JP2007246481A - 位置・立体選択的安定同位体標識セリン、シスチン並びにアラニンの合成方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】特定のグリシン誘導体及びギ酸誘導体を用いて、安定同位体標識デヒドロセリン誘導体を合成し、これを不斉還元すると、希望の位置に安定同位体標識したセリンを得ることができ、このようにして調製した安定同位体標識セリンの側鎖官能基変換すると希望の位置に安定同位体標識したアラニンとシスチンを得ることができる。
Description
NMR法によるタンパク質の構造決定において、シグナルのオーバーラップの問題と、急速な緩和によるシグナル強度の低下の問題を考えなければならない。特に分子量が2万を超えるような場合シグナルのオーバーラップが激しくなり、多核種多次元NMRを駆使したとしても誤りのない解析をするにはある程度の熟練度を必要とする。
これらの問題を解決する方法として、高度安定同位体標識タンパク質を用いた構造解析法「Stereo-Array Isotope-Labeling法(SAIL法)」がある。このSAIL法は、タンパク質中のすべての核を位置及び立体を厳密に指定して2H(D)、13C、15N-標識したタンパク質をNMR測定・解析に用いるという全く新しい技術である。即ち、タンパク質の水素原子のうち立体構造決定に最低限必要な水素原子のみを残して全て重水素置換することにより、従来の限界を越えた高分子量タンパク質のNMRスペクトルの迅速・確実な解析、立体構造の高精度決定を同時に達成することを可能にしている。SAIL法は、主に次の3つの要素技術から成り立っている。
(1)位置・立体選択的多重同位体標識アミノ酸の不斉合成、
(2)位置・立体選択的多重同位体標識アミノ酸からなるタンパク質の調製、
(3)標識タンパク質のNMR測定・解析。
一方、D. Ganiら(非特許文献3)による報告は、比較的簡便に得られる立体選択的重水素標識アスパラギン酸を出発原料に用いて、目的とする立体選択的重水素標識セリンを得る手法を報告している。しかし、この手法はβ位の立体選択性が90%と低くまた収率も低いため本目的に適う手法とはいえない。
B. S. Axelessonら(非特許文献4)による報告では、フマル酸を出発原料とし立体選択的重水素標識セリンの合成を可能にしている。しかしながら本手法は、シスチンの合成も可能としているものの、得られるアミノ酸はD体であり、また合成の工程数も多いことから高価な安定同位体標識原料を用いる本目的に適う合成法とはいえない。
我々は特許文献1に示されるように、13C、15N均一標識セリンを出発原料とし、アルデヒドの還元的不斉重水素化を経由するSAILセリン、シスチンの合成法を開示した。ここで示した合成法は、光学純度は十分ではあるものの合成の収量が低かったことから、高収率のセリン、シスチンの合成法の開発が求められていた。
以上のように、今までいくつか位置・立体選択的同位体標識セリン、シスチン、アラニンの合成法が報告されているが、これらの手法ではタンパク質の構造解析に用いるアミノ酸合成に必要な高い立体選択性や、高価な安定同位体原料を使用するに十分な収率ではなかった。
また、今後はさまざまな同位体標識パターンのアミノ酸を利用し蛋白質中の局所構造や運動性の解析方法の需要も高まることが予想され、あらゆる標識パターンに対応できる合成法の開発が求められている。
又、このようにして調製した安定同位体標識セリンの側鎖官能基変換すると希望の位置に安定同位体標識したアラニンとシスチンを得ることができるとの知見に基づいてなされたのである。尚、標識セリンの側鎖官能基変換による標識アラニンとシスチンの合成は過去に殆ど例がない。
ANHCH2COOR1 (1)
(式中、Aはアミノ保護基、R1はアルキル基を表す。)
を、一般式(2)で表されるギ酸誘導体
XCOOR (2)
(式中、Dは水素又は重水素、Rはアルキル基を表す。)
と縮合させ、次いでヒドロキシ保護剤を用いてヒドロキシ保護して、一般式(4)で表される化合物を得、
(式中、R2はヒドロキシ保護基、A、R1及びDは一般式(1)及び(2)で規定した通りである。)
得られた一般式(4)で表される化合物を、水素ガス若しくは重水素ガス存在下、不斉還元触媒を用いて還元して一般式(5)で表される化合物を得、
(式中、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素を表し、A、R1、D及びR2は
次いで、任意工程として、得られた一般式(5)で表される化合物を脱保護して、一般式(6)で表されるセリン
