さらに、本発明者らは、鋳型における変異の存在または不存在のいずれかによって鋳型とのミスマッチを生じる核酸試薬による等温での核酸増幅反応を利用した変異検出法において、該核酸増幅反応をミスマッチ識別能を有する物質の存在下で行なうことにより、より正確な変異の検出が可能となることを見出した。
従って、本発明の第二の態様によれば、ミスマッチ結合タンパク質などのミスマッチ識別能を有する物質の存在下において、鋳型における変異の存在または不存在のいずれかによって鋳型とのミスマッチを生じる核酸試薬を用いた等温での核酸増幅反応を行なうことにより、核酸試料中の核酸配列における変異の有無を判定する方法が提供される。
発明の具体的説明
本発明におけるプライマーセットは、標的核酸配列を増幅しうる少なくとも二種のプライマーを含んでなるものである。該プライマーセットに含まれる第一のプライマーは、標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3’末端部分に含んでなり、かつ前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5’側に含んでなるものである。また、前記プライマーセットに含まれる第二のプライマーは、前記標的核酸配列の相補配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3’末端部分に含んでなり、かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D-Dc')を前記配列(Cc')の5’側に含んでなるものである。
本発明において「標的核酸」または「標的核酸配列」とは、増幅しようとする核酸またはその配列そのものだけでなく、これに相補的な配列または該配列を有する核酸をも意味する。
本発明において「ハイブリダイズする」とは、本発明によるプライマーの一部がストリンジェントな条件下で標的核酸にハイブリダイズし、標的核酸以外の核酸分子にはハイブリダイズしないことを意味する。ストリンジェントな条件は、本発明によるプライマーとその相補鎖との二重鎖の融解温度Tm(℃)およびハイブリダイゼーション溶液の塩濃度などに依存して決定することができ、例えば、J. Sambrook, E. F. Frisch, T. Maniatis; Molecular Cloning 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)等を参照することができる。例えば、使用するプライマーの融解温度よりわずかに低い温度下でハイブリダイゼーションを行なうと、プライマーを標的核酸に特異的にハイブリダイズさせることができる。このようなプライマーは、市販のプライマー構築ソフト、例えば、Primer3(Whitehead Institute for Biomedical Research社製)などを用いて設計することができる。本発明の好ましい実施態様によれば、ある標的核酸にハイブリダイズするプライマーは、その標的核酸に相補的な核酸分子の全部または一部の配列を含んでなるものである。
第一のプライマーによる核酸合成の作用機序を図1に模式的に示す。まず、鋳型となる核酸中の標的核酸配列を決定し、その標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)、および配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)を決定する。第一のプライマーは、配列(Ac')を含んでなり、さらにその5’側に配列(B')を含んでなる。配列(Ac')は、配列(A)にハイブリダイズするものであり、配列(B')は、配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズするものである。ここで、第一のプライマーは、前記配列(Ac')と前記配列(B')の間に、反応に影響を与えない介在配列を含んでいてもよい。このようなプライマーを鋳型核酸にアニーリングさせると、プライマー中の配列(Ac')が標的核酸配列の配列(A)にハイブリダイズした状態となる(図1(a))。この状態でプライマー伸長反応が起こると、標的核酸配列の相補配列を含む核酸が合成される。そして、合成された核酸の5’末端側に存在する配列(B')が、同核酸中に存在する配列(Bc)にハイブリダイズし、これにより、合成された核酸の5’末端部分においてステム−ループ構造が形成される。その結果、鋳型核酸上の配列(A)が一本鎖となり、この部分に先の第一のプライマーと同一の配列を有する他のプライマーがハイブリダイズする(図1(b))。その後、鎖置換反応により、新たにハイブリダイズした第一のプライマーからの伸長反応が起こると同時に、先に合成された核酸が鋳型核酸から分離される(図1(c))。
上記の作用機序において、配列(B')が配列(Bc)にハイブリダイズする現象は、典型的には、同一鎖上に相補領域が存在することにより起こる。一般に、二本鎖核酸が一本鎖に解離するときは、その末端あるいはそれ以外の比較的不安定な部分から部分的な解離が始まる。上記第一のプライマーによる伸長反応で生成した二本鎖核酸は、比較的高温では末端部分の塩基対は解離と結合の平衡状態にあり、全体としては二本鎖を保っている。そのような状態で末端の解離した部分に相補的な配列が同一鎖上に存在すると、準安定な状態としてステム−ループ構造を形成することができる。このステムループ構造は安定的には存在しないが、その構造の形成により剥き出しとなった相補鎖部分(鋳型核酸上の配列(A))に同一の他のプライマーが結合し、すぐさまポリメラーゼが伸長反応を行うことにより、先に合成された鎖が置換されて遊離すると同時に、新たな二本鎖核酸を生成することができる。
本発明の好ましい態様における第一のプライマーの設計基準は次のとおりである。まず、プライマーの伸長により鋳型核酸の相補鎖が合成された後に新たなプライマーが効率よく同鋳型核酸にアニーリングするためには、合成された相補鎖の5’末端におけるステム−ループ構造形成により、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする必要がある。そのためには、配列(Ac')の塩基数Xと標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数Yとの差(X−Y)の、Xに対する割合(X−Y)/Xが重要となる。ただし、鋳型核酸上において配列(A)よりも5’側に存在する、プライマーのハイブリダイズとは関係無い部分まで一本鎖とする必要はない。また、新たなプライマーが効率よく鋳型核酸にアニーリングするためには、上述のステム−ループ構造形成を効率よく行なうことも必要となる。そして、効率の良いステム−ループ構造形成、すなわち、効率の良い配列(B')と配列(Bc)とのハイブリダイゼーションには、前記配列(B')と前記配列(Bc)との間の距離(X+Y)が重要となる。一般に、プライマー伸長反応のための最適温度は最高でも72℃付近であり、そのような低い温度では、伸長鎖が長い領域にわたって解離することは困難である。従って、配列(B')が配列(Bc)に効率よくハイブリダイズするためには、両配列の間の塩基数は少ないほうが好ましいと考えられる。一方で、配列(B')が配列(Bc)にハイブリダイズして鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とするためには、配列(B')と配列(Bc)との間の塩基数は多い方が好ましいと考えられる。
以上のような観点から、本発明の好ましい実施態様による前記第一のプライマーは、プライマーを構成する配列(Ac')と配列(B')の間に介在配列が存在しない場合において、(X−Y)/Xが−1.00以上、好ましくは0.00以上、さらに好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上となり、また、1.00以下、好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.25以下となるように設計される。さらに、(X+Y)は、好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上とされ、また、好ましくは50以下、さらに好ましくは48以下、さらに好ましくは42以下とされる。
また、プライマーを構成する配列(Ac')と配列(B')の間に介在配列(塩基数はY’)が存在する場合には、本発明の好ましい実施態様による前記第一のプライマーは、{X−(Y−Y’)}/Xが−1.00以上、好ましくは0.00以上、さらに好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上となり、また、1.00以下、好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.25以下となるように設計される。さらに、(X+Y+Y’)は、好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上とされ、また、好ましくは100以下、さらに好ましくは75以下、さらに好ましくは50以下とされる。
前記第一のプライマーは、与えられた条件下で必要な特異性を維持しながら標的核酸との塩基対結合を行うことができる程度の鎖長を有するものである。このプライマーの鎖長は、好ましくは15〜100ヌクレオチド、より好ましくは20〜60ヌクレオチドとする。また、前記第一のプライマーを構成する配列(Ac')と配列(B')の長さは、それぞれ、好ましくは5〜50ヌクレオチド、より好ましくは7〜30ヌクレオチドである。また、必要に応じて、配列(Ac')と配列(B')の間に、反応に影響を与えない介在配列を挿入してもよい。
本発明によるプライマーセットに含まれる第二のプライマーは、上述のように、前記標的核酸配列の相補配列(第一のプライマーがハイブリダイズする鎖に対して反対側の鎖)の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3’末端部分に含んでなり、かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D-Dc')を前記配列(Cc')の5’側に含んでなるものである。このような第二のプライマーの構造は、例えば、図2に示すようなものであるが、図2に示される配列やヌクレオチド数に限定されるものではない。第二のプライマーを構成する配列(Cc')の長さは、好ましくは5〜50ヌクレオチド、より好ましくは10〜30ヌクレオチドである。また、前記折返し配列(D-Dc')の長さは、好ましくは2〜1000ヌクレオチド、より好ましくは2〜100ヌクレオチド、さらに好ましくは4〜60ヌクレオチド、さらに好ましくは6〜40ヌクレオチドであり、折返し配列の内部におけるハイブリダイゼーションによって形成される塩基対のヌクレオチド数は、好ましくは2〜500bp、より好ましくは2〜50bp、さらに好ましくは2〜30bp、さらに好ましくは3〜20bpである。折返し配列(D-Dc')のヌクレオチド配列はいかなる配列であってもよく、特に限定されるものではないが、好ましくは標的核酸配列にハイブリダイズしない配列とされる。また、必要に応じて、配列(Cc')と折返し配列(D-Dc')の間に、反応に影響を与えない介在配列を挿入してもよい。
これら第一のプライマーおよび第二のプライマーによる核酸増幅反応について考えられる作用機序を、図3(図3aおよび図3b)を用いて説明する。なお、図3では、説明を簡略化するため、ハイブリダイズする2つの配列を相互に相補的な配列としているが、これにより本発明が限定されるものではない。まず、第一のプライマーが標的核酸のセンス鎖にハイブリダイズし、該プライマーの伸長反応が起きる(図3(a))。次いで、伸長鎖(−)上においてステム−ループ構造が形成され、これにより一本鎖となった標的核酸センス鎖上の配列(A)に新たな第一のプライマーがハイブリダイズし(図3(b))、該プライマーの伸長反応が起きて、先に合成された伸長鎖(−)が脱離する。次に、脱離した伸長鎖(−)上の配列(C)に第二のプライマーがハイブリダイズし(図3(c))、該プライマーの伸長反応が起き、伸長鎖(+)が合成される(図3(d))。生成した伸長鎖(+)の3’末端と伸長鎖(−)の5’末端ではステム−ループ構造が形成され(図3(e))、遊離型の3’末端である伸長鎖(+)のループ先端から伸長反応が起こると同時に、前記伸長鎖(−)が脱離する(図3(f))。ループ先端からの前記伸長反応により、伸長鎖(+)の3’側に配列(A)および配列(Bc)を介して伸長鎖(−)が結合したヘアピン型の二本鎖核酸が生成し、その配列(A)および配列(Bc)に第一のプライマーがハイブリダイズし(図3(g))、その伸長反応により伸長鎖(−)が生成する(図3(h)および(i))。また、前記ヘアピン型二本鎖核酸の3’末端に存在する折返し配列によって遊離型の3’末端が提供され(図3(h))、そこからの伸長反応により(図3(i))、両端に折返し配列を有し、第一および第二のプライマーに由来する配列を介して伸長鎖(+)と伸長鎖(−)とを交互に含む一本鎖核酸が生成する(図3(j))。この一本鎖核酸では、その3’末端に存在する折返し配列により遊離型の3’末端(相補鎖合成起点)が提供されるため(図3(k))、同様の伸長反応が繰り返され、1回の伸長反応あたり2倍の鎖長となる(図3(l)および(m))。また、図3(i)において脱離した第一のプライマーからの伸長鎖(−)では、その3’末端に存在する折返し配列により遊離型の3’末端(相補鎖合成起点)が提供されるため(図3(n))、そこからの伸長反応により、両端にステム−ループ構造が形成され、プライマーに由来する配列を介して伸長鎖(+)と伸長鎖(−)とを交互に含む一本鎖核酸が生成する(図3(o))。この一本鎖核酸においても、3’末端におけるループ形成によって相補鎖合成起点が順次提供されるため、そこからの伸長反応が次々に起こる。このようにして自動的に延長される一本鎖核酸には、第一のプライマーおよび第二のプライマーに由来する配列が伸長鎖(+)と伸長鎖(−)との間に含まれているため、各プライマーがハイブリダイズして伸長反応を起こすことが可能であり、これにより標的核酸のセンス鎖およびアンチセンス鎖が顕著に増幅される。
