JP2007144499A - 鋳造方法と鋳造型の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 鋳造型の型費を上昇させることなく、鋳造品の離型性を向上させる技術を提供する。
【解決手段】 ダイカスト金型1の固定型20に設けられているキャビティ面22と、可動型30に設けられているキャビティ面32にフラーレンを付着させる工程と、固定型30と可動型20を閉じてキャビティ10を確保する型閉じ工程と、キャビティ10に溶融アルミニウムを充填する工程と、金型1を開けて金型1から鋳造品を取りだす工程を備えており、型閉じ工程の開始タイミング以前に、フラーレンを付着させる工程を実施する。
【選択図】 図6

Description

本発明は、鋳造成形品を鋳造する技術に関する。
成形型のキャビティに溶融材料を充填して成形する方法は、成形型を閉じてキャビティを確保する型閉じ工程と、キャビティに溶融材料を充填する工程と、成形型を開けて型から成形品を取り出す工程を備えている。
キャビティに溶融材料を充填すると、溶融材料とキャビティ面が融着して成形品を離型できない場合、あるいは離型し難い場合がある。成形品がキャビティ面に融着すると、融着したものを除去してキャビティ面を研磨してから再び成形型を使用する。しかしながら、この作業は手間がかかるとともに成形型の寿命が短くなり、ひいては成形品の製造コストの上昇につながる。したがって、このような融着を回避するための工夫が必要とされている。
特許文献1では、セラミック材料とカーボンが含まれるセラミック複合焼結体を用いて成形型を製造している。この成形型は、表面の粗さが0.05μm以下まで鏡面加工されている。特許文献1には、この成形型を用いれば、溶融材料とキャビティ面が融着し難く、離型性がよいために成形品の成形不良を防止することができる効果が示されている。
特開2004−67432号公報
溶融材料が金属の場合、溶融金属を鋳造型のキャビティに充填して、鋳造品を鋳造する方法が知られている。この際、溶融金属が鋳造型のキャビティ面と反応して融着し(焼き付き)易く、鋳造品を離型できない事態が発生し易い。特に、ダイカスト鋳造方法では、特許文献1の技術を用いても離型性が不充分となり易い。また、従来より型の材料として用いられている鉄等の金属と比較すると、特許文献1で使用しているセラミック複合焼結体は高価であるので、型費が高くなる。
本発明は、上記の問題点を解決するために創案された。本発明では、型費を上昇させることなく、鋳造品の離型性を向上させる技術を提供することを課題とする。
(請求項1に記載の発明)
本発明の鋳造方法は、鋳造型の第1型に設けられているキャビティ面と、第2型に設けられているキャビティ面にフラーレンを付着させる工程と、第1型と第2型を閉じてキャビティを確保する型閉じ工程と、キャビティに溶融金属を圧入して充填する工程と、型を開けて型から鋳造品を取りだす工程を備えている。そして、型閉じ工程の開始タイミング以前に、フラーレンを付着させる工程を実施する。
この「フラーレン」は、フラーレン骨格を有するフラーレン類を広く包含する。フラーレンの炭素数は通常60〜130の偶数であり、具体的には、C60,C70,C76,C78,C82,C84,C90,C94,C96、あるいは、これらよりも多くの炭素を有する炭素クラスター等がある。また、「フラーレン」には、フラーレン誘導体をも含む。フラーレン誘導体には、フラーレン骨格上に置換基を有するものや、フラーレン骨格に金属、化合物等を内包するものや、他の金属原子や化合物等と錯体を形成したもの等が含まれる。
キャビティ面にフラーレンを付着させるには、フラーレンを主成分として含むフラーレン混合物を付着させてもよい。混合物の場合、他の構成成分としては、結合剤、潤滑剤、体質剤等が考えられる。付着させる方法としては、混合物の態様により塗布、スプレー等種々の方法が用いられる。
本発明の鋳造方法によれば、キャビティに溶融金属を充填する前に、キャビティ面にフラーレンを付着させる。フラーレンは微小な分子性結晶であるので、これをキャビティ面に付着させることによってキャビティ面の微小な凹凸を埋めることができる。また、フラーレンは反応性が高く、高温下で型表面と反応し得る分子である。また、フラーレン同士が反応し得る分子である。したがって、キャビティ面に付着したフラーレンは、キャビティに溶融金属を充填する工程で溶融金属の熱等により変性し、キャビティ面に、キャビティから剥離し難い炭素被膜を形成することができる。