(式中、A、R1、D、Y1、Y2及びR2は一般式(1)、(2)、(4)及び(5)で規定した通りである。)
を得ることを特徴とする一般式(5)で表されるセリン誘導体又は一般式(6)で表されるセリンの合成方法を提供する。
(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素、R3はカルボキシ保護基、R4はアミノ保護基を表す。)
の側鎖水酸基を脱離基に変換して、一般式(8)で表される化合物
(式中、R5は脱離基、R3、R4、X、Y1及びY2は一般式(7)で規定した通りである。)
に変換した後、還元することを特徴とする一般式(9)で表されるアラニンの合成方法を提供する。
(式中、Zは水素または重水素、X、Y1及びY2は一般式(7)で規定した通りである。)
(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素、R3はカルボキシ保護基、R4はアミノ保護基を表す。)
の側鎖水酸基を脱離基に変換して、一般式(8)で表される化合物
(式中、R5は脱離基、R3、R4、X、Y1及びY2は一般式(7)におけると同じ意味を有する。)
に変換した後、SH基導入剤と反応させ、次いで脱保護及びおよびイオン交換処理して、
位置・立体選択的安定同位体標識セリン(SAILセリン)は、以下に示す合成スキームに基づいて合成することができる。
SAILセリンの合成スキーム
本発明の位置立体選択的同位体標識セリンの合成において、原料として使用する安定同位体標識ギ酸及びグリシンはどのような位置に安定同位体を有するものであってよい。また、安定同位体の数も限定されず、複数の安定同位体を有するものであってよい。具体的には、[1-13C]グリシン、[2-13C]グリシン、[1,2-13C2]グリシン、[1,2-12C2]グリシン等、[1-13C;15N]グリシン、[2-13C;15N]グリシン、[1,2-13C2;15N]グリシン或いは[1,2-12C2;15N]グリシン等が例示される。またギ酸においても[13C]ギ酸、[2H]ギ酸、[2H;13C]ギ酸或いは[1H;12C]ギ酸等が例示される。これらを原料に用いてデヒドロセリン誘導体を合成し、水素ガス或いは重水素ガスを用いて不斉還元することにより、あらゆる標識パターンのセリンを合成することができる。
ギ酸とグリシンをデヒドロセリン誘導体へ誘導するためには、まず各々を定法に従い化合物(1)(R1はアルキル基、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、特に好ましくはメチル基、エチル基)及び化合物(2)(Rはアルキル基、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、特に好ましくはメチル基、エチル基、Xは水素もしくは重水素)へ変換する。
次いで得られた化合物(1)及び化合物(2)を文献(M. Kainosho, K. Ajisaka, J. Am. Chem. Soc. 1975, 5630-5631.)に従って縮合させてデヒドロセリン誘導体(3)を得る。具体的には、化合物(1)と化合物(2)を1/1〜1/1.5のモル比で、アルコールなどの溶媒、例えば、エタノール、重水素化エタノール(EtOD)などを用い、これに溶解したアルカリ金属、例えば、金属ナトリウムの存在下、10〜40℃、好ましくは常温で縮合させるのがよい。反応時間は、5日〜10日であるのが好ましい。
このようにして得られた一般式(5)を加水分解することにより、脱保護し、位置・立体選択的安定同位体標識セリン(6)を合成することができる。脱保護はα位或いはβ位のラセミ化さえ伴わなければ、どのような方法で行ってもよく、様々な公知な手法が適用できる。好ましくは、R2=アセチル基、ベンゾゾイル基、ピバロイル基の場合には、酸性溶媒中、好ましくは1〜6M塩酸等で行い、R2=tert-ブチルジフェニルシリル基(TBDPS基)、セキシルジメチルシリル基(TDS基)の場合には、テトラブチルアンモニウムフルオリドを用いて脱シリル化を行った後、酸性溶媒中、好ましくは1〜6M塩酸等を用いて脱保護を行う。なお、後述するが、所望の化合物が化合物(5)の場合、最後の脱保護の作業を行わずに、化合物(5)の酸素上の保護基を脱保護することにより目的の化合物を合成してもよい。
尚、使用する不斉還元触媒のキラリティにより、L-セリンまたはD-セリンのいずれかが得られる。具体的には、R1=Et、X=D、R2=TBDPSの場合、ジクロロエタン溶媒中5kgf/Cm2の水素ガス中で(S、S)DuPhos−Rhを用いて66時間撹拌した後、脱保護を行うことにより位置・立体選択的安定同位体標識セリン(6)が98%eeの高い光学純度で得られる。
