JP2007216053A - 電気搬送式薬剤投与装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の電気搬送式薬剤投与装置は、第1の鏡像異性体とこれより好ましくない第2の鏡像異性体とのラサミ酸混合物である薬剤組成物から、第1の鏡像異性体を優先的に経皮投与する。
【解決手段】本発明の薬剤投与装置は、第1の鏡像異性体とこれより好ましくない第2の鏡像異性体とのラサミ酸混合物である薬剤組成物を有し、生体の皮膚に当てるのに適した投与電極と、生体の皮膚に当てるのに適した対抗電極と、制御装置と、投与電極と対抗電極とに電気接続された電源とを備える。制御装置は、投与された量の半分が第1の鏡像異性体で、投与された量の半分が第2の鏡像異性体であったならば有効な治療結果を得るのに必要であったであろう投与量より少ない有効治療投与量の薬剤を投与するような所定の電流値で、電源から電流を供給することを制御する。薬剤は、電気搬送される第1の鏡像異性体の流入率が第2の鏡像異性体より高い特性を有する。
【選択図】図1

Description

本発明は、一般に薬剤投与に関し、とりわけ立体特異薬剤を電気搬送式に投与することに関する。換言すれば、本発明は、異性体の混合物である薬剤を含む薬理組成物からキラル薬剤の単一の好適な鏡像異性体を優先的に投与することに関する。
多くの薬剤は、キラル中心を有しているので、2つまたはそれ以上の異性体として存在し得る。1つのキラル中心を有する薬剤は、「鏡像異性体」として知られた、2つの「鏡像」を持った異性体として構成することができる。大抵の場合では、この鏡像異性体は、例えば代謝、蛋白形成などの薬物動力学的に異なる特性を示したり、表出される活性の形態、活性度、または毒性などの薬理的に異なる特性を示す。混合物からの単一の鏡像異性体の分離、すなわち混合物の「分析」は、通常、標準的な非対称形物質と反応させた後、従来式の手段を用いて異物を排除することにより実施される。また、分別結晶法は、単一の鏡像異性体を分離するもう1つ技術である。しかしながら、混合物が、定義上の分子組成として同一であり、多くの反応例において実質的に同様に反応する2つの鏡像異性体を含む場合、この混合物から単一の鏡像異性体を分離することは困難である場合が多い。他の方法として、純粋な鏡像異性体を含む生成物を形成する立体特異合成法を用いて、単一の鏡像異性体からなる薬剤または他の化合物を提供することができる。こういった合成法によれば、一般に、実施するのに多少の困難を伴い、所望の生成物を高い歩留りで得られない場合が多い。
最近の研究報告によれば、薬剤の純粋な異性体を得るための詳細について開示されている。例えば、ガオらに付与された米国特許第5,545,745号(特許文献1)は、光学的に純粋なアルブテロールを供給する複数のステップからなる方法をクレームしており、その方法によれば、アルブテロール異性体の混合物をキラル酸(chiral acid)と反応させ、この結果得られた生成物の1つを選択的に結晶化させ、ついで脱ベンジル化により光学的に純粋なアルブテロールを生成する。
また、ガオらに付与された米国特許第5,442,118号(特許文献2)は、アミノケトンから(R)および(S)アリルエタノールアミンの非対称的合成方法についてクレームしている。この方法は、キラル1、3、2−オキサザボリデンを触媒のもとに臭水素酸(ボラン)還元剤を用い、反応薬を特定の順序で加えることにより、アルブテロール、テルブタリン、イソプロテレノールやソタロールといった薬剤を生成するのに有用である。
また、ガオらに付与された米国特許第5,516,943号(特許文献3)では、アミノ基をアシル化した後に強酸で処理することにより、トランス−1−アミノ−2−ヒドロキシシクロアルカンをシス異性体に立体選択的に変化させることが記載されている。また、同米国特許には、新規なキラル触媒を用いて、インデンからアミノインダノールの特定の異性体を直接的に生成することが記載されている。
また、エヴァンスらに付与された米国特許第5,498,625号(特許文献4)では、y−ラクタムラセミ酸を立体特異性ラクタマーゼと反応させることによりラクタムの1つの鏡像異性体を酵素反応的に生成することが記載されている。
また、マトソンらに付与された米国特許第4,800,162号(特許文献5)は、ラセミ酸混合物を分析する方法をクレームしており、その方法は、混合物を含んだ溶液を、フィルタ体の第1面に立体選択性酵素を付着させた濾過装置を通過させる。すなわち、この方法では、酵素が1つの異性体と選択的に反応し、反対方向に流動する非混和性溶液に溶け易い生成物がフィルタ体の反対面に形成される。この生成物は、フィルタ体に分散し、これの反対面に鏡像異性生成物の純粋溶液を生成し、第1面に非反応性の鏡像異性体の純粋溶液を生成する。
このように、薬理学的に活性を有する純粋異性体を生成するための努力が、これまで積み重ねられてきた。
キラル(キラル性)薬剤のうちで、1つの鏡像異性体が他の鏡像異性体に比べて、薬理学的活性が強く、毒性が少なく、または人体にとって望ましい効能を示せば、この鏡像異性体を優先的に投与することは治療を施す上で有益である。こうすることにより、治療を受ける患者は、全体の薬剤量、または毒性のある異性体の摂取量をより少なくすることができる。さらに、高価で複雑な立体特異合成法や純粋化機構を必要としなくなる。
したがって、この技術分野において、キラル薬剤の単一の鏡像異性体を優先的に投与できる薬剤投与手法に対する要請が高い。
国際特許公開第WO94/10985号(特許文献6)では、ラセミ酸混合物の投与と比較して、ケトロラック(ketorolac)の活性鏡像異性体の経皮投与の有益性が記載されている。この文献によれば、活性のある鏡像異性体は、他の鏡像異性体よりも速やかな排出率(クリアランス:clearance)を有しているため、経皮からの薬剤の連続投与量は、期待される使用量よりも少なくて済む。純粋の鏡像異性体を使用すれば、ラセミ酸混合物の半分の投与量で同一の効能が得られるものと期待されるが、実は、純粋の鏡像異性体の半分の量で済むのである。これは、活性鏡像異性体の急速な排出率や半減期が短いことに起因している。受動的な経皮投与装置を用いて連続投与することにより、ラセミ酸混合物を定期的に直接経口あるいは非経口投与する場合に比べて、最小治験量の活性鏡像異性体をより安定的に投与することができた。受動的な経皮投与では、全ての鏡像異性体において高い排出率および短い半減期が得られて有益であるとされている。受動的経皮投与が有する問題についても同様に議論されており、それは、投与できる分量に限りがあることである。これは、皮膚の角質層の浸透率に制限があることや、大きな膏薬を貼り付けることに付随する副作用、外観、煩瑣性、装着性を患者が受け入れ難いことによる。
