JP2005102502A - 一本鎖目的核酸断片の増幅方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】遺伝子検査をより簡易かつ効率的に行うことができるようにするための核酸断片の増幅方法を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、複数種のプライマーを用いる核酸断片の増幅方法であって、一方の鎖とハイブリダイズする少なくとも1種のプライマーにより合成される一本鎖目的核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーによる伸長反応が抑制され、それにより一本鎖目的核酸断片が増幅されることを特徴とする方法が提供される。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明によれば、複数種のプライマーを用いる核酸断片の増幅方法であって、一方の鎖とハイブリダイズする少なくとも1種のプライマーにより合成される一本鎖目的核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーによる伸長反応が抑制され、それにより一本鎖目的核酸断片が増幅されることを特徴とする方法が提供される。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の背景】
発明の分野
本発明は目的核酸断片の増幅方法に関するものである。詳しくは、核酸の増幅反応において生成する二本鎖核酸のいずれか一方の一本鎖のみを過剰に増幅することができる、目的核酸断片の増幅方法に関するものである。
【0002】
技術背景
近時、ヒトゲノム配列のほぼ全容が明らかとなり、またSNP解析も巨大プロジェクトで進められ、単一遺伝子疾患のみならず多因子疾患についても遺伝子診断の意義が急速に高まりつつある。また、外来因子である病原細菌やウイルスの遺伝子診断も臨床の現場で定着しつつあり、今後、検査対象が確実に増加すると考えられる。さらに、DNAチップテクノロジーなどの進展により、ガンなどの病態と遺伝子発現の関連が次々に明らかにされつつある。このような状況において、遺伝子検出またはSNP検出の簡易化、低コスト化は、高度医療を実現するための重要な点であると考えられる。
【0003】
一般的に、遺伝子検出を行うにあたっては、検出しようとする微量の遺伝子を何らかの方法で増幅しなければならない。増幅の方法としては、検出のためのシグナルを増幅する方法と、遺伝子そのものを増幅する方法があり、現在のところ後者の方に実用的なものが多い。一般的に、このような増幅の対象となるものとしては、DNAとRNAが挙げられる。このうち、DNAは、PCR法(Polfs et.al. PCR: Clinical Diagnostics and Research, Springer-Verlag (19929)、SDA法(Walker et.al. Nucleic Acids Res. 20, 1691-1696 (1992))、LAMP法(Notomi et.al. Nucleic Acids Res. 28, e63(2000))またはICAN法(Mukai et.al. 国際出願WO00/56877号)などにより合成し増幅することができる。RNAは、NASBA法(Gabrielle et.al. J. General Microbiol. 139, 2423-2429(1993))、またはTMA法(Kacian et.al. 米国特許第5,399,491号)などにより合成し増幅することができる。
【0004】
増幅物がDNAである場合には、DNAは二本鎖であるため、増幅物の配列情報に基づく検査を行うにあたって、何らかの方法で二本鎖DNAを一本鎖にする必要がある。また、増幅物がRNAである場合には、RNAは一本鎖であるのでDNAの場合のように一本鎖にする必要はないが、RNAは分解し易く、また3次構造を形成し易いことなどから、その操作は必ずしも容易ではない。
【0005】
一般的に、二本鎖DNAを一本鎖にする方法には種々の方法がある。
第一の方法としては、二本鎖DNAを熱的あるいは化学的処理により変性して一本鎖にする方法が挙げられる。この方法は操作が簡便であるが、次の配列を検査する段階で二本鎖に戻る可能性があり、それが原因で検査の感度の低下を招くことがある(Gillespie et.al. 米国特許第5,627,054号)。
【0006】
第二の方法としては、二本鎖DNAを変成した後に、検査に不必要な鎖を除く方法が挙げられる。この方法の具体例としては次のような方法が挙げられる。PCR法において一方の鎖のみをビオチンで標識するために、一方のプライマーにのみビオチン標識しておき増幅反応を行う。得られた増幅混合物をアビジンなどを結合した不溶性の担体と接触させ、ビオチンが結合したDNAを担体上に捕獲する。それらを洗浄後、二本鎖DNAが変性する条件にすることにより、ビオチンの結合していない方の鎖を担体から遊離させることができ、これにより、遊離した一本鎖DNAを用いて配列情報に基づく検査を行うことができる(Nyren et.al. Anal.Biochem. 208, 171-175 (1993))。この方法では検出の対象とする鎖の相補鎖が存在しないため、効率的な検出が可能である。しかしながら、この方法は操作が煩雑であるため、ルーチン検査を行う上では望ましくない。
【0007】
これらの前記した方法の問題を解決するために、第三の方法として、増幅反応で一方の鎖を他方より過剰に合成する方法が考案されている。この方法は主にPCR法との組み合わせで行われており総称して非対称PCR(asymmetric PCR)と呼ばれることがある。具体例としては、PCR法による増幅反応において二つのプライマーのうちの一方を他方より過剰に加え、過剰に加えたほうの伸長生成物をもう一方のプライマーからの伸長生成物より過剰に合成しようとする方法が挙げられる(Gyllensten et.al. Proc. Natl. Acad. Sci. 85, 7652-7656)。また、これに類似する方法として、一方のプライマーの活性を阻害する物質を共存させ、もう一方のプライマーによる伸長生成物を過剰生産させる方法も挙げられる(Buchardt et.al. 米国特許第5,972,610号)。
【0008】
しかしながら、これらの方法では、一方のプライマーによる伸長反応を抑制するために増幅効率そのものに影響を与えてしまう可能性がある。また試料中の増幅させようとする遺伝子の量が常に一定であればそれに最適なそれぞれのプライマー量を設定することが可能であるが、実際には、試料中の遺伝子の量が異なることがある。このような場合には、遺伝子の増幅効率は大きく変化するため、目的とする遺伝子の増幅および過剰の伸長生成物を得ることは極めて困難となる。
【0009】
さらに別の方法として、二つのプライマーの熱安定性(ターゲットとする遺伝子と相補鎖を形成するときの安定性を意味し、一般的にTmという指標で表される)の差を利用する方法が挙げられる(Mazars et. al. Nucleic Acids Res. 19, 4783 (1991))。通常PCR法では増幅の効率や特異性の観点から二つのプライマーのTmは同じように設定されるが、この方法では意図的に異なるように設定される。増幅反応の初期段階ではTmの低いほうのプライマーに適する条件で増幅反応が行われる。この段階では二つのプライマーがほぼ同じように働き増幅物として二本鎖DNAが生成する。次に、ある程度増幅反応が進んだ段階でTmが高い方に適する条件に変更する。するとその段階からTmの低いほうのプライマーは働かなくなり、Tmの高い方のプライマーからの伸長反応だけが進行することになる。これによって、Tmの高い方のプライマーからの伸長生成物が過剰に生成することができる。
【0010】
しかしながら、この方法では後半の増幅反応が所謂PCRの指数関数的な反応とは異なって直線的な反応であるため、増幅反応がかなり進んだ時点で条件を変更する必要がある。このため、条件を変更する時点で、試料中のターゲットとする遺伝子が大量に存在する場合は増幅反応が飽和に達しており、また試料中のターゲットとする遺伝子が少量の場合は遺伝子増幅が不十分となる可能性がある。前者の場合には、伸長反応に必要な試薬が枯渇しているか、または反応により生じたピロリン酸により反応が阻害されるため、Tmが高いほうでのプライマー伸長反応を効率的に行うことは困難となる。また後者の場合には、前半の増幅反応が不十分であり、その後の直線的な伸長反応を行っても検出に十分な生成物を得ることが困難となる。したがって、この方法の場合にも、最適な条件を設定するためには試料中のターゲットとする遺伝子の量が一定であることが重要である。このことは、遺伝子検査の方法として適用するには望ましいとは言えない。
【0011】
したがって、遺伝子検査をより簡易かつ効率的に行うことができるようにするための核酸断片の増幅方法が望まれている。
【0012】
【発明の概要】
本発明者は、今般、前記したような核酸の増幅反応において、相補鎖の一方の鎖に基づくテンプレートに対するプライマーの伸長生成物が、ループ構造を形成するように該プライマーを設定することにより、相補鎖の一方の鎖のみを過剰に増幅させることができることを見出した。また、このことは、相補鎖の一方の鎖に基づくテンプレートに対して、他方のテンプレートに対するより過剰の数のプライマーを設定するような核酸増幅法において有効であることも見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0013】
したがって、本発明は、核酸の増幅反応において生成する二本酸核酸のいずれか一方の鎖を過剰に増幅させることができる方法であって、簡便かつ効率的である方法を提供することをその目的としている。
【0014】
そして、本発明による目的核酸断片の増幅方法は、複数種のプライマーを用いる核酸断片の増幅方法であって、一方の鎖とハイブリダイズする少なくとも1種のプライマーにより合成される一本鎖目的核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーによる伸長反応が抑制され、それにより一本鎖目的核酸断片が増幅されることを特徴とする方法である。
【0015】
【発明の具体的な説明】
前記したように非対称PCR(asymmetric PCR)法は遺伝子検査の簡易化という点では優れた方法であるといえる。この方法のうち、前記したプライマー量を変える方法または一方のプライマー反応を阻害する方法は、確かに生成物である二本鎖DNAのそれぞれの鎖の量を等量的でないようにすることは可能であるが、それから得られるそれぞれの鎖は次の反応のテンプレートとなるため、試料中の遺伝子の量が増幅反応の効率に直接的に影響を与えてしまうことがある点は前記したとおりである。したがって、過剰に生成した鎖が次の反応のテンプレートにならないような系であればそのような問題を克服できると考えられる。
