JP2007056385A - 炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】
従来よりも高い延伸倍率または張力の焼成条件であっても、毛羽や糸切れのない安定した品位で、高性能な炭素繊維を製造することができる炭素繊維前駆体繊維用油剤を提供する。
【解決手段】
耐炎化繊維束に、不活性気体雰囲気中25〜400℃において流動性を有する化合物を含む繊維処理剤を付与して後、炭素化処理する炭素繊維束の製造方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、高性能な炭素繊維を高い操業性で製造することができる炭素繊維の製造方法に関するものである。
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度および比弾性率を有するため、複合材料用補強繊維として、従来からのスポーツや航空・宇宙用途に加え、自動車や土木・建築、圧力容器、風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されつつあるが、特にスポーツや航空・宇宙用途においては、更なる高強度化や高弾性率化の要請が高い。
炭素繊維の中で、最も広く利用されているポリアクリロニトリル系炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系前駆体となるポリアクリロニトリル系繊維束を、湿式紡糸または乾湿式紡糸にて得た後、200〜400℃の酸化性雰囲気下で耐炎化繊維束へ転換し、少なくとも1000℃の不活性雰囲気下で炭素化、更に必要に応じて約2000℃以上で黒鉛化することによって、工業的に製造されている。
高性能な炭素繊維を得るためには、先述の各製造工程において、繊維束の張力を高く、あるいは高い延伸倍率に設定することがよく行われるが、延伸倍率または張力が高い程、毛羽発生や糸切れを起こすことが多く、品位を気にせずに基礎的な知見を得る場合はともかく、工業的に製造する場合には、毛羽や糸切れが発生すると品位・品質が低下するし、更には脱落した毛羽や切れた糸がローラーに巻き付いたり、炉内に堆積したりして後続の繊維束を損傷させやすいため、安定的に生産するためには妥協的な延伸倍率で操業せざるを得ないという問題がある。
この問題に対し、特許文献1には、かんしょデンプン、ばれいしょデンプン、小麦デンプン、ふのり寒天、トロロアオイ、トラガントガム、アラビヤゴム、デキストラン、レバン、ニカワ、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、メチルエーテル化、エチルエーテル化、またはヒドロキシエチルエーテル化されたセルロース、可溶性デンプン、アルファデンプン、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン、リン酸デンプン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸エステルなどから選ばれた化合物を耐炎化繊維束に付与する方法、特許文献2には、炭素化繊維束に水を付与して黒鉛化する方法、特許文献3には、ポリエチレンオキサイド分子量10万以上のもの、メチルエーテル化、エチルエーテル化またはヒドロキシエチルエーテル化されたセルロース、または(及び)ポリビニルメチルエーテルを、焼成する繊維束に付与する方法、特許文献4には、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミドの群から選ばれた水溶性高分子を耐炎化繊維束に付与する方法、特許文献5には、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド樹脂などを主成分とする集束剤として炭素化繊維束に用いて黒鉛化する方法、特許文献6には、フェノール樹脂またはピッチを黒鉛化処理以前の繊維束に付与して黒鉛化する方法、がそれぞれ開示されており、これらの方法によって、毛羽立ちや糸切れが抑制できるとされている。
しかし、これら技術を耐炎化糸に付与し、例えば延伸倍率が1.00以上となるような予備炭素化工程に導入した場合、特許文献2による方法では、水の蒸発速度が速いために効果は極めて限定的であるばかりか焼成炉を傷めることがあり、特許文献1、3〜6で開示されている化合物は、ポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドの比較的低分子量物を除いて他は固体であるために繊維束を構成する単繊維間同士に疑似接着が生じ、それこそが集束剤たる毛羽抑制の基本原理ではあるものの、その単繊維間の拘束力が、高張力あるいは高延伸倍率下では単繊維一本一本に掛かる微妙な張力の違いを吸収することができず、微視的に高い張力が掛かった部分が切れたり、単繊維表層が剥離したりして、毛羽や糸切れが起こるという問題がある。また、ポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドの比較的低分子量物は、固体ではないものの、分解速度が速く、水と同様に効果が限定的なものとなる。
すなわち、従来知られている、いずれの方法でも、その効果は限定的であり、高性能な炭素繊維の製造するために高張力あるいは高延伸倍率を適用しようとする場合には不十分であるのが実状であり、更に効果の高い、毛羽立ちや糸切れ抑制の方法が求められている。
