JP2007099754A - イネ種子病害防除剤および防除方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】イネ種子のイネいもち病に対して拮抗能を有する、貝殻を焼成して得られる焼成カルシウムを有効成分として含むイネいもち病害防除用の防除剤、並びにそれを用いたイネ種子のイネいもち病害の防除方法を提供する。
【解決手段】
本発明の貝殻焼成カルシウムを有効成分として含む防除剤によれば、イネいもち病害を、経済的に有利に、環境にも優しく、かつ高い防除価で防除することができる。
本発明の防除剤は既存の化学薬剤のように環境汚染、及び高いpHによる薬害を引き起こすことはない。
【選択図】なし
【解決手段】
本発明の貝殻焼成カルシウムを有効成分として含む防除剤によれば、イネいもち病害を、経済的に有利に、環境にも優しく、かつ高い防除価で防除することができる。
本発明の防除剤は既存の化学薬剤のように環境汚染、及び高いpHによる薬害を引き起こすことはない。
【選択図】なし
Description
本発明は、イネいもち病害防除用の防除剤および防除方法に関する。
現在、植物病害、例えばイネ種子病害であるばか苗病(病原菌名:Gibberella fujikuroi)、苗立枯細菌病(病原菌名:Burkholderia plantarii)、もみ枯細菌病(病原菌名:Burkholderia glumae)、及びイネ褐条病(病原菌名:Acidovorax avenae subsp. avenae)などは、イネ育苗箱に発生する病害であり、水稲育苗の際の重大な問題を引き起こす植物病害である。
中でも、いもち病(病原菌名:Pyricularia oryzae)は、世界各地で発生し、被害の大きさなどから、イネ種子病害のなかでも最大の病害の一つである。病徴としては、鞘葉は病斑をつくらず、灰色〜暗灰色に変色し、不完全葉は中央が灰緑色、周辺が不正形の病斑をつくり、苗全体が枯死する。
このような植物病害の防除を目的として、プロクロラズ、ベフラゾエート、イプコナゾールなど抗菌活性のある化学薬剤と、無機銅やオキソリニック酸、カスガマイシンなどの抗細菌活性のある化学薬剤との組み合わせで防除もなされている。
また、現在、大理石や、石灰岩から得られる、鉱物のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩または炭酸水素塩、例えば炭酸カルシウム(CaCO3)は、食品や医薬品、そして健康補助食品の添加剤として用いられて、また、これらは土壌のpHを調整するための土壌改良剤、そして無機銅剤の薬害緩和目的のための炭酸カルシウム剤として、農業分野で肥料としての登録がなされ、広く用いられている。
中でも、前述のイネ種子植物病害の防除に関する従来の技術としては、特許文献1や特許文献2において、炭酸カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩または炭酸水素塩、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物をイネいもち病等に用いることが提案されている。
さらにイネ種子に対し、炭酸カルシウム剤と化学薬剤との組み合わせで防除を行っている従来技術としては、特許文献3や特許文献4において、炭酸カルシウム等の炭酸塩と、抗菌活性のある農薬であるイプコナゾールやベノミル、プロクロラズ等の化学薬剤を組み合わせることにより、イネ種子殺菌剤として用いることも提案されている。
一方、生体の誕生、生育、消滅に関わる組成、構造、成分等のメカニズムが有機的に機能する自然界の知見を、人工物の設計に応用する技術が近年着目されるようになってきている。例えば、微生物を有効成分とし、農薬に応用されつつある。しかしながら、これら微生物農薬は、環境面での優れた性質を有しているが、高価格なものも多いのが現状である。
