図1は本発明における磁気検出素子(スピンバルブ型薄膜素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
図1に示す磁気検出素子は、磁気抵抗効果を利用してハードディスクなどの記録媒体からの漏れ磁界を検出し、記録信号を読み取るものである。
符号20は下部シールド層である。前記下部シールド層20はNiFe系合金等からなる磁性材料で形成される。前記下部シールド層20上にはAl2O3などで形成された下部ギャップ層21が形成され、前記下部ギャップ層21の上に本発明の磁気検出素子が形成される。
符号22はTaなどで形成された下地層である。前記下地層22の上に第1反強磁性層23が形成されている。第1反強磁性層23は、PtMn合金、または、X―Mn(ただしXは、Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金で、あるいはPt―Mn―X′(ただしX′は、Pd,Ir,Rh,Ru,Au,Ag,Os,Cr,Ni,Ar,Ne,Xe,Krのいずれか1または2種以上の元素である)合金で形成される。
第1反強磁性層23として、これらの合金を使用し、これを熱処理することにより、大きな交換結合磁界を発生する第1反強磁性層23及び固定磁性層24の交換結合膜を得ることができる。特に、PtMn合金であれば、48kA/m以上、例えば64kA/mを越える交換結合磁界を有し、前記交換結合磁界を失うブロッキング温度が380℃と極めて高い優れた第1反強磁性層23及び固定磁性層24の交換結合膜を得ることができる。
これらの合金は、成膜直後の状態では、不規則系の面心立方構造(fcc)であるが、熱処理によってCuAuI(CuAu1)型の規則型の面心正方構造(fct)に構造変態する。
第1反強磁性層23の膜厚は、トラック幅方向の中心付近において80〜300Åである。
なお前記下地層22と第1反強磁性層23間にNiFe合金、NiFeCr合金あるいはCrなどで形成されたシードレイヤが形成されていてもよい。前記シードレイヤは、例えば(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%の膜厚60Åで形成される。また下地層22が形成されず、前記下部ギャップ層21の上にシードレイヤが形成され、このシードレイヤの上に第1反強磁性層23が形成される形態であってもよい。
図1に示すように前記第1反強磁性層23の上には、固定磁性層24が形成されている。前記固定磁性層24は人工フェリ構造である。前記固定磁性層24は磁性層24a、24cとその間に介在する非磁性中間層24bの3層構造である。
前記磁性層24a、24cは、例えばNiFe合金、Co、CoNiFe合金、CoFe合金、CoNi合金などの磁性材料で形成される。前記磁性層24aと磁性層24cは、同一の材料で形成されることが好ましい。
また、非磁性中間層24bは、非磁性材料により形成されるもので、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種またはこれらの2種以上の合金で形成されている。特にRuによって形成されることが好ましい。
前記固定磁性層24の上には、非磁性材料層25が形成されている。非磁性材料層25は、固定磁性層24と第1磁性層26との磁気的な結合を防止し、またセンス電流が主に流れる層であり、Cu,Cr,Au,Agなど導電性を有する非磁性材料により形成されることが好ましい。特にCuによって形成されることが好ましい。
前記非磁性材料層25の上にはフリー磁性層(以下、フリー磁性層と称する場合がある)26が形成されている。図1に示す実施形態では前記第1磁性層26は2層構造である。符号26aの層は、CoやCoFeなどからなる拡散防止層である。この拡散防止層26aは第1磁性層26と非磁性材料層25間の相互拡散を防止する。そして、この拡散防止層26aの上にNiFe合金などで形成された磁性材料層26bが形成されている。
前記第1磁性層26の上には非磁性層27が形成される。さらに前記非磁性層27の両側端部27a上には、強磁性層28が形成されている。さらに前記強磁性層28上には、第2反強磁性層29が形成される。前記第2反強磁性層29は、第1反強磁性層23と同様に、PtMn合金、または、X―Mn(ただしXは、Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金で、あるいはPt―Mn―X′(ただしX′は、Pd,Ir,Rh,Ru,Au,Ag,Os,Cr,Ni,Ar,Ne,Xe,Krのいずれか1または2種以上の元素である)合金で形成される。
そして前記第2反強磁性層29上には電極層30が形成される。前記電極層30は、例えば、Au、W、Cr、Ru、Taなどで形成される。
図1に示す実施形態では、前記第2反強磁性層29の内側端部29a及び電極層30の内側端部30aは、下面から上面に向う(図示Z方向)にしたがって、徐々に前記内側端部間の間隔が広がる傾斜面あるいは湾曲面で形成される。このような形状は図2及び図3も同じである。
図1に示すように、前記電極層30上から前記非磁性層27上にかけてAl2O3などの絶縁材料で形成された上部ギャップ層31が形成され、前記上部ギャップ層31上には、NiFe系合金などの磁性材料で形成された上部シールド層32が形成される。
図1に示す実施形態の磁気検出素子の特徴的部分について以下に説明する。
図1に示すように、前記第1磁性層26上には非磁性層27が形成され、前記非磁性層27の両側端部27a上に強磁性層28及び第2反強磁性層29が形成されている。
前記非磁性層27の両側端部27aの膜厚t5は、前記非磁性層27の中央部27bの膜厚t4よりも薄く形成され、前記非磁性層27の両側端部27aの膜厚は例えば5Å以下、好ましくは3Å以下で形成される。
前記非磁性層27の両側端部27aが所定膜厚に薄く形成されると、前記強磁性層28と第1磁性層26の両側端部S間に強磁性的な結合が働きやすくなる。前記強磁性層28はその上に形成された第2反強磁性層29との間で発生する交換結合磁界によってトラック幅方向(図示X方向)に強固に単磁区化される。これによって前記強磁性層28との間で強磁性的な結合が作用する第1磁性層26の両側端部Sも、前記強磁性層28が磁化された方向と同一方向に向き、トラック幅方向(図示X方向)に強固に単磁区化される。
ここで「強磁性的な結合」とは、前記非磁性層27を介した第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28の両側端部27a間のRKKY的な強磁性結合、あるいは前記非磁性層27に形成されたピンホール等の欠陥を介した直接的な交換相互作用によって前記第1磁性層26の両側端部Sの磁化が前記強磁性層28の磁化方向と同一方向に向くことを意味する。
以上のように図1の実施形態によれば、前記第1磁性層26の両側端部Sの磁化は、強磁性層28との間で発生する強磁性的な結合によってトラック幅方向(図示X方向)に適切に固定される。
一方、前記第1磁性層26の中央部Cの磁化は磁化反転できる程度に弱く単磁区化され、フリー磁性層として機能している。前記中央部Cのトラック幅方向(図示X方向)における幅寸法と強磁性層28の下面間のトラック幅方向(図示X方向)の間隔で規定されるトラック幅Twはほぼ一致しており、従って高記録密度化に対応するために狭トラック化が促進されても、トラック幅Tw寸法内を適切に磁化反転可能な感度領域として規定でき、高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能になっている。前記トラック幅Twは0.2μm以下で形成されることが好ましい。
次に非磁性層27について説明する。前記非磁性層27は、後述する製造方法で説明するように、大気暴露によって第1磁性層26が酸化されるのを防止するために設けられた保護層的役割を有している。
しかし前記非磁性層27はTa膜に比べて大気暴露によって酸化しにくい材質であることが好ましい。また前記非磁性層27を構成する元素が、成膜段階や、あるいは固定磁性層24や第1磁性層26の磁化方向を調整するための磁場中アニールによって前記第1磁性層26や強磁性層28に拡散しても、強磁性材料層としての性質が劣化しない材質であることが好ましい。
本発明では、前記非磁性層27は、Ru、Rh、Re、Pd、Os、Ir、Cr、Cu、Pt、Auのいずれか1種または2種以上で形成されることが好ましい。この中でも特にRuを選択することが好ましい。これら貴金属で形成された非磁性層27は大気暴露によっても酸化されにくい材質である。従ってTa膜のように大気暴露による酸化によって膜厚が大きくなるといった現象も生じない。
またこれら貴金属で形成された非磁性層27を構成する元素が、前記第1磁性層26や強磁性層28中に拡散しても、強磁性材料層としての性質は劣化しない。
なお前記非磁性層27を構成する元素が第1磁性層26や強磁性層28中に拡散しているか否かは、例えばSIMS分析装置(二次イオン質量分析装置)などによって測定できる。
次に前記非磁性層27の膜厚について以下に説明する。前記非磁性層27の膜厚は成膜時、3Å以上で20Å以下の薄い膜厚で形成されることが好ましい。より好ましくは3Å以上で10Å以下である。上記したRuなどからなる非磁性層27は、大気暴露によっても酸化されにくい緻密な層であるため、薄い膜厚であっても適切に第1磁性層26を大気暴露による酸化から防止することが可能である。
成膜時の膜厚は、前記非磁性層27の中央部27bにそのまま残される。前記中央部27bは後述する製造方法で説明するようにイオンミリングの影響を受けないからである。従って図1に示す非磁性層27の中央部27bの膜厚t4は3Å以上で20Å以下であることが好ましい。より好ましくは3Å以上で10Å以下である。
一方、前記非磁性層27の両側端部27aはイオンミリングの影響で削られ、前記両側端部27aの膜厚t5は、前記非磁性層27の中央部27bの膜厚t4よりも薄くなっている。前記両側端部27aの膜厚t5を、前記中央部27bの膜厚t4よりも薄くする理由は、前記第1磁性層26の両側端部Sと、その上に非磁性層27を介して形成される強磁性層28間で適切に強磁性的な結合を生じさせ、前記第1磁性層26の両側端部Sの磁化を効果的にトラック幅方向(図示X方向)に強固に固定するためである。
前記非磁性層27の膜厚が厚く形成されると、前記第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間に強磁性的な結合が生じ難くなる。
前記非磁性層27の両側端部27aの膜厚t5は、前記非磁性層27の材質、及び前記非磁性層27を介して対向する第1磁性層26及び強磁性層28の材質によって適切な範囲が変わる。