【0016】
一方で、増幅反応で利用されるDNAポリメラーゼの中には鎖置換(strand displacement)伸長反応の性質を持つものがある(Hamilton et. al. Biotechniques 31, 370-383 (2001))。これは、伸長反応の途中でテンプレートに相補的な鎖が存在する場合に、その鎖をほどきながらテンプレートにしたがった伸長反応を進めることができるものである。したがって、増幅しようとする遺伝子断片の一方の鎖について隣接する位置に二つのプライマーを設定すれば、下流のプライマーからの伸長生成物は上流のプライマーからの伸長反応により遊離され、過剰の一本鎖DNAとして生成されることとなる。
【0017】
しかしながら、このままでは次の反応において上流のプライマーからの伸長生成物も下流からの伸長生成物も共に、他方のプライマーのテンプレートとなり、このまま鎖の増幅操作を続けると、相補鎖間の量的な違いは解消されてしまう。
そこで、上記の非対称PCR法の場合において指摘したことと同様に、該下流のプライマーから生成したDNAが他方のプライマーのテンプレートにならないようにすれば、鎖の量的な不均衡を維持することが可能となると考えられる。
【0018】
本発明による方法によれば、核酸増幅反応により生成される相補鎖の一方の鎖を、ループ構造(またはループおよびステム構造)を形成させることにより、次の伸長反応のテンプレートとならないようにすることができるので、これを核酸増幅反応に適用することにより、相補鎖の一方の鎖のみを過剰に増幅させることが可能となる。このように生成される過剰の鎖の量は核酸増幅の量に連動しており、しかもその得られる過剰の鎖は核酸増幅反応それ自身には影響を与えないものである。このため、一本鎖核酸断片を、簡便かつ効率的に増幅させることができる。また、本発明による方法は、指数的な増幅を伴う各種の遺伝子増幅方法において容易に適用することが可能である。
【0019】
また、本発明により生成される過剰の一本鎖核酸、すなわち一本鎖DNA(場合により部分的なステム構造をもってもよい)は、塩基配列に基づく各種の遺伝子検出法に利用できる。
例えば、担体に固定化したプローブを用いるハイブリダイゼーション法(Kawai et.al. Anal. Biochem. 209, 63-69 (1993))において、増幅生成物を変成することなくハイブリダイゼーションさせることができる。さらに、担体にプローブを固定する場合には、サンプルに対してプローブを圧倒的大過剰存在させることが困難な場合が多く、二本鎖を変性させて一本鎖としたものではハイブリダイゼーションの効率が低下することが考えられる。しかしながら、本発明により生成される一本鎖DNAをサンプルとする場合には、プローブとのハイブリダイゼーションに競合するものがないことから効率のよいハイブリダイゼーションを達成することができる。
【0020】
さらに、最近、均一系で検出できるプローブを利用し、増幅反応中のプローブと増幅物との間でのハイブリダイゼーションを検出し、これによって増幅反応を連続的にモニターする方法が考案されている(Tyagi et.al. Nature Biotechnology 14, 303-308 (1996)、Wittwer et. al. Biotechniques 22, 130-138 (1997)、Yamane, Nucleic Acids Symposium Ser. 44, 297-298(2000))。この方法において、プローブは共存するターゲットに相補的な鎖と競合して、ハイブリダイゼーションの効率は低下することがある。このとき、大過剰のプローブを用いると、検出のバックグランドを上昇させたり、または増幅反応を妨害したりする可能性が高いため、ターゲットに対して圧倒的大過剰のプローブを使用することはできない。本発明により得られる一本鎖DNAをターゲットとするプローブを利用すれば、効率的なハイブリダイゼーションを達成することができる。
【0021】
また、PCR増幅物をそのままテンプレートとするサイクルシークエンシング法(Taylor et.al. DNA Seq. 5, 9-15 (1994))が考案されている。しかしながら、本発明による方法で調製した増幅物を利用すれば、そのような方法を用いる必要がなく短時間で効率的なシークエンシング反応を行うことができる。
さらに、数塩基の伸長でシークエンシングを行うピロシークエンシング法(Ahmadian et.al. Anal. Biochem. 280, 103-110 (2000))、または1塩基だけ伸長させてSNPを検出するSBE法(Chen et.al. Genome Research 9, 492-498 (1999))のテンプレートしても、本発明による方法は有効に適用することができる。
【0022】
前記したように、本発明は、複数種のプライマーを用いる核酸断片の増幅方法であって、一方の鎖とハイブリダイズする少なくとも1種のプライマーにより合成される一本鎖目的核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーによる伸長反応が抑制され、それにより一本鎖目的核酸断片が増幅されることを特徴とする方法に関するものである。
【0023】
ここで、目的核酸断片の増幅方法とは、典型的には、目的核酸断片を含む核酸断片に対しプライマーをハイブリダイズさせ、このプライマーを複製起点としてプライマー伸長反応を行うことにより前記断片と相補的な核酸断片を形成させることを含んでなるものである。
【0024】
本発明において、核酸増幅のターゲットとなる目的核酸断片は、DNAまたはRNAのいずれでもあってよく、また一本鎖でもあっても二本鎖であってもよい。該核酸がRNAである場合には、リバーストランスクリプターゼ、またはDNAポリメラーゼのリバーストランスクリプターゼ活性を利用してRNAから相補的なDNAを合成してもよい。本発明においては、目的核酸断片を含む核酸は、増幅反応の最初にいては一本鎖であってもよいが、増幅反応の進行にともない反応では二本鎖のものが関与することになる。
また本発明において目的核酸断片は、その由来によって特に制限されるものではなく、従って本発明は、真核生物、原核生物、ウイルス由来の核酸、さらには合成されたものに対しても適用可能である。
【0025】
本発明による増幅方法と連動させることができる遺伝子増幅法としては、PCR法、SDA法、LAMP法、ICAN法、RCA法、NASBA法、またはTMA法など、指数関数的な増幅反応を行う慣用の各種の方法が挙げられる。このうち、NASBA法またはTMA法は、二本鎖DNAと一本鎖RNAが増幅物として得られるが、一本鎖DNAが必要である場合は本発明による方法と連動させることができる。
よって、本発明の好ましい態様によれば、核酸断片の増幅の際に行われるプライマーの伸長反応は、PCR法、SDA法、LAMP法、ICAN法、RCA法、NASBA法、およびTMA法からなる群から選択される方法により行われる。
【0026】
指数関数的な増幅を行う遺伝子増幅法においては、通常、増幅反応の過程で二本鎖DNAの両方の鎖が必ず反応に関与する。例えば、PCR法においては、二本鎖の内の一方の鎖をテンプレートとして伸長した核酸鎖は、次の段階で元の鎖を合成するテンプレートとして働く。ここで本発明の方法を、PCR法適用の場合を例に取って説明する。
まず一方の鎖(鎖(1))に対するプライマー2種類と、もう一方の鎖(鎖(2))に対するプライマー1種類とを用意する(図1参照)。なお、図1はPCR法を例として示したものであるが、前記したような他の増幅法においても鎖(1)に対するプライマー、および鎖(2)に対するプライマーという観点で同様に本発明の方法を適用することができる。また本発明においては、相補鎖関係にある二本鎖核酸のいずれか一方の鎖が、前記鎖(1)であっても前記鎖(2)であってもよく、したがって、例えば前記の場合を、鎖(2)に対して2種類、鎖(1)に対して1種類のプライマーを用意すると表現しても本発明においては同じことを意味することとなる。
【0027】
図1に示した状態で、鎖(1)および鎖(2)をターゲットにプライマーの伸長反応を行うとそれぞれのプライマーに対する3種類の伸長生成物が得られる。このとき、2種類設定したプライマーの下流側のプライマーの生成物を、次の伸長反応の段階でもう一方のプライマー(鎖(2)に対するプライマー)のテンプレートにならないように設計しておく。このようにすると、次の伸長反応段階で鎖(1)に対するプライマーのうち上流のプライマーによる生成物に対してのみ、鎖(2)に対するプライマーが働くことになる。一方、前の段階で生成した鎖(2)に対するプライマーからの伸長生成物は当然ながら鎖(1)に対する2種類のプライマーのテンプレートになる。このように、鎖(1)に対する上流のプライマーと鎖(2)に対するプライマーで増幅反応が進行する一方で、鎖(1)に対する下流のプライマーから生じた生成物は増幅反応に影響を及ぼさず増幅反応に連動して一本鎖DNAとして蓄積されることとなる。以上の操作を、PCR法にしたがって繰り返し行われると、前記一本鎖DNAが過剰に増幅されることとなる。
【0028】
したがって、本発明の好ましい態様によれば、ループ構造を形成する一本鎖核酸断片を合成するプライマー(ここではプライマー3またはプライマーCということがある)に加えて、このプライマーとハイブリダイズする鎖においてこのプライマーと相補的である配列部分よりも3’側の配列から選択される配列とハイブリダイズするプライマー(ここではプライマー1またはプライマーAということがある)をさらに用いる。
【0029】
本発明の方法においては、複数種のプライマーが用いられるが、3種以上のプライマーが使用されることが好ましい。すなわち、二本鎖核酸の一方の鎖に対して相補的な、上記した2種類のプライマー(プライマー1および3)と、もう一方の鎖に対して相補的な相補的なプライマー(ここではプライマー2またはプライマーBということがある)との3種類のプライマーを使用することが本発明においては好ましい。
【0030】
また本発明においては、予め前記プライマー1およびプライマー3を、プライマー2に対して過剰量用意して増幅反応を行ってもよい。
【0031】
上記した同一の鎖に対する2種類以上のプライマーは、異なるテンプレート分子に結合して伸長反応が進行するものであってもよく、また、同一分子に結合するものであってもよい。
