JP4081406B2 - 鉄骨造露出型柱脚構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、大地震の際に、アンカーボルトの降伏より先に、柱脚金物の柱材との結合部より下方部にて塑性化が確実に始り、地震エネルギを効率よく吸収させるための鉄骨造の露出型柱脚構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
建築構造物の耐震設計においては、いずれかの構造部材の塑性変形によって地震エネルギを吸収することにより、稀に発生する大地震に対して建物の倒壊を防ぐという構造設計が行われている。建築構造物の柱脚構造として露出型柱脚構造を採用した場合に、地震時に最初に塑性化して地震エネルギを吸収させる構造部材として選定可能な構造部材は、アンカーボルト、柱脚金物あるいは柱材のいずれかである。
【0003】
ところで、ベースプレートの上部に形成した立上がり部に断面欠損部を形成し、その断面欠損部の耐力を柱の設計耐力と等しくすることにより、地震時等における塑性化を柱脚金物を構成するベースプレートと柱材との間に確実に誘導するようにした技術が知られている(特許文献1参照)。この従来技術では、柱脚金物の立上がり部に形成する断面欠損部として、幅8mm、深さ4mmの溝部を形成した場合を例示している。しかしながら、地震エネルギを吸収するためには、柱脚部に作用する曲げモーメントによって生じる塑性化もかなり広い範囲にわたることが一般的であり、前記従来技術の溝部のように狭い塑性化領域の場合には、塑性化の始りを前記溝部に誘導することはできても、その塑性化領域が小さいため、地震の規模によっては地震エネルギを吸収しきれずに、返って応力集中により断面欠損部から破壊が生じるおそれもあった。さらに、前記従来技術における柱脚金物の立上がり部の高さ寸法はせいぜい柱材の幅の半分程度であり、柱材との溶接位置も低くなるため、柱脚部に作用する曲げモーメントの影響を大きく受けやすく、過大な応力集中により溶接接合部から破断する可能性も問題であった。因みに、柱脚金物は、鍛造あるいは鋳造による製作が一般的であるが、鍛造による場合には、ベースプレートの上方に突出する立上がり部を有する柱脚金物を製作することは技術的に困難であり、仮に製作が可能であっても、溝や孔からなる断面欠損部の形成は機械加工に頼らざるを得ないことから、コストが増大してしまうという技術的な問題があった。また、鋳造による場合には、鋳型から鋳物としての柱脚金物を抜くための勾配が必要であり、同様に溝や孔からなる断面欠損部の形成は機械加工に頼らざるを得ないことから、やはりコストが増大してしまうという技術的な問題があった。
【0004】
その他の従来技術として、柱材に比べて断面性能の低い部材を柱材最下端とベースプレートの間に配設し、ある値以上の曲げモーメントが作用すると、柱材、アンカーボルト及びベースプレートに先行してその低断面性能部材が降伏し、塑性ヒンジを形成するようにした技術が知られている(特許文献2参照)。しかしながら、この従来技術で採用した柱脚構造は、あくまでピン柱脚としての問題点を改善したものであって、柱脚部の固定度が低いことから、柱脚部に作用する曲げモーメントは小さいものの、柱頭部に作用する曲げモーメントは大きいため、その分柱材の耐力を大きなものとしなければならず、割高なものとなった。しかも、ピン柱脚構造とはいっても実際には柱脚部に少なからず曲げモーメントが作用するため、これが大地震の際の建物倒壊の原因の一つになりかねないといったおそれもあった。したがって、前記従来技術は、柱脚部に作用する曲げモーメントがあまり大きな問題とならないピン柱脚構造の設計方式が適合する柱間のスパンの広い大スパン建造物などに適用できるものであり、その適用範囲には大きな制約が伴った。
【0005】
【特許文献1】
実用新案登録第2567435号公報
【特許文献2】