位置・立体選択的安定同位体標識アラニン(SAILアラニン)は、以下に示す合成スキームに基づいて合成することができる。
SAILアラニンの合成スキーム
次いで、一般式(7)で表されるセリン誘導体の側鎖水酸基を常法に従って適当な脱離基に変換することによって位置・立体選択的安定同位体標識アラニン合成の有用な合成中間体である一般式(8)で表される化合物(式中、R5はスルホナート基、若しくはハロゲン基、好ましくは炭素数1〜10のスルホナート基、より好ましくは4-トルエンスルホナート基、メタンスルホナート基、トリフルオロメタンスルホナート基、臭素基、ヨウ素基等を、R3、R4、X、Y1、Y2は前記と同じ意味を示す)を合成する。一般的には、一般式(7)で表される化合物1モル当り、ハロゲン化物又はスルフォン化物を1〜3モル用い、ジクロロメタン、クロロホルム、ピリジン、DMFなどの溶媒中で1〜24時間反応させることにより得ることができる。R5はハロゲン基が好ましく、さらに好ましくは臭素である。臭素化は、ps-トリフェニルホスフィンの存在下、ジクロロメタン溶媒中四臭化炭素を用いて2時間還流することにより得られる。
反応終了後、通常のイオン交換処理を行うことによって一般式(9)で表される位置・立体選択的安定同位体標識アラニン(式中、Zは水素または重水素を、X、Y1、Y2は前記と同じ意味を示す)を得ることができる。得られた化合物の構造は1H NMR、13C NMR、MS、HPLC、融点、旋光度等から決定した。
位置・立体選択的安定同位体標識システイン(SAILシステイン)は、以下に示す合成スキームに基づいて合成することができる。
SAILシスチンの合成スキーム
次に、化合物(8)と硫黄化剤、好ましくは金属スルヒド、チオ酢酸塩、キサントゲン酸塩、チオ尿素誘導体、チオアミド誘導体等のSH基導入剤を不活性有機溶媒中、好ましくはDMF、DMSO、低級アルコール、アセトン、THF、アセトニトリル等の溶媒中0〜100℃で1〜24時間反応させた後、上記と同様の手法を用いて脱保護およびイオン交換処理を行うことによって一般式(10)で表される位置・立体選択的安定同位体標識システイン(式中、X及びY1、Y2は前記と同じ意味を示す)を得ることができる。イオン交換処理の際、システインを含む溶液を酸素含有雰囲気、例えば、空気または酸素に室温〜50℃で1〜72時間暴露することにより一般式(11)で表される位置・立体選択的安定同位体標識シスチン(式中、X及びY1、Y2は前記と同じ意味を示す)を合成することもできる。ここで、イオン交換処理は、SK1BまたはDowex50Wを用いて行うのがよい。得られた化合物の構造は1H NMR、13C NMR、MS、HPLC、融点、旋光度等から決定した。
上記SAILセリン、アラニン及びシスチンを構成している窒素原子は全て15Nであるのが好ましい。又、SAILセリン、アラニン及びシスチンを構成している炭素原子は全て13Cであるのが好ましい。
以下に実施例を示して本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
セパラブルフラスコにEtOD(133ml)を加え、金属ナトリウム(7.68g、334mmol)を少量ずつ加えて室温にて45分撹拌した。ナトリウムが完全に溶解した後、セパラブルフラスコを氷浴下0℃に冷却し、[1-13C;1-2H]ギ酸エチル2(D13C2OEt、27.ml、334mmol)を15分かけて滴下した。室温にて3時間撹拌した後[1,2-13C2;N-2H;2-15N]-馬尿酸エチル 1(Bz15N13CH2 13CO2Et、70.56g, 334mmol)を加えた。室温にて一週間撹拌した後、吸引ろ過により結晶をろ取した。得られた結晶を脱水エタノール(100 ml)及びジエチルエーテル(100 ml)を用いて洗浄後、真空ポンプを用いて乾燥することにより化合物3が得られた。(63.8g, 242.5mmol, 収率72.6%) 加工物3は精製することなく次の反応に使用した。
行程2
得られた化合物3(160 mmol)をDMF(160 ml)に溶解し、氷冷下tert-ブチルジフェニルクロロシラン(45.8 ml, 176 mmol)を滴下し、室温にて2.5時間攪拌した。酢酸エチルを用いて反応混合物を抽出し、有機相を分離した(300ml×3)。有機相を水(600 ml×1)、飽和食塩水(600 ml×1)を用いて洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。吸引ろ過により乾燥剤を取り除き、ろ液を濃縮した。残渣を再結晶にて精製することにより化合物4が得られた。(48.29 g, 102 mmol, 収率64%) ;