そこで、動物性殻類に含まれる有機質、無機質成分を、土壌病害防除材に応用する技術が近年着目されるようになり、特許文献5では、蟹、海老の動物性殻類に含まれるキチン質含有有機物を土壌等に散布し、それから分離されたキチザーゼ酵素を産生する放線菌を、土壌中で定着させることを目的とした土壌病害防除方法を開示している。
一方、同じ動物殻類でも、ホタテ貝やアワビ、カキ、ウバガイなどの貝殻は、その生産高が年間約百万トンにも上っており、多くは廃棄物として埋め立てられるが、生産高が年間約百万トンにも上っているため、廃棄物量も莫大なものになる。そのため、廃棄物量を軽減することを目的とし、これまで各自治体を始めとした研究機関、企業において、その有効利用策が考えられている。
これら貝殻の成分は、概ね炭酸カルシウム99%と有機質1%からなり(構造部位により差異)、極めて高い強靱性(プラスチックと同程度)を有し、優れた天然の複合材料である。海中に溶けた二酸化炭素を炭素源として、3層構造をした貝殻は海中のカルシウムから炭酸カルシウムを形成し、独自の構造を形成している。
ホタテ貝を始めとした貝殻を焼成すると、一般にはその成分である炭酸カルシウムが酸化カルシウム(CaO)に変換する。貝殻を焼成して得られる焼成カルシウム(焼成カルシウムとは、主としてホタテ貝またはウバガイ等の貝殻を高温で焼成することで、主成分である炭酸カルシウムから脱炭酸(二酸化炭素を取り除く)が徐々に進むことで得られる、酸化カルシウム(CaO)、もしくは酸化カルシウムと炭酸カルシウムを含むもののことであり、以下、本明細書では「焼成カルシウム」と呼ぶ)は、例えば500〜1200℃で焼成することで、貝殻内部の炭酸カルシウムや有機物の焼成、さらには脱炭酸化が徐々に進み、最終的には酸化カルシウムまで焼成される。焼成温度を高くした場合には殆ど全て酸化カルシウムまで変換されるが、焼成温度が低い場合には、一部が酸化カルシウムに変わるが残りは炭酸カルシウムとして残る。
これら、焼成カルシウムに含まれる、酸化カルシウムのアルカリ成分や、貝殻自身の多孔質構造が、消毒効果や消臭効果、抗菌性を増大させることは以前から知られていた。
この中でも、種子病害への応用が最近注目されてきており、特許文献6では、焼成カルシウムを含む被覆材、具体的には、ペルオキソ炭酸塩を用いて、フィルムコーティングや被覆増粒法などで種子表面を被覆することにより、キャベツ、ほうれん草等の種子病害から防除する方法が開示されている。
また、化学農薬を用いずに、微生物農薬を用いてイネの特定病害を防除する方法として、特許文献7や特許文献8、特許文献9では、シュードモナス属細菌をイネ立枯細菌病や、イネ籾枯細菌病、そしてイネばか苗病等に対して、また特許文献10ではイネばか苗病やイネ苗いもち病に対して用いることが開示されている。
特開平9−271211号公報
特開2004−262926号公報
特開平5−221812号公報
特開平5−238911号公報
特開平7−2614号公報
特開2004−292354号公報
特開平11−302120号公報
特開2002−017343号公報
特開2003−261409号公報
特開2002−017343号公報
上記の種子病害防除方法として、従来、特許文献1及び特許文献2に知られている方法は、安価で大量に供給することが可能であり、これらを用いて病害防除を試みたものである。しかしながら、小〜中程度の病害発生下では防除効果があるものの、病害発生の高い条件下、すなわち甚発生下では防除価が充分なものとは言えなかった。
また、特許文献6の方法では、焼成カルシウムを含む被覆材で作物の種子表面を被覆することにより、種子病害を防除できることが開示されているが、特許文献1及び特許文献2と同様に、甚発生下では防除効果はそれほど高くなかった。
そこで、本発明の課題は、イネ種子消毒用として、防除効果が高く、さらには従来の種子消毒剤で問題になっていた、水質汚染などの環境汚染もない、経済的にも負荷のかからない防除剤の開発が望まれていた。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、ホタテ貝、アワビ、カキ、及びウバガイを始めとする貝殻を焼成して得られる焼成カルシウムが、イネいもち病に対して、防除効果を有することを見いだした。