通常、核酸増幅反応においては反応の初期段階ではテンプレートに対して大過剰(109〜1012倍程度)のプライマーが存在するため、後者の状況になる可能性が高いと考えられる。そのような場合、プライマー伸長反応を行うDNAポリメラーゼに伸長方向の下流に存在する二本鎖DNAをほどく性質(鎖置換(strand displacement)活性)のあるものを使用すれば反応は効率的に進行すると考えられる。また、二本鎖DNAをほどく性質のあるへリカーゼ(Delagoutte et.al. Biochemistry 40, 4459-4477 (2001))や、ほどける一本鎖DNAに結合して一本鎖DNAを安定に維持する一本鎖DNAタンパク(single strand binding (SSB) protein)を添加することによっても、DNAポリメラーゼが二本鎖DNAをほどきながら伸長反応を進めることを助けることができる(Canceill et. al. J. Biol. Chem. 274, 27481-27490 (1999))。例えば、E. coli DNA polymerase III holoenzyme (HE)は、SSBタンパク共存下で鎖置換活性を発揮することが知られている(Hamilton et. al. Biotechniques 31, 370-383 (2001))。本発明においては、これらを用いてもよい。
【0032】
したがって、本発明の好ましい態様によれば、分子内でループ構造を形成する前記一本鎖目的核酸断片は、前記プライマー1による鎖置換伸長反応によって生じたものである。
【0033】
また、プライマーの濃度や反応条件を最適化することによって、二本鎖をほどく作用がなくても2種類のプライマーからの伸長生成物を得ることも可能であり、結果として遺伝子増幅に連動した一本鎖DNAを合成することができる。本発明においては、これらの操作をさらに適用してもよい。
【0034】
本発明においては前記したように、プライマーの伸長反応はDNAポリメラーゼを用いて行うことができるが、RNAをテンプレートとしてRNAプライマーからの伸長反応を行うRNAポリメラーゼ(Rodriguez-Wells et. al. Nucleic Acids Res. 29, 2715-2724 (2001))を用いることも可能である。
【0035】
また本発明において使用可能なDNAポリメラーゼであって、鎖置換活性をもつことが明らかになっているものとしては、Bacillus Stearothemophilus ポリメラーゼ I、E. coli ポリメラーゼ I、Thermoanaerobacter thermophilus ポリメラーゼ I、Bacteriophage phi 29 DNA ポリメラーゼ、およびThermococcus litoralis DNA ポリメラーゼなどが挙げられる(Hamilton et. al. Biotechniques 31, 370-383 (2001))。
【0036】
また、既知のDNAポリメラーゼでその活性が明らかになっていないものでも構造の類似性から上記活性のあるものが存在すると考えられ、このようなDNAポリメラーゼを本発明おいて使用することも可能である。
このようなDNAポリメラーゼとしては、各種の増幅反応に適切なものとして使用されているものが挙げられる。
例えば、PCR法が適用される場合には、高温での熱変性を必要とするために高度耐熱性のThermococcus litoralis DNA ポリメラーゼ、PCR法でもっともよく使われているThermus thermophilus DNA ポリメラーゼ単独またはへリカーゼなとを適切なタンパク共存下で使用することができる。また、LAMP法やICAN法などの等温温増幅法の場合には、中度耐熱性のBacillus Stearothemophilus ポリメラーゼ Iなどが好適に使用できる。さらに、室温付近で行うRCA法の場合には、Bacteriophage phi 29 DNA ポリメラーゼが好適に使用可能である。すなわち、本発明においては、そこで採用する伸長反応に応じて、使用するDNAポリメラーゼを適宜選択することができる。
【0037】
本発明においては、反応に使用するバッファーや基質も、採用する伸長反応に応じて、その反応おいて通常使用されるものをそのまま使用することができる。
【0038】
本発明においては、使用されるプライマーの内の少なくとも1種は、それにより合成される一本鎖核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする他のプライマーによる伸長反応が抑制されるものである。
すなわち、本発明における該プライマーの伸長生成物は分子内でループ構造を形成して、これによりこの伸長生成物は実質的に次の段階でテンプレートにならないものとなっている。
【0039】
このようなループ構造を形成する伸長生成物を合成することは、その複製起点となるプライマーを、下記に挙げるように設定することにより行うことができる。
一つの態様としては、プライマーの5’側にステム構造を形成する部分を挿入する一方で、そのプライマーから生じる伸長生成物の3’側であって別のプライマーと相補的になる部分に対して、該ステム部分との間で3本鎖を形成することとなるように、プライマー全体を設計することが挙げられる。この伸長生成物は一本鎖のループ部分と3本鎖のステム部分からなり、プライマーが結合する部分が3本鎖になっていることによりプライマー伸長反応を阻害することが期待される(Hacia et. al. Biochemistry 24,6192-6200 (1994))。これにより、このプライマーにより得られる伸長生成物が次の段階でテンプレートとなるのを防ぐことができる。
【0040】
別の態様としては、プライマーの5’側に、そのプライマーから生成する伸長生成物の3’側の塩基配列に特異的に結合するタンパクを導入しておく手段が挙げられる。これにより、得られる伸長生成物は、その5’端側と3’端側が分子的に結合することとなるため、別のプライマーの伸長反応がこの伸長生成物に作用することを防止することができる。
【0041】
さらに別の態様としては、プライマーの5’側に、そのプライマーから生成する伸長生成物の3’側であって別のプライマーが相補的である部分に、部分的または全部に相補的になる配列を付加しておくことが挙げられる(図2参照)。これにより、このプライマー(図2のプライマー3)の伸長生成物は、一本鎖のループ部分とプライマーに付加した配列と3’側との間で形成されるステム部分を持つ構造のものとなる(図2(C)参照)。このため、プライマーが相補的になる部分はステム構造で守られておりプライマーの結合を阻止することになる。なお、このようなステム構造を利用したプライマーの結合を阻止する方法は別の目的で利用され、機能することが知られている(Siebert et.al. Nucleic Acids Res. 23, 1087-1088 (1995))。
【0042】
ただし、本発明の方法においては、プライマー3の5’側に付加した配列は本来の増幅反応であるプライマー2とテンプレートの結合反応において競合することになる。しかしながら、プライマー3から生じた伸長生成物は、プライマー2が相補的となる部分とは別の部分を使って安定化させることができる。また、一般的に分子内での二本鎖構造は分子間での二本鎖構造より安定であることが知られている(Tyagi et.al. Nature Biotechnology 14, 303-308 (1996))。このため、プライマー3の5’側に付加する配列はプライマー3からの伸長生成物のプライマー2と相補的になる部分の全部と相補的である必要は通常ない。プライマー2の3’側が結合する部分が、ステム構造で保護されていれば、プライマー2の伸長反応を防ぐことができると考えられる。このため、プライマー3に付加された5’側の配列は、プライマー2の一部のみを含んでいれば十分であり、テンプレートに対する競合反応はプライマー2の方が優先することとなる。
【0043】
よって、本発明の別の好ましい態様によれば、ループ構造を形成する一本鎖核酸断片を合成する前記プライマーは、その5’側に、このプライマーとハイブリダイズする鎖においてこのプライマーと相補的である配列よりも5’端側の配列から選択される核酸断片を有し、かつ、この核酸断片の配列は、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーと全部または一部の配列が同一である。
より好ましい態様によれば、前記したように、ループ構造を形成する前記一本鎖核酸断片は、この一本鎖核酸断片を合成する前記プライマーとハイブリダイズする鎖においてこのプライマーと相補的である配列よりも3’端側の配列とハイブリダイズするプライマーによる鎖置換伸長反応によって生じるものである。
【0044】
本発明において、該プライマー3に付加する配列としては、DNAでもあってもRNAであってもよく、また、核酸塩基をペプチド結合でつなぎ合わせたPNA(ペプチド核酸)に代表されるような核酸と相補鎖を形成する核酸以外のものであってもよい。さらには、それら核酸やPNAなどの配列は、プライマー3のテンプレートと相補的な配列の5’末端と連続的に結合していてもよいが、またはスぺーサー分子などを介して結合しているものであってもよい。また、該配列は、プライマー3のテンプレートと相補的な配列から枝別れしたような構造で導入されていてもよい。
【0045】
さらに前記プライマー1とプライマー3とは、テンプレートに対して連続して並んでいてもよく、または互いに離れていてもよい。これらのプライマーの間隔は、プライマー3からの伸長生成物が検出しようとする目的核酸断片の配列を含み、かつ、プライマー1とプライマー2とによる増幅反応の効率が低下しない範囲であれば、特に限定されない。ただし、プライマー3により生じる伸長生成物が効率よくステムを形成するためには、その伸長生成物があまり長くないことが望ましい。
【0046】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記ループ構造は、前記一本鎖核酸断片を合成する前記プライマーと、それによる伸長反応により形成される伸長生成物との結合により生ずる。
【0047】
本発明の別の態様によれば、目的核酸断片の増幅のために用いられるプライマーであって、それにより合成される一本鎖核酸断片が、その分子内でループ構造を形成し、それを鋳型とする他のプライマーによる伸長反応が抑制されるものであることを特徴とするプライマーも提供される。このプライマーは好ましくは上記した本発明の方法において用いられるものである。
【0048】
本発明のさらに別の態様によれば、一本鎖目的核酸断片の増幅のために用いられる複数種のプライマーを含んでなるプライマーセットであって、その少なくとも1種のプライマーが、二本鎖核酸断片の一方の鎖とハイブリダイズして一本鎖目的核酸断片を合成し、かつその一本鎖核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーによる伸長反応が抑制されるものであることを特徴とするプライマーセットが提供される。