特開昭58−4825号公報(特許請求の範囲、2頁右上欄3行目〜左下欄1行目) 特開昭58−214524号公報(特許請求の範囲) 特開昭59−66518号公報(特許請求の範囲) 特開平2−6626号公報(特許請求の範囲) 特開平6−264313号公報(特許請求の範囲、第0007段落) 特開2003−239143号公報(特許請求の範囲)
本発明は、上記問題点を解決し、高い張力あるいは延伸倍率の焼成条件下においても、毛羽や糸切れを防いで、高品位・高品質な炭素繊維を高い操業性で製造する方法を提供することを目的とする。
本発明は、前記課題を解決するため、次の構成を有する。すなわち、耐炎化繊維束に、不活性気体雰囲気中25〜400℃において流動性を有する化合物を含む繊維処理剤を付与して後、炭素化処理する炭素繊維束の製造方法である。
本発明によれば、高い張力あるいは延伸倍率の焼成条件下においても毛羽立ちや糸切れを抑制し、操業性高く高品位・高品質な炭素繊維を製造することができる。
本発明で用いる耐炎化繊維束は、通常、炭素繊維の前駆体となるポリアクリロニトリル系繊維束を200〜400℃の酸化性雰囲気下に晒して耐炎化繊維束へ転換することにより得られる。
本発明では、このような耐炎化繊維束に、室温付近の25℃から、予備炭素化工程の中で略中間的な温度となる400℃の範囲において流動性を有する化合物を含む繊維処理剤を付与して後に、例えば、少なくとも1000℃の不活性雰囲気下で炭素化して炭素繊維を得る。なお、炭素化に先立って、例えば300〜800℃の不活性雰囲気下で予備炭素化してもよいし、更に必要に応じて、炭素化に引き続いて、例えば約2000℃以上で黒鉛化しても良い。なお、本発明では、最終の焼成温度が、もっぱら2000℃未満の最高温度である炭素化繊維も、もっぱら2000℃以上の最高温度である黒鉛化繊維も、特に区別せず炭素繊維と呼ぶ。
前記したような流動性を有する化合物を採用することによって、揮発や分解が速すぎることなく、また単繊維間の疑似接着を起こすこともなく、集束作用を有しながら、単繊維一本一本に掛かる張力の違いを吸収することができる。本発明において、不活性気体雰囲気中25〜400℃において流動性を有するとは、通常、窒素などの不活性気体雰囲気中、少なくとも10分間は、25〜400℃の領域に渡る粘度が、1000Pa・s以下であることを指す。この粘度は、好ましくは500Pa・s以下であり、より好ましくは100Pa・s以下である。この粘度が大きすぎると、流動性よりも先述の疑似接着効果が発現することがある。下限は特に定められるものではないが、多くの流動性を有する化合物は0.001Pa・s以上である。
この粘度の値は、400℃の高温でも測定可能な粘度計やレオメーターを用い、不活性気体雰囲気下で25℃に保持した状態から昇温速度50℃/分で、粘度を測定しようとする温度まで昇温し、その温度で10分保持した後、粘度を測定するという手順で求めることができる。測定する温度は、採用する化合物の知られた性質などから適宜選択すれば良いが、全く不明な化合物でも、先ず400℃で測定した後に50℃刻みで測定温度を下げて測定すれば充分である。ただし、加熱によって硬化が進むような化合物は、粘度を測定する度に新しいサンプルと交換する。なお、厳密性には欠けるが、次の簡便法を用いれば、少なくとも本発明に用いられるか否かが判る。先ず、室温付近の25℃において、用いる化合物が前記した粘度範囲を満たすかどうかを、粘度計で実測して確認するか、その化合物の製造または販売元が発行したカタログやスペック表などで確認する。この確認で前記した粘度範囲を満たした場合、その化合物を、深さ約3mmとなるように容器、例えば400℃では融解しないアルミカップに入れる。それを2つ用意すると良い。予め窒素雰囲気に置換して400℃に設定したオーブン(窒素が常時流入し、内気が排出されていくオーブンがより好ましい)に、先の化合物が入った容器を1つ素早く入れて20分間熱処理する。20分経った後、容器をオーブンから素早く出し、数秒のうちに容器内の化合物をピンセットなどで触り、その触感がオーブンに入れなかった方の化合物と微差であるか、あるいはより低粘度になっていれば良い。ここで、明らかな固体状態やゴム的な弾性体になっていれば、本発明には適しない。なお、サンプルをオーブンに入れる際、空気も一緒にオーブン内に侵入することが避けがたく、これによって酸化が進んで容器内の化合物の上に薄膜が形成されことがあるが、その場合は、その薄膜を排除した容器の底の化合物の触感を確かめれば良い。
このような化合物は、特に限定されるものではないが、オルガノポリシロキサン、脂環式エポキシ変性オルガノポリシロキサン、アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種類が好ましく用いられる。より具体的には、ジメチルシリコーンや脂環式エポキシ変性シリコーン、エチレンオキサイド変性シリコーンが挙げられる。また、カルボキシル変性シリコーンや、脂環式エポキシ変性シリコーンやエチレンオキサイド変性シリコーンの一部にカルボキシ変性基が含まれる共変性シリコーンも好ましく用いられる。これらは幅広い粘度のものが市販されているが、メーカー発行のカタログなどから粘度を読み取れば良い。動粘度で記載されている場合は、粘度=動粘度×密度の関係式を用いて粘度に換算することができる。更にまた、酸化防止剤、例えばヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン類、リン系化合物、イオウ系化合物等を、前記流動性を有する化合物に対して0.1〜20重量%併用して繊維処理剤に含ませることも好ましいものである。
