本発明は蓄熱材を内包したマイクロカプセルに関するものであり、具体的には蓄熱材の融点及び/又は凝固点付近で極めて温度緩衝性に優れるマイクロカプセルに関するものである。
近年、熱エネルギーを有効に利用することにより、省エネルギー化を図ることが求められている。その有効な方法として、物質の相変化に伴う潜熱を利用して蓄熱を行う方法が考えられてきた。相変化を伴わない顕熱のみを利用する方法に比べ、融点を含む狭い温度域に大量の熱エネルギーを高密度に貯蔵できるため、蓄熱材容量の縮小化がなされるだけでなく、蓄熱量が大きい割に大きな温度差が生じないため熱損失を少量に抑えられる利点を有する。
蓄熱材の熱交換効率を高めるために、蓄熱材をマイクロカプセル化する方法が提案されている。一般に蓄熱材をマイクロカプセル化する方法としては、複合エマルジョン法によるカプセル化法(例えば、特許文献1参照)、蓄熱材粒子の表面に液中で熱可塑性樹脂を形成する方法(例えば、特許文献2参照)、蓄熱材粒子の表面でモノマーを重合させ被覆する方法(例えば、特許文献3参照)、界面重縮合反応によるポリアミド皮膜マイクロカプセルの製法(例えば、特許文献4参照)等の方法を用いることができる。
上記のマイクロカプセル化する方法では多くの場合、蓄熱材マイクロカプセルは媒体に分散した状態で得られる。それを乾燥させ固形物として取り出すことにより、内包された潜熱蓄熱材の相状態に関係なく固形状態を保つことができる。そのため、より広範囲の用途での利用が可能となる。蓄熱材マイクロカプセルの固形物はマイクロカプセルを作製する際に用いた媒体を乾燥させただけの粉体状態では飛散しやすく取り扱いに制限を受けることがあるため、蓄熱材マイクロカプセルを結着剤とともに複数個固着せしめて、飛散しにくい大きさまで造粒した蓄熱材マイクロカプセル造粒物が提案されている(例えば、特許文献5、6参照)。
上記のように、蓄熱材をマイクロカプセル化することにより、融解(液状)と凝固(固体状)を繰り返しうる相変化潜熱蓄熱材の相状態に関係なく、外観状態を一定に保つことが可能となる。すなわち、蓄熱材マイクロカプセルを水等の媒体に分散したもの(スラリーと呼ぶ)は、マイクロカプセル内部の相変化潜熱蓄熱材が蓄熱材が融解していても凝固していてもその相状態に関係なく、常に液状の外観を呈する。また、蓄熱材マイクロカプセルを固形化したもの(粉体や造粒体を含めた総称として固形物と呼ぶことにする)は、マイクロカプセル内部の相変化潜熱蓄熱材が融解していても凝固していてもその相状態に関係なく、常に固体状の外観を呈する。一方、マイクロカプセル化していない蓄熱材をそのまま用いる場合には、融解して液状になった際の蓄熱材が外部に流出しないように、密閉容器に封入させたり、高分子系や無機系素材のマトリックス中に吸収保持させる必要があるため、熱交換効率が低下したり、使用できる用途が制限されたりすることが多かった。このように、相変化潜熱蓄熱材をより広範囲な用途に高効率に利用するには、蓄熱材をマイクロカプセル化することが非常に有効な手段となっている。
蓄熱材マイクロカプセルでは、その融解温度と凝固温度とに温度差が生じることがある。この温度差を制御する方法として、過冷却防止剤や核発生剤を添加して、温度差をゼロに近づける方法が提案されているが、温度差を拡大し、その温度差を経時的に維持するように制御する方法は見出されていない(例えば、特許文献7〜10参照)。
蓄熱材マイクロカプセルは、加熱または冷却により、吸熱または放熱を繰り返して、保温材、保冷材、保存容器、保温衣料、保冷衣料、空調用蓄熱材、産業用蓄熱材、建築材料等に用いられる。これらの用途の中では、吸熱温度域と放熱温度域とを別々の温度域にすることが求められているものがある。この場合、融点の異なる2種以上の蓄熱材を別々にマイクロカプセル化したものを併用する方法、融点の異なる2種以上の蓄熱材を同一のマイクロカプセルに内包し使用する方法等、蓄熱材を2種以上使用する方法が提案されているが、1種類の蓄熱材でこの用途に対応する方法は見出されていない(例えば、特許文献11、12参照)。
特開昭62−1452号公報
特開昭62−149334号公報
特開昭62−225241号公報
特開平2−258052号公報
特開平2−222483号公報
特開2001−303032号公報
特開平5−237368号公報
特開平8−259932号公報
特開平9−31451号公報
特開2003−261866号公報
特開昭59−56092号公報
特開平10−311693号公報
本発明の課題は、融解温度と凝固温度との温度差が拡大するように制御されていて、かつその温度差を長期間安定して維持することが可能な蓄熱材マイクロカプセルを提供することである。
本発明者らは鋭意検討した結果、次の発明を見出した。
(1)マイクロカプセル中に有機系蓄熱材を内包する蓄熱材マイクロカプセルにおいて、該蓄熱材マイクロカプセルの被膜が界面重合法またはラジカル重合法により形成され、かつ該マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との差が5℃以上であることを特徴とする蓄熱材マイクロカプセル、
(2)該蓄熱材マイクロカプセルの平均粒子径が0.1μm以上12μm以下である上記(1)記載の蓄熱材マイクロカプセル、
(3)該有機系蓄熱材の純度が80%以上である上記(1)または(2)記載の蓄熱材マイクロカプセル、
(4)該有機系蓄熱材の酸価が3以下である上記(1)または(2)記載の蓄熱材マイクロカプセル、
(5)該有機系蓄熱材の水酸基価が10以下である上記(1)または(2)記載の蓄熱材マイクロカプセル、
(6)上記(1)〜(5)いずれか1項に記載の蓄熱材マイクロカプセルを分散媒体に分散させた蓄熱材マイクロカプセル分散液、
(7)上記(1)〜(5)いずれか1項に記載の蓄熱材マイクロカプセルを単独または複数個固着せしめてなる蓄熱材マイクロカプセル固形物。
本発明の蓄熱材マイクロカプセルは、融解温度と凝固温度との温度差が拡大されていて、融解時の吸熱と凝固時の放熱がそれぞれ異なる温度域で可能となっている。そのため、蓄熱材を1種類のみ使用するだけで、吸熱と放熱の温度域とが異なることを要求される利用分野に好適に用いることができる。本発明の蓄熱材マイクロカプセルは、有機系蓄熱材の純度、酸価、水酸基価やマイクロカプセルの平均粒子径、被膜形成方法を複合的に組み合わせることによって、融解温度と凝固温度との温度差を自由に制御することが可能である。さらに、この温度差は経時的に変化しにくく、耐久性が求められる用途でも本発明の蓄熱材マイクロカプセルは優位に用いることが可能である。
本発明の蓄熱材マイクロカプセルに内包される有機系蓄熱材は相転移に伴う潜熱を利用して蓄熱する目的で用いられるものであり、融点と凝固点を有する化合物であれば使用しうる。具体的な有機系蓄熱材としては、テトラデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、パラフィンワックス等の脂肪族炭化水素化合物(パラフィン類化合物)、パルミチン酸、ミリスチン酸等の脂肪酸類、ベンゼン、p-キシレン等の芳香族炭化水素化合物、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル等のエステル化合物、ステアリルアルコール等のアルコール類等の化合物を挙げることができる。融点が40℃以上の高温用蓄熱材や10〜40℃程度の中温用蓄熱材としては、脂肪族炭化水素化合物では市販品の多くは混合物となり、融解熱量が低かったり、相変化時の相変化応答性が悪いものとなるのに対して、下記一般式(I)〜(III)で表される化合物では、融解熱量が高く、所望の温度域で鋭敏な相変化応答性を示すことから、好ましくは、下記一般式(I)〜(III)で表される化合物を用いることが好ましい。
〔式中、R1、R2はそれぞれ独立の炭素数6以上の炭化水素基を表す。Xはヘテロ原子を含む2価の連結基を表す。〕
〔式中、R3はn価の炭化水素基を表す。R4はそれぞれ独立の炭素数6以上の炭化水素基を表す。Yはヘテロ原子を含む2価の連結基を表す。〕
〔式中、Aはm価の原子または原子団または連結基を表す。R5はそれぞれ独立の炭素数6以上の炭化水素基を表す。Zはヘテロ原子を含む2価の連結基または直接結合を表す。〕
一般式(I)において、R1とR2は、互いに同じであっても、異なっていてもよい、炭素数6以上の炭化水素基である。具体例としては、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル、オクタコシル、ノナコシル、トリアコンチル、ヘントリアコンチル、ドトリアコンチル、トリトリアコンチル、テトラトリアコンチル、ペンタトリアコンチル、ヘキサトリアコンチル、ヘプタトリアコンチル、オクタトリアコンチル、ノナトリアコンチル、テトラコンチル、ヘンテトラコンチル、ドテトラコンチル、トリテトラコンチル、テトラテトラコンチル、ペンタテトラコンチル、ヘキサテトラコンチル、ヘプタテトラコンチル、オクタテトラコンチル、ノナテトラコンチル、ペンタコンチルなどの直鎖状の炭化水素基、または2−エチルヘキシル、2−エチルオクチル、イソドデシル、イソオクタデシルなどの分岐を有する炭化水素基、またはヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、エイコセニル、ヘンエイコセニル、ドコセニル、トリコセニル、テトラコセニル、ペンタコセニル、ヘキサコセニル、ヘプタコセニル、オクタコセニル、ノナコセニル、トリアコンテニル、ヘントリアコンテニル、ドトリアコンテニル、トリトリアコンテニル、テトラトリアコンテニル、ペンタトリアコンテニル、ヘキサトリアコンテニル、ヘプタトリアコンテニル、オクタトリアコンテニル、ノナトリアコンテニル、テトラコンテニル、ヘンテトラコンテニル、ドテトラコンテニル、トリテトラコンテニル、テトラテトラコンテニル、ペンタテトラコンテニル、ヘキサテトラコンテニル、ヘプタテトラコンテニル、オクタテトラコンテニル、ノナテトラコンテニル、ペンタコンテニルなどの不飽和結合を有する炭化水素基、などを挙げることができる。R1とR2において、より好ましくは、炭素数が8〜60であり、さらに好ましくは、10〜40である。炭素数が8未満であると、加水分解に対する安定性が低下したり、必要な熱量が不足したりすることがある。一方、炭素数が60を越えると、原料が天然に存在する量が極めて少なく、高価になることがある。
