JP4705525B2 - 高力ボルト接合部 - Google Patents
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摩擦接合とは、図6(a)に示すように、高力ボルトで継手部材を締め付け、部材間に生じる摩擦力によって応力を伝達する接合法であり、支圧接合とは、図6(b)に示すように、軸部のせん断、部材の支圧によって応力を伝達する接合法である。摩擦接合と支圧接合は、接合部で伝達する応力がボルト軸と直角方向である点で外観上は似ているが、応力伝達形態が全く異なっており力学的な原理において両者は全く別の接合形式である。また、引張接合とは、例えば図7に示すフランジ付き鋼管の高力ボルト接合のように、高力ボルトの軸方向の応力を伝達する接合方法であり、高力ボルトを締め付けて得られる材間圧縮力を利用して応力を伝達するものである。
従来、高力ボルトとしては、引張強さが1000MPa級(導入張力:1000MPa×ネジ部有効断面積×0.74)の高力ボルトが主体になっていたが、現状では、建築鉄骨分野で引張強さが1400MPa級(導入張力:1400MPa×ネジ部有効断面積×0.74)の高力ボルトが使用されるようになってきている。これらは、専ら摩擦接合や引張接合として利用されている。
ここで、ネジ部有効断面積とは、図8に示すように、JIS B 1082−1987で規定されるネジの有効断面積であり、(1)式により計算されるものである。
As=π/4・{(d2+d3) /2}2・・・・・(1)
ここで
As:ネジの有効断面積
d2:高力ボルトのネジの有効径の基準寸法で、ネジ溝の幅がネジ山の幅に等しくなるような仮想的な円筒の直径(図8参照)
d3:高力ボルトのネジ谷径の基準寸法
また、特許文献1では、橋脚などの鋼構造での補修工法の分野で、支圧接合用の打ち込み式高力ボルトとして、1200〜1600MPa級(導入張力:1000MPa級の標準的な導入張力かそれ以下の値)のボルトが開示されている。なお、本発明は、引張強さが1700〜2600MPaで導入張力をその材料の引張強さにネジ部有効断面積を乗じた値の0.30〜0.65倍の引張力としたもので、最大耐力が格段に向上(11〜149%)しており、特許文献1に示されたものよりも格段の効果を有する。したがって、特許文献1から容易になされたものではない。
したがって、大地震に対する設計でボルト本数が決定される場合には、「最大せん断耐力」や「最大引張耐力」(以下「最大耐力」と称する。)を強化することで、ボルト本数の低減につなげることができる。
本発明の請求項2は、前述の請求項1に記載の高力ボルト接合部を少なくとも1以上用いたことを特徴とする建築鋼構造物である。
本発明の請求項2の高力ボルト接合部は、引張強さが1700〜2600MPaの高力ボルトを使用した支圧接合部、摩擦接合部、引張接合部であって、導入張力をその材料の引張強さにネジ部有効断面積を乗じた値の0.30〜0.65倍の引張力とすることで、継続的に使用する接合部についても、遅れ破壊の発生の可能性を排除でき、導入張力から決定される許容耐力を、1400MPa級ボルトと同等程度(比率で0.70〜1.30)に確保し、かつ、最大耐力を従来の引張強さが1000MPa級(導入張力:1000MPa×ネジ部有効断面積×0.74)の高力ボルトに比べ、1.1〜2.5倍程度増加可能で、ボルト本数を低減して接合部のコンパクト化や加工手間、締付施工の省力化を安価に実現でき、鉄骨部材の高力ボルト接合構造に適用して、顕著な効果を奏するものである。
本発明の請求項3は、請求項1または2の高力ボルト接合部を1以上用いて建築鋼構造物としたものである。
また、ここで用いる高力ボルトの好ましい製造条件としては、冷間鍛造でボルトを成形後、900〜1100℃に加熱・焼入れしてマルテンサイト組織にし、その後、300〜650℃で焼戻処理を行う方法や、熱間鍛造でボルトを成形後、直ちに焼入れしてマルテンサイト組織にし、その後、300〜650℃で焼戻処理を行う方法、熱間鍛造でボルトを成形後、900〜1100℃に加熱・焼入れしてマルテンサイト組織にし、その後、300〜650℃で焼戻処理を行う方法などがある。但し、他の製造条件を排除するものではない。