本発明によるプライマーセットは、第一のプライマーおよび第二のプライマー以外に、第三のプライマーを含むものとすることができる。第三のプライマーは、前記標的核酸配列またはその相補配列にハイブリダイズするものであって、標的核酸配列またはその相補配列へのハイブリダイゼーションについて他のプライマーと競合しないものとされる。
本発明において「競合しない」とは、そのプライマーが標的核酸にハイブリダイズすることによって他のプライマーによる相補鎖合成起点の付与が妨げられないことを意味する。
第一のプライマーおよび第二のプライマーにより標的核酸が増幅された場合には、上述のように、増幅産物は標的核酸配列とその相補配列とを交互に有するものとなる。その増幅産物の3’末端には折返し配列またはループ構造が存在し、これにより提供される相補鎖合成起点から次々に伸長反応が起こっている。第三のプライマーは、このような増幅産物が部分的に一本鎖の状態になった時に、その一本鎖部分に存在する標的配列にアニ−リングすることができる。これにより、増幅産物中の標的核酸配列内に新たな相補鎖合成起点が提供され、そこからの伸長反応が起こるため、核酸増幅反応がより迅速に行われるようになる。
第三のプライマーは必ずしも1種類に限定されるわけではなく、核酸増幅反応の迅速性および特異性を向上させるためには2種類以上の第三のプライマーを同時に用いてもよい。これら第三のプライマーは、典型的には第一のプライマーおよび第二のプライマーとは異なる配列からなるが、これらのプライマーと競合しない限りにおいて、部分的に重なる領域にハイブリダイズするものとしてもよい。第三のプライマーの鎖長は、好ましくは2〜100ヌクレオチド、より好ましくは5〜50ヌクレオチド、さらに好ましくは7〜30ヌクレオチドとされる。
第三のプライマーは、第一のプライマーおよび第二のプライマーによる核酸増幅反応をより迅速に進めるための補助的な働きをその主目的とするものである。従って、第三のプライマーは、第一のプライマーおよび第二のプライマーの各3’末端のTmよりも低いTmを有するものとすることが好ましい。また、第三のプライマーの増幅反応液への添加量は、第一のプライマーおよび第二のプライマーのそれぞれの添加量よりも少ない方が好ましい。
第三のプライマーとしては、国際公開第02/24902号パンフレットに記載のような、ループを形成できる構造をもつものを鋳型として、そのループ部分に相補鎖合成の起点を与えるものを挙げることができるが、これに限定されるものではない。すなわち、標的核酸配列内であれば、いかなる部位に相補鎖合成起点を提供するものであってもよい。
本発明によるプライマーセットに含まれるプライマーは、デオキシヌクレオチドおよび/またはリボヌクレオチドにより構成される。本発明において、「リボヌクレオチド」(単に「N」ということもある)とは、リボヌクレオチド三リン酸をいい、例えば、ATP,UTP,CTP,GTP等がある。さらに、リボヌクレオチドにはこれらの誘導体が含まれ、例えば、α位のリン酸基の酸素原子を硫黄原子に置き換えたリボヌクレオチド(α−チオ−リボヌクレオチド)等がある。
また、前記プライマーには、未修飾デオキシヌクレオチドおよび/または修飾デオキシヌクレオチドで構成されたオリゴヌクレオチドプライマー、および未修飾リボヌクレオチドおよび/または修飾リボヌクレオチドで構成されたオリゴヌクレオチドプライマー、未修飾デオキシヌクレオチドおよび/または修飾デオキシヌクレオチドおよび未修飾リボヌクレオチドおよび/または修飾リボヌクレオチドを含有するキメラオリゴヌクレオチドプライマー等も含まれる。
本発明によるプライマーセットに含まれるプライマーは、オリゴヌクレオチドの合成に用いることのできる任意の方法、例えば、リン酸トリエステル法、H−ホスホネート法、チオホスホネート法等により合成できる。前記プライマーは、例えば、ABI社(Applied Biosystem Inc.)のDNAシンセサイザー394型を用いてホスホアミダイト法により合成すれば、容易に取得することができる。
核酸増幅反応において用いられる、標的核酸配列を含む鋳型核酸、または核酸試料は、DNAまたはRNAのどちらでもよい。DNAには、cDNA、ゲノムDNAおよび合成DNAのいずれもが含まれる。RNAには、全RNA、mRNA、rRNA、siRNA、hnRNAおよび合成RNAのいずれもが含まれる。これらの核酸は、例えば、血液、組織、細胞、さらには動物、植物のような生体由来試料、または生体由来試料、食品、土壌、排水等から分離された微生物由来試料から調製することができる。
鋳型核酸または核酸試料の単離は任意の方法で行うことができ、例えば、界面活性剤による溶解処理、音波処理、ガラスビーズを用いた振盪撹拌およびフレンチプレス等を用いる方法が挙げられる。また、内在性ヌクレアーゼが存在する場合には、単離された核酸を精製することが好ましい。核酸の精製は、例えば、フェノール抽出、クロマトグラフィー、イオン交換、ゲル電気泳動、密度に依存した遠心分離などにより実施することが可能である。
より具体的には、前記鋳型核酸または前記核酸試料としては、上記方法により単離したゲノムDNAやPCRフラグメントのような二本鎖核酸、全RNAもしくはmRNAから逆転写反応で調製されたcDNAのような一本鎖核酸のいずれも使用可能である。上記二本鎖核酸の場合は、変性工程(denaturing)を行なって一本鎖とすることにより、より最適に利用することができる。
上記の逆転写反応に用いられる酵素は、RNAを鋳型としたcDNA合成活性を有するものであれば特に限定されず、例えば、トリ骨髄芽球症ウイルス由来逆転写酵素(AMV RTase)、ラウス関連ウイルス2逆転写酵素(RAV−2 RTase)、モロニーネズミ白血病ウイルス由来逆転写酵素(MMLV RTase)等、種々の起源の逆転写酵素が挙げられる。このほか、逆転写活性を併せ持つDNAポリメラーゼを使用することも可能である。また、本発明の目的のためには、高温で逆転写活性を有する酵素が最適であり、例えばサーマス属細菌由来DNAポリメラーゼ(TthDNAポリメラーゼ等)、バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼ等を使用できる。特に好ましい酵素を例示すれば、例えば、好熱性バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼとして、B.st由来DNAポリメラーゼ(Bst DNAポリメラーゼ)、およびB.ca由来DNAポリメラーゼ(Bca DNAポリメラーゼ)、例えばBcaBEST DNAポリメラーゼ、Bca(exo−)DNAポリメラーゼ等が挙げられる。例えば、Bca DNAポリメラーゼは、反応にマンガンイオンを必要とせず、高温条件下で鋳型RNAの二次構造形成を抑制しながらcDNAを合成することが可能である。
核酸増幅反応では、鋳型核酸が二本鎖核酸の場合でも、これをそのまま反応に用いることができるが、必要に応じてそれらを変性して一本鎖にすることにより、鋳型核酸へのプライマーのアニーリングを効率よく行なうこともできる。温度を約95℃に上昇させることは、好ましい核酸変性法である。他の方法として、pHを上昇させることにより変性させることも可能であるが、この場合には、プライマーを標的核酸にハイブリダイズさせるためにpHを低下させる必要がある。
核酸増幅反応に用いられるポリメラーゼは、鎖置換(strand displacement)活性(鎖置換能)を有するものであればよく、常温性、中温性、もしくは耐熱性のいずれのものも好適に使用できる。また、このポリメラーゼは、天然体もしくは人工的に変異を加えた変異体のいずれであってもよい。このようなポリメラーゼとしては、DNAポリメラーゼが挙げられる。さらに、このDNAポリメラーゼは、実質的に5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないものであることが好ましい。このようなDNAポリメラーゼとしては、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus、以下「B.st」という)、バチルス・カルドテナックス(Bacillus caldotenax、以下「B.ca」という)等の好熱性バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異体、大腸菌(E.coli)由来DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられる。核酸増幅反応において使用するDNAポリメラーゼとしては、さらに、Vent DNAポリメラーゼ、Vent (Exo-) DNAポリメラーゼ、DeepVent DNAポリメラーゼ、DeepVent (Exo-) DNAポリメラーゼ、Φ29ファージDNAポリメラーゼ、MS−2ファージDNAポリメラーゼ、Z-Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Pfu turbo DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、9°Nm DNAポリメラーゼ、Therminater DNAポリメラーゼ等が挙げられる。
さらに、上記核酸増幅反応においては、逆転写活性を併せ持つDNAポリメラーゼ、例えば、BcaBEST DNAポリメラーゼ、Bca(exo−)DNAポリメラーゼ等を使うことにより、全RNAもしくはmRNAからの逆転写反応とcDNAを鋳型にしたDNAポリメラーゼ反応を1種類のポリメラーゼで行なうことが可能である。また、DNAポリメラーゼと、MMLV逆転写酵素などの上述の逆転写酵素とを組み合わせて用いてもよい。
核酸増幅反応において使用するその他の試薬としては、例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等の触媒、dNTPミックス等の基質、トリス塩酸バッファー、トライシンバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、リン酸カリウムバッファー等の緩衝液を使用することができる。さらに、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)やベタイン(N,N,N-trimethylglycine)等の添加物、国際公開第99/54455号パンフレットに記載の酸性物質、陽イオン錯体等を使用してもよい。
核酸増幅反応において、核酸の増幅効率を高めるために、融解温度調整剤を反応溶液中に添加することができる。核酸の融解温度(Tm)は、一般的に、核酸中の二本鎖形成部分の具体的なヌクレオチド配列によって決定される。反応溶液中に融解温度調整剤を添加することにより、この融解温度を変化させることができ、従って、一定の温度下では、核酸における二本鎖形成の強度を調整することが可能となる。一般的な融解温度調整剤は、融解温度を下げる効果を有する。このような融解温度調整剤を添加することにより、2本の核酸の間の二本鎖形成部分の融解温度を下げることができ、換言すれば、その二本鎖形成の強度を下げることが可能となる。従って、前記核酸増幅反応においてこのような融解温度調整剤を反応溶液中に添加すると、強固な二本鎖を形成するGCの豊富な核酸領域や複雑な二次構造を形成する領域において効率的に二本鎖部分を一本鎖とすることが可能となり、これにより、プライマーによる伸長反応が終わった後に次のプライマーが目的領域にハイブリダイズしやすくなるため、核酸の増幅効率を上げることができる。本発明において用いられる融解温度調整剤およびその反応溶液中での濃度は、ハイブリダイゼーション条件に影響を与える他の反応条件、例えば塩濃度、反応温度等を考慮して、当業者により適切に選択される。従って、融解温度調整剤は特に制限されるものではないが、好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)、ベタイン、ホルムアミドもしくはグリセロール、またはこれらの任意の組み合わせとされ、より好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)とされる。
さらに、核酸増幅反応において、酵素安定化剤を反応溶液中に添加することもできる。これにより、反応液中の酵素が安定化されるため、核酸の増幅効率を高めることが可能となる。本発明において用いられる酵素安定化剤は、グリセロール、ウシ血清アルブミン、糖類などの、当技術分野において知られているいかなるものであってもよく、特に制限されない。
さらに、核酸増幅反応において、DNAポリメラーゼ、逆転写酵素などの酵素の耐熱性を増強するための試薬を、酵素安定化剤として反応溶液中に添加することもできる。これにより、反応液中の酵素が安定化されるため、核酸の合成効率および増幅効率を高めることが可能となる。このような試薬は当技術分野において知られているいかなるものであってもよく、特に制限されないが、好ましくは糖類、より好ましくは単糖またはオリゴ糖、さらに好ましくはトレハロース、ソルビトールもしくはマンニトール、またはこれらの2種以上の混合物とされる。
本発明によるプライマーセットを用いる核酸増幅反応は、等温で実施可能である。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、この核酸増幅反応は、鋳型核酸または核酸試料と本発明によるプライマーセットとを含んでなる核酸増幅用溶液を用意する工程、およびこの核酸増幅用溶液を等温でインキュベートする工程を含んでなる。ここで、「等温」とは、酵素およびプライマーが実質的に機能しうるような、ほぼ一定の温度条件下に保つことをいう。さらに、「ほぼ一定の温度条件」とは、設定された温度を正確に保持することのみならず、酵素およびプライマーの実質的な機能を損なわない程度の温度変化であれば許容されることを意味する。
一定の温度条件下での核酸増幅反応は、使用する酵素の活性を維持できる温度に保つことにより実施することができる。また、この核酸増幅反応において、プライマーが標的核酸にアニーリングするためには、例えば、反応温度を、そのプライマーの融解温度(Tm)付近の温度、もしくはそれ以下に設定することが好ましく、さらには、プライマーの融解温度(Tm)を考慮し、ストリンジェンシーのレベルを設定することが好ましい。従って、この温度は、好ましくは、約20℃〜約75℃であり、さらに好ましくは、約35℃〜約65℃とする。
