JP6510299B2 - 耐炎化繊維束、炭素繊維前駆体繊維束、およびそれからなる炭素繊維の製造方法 - Google Patents

耐炎化繊維束、炭素繊維前駆体繊維束、およびそれからなる炭素繊維の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高品質な炭素繊維を得るために適したポリアクリロニトリル系の耐炎化繊維束および炭素繊維前駆体繊維束に関するものである。
従来、炭素繊維製造用にアクリル繊維を前駆体繊維として使用し、耐炎化及び炭素化の各処理を経ることにより、高性能な炭素繊維が得られることは広く知られており、工業的にも広く実施されている。そしてそのような炭素繊維の具体的な用途としては、スポーツ・レジャー用品用途から航空宇宙分野、特に航空機の一次構造材にまで展開が図られている。さらに、炭素繊維の高い比強度、比弾性の特性を生かして最終製品を軽量化し、省エネルギー化や排出COを削減すべく各産業界が注目し、研究が行われている。
また各種用途の開発の進捗に伴い、炭素繊維にはさらに高性能、低コスト、かつ取扱性に優れる、高品質な性能が要求されてきている。そして高性能炭素繊維の製造のためには、原料繊維であるアクリル系の前駆体繊維や、途中工程の耐炎化繊維の特性は、目的物である炭素繊維の性能に直接影響するため、研究開発がさらに深化してきている。
一般にアクリル系の前駆体繊維から炭素繊維を製造する場合、最初に200〜300℃の酸化性ガス雰囲気中で、いわゆる耐炎化処理を行い耐炎化繊維にする。次いで、350℃以上の不活性ガス雰囲気中で炭素化処理又は黒鉛化処理を行い、炭素繊維を完成させる。しかし、最初の200〜300℃の耐炎化処理時等に、ストランド(数百本ないし数万本の単繊維からなる繊維束)を構成する単繊維相互の融着が発生し易いという問題があった。融着が発生した場合、得られる炭素繊維の物性が低下するばかりではなく、製造ができないなどの工程トラブルの原因ともなるのである。
これら単繊維同士の融着を防止するための手法としては、フィラメントを油剤で被覆する技術が一般的に採用されている。その油剤としては、耐炎化の条件において熱分解をしない事が求められることから、通常は耐熱性の高い油剤が用いられる。具体的な例としては、シリコーン系油剤、あるいは耐熱性の高い芳香族エステル類からなる油剤などである。
しかしながら、このような耐熱性が高い油剤は、耐炎化工程にて残存しやすく、特に油剤が偏在している箇所については繊維束同士を接着せしめる介在物となり、膠着糸が発生しやすい、という問題点があった。
この点に対し、特許文献1では低粘度かつ速やかに硬化するシリコーン系油剤を用い、油剤を均一に付与させた後に硬化させることで油剤の流動を抑え、油剤膜厚みを抑制する技術が開示されている。しかしこの方法では、炭素化前の紡糸乾燥工程においても油剤が増粘し、乾燥ローラーへの単糸の巻付きなどが発生し、工程安定性が悪いという問題があった。
また、特許文献2及び3ではシリコーン油剤に耐熱性の高い芳香族エステル類を混合した油剤が知られている。しかしこの芳香族エステル類は、200〜300℃耐炎化処理時には有効なものの、350℃以上の炭素化処理工程においても分解され難く、分解残渣が単繊維間に堆積し、膠着介在物になるという問題があった。
工程途中において単繊維間の膠着が少なく、最終的に品質の良い炭素繊維が得られる技術の開発が望まれていたのである。
特開2006−183159号公報 特開2008−196097号公報 特開2008−63705号公報
本発明の目的は、従来よりも高品位な炭素繊維を得るための耐炎化繊維束及び前駆体繊維束を提供することにある。
本発明の耐炎化繊維束は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維を耐炎化して得られる耐炎繊維束であって、珪素を100〜2000ppm含有し、かつ非シリコーン系油剤の付着量が1000ppm以下であり、非シリコーン系油剤がポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有し、芳香族エステル類を含有しないことを特徴とする。
さらには、耐炎化繊維の膠着数が10個/1,000フィラメント以下であることが好ましい。
