この発明は、原動機のトルクが遊星歯車機構を経由して車輪に伝達されるように構成され、かつ、原動機から車輪に至る経路に、第1のモータ・ジェネレータおよび第2のモータ・ジェネレータが設けられているハイブリッド駆動装置の制御装置に関するものである。
従来、複数の動力源として内燃機関およびモータ・ジェネレータを搭載したハイブリッド車が知られており、このようなハイブリッド車においては、エンジンおよびモータ・ジェネレータの持つ特性を生かしつつ、燃費を向上し、かつ、排気ガスの低減を図ることが可能である。このように、動力源として内燃機関およびモータ・ジェネレータを有するハイブリッド車の一例が、特許文献1に記載されている。
この特許文献1に記載されているハイブリッド車は、内燃機関が車体に取り付けられている。また、遊星歯車装置が設けられており、サンギヤおよびリングギヤおよびキャリヤを有している。そして、内燃機関のクランク軸がキャリヤに連結され、第1の電動発電機がサンギヤに連結され、リングギヤにはプロペラ軸の一端が連結されている。また、プロペラ軸には第2の電動発電機が連結されているとともに、プロペラ軸の他端は、デファレンシャル装置を介して一対の車軸に連結されている。さらに、車軸には車輪が取り付けられている。さらにプロペラ軸の一部であって、第2の発電電動機の連結部よりも内燃機関とは隔たる側に変速機が設けられている。この変速機は、第1速ないし第3速を切り換え可能である。そして、運転者からの運転指令と車両の運転状態とに基づいてハイブリッド車が制御される。すなわち、内燃機関を、休止を含む如何なる運転状態にて運転すべきか、また第1の発電電動機および第2の発電電動機を如何なる電動状態または発電状態にて運転すべきか計算し、その計算結果に基づいて、内燃機関、第1の発電電動機、第2の発電電動機の作動を制御する。また、各変速段において内燃機関が賄う車軸トルクが増大される。なお、動力源として、エンジンおよびモータ・ジェネレータを搭載したハイブリッド車は、特許文献2ないし5にも記載されている。
特開2003−130203号公報
特開2000−346187号公報
特開2004−34892号公報
特開平10−54263号公報
特開2005−112019号公報
しかしながら、上記の特許文献1に記載されているハイブリッド車においては、車両の負荷が高まる場合、たとえば、車両が登坂路を走行する場合、車両がトレーラーを牽引して走行する場合などにおいて、車両の要求駆動力が増加すると、反力を受ける第1の発電電動機の発電、駆動力を補助する第2の発電電動機の力行により、第1の発電電動機および第2の発電電動機の負荷が高くなり、第1の発電電動機および第2の発電電動機の温度が上昇する恐れがあった。
この発明は上記の事情を背景としてなされたものであり、第1のモータ・ジェネレータと第2のモータ・ジェネレータとの間で流通する電力量を低減することにより、第1のモータ・ジェネレータおよび第2のモータ・ジェネレータの温度上昇を抑制し、かつ、要求駆動力を満たすことの可能なハイブリッド駆動装置の制御装置を提供することを目的としている。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、差動回転可能な複数の回転要素を有する遊星歯車機構が設けられ、この遊星歯車機構の回転要素が第1の要素および第2の要素および第3の要素を有しており、前記第1の要素に原動機が連結され、前記第3の要素が車輪に連結され、前記第2の要素に第1のモータ・ジェネレータが連結され、前記第3の要素から前記車輪に至る経路に第2のモータ・ジェネレータが連結されており、前記原動機のトルクを前記第1の要素から前記第3の要素に伝達し、かつ、第3の要素に伝達されたトルクを前記車輪に伝達する場合に、前記第1のモータ・ジェネレータと前記第2のモータ・ジェネレータとの間で電力の授受をおこなう電気回路が設けられているハイブリッド駆動装置の制御装置において、車両における要求駆動力が所定値以上であることの判定、または、前記第1のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であること、または前記第2のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であることの3つの判定のうち、少なくとも1つの判定が成立したか否かを判断する判断手段と、前記3つの判定のうちの少なくとも1つの判定が成立した場合は、前記第1のモータ・ジェネレータの回転数を低下させて前記電気回路を流通する電力量を減少させ、かつ、前記原動機のパワーの変化を抑制するように、前記原動機の回転数を制御する原動機制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記遊星歯車機構の第3の要素から前記車輪に至る経路に変速機が設けられており、前記第2のモータ・ジェネレータが前記変速機の入力側に配置されているとともに、前記3つの判定のうちの少なくとも1つの判定が成立した場合は、前記変速機の変速比を制御することにより、前記第1のモータ・ジェネレータの回転数を低下させて、前記電気回路を流通する電力量を減少させる変速比制御手段を、更に有していることを特徴とすることを特徴とするものである。
請求項3の発明は、差動回転可能な複数の回転要素を有する遊星歯車機構が設けられ、この遊星歯車機構の回転要素が第1の要素および第2の要素および第3の要素を有しており、前記第1の要素に原動機が連結され、前記第3の要素が車輪に連結され、前記第2の要素に第1のモータ・ジェネレータが連結され、前記第3の要素から前記車輪に至る経路に第2のモータ・ジェネレータが連結され、前記遊星歯車機構の第3の要素から前記車輪に至る経路に変速機が設けられており、前記第2のモータ・ジェネレータが前記変速機の入力側に配置されているとともに、前記原動機のトルクを前記第1の要素から前記第3の要素に伝達し、かつ、この第3の要素のトルクを前記車輪に伝達する場合に、前記第1のモータ・ジェネレータと前記第2のモータ・ジェネレータとの間で電力の授受をおこなう電気回路が設けられているハイブリッド駆動装置の制御装置において、車両における要求駆動力が所定値以上であることの判定、または、前記第1のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であること、または、前記第2のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であることの3つの判定のうち、少なくとも1つの判定が成立したか否かを判断する判断手段と、前記3つの判定のうちの少なくとも1つの判定が成立した場合は、前記変速機の変速比を制御することにより、前記第1のモータ・ジェネレータの回転数を低下させて前記電気回路を流通する電力量を減少させる変速比制御手段とを有していることを特徴とするものである。
請求項4の発明は、請求項1の構成に加えて、前記原動機から前記車輪に至る経路の動力伝達状態を制御する複数の運転モードを有し、これらの運転モード同士を選択的に切り換え可能に構成されていることを特徴とするものである。
請求項5の発明は、請求項4の構成に加えて、前記原動機から前記車輪に至る経路に動力伝達装置が設けられており、この動力伝達装置は、相対回転可能な4個の要素を有しており、この動力伝達装置は、4個の要素同士の連結関係、およびいずれかの要素の回転・停止を制御することが可能に構成されており、前記運転モードのいずれかのモードを選択すると、前記4個の回転要素が相対回転可能な状態となる構成を、前記動力伝達装置が有していることを特徴とするものである。
請求項6の発明は、請求項5の構成に加えて、前記3つの判定のうちの少なくとも1つの判定が成立した場合に、前記電気回路を流通する電力量を減少させるモードを選択するモード選択手段を、更に有していることを特徴とするものである。
請求項7の発明は、請求項6の構成に加えて、前記モード選択手段は、前記電気回路を流通する電力量を減少させるためにモードの変更をおこなう場合、前記原動機のパワーを変更することなく、前記モードの変更をおこなう手段を、更に含むことを特徴とするものである。
請求項8の発明は、差動回転可能な複数の回転要素を有する遊星歯車機構が設けられ、この遊星歯車機構の回転要素が第1の要素および第2の要素および第3の要素を有しており、前記第1の要素に原動機が連結され、前記第3の要素が車輪に連結され、前記第2の要素に第1のモータ・ジェネレータが連結され、前記第3の要素から前記車輪に至る経路に第2のモータ・ジェネレータが連結されており、前記原動機のトルクを前記第1の要素から前記第3の要素に伝達し、かつ、第3の要素に伝達されたトルクを前記車輪に伝達する場合に、前記第1のモータ・ジェネレータと前記第2のモータ・ジェネレータとの間で電力の授受をおこなう電気回路が設けられており、前記原動機から前記車輪に至る経路の動力伝達状態を制御する複数の運転モードを有し、これらの運転モード同士を選択的に切り換え可能に構成されているハイブリッド駆動装置の制御装置において、車両における要求駆動力が所定値以上であることの判定、または、前記第1のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であること、または前記第2のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であることの3つの判定のうち、少なくとも1つの判定が成立したか否かを判断する判断手段と、前記3つの判定のうちの少なくとも1つの判定が成立した場合は、前記電気回路を流通する電力量を減少させるように、前記運転モードの変更をおこなうモード選択手段とを備えていることを特徴とするものである。
請求項9の発明は、請求項4ないし8のいずれかの構成に加えて、前記原動機から前記車輪に至る経路に動力伝達装置が設けられており、この動力伝達装置は第2の遊星歯車機構を有しており、この第2の遊星歯車機構は、回転要素同士の連結状態、および回転要素の停止・固定を制御することにより、前記動力伝達装置から出力されるトルクの向きを、前記車両を前進させる場合に前記動力伝達装置から出力されるトルクの向きとは逆向きにする後進モードを設定可能に構成されていることを特徴とするものである。
請求項10の発明は、請求項9の構成に加えて、前記第2の要素が第1のサンギヤで構成され、前記第3の要素が第1のリングギヤで構成され、前記第1の要素が、前記第1のサンギヤおよび第1のリングギヤに噛合された第1のピニオンギヤを公転・自転可能に保持する第1のキャリヤで構成されており、前記第2の遊星歯車機構には、シングルピニオン型の遊星歯車機構およびダブルピニオン式の遊星歯車機構が含まれており、前記シングルピニオン型の遊星歯車機構は、第2のサンギヤおよび第2のリングギヤと、前記第2のサンギヤおよび第2のリングギヤに噛合された第2のピニオンギヤを公転・自転可能に保持する第2のキャリヤとを有しており、前記ダブルピニオン型の遊星歯車機構は、第3のサンギヤを有しており、前記第2のリングギヤが、前記シングルピニオン型の遊星歯車機構と前記ダブルピニオン型の遊星歯車機構とで共用されており、前記第2のピニオンギヤが、前記シングルピニオン型の遊星歯車機構と前記ダブルピニオン型の遊星歯車機構とで共用されており、前記ダブルピニオン型の遊星歯車機構は、前記第3のサンギヤおよび第2のピニオンギヤに噛合する第3のピニオンギヤを有しており、この第3のピニオンギヤは、前記第2のキャリヤにより自転・公転可能に保持されており、前記原動機と前記第2のキャリヤとを選択的に連結・解放する第1のクラッチと、前記第2のモータ・ジェネレータと前記第3のサンギヤとを選択的に連結・解放する第2のクラッチと、前記第3のサンギヤを選択的に固定する第1のブレーキと、前記第2のキャリヤを選択的に固定する第2のブレーキとが設けられていることを特徴とするものである。
