JP6729665B2 - 炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素繊維の製造に使用されるアクリロニトリル前駆体繊維束及びその製造方法に関する。
樹脂系成型品の機械特性を向上させる目的で、繊維を強化材として樹脂と複合化することが一般的に行われている。特に、比強度、比弾性に優れた炭素繊維を高性能樹脂と複合化した成形材料は、非常に優れた機械特性を発現することから、航空機、高速移動体などの構造材料として使用することが積極的に進められている。また、この成形材料には、更なる高強度化及び高剛性化の要請や、更なる比強度及び比剛性の向上の要請もあり、炭素繊維の性能についても、より高強度化及び高弾性率化が求められている。
このような高性能炭素繊維を製造するには、強度発現性の優れる炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束を得ることが望まれる。これまで、前駆体繊維の構造緻密性を高め、欠陥点を排除する技術などが検討されているが、炭素繊維の破断は大部分が表面から開始されており、特に繊維表面の緻密化及び欠陥点の排除等が、炭素繊維の更なる高強度化には不可欠である。この欠陥点形成の要因の一つとしては、前駆体繊維に付与される油剤が挙げられ、この油剤の耐熱性不足や過少過剰付着等に起因する単繊維間接着、及び油剤の繊維内部への浸透に起因するミクロボイドの影響が大きい。
特許文献1では、繊維全体として緻密性が高いとともに繊維表面の緻密性が極めて高いアクリロニトリル系前駆体繊維束を製造する方法が提案されている。特許文献2では、油剤が繊維内部に浸入して緻密化を阻害することから、繊維表面のミクロ空隙に注目し、油剤の浸透を抑制する技術が提案されている。特許文献3では、紡糸繊維の凝固条件及び延伸条件を適正化することで、緻密な内部構造を有し、更に表面近傍においては、油剤浸透を抑制可能な炭素繊維用アクリロニトリル膨潤繊維に関する技術が提案されている。
特公平6−15722号公報 特開平11−124744号公報 国際公開第2010/143680号
しかしながら、これらの特許文献に記載の技術で得られる前駆体繊維束では、油剤浸透が過剰抑制されることがあり、繊維表面への油剤の付着斑や過剰付着を引き起こす場合があった。このため、これらの技術では、前駆体繊維束における油剤の付着浸透状態を安定的に制御する効果が不十分な場合があり、本発明者らが求める炭素繊維強度の安定的な発現に至らない場合があった。よって、本発明の目的は、より高い機械的特性を有する炭素繊維を得るための、適度な表面緻密性を有するアクリロニトリル前駆体繊維束、及びその製造方法を提供することにある。
本発明は、シリコーン化合物が付着した炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束を製造する方法であって、(1)アクリロニトリル単位の含有率が96.0質量%以上である重合体を有機溶剤に溶解させた紡糸原液から、乾湿式紡糸法によって凝固繊維束を作製する工程と、(2)該凝固繊維束を空気中で1.0倍以上1.2倍以下に延伸する工程と、(3)工程2より得られる繊維束を、有機溶剤を含む水溶液中で延伸し、その際、工程1より得られる凝固繊維束に対する、工程2および工程3の合計延伸倍率を3.08倍以上4.0倍以下とする工程と、(4)工程3より得られる繊維束から有機溶剤を除去する工程と、(5)工程4より得られる繊維束を、40℃以上の水浴中で0.95倍以上1.3倍以下に収縮または延伸する工程と、(6)工程5より得られる繊維束に、シリコーン化合物を含む油剤を付着させる工程と、(7)工程6より得られる繊維束を乾燥させる工程とを含み、工程3において、該有機溶剤を含む水溶液の温度(℃)をAで表し、該有機溶剤を含む水溶液中の有機溶剤の濃度(質量比)をBで表し、該有機溶剤を含む水溶液中における工程2より得られる繊維束に付与する延伸倍率(比率)をCで表し、工程5において、該水浴の温度(℃)をDで表した場合に、下記の数式(1)で表される関係を満たし、工程6において、工程7後の乾燥させた繊維束に対する該シリコーン化合物の含有量が0.7質量%以上2.0質量%以下になる該油剤の量を繊維束に付与する、炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束の製造方法である。
また、本発明は、シリコーン化合物が付着した炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束であって、該繊維束中の該シリコーン化合物の含有量が、0.7質量%以上2.0質量%以下であり、単繊維の繊度が0.5dtex以上0.95dtex以下、単繊維の繊維断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.00以上1.01以下、中心線平均粗さ(Ra)が3nm以上10nm以下である、炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束である。
本発明は、単繊維の繊維軸方向に延びる表面凹凸構造が無い炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束であることが好ましい。
さらに、前記シリコーン化合物が、以下の条件(1)及び(2)を満たすアミノ変性シリコーン化合物である炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束が好ましい。
(1)25℃における動粘度が50cst以上5000cst以下、
(2)アミノ当量が1700g/mol以上15000g/mol以下。
本発明により、より高い機械的特性を有する炭素繊維を得るための、適度な表面緻密性を有するアクリロニトリル前駆体繊維束及びその製造方法を提供できる。
本発明者らは上記課題に対して鋭意検討を行った結果、炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束が、特定の凝固条件及び特定の延伸条件で紡糸した繊維束に、シリコーン化合物を含む油剤を、このシリコーン化合物の付着量が特定量になるように付与することで、上記課題が解決できることを見出した。
このように、特定の凝固条件及び特定の延伸条件で紡糸することにより緻密な繊維構造を有する繊維束を得ることができる。また、この得られた繊維束にシリコーン化合物の付着量が特定の範囲になるように油剤を付与することで、油剤の付着浸透状態を制御することができ、適度な表面緻密性を有する炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束を得ることができる。なお、本発明において、前記「表面」は、表層の意味も含む。
さらに、この前駆体繊維束を、耐炎化処理及び炭素化処理することによって、優れた機械的性能を有し、航空機用途、産業用途等に用いることができる高品質かつ高性能な炭素繊維束を得ることができる。また、この炭素繊維束によって、高い機械的特性を有する成形材料(繊維強化樹脂)を得ることが出来る。
以下、本発明について詳細に説明する。
<炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束>
本発明の炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束(以降、「前駆体繊維束」と称することがある。)は、シリコーン化合物を含む油剤が例えば表面全体に付着している。この炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束は、炭素繊維の前駆体となる繊維束であり、この繊維束を構成する各繊維は、後述するアクリロニトリル系重合体からなることができる。
本発明の炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束は、例えば、以下のアクリロニトリル系重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液を紡糸して得られる繊維束(油剤付着前の前駆体繊維束)に、シリコーン化合物を含有する油剤を付与して乾燥させた後、熱延伸もしくはスチーム延伸にて延伸処理を施すことによって得ることができる。
