JP2007092884A - 高力ボルト摩擦接合部と建築鋼構造物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】高力ボルトを用いた鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部であって、被接合部材のボルト孔に挿入した高力ボルトの軸部とボルト孔間に、被接合部材に対する締付長さよりも材長が短く、高力ボルトより高強度の鞘材を、常時は高張力が作用しない状態で高力ボルトのせん断耐力を補強可能に介在させて、接合部としての最大耐力を増加させるようにした。
【選択図】図1
Description
ここで、摩擦接合とは、例えば、図9に一般例として示すように、板部材11、12の先端部を重ね合わせて、高力ボルト2で締め付け、締付軸力によって板部材11、12間に生じる摩擦力によって応力を伝達する接合方法であり、接合部に伝える応力はボルト軸と直角方向となっており、所謂せん断形式接合の範疇に入る接合である。
なお、せん断形式接合には、摩擦接合の他に支圧接合があるが、これはボルトに締付軸力を導入せず、ボルト孔での板部材の支圧抵抗とボルト軸部のせん断抵抗で応力を伝達する接合であり、締付軸力を導入する点および応力の伝達方法の点で、摩擦接合は支圧接合とは異なるものである。
従来、高力ボルトとしては、引張強さが1000MPa級(締付軸力:1000MPa×ネジ部有効断面積×0.74)の高力ボルトが主体になっていたが、現状では、引張強さが1400MPa級(締付軸力:1400MPa×ネジ部有効断面積×0.74)の高力ボルトが使用されるようになってきている。
ここで、ネジ有効断面積とは、JIS B 1082−1987で規定されるネジの有効断面積であり、(1)式により計算されるものである。
As=π/4・{(d2+d3)/2}2・・・・・(1)
ここで
As:ネジの有効断面積
d2:高力ボルトのネジの有効径の基準寸法で、ネジ溝の幅がネジ山の幅に等しくなるような仮想的な円筒の直径
d3:高力ボルトのネジ谷径の基準寸法
(図10参照)。
ここで、遅れ破壊とは、金属材料が引張荷重が負荷されてから、ある時間経過後に突然破壊を生ずる現象である。
一方で、摩擦接合は、建築鋼構造物で多用されているが、建築耐震設計においては、導入張力から決定される許容耐力(中小地震に対する設計(一次設計という)で用いられるもので、「すべり耐力」をいう。)と、高力ボルトの材料強度から決定される最大耐力(大地震に対する設計で用いられるもので、高力ボルトがせん断破壊する際の「最大せん断耐力」をいう。)の2つの面から接合部設計が行われる。
したがって、大地震に対する設計でボルト本数が決定される場合には、「最大せん断耐力」(以下「最大耐力」と称する。)を強化することで、ボルト本数の低減につなげることができる。
したがって、締付長さよりも材長が短く、1700〜2600MPaの高強度材からなる鞘材を用いて、せん断抵抗による接合部の最大耐力を向上させる本発明とは、目的、構成、効果を全く異にするものである。
また、特許文献2に、本発明のようにボルト孔に鞘材(ここでは筒状部材)を挿入する構造を有する締結具が開示されている(第1図、第2図、第3図参照)。しかし、『筒状部材24は、S20C等の鉄系材料によって作られており、(実施例の第30〜31行目参照)・・・。実施例においては、座屈筒51とスリーブ44とが一体的に設けられているのである。・・(実施例の第48〜49行目参照)』とあり、この座屈筒は、強度が500MPa程度と低いS20C材からなり、ボルト締結時に座屈させて貫通孔(ボルト孔)より小径であるボルト頭部側にボルト締結のための係合部(貫通孔径より大径)を形成するものである。
したがって、締付長さよりも材長が短く、1700〜2600MPaの高強度材からなる鞘材を用い、せん断抵抗による接合部の最大耐力を向上させる本願とは、目的、構成、効果を全く異にするものである。
Performance of Super High−Strength Bolts with an Ultimate Strength of 1400N/mm2Class,ThirdInternational Symposium on SteelStructures,2005.3。