請求項1の発明によれば、原動機のトルクが遊星歯車機構の第1の要素に入力されるとともに、第3の要素から出力されたトルクが車輪に伝達されて、駆動力が発生する。そして、原動機のトルクを遊星歯車機構を経由させて車輪に伝達する場合、第1のモータ・ジェネレータと第2のモータ・ジェネレータとの間で、電気回路を経由して電力が授受される。そして、車両における要求駆動力が所定値以上であることの判定、または、第1のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であること、または第2のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であることの判定のうち、少なくとも1つの判定が成立した場合は、原動機の回転数が制御されて、第1のモータ・ジェネレータの回転数が低下されて、電気回路を流通する電力量が減少する。したがって、第1のモータ・ジェネレータおよび第2のモータ・ジェネレータの温度上昇を抑制できる。また、原動機の回転数を変化させる場合、原動機のパワーの変化を抑制するように、原動機の回転数が制御される。したがって、車両における駆動力不足を抑制できる。
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、2つの判定のうちの少なくとも一方の判定が成立した場合は、変速機の変速比を制御することにより、第1のモータ・ジェネレータの回転数を低下させ、電気回路における電力流通量が低下される。また、変速機の変速比を制御することより、要求駆動力の過不足を、一層抑制しやすくなる。
請求項3の発明によれば、原動機のトルクが遊星歯車機構の第1の要素に入力されるとともに、第3の要素から出力されたトルクが車輪に伝達されて、駆動力が発生する。そして、原動機のトルクを遊星歯車機構を経由させて車輪に伝達する場合、第1のモータ・ジェネレータと第2のモータ・ジェネレータとの間で、電気回路を経由して電力が授受される。そして、車両における要求駆動力が所定値以上であることの判定、または、第1のモータ・ジェネレータまたは第2のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であることの判定のうち、少なくとも一方の判定が成立した場合は、変速機の変速比を制御することにより、第1のモータ・ジェネレータの回転数を低下させ、電気回路の電力流通量が低下される。また、変速機の変速比を制御することにより、車両の駆動力不足を抑制できる。
請求項4の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、モードが切り換えられると、原動機から車輪に至る経路の動力伝達状態が変更される。
請求項5の発明によれば、請求項4の発明と同様の効果を得られる他に、原動機から出力されたトルクが動力伝達装置を経由して車輪に伝達される。また、いずれかの運転モードが選択されると、動力伝達装置の4個の回転要素が相対回転可能な状態となる。
請求項6の発明によれば、請求項5の発明と同様の効果を得られる他に、3つの判定のうちの少なくとも1つの判定が成立した場合は、電気回路を流通する電力量を減少させるモードを選択することができる。
請求項7の発明によれば、請求項6の発明と同様の効果を得られる他に、電気回路を流通する電力量を減少させるためにモードの変更をおこなう場合、原動機の出力を変更することなく、モードの変更がおこなわれる。
請求項8の発明によれば、原動機のトルクが遊星歯車機構の第1の要素に入力されるとともに、第3の要素から出力されたトルクが車輪に伝達されて、駆動力が発生する。そして、原動機のトルクを遊星歯車機構を経由させて車輪に伝達する場合、第1のモータ・ジェネレータと第2のモータ・ジェネレータとの間で、電気回路を経由して電力が授受される。そして、車両における要求駆動力が所定値以上であることの判定、または、第1のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であること、または第2のモータ・ジェネレータのトルクが熱定格制限トルク以上であることの判定のうち、少なくとも1つの判定が成立した場合は、モードが変更されて電気回路を流通する電力量が減少する。したがって、第1のモータ・ジェネレータおよび第2のモータ・ジェネレータの温度上昇を抑制でき、かつ、要求駆動力の過不足を抑制できる。
請求項9の発明によれば、請求項4ないし8のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、原動機から出力されたトルクが動力伝達装置を経由して車輪に伝達される。この動力伝達装置を構成する第2の遊星歯車機構の回転要素同士の連結状態、および回転要素の停止・固定を制御することにより、動力伝達装置から車輪に伝達されるトルクの向きを、車両を前進させる場合に動力伝達装置から出力されるトルクの向きとは逆にできる。請求項10の発明においても、請求項9の発明と同様の効果を得られる。
つぎに、この発明を図面を参照しながら具体的に説明する。図2は、後述する実施例の制御を実行可能な車両のパワートレーンの構成例を示す。図2に示された車両Veは、F・R(フロントエンジン・リヤドライブ;エンジン前置き後輪駆動)形式のハイブリッド車(以下、「車両」と略記する)である。図2に示された車両Veは、2種類の動力源を有している。2種類の動力源は、動力の発生原理が異なり、この実施例では、エンジン1およびモータ・ジェネレータ(MG2)2が動力源として搭載されているとともに、エンジン1およびモータ・ジェネレータ2から出力された動力が、共に同じ車輪(後輪)3に伝達されるように、パワートレーンおよび動力伝達経路が構成されている。車両Veの動力源であるエンジン1は、燃料を燃焼させて、その熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である。このエンジン1としては、内燃機関または外燃機関を用いることが可能であるが、この実施例では、エンジン1として内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いる場合について説明する。このエンジン1は、電子スロットルバルブ(図示せず)、燃料噴射装置(図示せず)、点火時期制御装置(図示せず)などの出力制御装置を有しており、少なくとも1つの装置を制御することにより、エンジン出力を制御することが可能である。
一方、他の動力源であるモータ・ジェネレータ2はケーシング4の内部に収納されており、モータ・ジェネレータ2は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備している。このモータ・ジェネレータ2は、ロータ5およびステータ6を有しており、ステータ6はケーシング4に固定されている。また、エンジン1およびモータ・ジェネレータ2から車輪3に至る動力伝達経路には変速機7が設けられているとともに、エンジン1から変速機7に至る動力伝達経路には、動力分配装置8が設けられている。図2に示された動力分配装置8は、シングルピニオン形式の遊星歯車機構を主体として構成されている。すなわち、動力分配装置8は、エンジン1の出力軸9と同軸上に配置されたサンギヤ10と、サンギヤ10と同軸上に配置されたリングギヤ11と、サンギヤ10およびリングギヤ11に噛合する複数のピニオンギヤ12を、自転かつ公転自在に保持したキャリヤ13とを有している。
これらのサンギヤ10およびリングギヤ11およびキャリヤ13は、相互に差動回転可能に構成されている。そして、キャリヤ13と出力軸9とが動力伝達可能に連結、具体的には一体回転するように連結されている。また、出力軸9の軸線方向において、エンジン1と動力分配装置8との間には、モータ・ジェネレータ(MG1)14が配置されている。モータ・ジェネレータ14は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備している。このモータ・ジェネレータ14は、ロータ15およびステータ16を有しており、ステータ16はケーシング4に固定されている。そして、ロータ15とサンギヤ10とが動力伝達可能に連結、具体的には一体回転するように連結されている。
一方、前記変速機7は、入力回転数を出力回転数で除した値である変速比を変更(制御可能)可能に構成されており、変速機7は有段変速機または無段変速機のいずれであってもよい。この実施例では、変速機7として有段変速機を用いた場合、より具体的には、遊星歯車機構を有する有段変速機を用いた場合について説明する。変速機7は、遊星歯車機構を構成する回転要素同士の動力伝達経路を切り替えたり、回転要素の回転・停止を制御するために、摩擦係合装置、具体的にはクラッチおよびブレーキを有している。ここで、摩擦係合装置としては、油圧制御式または電磁制御式のいずれを用いてもよいが、この実施例では、油圧制御式の摩擦係合装置を用いる場合について説明する。そして、これらの摩擦係合装置の係合・解放を制御することにより、例えば、ドライブポジションでは第1速ないし第6速を選択し、リバースポジションでは固定された変速比を選択可能に構成されている。そして、ドライブポジションが選択された場合は、第1速ないし第6速の変速段を、選択的に、かつ段階的に変更可能である。また、変速段を示す数字が大きくなるほど、変速機7の変速比が小さくなるように構成されている。
そして、変速機7の入力側には入力回転部材29が連結され、変速機7の出力側には出力回転部材30が連結されている。さらに、入力回転部材29と、動力分配装置8のリングギヤ11とが一体回転するように連結され、モータ・ジェネレータ2のロータ5が入力回転部材29に連結されている。前記出力回転部材30は、いわゆるプロペラシャフトであり、この出力回転部材30がデファレンシャル31のドライブピニオンシャフト(図示せず)に連結されている。また、デファレンシャル31のサイドギヤ(図示せず)にはドライブシャフト32が連結されており、ドライブシャフト32に車輪3が連結されている。
