JP2007228950A - ビール酵母の凝集性判定法 - Google Patents
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Abstract
【課題】簡便且つ迅速に明瞭な結果が得られる、酵母の凝集性、特に下面ビール酵母の凝集性を判定する方法を提供する。
【解決手段】ビール酵母のゲノム中で特定な配列の塩基配列又はアミノ酸配列をコードする塩基配列によって特定される領域の部分的な欠失が存在するか否かを検出すること、及び、ゲノム中に前記欠失が存在するビール酵母はゲノム中に前記欠失が存在しないビール酵母よりも凝集性が低いと決定すること、を含むビール酵母の凝集性を判定する方法。
【選択図】なし
【解決手段】ビール酵母のゲノム中で特定な配列の塩基配列又はアミノ酸配列をコードする塩基配列によって特定される領域の部分的な欠失が存在するか否かを検出すること、及び、ゲノム中に前記欠失が存在するビール酵母はゲノム中に前記欠失が存在しないビール酵母よりも凝集性が低いと決定すること、を含むビール酵母の凝集性を判定する方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、ビール酵母の凝集性、特には、下面ビール酵母の凝集性を判定する方法に関する。
ビール酵母には大きく分けて上面ビール酵母と下面ビール酵母とがあることが知られている。ビール醸造では、発酵が終了して沈降した下面ビール酵母を回収して次回の発酵に使用するため、高い凝集性を有する下面ビール酵母を選択する必要がある。しかし、発酵を繰り返すうちに下面ビール酵母の凝集性に変化が生じることが知られており、従って、下面ビール酵母の凝集性を簡便に判定することが重要である。酵母の一般的な凝集性測定法としては、Burns法(J. Inst. Brew., 43, 31, 1937)(非特許文献1)やHelm法(Wallerstein Lablratory Communications 16, 315, 1953)(非特許文献2)があるが、これらは培養や発酵を行う必要があるので、測定に時間(約2週間)を要する。
近年、下面ビール酵母の凝集性に関与するLg-FLO1遺伝子に注目し、そのDNA塩基配列から下面ビール酵母の凝集性を判定する方法が公開されている(特開平8−205900)。この方法では、サザンハイブリダイゼーションにより下面ビール酵母の非凝集性株の検出を行っているが、FLO1遺伝子をプローブとして用いており、Lg-FLO1遺伝子の他、FLO1遺伝子等、他に複数のハイブリダイズする遺伝子があり、ハイブリダイズするバンドが複数生じ、結果の解析を明瞭に行うことができなかった。また、下面ビール酵母の非凝集性株の検出について、PCR法を用いて行ったことも報告されているが(特開平8−205900)、PCR法に使用するプローブと相同性のある配列が、Lg-FLO1遺伝子内に複数あるため、複数の増幅バンドが得られ、結果の解析を明瞭に行うことができなかった。
近年、下面ビール酵母の凝集性に関与するLg-FLO1遺伝子に注目し、そのDNA塩基配列から下面ビール酵母の凝集性を判定する方法が公開されている(特開平8−205900)。この方法では、サザンハイブリダイゼーションにより下面ビール酵母の非凝集性株の検出を行っているが、FLO1遺伝子をプローブとして用いており、Lg-FLO1遺伝子の他、FLO1遺伝子等、他に複数のハイブリダイズする遺伝子があり、ハイブリダイズするバンドが複数生じ、結果の解析を明瞭に行うことができなかった。また、下面ビール酵母の非凝集性株の検出について、PCR法を用いて行ったことも報告されているが(特開平8−205900)、PCR法に使用するプローブと相同性のある配列が、Lg-FLO1遺伝子内に複数あるため、複数の増幅バンドが得られ、結果の解析を明瞭に行うことができなかった。
また、Lg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列は、そのDNA塩基配列の一部は既に明らかになっているが(特開平8-205900、特開平8-266287、DDBJ accession number AB003521、D89860)、全てのDNA塩基配列は明らかにはされていなかった。
更に、S. cerevisiae型VIII染色体右腕末端が、Lg-FLO1遺伝子が座乗する染色体と、同遺伝子OFRから、IX染色体左腕末端が転座した構造となっているINF1遺伝子が座乗している染色体があるヘテロな構造になっていることがわかった(J. Biosci. Bioeng., 93, 395 (2002))(非特許文献3)。この場合に、Lg-FLO1遺伝子が座乗する染色体が欠失すると、下面ビール酵母の非凝集性株が生じることが報告されている(Proceedings of the European Brewery Congress, 2003)(非特許文献4)。しかし、下面ビール酵母の凝集性に変化が生じる他の機構の存在については不明であり、下面ビール酵母の凝集性の判定方法としては不充分であった。
従って、明確に、簡便且つ迅速に、下面ビール酵母の凝集性を判定することができる別の方法が依然として必要とされている。
更に、S. cerevisiae型VIII染色体右腕末端が、Lg-FLO1遺伝子が座乗する染色体と、同遺伝子OFRから、IX染色体左腕末端が転座した構造となっているINF1遺伝子が座乗している染色体があるヘテロな構造になっていることがわかった(J. Biosci. Bioeng., 93, 395 (2002))(非特許文献3)。この場合に、Lg-FLO1遺伝子が座乗する染色体が欠失すると、下面ビール酵母の非凝集性株が生じることが報告されている(Proceedings of the European Brewery Congress, 2003)(非特許文献4)。しかし、下面ビール酵母の凝集性に変化が生じる他の機構の存在については不明であり、下面ビール酵母の凝集性の判定方法としては不充分であった。
従って、明確に、簡便且つ迅速に、下面ビール酵母の凝集性を判定することができる別の方法が依然として必要とされている。
本発明の目的は、簡便且つ迅速に明瞭な結果が得られる、酵母の凝集性、特に下面ビール酵母の凝集性を判定する方法を提供することである。
また、本発明の目的は、前記方法に有用な、Lg-FLO1遺伝子に対する特異性の高いプライマーやプローブを提供することである。
また、本発明の目的は、前記方法に有用な、Lg-FLO1遺伝子に対する特異性の高いプライマーやプローブを提供することである。
本発明者らは、酵母ゲノム中のLg-FLO1遺伝子配列内における欠失、特に、Lg-FLO1遺伝子内の類似アミノ酸配列の繰り返しを含む領域における欠失を検出することによって、酵母、特に下面ビール酵母の凝集性を判定する方法を見出した。その方法は、具体的には以下の通りである。
第一としては、ビール酵母のゲノム中で配列番号1記載の塩基配列又は配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列によって特定される領域内の部分的な欠失が存在するか否かを検出すること、及び、ゲノム中に前記欠失が存在するビール酵母はゲノム中に前記欠失が存在しないビール酵母よりも凝集性が低いと決定すること、を含むビール酵母の凝集性を判定する方法である。
あるいは、欠失が、配列番号1の塩基番号647〜3696の配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、前記第一の判定方法である。
あるいは、欠失が、配列番号2のアミノ酸番号88〜1103をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、前記第一の判定方法である。
あるいは、欠失が、配列番号2のアミノ酸番号291〜984をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、前記第一の判定方法である。
あるいは、欠失が、配列番号2のアミノ酸番号291〜605をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、前記第一の判定方法である。
あるいは、欠失が、配列番号2のアミノ酸番号777〜984をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、前記第一の判定方法である。
あるいは、欠失が、配列番号1の塩基番号647〜3696の配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、前記第一の判定方法である。
あるいは、欠失が、配列番号2のアミノ酸番号88〜1103をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、前記第一の判定方法である。
あるいは、欠失が、配列番号2のアミノ酸番号291〜984をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、前記第一の判定方法である。
あるいは、欠失が、配列番号2のアミノ酸番号291〜605をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、前記第一の判定方法である。
あるいは、欠失が、配列番号2のアミノ酸番号777〜984をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、前記第一の判定方法である。
第二としては、欠失が、酵母のゲノムDNA又は酵母のゲノム由来のDNAを鋳型とするポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅された産物の大きさを比較することによって検出される、前記第一の判定方法である。
あるいは、配列番号1の塩基番号1〜1255の配列に基づいて設計したセンスプライマーと、配列番号1の塩基番号3386〜4638の配列に基づいて設計したアンチセンスプライマーとを組合せて、PCRのためのプライマー対として使用する、前記第二の判定方法である。
あるいは、プライマーG_1(配列番号19)、プライマーGM(配列番号21)及びプライマーF3(配列番号18)からなる群より選択される1のプライマーと、プライマーH2(配列番号25)、プライマーHM(配列番号16)及びプライマーH_1(配列番号31)からなる群より選択される1のプライマーとを組合せて、PCRのためのプライマー対として使用する、前記第二の判定方法である。
あるいは、プライマーG_1(配列番号19)とプライマーH_1(配列番号31)との組合せ又はプライマーGM(配列番号21)とプライマーH2(配列番号25)との組合せをプライマー対として使用する、前記第二の判定方法である。
第三としては、欠失が、酵母のゲノムDNA又は酵母のゲノム由来のDNAを制限酵素処理して得られたDNA断片にサザンハイブリダイゼーションを行い、プローブとハイブリダイズするDNA断片の大きさを比較することによって検出される、前記第一の判定方法である。 あるいは、プライマーScVIII524F(配列番号23)とプライマーScVIII525R(配列番号24)を用い実験室酵母S. cerevisiaeの染色体DNAを鋳型とするポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅された産物を、サザンハイブリダイゼーションのためのプローブとして使用する、前記第三の判定方法である。
あるいは、制限酵素が、Bam HI、Cla I、Eco RI、Eco RV及びXba Iからなる群より選択される、前記第三の判定方法である。
あるいは、配列番号1の塩基番号1〜1255の配列に基づいて設計したセンスプライマーと、配列番号1の塩基番号3386〜4638の配列に基づいて設計したアンチセンスプライマーとを組合せて、PCRのためのプライマー対として使用する、前記第二の判定方法である。
あるいは、プライマーG_1(配列番号19)、プライマーGM(配列番号21)及びプライマーF3(配列番号18)からなる群より選択される1のプライマーと、プライマーH2(配列番号25)、プライマーHM(配列番号16)及びプライマーH_1(配列番号31)からなる群より選択される1のプライマーとを組合せて、PCRのためのプライマー対として使用する、前記第二の判定方法である。
あるいは、プライマーG_1(配列番号19)とプライマーH_1(配列番号31)との組合せ又はプライマーGM(配列番号21)とプライマーH2(配列番号25)との組合せをプライマー対として使用する、前記第二の判定方法である。
第三としては、欠失が、酵母のゲノムDNA又は酵母のゲノム由来のDNAを制限酵素処理して得られたDNA断片にサザンハイブリダイゼーションを行い、プローブとハイブリダイズするDNA断片の大きさを比較することによって検出される、前記第一の判定方法である。 あるいは、プライマーScVIII524F(配列番号23)とプライマーScVIII525R(配列番号24)を用い実験室酵母S. cerevisiaeの染色体DNAを鋳型とするポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅された産物を、サザンハイブリダイゼーションのためのプローブとして使用する、前記第三の判定方法である。
あるいは、制限酵素が、Bam HI、Cla I、Eco RI、Eco RV及びXba Iからなる群より選択される、前記第三の判定方法である。
本発明の方法により、ビール酵母の凝集性を判定する方法、特には下面ビール酵母の凝集性を判定する、明確で簡便且つ迅速な判定方法が提供される。
