JP2007173132A - 走査透過電子顕微鏡、および走査透過電子顕微鏡の調整方法 - Google Patents

走査透過電子顕微鏡、および走査透過電子顕微鏡の調整方法 Download PDF

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Abstract

【課題】収差補正器を備えた走査透過電子顕微鏡の電子光学系の調整を容易に行えるようにする。
【解決手段】電子線源1、収束レンズ3、スキャンコイル10、暗視野像検出器16、明視野像検出器17、A/Dコンバータ21、情報処理装置24等を備えて構成される走査透過電子顕微鏡装置において、対物前磁場レンズ11前段に球面収差補正器7及び偏向コイル9a、9bを搭載し、暗視野像検出器16もしくは明視野像検出器17により取得した走査透過像からフーリエ変換像を作成し、偏向コイルの偏向比9a、9bのイメージシフトにより生じる収差補正状態のずれを評価することで、適切な偏向比をフィードバックする。
【選択図】図1

Description

本発明は、収差補正器を備えた走査透過電子顕微鏡に関し、特に、収差補正器を備えた走査透過電子顕微鏡の偏向器の調整技術に関する。
従来より、イメージシフト機能を有する走査透過電子顕微鏡が知られている。イメージシフト機能は、試料に電子線を走査する電子光学系に設けられた、上下二段の偏向コイルを用いて実現される。具体的には、上段の偏向コイルで偏向した電子線を、下段の偏向コイルにより偏向支点を目掛けて逆方向に偏向する。これにより、ドリフトを誘発するステージのゴニオメータを動かすことなく試料上の電子線照射位置を変更し、走査透過画像を取得する。従来のイメージシフト機能のための上下二段の偏向コイルの偏向比の調整方法では、イメージシフト前の画像とイメージシフト後の画像とを単純に比較し、偏向収差や光軸ずれによる収差が発生しないように電子光学系を調整する。
従来の偏向コイルの調整方法としては、対物レンズのコマフリー調整を行うための方法として非特許文献1記載の方法が知られている。この方法では、上下二段の偏向コイルにより様々な方位に傾斜した電子線により取得される透過像から作成されるフーリエ変換像の組を用いて、電子線が対物レンズに対して適切な傾斜条件で入射するように偏向器を調整する。なお、この方法は、透過電子顕微鏡をコマフリー条件で使用するための光軸調整に用いられる。
近年、多極子レンズ型球面収差補正器が実用段階に入った。この収差補正器を走査透過電子顕微鏡に用いることで、加速電圧が200kV以下の走査透過電子顕微鏡においても、0.1nm以下の分解能を実現できるようになった。しかし、多極子レンズ型球面収差補正器を用いて電子線の収差を補正する場合、この収差補正器内部で電子線に特定の軌道を形成させる必要がある。このため、多極子レンズ型球面収差補正器を走査透過電子顕微鏡に搭載する場合、この収差補正器と電子顕微鏡本体との光軸調整が十分な精度で行われていなかったり、あるいは、光軸にずれがあると、この収差補正器の搭載によって逆に収差が増加してしまう。
このため、多極子レンズ型球面収差補正器を搭載した走査透過電子顕微鏡において、従来のイメージシフト機能のための上下二段の偏向コイルの偏向比の調整方法により電子光学系の調整を行う場合、非常に高い光軸調整精度が要求される。また、収差補正器の励磁設定の変更に伴い偏向比も変更する必要がある。したがって、高分解能観察に充分な条件を満たすことができない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、収差補正器を備えた走査透過電子顕微鏡の偏向器の調整を容易に行えるようにすることにある。
上記課題を解決するために、本発明は、収差補正器を具備する走査透過電子顕微鏡において、二段以上の偏向コイルによって入射電子線を偏向しイメージシフトを行う前後での各走査透過像から、フーリエ変換像を形成する。そして、両者の像の比較から偏向コイルの偏向比の調整度合いを判断できるようにする。
本発明によれば、偏向コイルの偏向比の調整度合いの判断を、イメージシフト前後の各走査透過像のフーリエ変換像の比較から行えるようにしたことにより、収差補正器を搭載した走査透過電子顕微鏡においても、収差の補正状態を維持したままイメージシフトを行うことができる。
<第1実施形態>
図1は本発明の第1実施形態が適用された走査透過電子顕微鏡の概略図である。
図示するように、本実施形態の走査透過電子顕微鏡は、電子を出射する電子線源1と、静電レンズ2a〜2cと、静電レンズ2a〜2cに印加する電圧を制御する電圧制御装置2′a〜2′cと、収束レンズ3a、3bと、収束レンズ3bの下部に設けられた収束絞り4と、補正器軸調整用上段偏向コイル5aと、補正器軸調整用下段偏向コイル5bと、調整レンズ6と、球面収差補正器7と、トランスファーレンズ8と、上段偏向コイル9aと、下段偏向コイル9bと、スキャンコイル10a、10bと、対物前磁場レンズ11と、試料12を載置する試料ステージ12aと、対物後磁場レンズ13と、投影レンズ14と、投影レンズ14の下部に設けられた検出系アライメントコイル15と、暗視野像検出器16と、明視野像検出器17と、カメラ18と、二次電子検出器19と、プリアンプ20と、A/Dコンバータ21と、ユーザインターフェース22と、D/Aコンバータ23と、情報処理装置24と、を有する。情報処理装置24は、演算装置42と、記憶装置43と、を有する。
さて、上記構成の走査透過電子顕微鏡において、電子線源1から出射された電子線は、それぞれ電圧制御装置2′a〜2′cにより印加電圧が制御された静電レンズ2a〜2cによって、所定の加速電圧まで加速される。
次に、所定の加速電圧まで加速された電子線は、収束レンズ3a、3bによって縮小される。収束レンズ3a、3bの電流励磁の組み合わせにより、任意の縮小率を実現できる。また、収束レンズ3bの下部にある収束絞り4により電子線の開き角を変化させて、電子線に及ぼす球面収差、回折収差のバランスを調整できる。この収束絞り4は、様々な径の孔を備えており、手動もしくは自動で光軸上から取り除くことができる機構を備えている。
次に、収束絞り4を通った電子線は、補正器軸調整用上段偏向コイル5a、補正器軸調整用下段偏向コイル5b、および調整レンズ6により、球面収差補正器7への入射角度が微調整される。これにより、走査透過電子顕微鏡の電子光学系の光軸と、球面収差補正器7の光軸とを一致させることができる。電子線は、球面収差補正器7を通ることで、球面収差、非点収差などの収差が補正される。球面収差補正器7は、多段の多極子レンズ、回転対称レンズ、および偏向コイルで構成されており、多極子レンズの各極子および回転対称レンズの印加電圧あるいは励磁電流を制御することで収差の補正量を調整する。
次に、球面収差補正器7を通過した電子線は、トランスファーレンズ8を通過する。そして、スキャンコイル10a、10bにより、対物前磁場レンズ11を介して、試料ステージ12a上に設置された試料12上で二次元的に走査される。この際、補正器軸調整用上段偏向コイル5aおよび補正器軸調整用下段偏向コイル5b、もしくはトランスファーレンズ8の下部にある上段偏向コイル9aおよび下段偏向コイル9bにより、試料12に入射する電子線を傾斜させることで、電子線の試料12への入射角を制御することができる。また、上段偏向コイル9aおよび下段偏向コイル9bによって電子線を偏向することで、試料12面上でのビームシフト量を制御することができる。なお、これらの偏向コイル5a、5b、9a、9bには、2極子場成分を発生するコイルを少なくとも2組以上組み込んで構成されたものが用いられる。以下、電子線の傾斜をビームチルトと呼び、電子線の偏向をビームシフトと呼ぶ。
次に、試料12を通過した電子線は、対物後磁場レンズ13および投影レンズ14を通る。そして、投影レンズ14の下部に設置した検出系アライメントコイル15により、暗視野像検出器16、明視野像検出器17、およびカメラ18に対して光軸が一致するように調整される。ビームチルトもしくはビームシフトをした場合に電子線回折像、走査透過像が暗視野像検出器16、明視野像検出器17、およびカメラ18に対して大きく離軸してしまう場合にも、検出系アライメントコイル15を用いて軸合わせを行う。
さて、暗視野像検出器16もしくは明視野像検出器17は、試料12面上での電子線の走査に同期して得られる信号を像強度に輝度変調することで、走査透過像を取得する。この走査透過像の像強度は、プリアンプ20で増幅された後、A/Dコンバータ21でA/D変換される。情報処理装置24は、このデジタル化された走査透過像を、デジタル画像ファイルとして、記憶装置43に保存する。
明視野像検出器17は、光軸上に設置してある。このため、カメラ18を使用する場合に光軸上から取り除くことができるよう可動機構を備えている。カメラ18には、CCD、ハーピコンカメラなどの高感度、高S/N、および高直線性を有するものが用いられる。カメラ18は、試料12を通過する電子線の回折像強度の定量的な記録を行う。カメラ18の撮像信号も、プリアンプ20で増幅された後、A/Dコンバータ21でA/D変換される。情報処理装置24は、このデジタル化された撮像信号を、デジタル画像ファイルとして、記憶装置43に保存する。なお、カメラ18面上でのカメラ長は、投影レンズ14により任意に変化させることができる。これにより、任意の結像面での電子線回折像を観察することができる。