形成された炭素被膜によって凹凸が埋められた滑らかなキャビティ面を持つキャビティに充填された溶融金属により成形された鋳造品は、型を開いた際の離型性に優れている。また、形成された炭素被膜は剥離し難いので、鋳造工程を実施する毎にフラーレンを付着させる必要がない。したがって、一度炭素被膜が形成されれば、離型性向上の持続的効果が望める。これにより、型費を上昇させることなく、鋳造品の離型性を向上させることができる。ひいては、鋳造品の生産性が向上する。
(請求項2に記載の発明)
フラーレンを付着させる工程の後に、キャビティ面に離型剤を塗布する工程を実施し、その後型閉じ工程を実施することが好ましい。「離型剤」は、一般的に用いられている、シリコンエマルジョン系やフッ素樹脂系や窒化ホウ素系等の離型剤でよい。エアゾールタイプであれば、キャビティ面にスプレーして簡単に塗布することができるので、なお好ましい。
これによれば、鋳造品の離型性が一層向上する。
(請求項3に記載の発明)
キャビティ面にフラーレンを付着させる工程の前に、鋳造型を加熱する工程を実施するのが好ましい。
これによれば、フラーレンを付着させる工程で、フラーレンを塗布、付着し易い。
(請求項4に記載の発明)
鋳造型の加熱温度は、150℃以上であることが好ましい。
150℃以上に加熱した型は、フラーレンを付着させる工程で、フラーレンを一層塗布、付着させ易い。
(請求項5に記載の発明)
フラーレンは、前述したように、フラーレン骨格を有するフラーレン類、複数のフラーレン類の混合体を広く包含するが、キャビティ面に付着させるフラーレンは、フラーレン中のC60の含有率が50重量%以上であることが好ましい。
60は、比較的製造が容易であるとともに、骨格が真球に近い。フラーレン中のC60の含有率が50重量%以上であれば、キャビティ面の凹凸を容易に埋めることができ、また、キャビティから剥離し難い炭素被膜を形成し易い。
(請求項6に記載の発明)
本発明で製造する鋳造型は、少なくとも第1型と第2型を備えている。第1型及び第2型は、第1型及び第2型を閉じた場合に確保されるキャビティの内周面となるキャビティ面を有している。本発明の製造方法は、各キャビティ面にフラーレンを付着させる工程を有している。
本発明の鋳造型の製造方法によれば、キャビティに溶融金属を充填する前に、キャビティ面にフラーレンを付着させる。フラーレンは微小な分子性結晶であるので、これをキャビティ面に付着させることによってキャビティ面の微小な凹凸を埋めることができる。また、フラーレンは反応性が高く、高温下で型表面と反応し得る分子である。また、フラーレン同士が反応し得る分子である。したがって、キャビティ面に付着したフラーレンは、キャビティに溶融金属を充填する工程で溶融金属の熱等により変性し、キャビティ面から剥離し難い炭素被膜を形成することができる。
形成された炭素被膜によって凹凸が埋められた滑らかなキャビティ面を有する鋳造型を製造することができる。これを用いて、鋳造した鋳造品は、型を開いた際の離型性に優れている。また、キャビティ面に形成された炭素被膜は剥離し難いので、鋳造工程を実施する毎にフラーレンを付着させる必要がない。したがって、一度炭素被膜が形成されれば、離型性向上の持続的効果が望める。これにより、型費を上昇させることなく、鋳造品の離型性を向上させることができる。ひいては、鋳造品の生産性が向上する。
本発明によれば、型費を上昇させることなく、鋳造品の離型性を向上させることができる。
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。
(第1形態)
キャビティ面にフラーレンを含む混合物を付着させる場合、フラーレン混合物中のフラーレン類(以降、単にフラーレンと称呼する。)は、1重量パーセント以上、好ましくは10重量パーセント以上、より好ましくは30重量パーセント以上である。フラーレン混合物には、フラーレン混合物の成形性及び安定性を高めるために、成形補助剤として、結合剤や潤滑剤や体質剤等が適宜混合されている。
(第2形態)
フラーレン混合物は棒状に成形されている。キャビティ面にフラーレンを付着させる工程では、棒状に成形されているフラーレン混合物をキャビティ面に擦り付ける。