本発明では、特許文献1に記載の方法と比べて、焼成カルシウムをイネいもち病害に用いることで、防除効果を有することを見出した。
その原因は明らかでないが、本発明で用いる、ホタテ貝やアワビ、カキ、及びウバガイなどの貝殻は、鉱物焼成物と比べると、有機物、骨格構造(多層構造、多孔質)が特徴である。貝殻の焼成カルシウム自身が持つ多層・多孔質構造といった独自の構造や特異的な機能が、高い抗菌性や抗菌維持性、そして長い持続性を発揮し、本発明者らはその性質を生かしてイネ種子に用いることで、防除効果を得たものと推定される。
一方、特許文献6では貝殻焼成カルシウムを特定の条件下、野菜類の病害防除に用いており、注目すべき防除効果を見出している。しかし、効果は、特許文献6の実施例に明らかなように中程度であり、とくに甚発生下での効果が比較的小さいという問題があった。
それに比べて本発明では、焼成カルシウムを前述した特定のイネ種子病害に用いることで、同等の防除効果を得る、驚くべき知見を得た。
一方、特許文献6に開示されているように、種子病害の防除策として、貝殻成分単独ではなく、貝殻成分と被覆材等の鉱物とを混合して用いられてきた。しかしながら、本発明者らは、イネ種子に対して、貝殻の焼成カルシウムを、被覆材等の鉱物を用いずに単独で用いても、所望の防除効果を得る知見も得た。
このように、貝殻の焼成物をイネ種子病害に応用した例はなく、さらに、従来の方法と比べ、本発明のように、貝殻の焼成物をイネ種子に対して単独で用いることで、防除効果を持つ知見は今まで知られていなかった。
すなわち本発明は、イネ種子のイネいもち病に対して拮抗能を有する、貝殻を焼成して得られる焼成カルシウムを有効成分として含むイネいもち病害防除用の防除剤、並びにそれをイネ種子に接触させることを特徴とする、イネ種子のイネいもち病害の防除方法である。
本発明の貝殻焼成カルシウムを有効成分として含む防除剤によれば、イネの特定の病害を、経済的に有利に、環境にも優しく、簡便に防除することができる。
さらに、本発明の防除剤の使用は既存の化学薬剤のように環境汚染はなく、また高いpHによる薬害を引き起こすことはない。また、農薬耐性菌の出現による防除効果の低下を引き起こすこともないことから、極めて有用である。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明はイネ種子のイネいもち病に対して拮抗能を有する、貝殻を焼成して得られる焼成カルシウムを有効成分として含むイネいもち病害防除用の防除剤並びにそれを用いたイネいもち病害の防除方法である。
本発明における防除剤の対象とする病害はイネいもち病であり、発生の部位によりそれぞれ、苗いもち、葉いもち、穂いもち、籾いもち、節いもち、葉節(葉舌)いもちと呼ばれているが、これらのいずれに対しても防除効果が得られる。
次に防除剤について述べる。本発明で用いられる貝殻としては、詳細な焼成条件は後述するが、焼成前の成分が炭酸カルシウムを主成分として含有する貝殻であれば特に限定はなく、具体的には、赤貝、アサリ、ホタテ貝、アワビ、カキ、ウバガイ(ホッキ貝)、イモガイ、サクラガイ、サザエ、シジミ、タイラギ、タニシ、トリガイ、ハマグリ、バカガイなどが挙げられる。
貝殻としては、貝類の養殖場や加工所等で定常的に入手できるものが好ましく、上記の貝殻のうち、赤貝、ホタテ貝、アワビ、カキ、ウバガイ(ホッキ貝)、トリガイ、ハマグリ、バカガイの貝殻が好ましく用いられる。
この中でも、さらに容易にかつ大量に入手できることから、特に好ましくは、ホタテ貝、アワビ、カキ、及びウバガイの貝殻である。具体的には、本実施例1−2において、ホタテ貝やアワビの貝殻を用い、それらを焼成して得られた焼成カルシウムを用いることは好ましい実施態様の一つである。
これらの貝殻は、1種類の貝殻からなっていても、2種類以上の貝殻が混合しているものでも良い。しかしながら、1種類の貝殻を用いる方が、処理加工が容易であるため、特に好ましい。