また、本発明の炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束中の上記シリコーン化合物の含有量(付着量)は、乾燥及び延伸処理を施した後の段階の前駆体繊維束に対して、0.7質量%以上2.0質量%以下である
〔アクリロニトリル系重合体〕
前駆体繊維束の原料となるアクリロニトリル系重合体は、少なくともアクリロニトリル単位を含めば良く、アクリロニトリルの単独重合体であっても良いし、アクリロニトリルと他のモノマーとからなる共重合体であっても良い。なお、この他のモノマーは1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
しかしながら、この重合体中のアクリロニトリル単位の含有率は、96.0質量%以上が好ましく、97.0質量%以上がより好ましく、97.5質量%以上が更に好ましい。また、この重合体中のアクリロニトリル単位の含有率は、99.7質量%以下が好ましく、99.0質量%以下がより好ましく、98.5質量%以下が更に好ましい。
この重合体中のアクリロニトリル単位の含有量を96.0質量%以上99.7質量%以下とすることで、耐炎化反応で形成させるラダーポリマーの構造不整を一層小さくすることが出来、その後の高温度処理時の分解反応を一層抑制することが出来、強度低下の原因となる欠陥点の少ない緻密な炭素繊維を容易に得ることが出来る。
なお、アクリロニトリル(第1成分)と共重合させる他のモノマーは炭素繊維の分野で公知のモノマーを適宜用いることができるが、本発明では、この他のモノマーとして、カルボキシル基及びエステル基のいずれか一方または両方を1つ以上有する不飽和炭化水素(不飽和炭化水素化合物)(第2成分)を用いることが好ましい。この不飽和炭化水素を用いることで、耐炎化における分子内環化反応に伴う自己発熱を抑え、熱的ダメージの抑制を可能とすることができる。カルボキシル基及びエステル基のいずれか一方または両方を1つ以上有する不飽和炭化水素としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルを挙げることができる。これらの不飽和炭化水素は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記アクリロニトリル系重合体中の上記不飽和炭化水素単位の含有率は、0.3質量%以上4.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上2.5質量%以下が更に好ましい。
この特定の官能基を有する不飽和炭化水素成分は、耐炎化反応の起点となることが知られている。上記重合体中のこの不飽和炭化水素の含有量が0.3質量%以上であれば、適度な耐炎化反応を容易に生じさせることができ、耐炎化繊維の構造形成に支障をきたすことを容易に抑制することができる。一方、上記不飽和炭化水素の含有量が4.0質量%以下であれば、反応起点が多数存在することによる急激な反応を容易に抑制することができ、その結果、荒れた構造形態の形成を容易に抑制し、高い性能を有する炭素繊維を容易に得ることができる。即ち、上記重合体中の上記不飽和炭化水素成分の含有量を0.3質量%以上4.0質量%以下とすることで、耐炎化反応の開始点や反応速度のバランスが容易に良好となり、構造が緻密で、炭素化工程で欠陥点となるような構造不整合部の形成を容易に抑制することが可能である。また、適度な反応性を有することから、比較的低い温度領域で耐炎化反応を生じさせることが出来、経済性と安全性の両面に優れた耐炎化処理を実施することが出来る。従って、構造不整や欠陥の少ないグラフェン積層構造からなる炭素繊維を高収率で得るのに適した耐炎化繊維を得ることが出来る。
以上より、上記アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリル単位を96.0質量%以上99.7質量%以下と、カルボキシル基及びエステル基のいずれか一方または両方を1つ以上有する不飽和炭化水素化合物単位を0.3質量%以上4.0質量%以下含むアクリロニトリル系共重合体であることが好ましい。
また、上記アクリロニトリル系重合体中に、第3成分として、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、酢酸ビニルなどを含有しても良い。
なお、アクリロニトリル系重合体中の各構成単位の含有量は、NMRにより特定することができる。
アクリロニトリル系重合体を合成する際の重合方法は、特に限定されず、例えば水溶液中におけるレドックス重合、不均一系における懸濁重合、分散剤を使用した乳化重合、有機溶媒中のラジカル重合、その他どのような重合方法を用いても良く、これら重合方法の相違によって本発明が制約されるものではない。
アクリロニトリル系重合体の質量平均分子量は、10万以上70万以下が好ましく、20万以上60万以下がより好ましい。通常、このアクリロニトリル系重合体を繊維に賦型する際に用いる紡糸原液は、安定に紡糸を続けるために最適な曳糸性を有することが望まれる。曳糸性は、用いる重合体の分子量と紡糸原液中の重合体濃度に関連し、重合体の分子量が低い場合には、通常、紡糸原液中の重合体濃度を高く設定して、最適な曳糸性を得ている。ここで、上記重合体の質量平均分子量が10万以上であれば、紡糸原液中の重合体濃度を高く設定することで、適度な曳糸性を容易に発現することができ、紡糸原液中の重合体濃度が高い場合であっても、容易に均一に溶解することができる。また、上記重合体の質量平均分子量が70万以下であれば、紡糸原液に用いる溶剤に容易に溶解させることができ、紡糸原液中の重合体濃度を低くしなくても済み、炭素繊維性能の発現に必要な緻密性を容易に保持でき、紡糸時の生産性の低下を容易に防ぐことができる。
〔シリコーン化合物を含む油剤〕
本発明に用いる油剤は、シリコーン化合物を含み、必要に応じて後述する他の添加剤を含むことができる。この油剤を(油剤付着前の)前駆体繊維束に付着させることによって、繊維同士の融着を抑制することができ、さらに繊維の耐擦過性を向上させることができる。
なお、上記油剤中のシリコーン化合物の含有量は、30質量%以上95質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以上93質量%以下、更に好ましくは70質量%以上91質量%以下である。この含有量が30質量%以上であれば、油剤の役割である繊維同士の融着抑制や耐擦過性の効果を十分に発揮することが容易に出来る。また、この含有量が95質量%以下であれば、油剤(エマルジョン)の安定性を容易に十分なレベルにすることができ、安定した前駆体繊維束の製造が容易に行える。なお、上記油剤は、シリコーン化合物を主成分(最も多く含まれる成分)として含むことができる。
[シリコーン化合物]
シリコーン化合物は、シロキサン結合を例えば主鎖(主骨格)に有していれば良く、公知のシリコーン化合物を適宜用いることができる。しかしながら、繊維を構成するアクリロニトリル系重合体との相互作用の観点から、シリコーン化合物として、アミノ基で変性されたアミノ変性ポリジメチルシロキサン及びエポキシ基で変性されたエポキシ変性ポリジメチルシロキサンのいずれか一方または両方を用いることが好ましい。特に、油剤付着前の前駆体繊維表面の被覆のし易さ、及び、この表面からの脱離し難さの観点から、シリコーン化合物として、アミノ変性ポリジメチルシロキサンを用いることがより好ましい。
また、これらの変性ポリジメチルシロキサンは、ポリジメチルシロキサン骨格のメチル基の一部がフェニル基に置換されていても良く、この場合、前駆体繊維束に優れた耐熱性を付与することができる。
上記アミノ変性ポリジメチルシロキサンにおけるアミノ変性タイプは、特に限定されない。しかし、例えば、1級アミンが導入された1級側鎖タイプ、1級及び2級アミンが導入された1,2級側鎖タイプ、ポリジメチルシロキサン骨格の両末端にアミノ基が導入された両末端変性タイプを、好適に用いることができる。また、これらの混合タイプを用いても良いし、複数種を混合させて用いても良い。
なお、最も好適なアミノ変性ポリジメチルシロキサンは、25℃における動粘度が5.0×10-52/s(50cSt)以上、5.0×10-32/s(5000cSt)以下、かつ、アミノ当量が1700g/mol以上15000g/mol以下のものである。
この動粘度が5.0×10-52/s以上であれば、揮発しない十分な分子量を容易に
有することができ、耐炎化工程の全般において、前駆体繊維からのシリコーン化合物の飛散を容易に抑えることができる。その結果、油剤が本来の機能を容易に発現することができ、安定した炭素繊維の製造が容易に可能となる。また、上記動粘度が5.0×10-32/s以下であれば、以下の現象の発生を容易に抑制することができる。即ち、耐炎化工