またもう一つの本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、ポリアクリロニトリル系の炭素繊維前駆体繊維束であって、その表面にシリコーン成分と非シリコーン成分からなるシリコーン系油剤が付着しており、非シリコーン成分がポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有し、芳香族エステル類を含有せず、非シリコーン成分の熱分解開始温度が150℃以上230℃以下、かつ250℃における熱分解残渣が20重量%以下であり、非シリコーン成分の含有量が5〜80重量%であるシリコーン系油剤を、前駆体繊維束を構成する繊維重量に対し0.01〜2.0重量%付着していることを特徴とする。
さらには、シリコーン成分が、25℃における動粘度が50〜5000mm/secのシリコーン系化合物からなることが好ましい。
さらに本発明は、前記の本発明の耐炎化繊維束を不活性雰囲気中にて炭化処理する炭素繊維の製造方法を包含する。
本発明によれば、従来よりも高品位な炭素繊維を得やすい耐炎化繊維束及び前駆体繊維束が提供される。
本発明の耐炎化繊維束は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維を耐炎化して得られる耐炎繊維束であって、珪素を100ppm〜2000ppm含有し、かつ非シリコーン系油剤の付着量が1000ppm以下であるものである。
ここで本発明に用いられるポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維とは、炭素繊維を製造するための原料(前駆体)となるポリアクリロニトリル系重合体からなる繊維である。ポリアクリロニトリル系重合体はアクリロニトリルが主に重合された重合体であって、必要に応じてそれと共重合可能なコモノマーを含んでも良い。アクリロニトリルと共重合可能なコモノマーとしては、例えばアクリル酸、イタコン酸等の酸類及びその塩類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルといったアクリル酸エステル類、アクリルアミドといったアミド類等が挙げられる。
そして本発明の耐炎化繊維束は、このようなアクリルニトリル系炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化処理して得られるものである。耐炎化処理としては、用いる重合体の熱特性に応じて種々の条件を用いる事ができるが、酸化性ガス雰囲気中で、200〜300℃、特には220〜270℃の範囲で処理することが一般的である。低すぎる温度では、耐炎化反応の進行が遅いために生産性が悪い。一方で、高すぎる温度では耐炎化反応が急激に進行するために、反応の制御が困難であり品質の維持が難しい。酸化性ガス雰囲気としては通常、空気が用いられる。耐炎化の処理時間としては10〜200分間であることが好ましい。さらには前駆体繊維を延伸倍率0.90〜1.20倍の範囲で延伸することも好ましい。なお、この耐炎化繊維はさらに不活性ガス雰囲気中で炭素化処理又は黒鉛化処理を行うことより、最終的には炭素繊維が得られる。
また、本発明の耐炎繊維束は、複数の耐炎化繊維が集合して束状の糸条となっているものである。耐炎繊維束を構成する単繊維の総数、即ちその総フィラメント数としては10本以上であれば本発明の効果はあるが、製造効率の観点から通常は100本以上100000本以下が用いられる。さらには1000本以上80000本以下が好ましく、3000本以上50000本以下が特に好ましい。
また、本発明の耐炎繊維束を構成する繊維の単繊維繊度は、得られる炭素繊維の品質の観点から、0.3dtex以上2.0dtex以下であることが好ましく、0.5dtex以上1.5dtex以下であることがよりに好ましい。また耐炎化繊維の単繊維直径は8μm以上20μm以下であることが好ましく、10μm以上15μm以下であることがより好ましい。
そして本発明の耐炎化繊維束は、上記のような構成の耐炎化繊維束のうち、珪素を100〜2000ppm含有し、かつ非シリコーン系油剤の付着量が1000ppm以下であるものである。