本発明は、酵母ゲノムのLg-FLO1遺伝子をコードする塩基配列(配列番号1)又はLg-FLO1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)をコードする塩基配列によって特定される領域の部分的な欠失が存在するか否かを検出することによって、酵母の凝集性、特に、下面ビール酵母の凝集性を判定する方法である。また、本発明は、ビール酵母のゲノム中で、Lg-FLO1遺伝子をコードする塩基配列(配列番号1)又はLg-FLO1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)をコードする塩基配列によって特定される領域の部分的な欠失が存在するか否かを検出すること、及び、ゲノム中に前記欠失が存在するビール酵母はゲノム中に前記欠失が存在しないビール酵母よりも凝集性が低いと決定することを含む、ビール酵母の凝集性を判定する方法である。特には、本発明は、前記領域を特異的に増幅できる特異性の高いプライマーを用いて一段階のPCRを行うか、又は前記領域を特異的に検出できるプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行うことによって、明確、簡便且つ迅速に、ビール酵母の凝集性を判定する方法である。
ビール酵母とは、一般にビール醸造に使用される酵母を指し、生物学的分類でいうと、例えばサッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)が挙げられる。
歴史的には、「上面ビール酵母」と「下面ビール酵母」との区別は、ビール醸造過程で発酵後に見られるビール酵母の動態(表面付近に浮き上がる又は凝集して沈む)により区別されてきたが、今現在、当業者間では、下面ビール酵母と上面ビール酵母とは生物学的分類において異なる種であり、上面ビール酵母は主としてサッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)に分類され、下面ビール酵母はサッカロマイセス・セレビシアエとサッカロマイセス・バヤナスとの交雑体であってサッカロマイセス・パストリアヌスに分類されるという見解が一般的となっている。
歴史的には、「上面ビール酵母」と「下面ビール酵母」との区別は、ビール醸造過程で発酵後に見られるビール酵母の動態(表面付近に浮き上がる又は凝集して沈む)により区別されてきたが、今現在、当業者間では、下面ビール酵母と上面ビール酵母とは生物学的分類において異なる種であり、上面ビール酵母は主としてサッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)に分類され、下面ビール酵母はサッカロマイセス・セレビシアエとサッカロマイセス・バヤナスとの交雑体であってサッカロマイセス・パストリアヌスに分類されるという見解が一般的となっている。
本発明者らは、今まで不明であったLg-FLO1遺伝子の染色体上の位置及びそのORFの全塩基配列(配列番号1)を明らかにし、その全塩基配列によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号2)中に類似のアミノ酸配列が直列に繰り返す特異的な領域が2ヶ所(配列番号3及びその類似配列、配列番号4及びその類似配列)存在すること、Lg-FLO1遺伝子内の部分的な欠失、特に、前記特異的な領域を含む領域をコードするDNA塩基配列の全体又はその一部の欠失が存在する場合にビール酵母の凝集性が低下することを見出した。本明細書では、そのような特異的な領域をコードするDNA塩基配列を含む領域を、「Lg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域」とも呼ぶ。ビール酵母の凝集性の低下は、Lg-FLO1遺伝子をコードする塩基配列(配列番号1)によって特定される領域の一部分、特には、配列番号1の塩基番号647〜3696の配列によって特定される領域の全体又はその一部、すなわち、Lg-FLO1遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列番号2)中のアミノ酸番号87〜1102をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部に、欠失が存在する場合に起こることが明らかとなった。より具体的には、Lg-FLO1遺伝子をコードする塩基配列(配列番号1)の塩基番号1256〜2220の配列及び/又は塩基番号2714〜3337の配列によって特定される領域の全体又はその一部、すなわち、アミノ酸配列(配列番号2)のアミノ酸番号291〜605の配列及び/又はアミノ酸番号777〜984をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部に欠失が存在する場合にビール酵母の凝集性が低下する。
本発明の判定方法では、分類対象の酵母細胞からゲノムDNAを抽出及び/又は精製して、そのゲノムDNAのLg-FLO1遺伝子内の部分的な欠失、特に、Lg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域の全体又はその一部の欠失が存在するか否かを検出する。あるいは、分類対象の酵母細胞から抽出及び/又は精製したゲノムDNA由来のDNA(例えば、クローン化された酵母DNA断片)について、Lg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域の全体又はその一部の欠失が存在するか否かを検出してもよい。よって、本明細書において「酵母由来のDNA」は、酵母から抽出(及び精製)されたゲノムDNA並びにそのようなゲノムDNA由来のDNA(例えば、クローン化された酵母DNA断片)を含む。
酵母からのゲノムDNA抽出は、公知の方法のいずれを用いて行ってもよい。例えば、Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, P130(1990)などに記載の方法が挙げられる。また、DNA抽出用のキットやカラム等、例えばQiagen社のQiagen Genomic-tip 500/G等を用いて行うこともできる。本発明では、抽出したゲノムDNAをそのまま、PCRの鋳型として用いることができ、又は制限酵素処理してサザンハイブリダイゼーションに用いることができる。抽出したゲノムDNAは、PCRの場合には約1 ng/mlの濃度で、サザンハイブリダイゼーションの場合は約2〜5 μgが用いられる。
Lg-FLO1遺伝子をコードする塩基配列中のビール酵母の凝集性に関する領域の全体又はその一部の欠失の有無を検出するためには、特定の塩基配列の存在及び特定の塩基配列に対する相同性を調べる公知な手法のいずれをも用いることができる。例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、サザンハイブリダイゼーション、シークエンシングなどの手法を、単独で又は組合せて用いることができる。簡便且つ迅速な分類という観点からは、PCR反応及び/又はサザンハイブリダイゼーションが好ましく、最も好ましくは、制限酵素処理やクローン化を必要としない一段階のPCR反応である。
酵母からのゲノムDNA抽出は、公知の方法のいずれを用いて行ってもよい。例えば、Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, P130(1990)などに記載の方法が挙げられる。また、DNA抽出用のキットやカラム等、例えばQiagen社のQiagen Genomic-tip 500/G等を用いて行うこともできる。本発明では、抽出したゲノムDNAをそのまま、PCRの鋳型として用いることができ、又は制限酵素処理してサザンハイブリダイゼーションに用いることができる。抽出したゲノムDNAは、PCRの場合には約1 ng/mlの濃度で、サザンハイブリダイゼーションの場合は約2〜5 μgが用いられる。
Lg-FLO1遺伝子をコードする塩基配列中のビール酵母の凝集性に関する領域の全体又はその一部の欠失の有無を検出するためには、特定の塩基配列の存在及び特定の塩基配列に対する相同性を調べる公知な手法のいずれをも用いることができる。例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、サザンハイブリダイゼーション、シークエンシングなどの手法を、単独で又は組合せて用いることができる。簡便且つ迅速な分類という観点からは、PCR反応及び/又はサザンハイブリダイゼーションが好ましく、最も好ましくは、制限酵素処理やクローン化を必要としない一段階のPCR反応である。
PCR法は、Saikiらが開発した方法(Science 230, 1350(1985))を参考にして実施することもできる。PCR反応に用いるポリメラーゼは、一般にPCRに用いられる高温耐性のポリメラーゼでよいが、長い断片を増幅する場合には特に長鎖を増幅することのできるものが好ましい。また、後述するように、Lg-FLO1遺伝子のORFには、類似するアミノ酸配列をコードするかなり長い繰り返し領域があり、二次構造をとることが考えられる。従って、そのような領域を鋳型とするPCRに用いるポリメラーゼが好ましく、例えば、TaKaRa LA TaqTM(タカラバイオ社)及びTaKaRa LA TaqTM with GC Buffer(タカラバイオ社)などを挙げることができる。
本発明の方法に用いられるPCRプライマーは、Lg-FLO1遺伝子塩基配列中の繰り返し配列を有する特定領域を含む領域を増幅できるように設計することが必要であり、プライマー設計用プログラムを用いて設計してもよい。当業者であれば、所望のDNA増幅領域を考慮して適切なPCRプライマーを設計することができるであろう。例えば、配列番号1の塩基番号1〜1255の領域からセンス鎖の連続する約15 bp〜約30 bpの配列を選択して順方向のプライマーを設計し、配列番号1の塩基番号3386〜4638の領域からアンチセンス鎖の連続する約15 bp〜約30 bpの配列を選択して逆方向のプライマー(アンチセンスプライマー)を設計することもできる。また、このように選択した連続する塩基配列の5'末端側に1 bp〜10 bpの任意の塩基配列が付加されていても、プライマーとして用いることができる。プライマーは、一般的には、プライマー中のGC含量が40 %〜60 %となるように設計される。一般的なプライマーの長さは15 bp〜30 bp(15 mer〜30 mer)であり、本発明に使用するものとしては15 bp〜50 bp(15 mer〜50 mer)のものが好ましく、最も好ましくは20 bp〜30 bp(20 mer〜30 mer)である。
本発明の方法に用いられるPCRプライマーは、Lg-FLO1遺伝子塩基配列中の繰り返し配列を有する特定領域を含む領域を増幅できるように設計することが必要であり、プライマー設計用プログラムを用いて設計してもよい。当業者であれば、所望のDNA増幅領域を考慮して適切なPCRプライマーを設計することができるであろう。例えば、配列番号1の塩基番号1〜1255の領域からセンス鎖の連続する約15 bp〜約30 bpの配列を選択して順方向のプライマーを設計し、配列番号1の塩基番号3386〜4638の領域からアンチセンス鎖の連続する約15 bp〜約30 bpの配列を選択して逆方向のプライマー(アンチセンスプライマー)を設計することもできる。また、このように選択した連続する塩基配列の5'末端側に1 bp〜10 bpの任意の塩基配列が付加されていても、プライマーとして用いることができる。プライマーは、一般的には、プライマー中のGC含量が40 %〜60 %となるように設計される。一般的なプライマーの長さは15 bp〜30 bp(15 mer〜30 mer)であり、本発明に使用するものとしては15 bp〜50 bp(15 mer〜50 mer)のものが好ましく、最も好ましくは20 bp〜30 bp(20 mer〜30 mer)である。
具体的なプライマーセットとしては、例えば、センスプライマーG_1(配列番号19)とアンチセンスプライマーH2(配列番号25)との組合せ、センスプライマーG_1(配列番号19)とアンチセンスプライマーHM(配列番号16)との組合せ、センスプライマーG_1(配列番号19)とH_1(配列番号31)との組合せ、センスプライマーGM(配列番号21)とアンチセンスプライマーH2(配列番号25)との組合せ、センスプライマーGM(配列番号21)とアンチセンスプライマーHM(配列番号16)との組合せ、センスプライマーGM(配列番号21)とアンチセンスプライマーH_1(配列番号31)との組合せ、センスプライマーF3(配列番号18)とアンチセンスプライマーH2(配列番号25)との組合せ、センスプライマーF3(配列番号18)とアンチセンスプライマーHM(配列番号16)との組合せ、センスプライマーF3(配列番号18)とアンチセンスプライマーH_1(配列番号31)との組合せ等を選択することができる。好ましくは、センスプライマーG_1(配列番号19)とH_1(配列番号31)との組合せ又はセンスプライマーGM(配列番号21)とアンチセンスプライマーH2(配列番号25)との組合せ、最も好ましくは、センスプライマーGM(配列番号21)とアンチセンスプライマーH2(配列番号25)との組合せである。これらのプライマーの5'末端側に1 bp〜10 bpの任意の塩基配列が付加されていても、又は標識(例えばビオチン)が付加されていても、本発明の方法のためのプライマーとして用いることができる。