特開平10−183759号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑みて発明したもので、地震時に柱脚部や柱部が分担する負荷を総合的にバランスよく分配し、各構成部材の耐力を有効に活用して建物の倒壊に備えるように構成することにより、各構成部材を合理的に縮小化して材料コストの削減を図ることができ、しかも建物の急激な倒壊を回避し得る、各種の建物に広く適用することの可能な鉄骨造露出型柱脚構造を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、請求項1の発明では、基礎コンクリート中に定着したアンカーボルトにより固定されるベースプレートに対して柱材の下部を固定することにより柱材を立設する鉄骨造露出型柱脚構造において、その柱脚構造を介して前記柱材の反曲点高比が0.3〜0.6になるように設定するとともに、前記ベースプレートと前記柱材の下端部との間に、柱材に作用する曲げモーメントに対して前記アンカーボルトより先に降伏して塑性化する塑性化部材を介在させ、その塑性化部材の材質を柱材と同材質にし、該塑性化部材の外のりの直径ないし一辺の長さを前記柱材の外のりのそれと同一にするとともに、該塑性化部材の肉厚を前記柱材の肉厚より薄くし、かつ前記ベースプレートの上面から前記塑性化部材と前記柱材との接続部までの高さを前記柱材の直径ないし一辺の長さの少なくとも1.5倍に設定するという技術手段を採用した。本発明によれば、柱材の反曲点高比が0.3〜0.6となる半固定状態の柱脚構造を基本構造として採用したので、ピン柱脚構造や固定柱脚構造に比べて、地震作用により生じる曲げモーメントが柱部と柱脚部にバランスよく分配されるとともに、さらに柱材の下部にアンカーボルトより先に降伏して塑性化する塑性化部材を介在させて前記柱脚部を紡錘型の履歴特性に移行させるように構成したので、地震エネルギの吸収能力が大幅に向上され、地震作用による建物の急激な倒壊を回避できることから、柱部や柱脚部を構成するベースプレート及びアンカーボルトなどの各構成部材を総合的に縮小化し、しかも耐震性能の優れた柱脚構造を提供することができる。さらに、本発明では、ベースプレートの上面から前記塑性化部材と柱材との接続部までの高さを柱材の直径ないし一辺の長さの少なくとも1.5倍に設定したので、地震エネルギに対する十分な吸収領域を確保し得るとともに、塑性化部材と柱材との接続部に過大な力が作用して接続部から破壊することは回避される。なお、前記塑性化部材は、前記柱材と同材質のものを使用して、その塑性化部材の外のりの直径ないし一辺の長さを柱材の外のりのそれと同一にし、かつ塑性化部材の肉厚を柱材の肉厚より薄く構成する。
【0008】
請求項2の発明では、基礎コンクリート中に定着したアンカーボルトにより固定されるベースプレートに対して柱材の下部を固定することにより柱材を立設する鉄骨造露出型柱脚構造において、その柱脚構造を介して前記柱材の反曲点高比が0.3〜0.6になるように設定するとともに、前記ベースプレートと前記柱材の下端部との間に、柱材に作用する曲げモーメントに対して前記アンカーボルトより先に降伏して塑性化する塑性化部材を介在させ、前記塑性化部材と前記柱材とは接続用当て板を用いて接合し、かつ前記ベースプレートの上面から前記接続用当て板の下端部までの高さを前記柱材の直径ないし一辺の長さの少なくとも1.5倍に設定するという技術手段を採用した。本発明は、前記請求項1の発明に比べ、塑性化部材と柱材との接続手段として接続用当て板を用いるとともに、ベースプレートの上面から前記接続用当て板の下端部までの高さを柱材の直径ないし一辺の長さの少なくとも1.5倍に設定した点で特徴を有し、基本的に同様の作用効果を奏する。