特許文献1〜3によれば、半導体ウェハ上の微小空間の内部に隙間なく溶融金属を充填するためには、強制外力を充填金属に加えることが有益であることが理解される。これは、充填しようとする溶融金属はその表面張力のために、微小空間の内部から外部へと出ようとする性質があるからである。
しかしながら、例えば、強制外力としてプレス圧を用いることを考えたとしても、いかなる素材のプレス部材を用いて、溶融金属にプレス圧を加えるかによって、被処理物上の微小空間の内部に溶融金属を充填したときの金属充填状態は大きく異なってくる。
例えば、表面粗さの大きい素材をプレス部材に用いて、溶融金属をプレスする場合には、プレスされた溶融金属が、被処理物側だけでなく、プレス部材側の表面にも固着するので、その状態で溶融金属が硬化すると、硬化した金属がプレス部材と接着された状態となってしまい、プレス部材を被処理物から引き離した(型開きした)途端に、被処理物の微小空間の内部に充填された金属が抜けたり、欠けたりして、充填不良を起こすという問題を生じる。
最悪の場合、プレス部材と被充填物との双方に固着した充填金属によって、両者が固く接着してしまい、接着したプレス部材を被充填物から引き離そうとすると、その力で被充填物(例えば半導体ウェハ)が割れてしまうような事態が生じる。
また、プレス部材は、融点以上の温度の溶融金属と接触し、この溶融金属に、重さにして例えば数トンの力でプレス力を加える部材であるから、高温金属と接触しても容易には劣化せず、高い耐久性を備える素材からなることが実用上求められる。
本願発明者は、鋭意研究の末、上記の問題点を独自に見出し、充填不良や被充填物の割れを生じないようにするためには、いかなる素材で溶融金属にプレス圧を加えればよいのか、各種の素材を用いて試行のうえ、本願発明を完成した。
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、充填不良や被処理物の割れ(例えばウェハ割れ)を生じずに、被処理物上に開口するように形成された微小空間の内部に溶融金属を的確に充填することのできる金属充填装置を提供することを目的としている。
本発明に係る金属充填装置は、上記の課題を解決するために、被処理物表面の、該表面に開口するように形成された微小空間内に、該被処理物上に供給した溶融金属を充填する金属充填装置に関する。
本発明に係る金属充填装置は、上記の課題を解決するために、前記被処理物を保持する保持部と、内部空間を有し、一端が前記保持部と対向して設けられる筒状部材と、前記筒状部材の内部空間内に進退自在に嵌入された押付部材と、前記保持部に保持される被処理物又は前記保持部と、前記筒状部材及び前記押付部材とによって気密状に形成される処理室内を減圧する減圧機構と、前記処理室内に溶融金属を供給する溶融金属供給機構と、前記処理室内に供給される溶融金属を加圧する加圧機構とを備えるとともに、前記押付部材は、少なくとも、その前記被処理物に対向する側が金属から構成されているものである。
この金属充填装置によれば、まず、表面に微小空間が形成された被処理物を、その表面が押付部材と対向するように保持部に配置する。筒状部材の一端は保持部に保持された被処理物又は保持部に当接されており、被処理物又は保持部と、筒状部材及び押付部材とによって囲まれた気密状の処理室が形成されている。尚、被処理物の比重よりも溶融金属の比重の方が大きい場合には、前記筒状部材の一端を被処理物に当接させた状態で、被処理物、筒状部材及び押付部材により処理室を形成することで、当該処理室内に溶融金属を供給した際に、被処理物が保持部上から浮き上がるのを防止することができる。
ついで、減圧機構によって処理室内の気体を排気して、処理室内を減圧する。処理室内の減圧によって、被処理物に形成された微小空間の内部も減圧される。しかる後、溶融金属供給機構によって、処理室内(被処理物と押付部材との間)に溶融金属を供給する。尚、溶融金属と被処理物との濡れ性(親和性)が良い場合には、この段階で、供給された溶融金属が自重及び界面張力によって前記微小空間の内部に充填されるが、溶融金属と被処理物との濡れ性が極めて悪い場合には、微小空間の内部を減圧状態としただけでは、溶融金属は被処理物の表面で弾かれて前記微小空間の内部に充填されない。