「JOURNALOFAPPLIEDPHYSICSvol.87,NO.9,Parts2and3,1May2000,pp.6974-6976」には図18ないし図21に示すように種々の材質で形成された非磁性層27の膜厚と飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)との関係が記載されている。
この文献の第6976頁の左欄第17行以降には、実験条件が記載されている。実験に使用された膜構成は、下からSi基板/Al2O3/Ta(30)/Cu(50)/フリー磁性層:[Co(3)/NiFe(40)]/非磁性層X/強磁性層:NiFe(25)/Ta(30)であり、各層における括弧書きは膜厚を示しており、単位はÅである。図18ないし図21に示す実験結果は上記積層膜を成膜後、熱処理を行っていない状態(as depo状態)での結果である。
ここで「飽和磁界(Hs)」とは、第1磁性層26と強磁性層28とが非磁性層27を介して反平行に磁化されているとき、この双方の磁化を同じ方向に向けさせるために必要な磁化の大きさのことである。また「スピンフロップ磁界(Hsf)」とは、第1磁性層26と強磁性層28とが非磁性層27を介して反平行に磁化されているとき、この反平行状態が崩れるときの磁界の大きさのことである。すなわちこの「飽和磁界」及び「スピンフロップ磁界(Hsf)」が大きければ大きいほど、強磁性層28と第1磁性層26との磁化が強く反平行状態を保っていることを意味し、逆に前記「飽和磁界」及び「スピンフロップ磁界(Hsf)」が小さいほど、前記強磁性層28と第1磁性層26の磁化が共に同じ方向を向いていることを意味している。
本発明では、既に説明したように、第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間に強磁性的な結合を生じさせ、前記第1磁性層26の両側端部Sの磁化を前記強磁性層28と同じ方向に磁化固定するものである。
つまり本発明では、図18ないし図21に示す実験結果において、「飽和磁界」及び「スピンフロップ磁界(Hsf)」が小さくなる非磁性層27の膜厚を選択することが、前記第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間により効果的に強磁性的な結合を生じさせ、前記第1磁性層26の両側端部Sの磁化を強磁性層28の磁化方向と同一方向に向けることができて好ましいことになる。
図18は、非磁性層27にRuを選択したときの実験結果である。前記飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)はRuの膜厚が3Å程度のとき、大きなピーク値を示し、また前記Ruの膜厚が6Å程度よりも大きくなると、再び飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)は大きくなり始めることがわかる。
ところが、図18に示す実験結果は熱処理を施さないときの結果であり、実験に使用した積層膜に熱処理を施すと、Ruの膜厚が0Å〜6Å程度のとき、飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)はほぼ0(kOe)[=0(A/m)なお1Oeは約79A/m]になることがわかっている。
本発明では、固定磁性層24や第1磁性層26の磁化制御のために必ず磁場中熱処理を施す。従って熱処理を施したときのRuの膜厚と飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)との関係を見る必要性があり、上記したように前記Ruの膜厚が0より大きく6Å以下であれば、飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)はほぼ0(kOe)になることから、このRuの膜厚範囲が前記強磁性層28と第1磁性層26間に強磁性的な結合を効果的に生じさせる上で適切な範囲である。
上記した実験に使用した膜構成では、強磁性層28及び第1磁性層26となる層にNiFe系合金層を使用していることから、前記非磁性層27にRuを選択し、さらに強磁性層28及び第1磁性層26の非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層が形成されているとき、前記非磁性層27の両側端部27aの好ましい膜厚を0Åよりも大きく6Å以下の範囲と規定した。
図19は非磁性層27にIrを選択したときの実験結果である。図19に示すように、Irの膜厚が0Åより大きく2.5Å以下であれば、飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)はほぼ0(kOe)になることがわかった。なお非磁性層27にIrを選択したときには、熱処理を施しても、Irの膜厚と飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)との関係はほとんど変わらないことがわかっている。
したがって本発明では、前記非磁性層27にIrを選択し、さらに強磁性層28及び第1磁性層26の非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層が形成されているとき、前記非磁性層27の両側端部27aの好ましい膜厚を0Åよりも大きく2.5Å以下の範囲と規定した。
図20は非磁性層27にRhを選択したときの実験結果である。図20に示すように、前記Rhの膜厚が0Åよりも大きく3Å以下であれば、飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)はほぼ0(kOe)になることがわかった。なお非磁性層27にRhを選択したときには、熱処理を施しても、Rhの膜厚と飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)との関係はほとんど変わらないことがわかっている。
したがって本発明では、前記非磁性層27にRhを選択し、さらに強磁性層28及び第1磁性層26の非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層が形成されているとき、前記非磁性層27の両側端部27aの好ましい膜厚を0Åよりも大きく3Å以下の範囲と規定した。
図21は非磁性層27にCrを選択したときの実験結果である。図21に示すように、前記Crの膜厚が0Åよりも大きく8Å以下であれば、飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)はほぼ0(Oe)になることがわかった。なお非磁性層27にCrを選択したときには、熱処理を施しても、Crの膜厚と飽和磁界(Hs)及びスピンフロップ磁界(Hsf)との関係はほとんど変わらないことがわかっている。
したがって本発明では、前記非磁性層27にCrを選択し、さらに強磁性層28及び第1磁性層26の非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層が形成されているとき、前記非磁性層27の両側端部27aの好ましい膜厚を0Åよりも大きく8Å以下の範囲と規定した。
図22は、「S.S.P.Parkin,N.More,and K.P.Roche:``Oscillations in Exchange Coupling and Magnetoresistance in Metallic Superlattice structures :Co/Ru, Co/Cr, and Fe/Cr”,Physical Review Letters ,Vol.64,No.19(1990),P2304〜2307」のFig.3(b)のグラフと同じものである。なおこの文献におけるグラフ上には複数の実験値がプロットされているが、前記プロットは図面上、削除した。
この文献では、Si上に100ÅのRuを形成し、20ÅのCoとRu(XÅ)からなる積層膜を20回繰返して形成し、さらに最上層に50ÅのRu膜を形成して実験を行っている。また基板温度を40℃あるいは125℃として、Ruの膜厚Xと、飽和磁界(Saturation Field)(Hs)との関係を求めている。
図22に示すように、Ruの膜厚が10Å程度までは飽和磁界(Hs)は非常に大きな値となっているが、熱処理を施すと、Ruの膜厚が5Å以下では、前記飽和磁界(Hs)がほぼ0(kOe)程度にまで小さくなることがわかっている。
この実験結果から、磁場中熱処理を施したとき、Ruの膜厚が0Åよりも大きく、5Å以下、あるいは10Å以上で13Å以下であれば、飽和磁界(Hs)は非常に小さくなり、強磁性層28と第1磁性層26の両側端部S間により効果的に強磁性的な結合を生じさせることができることがわかった。
上記の実験では、Ru膜の上下をCoで挟んだ膜構成となっていることから、非磁性層27にRuを選択し、さらに強磁性層28及び第1磁性層26の非磁性層27と接する界面にCo層あるいはCoFe層等のCoを主成分とする層が形成されているとき、前記非磁性層27の両側端部27aの好ましい膜厚を0Åよりも大きく5Å以下、あるいは10Å以上で13Å以下の範囲と規定した。
図23は、「S.S.P.Parkin:``Systematic Variation of the Strength and Oscillation Period of indirect Magnetic Exchange Coupling through the 3d,4d,and 5d Transition Metals”,Physical Review Letters ,Vol.67,No.25(1991),P3598〜3601」のFig.2のグラフと同じものである。
この文献では、Co/V、Co/Mo及びCo/Rhからなる積層膜を複数回繰返して形成し、そのときのV、Mo及びRhの膜厚と飽和磁界(Saturation Field)(Hs)との関係について調べている。なお実験では熱処理を施していない。
図23(a)及び(b)のように、非磁性層27にVやMoを選択した場合は、膜厚を約5Å以下とする範囲などを選択すれば飽和磁界(Hs)をほぼ0(kOe)にできることがわかるが、VやMoは耐酸化性が悪く、適切に第1磁性層26表面を酸化から防止することが難しい。このため本発明では前記非磁性層27にVやMoを選択することは、あまり好ましくない。
一方図23(c)では、非磁性層27にRhを選択しており、RhはRuなどと同様に耐酸化性に優れた材質である。図23(c)ではRhの膜厚を0Åよりも大きく4Å以下、あるいは10Å以上で14Å以下にすれば、飽和磁界(Hs)は非常に小さくなり、この膜厚範囲のRhを使用すれば強磁性層28と第1磁性層26の両側端部S間に強磁性的な結合を効果的に生じさせることができることがわかる。