情報処理装置24の演算装置42は、上述した一連の操作におけるすべてのレンズ、コイル、および検出器の制御を、D/Aコンバータ23を介して行う。また、演算装置42は、ユーザインターフェース22を介して操作者から操作に必要な条件を受付けたり、操作者に情報を提示したりする。
対物前磁場レンズ11の上段には、二次電子検出器19が設置してある。このため、本実施形態の走査透過電子顕微鏡は、上述の走査透過像に加えて、二次電子像を取得することができる。二次電子検出器19の二次電子像も、プリアンプ20で増幅された後、A/Dコンバータ21でA/D変換される。情報処理装置24は、このデジタル化された二次電子像を、デジタル画像ファイルとして、記憶装置43に保存する。
次に、上記構成の球面収差補正器7を備えた走査透過電子顕微鏡における偏向コイル9a、9bの偏向比の調整方法について説明する。
偏向コイル9a、9bの調整は、球面収差補正器7の光軸調整および補正励磁の設定が終了してから行う。図2は図1に示す走査透過電子顕微鏡における偏向コイルの偏向比の調整を説明するための図である。
上述したように、ビームシフトは上段偏向コイル9aおよび下段偏向コイル9bによって行われる。上段偏向コイル9aおよび下段偏向コイル9bによって偏向された電子線(偏向電子線)30は、偏向支点31において光軸と交わり、対物前磁場レンズ11により収束された後、試料12に入射する。このとき偏向電子線30は、試料12に対してほぼ垂直に入射するように調整されている。このため、試料12を透過した偏向電子線30は、対物後磁場レンズ13により、後焦点面28内の光軸に沿った電子線25と同じ位置を通過する。そして、後焦点面28を通過した偏向電子線30は、投影レンズ14により検出器29(暗視野像検出器16、明視野像検出器17、カメラ18等)上に結像される。
次に、上記構成の球面収差補正器7を備えた走査透過電子顕微鏡における偏向コイル9a、9bの偏向比の調整を行うための画像取得方法について説明する。
図3(A)は試料12を光軸方向から見たときの試料12面上の画像取得領域を示す図である。偏向比の調整を行う場合に用いる標準試料12としては、アモルファス試料、適切な粒子径(直径50nm以下程度)の粒子がランダムに配置されているカーボン膜上の金粒子、ラテックスボール、白金粒子、アルミニウム粒子、Si粒子、および円、四角形,三角形の繰り返し図形が描画された基板上のパターンなどが挙げられる。
情報処理装置24において、演算装置42は、D/Aコンバータ23を介して走査透過電子顕微鏡の本体を操作し、先ず、電子線のビームシフトを行わないで、つまり、電子線が光軸に沿っている状態で、暗視野像検出器16、明視野像検出器17、およびカメラ18のいずれかに試料12面上の照射領域A1の走査透過像を検出させる。そして、この走査透過像をプリアンプ20およびA/Dコンバータ21を介して、記憶装置43に記憶する。
次に、演算装置42は、D/Aコンバータ23を介して上段偏向コイル9aおよび下段偏向コイル9bを制御して電子線のビームシフトを行い、暗視野像検出器16、明視野像検出器17、およびカメラ18のいずれかに試料12面上の照射領域A2の走査透過像を検出させる。そして、この走査透過像をプリアンプ20およびA/Dコンバータ21を介して、記憶装置43に記憶する。ここで、照射領域A1と照射領域A2との間の距離Lが電子線のビームシフト量に対応する。
次に、演算装置42は、D/Aコンバータ23を介して、上段偏向コイル9aおよび下段偏向コイル9bを制御して電子線のビームシフトの方位角を順次変化させ、暗視野像検出器16、明視野像検出器17、およびカメラ18のいずれかに試料12面上の照射領域A3、A4を含む複数の照射領域の走査透過像を順次検出させ、この走査透過像をプリアンプ20およびA/Dコンバータ21を介して、記憶装置43に記憶する。なお、走査透過像の取得順序は、上述のとおりでなくてもよい。また、A3、A4を含む複数の照射領域は、照射領域A1を中心とする2n(nは自然数)回回転対称な位置(例えば、2回回転対称位置、4回回転対称位置、および6回回転対称位置も含む位置)とする。
それから、演算装置42は、ビームシフトによる収差補正器の補正状態のずれを分かり易くするために、記憶装置43に記憶した各走査透過像のフーリエ変換像を作成し、記憶装置43に記憶する。そして、記憶装置43に記憶したこれらのフーリエ変換像を含む表示データを生成して、ユーザインターフェース22に表示する。
上記の標準試料12を撮影した走査透過像のフーリエ変換像には、走査透過電子顕微鏡の収差によって決まる伝達関数を反映したリングパターンが現れる。このリングパターンの形状およびリング間の距離が収差の影響を敏感に反映することが知られている。そこで、演算装置42は、記憶装置43に記憶した各照射領域A1、A2、...のフーリエ変換像を、対応する走査透過像を得た際のビームシフトのシフト量および方位角に対応した座標上に配置することで、図3(B)、図3(C)に示すような表示データを作成し、ユーザインターフェース22に表示する。
上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比が適切でない場合、ビームシフトを行うと、走査透過電子顕微鏡本体の光軸と、球面収差補正器7の光軸との間にずれが生じる。このため、球面収差の補正状態が崩れ、例えば図3(B)に示すような、ビームシフト後のフーリエ変換像が画像中心に位置するビームシフト前のフーリエ変換像に対して歪んだ楕円状のリングパターンとなる。これはビームシフトにより球面収差補正器7の補正状態が崩れていることを表している。
一方、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比が適切である場合、球面収差補正器7の補正状態が維持される。このため、図3(C)に示すように、ビームシフト後のフーリエ変換像が画像中心に位置するビームシフト前のフーリエ変換像と同じ真円状のリングパターンとなる。
本実施形態の走査透過電子顕微鏡において、操作者は、ユーザインターフェース22に表示されるビームシフト前後のフーリエ変換像が、図3(C)に示すように同じ形状のリングパターンとなる上段偏向コイル9aおよび下段偏向コイル9bの偏向比を見つけ出し、この偏向比で上段偏向コイル9aおよび下段偏向コイル9bで動作させるように、走査透過電子顕微鏡の制御値を、ユーザインターフェース22を介して情報処理装置24に設定すればよい。
しかし、球面収差補正器7により収差が補正されている状態では、球面収差の影響が小さくなっているため、偏向電子線30にビームチルト成分が含まれている場合でも、偏向コイル9a、9bの調整に用いるフーリエ変換像にその影響が現れない。これを防ぐため、本実施形態では、ビームシフトに用いる電子線として、フーリエ変換像のリングパターンが歪まない程度まで初期傾斜をした電子線を用いて、走査透過像を取得する。
先ず、図4(A)に示すように、傾斜電子線26を用いてビームシフトを行わないときの走査透過像を取得する。電子線の初期傾斜は、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bにそれぞれIt、Itの電流を印加することで行う。このときのItおよびItの励磁比は、傾斜電子線26の試料12の通過位置が、傾斜しないときの電子線が試料12を通過する位置と一致するように設定されている。偏向コイル9a、9bの励磁比は、リングパターンが歪まない程度の傾斜量に調整してあるため、フーリエ変換像中のリングパターンは同心円状の真円となる。
次に、図4(A)に示すように、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bにそれぞれIs、Isの電流を加えることでIt+Is、It+Isとしてビームシフトを行い走査透過像を取得する。このときの偏向比が適切であれば、ビームシフト前後での傾斜角θ1、θ2が一致する。また、フーリエ変換像のリングパターンも同じ同心円状の真円のパターンとなる。
続いて、図4(B)に示すように、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bにそれぞれ-It、-Itの電流を印加して傾斜電子線26の方位角を180度変化させる。この条件で走査透過像のフーリエ変換像に現れるパターンは、収差補正器7の調整が終了しているため、図4(a)において上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bにそれぞれIt、Itの電流を加えた場合と同じ形状となる。
さらに図4(B)に示すように、-Is、-Isの電流を加えて-(It+Is)、-(It+Is)とすることでビームシフトを行い走査透過像の取得して、フーリエ変換像を作成する。このときの偏向比が適切であれば、ビームシフト前後での傾斜角θ、θが一致する。また、フーリエ変換像のリングパターンもやはり同じ同心円状の真円のパターンとなる。