さらに、モータ・ジェネレータ2との間で電力の授受をおこなうことの可能な蓄電装置33が設けられているとともに、モータ・ジェネレータ2と蓄電装置33との間の回路にはインバータ34が設けられている。また、モータ・ジェネレータ14との間で電力の授受をおこなうことの可能な蓄電装置35が設けられているとともに、モータ・ジェネレータ14と蓄電装置35との間の回路にはインバータ36が設けられている。これらの蓄電装置33,35としては、二次電池、具体的にはバッテリ、キャパシタなどを用いることが可能である。また、インバータ34とインバータ36とを接続する電気回路39が設けられており、蓄電装置33と蓄電装置35との間で電力の授受をおこなうことが可能に構成されているとともに、モータ・ジェネレータ2とモータ・ジェネレータ14との間で、蓄電装置33,35を経由することなく、電力の授受をおこなうことが可能に構成されている。
一方、変速機7の制御、例えば、ドライブポジション、リバースポジション、ニュートラルポジションなどのシフトポジションを切り換える制御、ドライブポジションが選択された場合における変速段の自動変速制御などを実行するために、油圧制御装置37が設けられている。この油圧制御装置37は、油圧回路、マニュアルバルブ、ソレノイドバルブ、圧力制御弁などにより構成された公知の構成を有しており、油圧制御装置37により、各シフトポジションの切り換え、前述した摩擦係合装置の係合・解放が制御されるように構成されている。
つぎに、車両Veの制御系統について説明する。まず、電子制御装置38が設けられており、電子制御装置38には、シフトポジションセンサの信号、車速センサの信号、加速要求検知センサの信号、制動要求検知センサの信号、エンジン回転数センサの信号、蓄電装置33,35の充電量を検知するセンサの信号、モータ・ジェネレータ2,14の回転数を検知するセンサの信号、モータ・ジェネレータ2,14の温度を検知するセンサの信号、入力回転部材29および出力回転部材30の回転数を検知するセンサの信号、車両Veが走行する道路の勾配を検知するセンサの信号、車両Veの加速度を検知するセンサの信号などが入力される。これに対して、電子制御装置38からは、エンジン1を制御する信号、モータ・ジェネレータ2,14(インバータ34,36)を制御する信号、油圧制御装置37を制御する信号などが出力される。
図2に示す車両Veにおいて、エンジン1が運転されて、エンジントルクが動力分配装置8のキャリヤ13に伝達されると、モータ・ジェネレータ14により反力トルクが受け持たれて、エンジントルクがリングギヤ11に伝達される。そのリングギヤ11に伝達されたトルクが、入力回転部材29および変速機7および出力回転部材30およびデファレンシャル31を経由して車輪3に伝達されて、駆動力が発生する。前記動力分配装置8においては、サンギヤ10とキャリヤ13とリングギヤ11との差動作用により、入力要素であるキャリヤ13と、出力要素であるリングギヤ11との変速比を制御することが可能である。具体的には、反力トルクを受け持つモータ・ジェネレータ14の出力を制御することにより、エンジン回転数を無段階に(連続的に)制御することが可能である。つまり、動力分配装置8は無段変速機としての機能を有している。
このように、モータ・ジェネレータ14で反力トルクを受け持つ場合、各種の条件に基づいて、モータ・ジェネレータ14の回転方向が、正回転、停止、逆回転などに選択的に切り換えられる。例えば、モータ・ジェネレータ14が正回転して反力トルクを受け持つ場合、モータ・ジェネレータ14は回生制御され、モータ・ジェネレータ14で発生した電力を、蓄電装置35に充電したり、インバータ36,34を経由させてモータ・ジェネレータ2に供給し、モータ・ジェネレータ2を力行制御することが可能である。すなわち、モータ・ジェネレータ2が電動機として駆動され、そのトルクが入力回転部材29、変速機7、デファレンシャル31を経由して車輪3に伝達される。これに対して、モータ・ジェネレータ14が逆回転して反力トルクを受け持つ場合、モータ・ジェネレータ14は力行制御される。モータ・ジェネレータ14に供給する電力は、蓄電装置35またはモータ・ジェネレータ2から供給することが可能である。すなわち、モータ・ジェネレータ2を回生制御させて、その電力を、インバータ34,36を経由させてモータ・ジェネレータ14に供給することも可能である。
ここで、動力分配装置8の変速比を制御する概念について説明すると、エンジン1の燃費を向上させることを目的として、エンジン1の運転状態と、動力分配装置8の変速比とを協調制御するものである。例えば、加速要求(アクセル開度)および車速に基づいて、車両Veにおける要求駆動力が求められる。これは、例えば予め用意したマップから求められる。その要求駆動力と車速とからエンジン1の要求出力が算出され、その要求出力を最小の燃費で出力する目標エンジン回転数が、マップを使用して求められる。そして、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、モータ・ジェネレータ14の出力(トルク×回転数)が制御される。この制御と並行して、実エンジン出力を目標エンジン出力に近づけるように、エンジン1の電子スロットルバルブの開度などが制御される。このように、動力分配装置8の変速比を制御することにより、エンジン1の運転状態を最適燃費線に沿って制御することが可能である。
また、前述したように、モータ・ジェネレータ2を電動機として駆動させ、モータ・ジェネレータ2のトルクを、変速機7を経由させて車輪3に伝達する制御を実行可能である。つまり、車輪3にトルクを伝達して駆動力を発生させる場合、エンジン1またはモータ・ジェネレータ2の少なくとも一方のトルクを車輪3に伝達可能であり、いずれの動力源のトルクまたは両方の動力源のトルクを伝達するかが、電子制御装置38に入力される信号およびデータに基づいて判断される。
これに対して、車両Veが惰力走行する場合は、車両Veの運動エネルギが変速機7および動力分配装置8を経由してエンジン1に伝達され、エンジンブレーキ力が発生する。また、車両Veの惰力走行時に入力回転部材29に伝達された運動エネルギの一部をモータ・ジェネレータ2に伝達し、このモータ・ジェネレータ2で回生制動力を発生させ、発生した電力を蓄電装置33に充電することも可能である。
つぎに、図2に示された車両Veにおいて実行可能な制御の一例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。この実施例1は、請求項1の発明に対応する。図1のフローチャートは、例えば、車両Veにおける負荷が高い使用条件となる場合に実行されるものである。車両Veの負荷が高い場合には、車両Veがトラックであり、かつ、トラックがトレーラーを牽引して走行する(積載貨物重量が大重量である)場合、車両Veが急坂路を登坂する場合などが含まれる。まず、「エンジン出力の補正を禁止するフラグ」がオンされているか否かが判断される(ステップS1)。この「エンジン出力の補正を禁止する」の技術的意味については後述する。
このステップS1で否定的に判断された場合は、電子制御装置38に入力される信号、および電子制御装置38に記憶されているデータに基づいて、車両Veにおける負荷が計算される(ステップS2)。このステップS2の処理では、アクセル開度、車速、道路勾配、車両Veの加速度などの信号が用いられる。このステップS2についで、要求駆動力が所定値以上であるか否か、言い換えれば、モータ・ジェネレータ2,14が高負荷状態で制御されるか否かが判定される(ステップS3)。このステップS3の処理は、例えば、モータ・ジェネレータ2,14の温度に基づいて判断可能である。そして、ステップS3で肯定的に判断された場合は、モータ・ジェネレータ14のトルクTgの絶対値、またはモータ・ジェネレータ2のトルクの絶対値Tmのうちの少なくとも一方が、「所定値」を越えているか否かが判断される(ステップS4)。
この実施例では、モータ・ジェネレータ2,14が力行制御される場合のトルクを正のトルクとして表し、モータ・ジェネレータ2,14が回生制御される場合のトルクを負のトルクとして表されており、正のトルクおよび負のトルクの絶対値を判定している。また、ステップS4で用いる「所定値」は、モータ・ジェネレータ2,14の熱定格制限トルクに応じた値を意味する。つまり、モータ・ジェネレータ2,14は、回生制御または力行制御のいずれが実行される場合においても、高トルクであるほど大電流となり、温度が上昇しやすくなるという特性を有している。図1の制御は基本的にはモータ・ジェネレータ2,14の負荷増大、言い換えれば、温度上昇を抑制するための制御であり、したがって、ステップS4では、モータ・ジェネレータ2,14のトルクが、連続運転可能なトルクを越えているか否かを判断している。ここで、「連続運転可能なトルク」とは、モータ・ジェネレータの過熱を招くことなく、所定時間以上、そのモータ・ジェネレータを運転可能なトルクである。
そして、ステップS3およびステップS4で共に肯定判断されるということは、モータ・ジェネレータ2,14の負荷を軽減させて温度上昇を抑制することが好ましいと考えられる。そこで、ステップS4で肯定的に判断された場合は、エンジントルクの反力を受け持つモータ・ジェネレータ14の回転数Ngが零を越えており、かつ、正回転しているか否かが判断される(ステップS5)。このステップS5で肯定的に判断された場合は、次式(1)の計算を実行する(ステップS6)。
DsrNe=DsrNe−ΔNe ・・・(1)
この式(1)において、DsrNeは、目標エンジン回転数であり、ΔNeはエンジン回転数の変化率である。つまり、ステップS6では、実エンジン回転数を低下させる(零に近づける)ような目標エンジン回転数が算出される。
このステップS6の処理を、図3の共線図に基づいて説明する。この図3の共線図においては、エンジン回転数、モータ・ジェネレータ14の回転数、リングギヤ11の回転数が示されている。図3の共線図において、モータ・ジェネレータ14とリングギヤ11との間にエンジン1が配置されている。図3において、「正」は正回転を示し、「逆」は逆回転を示し、「零」は停止を意味する。また、正回転とは、エンジン1の回転方向と同じ回転方向を意味する。図3の共線図に示すように、ステップS6では、エンジン回転数を実線から破線のように低下させる目標エンジン回転数が求められる。このステップS6で目標エンジン回転数を算出する場合、リングギヤ11の回転数は変化させず、かつ、変速機7の変速比も変更しないことを前提とする。さらに、このステップS6で目標エンジン回転数を算出する場合、目標エンジントルクも選択される。すなわち、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に制御する場合を想定し、車両Veの駆動力が変化しないように(等パワーとなるように)、実エンジントルクに応じた目標エンジントルクを選択する。この目標エンジントルクは、予めマップ化して電子制御装置38に記憶されている。具体的には、エンジントルクを増加させる傾向となる。このように、ステップS6の処理では、動力分配装置8の変速比を小さくさせるアップシフトが想定される。
一方、前記ステップS5で否定的に判断された場合は、エンジントルクの反力を受け持つモータ・ジェネレータ14が逆回転し、かつ、力行制御されていることを意味する。そこで、ステップS5で否定的に判断された場合は、次式(2)の計算を実行する(ステップS7)。