ここで耐炎化繊維束に含有される珪素は、その耐炎化処理前の前駆体繊維に付着した油剤中のシリコーン成分に由来する。この珪素は、耐炎化工程やその後の炭素化工程にて、繊維束の熱融着を防止する効果を有するものであり、少なすぎると単繊維間の融着が発生しやすい傾向にある。また過剰である場合には、炭素化工程後にも成分が残留し、後の炭素繊維と樹脂との接着性などに悪影響を及ぼす傾向にある。珪素の含有量としては本発明では100ppm〜2000ppm含有することが必要であり、好ましくは150ppm〜1500ppm含有することが好ましく、さらに好ましくは200ppm以上1200ppm以下である。
この珪素と同時に、本発明の耐炎化繊維束はその表面に非シリコーン油剤が付着することが必要である。ただしその非シリコーン系油剤の付着量としては1000ppm以下であることも必要である。そして非シリコーン系油剤の付着量は、さらには10ppm〜1000ppm、特には50ppm〜800ppmの付着量であることが好ましい。
ここで本発明の耐炎化繊維束に付着している非シリコーン系油剤は、上記のシリコーン成分と同じく、耐炎化処理前の前駆体繊維に付着した油剤の成分に由来するものである。より具体的には、収束剤、制電剤または防腐剤などの成分や、先に述べたシリコーン成分を乳化させるための界面活性剤などの成分に由来する。
ところでこの耐炎化繊維束に付着の非シリコーン系油剤とは、高温の耐炎化処理後も熱分解せずに残存していた成分である。通常、油剤中のシリコーンは耐炎化処理時に繊維表面に架橋された皮膜を形成し、有機溶剤に対し不溶になる。つまりここでの非シリコーン油剤とは、シリコーン成分以外の乳化剤や油剤、あるいはそれらが加熱されて変性した成分であって、有機溶剤に溶解する成分である。そして耐炎化工程を通過してもなお残存したこのような高耐熱性の非シリコーン油剤は、後の炭素化工程においても残存し易い傾向にある。そのため繊維束に対する非シリコーン油剤の付着量が過剰である場合には、炭素化工程において繊維束の膠着が増大する傾向にある。そのため、この非シリコーン系油剤は、耐炎化繊維束の表面には可能な限り少ない量のみが付着していることが好ましい。非シリコーン系油剤は、耐炎化処理では膠着防止等に有効に働くが、後のさらに高温の炭素化工程においては逆に膠着を増大させる傾向にあるからである。
このような非シリコーン油剤としては、高温の熱によって最終的には分解しやすい界面活性剤を含むものであることが好ましい。界面活性剤の中でも、非イオン性の界面活性剤が好ましい。あるいは非シリコーン油剤としては、アルキレンオキサイド基、特にはエチレンオキサイド基を含有するもので有ることが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有することが好ましい。
また本発明の耐炎化繊維束においては、その膠着数が10個/1000フィラメント以下であることが好ましい。さらには耐炎化繊維束の膠着数としては0〜8個/1000フィラメントであることが好ましい。膠着とは主に油剤成分を主成分とする物質がフィラメント間に介在し、2本以上のフィラメントがその介在物を通して接着している状態である。膠着は物理的に機械特性の欠点となるばかりか、複合材料として用いる場合において樹脂が含浸し難いために品質の低下を招く傾向にある。耐炎化繊維における膠着を防止することにより、後の炭素化工程での膠着も防止することが容易となる。
このような本発明の耐炎化繊維束は、高温の炭素化工程を経ることにより、高品位な炭素繊維となるのである。
そしてこのような本発明の耐炎化繊維束は、もう一つの本発明である炭素繊維前駆体繊維束を用いることによって、容易に製造することができる。
もう一つの本発明である炭素繊維前駆体繊維束とは、ポリアクリロニトリル系の炭素繊維前駆体繊維束であって、その表面にシリコーン成分と非シリコーン成分からなるシリコーン系油剤が付着しており、非シリコーン成分の熱分解開始温度が150℃以上230℃以下、かつ250℃における熱分解残渣が20重量%以下であり、非シリコーン成分の含有量が5〜80重量%であるシリコーン系油剤を、前駆体繊維束を構成する繊維重量に対し0.01〜2.0重量%付着しているものである。