情報処理装置24において、演算装置42は、D/Aコンバータ23を介して走査透過電子顕微鏡の本体を操作し、全ての方位を網羅するように複数の方位角方向のそれぞれについて、上述の手順を行い、その結果得られたフーリエ変換像を記憶装置43に記憶する。そして、記憶装置42に記憶した各フーリエ変換像を、ビームシフトのシフト量および方位角に対応した座標上に配置することで表示データを作成し、ユーザインターフェース22に表示する。ここで、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比が適切な場合、図4(C)に示すように全てのフーリエ変換像が同心円状の真円のパターンとなる。
一方、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比が適切でない場合、ビームシフトを行うと偏向電子線30にビームチルト成分が含まれる。このため、図5(A)に示すように、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bにそれぞれIt+Is、It+Isを印加してビームシフトを行った場合、ビームチルト成分のため傾斜角θ>θとなる。したがって、ビームシフト後に取得した走査透過像のフーリエ変換像が歪んでしまう。
続いて、図5(B)に示すように、-(It+Is)、-(It+Is)を上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bに印加して傾斜電子線26の方位角を180度変化させる。この条件で走査透過像のフーリエ変換像に現れるパターンは、ビームシフトにより光軸が大きくずれてしまっているため、やはり歪んでしまう。
情報処理装置24において、演算装置42は、D/Aコンバータ23を介して走査透過電子顕微鏡の本体を操作し、全ての方位を網羅するように複数の方位角方向のそれぞれについて、上述の手順を行い、その結果得られたフーリエ変換像を記憶装置43に記憶する。そして、記憶装置42に記憶した各フーリエ変換像を、ビームシフトのシフト量および方位角に対応した座標上に配置することで表示データを作成し、ユーザインターフェース22に表示する。上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比が適切でないため、図5(C)に示すように、フーリエ変換像の形状が非対称となる。
したがって、初期傾斜をした電子線30を用いて上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比を調整すると、ビームシフトにビームチルト成分が含まれておらず、且つ球面収差補正器7の補正状態が正常に保たれている場合にのみ、図4(C)に示すように、フーリエ変換像の形状が対称となる。このため、図4(C)に示す表示画面が得られるように、走査透過電子顕微鏡の制御値を、ユーザインターフェース22を介して情報処理装置24に設定することで、より正確な調整を行うことができる。
なお、この場合も、走査透過像の取得の順序は無作為に行うことが可能である。また、ビームシフト前のフーリエ変換像のリングパターンが歪む程度までビームチルトを行った場合でも、ビームシフト前後のフーリエ変換像の全てが同様の形状をしていることが確認できれば、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比の調整を達成することが可能である。なお、ビームチルトは補正器軸調整用上段偏向コイル5a、補正器軸調整用下段偏向コイル5bを用いて行ってもよい。
また、上記の手順において、標準試料12に円、四角形、三角形の繰り返し図形が描画された基板上のパターンを用いてもよい。また、走査透過像のフーリエ変換像に代えて、走査透過像から電子線のスポット形状のみをデコンボリューション法により抽出した画像やロンチグラムを用いてもよい。なお、ロンチグラムは、集束絞り4を光軸から退避させる、もしくは孔径の十分大きいものに設定することで電子線の収束角を大きくとり、電子線の走査を止めることで観察される、収差の影響を反映する像である。このロンチグラムはカメラ18により観察される。
図6は本発明の第1実施形態が適用された走査透過電子顕微鏡において、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比を調整する場合の動作フローを説明するための図である。
上述したように球面収差補正器の調整を初めに行う(S101)。操作者は、球面収差補正器7の図示していない取付機構を調節するなどして球面収差補正器7の光軸を調整する。また、ユーザインターフェース22を介して情報処理装置24に、球面収差補正器7の補正励磁の値を設定する。情報処理装置24において、演算装置42は、ユーザインターフェース22を介して操作者から球面収差補正器7の補正励磁の値が設定されると、ユーザインターフェース22にメッセージを表示するなどして、操作者に偏向コイル9a、9bの調整の有無を判断させる(S102)。
ユーザインターフェース22を介して操作者から偏向コイル9a、9bの調整を行わない旨の指示を受付けた場合(S102でNO)、直ちに観察モードに移行する(S114)。観察モードにおいて、演算装置42は、記憶装置43に記憶されている設定値に従い走査透過電子顕微鏡本体を操作し、試料12の走査透過像を観察する。そして、観察結果をデジタル画像ファイルとして記憶装置43に記憶する。
一方、ユーザインターフェース22を介して操作者から偏向コイル9a、9bの調整を行う旨の指示を受付けた場合(S102でYES)、偏向コイル調整モードに移行する。
偏向コイル調整モードにおいて、演算装置42は、ユーザインターフェース22に対話画面を表示し、この対話画面を介して、調整したいビームシフト量の入力を受付け、これを記憶装置43に記憶する(S103)。一般に、ビームシフト量があまりに大きいと、偏向収差により結局分解能が低下してしまう。このため、ビームシフト量の最大値を予め設定しておき、演算装置42は、入力されたビームシフト量がこの最大値を超えている場合は(S104でYES)、その旨のメッセージを出力するなどして、操作者にビームシフト量を再入力させる(S103)。
次に、演算装置42は、上記の対話画面を介して操作者から、ビームシフトにビームチルト成分が含まれないようにするための電子線の初期傾斜量の入力を受付け、これを記憶装置43に記憶する(S105)。この際、球面収差補正器7の調整に用いたときの最大傾斜角を参考値として対話画面上に表示する。傾斜角に限界があるため初期傾斜量の最大値を予め設定しておき、演算装置42は、入力された初期傾斜量がこの最大値を超えている場合は(S106でYES)、その旨のメッセージを出力するなどして、操作者に初期傾斜量を再入力させる(S105)。
次に、演算装置42は、上記の対話画面を介して操作者から、フーリエ変換像の取得枚数の入力を受付ける(S107)。なお、図3に示す例では全部で9枚のフーリエ変換像を用いている、しかし、この枚数以外の枚数でもよい。例えば偏向コイル9a、9bのそれぞれが直交した2つの2極子場を発生するコイルを備えている場合、フーリエ変換像の表示画面の中心に用いるビームシフト前のフーリエ変換像、および0°、90°、180°、270°の方位角方向にそれぞれビームシフトさせた場合のフーリエ変換像の合計5枚のフーリエ変換像があればよい。すなわち、偏向コイル9a、9bが2極子場を発生するコイルをn個備えている場合、180/n°変化させた方位角方向のそれぞれにおいてフーリエ変換像を2枚取得すればよいので、少なくとも合計2n+1枚のフーリエ変換像を取得する。
なお、0°の方位角方向はどこに基準をとってもよい。また、フーリエ変換像の取得枚数をあまりに多くとり過ぎると、記憶装置43の記憶容量が不足する可能性がある。そこで、フーリエ変換像の取得枚数の最大値を予め設定しておき、演算装置42は、入力されたフーリエ変換像の取得枚数がこの最大値を超えている場合は(S108でNO)、その旨のメッセージを出力するなどして、操作者に初期フーリエ変換像の取得枚数を再入力させる(S107)。
以上のようにして、操作者から受付けたビームシフト量、電子線の初期傾斜量、およびフーリエ変換像の取得枚数を用いて、走査透過像の取得およびフーリエ変換像の作成を行う。なお、ビームシフト量、電子線の初期傾斜量、およびフーリエ変換像の取得枚数は、操作者から受付ける代わりに、予め記憶装置43に記憶しておいたこれらの設定値を用いてもよい。
演算装置42は、記憶装置43に記憶されている設定値に従い走査透過電子顕微鏡本体を操作し、偏向コイル9a、9bの電流量を制御し初期傾斜量に応じて傾斜させた電子線を用いてビームシフト前の試料12の走査透過像を取得し、これを記憶装置43に記憶する。また、フーリエ変換像の取得枚数に応じて定まる方位角方向のそれぞれにおいて、偏向コイル9a、9bの電流量を制御しビームシフト量に応じて偏向させた電子線を用いてビームシフト後の走査透過像を取得し、これらを記憶装置43に記憶する(S110)。次に、演算装置42は、記憶装置42に記憶されているビームシフト前の走査透過像およびビームシフト後の各方位角方向での走査透過像のそれぞれについて、フーリエ変換像を生成し(S111)、図3に示すように、生成されたフーリエ変換像各々がビームシフト量および方位角方向に応じた位置に配置された表示データを生成し、ユーザインターフェース22に表示する(S112)。なお、走査透過像の取得およびフーリエ変換像の作成中は、その旨のメッセージをユーザインターフェース22を介して操作者に通知するようにしてもよい(S109)。