本発明で用いられる焼成カルシウムとは、焼成前の主成分が炭酸カルシウムである貝殻を焼成することで、脱炭酸(二酸化炭素を取り除く)が徐々に進むことにより得られる、酸化カルシウム(CaO)、もしくは酸化カルシウムと炭酸カルシウムを含むものである。焼成により、焼成前の主成分(約99%)である炭酸カルシウムが徐々に酸化カルシウムに変換されるが、併せて、焼成前の貝殻に含有している有機物約1%の焼成も同時に進行する。
焼成カルシウムの、炭酸カルシウム(CaCO3)と酸化カルシウム(CaO)の割合には特別な限定はない。例えば成分割合(重量)が、炭酸カルシウム(CaCO3):酸化カルシウム(CaO)=99:1〜1:99の範囲で、イネいもち病の防除を好適に行うことができる。
例えば本発明において、焼成カルシウムのCaCO3とCaOの割合において、酸化カルシウム(CaO)の成分割合(重量)が96%(商品名CAI−I、日本天然素材株式会社製)などを用いることは好ましい実施態様の一つである。
また、1種類の焼成カルシウムでも、CaCO3とCaO各成分割合の異なる2種類以上の焼成カルシウムが混合しているものでも良い。
なお、本発明では、焼成カルシウムは炭酸カルシウムと、酸化カルシウム、それぞれの混合状態で用いることが好ましいが、酸化カルシウムは吸湿性が大きく、一部水和して水酸化カルシウム(Ca(OH)2)となることがあるが、性能上、差し支えない。このようなことから、本発明では、焼成カルシウムの成分について、炭酸カルシウムと、酸化カルシウム、それぞれの成分以外に、水酸化カルシウム成分が混在している焼成カルシウムも用いることもできる。
炭酸カルシウムと酸化カルシウム、各成分の割合は焼成温度及び焼成時間により異なり、当業者が適宜、調整することができる。
また、本発明で用いる焼成カルシウムについては、特に制限はないが、ホタテ等の貝殻を焼成した後に粉砕し、粉末状にしたものを用いることができる。また、粉砕した後に焼成しても良い。
一方、焼成カルシウムを粉砕した粉末状の製品として市販されているものを用いることもでき、当業者が適宜選択することができる。
また、焼成カルシウムを製造する場合、通常500〜1200℃の温度範囲にて焼成する。この温度範囲のうち、本発明においては、好ましくは600〜1200℃の温度範囲であり、より好ましくは600〜1100℃の温度範囲である。
焼成については特に制限はなく、例えばロータリーキルン、直火バーナー等、一般的な焼成装置を用いることができる。焼成時間については、焼成温度により異なるが、前述の焼成カルシウムの好ましい割合にするために、当業者が適宜、調整することができる。
焼成カルシウムは、通常、それ自身を粉砕したものを使用する。粉砕の際の粒径は、焼成処理や加工方法により異なり、制限はないが、通常2〜100μmに粉砕されたものが用いられ、好ましくは2〜70μm、さらに好ましくは3〜45μmである。ここで粒径とは、粉砕した焼成カルシウム粉末1個の、最長部の長さと最短部の長さの、平均の長さ(平均直径)のことを言う。粉砕の方法は特に制限はなく、一般的な粉砕装置を用いることができる。
本発明で使用する焼成カルシウムの具体的な例としては、例えば実施例1−2に示すように、貝殻としてホタテ貝を用い、それの高温焼成物の粉砕品(商品名CAI−I、粒径5μmタイプおよび15μmタイプ、日本天然素材株式会社製)や、同じくホタテ貝の焼成物の粉砕品(商品名MC−H(マグナキャップス)、粒径5μmタイプ、朝田商会株式会社製)、他に、貝殻としてあわび貝を用い、それの焼成物の粉砕品(商品名MC−A(マグナキャップス)、粒径5μmタイプ、朝田商会株式会社製)がある。他にも同様な焼成品として、例えばカワイ株式会社製(商品名「貝殻焼成カルシウムH−D」)、や(株)ステップ製、(株)チャフローズコーポレーション製(商品名「シェルホワイト」)などがある。
次に、本発明の防除剤を用いた、イネいもち病害の防除方法について述べる。一般にイネの育苗は、イネ種籾を一定期間、水中に浸す作業(浸種)を行い、種籾に水分を充分吸収させたあと、30℃前後の水に1日〜2日漬けて催芽処理を行い、育苗土壌や、育苗土壌を充填した育苗箱、苗床などに播種する。