程において前駆体繊維束からロール等に油剤の一部が転移し、この転移した油剤が比較的長時間の熱処理を受けることによりその粘度が上昇し粘着性が出て、前駆体繊維束の一部がロール等に巻きつく現象を容易に防ぐことができる。
また、上記アミノ当量を1700g/mol以上とすることにより、シリコーン化合物の熱反応性が容易に抑えられ、繊維束からロール等に油剤の一部が転移し、繊維束の一部がロールに巻きつくことを容易に防ぐことができる。アミノ当量を15000g/mol以下とすることにより、前駆体繊維とシリコーン化合物との十分な親和性を容易に得ることができるため、耐炎化工程の全般で前駆体繊維からのシリコーン化合物の飛散を容易に抑えることができる。
即ち、アミノ変性ポリジメチルシロキサンの25℃における動粘度が5.0×10-52/s以上5.0×10-32/s以下、アミノ当量が1700g/mol以上15000g/mol以下であれば、ロールなどへの油剤の転移に起因する繊維の巻きつきや耐炎化工程での急激な油剤の飛散がなく、紡糸から耐炎化処理まで長時間連続して安定に行うことが容易に出来る。
なお25℃における動粘度は、ASTM D 445−46Tによるウッベローデ粘度計により測定できる。
1級側鎖タイプのアミノ変性ポリジメチルシロキサンとしては、KF−864、KF−865、KF−868、KF−8003(いずれも商品名、信越化学工業社製)などが挙げられる。1、2級側鎖タイプのものとしては、KF−859、KF−860、KF−869、KF−8005(いずれも商品名、信越化学工業社製)などが挙げられる。両末端変性タイプのものとしては、サイラプレーンFM−3311、FM−3221、FM−3325(いずれも商品名、チッソ株式会社製)やKF−8012(商品名、信越化学工業社製)などが挙げられる。なお、これらのシロキサンは全て、上記動粘度範囲及びアミノ当量範囲を満たしている。
[他の添加剤]
上記油剤は、油剤を水系エマルジョンにするための界面活性剤や、優れた工程通過性を付与するための柔軟剤及び平滑剤等の添加剤を含有することができる。この界面活性剤としては、通常、ノニオン系の界面活性剤が用いられ、特に、プルロニック型や高級アルコールのエチレンオキサイド(EO)/プロピレンオキサイド(PO)付加物が用いられる。この界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロックポリマーであるニューポールPE−78、PE−108、PE−128(いずれも商品名、三洋化成工業(株)製)、NIKKOL BL−9EX(商品名、日光ケミカルズ株式会社製、乳化剤)などが好適である。柔軟剤や平滑剤は、エステル化合物やウレタン化合物などを用いることができる。
〔前駆体繊維束中のシリコーン化合物の含有量〕
本発明の炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束中のシリコーン化合物の含有量(付着量)は、油剤を付着させ、乾燥及び延伸処理を行った前駆体繊維束100質量%に対して、0.7質量%以上2.0質量%以下である。また、シリコーン化合物の含有量は、好ましくは0.9質量%以上1.9質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上1.7質量%以下である。この含有量が0.7質量%以上であれば、油剤による繊維表面の被覆不足に起因する繊維同士の融着や耐擦過性の低下を防ぐことが出来る。2.0質量%以下であれば、油剤の繊維内部への過剰浸透を防ぎ、欠陥点の形成を抑制し、過剰付着に起因する繊維同士の膠着や酸素の拡散不足による耐炎化構造の不整を低減することができる。
この前駆体繊維束中のシリコーン化合物の含有量は、上述したように、繊維束に油剤を付着させ、乾燥及び延伸処理を行った前駆体繊維束に対して測定され、この前駆体繊維束の油剤付着量と、使用した油剤中のシリコーン化合物の含有量とから求めることができる。前駆体繊維束の油剤付着量は、油剤が付着した前駆体繊維束をメチルエチルケトンで8時間ソックスレー抽出し、抽出前後の前駆体繊維束の質量を精秤して、この差から求めることができる。
この前駆体繊維束は、単繊維の繊度が、0.5dtex以上0.95dtex以下であり、単繊維の繊維断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.00以上1.01以下、単繊維の繊維軸方向に延びる表面凹凸構造が無く、中心線平均粗さ(Ra)が3nm以上10nm以下であることが好ましい。
Ra値が3nm以上であれば、前駆体繊維フィラメント表面の平滑性が過剰ではない。このことは凝固工程で形成されたスキン層由来の紡糸工程での低延伸性により、表層フィブリルの小さな破断が生じることがなく、微小な欠陥点の形成を避けることができる。さらにまた、フィラメントの集合体である繊維束としての過剰な収束により、耐炎化工程でのフィラメント内部への酸素拡散の阻害による、不均一な耐炎化処理も避けることができる。一方、Ra値を10nm以下にすることにより、表層近傍の構造の緻密性を十分なレベルとすることができると考えられる。
Ra値が3nm以上10nm以下であるような表面を有する場合、表層近傍の構造の緻密性が十分なレベルにあり、また十分な延伸性も有した構造とすることができ、紡糸から焼成工程において、表層近傍の欠陥点形成の機会を小さくすることが可能となる。その結果、高強度の炭素繊維束を得ることができる。前記観点から、Ra値の下限値は、4nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましい。またRa値の上限値は、8nm以下が好ましく、7nm以下がより好ましい。
ここで、繊維軸方向に延びる表面凹凸構造とは、繊維軸方向にほぼ平行に存在する皺構造を示したものである。アクリロニトリル繊維束は、凝固およびその後の延伸処理により、体積収縮が生じ、表面に繊維軸方向に伸びる皺構造が形成される。本発明においては、この皺構造が顕著な形態で存在しないものである。凝固工程で強固なスキン層の形成を抑え、緩やかな体積収縮を実現することによりこの皺構造の形成が抑制される。また、乾湿式紡糸によりこの皺構造の形成が大きく抑制されることが知られている。
単繊維断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.00〜1.01である繊維は、真円或いは真円に近い断面を有する単繊維であり、繊維表面近傍の構造均一性が優れている。より好ましい長径と短径との比(長径/短径)は1.00〜1.005である。
単繊維の繊度範囲が0.5〜0.95dtexである繊維は、繊維径が小さいので、焼成工程で生じる断面方向の構造不均一性を低減できる。より好ましい範囲は、0.6〜0.90dtexである。尚、dtexとは、長さ10000m当たりの単繊維の質量(g)を表す。
〔前駆体繊維の表面凹凸構造の測定〕
前駆体繊維束の単繊維の両端を、走査型プローブ顕微鏡装置付属の金属製サンプルホルダー板上にカーボンペーストで固定し、走査型プローブ顕微鏡にて以下の条件で測定する。先ず走査型プローブ顕微鏡により単繊維の形状像を測定する。測定画像について、画像解析により繊維軸に垂直な方向の断面プロファイルを10点計測して中心線平均粗さRaを求める。単繊維10本について測定を行い、平均値を求める。
〔測定条件〕
装置:エスアイアイナノテクノロジーズ社 SPI4000プローブステーション、SPA400(ユニット)、
走査モード:ダイナミックフォースモード(DFM)(形状像測定)、
探針:エスアイアイナノテクノロジーズ社製 SI−DF−20、
Rotation:90°(繊維軸方向に対して垂直方向にスキャン)、
走査領域:繊軸方向3.0μm×円周方向3.0μm、
走査速度:1.0Hz、
ピクセル数:512×512、
測定環境:室温、大気中。
単繊維1本に対して、上記条件にて1画像を得て、前記画像を画像解析ソフト(SPIWin)で以下条件にて画像解析する。
〔画像解析条件〕
得られた形状像に、フラット処理、メディアン8処理、及び、三次傾き補正を行い、曲面を平面にフィッティング補正した画像を得る。平面補正した画像の表面粗さ解析より、繊維軸に垂直な方向の断面プロファイルを計測し、中心線平均粗さRaを求める。
[フラット処理]