一般式(I)において、Xは、ヘテロ原子を含む2価の連結基であり、具体例としては、
などを挙げることができる。
一般式(II)において、R3は、n価の炭化水素基であり、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香環含有炭化水素基、シクロパラフィン環含有炭化水素基などを挙げることができる。また、nは2〜60の整数を表す。ここで、n価とはYと結合する部分がn個あることを表す。
一般式(II)において、R4は、互いに同じであっても異なっていてもよい、炭素数6以上の炭化水素基あり、具体例としては、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル、オクタコシル、ノナコシル、トリアコンチル、ヘントリアコンチル、ドトリアコンチル、トリトリアコンチル、テトラトリアコンチル、ペンタトリアコンチル、ヘキサトリアコンチル、ヘプタトリアコンチル、オクタトリアコンチル、ノナトリアコンチル、テトラコンチル、ヘンテトラコンチル、ドテトラコンチル、トリテトラコンチル、テトラテトラコンチル、ペンタテトラコンチル、ヘキサテトラコンチル、ヘプタテトラコンチル、オクタテトラコンチル、ノナテトラコンチル、ペンタコンチルなどの直鎖状の炭化水素基、または2−エチルヘキシル、2−エチルオクチル、イソドデシル、イソオクタデシルなどの分岐を有する炭化水素基、またはヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、エイコセニル、ヘンエイコセニル、ドコセニル、トリコセニル、テトラコセニル、ペンタコセニル、ヘキサコセニル、ヘプタコセニル、オクタコセニル、ノナコセニル、トリアコンテニル、ヘントリアコンテニル、ドトリアコンテニル、トリトリアコンテニル、テトラトリアコンテニル、ペンタトリアコンテニル、ヘキサトリアコンテニル、ヘプタトリアコンテニル、オクタトリアコンテニル、ノナトリアコンテニル、テトラコンテニル、ヘンテトラコンテニル、ドテトラコンテニル、トリテトラコンテニル、テトラテトラコンテニル、ペンタテトラコンテニル、ヘキサテトラコンテニル、ヘプタテトラコンテニル、オクタテトラコンテニル、ノナテトラコンテニル、ペンタコンテニルなどの不飽和結合を有する炭化水素基、などを挙げることができる。R4において、より好ましくは、炭素数が8〜60であり、さらに好ましくは、10〜40である。炭素数が8未満であると、加水分解に対する安定性が低下したり、必要な熱量が不足したりすることがある。一方、炭素数が60を越えると、原料が天然に存在する量が極めて少なく、高価になることがある。
一般式(II)において、Yは、ヘテロ原子を含む2価の連結基であり、具体例としては、
などを挙げることができる。
一般式(III)において、R5は、互いに同じであっても異なっていてもよい、炭素数6以上の炭化水素基あり、具体例としては、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル、オクタコシル、ノナコシル、トリアコンチル、ヘントリアコンチル、ドトリアコンチル、トリトリアコンチル、テトラトリアコンチル、ペンタトリアコンチル、ヘキサトリアコンチル、ヘプタトリアコンチル、オクタトリアコンチル、ノナトリアコンチル、テトラコンチル、ヘンテトラコンチル、ドテトラコンチル、トリテトラコンチル、テトラテトラコンチル、ペンタテトラコンチル、ヘキサテトラコンチル、ヘプタテトラコンチル、オクタテトラコンチル、ノナテトラコンチル、ペンタコンチルなどの直鎖状の炭化水素基、または2−エチルヘキシル、2−エチルオクチル、イソドデシル、イソオクタデシルなどの分岐を有する炭化水素基、またはヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、エイコセニル、ヘンエイコセニル、ドコセニル、トリコセニル、テトラコセニル、ペンタコセニル、ヘキサコセニル、ヘプタコセニル、オクタコセニル、ノナコセニル、トリアコンテニル、ヘントリアコンテニル、ドトリアコンテニル、トリトリアコンテニル、テトラトリアコンテニル、ペンタトリアコンテニル、ヘキサトリアコンテニル、ヘプタトリアコンテニル、オクタトリアコンテニル、ノナトリアコンテニル、テトラコンテニル、ヘンテトラコンテニル、ドテトラコンテニル、トリテトラコンテニル、テトラテトラコンテニル、ペンタテトラコンテニル、ヘキサテトラコンテニル、ヘプタテトラコンテニル、オクタテトラコンテニル、ノナテトラコンテニル、ペンタコンテニルなどの不飽和結合を有する炭化水素基、などを挙げることができる。R5において、より好ましくは、炭素数が8〜60であり、さらに好ましくは、10〜40である。炭素数が8未満であると、加水分解に対する安定性が低下したり、必要な熱量が不足したりすることがある。一方、炭素数が60を越えると、原料が天然に存在する量が極めて少なく、高価になることがある。
一般式(III)において、Zはヘテロ原子を含む2価の連結基または直接結合である。ヘテロ原子を含む2価の連結基の具体例としては、上記Yで例示した基を挙げることができる。
一般式(III)において、Aはm価の原子または原子団または連結基であり、具体例としては、窒素原子、イオウ原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、複素環、ヘテロ原子含有炭化水素基などを挙げることができる。また、mは2〜60の整数を表す。ここで、m価とはZと結合する部分がm個あることを表す。
本発明に係わる有機系蓄熱材の融点は、特に制限を受けるわけではなく、融点が100℃以上の化合物の場合でも、高圧釜での乳化・反応を行うことにより、水媒体を用いたマイクロカプセル化が可能である。一般的なマイクロカプセル化設備が使えるという点では、蓄熱材の融点は、約−50〜100℃の範囲、好ましくは−20〜90℃の範囲に設定されることが好ましい。さらに、R1、R2、R4、R5で示されるそれぞれ独立の炭素数6以上の炭化水素基は、融解熱量や有害性の点から直鎖状の飽和炭化水素基であることが好ましい。
本発明に係わる有機系蓄熱材としては、特に、脂肪酸と一価アルコールとの脂肪酸エステル化合物、二塩基酸と一価アルコールとのジエステル化合物、多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物、N−置換脂肪酸アミド化合物、ケトン化合物が好ましい。さらにとりわけ脂肪酸エステル化合物が、原料の入手のしやすさや合成のしやすさの点などから好適に用いることができる。つまり、一般式(I)において、Xが−COO−結合であり、R1が炭素数6以上の炭化水素基、R2が炭素数6以上の炭化水素基であるエステル化合物である。R1とR2の炭素数は同じであっても異なっていても良い。R1とR2の炭化水素基の炭素数は、それぞれ8〜60の範囲のものがより好ましく、さらにそれぞれ10〜40の範囲のものが好ましい。R1とR2は、直鎖状の飽和炭化水素基が最も好ましい。
本発明に係わる有機系蓄熱材において、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との差を5℃以上にするには、有機系蓄熱材の純度が重要な因子であることを本発明者らは見いだした。ここでいう有機系蓄熱材の純度とは、有機系蓄熱材全体中に含まれる主成分の含有率を示す。有機系蓄熱材の純度は、ガスクロマトグラフィー法や液体クロマトグラフィー法などで測定することができる。ガスクロマトグラフィー法についてはJIS K0114に従って測定し、面積百分率法または補正面積百分率法が好適に適用できる。液体クロマトグラフィー法についてはJIS K0124に従って測定する。有機系蓄熱材の純度は80%以上にすることが好ましく、さらに91%以上にすることがさらに好ましい。有機系蓄熱材の純度が80%未満であると、不純物による凝固促進作用や不純物自身の凝固・析出・発核作用により、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との温度差が5℃未満になったり、凝固温度がばらついて、温度差を均一化させることが難しくなることがある。
本発明に係わる有機系蓄熱材において、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との差を5℃以上にするには、親水性官能基の含有比率も重要な因子であることを本発明者らは見いだした。例えば一般式(I)において、Xが−COO−結合であり、R1が炭素数6以上の炭化水素基、R2が炭素数6以上の炭化水素基であるエステル化合物である場合には、R1−COOHで表せるカルボン酸化合物とR2−OHで表せるアルコール化合物とを反応させて、目的とするR1−COO−R2で表せるエステル化合物を得るが、この反応の際に未反応のカルボン酸化合物やアルコール化合物が少量ながらも残留することがある。これは一般式(II)や一般式(III)で表される化合物においても同様である。
この未反応のカルボン酸化合物やアルコール化合物が残留していると、親水性官能基であるカルボキシル基やヒドロキシル基が含有されることになる。カルボキシル基については酸価で、ヒドロキシル基については水酸基価でその含有量を把握することができる。本発明に係わる有機系蓄熱材の酸価は3以下が好ましく、さらに1以下がより好ましい。水酸基価は10以下が好ましく、さらに3以下がより好ましい。有機系蓄熱材の酸価や水酸基価がこれらの値以上であると、カルボン酸化合物やアルコール化合物による凝固促進作用や凝固・析出・発核作用により、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との温度差が5℃未満になったり、凝固温度がばらついて、温度差を均一化させることが難しくなることがある。
本発明に係わる酸価および水酸基価とは、JIS K0070に従って測定されるものであり、酸価・水酸基価ともに単位はmgKOH/gである。また、さらに例えば一般式(III)で表される化合物においては、一般式(III)におけるAにはZとの結合に関与していないカルボキシル基、ヒドロキシル基等の官能基を微量であれば含有していてもよいが、上記と同様の上限がある。すなわち、有機系蓄熱材の酸価は3以下が好ましく、さらに1以下がより好ましい。水酸基価は10以下が好ましく、さらに3以下がより好ましい。