ナス型フラスコに化合物4 (18.2 g, 38.0 mmol)、及び1,2-ジクロロエタン(80 ml)を加え、系内を窒素置換した。液体窒素を用いて-195℃にて凝固し、真空ポンプにて数回脱気を繰り返した後室温に戻した。この基質溶液を中圧接触還元装置用反応ボトルに移し、アルゴン雰囲気下、(S、S)DuPhos−Rh(0.14 g, 0.038 mmol)及びスターラーチップを加え、水素ガス下(4 kgf/cm2)66時間室温で撹拌した。反応混合物に塩化メチレン(150 ml)を加え、水(250 ml×2)を用いて洗浄後有機相を分離した。硫酸マグネシウムを用いて有機相を乾燥後、吸引ろ過により乾燥剤を取り除き残渣を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)にて精製することにより化合物5が得られた。(15.9 g, 33.0 mmol, 収率86.9%)
1H NMR(CDCl3) δ 1.04(s, 1H), 1.31(t, J=7.2 Hz, 3H), 3.76(dm, J=68 Hz, 1H), 4.27(dq, JC-H=3.6 Hz, J=7.2 Hz, 2H), 4.87(dm, JC-H=140 Hz), 7.04(dd, JC-H=8.2 Hz, JN-H=91 Hz), 7.30-7.83(m, 15H)
工程4
ナス型フラスコに化合物5 (17.7 g, 36.8 mmol)及びテトラヒドロフラン(74.0 ml)を加え、テトラブチルアンモニウムフルオリド1.0Mテトラヒドロフラン溶液(34.0 ml, 37.0 mmol)を15分かけて滴下し、室温にて5時間撹拌した。反応混合物に酢酸エチル(150 ml)を加え、飽和リン酸二水素カリウム水溶液(200 ml×1)及び飽和塩化ナトリウム水溶液(200 ml×1)を用いて洗浄後、有機相を分離した。水相を酢酸エチル(750 ml)を用いて1度抽出し有機相と合わせた。有機相に無水硫酸ナトリウムを加え乾燥後、吸引ろ過により乾燥剤を取り除き濃縮した後、ナス型フラスコに残渣及び1N 塩酸(184 ml)を加え、オイルバス温度110℃にて6時間還流した。反応混合物をクロロホルム(200 ml×2)を用いて洗浄し水相を分離した。水相を濃縮後、陽イオン交換樹脂(Dowex50W-X8)を用いて精製した。これをさらに再結晶することによりSAILセリン(6)が得られた。(2.81g, 25.6 mmol, 収率69.8%)α位の光学純度はHPLC(SUMICHIRAL OA-6100)を用いて決定した。
1H NMR(D2O) δ 3.79(d, JC-H=147 Hz, 1H), 3.67(dm, JC-H=145 Hz, 1H)
ナス型フラスコに化合物6(10.00g,90.90mmol)、及びエタノール(136ml)を加え零下0度にし、塩化チオニル(11.9g,100.00mmol)を27分かけて滴下した。1時間加熱還流を行った後、エタノールを加えつつ濃縮を繰り返し、最後にジエチルエーテルを加え吸引ろ過にてSAILアラニンエチルエステル(13.832g,79.27mmol,87%)をろ取した。得られた化合物をN,N-ジメチルホルムアミド(160ml)に溶解しtert-ブトキシカルボニル(19.01g,87.20mmol,1.1eq)、ジメチルアミノピリジン(19.34g,158.54mmol)を加え室温で2時間撹拌を行った。反応混合物に硫酸水素カリウム水溶液を加えpHを下げ、酢酸エチルで希釈し、蒸留水で数回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥を行い、吸引ろ過により乾燥剤を取り除き残渣を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル1:1)にて精製することにより化合物7(18.239g,76.63mmol,97%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ1.2941(t,J=7.16Hz 3H), 1.4522(s,9H), 3.88725(dm, J=144.30Hz 1H), 4.2461(dq,JC-H=3.02Hz,JH-H=7.13Hz 2H), 4.3596(dm,J=132.24Hz 1H), 5.4426(dd,JH-H=7.6225Hz,JN-H=91.74Hz 1H).13C-NMR(CDCl3)δ14.254, 28.439, 55.880(m enhanced), 62.930(m enhanced),65.992, 80.252, 156.069(d,J=25.9287Hz), 171.253(d,J=60.8255Hz enhanced)