前記流動性を有する化合物の耐炎化繊維束への付着量は、繊維の乾燥重量に対して、0.1〜5重量%が好ましく、0.3〜3重量%がより好ましく、0.5〜2重量%がさらに好ましい。かかる付着量が少なすぎると、毛羽防止の効果が得られなくなることがある。また、多すぎても、効果は飽和傾向にあるので、コスト的に不利になることがある。
本発明において、繊維処理剤を耐炎化繊維束に付与する方法は、ディップ・ニップ法やスプレー法、ガイド給油法など、特に限定されるものではないが、上述したような流動性を有する化合物のみを付与すると、過剰付着する場合には、化合物を希釈液に希釈したものを用いると良い。希釈液としては、例えばヘキサンやトルエン等の各種炭化水素類や、ジメチルスルホキシドやエタノール等の各種極性有機溶媒、水などが挙げられ、特に限定するものではないが、コストや環境への影響、引火性等々の安全性を加味すると、水が最も好ましく利用できる。希釈の様式は、溶解、自己乳化・分散、界面活性剤による乳化・分散のいずれかに大別され、繊維束への均一付着性ひいては炭素繊維の物性に及ぼす影響を考慮すると溶解が最も望ましく、コストの点では溶解と自己乳化・分散が望ましい。しかし、希釈液として最も好ましい水を採用した際に化合物が溶解または自己乳化・分散しにくい場合、界面活性剤を併用することによる乳化・分散に頼ることになる。この場合に用いられる界面活性剤は、特に種類は問わず、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれもが用いられ、アニオン性とカチオン性の組み合わせ以外は、組み合わせて用いても構わないが、耐炎化繊維束の表面電位の反対符号となる界面活性剤を選択するのが、均一付着の点で好ましい。後述のように、アミノ変性シリコーンを少なくとも一部に含む油剤を使用した前駆体繊維束を耐炎化すると、耐炎化繊維束の表面にはカチオンとなるアミノ基が存在することになるので、耐炎化繊維束に付与する繊維処理剤には、ノニオン性またはアニオン性界面活性剤を選択するのが好ましく、アニオン性界面活性剤を選択するのがより好ましい。このような乳化・分散する場合の粒子径は、0.01〜3μmが好ましく、0.05〜1.5μmがより好ましく、0.1〜0.8μmがさらに好ましい。かかる粒子径が小さすぎると、効果が飽和する上に乳化・分散が困難となり、逆に大きすぎると、耐炎化繊維束の内部に侵入しなくなって不均一付着を起こすことがある。これらの粒径は、光散乱などを原理とする粒度分布計で測定することができる。
また、前記流動性を有する化合物は、繊維処理剤において乳化・分散した液状微粒子を形成し、その水中におけるζ電位は−5〜−150mVであることが好ましく、−20〜−80mVであることがより好ましい。かかるζ電位が小さすぎると、乳化・分散安定性が低下することがあると共に、不均一付着することがある一方で、大きすぎるものは、そのような電位のものを作るのは困難である割に、効果が飽和している。このような負のζ電位を発現させるためには、通常、流動性を有する化合物として、アニオン性基を有するものを選択するか、界面活性剤として、アニオン性基を有するもの、すなわち、アニオン性界面活性剤を選択することで達成できる。アニオン性基としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、リン酸基などが挙げられる。なお、カウンターイオンとしては水素イオンまたはアンモニウムイオンを用いるのが好ましく、アンモニウムイオンがより好ましい。アルカリ金属イオンでは、得られる炭素繊維の強度が低下する場合がある。
ここで、ζ電位は、電気泳動の原理を利用したζ電位測定装置で測定できる。また、耐炎化繊維束の表面電位を求めるには、流動電位の原理を利用したζ電位測定装置で測定できる。いずれの測定も25℃で行い、有姿のまま測定するか、装置の都合で希釈が必要な場合は、純水で希釈すれば良い。
また、本発明で用いる繊維処理剤は、25℃における表面張力が40mN/m以下であることも、均一付着の点で好ましい。特に、シリコーン類を用いた油剤が付与された前駆体繊維束の場合、それから得られた耐炎化繊維束も撥水性を示すことがあり、繊維処理剤の均一付与のためには濡れ性が重要となる。その指標が表面張力であり、25℃において30mN/m以下がより好ましい。下限は特に規定するものではないが、20mN/m以下では効果が飽和する傾向にある。前記流動性を有する化合物単独あるいはかかる化合物を乳化・分散するための界面活性剤を併用した系で、40mN/mになる場合は問題ないが、それらだけでは40mN/m以下にならない場合は、さらに表面張力を低下させるための界面活性剤を添加するのが好ましい。この場合、ノニオン性界面活性剤が最も好ましく、例えばポリエチレングリコールのアルキルエーテルやアルキルフェニルエーテル、アセチレングリコールなどが例示できる。アセチレングリコールは、表面張力低下効果及び濡れ性向上効果が高く、特に好ましく用いられ、日信化学工業株式会社からサーフィノールやオルフィンなどの商標で各種グレードが市販されている。