上記の実験では、Rh膜の上下をCoで挟んだ膜構成となっていることから、非磁性層27にRhを選択し、さらに強磁性層28及び第1磁性層26の非磁性層27と接する界面にCo層あるいはCoFe等のCoを主成分とした層が形成されているとき、前記非磁性層27の両側端部27aの好ましい膜厚を0Åよりも大きく4Å以下、あるいは10Å以上で14Å以下の範囲と規定した。
図24は、「D.H.Mosca,F.Petroff,A.Fert,P.A.Schroeder,W.P.Pratt Jr.and R.Laloce,``Oscillatory interlayer Coupling and giant magnetoresistance in Co/Cu multilayer”Journal of Magnetism and Magnetic Materials Vol.94(1991),PL1〜L5」のFig.2のグラフと同じものである。
この文献では、Co(15Å)/Cuからなる積層膜を複数回繰返して形成し、そのときのCuの膜厚と抵抗変化率(MR RATIO)との関係について調べている。なお実験では熱処理を施していない。
図24に示すように、Cuの膜厚を0Åよりも大きく4Å以下、あるいは11Å以上で15Å以下にすれば、抵抗変化率は非常に小さくなることがわかる。この文献における実験で使用した積層膜は、マルチレイヤ型と呼ばれる層構造であり、簡単に言えば、Cuを介して対向するCo膜を互いに反平行状態に磁化させて抵抗変化率を得る構造である。したがってCuを介して対向するCo膜が共に同じ方向に磁化されているときは、抵抗変化率は非常に低くなってしまう。本発明では、非磁性層27を介して対向する第1磁性層26と強磁性層28とが互いに同じ方向に磁化される構造であるから、この図24におけるグラフにおいて、抵抗変化率が低いときのCuの膜厚を選択することとした。
上記したようにCuの膜厚を0Åよりも大きく4Å以下、あるいは11Å以上で15Å以下にすれば抵抗変化率は非常に小さくなり、この膜厚範囲のCuを使用すれば強磁性層28と第1磁性層26の両側端部S間に強磁性的な結合を効果的に生じさせることができることがわかる。
上記の実験では、Cu膜の上下をCoで挟んだ膜構成となっていることから、非磁性層27にCuを選択し、さらに強磁性層28及び第1磁性層26の非磁性層27と接する界面にCo層あるいはCoFe等のCoを主成分とする層が形成されているとき、前記非磁性層27の両側端部27aの好ましい膜厚を0Åよりも大きく4Å以下、あるいは11Å以上で15Å以下の範囲と規定した。
以上のように、非磁性層27の材質及び膜厚と、強磁性層28及び第1磁性層26の材質とを適切に選択することで、前記非磁性層27を挟んだ第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間で効果的に強磁性的な結合を生じさせることができ、より適切に前記第1磁性層26の磁化制御を行うことができる。
なお上記したように、「飽和磁界(Hs)」が大きくなる非磁性層27の膜厚範囲を選択すると、前記強磁性層28の磁化と第1磁性層26の両側端部Sの磁化を反平行状態にできるが、本発明では、このように反平行状態になる非磁性層27の膜厚範囲を選択しなかった理由は、かかる場合、第1磁性層26の保磁力Hcが非常に大きくなり、前記第1磁性層26の磁化制御が困難になるからである。このため本発明では、前記強磁性層28と第1磁性層26の両側端部S間の結合を強磁性的な結合にして、強磁性層28及び第1磁性層26の両側端部Sの磁化を共に同じ方向に向けさせることができる非磁性層27の膜厚範囲を選択し、前記第1磁性層26の磁化制御をより適切に行えるようにしている。
以上、詳述した図1に示すように本発明では、前記非磁性層27の両側端部27aを一部残しているから、第1磁性層26の両側端部Sがイオンミリングのダメージを受けることがなく、前記第1磁性層26の磁気特性を劣化させるといった問題が生じない。
また前記非磁性層27の両側端部27aの膜厚を非常に薄い膜厚で残すことができるのは、低エネルギーのイオンミリングを使用できるからである。元々、前記非磁性層27は成膜段階で薄い膜厚で、好ましくは3Å〜20Å、より好ましくは3Å〜10Åで形成されている。このため低エネルギーのイオンミリングであっても十分に前記非磁性層27の膜厚調整をすることができ、低エネルギーであるからミリングレートは、高エネルギーの場合に比べて遅く、非磁性層27の途中まで削った段階でミリングを止めるように制御することも比較的簡単に行える。
従って図1のように本発明では、前記第1磁性層26の両側端部S上に一部、非磁性層27を残すことができ、従来のように第1磁性層26がイオンミリングなどで削られるといったことがなく、第1磁性層26がイオンミリングによるダメージによって磁気特性が劣化するといった問題は発生しない。
本発明では、前記第1磁性層26の両側端部S上に上記した膜厚範囲の非磁性層27を介して強磁性層28を形成することで、前記第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間に効果的に強磁性的な結合を生じさせることができ、狭トラック化においても適切に第1磁性層26の磁化制御を行うことができ、狭トラック化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能になっている。
次に本発明では、前記強磁性層28の膜厚t6は2Å以上で50Å以下で形成されることが好ましい。
本発明ではこのように前記強磁性層28を薄く形成しても、前記第1磁性層26の両側端部Sとの間で強磁性的な結合を効果的に生じさせることが可能である。それは、前記第1磁性層26の両側端部Sがイオンミリングの影響を受けずに、適切な磁気特性を保っているからであり、前記強磁性層28が上記した膜厚程度にまで薄く形成されることで、前記強磁性層28と第2反強磁性層29間で大きな交換結合磁界を生じさせることができるし、さらに前記強磁性層28の内側端部からの余分な静磁界が前記第1磁性層26の中央部Cに影響を及ぼし、前記第1磁性層26の感度を劣化させるといった問題も適切に抑制できる。
図2は本発明における実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
図2に示す磁気検出素子は図1に示す磁気検出素子の構造と異なって、前記非磁性層27の膜厚は、前記第1磁性層26の中央部C上でも両側端部S上でも一定の膜厚t7である。
前記非磁性層27の膜厚t7は、図18ないし図24で説明した非磁性層27の膜厚範囲であるとき、前記第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間に効果的に強磁性的な結合を生じさせることができ、前記第1磁性層26の磁化を前記強磁性層28の磁化と同一方向に強固に固定することができる。
なお図2に示す磁気検出素子は2通りの方法で形成される。一つ目は、非磁性層27を全くイオンミリングしない場合である。かかる場合、非磁性層27の成膜段階で前記非磁性層27の膜厚t7を3Å以上で、且つ図18ないし図24で説明した膜厚範囲とする。
なお前記非磁性層27の膜厚t7の最小値を3Åとしたのは、この程度の膜厚がないと、適切に第1磁性層26を酸化から防止できないからである。
二つ目は、図2に示す下地層22から非磁性層27までを成膜した後、前記非磁性層27表面を一律にイオンミリングする。かかる場合、成膜段階での前記非磁性層27の膜厚は3Å以上で20Å以下、より好ましくは3Å以上で10Å以下である。そしてイオンミリングによって、前記非磁性層27の膜厚t7を図18ないし図24で説明した膜厚範囲とする。製法については後で図面を参照しながら詳しく説明する。
図2では、図1と非磁性層27の形態が異なるのみで、他の層の材質や膜厚等は同じであるから、他の層の詳細な説明に関しては図1を参照されたい。
図3は、本発明における実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
図3は図1と電極層30の形状が異なるのみで他の層の構成は全く同じである。図3では、前記電極層30が前記第2反強磁性層29の内側端部29a上の途中から形成されており、前記電極層30の内側先端部30b間におけるトラック幅方向(図示X方向)における間隔が前記第2反強磁性層29の内側先端部29b間におけるトラック幅方向(図示X方向)の間隔よりも広くなっている。
あるいは図3に示す点線で示すように、前記電極層30の内側端面30aが前記第1磁性層26の中央部C上に形成された非磁性層27の中央部27b上にまで延びて形成され、前記電極層30の内側先端部30b間の間隔が、前記第2反強磁性層29の内側先端部29b間の間隔より狭くなっていてもよい。かかる場合、トラック幅Twは前記電極層30の内側先端部30b間の間隔で規定される。
なお図3では、図1と電極層30の形態が異なるのみで、他の層の材質や膜厚等は同じであるから、他の層の詳細な説明については関しては図1を参照されたい。
図4は参考例の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
図4では、下部シールド層20上に下部ギャップ層21、下地層22、第1反強磁性層23、固定磁性層24、非磁性材料層25、第1磁性層26及び非磁性層27が積層形成されている。各層の材質は図1で説明したものと同じである。
図4に示す形態では、前記非磁性層27の両側端部27a上に強磁性層28が形成され、前記強磁性層28上に第2反強磁性層29が形成されている。さらに前記第2反強磁性層29上にはTaなどで形成された保護層(中間層)35を介して電極層30が形成されている。前記保護層35は形成されていなくてもよい。
図4に示す形態では前記強磁性層28間の下面の間隔でトラック幅Twが規定される。前記トラック幅Twは0.2μm以下で形成されることが好ましい。また前記電極層30の両側端面30aは一点鎖線で示すように、第1磁性層26の中央部C上に形成された非磁性層27の中央部27b上にまで延ばされて形成されていてもよい。かかる場合、前記電極層30の下面間のトラック幅方向(図示X方向)への間隔がトラック幅Twとして規定される。また前記電極層30の内側端面30aは、点線で示すように、中間層35の途中から形成され、前記電極層30の内側端面30a間の間隔が、前記第2反強磁性層29及び強磁性層28の内側端面間の間隔より広がっていてもよい。
図4に示す形態では、前記第1磁性層26の全面に一定の膜厚を有した非磁性層27が形成されている。なお前記非磁性層27の中央部27bの膜厚が両側端部27aの膜厚より薄くなっていてもよい。