ついで、上記金属充填装置においては、加圧機構の働きよって当該処理室内に供給された溶融金属を加圧して、微小空間内に溶融金属を押し込む。例えば、処理室内を溶融金属で完全に満たした後、押付部材を被処理物に向けて移動させ、処理室内に供給された溶融金属を押付部材によって加圧することで、被処理物上の微小空間内に溶融金属が押し込まれる。したがって、溶融金属と被処理物との濡れ性が悪い場合であっても、微小空間内に溶融金属を充填することができ、また、処理室内を減圧した後に当該処理室内に溶融金属を供給するようにしているため、ボイドの発生が低減される。尚、処理室内を溶融金属で完全に満たすようにしているため、被処理物上で溶融金属が弾かれることがなく、当該被処理物上に溶融金属が均一に広がる。また、この場合、微小空間内に入りきらない溶融金属は、被処理物と押付部材との間から溶融金属供給機構に押し戻される。
このように、上記金属充填装置においては、処理室内を減圧した後、当該処理室内に溶融金属を供給して、更に、押付部材を被処理物の方へ移動するようにしている。これにより、処理室の容積が絞られる、言い換えれば、被処理物と押付部材との間の隙間が狭められるため、被処理物上の余剰溶融金属を当該被処理物と押付部材との間から外部に押し出すことができる。したがって、被処理物上に余剰金属からなる層が形成するのを防止することができる。
また、押付部材の移動によって、処理室内の容積を可変とした構成なので、押付部材の移動量次第で、処理室内の容積を限りなく極小とすることができ、この結果、押付部材によって、被処理物上の余剰金属の殆どを当該被処理物上から押し退け、前記被処理物上に残る残渣を最小限に絞ることが可能となる。尚、本明細書において、残渣とは、被処理物上で微小空間の内部に入りきらなかった余剰金属が被処理物上で硬化してできる層状の不要金属部分のことをいうが、当該金属部分は、全ての場合において不要という訳ではなく、配線層やコンタクト層として用いることができる場合もある。
押付部材の金属表面は、表面粗さが極めて小さく、溶融金属が固着せず簡単に剥離できるので、被処理物への溶融金属の充填が完了し、金属が硬化した後においても、押付部材と被処理物とは、硬化金属によって接着したような状態とはならない。したがって、充填処理後に、押付部材を被処理物から引き離したとしても、被処理物表面の微小空間の内部に充填された金属は当該微小空間の内部に止まるので、充填金属の引き抜きや欠けの問題は生じ難い上、押付部材を被処理物から引き離す際の力によって被処理物(例えば半導体ウェハ)を割るような事態は生じない。
押付部材の金属表面は固く、耐久性、耐熱性に優れているので、金属充填処理を繰り返して実施する場合であっても、ほとんど劣化することがない。したがって、頻繁なメンテナンスを必要としないうえ、押付部材の表面を清掃する場合であっても、当該表面を不用意に傷つける心配なしにブラシ等を用いた簡便な清掃手段を採用することができる。
また、上記の構成において、前記保持部に保持される被処理物に対して前記押付部材を進退させる押付機構を備えることが好ましい。
上記の構成によれば、各種のシリンダやモータ等からなる押付機構によって、前記押付部材を被処理物に対して近づけたり遠ざけたりするように進退させることができる。したがって、前記押付機構の駆動制御によって、保持部に保持される被処理物に対して前記押付部材を自在に移動させることが可能となる。
また、上記の構成において、前記保持部及び筒状部材のうち少なくとも一方を、他方に対し接近、離反する方向に移動させる移動機構を備えることが好ましい。
上記の構成によれば、移動機構の働きによって、保持部と筒状部材との少なくとも一方を他方に対し接近、離反する方向に移動させることができる。それゆえ、保持部と筒状部材の一端とを密着させて密閉構造を実現したり、これらを離反させて保持部と筒状部材の一端との間を開放し、この開放された空間から被処理物等を容易に出し入れしたりすることが可能となる。
また、上記の構成において、前記溶融金属供給機構によって供給された溶融金属を前記押付部材と被処理物表面との間に閉じ込める溶融金属封止部を、前記押付部材に設けることが好ましい。