上述した繊維処理剤が、水などを含む場合は、耐炎化繊維束に付与された後、乾燥するのが好ましい。乾燥温度は、100〜200℃が好ましく、120〜200℃がより好ましく、150〜190℃が更に好ましい。
このようにして得られた、繊維処理剤が付与された耐炎化繊維束を炭素化して炭素繊維を製造することにより、炭素化の段階における毛羽や糸切れが防止され、高品位・高品質な炭素繊維を高い操業性で得ることができるのである。
次に、本発明をさらに詳細に説明する。
炭素繊維の前駆体となる前駆体繊維は、ポリアクリロニトリル系重合体を含む紡糸原液を湿式または乾湿式紡糸した後、水洗して得られる水膨潤状態の糸条に油剤を付与した後、130〜200℃で熱処理することにより製造することができる。高性能な炭素繊維を得るための前駆体繊維として好ましいポリアクリロニトリル系重合体の成分としては、少なくとも95モル%以上、より好ましくは98モル%以上のアクリロニトリルと、5モル%以下、より好ましくは2モル%以下の、耐炎化を促進し、かつ、アクリロニトリルと共重合性のある耐炎化促進成分を共重合したものを好適に使用することができる。かかる耐炎化促進成分としては、ビニル基含有化合物(以下ビニル系モノマーと表記する)からなる共重合体が好適に使用される。ビニル系モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸など使用することができるが、これらに限定されるものではない。また、一部または全量をアンモニア中和したアクリル酸、メタクリル酸、またはイタコン酸のアンモニウム塩からなる共重合体は、耐炎化促進成分としてより好適に使用される。
紡糸原液は、従来知られている溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などを採用して得ることができる。紡糸原液に使用される溶媒としては、有機、無機の溶媒が使用することができるが、特に有機溶媒を使用するのが好ましく、具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが使用され、特にジメチルスルホキシドが好ましく使用される。
紡糸方法は、乾湿式紡糸法や湿式紡糸法が好ましく採用されるが、炭素繊維の高性能化に有利な、表面が平滑な前駆体繊維を生産性よく製造することができることから、前者がより好ましく使用される。
1000〜10000個、より好ましくは3000〜8000個の吐出孔を有する紡糸口金から直接または間接に凝固浴中に紡糸原液を吐出して凝固繊維束を得るが、凝固浴液は、紡糸原液に使用する溶媒と凝固促進成分とから構成するのが、簡便性の点から好ましく、凝固促進成分として水を用いるのがさらに好ましい。凝固浴中の紡糸溶媒と凝固促進成分の割合、および凝固浴液温度は、得られる凝固繊維束の緻密性、表面平滑性および可紡性などを考慮して適宜選択して使用される。
得られた凝固繊維束は、20〜98℃に温調された単数または複数の水浴中で水洗、延伸するのが好ましい。延伸倍率は、糸切れや単繊維間の接着が生じない範囲で、適宜設定することができるが、より表面が平滑な炭素繊維前駆体繊維を得るためには、5倍以下が好ましく、4倍以下がより好ましく、3倍以下がさらに好ましい。また、得られる炭素繊維前駆体繊維の緻密性を向上させる観点から、延伸浴の最高温度は、50℃以上とするのが好ましく、70℃以上がより好ましい。
前記工程によって得られた水膨潤状態の繊維束には油剤を付与するのが好ましい。その炭素繊維前駆体繊維束への付着量は、繊維の乾燥重量に対して、0.1〜5重量%が好ましく、0.3〜3重量%がより好ましく、0.5〜2重量%がさらに好ましい。その付着量が少なすぎると、単繊維同士の融着が生じ、高性能な炭素繊維が得られなくなることがある一方で、多すぎても、耐炎化工程の際に繊維束の内部に位置する繊維が充分に酸化されなかったり、欠陥の元となったりして、高性能な炭素繊維が得られなくなることがある。油剤成分としては、単糸間接着防止効果や集束性が認められるものであれば特に限定されないが、シリコーン化合物は、一般に高い接着防止効果が認められるため、好ましく使用できる。シリコーン化合物としては、例えば、ジメチルシリコーンや、それを基本にしたアミノ変性やエポキシ変性やポリエーテル変性等の各種変性物が知られており、本発明にも用いられるが、少なくとも一部には繊維と親和性が高く、付与した後の脱落傾向が低いアミノ変性シリコーンが含まれているのが好ましく、アミノ変性シリコーンと乳化安定性に優れるポリエーテル変性シリコーンを併用するのは更に好ましく、アミノ変性シリコーンと耐熱性に優れるエポキシ変性シリコーンとポリエーテル変性シリコーンを併用するのが特に好ましい。この場合、アミノ変性シリコーンが、全シリコーン化合物に占める割合は、20〜100重量%が好ましく、30〜90重量%がより好ましく、40〜80重量%がなお好ましい。
上記油剤は、240℃で2時間、空気中で熱処理した時に、その減量率が70%以下、好ましくは50%以下に抑えられるような耐熱性を有するものが好ましい。