フーリエ変換像の表示の仕方は、図3に示すものに限定されない。生成されたフーリエ変換像各々を元となる走査透過像と共に、ビームシフト量および方位角方向に応じた位置に配置して、表示データを生成してもよいし、方位角が180°異なる条件で取得したものをペアで表示するように表示データを生成してもよい。
次に、演算装置42は、ユーザインターフェース22にメッセージを表示するなどして、操作者に表示データのフーリエ変換像から偏向コイル9a、9bの再調整の有無を判断させる(S113)。
ユーザインターフェース22を介して操作者から偏向コイル9a、9bの再調整を行わない旨の指示を受付けた場合(S113でNO)、観察モードに移行する(S114)。観察モードにおいて、演算装置42は、記憶装置43に記憶されている設定値に従い走査透過電子顕微鏡本体を操作し、試料12の走査透過像を観察する。そして、観察結果をデジタル画像ファイルとして記憶装置43に記憶する。
一方、ユーザインターフェース22を介して操作者から偏向コイル9a、9bの再調整を行う旨の指示を受付けた場合(S113でYES)、S103に戻って、偏向コイル調整モードに再度移行する。このときの偏向比の変え方としては、上段偏向コイル9aの励磁を固定して下段偏向コイル9bの励磁のみを変更する方法や、逆に下段偏向コイル9bの励磁を固定して上段偏向コイル9aの励磁のみを変更する方法などが考えられる。また、演算装置42は、ユーザインターフェース22を介して受付けた操作者の指示に従い、偏向コイル調整モードを中止して観察モードに移行するようにしてもよい。
次に、図6に示す動作フローで使用する対話画面について説明する。
図7は図6に示す動作フローで使用する対話画面例を示す図である。図示するように、対話画面は操作受付エリア39aと結果表示エリア39bとに分かれている。
操作受付エリア39aは、調整したいビームシフト量を入力するためのテキストボックス32と、電子線の初期傾斜量を入力するためのテキストボックス33と、フーリエ変換像の取得画像枚数を選択するためのプルダウンメニュー34と、ビームシフトを行うための上下段偏向コイルの偏向比を入力するテキストボックス35と、調整の開始および中止を指示するためのボタン36と、を有する。上段偏向コイル39aおよび下段偏向コイル39bの偏向比を入力するテキストボックス35には、デフォルトで設定されている偏向比が表示される。
演算装置42は、この操作受付エリア39aを介して操作者から調整条件を受付けることで、図6のS102〜S108を実行する。そして、ボタン36が選択されると、演算装置42は、テキストボックス32、テキストボックス33、プルダウンメニュー34、およびテキストボックス35に表示されているビームシフト量、電子線の初期傾斜量、フーリエ変換像の取得画像枚数、および偏向コイルの偏向比を、設定された調整条件として記憶装置43に記憶する。それから、図6のS109以降を開始して、フーリエ変換像を取得する。このとき、対話画面上には、フーリエ変換像作成中の旨を伝えるダイアログボックスを表示する(図6のS109)。また、フーリエ変換像作成中にもう一度ボタン36を押すことで、フーリエ変換像の取得を中止することができる。
フーリエ変換像の取得が終了すると、演算装置42は、結果表示エリア39bの上部に、ビームシフト前後の複数のフーリエ変換像を含む表示データ37を表示する。操作者は、この表示データ37の表示されているビームシフト前後のフーリエ変換像の一致度合いから偏向比の調整が十分であるか否かを判断する。調整が十分でないと判断した場合は、テキストボックス35内の偏向比を再設定し、もう一度ボタン36を押す。これにより、演算装置42は、図6のS109以降を再度開始して、フーリエ変換像を取得する。演算装置42は、結果表示エリア39bの下部に、再度取得したビームシフト前後の複数のフーリエ変換像を含む表示データ38を表示する。操作者は、両者を比較して偏向比の調整が十分であるか否かを判断する。十分でないと判断した場合は、テキストボックス35内の偏向比を再設定し、もう一度ボタン36を押す。これにより、一つ前に取得したフーリエ変換像の表示データの表示位置が結果表示エリア39bの下部から上部へ変更され、今回取得したフーリエ変換画像の表示データが結果表示エリア39bの下部に表示される。
より定量的に調整を行うために、調整の度合いを示す数値を対話画面上に表示するようにしてもよい。適切な偏向比が設定されている場合にビームシフト前後のフーリエ変換像のリングパターンが真円になる性質(図3参照)を考えると、調整度合いを示す数値としては、ビームシフト前後のフーリエ変換像の一致度を表す相互相関係数や位相相関係数などが挙げられる。また、適切な励磁が設定されていない場合にビームシフト後のフーリエ変換像のリングパターンが楕円になることを考慮すると、リングパターン中の特定のリングの楕円率を、調整度合いを示す数値として用いることもできる。特定のリングの楕円率の測定は、例えばフーリエ変換像にスムージング、二値化等の処理を施した後、極座標変換することで得られる各リングに対応するラインにおける動径方向の最大値、最小値を測定することで行う。
図8は結果表示にビームシフト前後のフーリエ変換像の一致度を用いた対話画面の例を示す図である。図示するように、対話画面は操作受付エリア39aと結果表示エリア39bとに分かれている。操作受付エリア39aは図7に示す対話画面と同様である。
結果表示エリア39bは、ビームシフト後の走査透過像各々の取得領域位置に符号を付した模式図44と、符号に対応する取得領域位置から得たビームシフト後のフーリエ変換像の、ビームシフト前のフーリエ変換像との一致度を示す表45と、を含む。表45に示す一致度として、符号に対応する取得領域位置から得たビームシフト後のフーリエ変換像の、ビームシフト前のフーリエ変換像との相互相関係数、位相相関係数、または、符号に対応する取得領域位置から得たビームシフト後のフーリエ変換像内の特定リングの楕円率が用いられる。
演算装置42は、この操作受付エリア39aを介して操作者から調整条件を受付けることで、図6のS102〜S108を実行する。そして、ボタン36が選択されると、演算装置42は、テキストボックス32、テキストボックス33、プルダウンメニュー34、およびテキストボックス35に表示されているビームシフト量、電子線の初期傾斜量、フーリエ変換像の取得画像枚数、および偏向コイルの偏向比を、設定された調整条件として記憶装置43に記憶する。それから、図6のS109以降を開始して、フーリエ変換像を取得する。このとき、対話画面上には、フ−リエ変換像作成中の旨を伝えるダイアログボックスを表示する(図6のS109)。また、フーリエ変換像作成中にもう一度ボタン36を押すことで、フーリエ変換像の取得を中止することができる。
フーリエ変換像の取得が終了すると、演算装置42は、表45の上段の欄に各取得領域位置で得られたビームシフト後のフーリエ変換像の、ビームシフト前のフーリエ変換像との一致度(調整度)を表示する。操作者は、この一致度合いから偏向比の調整が十分であるか否かを判断する。調整が十分でないと判断した場合は、テキストボックス35内の偏向比を再設定し、もう一度ボタン36を押す。これにより、演算装置42は、図6のS109以降を再度開始して、フーリエ変換像を取得する。演算装置42は、表45の下段の欄に各取得領域で得られたビームシフト後のフーリエ変換像の、ビームシフト前のフーリエ変換像との一致度を表示する。操作者は、両者を比較して偏向比の調整が十分であるか否かを判断する。十分でないと判断した場合は、テキストボックス35内の偏向比を再設定し、もう一度ボタン36を押す。これにより、一つ前に取得したフーリエ変換像の一致度の表示位置が表45の下段から上段へ変更され、今回取得したフーリエ変換画像の一致度が表45の下段に表示される。なお、一致度として、観察において十分であると判断される値を参考値として表示しておくとよい。また、模式図44で符号が付されている取得領域毎に、ビームシフト前後のフーリエ変換像の一致度を示す値を、ビームシフト前後のフーリエ変換像を含む表示データと共に、結果表示エリア39bに表示してもよい。
<第2実施形態>
本実施形態では、上記の第1実施形態において、例えば図9に示すように幾つかの偏向支点P1、P2、P3を設定し、それぞれの条件を満たす偏向比でそれぞれ取得した複数のフーリエ変換像の組(表示データ)の中から最適なものを操作者が選択できるようにしている。なお、本実施形態の走査透過電子顕微鏡の概略構成は、図1に示す第1の実施形態のものと同様である。
図10は本発明の第2実施形態が適用された走査透過電子顕微鏡において、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比を調整する場合の動作フローを説明するための図である。