本発明のPCR反応条件は、一般的な条件に従って行うことができる。また、使用するプライマーのGC含量や長さ及び使用する酵素(ポリメラーゼ)の性質などを考慮して、最適な条件(温度、時間、サイクル数)を決定してもよい。キットを用いる場合には、その供給元が提供する使用説明書に沿って行ってもよい。具体的には、熱変性過程92 ℃〜98 ℃にて1 秒間〜60 秒間;アニーリング過程42 ℃〜65 ℃にて1 秒間〜60 秒間;伸長過程55 ℃〜75 ℃にて1 秒間〜20 分間のサイクルを1〜50 回といったPCR条件を用いることができる。また、アニ−リング過程と伸長過程は、同一温度で行うこともできる。
このようなプライマー及び条件を用い判定対象のビール酵母由来のDNAを鋳型としてPCRを行って得られた増幅産物の大きさを、対照酵母、すなわち凝集性を有することが知られている酵母、好ましくは下面ビール酵母由来のDNAを鋳型として同じプライマー及び条件を用いてPCRを行った結果得られる増幅産物の大きさと比較することができる。その結果、判定対象のビール酵母由来のDNAを鋳型として得られたPCR増幅産物の大きさが、対照酵母由来のDNAを鋳型として得られたPCR増幅産物の大きさよりも小さい場合は、判定対象のビール酵母の凝集性が対照酵母の凝集性よりも低いと決定することができる。また、判定対象のビール酵母由来のDNAを鋳型として得られたPCR増幅産物の大きさが、対照酵母由来のDNAを鋳型として得られたPCR増幅産物の大きさと同等である場合は、判定対象のビール酵母の凝集性が対照酵母の凝集性と同程度であると決定することができる。
このようなプライマー及び条件を用い判定対象のビール酵母由来のDNAを鋳型としてPCRを行って得られた増幅産物の大きさを、対照酵母、すなわち凝集性を有することが知られている酵母、好ましくは下面ビール酵母由来のDNAを鋳型として同じプライマー及び条件を用いてPCRを行った結果得られる増幅産物の大きさと比較することができる。その結果、判定対象のビール酵母由来のDNAを鋳型として得られたPCR増幅産物の大きさが、対照酵母由来のDNAを鋳型として得られたPCR増幅産物の大きさよりも小さい場合は、判定対象のビール酵母の凝集性が対照酵母の凝集性よりも低いと決定することができる。また、判定対象のビール酵母由来のDNAを鋳型として得られたPCR増幅産物の大きさが、対照酵母由来のDNAを鋳型として得られたPCR増幅産物の大きさと同等である場合は、判定対象のビール酵母の凝集性が対照酵母の凝集性と同程度であると決定することができる。
また、Lg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域の全体又はその一部の欠失を検出する別の方法として、サザンハイブリダイゼーションを挙げることができる。サザンハイブリダイゼーションは、分類対象の酵母のゲノムDNAを制限酵素処理により断片化して電気泳動を行い、プローブとハイブリダイズさせて、ハイブリダイズしたDNA断片の大きさの違いを検出することができる。
用いられる制限酵素は、酵母のゲノムDNAを断片化した場合に、プローブにハイブリダイズする領域とLg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域とが同一のDNA断片上に存在するようなものを選択することができる。当業者であれば、そのような制限酵素を適切に選択することができる。本発明の方法では、例えば、Bam HI、Cla I、Eco RI、Eco RV又はXba Iなどの制限酵素を用いることができる。
サザンハイブリダイゼーションに用いるプローブは、サザンハイブリダイゼーションを行ってLg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域を特異的に検出できるように設計すればよい。すなわち、制限酵素処理して得られた酵母ゲノムDNA断片が、プローブがハイブリダイズする領域とLg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域との両方を有すればよい。本発明の場合、Lg-FLO1遺伝子をプローブとして用いると、Lg-FLO1遺伝子の他にもFLO1遺伝子等のFLO1ホモログ遺伝子のような複数のハイブリダイズする遺伝子があり、ハイブリダイズするバンドが複数生じ、結果の解析を明瞭におこなうことができない。そこで、Lg-FLO1遺伝子の上流部分に存在するS. cerevisiae VIII染色体右腕特異的なDNA塩基配列を含むプローブを用いると、FLO1ホモログ遺伝子による複数のハイブリダイズするバンドによる解析の困難性を克服することができる。S. cerevisiae VIII染色体右腕に特異的なDNA塩基配列を有するプローブは、S. cerevisiaeのゲノムデータ-ベースであるSGD(Saccharomyces Genome Datebase, http://www.yeastgenome.org/)を検索して設計することができる。Lg-FLO1遺伝子翻訳開始点の上流1 bp〜上流約20 kbpの範囲で適切なプローブを設計すれば、ハイブリダイズしたDNA断片の大きさを比較することでLg-FLO1遺伝子内の欠失を確認することができる。具体的には、プライマーScVIII524F(配列番号23)とプライマーScVIII525R(配列番号24)を用い実験室酵母S. cerevisiaeの染色体DNAを鋳型とするPCRで増幅して得られる約1 kbpのDNA断片(Lg-FLO1遺伝子翻訳開始点の上流約1 kbp〜約2 kbp)が挙げられ、このプローブは、配列番号1の塩基番号647〜3969によって特定されるLg-FLO1遺伝子のビール酵母の凝集性に関与する領域を含むDNA断片とハイブリダイズし得る。
用いられる制限酵素は、酵母のゲノムDNAを断片化した場合に、プローブにハイブリダイズする領域とLg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域とが同一のDNA断片上に存在するようなものを選択することができる。当業者であれば、そのような制限酵素を適切に選択することができる。本発明の方法では、例えば、Bam HI、Cla I、Eco RI、Eco RV又はXba Iなどの制限酵素を用いることができる。
サザンハイブリダイゼーションに用いるプローブは、サザンハイブリダイゼーションを行ってLg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域を特異的に検出できるように設計すればよい。すなわち、制限酵素処理して得られた酵母ゲノムDNA断片が、プローブがハイブリダイズする領域とLg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域との両方を有すればよい。本発明の場合、Lg-FLO1遺伝子をプローブとして用いると、Lg-FLO1遺伝子の他にもFLO1遺伝子等のFLO1ホモログ遺伝子のような複数のハイブリダイズする遺伝子があり、ハイブリダイズするバンドが複数生じ、結果の解析を明瞭におこなうことができない。そこで、Lg-FLO1遺伝子の上流部分に存在するS. cerevisiae VIII染色体右腕特異的なDNA塩基配列を含むプローブを用いると、FLO1ホモログ遺伝子による複数のハイブリダイズするバンドによる解析の困難性を克服することができる。S. cerevisiae VIII染色体右腕に特異的なDNA塩基配列を有するプローブは、S. cerevisiaeのゲノムデータ-ベースであるSGD(Saccharomyces Genome Datebase, http://www.yeastgenome.org/)を検索して設計することができる。Lg-FLO1遺伝子翻訳開始点の上流1 bp〜上流約20 kbpの範囲で適切なプローブを設計すれば、ハイブリダイズしたDNA断片の大きさを比較することでLg-FLO1遺伝子内の欠失を確認することができる。具体的には、プライマーScVIII524F(配列番号23)とプライマーScVIII525R(配列番号24)を用い実験室酵母S. cerevisiaeの染色体DNAを鋳型とするPCRで増幅して得られる約1 kbpのDNA断片(Lg-FLO1遺伝子翻訳開始点の上流約1 kbp〜約2 kbp)が挙げられ、このプローブは、配列番号1の塩基番号647〜3969によって特定されるLg-FLO1遺伝子のビール酵母の凝集性に関与する領域を含むDNA断片とハイブリダイズし得る。
またプローブは、ハイブリダイズしたDNA断片を検出するために、予め放射性同位体(32P)や非放射性マーカー(アルカリホスファターゼ、ビオチン等)などによって標識しておく。プローブの標識は一般的な方法を用いて行うことができ、キット、例えばAlkPhos Direct Labelling and Detection System(アマシャム社)などを用いて行ってもよい。
ハイブリダイゼーションは、ストリンジェントな条件下で行うことができる。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を言う。例えば、プローブを放射線同位元素32Pで標識した場合は、サザンハイブリダイゼーションにおける洗浄条件が55〜70 ℃、0.2〜2×SSC、0.1 %SDS、好ましくは65 ℃、2×SSC、0.1 %SDS、相当する条件が挙げられる。この条件と同等な条件は当業者に良く知られたものであり、例えばMolecular Cloning, A Laboratory Manual, second edition (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)等にも記載されている。
そのようなプローブ及び条件を用いてハイブリダイゼーションを行って、プローブとハイブリダイズした判定対象のビール酵母由来のDNA断片の大きさを、プローブとハイブリダイズした対照酵母、すなわち凝集性を有することが知られている酵母、好ましくは下面ビール酵母由来のDNA断片の大きさと比較することができる。その結果、プローブとハイブリダイズした判定対象のビール酵母由来のDNA断片の大きさが、プローブとハイブリダイズした対照酵母由来のDNA断片の大きさよりも小さい場合は、判定対象のビール酵母の凝集性が対照酵母の凝集性よりも低いと決定することができる。また、プローブとハイブリダイズした判定対象のビール酵母由来のDNA断片の大きさが、プローブとハイブリダイズした対照酵母由来のDNA断片の大きさと同等である場合は、判定対象のビール酵母の凝集性が対照酵母の凝集性と同程度であると決定することができる。
ハイブリダイゼーションは、ストリンジェントな条件下で行うことができる。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を言う。例えば、プローブを放射線同位元素32Pで標識した場合は、サザンハイブリダイゼーションにおける洗浄条件が55〜70 ℃、0.2〜2×SSC、0.1 %SDS、好ましくは65 ℃、2×SSC、0.1 %SDS、相当する条件が挙げられる。この条件と同等な条件は当業者に良く知られたものであり、例えばMolecular Cloning, A Laboratory Manual, second edition (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)等にも記載されている。
そのようなプローブ及び条件を用いてハイブリダイゼーションを行って、プローブとハイブリダイズした判定対象のビール酵母由来のDNA断片の大きさを、プローブとハイブリダイズした対照酵母、すなわち凝集性を有することが知られている酵母、好ましくは下面ビール酵母由来のDNA断片の大きさと比較することができる。その結果、プローブとハイブリダイズした判定対象のビール酵母由来のDNA断片の大きさが、プローブとハイブリダイズした対照酵母由来のDNA断片の大きさよりも小さい場合は、判定対象のビール酵母の凝集性が対照酵母の凝集性よりも低いと決定することができる。また、プローブとハイブリダイズした判定対象のビール酵母由来のDNA断片の大きさが、プローブとハイブリダイズした対照酵母由来のDNA断片の大きさと同等である場合は、判定対象のビール酵母の凝集性が対照酵母の凝集性と同程度であると決定することができる。
DNA断片を大きさによって分離及び/又は精製するために、アガロースゲルやポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動が一般的に用いられる。ゲルのアガロース濃度又はポリアクリルアミド濃度や、泳動緩衝液、電圧条件等は、対象とするDNA断片の大きさや所望の分離能に依存し、当業者であれば技術常識に基づいて適切な値や条件を選択することができる。本発明の方法では、500 bp〜20 kbpのDNA断片について、100 bp〜3 kbpの大きさの違いを検出することができればよい。よって、本発明の方法では、0.5 %〜4 %、好ましくは0.7 %〜1.5 %のアガロース濃度のゲルを用いることができる。泳動緩衝液は、例えば、TAE(トリス酢酸)バッファー、TBE(トリスホウ酸)バッファー、TPE(トリスリン酸)バッファーなどを用いることができる。
アガロース電気泳動によって分離したDNA断片の大きさの違いは、一般に用いられる方法によって検出することができる。例えば、PCR産物の場合はエチジウムブロマイド等を用いてDNAのバンドを可視化することによって検出することができ、サザンハイブリダイゼーションの場合は、予めプローブに標識されている放射性同位体や非放射性マーカーなどをオートラジオグラフィーや酵素反応など適切な手法で検出することによって、プローブとハイブリダイズしたDNA断片のバンドを可視化することができる。