(第3形態)
キャビティに充填する溶融金属は、溶融アルミニウムである。
(第4形態)
キャビティ面にフラーレン混合物を付着させてから、型を加熱し、再びキャビティ面にフラーレン混合物を付着させる。
(第5形態)
鋳造型は鉄を主成分とした金属で構成されている金型である。
(第6形態)
鋳造型はダイカスト型であって、ダイカスト型の第1型に設けられているキャビティ面と、第2型に設けられているキャビティ面にフラーレンを付着させる工程を備え、型閉じ工程の開始タイミング以前に、フラーレンを付着させる工程を実施する。
本発明の鋳造方法に係る一実施の形態を、図1〜図5を参照しながら説明する。本実施の形態では、アルミニウム鋳造品をダイカスト鋳造方法で鋳造する。
図1、図2は、本発明の鋳造方法で用いる鋳造型が取り付けられているダイカストマシンの断面図を示す。図3は、フラーレンのうち、真球に近い結晶構造を有するC60を示す。図4は、フラーレン同士及びフラーレンと金型表面が反応して、金型表面に炭素被膜が形成されている様子を示す。図5は、金型表面の凹凸が形成された炭素被膜により滑らかになっている様子を示す。
図1に断面を示すダイカスト金型1(特許請求の範囲の鋳造型の実施例)は、鋼で構成された固定型20(特許請求の範囲の第1型あるいは第2型の実施例)と可動型30(特許請求の範囲の第2型あるいは第1型の実施例)を有している。可動型30には、ダイカスト金型1を閉じた時にキャビティ10を確保するためのキャビティ面32が設けられている。固定型20には、ダイカスト金型1を閉じた時にキャビティ10を確保するためのキャビティ面22が設けられている。各キャビティ面22,32には、予め、フラーレン混合物が付着されている。このフラーレン混合物の詳細は後述する。また、固定型20には、ダイカストマシンの射出スリーブ40(後述する。)を挿通する孔が設けられている。
固定型20はダイカストマシンの固定型取り付け部材21に取り付けられており、可動型30はダイカストマシンの可動型取り付け部材31に取り付けられている。可動型取り付け部材31は、図1には図示されていないスライド機構によって、左右方向に移動可能に構成されている。図1では、可動型取り付け部材31が固定型20の方向に移動し、ダイカスト金型1が閉じた状態を示している。ダイカスト金型1が閉じた状態では、固定型20のキャビティ面22と、可動型30のキャビティ面32によって、キャビティ10が形成される。キャビティ10の形状は、鋳造品の形状に対応している。
固定型20と固定型取り付け部材21には、溶融金属の射出スリーブ40が配設されている。射出スリーブ40には、溶融金属を投入する投入口41が設けられている。射出スリーブ40の内空部42には、プランジャ43が収容されている。プランジャ43は内空部42内をスライド移動可能であり、前進することによって溶融金属をキャビティ10に圧入する。
このように構成されたダイカストマシンを用いてアルミニウム鋳造品を鋳造する工程について、簡単に説明する。
まず、上記した型取り付け部材21,31に各型20,30を取り付ける。
そして、固定型20のキャビティ面22と可動型30のキャビティ面32に、シリコンエマルジョン系等の液体離型剤をスプレー塗布する。
固定型20と可動型30を型閉じする工程を実行する。ダイカストマシンは、可動型30が取り付けられた可動型取り付け部材31を固定型20の方向(図1に示す右方向)に移動し、固定型20と可動型30を閉じる。
次に、射出スリーブ40の投入口41から600℃で溶湯した溶融アルミニウムを内空部42に投入する。
そして、図2に示すように、溶融アルミニウムがキャビティ10に押し出される方向(図2に示す左方向)に、プランジャ43をスライド移動する。これにより、溶融アルミニウムがキャビティ10に圧入されて充填される。
そして、ダイカストマシンを低速で試運転すると、鋳造品が試作されるとともに、固定型20と可動型30が350℃程度に予熱される。
キャビティ10に充填された溶融アルミニウムが冷えて固化したら、ダイカスト金型1を開いて鋳造品の試作品を取り出す。
そして、キャビティ面22,32にフラーレン混合物を再度塗布する。
さらに、キャビティ面22,32に液体離型剤をスプレー塗布する。
型閉じする工程を実行して、数回の試運転を実施した後、ダイカストマシンを高速モードに切り替えて鋳造品を製造する。