リフト、振動、スキャナのクリープ等によってイメージデータに現れたZ軸方向の歪み、うねりを除去する処理であり、SPM測定上の装置因によるデータのひずみを除去する処理である。
[メディアン8処理]
処理するデータ点Sを中心とする3×3の窓(マトリクス)においてSおよびD1〜D8の間で演算を行い、SのZデータを置き換えることで、スムージングやノイズ除去といったフィルタの効果を得るものである。メディアン8処理は、SおよびD1〜D8の9点のZデータの中央値を求めて、Sを置き換えるものである。
[三次傾き補正]
傾き補正は、処理対象イメージの全データから最小二乗近似によって曲面を求めてフィッティングし、傾きを補正するものである。(1次)(2次)(3次)はフィッティングする曲面の次数を示し、3次では3次曲面をフィッティングする。三次傾き補正処理によって、データの繊維の曲率をなくしフラットな像とする。
〔前駆体繊維の断面形状の評価〕
繊維束を構成する単繊維の繊維断面の長径と短径との比(長径/短径)は、以下のように決定する。内径1mmの塩化ビニル樹脂製のチューブ内に測定用の繊維束を通した後、これをナイフで輪切りにして試料を準備する。ついで、この試料を繊維断面が上を向くようにしてSEM試料台に接着し、さらにAuを約10nmの厚さにスパッタリングしてから、電子顕微鏡(フィリップス社製、製品名:XL20走査型)により、加速電圧7.00kV、作動距離31mmの条件で繊維断面を観察し、単繊維の繊維断面の長径及び短径を測定する。
<炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束の製造方法>
本発明の炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束は、例えば、以下の工程を含む製造方法によって得ることができる。
(i)アクリロニトリル単位を含む重合体を有機溶剤に溶解させた紡糸原液を紡糸して、凝固繊維束を作製する工程(紡糸工程)。
(ii)得られた凝固繊維束を延伸および洗浄処理する工程(延伸及び洗浄工程)。
(iii)工程iiより得られる繊維束に、シリコーン化合物を含む油剤を付着させる工程(油剤付着工程)。
〔工程i〕
まず、前駆体繊維束の繊維を構成する重合体を有機溶剤に溶解させて得られた紡糸原液を、紡糸することによって、凝固繊維束を作製する。
工程iに用いる重合体としては、上述したアクリロニトリル系重合体を適宜用いることができ、例えば、重合体中のアクリロニトリル単位の含有率を96.0質量以上とすることができる。凝固繊維束(糸束)を構成する繊維(糸)数は、例えば600〜24000本とすることができる。この繊維束を構成する繊維数は、以降の工程でも変化することなく、前駆体繊維束や耐炎化繊維束や炭素繊維束を構成する繊維数となることができる。
紡糸原液に用いる有機溶剤は、使用する重合体を溶解させることができるものであれば特に限定されない。しかし、溶解能力の観点から、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、またはジメチルスルホキシドが好ましく用いられる。より好ましくは、アクリロニトリル系重合体の溶解能力に優れたジメチルホルムアミドである。
なお、この紡糸原液の固形分濃度、即ち、紡糸原液中の上記重合体の濃度は、20質量%以上25質量%以下が好ましく、より好ましくは22質量%以上24質量%以下である。この固形分濃度が20質量%以上であれば、凝固過程において、繊維(フィラメント)内部から繊維外に移動する有機溶剤量を容易に少なくすることができ、必要な緻密性を有する凝固繊維束を容易に得ることができる。また、この固形分濃度が25質量%以下であれば、適度な原液粘度を容易に有することができ、紡糸する際に、ノズルからの原液吐出が一層安定化し、製造がし易くなる。即ち、紡糸原液中の固形分濃度を20質量%以上25質量%以下とすることにより、緻密性が高くかつ均質な構造を有する凝固繊維束を安定に製造することが容易にできる。
また、この紡糸原液の温度は、50℃以上70℃以下とすることが好ましい。紡糸原液の温度が50℃以上であれば、固形分濃度を低く調整することなく、適度な原液粘度に容易にすることができ、また70℃以下であれば、凝固液との温度差を容易に小さくすることができる。即ち、紡糸原液の温度が50℃以上70℃以下であることにより、緻密性が高くかつ均質な構造を有する凝固繊維束を安定に製造することが容易にできる。
紡糸方法は、例えば、湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法のいずれでも良いが、好ましくは、乾湿式紡糸法である。これは、緻密な凝固繊維を形成し易く、特に前駆体繊維表面の緻密性を容易に高めることができるからである。乾湿式紡糸法は、調製した紡糸原液を、ノズル孔が多数配置された紡糸口金から一旦空気中に紡出した後、調温した凝固液(凝固浴)中に吐出し凝固させ、その凝固繊維を引取る方法である。
なお、この凝固液には、通常、有機溶剤と水との混合溶液が用いられる。この有機溶剤には、紡糸原液に用いることのできる有機溶剤を同様に用いることができるが、凝固液に用いる有機溶剤には、通常、紡糸原液に用いた有機溶剤が使用される。
凝固液中の有機溶剤濃度は、78.5質量%以上82.0質量%以下とするのが好ましく、より好ましくは79.0質量%以上81.7質量%以下、更に好ましくは79.6質量%以上81.4質量%以下である。
なお、凝固繊維の繊維構造は後の油剤付与とも深く関係しており、凝固液の有機溶剤濃度が78.5質量%以上であれば、以下のようにすることができる。即ち、繊維内部の適度な緻密性を容易に維持しつつスキン層の形成を容易に抑制することができ、油剤を付与した際の繊維表面への良好な油剤なじみが容易に得られ、油剤の付着斑や表面への過剰付着を容易に抑制することが出来る。また、凝固液中の有機溶剤濃度が、82.0質量%以下であれば、繊維表面の適度な緻密性を容易に維持しながら、繊維内部への過剰な油剤の浸透を容易に抑えることが出来る。即ち、凝固液中の有機溶剤濃度を78.5質量%以上82.0質量%以下とすることにより、繊維の表面及び内部が共に緻密で、後の油剤付与工程において油剤の付着浸透状態が良好となる凝固繊維束が容易に得られる。
ここで、凝固液の温度は、−5℃以上20℃以下が好ましく、より好ましくは0℃以上15℃以下、更に好ましくは5℃以上10℃以下である。凝固液の温度が−5℃以上20℃以下であれば、緻密な凝固繊維を形成し易く、特に繊維表面の緻密性を高めることが出来る。
以上より、例えば、工程iは、アクリロニトリル単位の含有率が96.0質量%以上である重合体を有機溶剤に溶解させた紡糸原液から、乾湿式紡糸法によって凝固繊維束を作製する工程(工程1)であることができる。
〔工程ii〕
次に、得られた凝固繊維束に、延伸及び洗浄処理を施す。その際、延伸及び洗浄処理の順序は特に制限はなく、延伸後洗浄しても良く、延伸と洗浄を同時に行っても良い。また洗浄方法は繊維束から有機溶剤を除去出来ればいかなる方法でも良い。
しかしながら、この工程iiは、以下の工程2〜5を含む多段階延伸工程であることが好ましい。なお、工程5では繊維束を延伸させるのではなく、緩和収縮させても良い。
(2)この凝固繊維束を空気中で1.0倍以上1.2倍以下に延伸する工程(第1の延伸工程)。
(3)工程2より得られる繊維束を、有機溶剤を含む水溶液中で延伸し、その際、工程1より得られる凝固繊維束に対する、工程2および工程3の合計延伸倍率を2.0倍以上4.0倍以下とする工程(第2の延伸工程)。
(4)工程3より得られる繊維束から有機溶剤を除去する工程(洗浄工程)。
(5)工程4より得られる繊維束を、40℃以上の水浴中で0.95倍以上1.3倍以下に収縮または延伸する工程(収縮又は第3の延伸工程)。
なお、工程2、3及び5における繊維束の延伸倍率及び収縮倍率は、以下の方法により測定することができる。即ち、各工程の前後に配置されて走行する糸を把持するロールの回転速度の差から測定する。
以下に、工程2〜工程5の各工程を詳しく説明する。
・工程2(第1の延伸工程)
まず、工程i(例えば工程1)より得られる凝固繊維束を空気中で1.0倍以上1.25倍以下に延伸する。なお、工程iより得られる凝固繊維束は、通常、使用した有機溶剤を多量に含み膨潤しており、さらに、フィブリル構造を有する。この凝固繊維束の空気中における延伸率が1.0倍以上であれば、不均一な収縮を容易に抑えることができる。さらに、この延伸率が、1.0倍以上1.2倍以下であれば、疎なフィブリル構造の形成を容易に避けることができる。また、空気中での延伸率は、多段階延伸処理における繊維の構造破壊を抑制する観点から、1.0倍以上1.15倍以下であることが好ましい。