上記の構成によれば、溶融金属封止部の働きにより、溶融金属が押付部材によって押されたときには、溶融金属を押付部材と被処理物表面との間に閉じ込めることができるので、押付部材を移動したときに溶融金属封止部内の溶融金属に高い圧力をかけることが可能となる。したがって、押付部材による圧力が効果的に溶融金属に加えられる。とりわけ、溶融金属封止部を弾性体で構成すれば、押付部材を移動したときに溶融金属封止部が潰れるように変形するので、被処理物の処理面全体に高い圧力をかけることが可能となる。それゆえ、溶融金属を被処理物上に形成された微小空間内に隙間なく充填することができる。
また、上記の加圧機構は、処理室内に加圧気体を供給する加圧気体供給機構であってもよい。このようにすれば、溶融金属を供給した処理室内に加圧気体を供給することによって、当該処理室内に供給した溶融金属を気体により加圧することができ、所謂差圧充填によって溶融金属を微小空間内に充填することができる。更に、溶融金属を気体により加圧することによって、被処理物上で溶融金属が弾かれるのを防止することができる。
また、上記の構成において、押付部材の表面は、鏡面仕上げとされていることが好ましい。溶融金属と接し、前記金属によって構成される押付部材の表面を、研磨やラッピング研磨、電解研磨によって鏡面仕上げし、その表面粗さを小さくしておくことによって、押付部材に対する溶融金属の充填や固着を更に抑制することができる。それゆえ、溶融金属の充填硬化後に、押付部材を被処理物から引き離したときに生じる充填金属の抜けや欠け(溶融金属の充填不良)や被処理物の割れ(例えばウェハ割れ)などを効果的に抑制することが可能になる。
更に、前記押付部材の前記金属によって構成される表面は、その表面粗さが0.3μm以下であることが好ましい。
このようにすれば、押付部材の金属表面を滑らかなものとして溶融金属が固着することを的確に防ぐことができるうえ、硬化した溶融金属を押付部材の金属表面から容易に剥離し、上記の充填不良や被処理物の割れ(例えばウェハ割れ)などを効果的に回避することが可能となる。
また、上記の構成において、前記押付部材の前記金属によって構成される表面は、離型処理が施されていることも好ましい。
例えば、前記押付部材の前記金属によって構成される表面に、例えば、DLC(Diamond Like Carbon)皮膜処理のような離型処理を施すことにより、高い圧力をかけて押付部材を溶融金属及び被処理物の方に移動したとしても、冷却硬化した溶融金属を押付部材の金属表面から容易に剥離することができる。それゆえ、押付部材の表面を硬化した溶融金属や被処理物から引き離すときに、押付部材と溶融金属とが固着することにより生じる、充填金属の引き抜きや欠け、被処理物の割れ(例えばウェハ割れ)などを防止することができる。
尚、本発明において、被処理物上に形成された微小空間(孔)の大きさは、典型的にはその直径が0.1μm〜数十μmのものを想定している。溶融金属が入り込むものであれば、その形成方法やアスペクト比などの形態は問わず、貫通孔であるか否かも問わない。また、孔の形状も限定されず、直線状、曲線状、クランク状など任意の形状であってよく、分岐の有無も問わない。非貫通孔であれば、その深さは、被処理物の厚さに応じて例えば数百μm以下の任意のものとすることができる。
本発明に係る金属充填装置によれば、充填不良や被処理物の割れを回避して、被処理物上に形成された微小空間の内部に溶融金属を的確に充填することができる。
以下、本発明の具体的な実施形態について、添付図面に基づき説明する。
〔1.金属充填装置の構成〕
図1に示すように、本実施例の金属充填装置1は、半導体ウェハK(被処理物)表面に開口するように形成された微小空間の内部に溶融金属を充填する金属充填装置であって、半導体ウェハKを保持する保持台Hが、筒状のハウジングC(筒状部材)の下端を気密状に閉じており、更に、ハウジングCと気密状に嵌合し、且つハウジングCの中心軸方向に進退可能なピストンPを備えており、ハウジングC,ピストンP及び保持台Hによって囲まれた処理室2を備えている。
金属充填装置1は、処理室2内の気体を排気して処理室2内を減圧する減圧機構3と、処理室2内に溶融金属Mを供給する溶融金属供給機構4と、処理室2内に不活性ガスを供給する加圧ガス供給機構7と、処理室2内に供給された溶融金属を回収する溶融金属回収機構8と、昇降機構16,押付機構5,減圧機構3,溶融金属供給機構4,加圧ガス供給機構7及び溶融金属回収機構8の作動を制御する制御装置15とを備えている。