前記非磁性層27は大気暴露によっても酸化されにくい材質であることが好ましく、さらに前記非磁性層27を構成する元素が、第1磁性層26や強磁性層28に拡散しても強磁性層としての性質を劣化しない材質であることが好ましい。具体的には前記非磁性層27は、Ru、Rh、Re、Pd、Os、Ir、Cr、Cu、Pt、Auのいずれか1種または2種以上の貴金属で形成されることが好ましい。
前記非磁性層27の膜厚について以下に説明する。
前記非磁性層27の膜厚は、前記非磁性層27がRuで形成され、第1磁性層26及び強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、0Åより大きく6Å以下で形成されることが好ましい。
前記非磁性層27の膜厚は、前記非磁性層27がCrで形成され、第1磁性層26及び強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、0Åより大きく8Å以下で形成されることが好ましい。
また、前記非磁性層27の膜厚は、前記非磁性層27がIrで形成され、第1磁性層26及び強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、0Åより大きく2.5Å以下で形成されることが好ましい。
また、前記非磁性層27の膜厚は、前記非磁性層27がRhで形成され、第1磁性層26及び強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、0Åより大きく3Å以下で形成されることが好ましい。
また、前記非磁性層27の膜厚は、前記非磁性層27がRuで形成され、第1磁性層26及び強磁性層28が非磁性層27と接する界面にCoを主成分とする層を有するとき、0Åより大きく5Å以下あるいは10Å以上で13Å以下で形成されることが好ましい。
また、前記非磁性層27の膜厚は、前記非磁性層27がRhで形成され、第1磁性層26及び強磁性層28が非磁性層27と接する界面にCoを主成分とする層を有するとき、0Åより大きく4Å以下あるいは10Å以上で14Å以下で形成されることが好ましい。
さらには前記非磁性層27の膜厚は、前記非磁性層27がCuで形成され、第1磁性層26及び強磁性層28が非磁性層27と接する界面にCoを主成分とする層を有するとき、0Åより大きく4Å以下あるいは11Å以上で15Å以下で形成されることが好ましい。
特に前記非磁性層27の両側端部27aの膜厚が、上記した非磁性層27の膜厚範囲内にあるように適切に調整されて、前記非磁性層27が形成されている。
上記の膜厚範囲内で形成された非磁性層27であれば、前記第1磁性層26の両側端部Sと前記強磁性層28間に前記非磁性層27を介して強磁性的な結合が効果的に生じ、前記第1磁性層26の両側端部Sの磁化は、前記強磁性層28の磁化方向と同一方向に強固に固定される。
前記強磁性層28は第2反強磁性層29との間で発生する交換結合磁界によってトラック幅方向(図示X方向)に磁化固定され、第1磁性層26の両側端部Sは、前記強磁性層28との強磁性的な結合によってトラック幅方向(図示X方向)に磁化固定される。一方、前記第1磁性層26の中央部Cの磁化は外部磁界に対し磁化反転できる程度に弱く単磁区化された状態になりフリー磁性層として機能する。
図4に示す形態は、図1ないし図3に示す実施形態と異なって、第2反強磁性層29及び強磁性層28の内側端部29a、28aは、下部シールド層20表面に対して垂直(図示Z方向)に近い方向に延びて形成されている。このような形状の違いは、後述するように製造方法の違いに起因するものである。
なお図4においても図1ないし3と同様に、前記第2反強磁性層29及び強磁性層28の内側端部29a、28aを、内側端部間の間隔が下面から上面に向うにしたがって徐々に広がる傾斜面あるいは湾曲面で形成することもできる。
以下、図4と同じ製造方法を用いて形成された他の実施形態の磁気検出素子の構造について説明する。
図5は、参考例の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
図5に示す磁気検出素子の構造は図4と異なって、非磁性層27の中央部27b上にも強磁性層28が形成されている。
ただし前記非磁性層27の中央部27b上に形成された強磁性層28の上には第2反強磁性層29は形成されていないので、中央部Cに形成された前記強磁性層28は強固に磁化固定されておらず、従って前記中央部Cの強磁性層28の磁化は外部磁界に対し磁化反転できる程度に弱く単磁区化された状態になっている。
この図5における形態でも図4と同様に、前記強磁性層28の両側端部Sと第1磁性層26の両側端部S間が非磁性層27の両側端部27aを介して強磁性的に結合し、前記第1磁性層26の両側端部Sの磁化は、前記強磁性層28の両側端部Sの磁化方向と同一方向に強固に固定された状態になっている。
一方、前記第1磁性層26の中央部Cの磁化は、強磁性層28の中央部Cの磁化方向と同じ方向に外部磁界に対し感度良く反転できる程度に弱く単磁区化されたフリー磁性層として機能し、図示Y方向からの外部磁界の侵入によって、前記第1磁性層26と強磁性層28の中央部Cとが共に磁化反転して記録信号が再生されるようになっている。
なお前記中央部Cに形成された強磁性層28の膜厚は、両側端部Sに形成された強磁性層28の膜厚と同じであってもよいし、あるいは薄く形成されていてもよい。
なお前記非磁性層27の材質、および膜厚等に関しては図4と同じであるのでそちらを参照されたい。
図6は参考例の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
図6では、前記非磁性層27上の全面に一定膜厚の強磁性層28が形成され、さらに前記非磁性層27の中央部27b上にも前記強磁性層28を介して薄い膜厚の第2反強磁性層29が形成されている。
前記中央部Cに形成された前記第2反強磁性層29の膜厚t2は、そのトラック幅方向の両側端部Sに形成された第2反強磁性層29の膜厚に比べて薄い膜厚であるが形成されている。
前記中央部Cに形成された第2反強磁性層29の膜厚t2が薄く形成されていることで、前記第2反強磁性層29の中央部Cと強磁性層28の中央部C間では交換結合磁界が発生せず、あるいは発生してもその値は小さく、前記強磁性層28の中央部Cの磁化がトラック幅方向(図示X方向)に強固に固定されることはない。
前記第2反強磁性層29の中央部Cに残された膜厚t2は、50Å以下、好ましくは30Å以下で形成されることが好ましい。これ以上、膜厚が厚く形成されると、前記第2反強磁性層29の中央部Cと強磁性層28の中央部C間で大きな交換結合磁界が発生する結果、前記強磁性層28の中央部Cの磁化がトラック幅方向(図示X方向)に強固に固定され、前記強磁性層28の中央部Cと第1磁性層26の中央部C間の強磁性的な結合によって前記第1磁性層26の中央部Cの磁化がトラック幅方向(図示X方向)に強固に固定されやすく、再生感度が低下するからである。
なお図6における形態でも図4及び図5と同様に、前記強磁性層28の両側端部Sと第1磁性層26の両側端部S間が非磁性層27を介して強磁性的に結合し、前記第1磁性層26の両側端部Sの磁化は、前記強磁性層28の両側端部Sの磁化方向と同一方向に強固に固定された状態になっている。
また前記非磁性層27の材質、および膜厚等に関しては図4と同じであるのでそちらを参照されたい。
図4ないし図6に示す実施形態の磁気検出素子は、後述する製造方法で説明するように、磁気検出素子の中央部Cをイオンミリングや反応性イオンエッチング(RIE)などで削って形成されている。前記磁気検出素子の中央部Cをどこまで削るかによって形態が図4ないし図6のように変わる。
図4ないし図6では、前記第1磁性層26の両側端部S上に非磁性層27が形成され、この上に強磁性層28が形成されており、前記第1磁性層26の両側端部Sがイオンミリングによるダメージを受けることはない。本発明では、Ruなどで形成された非磁性層27は成膜段階から非常に薄い膜厚(3Å以上で20Å以下であることが好ましい。より好ましくは3Å以上で10Å以下である。)で形成されており、前記非磁性層27の膜厚をイオンミリングによって調整する段階において、低エネルギーのイオンミリングを用いることができ、よって前記非磁性層27が一部残るように、ミリング制御をしやすく、図4ないし図6のように、第1磁性層26の両側端部S上に非磁性層27を一部残すことが容易に且つ適切に行うことができる。なお後述する製造方法で説明するように、非磁性層27に対してイオンミリングを行わない場合もある。
以上詳述した本発明では、図1ないし図3に示す磁気検出素子は、同じ製造工程を用いて製造されたものであり、一方、図4ないし図6に示す磁気検出素子は、図1ないし図3とは異なる製造方法で形成された構造である。製造方法が図1ないし図3と図4ないし図6とでは異なるものの、図1ないし図6に示す磁気検出素子の全ての構造で共通する部分は、第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間に非磁性層27が介在し、前記第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間に強磁性的な結合が発生している点である。
次に本発明における第1磁性層26の形態について説明する。
図1ないし図6に示す磁気検出素子では、すべて第1磁性層26は2層構造であり、非磁性材料層25と接する側の層が、CoFeやCoなどの拡散防止層26aとなっている。磁性材料層26bはNiFe合金などの磁性材料で形成されている。
前記第1磁性層26は磁性材料の単層で形成されていてもよい。磁性材料としてはNiFe合金、CoFe合金、CoFeNi合金、Co、CoNi合金などを選択できる。このうち特に前記第1磁性層26をCoFeNi合金で形成することが好ましい。
図7は、前記第1磁性層26の部分を中心に図示した部分拡大断面図である。断面は記録媒体との対向面側から見ている。
図7に示す形態では第1磁性層26は3層構造である。前記第1磁性層26を構成する符号36、37、38の各層はすべて磁性材料の層であり、磁性材料層36は、非磁性材料層25との間で元素の拡散を防止するための拡散防止層である。前記磁性材料層36はCoFeやCoなどで形成される。
磁性材料層38は、非磁性層27と接して形成されている。前記磁性材料層38は、CoFe合金で形成されることが好ましく、これによって前記非磁性層27を介して対向する強磁性層28と前記磁性材料38間で生じる強磁性的な結合を強くできる。
図7に示す3層構造の材質の組合わせとしては、例えば磁性材料層36:CoFe/磁性材料層37:NiFe/磁性材料層38:CoFeを提示できる。