・工程3(第2の延伸工程)
次に、第1の延伸処理を行った繊維束を、有機溶剤を含む水溶液で延伸する。その際、第1の延伸工程(空気中)と、第2の延伸工程(水溶液中)との合計延伸倍率を2.0倍以上4.0倍以下とする。
この合計延伸倍率が2.0倍以上であれば、凝固繊維束に対して十分な延伸を容易に施すことができ、繊維軸方向に配向したフィブリル構造を容易に形成させることができる。また、この合計延伸倍率が4.0倍以下であれば、フィブリル構造自体の破断の発生を容易に抑制でき、緻密な構造形態を持つ前駆体繊維束を容易に得ることができる。即ち、合計延伸倍率を2.0倍以上4.0倍以下とすることによって、繊維の軸方向に配向した緻密なフィブリル構造を容易に形成させることができる。より好ましい合計延伸倍率は2.2倍以上3.7倍以下であり、更に好ましくは2.4倍以上3.4倍以下である。
また、第1及び第2の延伸工程では、空気中での延伸を1.0倍以上1.15倍以下とし、上記水溶液中での延伸倍率を2.2倍以上とすることが特に好ましい。この水溶液中での延伸は、比較的高い温度で行うために構造破壊を生じさせずに延伸が出来るため、空気中と水溶液中での延伸配分は、水溶液中の方を高く設定するのが好ましい。
このように2段階の延伸処理を行うことにより、繊維表面が緻密な膨潤繊維束を得ることができる。なお、膨潤度が160質量%以下の有機溶剤を含む凝固繊維束を用いることで、凝固繊維の内部構造の緻密性が向上し、それにより表面緻密性が優れた膨潤繊維束を得ることができる。
膨潤度は採取したサンプルを卓上遠心脱水機にて3000rpmで10分間処理した後秤量しこの数値を湿質量とする。そのサンプルを水洗して乾燥機で105℃にて3時間処理した後、デシケーター内で30分間保管したあと秤量してこの数値を乾質量とする。膨潤度は、以下の数式(2)にて計算される。
なお、上記有機溶剤を含む水溶液に用いる有機溶剤は、紡糸原液に使用できる有機溶剤を同様に使用することができるが、通常、この紡糸原液に用いた有機溶剤と同じものを使用する。また、本発明では、工程iに用いた凝固液よりも温度が高く、有機溶剤濃度が低い水溶液(延伸槽)中にて延伸(工程3)を行い、その後、洗浄処理(後述する工程4)を行うことが特に好ましい。これにより、凝固繊維に均一なフィブリル構造を容易に形成させることができる。
具体的には、この有機溶剤を含む水溶液中の有機溶剤濃度は、20質量%以上70質量%以下が好ましい。この範囲内であれば、得られた凝固繊維に対して安定した延伸処理を容易に行うことができ、緻密で均一なフィブリル構造を、前記体繊維の内部と表面において形成することができる。凝固液中の有機溶剤濃度は、より好ましくは30質量%以上65質量%以下、更に好ましくは40質量%以上60質量%以下である。
また、この有機溶剤を含む水溶液の温度は、40℃以上80℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上78℃以下、更に好ましくは55℃以上70℃以下である。温度を40℃以上とすることにより、良好な延伸性を容易に確保することができ、均一なフィブリル構造の形成が容易となる。80℃以下であれば、過度な可塑化作用の発生を容易に抑制でき、繊維表面での適度な脱溶剤化が容易に進み、均一な延伸を容易に行うことができる。その結果、得られる繊維束の質を容易に良好にすることができる。
・工程4
引き続き、2段階の延伸処理より得られた繊維束(糸束)を洗浄し、この繊維束に含まれる有機溶剤(例えば、工程1の紡糸原液や凝固浴、工程3の有機溶剤を含む水溶液に使用した有機溶剤)を除去する。洗浄処理は、50℃以上97℃以下の水洗浄槽で行うのが好ましい。より好ましい水洗浄槽の温度は、55℃以上75℃以下である。50℃以上であれば、有機溶剤の十分な除去を容易に行うことができ、97℃以下であれば、急激な体積収縮によるフィブリル構造の破壊を容易に避けることができる。洗浄槽を通過したあとの繊維束中の有機溶剤濃度は0.2%以下であることが好ましい。
・工程5(収縮又は第3の延伸工程)
洗浄工程より得られる繊維束を、40℃以上の水浴中で0.95倍以上1.3倍以下に収縮または延伸する。即ち、洗浄工程後の有機溶剤分の無い膨潤状態にある繊維束を、特定の温度の水浴中で、特定の収縮率で収縮、または特定の延伸率で延伸することにより、繊維の配向を更に高めることができる。
なお、工程5より得られる膨潤繊維の繊維構造は直後の油剤付与と密接に関係する。水浴の温度を40℃以上とすることにより、繊維の膨潤を抑制とすることができる。また、水浴の温度は、50℃以上98℃以下とすることが好ましく、より好ましくは55℃以上85℃以下、更に好ましくは60℃以上80℃以下である。水浴の温度が50℃以上であれば、繊維の膨潤を容易に抑制することができ、繊維内部への過剰な油剤の浸透を容易に抑えることができる。また、水浴の温度が98℃以下であれば、繊維束を適度に膨潤させることが容易にでき、油剤を付与した際の繊維表面への良好な油剤なじみを容易に得ることができ、油剤の付着斑や表面への過剰付着を容易に抑制することができる。即ち、水浴の温度を50℃以上98℃以下とすることにより、直後の油剤付与工程において油剤の付着浸透状態が良好となる膨潤繊維を容易に得ることができる。
工程5における収縮または延伸倍率は、0.95倍以上1.3倍以下とする。工程5の倍率(収縮倍率)が0.95倍以上1.0倍未満であれば、工程4より得られる繊維束に対して若干の緩和を加えることができ、第1及び第2の延伸工程により生じる延伸歪みを容易に取ることが可能となる。第1及び第2の延伸工程において高い延伸倍率で延伸された繊維束の延伸歪みをこの工程5でとることにより、その後の延伸(例えば、後述する工程iiiにおける延伸)の際に、安定した延伸を容易に行うことができる。工程5の倍率(延伸倍率)が1.0倍以上1.3倍以下であれば、フィブリル構造の配向度の向上と繊維表面の緻密性アップが容易に図られる。工程5では、0.97倍以上1.2倍以下の倍率で、工程4に得られる繊維束に対して収縮または延伸を行うことがより好ましい。
さらに、本発明の製造方法では、以下の数式(1)を満たすことが好ましい。
なお、上記数式(1)中、各符号は以下のものを表す。
A:工程3における有機溶剤を含む水溶液の温度(℃)、
B:工程3における有機溶剤を含む水溶液中の有機溶剤の濃度(質量比)、
C:工程3の水溶液中における工程2より得られる繊維束に付与する延伸倍率(比率)、D:工程5における水浴の温度(℃)。
この数式(1)を満たすように、上記A〜Dを設定することにより、前駆体繊維束に対する適度な油剤浸透を容易に得ることができ、油剤を付与した際に繊維表面への油剤なじみが非常に良く、油剤の付着斑や表面への過剰付着を容易に抑制することができる。
ここで、数式(1)について詳細を説明する。本発明の前駆体繊維束を製造するに当たり、シリコーン化合物を含有する油剤の浸透状態が重要であることは既に述べた通りである。その油剤の浸透状態に大きく影響するのは、油剤処理を施すときの繊維束の状態であり、したがって工程3から工程5の間で形成される構造と考えられる。この工程3から工程5において、繊維束の構造形成を支配する製造条件としては、工程3の延伸倍率と延伸槽水の有機溶剤濃度と温度、工程5の延伸倍率と延伸槽の温度が挙げられる。特に前駆体繊維束の構造形成において、有機溶剤を含む水溶液中での延伸工程である工程3の製造条件が非常に重要であり、この工程での延伸倍率が最も重要な製造条件と考えられる。
ここで、この工程3で延伸される繊維束は、有機溶剤を多量に含み、また延伸層内の水溶液中にも有機溶剤を含んでいる。したがって、ここでの繊維束の延伸処理は、膨潤したポリマーよりなる繊維束を有機溶剤の存在下で延伸する工程といえる。したがって、延伸処理の繊維束に及ぼす作用の大きさは、延伸槽内の有機溶剤濃度に大きく影響されるものとなっている。そこで、延伸倍率の実質的な効果は、実際に施した延伸倍率ではなく、延伸槽内の有機溶剤濃度を考慮した有効延伸倍率を考える必要がある。実際に施した延伸倍率Cから有効延伸倍率は、下記の数式(3)による補正を施すことにより見積もることができることがわかった。