アガロース電気泳動によって分離したDNA断片の大きさの違いは、一般に用いられる方法によって検出することができる。例えば、PCR産物の場合はエチジウムブロマイド等を用いてDNAのバンドを可視化することによって検出することができ、サザンハイブリダイゼーションの場合は、予めプローブに標識されている放射性同位体や非放射性マーカーなどをオートラジオグラフィーや酵素反応など適切な手法で検出することによって、プローブとハイブリダイズしたDNA断片のバンドを可視化することができる。
<Lg-FLO1遺伝子の全DNA塩基配列及びLg-FLO1遺伝子上流のDNA塩基配列の決定>
(1)下面ビール酵母のVIII染色体右腕末端周辺由来のコスミドのクローニング
下面ビール酵母の凝集性に関与するLg-FLO1遺伝子は、これまでの凝集性に関する研究からVIII染色体に存在することが予想されたが(J. Amer. Soc. Brew. Chem. 59, 107 (2001), J. Biosci. Bioeng., 93, 395 (2002))、S. cerevisiae型、S. bayanus型のいずれのVIII染色体上に存在するのかは明らかとなっていなかった。そこで、Lg-FLO1遺伝子が下面ビール酵母のS. cerevisiae型、S. bayanus型のいずれのVIII染色体上に存在するのかを明らかにするため、下面ビール酵母のVIII染色体右腕末端のコスミドクローンのクローニングを行った。
(1)下面ビール酵母のVIII染色体右腕末端周辺由来のコスミドのクローニング
下面ビール酵母の凝集性に関与するLg-FLO1遺伝子は、これまでの凝集性に関する研究からVIII染色体に存在することが予想されたが(J. Amer. Soc. Brew. Chem. 59, 107 (2001), J. Biosci. Bioeng., 93, 395 (2002))、S. cerevisiae型、S. bayanus型のいずれのVIII染色体上に存在するのかは明らかとなっていなかった。そこで、Lg-FLO1遺伝子が下面ビール酵母のS. cerevisiae型、S. bayanus型のいずれのVIII染色体上に存在するのかを明らかにするため、下面ビール酵母のVIII染色体右腕末端のコスミドクローンのクローニングを行った。
下面ビール酵母FY-2株を100mlのYPD培地(1% Yeast extract, 2% Petone, 2% Glucose)で培養後、Qiagen社のQiagen Genomic-tip 500/G(Cat. No.10262)のプロトコールを用いて、下面ビール酵母FY-2株のゲノムDNAを抽出した。抽出されたゲノムDNAは、約0.5 mg/mlの濃度で、約0.5mlであった。
抽出した下面ビール酵母FY-2株のゲノムDNAから、EPICENTRE社のCopyControlTM Fosmid Library Production Kitのプロトコールに従って、コスミドライブラリーを作製した。調整したFY-2株ゲノムDNA溶液0.1mlを超音波処理することで、低分子化し、5-20% ショ糖密度勾配遠心法(日立超遠心機 CP65β, スイングローターP28S , 26000 rpm, 16時間)で、約40 kbpのDNA断片のフラクションを回収し、エタノール沈殿によって濃縮した。得られた下面ビール酵母FY-2株の約40 kbpのゲノムDNA 約0.25 μgを、EPICENTRE社製のコスミドCopyControlpCC1FOSTM(EPICENTRE社Cat. No. CCFOS110) 0.5 μgとT4 DNAライゲースによってライゲーションし、ライゲーション溶液をインビトロパッケージングキット MaxPlaxTM Lambda Packaging Extractでパッケージングした後、大腸菌EPI300-T1R株に形質導入して、下面ビール酵母のゲノムライブラリーを作製した。形質導入された大腸菌はクロラムフェニコール耐性菌として選択した。
抽出した下面ビール酵母FY-2株のゲノムDNAから、EPICENTRE社のCopyControlTM Fosmid Library Production Kitのプロトコールに従って、コスミドライブラリーを作製した。調整したFY-2株ゲノムDNA溶液0.1mlを超音波処理することで、低分子化し、5-20% ショ糖密度勾配遠心法(日立超遠心機 CP65β, スイングローターP28S , 26000 rpm, 16時間)で、約40 kbpのDNA断片のフラクションを回収し、エタノール沈殿によって濃縮した。得られた下面ビール酵母FY-2株の約40 kbpのゲノムDNA 約0.25 μgを、EPICENTRE社製のコスミドCopyControlpCC1FOSTM(EPICENTRE社Cat. No. CCFOS110) 0.5 μgとT4 DNAライゲースによってライゲーションし、ライゲーション溶液をインビトロパッケージングキット MaxPlaxTM Lambda Packaging Extractでパッケージングした後、大腸菌EPI300-T1R株に形質導入して、下面ビール酵母のゲノムライブラリーを作製した。形質導入された大腸菌はクロラムフェニコール耐性菌として選択した。
下面ビール酵母VIII染色体右腕末端周辺の由来のコスミドのクローニングは、クロラムフェニコール含有LB培地(1% Typotone, 0.5% Yeast extract, 1% NaCl, 1.5% agar, クロラムフェニコール 12.5 μg/ml)で生育した形質導入株をコロニーハイブリダイゼーションして候補となるクローンを選択し、その末端DNA塩基配列を決定して、S. cerevisiae及びS. bayanusとの相同性を検討することで行った。コロニーハイブリダイゼーションは、クロラムフェニコール含有LB培地に生育した形質導入株のコロニーを、ナイロン膜(アマシャム社製Hybond-N+)に転写した後、0.4 N NaOH-1.5 M NaCl溶液に7分間浸漬し、0.5M Tris-HCl(pH 7.0)-1.5 M NaCl溶液で3分間、2回浸漬することで中和し、2×SSC(0.3 M NaCl-0.3 M クエン酸ナトリウム pH 7.0)溶液に浸漬することで、ナイロン膜に形質導入株のDNAを固定した。コロニーハイブリダイゼーションに用いたプローブは、実験室酵母Sacchaormyces cerevisiaeの第VIII染色体右腕に座乗する遺伝子であるSCH9, SKN7, BAT1遺伝子等のORFをコードするDNAフラグメントを、実験室酵母S. cerevisiae YPH500株の染色体DNAを鋳型としたPCRにより増幅して用いた。プローブとする各遺伝子ORFを増幅するためのPCRに用いるプライマーは、S. cerevisiaeのゲノムデータ-ベースであるSGD(Saccharomyces Genome Datebase, http://www.yeastgenome.org/)を検索することで決定した。PCRは、タカラバイオ社製Perfect shotを用い、そのプロトコールに従った。PCRの条件は、94℃ 30秒間、55℃ 30秒間、72℃ 1分間のサイクルを30回、72℃にて5分間で終了とした。プローブの標識とハイブリダイゼーション及び検出の方法は、アマシャム社のAlkPhos Direct Labelling and Detection Systemのプロトコールに従った。
コロニーハイブリダイゼーションの結果、下面ビール酵母のVIII染色体右腕末端周辺由来のコスミドと考えられる4つのクローン(9_M04、3_H24、10_P04、12_J12)を得ることができた。これらの各コスミドクローンから、Qiagen tip 500のプロトコールに従ってコスミドDNAを抽出し、ベックマンコールター社製のDNAシークエンサーCEQ8000のプロトコール(GenomeLabTM Dye Terminator Cycle Sequencing with Qiuk Start Kit P/N608120)に従って、挿入DNAの末端DNA塩基配列を決定した。シークエンス用のプライマーは、pCC1TM/pEpiFOSTM Forward Sequencing Primer (EPICENTRE社Cat. No. F5FP010)あるいは、pCC1TM/pEpiFOSTM Reverse Sequencing Primer (EPICENTRE社Cat. No. F5RP010)を用いて行った。
決定したDNA塩基配列の相同性の検索は、S. cerevisiaeに対しては、S. cerevisiaeのゲノムデータ-ベースであるSGD(Sacchromyces Genome Datebase, http://www.yeastgenome.org/)を検索することで行った。S. cerevisiaeの類縁菌であるS. bayanusとの相同性は、ワシントン大学のGenome Sequencing Centerのホームページ上(http://genomeold.wustl.edu/projects/yeast/)で検索することで行った。
決定したDNA塩基配列の相同性の検索は、S. cerevisiaeに対しては、S. cerevisiaeのゲノムデータ-ベースであるSGD(Sacchromyces Genome Datebase, http://www.yeastgenome.org/)を検索することで行った。S. cerevisiaeの類縁菌であるS. bayanusとの相同性は、ワシントン大学のGenome Sequencing Centerのホームページ上(http://genomeold.wustl.edu/projects/yeast/)で検索することで行った。
コスミドクローン9_M04の挿入DNAについて決定した塩基配列のうち、pCC1TM/pEpiFOSTM Forward Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号6)は、実験室酵母S. cerevisiaeのVIII染色体の配列に対して高い相同性(687塩基中686塩基が一致、相同性99%)を示し、S. cerevisiaeの類縁種であるS. bayanusの一つのcontigとの相同性(550塩基中469塩基が一致、相同性85%)はS. cerevisiaeのものと比較すると低いものであった。pCC1TM/pEpiFOSTM Reverse Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号7)についても同様であって、S. bayanus由来のcontigとの相同性(373塩基中301塩基が一致、相同性80%)に比べて、S. cerevisiaeとの相同性(704塩基中697塩基が一致、相同性99%)の方が高かった。コスミドクローン9_M04の挿入DNAのうち、pCC1TM/pEpiFOSTM Forward Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号6)は、S. cerevisiae VIII染色体上にあるERG9遺伝子と高い相同性を有していた。また、コスミドクローン9_M04の挿入DNAをpCC1TM/pEpiFOSTM Reverse Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号7)は、S. cerevisiae VIII染色体上にあるYHR210C遺伝子と高い相同性を有していた。以上の結果より、コスミドクローン9_M04は、下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体の図1に示した領域のDNA、すなわち、下面ビール酵母のS. cerevisiae 型のVIII染色体上にあるERG9遺伝子とYHR210C遺伝子との間の領域のDNAが挿入されているものと考えられた(図1)。
コスミドクローン3_H24の挿入DNAのうち、pCC1TM/pEpiFOSTM Forward Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号8)は、S. cerevisiaeとの相同性(674塩基中573塩基が一致、相同性85%)に比べて、S. bayanusとの相同性(696塩基中648塩基が一致、相同性93%)の方が高かった。コスミドクローン3_H24の挿入DNAのうち、pCC1TM/pEpiFOSTM Reverse Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号9)も、S. cerevisiaeとの相同性(620塩基中510塩基が一致、相同性82%)に比べて、S. bayanusとの相同性(623塩基中583塩基が一致、相同性93%)の方が高かった。pCC1TM/pEpiFOSTM Forward Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号8)は、S. cerevisiae VIII染色体上にあるSCH9遺伝子と比較的高い相同性を有しており、pCC1TM/pEpiFOSTM Reverse Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号9)は、S. cerevisiae VIII染色体上にあるKOG1遺伝子と比較的高い相同性を有していた。従って、コスミドクローン3_H24は、下面ビール酵母のS. bayanus型VIII染色体の図1に示した領域のDNA、すなわち、KOG1遺伝子からSCH9遺伝子の間のDNAが挿入されているものと考えられた。なお、コスミドクローン3_H24の挿入DNAについて決定したDNA塩基配列(配列番号8及び9)は、これまでに報告があったS. cerevisiaeあるいはS. bayanusいずれのDNA塩基配列とも一致していない、新規なDNA塩基配列である。