油剤を繊維束に付与する方法は、ディップ・ニップ法やスプレー法、ガイド給油法など、特に限定されるものではないが、上述の油剤のみを付与すると、過剰付着する場合には、油剤を希釈液に希釈したものを用いると良い。希釈液としては、例えばヘキサンやトルエン等の各種炭化水素類や、ジメチルスルホキシドやエタノール等の各種極性有機溶媒、水などが挙げられ、特に限定するものではないが、コストや環境への影響、引火性等々の安全性を加味すると、水が最も好ましく利用できる。希釈の様式は、溶解、自己乳化・分散、界面活性剤による乳化・分散のいずれかに大別され、繊維束への均一付着性ひいては炭素繊維の物性に及ぼす影響を考慮すると溶解が最も望ましく、コストの点では溶解と自己乳化・分散が望ましい。しかし、希釈液として最も好ましい水を採用した際に油剤が溶解または自己乳化・分散しにくい場合、界面活性剤を併用することによる乳化・分散に頼ることになる。この場合に用いられる界面活性剤は、特に種類は問わず、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれもが用いられ、アニオン性とカチオン性の組み合わせ以外は、組み合わせて用いても構わないが、カチオン性が好ましく、アミノ基等がもたらす弱カチオン性はなお好ましく、ノニオン性は特に好ましく用いられる。ノニオン性の界面活性剤としては、例えばポリエチレングリコールのアルキルエーテルやアルキルフェニルエーテル、弱カチオン性も有するアルキルアミンエーテルなどを挙げることができる。
油剤を付与された糸条は、速やかに乾燥すると共に緻密化するのが好ましい。乾燥は、100〜200℃が好ましく、120〜200℃がより好ましく、150〜190℃が更に好ましい。
乾燥された糸条は、さらに加圧スチーム中または乾熱下で後延伸されるのが、得られる炭素繊維前駆体繊維の緻密性や生産性の観点から好ましい。後延伸時のスチーム圧力または温度や後延伸倍率は、糸切れ、毛羽発生のない範囲で適宜選択して使用するのがよいが、3〜7倍が好ましく、4〜6倍がより好ましい。
このようにして前駆体繊維束が得られるが、その前駆体繊維束の単糸繊度は、0.1〜2.0dTexであることが好ましく、0.3〜1.2dTexであることがより好ましく、0.5〜0.8dTexがさらに好ましい。該繊度は小さいほど、得られる炭素繊維の引張強度や弾性率の点で有利であるが、生産性は低下するため、性能とコストのバランスを勘案し選択するのがよい。このような単糸繊度は、紡糸原液の口金からの単糸一本当たりの吐出速度で容易に調整できる。
また、前駆体繊維束を構成する単繊維数は、好ましくは、1000〜96000本であり、より好ましくは、12000〜48000本であり、さらに好ましくは、24000〜48000本である。ここで、前駆体繊維束を構成する単繊維数とは、耐炎化処理される直前の単繊維数をいい、生産性の観点から多いほど好ましい。単繊維の数が1000本未満では、生産性が悪化することが多く、また、96000本を超えると耐炎化の際に焼成むらを発生しやすくなることが多い。このような本数は、一つの口金から吐出した繊維束を、必要に応じて、上述の任意の工程の前後で合流、または最終の前駆体繊維束となった後で合糸させれば得られる。
上述したような好ましい方法により、本発明で好適に用いられる、高性能な炭素繊維を得るための前駆体繊維束が製造される。かかる前駆体繊維束を耐炎化することにより、本発明で好適に用いられる耐炎化繊維束を得ることができる。
耐炎化は、酸化性気体雰囲気下、好ましくは空気雰囲気下、200〜300℃で加熱することがよく、糸条が反応熱の蓄熱によって糸切れを生じる温度よりも、10〜20℃低い温度で耐炎化するのがコスト削減および得られる炭素繊維の性能を高める観点から好ましい。耐炎化に要する時間、いわゆる耐炎化時間は、生産性および得られる炭素繊維の性能を高める観点から、10〜100分間が好ましく、30〜60分間がより好ましい。この耐炎化時間とは、糸条が耐炎化炉内に滞留している全時間をいう。この時間が10分を下回ると、各単繊維の酸化された外周部分と酸化不足の内側部分の二重構造の構造差が全体的に顕著となり、高性能な炭素繊維が得にくくなることがある。耐炎化工程における糸条の延伸倍率は0.90〜1.12が好ましく、0.98〜1.10がより好ましく、1.06〜1.08が更に好ましい。実際の操作においては、耐炎化炉に導入する糸条の送り速度と、同炉から引き出す糸条の送り速度の比(引出速度/導入速度)で延伸倍率を決めるのが簡便であるが、より厳密には、同じ延伸倍率でも前駆体繊維を構成するポリアクリロニトリル共重合体の組成によって延伸による効果の程度が変わることがあるため、耐炎化中の張力を制御するのがより好ましい。この張力としては、130〜300cN/dTex−前駆体繊維が好ましく、190〜280cN/dTex−前駆体繊維がより好ましく、250〜265cN/dTex−前駆体繊維が更に好ましい。これらの延伸倍率または張力は、基本的に高く設定するのが、高性能な炭素繊維を得るために重要であり、延伸倍率が0.90未満または張力が130cN/dTex−前駆体繊維未満になると、分子が充分に配向せず、高性能な炭素繊維が得られないことがある。しかしながら、延伸倍率が1.12を超えると、または張力が300cN/dTex−前駆体繊維を超えると、繊維束内への酸化性気体が侵入しにくくなって、束内部の繊維の二重構造が発達したり、耐炎化で起こるポリアクリロニトリル系重合体の環化反応や酸化反応に伴う発熱をうまく繊維束外に放出できなくなって蓄熱が起こりやすくなり、糸切れを起こすことがある。
本発明では、このようにして得られた耐炎化繊維束に、前記詳述したように、前記流動性を有する化合物を含む繊維処理剤を付与して後に、炭素化して炭素繊維を得るのである。