上記の核酸増幅反応においては、酵素が失活するか、またはプライマーをはじめとする試薬のうちの一つが使い尽くされるかのいずれかまで増幅反応が繰り返される。
上記の核酸増幅反応においては、非天然ヌクレオチドを含む核酸を鋳型核酸とすることも可能である。本明細書において「非天然ヌクレオチド」とは、天然ヌクレオチドに含まれる塩基(アデニン、グアニン、シトシン、およびチミンもしくはウラシル)以外の塩基を含むヌクレオチドであって、核酸配列中に取り込まれうるものを意味し、例えば、キサントシン類、ジアミノピリミジン類、isoG,isoC(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 6329-6333, 1995)等が挙げられる。非天然ヌクレオチドを含む標的核酸の増幅には、一般に、耐熱性を持たない核酸増幅酵素が用いられる。一方で、上記核酸増幅反応は、例えば50℃前後の等温で行うことが可能であるため、従来のPCR法と比較して核酸増幅酵素(DNAポリメラーゼなど)が失活する可能性が低い。従って、本発明によるプライマーセットによる核酸増幅反応は、耐熱性を持たない核酸増幅酵素が用いられる非天然ヌクレオチドを含む標的核酸の増幅にも有効である。非天然ヌクレオチドを含む核酸の増幅に用いられる酵素は、そのような標的核酸を増幅可能なものであればよく、特に限定されないが、特に取り込み効率の観点から、Y188L/E478Q変異型HIV I 逆転写酵素、AMV逆転写酵素、DNAポリメラーゼのクレノウ断片、9°N DNA ポリメラーゼ、HotTub DNAポリメラーゼ等が好適である(Michael Sismour 1 et al., Biochemistry 42, No.28, 8598, 2003/米国特許第6617106号明細書、Michael J. Lutz et al., Bioorganic & Medical Chemistry letters 8, 1149-1152, 1998等)。さらに、核酸増幅酵素の耐熱性を向上させる物質、例えばトレハロースなど、を反応溶液に添加することもでき、これにより、より効率的に非天然ヌクレオチドを含む標的核酸の増幅を行うことができる。
本発明による核酸増幅法によって得られた増幅産物の存在は、多くのあらゆる方法により検出が可能である。一つの方法は、一般的なゲル電気泳動による特定のサイズの増幅産物の検出である。この方法では、例えば、エチジウムブロマイドやサイバーグリーン等の蛍光物質により検出できる。他の方法としては、ビオチンのような標識を有する標識プローブを用い、これを増幅産物にハイブリダイズさせることにより検出することもできる。ビオチンは、蛍光標識されたアビジン、ペルオキシダーゼのような酵素に結合したアビジン等との結合により検出可能である。さらに別の方法としては、免疫クロマトグラフを用いる方法がある。この方法では、肉眼で検出可能な標識を利用したクロマトグラフ媒体を用いることが考案されている(イムノクロマトグラフィー法)。上記増幅断片と標識プローブとをハイブリダイズさせ、該増幅断片のさらに異なる配列とハイブリダイズ可能な捕捉用プローブをクロマト媒体に固定しておけば、その固定した部分でトラップすることができ、クロマト媒体での検出が可能となる。その結果、肉眼的にシンプルな検出が可能となる。さらに、本発明による核酸増幅法では、核酸増幅反応における増幅効率が非常に高いため、増幅の副産物としてピロリン酸が生じることを利用して、増幅産物を間接的に検出することもできる。このような方法としては、例えば、ピロリン酸が反応溶液中のマグネシウムと結合することによりピロリン酸マグネシウムの白色沈澱が生じることを利用して、反応溶液の白濁を目視で観察する方法がある。また、他の方法としては、ピロリン酸がマグネシウムなどの金属イオンと強く結合して不溶性塩を形成することにより、反応溶液中のマグネシウムイオン濃度が著しく減少することを利用する方法がある。この方法では、マグネシウムイオン濃度に応じて色調が変化する金属指示薬(例えば、Eriochrome Black T、Hydroxy Naphthol Blue等)を反応溶液に添加しておくことにより、反応溶液の色の変化を目視で観察することにより、増幅の有無を検出することが可能となる。さらに、Calceinなどを利用することにより、増幅反応に伴う蛍光の増大を目視で観察することができるため、リアルタイムでの増幅産物の検出が可能となる。
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明による核酸増幅法によって得られた増幅産物の存在は、増幅産物の生成に起因する固相担体の凝集を観察することによって検出することもできる。このような検出を行なう場合には、本発明によるプライマーセットに含まれる少なくとも1種のプライマーが、固相担体または固相担体と結合可能な部位を含んでなるものとされる。固相担体または固相担体と結合可能な部位は、プライマーの3’末端部、5’末端部、中央領域など、いかなる部分に導入されたものであってもよいが、好ましくは5’末端部に導入されたものとされる。あるいは、核酸増幅反応において用いられる基質を、固相担体または固相担体と結合可能な部位を含んでなるものとしてもよい。
本発明に用いられる固相担体としては、核酸増幅反応に用いられる反応溶液に不溶性の担体、または増幅の前後において液相から固相(ゲル相)もしくは固相(ゲル相)から液相に性状が変化する相転移性担体であれば、いずれも使用することが可能である。好ましい固相担体としては、水不溶性有機高分子担体、水不溶性無機高分子担体、合成高分子担体、相転移性担体、金属コロイド、磁性粒子等が挙げられ、さらには、溶媒不溶性有機高分子担体、溶媒不溶性無機高分子担体、溶媒可溶性高分子担体、ゲル高分子担体等が挙げられる。さらに、水不溶性有機高分子としては、例えば、多孔質シリカ、多孔質ガラス、珪藻土、セライトなどの珪素含有物質、ニトロセルロース、ヒドロキシアパタイト、アガロース、デキストラン、セルロース、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類の架橋体、メチル化アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、カゼインなどのタンパク質の架橋体、ゲル状粒子、染料ゾル等が挙げられる。水不溶性無機高分子としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、セラミック粒子等が挙げられる。合成高分子としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリルまたはこれらの共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。金属コロイドとしては、金コロイド等が挙げられる。磁性粒子としては、磁性酸化鉄のビーズ、磁性酸化鉄の微粉砕粒子を表面に有する単分散、超常磁性粒子(特表平4−501959号公報)、重合性シラン被膜によって覆われた超常磁性酸化鉄を有する磁気応答粒子(特公平7−6986号公報)、有機ポリマー中に封入された微粉末状の磁化可能な粒子等が挙げられる。磁性化された固相担体は、固体と液体との分離を磁力を利用して簡単に行うことができる。固相担体の形状としては、粒子、膜、繊維状、フィルター等が挙げられる。固相担体の形状としては粒子が特に好ましく、その表面は多孔質または非多孔質のいずれであってもよい。特に好ましい固相担体としては、合成高分子担体が水などに均一に分散されたラテックス、金コロイドなどの金属コロイド粒子、マグネットビーズなどの磁性粒子等が挙げられる。
プライマーまたは基質の固相担体への固定化は当業者に公知の方法によって行なうことができ、物理的な結合または化学的な結合のいずれによる方法であってもよい。プライマーまたは基質の固相担体への固定化は、例えば、一般的にプライマーやプローブなどのオリゴヌクレオチドを標識化しうる物質と、これに結合可能な物質を結合させた固相担体とを組み合わせて行なうことができる。このような目的で用いられる物質の組み合わせは、当技術分野において周知のものを用いることができ、例えば、ビオチンとアビジンもしくはストレプトアビジンとの組み合わせ、抗原とこれに結合しうる抗体との組み合わせ、リガンドとこれに結合しうるレセプターとの組み合わせ、相互にハイブリダイズする2つの核酸の組み合わせ等が挙げられる。具体的には、例えば、ビオチンで標識したプライマーまたは基質を、アビジンもしくはストレプトアビジンで表面をコートした固相担体に結合させることにより、プライマーまたは基質を固相担体に固定化することができる。前記抗原としては、例えば、FITC、DIG、DNP等のハプテンが挙げられ、これらと結合しうる抗体としては、抗FITC抗体、抗DIG抗体、抗DNP抗体等の抗体が挙げられる。また、これらの抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれであってもよい。特に、ビオチンとストレプトアビジンとの結合は特異性が高く、結合効率も良好であるため、これらの組み合わせは特に好ましい。ビオチン、ハプテン、リガンド等の標識物質は、いずれも単独で、あるいは必要であれば複数の組み合わせで、公知の手段(特開昭59−93099号公報、特開昭59−148798号公報、および特開昭59−204200号公報を参照のこと)により、プライマーの5’末端部に導入することができる。
本発明に用いられる固相担体と結合可能な部位(または基)は、プライマーまたは基質の固相担体への固定化のために用いられる上述の方法に従って選択することができ、従って、固相担体との物理的な結合を可能とするものまたは化学的な結合を可能とするもののいずれであってもよいが、好ましくは特異的結合を可能とするものとされる。このような固相担体と結合可能な部位としては、上述のような、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、抗原、抗体、リガンド、レセプター、核酸、タンパク質などが挙げられ、好ましくはビオチンまたはストレプトアビジンとされ、より好ましくはビオチンとされる。このような部位を含むプライマーまたは基質を用いることにより、核酸増幅反応を行なった後に、増幅産物に上記固相担体を結合させることが可能となる。この場合において用いられる固相担体は、必要に応じて、プライマーまたは基質に含まれる前記部位の結合相手を含むものとすることができる。このような結合相手は、プライマーまたは基質に含まれる前記部位との結合が可能な形で存在するものであり、好ましくは固相担体の表面上に存在するものとされ、より好ましくは固相担体の表面上に塗布されたものとされる。
本発明の一つの実施態様によれば、複数の標的核酸のそれぞれについて本発明によるプライマーセットを用意し、これら複数のプライマーセットを相互に識別可能な形で固相担体に固定化し、これらの固定化プライマーセットを用いて核酸増幅反応が行なわれる。これにより、複数の標的核酸を同時に増幅し、それぞれについての増幅産物を識別可能な形で検出することが可能となる。増幅産物の検出は、インターカレーターなどを用いて行なうことができる。例えば、平面状の固相担体上において、複数のプライマーをそれぞれ特定の位置に固定化しておくことにより、核酸増幅反応および増幅産物の検出の後に、増幅産物が検出された位置によって、増幅された標的核酸を特定することができる。また、このような目的に使用可能な固相担体は、上記の平面状の固相担体のみならず、相互に識別可能なビーズ表面(米国特許第6046807号明細書および米国特許第6057107号明細書)、繊維状の担体にそれぞれのプライマーセットを固相化したものを束ねた後に薄片に切断して作製される準平板担体(特開2000−245460号公報)等の、当技術分野において公知のものとすることができる。
本発明による核酸増幅法によって得られた増幅断片は通常の塩基により構成されるため、増幅後、増幅断片内部の制限酵素部位を用いて適当なベクターにサブクローニングすることも可能である。さらに、前記増幅断片は、RFLPのように、制限酵素処理することも可能であり、遺伝子検査の分野においても広く利用することができる。また、前記増幅断片は、RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含むものとして生成させることができ、これにより、増幅断片から直接RNAを合成することが可能となる。このようにして合成されたRNAは、RNAプローブ、siRNA等として使用することもできる。
さらに、本発明による核酸増幅法においては、通常のdNTPの代わりに、ビオチンや蛍光物質で標識された塩基を基質として使用することができ、これにより、ビオチンや蛍光物質で標識されたDNAプローブを調製することも可能である。さらには、それらビオチンや標識物質などの何らかの構造を介して増幅産物の有無を確認することも可能である。
本発明によるプライマーセットに含まれるプライマーは、制限酵素認識部位を含むものとすることができ、これにより、核酸増幅の効率を向上させることが可能となる。すなわち、プライマー内の制限酵素認識部位に対応する制限酵素により増幅産物中にニックが生じるため、このニックを合成起点として鎖置換型の相補鎖合成反応を生じさせることが可能になる。この方法は、基本的には先行技術として記載したSDA法の原理に基づくが、本発明においては、鋳型となる核酸が、図3(m)および(o)に示すように、相互に相補的な核酸を交互に連結した構造となっている点において異なっている。この方法では、ニックを入れるリバースプライマーの相補鎖となる部分には、制限酵素による2本鎖の切断が生じないよう、ヌクレアーゼ耐性となるようにdNTP誘導体が取りこまれるように設計する必要がある。
また、本発明によるプライマーセットに含まれるプライマーは、RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含むものとすることができ、これにより、核酸増幅の効率を向上させることが可能となる。この方法は、基本的には先行技術として記載したNASBA法の原理に基づくが、本発明においては、図3(m)に示すような長鎖増幅産物からこのプロモーターを認識するRNAポリメラーゼによる転写が行われるため、転写産物である1本鎖RNAにプライマーが容易に結合することが可能となり、増幅効率を向上させることが可能となる。