なお、前記塑性化部材は、例えば柱材と同材質のものを使用して、その塑性化部材の外のりの直径ないし一辺の長さを柱材の外のりのそれと同一にし、かつ前記塑性化部材の肉厚を柱材の肉厚より薄くするとともに、その薄くなった分の厚みを調整するフィラープレートを接続用当て板の内側に当てるように構成してもよい(請求項3)。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、基礎コンクリート中に埋設されるアンカーボルトにより固定されるベースプレートに対して柱材の下端部を固定することにより柱材を立設する形態の鉄骨造露出型柱脚部に広く適用することができる。柱材の形状に関しては、円形や角形のものに適用可能である。また、アンカーボルト自体の形態や定着の仕方に限定されることもない。前記塑性化部材としては、柱材に作用する曲げモーメントに対してアンカーボルトより先に降伏して塑性化し得るもので、所定の強度を備える部材からなり、柱材と同材質の素材を用いて熱間加工により円形や角形のパイプ状に形成したものや、柱材と同材質の素材を用いて冷間加工により形成した後に熱処理を施して加工硬化を除去したものなどが可能である。また、加工硬化が生じない鋳造により所定形状に形成したものでもよい。この鋳造による場合には、ベースプレートと一体的に形成してもよい。因みに、塑性化部材は、熱間圧延材などの伸びが大きく降伏棚をもった変形能力の優れたものから構成すれば、地震エネルギの吸収能力をより高く構成することができる。また、塑性化部材の形状に関しては、前記柱材の下端部の断面形状と隅々まで完全に一致する必要性はない。例えば角形の柱材と角形の塑性化部材を使用する場合などでは、それぞれのメーカーにより角部にアールがないものや、角部に付与されるアールの大きいもの、小さいものなど、種々の形態のものがあるが、その程度の角部の形状の違いは問題にする必要性がない。
【0010】
図6は、柱脚部の固定状態と各部に加わる曲げモーメントとの関係を示した説明図である。図中の(A)、(B)、(C)は柱脚部の固定状態別の模式図である。図示のように、柱材1の下部を固定状態に応じた柱脚構造を介して基礎コンクリート2に固定し、上部を梁3に固定した状態において、例えば梁3に水平力を作用させて実験的に考察すると、縦軸に柱材1の下部からの高さHをとり、横軸に曲げモーメントMをとると、図示した太線のような曲げモーメント図が得られる。図中の点Cは反曲点であり、この高さ位置では曲げモーメントはゼロであり、柱の撓み曲線の曲率の符号が変化する点である。曲げモーメント図は、柱の下部の固定状態すなわち柱脚構造によって(A)〜(C)のように種々の形態をとることが判明している。
【0011】
次に、柱脚構造の3つの形態について説明する。一般に、建築構造物の柱脚構造は、主に固定柱脚構造とピン柱脚構造とに大別される。固定柱脚構造では、埋込み柱脚や根巻き柱脚が採用されることが一般的であり、柱脚部の固定度は高く、図6の(A)に示したように、この場合の反曲点Cにおける反曲点高比、すなわち反曲点Cの高さHc/柱材1の高さHsは、0.6以上になる。因みに、露出型柱脚においても、柱脚部を構成するベースプレートの肉厚や大きさ、アンカーボルトの径や設置本数を十分なものに設定すれば、固定柱脚構造として構成することも可能であるが、柱脚部の大形化を招き、施工コストも割高となることもある。これに対して、ピン柱脚構造は固定柱脚構造に比べて施工が容易で、基礎を小さくできるというメリットがある。このピン柱脚構造では、設計上、柱脚部をピンと看なしているが、実際の柱脚部は完全なピン柱脚構造のものは殆ど存在しない。このピン柱脚構造として、例えば図7の(A)に示したように、ベースプレート4を基礎コンクリート2に固定するアンカーボルト5を柱材1の面位置近傍か、やや内方に配設したものがあるが、固定度が低い場合に採用される形態である。このピン柱脚構造を用いた柱材1においては、地震時の曲げモーメントは、図6の(C)に示した状態に分配され、この場合の反曲点高比Hc/Hsは約0.3以下となり、柱脚部に作用する曲げモーメントは小さく、柱間隔の広い大スパンの建築構造などに適用が可能である。