保持台Hは、昇降機構16によって昇降するようになっており、この保持台HをハウジングCに向けて上昇させ、保持台Hの上面をハウジングCの下端面に当接させることにより、気密状の処理室2が形成される。昇降機構16は、トルクモータなどから構成されており、制御装置15によってその作動が制御される。
押付機構5は、所謂油圧シリンダ機構であって、ピストンPを進退させる駆動力を与える機構であり、ピストンPの押付部6を所定の押圧力で半導体ウェハKに押し付けることができる。尚、図示していないが、この押付機構5は、図中上側の部屋及び図中下側の部屋に圧油を供給する配管がそれぞれ接続され、当該各配管にはその作動が前記制御装置15によって制御される切換弁が設けられており、前記ピストンPは、前記上側の部屋に圧油が供給されると下側に移動し、前記下側の部屋に圧油が供給されると上側に移動する。
ピストンPの保持台Hに対向する側には、耐熱性を有するステンレス440C(またはステンレス304)で構成された押付部6が設けられており、ピストンPの押付部6を所定の押圧力で半導体ウェハKの方へ移動することができるようになっている。ステンレスは、高温環境下で使用しても表面状態が安定しており、十分な硬さを有している点において、押付部6の素材として優れている。
ピストンPは、ハウジングCの上側開口部から嵌挿され、押付機構5によって軸線方向に進退するようになっている。ピストンPの外周面とハウジングCの内周面との間には、Oリング13が介装されており、両者の間がこのOリング13によってシールされている。また、ピストンPのフランジ部とハウジングCの上端面との間には、ベローズシール17が設けられており、当該ベローズシール17によって、ピストンPとハウジングCとの間の気密性を更に高めている。
押付部6の表面のうち、少なくとも溶融金属Mと接する領域は、電解研磨されて鏡面加工が施されている。鏡面加工処理の結果、試作した金属充填装置1において、押付部6の表面粗さは、十点平均粗さ(Rz)で0.3μm以下、最大高さ(Ry)で0.5μm以下、凹凸平均距離(Sm)で10μm以上となっている。このように、押付部6の表面粗さ(十点平均粗さ)を、0.3μm以下として、押付部6の金属表面を滑らかなものとしておけば、溶融金属Mが押付部6側に固着することを防ぐことができるので、押付部6を半導体ウェハKから引き離すときにも、冷却硬化した溶融金属Mは押付部6の金属表面から容易に剥離され、充填不良や半導体ウェハKの割れなどを効果的に回避することが可能となる。
尚、本願で表面粗さというときは、JIS規格の十点平均粗さのことを指す。
押付部6の表面には、DLC皮膜処理(離型処理)が施されており、強い力で押付部6を溶融金属に押し付けたとしても、硬化した充填用金属は容易に押付部6から剥離されるようになっている。
離型処理としては、DLC処理の他、CrNコーティング処理、TiNコーティング処理、サーフ処理などを好適に用いることができる。試作した金属充填装置1の押付部6においては、上述の鏡面加工処理ないし離型処理を施した状態で、そのマイクロビッカース硬さ(Hv)は1200より大きかった。
金属製の押付部6は、加熱加圧による変形も比較的少ないので、その表面に施したコーティング処理が落ちにくく、コーティング処理の効果を長寿命化することができる。
減圧機構3は、ハウジングCの上端側の側壁を貫通して設けられた配管11によって処理室2と接続された真空ポンプ3aと、真空ポンプ3aと処理室2との間の配管11に設けられた制御弁3bとからなり、真空ポンプ3aによって処理室2内の空気を排気して処理室2内を減圧する機構である。真空ポンプ3aの作動及び制御弁3bの開閉は、制御装置15によって制御される。
また、溶融金属供給機構4は、ハウジングCの下端側の側壁を貫通して設けられた配管9によって処理室2と接続された溶融金属供給部4aと、溶融金属供給部4aと処理室2との間の配管9に設けられた制御弁4bとからなり、溶融金属供給部4aから処理室2内に溶融金属Mを所定の供給圧で供給する機構であり、制御弁4bはその開閉が制御装置15によって制御される。
溶融金属供給部4aには、金属充填に用いられる溶融金属Mが融点より高い温度で熱せられており、液体状でストックされている。本実施例において、金属充填に用いられる溶融金属Mは、融点約200℃の鉛フリー半田である。半田のように比較的融点の低い金属は取り扱いが容易である点において優れているが、本発明における溶融金属Mの種類は、半田に限定されるものではなく、微小空間を埋める目的やその機能に応じて、Au,Ag,Cu,Pt,Pd,Ir,Al,Ni,Sn,In,Bi,Znやこれらの合金など任意の金属を採用することができる。