さらに、本発明によるプライマーセットは、LAMP法またはSDA法において利用される「アウタープライマー」を含むものとすることができ、これにより、核酸増幅の効率を向上させることが可能となる。アウタープライマーとしては、鋳型核酸上において標的核酸配列の外側に位置する部分に相補鎖合成起点を提供しうるプライマーを用いることができる。
本発明による核酸増幅法により、DNAチップに固定するための一本鎖核酸、塩基配列決定のための一本鎖DNAプローブ、長鎖PCR法のためのメガプライマー等を簡便かつ迅速に作製することができる。また、本発明による核酸増幅法により、目的に応じて、標的核酸のセンス配列のみまたはアンチセンス配列のみを選択的に増幅することも可能である。
本発明による核酸増幅法により調製された一本鎖核酸は、DNAチップ上に固定するためのDNA断片として使用することができる。すなわち、本発明による核酸増幅法は、DNAチップ作製において固定化するためのDNA鎖を調製する方法にも応用が可能である。また、プライマーの5’末端をあらかじめDNAチップ上に固定しておき、そのチップ上で核酸増幅を行ない、DNAチップを作製することも可能である。また、その核酸増幅を行なう前に、あらかじめ増幅産物にハイブリダイズする蛍光標識プローブを反応液に添加しておくことにより、DNAチップ上で核酸増幅を行ないながら、リアルタイムに増幅産物を検出することが可能となる。
本発明によるプライマーセットを用いた核酸増幅反応を利用して、核酸試料中の核酸配列における変異の有無を判定することが可能である。この目的のためには、変異部位が前記配列(A)、前記配列(B)または前記配列(C)に含まれるようにプライマーセットを設計することができ、これにより、増幅産物の有無を確認することによって前記変異の有無を判定することが可能となる。従って、本発明によれば、核酸試料中の核酸配列における変異の有無を判定する方法であって、(a)核酸試料を用意する工程、(b)本発明によるプライマーセットであって、前記変異を有するか、または該変異を有さない核酸配列を標的核酸配列とし、該変異に係るヌクレオチド残基が配列(A)、配列(B)または配列(C)に含まれるように設計されたプライマーセットを用意する工程、および(c)前記核酸試料の存在下において、前記プライマーセットによる核酸増幅反応を行う工程、を含んでなる方法が提供される。
本発明による変異検出法では、目的とする変異を有する核酸配列を標的核酸配列として設計されたプライマーセットを用いる場合には、核酸増幅反応後における増幅産物の存在が該変異の存在を示し、増幅産物の不在または減少が該変異の不在を示す。一方で、目的とする変異を有さない核酸配列を標的核酸配列として設計されたプライマーセットを用いる場合には、核酸増幅反応後における増幅産物の存在が該変異の不在を示し、増幅産物の不在または減少が該変異の存在を示す。ここで、「増幅産物の減少」とは、得られた増幅産物の量が、核酸試料中に標的核酸配列が存在する場合に得られる増幅産物の量に比較して減少していることを意味する。
本発明において「変異」とは、核酸配列中に対照核酸配列とは異なる塩基(二本鎖核酸の場合には塩基対)が存在することを意味する。また、本発明において「対照核酸」とは、ある特定の塩基配列に関して、標準的な塩基配列、例えば標準的な遺伝子型、であるとされる野生型(wild type。正常型(normal type)とも称される。)の配列を有する核酸をいう。これに対し、「被検核酸」とは、本発明による変異検出法において、対照核酸と異なる塩基(変異)を有するか否かを調べる対象となる核酸を意味し、換言すれば、核酸試料中に存在する核酸であって、変異に係る塩基を除いて対照核酸と同一の配列を有するものを意味する。さらに、本発明において「変異に係る塩基」または「変異に係るヌクレオチド残基」とは、核酸中における変異の部位に存在する塩基またはヌクレオチド残基を意味し、従って、対照核酸の変異部位に含まれる塩基またはヌクレオチド残基および変異型の核酸の変異部位に含まれる塩基またはヌクレオチド残基のどちらをも意味する。例えば、遺伝子病が疑われる患者の遺伝子における変異を検出する場合において、変異を有することが疑われる患者の遺伝子は被検核酸であり、この遺伝子に対応する健常者の遺伝子は対照核酸である。
上記の被検核酸および対照核酸は、天然物由来の核酸であっても、人工的に合成された核酸であってもよい。本発明において用いられる「核酸」という用語は、任意の未修飾ヌクレオチドおよび/または修飾ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを意味する。被検核酸および対照核酸は、典型的には、cDNA、ゲノムDNA、合成DNAなどのDNA、またはmRNA、全RNA、hnRNA、siRNA、合成RNAなどのRNAである。また、本発明において用いられる「ポリヌクレオチド」という用語は、便宜的に、ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド、並びにペプチド核酸、モルホリノ核酸、メチルフォスフォネート核酸、S-オリゴ核酸などの人工合成核酸をも含むものとする。被検核酸および対照核酸は、試験実施者が自由に選択することができる。さらに、検出を行う際には、これらの核酸が混在していてもよい。
本発明の一つの実施態様によれば、本発明による変異検出法の工程(b)において、変異に係るヌクレオチド残基が前記配列(A)に含まれるように設計されたプライマーセットが用意される。この実施態様では、核酸試料中に標的核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において第一のプライマーが配列(A)にアニーリングするため、増幅産物が得られる。核酸試料中に、変異部位において標的核酸配列とは異なる核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において第一のプライマーが配列(A)にアニーリングすることが困難となるため、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。変異に係るヌクレオチド残基は、好ましくは前記配列(A)の5’末端(第一のプライマーにおける3’末端に対応する)に含まれるものとされる。また、第一のプライマーに含まれる配列(Ac')は、前記配列(A)に相補的な配列とすることが好ましい。
本発明の他の実施態様によれば、本発明による変異検出法の工程(b)において、変異に係るヌクレオチド残基が前記配列(C)に含まれるように設計されたプライマーセットが用意される。この実施態様では、核酸試料中に標的核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において第二のプライマーが配列(C)にアニーリングするため、増幅産物が得られる。核酸試料中に、変異部位において標的核酸配列とは異なる核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において第二のプライマーが配列(C)にアニーリングすることが困難となるため、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。変異に係るヌクレオチド残基は、好ましくは前記配列(C)の5’末端(第二のプライマーにおける3’末端に対応する)に含まれるものとされる。また、第二のプライマーに含まれる配列(Cc')は、前記配列(C)に相補的な配列とすることが好ましい。
本発明の他の実施態様によれば、本発明による変異検出法の工程(b)において、変異に係るヌクレオチド残基が前記配列(B)に含まれるように設計されたプライマーセットが用意される。この実施態様では、核酸試料中に標的核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において、第一のプライマーが配列(A)にアニーリングして伸長反応が行なわれた後に該プライマーに含まれる配列(B')が伸長鎖上の配列(Bc)にハイブリダイズするため、ステム−ループ構造が効率的に形成される。この効率的なステム−ループ構造の形成により、他の第一のプライマーが鋳型にアニーリングすることが可能となり、図1に示される作用機序が効率的に進行するため、増幅産物が得られる。一方で、核酸試料中に、変異部位において標的核酸配列とは異なる核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応における上記ステム−ループ構造の形成が困難となるため、図1に示される作用機序が妨げられ、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。また、第一のプライマーに含まれる配列(B')は、前記配列(B)と同一の配列とすることが好ましい。
上述の配列(B)における変異の検出について、さらに詳細に説明する。図1に示す作用機序において、配列(B')が配列(Bc)にハイブリダイズする現象は、同一鎖上に相補領域が存在することにより起こる。一般に、二本鎖核酸が一本鎖に解離するときは、その末端あるいはそれ以外の比較的不安定な部分から部分的な解離が始まる。第一のプライマーによる伸長反応によって生成した二本鎖核酸は、比較的高温では末端部分の塩基対は解離と結合の平衡状態にあり、全体としては二本鎖を保っている。そのような状態で末端の解離した部分に相補的な配列が同一鎖上に存在すると、準安定な状態としてステム−ループ構造を形成することができる。しかし、このステム−ループ構造は安定的には存在せず、特に、そのステムを形成する配列(B')と配列(Bc)部分との間に相補的でないヌクレオチドが存在する場合には、非常に不安定となり、あるいは、ステムが全く形成されない。この場合には、鋳型上の配列(A)とプライマー中の配列(Ac')とのハイブリダイゼーションの方が優位となり、配列(A)の部分が一本鎖とならないため、次の第一のプライマーがアニーリングできなくなる。そのため、図1に示される連続した反応を起こすことが極めて困難となる。
被検核酸を含む核酸試料は、被検体、例えばヒトまたは非ヒト動物から取得することができる。その場合には、該被検体からの所望の組織、臓器および細胞などのサンプルから当技術分野において公知の方法により核酸を抽出することができ、必要に応じて、抽出の後に核酸断片の大きさおよび精製純度などの条件を適度な状態に調整することもできる。その後、さらに、一般的なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などによる増幅反応を行うことにより、核酸試料中の被検核酸を増幅してもよい。
被検核酸および対照核酸は、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。本発明において用いられる「二本鎖核酸」という用語は、二本鎖DNA、二本鎖RNA、およびDNA/RNAのいずれをも意味する。二本鎖核酸は、そのまま核酸試料として用いてもよいし、ファージまたはプラスミドなどのベクターで増幅されたものを用いてもよい。
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明による変異検出法における核酸増幅反応は、ミスマッチ認識タンパク質の存在下で行なわれ、これにより、より正確に変異を検出することが可能となる。
DNAの2本鎖において部分的に対合できない(ミスマッチ)塩基対が生じたときに、細菌や酵母等には、これを修復するための機構があることが既に知られている。この修復は「ミスマッチ結合タンパク質」(「ミスマッチ認識タンパク質」とも称される)と呼ばれるタンパク質によって行なわれるものであり、MutSタンパク質(特表平9−504699号公報)、MutMタンパク質(特開2000−300265号公報)、GFP(Green Fluorescence Protein)に結合したMutSタンパク質(国際公開第99/06591号パンフレット)などの様々なミスマッチ結合タンパクの使用が報告されている。さらに、近年、ミスマッチ結合タンパク質を利用してミスマッチを検出する遺伝子診断法が開発されている(M. Gotoh et al., Genet. Anal., 14, 47-50, 1997)。核酸中における特定のヌクレオチドにおける多型および突然変異の検出法としては、例えば、変異のない対照核酸と、変異が存在することが疑われる被検核酸とをハイブリダイズさせ、そこにミスマッチ認識タンパク質を導入することによりミスマッチを検出する方法が知られている。
本発明において「ミスマッチ」とは、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、およびチミン(T)(RNAの場合はウラシル(U))から選択される一組の塩基対が正常な塩基対(AとTの組み合わせ、またはGとCの組み合わせ)ではないことを意味する。ミスマッチには、1つのミスマッチのみならず、複数の連続したミスマッチ、1または複数の塩基の挿入および/または欠失により生じるミスマッチ、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。
本発明による変異検出法においても、これらのミスマッチ結合タンパク質を利用することにより、その特異性(正確さ)を向上させることができる。本発明による変異検出法では、核酸試料に含まれる被検核酸が、変異部位において標的核酸配列と異なるヌクレオチドを有する場合には、第一のプライマーに含まれる配列(Ac')もしくは第二のプライマーに含まれる配列(Cc')の被検核酸へのハイブリダイゼーションが妨げられるか、または第一のプライマーに含まれる配列(B')によるステム−ループ構造の形成が妨げられるため、増幅産物が得られないか、または増幅産物の量が減少することとなる。しかしながら、これらのハイブリダイゼーションまたはステム−ループ構造の形成が完全には妨げられない場合もあり、その場合には、これらの配列において少量のヘテロ二本鎖構造が生ずる。本発明において「ヘテロ二本鎖構造」とは、実質的には相補的な二本鎖構造であるが、1または複数のミスマッチを有することにより非相補的な領域を含む二本鎖構造を意味する。このようなヘテロ二本鎖構造により、本来的には生成しないはずの誤った増幅産物がもたらされる。そこで、核酸増幅反応に用いられる反応液中にミスマッチ結合タンパク質を添加しておけば、上記のようなヘテロ二本鎖構造にこのミスマッチ結合タンパク質が結合し、その後の増幅反応が妨げられる。従って、ミスマッチ結合タンパク質を利用することにより、誤った増幅産物の生成を防ぐことが可能となる。