【0012】
以上のほかに、固定柱脚とピン柱脚との中間的な柱脚構造として半固定柱脚構造がある。この半固定柱脚構造としては、例えば図7の(B)に示したように、柱材1の外側のベースプレート4に比較的少ない数のアンカーボルト5を配設した形態があり、この場合の反曲点高比Hc/Hsは約0.3〜0.35である。また、図7の(C)に示したように、固定度を高めるためにアンカーボルト5の数を増やし、ベースプレート4に補強リブ6を設けた形態もあり、この場合の反曲点高比Hc/Hsは、約0.4〜0.5になる。それらの半固定柱脚構造における曲げモーメントは、ほぼ図6の(B)に示した状態に分配されることになる。
【0013】
以上のことから、反曲点高比Hc/Hsが0.3〜0.6である半固定柱脚構造は、柱脚部が負担する曲げモーメントは柱頭部に比較して小さく、その分、固定柱脚構造に比べて柱脚部を構成するアンカーボルト5の耐力を小さく設定できる。すなわち、アンカーボルト5の径を小さくしたり設置本数を少なくして柱脚部の小型化を図ったり、施工コストを削減することも可能である。しかしながら、柱材1より耐力の小さいアンカーボルト5を使用すると、大地震等により過大な水平力が作用した際に柱脚部に対して作用する曲げモーメントに対する履歴特性がスリップ型となるため、地震エネルギの吸収が悪くアンカーボルト5の破断を招いて、建物の急激な倒壊を引き起こしかねない。そこで本発明では、柱脚部に作用する曲げモーメントに対して、アンカーボルト5より先に降伏して塑性化し易い塑性化部材を柱材1の下部に介在させることにより、柱脚部の履歴特性を的確に紡錘型に移行させ、これによりアンカーボルト5の破断による建物の急激な倒壊を回避したものであり、その点に特徴を有するものである。すなわち、反曲点高比Hc/Hsが0.3〜0.6である半固定柱脚構造を採用して柱脚部を構成するアンカーボルト5に対する負荷を軽減して部材の縮小化を可能にするとともに、塑性化部材の適用により柱脚部の履歴特性を的確に紡錘型に移行させて地震による過大な負荷による急激な建物の倒壊を回避した点に特徴を有するものである。
【0014】
図8は紡錘型の露出型柱脚構造に関する地震時の挙動を例示した説明図であり、図9はその柱脚部の履歴特性を概略的に示した説明図である。なお、図9において縦軸にとった曲げモーメントMと横軸にとった回転角θとの関係は、図10の概念図に示したとおりである。しかして、紡錘型に係る露出型柱脚構造の場合には、地震時に柱材1を介してその根元部分、すなわち柱材1とベースプレート4との結合部分近傍に曲げモーメントMaが作用すると、図8に示した状態Aから状態Bのように柱材1の根元部分が大きく変形し、アンカーボルト5が塑性化する前に柱材1の根元部分が塑性化することになる。すなわち、曲げモーメントMaの作用により柱材1の根元部分が変形を始めると、先ず前半では弾性変形をし、やがて弾性領域を超えると塑性化して状態Bに至る。次に、逆向きの曲げモーメントMbが作用すると、柱材1は反対方向に変形して状態Cに至ることになる。この状態Bから状態Cへの変形の過程を図9を用いて説明すると、前半は先ず状態Bで示した変形状態から弾性変形分が復帰し、引続いて曲げモーメントMbによる弾性変形に移行する。そして、後半で弾性領域を超えると塑性化し、塑性変形しながら状態Aの垂直状態を過ぎて反対側に傾斜した状態Cに至ることになる。前述のように、本発明に係る露出型柱脚構造における履歴特性としては、紡錘型を呈することから、スリップ型のように途中でアンカーボルト5の締付ナット7がベースプレート4の上面から浮上がり、荷重が伝達されずに地震エネルギが吸収されない行程は介在しない。したがって、本発明に係る露出型柱脚構造の場合には、地震エネルギの吸収がきわめて良好であり、地震エネルギを吸収することにより大地震に対して建物の急激な倒壊を防ぐという構造物の耐震性能の観点から非常に有効である。また、アンカーボルト5の締付ナット7がベースプレート4の上面から浮上がって柱材1に対する固定力が失われるといった事態も回避することができる。