薬剤の溶融温度は、皮膚に対する薬剤の浸透性を制限する一因とされている。ロータおよびパウェルチャックに付与された米国特許第5,114,946号(特許文献7)によれば、皮膚温度以上の温度で固体状態にあるキラル薬剤に対してクレームしており、これによれば、精製された鏡像異性体や非ラセミ酸混合物が、ラセミ酸混合物の溶融温度よりも、5〜10℃低い溶融温度を有する場合、精製された鏡像異性体や薬剤の非ラセミ酸混合物は、迅速な受動的経皮投与率(速度)を示す。しかしながら、薬剤中の他の異性体に対する特定の異性体の流入量の増加については知見がない。
また、サンダーソンらに付与された米国特許第4,818,541号(特許文献8)によれば、上記と同様に、抽出精製されたフェニルプロパノールアミンの各異性体は、ラセミ酸混合物に比べて、より迅速な経皮浸透率を示したことが記載されている。そのメカニズムについて明記されていないが、薬剤に比べて各異性体の溶解度が増加していることが1つの可能性として提言されている。4種の各異性体では、それぞれほぼ同一の経皮投与率を示した。
ここで、本発明者は、ラセミ酸混合物の形態で(ケトロラック)薬剤を含む組成薬剤の受動的経皮投与において、両異性体の流入率は、実質的な差がないことを見出した。このことは、各種の受動的経皮投与を行った場合に、(−)ケトロラックとラセミ酸ケトロラックは同様な流入率特性を有しているという報告(モールらに付与された米国特許第5,589,498号(特許文献9))と合致している。(−)ケトロラックは、ケトロラックの活性鏡像異性体であって、経口投与すると、副作用として胃腸障害を起こす非ステロイド系の非炎症性鎮痛剤である。接着性タイプ、貯蔵タイプ、あるいは一体型基体タイプの経皮パッチによれば、(−)ケトロラックとラセミ酸ケトロラックの流入率は、同一であることが報告されている。
意外にも、電気搬送(electrotransport)による薬剤投与が混合物に含まれる2つの鏡像異性体に対する流入率(搬送率)が、実質的に異なることを確認した。本発明がなされる以前、電気搬送を用いて薬剤投与が行えるのは、薬剤の物理化学的特性だけに基づくものと思われていた。ところが、ここで電気搬送による薬剤投与は立体特異的であることが分かってきた。
受動的経皮投与装置や経粘膜投与装置とは異なり、電気搬送装置を用いれば、受動的投与装置と比較して全体的に迅速な流入率が確保しながらも、混合物から1つの異性体を優先的に投与でき、特別な合成や抽出精製機構を必要としない。さらに、電気搬送を用いることにより、高い排出率(クリアランス)や短い半減期を有する鏡像異性体や、ラセミ性混合物より低い溶融温度を有する異性体薬剤を含む混合物に限定することなく、異性体を優先的に投与することができる。搬送率が高くなった結果、電気搬送を用いれば、受動的経皮投与に比べて、薬剤の所望量を投与するための投与時間を短くでき、皮膚当て布を置く範囲をより小さくして、患者にとって許容しやすいものとすることかできる。一般に、優先的に異性体を体内投与する投与量は、少なくとも20%増加することが好ましい。ただし、例えば、薬剤が特に高額な場合には、薬剤の投与率の増加率は、より少なく、5〜10%であってもよい。
立体特異合成や複雑な抽出精製作業を不要にし、特定の異性体を、電気搬送を用いて選択的に投与することにより、治療費が安価になり、療養管理が改善される。混合物から特定の異性体を立体特異的に合成し、抽出精製する必要がなくなったので、合成コストが低減することができる。合成と精製に要する機構が簡素化されるので、危険物質があまり生成されなくなり、人体がこの危険物質に晒される機会も低減することができる。さらに、立体特異的な電気搬送を用いることにより、特定の異性体が合成、または抽出精製されていない場合であっても、特定の異性体を優先的に投与することができる。患者は、好適な異性体を多く投与されることにより、全体の投薬量を少なくし、治療期間を短期間とし、あるいは人体に適用する領域を小さくすることができる。
加えて、たとえ、受動的薬剤投与装置により、所望の複数の異性体の流入率に差異を与えることができる場合であっても、電気搬送装置は、この差異を大きくし、受動的薬剤投与装置よりも高い流入率を確保し、小型でより使いやすい投与装置とすることができる。同様に、化学的合成機構や精製機構を用いて、混合物中に所望の鏡像異性体を多く確保できる場合であっても、混合物の電気搬送式投与装置を用いれば、投与すべき所望の鏡像異性体の割合を増加させることができる。
本明細書において、「電気搬送式薬剤投与」とは、薬剤を含む貯蔵部に対する起電力により、人体表面の一部を介して、薬理学的に活性のある薬剤を投与することを意味する。この薬剤は、電気遊動、電気穿孔、電気浸透、あるいはこれらの組合せにより投与される。電気浸透とは、電気流体動力学、電気対流、および電気的に誘導された浸透作用を意味する。一般に、ある薬剤が組織内へ電気浸透するのは、起電力を治療用の薬剤貯蔵部に与えた結果として、すなわちイオン化された薬剤の電気遊動作用で誘導された溶液流動の結果として、薬剤を含んだ溶液が移動するためである。この電気搬送過程において、「電気穿孔」として説明するように、皮膚に一時的に細孔が生じるといった種々の変化や変形が起こる。こうした体表面への変化(例えば細孔の生成)を伴った、薬剤の電気的な搬送作用は、本明細書において、「電気搬送」という文言で表現される。したがって、本明細書で使われる「電気搬送」という文言は、(1)イオン化された薬剤や物質が電気遊動により投与されること、(2)イオン化されていない薬剤や物質が電気浸透により投与されること、(3)イオン化されているかどうかによらず、薬剤や物質が電気穿孔により投与されること、(4)イオン化された薬剤や物質が電気遊動と電気浸透の組合せにより投与されること、および/または(5)イオン化されているかどうかによらず、薬剤や物質の混合物が電気遊動と電気浸透の組合せにより投与されることを意味するものとする。
米国特許第5,545,745号 米国特許第5,442,118号 米国特許第5,516,943号 米国特許第5,498,625号 米国特許第4,800,162号 国際特許公開第WO94/10985号 米国特許第5,114,946号 米国特許第4,818,541号 米国特許第5,589,498号
本発明は、好適な異性体とあまり好適でない異性体の混合物である薬剤を含む薬理的組成物から、所望の異性体を優先的に投与する電気搬送式薬剤投与装置およびその製造方法に関する。この装置は、体表面に接触する一対の電極装置に電気接続された電源を有する。この電極装置の少なくとも一方は、異性体の混合物である薬理組成物を含む薬剤貯蔵用の供給貯蔵部を備える。この装置は、体表面を介して、薬理組成物を電気搬送式に投与し、好適な異性体があまり好適でない異性体に比べて十分に搬送されるように動作する。一般に、本装置の作動にあたっては、上述の組成物を含む電気搬送用の薬剤貯蔵部を、体表面の特定領域に薬剤搬送するための位置に配置し、この薬剤貯蔵部を電源に接続し、体表面を介して、薬剤を電気搬送式に投与する。上述のように、この装置は、好適な鏡像異性体については治療的効果を誘導するのに十分な流入率で投与する一方、対応する副次的鏡像異性体についてはより低い流入率で投与する。このような薬剤投与装置の製造方法についても本文に開示されている。