本発明に係わる有機系蓄熱材における上記の純度、酸価、水酸基価はともに重要な因子であるが、特に酸価がマイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との温度差や凝固温度のばらつきに鋭敏に影響を与える因子である。
本発明に係わる有機系蓄熱材は、必要に応じ比重調節剤、劣化防止剤等を添加することも出来る。これらの添加剤を加えた際には、有機系蓄熱材と添加剤とを合わせた全体中に含まれる有機系蓄熱材の主成分の含有率が、前述の有機系蓄熱材の純度の範囲を満たせばよい。
マイクロカプセルの製法としては物理的方法と化学的方法が知られているが、特に潜熱蓄熱材をマイクロカプセル化する方法としては、複合エマルジョン法によるカプセル化法(特開昭62−1452号公報)、蓄熱材粒子の表面に熱可塑性樹脂を噴霧する方法(特開昭62−45680号号公報)、蓄熱材粒子の表面に液中で熱可塑性樹脂を形成する方法(特開昭62−149334号公報)、蓄熱材粒子の表面でモノマーを重合させ被覆する方法(特開昭62−225241号公報)、界面重縮合反応によるポリアミド皮膜マイクロカプセルの製法(特開平2−258052号公報)等に記載されている方法を用いることができる。一般的に、マイクロカプセルの膜材としては、界面重合法、インサイチュー(in−situ)重合法、ラジカル重合法等の手法で得られるポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン、アミノプラスト樹脂、またはゼラチンとカルボキシメチルセルロース若しくはアラビアゴムとのコアセルベーション法を利用した合成あるいは天然の樹脂などが知られている。
ここで、本発明者らは、界面重合法またはラジカル重合法による樹脂皮膜を用いた蓄熱材マイクロカプセルが、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との差を5℃以上にするために、特に効果的に使用することができることを見いだし、本発明では界面重合法またはラジカル重合法による樹脂皮膜を用いることにした。界面重合法またはラジカル重合法による樹脂皮膜が特に効果的に使用することができる理由の詳細は不明であるが、これらの方法による皮膜の内側表面が他のカプセル化法で得られるものよりも平滑性が高くなり、他のカプセル化法で得られる皮膜の内側表面ではその凹凸部分で凝固時の発核が起こりやすくなり凝固促進作用がもたらされる傾向にあるのに対して、界面重合法またはラジカル重合法で得られる皮膜の内側表面ではその平滑性ゆえに凝固促進作用が起こりにくくなるものと推測される。従って、界面重合法またはラジカル重合法による樹脂皮膜を用いた蓄熱材マイクロカプセルにおいては、他のカプセル化法よりも有機系蓄熱材の純度や酸価、水酸基価の許容範囲は広くなる。界面重合法またはラジカル重合法の手法で得られるマイクロカプセルの膜材としては、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタンウレア、ポリウレタンなどの樹脂類が好適に用いられる。
さらに、本発明の蓄熱材マイクロカプセルにおいて、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との差を5℃以上にするには、蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径も重要な因子であることを本発明者らは見いだした。更にその体積平均粒子径と前述の有機系蓄熱材の純度や酸価、水酸基価との間に強い相関関係があることも本発明者らは見いだした。本発明の蓄熱材マイクロカプセルにおいては、純度が80%以上及び/または酸価が3以下及び/または水酸基価が10以下である有機系蓄熱材を用いた場合には、好ましくは体積平均粒子径を12μm以下にすることが、より好ましくは体積平均粒子径を10μm以下にすることが良い。本発明の蓄熱材マイクロカプセルにおいて、純度が91%以上及び/または酸価が1以下及び/または水酸基価が3以下である、より高純度な有機系蓄熱材を用いた場合には、粒子径の許容範囲は広くなり、好ましくは体積平均粒子径を20μm以下にすることが、より好ましくは体積平均粒子径を15μm以下にすることが良い。純度が80%以上及び/または酸価が3以下及び/または水酸基価が10以下である有機系蓄熱材を用いた場合には体積平均粒子径が12μmを超えると、また純度が91%以上及び/または酸価が1以下及び/または水酸基価が3以下である有機系蓄熱材を用いた場合には体積平均粒子径が20μmを超えると、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との差を目的とする範囲に維持することができにくくなることがある。
蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は0.1μm以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.5μm以上であることがより好ましい。体積平均粒子径が0.1μm未満では膜厚が極端に薄くなり耐熱性に乏しくなることがある。
本発明に係わる体積平均粒子径とはマイクロカプセル粒子の体積換算値の平均粒子径を表わすものであり、原理的には一定体積の粒子を小さいものから順に篩分けし、その50%体積に当たる粒子が分別された時点での粒子径を意味する。体積平均粒子径の測定は顕微鏡観察による実測でも算定可能であるが市販の電気的、光学的粒子径測定装置を用いることにより自動的に測定可能であり、本発明における体積平均粒子径は米国コールター社製粒度測定装置マルチサイザーII型を用いて測定を行なった。
本発明に係わるマイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との温度差は、5℃以上であれば本発明の目的は達成されるので、特に上限値はない。しかしながら、温度差が35℃を超えると、その温度差を確保するためには蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径を例えば0.1μm未満程度に小さくすることが必要になる場合があり、このような小さい粒子径では前述の如く膜厚が極端に薄くなり耐熱性に乏しくなることがあるので、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との温度差は35℃以下であるのが好ましい。なお、本発明に係わるマイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度および凝固温度は、得られた蓄熱材マイクロカプセルを示差走査熱量計(米国パーキンエルマー社製DSC−7型)を用いて、サンプル量2±0.2mg、昇温速度10℃/分および降温速度10℃/分にて測定した際の、昇温時における熱容量曲線の立ち上がりのオンセット(ベースラインと吸熱曲線の接線との交点)温度を融解温度とし、降温時における熱容量曲線の立ち上がりのオンセット(ベースラインと放熱曲線の接線との交点)温度を凝固温度としている。
本発明の蓄熱材マイクロカプセルは、通常水分散液の状態で作製されるが、この分散液(スラリー)状態のまま使用することができる他、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー、フィルタープレスなどの各種乾燥装置・脱水装置を用いて、媒体の水を蒸発・脱水・乾燥させて粉体や固形体の形態にして使用することもできる。さらに、粉体や固形体に必要に応じてバインダー等を加えて、押出し造粒、転動造粒、撹拌造粒など各種造粒法を用いて造粒することで粒径を大きくし、扱いやすくした造粒体の形態にして使用することもできる。本発明ではこれら粉体や固形体および造粒体の総称として固形物と呼ぶことにする。なお、固形物の形状としては球状、楕円形、立方体、直方体、円柱状、円錐状、円盤状、俵状、桿状、正多面体、星形、筒型等如何なる形状でも良い。
本発明の蓄熱材マイクロカプセルを利用する方法としては、例えば繊維加工物を挙げることができる。繊維加工物としては、被服材料や寝具などが挙げられる。本発明の蓄熱材マイクロカプセルを付与した繊維加工物は、人体に快適な温熱感や冷涼感を与えることができる。繊維加工物に本発明の蓄熱材マイクロカプセルを付与する方法としては、繊維加工物に塗工又は含浸させる方法あるいは繊維中に練り込む方法等を挙げることができる。繊維の具体例としては、綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維、再生繊維としてのレーヨン、キュプラ、半合成繊維としてのアセテート、トリアセテート、プロミックス、合成繊維としてのナイロン、アクリル、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール系などの繊維などを挙げることができる。繊維加工物の具体例としては、前記繊維の編物、織物、不織布等の布帛、これら布帛の縫製物などを挙げることができる。また、本発明の蓄熱材マイクロカプセルを通気性のある布帛に充填して、被服材料や寝具として用いることもできる。
繊維加工物において、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度と凝固温度との差を5℃以上にすることによって、吸熱した熱エネルギーを、吸熱した時の温度よりも低い温度で放熱することができ、快適な着心地を確保することができるようになる。
(繊維加工物例1)マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度を32℃に、凝固温度を26℃に設定した蓄熱材マイクロカプセルを加工した上着を着用して、室内温度24℃の室内に1時間いた(この時は蓄熱材マイクロカプセル内部の蓄熱材は全て凝固している)後、外気温35℃の屋外に出る。そうすると、外気温によって上着の温度は上昇していくが、有機系蓄熱材の融解温度の32℃になると、外気から供給される熱エネルギーは有機系蓄熱材が融解するのに費やされるために、有機系蓄熱材の全量が融解しきるまで32℃に保持される。その間、その上着を着用している人間は、快適な冷涼感を感じることができる。有機系蓄熱材の全量が融解しきると上着の温度も32℃よりも高くなっていく。