【0015】
ところで、柱材1としては、冷間圧延材、溶接組立材、形鋼等、様々な材料が用いられている。一般的によく使用されている冷間圧延材では、加工硬化によるばらつきがあるため、設計で用いられる柱材1の設計基準強度(いわゆる基準強度「F値」)より実際の耐力の方が10Kgf/mm2前後も上回ることがあり、個々の構成部材の機械的性質の差によって次のような問題が生じた。すなわち、柱材1の実際の耐力が想定した以上に高すぎると、柱材1が先に塑性化するように設計したとしても、実際には柱材1の変形が弾性範囲内にとどまり、余裕のない柱脚部に過大な荷重がそのまま伝達されてしまい、柱脚部の履歴特性がスリップ型に移行して、最悪の場合には、アンカーボルト5の破断や基礎コンクリート2の破壊などにより、建物の急激な倒壊を引き起こしかねないという問題があった。そこで、従来技術においては、図9に示したいわゆる紡錘型の履歴特性を確実に実現するためには柱脚部の塑性耐力を十分大きくとる必要があることから、アンカーボルト5などが必要以上に過大化される傾向にあった。これに対して本発明に係る露出型柱脚構造の場合には、前述のように柱材1に作用する曲げモーメントに対してアンカーボルト5に先行して降伏する塑性化部材を柱材1の下部に介在させたことから、より的確に紡錘型の履歴特性を実現できるばかりでなく、従来の柱材1自体が塑性変形する固定柱脚構造の場合に比べて、柱脚部の塑性耐力をより小さく設定することも可能である。
【0016】
【実施例】
以下、図面を用いて本発明の第1実施例に関して説明する。図1は本発明の第1実施例を示した概略構成説明図であり、図2はその柱脚金物の部分を拡大して示した縦断面図である。図示のように、本実施例では、柱脚金物を構成するベースプレート4の上面に塑性化部材8を溶接等により一体的に構成し、その塑性化部材8の端部に柱材1の端部を溶接しておき、前記ベースプレート4を介して柱材1を基礎コンクリート2に対して立設する柱脚構造を採用した。現場では、基礎コンクリート2の所定位置にアンカーボルト5を埋設して定着させた後、そのアンカーボルト5の上端部にベースプレート4のボルト孔を合わせて挿通させ、締付ナット7によりベースプレート4を仮締めして基礎コンクリート2の上面に固定することにより、柱材1を所定位置に立設する。しかる後、さらに柱材1が垂直に立設するようにベースプレート4をレベル調整した上、基礎コンクリート2とベースプレート4との間にグラウト材10を充填する。このグラウト材10が固化した後、前記締付ナット7によりベースプレート4の本締めを行うことにより、柱材1が所定位置に確実に立設されることになる。塑性化部材8には、柱材1と同じ円形や角形のパイプ状に形成したものを用いる。同断面形状とするのは、溶接作業等の接続作業が容易であるとともに、柱材1と塑性化部材8の外づらを一致させることにより外壁等の施工が容易になるからである。また、本実施例では、この塑性化部材8として、同材質からなり、外ずらが同じで柱材1より肉厚の薄いものを使用している。
【0017】