本発明に用いられるミスマッチ結合タンパク質は、二本鎖核酸におけるミスマッチを認識し、そのミスマッチの部位に結合することが可能なタンパク質であればよく、例えば、当業者に公知のいずれのものであってもよい。また、本発明に用いられるミスマッチ結合タンパク質は、二本鎖核酸中のミスマッチを認識しうる限り、野生型タンパク質のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質(変異体)であってもよい。このような変異体は、自然界において生じることもあるが、人為的に作製することも可能である。タンパク質にアミノ酸変異を導入する方法としては、多くの方法が知られている。例えば、部位特異的変異導入法としては、 W.P. DengとJ.A. Nickoloffの方法(Anal. Biochem., 200, 81, 1992)、K.L. MakamayeとF. Ecksteinの方法(Nucleic Adids Res., 14, 9679-9698, 1986)などが知られており、ランダム変異導入法としては、基本的な修復系を欠損した大腸菌 XL1-Red 株(Stratagene社)を用いる方法、亜硝酸ナトリウム等を用いて化学的に塩基を修飾する方法(J.-J. Diaz et al., BioTechnique, 11, 204-211, 1991)などが知られている。このようなミスマッチ結合タンパク質としては、MutM、MutSおよびそれらの類似体など、多くのものが知られている(Radman,M.et al.,Annu.Rev.Genet.20:523-538(1986);Radaman,M.etal.,Sci.Amer.,August 1988,pp40-46;Modrich,P.,J.Biol.Chem.264:6597-6600(1989); Lahue,R.S. et al.,Science 245:160-164(1988);Jiricny,J.et al,.Nucl.Acids Res.16:7843-7853(1988);Su,S.S.et al.,J.Biol.Chem.263;6829-6835(1988);Lahue,R.S.et al.,Mutat.Res.198:37-43(1988);Dohet,C.et al.,Mol.Gen.Gent.206:181-184(1987); Jones,M.et al.,Gentics 115:605-610(1987); Salmonella typhimuriumのMuts(Lu,A.L.,Genetics 118:593-600(1988);HaberL.T. et al.,J.Bacteriol.170:197-202(1988);Pang,P.P.et al.,J.Bacteriol.163:1007-1015(1985));およびPriebe S.D.et al.,J.Bacterilo.170:190-196(1988))。本発明に用いられるミスマッチ結合タンパク質は、好ましくはMutS、MutH、MutL、または酵母に由来するものとされ、より好ましくはMutS、MutH、またはMutLとされる。
ミスマッチ結合タンパク質は、一本鎖核酸にも結合することがあり、このようなミスマッチ結合タンパク質の一本鎖核酸への結合は、一本鎖結合タンパク質により阻害されることが知られている。従って、本発明による変異検出法においてミスマッチ結合タンパク質を用いる場合には、一本鎖結合タンパク質を併用することが好ましい。また、ミスマッチ結合タンパク質は、ミスマッチを含まない二本鎖核酸にも結合することがあり、このようなミスマッチ結合タンパク質の誤った結合は、あらかじめ活性剤を用いてミスマッチ結合タンパク質を活性化しておくことにより阻害されることが知られている。従って、本発明による変異検出法においてミスマッチ結合タンパク質を用いる場合には、活性剤によりあらかじめ活性化されたものを用いることが好ましい。
一本鎖核酸にミスマッチ結合タンパク質が結合するのを阻害するために使用する一本鎖結合タンパク質(SSB)は、当技術分野において公知の任意のSSBとすることができる。好ましいSSBとしては、エシェリキア・コリ、ショウジョウバエ、およびアフリカツメガエルに由来する一本鎖結合タンパク質、およびT4バクテリオファージ由来の遺伝子32タンパク質、ならびに他の種に由来するこれらの相当物が挙げられる。この場合に使用されるミスマッチ結合タンパク質としては、MutS、MutH、MutL、HexA、MSH1〜6、Rep3、RNaseA、ウラシル−DNAグリコシダーゼ、T4エンドヌクレアーゼVII、レゾルバーゼなどが挙げられ、好ましくはMutS、MSH2もしくはMSH6、またはこれらの2種以上の混合物とされ、より好ましくはMutSとされる。
ミスマッチ結合タンパク質を活性化するための活性剤は、当業者であれば適宜選択することができるため、特に限定されないが、好ましくは、ATP(アデノシン5'−三リン酸)、ADP(アデノシン5'−二リン酸)、ATP−γ−S(アデノシン5'−O−(3−チオ三リン酸))、AMP−PNP(アデノシン5'−[β,γ−イミド]三リン酸)などの化合物とされ、あるいは、ミスマッチ結合タンパク質に結合できるヌクレオチドの一つとされる。ミスマッチ結合タンパク質の活性化は、ミスマッチ結合タンパク質と活性剤とを、室温で数秒間から数分間インキュベートすることにより行うことができる。
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明による変異検出法は、遺伝子病の罹病が疑われる被検体において特定の遺伝子が変異を有するか否かを調べるため、患者由来の遺伝子と健常者の遺伝子が同一の塩基配列を有するか否かを調べるために利用することができる。本発明による変異検出法においては、被検遺伝子のいかなる位置に存在する変異をも検出することが可能である。
さらに、本発明によるプライマーセットを用いた核酸増幅反応によれば、核酸試料中の核酸配列における配列の欠失または挿入の有無を判定することが可能である。この目的のためには、欠失または挿入に係る部位が、配列(A)、配列(B)もしくは配列(C)に含まれるか、または配列(A)と配列(B)との間もしくは配列(A)と配列(C)との間に配置されるようにプライマーセットを設計することができ、これにより、増幅産物の有無を確認することによって配列の欠失または挿入の有無を判定することが可能となる。従って、本発明によれば、核酸試料中の核酸配列における配列の欠失または挿入の有無を判定する方法であって、(a)核酸試料を用意する工程、(b)本発明によるプライマーセットであって、欠失または挿入に係る配列を含むか、または該配列を含まない核酸配列を標的核酸配列とし、欠失または挿入に係る部位が、配列(A)、配列(B)もしくは配列(C)に含まれるか、または配列(A)と配列(B)との間もしくは配列(A)と配列(C)との間に配置されるように設計されたプライマーセットを用意する工程、および(c)前記核酸試料の存在下において、前記プライマーセットによる核酸増幅反応を行う工程、を含んでなる方法が提供される。
本発明による欠失/挿入判定法では、目的とする欠失または挿入に係る配列を有する核酸配列を標的核酸配列として設計されたプライマーセットを用いる場合には、核酸増幅反応後における増幅産物の存在が欠失または挿入に係る配列の存在を示し、増幅産物の不在または減少が欠失または挿入に係る配列の不在を示す。一方で、目的とする欠失または挿入に係る配列を有さない核酸配列を標的核酸配列として設計されたプライマーセットを用いる場合には、核酸増幅反応後における増幅産物の存在が欠失または挿入に係る配列の不在を示し、増幅産物の不在または減少が欠失または挿入に係る配列の存在を示す。ここで、「増幅産物の減少」とは、得られた増幅産物の量が、核酸試料中に標的核酸配列が存在する場合に得られる増幅産物の量に比較して減少していることを意味する。
本発明の一つの実施態様によれば、本発明による欠失/挿入判定法の工程(b)において、欠失または挿入に係る部位が前記配列(A)に含まれるように設計されたプライマーセットが用意される。この実施態様では、核酸試料中に標的核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において第一のプライマーが配列(A)にアニーリングするため、増幅産物が得られる。核酸試料中に、欠失/挿入により標的核酸配列とは異なる核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において第一のプライマーが配列(A)にアニーリングすることが困難となるため、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。第一のプライマーに含まれる配列(Ac')は、前記配列(A)に相補的な配列とすることが好ましい。
本発明の他の実施態様によれば、本発明による欠失/挿入判定法の工程(b)において、欠失または挿入に係る部位が前記配列(C)に含まれるように設計されたプライマーセットが用意される。この実施態様では、核酸試料中に標的核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において第二のプライマーが配列(C)にアニーリングするため、増幅産物が得られる。核酸試料中に、欠失/挿入により標的核酸配列とは異なる核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において第二のプライマーが配列(C)にアニーリングすることが困難となるため、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。第二のプライマーに含まれる配列(Cc')は、前記配列(C)に相補的な配列とすることが好ましい。
本発明の他の実施態様によれば、本発明による欠失/挿入判定法の工程(b)において、欠失または挿入に係る部位が前記配列(B)に含まれるように設計されたプライマーセットが用意される。この実施態様では、核酸試料中に標的核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において、第一のプライマーが配列(A)にアニーリングして伸長反応が行なわれた後に該プライマーに含まれる配列(B')が伸長鎖上の配列(Bc)にハイブリダイズするため、ステム−ループ構造が効率的に形成される。この効率的なステム−ループ構造の形成により、他の第一のプライマーが鋳型にアニーリングすることが可能となり、図1に示される作用機序が効率的に進行するため、増幅産物が得られる。一方で、核酸試料中に、欠失/挿入により標的核酸配列とは異なる核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応における上記ステム−ループ構造の形成が困難となるため、図1に示される作用機序が妨げられ、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。その詳細は、本発明による変異検出法について上述したとおりである。また、第一のプライマーに含まれる配列(B')は、前記配列(B)と同一の配列とすることが好ましい。
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明による欠失/挿入判定法の工程(b)において、欠失または挿入に係る部位が前記配列(A)と前記配列(B)との間に配置されるように設計されたプライマーセットが用意される。この実施態様では、核酸試料中に標的核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において、第一のプライマーが配列(A)にアニーリングして伸長反応が行なわれた後に該プライマーに含まれる配列(B')が伸長鎖上の配列(Bc)にハイブリダイズするため、ステム−ループ構造が効率的に形成される。この効率的なステム−ループ構造の形成により、他の第一のプライマーが鋳型にアニーリングすることが可能となり、図1に示される作用機序が効率的に進行するため、増幅産物が得られる。一方で、核酸試料中に、欠失/挿入により標的核酸配列とは異なる核酸配列が含まれている場合には、第一のプライマーに含まれる配列(B')と伸長鎖上の配列(Bc)とが適切な距離を維持していないため、核酸増幅反応における上記ステム−ループ構造の形成が困難となる。従って、この場合には、図1に示される作用機序が妨げられ、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。
本発明の他の実施態様によれば、本発明による欠失/挿入判定法の工程(b)において、欠失または挿入に係る部位が前記配列(A)と前記配列(C)との間に配置されるように設計されたプライマーセットが用意される。この実施態様では、核酸試料中に標的核酸配列が含まれている場合には、核酸増幅反応において、第一のプライマーが配列(A)にアニーリングして伸長反応が行なわれた後に該プライマーに含まれる配列(B')が伸長鎖上の配列(Bc)にハイブリダイズするため、ステム−ループ構造が効率的に形成される。この効率的なステム−ループ構造の形成により、他の第一のプライマーが鋳型にアニーリングすることが可能となり、図1に示される作用機序が効率的に進行するため、増幅産物が得られる。一方で、核酸試料中に、欠失/挿入により標的核酸配列とは異なる核酸配列が含まれている場合には、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。例えば、配列(A)と配列(C)との間における長い配列の挿入により標的核酸配列とは異なる核酸配列が核酸試料中に含まれている場合には、核酸増幅の速度(効率)が著しく低減されるため、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。また、配列(A)と配列(C)との間における配列の欠失により標的核酸配列とは異なる核酸配列が核酸試料中に含まれており、かつこの欠失により配列(B)の一部または全部が失われている場合には、第一のプライマーに含まれる配列(B')が伸長鎖上にハイブリダイズできないため、ステム−ループ構造の形成が不可能となるか、または困難となるため、図1に示される作用機序が妨げられ、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。さらに、配列(A)と配列(C)との間における配列の欠失により標的核酸配列とは異なる核酸配列が核酸試料中に含まれており、かつこの欠失による配列(B)の部分的欠失が生じない場合にも、核酸増幅の速度(効率)が低減されるため、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。