DsrNe=DsrNe+ΔNe ・・・(2)
このステップS7では、実エンジン回転数を上昇させるような目標エンジン回転数が算出される。
このステップS7の処理を、図4の共線図に基づいて説明する。図4の共線図に示すように、ステップS7では、エンジン回転数を実線から破線のように上昇させる目標エンジン回転数が求められる。このステップS7で目標エンジン回転数を算出する場合も、リングギヤ11の回転数は変化させず、かつ、変速機7の変速比も変更しないことを前提とする。さらに、このステップS7においては、さらに、このステップS7で目標エンジン回転数を算出する場合、目標エンジントルクも選択される。すなわち、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に制御する場合を想定し、エンジンパワーが変化しないように、実エンジントルクに応じた目標エンジントルクを選択する。具体的には、エンジントルクを低下させる傾向となる。このように、ステップS7の処理では、動力分配装置8の変速比を大きくするダウンシフトが想定される。なお、ステップS6,S7の処理に対応する目標エンジントルクは、予めマップ化して電子制御装置38に記憶されている。このように、ステップS6またはステップS7で求められる目標エンジン回転数を選択すると、モータ・ジェネレータ14の回転数を零に近づけることが可能であり、その負荷の軽減が想定される。
上記のステップS6またはステップS7についで、次式(3)が成立するか否かが判断される(ステップS8)。
DsrPe<PeMax(DsrNe) ・・・(3)
式(3)において、DsrPeは要求エンジン出力であり、PeMaxは最大エンジン出力である。また、PeMax(DsrNe)は、目標エンジン回転数に対応する最大エンジン出力である。ここで、要求エンジン出力DsrPeは、例えば、要求駆動力などに基づいて求められる。つまり、目標エンジン回転数DsrNeに応じた最大エンジン出力PeMaxが、要求エンジン出力DsrPeを越えるか否かが、ステップS8で判断されている。このステップS8で肯定的に判断された場合は、必要以上にエンジン出力が高められることになるため、「ステップS6またはステップS7で求められた値に基づいて、エンジン出力を補正すること」を禁止するフラグがオンされ(ステップS9)、この制御ルーチンを終了する。この「ステップS6またはステップS7で求められた値に基づいて、エンジン出力を補正すること」が、前述したステップS1における「エンジン出力を補正すること」の技術的意味である。
これに対して、ステップS8で否定的に判断された場合は、ステップS6またはステップS7で求められた値に基づいて、エンジン出力を制御することが許可されて、この制御ルーチンを終了する。なお、ステップS3で否定的に判断された場合は、モータ・ジェネレータ2,14が高負荷状態で制御されていないので、温度上昇の可能性は低いため、制御ルーチンを終了する。また、ステップS4で否定的に判断された場合は、モータ・ジェネレータ2,14が高負荷制御されているものの、そのトルクは熱定格で許容された範囲であるため、この制御ルーチンを終了する。さらにまた、ステップS1において、肯定的に判断された場合もこの制御ルーチンを終了する。
つぎに、電気回路39における電力流通量と、回転数の比iとの関係を、図5に基づいて説明する。ここで、「回転数の比i」とは、エンジン回転数を、変速機の出力回転数で除した値である。この図5は、図2に示された車両Veにおいて、モータ・ジェネレータ2とモータ・ジェネレータ14との間における電気エネルギの伝達効率の一例を示す図である。図5においては、縦軸には電気エネルギの伝達効率が示され、横軸には「回転数の比i」が示されている。モータ・ジェネレータ14が停止された場合を、電気エネルギの伝達効率が1.0として表している。電気エネルギの伝達効率が1.0未満になるということは、電気回路39における電気流通量が増加すること、つまり、車両Veにおける全体としての電気依存度が大きく(高く)なることを意味する。また、図5の線図には、変速機7の各変速段に対応する特性線が示されている。各変速段に対応する特性線は、上向きに突出された山形の特性を備えている。各変速段に対応する特性線の頂点で、いずれも、電気エネルギの伝達効率が1.0となっている。また、各変速段に対応する特性線の頂点を境として、左側の領域がモータ・ジェネレータ14が逆回転し、かつ、力行制御されることを示し、右側領域がモータ・ジェネレータ14が正回転し、かつ、回生制御されることを示している。
図1の制御例では、モータ・ジェネレータ14が正回転で回生制御されているか、または逆回転で力行制御されているかに関わりなく、かつ、変速機7の変速段に関わりなく、かつ、変速段を変更することなく、目標エンジン回転数を制御して、横軸に示された「回転数の比」を変更し、電気エネルギの伝達効率を1.0に近づけることが可能である。つまり、回生制御されるモータ・ジェネレータの回生発電量を低減し、力行制御するモータ・ジェネレータに対する電力供給量を低減することができる。なお、図5には、第1速を例として、モータ・ジェネレータ14が逆回転し、かつ、力行制御されている場合において、回転数比を位置A1から位置B1に変更する例が示されている。
つぎに、図1の制御例に対応するタイムチャートの一例を、図6に基づいて説明する。まず、時刻t1以前においてはアクセル開度が略一定であり、かつ、車速が略一定であり、かつ、モータ・ジェネレータの高負荷判定がオフされている。そして、時刻t1でアクセル開度が急激に増加すると、エンジントルクTeが増加し、かつ、エンジン出力Peが正側に増加する。また、時刻t1において、モータ・ジェネレータ2のトルクTmが正側に増加し(力行制御)、モータ・ジェネレータ2の出力Pmが正側に増加する。さらに、時刻t1において、モータ・ジェネレータ14のトルクが負側で増加し、モータ・ジェネレータ14の出力Pgが正側に増加する。なお、時刻t1以降は、モータ・ジェネレータ2の回転数が上昇している。さらに、時刻t2において、モータ・ジェネレータの高負荷判定が成立すると、エンジンパワーを等パワーに維持しながら、エンジン回転数を低下させ、かつ、エンジントルクが上昇される。
すると、エンジントルクの反力を受け持つモータ・ジェネレータ14のトルクは負側で増大するが、そのモータ・ジェネレータ14の回転数が低下するため、結果として、モータ・ジェネレータ14の出力Pgが負側で低下する。このように、モータ・ジェネレータ14の出力Pgが負側で低下することにともない、そのモータ・ジェネレータ14の発電電力により仕事をする(力行制御される)モータ・ジェネレータ2の出力Pmも正側で低下する。ついで、時刻t3でモータ・ジェネレータ2のトルクの絶対値が、ステップS4で説明した所定値以下になると、エンジン回転数が略一定に制御され、かつ、エンジントルクも略一定に制御されている。これと並行して、モータ・ジェネレータ2,14の回転数がほぼ一定に制御される。その結果、モータ・ジェネレータ2の力行トルクが略一定になり、かつ、モータ・ジェネレータ14の回生トルクも略一定になる。
以上のように、図1の制御例を実行して、ステップS4で肯定判断された場合は、ステップS6,S7において、モータ・ジェネレータ14の回転数を零に近づけるように、目標エンジン回転数DsrNeが求められる。したがって、エンジントルクの反力を受け持つために、力行制御または回生制御されるモータ・ジェネレータ14の負荷が軽減される。また、このようにしてモータ・ジェネレータ14の回転数が低下されると、モータ・ジェネレータ14に電力を供給するモータ・ジェネレータ2の負荷、あるいは、モータ・ジェネレータ14から電力が供給されるモータ・ジェネレータ2の負荷が軽減される。したがって、モータ・ジェネレータ2,14の温度上昇を抑制でき。モータ・ジェネレータ2,14の耐久性が向上する。また、目標エンジン回転数DsrNeを求める場合に、エンジンパワーが変化しないように、目標エンジントルクが求められる。したがって、車両Veにおける要求駆動力を満たすことができ、ドライバビリティの低下を抑制できる。なお、図1に示す制御例は、モータ・ジェネレータ2とモータ・ジェネレータ14との間で電力の授受をおこなうことを前提としている。言い換えれば、蓄電装置33,35に充電せず、かつ、蓄電装置33,35からモータ・ジェネレータ2,14に電力を供給しないことを前提としている。なお、ステップS3で肯定的に判断された場合に、前述したステップS4を実行することなく、ステップS5に進むルーチンを採用することも可能である。さらにステップS3またはステップS4の少なくとも一方で肯定判断された場合に、ステップS5に進むような制御ルーチンを採用することも可能である。
ここで、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS2,S3,S4が、この発明における判断手段に相当し、ステップS5,S6,S7が、この発明の原動機制御手段に相当する。また、図2に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、動力分配装置8を構成する遊星歯車機構が、この発明の遊星歯車機構に相当し、サンギヤ10およびリングギヤ11およびキャリヤ13が、この発明における「遊星歯車機構の回転要素」に相当し、キャリヤ13が、この発明の第1の要素(入力要素)に相当し、サンギヤ10が、この発明の第2の要素(反力要素)に相当し、リングギヤ11が、この発明の第3の要素(出力要素)に相当し、内燃機関および外燃機関を含むエンジン1が、この発明の原動機に相当し、変速機7が、この発明の変速機に相当し、モータ・ジェネレータ14が、この発明の第1のモータ・ジェネレータに相当し、車輪3が、この発明の車輪に相当し、モータ・ジェネレータ2が、この発明の第2のモータ・ジェネレータに相当し、インバータ34,36および電気回路39が、この発明の電気回路に相当する。
つぎに、図2に示された車両Veにおいて実行可能な制御例を図7に基づいて説明する。この実施例2は、請求項3の発明に対応する。この図7は、電気系統の負荷低減、つまり、モータ・ジェネレータ2とモータ・ジェネレータ14との間における電力流通量を低減させることを目的として、変速機7の変速比を制御する構成となっている。図7において、ステップS2,S3,S4の処理は、図1に示されたステップS2,S3,S4の処理と同じである。図7においてステップS4で肯定的に判断された場合は、変速機7における最適変速段(変速比)が判定される(ステップS11)。ここで、最適変速段とは、モータ・ジェネレータ2とモータ・ジェネレータ14との間における電力流通量を可及的に少なくすることができる変速段を意味しており、例えば、図8の特性線図を用いて判定される。この図8の特性線図は、図5の特性線図の一部を拡大して示しており、図8においては、第1速の特性線および第2速の特性線が示されている。そして、前述した回転数比iを達成する場合において、電気エネルギの伝達効率が1.0に近くなる方の変速段が、最適変速段として判定される。この図8の特性線図においては、第2速の特性線における位置C1よりも、第1速の特性線における位置C2の方が、最適変速段として判定されることを示している。なお、位置C1においては、モータ・ジェネレータ14が正回転で回生制御され、位置C2においては、モータ・ジェネレータ14は、逆回転で力行制御される。