図2に示したように、本実施例では、塑性化部材8の高さHpを柱材1すなわち塑性化部材8自体の直径ないし一辺の長さDの1.5倍の寸法に設定し、溶接により柱材1の下端部に接続した場合を示してある。因みに、本発明では、前述のように、柱材1と塑性化部材8との接続部9までの高さHpを柱材1すなわち塑性化部材8の直径ないし一辺の長さDの少なくとも1.5倍に設定することを特徴としている。この塑性化部材8の高さを導く根拠は、実験の結果とその解析から得られたものである。柱材1の直径ないし一辺の長さをDとすると、塑性化部材8のうちベースプレート4の上面から略0.3Dないし0.5Dまでの高さ範囲はベースプレート4との一体化により拘束される領域であり、実際にはこの拘束領域から更に上方の領域が塑性化領域として機能して塑性変形が生じることになる。一方、溶接部に大きな曲げモーメントが作用すると溶接部から破断する可能性が高くなることはいうまでもない。本実施例では、それらを総合して、溶接部すなわち柱材1と塑性化部材8との接続部9の高さHpをベースプレートの4上面から少なくとも1.5Dの高さに設定することにより、大きな曲げモーメントが作用する根元部分を避けて溶接部からの破断を回避するとともに、柱材1の下部に十分な塑性化領域を確保し得るように構成した。すなわち、塑性化部材8と柱材1との接続部9の下方には、柱材1の直径ないし一辺の長さDの1.5倍という従来に比べて格段に大きい塑性化領域が形成されることから、大地震時における地震エネルギも十分吸収することが可能である。因みに、実験の結果を総合すると、柱材1の直径ないし一辺の長さDの0.8倍ないし同等の高さから塑性化が始り、その塑性化が上下に拡大することになるが、その塑性化の拡大用の上下幅としては、上下合わせて柱材1の直径ないし一辺の長さD程度の塑性化領域を確保しておけば、かなり大きな地震の地震エネルギの吸収にも十分対応できることが確認できる。したがって、本実施例によれば、塑性化部材8と柱材1との接続部9を、その塑性化拡大用の上下幅としての1Dも含めて、ベースプレート4の上面から1.5D離した高さに設定したので、地震エネルギを十分吸収し得るとともに、その接続部9に作用する曲げモーメントが低減されることから、該接続部9からの破壊も回避することができる。
【0018】
図3は柱材1に作用する水平力により柱脚金物の立上がり部を構成する塑性化部材8に塑性変形が生じる過程を説明するための説明図である。本図は、横軸に曲げモーメントMをとり、縦軸に高さHをとって示したものであり、直線mは柱材1に水平力が作用した際の曲げモーメントの付加状態を表わし、直線aは柱脚部の終局耐力すなわちアンカーボルト5の終局耐力、直線bは柱脚金物の立上がり部を構成する塑性化部材8の全塑性曲げ耐力、直線cは柱材1の全塑性曲げ耐力を表わしたものである。ここでは一つの設計例に従ってそれらの直線m及び直線a〜cを示したものである。柱材1に水平力が作用した際の曲げモーメントを表わす直線mは、曲げモーメントがゼロの反曲点Cを基準点とするモーメント勾配αからなる直線として示され、柱材1に作用する水平力が増すにつれて曲げモーメントも増し、前記反曲点Cを基準点としてモーメント勾配αが大きくなる。そして、図示のように、直線mが直線bと交差するようになると、ハッチングで示したように塑性化部材8に曲げモーメントによる塑性化が始まることになる。ただし、その塑性化部材8のうち、ベースプレート4の上面から略0.3Dないし0.5Dまでの高さ範囲は、ベースプレート4との一体性に基づく補強作用からくる拘束によって実際には塑性化は起こりにくいが、この点に関しては本説明図では捨象している。更に柱材1に作用する水平力が増すと、前記反曲点Cを基準点とするモーメント勾配αも更に大きくなり、やがて直線mが直線aに交差するようになると、負荷が柱脚部の終局耐力すなわちアンカーボルト5の終局耐力に達してアンカーボルトが破壊されることになるが、それまでに塑性化部材8の塑性化によって吸収されるエネルギ量は大きく、かなり大きな地震に対しても建物の急激な倒壊を回避し得る有効な手段となる。
【0019】