請求項2は、請求項1において、前記高力ボルトの引張強さが700MPa〜1600MPaであり、かつ、前記鞘材の引張強さが1700〜2600MPaであることを特徴とする鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部である。
請求項3は、請求項1から請求項2のいずれかにおいて、高力ボルトに介挿した座金と被接合部材間に、座金以上の厚さを有する板座金を介在させ、締付軸力を被接合部材に伝達して摩擦接合することを特徴とする鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部である。
請求項4は、請求項1から請求項3のいずれかにおいて、鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部を1箇所以上有することを特徴とする建築鋼構造物である。
本発明でいう「鞘材」とは、短管や、筒状に曲げて端面を接合しない成形板、あるいは、これらを縦割りで分割した形状のものなどを意味し、これらを以下「鞘材」と総称する。また、本発明でいう鉄骨部材とは、「鉄骨部材単体」を意味し、建築鋼構造物とは、鉄骨部材を組み立ててなる「中間構造物」や、この中間構造物を複数組み立てて得られるものをいう。
したがって、高力ボルトと鞘材での遅れ破壊の発生を回避することが容易であり、高力ボルト単独では700〜1600MPa級の最大耐力を確保しつつ、鞘材の機能発揮によって、最大耐力をボルト単体での最大耐力以上に増加させることができる。
これにより、大地震に対する設計でボルト本数が決定される場合には、ボルト本数を低減してコンパクト化や加工手間、締付施工の省力化を安価に実現でき、建築鋼構造物を構築する鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部とし適用して顕著な効果を奏するものである。
また、鞘材の補強機能を高める観点で、鞘材の厚みを大きくした場合には、被接合材のボルト孔径が高力ボルトの頭部径や座金の外径より大きくなる場合が発生し、高力ボルトを締付けても鞘材に圧縮力が作用するため、被接合材を締め付けることができなくなるが、このような場合には、座金以上の厚さと面積を有する板座金を介在させることで、締付軸力を被接合材に確実に伝達して摩擦力を確保し、同様の顕著な効果を奏することができる。
本発明では、例えば、引張強さが700〜1600MPa級の高力ボルトを用いる場合に、常時高張力を付与した場合に遅れ破壊の懸念が大きい引張強さが1700〜2600MPaの高強度材からなり締付長さより短い鞘材を、常時は高張力を作用させないように介挿して遅れ破壊の発生を回避し、接合部に導入張力から決定される許容耐力を超える応力が作用してすべりが発生し、接合部が支圧・せん断状態になった場合に、鞘材の高強度特性を高力ボルトの補強(特に、せん断耐力補強)に機能させ、接合部としての最大耐力を従来の引張強さ700〜1600MPa級の高力ボルトを用いた場合以上に強化可能にして、上記課題を解決するものである。
また、引張強さが1700〜2600MPaの鞘材は、接合部としての最大耐力を従来の700〜1600MPa級の高力ボルトを用いた場合に比較して格段に強化するために必要な条件である。
なお、本発明の高力ボルト摩擦接合部は、鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部として適用するものであるが、接合部位に要求される接合部特性に応じて、一部の接合部位にのみ適用して、本発明以外の他の接合部を併用して建築鋼構造物を構築することもできる。
高力ボルト摩擦接合は、建築鋼構造物で多用されているものであり、建築耐震設計においては、導入張力から決定される許容耐力と、高力ボルトの材料強度から決定される最大耐力の2つの面から接合部設計が行われる。したがって、大地震に対する設計でボルト本数が決定される場合には、最大耐力を強化することで、ボルト本数の低減につなげることができる。
すなわち、例えば引張強さが1700MPa以上の高力ボルトを使用した場合では、常時、高張力を付与した状態で使用すると遅れ破壊発生の可能性が高まるため、締付軸力を下げて使用することになり、高強度化の効果を十分に享受できない。高力ボルト摩擦接合の場合には、接合部としての最大耐力は、最終的には高力ボルトのせん断耐力に支配されることなどの知見に基づいて、