本発明は、特定の薬剤成分、担体や薬剤投与装置などに限定されることなく、さまざまに変形できるものと理解すべきである。また、ここで用いる文言は、特定の実施例を説明するために、便宜上用いるものであって、これに限定的に解釈すべきものではない。さらに、本明細書および添付のクレームで用いる文言において、単数形の不定冠詞や定冠詞は、特に明示的に断らない限り複数のものを含むこととする。このため、不定冠詞付の「薬剤」は複数の薬剤の混合物を示し、不定冠詞付の「促進剤」は複数の促進剤の混合物を意味し、不定冠詞付の「担体」は、複数の担体の混合物を含むものとする。
本発明の説明および権利請求に際して、以下の文言は、以下の定義に基づいて用いられる。
「薬剤」、「活性を示す物質」および「薬学的に活性な物質」といった文言は置換可能にして用いられ、各被験体(人体あるいは動物)において所望の局所的あるいは全身的な効能をもたらし、被験体に電気搬送式に投与できる化学物質あるいは化合物を意味する。
文言「投薬量」は、電気搬送式薬剤投与装置から投与される薬剤の量をいう。この文言は、単位時間当たりに投与される薬剤量、および薬剤が投与される時間間隔である所定期間に投与される薬剤の全量を含む。
ここで使用される文言「選択的」は、薬剤組成物中に特定成分の存在は「選択的である」といった文章で引用されるように、その成分が存在しても存在しなくてもよいことを意味し、その成分が存在する場合と存在しない場合とを含む。
本発明に関連して有用な薬剤、治療法あるいは活性物質は、電気搬送式に投与可能な任意の薬理化合物を含み、この化合物は異性体の混合物として存在し、この混合物から好適な異性体が優先的に投与されるか、あまり好適でない異性体がは混合物から優先的には投与されないようにすることが好ましい。この化合物は、1つ、2つ、またはそれ以上のキラル中心を有し、2つ、4つ、またはそれ以上の異性体を備えた薬剤を含む。この場合、1つ、2つ、またはそれ以上の異性体が好適になり、1つ、2つ、またはそれ以上の異性体があまり好適でない。本発明の手法を用いて投与される活性物質は、主要な治療分野のすべてにおいて用いられている物質を含む。適正な活性物質は、これらに限定されるわけではないが、例えば、抗生物質や抗ウィルス剤などの非感染剤、鎮痛剤、鎮痛剤の組合せ、麻酔剤、拒食剤、抗関節痛剤、抗喘息剤、抗痙攣剤、抗鬱剤、抗糖尿剤、抗下痢剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、抗偏頭痛剤、酔止剤、抗嘔吐剤、抗新生物、抗パーキンソン病剤、抗掻痒症剤、抗精神病剤、抗発熱剤、抗引きつけ剤、胃腸および膀胱対する抗コリン作動性剤、交感神経興奮剤、キサンチン誘導体、カルシューム峡阻害剤、ベータ阻害剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ACE阻止剤、利尿剤、静脈拡張剤、中枢神経系昂揚剤、咳風邪治療薬、充血緩和剤、診断薬、副甲状腺ホルモン、ビスフォスフォライエイト、催眠剤、免疫抑制剤、筋弛緩剤、副交感神経抑制剤、副交感神経興奮剤、プロスタグランジン(前立腺ホルモン)、精神昂揚剤、鎮静および鎮痛剤などである。本発明は、蛋白、ペプチドおよびこれらの断片部分を電気搬送式に投与する場合にも有用である。
本発明の手法を用いて投与可能なとりわけ好適な薬剤は、抗炎症の鎮痛剤であるケトロラック((±)−ベンゾイル−2、3−ジヒドロ−1H−ピロリジン−1−カルボキシル酸)であって、この薬剤のS−異性体はR−異性体よりも相当に高い活性を有することが確認されている。抗炎症鎮痛剤の活性体のS:R比は57および230である(1994年版のムロスズザックら著の「臨床薬学辞典」49章126頁、1993年版のヘイボールら著の「キラル構造(Chirality)」5章31〜35頁)。このため、S−異性体のみを優先的に投与することが有益となる。
優先的な異性体投与が望ましい別の鏡像異性体薬剤として、イブプロフェン(S−異性体は活性成分である)、テルフェナジン(S−異性体は活性である)、ニコチン(S(−)異性体は経皮用当て布で炎症を起こしがたいことが確認されている。)、ネビボロール((+)異性体はベータ阻害剤であり、(−)異性体は静脈拡張剤である)、ザコプライド(異性体の一方は5−HT3阻害剤であり、他方は薬物受容体である)、アテノロール(S−異性体はベータ阻害剤である)、ゾピクローネ(S−異性体は鎮痛剤である)、フルルビプロフェン(S−異性体は非ステロイド系抗炎症薬剤あるいは「NSAID」と称する)およびケトプロフェン(S−異性体はNSAIDである)が挙げられる。
ラセミ化合物として有用な薬剤であって、特定の異性体が投薬に適したものを例示的に列挙すれば下記の通りである。すなわち、アセブトロール、アセノクマロール、アルブテロール/サルブタモール、アルプレノロール、アモスロロール、アモキシシリン、アムピシリン、アステミゾール、アテノロール、バクロフェン、ベナゼプリル、グルタミン酸ベンジル、ベータクソロール、ベータネコール、ビスプロロール、ボピンドロール、ブクモロール、ブフェトロール、ブフラロール、ブニトロロール、ブプラノロール、ブタクラモール、ブトコナゾール、ブトフィロロール、カルシトニン、カマゼパム、カプトプリル、カラキソロール、カルベディロール、セファドキシル、シクロプロフェン、シプロフロキサシン、コルティコステロイド、クロマカリム、クルテオロール、シトラビン、デプレニール、デクスフェンフルラミン、ジヒドロキシテバイン、ジルティアゼム、ディソピラマイド、ドブタミン、エナラプリル、エフェドリン、エストラディオール、エタムブトール、フェンブフェン、フェンフルラミン、フェノプロフェン、フルオロジェステロン、フルオキセティン、フルールビプロフェン、ゴナドレリン、ヘキソバルビタール、イブプロフェン、インデノロール、インドプロフェン、ケタミン、ケトデソジェストレル/エストロジェン、ケトプロフェン、リシノプリル、ロラゼンパム、ロバスタティン、メクリジン、メピンドロール、メタプロテラノール、メタドン、メチルドーパ、メティプラノドール、メトプロロール、ミノキシプロフェン、3−ヒドロキシル−N−メチルモルフィナン、ナドロール、ナプロキセン、ニカルディピン、ニルバディピン、ニタノール、ノルフロキサシン、ノルジェストレル、オフロキサシン、オキサプロティリン、オキサプロノロール、オキシブティニン、ペリンドプリル、フェンプロクモン、フェニールプロパノールアミン、ピンドロール、ピルプロフェン、ポリクロラム−フェタミン、プリロカイン、プロジェスティンプロパノロール、プロポキシフェン、セルトラリン、ソタロール、ステロイド、スプロフェン、テルブタリン、テルフェナディン、テストステロン、シオリダジン、ティモロール、トカイニド、トリプロロール、トロキサトン、トモキセティン、トリアムシノロン、ヴェラパミール、ヴィオキサジン、ウオルファリン、キシベノロール、および1、4−ジヒドロピリジンキラル化合物である。
