磁石221aとに類別した場合、配列方向の端部に位置する永久磁石221bおよび配列方向と直交する方向に対峙して配置される永久磁石221aは、図19(a)のように上記板バネ122と同様の板バネ222aを用いてその自由端側の片面に取り付け、ワイヤー10の配列方向に沿って当該ワイヤー10,10間に配置される永久磁石221bは、L字状をなす板バネの自由端間をU字状に接続した板バネ222bを用いてその自由端側の両面に取り付けるようにする。すなわち、各ワイヤー10,10間にも永久磁石221bが配置されて、何れのワイヤー10も四方を永久磁石221a、221bに包囲された図17と同等の状態となる。板バネ222bはワイヤー10の振動に対し当該ワイヤー10が接近したら自ら近づき離反したらオフセット位置に戻ろうとする点で上記と同様であるが、この板バネ222bを挟む2つのワイヤー10は略同期して同じ方向に振れるため、ワイヤー10の配列方向に沿って板バネ222bは近づいた方の永久磁石221bに向かっていくことになり、干渉が問題となることはない。ダンパー等は図示していないが、図17の構成に準じて適宜の態様で取り付けることができる。これらの板バネ222a、222bはワイヤー10の振動に応じて物理的に変形するため本発明の可動部に相当し、これらの板バネ222a、222bとダンパーが本発明のエネルギー吸収手段を構成することとなる。
さらに、可動部は上記のような弾性変形可能なもの以外に、図20に示すようにコイルバネに支持されて弾性変位可能な剛体322としてもよい。この剛体322は図21に示すように環状のもので、内側にワイヤー10を包囲するように永久磁石321を直交2軸上に計4個配置しており、一対のコイルバネ300によって1軸方向に取り付けられている。このように構成しても、コイルバネ300の軸線方向には当該コイルバネ300の弾性の下に剛体322が変位し、コイルバネ300はその軸線と直交する方向にも弾性的に撓み得るから、剛体322の双方の変位動作に有効に対応することができる。そして、図示しないがそのコイルバネ300と平行を保って動くように自在継手等を介してダンパーを配置すれば、永久磁石321をワイヤー10の振動に連動して移動させ、剛体322の変位動作でダンパーを駆動して動吸振作用を営ませることができる。剛体322はワイヤー10の振動に応じて物理的に変位する箇所となるため本発明の可動部に相当し、この剛体322及びダンパーが本発明のエネルギー吸収手段を構成することとなる。剛体322の弾性率kやダンパーの減衰率cは、上記解析に基づく値と実質的に等価となるようにしておけばよい。
勿論、ワイヤー10が単数の場合には、個々のワイヤー10に直交2方向にコイルバネ300を配置してもよいのは言うまでもない。
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は図示例のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
例えば、上記実施形態で板バネを用いている箇所は、所要の弾性率(弾性係数)が得られ且つ取付構造等に不都合がなければ、板バネ以外のバネ、さらにはバネ以外の弾性体を用いることもできる。減衰要素にショックアブゾーバ、粘性流体を利用したダンパーのほか、エネルギーを蓄積するようなものを用いることができる点も既述の通りである。
また、動吸振装置を天井壁側ではなくエレベータ籠の上壁側に取り付けても同様の効果が奏される。
さらに、本発明は、エレベータのワイヤー以外に例えば斜張橋のワイヤー(ケーブル)等にも有効に適用することが可能である。
1…エレベータ
2…動吸振装置
10…ワイヤー
11…エレベータ籠
16…天上壁
21、121、221a、221b、321…永久磁石
22…可動部(バネ)
23、123…減衰要素(ダンパー)
122、222a、222b…可動部(板バネ)
322…可動部(剛体)
A…エネルギー吸収手段
c…減衰率(減衰係数)
k…弾性率(弾性係数)
2…動吸振装置
10…ワイヤー
11…エレベータ籠
16…天上壁
21、121、221a、221b、321…永久磁石
22…可動部(バネ)
23、123…減衰要素(ダンパー)
122、222a、222b…可動部(板バネ)
322…可動部(剛体)
A…エネルギー吸収手段
c…減衰率(減衰係数)
k…弾性率(弾性係数)
Claims (4)
- 適用対象であるワイヤーに対し、常時非接触状態で、ワイヤーを吸引する永久磁石およびこの永久磁石を介して前記ワイヤーの振動エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段を設けたことを特徴とするワイヤーの動吸振装置。
- エネルギー吸収手段が、永久磁石の吸引力によりワイヤーの振動に連動して当該永久磁石の移動とともに所定弾性率の下に変位若しくは変形するように配置した可動部と、この可動部の変位若しくは変形を所定減衰率の下に抑制するように該可動部に係わり合わせた減衰要素とを備えていることを特徴とする請求項1記載のワイヤーの動吸振装置。
- 永久磁石の吸引力を適宜値のバネ定数に近似し、動吸振装置のパラメータである質量、弾性率及び減衰率のうち質量に適宜値を与えるとともに、ワイヤーの振動を弦の振動と捉えて弦を適宜値の質量の質点とバネ定数のバネに置き換えたときのワイヤー固定端から所定距離離れた位置における等価モデルより入力に対する弦の変位の伝達関数を求め、定点理論によって弦の無限次までの全振動モードの和をとった応答曲線の定点における傾きが零ないし略零となるように前記弾性率及び減衰率を規定していることを特徴とする請求項2記載のワイヤーの動吸振装置。
- 適用対象がエレベータのワイヤーであって、ワイヤーは一端でエレベータ籠を懸吊支持し、他端側をエレベータ籠の上方に位置する天井壁を通過して駆動機構に係わり合わせたものであり、前記永久磁石及びエネルギー吸収手段をそのエレベータ籠の上壁近傍又は当該エレベータ籠の上方に位置する天井壁近傍に設けていることを特徴とする請求項1〜3記載のワイヤーの動吸振装置。
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