このステップS11についで、現在の変速段が第2速であるとすると、その第2速から第1速に変速することが可能であるか否かが判断される(ステップS12)。このステップS12においては、モータ・ジェネレータ2,14で許容される最大回転数、ピニオンギヤ12で許容される最大回転数(自転回転数)などが用いられる。モータ・ジェネレータ2,14で許容される最大回転数は、その定格および耐久性などに基づいて決定される。また、ピニオンギヤ12で許容される最大回転数は、動力分配装置8を構成する各ギヤの耐久性に基づいて決定される。ステップS12で肯定的に判断された場合は、変速によってピニオンギヤ12およびモータ・ジェネレータ2,14の耐久性が低下する可能性が少ないため、変速機7の変速段を第2速から第1速にダウンシフトし(ステップS13)、この制御ルーチンを終了する。これに対して、ステップS12で否定的に判断された場合は、変速によってピニオンギヤ12およびモータ・ジェネレータ2,14の耐久性が低下する可能性があるため、変速機7の変速段を現状の第2速に保持し(ステップS14)、この制御ルーチンを終了する。
図7の制御例を実行する場合に、前提となる変速機7の具体的な構成例を、図9に基づいて説明する。すなわち、図9には変速機7の構成の一部として、第1速および第2速に関連する回転要素が示されている。この変速機7は、同軸上に配置された回転部材17,18を有しているとともに、2組の遊星歯車機構19,20を有している。まず、遊星歯車機構19はシングルピニオン形式の遊星歯車機構であり、遊星歯車機構19は、サンギヤ21と、サンギヤ21と同軸上に配置されたリングギヤ22と、サンギヤ21およびリングギヤ22に噛合する複数のピニオンギヤ23を、自転かつ公転自在に保持したキャリヤ24とを有している。そして、キャリヤ24と回転部材18とが一体回転するように連結されているとともに、サンギヤ21が回転部材17と一体回転するように連結されている。
また、遊星歯車機構20はシングルピニオン形式の遊星歯車機構であり、遊星歯車機構20は、サンギヤ25と、サンギヤ25と同軸上に配置されたリングギヤ26と、サンギヤ25およびリングギヤ26に噛合する複数のピニオンギヤ27を、自転かつ公転自在に保持したキャリヤ28とを有している。そして、キャリヤ28と、遊星歯車機構19のリングギヤ22とが一体回転するように連結されているとともに、サンギヤ25が回転部材17と一体回転するように連結されている。さらに、遊星歯車機構19のリングギヤ22、および遊星歯車機構20のキャリヤ28の回転・停止を制御するブレーキB1が設けられている。さらに、遊星歯車機構20のリングギヤ26の回転・停止を制御するブレーキB2が設けられている。これらのブレーキB1,B2が、図2に示された油圧制御装置37により制御される。摩擦式ブレーキまたは電磁式ブレーキのいずれを用いてもよい。そして、回転部材17が入力回転部材29に連結され、回転部材18が出力回転部材30に連結されている。
そして、変速機7で第2速から第1速にダウンシフトする場合における回転要素の状態を図10の共線図に基づいて説明する。図10の共線図において、変速機7では、サンギヤ21,25とリングギヤ26との間にキャリヤ24が配置され、キャリヤ24とリングギヤ26との間にリングギヤ22およびキャリヤ28が配置されている。まず、第2速を設定する場合は、ブレーキB2が係合され、かつ、ブレーキB1が解放される。すると、変速機7においては、実線で示すようにブレーキB2によりリングギヤ26が固定される。また、キャリヤ24が正回転し、かつ、サンギヤ21,25も正回転する。ここで、キャリヤ24の回転数は、サンギヤ21,25の回転数よりも低い。すなわち、変速機7の入力回転部材29の回転数に対して、出力回転部材30の回転数が減速される。また、モータ・ジェネレータ14が正回転され、かつ、回生制御されて、エンジントルクの反力を受け持っている。
つぎに、第2速から第1速にダウンシフトする場合は、ブレーキB1が係合され、かつ、ブレーキB2が解放される。すると、破線で示すように、変速機7のリングギヤ22およびキャリヤ28が停止され、リングギヤ26が逆回転する。そして、出力回転部材30の回転数は第2速の場合と同じであるが、入力回転部材29の回転数は、第2速の場合よりも高くなる。また、エンジン回転数は一定に制御されており、モータ・ジェネレータ14の回転数は、第2速の場合よりも第1速の場合の方が低回転数となる。図10の共線図では、第1速においても、モータ・ジェネレータ14が正回転し、かつ、力行制御されてエンジントルクの反力が受け持たれている。
つぎに、実施例2に対応するタイムチャートの一例を図11に基づいて説明する。時刻t1以前においては、高負荷判定がオフされており、変速機7の変速段として第2速が選択されている。また、時刻t1以前においては、エンジン回転数Neが略一定であり、かつ、モータ・ジェネレータ14が正回転し、かつ、モータ・ジェネレータ2も正回転している。モータ・ジェネレータ14の回転数Ngはエンジン回転数よりも高く、エンジン回転数は、モータ・ジェネレータ2の回転数Nmよりも高い。この時刻t1以前においては、エンジントルクおよびモータ・ジェネレータ2のトルクが零ニュートンメートルよりも高く、かつ、略一定に制御されている。また、モータ・ジェネレータ14は回生制御され、かつ、その回生トルクも略一定に制御されている。また、エンジン出力Peは零キロワットよりも高く、かつ、略一定に制御され、モータ・ジェネレータ2の出力Pmも零キロワットよりも高く、かつ、略一定に制御されている。また、エンジン出力よりもモータ・ジェネレータ2の出力の方が低い。一方、モータ・ジェネレータ14の出力は負の出力となっている。
そして、時刻t1で高負荷判定がオフからオンに切り換えられ、時刻t2で、変速機の変速段が第2速から第1速にダウンシフトされる。すると、モータ・ジェネレータ2の回転数が上昇を開始し、かつ、モータ・ジェネレータ14の回転数が低下し始める。すなわち、変速機7で変速が開始される。なお、エンジン回転数は略一定に維持されている。この時刻t2以降、モータ・ジェネレータ2のトルクが低下するとともに、モータ・ジェネレータ14の回生トルクは略一定に制御されている。また、時刻t2以降、モータ・ジェネレータ2の出力は低下し、モータ・ジェネレータ14の出力は零キロワットに近づいている。そして、変速機7の変速途中で、モータ・ジェネレータ2の回転数がエンジン回転数よりも高くなるとともに、モータ・ジェネレータ14の回転数がエンジン回転数よりも低くなる。その後、モータ・ジェネレータ2のトルクが負のトルクとなり、かつ、出力も負の値となる。
そして、時刻t3でモータ・ジェネレータ2の回転数が、第1速における変速比および車速に対応する回転数に同期した時点で、ダウンシフトが終了し、以後、モータ・ジェネレータ2,14の回転数が略一定に制御される。また、時刻t3以降、モータ・ジェネレータ2のトルクは負の値で略一定に制御されている。さらに、時刻t3以降、モータ・ジェネレータ2の出力は負の値で略一定に制御され、かつ、モータ・ジェネレータ14の出力は正の値で略一定に制御されている。このように、実施例2においては、変速機7の変速比を制御することにより、モータ・ジェネレータ14の回転数を低下させ、電気回路39における電力流通量を低下させることができる。また、変速機7での変速にともない、モータ・ジェネレータ2のトルクは正の値から負の値に変化しているが、変速機7でダウンシフトが実行されるため、変速機7の入力トルクが増幅されて出力されるため、要求駆動力の過不足を抑制できる。なお、第2速から第1速にダウンシフトする場合を挙げているが、他の変速段同士の間でダウンシフトして、電気回路39における電力流通量を低減することも可能である。また、図8の特性線図では、変速機7でダウンシフトを実行する場合について説明しているが、変速機7でアップシフトを実行することにより、電気回路39における電力流通量を低減させることも可能である。図7に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS2,S3,S4が、この発明の判断手段に相当し、ステップS11,S12,S13が、この発明の変速比制御手段に相当する。
図2に示された車両Veで実行可能な他の制御例を、図12に基づいて説明する。この実施例3は、請求項1ないし3の発明に対応している。この実施例3は、図1のフローチャートと図7のフローチャートとを組み合わせたものであり、図1および図7のフローチャートと同じ処理については、図1および図7と同じステップ番号を付してある。図12においては、ステップS2からステップS8に進み、ステップS8で肯定的に判断された場合は、前述したステップS11に進むルーチンとなっている。つまり、この実施例3においては、ステップS8で肯定的に判断された場合は、図1で説明したステップS9の処理をおこなうことに代えて、ステップS11ないしステップS14の処理が実行される。この実施例3においても、実施例1および実施例2と同様の処理においては、実施例1および実施例2と同様の効果を得られる。
つぎに、図1により説明した実施例1の制御を実行可能な車両のパワートレーンの他の構成例を、図13に基づいて説明する。この図13に示された車両Veにおいて、図2に示された車両Veの構成と同じ構成部分については、図2と同じ符号を付してある。図13に示された車両Veでは、変速機40の構成が、変速機7の構成と相違している。この変速機40は、2組の遊星歯車機構41,42を有している。これらの遊星歯車機構41,42はいずれもシングルピニオン型の遊星歯車機構であり、遊星歯車機構41は、外歯歯車であるサンギヤ43と、そのサンギヤ43に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ44と、これらのサンギヤ43およびリングギヤ44に噛み合っているピニオンギヤ45を、自転自在および公転自在に保持するキャリヤ46とを回転要素として有している。この実施例では前記出力軸9の外側に、中空軸47が相対回転可能に取り付けられており、この中空軸47の外周にサンギヤ43が形成されている。また、中空軸47に対して、モータ・ジェネレータ2のロータ5および動力分配装置8のリングギヤ11が一体回転するように設けられている。さらに、キャリヤ46が出力回転部材30と一体回転するように連結されている。