これらの化合物は、薬理的に許容できる塩、エステル、アミド、またはプロドラッグの形態であってもよいし、1つまたはそれ以上の機能を適宜に附加することにより選択された生物学的特性を発揮するように変形することもできる。
こういった変形物は、当業界では広く知られ、そのなかには所与の生体システムに対する生体浸透性を増強し、生物学的利用能を向上し、特定のモードで投与できるように溶解性を増強したものがある。
このような化合物は、薬理的に許容できる塩に変換され、この塩は、例えば、J.マーチ著の「有機化学、反応、メカニズムおよび構造」第4版 ニューヨーク ウイリーインターサイエンス 1992で開示された、合成有機化学の分野の当業者には広く知られた標準的な手法を用いて、遊離化合物(free compound)に変換される。
公知の適当な酸との反応などにより、酸附加塩(acid addition salts)が遊離塩基(例えば、中性−NH2または環状アミン基を有する化合物)から調製される。通常、この化合物の基の形態(form)がメタノールやエタノールといった極性有機溶媒に溶解され、酸が約0〜100℃の温度範囲(好ましくは周囲温度)のもとで附加される。こうして生成された塩は、沈殿するか、より極性の低い溶媒を加えることにより溶液から抽出される。酸附加塩を調製するための酸として、有機酸および無機酸の両方が挙げられ、有機酸として酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、琥珀酸、マレイン酸、フマール酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、スルフォン酸メタン、スルフォン酸エタン、P−スルフォン酸トルエン、サリチル酸などがあり、無機酸としては塩酸、臭素酸、硫酸、硝酸、燐酸などがある。酸を附加して生成した塩は、適当な塩基との反応により遊離塩基に再変換される。上記の化合物のうち、望ましい塩はクエン酸塩、フマール酸塩、琥珀酸塩、安息香酸塩およびマロン酸塩が挙げられる。
存在し得る酸群(例えば、カルボキシル酸群)からなる基本的な基は、同様に、薬理的に許容できる有機基あるいは無機基を用いて調製することができる。無機基にあっては、例えばアンモニア、炭酸塩、水酸化物、炭化水素(I族化合物)、また金属にあってはナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウム(II族化合物)が挙げられる。有機基にあっては、メチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、α−あるいはβ−フェニールエチルアミンといった脂肪族(鎖式)および芳香族アミンがあり、複素環式基としてはピピリジン、1−メチルピピリジンやモルフォリンが挙げられる。
こういった化合物を、薬理的に許容されるエステルに変換することができる。適当なエステルには、例えば、メチルエステル、エチルエステル、ビニールエステルといった、側鎖、非側鎖、飽和、非飽和のC1〜C5のアルキルエステルが挙げられる。
エステルの調製に際して、ヒドロキシル基および/またはカルボキシル基の機能が活性化される。エステルは、一般に、遊離アルコール基のアシル基置換誘導体であり、RCOOHの化学式で表されるカルボキシル酸から生じる対の相手方である。このとき、Rは、アルキル基で、より低いアルキルRであることが好ましい。薬理的に許容できるエステルは、当業者に広く知られ、関連文献に開示された手法を用いて調製することができる。エステルは、従来式の水素添加分解法や加水分解法を用いれば、必要に応じて遊離酸に再変換することもできる。アミドやプロドラッグ(prodrugs)は、同様の手法により、調製することができる。
本発明の方法を採用する電気搬送装置は、少なくとも2つの電極を備えている。各電極は、生体の皮膚部分に直接に接触するように設けられる。一方の電極は、能動電極あるいは投与電極と称され、薬剤を生体内に投与するためのものである。他方の電極は、対抗電極あるいは帰還電極と称され、生体を介した電気回路を形成するためのものである。患者の皮膚に関連して、両電極を電源(例えば、蓄電池)、および電気搬送装置を流れる電流を制御する電気回路部に接続することにより、この電気回路は完成する。生体に投与される薬剤が、正の電荷を有している場合には、正の電極(陽極)が能動電極となり、負の電極(陰極)が帰還電極として機能して、電気回路を完成する。生体に投与される薬剤が負の電荷を有している場合には、負の電極が能動電極となり、正の電極は帰還電極となる。
さらに、電気搬送装置は、生体に投与され、導入される薬理的に活性のある物質の供給源、または薬剤貯蔵部を備えている。この薬剤貯蔵部は、電気搬送装置の陽極または陰極に接続され、一種あるいはそれ以上の好適な薬剤の固定的な、あるいは入替え可能な貯留源を構成している。薬剤貯蔵部は、通常、重合体ヒドロゲルである。このヒドロゲル薬剤貯蔵部を構成する有用な重合体は、ポリビニールアルコール、ポリビニールピロリドン、あるいはヒドロキシエチールセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどといったセルロース系重合体やポリウレタン、酸化ポリエチレン、無水物重合体、ポリビニールピロリドン/ビニールアセテート共重合体など、あるいはこれらの混合物や共重合体が挙げられる。薬剤貯蔵部に適した材質を1つ挙げるとすれば、皮膚との適応性の優れたポリビニールアルコールである。
このような薬剤貯蔵部内には、成分要素として保存剤、溶解剤、pH緩衝剤、抗微生物剤、抗菌糸剤、抗炎症剤、安定剤、表面活性剤などを含んでもよい。また、薬剤搬送装置には、皮膚浸透促進剤が含まれてもよい。この理由は、皮膚に対する薬剤の浸透性は、本質的にはあまりにも低く、治療効果を与える量の薬剤を、無傷状態にある皮膚の合理的な大きさの領域を介して浸透させることはできない。したがって、皮膚浸透促進剤を併用する必要がある。この業界において、皮膚浸透促進剤は広く知られており、例えば、ジメチルスルフォキサイド(DMSO)、ジメチルフォルマミド(DMF)、N,N−ジメチルアセタミド(DMA)、デシルメチルフォキサイド(C10MSO)、C2−C5アルカネディオールおよび1−置換型アザシクロヘプタン−2−系物質、とりわけ1−n−ドデシルシクラザシクロヘプタン−2−系物質(ヴァンクーバー、リッチモンド所在のホワイトビー研究所がAzoneとうい商標名で市販)、アルコール類などが挙げられる。