磁性材料のみで形成された第1磁性層26の膜厚は30Å〜40Å程度で形成されることが好ましい。また第1磁性層26に使用されるCoFe合金の組成比は、例えばCoが90at%、Feが10at%である。
図8は、前記第1磁性層26の別の実施形態を示す部分拡大断面図である。図8に示す第1磁性層26は積層フェリ構造と呼ばれる構造である。これにより第1磁性層26の物理的な厚みを極端に薄くすることなしに磁気的な実効的第1磁性層26の膜厚を薄くでき、外部磁界に対する感度を向上させることができる。
符号39、41の層は磁性層であり、符号40の層は非磁性中間層である。磁性層39および磁性層41は、例えばNiFe合金、CoFe合金、CoFeNi合金、Co、CoNi合金などの磁性材料で形成される。このうち特に前記磁性層39及び/または磁性層41は、CoFeNi合金で形成されることが好ましい。組成比としては、Feが9at%以上で17at%以下、Niが0.5at%以上で10at%以下、残りがCoのat%であることが好ましい。
これにより前記磁性層39、41間に働くRKKY相互作用による反平行結合磁界を大きくできる。具体的にはスピンフロップ磁界(Hsf)を約293(kA/m)以上にできる。以上により、磁性層39と磁性層41との磁化を適切に反平行状態にできる。また上記した組成範囲内であると、第1磁性層26の磁歪を−3×10−6から3×10−6の範囲内に収めることができ、また保磁力を790(A/m)以下に小さくできる。
さらに、前記第1磁性層26の軟磁気特性の向上、非磁性材料層25間でのNiの拡散による抵抗変化量(ΔR)や抵抗変化率(ΔR/R)の低減の抑制を適切に図ることが可能である。
また前記非磁性中間層40は、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種または2種以上で形成されることが好ましい。
前記磁性層39の膜厚は例えば35Å程度で、非磁性中間層40は例えば9Å程度で、前記磁性層41の膜厚は例えば15Å程度で形成される。
また前記磁性層39と非磁性材料層25との間には、CoFe合金やCoで形成された拡散防止層が設けられていてもよい。さらには、前記磁性層41と非磁性層27間にCoFe合金で形成された磁性層が介在していてもよい。
かかる場合、磁性層39及び/または磁性層41がCoFeNi合金で形成されるとき、前記CoFeNi合金のFeの組成比は7原子%以上で15原子%以下で、Niの組成比は5原子%以上で15原子%以下で、残りの組成比はCoであることが好ましい。
これにより前記磁性層39、41間で発生するRKKY相互作用における交換結合磁界を強くすることができる。具体的には、スピンフロップ磁界(Hsf)を約293(kA/m)にまで大きくすることができる。よって磁性層39、41の磁化を適切に反平行状態にすることができる。
また上記した組成範囲内であると、第1磁性層26の磁歪を−3×10−6から3×10−6の範囲内に収めることができ、また保磁力を790(A/m)以下に小さくできる。さらに、前記第1磁性層26の軟磁気特性の向上を図ることができる。
なお図8に示す第1磁性層26の形態を用いて図4ないし図6に示す各磁気検出素子を構成した場合、中央部Cの掘り込み深さを非磁性層27を除去した後、さらに中央部Cから露出する磁性層41を完全に除去し、非磁性中間層40が前記中央部Cから露出するようにしてもよい。なお前記非磁性中間層40は一部除去されていてもよい。かかる場合、第1磁性層26の中央部Cは積層フェリ構造ではなく、磁性層39のみの通常のフリー磁性層として機能し、一方、第1磁性層26の両側端部Sでは積層フェリ構造として機能し、一方向性交換バイアス磁界が増強し、より確実に第1磁性層26の両側端部Sをトラック幅方向(図示X方向)に固定させ、サイドリーディングの発生を抑制することができる。
図9は本発明における第1磁性層26の別の形態を示す部分拡大断面図である。図9に示す第1磁性層26には、磁性材料層42、44間にスペキュラー膜43が形成されている。前記スペキュラー膜43には、図9に示すように欠陥部(ピンホール)Gが形成されていてもよい。また図9に示す実施形態ではスペキュラー膜(鏡面反射層)43を挟んだ磁性材料層42及び磁性材料層44は同じ方向(矢印方向)に磁化されている。
磁性材料層42、44にはNiFe合金、CoFe合金、CoFeNi合金、Co、CoNi合金などの磁性材料が使用される。
図9のようにスペキュラー膜43が第1磁性層26内に形成されていると前記スペキュラー膜43に達した伝導電子(例えばアップスピンを持つ伝導電子)は、そこでスピン状態(エネルギー、量子状態など)を保持したまま鏡面反射する。そして鏡面反射した前記アップスピンを持つ伝導電子は、移動向きを変えてフリー磁性層内を通り抜けることが可能になる。
このため本発明では、スペキュラー膜43を設けることで、前記アップスピンを持つ伝導電子の平均自由行程λ+を従来に比べて伸ばすことが可能になり、よって前記アップスピンを持つ伝導電子の平均自由行程λ+と、ダウンスピンを持つ伝導電子の平均自由行程λ−との差を大きくすることができ、従って抵抗変化率(ΔR/R)の向上とともに、再生出力の向上を図ることが可能になる。
前記スペキュラー膜43の形成は、例えば磁性材料層42までを成膜し、前記磁性材料層42表面を酸化する。この酸化層をスペキュラー膜43として機能させることができる。そして前記スペキュラー膜43上に磁性材料層44を成膜する。
前記スペキュラー膜43の材質としては、Fe−O、Ni−O、Co−O、Co−Fe−O、Co−Fe−Ni−O、Al−O、Al−Q−O(ここでQはB、Si、N、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Niから選択される1種以上)、R−O(ここでRはCu、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上)の酸化物、Al−N、Al−Q−N(ここでQはB、Si、O、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Niから選択される1種以上)、R−N(ここでRはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上)の窒化物、半金属ホイッスラー合金などを提示できる。
図10は本発明における第1磁性層26の別の形態を示す部分拡大断面図である。
図10に示す第1磁性層26は、磁性層45上にバックド層46が形成されている。前記バックド層46は例えばCuやTaなどで形成される。前記磁性層45はNiFe合金、CoFe合金、CoFeNi合金、Co、CoNi合金などの磁性材料で形成される。
前記バックド層46が形成されることによって、磁気抵抗効果に寄与するアップスピンの伝導電子(上向きスピン:up spin)における平均自由工程(mean free path)を延ばし、いわゆるスピンフィルター効果(spin filter effect)によりスピンバルブ型磁気素子において、大きな抵抗変化率が得られ、高記録密度化に対応できるものとなる。
図11ないし図13は図1に示す磁気検出素子の製造方法を示す一工程図である。図11ないし図13に示す各工程は記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
図11に示す工程では、例えばNiFe系合金などの磁性材料からなる下部シールド層20上に、Al2O3などの絶縁材料からなる下部ギャップ層21を形成し、前記下部ギャップ層21上に、下地層22、第1反強磁性層23、固定磁性層24、非磁性材料層25、第1磁性層26、非磁性層27を連続成膜する。成膜にはスパッタや蒸着法が使用される。図11に示す固定磁性層24は、例えばCoFe合金などで形成された磁性層24aと磁性層24cと、両磁性層24a、24c間に介在するRuなどの非磁性の中間層24bとの積層フェリ構造である。前記第1磁性層26は、CoFe合金などの拡散防止層26aとNiFe合金などの磁性材料層26bとの積層構造である。
本発明では前記第1反強磁性層23を、PtMn合金、または、X―Mn(ただしXは、Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金で、あるいはPt―Mn―X′(ただしX′は、Pd,Ir,Rh,Ru,Au,Ag,Os,Cr,Ni,Ar,Ne,Xe,Krのいずれか1または2種以上の元素である)合金で形成することが好ましい。
また前記PtMn合金及び前記X−Mnの式で示される合金において、PtあるいはXが37〜63at%の範囲であることが好ましい。また、前記PtMn合金及び前記X−Mnの式で示される合金において、PtあるいはXが47〜57at%の範囲であることがより好ましい。特に規定しない限り、〜で示す数値範囲の上限と下限は以下、以上を意味する。
また、Pt−Mn−X’の式で示される合金において、X’+Ptが37〜63at%の範囲であることが好ましい。また、前記Pt−Mn−X’の式で示される合金において、X’+Ptが47〜57at%の範囲であることがより好ましい。さらに、前記Pt−Mn−X’の式で示される合金において、X’が0.2〜10at%の範囲であることが好ましい。ただし、X’がPd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である場合には、X’は0.2〜40at%の範囲であることが好ましい。
また本発明では前記第1反強磁性層23の膜厚を80Å以上で300Å以下で形成することが好ましい。この程度の厚い膜厚で前記第1反強磁性層23を形成することにより磁場中アニールで、前記第1反強磁性層23と固定磁性層24間に大きな交換結合磁界を発生させることができる。具体的には、48kA/m以上、例えば64kA/mを越える交換結合磁界を発生させることができる。
図11工程では前記第1磁性層26上に非磁性層27を形成することで、図11に示す積層体が大気暴露されても前記第1磁性層26が酸化されるのを適切に防止できる。
ここで前記非磁性層27は大気暴露によって酸化されにくい緻密な層である必要がある。また熱拡散などにより前記非磁性層27を構成する元素が第1磁性層26内部に侵入しても強磁性材料層としての性質を劣化させない材質である必要がある。
本発明では前記非磁性層27をRu、Re、Pd、Os、Ir、Rh、Cr、Cu、Pt、Auのいずれか1種または2種以上からなる貴金属で形成することが好ましい。
Ruなどの貴金属からなる非磁性層27は大気暴露によって酸化されにくい緻密な層である。したがって前記非磁性層27の膜厚を薄くしても第1磁性層26が大気暴露によって酸化されるのを適切に防止できる。