ここで、固定型20と可動型30のキャビティ面22,32に塗布したフラーレン混合物について、その詳細を説明する。
フラーレン混合物に含まれているフラーレンは、フラーレン骨格を有するフラーレン類であればよい。フラーレンの炭素数は通常60〜130の偶数であり、具体的には、C60,C70,C76,C78,C82,C84,C90,C94,C96、あるいはこれらよりも多くの炭素を有する炭素クラスター等がある。また、フラーレンは、フラーレン誘導体を含んでいてもよい。フラーレン誘導体とは、フラーレン骨格上に置換基を有するものや、フラーレン骨格に金属、化合物等を内包するものや、他の金属原子や化合物等と錯体を形成したもの等が含まれる。本実施の形態で用いるフラーレン混合物中のフラーレンには、図3に示すような直径1nm程度の真球に近い形状のC60骨格の割合が50重量%以上(フラーレン中)含まれている。
フラーレン混合物は、圧縮成形、押出成形、あるいは射出成形等により、作業員がキャビティ面22,32に付着させ易い形状に成形される。圧縮成形で成形される場合には、フラーレン骨格が崩壊することがないとともに、十分に成形することができるように、圧力は0.005〜10t/cm(好ましくは、0.1〜10t/cm)、加圧時間は1〜5分間程度で成形される。通常、空気雰囲気中で実施されるが、必要に応じて成形時に加熱され抜気されるようにしてもよい。
成形の際には、成形性及び安定性を高めるために、フラーレンに成形補助剤を混合してもよい。成形補助剤としては、硝化綿などの結合剤、天然ワックスなどの潤滑剤、タルク等の体質剤が適宜混合される。
本実施の形態ではフラーレン混合物を、棒状に成形する。棒状に成形されたフラーレン混合物を、シャープペンシル状のホルダーに収容する。そして、ペン先から芯を出して筆記する要領で、フラーレン混合物をキャビティ面22,32に塗りつけ付着させる。
フラーレンは微小な分子性結晶であることが知られている。このため、フラーレン混合物をキャビティ面22,32に塗布することにより、フラーレンは、図5に示すように金型表面の微小な凹凸を埋めるように付着される。
また、フラーレンは分子内に5員環を有することから反応性が高い。このため、キャビティ10に600℃程度の溶融アルミニウムを注入することによって、フラーレンは、図4に示すようにキャビティ面22,32及びフラーレン同士で反応して結合(変性)する。そして、キャビティ面22,32の表面に剥離し難い強固な炭素被膜が形成される。
本実施の形態では、ダイカストマシンを低速で試運転することで、ダイカスト金型1を予め350℃に予熱してからフラーレン混合物を再度塗布している。これによって、キャビティ面22,32にフラーレンを塗布、付着し易くしているが、ダイカスト金型1は、フラーレンを塗布、付着し易くする目的では、予熱しておかなくてもよい。また、予熱を行う際には、150℃以上であれば、フラーレンが塗布、付着し易くなる。なお、フラーレン混合物は、型閉じ工程の開始タイミング以前に実施されればよく、予めダイカスト金型1にフラーレン混合物を塗布しておくだけでもよいし、フラーレン混合物が塗布されていないダイカスト金型に、型閉じ前に塗布するだけでもよい。
本実施の形態では、キャビティ面にフラーレンを付着させた後に、さらに、液体離型剤をスプレー塗布したが、液体離型剤は塗布しなくてもよい。液体離型剤を併用すれば、鋳造品の離型性が一層向上する。
フラーレン混合物は、キャビティ面22,32で、特に離型性に問題がある箇所に局所的に塗布してもよい。また、局所的に厚く塗布するようにしてもよい。
本実施の形態では、ダイカスト金型1を350℃に加熱してからフラーレン混合物を塗布したが、金型は、150℃以上に加熱すればキャビティ面22,32にフラーレンを塗布、付着し易くすることができる。
本実施の形態では、フラーレン混合物(例えば、フラーレンに加え、成形補助剤として、結合剤や潤滑剤や体質剤等が適宜混合されている。)中のC60骨格のフラーレンは、混合物に含まれているフラーレン中50重量%以上である場合について説明した。しかしながら、50重量%未満であっても離型性が向上すればよい。
本実施の形態では、アルミニウム鋳造品について説明したが、マグネシウム、亜鉛等他の材料の鋳造品にも本発明を適用することができる。