本発明の防除剤は、薬害の問題もなく使用時期も限定せず、幅広く使用できるイネいもち病害防除用の防除剤である。本発明の防除剤は、前述した育苗操作における少なくとも一つの時期の処理でも可能であるが、具体的には、本発明の防除剤の希釈液に、浸種前、浸種時あるいは催芽時のイネ種籾を浸漬処理したり、浸種前、浸種時、催芽前あるいは播種前のイネ種籾を湿粉衣処理したり、あるいは播種した後に上記防除剤の希釈液を土壌かん注して使用する。
前述のように、本発明においては、種子に対する被覆材等の成分を使用する必要はないため、経済的に有利である。また、浸種時あるいは催芽時に本防除剤希釈液にイネ種籾を浸漬処理する場合の希釈液の温度は、15℃〜35℃、好ましくは20℃〜30℃にて行う。また、処理する時間に関しては、瞬時〜48時間、好ましくは1時間〜24時間処理をする。
本発明の、貝殻を焼成して得られる焼成カルシウムを有効成分とする防除剤を上記方法で使用する場合、例えば浸漬処理の場合は、浸漬液中の焼成カルシウム濃度が通常0.01重量%〜1重量%、好ましくは0.1重量%〜1重量%、より好ましくは0.1重量%〜0.5重量%になるように、焼成カルシウム液(焼成カルシウムを水と混ぜ合わせて形成された、懸濁もしくは乳濁の焼成カルシウムを含む液をいう。以下同じ。)を調製するのがよい。
一方、湿粉衣処理の場合は、浸種や催芽処理されたイネ種籾を水切りした後、イネ籾に焼成カルシウムを混合し、まぶしてから播種することができる。例えば、イネ種籾100gに対して、焼成カルシウムが0.1g〜10g、好ましくは0.5g〜5gとなるように調製するのがよい。
また、土壌かん注の場合、土壌に焼成カルシウム等の水溶液を染み込ませて処理できる。例えば、育苗箱(大きさは適宜選択できるが、例えば30×60×3cm)1箱当たり、焼成カルシウムを10〜1000倍、好ましくは50〜500倍に希釈した希釈液50〜500mlを土壌にかん注する。
例えば、実施例1−2に示すように、イネ種籾を水洗した後、焼成カルシウム濃度が0.2重量%もしくは0.5重量%になるように水を用いて焼成カルシウム液を調製し、15℃で24時間もしくは48時間浸種前浸漬処理、30℃で24時間浸種前浸漬処理を行うことは、特に好ましい処理方法の一つである。
焼成カルシウムを、そのまま使用してもよいが、通常の農薬に使用されているような鉱物性粉末と混合して使用することができる。鉱物性粉末としては、タルク、炭酸カルシウム、けいそう土などがある。鉱物性粉末の添加量は、後述するが、実施例で示すところの防除効果のある希釈倍数によって決めればよい。例えば、500倍希釈の水懸濁液で防除効果のある焼成カルシウムであるならば、例えば200倍希釈で使用するとすれば、鉱物性粉末を60重量%混合すればよい。
しかしながら、本発明ではイネ種子に対して鉱物性粉末と混合せずに、焼成カルシウムの粉砕品をそのまま、もしくは水で希釈した焼成カルシウム液を用い、前述の処理を施すことでも、焼成カルシウムの粉砕品を上述の混合性粉末と混合しなくても高い防除効果を有する。
例えば、本発明では、後述の実施例1−2に示すように、焼成カルシウムの粉砕品を鉱物性粉末と混合せずに、水で希釈した液として使用することは、特に好ましい態様の一つである。
なお、焼成カルシウムは水に0.2重量%程度溶解すると、pHは12〜13になり強いアルカリ性を示す。鉱物の炭酸カルシウムを焼成することより得られた生石灰と比較すると、反応性は低いが、その貝殻独自の多層・多孔質構造に起因し、アルカリ成分の保持力が高まることで、長時間、効果が持続する。さらにpHが高いことによる薬害が出ないといった特徴がある。
なお、焼成カルシウムは、それ自身カルシウム源として食品への添加や、焼成カルシウムの数重量%水溶液をスプレーして、病原菌、細菌、カビ等の駆除に用いたり、家庭用途において、水溶液にした状態での野菜や果樹の残存農薬の洗浄にも用いられている。また、建築用途でも、しっくい等の壁材の添加として用いられている。また、医薬品にも応用されている。焼成カルシウムは国連の食料農業機関(FAO)および世界保健機構(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)において、食品への添加の一日摂取許容量が制限されないとされているように、安全性については問題がない。