コスミドクローン10_P04の挿入DNAのうち、pCC1TM/pEpiFOSTM Forward Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号10)は、S. cerevisiae IX染色体との高い相同性があったのに対し(541塩基中517塩基が一致、相同性95%)、S. bayanusとの相同性はこれに比較すると低いものであった(360塩基中300塩基が一致、相同性83%)。pCC1TM/pEpiFOSTM Reverse Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号11)も、S. cerevisiae VIII染色体との高い相同性があったのに対し(490塩基中483塩基が一致、相同性98%)に比べて、S. bayanusとの相同性はこれと比較して低いものであった(143塩基中123塩基が一致、相同性86%)。コスミドクローン10_P04の挿入DNAをpCC1TM/pEpiFOSTM Forward Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号10)は、S. cerevisiae IX染色体上のYIL169c遺伝子と高い相同性を有していた。一方、コスミドクローン10_P04の挿入DNAのうち、pCC1TM/pEpiFOSTM Reverse Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号11)は、S. cerevisiae VIII染色体上のNVJ1遺伝子と高い相同性を有していた。従って、コスミドクローン10_P04は、図7に示す部分のDNA、すなわち、S. cerevisiae VIII染色体上のNVJ1遺伝子から右腕部分が途中、S. cerevisiae IX染色体上のYIL169c遺伝子周辺で組み換わった領域が挿入されていると考えられた。
コスミドクローン12_J12の挿入DNAのうち、pCC1TM/pEpiFOSTM Forward Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号12)は、S. cerevisiae VIII染色体との高い相同性があったのに対し(500塩基中493塩基が一致、相同性98%)、S. bayanusとの相同性はこれに比較すると低いものであった(341塩基中274塩基が一致、相同性80%)。コスミドクローン12_J12の挿入DNAのうち、pCC1TM/pEpiFOSTM Reverse Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号13)も、S. cerevisiae IX染色体との高い相同性があったのに対し(409塩基中388塩基が一致、相同性94%)に比べて、S. bayanusのcontigと高い相同性を示さなかった。コスミドクローン12_J12の挿入DNAをpCC1TM/pEpiFOSTM Forward Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号12)は、S. cerevisiae VIII染色体上のYHR209w遺伝子と高い相同性を有していた。一方、コスミドクローン12_J12の挿入DNAをpCC1TM/pEpiFOSTM Reverse Sequencing Primerを用いて決定したDNA塩基配列(配列番号13)は、S. cerevisiae IX染色体上の左腕テロメアの配列及び周辺配列と高い相同性を有していた。従って、コスミドクローン12_J12は、S. cerevisiae VIII染色体上のYHR209w遺伝子から右腕部分の途中が、S. cerevisiae IX染色体の左腕のテロメアから周辺領域に組み換わっていると考えられた(図1)。
以上、コスミドクローン10_P04及び12_J12の検討結果より、試験に用いた下面ビール酵母FY-2株のS. cerevisiae型VIII染色体右腕末端周辺が、S. cerevisiae IX染色体上の左腕テロメアの配列及び周辺配列が挿入された構造の染色体の存在も考えられた。なお、J. Biosci. Bioeng., 93, 395 (2002)には、下面ビール酵母のLg-FLO1遺伝子のORF内から、S. cerevisiae IX染色体上の左腕テロメアの配列及び周辺配列が挿入された染色体が存在することが報告されている。
以上、コスミドクローン10_P04及び12_J12の検討結果より、試験に用いた下面ビール酵母FY-2株のS. cerevisiae型VIII染色体右腕末端周辺が、S. cerevisiae IX染色体上の左腕テロメアの配列及び周辺配列が挿入された構造の染色体の存在も考えられた。なお、J. Biosci. Bioeng., 93, 395 (2002)には、下面ビール酵母のLg-FLO1遺伝子のORF内から、S. cerevisiae IX染色体上の左腕テロメアの配列及び周辺配列が挿入された染色体が存在することが報告されている。
(2)Lg-FLO1遺伝子の下面ビール酵母染色体上の位置の解明
前述の実験より、下面ビール酵母のS. cerevisiae型及びS. bayanus型のVIII染色体右腕末端周辺のDNA塩基配列の一部が明らかになったので(配列番号7、配列番号8)、既に明らかになっている部分的なLg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列(DDBJ accession number D89860, AB003521)の一部を用いて、PCRを行うことで、Lg-FLO1遺伝子が下面ビール酵母のS. cerevisiae型、S. bayanus型のいずれのVIII染色体に位置するかを明らかにすることを試みた。
下面ビール酵母FY-2株のS. cerevisiae型VIII染色体右腕末端周辺のDNA塩基配列(配列番号7)より、プライマー9M04R1(5'-CTTCTTGAGATGGAAGGAGCTGATGCTAC-3')(配列番号14)を作製し、一方、Lg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列のうち、既に明らかとなっている部分(DDBJ accession number D89860)より、プライマーRG(5'-CCAAAAAGATCAGAACTCCAAGAGGCAG-3')(配列番号15)を作製し、あるいは、同様に既に明らかになっている部分(DDBJ accession number AB003521)より、プライマーHM(5'-CGTTTACCATACGATTGCCAGCAATACGG-3')(配列番号16)を作製し、下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型として、PCRを行った。PCRは、タカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従って行った。すなわち、鋳型DNAは、前述した方法で精製した下面ビール酵母FY-2株のゲノムDNAを、最終濃度1 ng/mlで、各プライマーの最終濃度は0.2 μM、反応BufferはGC Buffer I、PCR反応条件は、94℃で1分間の後、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 2分間のサイクルを30回、72℃で5分間で終了とした。PCRの増幅産物は、1%アガロース電気泳動で確認した。
前述の実験より、下面ビール酵母のS. cerevisiae型及びS. bayanus型のVIII染色体右腕末端周辺のDNA塩基配列の一部が明らかになったので(配列番号7、配列番号8)、既に明らかになっている部分的なLg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列(DDBJ accession number D89860, AB003521)の一部を用いて、PCRを行うことで、Lg-FLO1遺伝子が下面ビール酵母のS. cerevisiae型、S. bayanus型のいずれのVIII染色体に位置するかを明らかにすることを試みた。
下面ビール酵母FY-2株のS. cerevisiae型VIII染色体右腕末端周辺のDNA塩基配列(配列番号7)より、プライマー9M04R1(5'-CTTCTTGAGATGGAAGGAGCTGATGCTAC-3')(配列番号14)を作製し、一方、Lg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列のうち、既に明らかとなっている部分(DDBJ accession number D89860)より、プライマーRG(5'-CCAAAAAGATCAGAACTCCAAGAGGCAG-3')(配列番号15)を作製し、あるいは、同様に既に明らかになっている部分(DDBJ accession number AB003521)より、プライマーHM(5'-CGTTTACCATACGATTGCCAGCAATACGG-3')(配列番号16)を作製し、下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型として、PCRを行った。PCRは、タカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従って行った。すなわち、鋳型DNAは、前述した方法で精製した下面ビール酵母FY-2株のゲノムDNAを、最終濃度1 ng/mlで、各プライマーの最終濃度は0.2 μM、反応BufferはGC Buffer I、PCR反応条件は、94℃で1分間の後、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 2分間のサイクルを30回、72℃で5分間で終了とした。PCRの増幅産物は、1%アガロース電気泳動で確認した。
同様に、下面ビール酵母のS. bayanus型VIII染色体右腕末端周辺のDNA塩基配列(配列番号8)よりプライマー3H24F1(5'-GTCTCTAGGTGTATTGATATTCGAAATGTG-3')(配列番号17)を作製し、一方、Lg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列のうち、既に明らかとなっている部分(DDBJ accession number AB003521)より作製したプライマーRGあるいは、同様に既に明らかになっている部分(DDBJ accession number AB003521)より作製したプライマーHMを用いて、下面ビール酵母FY-2株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRの条件等は、タカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従った前述の場合と同様であった。
その結果、S. cerevisiae型VIII染色体右腕末端周辺のDNA塩基配列を用いてPCRを行った場合にのみ、増幅産物を得ることができ(図2、レーン1、2)、S. bayanus型VIII染色体右腕末端周辺のDNA塩基配列を用いてPCRを行った場合には、増幅産物を得ることはできなかった(図2、レーン3、4)。以上より、Lg-FLO1遺伝子は、下面ビール酵母染色体のうち、S. cerevisiae型のVIII染色体の右腕末端に存在することがわかった(図1)。
その結果、S. cerevisiae型VIII染色体右腕末端周辺のDNA塩基配列を用いてPCRを行った場合にのみ、増幅産物を得ることができ(図2、レーン1、2)、S. bayanus型VIII染色体右腕末端周辺のDNA塩基配列を用いてPCRを行った場合には、増幅産物を得ることはできなかった(図2、レーン3、4)。以上より、Lg-FLO1遺伝子は、下面ビール酵母染色体のうち、S. cerevisiae型のVIII染色体の右腕末端に存在することがわかった(図1)。
(3)Lg-FLO1遺伝子の全DNA塩基配列及びLg-FLO1遺伝子上流のDNA塩基配列の決定
前述(2)の実験により、Lg-FLO1遺伝子の下面ビール酵母染色体上の位置が明らかとなったので、Lg-FLO1遺伝子ORFの後半部分のクローニングを行うため、既知の部分的なLg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列(DDBJ accession number D89860)から作製したプライマーF3(5'-GCTTCCTGTTAGTGTGGTATTGCCAGATGG-3')(配列番号18)と、既知の部分的なLg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列(DDBJ accession number AB003521)から作製したプライマーH_1(5'-AAGCTTTTTTGTAAAACAGATTTTTTGCC-3')(配列番号31)とを用いて、PCRを行った。そのPCR産物をプラスミドpCR2.1(Invitogen. Inc.)に挿入し、プラスミドpCR-LgFLO1を作製した。PCRの条件は、前述したタカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従って行ったものと同じである。すなわち、鋳型DNAは、前述した方法で精製した下面ビール酵母FY-2株のゲノムDNAを、最終濃度1 ng/mlで、各プライマーの最終濃度は0.2 μM、反応BufferはGC Buffer I、PCR反応条件は、94℃で1分間の後、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 2分間のサイクルを30回、72℃にて5分間で終了とした。そのPCR産物をInvitrogen社のTOPO TA Cloningのプロトコールに従い、プラスミドpCR2.1(Invitogen. Inc.)に挿入し、プラスミドpCR-LgFLO1を作製した。すなわち、PCR終了後、直ちに、その増幅産物4 μlを、Topoisomerase Iが共有結合しているプラスミドpCR2.1(3'末端にTが付加されている)液1 μlと混合させ、室温で5分間放置し、PCR増幅産物が挿入されたプラスミドを作製し、大腸菌TOP10株に形質転換した。