また、本実施の形態では、ダイカスト鋳造について説明したが、本発明は、ダイカスト鋳造以外の高温鋳造にも適用することができる。
本実施の形態では、図1に示すダイカストマシンがコールドチャンバーダイカストマシンである場合について説明したが、ダイカストマシンはホットチャンバーダイカストマシン等を用いてもよい。
本実施の形態の鋳造方法によれば、キャビティ10に溶融アルミニウムを充填する前に、キャビティ面22,32にフラーレンを付着させる。フラーレンは微小な分子性結晶であるので、これをキャビティ面22,32に付着させることによりキャビティ面22,32の微小な凹凸を埋めることができる。また、フラーレンは反応性が高く高温下で型表面と反応し得る分子である。また、フラーレン同士が反応し得る分子である。したがって、キャビティ面22,32にフラーレンを塗布しておけば、溶融アルミニウムをキャビティ10に充填させることで、キャビティ面22,32にキャビティ面22,32から剥離し難い強固な炭素被膜を形成することができる。
形成された炭素被膜によって凹凸が埋められた滑らかな面を持つキャビティ10に充填された溶融アルミニウムにより鋳造された鋳造品は、ダイカスト型1を開いた際の離型性に優れている。また、形成された炭素被膜は剥離し難いので、鋳造工程を実施する毎にフラーレンを付着させる必要がない。したがって、一度炭素被膜が形成されれば、離型性向上の持続的効果が望める。これにより、型費を上昇させることなく、鋳造品の離型性を向上させることができる。ひいては、鋳造品の生産性が向上する。
《実験結果》
本発明の効果を、実験結果に基づいて説明する。以下の実験1、実験2は、フラーレン混合物をダイカスト金型のキャビティ面に塗布してアルミニウムの鋳造品を製造する場合のものである。
[実験1]
実験1では、ダイカスト金型のキャビティ面にフラーレン混合物を塗布してアルミニウム鋳造品を製造する場合と、キャビティ面にグラファイトを塗布してアルミニウム鋳造品を製造する場合の鋳造品の離型性を検討した。
(実施例1)下記組成のフラーレン混合物を直径2mmの棒状(芯状)に成形し、シャープペンシル型のホルダーに入れたものを準備する。
組成;フラーレン(フロンティアカーボン社製) 42重量パーセント
(うち、C60は、上記フラーレン中の 58重量パーセント)
タルク 21重量パーセント
金属石鹸 14重量パーセント
天然ワックス 7重量パーセント
硝化綿 16重量パーセント
また、型材としてSKD61(高硬度鋼の材質名)を使用したダイカスト金型を準備する。そして、ダイカスト金型を350℃に加熱し、キャビティ面にフラーレン混合物を塗布する。このようにフラーレンの塗膜が形成されたダイカスト金型を用い、前述した実施の形態と同様の方法で、650℃にて溶融した溶融アルミニウムをキャビティに充填しアルミニウム鋳造品を鋳造する。
ダイカスト金型を開いてキャビティから鋳造品を取り出す際の離型抵抗を測定する。
鋳造品を取り出したら、この離型抵抗が急増するまで、繰り返し上記測定を行う。
(比較例1)実験例1と同様にダイカスト金型を350℃に加熱し、キャビティ面にグラファイトを塗布する。そして、実施例1と同様、アルミニウム鋳造品を鋳造する。
ダイカスト金型を開いてキャビティから鋳造品を取り出す際の離型抵抗を測定する。
鋳造品を取り出したら、この離型抵抗が急増するまで、繰り返し上記測定を行う。
[実験1の結果の考察]
この結果を図6に示す。図6は、横軸が鋳造回数(回)、縦軸が離型抵抗(kg)を示している。金型にフラーレン混合物を塗布した(実施例1)では、繰り返し鋳造を実施して、17回目の鋳造で離型抵抗が17kgとなり急増した。一方、金型にグラファイトを塗布した(比較例1)では、3回目で離型抵抗が17.6kgとなり急増している。
フラーレンは、グラファイトと比較して分子が小さいため、金型表面の微妙な凹凸に均一に埋め込まれている。また、フラーレンは、グラファイトと比較して反応性が高いため、ダイカスト金型表面と反応し、さらにはフラーレン同士で反応し、剥離し難い炭素被膜が形成されている。(グラファイトは、反応して炭素被膜を形成することはない。)したがって、1回塗布しただけで、繰り返し鋳造することができる回数が多い。
[実験2]
実験2では、ダイカスト金型のキャビティ面にフラーレン混合物を塗布して製造したアルミニウム鋳造品と、フラーレン混合物を塗布せずに製造したアルミニウム鋳造品の外観を比較する。