(1)締付軸力を、ボルト材料の引張強さにネジ部有効断面積を乗じた値の0.74倍程度の引張力として、遅れ破壊を発生する懸念の小さい、従来の引張強さ700〜1600MPa級の高力ボルトを用いる。
(2)高力ボルトのせん断耐力を、例えば使用する高力ボルトより高強度で常時高張力を付与した場合に遅れ破壊を生じやすい1700MPa級以上の高強度材を遅れ破壊を発生しない条件で用いて補強することによって、接合部としての最大耐力を増加させる。
ことを着想し、実験(検討)を重ねた結果、本発明の要件を満足させれば、許容耐力を従来の700〜1600MPa級の高力ボルトを使用した場合と同等以上に確保して、接合部としての最大耐力を引張強さ700〜1600MPa級の高力ボルトを用いた場合以上に強化することが可能になり、上記課題を有利に解決できることを確認するに至ったものである。
そこで、本発明では、高力ボルト2の軸部に、引張強さが1700〜2600MPaの高強度材で形成した、締付長さLより短い材軸長さLsの鞘材5を挿入して、接合部に対して摩擦力を超える大きな応力が作用して高力ボルト2軸部にせん断力が作用したとき、鞘材5の強度範囲内で高力ボルト2のせん断耐力を補強することによって接合部としての最大耐力を強化するものである。
本発明では、引張強さが1700〜2600MPaの鞘材5を用いるが、このような高強度材は、現状で実現可能な範囲で、最大耐力を現状レベルより格段に強化するという要請に応えるために、本発明では、不可欠(大前提)な条件である。引張強度が1700MPa未満だと、高力ボルト強度と同程度となるため、鞘材の効果を奏しないので、1700MPa超とした。また、2600MPa超だと鋼板のコストから見合わないので、2600MPa以下とした。
これらの鞘材(ここでは5で代表説明)は、少なくとも、高力ボルト2軸に対するせん断力に抗するようにボルト孔1oと高力ボルト2軸間に介在させるものである。この場合、高力ボルト2軸部の全周をカバーすることは不可欠ではないが、鞘材5がボルト孔1oと高力ボルト2軸間で移動しても安定的に機能させるために、全周をカバーするように介在させることがより好ましい。
(1)長さLs:高力ボルト2の締付長さLより若干短くする。これは、鞘材5に常時は応力が作用しないようにして、鞘材5の遅れ破壊を回避するためである。ただし、少なくとも、高力ボルト2に対するせん断力作用域を十分にカバーできる長さが必要がある。(ここでは、鞘材5の長さは締付軸力を導入した状態での厚鋼板11の厚さ+厚鋼板12の厚さの0.6〜0.9程度あれば、常時は締付軸力が作用することはなく、遅れ破壊の懸念を排除しながら十分に機能できる。)。
(2)内径d:高力ボルト2軸径+0超〜1mm程度。鞘材5の高強度特性の寄与率を高めるには、高力ボルト2軸と鞘材5の内面間の隙間は小さい程よいが、鞘材5を高力ボルト2軸に円滑に挿入するための隙間を形成するために必要である。
(3)厚みt:1〜5mm程度。1mm以上必要な理由は、十分な形状剛性を維持して、高強度特性を安定確保するために必要な厚さである。5mm超の厚さの場合、図3に示すように、ボルト孔1oの径が大きくなり過ぎ、高力ボルト2頭部径やナット3の外径に近くなり過ぎ、または超えることにあなるため、締付軸力を伝達するために標準的な座金4の他に板座金4wを使用するなど接合部形成するための加工、施工負荷の増大、締付軸力伝達の不安定などの問題を生じるので、好ましくは5mm程度までの範囲である。
(4)鞘材5とボルト孔1oとの隙間:0超〜1mm程度。鞘材の高強度特性の寄与率を高めるには、高力ボルト2軸と鞘材5とボルト孔1o面間の隙間は小さい程よいが、鞘材5を高力ボルト2軸とボルト孔1o間に円滑に配置(挿入)するために隙間が必要である。ただし、隙間が大きすぎるとガタ発生につながるため、1mm程度以下とした方がよい。なお、この鞘材5は、一般的な製管法や冷間成形などによって容易に量産可能である。
なお、頭締めトルシア形高力ボルト4の角形座金5以外の座金は、必要に応じて使用するものである。
ナットの特性については、硬さが最小でHRB95、最大でHRC35、座金の特性については、硬さがHRC35〜45のものであればよい。
また、添板や接合金物を用いる場合では、その特性は、接合対象の部材と同じ程度以上であることが好ましい。