同様に、工程5における延伸処理について考えてみると、溶剤洗浄を施されたものであることから延伸槽内の水の温度が重要となるが、アクリロニトリル系ポリマーのTg以下の温度での延伸となることから、工程3のような大きな延伸倍率を設定することができず、0.95以上1.3倍以下の範囲である。したがって、工程5における延伸倍率は、0.95以上1.3倍以下の範囲で処理を施す状況においては、工程3における延伸倍率に比べ影響度が小さい。しかしながら、工程5における延伸槽内の水の温度が繊維束の構造に大きく影響する。これは、有機溶剤を含まない、つまりは膨潤状態ではないポリマーより成る繊維束の熱処理工程と位置づけられることが要因である。したがって、工程3で延伸処理された繊維束の構造は、有機溶剤を含有した膨潤状態のポリマーに延伸処理を施したものであり、一方、工程5は、工程3で形成された繊維束に熱処理を施して、構造緩和を引き起こさせるものと考えられる。特にこの緩和は、繊維軸と垂直な方向である、繊維断面方向の収縮である。この緩和効果の見積もりとして、工程3における膨潤状態のポリマーのTgと有機溶剤を含まない工程5におけるポリマーのTgの差をスケールパラメーターとし、工程3と工程5の処理温度差で表現することが妥当を考えられる。また、緩和効果であることから、工程5の温度が高ければ緩和の程度が大きくなり、その結果、工程3で施された延伸処理の作用量を減少させる方向に働くことになる。したがって、この緩和作用は、先に記載した工程3における有効延伸倍率の補正項と位置づけることができる。
ポリアクリロニトリルポリマーのTgについては、いくつか報告されている。たとえば、R. B. Beeversの報文“Dependence of the glass transition temperature of polyacrylonitrileon molecular weight”(Journal of Polymer Science Part A:General Papers Volume 2, Issue 12, pages 5257, 1964)に、溶剤を含むポリアクリロニトリルポリマーのTgが下記の数式(4)で推算できると記載されている。
w2:有機溶剤を含むポリマーに含まれるポリマー量(質量%)、
有効範囲:90質量%<w2<100質量% 。
したがって、有機溶剤約10質量%を含有するポリマーのTgは、55℃と見積もられる。実際に工程3における繊維束のTgは55〜60℃程度であった。一方、有機溶剤を含まないポリアクリロニトリルポリマーのTgは100℃程度である。以上のように、工程3から工程5を通して、実質的な延伸処理の効果は、実質的延伸倍率として下記の数式(5)により表現することができる。
Tgp:有機溶剤を含まないポリマーのTg(100℃とする。)
Tgs:有機溶剤を含むポリマーのTg(60℃とする。)
ここで「Tgp−Tgs」は、96.0質量%以上のアクリロニトリルを含有するポリアクリロニトリル系ポリマーであれば、有機溶剤によらずまた有機溶剤の含有量が10〜15質量%であれば大きくは変わらないと考えられることから、通常「Tgp−Tgs=40℃」とすることができる、したがって、実質的延伸倍率は、下記の数式(6)により表現することができる。
工程3における延伸処理は、フィブリル構造自体の破断の発生を防ぐ目的で、2.0倍から4.0倍の範囲としている。その範囲を前提とし、本発明の最適な実質的延伸倍率の範囲は、2.25倍以上、3.25倍以下である。より好ましくは、2.00倍以上、3.10倍以下である。
〔工程iii〕
次に、工程ii(例えば、上記工程2〜5)より得られる膨潤糸束に、シリコーン化合物を含有する油剤を付着させる。なお、本発明では、工程6において、この油剤を付着させた繊維束中のシリコーン化合物の含有量は0.7質量%以上2.0質量%以下とする。この油剤としては、上述したシリコーン化合物を含む油剤を適宜用いることができる。この油剤の付着方法としては、例えば、ディップニップ方式を用いることができる。
続いて、通常、この油剤が付着した繊維束(糸束)に対して、乾燥緻密化処理を行う。乾燥緻密化処理は、公知の乾燥法により、油剤が付着した繊維束を乾燥及び緻密化させれば良く、特に制限はなく、例えば、この繊維束を複数の加熱ロールに接触させて通過させる方法が好ましく用いられる。
また、乾燥緻密化後の繊維束は、例えば、130℃以上200℃以下の加圧スチーム中、または100℃以上200℃以下の乾熱熱媒中、または150℃以上220℃以下の加熱ロール間や加熱板上で延伸して、更なる配向の向上と緻密化を行うことができる。その際、好ましい延伸倍率は1.8倍以上6.0倍以下であり、より好ましくは2.4倍以上6.0倍以下、更に好ましくは2.6倍以上6.0倍以下である。
以上より、得られた繊維束を適宜巻き取り、炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束を得ることができる。
<耐炎化繊維束の製造方法>
本発明より得られる前駆体繊維束を、酸化雰囲気下(例えば空気中)で熱処理(耐炎化処理)することによって、耐炎化繊維束を得ることができる。その際、この前駆体繊維束を、例えば、220℃以上280℃以下の熱風循環型の耐炎化炉に、30分以上100分以下通過させ、伸長率0%以上10%以下として、密度1.335g/cm3以上1.360g/cm3以下の耐炎化繊維束を得ることができる。なお、前駆体繊維束は、複数の束を等間隔かつ同一平面を形成するように配置し、シート状の前駆体繊維束(前駆体シート)として、耐炎化工程や後述する炭素化工程に供することができる。
なお、耐炎化反応には、熱による環化反応と、酸素による酸化反応とがあり、この2つの反応をバランス良く行うこと重要である。この2つの反応をバランス良く行うためには、耐炎化処理時間は30分以上100分以下が好適である。処理時間が30分以上の場合、酸化反応が十分に生じていない部分が単繊維の内側に存在することを容易に抑制でき、単繊維の径方向で大きな構造斑が生じることを容易に抑制できる。その結果、均一な構造を有する炭素繊維を容易に製造することができ、高い機械的性能を容易に発現させることができる。処理時間が100分以下の場合は、単繊維の表面に近い部分により多くの酸素が存在することを容易に抑制でき、その後の高温での熱処理によって過剰の酸素が消失する反応が生じることを容易に抑制でき、欠陥点のない高強度の炭素繊維を容易に得ることができる。また、より好ましい耐炎化処理時間は、40分以上80分以下である。
耐炎化処理温度が220℃以上の場合、単繊維の表面に近い部分により多くの酸素が存在することを容易に抑制することができ、260℃以下の場合、酸化反応が十分に生じていない部分が単繊維の内側に存在することを容易に抑制することができる。また、より好ましい耐炎化処理温度は、225℃以上255℃以下である。
耐炎化処理より得られる繊維束の密度が1.335g/cm3以上の場合、十分な耐炎化反応を容易に行うことができ、その後の高温での熱処理により分解反応が生じることを容易に抑制でき、欠陥点のない高強度の炭素繊維を容易に得ることができる。耐炎化繊維束の密度が1.360g/cm3以下の場合、繊維の酸素含有量を適度な量に容易にする
ことができ、その後の高温での熱処理により過剰の酸素が消失する反応が生じることを容易に抑制でき、欠陥点のない高強度の炭素繊維を容易に得ることができる。より好ましい耐炎化繊維束の密度は、1.340g/cm3以上1.350g/cm3以下である。
耐炎化炉での適度な伸長は、繊維を形成しているフィブリル構造の配向を維持、向上させるために重要である。伸長率が0%以上では、フィブリル構造の配向を容易に維持でき、炭素繊維の構造形成における繊維軸での十分な配向を容易に得ることができ、優れた機械的性能を容易に発現させることができる。一方、伸長率が10%以下では、フィブリル構造自体の破断を容易に抑制でき、その後の炭素繊維の構造形成を損なったり、破断点が欠陥点となったりすることなく、高強度の炭素繊維を容易に得ることができる。より好ましい伸長率は、3%以上8%以下である。
更に、前駆体繊維束を酸化雰囲気下で熱処理する工程(耐炎化工程)では、多段階に分けて前駆体繊維束を伸長させることが好ましく、例えば、伸長処理条件を少なくとも3つのブロックに分割した耐炎化条件を設定することが好ましい。具体的には、以下の工程(1)〜(3)を有する耐炎化処理が挙げられる。
(1)前駆体繊維束を伸長率3.0%以上8.0%以下で伸長させ、繊維密度1.200g/cm3以上1.260g/cm3以下の繊維束を得る工程。
(2)得られた繊維束を、伸長率0.0%以上3.0%以下で伸長させ、繊維密度1.240g/cm3以上1.310g/cm3以下の繊維束を得る工程。