次に実施例を示すが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
貝殻の焼成カルシウムのイネいもち病に対する発病抑制効果(ろ紙湿室法(Blotter test)による検定)
ホタテ貝の焼成カルシウムの粉砕品(日本天然素材株式会社製、商品名CAI−I、粒径5μmタイプ)、ホタテ貝の焼成カルシウムの粉砕品(商品名MC−H(マグナキャップス)、粒径5μmタイプ、朝田商会株式会社製)、あわび貝の焼成物の粉砕品(商品名MC−A(マグナキャップス)、粒径5μmタイプ、朝田商会株式会社製)を水で200倍、もしくは500倍に希釈し、焼成カルシウム濃度が0.5重量%、0.2重量%になるように焼成カルシウム液を調製した。この液にイネいもち病汚染籾(品種:コシヒカリ)を入れ、15℃で24時間浸種前浸漬処理、15℃48時間浸種前浸漬処理、そして30℃24時間浸種前浸漬処理を行った。
ホタテ貝の焼成カルシウムの粉砕品(日本天然素材株式会社製、商品名CAI−I、粒径5μmタイプ)、ホタテ貝の焼成カルシウムの粉砕品(商品名MC−H(マグナキャップス)、粒径5μmタイプ、朝田商会株式会社製)、あわび貝の焼成物の粉砕品(商品名MC−A(マグナキャップス)、粒径5μmタイプ、朝田商会株式会社製)を水で200倍、もしくは500倍に希釈し、焼成カルシウム濃度が0.5重量%、0.2重量%になるように焼成カルシウム液を調製した。この液にイネいもち病汚染籾(品種:コシヒカリ)を入れ、15℃で24時間浸種前浸漬処理、15℃48時間浸種前浸漬処理、そして30℃24時間浸種前浸漬処理を行った。
その結果を表1−表4に示す。いもち病に対する防除効果については、まずろ紙湿室法(Blotter test)による検定を行った。焼成カルシウム液を処理した、いもち病菌保菌籾をシャーレ内で25℃に4日間保った後に、実体顕微鏡下でいもち病菌分生子胞子の形成の有無を観察、及び胞子形成籾率を測定し、胞子形成率より防除価を算出し、評価した。
胞子形成率(%)=100×{(いもち病菌分生子胞子形成籾数)/(総籾数)}
防除価=100×{(無処理区での胞子形成率−処理区での胞子形成率)/(無処理区での胞子形成率)}
胞子形成率(%)=100×{(いもち病菌分生子胞子形成籾数)/(総籾数)}
防除価=100×{(無処理区での胞子形成率−処理区での胞子形成率)/(無処理区での胞子形成率)}
表1−表4に示すように、いずれの焼成カルシウム処理区でも無処理区の病害発生条件の程度を問わず、発病抑制効果が認められた。
[比較例1]
生石灰(CaO)のイネいもち病に対する発病抑制効果(ろ紙湿室法(Blotter test)による検定)
生石灰(CaO)を水で200倍、500倍に希釈し、濃度を0.5重量%、0.2重量%になるように液を調製した他は、実施例1と同様に行い、15℃24時間浸種前浸漬処理を行った。
[比較例1]
生石灰(CaO)のイネいもち病に対する発病抑制効果(ろ紙湿室法(Blotter test)による検定)
生石灰(CaO)を水で200倍、500倍に希釈し、濃度を0.5重量%、0.2重量%になるように液を調製した他は、実施例1と同様に行い、15℃24時間浸種前浸漬処理を行った。
その結果を表5に示す。胞子形成率及び防除価の算出方法については、実施例1と同様に行った。
表5に示すように、生石灰(CaO)の場合は、実施例1の焼成カルシウム処理区を用いたときと比べ、防除効果が低いことがわかる。
貝殻の焼成カルシウムのイネいもち病に対する発病抑制効果(圃場試験による検定)