また、遊星歯車機構42は、外歯歯車であるサンギヤ48と、そのサンギヤ48に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ49と、これらのサンギヤ48およびリングギヤ49に噛み合っているピニオンギヤ50を自転自在および公転自在に保持するキャリヤ51とを回転要素として有している。そして、遊星歯車機構41と遊星歯車機構42とは、そのサンギヤ43,48同士が一体回転するように連結され、またキャリヤ46とリングギヤ49とが一体回転するように連結されることにより、2組の回転要素同士の連結を有する複合遊星歯車機構を構成している。そして、この複合遊星歯車機構で、互いに連結されたサンギヤ43,48により1個の回転要素が構成され、互いに連結されたキャリヤ46およびリングギヤ49により1個の回転要素が構成され、キャリヤ51により1個の回転要素が構成され、全部で4個の回転要素が構成されている。
また、変速機40を構成する回転要素同士の連結状態を制御し、かつ、回転要素の回転・停止を制御するためのクラッチおよびブレーキが設けられている。具体的には、リングギヤ44を選択的に固定するブレーキB1が設けられている。また、出力軸9とキャリヤ51とを選択的に連結するクラッチC1が設けられている。さらに、リングギヤ44と中空軸47とを選択的に連結する他のクラッチC2が設けられている。これらのクラッチC1,C2およびブレーキB1としては、油圧制御式のクラッチおよびブレーキを用いること、または、電磁制御式のクラッチおよびブレーキを用いることが可能である。この実施例では、油圧制御式のクラッチおよびブレーキを用いている場合について説明し、クラッチC1,C2およびブレーキB1の係合・解放を制御する油圧室の油圧を制御するアクチュエータとして、油圧制御装置37が設けられている。このように、図13のパワートレーンにおいては、エンジン1と変速機40との間には、中空軸47およびキャリヤ51を並列に配置して構成される2系統の動力伝達経路が形成されている。言い換えれば、変速機40においては、中空軸47およびキャリヤ51が入力部材として機能し得る。
つぎに、図13に示された車両Veの作用について説明する。この車両Veにおいては、車両Veが前進走行するための走行モードとして3種類のモードを設定することができる。ここで走行モードとは、エンジン1から出力回転部材30にトルクを伝達する経路を制御するパターン、変速機40における回転要素同士の連結状態および回転要素の回転・停止を制御するパターン、クラッチやブレーキを制御するパターンなどを意味する。具体的には、これらの走行モードとして、低速(Lo)モードと中速(Mid)モードと高速(Hi)モードとを選択的に切り換え可能であり、これらのモードの切り換えにより、ブレーキB1および各クラッチC1,C2の係合・解放状態が制御される。
図14には、各走行モード(mode)と、各ブレーキB1およびクラッチ,C1,C2の係合・解放の状態との関係を示してある。なお、図14で「○」印はクラッチまたはブレーキが係合されることを示し、「×」印はクラッチやブレーキが解放されることを示す。まず、低速(Lo)モードは、ブレーキB1が係合され、かつ、各クラッチC1,C2を解放させて設定される。そして、エンジントルクが動力分配装置8のキャリヤ13に入力され、モータ・ジェネレータ14が正回転している場合は、そのモータ・ジェネレータ14が回生制御されて、反力トルクを受け持ち、リングギヤ11から出力されたトルクが、変速機40のサンギヤ43に伝達される。また、モータ・ジェネレータ14から供給される電力により、モータ・ジェネレータ2が力行制御され、モータ・ジェネレータ2のトルクがサンギヤ43に付加される。ここで、変速機40においては、ブレーキB1より固定されたリングギヤ44が反力要素となり、キャリヤ46から出力されたトルクが出力回転部材30に伝達される。つまり、変速機40における入力要素であるサンギヤ43の回転数に対して、出力要素であるキャリヤ46の回転数の方が低速となり、トルクが伝達される。つまり、変速機40が減速機として働く。
一方、低速モードが選択される車速よりも高速になると、中速(Mid)モードが選択される。この中速(Mid)モードは、図14に示すように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。すなわち、低速(Lo)モードを設定していたブレーキB1を解放するとともに、クラッチC1を係合させることになる。そのクラッチC1は、エンジン1とキャリヤ51とを連結するものであるから、運転モードの切り替えに伴うショックを防止するために、いわゆる同期切替を実行することが好ましい。その同期切替とは、クラッチC1の係合・解放の状態の変更に伴っていずれかの回転部材の回転数に変化を生じさせない切替制御であり、具体的には、エンジン回転数もしくはキャリヤ13の回転数と、キャリヤ51との回転数とを一致させた状態で、クラッチC1を係合もしくは解放させる。
この中速(Mid)モードでは、クラッチC1が係合されて、エンジン1と変速機40のキャリヤ51とが一体回転する。そして、エンジントルクが変速機40のキャリヤ51に伝達されるとともに、モータ・ジェネレータ2が正回転し、かつ、回生制御されて反力トルクを受け持ち、変速機40のリングギヤ49から出力されたトルクが出力回転部材30に伝達される。また、エンジントルクがキャリヤ13にも伝達されており、モータ・ジェネレータ14が正回転で力行制御されて反力を受け持ち、リングギヤ11から出力されたトルクが、変速機40のサンギヤ48に伝達される。このように、エンジントルクは、変速機40に対して、サンギヤ48およびキャリヤ51の2系統から入力される。
さらに、高速(Hi)モードは、クラッチC2を係合させ、かつ、クラッチC1およびブレーキB1を解放して設定される。ここで、動力分配装置8においては、キャリヤ13にエンジントルクが入力され、モータ・ジェネレータ14が正回転し、かつ、モータ・ジェネレータ14が発電機として駆動することで反力トルクが受け持たれ、リングギヤ11からトルクが出力される。このリングギヤ11のトルクが、中空軸47を経由してサンギヤ43,48に伝達される。ここで、遊星歯車機構41では、サンギヤ43とリングギヤ44とがクラッチC2によって連結されているので、遊星歯車機構41の全体が一体となって回転する。さらに、遊星歯車機構41に対して遊星歯車機構42のサンギヤ48、およびキャリヤ46が連結されているので、遊星歯車機構42も全体が一体となって回転する。すなわち、遊星歯車機構41,42は、それらの全体が一体回転し、特に変速作用は生じない。つまり、変速機40の変速比が「1」となる。また、モータ・ジェネレータ14で発生した電力がモータ・ジェネレータ2に供給され、モータ・ジェネレータ2が力行制御され、そのトルクがサンギヤ43,48に伝達される。
この図13のパワートレーンを有する車両Veにおいても、前述した図1の制御を実行可能である。すなわち、変速機40の動力伝達状態を制御するモードを変更することなく、エンジン1の回転数を制御することにより、電気回路39における電力流通量の増加を抑制することができる。図13のパワートレーンを有する車両Veにおいて、図1の制御例を実行する例を、図15に基づいて説明する。図15は、図5と同じ意味を持つ線図であり、図15では、低速モード、中速モード、高速モードにおいて、変速比と電気エネルギの伝達効率との関係が示されている。変速比とは、エンジン回転数を出力回転部材30の回転数で除した値である。
各モードに対応する特性線は、上向きに突出された山形の特性を備えている。各モードに対応する特性線の頂点で、いずれも、電気エネルギの伝達効率が1.0となっている。また、各モードに対応する特性線の頂点を境として、左側の領域がモータ・ジェネレータ14が逆回転し、かつ、力行制御されることを示し、右側領域がモータ・ジェネレータ14が正回転し、かつ、回生制御されることを示している。図1の制御例では、モータ・ジェネレータ14が正回転で回生制御されているか、または逆回転で力行制御されているかに関わりなく、かつ、変速機7のモードに関わりなく、かつ、変速機7における変速比を変更することなく、目標エンジン回転数を制御して、横軸に示された「回転数の比」を変更し、電気エネルギの伝達効率を1.0に近づけることが可能である。つまり、回生制御されるモータ・ジェネレータの回生発電量を低減し、力行制御するモータ・ジェネレータに対する電力供給量を低減することができる。なお、図15には、低速モードを例として、モータ・ジェネレータ14が逆回転し、かつ、力行制御されている場合において、回転数比を位置D1から位置D2に変更する例が示されている。また、低速モードを示す特性線と、中速モードを示す特性線との境界に示された破線E1は、低速モードと中速モードとを切り換える基準となる変速比である。さらに、中速モードを示す特性線と、高速モードを示す特性線との境界に示された破線E2は、高速モードと中速モードとを切り換える基準となる変速比である。
つぎに、図13のパワートレーンを有する車両Veにおいて、図1の制御例を実行する場合に対応する共線図の一例を、図16に示す。図16の共線図において、モータ・ジェネレータ14とモータ・ジェネレータ2との間に、リングギヤ49およびキャリヤ46が位置しており、モータ・ジェネレータ14と、リングギヤ49およびキャリヤ46との間に、リングギヤ44が位置している。また、モータ・ジェネレータ2と、リングギヤ49およびキャリヤ46との間に、エンジン1が位置している。この図16に示す共線図は、低速モードが選択された場合に対応するものである。図16において、モータ・ジェネレータ(MG1)14とモータ・ジェネレータ(MG2)2との間に、エンジン(ENG)1が配置され、エンジン1とモータ・ジェネレータ14との間にリングギヤ44が配置されている。また、エンジン1とリングギヤ44との間に、キャリヤ46が配置されている。この図16においては、モータ・ジェネレータ14が正回転し、かつ、回生制御されて反力トルクを受け持っている場合が示されている。ここで、動力分配装置8の回転要素同士が実線で示す状態にある場合に、変速機40のモードを切り換えることなく、かつ、変速比を変更することなく、エンジン回転数を低下させることにより、破線で示すように、モータ・ジェネレータ14の回転数を零に近づける制御が実行される。このように、モータ・ジェネレータ14の回転数を零に近づけることにより、電気回路39における電力流通量が減少する。なお、図13のパワートレーンを有する車両Veにおいて、図1の制御例を実行する場合にも、図6で示したタイムチャートがあてはまる。