耐炎化繊維束に繊維処理剤を付与した後、炭素化に先立って、300〜800℃の不活性雰囲気下、好ましくは窒素またはアルゴン雰囲気下で行う予備炭素化工程を設けることが高性能な炭素繊維を得るためには重要である。得られる炭素繊維の性能を高める観点から、この予備炭素化工程における延伸倍率は、1.00〜1.30とするのが好ましく、1.05〜1.25とするのがより好ましく、1.12〜1.20とするのが更に好ましい。実際の操作においては、耐炎化工程と同じく、予備炭素化炉に導入する糸条の送り速度と、同炉から引き出す糸条の送り速度の比(引出速度/導入速度)で延伸倍率を決めるのが簡便であるが、より厳密には、同じ延伸倍率でも前駆体繊維を構成するポリアクリロニトリル共重合体の組成によって延伸による効果の程度が変わることがあるため、耐炎化中の張力を制御するのがより好ましい。この張力としては、60〜200cN/dTex−前駆体繊維が好ましく、85〜180cN/dTex−前駆体繊維がより好ましく、115〜155cN/dTex−前駆体繊維が更に好ましい。これらの延伸倍率または張力は、基本的に高く設定するのが、高性能な炭素繊維を得るために重要であり、延伸倍率が1.00または張力が60cN/dTex−前駆体繊維より小さいと、分子配向が高まらず、高性能な炭素繊維が得られにくいことがあり、延伸倍率が1.40または張力が245cN/dTex−前駆体繊維より大きいと、予備炭素化工程や後続の炭素化工程で糸切れや毛羽立ちが発生することが多くなる。また、この予備炭素化工程における最高温度は500〜800℃が好ましく、600〜750℃がより好ましい。予備炭素化工程における最高温度が低すぎると、炭素の結晶成長が不十分となり、高性能な炭素繊維は得られなくなることが多い一方、それが高すぎると、炭素化しつつある繊維から窒素の放出が起こるため、炉の排気系統が複雑となる。また、200〜400℃の領域における滞留時間は1〜3分であることが好ましく、400〜500℃の昇温速度は10〜500℃/分、より好ましくは20〜150℃/分とするのが好ましい。
炭素化は、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下、温度を800〜2000℃として行うのがよい。また、その最高温度は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて適宜選択して使用されるが、800℃を下回ると、得られる炭素繊維の引張強度、弾性率が低下することがある。炭素化工程における延伸倍率は、0.95〜1.05が好ましいが、僅かな違いで大きく張力が変わるので、張力をある目標値にする制御が好ましく、その値は160〜800cN/dTex−前駆体繊維が好ましく、300〜600cN/dTex−前駆体繊維がより好ましく、400〜500cN/dTex−前駆体繊維が更に好ましい。160cN/dTex−前駆体繊維未満では得られる炭素繊維が高性能化しないことが多く、800cN/dTex−前駆体繊維を超えると、本発明をもってしても毛羽や糸切れが発生することが多くなる。
より弾性率が高い炭素繊維を所望する場合には、炭素化工程に続き黒鉛化を行うこともできる。黒鉛化工程の温度は2000〜3000℃であるのがよい。また、その最高温度は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて適宜選択して使用される。黒鉛化工程における延伸倍率は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて、毛羽発生など品位低下の生じない範囲で適宜選択するのがよい。
得られた炭素繊維に対しては、表面処理をすることにより、複合材料とした時のマトリックスとの接着強度をより高めることができる。表面処理方法としては、気相、液相処理を採用できるが、生産性、品質ばらつきを考慮すると、液相処理における電解処理が好ましく適用される。
電解処理に用いられる電解液としては、硫酸、硝酸、塩酸といった酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドといったアルカリあるいはそれらの塩を用いることができるが、特に好ましくはアンモニウムイオンを含む水溶液が好ましい。例えば、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、燐酸2水素アンモニウム、燐酸水素2アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、あるいは、それらの混合物を用いることができる。
電解処理の電気量は、使用する炭素繊維により異なり、例えば、炭素化度の高い炭素繊維ほど、高い通電電気量が必要となる。表面処理量としては、X線光電子分光法(ESCA)により測定される炭素繊維の表面酸素濃度O/Cおよび表面窒素濃度N/Cが、それぞれ0.05以上0.40以下、および、0.02以上0.30以下の範囲になることが、接着特性の上から好ましい。
これらの条件を満足することにより、炭素繊維とマトリックスとの接着が、適正なレベルとなり、したがって接着が強すぎて非常にブリトルな破壊となって強度が低下してしまうという欠点も、あるいは、強度は強いものの接着力が低すぎて、非縦方向の機械的特性が発現しないといった欠点も防止することができ、縦および横方向にバランスのとれたコンポジット特性が発現される。