次に、再びに室内温度24℃の室内に戻ると、上着は有機系蓄熱材の凝固温度の26℃までは迅速に温度低下するので、その上着を着用している人間はここでも快適な冷涼感を感じることが可能となる。上着の温度が26℃まで低下すると、蓄熱材マイクロカプセル内部に蓄えられていた熱エネルギーが放散され、26℃を維持する。熱エネルギーの放散が全て終わり、有機系蓄熱材の全量が凝固しきると上着の温度は26℃よりも低下する。この間、上着を着用している人間は、快適な冷涼感を維持することができる。
これに対して、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度を32℃に、凝固温度を31℃に設定した蓄熱材マイクロカプセルを加工した上着を着用して、上記と同様に室内→屋外→室内と出入りしたとすると、室内から屋外に出た際には上記と同様の冷涼感は得られるものの、再び屋外から室内に戻った際には、上着は有機系蓄熱材の凝固温度の31℃にて温度低下が止まって、蓄熱材マイクロカプセル内部に蓄えられていた熱エネルギーが31℃で放散されるので、不快な蒸し暑さを感じてしまうことになる。
(繊維加工物例2)マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度を18℃に、凝固温度を10℃に設定した蓄熱材マイクロカプセルを加工したジャンパーを着用して、室内温度21℃の室内に1時間いた(この時は蓄熱材マイクロカプセル内部の蓄熱材は全て融解している)後、外気温5℃の屋外に出る。そうすると、外気温によってジャンパーの温度は低下していくが、有機系蓄熱材の凝固温度の10℃になると、蓄熱材マイクロカプセル内部に蓄えられていた熱エネルギーが放散され始めるために、有機系蓄熱材の全量が凝固しきるまで10℃に保持される。その間、そのジャンパーを着用している人間は、外気温が5℃であるにも拘わらず、ジャンパーの温度は10℃のままであるので、快適な保温感を感じることができる。有機系蓄熱材の全量が凝固しきるとジャンパーの温度も10℃よりも低くなっていく。
次に、再びに室内温度20℃の室内に戻ると、ジャンパーは有機系蓄熱材の融解温度の18℃までは迅速に温度上昇するので、そのジャンパーを着用している人間はここでも快適な温熱感を感じることが可能となる。ジャンパーの温度が18℃まで上昇すると、室内空気から供給される熱エネルギーは有機系蓄熱材が融解するのに費やされ、18℃を維持する。熱エネルギーの吸収が全て終わり、有機系蓄熱材の全量が融解しきると、ジャンパーの温度は18℃よりも上昇する。その間、そのジャンパーを着用している人間は何らの不快感も感じずにいることができる。
これに対して、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度を12℃に、凝固温度を10℃に設定した蓄熱材マイクロカプセルを加工したジャンパーを着用して、上記と同様に室内→屋外→室内と出入りしたとすると、室内から屋外に出た際には上記と同様の保温感は得られるものの、再び屋外から室内に戻った際には、ジャンパーは有機系蓄熱材の融解温度の12℃にて温度上昇が止まって、室内空気から供給される熱エネルギーは有機系蓄熱材が融解するのに費やされ、その間はジャンパーの温度は12℃に留まる。ゆえに、それを着用している人間は不快な肌寒さを感じてしまうことになる。
本発明の蓄熱材マイクロカプセルはマイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材に利用することができる。ここで言うマイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材とは、例えば特開2001−303032号公報や特開2005−179458号公報に記載のように、シリカゲル等の吸水性化合物あるいは極性構造を有する化合物と蓄熱材マイクロカプセルの固形物とを単独または適当な包材に充填したものである。マイクロ波を照射することにより吸水性化合物あるいは極性構造を有する化合物が発熱して、その熱が直接または間接的に接触している蓄熱材マイクロカプセルの固形物に伝熱され蓄熱が可能となる。
マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度を70℃に、凝固温度を50℃に設定した蓄熱材マイクロカプセル固形物をマイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材に用いる。電子レンジ等でマイクロ波を照射すると、吸水性化合物から発せられた熱が蓄熱材マイクロカプセル固形物に伝熱される。蓄熱材マイクロカプセル固形物の温度は融解温度である70℃までは急激に上昇して、顕熱が蓄熱される。70℃になると有機系蓄熱材が融解して潜熱が蓄熱される。マイクロ波照射をやめると、まずは吸水性化合物と蓄熱材マイクロカプセル固形物に蓄熱された顕熱が放熱される。凝固温度の50℃までは比較的短時間に低下するので、使用する人間は熱すぎるという不快感を感じることはほとんどない。次に50℃になると蓄熱材マイクロカプセル固形物中の有機系蓄熱材に蓄熱されていた潜熱が放熱され、使用する人間は快適な温熱感を長時間得ることができる。
これに対して、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度を70℃に、凝固温度を68℃に設定した蓄熱材マイクロカプセル固形物をマイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材に用いたとすると、加熱時には特に問題はないが、加熱後の使用の段階では68℃にて蓄熱材マイクロカプセル固形物中の有機系蓄熱材に蓄熱されていた潜熱が放熱される。68℃が長時間続くので使用する人間は熱すぎるという不快感を感じてしまうことになる。
本発明の蓄熱材マイクロカプセルは廃熱利用設備に利用することもできる。蓄熱材マイクロカプセルを用いる廃熱利用設備とは、例えば、燃料電池の廃熱を利用した燃料電池給湯コジェネレーションシステムや、焼却炉などの燃焼熱を回収利用する給湯システムなどを挙げることができる。燃料電池給湯コジェネレーションシステムにおいては、改質器と燃料電池に熱交換装置を設け、この熱交換装置から配管を介して蓄熱タンクを接続し、その配管内と蓄熱タンク内に、蓄熱材マイクロカプセルを分散媒体に分散させた熱媒流体を充填して循環させることで、熱交換装置で回収した改質器や燃料電池の廃熱を蓄熱タンクに高容量で蓄熱しておくことができる。蓄熱タンクに給水配管系統を接続することで、必要に応じてお湯を供給することができる。
マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度を85℃に、凝固温度を60℃に設定した蓄熱材マイクロカプセルを燃料電池の廃熱を利用した燃料電池給湯コジェネレーションシステムに用いるとする。燃料電池を高効率に運転させるにはある程度の高温の方が有利であり、その温度域である85℃にてマイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材が融解することにより蓄熱材マイクロカプセルに廃熱を回収・潜熱として蓄熱させることができる。一方、蓄熱材マイクロカプセルに潜熱として蓄熱された熱エネルギーの放熱は、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材が凝固する60℃にて行われるので、お湯を使用する適温に近い温度で熱を取り出すことができる。
これに対して、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度を85℃に、凝固温度を80℃に設定した蓄熱材マイクロカプセルを用いたとすると、廃熱を回収・潜熱として蓄熱させる際には特段の問題はないが、潜熱として蓄熱された熱エネルギーを放熱させる際には、80℃にて放熱が起こるので、高温の湯の取り扱いに注意を要したり、潜熱分を放熱し切ると80℃から急激にお湯の温度が低下してしまうので、温度変動の小さな湯を安定的に供給するのが困難になってしまうことになる。
本発明の蓄熱材マイクロカプセルは過熱抑制材及び/または過冷抑制材に利用することができる。過熱とは、設定した温度以上に達すると不具合が生じる現象全てを意味する。過冷とは、設定した温度以下に達すると不具合が生じる現象全てを意味する。具体的にはコンピューター等の電子機器内の制御素子などの電子部品の発熱抑制、道路の日射による発熱抑制等が挙げられる。
ガス吸着剤の吸着熱による温度上昇に伴う性能低下や脱着熱による温度低下に伴う性能低下を抑える手段として、本発明の蓄熱材マイクロカプセルをガス吸着剤近傍に配置・固着させておく利用方法も好ましい応用例として挙げられる。ガス吸着剤としては、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、有機金属錯体などが挙げられる。吸着対象のガスとしては、メタンなどの天然ガス系、プロパンやブタンなどの石油ガス系、水素、一酸化炭素や二酸化炭素、酸素、窒素、臭気性ガス、酸性ガス、塩基性ガス、有機溶剤ガスなどが挙げられる。
マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度を34℃に、凝固温度を18℃に設定した蓄熱材マイクロカプセルを固着加工したガス吸着剤に対して、気温25℃の環境にて有機溶剤ガスを吸着させる。そうすると、ガス吸着剤への吸着熱によってガス吸着剤の温度は上昇していくが、有機系蓄熱材の融解温度の34℃になると、吸着熱は有機系蓄熱材が融解するのに費やされるために、有機系蓄熱材の全量が融解しきるまで34℃に保持される。そのため、温度上昇による吸着効率の低下を抑制することができる。有機系蓄熱材の全量が融解しきると、ガス吸着剤の温度は34℃よりも高くなっていくが、有機系蓄熱材が融解するのに熱エネルギーが費やされた分だけ温度上昇は遅延されて、吸着効率の低下が抑制されることになる。
次に、同じく気温25℃の環境にて有機溶剤ガスを脱着させる工程になると、ガス吸着剤からの脱着熱によってガス吸着剤の温度は低下していく。有機系蓄熱材の凝固温度の18℃になると、蓄熱材マイクロカプセル内部に蓄えられていた熱エネルギーが放散されるために、有機系蓄熱材の全量が凝固しきるまで18℃に保持される。この温度低下抑制現象は、蓄熱材マイクロカプセル内部の有機系蓄熱材の凝固に伴う放熱作用と25℃の気温による加温作用との両者が相まってもたらす効果であり、そのために温度低下による脱着効率の低下を抑制することができる。有機系蓄熱材の全量が凝固しきるとガス吸着剤の温度は18℃より低くなっていくが、有機系蓄熱材が凝固する際に放熱された熱エネルギーの分だけ温度低下は遅延されて、脱着効率の低下が抑制されることになる。さらに、吸着/脱着の工程が繰り返されても、この効果は反復して発現する。