つぎに、図13に示されたパワートレーンを有する車両Veにおいて実行可能な他の制御を、図17に基づいて説明する。この図17は、変速機40の制御モードを選択的に切り換えることにより、電気回路39における電力流通量を減少させるものである。図17において、図1の処理と同じ処理については、図1と同じステップ番号を付してある。図17のフローチャートにおいて、ステップS4で肯定的に判断された場合は最適動作モードの判定がおこなわれる(ステップS21)。このステップS21の判定においては、例えば図18の線図が用いられる。図18の線図は、図15の線図の一部を拡大したものであり、図18においては、中速モードの特性線および高速モードの特性線が示されている。そして、前述した回転数比iの目標を達成する場合において、電気エネルギの伝達効率が1.0に近くなる方のモードが、「最適動作モード」と判定される。この図18の特性線図においては、現在選択されている高速モードの特性線における位置F1よりも、中速モードの特性線における位置F2の方が、電気エネルギの伝達効率が高く、したがって、中速モードが最適動作モードとして判定されることを示している。なお、状況により、中速モードから高速モードに切り換える方が、電気エネルギの伝達効率が高くなる場合もある。また、中速モードと低速モードとを比較し、中速モードから低速モードに切り換える方が、電気エネルギの伝達効率が高くなるとの判定や、低速モードから中速モードに切り換える方が、電気エネルギの伝達効率が高くなるとの判定をおこなうことも可能である。いずれのモード同士の判定をおこなう場合も、その判定をおこなうための線図を予め電子制御装置38に記憶してある。
このステップS21の判定についで、高速モードから中速モードに切り換える(遷移する)ことが可能であるか否かが判断される(ステップS22)。このステップS22の判断に用いる条件は、図1のステップS12の判断で用いる条件と同じである。そして、ステップS22で肯定的に判断された場合は、モードの切り換えを実行した場合でも、ピニオンギヤ12およびモータ・ジェネレータ2,14の耐久性が低下する可能性が少ないため、現在選択されているモードから、最適と判定されたモードに切り換える制御をおこない(ステップS23)、この制御ルーチンを終了する。これに対して、ステップS22で否定的に判断された場合は、モードの切り換えを実行すると、ピニオンギヤ12およびモータ・ジェネレータ2,14の耐久性が低下する可能性があるため、現状のモードを保持し(ステップS24)、この制御ルーチンを終了する。
つぎに、図17のフローチャートにより、高速モードから中速モードに切り換える場合の回転要素の状態を、図19の共線図に基づいて説明する。図19においては、高速モードにおける回転要素の状態が実線で示され、中速モードにおける回転要素の状態が破線で示されている。まず、高速モードにおいては、リングギヤ44とモータ・ジェネレータ2とが一体回転し、エンジン回転数は、モータ・ジェネレータ2の回転数よりも低回転となっている。また、モータ・ジェネレータ14の回転数はエンジン回転数よりも低回転となっている。ここで、モータ・ジェネレータ14が正回転で回生制御されて、発生した電力がモータ・ジェネレータ2に供給され、モータ・ジェネレータ2が力行制御されている。
そして、高速モードから中速モードに切り換えられると、エンジン1とキャリヤ51とが一体回転し、モータ・ジェネレータ2の回転数がエンジン回転数よりも低くなっている。また、リングギヤ44の回転数はエンジン回転数よりも高く、モータ・ジェネレータ14の回転数は、出力回転部材30の回転数よりも高くなっている。ここで、モータ・ジェネレータ2が正回転で回生制御されて、発生した電力がモータ・ジェネレータ14に供給され、モータ・ジェネレータ14が力行制御されている。なお、図17のフローチャートにより、中速モードと他のモードとの切り換えをおこなう場合、エンジン回転数とキャリヤ51の回転数とが同期していない状態で、モードの切り換えをおこなうため、モードの切り換えにともない、エンジン回転数が変化する。また、いずれのモード同士を切り換える場合も、モータ・ジェネレータ14の回転数が低下する場合と上昇する場合とがある。以上のように、図17のフローチャートを実行してモードの切り換えをおこなうことにより、図1のフローチャートと同様の効果を得られる。
このように、図13に示された変速機40は、各種のモードを切替可能であり、その意味で変速機40はモード切替装置ということもできる。また、前述した変速機7と変速機40との相違点を説明すると、変速機7では、動力分配装置8の出力側に変速機7が配置されている、言い換えれば、動力の伝達経路に動力伝達装置8および変速機7が直列に配置されている。これに対して、変速機40においては、低速モードまたは高速モードが選択された場合は、動力の伝達経路に動力伝達装置8と変速機40とが直列に配置されていることと同等に機能する。また、変速機40で中速モードが選択された場合は、動力分配装置8と変速機40とが直列に配置された状態とは異なる機能を有する。これを図16の共線図により説明すると、変速機40のサンギヤ43,48以外の要素が、動力分配装置8の要素と一体的に回転するように連結されるとともに、変速機40の回転要素が、動力分配装置8の回転要素同士の間に位置することとなる。一方、変速機7の場合、動力の伝達方向で回転部材17が最も上流に位置しており、動力分配装置8の回転要素同士の間に、変速機7の回転要素が配置されない。図17に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS21,S22,S23が、この発明のモード選択手段に相当する。図17に示されたその他の機能的手段と、この発明の構成との対応関係は、図17に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係と同じである。
つぎに、図13のパワートレーンを有する車両Veにおいて実行可能な他の制御を、図20に基づいて説明する。図20のフローチャートは、図1のフローチャートの一部の処理と、図17のフローチャートの一部の処理とを組み合わせたものである。したがって、図20の処理において、図1のフローチャートの処理と同じ処理については、図1のステップ番号と同じステップ番号を付してあり、図17のフローチャートの処理と同じ処理については、図17のステップ番号と同じステップ番号を付してある。この図20のフローチャートにおいても、図1および図17の処理と同じ部分については、図1および図17と同じ効果を得られる。図20に示されたその他の機能的手段と、この発明の構成との対応関係は、図1および図17に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係と同じである。
つぎに、図1および図17および図20の制御を実行可能な車両の他の構成例を、図21に基づいて説明する。図21においては、エンジン1から車輪3に至る経路に変速機52が設けられている。この変速機52は、複数組の遊星歯車機構を組み合わせることにより、四つの回転要素を備えたいわゆる複合型の遊星歯車機構である。図21に示す例では、ラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、同一軸線上に互いに隣接して配置されたサンギヤ53,54を備えており、これらのサンギヤ53,54と同心円上に、内歯歯車であるリングギヤ55が配置されている。このリングギヤ55およびサンギヤ53に噛み合うピニオンギヤ56が設けられており、ピニオンギヤ56がキャリヤ57により自転・公転自在に保持されており、したがって、リングギヤ55とサンギヤ53との間にシングルピニオン型の遊星歯車機構が形成されている。また、サンギヤ54およびピニオンギヤ56に噛み合うピニオンギヤ58が設けられており、ピニオンギヤ58が、キャリヤ57によって自転・公転に保持されている。したがって、サンギヤ54とリングギヤ55との間にダブルピニオン型遊星歯車機構が形成されている。上記のラビニョ型遊星歯車機構からなる変速機52におけるリングギヤ55が、出力回転部材30に連結され、したがって、リングギヤ55が出力要素となっている。また、サンギヤ53が中空軸47と一体回転するように連結されている。したがって、このサンギヤ53が入力要素となっている。なお、サンギヤ54も変速機52の入力要素となる。
図21に示す変速機52は、低速モードおよび中速モードおよび高速モードと、後進モードを設定できるように構成されており、これらの走行モードを設定するための係合装置が設けられている。先ず、出力軸9と、変速機52におけるキャリヤ57とを選択的に連結するクラッチC3が設けられている。したがって、変速機52におけるキャリヤ57が、入力要素もしくは反力要素となっている。また、変速機52における各サンギヤ53,54同士を選択的に連結するクラッチC4が設けられている。このクラッチC4は、要は、変速機52を構成する回転要素の全体を一体化させるためのものであり、したがって、変速機52における少なくともいずれか2つの回転要素同士を選択的に連結するように構成されていればよい。さらに、サンギヤ54を選択的に固定するブレーキB2と、キャリヤ57を選択的に固定する後進ブレーキBRとが設けられている。なお、この図21において、図1および図13と同様の構成部分については、図1および図13と同じ符号を付してある。なお、クラッチやブレーキとしては、油圧制御式または電磁制御式のいずれを用いてもよく、ここでは、油圧制御式のクラッチやブレーキを用いた場合について説明し、クラッチやブレーキが油圧制御装置37により制御される構成となっている。
図21に示された車両Veにおいては、各クラッチC3,C4、およびブレーキB2,BRを係合・解放させることにより、前進走行時に設定可能な3つの走行モードと、後進走行のための1つの走行モードとで、合計4つの走行モードを選択的に切り換えることができる。その走行モードを設定するための各クラッチ機構C3,C4およびブレーキ機構B2,BRの係合・解放状態を、図22の作動係合図表に示してある。なお、図22において「○」印はクラッチやブレーキが係合されることを示し、「×」印はクラッチやブレーキが解放されることを示す。また、各モード同士の切り換えは、切り換えによりクラッチで連結される要素同士の回転数が一致している場合におこなわれる。
まず、低速モードが選択された場合は、ブレーキB2を係合させ、かつ他の係合装置が解放される。この低速モードでは、サンギヤ54がブレーキB2によって固定され、サンギヤ53にエンジン1からトルクが入力され、かつリングギヤ55から出力回転部材30にトルクが出力されるから、変速機52が全体として減速作用をおこなう。そして、低速モードでは、エンジントルクがキャリヤ13に入力され、モータ・ジェネレータ14を回生制御させることにより、サンギヤ10に反力トルクが与えられる。そして、リングギヤ11から出力されたトルクが、サンギヤ53に伝達される。また、モータ・ジェネレータ14が発電機として機能するので、発生した電力をモータ・ジェネレータ2に供給して力行制御させ、モータ・ジェネレータ2の出力トルクをサンギヤ53に伝達することにより、トルクを補うことができる。
つぎに、中速モードでは、クラッチC3が係合され、かつ他の係合装置が解放される。この中速モードでは、キャリヤ13とキャリヤ57とが連結される。この中速モードでは、エンジントルクがキャリヤ57に伝達されるとともに、モータ・ジェネレータ2が正回転し、かつ、回生制御されて反力トルクを受け持ち、変速機52のリングギヤ55から出力されたトルクが出力回転部材30に伝達される。また、エンジントルクがキャリヤ13にも伝達されており、モータ・ジェネレータ14が正回転で力行制御されて反力を受け持ち、リングギヤ11から出力されたトルクが、変速機52のサンギヤ53に伝達される。このように、エンジントルクは、変速機52に対して、サンギヤ53およびキャリヤ57の2系統から入力される。