S201〜S208は図6に示すS101〜108と同様である。本実施形態において、演算装置42は、対話画面を介して操作者から、図9に示す各偏向支点P1、P2、P3間の距離Mに対応する偏向支点間のステップ幅および偏向支点の数を定める偏向支点間の総ステップ数の入力をさらに受付け、記憶装置43に記憶する(S209)。なお、ステップ幅及び総ステップ数を設定する偏向支点の中心は、予め記憶装置43に記憶しておいてもよいし、あるいは、対話画面を介して操作者から受付けるようにしてもよい。また、ステップ幅および総ステップ数の最大値を予め設定しておき、演算装置42は、入力されたステップ幅および総ステップ数がこれらの最大値を超えている場合は(S210でYES)、その旨のメッセージを出力するなどして、操作者にステップ幅および総ステップ数を再入力させる(S209)。
以上のようにして、操作者から受付けたビームシフト量、電子線の初期傾斜量、フーリエ変換像の取得枚数、および偏向支点間のステップ幅、ステップ数を用いて、複数の偏向比で走査透過像の取得およびフーリエ変換像の作成を行う。
演算装置42は、偏向支点間のステップ幅および総ステップ数から予め定められた偏向支点を中心に複数の偏向支点を求める。そして、求めた複数の偏向支点を実現するための複数の偏向比を既存の方法により算出する。それから、算出した偏向比のそれぞれについて複数の走査透過像の組を生成する。具体的には、記憶装置43に記憶されている設定値に従い走査透過電子顕微鏡本体を操作し、算出したいずれかの偏向比となるように偏向コイル9a、9bの電流量を制御し、初期傾斜量に応じて傾斜させた電子線を用いてビームシフト前の試料12の走査透過像を取得し、これを記憶装置43に記憶する。また、フーリエ変換像の取得枚数に応じて定まる方位角方向のそれぞれにおいて、この偏向比となるように偏向コイル9a、9bの電流量を制御し、ビームシフト量に応じて偏向させた電子線を用いてビームシフト後の走査透過像を取得し、これらを記憶装置43に記憶する。この処理を、算出した全ての偏向比に対して行うことで、各偏向比でのビームシフト前後での複数の走査透過像の組を生成する(S212)。
次に、演算装置42は、記憶装置42に記憶されている各偏向比でのビームシフト前後での複数の走査透過像の組について、ビームシフト前の走査透過像およびビームシフト後の各方位角方向での走査透過像のフーリエ変換像を生成する(S213)。そして、偏向比毎に生成されたビームシフト前後の複数のフーリエ変換像の組の表示データを生成し、これらの表示データをユーザインターフェース22に表示する(S214)。なお、走査透過像の取得およびフーリエ変換像の作成中は、その旨のメッセージをユーザインターフェース22を介して操作者に通知するようにしてもよい(S211)。
次に、演算装置42は、操作者に、ユーザインターフェース22に表示されている複数の偏向比の表示データの中から最適な偏向比の表示データを選択させる(S215)。それから、演算装置43は、ユーザインターフェース22にメッセージを表示するなどして、操作者に、S215で操作者が選択した表示データのフーリエ変換像から偏向コイル9a、9bの再調整の有無を判断させる(S216)。
ユーザインターフェース22を介して操作者から偏向コイル9a、9bの再調整を行わない旨の指示を受付けた場合(S216でNO)、S215で操作者が選択した表示データの偏向比を、偏向コイル9a、9bの調整値として記憶装置43に記憶する(S217)。それから、観察モードに移行する(S218)。観察モードにおいて、演算装置42は、記憶装置43に記憶されている設定値に従い走査透過電子顕微鏡本体を操作し、試料12の走査透過像を観察する。そして、観察結果をデジタル画像ファイルとして記憶装置43に記憶する。
一方、ユーザインターフェース22を介して操作者から偏向コイル9a、9bの再調整を行う旨の指示を受付けた場合(S216でYES)、偏向コイル調整モードに再度移行し、S209(偏向支点のステップ幅および総ステップ数の受付)以降の処理を繰り返す。このときの偏向支点のステップ幅および総ステップ数の変え方としては、ステップ幅の上限値を先ほどの偏向支点間の距離に比べて小さい値に変更した後、図9に示すように、再度受付けたステップ幅および総ステップ数で、S215で操作者が選択した表示データの偏向比に対応する偏向支点P2を中心とする複数の偏向支点P1’〜P6’を設定する。このようにすることで、さらに高い精度での偏向比の調整を行うことができる。以上の手順を、偏向コイル9a、9bの調整が十分であると操作者が判断するまで行う。
次に、図10に示す動作フローで使用する対話画面について説明する。
図11は図10に示す動作フローで使用する対話画面例を示す図である。図示するように、対話画面は、図7に示すものと同様、操作受付エリア39aと結果表示エリア39bとに分かれている。
操作受付エリア39aは、調整したいビームシフト量を入力するためのテキストボックス32と、電子線の初期傾斜量を入力するためのテキストボックス33と、フーリエ変換像の取得画像枚数を選択するためのプルダウンメニュー34と、偏向支点間のステップ幅を入力するテキストボックス40aと、総ステップ数を入力するテキストボックス40bと、調整の開始および中止を指示するためのボタン36と、を有する。
演算装置42は、この操作受付エリア39aを介して操作者から調整条件を受付けることで、図10のS202〜S210を実行する。そして、ボタン36が選択されると、演算装置42は、テキストボックス32、テキストボックス33、プルダウンメニュー34、およびテキストボックス40a、40bに表示されているビームシフト量、電子線の初期傾斜量、フーリエ変換像の取得画像枚数、および偏向支点のステップ幅、総ステップ数を、設定された調整条件として記憶装置43に記憶する。それから、図10のS211以降を開始して、ステップ幅および総ステップ数により特定される複数の偏向支点のそれぞれに応じた偏向比毎に、ビームシフト前後の複数のフーリエ変換像を取得する。したがって、フーリエ変換像の総取得枚数は取得枚数×ステップ数となる。また、このとき、対話画面上には、フ−リエ変換像作成中の旨を伝えるダイアログボックスを表示する(図10のS211)。また、フーリエ変換像作成中にもう一度ボタン36を押すことで、フーリエ変換像の取得を中止することができる。
フーリエ変換像の取得が終了すると、演算装置42は、結果表示エリア39bの下部に、ステップ幅および総ステップ数により特定される複数の偏向支点のそれぞれに応じた偏向比でのビームシフト前後の複数のフーリエ変換像を含む表示データ37を表示する。操作者が、ビームシフト前後のフーリエ変換像の一致度合いが最も高い表示データ37のチェックボックスにチェックを入れると、この表示データ37が結果表示エリア39bの上部に表示される。操作者は、結果表示エリア39bの上部に表示されている表示データ37が示すビームシフト前後のフーリエ変換像の一致度合いから偏向比の調整が十分であるか否かを判断する。調整が十分でないと判断した場合は、テキストボックス40a、40bのステップ幅、総ステップ数を再設定し、もう一度ボタン36を押す。これにより、演算装置42は、図10のS211以降を再度開始して、フーリエ変換像を取得する。一方、調整が十分であると判断した場合は、偏向比設定ボタン41を押す。これにより、演算装置42は、図10のS217以降を開始して、観察モードに移行する。
<第3実施形態>
本実施形態では、上記の第1実施形態において、偏向コイル9a、9bの偏向比の調整手順を自動化し、取得したビームシフト前後の複数のフーリエ変換像から判断する調整具合の可否を演算装置42に行わせるようにしている。なお、本実施形態の走査透過電子顕微鏡の概略構成は、図1に示す第1の実施形態のものと同様である。
本実施形態では、偏向コイル9a、9bを構成する2つの2極子コイルの偏向比を一つずつ決定している。ここでは、偏向コイル9a、9bが直交する2つの2極子で構成されている場合について説明する。
先ず、ビームシフトを行わない状態での走査透過像を取得し、フーリエ変換像を作成する。次に、偏向コイル9a、9bを構成する2つの2極子成分のうち、片方のみを励起することでビームシフトを行う。
次に、図12(A)に示すように、複数の偏向支点Q1〜Q5に対応する上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比を設定し、各偏向比で走査透過像を取得して、各走査透過像から各偏向比のフーリエ変換像を作成する。ここで、例えば偏向支点Q3に対応する偏向比が最適な偏向比に近いと仮定する。この場合、偏向支点Q1〜Q5に対応する各偏向比でのフーリエ変換像は、図12(B)に示すように、偏向支点Q3に対応するフーリエ変換像が最も真円に近い同心円状のリングパターンとなる。したがって、取得したフーリエ変換像の中から適切な偏向比の条件を演算装置42に判断させるには、パターンマッチング等を利用してリングパターンが最も真円になるフーリエ変換像を検出させればよい。あるいは、前述したビームシフト前後のフーリエ変換像の相互相関係数または位相相関係数、もしくはビームシフト後のリングパターンにおける特定のリングの楕円率を、所定の閾値と比較することで判断させてもよい。