本発明では前記非磁性層27を3Å以上で20Å以下で形成することが好ましい。より好ましくは3Å以上で10Å以下である。この程度の薄い膜厚の非磁性層27によっても適切に前記第1磁性層26が大気暴露によって酸化されるのを適切に防止することが可能である。
本発明では上記のように前記非磁性層27をRuなどの貴金属で形成し、しかも前記非磁性層27を3Å〜20Å程度、より好ましくは3Å〜10Å程度の薄い膜厚で形成したことに特徴点がある。このように薄い膜厚で前記非磁性層27を形成したことによって図12工程でのイオンミリングを低エネルギーで行うことができミリング制御を従来に比べて向上させることができる。またこれら非磁性層27を構成する非磁性元素が、前記第1磁性層26や強磁性層28に熱拡散しても、第1磁性層26や強磁性層28の磁気特性を劣化させるものではない。上記の点については図12工程で詳しく説明する。
図11に示すように下部シールド層20上に非磁性層27までの各層を積層した後、第1の磁場中アニールを施す。トラック幅Tw(図示X方向)と直交する方向である第1の磁界(図示Y方向)を印加しつつ、第1の熱処理温度で熱処理し、第1の反強磁性層23と固定磁性層24を構成する磁性層24aとの間に交換結合磁界を発生させて、前記磁性層24aの磁化を図示Y方向に固定する。もう一方の磁性層24cの磁化は、前記磁性層24aとの間で働くRKKY相互作用による交換結合によって図示Y方向とは逆方向に固定される。なお例えば前記第1の熱処理温度を270℃とし、磁界の大きさを800k(A/m)とする。
また上記した第1の磁場中アニールによって、非磁性層27を構成するRuなどの貴金属元素が、第1磁性層26内部に拡散するものと考えられる。従って熱処理後における前記第1磁性層26の構成元素は第1磁性層26を構成する元素と貴金属元素とから構成される。また前記第1磁性層26内部に拡散した貴金属元素は、前記第1磁性層26の下面側よりも前記第1磁性層26の表面側の方が多く、拡散した貴金属元素の組成比は、前記第1磁性層26表面から下面に向うに従って徐々に減るものと考えられる。このような組成変調は、SIMS分析装置などで確認することが可能である。
次に図12に示す工程では前記非磁性層27の上面にレジスト層を形成し、このレジスト層を露光現像することによって図12に示す形状のレジスト層49を前記非磁性層27上に残す。前記レジスト層49は例えばリフトオフ用のレジスト層である。
次に前記レジスト層49に覆われていない前記非磁性層27の両側端部27aを、図12に示す矢印H方向からのイオンミリングで一部削る(図12に示す点線部分の非磁性層27が除去される)。
ここで前記非磁性層27の両側端部27aを一部削る理由は、非磁性層27表面に吸着した有機物等の不純物を取り除くためと、できる限り前記両側端部27aの膜厚を薄くして、次工程で前記両側端部27a上に形成される強磁性層28と第1磁性層26の両側端部Sとの間で強磁性的な結合を生じさせ、前記第1磁性層26の両側端部Sの磁化を、前記強磁性層27の磁化方向と同一方向に強固に固定するためである。
本発明では、このイオンミリング工程で、前記非磁性層27の両側端部27aの膜厚を以下のように設定することが好ましい。
本発明では、前記非磁性層27をRuで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、前記非磁性層27の両側端部27aを0Åより大きく6Å以下で形成することが好ましい。
また本発明では、前記非磁性層27をCrで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、前記非磁性層27の両側端部27aを0Åより大きく8Å以下で形成することが好ましい。
また本発明では、前記非磁性層27をIrで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、前記非磁性層27の両側端部27aを0Åより大きく2.5Å以下で形成することが好ましい。
また本発明では、前記非磁性層27をRhで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、前記非磁性層27の両側端部27aを0Åより大きく3Å以下で形成することが好ましい。
また本発明では、前記非磁性層27をRuで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にCoを主成分とする層を有するとき、前記非磁性層27の両側端部27aを0Åより大きく5Å以下あるいは10Å以上で13Å以下で形成することが好ましい。
また本発明では、前記非磁性層27をRhで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にCoを主成分とする層を有するとき、前記非磁性層27の両側端部27aを0Åより大きく4Å以下あるいは10Å以上で14Å以下で形成することが好ましい。
また本発明では、前記非磁性層27をCuで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にCoを主成分とする層を有するとき、前記非磁性層27の両側端部27aを0Åより大きく4Å以下あるいは11Å以上で15Å以下で形成することが好ましい。
上記の膜厚範囲内に前記非磁性層27の両側端部27aを形成することにより、前記第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間に強磁性的な結合を生じさせることが可能になる。なおここで言う「強磁性的な結合」とは、非磁性層27を介した第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間におけるRKKY的な強磁性結合や、非磁性層27に形成されたピンホールなどの欠陥部を介した前記第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間の直接的な交換相互作用により、前記第1磁性層26の両側端部Sが前記強磁性層28の磁化方向と同一方向に磁化されることを意味する。
図12に示すイオンミリング工程では、低エネルギーのイオンミリングを使用できる。その理由は、前記非磁性層27が成膜段階で3Å〜20Å程度、より好ましくは3Å〜10Å程度の非常に薄い膜厚で形成されているからである。
これに対し、例えば図26に示す従来例のようにTa膜9を使用すると、このTa膜9自体、大気暴露によって酸化されるので、30Å〜50Å程度の厚い膜厚で形成しないと、十分にその下の層を酸化から保護できず、しかも前記Ta膜9は酸化によって体積が大きくなり、前記Ta膜9の膜厚は約50Å以上にまで膨れ上がる。
このような厚い膜厚のTa膜9をイオンミリングで除くには、高エネルギーのイオンミリングで前記Ta膜9を除去する必要があり、高エネルギーのイオンミリングを使用すると、Ta膜9のみが除去されるようにミリング制御することは非常に難しく、その下に形成されているフリー磁性層5表面も一部削られ、前記フリー磁性層5表面がイオンミリングによるダメージを受けてしまうのである。
本発明では、Ruなどで形成された非磁性層27は3Å〜20Å程度、より好ましくは3Å〜10Å程度の薄い膜厚であっても、第1磁性層26が酸化されるのを十分に防止でき、低エネルギーのイオンミリングによって前記非磁性層27の途中でミリングを止めるようにミリング制御しやすい。
このように本発明では低エネルギーのイオンミリングを使用でき、従来に比べてミリング制御を向上させることができるのである。
なおミリング時間は20秒から60秒程度、ミリング角度は、下部シールド層20表面の垂直方向に対し30°から70°、好ましくは40°から60°傾いた角度で行うことが好ましい。これにより前記非磁性層27の両側端部27aを、上記した膜厚範囲内に適切に収めやすくすることができる。
なお前記非磁性層27の中央部27bはその上にレジスト層49が形成され、イオンミリングされることはないから、前記中央部27bの膜厚は成膜段階の膜厚で残される。
次に図13工程を施す。図13工程では、前記非磁性層27の両側端部27a上に強磁性層28、第2反強磁性層29、電極層30を連続成膜する。成膜にはスパッタや蒸着法を使用できる。成膜された前記強磁性層28の内側端部28a、第2反強磁性層29の内側端部29a及び電極層30の内側端部30aは、下面から上面に向うにしたがって(図示Z方向)、徐々に前記内側端部の間隔が広がる傾斜面あるいは湾曲面で形成される。
またこの実施形態では前記強磁性層28の下面間の間隔でトラック幅Twが規定される。
前記第2反強磁性層29に使用される材質は、第1反強磁性層23に使用される反強磁性材料と同じものであることが好ましい。
また前記第2反強磁性層29の膜厚は80Å以上で500Å以下程度の厚い膜厚で形成されることが好ましい。前記第2反強磁性層29と強磁性層28間に適切な大きさの交換結合磁界を生じさせることができるからである。
図13に示すように電極層30まで積層形成した後、前記強磁性層28を構成する元素からなる強磁性材料の層28b、第2反強磁性層29を構成する元素からなる反強磁性材料の膜29c及び電極層30を構成する元素からなる電極材料の膜30cが付着した前記レジスト層49をリフトオフで除去する。
次に第2の磁場中アニールを施す。このときの磁場方向は、トラック幅方向(図示X方向)である。なおこの第2の磁場中アニールは、第2の印加磁界を、第1反強磁性層23の交換異方性磁界よりも小さく、しかも熱処理温度を、前記第1反強磁性層23のブロッキング温度よりも低くする。これによって前記第1反強磁性層23の交換異方性磁界の方向をハイト方向(図示Y方向)に向けたまま、前記第2反強磁性層29の交換異方性磁界をトラック幅方向(図示X方向)に向けることができる。なお第2の熱処理温度は例えば250℃であり、磁界の大きさは24k(A/m)である。
図13に示すように、前記強磁性層28上に第2反強磁性層29が形成され、上記した第2の磁場中アニールを施すことにより、前記強磁性層28と第2反強磁性層29間に交換結合磁界が発生し、前記強磁性層28がトラック幅方向(図示X方向)に磁化固定される。これによって前記第1磁性層26の両側端部Sの磁化は前記強磁性層28との間の強磁性的な結合によって前記強磁性層28と同じ磁化方向に強固に固定される。
一方、前記強磁性層28及び第2反強磁性層29は前記第1磁性層26の両側端部S上にのみ設けられ、前記第1磁性層26の中央部C上には設けられていないから、前記第1磁性層26の中央部Cの磁化が強固に固定されるといったことはなく、前記第1磁性層26の中央部Cの磁化は外部磁界に対し磁化反転可能な程度に弱くトラック幅方向(図示X方向)に単磁区化され、フリー磁性層として機能する。
また図13工程では、前記強磁性層28を2Å以上で50Å以下で形成することが好ましい。