本発明による欠失/挿入判定法では、DNAおよびRNAのいずれをも標的核酸配列とすることができる。RNAとしては、例えば、mRNA、スプライスドRNA、アンスプライスドRNA等が挙げられ、また、核、細胞質などに存在するRNA、感染したウイルス、細菌などに由来するRNA等、生体から取得することのできる全ての種類のRNAが挙げられる。DNAとしては、天然に存在するDNAのみならず、人工的に組み換えられたDNA配列を挙げることもできる。現在、様々な遺伝子または核酸断片の配列を組み換えることが可能となっており、本発明による欠失/挿入判定法によれば、天然には存在しない組換え配列を検出することも可能である。
本発明の好ましい実施態様によれば、上記の欠失または挿入に係る配列は、真核生物のゲノム上の遺伝子に含まれるイントロン配列とされる。これにより、mRNAおよびゲノムDNAをともに含む核酸試料を用いた場合に、標的とする遺伝子の配列中にイントロンが存在するか否かを判定することができ、その結果、イントロンが存在しないと判定された場合には、標的とする遺伝子のmRNAが存在するものと、すなわち、標的とする遺伝子が発現しているものと判定することができる。本発明のさらに好ましい実施態様によれば、前記標的核酸配列はmRNAとされる。
標的とする遺伝子のmRNA(イントロンの欠失を有する)を標的核酸配列とし、イントロン配列の欠失に係る部位が前記配列(A)と前記配列(B)との間に配置されるように設計されたプライマーセットを用いる実施態様について詳述する。この実施態様では、まず、第一のプライマーの3’末端に存在する配列(Ac')が鋳型にアニールして伸長反応が起こり、さらに、該プライマーからの伸長反応産物が目的の領域を合成していた場合にのみ、該プライマーの5’末端に存在する配列(B')が自己伸長産物上の隣のエクソンに対応する配列(Bc)にハイブリダイズすることが可能となる。すなわち、伸長反応産物が二つのエクソンを順番通りに連結させた配列を有するmRNAの目的領域を合成したときにはじめて図1に示されるステム−ループ構造が形成され、一本鎖となった鋳型上の配列(A)に新たな第一のプライマーがアニーリングすることが可能となる。この第一のプライマーの5’末端部分によるステム−ループ構造の形成は、上述のように、鋳型上の配列(A)と配列(B)が適切な間隔で存在するときに効率良く繰り返されるため、イントロン配列を含まないmRNAを鋳型にする時のみ増幅が起き、イントロン配列を含むようなゲノムDNAでは増幅は起きないこととなる。この反応を等温で繰り返すことによって正確に目的核酸の増幅を行うことができ、また、このステム−ループ構造の形成がサイクルごとに正確に繰り返されるため、目的核酸のみを正確に増幅することが可能となる。また、PCR法などでは、多くの場合、非特異的な増幅が起こり、目的とするmRNAのみを増幅し、これを定量することは非常に困難であったが、本発明による欠失/挿入判定法は非常に特異性が高いために、非特異増幅を起こすことなく、標的とするmRNAのみを特異的に増幅することができるので、その定量性も向上する。また、この原理により、煩雑で時間のかかるDNase処理などを行い、検体中のDNAを壊してRNAを獲得する工程を省略することが可能となり、mRNAの自然崩壊を減らすことができ、より迅速な定性または定量の診断が行えるようになる。
本発明による核酸増幅法、変異検出法、または欠失/挿入判定法を実施するために、必要な試薬をまとめてキットとすることができる。従って、本発明によるキットは、本発明によるプライマーセットを含んでなる。また、本発明による核酸増幅法、変異検出法、または欠失/挿入判定法は、本発明によるプライマーセット以外のプライマーを必要としないという利点を有する。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、本発明によるキットは、本発明によるプライマーセット以外のプライマー成分を含まないものとされる。さらに、本発明によるプライマーセットに含まれる少なくとも1種のプライマーが固相担体と結合可能な部位を含む場合には、本発明によるキットは該固相担体をさらに含んでなることが好ましい。また、核酸増幅反応に用いられる基質が固相担体と結合可能な部位を含む場合にも、本発明によるキットは該固相担体をさらに含んでなることが好ましい。本発明によるキットはさらに、DNAポリメラーゼ、dNTP、緩衝液などの上述の試薬類、反応容器、説明書等を含んでいてもよい。
本発明の好ましい実施態様によれば、前記キットは、本発明によるプライマーセットおよび核酸増幅反応に必要とされる他の試薬類を含有する反応容器を含んでなるものとされる。他の試薬類としては、DNAポリメラーゼ、dNTP、緩衝液などの上述の試薬類が挙げられる。このようなキットを用いることにより、前記反応容器に鋳型核酸または核酸試料を添加し、該反応容器を一定の温度に保つだけで核酸増幅反応を行なうことが可能となる。さらには、プライマーセットに含まれる少なくとも1種のプライマーが固相担体を含んでいる場合には、増幅産物が生成すると同時に該固相担体が凝集するため、透明または半透明の反応容器を用いることによりこの凝集を反応容器の外部から観察することが可能である。従って、この場合には、反応容器の開封をすることなく増幅産物を検出することができるため、操作が簡便であり、さらには他のサンプルとの間での核酸増幅物のコンタミネーションを防止することもできる。
本発明の第二の態様によれば、ミスマッチ結合タンパク質などのミスマッチ識別能を有する物質の存在下において、鋳型における変異の存在または不存在のいずれかによって鋳型とのミスマッチを生じる核酸試薬を用いた核酸増幅反応を行なうことにより、核酸試料中の核酸配列における変異の有無を判定する方法が提供される。この態様において用いられる「変異」という用語は、1以上のヌクレオチドの置換、欠失および挿入のいずれをも包含する。
本明細書において「ミスマッチ識別能を有する物質」とは、二本鎖核酸中にミスマッチが含まれている場合に、そのミスマッチ部位に結合するか、またはこの部位を切断する物質をいう。プライマーとDNAポリメラーゼを用いる核酸増幅反応において、鋳型における標的核酸配列上にミスマッチ識別能を有する物質が結合した二本鎖部分が存在すると、プライマーからの伸長鎖がその部分に到達してもその二本鎖構造が解消されないため、プライマー伸長反応がそこで停止し、従って、増幅産物が得られない。また、核酸増幅反応において、鋳型における標的核酸配列が切断された場合にも、増幅産物が得られない。ミスマッチ識別能を有する物質は、好ましくはミスマッチ部分に結合する物質とされ、これは有機化合物、無機化合物もしくはタンパク質、またはこれらの複合体であってもよいが、特に好ましくは、ミスマッチ部分に結合するミスマッチ結合タンパク質とされる。ミスマッチ結合タンパク質の詳細については上述したとおりであるが、好ましくはMutS、MSH2もしくはMSH6、またはこれらの2種以上の混合物とされ、より好ましくはMutSとされる(J Smith and P Modrich, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 93, 4374-4379, 1996;Au KG, Welsh K, Modrich P., J. Biol. Chem. 267, 12142-12148, 1992;Alan B. Clark, Frank Valle, Karin Drotschmann, Ronald K. Gary, and Thomas A. Kunkel, J. Biol. Chem. 275, 36498-36501, 2000)。また、ミスマッチ結合タンパク質は、その起源生物によって耐熱性に差が見られる。当業者であれば、核酸増幅反応において設定される温度に応じて適切なミスマッチ結合タンパク質を選択することができる。例えば、好温菌由来のMutSは、本発明において好適に用いることができる。
上記の核酸増幅反応は、当技術分野において公知のいずれの方法によるものであってもよく、また、本発明による核酸増幅法によるものであってもよい。特に、等温で行なわれる核酸増幅反応が好適に用いられ、このような核酸増幅反応は、上述の本発明による核酸増幅法のみならず、等温下での核酸増幅法として知られる方法、例えば、SDA法(特公平7−114718号公報(特許文献5))、改良SDA法(米国特許第5824517号明細書(特許文献8);国際公開第99/09211号パンフレット(特許文献9);国際公開第95/25180号パンフレット(特許文献10))、NASBA法(日本国特許第2650159号公報(特許文献6))、LAMP法(国際公開第00/28082号パンフレット(特許文献11))、ICAN法(国際公開第02/16639号パンフレット(特許文献12))などに従って行なうことができる。
一つの実施態様によれば、本発明の第二の態様による変異検出法は、以下の工程:
(a)核酸試料を用意する工程;
(b)変異に係る部位を含む標的核酸配列を増幅しうるプライマーセットであって、該プライマーセットに含まれる少なくとも1種のプライマーが、前記核酸試料中の核酸配列またはその相補配列にハイブリダイズしたときに、前記変異の存在または不存在によって前記核酸配列またはその相補配列との間で1以上のミスマッチを生じるように設計されたものである、プライマーセットを用意する工程;および
(c)ミスマッチ識別能を有する物質の存在下において、前記核酸試料を鋳型とする前記プライマーセットによる核酸増幅反応を行う工程
を含んでなるものである。
標的核酸配列を増幅しうる上記のプライマーセットは、利用する核酸増幅法に応じて適宜設計することができる。特に、該プライマーセットは標的核酸配列を等温下で増幅しうるものであることが好ましく、その場合には、核酸増幅反応は等温で行なうことができる。
上記の1以上のミスマッチは、1塩基のミスマッチ、連続した複数のミスマッチ、または非連続的な複数のミスマッチとすることができる。また、該ミスマッチの数の上限は、ハイブリダイズすべき2本の核酸が二本鎖の状態を維持しうる程度の数であればよく、従って、ハイブリダイゼーションにより対合するヌクレオチドの数によって異なるが、好ましくは5塩基、より好ましくは3塩基、さらに好ましくは2塩基とされる。
変異の存在または不存在によってミスマッチを生じる上記のプライマーは、検出の対象とする変異を有する標的核酸配列と該変異を有さない標的核酸配列とを比較することにより、当業者であれば適宜設計することができる。すなわち、これら2つの標的核酸配列の間で異なるヌクレオチドを含む領域にハイブリダイズするように、前記プライマーを設計すればよい。その際、前記プライマーは、変異を有する標的核酸配列に相補的な配列を含むように設計すれば、変異の不存在によってミスマッチを生じるものとなり、一方で、変異を有さない標的核酸配列に相補的な配列を含むように設計すれば、変異の存在によってミスマッチを生じるものとなる。
好ましい実施態様によれば、前記プライマーセットに含まれる第一のプライマーは、上述の本発明によるプライマーセットに含まれる第一のプライマーとされる。この第一のプライマーは、前記変異の存在または不存在によって、前記配列(A)と前記配列(Ac')との間で1以上のミスマッチを生じるように設計することができる。あるいは、この第一のプライマーは、前記変異の存在または不存在によって、前記配列(Bc)と前記配列(B')との間で1以上のミスマッチを生じるように設計することもできる。
他の好ましい実施態様によれば、前記プライマーセットに含まれる第二のプライマーは、上述の本発明によるプライマーセットに含まれる第二のプライマーとされる。この第二のプライマーは、前記変異の存在または不存在によって、前記配列(C)と前記配列(Cc')との間で1以上のミスマッチを生じるように設計することができる。
他の好ましい実施態様によれば、前記プライマーセットは、上述の本発明によるプライマーセットに含まれてもよい第三のプライマーをさらに含んでなるものとされる。この第三のプライマーは、前記核酸試料中の核酸配列またはその相補配列にハイブリダイズしたときに、前記変異の存在または不存在によって前記核酸配列またはその相補配列との間で1以上のミスマッチを生じるように設計することができる。
上記核酸増幅反応の他の条件は、本発明による核酸増幅法と同様に設定することができる。例えば、上記核酸増幅反応では、好ましくは上述の鎖置換能を有するポリメラーゼが使用される。また、必要に応じて、上述の融解温度調整剤、上述の酵素安定化剤などを用いてもよい。
この実施態様による変異検出法を行なった結果、変異の存在によりミスマッチを生じるプライマーを用いて増幅産物が得られた場合には核酸試料中に前記変異が存在しないものと判定することができ、逆に、増幅産物が得られなかった場合には前記変異が存在するものと判定することができる。一方で、変異の不存在によりミスマッチを生じるプライマーを用いて増幅産物が得られた場合には核酸試料中に前記変異が存在するものと判定することができ、逆に、増幅産物が得られなかった場合には前記変異が存在しないものと判定することができる。
この実施態様に従って本発明の第二の態様による変異検出法を実施するために、必要な試薬をまとめてキットとすることができる。従って、該キットは、前記ミスマッチ識別能を有する物質、および前記プライマーセットを含んでなる。また、該キットは、好ましくは上述の鎖置換能を有するポリメラーゼをさらに含んでなるものとされる。さらに、該キットは、上述の融解温度調整剤、上述の酵素安定化剤、dNTP、緩衝液などの上述の試薬類、反応容器、説明書等を含んでいてもよい。