[高力ボルト支圧接合部]
主として、小梁と大梁との接合部や、その他板要素の継手に用いられるものである。
(1)例えば、図3に示すように、厚鋼板7を接合対象として、接合部を重ね合わせて高力ボルト1で支圧接合をする高力ボルト支圧接合部。ここで、ボルト孔径は、接合部に許容される変形量と施工性を考慮し設定されるもので、出来る限りボルト径に合わせた方が接合部での変形が抑制されるため、接合部性能としては有利となるが施工性は低下するため、一般的には1.5mm程度が採用されている。
[高力ボルト摩擦接合部]
主として、柱継手、梁継手、その他板要素の継手に用いられるものである。
(1)例えば、図3に示すように、厚鋼板7を接合対象として、接合部を重ね合わせて高力ボルト1で摩擦接合をする高力ボルト摩擦接合部。
(2)図4に示すように、角形鋼管81、82による柱材を接合対象として、角形鋼管81と82を材軸方向に突き合わせ、4面を、それぞれ、内部側と外部側に当接した添板10を介して高力ボルト1で2面摩擦(1面摩擦も可)の摩擦接合をする高力ボルト摩擦接合部などが代表的なものである。
(3)他に、H形鋼梁を接合対象として、突き合わせた上下フランジに跨がってそれぞれ上下面に当接した添板を介して高力ボルトで2面摩擦(1面摩擦も可)の摩擦接合をする高力ボルト摩擦接合部(図示省略)などがある。
[高力ボルト引張接合部]
主として柱梁接合部に用いられるスプリットティ接合部、エンドプレート接合部、フランジつき鋼管と鋼管をつなぐフランジ継ぎ手などに用いられるものである。
(1)例えば、図5に示すように、角形鋼管11による柱材の側部に、H形鋼梁12を接合するスプリットティ(T形接合金物)13のフランジ13aを高力ボルト1で引張接合する高力ボルト引張接合部が代表的なものである。ここで、スプリットティ13のウェブ13bとH形鋼梁12の上下フランジ12a、12bとの接合部は、高力ボルト摩擦接合部になる。
(2)他に角形鋼管による柱材の側部に、H形鋼梁を接合したエンドプレート(接合金物)を高力ボルトで引張接合する高力ボルト引張接合部(図示省略)などがある。
なお、本発明の接合部に用いる高力ボルト、ナット、座金は、すべて同じ特性のものを用いることは不可欠ではなく、同じ接合部位内でも、荷重負担に応じて使い分けることもでき、また、従来レベルの特性のものを併用することも考慮する。
引張強さが1700〜2600MPaの高力ボルトは、常時、高張力を導入した状態で使用した場合、遅れ破壊の発生の可能性が高くなることが知られているが、本発明者らの検討によって、高力ボルトに導入する張力を、その材料の引張強さにネジ部有効断面積を乗じた値の0.30〜0.65倍の引張力とすることで、引張強さが1700〜2600MPaの高力ボルトを接合部耐力を十分に確保しながら、遅れ破壊発生の懸念を排除して使用できることが判明した。
本発明の請求項2は、この知見に基づくものであり、引張強さが1700〜2600MPaの高力ボルトを使用して、最大耐力を増加させ、遅れ破壊の発生の可能性を排除して、ボルト本数を低減してコンパクト化や加工手間、締付施工の省力化を安価に実現可能にするものである。
この高力ボルト接合部は、鉄骨部材の高力ボルト支圧接合構造、高力ボルト摩擦接合構造、高力ボルト引張接合構造に広く適用することができるが、この場合、要求される接合部特性に応じて、適用接合部位を一部の接合部位にのみ適用することもできる。
また、高力ボルトに導入する張力を、その材料の引張強さにネジ部有効断面積を乗じた値の0.30〜0.65倍(従来の1000MPa級や1400MPa級の場合では0.74倍)の引張力として接合することは、引張強さを1700〜2600MPaに高強度化した場合に懸念される遅れ破壊の発生を排除しながら、最大耐力を強化でき、ボルト本数を低減してコンパクト化や加工手間、締付施工の省力化を安価に実現するために必要な条件である。
導入張力を0.30倍未満にした場合、ボルト本数の増加が必要になり、引張強さを高強度化した意味がなくなる。締付軸力を0.65倍超にした場合は、遅れ破壊が発生する可能性が高くなり、引張強さを高強度化した意味がなくなる場合があり好ましくない。