本発明では、前記第1磁性層26の両側端部Sは、図12工程でのイオンミリングのダメージを受けていないから前記第1磁性層26の両側端部Sは良好な磁気特性を保っており、したがって前記強磁性層28を上記した程度にまで薄く形成しても、前記強磁性層28との間で生じる強磁性的な結合を強いものにすることができる。このため本発明では前記強磁性層28の膜厚を従来に比べて厚く形成する必要性がないから、前記強磁性層28と第2反強磁性層29間で発生する交換結合磁界を十分に大きくできると共に、前記強磁性層28の内側端部28aから余分な静磁界が前記第1磁性層26の中央部Cに影響を及ぼすことを抑制でき、高記録密度化においても感度に優れた磁気検出素子を製造することが可能になっている。
また上記の第2の磁場中アニールで、非磁性層27を構成するRuなどの貴金属元素が、第1磁性層26及び強磁性層28に拡散するものと考えられる。従って熱処理後における前記第1磁性層26及び強磁性層28の構成元素は、強磁性材料層を構成する元素と貴金属元素とから構成される。また前記第1磁性層26及び強磁性層28内部に拡散した貴金属元素は、前記第1磁性層26の下面側よりも前記第1磁性層26の表面側の方が多く、強磁性層28の表面側よりも下面側の方が多い。拡散した貴金属元素の組成比は、前記第1磁性層26の表面から下面に向うに従って、及び強磁性層28の下面から表面に向うにしたがって従って徐々に減るものと考えられる。このような組成変調は、SIMS分析装置などで確認することが可能である。
上記のように本発明の製造方法によれば従来に比べて適切に第1磁性層26の磁化制御を行うことができ、狭トラック化においても再生感度に優れた磁気検出素子を製造することができる。
以上の製造工程によって図1に示す磁気検出素子を製造することが可能である。図2に示す磁気検出素子の製造方法は、図11工程の後、図12工程に示すレジスト層49を形成し、次に図13に示す工程を行う。すなわち図12工程でイオンミリング工程を施さない。
本発明では、図11工程で前記非磁性層27が、第1磁性層26表面を酸化から防止できる程度の膜厚で形成されると共に、前記第1磁性層26と強磁性層28間で強磁性的な結合を生じさせることができる程度の膜厚で形成されていれば、図12工程で、イオンミリングを行い、前記非磁性層27の両側端部27aを削って膜厚調整をする必要はない。
本発明では、前記第1磁性層26表面の酸化を適切に防止するため、前記非磁性層27を3Å以上の膜厚で形成することが好ましい。それとともに、図12工程で説明した非磁性層27の両側端部27aの好ましい膜厚範囲を確保できるように、図11工程で、前記非磁性層27の膜厚を調整しながら成膜する。
これによって、前記非磁性層27を図12工程でイオンミリングによって削らなくても、適切に第1磁性層26を酸化から防止できるとともに、前記第1磁性層26の両側端部Sと強磁性層28間で効果的に強磁性的な結合を生じさせることができ、前記第1磁性層26の磁化制御を適切に且つ容易に行うことが可能になる。
あるいは次のような方法で図2に示す磁気検出素子を製造することもできる。まず図11で非磁性層27まで積層する。このとき前記非磁性層27の膜厚は3Å〜20Å、3Å〜10Åであることが好ましい。次に前記非磁性層27表面を一律にイオンミリングする。このとき図12で説明した第1磁性層26の両側端部Sの好ましい膜厚範囲となるまで前記非磁性層27表面を削る。その後、図12でレジスト層49の形成、図13工程で、強磁性層28、第2反強磁性層29及び電極層30の形成を行う。
また図8に示す積層フェリ構造で第1磁性層26を形成した場合、図13工程後、電極層30上をレジストで覆い、あるいは電極層30そのものをマスク層として、前記レジスト間(電極層30間)から露出した非磁性層27、さらには第1磁性層26を構成する磁性層41までをイオンミリングで削ってもよい。これにより中央部Cでは非磁性中間層40が露出し、前記中央部Cでの第1磁性層26は1層の磁性層39がフリー磁性層として機能する。両側端部Sでは、前記第1磁性層26は積層フェリ構造を保ち、一方向性交換バイアス磁界が増強され、より確実に前記第1磁性層26の両側端部Sをトラック幅方向に固定でき、サイドリーディングの発生を抑制できる磁気検出素子を製造できる。
また図10に示すバックド層46を有する形態で第1磁性層26を形成する場合、図13工程後、電極層30上をレジストで覆い、あるいは電極層30そのものをマスク層として、前記レジスト間(あるいは電極層30間)から露出した非磁性層27をイオンミリングで削ってもよい。これにより中央部Cではバックド層46が露出する。
図14ないし図16に示す製造工程は図4ないし図6に示す磁気検出素子の製造方法を示す一工程図である。各図は記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
まず図14工程では、NiFe系合金などの磁性材料からなる下部シールド層20上に、Al2O3などの絶縁材料からなる下部ギャップ層21を形成し、さらに前記下部ギャップ層21上に下地層22、第1反強磁性層23、固定磁性層24、非磁性材料層25、第1磁性層26および非磁性層27を連続成膜する。成膜にはスパッタや蒸着法が使用される。図14に示す固定磁性層24は、例えばCoFe合金などで形成された磁性層24aと磁性層24cと、両磁性層24a、24c間に介在するRuなどの非磁性の中間層24bとの積層フェリ構造である。前記第1磁性層26は、CoFe合金などの拡散防止層26aとNiFe合金などの磁性材料層26bとの積層構造である。
本発明では前記第1反強磁性層23を、PtMn合金、または、X―Mn(ただしXは、Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金で、あるいはPt―Mn―X′(ただしX′は、Pd,Ir,Rh,Ru,Au,Ag,Os,Cr,Ni,Ar,Ne,Xe,Krのいずれか1または2種以上の元素である)合金で形成することが好ましい。
また前記PtMn合金及び前記X−Mnの式で示される合金において、PtあるいはXが37〜63at%の範囲であることが好ましい。また、前記PtMn合金及び前記X−Mnの式で示される合金において、PtあるいはXが47〜57at%の範囲であることがより好ましい。特に規定しない限り、〜で示す数値範囲の上限と下限は以下、以上を意味する。
また、Pt−Mn−X’の式で示される合金において、X’+Ptが37〜63at%の範囲であることが好ましい。また、前記Pt−Mn−X’の式で示される合金において、X’+Ptが47〜57at%の範囲であることがより好ましい。さらに、前記Pt−Mn−X’の式で示される合金において、X’が0.2〜10at%の範囲であることが好ましい。ただし、X’がPd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である場合には、X’は0.2〜40at%の範囲であることが好ましい。
また、前記第1反強磁性層23の膜厚を80Å以上で300Å以下で形成することが好ましい。この程度の厚い膜厚で前記第1反強磁性層23を形成することにより磁場中アニールで、前記第1反強磁性層23と固定磁性層24間に大きな交換結合磁界を発生させることができる。具体的には、48kA/m以上、例えば64kA/mを越える交換結合磁界を発生させることができる。
図14工程では、前記第1磁性層26上に非磁性層27を形成することで、図14に示す積層体が大気暴露しても前記第1磁性層26が酸化されるのを適切に防止できる。
ここで前記非磁性層27は大気暴露によって酸化されにくい緻密な層である必要がある。また熱拡散などにより前記非磁性層27が第1磁性層26内部に侵入しても強磁性材料層としての性質を劣化させない材質である必要がある。
前記非磁性層27をRu、Re、Pd、Os、Ir、Rh、Cr、Cu、Pt、Auのいずれか1種または2種以上からなる貴金属で形成することが好ましい。
Ruなどの貴金属からなる非磁性層27は大気暴露によって酸化されにくい緻密な層である。したがって前記非磁性層27の膜厚を薄くしても前記第1磁性層26が大気暴露によって酸化されるのを適切に防止できる。
図14の成膜段階において前記非磁性層27を3Å以上で20Å以下で形成することが好ましい。より好ましくは3Å以上で10Å以下である。この程度の薄い膜厚の非磁性層27によっても適切に前記第1磁性層26が大気暴露によって酸化されるのを適切に防止することが可能である。
上記のように前記非磁性層27をRuなどの貴金属で形成し、しかも前記非磁性層27を3Å〜20Å、より好ましくは3Å〜10Å程度の薄い膜厚で形成したことに特徴点がある。このように薄い膜厚で前記非磁性層27を形成したことによって次工程のイオンミリング制御を適切に且つ容易に行うことができるのである。
図14に示すように下部シールド層20上に非磁性層27までの各層を積層した後、第1の磁場中アニールを施す。トラック幅Tw(図示X方向)と直交する方向である第1の磁界(図示Y方向)を印加しつつ、第1の熱処理温度で熱処理し、第1の反強磁性層23と固定磁性層24を構成する磁性層24aとの間に交換結合磁界を発生させて、前記磁性層24aの磁化を図示Y方向に固定する。もう一方の磁性層24cの磁化は、前記磁性層24aとの間で働くRKKY相互作用による交換結合によって図示Y方向とは逆方向に固定される。なお例えば前記第1の熱処理温度を270℃とし、磁界の大きさを800k(A/m)とする。
上記した第1の磁場中アニールによって、非磁性層27を構成するRuなどの貴金属元素が、第1磁性層26内部に拡散するものと考えられる。従って熱処理後における前記第1磁性層26の構成元素は、強磁性層を構成する元素と貴金属元素とから構成される。また前記第1磁性層26内部に拡散した貴金属元素は、前記第1磁性層26の下面側よりも前記第1磁性層26の表面側の方が多く、拡散した貴金属元素の組成比は、前記第1磁性層26の表面から下面に向うに従って徐々に減るものと考えられる。このような組成変調は、SIMS分析装置などで確認することが可能である。
次に図14工程で前記非磁性層27の表面全体をイオンミリングし、前記非磁性層27を点線Jの位置まで削る。
ここで前記非磁性層27を一部削る理由は、非磁性層27表面に吸着した有機物などの不純物を取り除くためと、できる限り前記非磁性層27の膜厚を所定の膜厚範囲内に薄くしておかないと前記非磁性層27の両側端部27a上に形成される強磁性層28と第1磁性層26の両側端部Sとの間で強磁性的な結合を生じさせることができず、第1磁性層26の磁化制御を適切に行うことができなくなるからである。
図14工程で、前記非磁性層27をRuで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、前記非磁性層27の膜厚が0Åより大きく6Å以下となるように、前記非磁性層27表面をイオンミリングすることが好ましい。