なお、本発明で用いる高力ボルト2、7、ナット3、座金4、添板や接合金物は、すべて同じ特性のものを用いることは不可欠ではない、接合部位によって、また同じ接合部位内でも、荷重負担に応じて使い分けることもでき、また、従来レベルの特性のものを併用することも考慮する。
(1)図5に示すように、厚鋼板11、12を接合対象として、接合部を微小間隙aを生じるように突き合わせ、突き合わせた厚鋼板11、12に跨がって、上下面に当接した添板8を介して高力ボルト2で2面摩擦接合(添板を1枚にして1面摩擦も可)をする高力ボルト摩擦接合部。
(2)図6に示すように、角形鋼管91、92による柱材を接合対象として、材軸方向に突き合わせ、4面を、それぞれ、内部側と外部側に当接した添板10を介して高力ボルト2で2面摩擦(添板を1枚にして1面摩擦も可)の摩擦接合をする高力ボルト摩擦接合部。
(3)図7に示すように、H形鋼梁111、112を接合対象として、軸方向に間隙aを生じるように突き合わせた上下フランジ11a、11bに跨がって、それぞれ、上下面に当接した添板121、122を介して高力ボルト2で2面摩擦(1面摩擦も可)の摩擦接合をする高力ボルト摩擦接合部。
などが代表的なものである。
従来の摩擦接合部の場合では、鞘材以外の条件は実験例と同じである。
[実験条件]
高力ボルト(SHTB)
軸径:20mm
引張強さ:1400MPa
締付長さ:50mm
ボルト孔
孔径:24mm
ピッチ:60mm
鞘材(2000MPa級鋼材)
内径:20.5mm
厚さ:1.0mm
引張強さ:2000MPa
ナット:硬さ HRC 35
座金:硬さ HRC 40
締付軸力:(1400MPa×ネジ部有効断面積×0.74)=290kN
(1).図8に示すように、鞘材を介在させた本発明の摩擦接合部では、一次設計の耐力レベルに相当する250kNで「すべり」が発生し、その後、被接合材とボルトおよび鞘材とが支圧・せん断状態となり、荷重が上昇し、660kNで最大値を示し、その後若干の荷重低下を示した後、ボルトおよび鞘材がせん断破壊した。
(2).(1)から、本発明の摩擦接合部の接合部としての最大耐力は、660MPa程度と評価できる。なお、破断した後の高力ボルトには、遅れ破壊の発生の痕跡は認められなかった。また、鞘材はせん断破壊したが、遅れ破壊の発生は認められなかった。
(3)これに対して、鞘材を介在させない摩擦接合部では、図8に示すように、一次設計の耐力レベルに相当する250kNで「すべり」が発生し、その後、被接合材とボルトとが支圧・せん断状態となり、荷重が上昇し、550kNで最大値を示し、その後若干の荷重低下を示した後、ボルトがせん断破壊した。
(4).(3)から、この摩擦接合部の接合部としての最大耐力は、550MPa程度と評価できる。なお、破断した後の高力ボルトには、遅れ破壊の発生の痕跡は認められなかった。
2 高力ボルト 21 高力ボルト(トルシア形)
2a 軸部 2s 雄ネジ
3 ナット 4 座金
5、51、52 鞘材 6 ピンテール
7 高力ボルト(頭部締めトルシア形)
7a 軸部 7s 雄ネジ
8 角形座金 91、92 角形鋼管(柱材)
10 添板 111、112 H形鋼梁
11a 上フランジ 11b 下フランジ
121、122 添板
Claims (4)
- 高力ボルトを用いた鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部であって、被接合部材のボルト孔に挿入した高力ボルトの軸部とボルト孔間に、被接合部材に対する締付長さよりも材長が短い鞘材を介在させたことを特徴とする鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部。
- 前記高力ボルトの引張強さが700MPa〜1600MPaであり、かつ、前記鞘材の引張強さが1700〜2600MPaであることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部。
- 高力ボルトに介挿した座金と被接合部材間に、座金以上の厚さを有する板座金を介在させ、締付軸力を被接合部材に伝達して摩擦接合することを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部。
- 請求項1から請求項3のいずれかに記載の鉄骨部材の高力ボルト摩擦接合部を1箇所以上有することを特徴とする建築鋼構造物。
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