なお、当該技術分野に携わる者には知られているように、本発明による方法は、電気搬送式の薬剤投与装置の広範な利用に関連して用いることができ、この方法がこの点に限定されるものではない。この方法に係る電気搬送式の薬剤供給装置に関する技術文献の一例として、チュウーウイらに付与された米国特許第5,147,296号、5,080,646号、および5,169,382号、ジオリィらに付与された米国特許第5,169,383号がある。
図1は、本発明に関連して用いられる電気搬送式の薬剤供給装置の代表例を示す。この電気搬送装置10は、上部ハウジング16、電気回路基板18、下部ハウジング20、陽電極22、陰電極24、陽極貯蔵部26、陰極貯蔵部28、および皮膚順応性接着部30を備える。上部ハウジング16は、水平方向の翼部15を有しており、電気搬送装置10を患者の皮膚に取り付ける際に取り付け易くするよう機能する。この上部ハウジング16は、射出成形可能なエラストマ(例えば、エチレンビニールアセテート)から形成されることが好ましい。プリント回路基板18は、個別の構成部品40および蓄電池32と接続された集積回路19を有する。このプリント回路基板18は、開口部13a、13bを挿通する支柱(図1では示さず)により、上部ハウジング16に固定されている。この支柱の両端は、プリント回路基板18を上部ハウジング16に固定するために、加熱/溶融される。また、下部ハウジング20は、皮膚順応性接着部30を用いて、上部ハウジング16に固定されている。皮膚順応性接着部30の上面部34は、翼部15の底面部も含めて、上部ハウジング16および下部ハウジング20に接着されている。
プリント回路基板18の下面部に、ボタン式蓄電池32が設けられていることが(部分的に)示されている。この電気搬送装置10では、ボタン式蓄電池32の代わりに他の蓄電池を用いることもできる。
また、この電気搬送装置10は、電子回路部19、40、陽電極22、陰電極24、および薬剤/化学物質の薬剤貯蔵部26、28から構成され、これらは、集積された内蔵型ユニットを構成している。プリント回路基板18からの出力(図1では示さず)は、下部ハウジング20に形成された窪み部25、25’の開口部23、23’を介して、導電性接着片42、42’を通じて、陽電極22および陰電極24と電気的に接続される。陽電極22および陰電極24は、薬剤貯蔵部26、28の上面部44’、44に直接的に機械的および電気的に接続している。薬剤貯蔵部26、28の底面部46’、46は、皮膚順応性接着部30に形成された開口部29’、29を介して患者の皮膚に接触する。
この電気搬送装置10は、電気搬送装置により所定量の薬剤を患者に自動投与できる特徴を有している。押しボタン式のスイッチ12を押すと、プリント回路基板18上の電子回路により、所定の直流電流を電極22、26および薬剤貯蔵部24、28に所定の時間間隔をもって供給する。押しボタン式のスイッチ12は、好都合にも、電気搬送装置10の上面部に配置されており、衣服のうえからも簡単に操作することができる。例えば、3秒間といった短時間に、押しボタン式のスイッチ12を2回押すことにより、電気搬送装置10を好適に操作させるようにしたので、電気搬送装置10を不用意に操作する可能性を極力抑えることができる。この電気搬送装置10は、発光ダイオード14を点灯したり、例えば、「ビーパー」からの音声信号を出力することにより、薬剤を供給する間隔の開始時点を、ユーザに対して視覚的および/または聴覚的に知らせることが好ましい。薬剤は、電気搬送装置により患者の(例えば、腕部の)皮膚を介して、所定の投与間隔で投与される。
陽電極22は銀により形成され、陰電極24は塩化銀により形成されるのが望ましい。薬剤貯蔵部26、28は、ポリマヒドロゲルで形成されるのが望ましい。両電極22、24および薬剤貯蔵部26、28は、下部ハウジング20により保持されている。
押しボタン式のスイッチ12、プリント回路基板18上の電子回路部および蓄電池32は、上部ハウジング16と下部ハウジング20の間に、接着剤により「密閉(シール)」されている。この上部ハウジング16は、ゴムあるいは他のエラストマ性部材により形成されるのが望ましい。また、下部ハウジング20は、プラスチックシートあるいはエラストマ性シート(例えば、ポリエチレン)により形成されるのが望ましい。こうすることにより、窪み部25、25’を形成し、開口部23、23’を設けるように、下部ハウジング20を簡単に成形できる。電気搬送装置10は耐水性(すなわち防飛沫水性)、できれば防水性であることが望ましい。また、電気搬送装置10は、その形状が薄いので、容易に身体に適合でき、装着場所やその周りの身体を自由に動かすことができる。薬剤貯蔵部26、28は、電気搬送装置10の皮膚接触側に配置されており、普段の取り扱いや使用に際して、電気的に短絡しないように十分な間隔をとっている。
この電気搬送装置10は、上面部34および体表面接触部36を有する皮膚順応性接着部30を介して、患者の体表面(例えば、皮膚)に接着される。この体表面接触部36は、接着特性を有し、通常の使用に際して、電気搬送装置10を患者の体表面の所定位置に固定し、所定の着用時間(例えば24時間)が経過すると、適宜に体表面から剥がされるようになっている。上面接着部34は、下部ハウジング20に接着し、両電極および薬剤貯蔵部をハウジングの窪み部25、25’内に保持するとともに、下部ハウジング20を上部ハウジング16に固定する。
薬剤貯蔵部26、28は、ゲル状基材からなり、本発明では少なくとも一方はハイドロゲルから形成されている。約1×10-4M、ないし1.0Mまたはそれ以上の範囲にある薬剤濃度を用いることができるが、この濃度範囲のより低い濃度を有する薬剤を用いることが好ましい。薬剤が特にペプチドや蛋白質の場合には、約1×10-4M以下の濃度であっても有効である。一般に、薬剤の濃度は、投薬時において、投与量が電流ではなくて、薬剤濃度に依存するほど、低くしないほうが好ましい。高価な薬剤であっても同様である。電気搬送装置の最終的な仕様を決める要因は、装置の大きさ、薬剤の溶解性、薬剤の値段、および投薬摂取法である。
本発明については、特定の好ましい実施例に基づいて説明してきたが、これからの実験例についても同様に例示的に挙げたもので、発明の範囲を限定するものではない。本発明の他の側面、本発明の範囲内での種々の変形については、当該技術分野に通じた当業者にとっては明らかであろう。
(実験例1)
健康な者を被験者として、受動的経皮投与および電気搬送式投与を用いてケトロラックのR−およびS−異性体の搬送について評価した。24mgのラセミ酸ケトロラックの静脈注射(IV)による投薬を基準的治療とした。下記の受動的経皮投与(TTS)および電気搬送による経皮投与(ETS)により吸収されるR−およびS−ケトロラックの相対量は、静脈投与によるR−およびS−ケトロラックの排出率(クリアランス)に基づいて決定した(ラセミ酸ケトロラックにはR−異性体とS−異性体とが同量含まれていることを前提とした。)。受動的経皮投与により吸収されたR−およびS−ケトロラックの平均量は、5.0mgと4.8mg(全平均量9.8mg)であった。電気搬送による経皮投与では、7.9mgと11.7mg(全平均量19.6mg)であった。受動的経皮投与によると、R−ケトロラックの吸収量は、S−ケトロラックの吸収量と近似していた(p>0.5)。これに対して、電気搬送による経皮投与では、R−ケトロラックの吸収量は、S−ケトロラックの吸収量よりも低い値を示していた。吸収量のS/R比は0.8から1.43の範囲であった(平均は1.15で、中央値は1.18)。