【0049】
本発明による目的核酸断片の増幅方法は、以上に説明したとおりであるが、本発明の方法の一つの好ましい態様をさらに示せば、下記の通りである。
すなわち本発明の一つの好ましい態様によれば、目的核酸断片の増幅方法は、
(a) 複数種、好ましくは3種以上のプライマーを用意し(ここで、前記プライマーの内の少なくとも1種(プライマー3)は、それにより合成される一本鎖核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする他のプライマーによる伸長反応が抑制されるものであり)、
(b) 目的核酸断片を含む核酸断片を用意し、
(c) 前記核酸断片の二本鎖を変性させ、得られた一本鎖と(a)で用意したプライマーとをアニーリングさせ、
(d) プライマー伸長反応を行い、
(e) 前記(c)と(d)とを必要に応じて繰り返し、
(f) 目的核酸断片を含む一本鎖核酸断片を、それと相補的な鎖に対して過剰量得る
ことを含んでなる方法である。
なおここで、二本鎖変性、アニーリング、およびプライマー伸長反応等の操作は、慣用の核酸増幅法において採用さている操作、条件等を適宜採用することができ、したがって、PCR法等の採用する増幅反応、目的核酸、プライマー等に応じて適宜選択することができる。
【0050】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0051】
本実施例において用いられるオリゴヌクレオチドは、日本バイオサービスより購入し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製したものを使用した。
また、増幅のテンプレートしてはβ−グロビン遺伝子のPst I断片を含むプラスミド(pBR322-βA , Ikuta et.al. Nucleic Acids Res. 15, 797-811)を使用した。Smart Probeは、Nucleic Acids Symposium Series N0.44, 297-298の方法にしたがって合成した。さらに増幅反応にはVent(exo-)DNAポリメラーゼ(New England Biolabs, Inc.)を使用した。
遺伝子増幅反応にはThermal Cycler 9600 (Roche Diagnostics)を使用し、温度変化に対応した蛍光測定はLight Cycler(Roche Diagnostics)を使用した。また、ポリアクリルアミドゲル電気泳動後のDNAの染色は一本鎖DNAでも染色されやすいとされているSYBR Gold (Molecular Probes inc.)を使用した。
【0052】
反応に使用したプライマー1、プライマー2およびプライマー3は以下の通りである。プライマー3の下線の部分は伸長生成物の3’側と相補的な部分である。またそのテンプレートに対する配置を図3に示した。
【0053】
プライマー1
PG3: 5’ TGTCTTGTAACCTTGATACC (配列番号1)
【0054】
プライマー2
PG1: 5’ ACACAACTGTGTTCACTAG (配列番号2)
【0055】
プライマー3
HPG4: 5’GCAACCTCAAACAGACACCACAACTTCATCCACGTTCACC (配列番号3)
HPG5: 5’TAGCAACCTCAAACAGACACCACAACTTCATCCACGTTCACC (配列番号4)
HPG6: 5’CACTAGCAACCTCAAACAGACACCACAACTTCATCCACGTTCACC (配列番号5)
HPG7: 5’GTTCACTAGCAACCTCAAACAGACACCACAACTTCATCCACGTTCACC (配列番号6)
【0056】
実施例1
下表に示したプライマーの組み合わせ(各0.5μM)を用いて、プラスミドpBR322-βA(300pg)をテンプレートとして増幅反応を行った。反応液には4種のデオキシヌクレオチド三リン酸(各200μM)および反応バッファー(New England Biolabs, Inc.)を加え、Vent(exo−)DNAポリメラーゼ(2ユニット)を加えて総量50μLで行った。温度条件は94℃(15秒)、55℃(15秒)、および72℃(30秒)で、これを35サイクル行った。なお、プライマーPG2は、上記プライマー3のターゲット部分に相補的な配列のみを持つものである(PG2: 5’CAACTTCATCCACGTTCACC )(配列番号7)。
【0057】
【0058】
得られた反応液を12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した。結果は図4に示されるとおりであった。
No.1およびNo.2は通常のPCR反応であり、目的とする二本鎖の増幅物が得られた。N0.3からN0.6は本発明の方法による反応でそれぞれにおいてNo.2と同様な生成物が得られた。さらにN0.3からN0.6においては二本鎖DNAのほかにそれより移動度の速い顕著なバンドが検出された。これらは目的とする一本鎖DNAであると推定される。
【0059】
実施例2
実施例1の実験を補足する目的でプライマー2とプライマー3のみでのPCR反応を行った。プライマーをプライマー2とプライマー3のみ用いて行った以外は、反応条件は実施例1と同じである。プライマーの組み合わせは以下に示す通りである。
【0060】
【0061】
反応液を12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。結果は図5に示されるとおりであった。それぞれ実施例1の反応液と隣り合わせに泳動させた。
いずれの場合においても目的とする増幅物のバンドが確認されたが、増幅の効率はすべてにおいて低下していた。これは伸長生成物がステム構造を形成するためであり、実施例1のようにプライマー1を加えることで増幅効率を高めることができることを示した結果でもある。
【0062】
実施例3
実施例1で得られた反応液には一本鎖DNAが含まれていると考えられるが、これがハイブリダイゼーション効率を高める効果があるかどうかを調べた。ハイブリダイゼーションにはSmart Probeを使用した。なおSmart Probeはターゲットと二本鎖を形成すると蛍光を発するプローブである。
本実験では各プライマー3の伸長生成物と相補的なSmart Probe(Py-BNF3: 5’ACCTGACTCCTGA(Py)(F)GGAGAAGTCTGCG(P): PyおよびFはオリゴヌクレオチドに導入したピレンおよびフルオレセインを示したもので、Pはプローブの3’末端に導入したリン酸を示す)(配列番号8)を混合し、温度変化に対応する蛍光を測定してハイブリダイゼーションの効率を比較した。実施例1で得られた反応液(6μL)、20mM リン酸バッファーpH 7.0(10μL)、1.5M NaCl(2μL)、および、0.5μM Py-BNF3(2μL)を混合し、Light Cyclerを用いて35℃から80℃の間での温度変化(0.1℃/秒)に対する蛍光を測定した。結果は図6に示したとおりであった。
【0063】
実施例4
本発明により一本鎖DNAが効率よく得られるているかどうかをマイクロプレートハイブリダイゼーションにより調べた。
センス鎖に相当するオリゴヌクレオチド配列(5’GACACCATGGTGCACCTGACTCCTGAGGAGAAGTCTGCGGTTACTGCCCTGT)(配列番号9)を固定したマイクロプレートを文献(Kawai et.al. Anal. Biochem. 209, 63-69 (1993))に記載の方法に従って調製した。また、実施例1で使用したPG3, HG4, HG5, HG6, HG7とまったく同じ塩基配列で5’末端にビオチンを導入したプライマーを調製した。これらのビオチン標識プライマーからの伸長生成物はマイクロプレートに固定した塩基配列と相補的である。
これらプライマーを用いて、実施例1とまったく同じ条件で増幅反応を行った。得られた反応液を12%電気泳動で調べたところ、実施例1と同様のパターンを示す結果が得られた。反応の番号とプライマーの組み合わせを以下の表に示した。
【0064】
【0065】
これらの反応液を用い先に調製しておいたマイクロプレートを用いてハイブリダイゼーションを行った。各ウェルに0.5 x SSC(50uL)を添加した。これに、調製しておいたPCR反応液(4uL)を添加した。ただし、PCR N0.1については熱変性処理を行ったものもサンプルとして使用した。37℃で1時間ハイブリダイゼーションを行った後、ハイブリダイゼーション溶液を除き、洗浄液(0.1M Nacl, 0.1M Tris-HCl, 2mM MgCl2, 0.05% Triton X-100)で3回洗浄した。これに、洗浄液で希釈したホースラデッシュペルオキシダーゼを結合したアビジン(Vector社)を加え、37℃で15分間反応させた。次に反応液を除き、洗浄液で3回洗浄した。これに3%過酸化水素水をABTS溶液(1.5mM ABTS, 200mM 酒石酸(pH 4.4))により200倍希釈した溶液を加えて発色反応を行った。室温で10分反応を行ったのち停止液(2%シュウ酸)を加え、415nmで吸光度を測定した。結果は下記表に示されるとおりであった。なお、各反応は2ウェルを用いて行い下記表では平均値を示した。
【0066】
【0067】
上記表から、本発明による方法(サンプルN0. 3〜6)によれば、通常のPCR(サンプルN0. 1)に比べて変性操作をしなくても十分なハイブリダイゼーションシグナルが得られることがわかった。
【0068】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による方法の一つの態様を示した図である。
【図2】本発明による方法の別の一つの態様を示した図である。
【図3】実施例におけるプライマーのテンプレートに対する配置を示す図である。
【図4】実施例1における12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分析結果を示す。
【図5】実施例2における12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分析結果を示す。
【図6】実施例3の結果を示す図である。
【発明の背景】
発明の分野
本発明は目的核酸断片の増幅方法に関するものである。詳しくは、核酸の増幅反応において生成する二本鎖核酸のいずれか一方の一本鎖のみを過剰に増幅することができる、目的核酸断片の増幅方法に関するものである。
【0002】
技術背景