なお、この結果は、M20の高力ボルトを用いて鉄骨厚板(幅600mmで板厚60mm、590MPa級)同士を図3の形態で支圧接合する場合のものであるが、摩擦接合部や引張接合部で試算した場合にも、結果に決定的な差が生じることはないと考えられる。
なお、表1中の遅れ破壊の発生状況で、○は遅れ破壊が発生しなかったことを、×は遅れ破壊が発生したことを示す。
[試算条件]
1.M20の高力ボルトを用いて、(角形鋼管)箱形断面材(□−600×32、490MPa級)を、図4に示すように添板10を介した2面摩擦で摩擦接合する条件で試算。
2.基準となる従来技術は、1000MPa級の高力ボルトで導入張力レベルを0.74としたもの(ケース1)。
3.一次設計で要求される耐力を一定として、各ケースでボルト本数を算出。
4.接合部としての最大耐力は、ボルト材料強度と使用ボルト本数から算出。
(1).ボルト強度を1700〜2600MPaまで上げれば、一次設計でのボルト本数を減らすことができるが、導入張力レベルを従来と同様の導入張力レベル0.74倍にした場合には、遅れ破壊が発生する懸念が大である。また最大耐力の増加も見込めない。
(2).導入張力レベルを従来の導入張力レベルより適度(ここでは0.50〜0.65倍)に下げることにより、遅れ破壊の発生を抑制できる。また、従来と同程度のボルト本数で、最大耐力を1.11〜1.47倍に強化できる(ケース7、16、26、37)。
(3).しかし、導入張力レベルを下げ過ぎると、ボルト本数が従来以上になる場合があり、ボルト強度を高強度化した意味が薄くなる。ボルト本数を低減できるのは、導入軸力レベルが0.30倍までの場合である(ケース39)。
(4).引張強さを1700MPa〜2600MPaにした場合では、導入張力レベルが0.30倍〜0.65倍の範囲にあり、遅れ破壊の発生がなく、ボルト本数を低減しつつ最大耐力を従来の1.1〜2.5倍に効率的に増加させることができるケース(欄外に本発明の記載有り)が○評価できる。
なお、表1は、M20の高力ボルトを用いて、箱形断面材(□−600×32、490MPa級)を、図4に示すような2面摩擦の摩擦接合部で試算とした場合のものであるが、支圧接合部、引張接合部で試算した場合にも、結果に決定的な差が生じることはないと考えられる。
1a 軸部 1s 雄ネジ
2 ナット 3 ピンテール
4 高力ボルト(頭部締めトルシア形)
4a 軸部 4s 雄ネジ
5 角形座金 7 厚鋼板
81、82 角形鋼管(柱材)、箱形断面材
10 添板 11 角形鋼管(柱材)
12 H形鋼梁 12a 上フランジ
12b 下フランジ 13 スプリットティ
13a フランジ 13u ウェブ
Claims (2)
- 鉄骨部材の高力ボルト接合部であって、鋼材組成が、質量%で、C:0.45〜1.0%、Si:0.1〜2.0%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.01%以下、Al:0.01〜0.1%を含有し、更に、Ni:0.05〜3.0%、Cr:0.1〜3.0%、Mo:0.05〜3.0%、Nb:0.005〜0.5%、V:0.05〜1.0%、Ti:0.01〜0.5%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、冷間鍛造によるボルト成形後に900〜1100℃に加熱し焼入れしてマルテンサイト組織にして300〜650℃で焼戻処理、又は熱間鍛造よるボルト成形後直ちに焼入れしてマルテンサイト組織にして300〜650℃で焼戻処理、又は熱間鍛造によるボルト成形後に900〜1100℃に加熱し焼入れしてマルテンサイト組織にして300〜650℃で焼戻処理した、引張強さが1700〜2600MPaの高力ボルトを使用し、この高力ボルトに導入する張力を、該高力ボルトの材料の引張強さにネジ部有効断面積を乗じた値の0.30〜0.65倍の引張力として、支圧接合、摩擦接合、引張接合のいずれかで接合することを特徴とする高力ボルト接合部。
- 請求項1に記載の高力ボルト接合部を少なくとも1以上用いたことを特徴とする建築鋼構造物。
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