ところで、上述したように、ビームシフトにビームチルト成分が含まれている場合、方位角φの方向にビームシフトした場合に真円に近い同心円状のリングパターンのフーリエ変換像が得られても、その反対方向(方位角φ+180°)にビームシフトした場合にフーリエ変換像のリングパターンが崩れてしまうことがある。そこで、本実施形態では、方位角φの方向にビームシフトを行った後、その反対方向(方位角φ+180°)にビームシフトを行い、それぞれのビームシフト方向で走査透過像の取得してフーリエ変換像を作成し、ビームシフト前後のフーリエ変換像の相互相関係数、位相相関係数、もしくは楕円率を求め、これらの値が最も適切な値(両者の一致度が高い、あるいは真円に近い)を示すときの偏向比を選択している。図13は方位角φの方向にビームシフトした場合のフーリエ変換像および方位角φ+180°の方向にビームシフトした場合のフーリエ変換像の組を、ビームシフトに採用した偏向比毎に表した図である。エントリ1301が偏向比を、エントリ1302が方位角φの方向にビームシフトした場合のフーリエ変換像を、そして、エントリ1303が方位角φ+180°の方向にビームシフトした場合のフーリエ変換像を示している。図13に示す例では、フーリエ変換像の組がビームシフトの方位角方向に関わらず真円に近い形状を示す偏向比3が選択される。
図14は本発明の第3実施形態が適用された走査透過電子顕微鏡において、上段偏向コイル9a、下段偏向コイル9bの偏向比を調整する場合の動作フローを説明するための図である。
先ず、球面収差補正器の調整を初めに行う(S301)。操作者は、球面収差補正器7の図示していない取付機構を調節するなどして球面収差補正器7の光軸を調整する。また、ユーザインターフェース22を介して情報処理装置24に、球面収差補正器7の補正励磁の値を設定する。情報処理装置24において、演算装置42は、ユーザインターフェース22を介して操作者から球面収差補正器7の補正励磁の値が設定されると、ユーザインターフェース22にメッセージを表示するなどして、操作者に偏向コイル9a、9bの調整の有無を判断させる(S302)。
ユーザインターフェース22を介して操作者から偏向コイル9a、9bの調整を行わない旨の指示を受付けた場合(S302でNO)、直ちに観察モードに移行する(S321)。観察モードにおいて、演算装置42は、記憶装置43に記憶されている設定値に従い走査透過電子顕微鏡本体を操作し、試料12の走査透過像を観察する。そして、観察結果をデジタル画像ファイルとして記憶装置43に記憶する。
一方、ユーザインターフェース22を介して操作者から偏向コイル9a、9bの調整を行う旨の指示を受付けた場合(S302でYES)、偏向コイル調整モードに移行する。
偏向コイル調整モードにおいて、演算装置42は、記憶装置43に予め記憶されている電子線のビームシフト量、電子線の初期傾斜量、フーリエ変換像の取得枚数、偏向支点間のステップ幅、および偏向支点間の総ステップ数を読み込む(S303)。
次に、演算装置42は、以上のようにして、記憶装置43から読み込んだビームシフト量、電子線の初期傾斜量、フーリエ変換像の取得枚数、および偏向支点間のステップ幅、総ステップ数を用いて、2つの偏向コイル9a、9b(2極子成分)の一方(例えば偏向コイル9a)のみを制御して、複数の偏向比での走査透過像の取得およびフーリエ変換像の作成を行う。
演算装置42は、偏向支点間のステップ幅および総ステップ数から予め定められた偏向支点を中心に複数の偏向支点を求める。そして、求めた複数の偏向支点を実現するための複数の偏向比を既存の方法により算出する。それから、算出した偏向比のそれぞれについて、2つの偏向コイル9a、9bの一方を制御して複数の走査透過像の組を生成する。具体的には、記憶装置43に記憶されている設定値に従い走査透過電子顕微鏡本体を操作し、算出したいずれかの偏向比となるように偏向コイル9a、9bの一方の電流量を制御し、初期傾斜量に応じて傾斜させた電子線を用いてビームシフト前の試料12の走査透過像を取得し、これを記憶装置43に記憶する。また、フーリエ変換像の取得枚数に応じて定まる方位角方向のそれぞれにおいて、この偏向比となるように偏向コイル9a、9bの一方の電流量を制御し、ビームシフト量に応じて偏向させた電子線を用いてビームシフト後の走査透過像を取得し、これらを記憶装置43に記憶する。この処理を、算出した全ての偏向比に対して行うことで、各偏向比でのビームシフト前後での複数の走査透過像の組を生成する(S304)。
次に、演算装置42は、記憶装置42に記憶されている、偏向コイル9a、9bの一方を制御することで実現した各偏向比でのビームシフト前後での複数の走査透過像の組について、ビームシフト前の走査透過像およびビームシフト後の各方位角方向での走査透過像のフーリエ変換像を生成する(S305)。そして、偏向比毎に生成されたビームシフト前後の複数のフーリエ変換像の組の表示データを生成し、これらの表示データをユーザインターフェース22に表示する(S306)。
次に、演算装置42は、上述した方法により、偏向比毎に生成されたビームシフト前後の複数のフーリエ変換像の組各々の、ビームシフト前後のリングパターンの相互相関係数、位相相関係数、あるいは、ビームシフト後のリングパターンの楕円率を計算する。そして、最も高いビームシフト前後のリングパターンの一致度を示す相互相関係数、位相相関係数、あるいは最も高い真円度を示す楕円率を選択する(S307)。
次に、演算装置42は、選択した相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率が記憶装置43に予め記憶されている閾値を超えているか否かを判断する(S308)。
S307で選択した相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率が閾値を超えていない場合(S308でNO)、偏向コイル9a、9bの一方の調整が不十分であると判断し、記憶装置43に記憶されている予め定められたルールに従い、偏向支点間のステップ幅および総ステップ数を変更する(S311)。具体的には、ステップ幅を所定量だけ狭くする。また、所定のルールに従い総ステップ数を増やす。例えば、前回の偏向支点間のステップ幅および総ステップ数をa、bとし、今回の偏向支点間のステップ幅をcとした場合、今回の偏向支点間の総ステップ数d=(a×b)/cとする。それから、演算装置42は、S303に戻って、走査透過像の取得およびフーリエ変換像の作成を再度行う。なお、S304において偏向支点間のステップ幅および総ステップ数から複数の偏向支点を求める場合、S307で選択した相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率が計算されたフーリエ変換像の組の偏向比に対応する偏向支点を中心に複数の偏向支点を算出する。
一方、S307で選択した相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率が閾値を超えている場合(S308でYES)、偏向コイル9a、9bの一方の調整が十分であると判断し、S308で選択した相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率が計算されたフーリエ変換像の組を取得した際における、当該一方の偏向コイル9a、9bの電流量を、観察モードで使用する当該一方の偏向コイル9a、9bの電流量に決定し、記憶装置43に記憶する(S309)。また、このフーリエ変換像の組の表示データおよび/または相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率を、ユーザインターフェース22に表示する(S310)。
次に、演算装置42は、記憶装置43に予め記憶されている電子線のビームシフト量、電子線の初期傾斜量、フーリエ変換像の取得枚数、偏向支点間のステップ幅、偏向支点間の総ステップ数、および、S309で記憶装置43に記憶した一方の偏向コイル9a、9b(例えば偏向コイル9a)の電流量を読み込む(S312)。
次に、演算装置42は、以上のようにして、記憶装置43から読み込んだビームシフト量、電子線の初期傾斜量、フーリエ変換像の取得枚数、偏向支点間のステップ幅、偏向支点間の総ステップ数、および、一方の偏向コイル9a、9b(例えば偏向コイル9a)の電流量を用いて、2つの偏向コイル9a、9bの他方(例えば偏向コイル9b)のみを制御して、複数の偏向比での走査透過像の取得およびフーリエ変換像の作成を行う。