これに対して、マイクロカプセル中に内包された状態の有機系蓄熱材の融解温度を34℃に、凝固温度を32℃に設定した蓄熱材マイクロカプセルを用いたガス吸着剤を気温25℃の環境で使用すると、有機溶剤ガス吸着工程では、上記と同様に温度上昇による吸着効率の低下を抑制することができる。しかし、有機溶剤ガス脱着工程では、蓄熱材マイクロカプセル中の有機系蓄熱材の凝固温度が気温よりも高いために、まず蓄熱材マイクロカプセルの放熱が先に起こる。したがって、有機溶剤ガスを脱着する際の温度低下には、蓄熱材マイクロカプセルの潜熱を有効利用することができなくなってしまう。
(実施例)
以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明する。実施例中の部数や百分率は特にことわりがない限り質量基準である。なお、実施例中の融解温度および凝固温度とは、得られた蓄熱材マイクロカプセルを示差走査熱量計(米国パーキンエルマー社製DSC−7型)を用いて、サンプル量2±0.2mg、昇温速度10℃/分および降温速度10℃/分にて測定した際の、昇温時におけるマイクロカプセルに内包された状態の蓄熱材の融解挙動に起因する、熱容量曲線の吸熱ピークのベースラインからの立ち上がりのオンセット温度を融解温度とし、降温時におけるマイクロカプセルに内包された状態の蓄熱材の凝固挙動に起因する、熱容量曲線の放熱ピークのベースラインからの立ち上がりのオンセット温度を凝固温度としている。
実施例中の温度差変化率とは、得られたマイクロカプセルを融解と凝固を300回繰り返させ、その300回繰り返した後の融解温度と凝固温度との温度差(ΔT2)の、初期の融解温度と凝固温度との温度差(ΔT1)からの変化分((ΔT1−ΔT2)の絶対値)を、初期の融解温度と凝固温度との温度差(ΔT1)で除した値の百分率を温度差変化率としている。すなわち、温度差変化率(%)=(|ΔT1−ΔT2|)/ΔT1×100にて算出される。この温度差変化率の値が小さいほど、蓄熱材マイクロカプセルの融解温度と凝固温度との温度差が経時的に変化しにくく、繰り返し安定性に優れていることを示す。
実施例中の熱減率とは、得られた蓄熱材マイクロカプセルの分散液を2g採取して、100℃で2時間加熱して媒体の水を蒸発させて得られた乾固物の質量W1を測定し、さらに200℃で3時間加熱処理した後の質量W2を測定した際の、質量減少量(W1−W2)を加熱処理前の質量W1で除した値の百分率を熱減率としている。すなわち、熱減率(%)=(W1−W2)/W1×100にて算出される。この熱減率の値が小さいほど蓄熱材マイクロカプセルの耐熱性が優れていることを示し、逆にこの熱減率の値が大きいほど蓄熱材マイクロカプセルの耐熱性が劣ることを示す。
潜熱蓄熱材としてパルミチン酸ヘキサデシル〔一般式(I)で表される化合物でR1が炭素数15のペンタデシル基、R2が炭素数16のヘキサデシル基である化合物〕80部に、多価イソシアネートとしてジシクロヘキシルメタン4,4−ジイソシアネート(住化バイエルウレタン(株)製、脂肪族イソシアネート、商品名デスモジュールW)12部を溶解した物を、5%ポリビニルアルコール((株)クラレ製、商品名ポバールPVA−117)水溶液100部中に添加し、平均粒径が7.6μmになるまで室温で撹拌乳化を行った。なお、ここで用いたパルミチン酸ヘキサデシルは、純度が93%で、酸価が0.7、水酸基価が2.5であった。次にこの乳化液に3%ポリエーテル水溶液(旭電化工業(株)製、ポリエーテル、商品名アデカポリエーテルEDP−450)50部を添加した後、60℃で加熱と撹拌を2時間施した。低粘度で分散安定性が良好な、界面重合法によるポリウレタンウレア皮膜を有する蓄熱材マイクロカプセルの分散液が得られた。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであった。この蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は21℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は30℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は3%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は5%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が84%で、酸価が0.7、水酸基価が2.5であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例2の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は32℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は19℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は5%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は5%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が75%で、酸価が0.7、水酸基価が2.5であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例3の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は41℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は10℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は7%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は5%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が93%で、酸価が2.4、水酸基価が2.5であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例4の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は33℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は18℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は8%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は5%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が93%で、酸価が3.9、水酸基価が2.5であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例5の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は42℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は9℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は16%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は6%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が93%で、酸価が0.7、水酸基価が7.0であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例6の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は30℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は21℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は6%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は5%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が93%で、酸価が0.7、水酸基価が12であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例7の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は40℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は11℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は13%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は6%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が75%で、酸価が0.7、水酸基価が12であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例8の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は42℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は9℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は14%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は7%