ここでポリアクリルニトリル系の炭素繊維前駆体繊維束とは、先に述べたようにポリアルキルニトリル系重合体から得られる繊維を収束させて繊維束としたものである。
またこのようなポリアクリロニトリル系重合体を繊維化するにあたっては、紡糸溶液に用いる溶剤として、例えば塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウム等の無機化合物の水溶液や、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤が用いられる。中でも、溶液連続重合により工程の簡素化が可能で、かつ、重合速度が速く均質なポリマーが得られやすく、さらに、価格が安価で大量生産に向いている無機化合物の水溶液を用いることが好ましく、塩化亜鉛水溶液を用いることが特に好ましい。
さらにこのような紡糸溶液を、紡糸口金から紡出し凝固させることで凝固糸を得ることができる。紡糸方法としては、用いた溶剤の種類などに応じて、気相中で紡糸原液を凝固させる乾式紡糸法、凝固液中で紡糸原液を凝固させる湿式紡糸法などを用いて行うことができる。中でも湿式紡糸法が好ましく、紡糸口金を凝固浴中へ浸漬して、吐出される原液を凝固する湿式紡糸法、または紡糸口金を凝固浴液面から上方に設置して、吐出された原液を一旦紡糸口金と凝固液液面の間にある気相中を通過させてから凝固液の中に導入し凝固を進める乾湿式紡糸法があり、特には湿式紡糸法にて得られることが好ましい。
本発明のアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維は、このような凝固糸を水洗および延伸して延伸糸とし、さらにこの延伸糸に油剤を付与することによって得られるものである。また延伸処理としては、液中延伸処理と湿潤延伸処理を組み合わせて行うことが、より高い倍率まで延伸処理を行うことができるため、好ましい。総延伸倍率としては5〜20倍であることが好ましい。
そして上記のようにして得られるポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維としては、その前駆体繊維のフィラメント数は、製造効率の面では100本以上100000本以下が好ましく、1000本以上80000本以下がより好ましく、3000本以上50000本以下が特に好ましい。
そして本発明の炭素繊維前駆体繊維束では、上記のような繊維の表面にシリコーン成分と非シリコーン成分からなるシリコーン系油剤が付着している。そしてここで用いるシリコーン成分の組成としては、その側鎖の一部がアミノ基で修飾されたアミノ変性シリコーンであることが好ましい。アミノ基の導入により、ポリアクリロニトリル繊維との親和性が向上し、均一に付着しやすくなるためである。好ましいアミノ基の変性量としては、500g/eq以上5000g/eq以下、さらには700g/eq以上3000g/eq以下のアミノ当量であることが好ましい。アミノ当量が低い場合には、油剤と繊維との接着性が高まり、耐炎化工程や炭素化工程での繊維束の膠着が増大する傾向にある。
またこのシリコーン系化合物としては、25℃における動粘度が50〜5000mm/secのシリコーンを用いる事が好ましく、より好ましくは100mm/sec以上4000mm/sec以下であり、さらに好ましくは500mm/sec以上2000mm/sec以下の動粘度であることが好ましい。動粘度が低い場合、シリコーン油剤が延展し均一に被覆しやすい傾向にあるが、低すぎると、紡糸工程において油剤が付着された繊維束をローラーにて乾燥する、及び耐炎化工程にて繊維束をローラーにて搬送するに際し、油剤成分が低粘度である為に流動し、搬送ローラーに付着しやすくローラー汚れが顕著となる傾向にある。また、逆に動粘度が大きすぎる場合には、シリコーン成分の粘度が高いために延展し難く、局所的に厚みのある油剤膜となり、それを介在物として耐炎化糸において膠着が発生しやすい傾向にある。この25℃における動粘度の値は、シリコーン系化合物の重合度(分子量)を変える、もしくは複数の動粘度であるシリコーン油剤を混合するなどの公知の方法により、調整することができる。