(実験例2)
鏡像異性体の混合物を含む薬剤を評価して、好適な異性体を決定する。精製された異性体と、複数の異性体を含む混合物とが被験者に投与され、その異性体の効能、薬力学および薬効学的な特性を決定する。好適な異性体は、複数の異性体の混合物と比較して、効能があり、かつ有益な特性を示すことが確認される。これらの有益な特性とは、例えば、治療指数の改善、活性度の向上、半減期の改善、有効投薬量の減少、低毒性、副作用の低下、または電気搬送装置を介して、許容できるパッチサイズで有効な治療レベルを与える投薬能力などである。
(実験例3)
薬剤の異性体形態の混合物が、電気搬送装置に充填される。この電気搬送装置が、被験者に装着され、処置中およびその前後において、被験者から血液を様々な時間間隔で継続的に採取した。好適な異性体、およびあまり好適でない異性体の血漿濃度を求める。電気搬送装置により摂取量が増加する好適な異性体の薬剤を特定する。一般に、好適な異性体は、少なくとも20%増加するように、生体内投与されることが好ましい。しかしながら、例えば、薬剤が特に高価な場合には、約5ないし10%の投与増加率であってもよい。
(実験例4)
ケトロラックのラセミ性混合物の静脈投与、受動的経皮投与、および電気搬送式投与した後に、R−およびS−ケトロラックの薬力学的パラメータを比較する調査を行った。
(スクリーニング調査)
予備段階実験において、20人の健康な男性被験者について調査した。これらの被験者に対して、本調査の調査基準に合致するかどうかを判断するために、予備調査スクリーニングを行うことが必要であった。
このスクリーニング調査は、被験者に対する臨床的経緯(問診)、体力検査、心電図、および臨床試験を含む。
(調査材料および方法)
調査方針:
記名公示式かつ無作為で、3つの処置法に関する薬力学的研究を行なった。これは、24時間の処置養生で血漿ケトロラック濃度を電気搬送による経皮投与(ETS)の場合、受動的経皮投与(TTS)の場合、および静脈注射(IV)によるケトロラック投薬の場合とを比較した。
処置の概要および無作為抽出:
ケトロラックによる処置法は下記の通りである。被験者の処置は、少なくとも6日の洗出期間をあけて行った。
ETS(ケトロラック): 電気搬送投与により、負電極の全面積18cm2、電流密度100μA/cm2で24時間、電気搬送式にケトロラックを投与。
TTS(ケトロラック): 受動的経皮投与により、3つのシステムから全面積75cm2、24時間、ケトロラックを投与。
ケトロラックの静脈投薬: ケトロラックの静脈注射、12mgの遊離酸(ケトロラックトロメタミン塩18mg)、開始時および12時間後に投与(全量24mg)。
被験者は、下記の無作為表のうちの1つにしたがって、無作為に3つのケトロラック処置を受けた。
順序 被験者番号
ETS、TTS、静脈注射 103、106、107、110
TTS、静脈注射、ETS 101、104、108、112
静脈注射、ETS、TTS 102、105、109、111
ETS処置:
ETSの処置を行っている間は、各被験者は、電気搬送で負電極の全面積18cmから体外流入率60μg/cm/hで26mgのケトロラックの遊離酸を24時間にわたって受けた。
ETSのシステム概要:
電気搬送投薬システムにあっては、ALZA型6443電流源(ESC)を用い、負電極には活性ゲルを含み、正電極には薬学的に不活性なゲルを含んだ電気搬送台を備えている。
この6443電流源(ESC)は再使用可能な電流制御装置である。この電流源を直流モード(DC)にすると、ETS処置の間ケトロラックの投与のために電流を流し続ける。
また、電気搬送台は、正負の電極および二つのゲル貯蔵部を有するハウジングを設けている。負電極用ゲル貯蔵部はケトロラックを吸収した活性ゲルからなり、6cmある。また、正電極用ゲル貯蔵部は薬学的に不活性なゲルからなり、6cmある。不活性な正電極用ゲルは、ハウジングの製造および組み立て工程で正電極に装着される。薬剤を吸収した負電極は、使用に先立って電気搬送台に装着される。感圧形接着部により、本システムを生体の皮膚に適用できるようにしている。この電気搬送台はケーブルを介して電流源(ESC)に接続されている。
本実験では、負電極のゲルの全面積を18cmとする3個の電気搬送システムが被験者の上腕部に当てられた。3個の各電流制御装置は、電流密度を100μA/cmとして0.6mAの直流電流を発生する。
電流制御装置の電流および電圧の管理は、ETSの試験中は0時、2時、4時、8時、12時および24時に電圧計を用いて行われた。
電圧が15ボルトを越したり、電流値が目的値の±20%の誤差内にない場合には、電流制御装置を調整した。この調整により正常に戻らない場合には、電流制御装置を取り替えて実験を継続した。
TTS処置:
TTSの処置を行っている間は、各被験者は、受動経皮投薬により全適用面積75cm、かつ体外流入率25〜30μg/cm/hで50mgのケトロラックの遊離酸を24時間にわたって受けた。
TTSシステムの概要:
このTTSシステムは、面積を25cmとする補助および保護用裏地とともに作製された。このシステムでは、薬剤(遊離酸)、エチレンビニールアセテート(40%ビニールアセテート)、グリセロールモノラウリン酸塩およびCeraphyl31(登録商標)を含むように調製している。三個のTTSの一体構造体は、全表面積を75cmとして135mgのケトロラック遊離酸を含み、薬剤投与に利用した。このシステムは、自己接着形ではないので、接着性被覆部を用いて皮膚への接触状態を維持した。
静脈注射によるケトロラック薬の投与処置:
静脈注射によるケトロラック薬の投与時には、各被験者は全量で24mgのケトロラックの遊離酸(36mgのケトロラックトロメタミン塩)を受けた。静脈注射により、24mgのケトロラック遊離酸(18mgのケトロラックトロメタミン塩)が0時および12時に投与された。注射器の調製直後および注入直前には、ケトロラック溶液の1mlづつが保存された。
処置計画表:
ETSあるいはTTSが最初に行われるか、あるいは1回目の静脈注射による投薬が行なわれた。ETSおよびTTSによる処置は、24時間継続し静脈投与は12時の2回目の投与で完了した。ケトロラック処置の開始から48時間の間隔を置いて血液と尿のサンプルが採取された。
これら3つの投薬処置および血液、尿サンプルの採取後に、実験後の診断、心電図および臨床実験が行われた。
薬力学的評価のための血液採取:
処置開始から48時間の間隔を置いて各被験者から7mlの血液が抽出された。ケトロラックの血漿レベルは、インディアナ州、インディアナポリス、ウイッシャード記念病院、インディアナ大学医学部臨床薬学科によりHPLC試験を行って決められた。
項目的評価:
電気搬送システムの正負両電極の箇所およびTTS(ケトロラック)システムが当てられた箇所で、時間を置いて皮膚の適用箇所評価が行われた。
薬力学的手法:
全ての演算には、実際の血液採取回数が用いられ、資料は名目的な採取回数により纏められた。血漿ケトロラック濃度が試験容認限度(20ng/ml)を下回る場合は、ゼロの値とした。
R−およびS−ケトロラックの最大血漿濃度(Cmax)およびその最大採取回数(Tmax)は、時間当たりで示されてTTSおよびETS処置につづく全採取期間にわたって決定した。
R−およびS−ケトロラックの見掛け上の排出率定数(k)は、静脈注射につづく対数の線形低下の最終過程において、対数変換血漿濃度の線形の逓減特性により評価された。また、見掛け上の半減期(t1/2)の値は、0.693/kとして評価した。
零時間から時間t(AUCt)における最後の検出可能濃度までの血漿R−およびS−ケトロラック濃度対時間関係についての領域は、線形の台形法により決定した。無限(AUCinf)に外挿されたAUCの値は、AUCtおよび無限に外挿された領域の合計として決定され、時間t(Ct)での濃度をkで除して算出された。平均定常濃度(Cavg)は(AUCing)/24として算出された。
R−およびS−ケトロラックにおけるAUCIng比は三つの処置について決定された。ETS(ケトロラック)およびTTS(ケトロラック)処置につづいて吸収されたR−およびS−ケトロラックの量は、数式1で表される静脈排出率(投与量/AUCinf)を用いて算出した(鏡像異性体間に互換性がないと想定)。
Figure 2007216053
静脈投与につづくR−およびS−ケトロラックの配置傾向は、2区画仕切室型として表せる。R−およびS−ケトロラックの投与につづく薬力学的係数は、血漿濃度対時間関係の非線形逓減型として評価された(数式2)。投薬率およびETS(ケトロラック)やTTS(ケトロラック)につづく吸収率定数は、血漿濃度対時間関係を式3に適用することにより評価された。静脈投与資料から評価されたV、K1、K2およびK21といった薬力学的係数は定数として使用された。
Figure 2007216053
Figure 2007216053
但し、
D=静脈投与量
d1=投薬番号(i=投薬1、2)
R=継続的投薬量
t=投薬開始からの経過時間
K1=投与率定数
K2=排出率定数
K21=周辺分室から中央分室への搬送率定数
V=中央分室の投与容量
Ka=経皮吸収率定数
T=Tlag遅れ時間、 θ=t<Tのときはtで、t>TのときはTである。
変数解析(ANOVA)を用いて全ての統計的な比較が行われた。各処置を比較することにより下記の効果が得られた。
結果:
参加した被験者
本実験では12名の被験者が参加し、11名が本実験を全うした。
被験者の構成
健康診断書、診察、臨床試験および心電図によれば全員の被験者が健康であった。
ケトロラックの薬力学性
R−およびS−ケトロラックの静脈投与、ETSおよびTTS投与につづく各血漿濃度対時間関係は表3、4に記す。平均(SD)血漿濃度対時間関係は図2、3に示す。ケトロラックの静脈投与につづいて、投与の0.5時間後にR−およびS−ケトロラックに対して872および404ng/mlという平均Cmax値がそれぞれ観察された。ETSおよびTTS投与時におけるR−ケトロラックの血漿濃度は、投与後1時間および4〜8時間経過して始めて検出できた。TTS投与時に観察したR−ケトロラックの血漿濃度は、ETS投与時に観察されたものよりも低い値であった。ETSおよびTTS投与におけるR−ケトロラックのCmax値は、それぞれ195および132ng/mlであり、Tmax値は、22および23時間であった。ETSおよびTTS投与におけるS−ケトロラックのCmax値は、それぞれ82および60ng/mlであり、Tmax値は、22および23時間であった(表A、B、3、4参照)。
R−およびS−ケトロラックにおける平均最終半減期は、5.0および2.0であり、静脈投与(IV)につづく最終搬送率定数は、それぞれ0.14h-1および0.14h-1であった(表A、B、5、6参照)。静脈投与、ETSおよびTTS投与につづくR−ケトロラックの平均AUCinf値は、順に6171、4298および2408ng/mlであり、静脈投与、ETSおよびTTS投与につづくS−ケトロラックの平均AUCinf値は、順に1566、1608および602ng/mlであった(表A、B、7、8参照)。
静脈投与につづくR−ケトロラックの排出率(クリアランス)は異なっていた。ETSおよびTTS投与につづくR−およびS−ケトロラックの吸収量は式1を使って求められる。TTS投与につづくR−およびS−ケトロラックの平均吸収量は、順に4.96mgおよび4.76mg(全平均量=9.72mg)で、相互に有意の差(p<0.1)はなかった(表A、B、10、11参照)。ETS投与につづくR−およびS−ケトロラックの平均吸収量は、順に7.9mgおよび11.65mg(全平均量=19.55mg)で、相互に有意の差(p=0.057)が生じた(表A、B、10、11参照)。本実験では、24時間にわたるR−およびS−ケトロラックの目標全投与量は、24mgであった。ETS投与による吸収量(19.59mg)は目標値に近かったものの、TTS投与による吸収量は9.72mgで目標値の24mgよりも遙に低いものであった。
ケトロラックの静脈投与につづく薬力学的係数は、表12に掲げる。R−ケトロラックの平均投薬率および平均排出率定数は、順に1.54および0.15h-1であり、S−ケトロラックについては順に2.10および0.35h-1である(表12参照)。R−およびS−ケトロラックに対する平均投与容量は、順に5.4Lおよび10.33Lである(表12参照)。これらの係数は、式3では定数として使用され、吸収率、Ka、TlagはTTS投与につづいて評価された(表13参照)。平均Kaおよび吸収率の値は、R−ケトロラックでは順に0.61h-1および334μg/hであり、S−ケトロラックでは順に1.7hおよび470μg/hである(表13参照)。
ETS投与の場合には、血漿濃度はTlagなしのシステムモデルに最適となる。ETS投与によるR−ケトロラックの平均Kaおよび吸収率は、順に1.57h-1および392μg/hであった(表14参照)。S−ケトロラックの場合、12名の被験者のうち9名だけの係数しか評価できなかった。これのKaおよび吸収率は、順に0.83h-1および570μg/hであった(表14参照)。
Figure 2007216053