HRMS m/z 239.1507[(M+H)+,calcd for C7H19O5D15N13C3:239.1475]
ps-トリフェニルホスフィン(3 mmol/g, 41.1 g, 123.2 mmol)のジクロロメタンけん濁液(308 ml)に四臭化炭素(40.8 g,123.2 mmol)を加え、アルゴン雰囲気下で10分間撹拌した後、化合物7(9.77 g, 41.1 mmol)のジクロロメタン溶液(308 ml)を加え、アルゴン雰囲気下で2時間、加熱還流を行った。反応混合物を室温に冷却した後、ポリマーをハイフロスーパーセルを用いて濾別した。濾液を濃縮した後、残渣を真空ポンプを用いて減圧乾燥し、化合物8(16.2 g)を単離した。得られた臭化物は化学的に不安定であるため精製することなく次の反応に用いた。
工程7
化合物8(16.2 g, 41.1 mmol)、Bu3SnD(24.0 g, 82.1 mmol)のベンゼン溶液(800 ml)を過酸化ベンゾゾイル(990 mg, 4.11 mmol)の存在下、1時間加熱還流を行った。反応混合物を濃縮した後、1M塩酸(700ml)を加えて3時間加熱還流を行った。反応混合物をクロロホルムで洗浄した後、濃縮し、残渣をDowex50W-X8を用いて処理することにより無色結晶のSAILアラニン(9)(2.46 g, 25.9 mmol)が63%(3段階)の収率で得られた。光学純度(96%ee)はHPLC(SUMICHIRAL OA-6100)を用いて決定した。1H NMR (D2O) δ 1.28 (dm, J = 129 Hz, 1 H), 3.59 (dm, J = 145 Hz, 1 H)。13C NMR (D2O) δ 15.84 (m), 50.52 (m), 176.22 (D, J = 54 Hz).
三口フラスコに化合物7(8.05g,33.82mmol)及びピリジン(68ml)を加え、アルゴン雰囲気下で-10度にしp-トルエンスルフォニルクロリド(9.03g,47.35mmol)を加えた。-15度まで冷却し一晩撹拌を行った。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、クエン酸水溶液と塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥を行い、吸引ろ過により乾燥剤を取り除き残渣を濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製することにより化合物8(2)(11.095g,28.30mmol,84%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ1.25705(t,J=7.16Hz 3H), 1.4152(s,9H), 2.449(s,3H), 4.1703(dq,JC-H=3.39Hz, JH-H=7.34Hz 2H), 4.26385(dm,J=155.79Hz 1H),4.4666(ddd,J=138.27Hz, JN-H=7.16Hz, JH-H=7.16Hz), 5.29415(dd, JH-H=8.10Hz,JN-H=92.12Hz 1H), 7.34755(d,J8.48Hz 2H), 7.7618(d,J=8.1Hz 2H)
13C-NMR (CDCl3)δ14.231, 21.888, 52.540, 53.185(m enhanced), 62.465, 69.159(m enhanced), 80.642, 128.219, 130.158, 132.631, 145.365, 155.21(d,J=26.6188Hz), 168.703(d,J=61.557Hz enhanced)
m.p.79℃
化合物8(2)(11.1 g, 28.2 mmol)とチオ酢酸カリウム(6.43 g, 56.3 mmol)のDMF溶液(420 ml)をアルゴン雰囲気下、室温で一晩撹拌した。反応混合物を濃縮した後、残渣を酢酸エチルで抽出した。有機層を水洗、乾燥した後、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製することにより(2R,3R)-N-tert-ブトキシカルボニルS-アセチル[1,2,3-13C3; 3-2H; 2-15N]シスチンエチルエステル(7.96 g, 26.9 mmol)を95%の収率で得た。