そして本発明の炭素繊維前駆体繊維に用いられる非シリコーン成分としては、分解開始温度が150℃以上230℃以下であることが必要である。ここで分解開始温度とはその成分が熱により分解して重量減少が開始する温度であって、本発明においては空気雰囲気下にて10℃/分で20℃から250℃まで昇温し、その重量減少率が10%以上となる温度と定義する。非シリコーン成分の分解開始温度が150℃未満である場合、油剤を含む含水状態のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を乾燥する際にその成分の分解が著しく、繊維束が収束せず工程が不安定となる。一方で、分解開始温度が230℃を超える場合は、耐炎化工程でこの非シリコーン成分が残存し易く、炭素化工程において膠着を発生させやすい傾向にある。さらには非シリコーン成分の熱分解開始温度が160℃以上210℃以下の範囲であることが好ましい。
さらにこの非シリコーン成分の250℃における分解残渣率は20重量%以下であることが必要である。250℃における分解残渣率とは後述の測定方法にて定義するが、その分解残渣率は耐炎化工程における残存し易さを示す。分解残渣率が20重量%を超える場合、耐炎化工程にて非シリコーン成分が残存し易く、その後の炭素化工程にて膠着発生要因となる。さらには250℃における熱分解残渣が0〜15重量%、特には0.01重量%以上10重量%以下の範囲であることが好ましい。
そしてこのような非シリコーン成分としては、高温の熱によって分解しやすい界面活性剤を含むものであることが好ましい。界面活性剤の中でも、非イオン性の界面活性剤が好ましい。あるいは非シリコーン成分としては、アルキレンオキサイド基、特にはエチレンオキサイド基を含有するもので有ることが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類を含有することが好ましい。また、脂肪族エステル類や、エチレンオキサイドユニット/プロピレンオキサイドユニットからなるブロック共重合エーテル化合物や、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール化合物も好ましく用いることができる。また、非シリコーン成分の熱分解開始温度や250℃における熱分解残渣の量の値については、成分自体を変更することのほか、耐熱性の異なる複数の成分を混合することにより容易に調整することが可能である。
そして本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、上述の特性を持つシリコーン成分と非シリコーン成分油剤が0.01〜2.0重量%付着していることが必要である。より好ましくは、0.02重量%以上1.5重量%以下の範囲であって、さらには0.05重量%以上1.0重量%以下の範囲が特に好ましい。一般的にポリアクリロニトリル系繊維束に対して油剤付与せずに熱を与えた場合、繊維同士が熱で軟化し融着が発生する。それを抑制する為に紡糸油剤を付着させているが、この前駆体繊維の段階で油剤の付着量が0.01重量%未満であると、融着抑制効果が少なく得られる炭素繊維の品質が悪化する。また、油剤は2.0重量%付着されていれば融着抑制に対する効果は十分であり、2.0重量%を超えて油剤を付着させた場合は、過剰となった油剤成分が繊維間の膠着介在物となるため好ましくない。
本発明の前駆体繊維に用いられる油剤においては、非シリコーン成分の成分は5重量%以上80重量%以下であることが好ましい。非シリコーン成分とは、シリコーン成分を乳化させるための界面活性剤、収束剤、制電剤または防腐剤などを指す。そのうち、界面活性剤の重量比が5重量%未満である場合には、シリコーン成分を乳化させる事が困難となり、得られるエマルジョンの安定性が悪くなる傾向にある。非シリコーン成分は、本発明の熱特性を有するものであれば多く含有していても特段問題は生じないが、80重量%を超える場合にはシリコーン成分の比率が少ないために融着が発生しやすくなるため好ましくない。さらにはシリコーン系油剤に占める非シリコーン系成分の含有量は6重量%以上70重量%以下、特には7重量%以上50重量%以下の範囲であることが好ましい。
そしてこのような炭素繊維前駆体繊維を用い、それを耐炎化処理することによって、先に述べた本発明の耐炎化繊維束を得ることができる。