図4は本発明の第2実施例を示す縦断面図である。本実施例においては、図示のように塑性化部材8の上端部と柱材1の下端部との接合部11の上下近傍の内外面に接続用当て板12,13を当てて、所要数のボルト14とナット15を用いて両側から挟持することにより、前記両部材を接続するように構成した場合を例示したものである。そして、本実施例の場合には、接続用当て板12,13の有する補強作用に基づいて、それらの接続用当て板12,13によって挟持された塑性化部材8の部分の塑性化が大きく制限されることから、接続用当て板12,13により挟持された部分全体を接続部とみて、ベースプレート4の上面から接続用当て板12,13の下端部までの高さを塑性化部材8による塑性化領域の高さHpとして、柱材1すなわち塑性化部材8の直径ないし一辺の長さDの1.5倍とした場合を例示した。その他の点では第1実施例と異なるところはない。なお、塑性化部材8と柱材1とは同じ断面形状を有することから、接続用当て板12,13等により接合部11を内外からガタを生じることなく的確に挟持することができる。
【0020】
前記第2実施例においては、塑性化部材8として柱材1とは異なる材質のものを用いて塑性化領域を形成した場合について述べたが、他の実施例として、塑性化部材8を柱材1と同材質とし、塑性化部材8の方の肉厚を薄く構成することにより塑性化領域を形成するようにしてもよい。図5はその変形例を示した部分断面図であり、図示のように、前記第2実施例における塑性化部材8に代えて、塑性化部材8の外のりの直径ないし一辺の長さを柱材1の外のりのそれと同一にし、塑性化部材8の肉厚を柱材1の肉厚より薄くした同材質のものを使用して、その薄くなった分の厚みを調整するフィラープレート16を接続用当て板13の内側に当てることで、塑性化部材8と柱材1とを接続用当て板12,13で挟持してボルト締めする際に、接続部にガタが生じないように構成したものである。
【0021】
因みに、前記第2実施例に用いる鋼材の材質として、柱材1には建築構造用冷間ロール成形角型鋼管(BCR295)を、塑性化部材8には建築構造用冷間プレス成形角型鋼管(BCP235)を採用することができる。この場合には、両者の降伏値を比較すると塑性化部材/柱材=235/295=0.8となり、降伏比は1以下であることから降伏は先に塑性化部材8で起きるが、引張り強さは両者とも等しいので最大耐力は低下することはない。選択する鋼材としては、このように引張り強さが同一で降伏値が異なるものが好適であるが、限定はされるものではない。また、塑性化部材8として熱間成形角型鋼管(SHC400)を用いることも有効である。それは、冷間成形材は製造の塑性加工時に残留応力が残るため、降伏比が高く伸びが減少して塑性変形能力が低下することになるからである。その点、熱間成形材は初期の冷間加工による塑性歪みの影響は熱間圧延によって殆ど除去され、原材と同等の塑性変形能力を有することから、熱間成形材の方がより地震エネルギの吸収に適しているといえる。
【0022】
【発明の効果】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)本発明では、柱材の反曲点高比が0.3〜0.6となる半固定状態の柱脚構造を柱脚部の基本構造として採用したので、ピン柱脚構造や固定柱脚構造に比べて、地震作用により生じる曲げモーメントが柱部と柱脚部にバランスよく分配されるとともに、さらに柱材の下部にアンカーボルトより先に降伏して塑性化する塑性化部材を介在させて前記柱脚部を紡錘型の履歴特性に移行させるように構成したので、地震エネルギの吸収能力が大幅に向上され、地震作用による建物の急激な倒壊を回避できることから、柱材自体の塑性変形により紡錘型を実現する従来の固定柱脚構造と比較しても、柱部や柱脚部を構成するベースプレート及びアンカーボルトなどの各構成部材を総合的に縮小化でき、しかも耐震性能の優れた柱脚構造を提供することができる。
(2)ベースプレートの上面から塑性化部材と柱材との接続部までの高さを柱材の直径ないし一辺の長さの少なくとも1.5倍に設定し、その間に広い塑性化領域を形成したので、地震時に大きな曲げモーメントが作用する柱材の根元部分にエネルギ吸収能力の大きい塑性化領域が形成されることから、耐震性能を大幅に向上することができる。