得られた炭素繊維には、さらに、必要に応じて、サイジング処理がなされる。サイジング剤には、マトリックスとの相溶性の良いサイジング剤が好ましく、マトリックスに併せて選択して使用される。
このようにして得られた炭素繊維は、プリプレグ化したのち複合材料に成形することもできるし、織物などのプリフォームとした後、ハンドレイアップ法、プルトルージョン法およびレジントランスファーモールディング法などにより複合材料に成形することもできる。また、フィラメントワインディング法や、チョップドファイバーやミルドファイバー化した後射出成形することにより複合材料に成形することができる。
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、炭素繊維の引張強度および引張弾性率の測定は、次のようにして測定した。
炭素繊維束に下記組成の樹脂を含浸させて130℃の温度で35分間硬化させ、ストランドとした。6本のストランドについてそれぞれJIS R7601(1986年)に基づいて引張試験を行い、各試験で得られた強度および弾性率をそれぞれ平均して、炭素繊維の引張強度および引張弾性率とした。
*樹脂組成(かっこ内は本発明の実施例で用いたもののメーカー等)
・3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(ERL−4221、ユニオンカーバイド社製) 100重量部
・3−フッ化ホウ素モノエチルアミン(ステラケミファ(株)製) 3重量部
・アセトン(和光純薬工業(株)製) 4重量部
[実施例1]
アクリロニトリル99.5モル%、イタコン酸0.5モル%からなる共重合体をジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により重合し、濃度22重量%、極限粘度1.5のポリマー原液を得た。これにアンモニアガスをpH8.5になるまで吹き込んでイタコン酸を中和し、ポリマーの親水性を向上させ、紡糸原液とした。この紡糸原液を40℃として単孔の直径0.15mm、孔数4000の紡糸口金を用いて一旦空気中に吐出し、約4mmの距離の空間を通過させた後、3℃の35重量%ジメチルスルホキシド水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸により凝固させた。なお、紡糸原液の吐出速度は、前駆体繊維束の単糸繊度が0.7dTexとなるように調整した。得られた凝固糸条を水洗した後、70℃の温水中で3倍に延伸し、膨潤糸を得た。膨潤糸条に、アミノ当量2000mol/g、25℃における動粘度1000cStのアミノ変性シリコーン50重量部、エポキシ当量6000mol/g、25℃における動粘度6000cStの脂環式エポキシ変性シリコーン25重量部、ポリエーテル部が全重量に占める割合が50重量%で25℃における動粘度300cStのエチレンオキサイド変性シリコーン25重量部、ノニオン性界面活性剤20重量部からなる油剤(水の乳化物;固形分濃度2.0重量%)を、膨潤糸の乾燥重量に対して1.3重量%となるようにディップ−ニップ法により付与した。油剤を付与した直後、170℃×30秒となるように乾燥ドラム上に糸条を巻き付けて、油剤の乾燥と共に繊維の緻密化を行った。その後、延伸倍率5のスチーム延伸を経て、炭素繊維用前駆体繊維束を得た。
かかる炭素繊維用前駆体繊維束を6本合糸して単繊維数24000本とした後、窒素雰囲気下250℃で延伸倍率1.00の耐炎化工程を経て、ζ電位が正の耐炎化繊維束を得た。
この耐炎化繊維束に、下記処方の繊維処理剤を付与した。
ジメチルシリコーン 100重量部
ノニオン性界面活性剤 10重量部
アニオン性界面活性剤 5重量部
アセチレングリコール 2重量部
水 4883重量部
ジメチルシリコーンは、25℃において100Pa・sであった。これを簡便法である窒素雰囲気中400℃×20分の処理を行って流動性を観察した結果、明らかに25℃における粘度よりも低い粘度で流動性が保たれていることを確認した。
ノニオン性界面活性剤としては、エチレングリコールアルキルエーテル類からHLBが6〜12のものを混合して用いた。
アニオン性界面活性剤としては、カウンターイオンをアンモニウムイオンとするトリスチレン化フェノールエチレンオキサイド付加物のスルホン化物を用いた。
アセチレングリコールとしては、日信化学工業株式会社製サーフィノール485を用いた。
この繊維処理剤は、先ずジメチルシリコーンとノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤を混合し、攪拌しながら、水をゆっくりと注いで転相乳化させ、最後にアセチレングリコールを添加して調製した。得られた乳化物の平均粒子径は0.4μm、表面張力およびζ電位は、25℃においてそれぞれ29mN/m、−57mVであった。
上記繊維処理剤に耐炎化繊維束をディップした後、回転ローラーに巻き付けて軽く絞り、180℃×1分にて乾燥させた。水だけにディップして乾燥した耐炎化繊維束も作製し、同一の長さの重量の差異から繊維処理剤の付着量を求めたところ、1.5重量%であった。
この繊維処理剤が付与された耐炎化繊維束を、窒素雰囲気下650℃で延伸倍率1.10、張力110cN/dTexの予備炭素化工程、窒素雰囲気下1450℃で、張力160cN/dTex−前駆体繊維、延伸倍率0.96付近の炭素化工程を経て、炭素繊維束を得た。その際、予備炭素化炉を出た直後および炭素化炉を出た直後のそれぞれの糸条に強い光を照射して発生した毛羽が見えやすいようにし、10mが炉から出てくる間に見える毛羽の数を数え、1m換算値にした後小数点1桁目を切り上げた。予備炭素化工程を経た毛羽の数は0個/m、炭素化工程を経た毛羽の数は1個/mであった。安定操業できる毛羽数は概ね5個/m以内であり、問題なく操業できた。これらの毛羽数や得られた炭素繊維の物性などを表1に示す。