得られたチオアセタートに1M塩酸(400 ml)を加えて3時間加熱還流を行った。反応混合物をクロロホルムで洗浄した後、濃縮し、残渣をSK1Bで処理した。得られたシステイン10を1Mアンモニア水溶液(500 ml)に溶解し、室温で48時間空気酸化を行った後、溶媒を濃縮して無色結晶のSAILシスチン11(1.52 g, 6.06 mmol)を46%の収率で単離した。[α]D 25 -207.60°(C 1.0, 1 M HCl)(文献値、[α]D 20 -223.4°(C 1.0, 1 M HCl))。1H NMR (2.5% NaOD in D2O) δ 2.69 (dm, J = 140 Hz, 1 H), 3.61 (dm, J = 140.19 Hz, 1 H)。13C NMR (2.5% NaODin D2O) δ 43.47 (m), 54.82 (m), 180.99 (d, J = 53 Hz)。
Claims (10)
- 一般式(1)で表されるグリシン誘導体
ANHCH2COOR1 (1)
(式中、Aはアミノ保護基、R1はアルキル基を表す。)
を、一般式(2)で表されるギ酸誘導体
XCOOR (2)
(式中、Xは水素又は重水素、Rはアルキル基を表す。)
と縮合させ、次いでヒドロキシ保護剤を用いてヒドロキシ保護して、一般式(4)で表される化合物を得、
(式中、R2はヒドロキシ保護基、A、R1及びXは一般式(1)及び(2)で規定した通りである。)
得られた一般式(4)で表される化合物を、水素ガス若しくは重水素ガス存在下、不斉還元触媒を用いて還元して一般式(5)で表される化合物を得、
(式中、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素を表し、A、R1、X及びR2は一般式(1)、(2)及び(4)で規定した通りである。)
次いで、任意工程として、得られた一般式(5)で表される化合物を脱保護して、一般式(6)で表されるセリン
(式中、X、Y1及びY2は一般式(1)及び(5)で規定した通りである。)
を得ることを特徴とする一般式(5)で表されるセリン誘導体又は一般式(6)で表されるセリンの合成方法。 - ヒドロキシ保護剤として、tert-ブチルジフェニルクロロシランを用いる請求項1又は2記載の合成方法。
- 一般式(8)で表される化合物に、ラジカル開始剤の存在下で、R6 NM1Z4-N(式中、R6は低級アルキル基、低級アルコキシ基、またはアリール基、M1はケイ素、ゲルマニウムまたはスズ、Zは水素または重水素、Nは1〜3の整数を示す。)を反応させて、一般式(9)で表されるアラニンを得る請求項4記載の合成方法。
- 一般式(7)で表されるセリン誘導体
(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素、R3はカルボキシ保護基、R4はアミノ保護基を表す。)
の側鎖水酸基を脱離基に変換して、一般式(8)で表される化合物
(式中、R5は脱離基、R3、R4、X、Y1及びY2は一般式(7)におけると同じ意味を有する。)
に変換した後、SH基導入剤と反応させ、次いで脱保護及びおよびイオン交換処理して、一般式(10)で表されるシステイン
(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素を表す。)
を得、又は所望により、イオン交換処理の際に、空気を含む雰囲気に暴露することにより一般式(11)で表されるシスチン
(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素を表す。)
を得ることを特徴とする一般式(10)で表されるシステイン又は一般式(11)で表されるシスチンの合成方法。 - 一般式(7)で表されるセリン誘導体にハロゲン化物又はスルフォン化物を反応させて該セリン誘導体の側鎖水酸基を脱離基(R5はスルホナート基又はハロゲン基を示す)に変換する請求項4〜6のいずれか1項記載の合成方法。
- 分子中の窒素原子が全て15Nである請求項1〜8のいずれか1項記載の合成方法。
- 分子中の炭素原子が全て13Cである請求項1〜9のいずれか1項記載の合成方法。
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