また、加圧ガス供給機構7は、配管10によって配管11及び配管9と接続された加圧ガス供給部7aと、配管11と加圧ガス供給部7aとの間の配管10に設けられた制御弁7bと、配管9と加圧ガス供給部7aとの間に設けられた制御弁7cとからなり、配管9、配管10及び配管11を介して、加圧ガス供給部7aから処理室2内に不活性ガスを供給する機構である。加圧ガス供給部7aの作動及び2つの制御弁7b,7cの開閉は、制御装置15によって制御される。
溶融金属回収機構8は、ハウジングCの下端側の側壁を貫通して設けられた配管12によって処理室2と接続された溶融金属回収部8aと、溶融金属回収部8aと処理室2との間の配管12に設けられた制御弁8bとからなり、処理室2内の溶融金属を回収する機構であって、制御弁8bは、その開閉が制御装置15により制御される。尚、溶融金属回収部8aとしては、回収タンクと、この回収タンクに接続された排気装置とからなる構成を例示することができる。
〔2.金属充填の手順〕
次に、図2乃至図8を用いて、本実施例の金属充填装置1における金属充填の手順を説明する。
まず、制御装置15によって昇降機構16の作動を制御し、保持台Hを下降させることにより、保持台Hの上面をハウジングCの下端面から離反させた後、表面上に微小空間が形成された半導体ウェハKを、その表面を上にした状態で保持台H上に載置する。ついで、制御装置15によって昇降機構16の作動を制御し、保持台HをハウジングCに向けて上昇させ、保持台Hの上面をハウジングCの下端面に当接させることにより処理室2を形成する。尚、この際、前記ハウジングCの下端面を半導体ウェハKの表面に当接させ、半導体ウェハKを保持台H上に押さえ付けるようにしている。
しかる後、図2に示すように、制御装置15による制御の下、真空ポンプ3aを作動させるとともに、配管11の制御弁3bを開いて、処理室2内の気体を排気し、処理室2内及び微小空間内を略真空状態にまで減圧する。
次に、図3に示すように、真空ポンプ3aによる減圧を続け、処理室2内を略真空状態に保ったままの状態で、制御装置15によって配管9の制御弁4bを開き、溶融金属供給部4aから融点以上に熱した液体状の溶融金属Mを、半導体ウェハKの表面で弾かれることなく当該半導体ウェハKの全面を覆える量に達するまで、処理室2の内部に供給していく。尚、金属充填装置1においては、配管11をハウジングCの上端側に貫通して設けた、即ち、配管11を、供給される溶融金属の液面より十分上方に設けたことにより、真空ポンプ3aによる減圧を続けた状態で、溶融金属Mを供給することが可能となっているが、真空ポンプ3a内に溶融金属Mが吸引されてしまうことがないように、適切なタイミングで溶融金属Mの供給を停止するのが好ましい。また、上述したように、半導体ウェハKを保持台H上に押さえ付けるようにすることで、例えば、シリコン(比重:約2.5)からなる半導体ウェハ上に半田(比重:約9.0)を供給したとしても、半導体ウェハが保持台上から浮き上がらないようにしている。
また、後述のプレス工程に入る前に溶融金属Mが冷却固化することは好ましくないので、この段階では、処理室2の内部は、溶融金属Mの融点以上の温度に保っておき、溶融金属Mが液体のままであるようにしておく必要がある。
十分な量の溶融金属Mを処理室2の内部に供給したならば、図4に示すように、制御装置15によって配管9の制御弁4bを閉じ、ついで、制御装置15による制御の下、押付機構5を作動させて、処理室2内のピストンPを、半導体ウェハKに対してゆっくりと進めて近づけていき、押付部6の表面を処理室2の内部に供給された溶融金属M中に沈める。このように、処理室2内が略真空状態のまま、押付部6の表面を溶融金属M中に沈めることにより、押付部6と溶融金属Mとの間に気層ができることを回避することができる。
次に、図5に示すように、押付部6の表面を溶融金属M中に沈めたままの状態で、制御装置15により配管11の制御弁3bを閉じるとともに、真空ポンプ3aの作動を停止して減圧を中止する一方、制御装置15の制御の下、配管10の制御弁7bを開くとともに、加圧ガス供給部7aを作動させ、当該加圧ガス供給部7aから加圧用の窒素ガス等を処理室2内に供給し、ガス加圧によって、溶融金属Mを半導体ウェハKの表面に押し付ける。このガス加圧により、溶融金属Mと半導体ウェハKとの濡れ性が悪くとも、所謂差圧充填によって半導体ウェハKの微小空間内に金属を充填することが可能である。