前述(2)の実験により、Lg-FLO1遺伝子の下面ビール酵母染色体上の位置が明らかとなったので、Lg-FLO1遺伝子ORFの後半部分のクローニングを行うため、既知の部分的なLg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列(DDBJ accession number D89860)から作製したプライマーF3(5'-GCTTCCTGTTAGTGTGGTATTGCCAGATGG-3')(配列番号18)と、既知の部分的なLg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列(DDBJ accession number AB003521)から作製したプライマーH_1(5'-AAGCTTTTTTGTAAAACAGATTTTTTGCC-3')(配列番号31)とを用いて、PCRを行った。そのPCR産物をプラスミドpCR2.1(Invitogen. Inc.)に挿入し、プラスミドpCR-LgFLO1を作製した。PCRの条件は、前述したタカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従って行ったものと同じである。すなわち、鋳型DNAは、前述した方法で精製した下面ビール酵母FY-2株のゲノムDNAを、最終濃度1 ng/mlで、各プライマーの最終濃度は0.2 μM、反応BufferはGC Buffer I、PCR反応条件は、94℃で1分間の後、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 2分間のサイクルを30回、72℃にて5分間で終了とした。そのPCR産物をInvitrogen社のTOPO TA Cloningのプロトコールに従い、プラスミドpCR2.1(Invitogen. Inc.)に挿入し、プラスミドpCR-LgFLO1を作製した。すなわち、PCR終了後、直ちに、その増幅産物4 μlを、Topoisomerase Iが共有結合しているプラスミドpCR2.1(3'末端にTが付加されている)液1 μlと混合させ、室温で5分間放置し、PCR増幅産物が挿入されたプラスミドを作製し、大腸菌TOP10株に形質転換した。
さらに、S. cerevisiaeのVIII染色体の右腕末端のDNA塩基配列を、SGD(Sacchromyces Genome Datebase, http://www.yeastgenome.org/)により明らかにし、その一部の配列より作製したプライマーG_1(5'-GTTTTGCGCTCATTAAAACCTAGTGGGAG-3')(配列番号19)と、既知の部分的なLg-FLO1遺伝子のDNA塩基配列(DDBJ accession number D89860)より作製したプライマーRF3(5'-CCATCTGGCAATACCACAC-3')(配列番号20)とを用いて、PCRを行い、Lg-FLO1遺伝子の上流及びORF前半部分のクローニングを試みた。PCRの条件は、前述したタカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従って行ったものと同じである。そのPCR産物を前述したInvitrogen社のTOPO TA Cloningのプロトコールに従いプラスミドpCR2.1に挿入し、プラスミドpCR-LgFLO1_2を作製した。
プラスミドpCR-LgFLO1及びプラスミドpCR-LgFLO1_2に挿入されたDNA断片の塩基配列を決定することで、Lg-FLO1遺伝子の全DNA塩基配列及びLg-FLO1遺伝子上流のDNA塩基配列を決定した。DNA塩基配列の決定方法は、前述したベックマンコールター社製のDNAシークエンサーCEQ8000のプロトコール(GenomeLabTM Dye Terminator Cycle Sequencing with Qiuk Start Kit P/N608120)に従った方法と同様であり、タカラバイオ社製Kilo-sequence用Deletion Kitを用いて、プラスミド挿入DNA断片全体のシークエンスを行った。決定したDNA塩基配列(配列番号1)は、図3に示した。このDNA配列から想定されるLg-FLO1蛋白質のアミノ酸配列(配列番号2)は、図4に示した。Lg-FLO1遺伝子の上流領域のDNA塩基配列は、S. cerevisiaeのVIII染色体右腕末端の対応領域のDNA塩基配列が概ね同一であったが、下面ビール酵母のLg-FLO1遺伝子の上流領域には、S. cerevisiaeのVIII染色体右腕末端の対応領域にはない84 bpの付加的な塩基配列(配列番号5)があることがわかった(図5)。また、タンパク質をコードするORF領域には、ASTAITTTEPWTGTFTSTSTEMTTVTGTNGLPTDETIIVIRTPTT(配列番号3)のアミノ酸配列又はその類似配列である45アミノ酸残基の繰り返し配列が7ヶ所と、SSLPPVTSATTSQETA(配列番号4)のアミノ酸配列又はその類似配列である16アミノ酸残基の繰り返し配列が13ヶ所認められた(図4)。
プラスミドpCR-LgFLO1及びプラスミドpCR-LgFLO1_2に挿入されたDNA断片の塩基配列を決定することで、Lg-FLO1遺伝子の全DNA塩基配列及びLg-FLO1遺伝子上流のDNA塩基配列を決定した。DNA塩基配列の決定方法は、前述したベックマンコールター社製のDNAシークエンサーCEQ8000のプロトコール(GenomeLabTM Dye Terminator Cycle Sequencing with Qiuk Start Kit P/N608120)に従った方法と同様であり、タカラバイオ社製Kilo-sequence用Deletion Kitを用いて、プラスミド挿入DNA断片全体のシークエンスを行った。決定したDNA塩基配列(配列番号1)は、図3に示した。このDNA配列から想定されるLg-FLO1蛋白質のアミノ酸配列(配列番号2)は、図4に示した。Lg-FLO1遺伝子の上流領域のDNA塩基配列は、S. cerevisiaeのVIII染色体右腕末端の対応領域のDNA塩基配列が概ね同一であったが、下面ビール酵母のLg-FLO1遺伝子の上流領域には、S. cerevisiaeのVIII染色体右腕末端の対応領域にはない84 bpの付加的な塩基配列(配列番号5)があることがわかった(図5)。また、タンパク質をコードするORF領域には、ASTAITTTEPWTGTFTSTSTEMTTVTGTNGLPTDETIIVIRTPTT(配列番号3)のアミノ酸配列又はその類似配列である45アミノ酸残基の繰り返し配列が7ヶ所と、SSLPPVTSATTSQETA(配列番号4)のアミノ酸配列又はその類似配列である16アミノ酸残基の繰り返し配列が13ヶ所認められた(図4)。
<下面ビール酵母FY-2株のS.cerevisiae型VIII染色体右腕の構造の解析>
実施例1(1)におけるコスミドクローン10_P04及び12_J12の解析で明らかになったように、解析を行っている下面ビール酵母FY-2株のS. cerevisiae型VIII染色体右腕末端周辺に、S. cerevisiae IX染色体左腕テロメア周辺が挿入された構造の染色体が存在することが予想された。このような構造を有する染色体が下面ビール酵母に存在することは、前報(J. Biosci. Bioeng., 93, 395 (2002))で報告されており、同報ではVIII染色体右腕にあるLg-FLO1遺伝子に、S. cerevisiae IX染色体上のYIL169c遺伝子が挿入され、ILF1遺伝子が形成されているということが報告されている。これを確認するため、VIII染色体右腕末端がIX染色体左腕末端に組み替わった染色体の存在状態を確認し、ILF1遺伝子のクローニング及びDNA塩基配列の決定を行って、下面ビール酵母FY-2株のS. cerevisiae型VIII染色体右腕の構造の解明を試みた。
既に報告されているLg-FLO1遺伝子のDNA配列(DDBJ accession number D89860)から作製したプライマーGM(5'-GCCTTTTGGAATACTGCCTCTTGGAGTTC-3')(配列番号21)と、Saccharomyces Genome Database(SGD)より明らかにされたYIL169c遺伝子のDNA塩基配列から作製したプライマーI(5'-GGATTCTTCAGCGTTGAAGT-3')(配列番号22)とを用い、鋳型DNAには下面ビール酵母FY-2株の染色体DNA及びコスミドクローン10_P04、12_J12のDNAを用いて、PCRを行い、ILF1遺伝子の存在を確認した。確認は、1%アガロース電気泳動で行った。PCRの条件は、前述したタカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferの方法と同じであり、94℃で1分間の後、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 2分間のサイクルを30回、72℃で5分間で終了とした。ILF1遺伝子のクローニングは、同両プライマーと、下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型DNAとしたPCR産物を、前述したInvitrogen社のTOPO TA Cloningのプロトコールに従い、プラスミドpCR2.1(Invitogen. Inc.)に挿入し、プラスミドpCR-ILF1を作製することで行った。
実施例1(1)におけるコスミドクローン10_P04及び12_J12の解析で明らかになったように、解析を行っている下面ビール酵母FY-2株のS. cerevisiae型VIII染色体右腕末端周辺に、S. cerevisiae IX染色体左腕テロメア周辺が挿入された構造の染色体が存在することが予想された。このような構造を有する染色体が下面ビール酵母に存在することは、前報(J. Biosci. Bioeng., 93, 395 (2002))で報告されており、同報ではVIII染色体右腕にあるLg-FLO1遺伝子に、S. cerevisiae IX染色体上のYIL169c遺伝子が挿入され、ILF1遺伝子が形成されているということが報告されている。これを確認するため、VIII染色体右腕末端がIX染色体左腕末端に組み替わった染色体の存在状態を確認し、ILF1遺伝子のクローニング及びDNA塩基配列の決定を行って、下面ビール酵母FY-2株のS. cerevisiae型VIII染色体右腕の構造の解明を試みた。
既に報告されているLg-FLO1遺伝子のDNA配列(DDBJ accession number D89860)から作製したプライマーGM(5'-GCCTTTTGGAATACTGCCTCTTGGAGTTC-3')(配列番号21)と、Saccharomyces Genome Database(SGD)より明らかにされたYIL169c遺伝子のDNA塩基配列から作製したプライマーI(5'-GGATTCTTCAGCGTTGAAGT-3')(配列番号22)とを用い、鋳型DNAには下面ビール酵母FY-2株の染色体DNA及びコスミドクローン10_P04、12_J12のDNAを用いて、PCRを行い、ILF1遺伝子の存在を確認した。確認は、1%アガロース電気泳動で行った。PCRの条件は、前述したタカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferの方法と同じであり、94℃で1分間の後、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 2分間のサイクルを30回、72℃で5分間で終了とした。ILF1遺伝子のクローニングは、同両プライマーと、下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型DNAとしたPCR産物を、前述したInvitrogen社のTOPO TA Cloningのプロトコールに従い、プラスミドpCR2.1(Invitogen. Inc.)に挿入し、プラスミドpCR-ILF1を作製することで行った。
下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体右腕の構造の解明のために、下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型DNAとしたPCRと、S. cerevisiaeのVIII染色体特異的な領域のDNAをプローブとしたサザンハイブリダイゼーションを行った。