さらにこの耐炎化繊維束を不活性雰囲気中にて炭化処理することにより、膠着の少ない品質に優れた炭素繊維を製造することができる。
耐炎化処理としては、炭素繊維前駆体繊維束を加熱空気中、200〜300℃で10〜200分間処理し、耐炎化繊維束とすることが好ましい。さらには耐炎化繊維束を、窒素雰囲気下で300〜800℃で炭素化(予備炭素化)処理をし、さらにより炭素化を進めかつグラファイト化(炭素の高結晶化)を進める為に、窒素等の不活性ガス雰囲気下、好ましくは800〜2500℃、より好ましくは1000〜2100℃で炭素化することが好ましい。より高い弾性率が求められる場合は、さらに2000〜3000℃の高温で黒鉛化処理を行ってもよい。またこのようにして得られた炭素繊維に対して、引き続き表面処理を行うことも好ましく、必要に応じてさらにサイジング処理を施してもよい。
このようにして本発明のアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束や耐炎化繊維束を用いて得られる炭素繊維は、高強度かつ高品質であるため、複合材料の強化繊維としてスポーツ、航空宇宙用途などに広く用いることが可能である。
以下に、本発明に関して実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。なお、本例にて挙げた項目は次の手順で評価した。
(1)膠着数
繊維束を取り出して分散液に浸した後、繊維束を2mmの長さにカットし、それを約50mlの分散液に入れ、超音波洗浄器にて60秒間処理し、繊維束を分散させた。その後、実体顕微鏡にて倍率20〜40倍にて分散液中の繊維を観察し、分散されずに2本以上の単糸が接触している繊維の数を膠着数としてカウントし、繊維束を構成するフィラメント数で割って1000フィラメントあたりの膠着数に換算した。なお、分散液としては、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維及び耐炎化繊維にはケロシン(和光純薬工業株式会社製)を用い、炭素繊維にはアセトン(和光純薬株式会社製)を用いた。
(2)油剤の分解開始温度
測定に供する油剤をまず80℃にて2時間乾燥して水分を除き、その油剤絶乾物を測定装置にRigaku社製ThermoPlus TG−8120を用い、空気雰囲気下において10℃/分の昇温速度にて20℃から250℃まで昇温し、油剤の重量が10%減少する温度を分解開始温度とした。
(3)油剤の分解残渣率
測定に供する油剤をまず80℃にて2時間乾燥して水分を除き、その油剤絶乾物を測定装置にRigaku社製ThermoPlus TG−8120を用い、空気雰囲気下において2℃/分の昇温速度にて20℃から250℃まで昇温し、250℃に到達した時点において残った油剤の重量を分解残渣率とした。
(4)油剤付着量
メチルエチルケトンを用いて測定対象の繊維束から油剤を抽出した後に油剤が含まれる溶液を乾燥し、得られた固形分を秤量して油剤の付着量を評価した。
(5)シリコン含有率
蛍光X線装置(リガク製 全自動蛍光X線分析装置システム 3270)を用い、繊維に含有されるSiの量を評価した。
[実施例1]
単量体としてアクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル4質量%、イタコン酸1質量%の割合で含む混合液を溶液重合、紡糸、凝固、延伸を行うことによりアクリロニトリル系繊維の延伸糸を得た。
一方、シリコーン粘度1300mm/sec、アミノ当量1700g/eqであるアミノ変性シリコーン80重量部、非シリコーン成分としてポリオキシエチレンアルキルエーテル20重量部の油剤を準備した。なお、この油剤の非シリコーン成分は、2種のポリオキシエチレンアルキルエーテルの混合物であり、その分解開始温度は170℃、250℃における熱分解量は7重量%であった。
この延伸糸を表1記載の組成の油剤浴中に浸漬し、その後、表面温度が150℃である乾燥ローラーにて乾燥し、ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束を得た。得られた前駆体繊維束の油剤付着量0.45重量%、単繊維繊度1.2dtex、単繊維直径11μm、フィラメント数24000本であった。次に、得られたポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束に対して250℃の空気雰囲気下にて1時間の耐炎化処理を行い、耐炎化繊維を得た。