次に、図6に示すように、制御装置15によって押付機構5を作動させて、ピストンPを半導体ウェハKに向けて更に移動させ、押付部6を半導体ウェハKの表面の方へ移動する。これにより、押付部6と半導体ウェハKとの間の余剰溶融金属が、半導体ウェハK上からハウジングCの内周面とピストンPの外周面との間の隙間に押し出されるため、処理後の半導体ウェハK表面に形成される残渣の量が減少する。
金属充填装置1においては、押付部6が溶融金属Mの液中に移動された分、その分の溶融金属Mは、ハウジングCの内周面とピストンPの外周面との間の隙間へ移動するため、溶融金属Mの液面が上昇していく。この結果、半導体ウェハKは、溶融金属Mの液面から深い位置で溶融金属Mに浸漬される状態となるので、押付部6と半導体ウェハKとが接触し、溶融金属Mと半導体ウェハK及び押付部6との濡れ性の悪さによって、半導体ウェハK面で溶融金属Mが弾かれる力が強くなる状況になったとしても、半導体ウェハK面で溶融金属Mが膜切れし難い。これに対して、例えば、前記特許文献1のような構成では、プレス圧を加えたとしても、溶融金属が半導体ウェハ上から押し退けられて膜切れしてしまうので、的確な金属充填を実現することはできない。
上記押し付け工程においても、加圧ガス供給部7aによるガス加圧は継続しておくことが好ましい。これにより、充填する力が維持されるとともに、上述した膜切れを効果的に防ぐことができる。
次に、図7に示すように、押付部6を半導体ウェハKの表面に押し付けた状態で、制御装置15によって配管10の制御弁7cを開くとともに、配管12の制御弁8bを開いて、半導体ウェハKの微小空間に充填しきれない余剰の溶融金属Mを溶融金属回収部8aへと回収する。このとき、余剰な溶融金属Mを回収しなければ、後述の冷却後、余剰溶融金属MがハウジングCと押付部6との隙間で硬化してピストンPの昇降動作を妨げる、或いは、半導体ウェハKと処理室2の壁面とが固着するなどの問題が生じる。ただし、押付部6と半導体ウェハKとの間にガスが入ると充填不良が発生するので、余剰金属を全て排出することはせず、押付部6の側壁とハウジングCの内壁の隙間には溶融金属Mを残した状態としておく。この隙間に溶融金属Mを残す分量は、半導体ウェハK及び押付部6と溶融金属Mとの濡れ性、隙間の大きさにもよるが、高さにして数mm程度分残しておくことが好ましい。
そして、余剰な溶融金属Mを回収した後、制御装置15による制御の下、配管10の2つの制御弁7b,7cを閉じて加圧用ガスの供給を停止するとともに、配管12の制御弁8bを閉じる。しかる後、処理室2の内部の加熱ないし保温を止め、溶融金属Mの温度が融点以下となるまで冷却し、半導体ウェハKの微小空間に充填された溶融金属が冷却硬化するまで待機する。
次に、図8に示すように、制御装置15による制御の下、押付機構5を作動させてピストンPをゆっくり上昇させ、更に、昇降機構16を作動させて、保持台Hを下降させることにより、処理室2を解放する。そして、金属充填処理を終えた半導体ウェハKを保持台Hから取り出して、これから金属充填処理を行う新たな半導体ウェハKと入れ替える。複数枚の半導体ウェハKに金属充填を行う場合には、図2乃至図8に示した手順を適宜繰り返せばよい。
以上の説明では、保持台HがハウジングCの一端を気密状に閉じるような構成としたが、保持台H自体ではなく、保持台H上に保持される半導体ウェハKがハウジングCの一端を気密状に閉じるような装置設計としてもよい。
〔3.溶融金属封止部の形態〕
次に、好ましい実施態様として、上記の構成において、溶融金属供給機構4によって供給された溶融金属Mを、押付部6と半導体ウェハKとの間に閉じ込める溶融金属封止部を設ける構成について説明する。
溶融金属封止部を設ける第一の態様として、図9(a)に示すように、押付部6の下面に、円形の半導体ウェハKの外周に沿うように、弾性体からなるリング形状をした封止部20(溶融金属封止部)を設ける態様がある。同図においては、斜線を付した肉厚部の構成は省略してある(図10〜図13も同様である)。