近時、ヒトゲノム配列のほぼ全容が明らかとなり、またSNP解析も巨大プロジェクトで進められ、単一遺伝子疾患のみならず多因子疾患についても遺伝子診断の意義が急速に高まりつつある。また、外来因子である病原細菌やウイルスの遺伝子診断も臨床の現場で定着しつつあり、今後、検査対象が確実に増加すると考えられる。さらに、DNAチップテクノロジーなどの進展により、ガンなどの病態と遺伝子発現の関連が次々に明らかにされつつある。このような状況において、遺伝子検出またはSNP検出の簡易化、低コスト化は、高度医療を実現するための重要な点であると考えられる。
【0003】
一般的に、遺伝子検出を行うにあたっては、検出しようとする微量の遺伝子を何らかの方法で増幅しなければならない。増幅の方法としては、検出のためのシグナルを増幅する方法と、遺伝子そのものを増幅する方法があり、現在のところ後者の方に実用的なものが多い。一般的に、このような増幅の対象となるものとしては、DNAとRNAが挙げられる。このうち、DNAは、PCR法(Polfs et.al. PCR: Clinical Diagnostics and Research, Springer-Verlag (19929)、SDA法(Walker et.al. Nucleic Acids Res. 20, 1691-1696 (1992))、LAMP法(Notomi et.al. Nucleic Acids Res. 28, e63(2000))またはICAN法(Mukai et.al. 国際出願WO00/56877号)などにより合成し増幅することができる。RNAは、NASBA法(Gabrielle et.al. J. General Microbiol. 139, 2423-2429(1993))、またはTMA法(Kacian et.al. 米国特許第5,399,491号)などにより合成し増幅することができる。
【0004】
増幅物がDNAである場合には、DNAは二本鎖であるため、増幅物の配列情報に基づく検査を行うにあたって、何らかの方法で二本鎖DNAを一本鎖にする必要がある。また、増幅物がRNAである場合には、RNAは一本鎖であるのでDNAの場合のように一本鎖にする必要はないが、RNAは分解し易く、また3次構造を形成し易いことなどから、その操作は必ずしも容易ではない。
【0005】
一般的に、二本鎖DNAを一本鎖にする方法には種々の方法がある。
第一の方法としては、二本鎖DNAを熱的あるいは化学的処理により変性して一本鎖にする方法が挙げられる。この方法は操作が簡便であるが、次の配列を検査する段階で二本鎖に戻る可能性があり、それが原因で検査の感度の低下を招くことがある(Gillespie et.al. 米国特許第5,627,054号)。
【0006】
第二の方法としては、二本鎖DNAを変成した後に、検査に不必要な鎖を除く方法が挙げられる。この方法の具体例としては次のような方法が挙げられる。PCR法において一方の鎖のみをビオチンで標識するために、一方のプライマーにのみビオチン標識しておき増幅反応を行う。得られた増幅混合物をアビジンなどを結合した不溶性の担体と接触させ、ビオチンが結合したDNAを担体上に捕獲する。それらを洗浄後、二本鎖DNAが変性する条件にすることにより、ビオチンの結合していない方の鎖を担体から遊離させることができ、これにより、遊離した一本鎖DNAを用いて配列情報に基づく検査を行うことができる(Nyren et.al. Anal.Biochem. 208, 171-175 (1993))。この方法では検出の対象とする鎖の相補鎖が存在しないため、効率的な検出が可能である。しかしながら、この方法は操作が煩雑であるため、ルーチン検査を行う上では望ましくない。
【0007】
これらの前記した方法の問題を解決するために、第三の方法として、増幅反応で一方の鎖を他方より過剰に合成する方法が考案されている。この方法は主にPCR法との組み合わせで行われており総称して非対称PCR(asymmetric PCR)と呼ばれることがある。具体例としては、PCR法による増幅反応において二つのプライマーのうちの一方を他方より過剰に加え、過剰に加えたほうの伸長生成物をもう一方のプライマーからの伸長生成物より過剰に合成しようとする方法が挙げられる(Gyllensten et.al. Proc. Natl. Acad. Sci. 85, 7652-7656)。また、これに類似する方法として、一方のプライマーの活性を阻害する物質を共存させ、もう一方のプライマーによる伸長生成物を過剰生産させる方法も挙げられる(Buchardt et.al. 米国特許第5,972,610号)。
【0008】
しかしながら、これらの方法では、一方のプライマーによる伸長反応を抑制するために増幅効率そのものに影響を与えてしまう可能性がある。また試料中の増幅させようとする遺伝子の量が常に一定であればそれに最適なそれぞれのプライマー量を設定することが可能であるが、実際には、試料中の遺伝子の量が異なることがある。このような場合には、遺伝子の増幅効率は大きく変化するため、目的とする遺伝子の増幅および過剰の伸長生成物を得ることは極めて困難となる。
【0009】
さらに別の方法として、二つのプライマーの熱安定性(ターゲットとする遺伝子と相補鎖を形成するときの安定性を意味し、一般的にTmという指標で表される)の差を利用する方法が挙げられる(Mazars et. al. Nucleic Acids Res. 19, 4783 (1991))。通常PCR法では増幅の効率や特異性の観点から二つのプライマーのTmは同じように設定されるが、この方法では意図的に異なるように設定される。増幅反応の初期段階ではTmの低いほうのプライマーに適する条件で増幅反応が行われる。この段階では二つのプライマーがほぼ同じように働き増幅物として二本鎖DNAが生成する。次に、ある程度増幅反応が進んだ段階でTmが高い方に適する条件に変更する。するとその段階からTmの低いほうのプライマーは働かなくなり、Tmの高い方のプライマーからの伸長反応だけが進行することになる。これによって、Tmの高い方のプライマーからの伸長生成物が過剰に生成することができる。
【0010】
しかしながら、この方法では後半の増幅反応が所謂PCRの指数関数的な反応とは異なって直線的な反応であるため、増幅反応がかなり進んだ時点で条件を変更する必要がある。このため、条件を変更する時点で、試料中のターゲットとする遺伝子が大量に存在する場合は増幅反応が飽和に達しており、また試料中のターゲットとする遺伝子が少量の場合は遺伝子増幅が不十分となる可能性がある。前者の場合には、伸長反応に必要な試薬が枯渇しているか、または反応により生じたピロリン酸により反応が阻害されるため、Tmが高いほうでのプライマー伸長反応を効率的に行うことは困難となる。また後者の場合には、前半の増幅反応が不十分であり、その後の直線的な伸長反応を行っても検出に十分な生成物を得ることが困難となる。したがって、この方法の場合にも、最適な条件を設定するためには試料中のターゲットとする遺伝子の量が一定であることが重要である。このことは、遺伝子検査の方法として適用するには望ましいとは言えない。
【0011】
したがって、遺伝子検査をより簡易かつ効率的に行うことができるようにするための核酸断片の増幅方法が望まれている。
【0012】
【発明の概要】
本発明者は、今般、前記したような核酸の増幅反応において、相補鎖の一方の鎖に基づくテンプレートに対するプライマーの伸長生成物が、ループ構造を形成するように該プライマーを設定することにより、相補鎖の一方の鎖のみを過剰に増幅させることができることを見出した。また、このことは、相補鎖の一方の鎖に基づくテンプレートに対して、他方のテンプレートに対するより過剰の数のプライマーを設定するような核酸増幅法において有効であることも見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0013】
したがって、本発明は、核酸の増幅反応において生成する二本酸核酸のいずれか一方の鎖を過剰に増幅させることができる方法であって、簡便かつ効率的である方法を提供することをその目的としている。
【0014】
そして、本発明による目的核酸断片の増幅方法は、複数種のプライマーを用いる核酸断片の増幅方法であって、一方の鎖とハイブリダイズする少なくとも1種のプライマーにより合成される一本鎖目的核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーによる伸長反応が抑制され、それにより一本鎖目的核酸断片が増幅されることを特徴とする方法である。
【0015】
【発明の具体的な説明】
前記したように非対称PCR(asymmetric PCR)法は遺伝子検査の簡易化という点では優れた方法であるといえる。この方法のうち、前記したプライマー量を変える方法または一方のプライマー反応を阻害する方法は、確かに生成物である二本鎖DNAのそれぞれの鎖の量を等量的でないようにすることは可能であるが、それから得られるそれぞれの鎖は次の反応のテンプレートとなるため、試料中の遺伝子の量が増幅反応の効率に直接的に影響を与えてしまうことがある点は前記したとおりである。したがって、過剰に生成した鎖が次の反応のテンプレートにならないような系であればそのような問題を克服できると考えられる。
【0016】
一方で、増幅反応で利用されるDNAポリメラーゼの中には鎖置換(strand displacement)伸長反応の性質を持つものがある(Hamilton et. al. Biotechniques 31, 370-383 (2001))。これは、伸長反応の途中でテンプレートに相補的な鎖が存在する場合に、その鎖をほどきながらテンプレートにしたがった伸長反応を進めることができるものである。したがって、増幅しようとする遺伝子断片の一方の鎖について隣接する位置に二つのプライマーを設定すれば、下流のプライマーからの伸長生成物は上流のプライマーからの伸長反応により遊離され、過剰の一本鎖DNAとして生成されることとなる。
【0017】
しかしながら、このままでは次の反応において上流のプライマーからの伸長生成物も下流からの伸長生成物も共に、他方のプライマーのテンプレートとなり、このまま鎖の増幅操作を続けると、相補鎖間の量的な違いは解消されてしまう。
そこで、上記の非対称PCR法の場合において指摘したことと同様に、該下流のプライマーから生成したDNAが他方のプライマーのテンプレートにならないようにすれば、鎖の量的な不均衡を維持することが可能となると考えられる。
【0018】