演算装置42は、偏向支点間のステップ幅および総ステップ数から予め定められた偏向支点を中心に複数の偏向支点を求める。そして、求めた複数の偏向支点を実現するための複数の偏向比を既存の方法により算出する。それから、算出した偏向比のそれぞれについて、2つの偏向コイル9a、9bの一方をS309で記憶装置43に記憶した電流量に固定し、他方を制御して複数の走査透過像の組を生成する。具体的には、記憶装置43に記憶されている設定値に従い走査透過電子顕微鏡本体を操作し、2つの偏向コイル9a、9bの一方をS309で記憶装置43に記憶した電流量に固定して、算出したいずれかの偏向比となるように偏向コイル9a、9bの他方の電流量を制御し、初期傾斜量に応じて傾斜させた電子線を用いてビームシフト前の試料12の走査透過像を取得し、これを記憶装置43に記憶する。また、フーリエ変換像の取得枚数に応じて定まる方位角方向のそれぞれにおいて、この偏向比となるように偏向コイル9a、9bの他方の電流量を制御し、ビームシフト量に応じて偏向させた電子線を用いてビームシフト後の走査透過像を取得し、これらを記憶装置43に記憶する。この処理を、算出した全ての偏向比に対して行うことで、各偏向比でのビームシフト前後での複数の走査透過像の組を生成する(S313)。
次に、演算装置42は、記憶装置42に記憶されている、偏向コイル9a、9bの他方を制御することで実現した各偏向比でのビームシフト前後での複数の走査透過像の組について、ビームシフト前の走査透過像およびビームシフト後の各方位角方向での走査透過像のフーリエ変換像を生成する(S314)。そして、偏向比毎に生成されたビームシフト前後の複数のフーリエ変換像の組の表示データを生成し、これらの表示データをユーザインターフェース22に表示する(S315)。
次に、演算装置42は、上述した方法により、偏向比毎に生成されたビームシフト前後の複数のフーリエ変換像の組各々の、ビームシフト前後のリングパターンの相互相関係数、位相相関係数、あるいは、ビームシフト後のリングパターンの楕円率を計算する。そして、最も高いビームシフト前後のリングパターンの一致度を示す相互相関係数、位相相関係数、あるいは最も高い真円度を示す楕円率を選択する(S316)。
次に、演算装置42は、選択した相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率が記憶装置43に予め記憶されている閾値を超えているか否かを判断する(S317)。
S316で選択した相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率が閾値を超えていない場合(S317でNO)、偏向コイル9a、9bの他方の調整が不十分であると判断し、記憶装置43に記憶されている予め定められたルールに従い、偏向支点間のステップ幅および総ステップ数を変更する(S320)。具体的には、ステップ幅を所定量だけ狭くする。また、所定のルールに従い総ステップ数を増やす。例えば、前回の偏向支点間のステップ幅および総ステップ数をa、bとし、今回の偏向支点間のステップ幅をcとした場合、今回の偏向支点間の総ステップ数d=(a×b)/cとする。それから、演算装置42は、S312に戻って、走査透過像の取得およびフーリエ変換像の作成を再度行う。なお、S314において偏向支点間のステップ幅および総ステップ数から複数の偏向支点を求める場合、S316で選択した相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率が計算されたフーリエ変換像の組の偏向比に対応する偏向支点を中心に複数の偏向支点を算出する。
一方、S316で選択した相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率が閾値を超えている場合(S317でYES)、偏向コイル9a、9bの他方の調整が十分であると判断し、S316で選択した相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率が計算されたフーリエ変換像の組を取得した際における、当該他方の偏向コイル9a、9bの電流量を、観察モードで使用する当該他方の偏向コイル9a、9bの電流量に決定し、記憶装置43に記憶する(S318)。また、このフーリエ変換像の組の表示データおよび/または相互相関係数、位相相関係数、あるいは楕円率を、ユーザインターフェース22に表示する(S319)。なお、走査透過像を追加で取得してフーリエ変換像を作成することで、図3に示したようなビームシフト量と方位角とに対応させてフーリエ変換像を並べた画像を表示させてもよい。
さて、演算装置42は、ユーザインターフェース22に、偏向コイルの調整終了を知らせるメッセージを表示する。そして、ユーザインターフェース22を介して操作者から観察開始の指示を受付けたならば、観察モードに移行する(S321)。観察モードにおいて、演算装置42は、記憶装置43に記憶されている設定値に従い走査透過電子顕微鏡本体を操作し、試料12の走査透過像を観察する。そして、観察結果をデジタル画像ファイルとして記憶装置43に記憶する。
なお、本実施形態では2極子成分を2つ備えた場合の偏向器(偏向コイル9a、9b)について説明したが、本発明は3つ以上の2極子成分を備えた場合にも同様に適用できる。また、標準試料12に、円、四角形、三角形の繰り返し図形が描画された基板上のパターンを用いて走査透過像のフーリエ変換像を取得してもよい。また、フーリエ変換像の代わりに、走査透過像から電子線のスポット形状のみをデコンボリューション法により抽出した画像やロンチグラムを用いても調整できる。
本実施形態において、操作者がイメージシフト機能を使いたい場合、偏向コイル9a、9bの調整は基本的に収差補正器7の調整後毎に行う。しかし、偏向コイル9a、9bの適切な偏向比は、収差補正器7の励磁条件によって決定される。このため、偏向コイル9a、9bの調整後に、そのときの収差補正器7の励磁条件とともに偏向コイル9a、9bの偏向比条件を記憶装置43に記憶させ、同じ収差補正器7の励磁条件が過去に存在している場合はこのときの偏向比を参照することで瞬時に偏向コイル9a、9bの調整を行うことも可能である。
以上、本発明の一実施形態について説明した。
なお、上述した偏向コイルの調整方法は、球面収差補正器7を搭載していない走査透過電子顕微鏡でも使用可能である。また、球面収差補正器7のみではなく、色収差補正器、もしくは高次収差補正器を搭載した走査透過電子顕微鏡にも使用できる。
図1は本発明の第1実施形態が適用された走査透過電子顕微鏡の概略構成図である。 図2は偏向コイルの偏向比の調整を説明するための電子線の様子を模式的に表した図である。 図3(A)は偏向コイルの偏向比調整のために走査透過像を取得する試料上の領域を示す図であり、図3(B)、(C)は取得した走査透過像のフーリエ変換像をそれぞれ電子線のビームシフト量および方位角に対応する位置に配置した図である。 図4(A)、(B)は初期傾斜した電子線を用いて偏向コイルの偏向比の調整する方法を説明するための図であり、図4(C)は初期傾斜した電子線を用いて偏向コイル偏向比を調整する場合において、偏向比が適切な場合に得られるフーリエ変換像の組を示す図である。 図5(A)、(B)は初期傾斜した電子線を用いて偏向コイルの偏向比の調整する方法を説明するための図であり、図5(C)は初期傾斜した電子線を用いて偏向コイル偏向比を調整する場合において、偏向比が適切でない場合に得られるフーリエ変換像の組を示す図である。 図6は本発明の第1実施形態が適用された走査透過電子顕微鏡において、偏向コイルの偏向比を調整する場合の動作フローを説明するための図である。 図7は図6に示す動作フローで使用する対話画面例を示す図である。 図8は結果表示にビームシフト前後のフーリエ変換像の一致度を用いた対話画面の例を示す図である。 図9は偏向コイルの偏向支点の位置を説明するための図である。 図10は本発明の第2実施形態が適用された走査透過電子顕微鏡において、偏向コイルの偏向比を調整する場合の動作フローを説明するための図である。 図11は図10に示す動作フローで使用する対話画面例を示す図である。 図12(A)は複数の偏向支点を通過する電子線の様子を模式的に表した図であり、図12(B)は図12(A)に示す各偏向支点を実現する偏向比のそれぞれに対応する走査透過像のフーリエ変換像を示す図である。 図13は方位角φの方向にビームシフトした場合のフーリエ変換像および方位角φ+180°の方向にビームシフトした場合のフーリエ変換像の組を、ビームシフトに採用した偏向比毎に表した図である。 図14は本発明の第3実施形態が適用された走査透過電子顕微鏡において、偏向コイルの偏向比を調整する場合の動作フローを説明するための図である。
符号の説明
1…電子線源、2a〜2c…静電レンズ、2′a〜2′c…電圧制御装置、3a、3b…収束レンズ、4…収束絞り、5a…補正器軸調整用上段偏向コイル、5b…補正器軸調整用下段偏向コイル、6…調整レンズ、7…球面収差補正器、8…トランスファーレンズ、9a…上段偏向コイル、9b…下段偏向コイル、10a、10b…スキャンコイル、11…対物前磁場レンズ、12…試料、13…対物後磁場レンズ、14…投影レンズ、15…検出系アライメントコイル、16…暗視野像検出器、17…明視野像検出器、18…カメラ、19…二次電子検出器、20…プリアンプ、21…A/Dコンバータ、22…ユーザインターフェース、23…D/Aコンバータ、24…情報処理装置24、42…演算装置、43…記憶装置

Claims (16)

  1. 試料を載置する試料ホルダと、
    前記試料ホルダに載置された試料に電子線を走査する電子光学系と、
    前記試料を透過した電子を検出する検出器と、