本構成によれば、押付部6を半導体ウェハKに接近させていったとき(図6参照)、余剰溶融金属Mを外部へと逃がして半導体ウェハK上で残渣となる余剰溶融金属Mの量を十分に減らすことができる。即ち、封止部20が半導体ウェハKと接触するまでは、封止部20の内側領域の溶融金属Mは、当該領域の外部へと逃げられるのに対し、封止部20が半導体ウェハKに更に近づいて、半導体ウェハKの表面と面接触(当接)すると、溶融金属Mは封止部20の内側領域に閉じ込められる(図9(b)参照)。
封止部20、とりわけ弾性体からなる封止部20を設けることにより、良好な封止性が得られる。そして、押付部6の移動によって封止部20が変形し、封止領域が狭められるので、当該封止領域内の溶融金属Mに押付機構5の推力を用いて効率良く高い圧力をかけることができ、溶融金属Mを半導体ウェハK表面の微小空間の内部に隙間なく充填することができる。
ガス加圧と封止部20を備えた押付部6による加圧とを二段階で行うことによって、溶融金属Mと半導体ウェハKとの濡れ性が悪くとも、金属充填を実現することが可能である。具体的には、まずガス加圧を行い、そして、封止部20を備えた押付部6の移動によって、封止部20より内側にある半導体ウェハKの処理面上全体の溶融金属Mに高い圧力をかけて充填処理ができる。このような方法を採用すれば、処理室の圧力容器性能を極端に高いものとしなくとも、ガス加圧と押付加圧との二段階加圧によって効果的な金属充填を実現することができる。
更に、封止部20を備えた押付部6を用いれば、続く余剰金属排出工程において、封止範囲外の余剰溶融金属M’をガスブローや液体リンスなどを用いて排出したとしても、封止範囲内にある微小空間の金属充填性には影響が及ばないため、より効果的な余剰金属排出手段を用いることができる。即ち、本実施形態では、封止部20が存在するので、前実施形態とは異なり、余剰溶融金属M’を全て排出したとしても、押付部6と半導体ウェハKとの間にガスが入って充填不良が発生することはないので、封止範囲外の領域を清浄に保つことが可能となる。
また、溶融金属封止部を設ける第二の態様としては、図10(a)に示すように、押付部6の下面において、半導体ウェハKの外側の保持台Hと対向する位置に、円形の半導体ウェハKと同心円状の弾性体からなる封止部21(溶融金属封止部)を設ける態様がある。
本構成によれば、封止部21は半導体ウェハKの外部に設けられるので、封止部21は半導体ウェハKに接触することはなく、半導体ウェハKの全面において溶融金属Mの充填処理を行うことが可能となる〔図10(b)参照〕。
以上の溶融金属封止部を形成する素材は、ある程度の弾力性と耐熱性などを備え、封止に適した素材であれば特に限定されないが、封止前の溶融金属Mが外部に逃げやすい素材や構造を採用することにより、封止される溶融金属Mの分量を必要最小限のものとして、半導体ウェハK上の残渣を薄くすることができる。
次に、溶融金属封止部を設ける第三の形態として、図11(a)に示すように、押付部6の、溶融金属Mと接する面と逆側に弾性体層22(溶融金属封止部)を積層しておく形態がある。この場合、押付機構によって、ピストンPを半導体ウェハKに向けて移動させ、押付部6を溶融金属M及び半導体ウェハKに対して接近させていくと、同図(b)に示すように、弾性体層22が加圧方向と垂直な平面状に広がり、この広がった弾性体層22が、ハウジングCと当接することにより、溶融金属Mが、弾性体層22で封止された空間内部に閉じ込められる。このような構成によれば、事前にガス加圧されていた溶融金属Mの圧力を保つように封止がなされる。
上記の構成によれば、半導体ウェハK表面と押付部6表面との平行度が悪い場合にも、弾性体層22の変形によって半導体ウェハK表面と押付部6表面とを効率よく密着させることができる。更に、押付部6の金属部を変形しやすい薄板にすることで、半導体ウェハK表面の平坦度が悪い場合にも、弾性体層22及び金属薄板の変形によって半導体ウェハK表面と押付部6表面とを効率よく密着させて、保圧冷却し、溶融金属Mを硬化できるので、これらの密着効果によって半導体ウェハK上の残渣をより薄くすることができる。