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が75%で、酸価が2.4、水酸基価が12であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例9の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は43℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は8℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は17%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は7%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が75%で、酸価が3.9、水酸基価が2.5であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例10の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は44℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は7℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は18%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は8%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が93%で、酸価が3.9、水酸基価が12であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例11の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は44℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は7℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は19%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は8%であった。
実施例1において、乳化の段階の平均粒子径を0.05μmにした以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例12の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は0.05μmであった。この蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は8℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は43℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は3%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は27%であった。
実施例1において、乳化の段階の平均粒子径を0.08μmにした以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例13の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は0.08μmであった。得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は17℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は34℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は3%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は21%であった。
実施例1において、乳化の段階の平均粒子径を0.2μmにした以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例14の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は0.2μmであった。得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は18℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は33℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は3%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は10%であった。
実施例1において、乳化の段階の平均粒子径を17.0μmにした以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例15の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は17.3μmであった。得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は33℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は18℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は4%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は4%であった。
実施例1において、乳化の段階の平均粒子径を22.1μmにした以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例16の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は22.4μmであった。得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は42℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は9℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は5%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は3%であった。
潜熱蓄熱材としてミリスチン酸ドデシル〔一般式(I)で表される化合物でR1が炭素数13のトリデシル基、R2が炭素数12のドデシル基である化合物〕80部に、多価イソシアネートとしてポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート(住化バイエルウレタン(株)製、芳香族イソシアネート、商品名44V20)8.5部を溶解した物を、5%ポリビニルアルコール((株)クラレ製、商品名ポバール117)水溶液100部中に体積平均粒子径が4.7μmになるまで室温で撹拌乳化を行った。なお、ここで用いたミリスチン酸ドデシルは、純度が84%で、酸価が2.2、水酸基価が8.0であった。次にこの乳化液に3%ジエチレントリアミン水溶液52部を添加した後、60℃で加熱と撹拌を2時間施した。低粘度で分散安定性が良好な、界面重合法によるポリウレア皮膜を有する蓄熱材マイクロカプセルの分散液が得られた。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は4.9μmであった。この蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は32℃、凝固温度は10℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は22℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は10%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は6%であった。
実施例17において、乳化の段階の平均粒子径を10.6μmにした以外は実施例17と全く同様の操作で界面重合法による実施例18の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は10.8μmであった。得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は32℃、凝固温度は19℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は13℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は11%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は5%であった。
実施例17において、乳化の段階の平均粒子径を13.6μmにした以外は実施例17と全く同様の操作で界面重合法による実施例19の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は13.8μmであった。得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は32℃、凝固温度は26℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は6℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は12%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は4%であった。