    前記検出器の出力信号から前記試料の画像を形成する情報処理手段と、
    前記情報処理手段により形成された画像を表示する画像表示手段と、
    前記電子光学系を調整するための電子光学系制御手段と、を備え、
    前記電子光学系は、
    収差補正器と、
    前記収差補正器を通過した電子線の位置をシフトさせる偏向器と、を備え、
    前記情報処理手段は、
    前記偏向器によって前記電子線の位置をシフトさせて前記検出器の出力信号から前記試料の走査透過像のフーリエ変換画像を形成する共に、前記電子線の位置をシフトさせずに前記検出器の出力信号から前記試料の走査透過像のフーリエ変換画像を形成し、両者を前記画像表示手段に表示させること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  2. イメージシフト機能を備えた走査透過電子顕微鏡であって、
    収差補正器、イメージシフト偏向器、および走査偏向器を備えた電子光学系と、
    被観察試料を保持する試料ホルダと、
    該被観察試料を透過した電子線を検出する透過検出器と、
    前記イメージシフト偏向器の制御手段と、
    前記透過検出器の出力信号からイメージシフト画像のフーリエ変換像を形成し、更に当該フーリエ変換像を用いて表示データを生成する情報処理手段と、を備えること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  3. 請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記フーリエ変換画像が、前記電子線をシフトさせない第1の位置、前記第1の位置から所定量シフトした第2の位置、および前記第1の位置を中心として前記第2の位置に対して回転対称な第3の位置のそれぞれで、取得されること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  4. 請求項2に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記フーリエ変換画像が、イメージシフトを行わない第1の位置、前記第1の位置から 所定量イメージシフトした第2の位置、および前記第1の位置を中心として前記第2の位置に対して回転対称な第3の位置のそれぞれで、取得されること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  5. 請求項3又は4に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記回転対称な位置が2回回転対称位置であること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  6. 請求項5に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記2回回転対称位置に加えて、4回回転対称位置、6回回転対称位置も含む位置で、フーリエ変換画像がそれぞれ取得されること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  7. 請求項1又は2に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記フーリエ変換画像の代わりにロンチグラム像を用いること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  8. 請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記走査透過像を標準試料を用いて取得すること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  9. 請求項8に記載の走査透過電子顕微鏡において,
    前記標準試料が、アモルファス、カーボン膜上の金粒子、ラテックスボール、白金粒子、アルミニウム粒子、Si粒子、および円、四角形、三角形の繰り返し図形が描画された基板上のパターンのいずれかであること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  10. 請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記シフト量を設定するための情報入力手段をさらに備えること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  11. 試料を載置する試料ホルダと、
    前記試料ホルダに載置された試料に電子線を走査する電子光学系と、
    前記試料を透過した電子を検出する検出器と、
    前記検出器の出力信号から前記試料の画像を形成する情報処理手段と、
    前記情報処理手段により形成された画像を表示する画像表示手段と、
    前記電子光学系を調整するための電子光学系制御手段と、を備え、
    前記電子光学系は、
    収差補正器と、
    前記収差補正器を通過した電子線の位置をシフトさせる偏向器と、を備え、
    前記情報処理手段は、
    前記電子線の位置をシフトさせて取得した試料の走査透過像および前記電子線の位置をシフトさせずに取得した走査透過像を含む複数の走査透過像のフーリエ変換画像を基に前記偏向器の調整量を計算し、前記電子光学系調整手段に伝達すること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  12. 請求項11に記載の走査透過電子顕微鏡において,
    前記情報処理手段は、
    前記複数のフーリエ変換像の各々について、楕円率、相互相関係数、および位相相関係数のいずれかを計算し、前記楕円率、相互相関係数、および位相相関係数のいずれかが前記複数のフーリエ変換像全体で最小になる前記偏向器の調整量を計算すること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  13. 請求項12に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記楕円率、相互相関係数、および位相相関係数のいずれかの数値が前記画像表示手段に表示されること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  14. 試料を載置する試料ホルダと、
    前記試料ホルダに載置された試料に電子線を走査する、収差補正器および前記収差補正器を通過した電子線の位置をシフトさせる偏向器を有する電子光学系と、
    前記試料を透過した電子を検出する検出器と、
    前記検出器の出力信号から前記試料の画像を形成する情報処理手段と、
    前記情報処理手段により形成された画像を表示する画像表示手段と、を備える走査透過電子顕微鏡の調整方法であって
    前記情報処理手段が、
    前記偏向器によって前記電子線の位置をシフトさせて前記検出器の出力信号から前記試料の走査透過像のフーリエ変換画像を形成する共に、前記電子線の位置をシフトさせずに前記検出器の出力信号から前記試料の走査透過像のフーリエ変換画像を形成し、両者を前記画像表示手段に表示させること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡の調整方法。
  15. イメージシフト機能を備えた走査透過電子顕微鏡の調整方法であって、
    収差補正器、イメージシフト偏向器、および走査偏向器を備えた電子光学系を用いて、試料ホルダに保持された被観察試料に電子線を走査し、
    透過検出器を用いて、前記被観察試料を透過した電子線を検出し、
    情報処理装置を用いて、前記被観察試料を透過した電子線を検出信号からイメージシフト画像のフーリエ変換像を形成し、更に当該フーリエ変換像を用いて表示データを生成すること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡の調整方法。
  16. 試料を載置する試料ホルダと、
    前記試料ホルダに載置された試料に電子線を走査する、収差補正器、および前記収差補正器を通過した電子線の位置をシフトさせる偏向器を有する電子光学系と、
    前記試料を透過した電子を検出する検出器と、
    前記検出器の出力信号から前記試料の画像を形成する情報処理手段と、
    前記情報処理手段により形成された画像を表示する画像表示手段と、
    前記電子光学系を調整するための電子光学系制御手段と、を備える走査透過電子顕微鏡の調整方法であって、
    前記情報処理手段が、
    前記電子線の位置をシフトさせて取得した試料の走査透過像および前記電子線の位置をシフトさせずに取得した走査透過像を含む複数の走査透過像のフーリエ変換画像を基に前記偏向器の調整量を計算し、前記電子光学系調整手段に伝達すること
    を特徴とする走査透過電子顕微鏡の調整方法。

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