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図1は、本発明に関連して用いられる電気搬送式薬剤投与装置の斜視図である。 図2は、電気搬送、受動的経皮投与、または静脈注射投与を用いて、患者にケトロラック処置を施したときのR−ケトロラックの平均血漿濃度を示すグラフである。 図3は、電気搬送、受動的経皮投与、または静脈注射投与を用いて、患者にケトロラック処置を施したときのS−ケトロラックの平均血漿濃度を示すグラフである。
符号の説明
10:電気搬送式薬剤投与装置、12:スイッチ、13a,13b:開口部15:翼部、16:上部ハウジング、18:電気回路基板、19:集積回路、20:下部ハウジング、22:陽電極、23:開口部、24:陰電極、25:窪み部、26:陽極貯蔵部、28:陰極貯蔵部、30:皮膚順応性接着部、32:蓄電池、34:上面接着部、36:体表面接触部、42:導電性接着片。

Claims (12)

  1. 電気搬送により生体へ薬剤を投与する装置(10)であって、
    第1の鏡像異性体とこれより好ましくない第2の鏡像異性体とのラサミ酸混合物である薬剤組成物を有し、生体の皮膚に当てるのに適した投与電極(22、24)と、
    生体の皮膚に当てるのに適した対抗電極(22、24)と、
    制御装置と、
    投与電極と対抗電極とに電気接続された電源(32)とを備え、
    a)制御装置は、投与された量の半分が第1の鏡像異性体で、投与された量の半分が第2の鏡像異性体であったならば有効な治療結果を得るのに必要であったであろう投与量より少ない有効治療投与量の薬剤を投与するような所定の電流値で、電源から電流を供給することを制御し、
    前記薬剤は、電気搬送される第1の鏡像異性体の流入率が第2の鏡像異性体より高い特性を有する電気搬送式薬剤投与装置。
  2. b)投与電極(22、24)の大きさは、前記有効治療投与量を投与するには十分であり、かつ投与された量の半分が第1の鏡像異性体で、投与された量の半分が第2の鏡像異性体であったならば有効な治療結果を得るのに必要であったであろう大きさよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載された電気搬送式薬剤投与装置。
  3. c)薬剤の濃度は、前記有効治療投与量を投与するには十分であり、かつ投与された量の半分が第1の鏡像異性体で、投与された量の半分が第2の鏡像異性体であったならば有効な治療結果を得るのに必要であったであろう濃度より低いことを特徴とする請求項1に記載された電気搬送式薬剤投与装置。
  4. d)薬剤組成物量は、前記有効治療投与量を投与するには十分であり、かつ投与された量の半分が第1の鏡像異性体で、投与された量の半分が第2の鏡像異性体であったならば有効な治療結果を得るのに必要であったであろう薬剤組成物量より少ないことを特徴とする請求項1に記載された電気搬送式薬剤投与装置。
  5. 電気搬送により生体へ薬剤組成物を投与する装置であって、
    生体の皮膚上に配設可能で、薬剤組成物を貯蔵する薬剤貯蔵部と、
    薬剤貯蔵部に電気的に接続された投与電極と、
    投与電極と、
    薬剤貯蔵部および生体の皮膚を介して、投与電極と投与電極との間に電流が流れるように電圧を印加する電源とを備え、
    薬剤貯蔵部に貯蔵された薬剤組成物は、第1および第2の鏡像異性体からなるラサミ酸混合物を含み、第1の鏡像異性体は、第2の鏡像異性体に比して、薬理学的により有効で、電気搬送されたときの流入率が高いことを特徴とする装置。
  6. 薬剤組成物は、これを電気搬送するとき、薬剤に対する生体表面の電気抵抗を低減することにより、薬剤が生体内に浸透する速度を促進するために有効な量の浸透促進剤を含むことを特徴とする請求項1または5に記載された電気搬送式薬剤投与装置。
  7. 薬剤は、アセブトロール、アセノクマロール、アルブテロール/サルブタモール、アルプレノロール、アモスロロール、アモキシシリン、アムピシリン、アンサイド、アステミゾール、アテノロール、バクロフェン、ベナゼプリル、グルタミン酸ベンジル、ベータクソロール、ベータネコール、ビスプロロール、ボピンドロール、ブクモロール、ブフェトロール、ブフラロール、ブニトロロール、ブプラノロール、ブタクラモール、ブトコナゾール、ブトフィロロール、カルシトニン、カマゼパム、カプトプリル、カラキソロール、カルベディロール、セファドキシル、シクロプロフェン、シプロフロキサシン、コルティコステロイド、クロマカリム、クルテオロール、シトラビン、デプレニール、デクスフェンフルラミン、ジヒドロキシテバイン、ジルティアゼム、ディソピラマイド、ドブタミン、エナラプリル、エフェドリン、エストラディオール、エタムブトール、フェンブフェン、フェンフルラミン、フェノプロフェン、フルオロジェステロン、フルオキセティン、フルールビプロフェン、ゴナドレリン、ヘキソバルビタール、イブプロフェン、イモバン、インデノロール、インドプロフェン、ケタミン、ケトデソジェストレル/エストロジェン、ケトプロフェン、ケトロラック、リシノプリル、ロラゼンパム、ロバスタティン、ロバスタチン、メクリジン、メピンドロール、メタプロテラノール、メタドン、メチルドーパ、メティプラノドール、メトプロロール、ミノキシプロフェン、3-ヒドロキシル−N−メチルモルフィナン、ナドロール、ナプロキセン、ネビボロール、ニカルディピン、ニコチン、ニルバディピン、ニタノール、ノルフロキサシン、ノルジェストレル、オフロキサシン、オルディス、オキサプロティリン、オキサプロノロール、オキシブティニン、ペリンドプリル、フェンプロクモン、フェニールプロパノールアミン、ピンドロール、ピルプロフェン、ポリクロラム−フェタミン、プリロカイン、プロジェスティンプロパノロール、プロポキシフェン、セルトラリン、ソタロール、ステロイド、スプロフェン、テノルミン、テルブタリン、テルフェナディン、テストステロン、シオリダジン、ティモロール、トカイニド、トリプロロール、トロキサトン、トモキセティン、トリアムシノロン、ヴェラパミール、ヴィオキサジン、ウオルファリン、キシベノロール、ザコプリドおよび1、4−ジヒドロピリジンキラル化合物、ならびに薬剤として容認される塩およびエステルのいずれか1以上の薬剤であることを特徴とする請求項1または5に記載された電気搬送式薬剤投与装置。
  8. 前記薬剤は、抗炎症性であることを特徴とする請求項1または5に記載された電気搬送式薬剤投与装置。
  9. 前記抗炎症性の薬剤は、NSAIDであることを特徴とする請求項8に記載された電気搬送式薬剤投与装置。
  10. 前記抗炎症性の薬剤は、ケトロラックあるいは薬剤として容認される塩およびエステルであることを特徴とする請求項9に記載された電気搬送式薬剤投与装置。
  11. 第1の鏡像異性体はS−異性体であることを特徴とする請求項10に記載された電気搬送式薬剤投与装置。
  12. 前記薬剤はケトロラックトロメタミンであることを特徴とする請求項11に記載された電気搬送式薬剤投与装置。
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