得られた耐炎化繊維束のシリコン付着量は1080ppm、油剤付着量は90ppmだった。なお、ここで油剤付着量を測定した測定液からはシリコン成分は検出されなかったため、90ppmは非シリコーン油剤の付着量であった。また耐炎化繊維束を構成する単繊維の繊度は1.2dtex、単繊維直径11μm、フィラメント数24000本であった。また、得られた耐炎化繊維束の膠着数は4.5個/1000フィラメントであった。
その後この耐炎化繊維束を最高温度1200℃にて炭素化して炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の膠着数は0.8個/1000フィラメント、炭素繊維強度5150MPaであり、膠着が少なく引張強度も良好であった。得られた物性を表1に示した。
[実施例2〜6、比較例1、2]
使用する油剤組成を表1表2のものに変更した以外は実施例1と同様に行い、ポリアクリルニトリル系前駆体繊維、耐炎化繊維、炭素繊維を得た。
すなわち、使用するシリコーン成分としては、実施例1で使用したアミノ変性シリコーンに替えて、表1表2記載のシリコーン粘度を有するものを用いた。非シリコーン成分としては、実施例2〜6、及び比較例1では、実施例1で使用したポリオキシエチレンアルキルエーテルに替えて、表1表2記載の熱分解開始温度を有するものを用いた。比較例2では非シリコーン成分としてポリオキシエチレンアルキルエーテルに加えて、高耐熱性の成分であるトリメリット酸エステルを表2記載の分量となるように加えた。
またシリコーン成分と非シリコーン成分の組成比は実施例1の80:20から、表1表2記載の比率に変更した。得られた物性を表1表2に併せて示した。
[比較例3]
使用する油剤組成を、非シリコーン成分としてポリオキシエチレンアルキルエーテル50重量部、トリメリット酸エステル50重量部を用い、シリコーン成分を用いなかった以外は実施例1と同様に行い、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維、耐炎化繊維、炭素繊維を得た。得られた物性を表2に併せて示した。
Figure 0006510299
Figure 0006510299

Claims (5)

  1. ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維を耐炎化してえられる耐炎繊維束であって、珪素を100〜2000ppm含有し、かつ非シリコーン系油剤の付着量が1000ppm以下であり、非シリコーン系油剤がポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有し、芳香族エステル類を含有しないことを特徴とする耐炎化繊維束。
  2. 耐炎化繊維の膠着数が10個/1,000フィラメント以下である請求項1に記載の耐炎化繊維束。
  3. ポリアクリロニトリル系の炭素繊維前駆体繊維束であって、その表面にシリコーン成分と非シリコーン成分からなるシリコーン系油剤が付着しており、非シリコーン成分がポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有し、芳香族エステル類を含有せず、非シリコーン成分の熱分解開始温度が150℃以上230℃以下、かつ250℃における熱分解残渣が20重量%以下であり、非シリコーン成分の含有量が5〜80重量%であるシリコーン系油剤を、前駆体繊維束を構成する繊維重量に対し0.01〜2.0重量%付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束。
  4. シリコーン成分が、25℃における動粘度が50〜5000mm/secのシリコーン系化合物からなる請求項記載の炭素繊維前駆体繊維束。
  5. 請求項1または2に記載の耐炎化繊維束を不活性雰囲気中にて炭化処理する炭素繊維の製造方法。
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