(3)塑性化部材と柱材との接続部までの高さをベースプレートの上面から柱材の直径ないし一辺の長さの少なくとも1.5倍に設定し、その接続部をベースプレートの上面から大きく離して地震時に最大曲げモーメントが作用する柱材の根元部分から外すように構成したので、前記柱脚に加わる曲げモーメント勾配に従って塑性化部材と柱材との接続部に作用する負荷が低減され、前記接続部からの破壊を確実に回避することができる。また、その塑性化部材と柱材との接続部に作用する負荷の低減により、該接続部の固定手段等を小型化してコストの削減を図ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施例を示した概略構成説明図である。
【図2】 同実施例の柱脚金物の部分を拡大して示した縦断面図である。
【図3】 柱材に作用する水平力により柱脚金物の立上がり部を構成する塑性化部材に塑性変形が生じる過程を説明するための説明図である。
【図4】 本発明の第2実施例を示す縦断面図である。
【図5】 同実施例の他の変形例を示した部分断面図である。
【図6】 柱脚部の固定状態と各部に加わる曲げモーメントとの関係を示した説明図である。
【図7】 ベースプレートの固定の仕方を例示した説明図である。
【図8】 紡錘型の露出型柱脚構造に関する地震時の挙動を例示した説明図である。
【図9】 同柱脚構造の履歴特性を概略的に示した説明図である。
【図10】 図9における曲げモーメントMと回転角θとの関係を示した概念図である。
【符号の説明】
1…柱材、2…基礎コンクリート、3…梁、4…ベースプレート、5…アンカーボルト、6…補強リブ、7…締付ナット、8…塑性化部材、9…接続部、10…グラウト材、11…接合部、12,13…接続用当て板、14…ボルト、15…ナット、16…フィラープレート
Claims (3)
- 基礎コンクリート中に定着したアンカーボルトにより固定されるベースプレートに対して柱材の下部を固定することにより柱材を立設する鉄骨造露出型柱脚構造において、その柱脚構造を介して前記柱材の反曲点高比が0.3〜0.6になるように設定するとともに、前記ベースプレートと前記柱材の下端部との間に、柱材に作用する曲げモーメントに対して前記アンカーボルトより先に降伏して塑性化する塑性化部材を介在させ、その塑性化部材の材質を柱材と同材質にし、該塑性化部材の外のりの直径ないし一辺の長さを前記柱材の外のりのそれと同一にするとともに、該塑性化部材の肉厚を前記柱材の肉厚より薄くし、かつ前記ベースプレートの上面から前記塑性化部材と前記柱材との接続部までの高さを前記柱材の直径ないし一辺の長さの少なくとも1.5倍に設定することを特徴とする鉄骨造露出型柱脚構造。
- 基礎コンクリート中に定着したアンカーボルトにより固定されるベースプレートに対して柱材の下部を固定することにより柱材を立設する鉄骨造露出型柱脚構造において、その柱脚構造を介して前記柱材の反曲点高比が0.3〜0.6になるように設定するとともに、前記ベースプレートと前記柱材の下端部との間に、柱材に作用する曲げモーメントに対して前記アンカーボルトより先に降伏して塑性化する塑性化部材を介在させ、前記塑性化部材と前記柱材とは接続用当て板を用いて接合し、かつ前記ベースプレートの上面から前記接続用当て板の下端部までの高さを前記柱材の直径ないし一辺の長さの少なくとも1.5倍に設定することを特徴とする鉄骨造露出型柱脚構造。
- 前記塑性化部材の材質を柱材と同材質にし、前記塑性化部材の外のりの直径ないし一辺の長さを前記柱材の外のりのそれと同一にし、かつ前記塑性化部材の肉厚を前記柱材の肉厚より薄くし、その薄くなった分の厚みを調整するフィラープレートを接続用当て板の内側に当てることを特徴とする請求項2に記載の鉄骨造露出型柱脚構造。
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