本発明による方法によれば、核酸増幅反応により生成される相補鎖の一方の鎖を、ループ構造(またはループおよびステム構造)を形成させることにより、次の伸長反応のテンプレートとならないようにすることができるので、これを核酸増幅反応に適用することにより、相補鎖の一方の鎖のみを過剰に増幅させることが可能となる。このように生成される過剰の鎖の量は核酸増幅の量に連動しており、しかもその得られる過剰の鎖は核酸増幅反応それ自身には影響を与えないものである。このため、一本鎖核酸断片を、簡便かつ効率的に増幅させることができる。また、本発明による方法は、指数的な増幅を伴う各種の遺伝子増幅方法において容易に適用することが可能である。
【0019】
また、本発明により生成される過剰の一本鎖核酸、すなわち一本鎖DNA(場合により部分的なステム構造をもってもよい)は、塩基配列に基づく各種の遺伝子検出法に利用できる。
例えば、担体に固定化したプローブを用いるハイブリダイゼーション法(Kawai et.al. Anal. Biochem. 209, 63-69 (1993))において、増幅生成物を変成することなくハイブリダイゼーションさせることができる。さらに、担体にプローブを固定する場合には、サンプルに対してプローブを圧倒的大過剰存在させることが困難な場合が多く、二本鎖を変性させて一本鎖としたものではハイブリダイゼーションの効率が低下することが考えられる。しかしながら、本発明により生成される一本鎖DNAをサンプルとする場合には、プローブとのハイブリダイゼーションに競合するものがないことから効率のよいハイブリダイゼーションを達成することができる。
【0020】
さらに、最近、均一系で検出できるプローブを利用し、増幅反応中のプローブと増幅物との間でのハイブリダイゼーションを検出し、これによって増幅反応を連続的にモニターする方法が考案されている(Tyagi et.al. Nature Biotechnology 14, 303-308 (1996)、Wittwer et. al. Biotechniques 22, 130-138 (1997)、Yamane, Nucleic Acids Symposium Ser. 44, 297-298(2000))。この方法において、プローブは共存するターゲットに相補的な鎖と競合して、ハイブリダイゼーションの効率は低下することがある。このとき、大過剰のプローブを用いると、検出のバックグランドを上昇させたり、または増幅反応を妨害したりする可能性が高いため、ターゲットに対して圧倒的大過剰のプローブを使用することはできない。本発明により得られる一本鎖DNAをターゲットとするプローブを利用すれば、効率的なハイブリダイゼーションを達成することができる。
【0021】
また、PCR増幅物をそのままテンプレートとするサイクルシークエンシング法(Taylor et.al. DNA Seq. 5, 9-15 (1994))が考案されている。しかしながら、本発明による方法で調製した増幅物を利用すれば、そのような方法を用いる必要がなく短時間で効率的なシークエンシング反応を行うことができる。
さらに、数塩基の伸長でシークエンシングを行うピロシークエンシング法(Ahmadian et.al. Anal. Biochem. 280, 103-110 (2000))、または1塩基だけ伸長させてSNPを検出するSBE法(Chen et.al. Genome Research 9, 492-498 (1999))のテンプレートしても、本発明による方法は有効に適用することができる。
【0022】
前記したように、本発明は、複数種のプライマーを用いる核酸断片の増幅方法であって、一方の鎖とハイブリダイズする少なくとも1種のプライマーにより合成される一本鎖目的核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーによる伸長反応が抑制され、それにより一本鎖目的核酸断片が増幅されることを特徴とする方法に関するものである。
【0023】
ここで、目的核酸断片の増幅方法とは、典型的には、目的核酸断片を含む核酸断片に対しプライマーをハイブリダイズさせ、このプライマーを複製起点としてプライマー伸長反応を行うことにより前記断片と相補的な核酸断片を形成させることを含んでなるものである。
【0024】
本発明において、核酸増幅のターゲットとなる目的核酸断片は、DNAまたはRNAのいずれでもあってよく、また一本鎖でもあっても二本鎖であってもよい。該核酸がRNAである場合には、リバーストランスクリプターゼ、またはDNAポリメラーゼのリバーストランスクリプターゼ活性を利用してRNAから相補的なDNAを合成してもよい。本発明においては、目的核酸断片を含む核酸は、増幅反応の最初にいては一本鎖であってもよいが、増幅反応の進行にともない反応では二本鎖のものが関与することになる。
また本発明において目的核酸断片は、その由来によって特に制限されるものではなく、従って本発明は、真核生物、原核生物、ウイルス由来の核酸、さらには合成されたものに対しても適用可能である。
【0025】
本発明による増幅方法と連動させることができる遺伝子増幅法としては、PCR法、SDA法、LAMP法、ICAN法、RCA法、NASBA法、またはTMA法など、指数関数的な増幅反応を行う慣用の各種の方法が挙げられる。このうち、NASBA法またはTMA法は、二本鎖DNAと一本鎖RNAが増幅物として得られるが、一本鎖DNAが必要である場合は本発明による方法と連動させることができる。
よって、本発明の好ましい態様によれば、核酸断片の増幅の際に行われるプライマーの伸長反応は、PCR法、SDA法、LAMP法、ICAN法、RCA法、NASBA法、およびTMA法からなる群から選択される方法により行われる。
【0026】
指数関数的な増幅を行う遺伝子増幅法においては、通常、増幅反応の過程で二本鎖DNAの両方の鎖が必ず反応に関与する。例えば、PCR法においては、二本鎖の内の一方の鎖をテンプレートとして伸長した核酸鎖は、次の段階で元の鎖を合成するテンプレートとして働く。ここで本発明の方法を、PCR法適用の場合を例に取って説明する。
まず一方の鎖(鎖(1))に対するプライマー2種類と、もう一方の鎖(鎖(2))に対するプライマー1種類とを用意する(図1参照)。なお、図1はPCR法を例として示したものであるが、前記したような他の増幅法においても鎖(1)に対するプライマー、および鎖(2)に対するプライマーという観点で同様に本発明の方法を適用することができる。また本発明においては、相補鎖関係にある二本鎖核酸のいずれか一方の鎖が、前記鎖(1)であっても前記鎖(2)であってもよく、したがって、例えば前記の場合を、鎖(2)に対して2種類、鎖(1)に対して1種類のプライマーを用意すると表現しても本発明においては同じことを意味することとなる。
【0027】
図1に示した状態で、鎖(1)および鎖(2)をターゲットにプライマーの伸長反応を行うとそれぞれのプライマーに対する3種類の伸長生成物が得られる。このとき、2種類設定したプライマーの下流側のプライマーの生成物を、次の伸長反応の段階でもう一方のプライマー(鎖(2)に対するプライマー)のテンプレートにならないように設計しておく。このようにすると、次の伸長反応段階で鎖(1)に対するプライマーのうち上流のプライマーによる生成物に対してのみ、鎖(2)に対するプライマーが働くことになる。一方、前の段階で生成した鎖(2)に対するプライマーからの伸長生成物は当然ながら鎖(1)に対する2種類のプライマーのテンプレートになる。このように、鎖(1)に対する上流のプライマーと鎖(2)に対するプライマーで増幅反応が進行する一方で、鎖(1)に対する下流のプライマーから生じた生成物は増幅反応に影響を及ぼさず増幅反応に連動して一本鎖DNAとして蓄積されることとなる。以上の操作を、PCR法にしたがって繰り返し行われると、前記一本鎖DNAが過剰に増幅されることとなる。
【0028】
したがって、本発明の好ましい態様によれば、ループ構造を形成する一本鎖核酸断片を合成するプライマー(ここではプライマー3またはプライマーCということがある)に加えて、このプライマーとハイブリダイズする鎖においてこのプライマーと相補的である配列部分よりも3’側の配列から選択される配列とハイブリダイズするプライマー(ここではプライマー1またはプライマーAということがある)をさらに用いる。
【0029】
本発明の方法においては、複数種のプライマーが用いられるが、3種以上のプライマーが使用されることが好ましい。すなわち、二本鎖核酸の一方の鎖に対して相補的な、上記した2種類のプライマー(プライマー1および3)と、もう一方の鎖に対して相補的な相補的なプライマー(ここではプライマー2またはプライマーBということがある)との3種類のプライマーを使用することが本発明においては好ましい。
【0030】
また本発明においては、予め前記プライマー1およびプライマー3を、プライマー2に対して過剰量用意して増幅反応を行ってもよい。
【0031】
上記した同一の鎖に対する2種類以上のプライマーは、異なるテンプレート分子に結合して伸長反応が進行するものであってもよく、また、同一分子に結合するものであってもよい。
通常、核酸増幅反応においては反応の初期段階ではテンプレートに対して大過剰(109〜1012倍程度)のプライマーが存在するため、後者の状況になる可能性が高いと考えられる。そのような場合、プライマー伸長反応を行うDNAポリメラーゼに伸長方向の下流に存在する二本鎖DNAをほどく性質(鎖置換(strand displacement)活性)のあるものを使用すれば反応は効率的に進行すると考えられる。また、二本鎖DNAをほどく性質のあるへリカーゼ(Delagoutte et.al. Biochemistry 40, 4459-4477 (2001))や、ほどける一本鎖DNAに結合して一本鎖DNAを安定に維持する一本鎖DNAタンパク(single strand binding (SSB) protein)を添加することによっても、DNAポリメラーゼが二本鎖DNAをほどきながら伸長反応を進めることを助けることができる(Canceill et. al. J. Biol. Chem. 274, 27481-27490 (1999))。例えば、E. coli DNA polymerase III holoenzyme (HE)は、SSBタンパク共存下で鎖置換活性を発揮することが知られている(Hamilton et. al. Biotechniques 31, 370-383 (2001))。本発明においては、これらを用いてもよい。
【0032】
したがって、本発明の好ましい態様によれば、分子内でループ構造を形成する前記一本鎖目的核酸断片は、前記プライマー1による鎖置換伸長反応によって生じたものである。
【0033】
また、プライマーの濃度や反応条件を最適化することによって、二本鎖をほどく作用がなくても2種類のプライマーからの伸長生成物を得ることも可能であり、結果として遺伝子増幅に連動した一本鎖DNAを合成することができる。本発明においては、これらの操作をさらに適用してもよい。