ホタテ貝の焼成カルシウムの粉砕品(日本天然素材株式会社製、商品名CAI−I、粒径5μmタイプ)、ホタテ貝の焼成カルシウムの粉砕品(商品名MC−H(マグナキャップス)、粒径5μmタイプ、朝田商会株式会社製)、あわび貝の焼成物の粉砕品(商品名MC−A(マグナキャップス)、粒径5μmタイプ、朝田商会株式会社製)を水で200倍、もしくは500倍に希釈し、焼成カルシウム濃度が0.5重量%、0.2重量%になるように焼成カルシウム液を調製した。この液にイネいもち病汚染籾(品種:コシヒカリ)を入れ、15℃24時間浸種前浸漬処理、15℃48時間浸種前浸漬処理を行った。その後、常法に従い、浸種、催芽後、播種し、ガラス温室で2週間、育苗を行った。
ホタテ貝の焼成カルシウムの粉砕品(日本天然素材株式会社製、商品名CAI−I、粒径5μmタイプ)、ホタテ貝の焼成カルシウムの粉砕品(商品名MC−H(マグナキャップス)、粒径5μmタイプ、朝田商会株式会社製)、あわび貝の焼成物の粉砕品(商品名MC−A(マグナキャップス)、粒径5μmタイプ、朝田商会株式会社製)を水で200倍、もしくは500倍に希釈し、焼成カルシウム濃度が0.5重量%、0.2重量%になるように焼成カルシウム液を調製した。この液にイネいもち病汚染籾(品種:コシヒカリ)を入れ、15℃24時間浸種前浸漬処理、15℃48時間浸種前浸漬処理を行った。その後、常法に従い、浸種、催芽後、播種し、ガラス温室で2週間、育苗を行った。
その結果を表6、表7に示す。イネいもち病の検定は苗の生成程度から発病苗率、防除価を算出して評価した。
発病苗率=100×{(発病した苗数)/(総調査苗数)}
防除価=100×{(無処理区での発病苗率−処理区での発病苗率)/(無処理区での発病苗率)}
発病苗率=100×{(発病した苗数)/(総調査苗数)}
防除価=100×{(無処理区での発病苗率−処理区での発病苗率)/(無処理区での発病苗率)}
表6、表7に示すように、いずれの焼成カルシウム処理区でも無処理区の病害発生条件の程度を問わず、発病抑制効果が認められた。
[比較例2]
生石灰(CaO)のイネいもち病に対する発病抑制効果(圃場試験による検定)
生石灰(CaO)を水で200倍、500倍に希釈し、濃度を0.5重量%、0.2重量%になるように液を調製した他は、実施例2と同様、15℃24時間浸種前浸漬処理を行った。
[比較例2]
生石灰(CaO)のイネいもち病に対する発病抑制効果(圃場試験による検定)
生石灰(CaO)を水で200倍、500倍に希釈し、濃度を0.5重量%、0.2重量%になるように液を調製した他は、実施例2と同様、15℃24時間浸種前浸漬処理を行った。
その結果を表8に示す。イネいもち病の検定は苗の生成程度から発病苗率、防除価を算出して評価した。なお、発病苗率及び防除価の算出方法については、実施例2と同様に行った。
表8に示すように、生石灰(CaO)の場合は、実施例2の焼成カルシウム処理区を用いたときと比べ、防除効果が低いことがわかる。
Claims (7)
- イネ種子のイネいもち病に対して拮抗能を有する、貝殻を焼成して得られる焼成カルシウムを有効成分として含むイネいもち病害防除用の防除剤。
- 貝殻の種類がホタテ貝、アワビ、カキ、及びウバガイである、請求項1に記載の防除剤。
- 請求項1または2に記載の防除剤を、イネ種子に接触させることを特徴とする、イネ種子のイネいもち病害の防除方法。
- 請求項1または2に記載の防除剤を、水と混ぜ合わせて焼成カルシウム液とし、イネ種子に浸漬処理することを特徴とする、イネ種子のイネいもち病害の防除方法。
- 浸漬処理を、浸種前、浸種時あるいは催芽時のイネ種籾に焼成カルシウム液を浸すことにより行うことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
- 焼成カルシウム液を、瞬時〜48時間、イネ種籾に浸すことにより行うことを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
- 焼成カルシウム液を、焼成カルシウム濃度が0.01重量%〜1重量%となるように調製することにより行うことを特徴とする、請求項4乃至6の何れかに記載の方法。
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