(3)得られた繊維束を、−1.0%以上2.0%以下で収縮または伸長させ、繊維密度1.300g/cm3以上1.360g/cm3以下の耐炎化繊維束を得る工程。
なお、各工程における繊維束の伸長率または収縮率は、各工程の前後に配置されて走行する糸を把持するロールの回転速度の差により特定することができる。
<炭素繊維束の製造方法>
次に、得られた耐炎化繊維束を、窒素などの不活性雰囲気中、熱処理(炭素化処理)することによって、炭素繊維束を製造することができる。この炭素化処理は複数の段階に分けて行うことができ、耐炎化繊維束に対して、例えば、以下の第1及び第2(必要に応じて第3)の炭素化工程を行うことにより、炭素繊維束を得ることができる。
(1)耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中、温度勾配を有する第一炭素化炉にて、300℃以上800℃以下で2%以上7%以下の伸長を加えながら1.0分以上3.0分以下、熱処理する第1の炭素化工程。
(2)第1の炭素化工程より得られる繊維束を、不活性雰囲気中、温度勾配を設定できる第二炭素化炉にて、1000℃以上1600℃以下、緊張下で熱処理をする第2の炭素化工程。
(3)第2の炭素化工程より得られる繊維束を、所望する温度勾配を有する第三炭素化炉にて不活性雰囲気中緊張下で熱処理をする第3の炭素化工程。
〔第1の炭素化工程〕
耐炎化処理温度を220〜260℃に設定した場合、反応を効率的に進行させる観点から、第1の炭素化工程における開始処理温度は300℃以上とすることが好ましい。第1の炭素化工程における処理温度(最高処理温度)が800℃以下であると、繊維が非常に脆くなることを容易に抑制でき、次の工程への移行が容易である。第1の炭素化工程における、より好ましい処理温度範囲は300℃以上750℃以下であり、更に好ましくは300℃以上700℃以下である。
第1の炭素化炉が有する温度勾配については特に制限はないが、処理温度300℃以上800℃以下で、直線的な勾配を設定するのが急激な分解を抑えて機械的強度発現の観点から好ましい。
伸長率が2%以上では、フィブリル構造の配向を容易に維持でき、炭素繊維の構造形成における繊維軸での十分な配向を容易に得ることができ、優れた機械的性能発現ができる。伸長率が7%以下では、フィブリル構造自体の破断が生じることを容易に抑制でき、その後の炭素繊維の構造形成を損なったり、破断点が欠陥点となったりすることなく、高強度な炭素繊維を容易に得ることができる。より好ましい伸長率は3%以上5%以下である。
第1の炭素化工程における好適な処理時間は1.0分以上3.0分以下である。1.0分以上の処理では、急激な温度上昇に伴う激しい分解反応が生じることを容易に抑制でき、高強度の炭素繊維を容易に得ることができる。3.0分以下であると、可塑化の影響が発生して結晶の配向度が低下することを容易に抑制でき、その結果、機械的性能の優れた炭素繊維を容易に得ることができる。より好ましい処理時間は、1.2分以上2.5分以下である。
〔第2の炭素化工程〕
次いで、窒素などの不活性雰囲気中、1000℃以上1600℃以下の範囲で温度勾配を設定出来る第二炭素化炉にて緊張下で熱処理を行う。
第二炭素化炉は、第一炭素化炉の温度設定にもよるが1000℃以上であればよい。好ましくは1050℃以上である。温度勾配については特に制限はないが、直線的な勾配を設定するのが好ましい。処理時間は1.0分以上5.0分以下が好ましく、より好ましくは1.5分以上4.2分以下である。第2の炭素化工程における熱処理によって、繊維束は大きな収縮を伴うために、緊張下で熱処理をすることが重要である。その際、繊維束に対して、−6.0%以上2.0%以下の収縮(緩和)または伸長を付与することが好適である。−6.0%以上では、結晶の繊維軸方向での良好な配向を容易に得ることができ、十分な性能を容易に得ることができる。2.0%以下の場合は、繊維構造自体が破壊されることを容易に抑制でき、欠陥点の形成を容易に抑制でき、強度の大幅な低下が生じることを容易に抑制できる。第2の炭素化工程においては、繊維束に対して−5.0%以上0.5%以下の収縮または伸長を付与することがより好ましい。
〔第3の炭素化工程〕
また、必要ならば、追加で所望する温度勾配を有する第三炭素化炉にて不活性雰囲気中、緊張下で熱処理を行う。第3の炭素化工程における処理温度の設定は、炭素繊維の所望弾性率に応じて適宜設定することができる。また、第三炭素化炉が有する温度勾配についても特に制限はないが、直線的な勾配を設定するのが好ましい。高機械性能を有する炭素繊維を得るためには、炭素化処理の最高処理温度は低ければ低いほど良い。また、処理時間を長くすることにより弾性率を高くすることができるため、処理時間を長くすることにより、炭素化処理の最高処理温度を下げることができる。更に、処理時間を長くすることにより、温度勾配を緩やかに設定することが可能となり、欠陥点形成を抑制するのに効果がある。
〔表面処理工程〕
このようにして得られた炭素繊維束は、必要に応じて、表面処理に供される。表面処理方法としては、公知の方法、即ち、電解酸化、薬剤酸化及び空気酸化などによる酸化処理が挙げられ、いずれでも良い。工業的に広く実施されている電解酸化処理は、安定な表面酸化処理が可能であること、また、表面処理状態の制御が電気量を変えて行えるという観点から最も好適な方法である。ここで、同一電気量であっても、用いる電解質及びその濃度によって表面状態は大きく異なってくるが、pHが7より大きいアルカリ性水溶液中で炭素繊維を陽極として10クーロン/g以上200クーロン/g以下の電気量を流して酸化処理を行うことが好ましい。電解質としては、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いるのが好適である。
〔サイジング処理工程〕
次に、得られた炭素繊維束は、必要に応じてサイジング処理に供される。サイジング剤は、有機溶剤に溶解させたサイジング液や、乳化剤などで水に分散させたエマルジョン液を、ローラ浸漬法、ローラ接触法等によって炭素繊維束に付与し、これを乾燥することによって行うことができる。なお、炭素繊維の表面へのサイジング剤の付着量の調節は、サイジング剤液の濃度調整や絞り量調整によって行うことができる。又、乾燥は、熱風、熱板、加熱ローラ、各種赤外線ヒーターなどを利用して行うことができる。引き続いて、サイシング剤を付着させ乾燥させた後、ボビンに巻きとることで、サイジング剤が付着した炭素繊維束を得ることができる。
本発明の前駆体繊維束に対して、上述した焼成方法(耐炎化処理及び炭素化処理)を適用することにより、機械的性能に優れた炭素繊維束を得ることができる。
〔炭素繊維束の物性〕
本発明の前駆体繊維束より得られる炭素繊維束は、樹脂含浸ストランド強度が6500MPa以上であることが好ましく、ASTM法で測定されるストランド弾性率が260GPa以上380GPa以下であることが好ましい。
樹脂含浸炭素繊維束のストランド試験体の調製及び強度の測定は、JIS R7608に準拠して実施することができる。ただし、弾性率の算出には、ASTM法に準じたひずみ範囲を用いて実施する。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
〔1.前駆体繊維束の調製〕
アクリロニトリル及びメタクリル酸を水系懸濁重合により重合し、アクリロニトリル単位/メタクリル酸単位=98/2(質量%)からなる、質量平均分子量415000のアクリロニトリル系共重合体を得た。得られた重合体をジメチルホルムアミドに溶解して、この重合体の濃度が23.5質量%の紡糸原液を調製した。
ここで、作製したポリアクリロニトリル系共重合体の質量平均分子量は以下のように測定した。東ソー(株)製のGPCシステム HLC−8120(商品名)を使用し、カラムには東ソー(株)製 TOSOH TSK−GEL,SuperHZM−H(商品名)を2本直列で用いた。溶離液に0.01mol/l塩化リチウムのジメチルホルムアミド溶液を使用し、カラム流量0.6ml/min、ポリマー濃度0.001g/ml、注入量20μlとして測定した。標準物質としてポリスチレンを用いて、ポリアクリロニトリル系共重合体の質量平均分子量を求めた。
この紡糸原液を直径0.13mm、孔数2000の吐出孔を配置した紡糸口金から一旦空気中に紡出した後、約4mmの空間を通過させ、8℃に調温した80.1質量%ジメチルホルムアミドを含有する水溶液を満たした凝固液中に吐出し凝固させ、凝固繊維束を引取った(工程1)。