さらに、高速モードはクラッチC4を係合し、かつ他の係合装置を解放して設定される。したがって、この高速モードでは、各サンギヤ53,54が互いに連結されて、変速機52を構成する回転要素全体が一体化されるので、変速機52が増減速作用をおこなうことはない。高速モードにおいて、モータ・ジェネレータ14が正回転で回生制御されて、エンジントルクの反力が受け持たれると、モータ・ジェネレータ14からモータ・ジェネレータ2に電力が供給されて、モータ・ジェネレータ2が力行制御されて、変速機52に入力されるトルクが補われる。
そして、後進モードが選択された場合においては、後進ブレーキBRを係合させ、かつ他の係合装置を解放させる第1のパターンと、ブレーキB2を係合させ、かつ、他の係合装置を解放させる第2のパターンのいずれかの制御が実行される。まず、第1のパターンについて説明すると、サンギヤ54が固定されておらず、またキャリヤ57が後進ブレーキBRによって固定されているから、変速機52は、サンギヤ53を入力要素とし、かつキャリヤ57を固定要素とし、さらにリングギヤ55を出力要素として機能する。そして、エンジントルクがキャリヤ13に入力され、かつ、モータ・ジェネレータ14が正回転で回生制御されてエンジントルクが受け持たれ、リングギヤ11から出力されたトルクがサンギヤ53に伝達される。ここで、サンギヤ53とリングギヤ55との間にはシングルピニオン型遊星歯車機構が形成されているから、入力要素であるサンギヤ53に対して出力要素であるリングギヤ55は逆方向に回転する。また、モータ・ジェネレータ14から供給される電力により、モータ・ジェネレータ2が正回転で力行制御される。このようにエンジン1の出力したトルクの向きを反転して出力回転部材30から出力できるので、車両Veの後進走行が可能になる。
つぎに、第2のパターンについて説明する。動力分配装置8では、エンジン1が停止されることによりキャリヤ13が固定され、モータ・ジェネレータ2が逆回転で力行制御されて、サンギヤ53が逆回転される。そして、サンギヤ54が反力要素となり、リングギヤ55を逆回転させようとする向きのトルクが発生する。この場合、モータ・ジェネレータ14は正回転で空転する。
図21の車両Veにおいて図1の制御を実行すると、図1の制御で説明した効果を得られる。この場合、変速機52のモード切換はおこなわれない。また、図21の車両Veにおいて図17の制御を実行すると、図17の制御で説明した効果を得られる。この場合、低速モードと中速モードと低速モードとが、相互に選択的に切り換えられるとともに、エンジン1の運転点は変更されない。さらに、図21の車両Veにおいて図20の制御を実行すると、図20の制御で説明した効果を得られる。
ここで、図21に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、サンギヤ10、リングギヤ11、キャリヤ13が、この発明における遊星歯車機構に相当し、サンギヤ10が、この発明における第1のサンギヤに相当し、リングギヤ11が、この発明における第1のリングギヤに相当し、ピニオンギヤ12が、この発明の第1のピニオンギヤに相当し、キャリヤ13が、この発明の第1のキャリヤに相当する。また、変速機52が、この発明における動力伝達装置に相当し、サンギヤ53,54、リングギヤ55、キャリヤ57、ピニオンギヤ56,58が、この発明における第2の遊星歯車機構に相当する。また、サンギヤ53、リングギヤ55、ピニオンギヤ56、キャリヤ57が、この発明の「シングルピニオン型の遊星歯車機構」に相当する。また、サンギヤ53が、この発明の第2のサンギヤに相当し、リングギヤ55が、この発明の第2のリングギヤに相当し、ピニオンギヤ56が、この発明の第2のピニオンギヤに相当し、キャリヤ57が、この発明の第2のキャリヤに相当する。また、サンギヤ54、リングギヤ55、ピニオンギヤ56,58、キャリヤ57が、この発明の「ダブルピニオン型の遊星歯車機構」に相当する。また、サンギヤ54が、この発明の第3のサンギヤに相当し、ピニオンギヤ58が、この発明の第3のピニオンギヤに相する。また、クラッチC3が、この発明における第1のクラッチに相当し、クラッチC4が、この発明における第2のクラッチに相当し、ブレーキB2が、この発明の第1のブレーキに相当し、ブレーキBRが、この発明の第2のブレーキに相当する。
なお、各パワートレーンの構成例において、図5および図15に示す電気エネルギの理論伝達効率の特性は、動力分配装置8および変速機7,40,52を構成数する遊星歯車機構の回転要素同士の共線図上に置ける位置関係、動力分配装置の変速比、変速機の変速比などの条件により決定される。例えば、図2に示されたパワートレーンにおいては、下記のようにして、理論伝達効率を求めることが可能である。
トルクのつり合いより
Tp=((ρ/(1+ρ))・Te+Tm)×Gx ・・・(4)
回転のつり合いより
Ne=(ρ・Ng+Nm)/(1+ρ) ・・・(5)
エネルギ保存の法則より
ηTgNg+TmNm=零以外 ・・・(6)
TgNg+ηTmNm=零以外 ・・・(7)
とすると、
式(4)、式(5)、式(6)より
ηtotal={Gx/(1+ρ)+η(i−(Gx/(1+ρ))}・1/i
・・・(8)
={(Gx/(1+ρ))+1/η(i−(Gx/(1+ρ))}・1/i
・・・(9)
となる。
上記の各式において、Tpは出力回転部材30のトルクであり、ρは動力分配装置8の変速比(サンギヤ10の歯数Zs/リングギヤ11の歯数Zr)であり、Teはエンジントルクであり、Tmはモータ・ジェネレータ2のトルクであり、Gxは変速機7の変速比(減速比)であり、Neはエンジン回転数であり、Ngはモータ・ジェネレータ14のトルクであり、Nmはモータ・ジェネレータ2の回転数であり、ηは電気変換効率であり、ηtotalは理論伝達効率であり、iはエンジン回転数Neを出力回転部材30の回転数Npで除した値である。また、式(6)において、Ngは零以上であり、式(7)において、モータ・ジェネレータ14が逆回転で力行制御される場合は、Ngは零未満であり、式(8)において、Ngは零を越える値であり、式(9)において、モータ・ジェネレータ14が逆回転で力行制御される場合は、Ngは零未満である。
また、各構成例においては、動力分配装置がシングルピニオン型の遊星歯車機構を主体として構成されているが、動力分配装置がダブルピニオン型の遊星歯車機構を主体として構成されている場合にも、この実施例を適用可能である。また、回転要素が4個以上設けられた動力分配装置を有する車両においても、この実施例を適用可能である。つまり、この発明において、第1の要素ないし第3の要素とは、複数個ある回転要素のうち、第1の要素ないし第3の要素を、原動機および2個のモータ・ジェネレータに連結する構成となっており、4要素ある回転要素と、原動機および2個のモータ・ジェネレータとの連結関係を変更可能な動力分配装置であってもよい。また、この発明において、動力分配装置を構成する回転要素には、ギヤ、キャリヤ、回転メンバ、回転軸、コネクティングドラム、ハブなどが含まれる。また、有段変速機の前進段で設定可能な変速段は、6速未満であってもよい。さらに有段変速機としては、選択歯車式変速機を用いることも可能である。また、この実施例において、変速機として無段変速機を用いる場合は、トロイダル式無段変速機またはベルト式無段変速機のいずれを用いてもよい。この場合は、入力回転数と出力回転数との比である変速比を、無段階に制御および変更可能である。また、有段変速機または無段変速機は、その変速比が自動的に切り替えられる変速機、または手動操作により切り換えられる変速機のいずれでもよい。
さらに、蓄電装置33,35に代えて、燃料電池を用いた車両においても、図1の制御を実行可能である。さらにまた、蓄電装置および燃料電池の両方を有する車両において、図1の制御例を実行することも可能である。さらに、動力源としてのエンジンおよびモータ・ジェネレータの動力が、後輪(車輪)に伝達されるように構成された図2の車両、つまり、二輪駆動車の他に、動力源としてのエンジンおよびモータ・ジェネレータの動力が、前輪(車輪)に伝達されるように構成された二輪駆動車にも、この実施例を適用可能である。さらに、動力源としてのエンジンおよびモータ・ジェネレータの動力が、トランスファ(図示せず)を経由して前輪(車輪)および後輪(車輪)に分配されるように構成された四輪駆動車にも、この実施例を適用可能である。また、図1の制御例は、変速機7,40,52が設けられていない構成のパワートレーンを有する車両においても実行可能である。
この発明のハイブリッド車において実行可能な制御の実施例1を示すフローチャートである。
図1に示す制御例を実行可能な車両のパワートレーンおよび制御系統を示す概念図である。
図1の制御例で実行される処理を示す共線図である。
図1の制御例で実行される処理を示す共線図である。
図2に示された車両において、電気回路における電気エネルギの伝達効率と、エンジン運転状態との関係を示す線図である。
図1の制御例に対応するタイムチャートの一例である。
この発明のハイブリッド車において実行可能な制御の実施例2を示すフローチャートである。
図7のフローチャートにおいて、最適変速段を判定する場合に用いられる特性線の拡大図である。
図1に示された変速機の構成の一部を示すスケルトン図である。
図7の制御例に対応する共線図の一例である。
図7の制御例に対応するタイムチャートの一例である。
この発明のハイブリッド車において実行可能な制御の実施例3を示すフローチャートである。
図1に示す制御例を実行可能な車両のパワートレーンの他の構成例を示す概念図である。
図13に示された変速機で選択可能なモードと、摩擦係合装置の係合・解放状態との関係を示す図表である。
図13に示された車両において、電気回路における電気エネルギの伝達効率と、エンジン運転状態との関係を示す線図である。
図13に示す車両で、図1に示す制御例を実行した場合における回転要素の状態を示す共線図である。
図13に示す車両で実行可能な他の制御の実施例4を示すフローチャートである。
図17のフローチャートにおいて、最適動作モードを判定する場合に用いられる特性線の拡大図である。
図17の制御例に対応する共線図の一例である。
この発明のハイブリッド車において実行可能な制御の実施例5を示すフローチャートである。
図1および図17および図20の制御例を実行可能な車両のパワートレーンの他の構成例を示す概念図である。
図21に示された車両の動力伝達経路を制御するモードと、クラッチやブレーキなどの係合装置の状態との関係を示す図表である。
符号の説明
1…エンジン、 2,14…モータ・ジェネレータ、 3…車輪、 8…動力分配装置、 10,53,54…サンギヤ、 11,55…リングギヤ、 13,57…キャリヤ、 56,58…ピニオンギヤ、 34,36…インバータ、 39…電気回路、 52…変速機、 B2,BR…ブレーキ、 C3,C4…クラッチ、 Ve…車両。