【0034】
本発明においては前記したように、プライマーの伸長反応はDNAポリメラーゼを用いて行うことができるが、RNAをテンプレートとしてRNAプライマーからの伸長反応を行うRNAポリメラーゼ(Rodriguez-Wells et. al. Nucleic Acids Res. 29, 2715-2724 (2001))を用いることも可能である。
【0035】
また本発明において使用可能なDNAポリメラーゼであって、鎖置換活性をもつことが明らかになっているものとしては、Bacillus Stearothemophilus ポリメラーゼ I、E. coli ポリメラーゼ I、Thermoanaerobacter thermophilus ポリメラーゼ I、Bacteriophage phi 29 DNA ポリメラーゼ、およびThermococcus litoralis DNA ポリメラーゼなどが挙げられる(Hamilton et. al. Biotechniques 31, 370-383 (2001))。
【0036】
また、既知のDNAポリメラーゼでその活性が明らかになっていないものでも構造の類似性から上記活性のあるものが存在すると考えられ、このようなDNAポリメラーゼを本発明おいて使用することも可能である。
このようなDNAポリメラーゼとしては、各種の増幅反応に適切なものとして使用されているものが挙げられる。
例えば、PCR法が適用される場合には、高温での熱変性を必要とするために高度耐熱性のThermococcus litoralis DNA ポリメラーゼ、PCR法でもっともよく使われているThermus thermophilus DNA ポリメラーゼ単独またはへリカーゼなとを適切なタンパク共存下で使用することができる。また、LAMP法やICAN法などの等温温増幅法の場合には、中度耐熱性のBacillus Stearothemophilus ポリメラーゼ Iなどが好適に使用できる。さらに、室温付近で行うRCA法の場合には、Bacteriophage phi 29 DNA ポリメラーゼが好適に使用可能である。すなわち、本発明においては、そこで採用する伸長反応に応じて、使用するDNAポリメラーゼを適宜選択することができる。
【0037】
本発明においては、反応に使用するバッファーや基質も、採用する伸長反応に応じて、その反応おいて通常使用されるものをそのまま使用することができる。
【0038】
本発明においては、使用されるプライマーの内の少なくとも1種は、それにより合成される一本鎖核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする他のプライマーによる伸長反応が抑制されるものである。
すなわち、本発明における該プライマーの伸長生成物は分子内でループ構造を形成して、これによりこの伸長生成物は実質的に次の段階でテンプレートにならないものとなっている。
【0039】
このようなループ構造を形成する伸長生成物を合成することは、その複製起点となるプライマーを、下記に挙げるように設定することにより行うことができる。
一つの態様としては、プライマーの5’側にステム構造を形成する部分を挿入する一方で、そのプライマーから生じる伸長生成物の3’側であって別のプライマーと相補的になる部分に対して、該ステム部分との間で3本鎖を形成することとなるように、プライマー全体を設計することが挙げられる。この伸長生成物は一本鎖のループ部分と3本鎖のステム部分からなり、プライマーが結合する部分が3本鎖になっていることによりプライマー伸長反応を阻害することが期待される(Hacia et. al. Biochemistry 24,6192-6200 (1994))。これにより、このプライマーにより得られる伸長生成物が次の段階でテンプレートとなるのを防ぐことができる。
【0040】
別の態様としては、プライマーの5’側に、そのプライマーから生成する伸長生成物の3’側の塩基配列に特異的に結合するタンパクを導入しておく手段が挙げられる。これにより、得られる伸長生成物は、その5’端側と3’端側が分子的に結合することとなるため、別のプライマーの伸長反応がこの伸長生成物に作用することを防止することができる。
【0041】
さらに別の態様としては、プライマーの5’側に、そのプライマーから生成する伸長生成物の3’側であって別のプライマーが相補的である部分に、部分的または全部に相補的になる配列を付加しておくことが挙げられる(図2参照)。これにより、このプライマー(図2のプライマー3)の伸長生成物は、一本鎖のループ部分とプライマーに付加した配列と3’側との間で形成されるステム部分を持つ構造のものとなる(図2(C)参照)。このため、プライマーが相補的になる部分はステム構造で守られておりプライマーの結合を阻止することになる。なお、このようなステム構造を利用したプライマーの結合を阻止する方法は別の目的で利用され、機能することが知られている(Siebert et.al. Nucleic Acids Res. 23, 1087-1088 (1995))。
【0042】
ただし、本発明の方法においては、プライマー3の5’側に付加した配列は本来の増幅反応であるプライマー2とテンプレートの結合反応において競合することになる。しかしながら、プライマー3から生じた伸長生成物は、プライマー2が相補的となる部分とは別の部分を使って安定化させることができる。また、一般的に分子内での二本鎖構造は分子間での二本鎖構造より安定であることが知られている(Tyagi et.al. Nature Biotechnology 14, 303-308 (1996))。このため、プライマー3の5’側に付加する配列はプライマー3からの伸長生成物のプライマー2と相補的になる部分の全部と相補的である必要は通常ない。プライマー2の3’側が結合する部分が、ステム構造で保護されていれば、プライマー2の伸長反応を防ぐことができると考えられる。このため、プライマー3に付加された5’側の配列は、プライマー2の一部のみを含んでいれば十分であり、テンプレートに対する競合反応はプライマー2の方が優先することとなる。
【0043】
よって、本発明の別の好ましい態様によれば、ループ構造を形成する一本鎖核酸断片を合成する前記プライマーは、その5’側に、このプライマーとハイブリダイズする鎖においてこのプライマーと相補的である配列よりも5’端側の配列から選択される核酸断片を有し、かつ、この核酸断片の配列は、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーと全部または一部の配列が同一である。
より好ましい態様によれば、前記したように、ループ構造を形成する前記一本鎖核酸断片は、この一本鎖核酸断片を合成する前記プライマーとハイブリダイズする鎖においてこのプライマーと相補的である配列よりも3’端側の配列とハイブリダイズするプライマーによる鎖置換伸長反応によって生じるものである。
【0044】
本発明において、該プライマー3に付加する配列としては、DNAでもあってもRNAであってもよく、また、核酸塩基をペプチド結合でつなぎ合わせたPNA(ペプチド核酸)に代表されるような核酸と相補鎖を形成する核酸以外のものであってもよい。さらには、それら核酸やPNAなどの配列は、プライマー3のテンプレートと相補的な配列の5’末端と連続的に結合していてもよいが、またはスぺーサー分子などを介して結合しているものであってもよい。また、該配列は、プライマー3のテンプレートと相補的な配列から枝別れしたような構造で導入されていてもよい。
【0045】
さらに前記プライマー1とプライマー3とは、テンプレートに対して連続して並んでいてもよく、または互いに離れていてもよい。これらのプライマーの間隔は、プライマー3からの伸長生成物が検出しようとする目的核酸断片の配列を含み、かつ、プライマー1とプライマー2とによる増幅反応の効率が低下しない範囲であれば、特に限定されない。ただし、プライマー3により生じる伸長生成物が効率よくステムを形成するためには、その伸長生成物があまり長くないことが望ましい。
【0046】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記ループ構造は、前記一本鎖核酸断片を合成する前記プライマーと、それによる伸長反応により形成される伸長生成物との結合により生ずる。
【0047】
本発明の別の態様によれば、目的核酸断片の増幅のために用いられるプライマーであって、それにより合成される一本鎖核酸断片が、その分子内でループ構造を形成し、それを鋳型とする他のプライマーによる伸長反応が抑制されるものであることを特徴とするプライマーも提供される。このプライマーは好ましくは上記した本発明の方法において用いられるものである。
【0048】
本発明のさらに別の態様によれば、一本鎖目的核酸断片の増幅のために用いられる複数種のプライマーを含んでなるプライマーセットであって、その少なくとも1種のプライマーが、二本鎖核酸断片の一方の鎖とハイブリダイズして一本鎖目的核酸断片を合成し、かつその一本鎖核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーによる伸長反応が抑制されるものであることを特徴とするプライマーセットが提供される。
【0049】
本発明による目的核酸断片の増幅方法は、以上に説明したとおりであるが、本発明の方法の一つの好ましい態様をさらに示せば、下記の通りである。
すなわち本発明の一つの好ましい態様によれば、目的核酸断片の増幅方法は、
(a) 複数種、好ましくは3種以上のプライマーを用意し(ここで、前記プライマーの内の少なくとも1種(プライマー3)は、それにより合成される一本鎖核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする他のプライマーによる伸長反応が抑制されるものであり)、
(b) 目的核酸断片を含む核酸断片を用意し、
(c) 前記核酸断片の二本鎖を変性させ、得られた一本鎖と(a)で用意したプライマーとをアニーリングさせ、
(d) プライマー伸長反応を行い、
(e) 前記(c)と(d)とを必要に応じて繰り返し、
(f) 目的核酸断片を含む一本鎖核酸断片を、それと相補的な鎖に対して過剰量得る
ことを含んでなる方法である。
なおここで、二本鎖変性、アニーリング、およびプライマー伸長反応等の操作は、慣用の核酸増幅法において採用さている操作、条件等を適宜採用することができ、したがって、PCR法等の採用する増幅反応、目的核酸、プライマー等に応じて適宜選択することができる。
【0050】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0051】