下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体右腕の構造の解明のためのPCRは、プライマー9M04R1とプライマーHMとを用い下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型DNAとしたPCRで、Lg-FLO1遺伝子の存在を確認し、プライマー9M04R1とプライマーIとを用い下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型DNAとしたPCRで、ILF1遺伝子の存在を確認することで行った。これらのプライマーは、先に記載したものである。PCRの条件は、前述したタカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従って行ったものと同じである。すなわち、鋳型DNAは、前述した方法で精製した下面ビール酵母FY-2株のゲノムDNAを、最終濃度1 ng/mlで、各プライマーの最終濃度は0.2 μM、反応BufferはGC Buffer I、PCR反応条件は、94℃で1分間の後、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 2分間のサイクルを30回、72℃にて5分間で終了とした。PCR産物の1 μlを1%アガロースで電気泳動して検出した。
プライマーGMとプライマーIを用いたPCRによって、下面ビール酵母FY-2株の染色体DNA及びコスミドクローン(10_P04又は12_J12)のDNAのいずれのDNAを鋳型とした場合であっても、同一のPCR増幅産物が得られた(図6)ことより、下面ビール酵母FY-2株では、前報(J. Biosci. Bioeng., 93, 395 (2002))で報告されているILF1遺伝子が形成されていると考えられた。そこで、ILF1遺伝子をクローニングして、DNA塩基配列を決定した。決定したILF1遺伝子のうち、Lg-FLO1遺伝子とS. cerevisiae IX染色体上にあるYIL169c遺伝子との組換え領域について図7に示す。前報(Proceeding of European Brewing Congress (2003))に記載されているように、ILF1遺伝子は、Lg-FLO1遺伝子とS. cerevisiae IX染色体上にあるYIL169c遺伝子とが、in-frameで接続していることを確認できた。
プライマーGMとプライマーIを用いたPCR、及び、プライマーGMとプライマーHMを用いたPCR、いずれも下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型DNAとして、PCR増幅産物を得た(図8A)。
下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体右腕の構造の解明のためのPCRは、プライマー9M04R1とプライマーHMとを用い下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型DNAとしたPCRで、Lg-FLO1遺伝子の存在を確認し、プライマー9M04R1とプライマーIとを用い下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型DNAとしたPCRで、ILF1遺伝子の存在を確認することで行った。これらのプライマーは、先に記載したものである。PCRの条件は、前述したタカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従って行ったものと同じである。すなわち、鋳型DNAは、前述した方法で精製した下面ビール酵母FY-2株のゲノムDNAを、最終濃度1 ng/mlで、各プライマーの最終濃度は0.2 μM、反応BufferはGC Buffer I、PCR反応条件は、94℃で1分間の後、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 2分間のサイクルを30回、72℃にて5分間で終了とした。PCR産物の1 μlを1%アガロースで電気泳動して検出した。
プライマーGMとプライマーIを用いたPCRによって、下面ビール酵母FY-2株の染色体DNA及びコスミドクローン(10_P04又は12_J12)のDNAのいずれのDNAを鋳型とした場合であっても、同一のPCR増幅産物が得られた(図6)ことより、下面ビール酵母FY-2株では、前報(J. Biosci. Bioeng., 93, 395 (2002))で報告されているILF1遺伝子が形成されていると考えられた。そこで、ILF1遺伝子をクローニングして、DNA塩基配列を決定した。決定したILF1遺伝子のうち、Lg-FLO1遺伝子とS. cerevisiae IX染色体上にあるYIL169c遺伝子との組換え領域について図7に示す。前報(Proceeding of European Brewing Congress (2003))に記載されているように、ILF1遺伝子は、Lg-FLO1遺伝子とS. cerevisiae IX染色体上にあるYIL169c遺伝子とが、in-frameで接続していることを確認できた。
プライマーGMとプライマーIを用いたPCR、及び、プライマーGMとプライマーHMを用いたPCR、いずれも下面ビール酵母FY-2株の染色体DNAを鋳型DNAとして、PCR増幅産物を得た(図8A)。
下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体右腕の構造の解明のためのサザンハイブリダイゼーションは、S. cerevisiaeのVIII染色体特異的なDNA塩基配列を含む領域1Kbpを、プライマーScVIII524F(5'-GGAGAAGGAATAACTTCCGGTTGCAGCTAC-3')(配列番号23)とScVIII525R(5'-GTGTAATTCTCGAGGGTGCCGTGAAAAAG-3')(配列番号24)を用い、実験室酵母S. cerevisiae X-2180-1Aの染色体DNAを鋳型とするPCRで増幅して、プローブとして行った。このPCRのプライマーに用いた両方のDNA塩基配列も、実験室酵母Saccharomyces cerevisiaeのゲノムデータベースである(SGD)に記載のあるものである。サザンハイブリダイゼーションは、下面ビール酵母FY-2株の染色体DNA約2 μgを、制限酵素Cla I、Bam HI、Eco RI、Eco RV又はXba Iを約20 U〜50 U用いて処理し、1%アガロースで電気泳動した後、ナイロンメンブラン(アマシャム社製Hybond-N+)に転写して、標識したプローブとハイブリダイゼーションさせてハイブリダイズしたバンドを検出することで行った。プローブの標識とハイブリダイゼーション及び検出の方法は、アマシャム社のAlkPhos Direct Labelling and Detection Systemのプロトコールに従った。
サザンハイブリダイゼーションでは、各制限酵素で2本のハイブリダイズするバンドを得た(図8B)。従って、下面ビール酵母FY-2株のS. cerevisiae型VIII染色体右腕は、図1に示したように、Lg-FLO1遺伝子が座乗した染色体とS. cerevisiae IX染色体左腕テロメア周辺が挿入されたことにより、ILF1遺伝子が座乗した染色体とがあるヘテロの状態であることが判明した(図8C)。
サザンハイブリダイゼーションでは、各制限酵素で2本のハイブリダイズするバンドを得た(図8B)。従って、下面ビール酵母FY-2株のS. cerevisiae型VIII染色体右腕は、図1に示したように、Lg-FLO1遺伝子が座乗した染色体とS. cerevisiae IX染色体左腕テロメア周辺が挿入されたことにより、ILF1遺伝子が座乗した染色体とがあるヘテロの状態であることが判明した(図8C)。
<Lg-FLO1遺伝子配列中の欠失の有無を指標とする下面ビール酵母の凝集性判定>
これまでの下面ビール酵母凝集性に関する研究から、下面ビール酵母の凝集性はLg-FLO1遺伝子の変動に影響されていることが予想されたので、下面ビール酵母の非凝集性株のLg-FLO1遺伝子について、サザンハイブリダイゼーション法及びPCR法で明瞭に検出することを試みた。具体的には、実施例2で行ったように、下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体の状態を調べるPCR及びサザンハイブリダイゼーションを行うことと、Lg-FLO1遺伝子には繰り返し領域があったことより、その領域を含むDNA領域をPCRで増幅することで下面ビール酵母の非凝集性株を検出することができるかを調べた。
酵母の凝集性を判定するために行った上記PCRとハイブリダイゼーションの結果は、図9から図13に示した。正常な凝集性を有する下面ビール酵母FY-2株及び当社で保有している下面ビール酵母の非凝集性株No.9株、P7株、P50株について、実施例1に記載したようにゲノムDNAを抽出して、鋳型DNAとしてPCRに用い、また制限酵素で断片化してハイブリダイゼーションに用いた。上述する凝集性の程度は、Burns法(J. Inst. Brew., 43, 31, 1937)に従って決定したものである。
これまでの下面ビール酵母凝集性に関する研究から、下面ビール酵母の凝集性はLg-FLO1遺伝子の変動に影響されていることが予想されたので、下面ビール酵母の非凝集性株のLg-FLO1遺伝子について、サザンハイブリダイゼーション法及びPCR法で明瞭に検出することを試みた。具体的には、実施例2で行ったように、下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体の状態を調べるPCR及びサザンハイブリダイゼーションを行うことと、Lg-FLO1遺伝子には繰り返し領域があったことより、その領域を含むDNA領域をPCRで増幅することで下面ビール酵母の非凝集性株を検出することができるかを調べた。
酵母の凝集性を判定するために行った上記PCRとハイブリダイゼーションの結果は、図9から図13に示した。正常な凝集性を有する下面ビール酵母FY-2株及び当社で保有している下面ビール酵母の非凝集性株No.9株、P7株、P50株について、実施例1に記載したようにゲノムDNAを抽出して、鋳型DNAとしてPCRに用い、また制限酵素で断片化してハイブリダイゼーションに用いた。上述する凝集性の程度は、Burns法(J. Inst. Brew., 43, 31, 1937)に従って決定したものである。
下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体の状態を調べるPCRでは、抽出した各酵母株のゲノムDNAを鋳型として、プライマーGM(配列番号21)とプライマーHM(配列番号16)を用いてLg-FLO1遺伝子を増幅させ、プライマーGM(配列番号21)とプライマーI(配列番号22)を用いてILF1遺伝子を増幅させた。PCRの条件は、実施例1で前述したタカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従って行った。すなわち、鋳型DNAは、前述した方法で精製した下面ビール酵母のゲノムDNAを、最終濃度1 ng/mlで、各プライマーの最終濃度は0.2 μM、反応BufferはGC Buffer I、PCR反応条件は、94℃で1分間の後、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 2分間のサイクルを30回、72℃にて5分間で終了とした。PCRの増幅産物は、1%アガロース電気泳動で確認した。
下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体の状態を調べるためのPCRの結果(図9A)では、正常な凝集性を有するFY-2株に対して(図9Aのレーン1及び2)、下面ビール酵母の非凝集性株No.9株は、Lg-FLO1遺伝子を増幅させるPCRでは、増幅産物が得られなかった(図9Aのレーン3)。
下面ビール酵母の非凝集性株P7株の場合、下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体の状態を調べるためのPCRの結果(図10A)では、Lg-FLO1遺伝子を増幅させるPCRでも(図10Aのレーン3)ILF1遺伝子を増幅させるPCRでも(図10Aのレーン4)増幅産物が得られたが、Lg-FLO1遺伝子を増幅させるPCRでは(図10Aのレーン3)、正常な凝集性を有するFY-2株で得られる増幅産物(図10Aのレーン1)に比べて分子量が小さくなっていた。
別の下面ビール酵母の非凝集性株P50株の場合は、ILF1遺伝子を増幅させるPCRでは、増幅産物が得られなかった(図11Aのレーン4)のに対し、Lg-FLO1遺伝子を増幅させるPCRの増幅産物は(図11Aのレーン3)、正常な凝集性を有するFY-2株で得られる増幅産物(図11Aのレーン1)に比べて分子量が小さくなっていた。
下面ビール酵母の非凝集性株P7株の場合、下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体の状態を調べるためのPCRの結果(図10A)では、Lg-FLO1遺伝子を増幅させるPCRでも(図10Aのレーン3)ILF1遺伝子を増幅させるPCRでも(図10Aのレーン4)増幅産物が得られたが、Lg-FLO1遺伝子を増幅させるPCRでは(図10Aのレーン3)、正常な凝集性を有するFY-2株で得られる増幅産物(図10Aのレーン1)に比べて分子量が小さくなっていた。
別の下面ビール酵母の非凝集性株P50株の場合は、ILF1遺伝子を増幅させるPCRでは、増幅産物が得られなかった(図11Aのレーン4)のに対し、Lg-FLO1遺伝子を増幅させるPCRの増幅産物は(図11Aのレーン3)、正常な凝集性を有するFY-2株で得られる増幅産物(図11Aのレーン1)に比べて分子量が小さくなっていた。