潜熱蓄熱材としてn−ヘキサデカン80部に、多価イソシアネートとしてジシクロヘキシルメタン4,4−ジイソシアネート(住化バイエルウレタン(株)製、脂肪族イソシアネート、商品名デスモジュールW)12部を溶解した物を、5%ポリビニルアルコール((株)クラレ製、商品名ポバールPVA−117)水溶液100部中に添加し、平均粒径が3.2μmになるまで室温で撹拌乳化を行った。なお、ここで用いたn−ヘキサデカンは、純度が98%で、酸価が0.1未満、水酸基価が0.1未満であった。次にこの乳化液に3%ポリエーテル水溶液(旭電化工業(株)製、ポリエーテル、商品名アデカポリエーテルEDP−450)50部を添加した後、60℃で加熱と撹拌を2時間施した。低粘度で分散安定性が良好な、界面重合法によるポリウレタンウレア皮膜を有する蓄熱材マイクロカプセルの分散液が得られた。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は3.3μmであった。この蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は16℃、凝固温度は−7℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は23℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は12%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は8%であった。
潜熱蓄熱材としてパルミチン酸ヘキサデシル〔一般式(I)で表される化合物でR1が炭素数15のペンタデシル基、R2が炭素数16のヘキサデシル基である化合物〕80部にメタクリル酸メチル9.5部とエチレングリコールジメタクリレート0.5部を溶解させ、これを75℃の1%ポリビニルアルコール水溶液300部に入れ、強撹拌により乳化を行った。なお、ここで用いたパルミチン酸ヘキサデシルは、純度が93%で、酸価が0.7、水酸基価が2.5であった。次にこの乳化液の入った重合容器内を75℃に保ちながら窒素雰囲気にした後、イオン交換水15部に溶解させた2,2′−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド0.4部を添加した。7時間後に重合を終了し、重合容器内を室温にまで冷却し、カプセル化を終了した。低粘度で分散安定性が良好な、ラジカル重合法によるポリメタクリル酸メチル皮膜を有する蓄熱材マイクロカプセルの分散液が得られた。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は5.3μmであった。この蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は22℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は29℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は3%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は11%であった。
潜熱蓄熱材としてn−ヘキサデカン80部にメタクリル酸メチル9.5部とエチレングリコールジメタクリレート0.5部を溶解させ、これを75℃の1%ポリビニルアルコール水溶液300部に入れ、強撹拌により乳化を行った。なお、ここで用いたn−ヘキサデカンは、純度が98%で、酸価が0.1未満、水酸基価が0.1未満であった。次にこの乳化液の入った重合容器内を75℃に保ちながら窒素雰囲気にした後、イオン交換水15部に溶解させた2,2′−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド0.4部を添加した。7時間後に重合を終了し、重合容器内を室温にまで冷却し、カプセル化を終了した。低粘度で分散安定性が良好な、ラジカル重合法によるポリメタクリル酸メチル皮膜を有する蓄熱材マイクロカプセルの分散液が得られた。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は6.4μmであった。この蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は16℃、凝固温度は−5℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は21℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は14%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は13%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が92%で、酸価が0.8、水酸基価が2.7であるステアリン酸ヘキサコシル〔一般式(I)で表される化合物でR1が炭素数17のヘプタデシル基、R2が炭素数26のヘキサコシル基である化合物〕を用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例23の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は73℃、凝固温度は50℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は23℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は4%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は4%であった。次に、この蓄熱材マイクロカプセルの分散液をスプレードライにより噴霧乾燥し、蓄熱材マイクロカプセルの粉体を得た。さらに、得られた蓄熱材マイクロカプセル粉体100質量部に、結着剤としてエチレン−酢酸ビニル共重合体のラテックス(固形分濃度40質量%)25質量部と適当量の添加水を加えて混合した後、押出式造粒装置により押出成型を行い、100℃で乾燥させて、短径方向平均径が2.1mm、長径方向平均径が4.1mmの蓄熱材マイクロカプセルの造粒体を得た。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が92%で、酸価が0.8、水酸基価が2.8であるステアリン酸トリアコンチル〔一般式(I)で表される化合物でR1が炭素数17のヘプタデシル基、R2が炭素数30のトリアコンチル基である化合物〕を用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例24の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は78℃、凝固温度は53℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は25℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は4%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は4%であった。
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が93%で、酸価が0.6、水酸基価が2.2であるラウリン酸テトラデシル〔一般式(I)で表される化合物でR1が炭素数11のウンデシル基、R2が炭素数14のテトラデシル基である化合物〕を用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による実施例25の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は36℃、凝固温度は16℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は20℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は3%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は5%であった。次に、この蓄熱材マイクロカプセルの分散液をスプレードライにより噴霧乾燥し、平均粒径100μmの蓄熱材マイクロカプセルの粉体を得た。
実施例1〜25で得られた各蓄熱材マイクロカプセルの評価結果をまとめたものを表1に示す。
(比較例1)
実施例1におけるパルミチン酸ヘキサデシルに代えて、純度が73%で、酸価が7、水酸基価が20であるパルミチン酸ヘキサデシルを用いた以外は実施例1と全く同様の操作で界面重合法による比較例1の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は48℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は3℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は25%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は18%であった。
(比較例2)
潜熱蓄熱材としてパルミチン酸ヘキサデシル80部に過冷却防止剤としてのN−ステアリルエルカ酸アミド0.8部を混合した混合物に、多価イソシアネートとしてジシクロヘキシルメタン4,4−ジイソシアネート(住化バイエルウレタン(株)製、脂肪族イソシアネート、商品名デスモジュールW)12部を溶解した物を、5%ポリビニルアルコール((株)クラレ製、商品名ポバールPVA−117)水溶液100部中に添加し、平均粒径が7.6μmになるまで室温で撹拌乳化を行った。なお、ここで用いたパルミチン酸ヘキサデシルは、純度が73%で、酸価が4.2、水酸基価が13であった。次にこの乳化液に3%ポリエーテル水溶液(旭電化工業(株)製、ポリエーテル、商品名アデカポリエーテルEDP−450)50部を添加した後、60℃で加熱と撹拌を2時間施した。低粘度で分散安定性が良好な、界面重合法によるポリウレタンウレア皮膜を有する蓄熱材マイクロカプセルの分散液が得られた。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであった。この蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は51℃、凝固温度は49℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は2℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は14%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は8%であった。