[比較例1]
繊維処理剤を耐炎化繊維束に付与しなかった以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。
[実施例2〜5]
耐炎化延伸倍率、予備炭素化延伸倍率、炭素化張力を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。
[比較例2〜5]
耐炎化延伸倍率、予備炭素化延伸倍率、炭素化張力を表1に示すように変更した以外は、比較例1と同様にして炭素繊維束を得た。
[実施例6]
繊維処理剤を、下記処方の繊維処理剤に変更した以外は、実施例3と同様して炭素繊維束を得た。
脂環式エポキ変性シシリコーン 100重量部
ノニオン性界面活性剤 20重量部
アセチレングリコール 1重量部
水 4879重量部
脂環式エポキシ変性シリコーンは、25℃において10Pa・sであった。これを簡便法である窒素雰囲気中400℃×20分の処理を行って流動性を観察した結果、明らかに25℃における粘度よりも低い粘度で流動性が保たれていることを確認した。
ノニオン性界面活性剤としては、スチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物からHLB6〜12のものを混合して用いた。
アセチレングリコールとしては、日信化学工業株式会社製サーフィノール104Eを用いた。
この繊維処理剤は、脂環式エポキシ変性シリコーン100重量部、ノニオン性界面活性剤20重量部、アセチレングリコール1重量部、水379重量部を仕込んで、ホモミキサーを用いて乳化を行い、その後、水4500重量部で希釈して調製した。得られた乳化物の平均粒子径は0.3μm、表面張力およびζ電位は、25℃においてそれぞれ35mN/m、+3mVであった。
[実施例7]
繊維処理剤を、下記処方の繊維処理剤に変更した以外は、実施例4と同様にして炭素繊維束を得た。
エチレンオキサイド変性シリコーン 100重量部
水 3500重量部
エチレンオキサイド変性シリコーンは、変性量が自重の約50%であり、25℃において0.5Pa・sであった。これを簡便法である窒素雰囲気中400℃×20分の処理を行って流動性を観察した結果、容器の表面層にはガム状の膜が形成していたが、内部は25℃における粘度よりも低い粘度で流動性が保たれていることを確認した。このシリコーンは水に対して自己乳化性があるので、上記組成で水に添加した後、ホモジナイザーで乳化を行った。得られた乳化物の平均粒子径は0.1μm、表面張力およびζ電位は、25℃においてそれぞれ42mN/m、−7mVであった。
実施例と比較例の対比から判るように、本発明の炭素繊維の製造方法により、従来は毛羽多発かあるいは糸切れするような高い延伸倍率や張力下においても、安定して操業できるようになった。
Figure 2007056385
本発明によれば、従来よりも高い延伸倍率または張力の焼成条件であっても、毛羽や糸切れのない安定した品位で、高性能な炭素繊維を製造することができる。かかる炭素繊維は、プリプレグ化したのち複合材料に成形することもでき、本発明で得られた炭素繊維を用いた複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、航空宇宙用途、フードおよびプロペラシャフトなどの自動車構造部材用途、フライホイールおよびCNGタンク、風車などのエネルギー関連用途などに好適に用いることができ、有用である。

Claims (7)

  1. 耐炎化繊維束に、不活性気体雰囲気中25〜400℃において流動性を有する化合物を含む繊維処理剤を付与して後、炭素化処理する炭素繊維束の製造方法。
  2. 前記流動性を有する化合物が、オルガノポリシロキサン、脂環式エポキシ変性オルガノポリシロキサン、アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種類である、請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
  3. 繊維処理剤が付与される耐炎化繊維束と前記流動性を有する化合物を含む繊維処理剤とは、互いに異符号である表面電位を有する、請求項1または2に記載の炭素繊維束の製造方法。
  4. 耐炎化繊維束は、カチオン性基を有する化合物が付与されてなる前駆体繊維を耐炎化処理して得られるものである、請求項3に記載の炭素繊維束の製造方法。
  5. 前記流動性を有する化合物は、水中におけるζ電位が−5〜−150mVである液状微粒子を形成している、請求項4に記載の炭素繊維束の製造方法。
  6. 前記流動性を有する化合物がアニオン性基を有するか、繊維処理剤にはアニオン性界面活性剤を含む、請求項4または5に記載の炭素繊維束の製造方法。
  7. 繊維処理剤は、表面張力が40mN/m以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
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