正常な凝集性を有する下面ビール酵母FY-2株及び下面ビール酵母の非凝集性株No.9株、P7株、P50株について、ゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNAの抽出方法は、実施例1で記載した方法と同様である。下面ビール酵母のS. cerevisiae型VIII染色体の状態を調べるため、図8で示すものと同じプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。このプローブは、実験室酵母S. cerevisiaeのVIII染色体の右腕末端の約1.0 kbpの領域のDNA塩基配列を有し(図8C)、プライマーScVIII524F(配列番号23)とプライマーScVIII524R(配列番号24)を用いて実験室酵母S. cerevisiae X-2180-1Aの染色体DNAを鋳型にしてPCRで増幅することによって得た。PCRで増幅された領域は、他の染色体上の遺伝子にはハイブリダイズすることはないと予想される領域である。実施例2により、Lg-FLO1遺伝子は下面ビール酵母染色体のうち、S. cerevisiaeと高い相同性を有するVIII染色体の右腕末端に存在することが明らかにされているので、実験室酵母S. cerevisiaeのVIII染色体の右腕末端のLg-FLO1遺伝子とは異なる領域のDNA断片をプローブとしてサザンハイブリダイゼーションを行えば、Lg-FLO1遺伝子の変動について、他の染色体上に存在するLg-FLO1遺伝子と相同性のある遺伝子(例えばFLO1遺伝子など)に起因するバンドによる影響を排除することができ、Lg-FLO1遺伝子遺伝子に起因するバンドの有無又はサイズを明瞭異に検出することができると期待された。言い換えれば、このプローブをサザンハイブリダイゼーションに用いることによって、非凝集性下面ビール酵母の検出について明瞭な結果を得ることができると期待された。
サザンハイブリダイゼーションは、各酵母菌株の染色体DNAを、制限酵素Bam HI, Cla I, Eco RI, Eco RV, Xba Iで処理し、1 %アガロース電気泳動後、ナイロンメンブランに転写し、行った。酵母ゲノムDNAの処理条件、サザンハイブリダイゼーションの条件は、実施例2で示したものと同様であった。
正常な凝集性を有するFY-2株では、S. cerevisiae型VIII染色体がヘテロの状態であるため、プローブにハイブリダイズするバンドは2本あった(図9Bのレーン1、3、5、7、9)。
非凝集性株No.9では、プローブにハイブリダイズするバンドは1本だけであった(図9Bのレーン2、4、6、8、10)。この結果と上記PCRによる結果とを考慮すると、非凝集性株No.9は、Lg-FLO1遺伝子を有する染色体が欠失したものであることが明らかとなった。これは、前報の報告(J. Biosci. Bioeng. 93, 395 (2002))で報告されている下面ビール酵母の非凝集性株と同じである染色体構造であると考えられる。
非凝集性株P7では、ILF1遺伝子がのっている染色体のDNA断片とLg-FLO1遺伝子がのっている染色体のDNA断片との2本のバンドが存在していたが、プローブにハイブリダイズするバンドの一方の分子量が小さくなっており、Lg-FLO1遺伝子がのっている染色体のDNA断片の分子量が小さくなっていることが見出された(図10Bのレーン2、4、6、8、10)。
さらに、非凝集性株P50では、プローブにハイブリダイズするバンドは1本だけであった。この結果と上記PCRによる結果とを考慮すると、ILF1遺伝子がのっている染色体は消失し、Lg-FLO1遺伝子がのっている染色体のみ存在することが見出され、Lg-FLO1遺伝子がのっている染色体のDNA断片の分子量が小さくなっていることが見出された(図11Bのレーン2、4、6、8、10)。
正常な凝集性を有するFY-2株では、S. cerevisiae型VIII染色体がヘテロの状態であるため、プローブにハイブリダイズするバンドは2本あった(図9Bのレーン1、3、5、7、9)。
非凝集性株No.9では、プローブにハイブリダイズするバンドは1本だけであった(図9Bのレーン2、4、6、8、10)。この結果と上記PCRによる結果とを考慮すると、非凝集性株No.9は、Lg-FLO1遺伝子を有する染色体が欠失したものであることが明らかとなった。これは、前報の報告(J. Biosci. Bioeng. 93, 395 (2002))で報告されている下面ビール酵母の非凝集性株と同じである染色体構造であると考えられる。
非凝集性株P7では、ILF1遺伝子がのっている染色体のDNA断片とLg-FLO1遺伝子がのっている染色体のDNA断片との2本のバンドが存在していたが、プローブにハイブリダイズするバンドの一方の分子量が小さくなっており、Lg-FLO1遺伝子がのっている染色体のDNA断片の分子量が小さくなっていることが見出された(図10Bのレーン2、4、6、8、10)。
さらに、非凝集性株P50では、プローブにハイブリダイズするバンドは1本だけであった。この結果と上記PCRによる結果とを考慮すると、ILF1遺伝子がのっている染色体は消失し、Lg-FLO1遺伝子がのっている染色体のみ存在することが見出され、Lg-FLO1遺伝子がのっている染色体のDNA断片の分子量が小さくなっていることが見出された(図11Bのレーン2、4、6、8、10)。
非凝集性株で変動があったLg-FLO1遺伝子内における欠失を詳細に見るため、正常な凝集性株FY-2と非凝集性株P50及びP7とを鋳型とし、プライマーG_1(配列番号19)とプライマーH_1(配列番号31)とを用いて、Lg-FLO1遺伝子ORF全体を含む領域をPCRで増幅して解析した。PCRの条件は、実施例1で前述したタカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従って行った。
PCRで増幅された各酵母株のLg-FLO1遺伝子ORFを比較すると、凝集性が正常である下面ビール酵母FY-2株で増幅されたDNA断片の鎖長に比べて(図12のレーン1)、非凝集性下面ビール酵母P50で増幅されたDNA断片あるいはP7で増幅されたDNA断片のいずれもその鎖長が短かった(図12のレーン2及び3)。
PCRで増幅された各酵母株のLg-FLO1遺伝子ORFを比較すると、凝集性が正常である下面ビール酵母FY-2株で増幅されたDNA断片の鎖長に比べて(図12のレーン1)、非凝集性下面ビール酵母P50で増幅されたDNA断片あるいはP7で増幅されたDNA断片のいずれもその鎖長が短かった(図12のレーン2及び3)。
更に、Lg-FLO1遺伝子内のビール酵母の凝集性に関する領域における欠失を確認するため、正常な凝集性株FY-2と非凝集性株P50及びP7とを鋳型とし、実施例1の結果から明らかとなったLg-FLO1遺伝子内の類似アミノ酸配列が直列に繰り返す領域(配列番号3及び4)をコードするDNA塩基配列を含む領域をPCRで増幅して解析した。この繰り返し領域のDNAを増幅させるためのプライマーとして、既に記載したプライマーGM(配列番号21)とプライマーH2(5'-GTGCTTGTAGACACAATGGCTGGAGAAG-3')(配列番号25)を用いた。プライマーH2は、DDBJ accession number AB003521より明らかとなっている配列より作製した。PCRの条件は、実施例1で前述したタカラバイオ社製TakaRa LA TaqTM with GC Bufferのプロトコールに従って行った。
PCRで増幅されたDNA断片を比較すると、凝集性が正常である下面ビール酵母FY-2株で増幅されたDNA断片の鎖長に比べて(図13のレーン1)、非凝集性下面ビール酵母P50で増幅されたDNA断片あるいはP7で増幅されたDNA断片のいずれもその鎖長が短かった(図13のレーン2及び3)。
以上の結果から、下面ビール酵母ゲノムDNAのLg-FLO1遺伝子内の部分的な欠失、特に、類似アミノ酸配列が直列に繰り返す領域をコードするDNA塩基配列を含む領域(配列番号1中の塩基番号647〜3696)における欠失を検出することにより、下面ビール酵母の凝集性を迅速且つ明瞭に判定できることが明らかになった。
PCRで増幅されたDNA断片を比較すると、凝集性が正常である下面ビール酵母FY-2株で増幅されたDNA断片の鎖長に比べて(図13のレーン1)、非凝集性下面ビール酵母P50で増幅されたDNA断片あるいはP7で増幅されたDNA断片のいずれもその鎖長が短かった(図13のレーン2及び3)。
以上の結果から、下面ビール酵母ゲノムDNAのLg-FLO1遺伝子内の部分的な欠失、特に、類似アミノ酸配列が直列に繰り返す領域をコードするDNA塩基配列を含む領域(配列番号1中の塩基番号647〜3696)における欠失を検出することにより、下面ビール酵母の凝集性を迅速且つ明瞭に判定できることが明らかになった。
Claims (13)
- ビール酵母のゲノム中で配列番号1記載の塩基配列又は配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列によって特定される領域内の部分的な欠失が存在するか否かを検出すること、及び、ゲノム中に前記欠失が存在するビール酵母はゲノム中に前記欠失が存在しないビール酵母よりも凝集性が低いと決定すること、を含むビール酵母の凝集性を判定する方法。
- 欠失が、配列番号1の塩基番号647〜3696の配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、請求項1記載の方法。
- 欠失が、配列番号2のアミノ酸番号88〜1103をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、請求項1記載の方法。
- 欠失が、配列番号2のアミノ酸番号291〜984をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、請求項3記載の方法。
- 欠失が、配列番号2のアミノ酸番号291〜605をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、請求項4記載の方法。
- 欠失が、配列番号2のアミノ酸番号777〜984をコードする塩基配列によって特定される領域の全体又はその一部の欠失である、請求項4記載の方法。
- 欠失が、酵母のゲノムDNA又は酵母のゲノム由来のDNAを鋳型とするポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅された産物の大きさを比較することによって検出される、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
- 配列番号1の塩基番号1〜1255の配列に基づいて設計したセンスプライマーと、配列番号1の塩基番号3386〜4638の配列に基づいて設計したアンチセンスプライマーとを組合せて、PCRのためのプライマー対として使用する、請求項7記載の方法。
- プライマーG_1(配列番号19)、プライマーGM(配列番号21)及びプライマーF3(配列番号18)からなる群より選択される1のプライマーと、プライマーH2(配列番号25)、プライマーHM(配列番号16)及びプライマーH_1(配列番号31)からなる群より選択される1のプライマーとを組合せて、PCRのためのプライマー対として使用する、請求項7又は8記載の方法。
- プライマーG_1(配列番号19)とプライマーH_1(配列番号31)との組合せ又はプライマープライマーGM(配列番号21)とプライマーH2(配列番号25)との組合せをプライマー対として使用する、請求項9記載の方法。
- 欠失が、酵母のゲノムDNA又は酵母のゲノム由来のDNAを制限酵素処理して得られたDNA断片にサザンハイブリダイゼーションを行い、プローブとハイブリダイズするDNA断片の大きさを比較することによって検出される、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
- プライマーScVIII524F(配列番号23)とプライマーScVIII525R(配列番号24)を用い実験室酵母S. cerevisiaeの染色体DNAを鋳型とするポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅された産物を、サザンハイブリダイゼーションのためのプローブとして使用する、請求項11記載の方法。
- 制限酵素が、Bam HI、Cla I、Eco RI、Eco RV及びXba Iからなる群より選択される、請求11又は12記載の方法。
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JP2008263848A (ja) * | 2007-04-19 | 2008-11-06 | Asahi Breweries Ltd | ビール酵母の凝集に対する培養液の影響を評価する方法 |
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JPH08205900A (ja) * | 1995-02-01 | 1996-08-13 | Kirin Brewery Co Ltd | 酵母の凝集性判定用dna分子および凝集性判定方法 |
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2006
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