次に、溶融金属封止部を設ける第四の態様として、図12(a)に示すように、押付部6の、半導体ウェハKと接する面と逆側に弾性体層23(溶融金属封止部)を積層しておき、更に、押付部6の下面に、円形の半導体ウェハKの外周に沿うように、弾性体からなるリング形状をした封止部24(溶融金属封止部)を設ける態様がある。この場合、押付機構5によって、ピストンPを半導体ウェハKに向けて移動させ、押付部6を溶融金属M及び半導体ウェハKに対して接近させ、封止部24を半導体ウェハKに当接させると、同図(b)に示すように、封止部24が取り囲む領域内に溶融金属Mが封止される。この態様によれば、前記第三の態様と比較して、実効的な封止範囲を半導体ウェハKの領域に狭めることにより、封止部24が取り囲む領域外の溶融金属M’を溶融金属回収機構により適宜回収することで、余計な隙間に残留する残留金属の分量を低減することができる。
次に、溶融金属封止部を設ける第五の形態として、図13(a)に示すように、ピストンPのうち、押付部6の、溶融金属Mと接する面の外側領域から前記面と逆側にかけて、弾性体層25(溶融金属封止部)を積層しておく形態がある。押付部6の周囲の弾性体層25は、押付部6より僅かに下方に突き出た構造となっている。この場合、押付機構によって、ピストンPを半導体ウェハKに向けて移動させ、押付部6を溶融金属M及び半導体ウェハKに対して接近させて、弾性体層25を半導体ウェハKに当接させると、同図(b)に示すように、弾性体層25の当接領域内に溶融金属Mが封止される。尚、図11に示した形態とは異なり、ハウジングCとの間の隙間の溶融金属M’までは封止されない。
以上のように、各種の溶融金属封止部を設けることにより、溶融金属Mを押付部6と半導体ウェハKとの間に閉じ込め、半導体ウェハK上の広領域において封止性を高めることができるので、溶融金属Mに適切な高圧力をかけて、当該溶融金属Mを半導体ウェハKの微小空間内に押し込むことができる。また、半導体ウェハK上に生じる残渣を低減することができるとともに、溶融金属Mを半導体ウェハK上にのみ閉じ込める態様を採用した場合には、溶融金属封止部が取り囲む領域外の溶融金属M’を溶融金属回収機構によって回収することで、処理室内に残る余剰溶融金属を低減することが可能となる。
これにより、微小空間内に溶融金属を隙間なく押し込み、充填時におけるボイドの発生を回避し、高精度の金属充填を実現することが可能となる。
最後に、本発明により、金属充填が良好に行われた状態を図示しておく。図14(a)は、溶融金属Mを充填する前の半導体ウェハK上の微小空間Vを示す断面図であり、図中下部分が半導体ウェハKである。同図(a)において、半導体ウェハKの表面には無数の微小空間Vが規則正しく配置されている。図14(b)は、本発明により、半導体ウェハK上の微小空間Vに良好に溶融金属Mが充填され、半導体ウェハK上の残渣を除去した状態を示す断面図である。同図(b)では、微小空間Vに隙間なく溶融金属Mが充填されている様子がわかる。
これに対して、図14(c)は、比較例として、溶融金属Mの充填不良を生じた微小空間V1〜V4を示す断面図である。同図(c)において、微小空間V1,V2では、底部側に溶融金属Mが充填されているもののその分量が十分でないので、微小空間を完全に充填できていない。また、微小空間V3,V4では、底部側まで溶融金属Mが到達しておらず、充填不良となっている様子がみてとれる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は何らこれに限定されるものではない。
例えば、上例においては、押付部6を半導体ウェハKに近づける構成を採用したが、これに限られるものではなく、半導体ウェハK(保持台H)の方を、押付部6の方へ近づける構成を採用してもよい。
更に、上例では、溶融金属Mの供給後に、ピストンPを半導体ウェハKに向けて移動させ、溶融金属Mの液面に押付部6を近づけていき、押付部6を溶融金属M中に沈めた状態にする方法を説明したが、液面に押付部6を近づけていくのではなく、押付部6の表面が溶融金属Mに浸されるまで当該溶融金属Mを供給していくことで、押付部6を溶融金属M中に沈めた状態にするようにしてもよい。
また、押付部6による押付方向は、鉛直上方向から下方向に押し付ける形態に限られず、装置の構成により、鉛直下方向から上方向に押し付ける、或いは、水平横方向に押し付けるようにしても良い。また、金属充填装置の向きは、図1に示した向きに限られるものではなく、図1の向きを横転させた向きであっても良いし、天地を反転させた向きであっても良い。
また、押付部6の移動は、必ずしも押付機構5の制御動作によらなくても、例えば人力等で半導体ウェハKに対して近づけられるものとしてもよい。