次いで、得られた凝固繊維束を空気中で1.1倍延伸し(工程2)、その後、60℃に調温した55質量%ジメチルホルムアミドを含有する水溶液を満たした前延伸槽中で3.0倍延伸した(工程3)。即ち、工程1より得られた凝固繊維束に対する工程2及び3の合計延伸倍率は、3.3倍であった。続いて、得られた、有機溶剤を含有している繊維束を清浄な温水で洗浄し(工程4)、55℃の水中で1.01倍の延伸を行った(工程5)。
引き続き、工程5より得られた繊維束に、アミノ変性シリコーン化合物を主成分とする油剤を付与し(工程6)、その後、乾燥緻密化処理を行った。
ここで、上記アミノ変性シリコーンを主成分とする油剤としては、以下のアミノ変性シリコーン85質量%と、乳化剤15質量%とからなる油剤を用いた。なお、工程6より得られる油剤が付着した繊維束中のシリコーン化合物の含有量は、1.04質量%であった。
・アミノ変性シリコーン:KF−865(商品名、信越化学工業(株)製、1級側鎖タイプ、粘度110cSt(25℃)、アミノ当量5,000g/mol)。
・乳化剤:NIKKOL BL−9EX(商品名、日光ケミカルズ株式会社製、POE(9)ラウリルエーテル)。
また、乾燥緻密化後の繊維束を、180℃の加熱ロール間で3.1倍延伸して、更なる配向の向上と緻密化を行った後に巻き取って前駆体繊維束を得た。前駆体繊維の単繊維繊度は、0.77dtexであった。
〔2.耐炎化処理〕
次いで、得られた前駆体繊維束を複数、平行に揃えた状態(シート状)で耐炎化炉に導入し、220℃以上280℃以下に加熱された空気を前駆体繊維束に吹き付けることによって、前駆体繊維束を耐炎化して、密度1.342g/cm3の耐炎繊維束を得た。具体的には、この複数の前駆体繊維束を伸長率5.0%で伸長させた状態で、密度1.200g/cm3以上1.250g/cm3以下まで耐炎化処理し、更に伸長率1.5%で伸長させた状態で、密度1.250g/cm3以上1.300g/cm3以下まで耐炎化処理し、更に、収縮率−0.5%で緩和させた状態で、密度1.300g/cm3以上1.350g/cm3以下まで耐炎化処理し、耐炎化繊維束を得た。なお、この耐炎化処理における合計の伸長率は6%であり、合計の耐炎化処理時間は40分であった。
〔3.炭素化処理〕
次に、得られた耐炎化繊維束を、窒素中、300℃以上700℃以下の第一炭素化炉にて4.5%の伸長を加えながら通過させた(第1の炭素化工程)。なお、この第一炭素化炉は、炭素化処理開始温度が300℃となり、終了温度が700℃となる、直線的な温度勾配を有していた。また、炭素化処理時間は1.9分とした。
続いて、得られた繊維束を、窒素雰囲気中で1000℃以上1250℃以下の第二炭素化炉を用いて収縮率−3.8%で緩和させた状態で、熱処理を行った(第2の炭素化工程)。なお、この第二炭素化炉は、炭素化処理開始温度が1000℃となり、終了温度が1250℃となる、直線的な温度勾配を有していた。
引き続き、得られた繊維束を、窒素雰囲気中1250℃以上1500℃以下の第三炭素化炉を用いて収縮率−0.1%で緩和させた状態で、熱処理を行い(第3の炭素化工程)、炭素繊維束を得た。なお、この第三炭素化炉は、炭素化処理開始温度が1250℃となり、終了温度が1500℃となる、直線的な温度勾配を有していた。第2及び第3の炭素化工程における合計収縮率は、−3.9%であり、合計の炭素化処理時間は3.7分であった。
〔4.炭素繊維束の表面処理〕
引き続いて、重炭酸アンモニウムを10質量%含む水溶液中に、得られた炭素繊維束を走行させ、この炭素繊維束を陽極として、処理対象となるこの炭素繊維1g当り40クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理を行い、温水90℃で洗浄した後、乾燥した。次に、得られた繊維束に対して、ハイドランN320(商品名、DIC株式会社製)を0.5質量%付着させ、ボビンに巻きとり、表面処理した炭素繊維束を得た。
(実施例2〜14、参考例、実施例16〜24及び比較例1〜10)
表1に示すように、紡糸条件及び前駆体繊維束に付着させるシリコーン化合物の量を変更した以外は、実施例1と同様にして、前駆体繊維束を得た。さらに、この前駆体繊維束から、実施例1と同様にして、表面処理した炭素繊維束を製造した。
表1に紡糸条件、前駆体繊維束中のシリコーン化合物の含有(付与)量、表面処理した炭素繊維束の樹脂含浸ストランド強度及びストランド弾性率をまとめて示す。
表1に示すように、実施例1〜14、16〜24の本発明の製造方法により得られた油剤が付着した前駆体繊維束を焼成した炭素繊維束の樹脂含浸ストランド強度及びストランド弾性率は、いずれも高く、高い機械的特性を有する繊維強化樹脂を得るのに十分な強度を有していた。

Claims (4)

  1. シリコーン化合物が付着した炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束を製造する方法であって、
    (1)アクリロニトリル単位の含有率が96.0質量%以上である重合体を有機溶剤に溶解させた紡糸原液から、乾湿式紡糸法によって凝固繊維束を作製する工程と、
    (2)該凝固繊維束を空気中で1.0倍以上1.2倍以下に延伸する工程と、
    (3)工程2より得られる繊維束を、有機溶剤を含む水溶液中で延伸し、その際、工程1より得られる凝固繊維束に対する、工程2および工程3の合計延伸倍率を3.08倍以上4.0倍以下とする工程と、
    (4)工程3より得られる繊維束から有機溶剤を除去する工程と、
    (5)工程4より得られる繊維束を、40℃以上の、温度70〜95℃の熱水中を除く水浴中で0.95倍以上1.3倍以下に収縮または延伸する工程と、
    (6)工程5より得られる繊維束に、シリコーン化合物を含む油剤を付着させる工程と、(7)工程6より得られる繊維束を乾燥させる工程と、を含み、
    工程3において、該有機溶剤を含む水溶液の温度(℃)をAで表し、該有機溶剤を含む水溶液中の有機溶剤の濃度(質量比)をBで表し、該有機溶剤を含む水溶液中における工程2より得られる繊維束に付与する延伸倍率(比率)をCで表し、工程5において、該水浴の温度(℃)をDで表した場合に、下記の数式(1)で表される関係を満たし、工程7後の乾燥させた繊維束に対する該シリコーン化合物の含有量が0.7質量%以上2.0質量%以下になる該油剤の量を繊維束に付与にする、炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束の製造方法:
  2. 前記シリコーン化合物として、以下の条件(1)及び(2)を満たすアミノ変性シリコーン化合物を用いる請求項1に記載の炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束の製造方法:
    (1)25℃における動粘度が50cst以上5000cst以下、
    (2)アミノ当量が1700g/mol以上15000g/mol以下。
  3. 請求項1または2に記載の炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束の製造方法により得られた炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束を、220℃以上280℃以下の熱風循環型の耐炎化炉に、30分以上100分以下通過させ、伸長率0%以上10%以下として、酸化雰囲気下で熱処理することによって耐炎化繊維束を得る、耐炎化繊維束の製造方法。
  4. 請求項1または2に記載の炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束の製造方法により得られた炭素繊維用アクリロニトリル前駆体繊維束を、酸化雰囲気下での熱処理により密度1.335g/cm 以上1360g/cm 以下の耐炎化繊維束とした後、不活性雰囲気中で300℃以上800℃以下の温度勾配を有する炭素化炉にて2%以上7%以下の伸長を加えながら1.0分以上3.0分以下加熱し、引き続き不活性雰囲気中1000℃以上1600℃以下の温度勾配を有する炭素化炉にて−6.0%以上2.0%以下の伸長を加えながら1.0分以上5.0分以下熱処理を行うことによって炭素繊維束を得る、炭素繊維束の製造方法。
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