(実施例2) 実験1で用いたフラーレン混合物が予めキャビティ面に塗布してあるダイカスト金型を準備する。そして、液体離型剤をスプレー塗布する。135tダイカストマシンを低速モードに設定して3回鋳造を行う。これにより、ダイカスト金型が予熱される。ダイカストマシンを高速モードに設定し、鋳造を行ったところ、3回まで焼き付きが発生しなかった。
(実施例3) 実験1で用いたフラーレン混合物が予めキャビティ面に塗布してあるダイカスト金型を準備する。そして、液体離型剤をスプレー塗布する。135tダイカストマシンを低速モードに設定して1回鋳造を行う。これにより、ダイカスト金型が150℃程度に予熱される。フラーレン混合物を、再度ダイカスト金型のキャビティ面に塗布する。そして、低速モードに設定して10回鋳造を行った(試運転)後、高速モードに設定して鋳造を行ったところ、7回まで焼き付きが発生しなかった。この7回目に鋳造した鋳造品の外観を図7に示す。
(比較例2) フラーレン混合物がキャビティ面に塗布されていないダイカスト金型を準備する。ダイカスト金型のキャビティ面に液体離型剤をスプレー塗布する。135tダイカストマシンを低速モードに設定し、3回鋳造を行い、金型を予熱してから、ダイカストマシンを高速モードに設定して鋳造を行った。これにより、図8に示すように、1回目で焼き付き部Bが発生した。この鋳造品の外観を図8に示す。
[実験2の結果の考察]
フラーレン混合物を塗布してキャビティ表面に炭素被膜を形成することにより、鋳造品の離型性が向上する。また、キャビティ表面にフラーレン混合物が塗布されている金型を予熱して、そのまま鋳造品を成形する場合(実施例2)と、金型を予熱して、さらにフラーレン混合物をキャビティ表面に塗布した後、鋳造品を成形する場合(実施例3)とを比較すると、実施例3の場合の方が剥離し難い強固な炭素被膜が形成され、耐久性がある。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
本実施の形態の鋳造方法で用いるダイカスト鋳造金型1の断面図を示す。 ダイカスト鋳造金型1の断面図を示す。 フラーレンのうち、真球に近い結晶構造を有するC60を示す。 フラーレン同士及びフラーレンとキャビティ面22,32が反応して、ダイカスト金型1に炭素被膜が形成されている様子を示す。 キャビティ面22,32の凹凸が炭素被膜により滑らかになっている様子を示す。 実験1の結果をグラフで示す。 実験2の結果を示す鋳造品の外観である。 実験2の結果を示す鋳造品の外観である。
符号の説明
1 ダイカスト金型
10 キャビティ
20 固定型
21 固定型取り付け部材
22 キャビティ面
30 可動型
31 可動型取り付け部材
32 キャビティ面
40 射出スリーブ
41 投入口
42 内空部
43 プランジャ

Claims (6)

  1. 鋳造型の第1型に設けられているキャビティ面と、第2型に設けられているキャビティ面にフラーレンを付着させる工程と、
    第1型と第2型を閉じてキャビティを確保する型閉じ工程と、
    キャビティに溶融金属を充填する工程と、
    型を開けて型から鋳造品を取りだす工程を備えており、
    前記型閉じ工程の開始タイミング以前に、前記フラーレンを付着させる工程を実施することを特徴とする鋳造方法。
  2. 前記フラーレンを付着させる工程の後に、キャビティ面に離型剤を塗布する工程を実施し、その後型閉じ工程を実施することを特徴とする請求項1の鋳造方法。
  3. 前記キャビティ面にフラーレンを付着させる工程の前に、鋳造型を加熱する工程を備えていることを特徴とする請求項1又は2の鋳造方法。
  4. 鋳造型の加熱温度は、150℃以上であることを特徴とする請求項3の鋳造方法。
  5. キャビティ面に付着するフラーレンは、C60の含有率が50重量%以上であることを特徴とする請求項1〜4の鋳造方法。
  6. 第1型と第2型を有する鋳造型を製造する方法であって、
    第1型及び第2型は、第1型及び第2型を閉じた場合に確保されるキャビティの内周面となるキャビティ面を有し、
    各キャビティ面にフラーレンを付着させる工程を有することを特徴とする鋳造型の製造方法。
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