他の一つの実施態様によれば、本発明の第二の態様による変異検出法は、以下の工程:
(a)核酸試料を用意する工程;
(b)変異に係る部位を含む標的核酸配列を増幅しうるプライマーセットを用意する工程;
(c)標的核酸配列にハイブリダイズする核酸断片であって、前記核酸試料中の核酸配列またはその相補配列にハイブリダイズしたときに、前記変異の存在または不存在によって前記核酸配列またはその相補配列との間で1以上のミスマッチを生じるように設計されてなる、核酸断片を用意する工程;および
(d)ミスマッチ識別能を有する物質および前記核酸断片の存在下において、前記核酸試料を鋳型とする前記プライマーセットによる核酸増幅反応を行う工程
を含んでなるものである。
上記の1以上のミスマッチは、1塩基のミスマッチ、連続した複数のミスマッチ、または非連続的な複数のミスマッチとすることができる。また、該ミスマッチの数の上限は、ハイブリダイズすべき2本の核酸が二本鎖の状態を維持しうる程度の数であればよく、従って、ハイブリダイゼーションにより対合するヌクレオチドの数によって異なるが、好ましくは5塩基、より好ましくは3塩基、さらに好ましくは2塩基とされる。
変異の存在または不存在によってミスマッチを生じる上記核酸断片は、検出の対象とする変異を有する標的核酸配列と該変異を有さない標的核酸配列とを比較することにより、当業者であれば適宜設計することができる。すなわち、これら2つの標的核酸配列の間で異なるヌクレオチドを含む領域にハイブリダイズするように、前記核酸断片を設計すればよい。その際、前記核酸断片は、変異を有する標的核酸配列に相補的な配列を含むように設計すれば、変異の不存在によってミスマッチを生じるものとなり、一方で、変異を有さない標的核酸配列に相補的な配列を含むように設計すれば、変異の存在によってミスマッチを生じるものとなる。
また、上記核酸断片は、核酸増幅反応において用いられる温度、例えば、20℃〜80℃の範囲の温度において、標的核酸配列にハイブリダイズするものであればよい。該核酸断片の鎖長は特に制限されるものではないが、好ましくは5〜40ヌクレオチド、より好ましくは15〜25ヌクレオチドとされる。該核酸断片は、必要に応じて、修飾塩基(天然では存在しない塩基)を含むこともできる。また、該核酸断片は、その一方または両方の末端部において、標識、またはアミノ基などの活性基を含んでいてもよい。
標的核酸配列を増幅しうる上記のプライマーセットは、利用する核酸増幅法に応じて適宜設計することができる。特に、該プライマーセットは標的核酸配列を等温下で増幅しうるものであることが好ましく、その場合には、核酸増幅反応は等温で行なうことができる。
好ましい実施態様によれば、前記プライマーセットに含まれる第一のプライマーは、上述の本発明によるプライマーセットに含まれる第一のプライマーとされる。他の好ましい実施態様によれば、前記プライマーセットに含まれる第二のプライマーは、上述の本発明によるプライマーセットに含まれる第二のプライマーとされる。さらに他の好ましい実施態様によれば、前記プライマーセットは、上述の本発明によるプライマーセットに含まれてもよい第三のプライマーをさらに含んでなるものとされる。
上記核酸増幅反応の他の条件は、本発明による核酸増幅法と同様に設定することができる。例えば、上記核酸増幅反応では、好ましくは上述の鎖置換能を有するポリメラーゼが使用される。また、必要に応じて、上述の融解温度調整剤、上述の酵素安定化剤などを用いてもよい。
この実施態様による変異検出法を行なった結果、変異の存在によりミスマッチを生じる核酸断片を用いて増幅産物が得られた場合には核酸試料中に前記変異が存在しないものと判定することができ、逆に、増幅産物が得られなかった場合には前記変異が存在するものと判定することができる。一方で、変異の不存在によりミスマッチを生じる核酸断片を用いて増幅産物が得られた場合には核酸試料中に前記変異が存在するものと判定することができ、逆に、増幅産物が得られなかった場合には前記変異が存在しないものと判定することができる。
この実施態様に従って本発明の第二の態様による変異検出法を実施するために、必要な試薬をまとめてキットとすることができる。従って、該キットは、前記ミスマッチ識別能を有する物質、前記プライマーセット、および前記核酸断片を含んでなる。また、該キットは、好ましくは上述の鎖置換能を有するポリメラーゼをさらに含んでなるものとされる。さらに、該キットは、上述の融解温度調整剤、上述の酵素安定化剤、dNTP、緩衝液などの上述の試薬類、反応容器、説明書等を含んでいてもよい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
例1:ヒトSTS DYS237遺伝子中の標的核酸配列の増幅
本例では、鋳型としてHuman Genomic DNA(Clontech社製)を使用して、その中に含まれるヒトSTS DYS237遺伝子中の標的核酸配列の増幅を行なった。プライマーとしては、下記の配列を有するプライマーペアを用いた。また、テンプレートに対する各プライマー領域の位置関係は図4(配列番号6)に示す通りとした。フォワードプライマーF1は、その3’末端側にある配列(22mer:下線部)が鋳型にアニーリングし、5’末端側にある配列(16mer:下線部以外)がその領域内で折り畳まれて図2に示す構造をとるように設計されている。リバースプライマーR1は、その3’末端側にある配列(20mer:下線部)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’末端側にある配列(10mer:下線部以外)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、該プライマーの3’末端残基の16塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするように設計されている。
プライマーペア:
F1:GGATATATATATATCCACTGAACAAATGCCACATAAAG(配列番号1);
R1:GCAGCATCACCAACCCAAAAGCACTGAGTA(配列番号2)。
次の組成を有する反応液(25μL):Tris−HCl(20mM,pH8.8)、KCl(10mM)、(NH4)2SO4(10mM)、MgSO4(8mM)、DMSO(3%)、Triton X−100(1%)、dNTP(1.4mM)、それぞれ2000nMの上記のプライマー対および鋳型(100ng)、さらに16UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)を含有;を調製し、これを60℃で1時間インキュベートした。鋳型は二本鎖のまま反応させた。また、鋳型の代わりに滅菌水を添加した溶液についても同様に実験を行なった。
各反応液5μlについて、3% NuSieve 3:1 Agarose(BioWhittaker Molecular Applications (BMA)社製;タカラバイオ社より購入;「NuSieve」はBMA社の登録商標である)を用いて、80分間、100Vで電気泳動した。泳動後のゲルをエチジウムブロマイド(EtBr)で染色することにより、核酸を検出した。結果は図5に示すとおりである。図5における各レーンのサンプルは次の通りである:レーン1:20bpDNA Ladder size marker;レーン2:鋳型を含む反応液;レーン3:鋳型の代わりに滅菌水を添加した反応液。
図5のレーン3では、未反応のプライマーが染色されている以外にバンドは確認されなかった。レーン2において、低サイズのバンドのうち、約120bp付近のバンドは、目的核酸の増幅産物として予想されるものである。よって、鋳型を含む反応液において、増幅産物が確認された。レーン2では、さらに、前記増幅産物よりも上部にバンドが確認され、これは、本発明による増幅反応において予測される標的核酸配列を繰り返し有する増幅産物である。本発明による増幅反応によって得られる増幅産物は複雑な構造をとるために、結果としてこのようなラダー状の電気泳動結果が得られた。
例2:制限酵素による切断
例1で得られた増幅産物が、標的核酸配列に由来するものであることを示すため、該増幅産物の制限酵素消化を行った。具体的には、例1により得られる増幅反応後の反応液0.3μLを用いて、制限酵素MboIIによる消化(37℃にて3時間)を行なった。
消化産物を3% NuSieve 3:1 Agarose(BioWhittaker Molecular Applications (BMA)社製;タカラバイオ社より購入;「NuSieve」はBMA社の登録商標である)を用いて電気泳動した。結果は図6に示すとおりである。図6における各レーンのサンプルは次の通りである:レーン1:20bpDNA Ladder size marker;レーン2:増幅産物0.3μLをそのまま電気泳動したもの;レーン3:増幅産物0.3μLの消化産物を電気泳動したもの。
図6において、ヌクレオチド配列から推測される各制限酵素消化断片のサイズは、泳動写真の右側に記したとおりである。未消化サンプルのバンドが、消化後には推定されるサイズのバンドへ移行したことから、標的核酸配列が増幅されていることが確認された。
例3:融解温度調整剤を添加する事による増幅反応の促進
増幅反応溶液に融解温度調整剤を添加し、増幅効率に対するその効果を検討した。例1と同様に、鋳型としてHuman DNA(Clontech社製)を使用してヒトSTS DYS237遺伝子中の標的核酸配列の増幅を行なった。増幅反応溶液の組成は、融解温度調整剤として最終濃度0%、2%、5%、または10%のDMSOを添加する以外は、例1と同様である。また、反応条件や反応後の電気泳動条件は、例1に記載したものと同様である。
結果は図7に示すとおりである。図7における各レーンのサンプルは次の通りである:レーン1:20bpDNA Ladder size marker;レーン2:0%DMSO(DMSOを含まない);レーン3:2%DMSO;レーン4:5%DMSO;レーン5:10%DMSO。
図7から明らかなように、DMSOの濃度が2%および5%の場合には十分な増幅産物が得られ、0%の場合にも僅かな増幅産物が得られた。これに対し、DMSOの濃度が10%の場合には増幅産物が得られなかった。これは、融解温度調整剤の濃度が高か過ぎたために、Tm(融解温度)が低下し過ぎたためと思われる。
例4:一塩基変異の検出
本例では、本発明によるプライマーセットを用いた一塩基変異の検出を行なった。まず、一塩基変異のモデルを作製するため、ヒトSTS DYS237遺伝子中の特定の領域において一塩基変異を含むような長鎖合成オリゴヌクレオチドと、一塩基変異を含まない長鎖合成オリゴヌクレオチドとを合成した。さらに、これら長鎖合成オリゴヌクレオチドをPCR法でそれぞれ増幅し、一塩基変異を含まない野生型DNAと一塩基変異を含む変異型DNAの増幅産物を得た。これら増幅産物を、配列決定して変異部分のヌクレオチド残基を確認した後、テンプレートとして以下の実験に使用した。これら増幅産物のヌクレオチド配列を図8(配列番号7および配列番号8)に示す。図8から明らかなように、野生型DNAではC残基である矢印の残基が、変異型DNAではG残基に置換されている。
プライマーとしては、下記の配列を有する野生型DNA検出用プライマーペアおよび変異型DNA検出用プライマーペアを用いた。野生型DNA検出用プライマーペアは、例1において使用したプライマーF1およびプライマーR1をそれぞれフォワードプライマーおよびリバースプライマーとするものである。変異型DNA検出用プライマーペアは、前記プライマーF1をフォワードプライマーとし、新たに設計したプライマーR1Gをリバースプライマーとするものである。プライマーR1Gは、5’末端から5番目にG残基を有することを除いて、プライマーR1と同一のヌクレオチド配列を有するものである。また、鋳型DNAに対する各プライマー領域の位置関係は図8に示す通りである。
野生型DNA検出用プライマーペア:
F1:GGATATATATATATCCACTGAACAAATGCCACATAAAG(配列番号1);
R1:GCAGCATCACCAACCCAAAAGCACTGAGTA(配列番号2)。
変異型DNA検出用プライマーペア:
F1:GGATATATATATATCCACTGAACAAATGCCACATAAAG(配列番号1);
R1G:GCAGGATCACCAACCCAAAAGCACTGAGTA(配列番号3)。
上記の野生型DNAまたは変異型DNAを鋳型とし、それぞれの場合について、野生型DNA検出用プライマーペアまたは変異型DNA検出用プライマーペアを用いた核酸増幅反応を行なった。具体的には、次の組成を有する反応液(25μL):Tris−HCl(20mM,pH8.8)、KCl(10mM)、(NH4)2SO4(10mM)、MgSO4(8mM)、DMSO(3%)、Triton X−100(1%)、dNTP(1.4mM)、それぞれ2000nMの上記のプライマー対および鋳型(10−19mol/tube(約60000分子))、さらに16UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)を含有;を調製し、これを60℃で1時間インキュベートした。鋳型は二本鎖のまま反応させた。
各反応液5μlについて、3% NuSieve 3:1 Agarose(BioWhittaker Molecular Applications (BMA)社製;タカラバイオ社より購入;「NuSieve」はBMA社の登録商標である)を用いて、80分間、100Vで電気泳動した。泳動後のゲルをエチジウムブロマイド(EtBr)で染色することにより、核酸を検出した。結果は図9に示すとおりである。図9における各レーンのサンプルは次の通りである:レーン1:20bpDNA Ladder size marker;レーン2:野生型DNAを鋳型とし、野生型DNA検出用プライマーペアを用いた反応液;レーン3:変異型DNAを鋳型とし、野生型DNA検出用プライマーペアを用いた反応液;レーン4:野生型DNAを鋳型とし、変異型DNA検出用プライマーペアを用いた反応液;レーン5:変異型DNAを鋳型とし、変異型DNA検出用プライマーペアを用いた反応液。