本実施例において用いられるオリゴヌクレオチドは、日本バイオサービスより購入し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製したものを使用した。
また、増幅のテンプレートしてはβ−グロビン遺伝子のPst I断片を含むプラスミド(pBR322-βA , Ikuta et.al. Nucleic Acids Res. 15, 797-811)を使用した。Smart Probeは、Nucleic Acids Symposium Series N0.44, 297-298の方法にしたがって合成した。さらに増幅反応にはVent(exo-)DNAポリメラーゼ(New England Biolabs, Inc.)を使用した。
遺伝子増幅反応にはThermal Cycler 9600 (Roche Diagnostics)を使用し、温度変化に対応した蛍光測定はLight Cycler(Roche Diagnostics)を使用した。また、ポリアクリルアミドゲル電気泳動後のDNAの染色は一本鎖DNAでも染色されやすいとされているSYBR Gold (Molecular Probes inc.)を使用した。
【0052】
反応に使用したプライマー1、プライマー2およびプライマー3は以下の通りである。プライマー3の下線の部分は伸長生成物の3’側と相補的な部分である。またそのテンプレートに対する配置を図3に示した。
【0053】
プライマー1
PG3: 5’ TGTCTTGTAACCTTGATACC (配列番号1)
【0054】
プライマー2
PG1: 5’ ACACAACTGTGTTCACTAG (配列番号2)
【0055】
プライマー3
HPG4: 5’GCAACCTCAAACAGACACCACAACTTCATCCACGTTCACC (配列番号3)
HPG5: 5’TAGCAACCTCAAACAGACACCACAACTTCATCCACGTTCACC (配列番号4)
HPG6: 5’CACTAGCAACCTCAAACAGACACCACAACTTCATCCACGTTCACC (配列番号5)
HPG7: 5’GTTCACTAGCAACCTCAAACAGACACCACAACTTCATCCACGTTCACC (配列番号6)
【0056】
実施例1
下表に示したプライマーの組み合わせ(各0.5μM)を用いて、プラスミドpBR322-βA(300pg)をテンプレートとして増幅反応を行った。反応液には4種のデオキシヌクレオチド三リン酸(各200μM)および反応バッファー(New England Biolabs, Inc.)を加え、Vent(exo−)DNAポリメラーゼ(2ユニット)を加えて総量50μLで行った。温度条件は94℃(15秒)、55℃(15秒)、および72℃(30秒)で、これを35サイクル行った。なお、プライマーPG2は、上記プライマー3のターゲット部分に相補的な配列のみを持つものである(PG2: 5’CAACTTCATCCACGTTCACC )(配列番号7)。
【0057】
【0058】
得られた反応液を12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した。結果は図4に示されるとおりであった。
No.1およびNo.2は通常のPCR反応であり、目的とする二本鎖の増幅物が得られた。N0.3からN0.6は本発明の方法による反応でそれぞれにおいてNo.2と同様な生成物が得られた。さらにN0.3からN0.6においては二本鎖DNAのほかにそれより移動度の速い顕著なバンドが検出された。これらは目的とする一本鎖DNAであると推定される。
【0059】
実施例2
実施例1の実験を補足する目的でプライマー2とプライマー3のみでのPCR反応を行った。プライマーをプライマー2とプライマー3のみ用いて行った以外は、反応条件は実施例1と同じである。プライマーの組み合わせは以下に示す通りである。
【0060】
【0061】
反応液を12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。結果は図5に示されるとおりであった。それぞれ実施例1の反応液と隣り合わせに泳動させた。
いずれの場合においても目的とする増幅物のバンドが確認されたが、増幅の効率はすべてにおいて低下していた。これは伸長生成物がステム構造を形成するためであり、実施例1のようにプライマー1を加えることで増幅効率を高めることができることを示した結果でもある。
【0062】
実施例3
実施例1で得られた反応液には一本鎖DNAが含まれていると考えられるが、これがハイブリダイゼーション効率を高める効果があるかどうかを調べた。ハイブリダイゼーションにはSmart Probeを使用した。なおSmart Probeはターゲットと二本鎖を形成すると蛍光を発するプローブである。
本実験では各プライマー3の伸長生成物と相補的なSmart Probe(Py-BNF3: 5’ACCTGACTCCTGA(Py)(F)GGAGAAGTCTGCG(P): PyおよびFはオリゴヌクレオチドに導入したピレンおよびフルオレセインを示したもので、Pはプローブの3’末端に導入したリン酸を示す)(配列番号8)を混合し、温度変化に対応する蛍光を測定してハイブリダイゼーションの効率を比較した。実施例1で得られた反応液(6μL)、20mM リン酸バッファーpH 7.0(10μL)、1.5M NaCl(2μL)、および、0.5μM Py-BNF3(2μL)を混合し、Light Cyclerを用いて35℃から80℃の間での温度変化(0.1℃/秒)に対する蛍光を測定した。結果は図6に示したとおりであった。
【0063】
実施例4
本発明により一本鎖DNAが効率よく得られるているかどうかをマイクロプレートハイブリダイゼーションにより調べた。
センス鎖に相当するオリゴヌクレオチド配列(5’GACACCATGGTGCACCTGACTCCTGAGGAGAAGTCTGCGGTTACTGCCCTGT)(配列番号9)を固定したマイクロプレートを文献(Kawai et.al. Anal. Biochem. 209, 63-69 (1993))に記載の方法に従って調製した。また、実施例1で使用したPG3, HG4, HG5, HG6, HG7とまったく同じ塩基配列で5’末端にビオチンを導入したプライマーを調製した。これらのビオチン標識プライマーからの伸長生成物はマイクロプレートに固定した塩基配列と相補的である。
これらプライマーを用いて、実施例1とまったく同じ条件で増幅反応を行った。得られた反応液を12%電気泳動で調べたところ、実施例1と同様のパターンを示す結果が得られた。反応の番号とプライマーの組み合わせを以下の表に示した。
【0064】
【0065】
これらの反応液を用い先に調製しておいたマイクロプレートを用いてハイブリダイゼーションを行った。各ウェルに0.5 x SSC(50uL)を添加した。これに、調製しておいたPCR反応液(4uL)を添加した。ただし、PCR N0.1については熱変性処理を行ったものもサンプルとして使用した。37℃で1時間ハイブリダイゼーションを行った後、ハイブリダイゼーション溶液を除き、洗浄液(0.1M Nacl, 0.1M Tris-HCl, 2mM MgCl2, 0.05% Triton X-100)で3回洗浄した。これに、洗浄液で希釈したホースラデッシュペルオキシダーゼを結合したアビジン(Vector社)を加え、37℃で15分間反応させた。次に反応液を除き、洗浄液で3回洗浄した。これに3%過酸化水素水をABTS溶液(1.5mM ABTS, 200mM 酒石酸(pH 4.4))により200倍希釈した溶液を加えて発色反応を行った。室温で10分反応を行ったのち停止液(2%シュウ酸)を加え、415nmで吸光度を測定した。結果は下記表に示されるとおりであった。なお、各反応は2ウェルを用いて行い下記表では平均値を示した。
【0066】
【0067】
上記表から、本発明による方法(サンプルN0. 3〜6)によれば、通常のPCR(サンプルN0. 1)に比べて変性操作をしなくても十分なハイブリダイゼーションシグナルが得られることがわかった。
【0068】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による方法の一つの態様を示した図である。
【図2】本発明による方法の別の一つの態様を示した図である。
【図3】実施例におけるプライマーのテンプレートに対する配置を示す図である。
【図4】実施例1における12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分析結果を示す。
【図5】実施例2における12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分析結果を示す。
【図6】実施例3の結果を示す図である。
Claims (5)
- 複数種のプライマーを用いる核酸断片の増幅方法であって、
一方の鎖とハイブリダイズする少なくとも1種のプライマーにより合成される一本鎖目的核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーによる伸長反応が抑制され、それにより一本鎖目的核酸断片が増幅されることを特徴とする、核酸断片の増幅方法。 - 前記ループ構造が、前記一本鎖核酸断片を合成する前記プライマーと、それによる伸長反応により形成される伸長生成物との結合により生ずる、請求項1に記載の方法。
- ループ構造を形成する一本鎖核酸断片を合成する前記プライマーが、その5’側に、このプライマーとハイブリダイズする鎖においてこのプライマーと相補的である配列よりも5’端側の配列から選択される核酸断片を有し、かつ、この核酸断片の配列が、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーと全部または一部の配列が同一である、請求項1または2に記載の方法。
- ループ構造を形成する前記一本鎖核酸断片が、この一本鎖核酸断片を合成する前記プライマーとハイブリダイズする鎖においてこのプライマーと相補的である配列よりも3’端側の配列とハイブリダイズするプライマーによる鎖置換伸長反応によって生じるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- 一本鎖目的核酸断片の増幅のために用いられる複数種のプライマーを含んでなるプライマーセットであって、
その少なくとも1種のプライマーが、二本鎖核酸断片の一方の鎖とハイブリダイズして一本鎖目的核酸断片を合成し、かつその一本鎖核酸断片が、その分子内でループ構造を形成して、それを鋳型とする、もう一方の鎖とハイブリダイズするプライマーによる伸長反応が抑制されるものであることを特徴とする、プライマーセット。
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