(比較例3)
実施例18におけるミリスチン酸ドデシルに代えて、純度が71%で、酸価が9、水酸基価が24であるミリスチン酸ドデシルを用いた以外は実施例18と全く同様の操作で界面重合法による比較例3の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は10.8μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は32℃、凝固温度は29℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は3℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は27%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は20%であった。
(比較例4)
実施例23におけるステアリン酸ヘキサコシルに代えて、純度が78%で、酸価が7、水酸基価が20であるステアリン酸ヘキサコシルを用いた以外は実施例23と全く同様の操作で界面重合法による比較例4の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は73℃、凝固温度は69℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は4℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は25%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は17%であった。次に、実施例23と全く同様の操作で、蓄熱材マイクロカプセルの粉体を経由して、短径方向平均径が2.1mm、長径方向平均径が4.1mmの蓄熱材マイクロカプセルの造粒体を得た。
(比較例5)
実施例24におけるステアリン酸トリアコンチルに代えて、純度が75%で、酸価が8、水酸基価が22であるステアリン酸トリアコンチルを用いた以外は実施例24と全く同様の操作で界面重合法による比較例5の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は78℃、凝固温度は74℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は4℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は29%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は18%であった。
(比較例6)
実施例25におけるラウリン酸テトラデシルに代えて、純度が77%で、酸価が10、水酸基価が18であるラウリン酸テトラデシルを用いた以外は実施例25と全く同様の操作で界面重合法による比較例6の蓄熱材マイクロカプセルを作製した。得られた蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は7.9μmであり、得られた蓄熱材マイクロカプセルの融解温度は36℃、凝固温度は32℃であり、初期の融解温度−凝固温度の差は4℃であった。また、この蓄熱材マイクロカプセルの温度差変化率は27%であった。なお、この蓄熱材マイクロカプセルの熱減率は19%であった。次に、実施例25と全く同様の操作で、平均粒径100μmの蓄熱材マイクロカプセルの粉体を得た。
比較例1〜6で得られた各蓄熱材マイクロカプセルの評価結果をまとめたものを表2に示す。
〈評価A〉被服材料における評価
実施例19及び比較例3で得られた蓄熱材マイクロカプセルの分散液をそれぞれ用いて、180g/m2のレーヨン繊維にマイクロカプセルの固形質量で30g/m2になる様にニップコーターを用いて含浸、乾燥処理を施して蓄熱性を有する被服材料に加工し更に大人用上着にそれぞれ縫製した。成人男性5人に木綿製の下着を着せ、その上にこれらの蓄熱材マイクロカプセルを付与した上着を着せ、体感温度感覚を観測した。
まず、室内温度24℃の室内に1時間安静に着席させた後、真夏の炎天下を模した35℃の雰囲気下に移動した後の体感温度感覚の結果について述べる。比較として蓄熱材マイクロカプセルを全く加工していない同様の衣服を用いて測定を行った際には、約5分で3人目が暑苦しいと感じ始めたのに対して、実施例19の蓄熱材マイクロカプセルを加工した衣服を身につけて同様の測定を行った場合には約16分後に3人目が暑苦しいと感じ出し、実施例19の蓄熱材マイクロカプセルを加工した衣服では明らかに快適さが持続する時間が長くなることが分かった。
また、比較例3の蓄熱材マイクロカプセルを用いた場合には、約15分後に3人目が暑苦しいと感じ出し、この時点では実施例19のものとほとんど差がない結果であった。
次に、35℃の雰囲気下に移動してから40分が経過した後、再びに室内温度24℃の室内に戻った際の体感温度感覚の結果について述べる。実施例19の蓄熱材マイクロカプセルを加工した衣服の場合には、室内温度24℃の室内に戻った際に5人とも直ちに冷涼感を感じ、暑苦しさを感じる者はなかった。このように、本発明である実施例19の蓄熱材マイクロカプセルを加工した衣服では、いわゆる暑い環境から適温の環境に戻っても、蓄熱材の凝固温度の26℃までは迅速に温度低下し、かつ蓄熱材の凝固に伴う放熱は26℃で起こるので衣服からの放熱を感じることはなく、快適さを直ちに感じることができる。
これに対して、比較例3の蓄熱材マイクロカプセルを用いた場合には、室内温度24℃の室内に戻った際の直後には5人とも暑苦しさを感じ、約12分後に3人目がようやく冷涼感を感じ出した。このように、本発明外である比較例3の蓄熱材マイクロカプセルを加工した衣服では、いわゆる暑い環境から適温の環境に戻っても、蓄熱材の凝固温度の29℃にて温度低下が止まるので、室内温度が24℃であるにも拘わらず、それを着用している人間は衣服から不快な蒸し暑さを感じてしまう結果となった。
〈評価B〉マイクロ波照射型保温材における評価
実施例23及び比較例4で得られた蓄熱材マイクロカプセルの造粒体をそれぞれ用いて、蓄熱材マイクロカプセル造粒体30質量部と粒径2mmのシリカゲル粒子70質量部とを混合し、木綿製の袋に700gを充填してマイクロ波照射型保温材をそれぞれ得た。これらの保温材を家庭用の電子レンジ(高周波出力=500W)を用いて2分間加熱を行って電子レンジから取り出して使用した際の体感温度感覚を観測した。
本発明である実施例23の蓄熱材マイクロカプセルを用いた場合は、取り出し初期は60℃以上の温度を示して強めの温熱感を実感でき、取り出しの約5分後には50℃になって快適な温熱感を実感できるようになった。その後、心地よい温度域である45℃以上の温度が取り出しから約65分間持続し、長時間快適な暖かさを持続するものとなった。
これに対して、本発明外である比較例4の蓄熱材マイクロカプセルを用いた場合には、取り出し初期は70℃以上の温度を示して強烈な温熱感を示し、取り出しの約20分後になっても65℃以上の強い温熱感を示し、快適な使用感を得られるものではなかった。
〈評価C〉燃料電池給湯コジェネレーションシステムにおける評価
実施例24及び比較例5で得られた蓄熱材マイクロカプセルの分散液をそれぞれ用いて、燃料電池給湯コジェネレーションシステムにおける評価を行った。燃料電池給湯コジェネレーションシステムにおいて、改質器と燃料電池に熱交換装置を設け、この熱交換装置から配管を介して蓄熱タンクを接続し、その配管内と蓄熱タンク内に、これらの蓄熱材マイクロカプセルの分散液を充填して循環させ、熱交換装置で回収した改質器や燃料電池の廃熱を蓄熱タンクに2時間蓄熱させた後、蓄熱タンクに接続した給水配管系統からお湯を取り出した際のお湯の温度を観測した。
本発明である実施例24の蓄熱材マイクロカプセルを用いた場合は、約55℃以上のお湯を温度変動小さく安定に供給することができた。
これに対して、本発明外である比較例5の蓄熱材マイクロカプセルを用いた場合には、初期は約70℃の高温のお湯が出てきたが、やがて温度が急激に下がり始めてしまい、お湯を温度変動小さく安定に供給するのが困難であった。
〈評価D〉ガス吸着剤における評価
実施例25及び比較例6で得られた蓄熱材マイクロカプセルの粉体をそれぞれ用いて、マイクロカプセル粉体30部と平均粒径1.2mmの活性炭100部とを混合し、蓄熱材複合吸着剤をそれぞれ得た。気温25℃の環境下にて、これらの蓄熱材複合吸着剤にメタンガス(供給ガス温度=25℃)を供給して、ガスの圧力を1MPaと0.1MPaとを交互に繰り返してガスの吸着と脱着を9回繰り返した後の、10回目の吸着量と脱着量を測定して、その差を有効吸着容量として算出した。
本発明である実施例25の蓄熱材マイクロカプセルを用いた場合は、有効吸着容量は蓄熱材複合吸着剤1gあたり57mgとなり、良好な結果が得られた。
これに対して、本発明外である比較例6の蓄熱材マイクロカプセルを用いた場合には、有効吸着容量は蓄熱材複合吸着剤1gあたり49mgとなり、実施例25の蓄熱材マイクロカプセルを用いたものと比較して劣る結果となった。これは、蓄熱材マイクロカプセルの凝固温度が32℃であることから、吸着時に吸着熱として発生して蓄熱材マイクロカプセルに吸収した熱エネルギーを気温25℃の環境下では脱着前に放出してしまうので、脱着時の温度低下抑制に有効に寄与する熱エネルギーが減ってしまい、実施例25のものと比べて脱着効率が低下したことによるものと考えられる。
本発明による蓄熱材マイクロカプセルは、被服材料や寝具などの繊維加工物、マイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材、燃料電池や焼却炉などの廃熱利用設備、電子部品やガス吸着剤などの過熱抑制材及び/または過冷抑制材に加え、建築材料、建築物の躯体蓄熱・空間充填式空調、床暖房用、空調用途、道路や橋梁などの土木用材料、産業用及び農業用保温材料、家庭用品、健康用品、医療用材料など様々な利用分野に応用できる。