図9から明らかなように、レーン2およびレーン5では、増幅産物が得られた。これらのレーンにおいて、低サイズのバンドのうちの約120bp付近のバンドは、目的核酸の増幅産物として予想されるものである。これに対し、レーン3およびレーン4では、増幅産物が得られなかった。従って、野生型DNA検出用プライマーペアは野生型DNAのみを検出し、変異型DNA検出用プライマーペアは変異型DNAのみを検出することが確認された。この結果により、本発明による増幅反応を利用することによって、一塩基変異を効果的に検出することが可能であることが示された。
例5:第三のプライマー添加による増幅速度の促進
例1において使用したプライマーペアに加えて、第三のプライマーを使用する核酸増幅反応を行なった。第三のプライマーとしては、以下の配列を有する2種のプライマーを用いた。これら第三のプライマーは、前記プライマーペアにより増幅される標的核酸配列上の、該プライマーペアとは異なる位置にアニ−リングするように設計されている。テンプレートに対する各プライマー領域の位置関係は図10(配列番号6)に示す通りとした。
第三のプライマー:
プライマー3F:TAAGAACTCGCTTTATAC(配列番号4);
プライマー3R:TCTTCAACAGTCATTACC(配列番号5)。
例1と同様に、鋳型としてHuman DNA(Clontech社製)を使用してヒトSTS DYS237遺伝子中の標的核酸配列の増幅を行なった。増幅反応溶液の組成は、第三のプライマーとしてプライマー3F(800nM)およびプライマー3R(800nM)の一方または両方を含むこと以外は、例1と同様である。この反応溶液を、60℃で30分間または60分間インキュベートした。
各反応液5μlについて、3% NuSieve 3:1 Agarose(BioWhittaker Molecular Applications (BMA)社製;タカラバイオ社より購入;「NuSieve」はBMA社の登録商標である)を用いて、80分間、100Vで電気泳動した。泳動後のゲルをエチジウムブロマイド(EtBr)で染色することにより、核酸を検出した。結果は図11に示すとおりである。図11における各レーンのサンプルは、下記の表1に示す通りである。
図11に示す電気泳動写真において、低サイズのバンドのうちの約120bp付近のバンドは、目的核酸の増幅産物として予想されるものである。図11から明らかなように、1種類または2種類の第三のプライマーを添加したサンプルでは、30分間および60分間の反応により十分な増幅産物が得られた(レーン2〜4、およびレーン10〜12)。これに対し、第三のプライマーを添加していないサンプルでは、30分間の反応では増幅産物が得られず(レーン1)、60分間の反応により増幅産物が得られた(レーン9)。鋳型を添加していないサンプルでは、増幅産物は得られなかった(レーン5〜8、およびレーン13〜16)。これらの結果により、本発明による増幅反応において、第三のプライマーを添加することによって増幅効率が向上することが示された。
例6:鋳型濃度依存的増幅の確認
鋳型として100ng、10ng、1ng、または0ngのHuman Genomic DNA(Clontech社製)を含み、第三のプライマーとして800nMのプライマー3F(配列番号4)を含むことを除き、例1と同様に反応溶液を調製した。この反応溶液を、60℃で20分間、40分間、または60分間インキュベートした。
各反応液5μlについて、3% NuSieve 3:1 Agarose(BioWhittaker Molecular Applications (BMA)社製;タカラバイオ社より購入;「NuSieve」はBMA社の登録商標である)を用いて、80分間、100Vで電気泳動した。泳動後のゲルをエチジウムブロマイド(EtBr)で染色することにより、核酸を検出した。結果は図12に示すとおりである。図12における各レーンのサンプルは、下記の表2に示す通りである。
図12に示す電気泳動写真において、低サイズのバンドのうちの約120bp付近のバンドは、目的核酸の増幅産物として予想されるものである。図12から明らかなように、100ngの鋳型を添加した場合、20分以上の反応により増幅産物が得られた(レーン1、5、および9)。10ngの鋳型を添加した場合、40分以上の反応により増幅産物が得られた(レーン6および10)。1ngの鋳型を添加した場合、60分以上の反応により増幅産物が得られた(レーン11)。鋳型を添加しなかった場合には、全ての反応時間において増幅産物は得られなかった(レーン4、8、および12)。これらの結果により、反応時間を長くすることによって、鋳型が低濃度の場合においても増幅産物が得られることが確認された。
例7:ALDH2遺伝子の一塩基変異の検出におけるMutSの効果
本例では、鋳型としてHuman Genomic DNA(Clontech社製)を使用して、アルデヒドデヒドロゲナーゼ−2遺伝子(ALDH2遺伝子)のエクソン12中に存在する一塩基変異の検出を行なった。なお、鋳型とする上記DNAは、野生型ALDH2遺伝子を含むものである。
プライマーとしては、下記の配列を有するプライマーセットを用いた。また、テンプレートに対する各プライマー領域の位置関係は図13(配列番号9)に示す通りとした。フォワードプライマーALDH2Fは、その3’末端側にある配列(16mer:下線部)が鋳型にアニーリングし、5’末端側にある配列(16mer:下線部以外)がその領域内で折り畳まれて図2に示す構造をとるように設計されている。リバースプライマーALDH2Rは、その3’末端側にある配列(20mer:下線部)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’末端側にある配列(11mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、該プライマーの3’末端残基の18塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするように設計されている。プライマーALDH2OFおよびALDH2ORは、鋳型上のそれぞれALDH2FおよびALDH2Rよりも外側(5’側)にアニーリングするように設計されている。また、ALDH2SNPgおよびALDH2SNPaは、変異にかかるヌクレオチド残基(下線部)を含むプライマーである。ALDH2SNPgは野生型配列を含むものであり、ALDH2SNPaは変異型配列を含むものである。
使用したプライマーの配列:
ALDH2F:TTTATATATATATAAACCGGGAGTTGGGCGAG(配列番号10);
ALDH2R:CGAGTACGGGCCCACACTCACAGTTTTCAC(配列番号11);
ALDH2OF:ACAAGATGTCGGGGAGTG(配列番号12);
ALDH2OR:CCTGAGCCCCCAGCAGGT(配列番号13);
ALDH2SNPg:GCAGGCATACACTGA(配列番号14);
ALDH2SNPa:GCAGGCATACACTAA(配列番号15)。
次の組成を有する反応液(25μL):Tris−HCl(20mM,pH8.8)、KCl(10mM)、(NH4)2SO4(10mM)、MgSO4(6mM)、DMSO(6%)、Triton X−100(1%)、dNTP(0.4mM)、8UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)、SYBR GREEN I(Molecule Probe社)(最終的に100,000倍希釈となる濃度)、鋳型(40ng)、それぞれ3200nMのALDH2FおよびALDH2R、それぞれ400nMのALDH2OFおよびALDH2OR、ALDH2SNPg(野性型プライマー)とALDH2SNPa(変異型プライマー)のいずれか一方(1600nM)、ならびにMutS(0.8μg)を含有;を調製し、これを60℃で180分間インキュベートした。鋳型は二本鎖のまま反応させた。また、MutSを含まない反応液についても同様に実験を行なった。増幅産物の生成はリアルタイム蛍光検出装置Mx3000P(STRATAGENE社製)を用いてモニタリングした。
実験の結果を図14に示した。この実験では、変異を含まないヒトゲノムDNAを鋳型として使用しているため、上記の野生型プライマーを用いた場合には増幅産物が得られ、変異型プライマーを用いた場合には増幅産物が得られないはずである。図14によれば、野性型プライマーを用いた場合には、MutSの有無にかかわらず、約25分の時点で増幅産物の生成が認められることがわかる。一方で、変異型プライマーを用いた場合には、MutSの不在下では約35分の時点で増幅産物の生成が認められたのに対し、MutSの存在下では3時間反応させても増幅産物の生成は認められなかった。従って、MutSを用いることにより、正確なSNPタイピングが可能になることが示された。
例8:ヒトCYP2C19*3遺伝子の一塩基変異の検出におけるMutSの効果
本例では、鋳型としてHuman Genomic DNA(Clontech社製)を使用して、薬物代謝酵素チトクロムP450ファミリーのCYP2C19*3遺伝子のエクソン4中に存在する一塩基変異の検出を行なった。また、本例では、核酸増幅法としてLAMP法を用いた。なお、鋳型とする上記DNAは、野生型CYP2C19*3遺伝子を含むものである。
プライマーとしては、下記の配列を有するLAMP法用のプライマーセットを用いた。また、テンプレートに対する各プライマー領域の位置関係は図15(配列番号16)に示す通りとした。各インナープライマーに含まれるフォワードプライマーFWおよびFMは、その3’末端側にある配列(20mer:下線部)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’末端側にある配列(8mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、該プライマーの3’末端残基の29塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするように設計されている。また、各インナープライマーに含まれるリバースプライマーRWおよびRMは、その3’末端側にある配列(18mer:下線部)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’末端側にある配列(9mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、該プライマーの3’末端残基の36塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするように設計されている。これらの各インナープライマーの5’末端から2番目のヌクレオチド残基は、変異にかかるヌクレオチド残基に対応している。
野性型インナープライマー:
FW:TCCAGGGGTCTTAACTTGATGGAAAAAT(配列番号17);
RW:GGATCCAGGCCCAGAAAAAAAGACTGT(配列番号18)、
変異型インナープライマー:
FM:TTCAGGGGTCTTAACTTGATGGAAAAAT(配列番号19);
RM:GAATCCAGGCCCAGAAAAAAAGACTGT(配列番号20)、
アウタープライマー:
F3:TCCAGAAACGTTTCG(配列番号21);
R3:AGGGCTTGGTCAATAT(配列番号22)、
ループプライマー:
LoopF:GCTTACAATCCTGATGTT(配列番号23);
LoopR:GTAAGGCCAAGTTTTTTG(配列番号24)。
野性型インナープライマーを含む反応液として、次の組成を有する反応液(25μL):Tris−HCl(20mM,pH8.8)、KCl(10mM)、(NH4)2SO4(10mM)、MgSO4(4mM)、ベタイン(1M)、Tween20(0.1%)、dNTP(0.5mM)、8UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)、SYBR GREEN I(Molecule Probe社)(最終的に100,000倍希釈となる濃度)、鋳型(40ng)、それぞれ400nMのF3およびR3、それぞれ800nMのLoopFおよびLoopR、それぞれ1600nMのFWおよびRW、ならびにMutS(0.8μg)を含有;を調製した。
また、変異型インナープライマーを含む反応液として、次の組成を有する反応液(25μL):Tris−HCl(20mM,pH8.8)、KCl(10mM)、(NH4)2SO4(10mM)、MgSO4(4mM)、ベタイン(0.8M)、Tween20(0.1%)、dNTP(0.5mM)、8UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)、SYBR GREEN I(Molecule Probe社)(最終的に100,000倍希釈となる濃度)、鋳型(40ng)、それぞれ400nMのF3およびR3、それぞれ800nMのLoopFおよびLoopR、それぞれ1600nMのFMおよびRM、ならびにMutS(0.8μg)を含有;を調製した。
上述のそれぞれの反応液を、60℃で180分間インキュベートした。鋳型は二本鎖のまま反応させた。また、MutSを含まない反応液についても同様に実験を行なった。増幅産物の生成はリアルタイム蛍光検出装置Mx3000P(STRATAGENE社製)を用いてモニタリングした。
実験の結果を図16に示した。この実験では、変異を含まないヒトゲノムDNAを鋳型として使用しているため、上記の野生型インナープライマーを用いた場合には増幅産物が得られ、変異型インナープライマーを用いた場合には増幅産物が得られないはずである。図16によれば、野性型インナープライマーを用いた場合には、MutSの有無にかかわらず、約25分の時点で増幅産物の生成が認められることがわかる。一方で、変異型インナープライマーを用いた場合には、MutSの不在下では約40分の時点で増幅産物の生成が認められたのに対し、MutSの存在下では3時間反応させても増幅産物の生成は認められなかった。従って、MutSを用いることにより、正確なSNPタイピングが可能になることが示された。