また、前記非磁性層27をCrで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、前記非磁性層27の膜厚が、0Åより大きく8Å以下となるように、前記非磁性層27表面をイオンミリングすることが好ましい。
また、前記非磁性層27をIrで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、前記非磁性層27の膜厚が、0Åより大きく2.5Å以下となるように、前記非磁性層27表面をイオンミリングすることが好ましい。
また、前記非磁性層27をRhで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にNiFe系合金層を有するとき、前記非磁性層27の膜厚が、0Åより大きく3Å以下となるように前記非磁性層27表面をイオンミリングすることが好ましい。
また、前記非磁性層27をRuで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にCoを主成分とする層を有するとき、前記非磁性層27の膜厚が、0Åより大きく5Å以下あるいは10Å以上で13Å以下となるように、前記非磁性層27表面をイオンミリングすることが好ましい。
また、前記非磁性層27をRhで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にCoを主成分とする層を有するとき、前記非磁性層27の膜厚が、0Åより大きく4Å以下あるいは10Å以上で14Å以下となるように、前記非磁性層27表面をイオンミリングすることが好ましい。
また、前記非磁性層27をCuで形成し、第1磁性層26及び次工程で形成される強磁性層28が非磁性層27と接する界面にCoを主成分とする層を有するとき、前記非磁性層27の膜厚が0Åより大きく4Å以下あるいは11Å以上で15Å以下となるように、前記非磁性層27表面をイオンミリングすることが好ましい。
上記のように非磁性層27の膜厚を調整することで、非磁性層27の両側端部27aの上下で対向する強磁性層28と第1磁性層26の両側端部S間に強磁性的な結合を生じさせ、前記第1磁性層26の両側端部Sを前記強磁性層28の磁化方向と同一方向に強固に磁化固定することが可能になる。
図14に示すイオンミリング工程では、低エネルギーのイオンミリングを使用できる。その理由は、成膜段階で前記非磁性層27が好ましくは3Å〜20Å程度、より好ましくは3Å〜10Å程度の非常に薄い膜厚で形成されているからである。このため本発明では、低エネルギーのイオンミリングによって前記非磁性層27の途中でミリングを止めやすく、従来に比べてミリング制御を向上させることができるのである。
なお図14工程で示すイオンミリング工程をしなくてもよい場合もある。成膜段階で前記非磁性層27の膜厚が3Å以上で且つ、図14工程で説明したイオンミリング後の膜厚範囲内を満たしている場合、図14工程でイオンミリングを施さなくても、前記第1磁性層26を酸化から適切に防止できると共に、前記非磁性層27の両側端部27aを介して強磁性層28と第1磁性層26の両側端部S間に効果的に強磁性的な結合を生じさせることが可能である。
次に図15に示す工程では、前記非磁性層27上に強磁性層28及び第2反強磁性層29を成膜し、さらに連続して前記第2反強磁性層29の上にTaなどで形成された保護層35を成膜する。保護層35は、第2反強磁性層29を大気暴露によって酸化されないように保護するためのものである。
なお前記第2反強磁性層29を80Å以上で500Å以下の膜厚で形成することが好ましい。これによって前記第2反強磁性層29と強磁性層28間に十分な大きさの交換結合磁界を発生させることができる。
次に図16に示す工程では、前記保護層35上にトラック幅方向(図示X方向)に所定の間隔50aを開けて例えば無機材料で形成されたマスク層50を形成する。前記無機材料としては、Ta、Ti、Si、Zr、Nb、Mo、Hf、W、Al−O、Al−Si−O、Si−Oなどを選択できる。このうち金属材料で前記マスク層50を形成する場合には、前記マスク層50を製造工程後においてもそのまま残して電極層30として機能させることもできる。
前記マスク層50の形成は、例えば前記保護層35の中央部上にレジスト層(図示しない)を立てておき、その両側を前記マスク層50で埋めた後、前記レジスト層を除去して前記マスク層50に所定幅の間隔50aを形成する。あるいは前記保護層35上全体にマスク層50を形成した後、レジスト層(図示しない)を前記マスク層50上に重ねて形成し、前記レジスト層の中央部に露光現像によって穴部を形成した後、この穴部から露出する前記マスク層50を反応性イオンエッチング(RIE)などで削って、前記マスク層50に所定幅の間隔50aを形成する。
あるいは、マスク層50をレジストで形成してもよい。
図16に示す工程では、前記マスク層50の間隔50a内から露出する保護層35をRIEやイオンミリングによって削り、さらに前記保護層35下の第2反強磁性層29を二点鎖線Kの位置まで削り込む。このとき二点鎖線K下の第2反強磁性層29の膜厚が50Å以下になるまで前記第2反強磁性層29を削り込むことが好ましい。より好ましくは40Å以下である。そうしないと、前記第2反強磁性層29の中央部Cが反強磁性の性質を残してしまい、次工程の第2磁場中アニールで、前記第2反強磁性層29の中央部Cと強磁性層28間で交換結合磁界が発生し、前記第1磁性層26の中央部Cの磁化が強固に固定されてしまうからである。
図16の二点鎖線Kのように第2反強磁性層29の途中まで削り込み、第1磁性層26の中央部C上に強磁性層28及び前記第2反強磁性層29の一部を残す場合、図6に示す磁気検出素子を製造することができる。
また前記マスク層50の間隔50a内から露出する前記第2反強磁性層29をすべて除去し、強磁性層28を前記間隔50a内から露出させてもよい。このとき、前記強磁性層28を途中まで一点鎖線Lまで削ってもよいし、前記強磁性層28を削らずにそのまま残してもよい。前記強磁性層28を前記間隔50a内から露出させた段階でミリングを止めると図5に示す磁気検出素子が完成する。
さらに前記強磁性層28もすべて削り、その下に形成されている非磁性層27を露出させてミリングを止めると、図4に示す磁気検出素子が完成する。このとき露出した非磁性層27を若干削ってもよい。
図16に示すように、前記第2反強磁性層29は、下部シールド層20表面に対し垂直方向に削り込まれるので、前記第2反強磁性層29の内側端部29aは前記下部シールド層20表面に対し垂直(図示Z方向)に近い方向に形成される。なお当然に、前記第2反強磁性層29の下側に形成された層まで削り込むときには、削り込まれた各層の内側端面は前記下部シールド層20表面に対し垂直方向に近い方向に形成された状態になっている。
なお例えば図16の点線Mのように、マスク層50の内側端部50bが、下面から上面に向け徐々に前記間隔50aが広がる傾斜面や湾曲面で形成されている場合、第2反強磁性層29等の内側端部29aも傾斜面あるいは湾曲面として形成される。
マスク層50の内側端部50bが傾斜面あるいは湾曲面として形成されていると、削り込まれる間隔50a内のトラック幅方向(図示X方向)への幅寸法は下面に向うほど狭くなっていく。このためトラック幅Twを、前記マスク層50の間隔50aの幅よりもさらに小さくでき、より狭トラック化に対応可能な磁気検出素子を製造することができる。
またどこまで削り込むかは任意であるが、少なくとも前記第1磁性層26の中央部C上に反強磁性を帯びる程度の厚い膜厚の第2反強磁性層29を残さないこと、および第1磁性層26が前記RIEやイオンミリング工程で削り込まれないようにすることが重要である。第1磁性層26がイオンミリング等で削り込まれると、従来と同じように、前記第1磁性層26がミリングによるダメージを受けて磁気特性の劣化を招きやすくなり好ましくない。
ただし図8に示す積層フェリ構造で第1磁性層26を形成した場合、中央部C上の非磁性層27を全て除去した後、露出する前記第1磁性層26の磁性層41を全て除去してもよい。かかる場合、図16に示すレジスト層50の間隔50a内からは、前記第1磁性層26を構成する非磁性の中間層40が露出する。
また図10に示すバックド層46を有する第1磁性層26を形成した場合、中央部C上の非磁性層27を全て除去して、前記バックド層46表面を露出させてもよい。
上記したRIEやイオンミリング工程が終了した後、第2の磁場中アニールを施す。このときの磁場方向は、トラック幅方向(図示X方向)である。なおこの第2の磁場中アニールは、第2の印加磁界を、第1反強磁性層23の交換異方性磁界よりも小さく、しかも熱処理温度を、前記第1反強磁性層23のブロッキング温度よりも低くする。これによって前記第1反強磁性層23の交換異方性磁界の方向をハイト方向(図示Y方向)に向けたまま、前記第2反強磁性層29の両側端部Sの交換異方性磁界をトラック幅方向(図示X方向)に向けることができる。なお第2の熱処理温度は例えば250℃であり、磁界の大きさは24k(A/m)である。
図15工程で前記強磁性層28と第2反強磁性層29とが連続成膜されているから、上記の第2磁場中アニールによって、前記強磁性層28の両側端部Sと第2反強磁性層29の両側端部S間に交換結合磁界を生じさせることができ、前記強磁性層28の両側端部Sをトラック幅方向(図示X方向)に強固に磁化固定することができる。
また前記非磁性層27を介して前記強磁性層28と対向する第1磁性層26の両側端部Sは、前記強磁性層28との間で発生する強磁性的な結合によって、前記強磁性層28の磁化方向と同一方向に強固に磁化固定される。
一方、前記第1磁性層26の中央部C上には第2反強磁性層29が設けられておらず、設けられていても前記第2反強磁性層29は、反強磁性の性質を帯びない程度の薄い膜厚で形成されているから、上記の第2の磁場中アニールによっても、前記第1磁性層26の中央部Cの磁化はトラック幅方向(図示X方向)に強固に磁化固定されることはなく、前記第1磁性層26の中央部Cの磁化を外部磁界に対し磁化反転できる程度に弱く単磁区化してフリー磁性層として機能させることが可能になっている。
このように、従来に比べて第1磁性層26の磁化制御を適切に行うことができ、狭トラック化においても再生感度に優れた磁気検出素子を製造することができる。
また上記の第2の磁場中アニールで、非磁性層27を構成するRuなどの貴金属元素が、第1磁性層26及び強磁性層28内部に拡散するものと考えられる。従って熱処理後における前記第1磁性層26及び強磁性層28の構成元素は、強磁性層を構成する元素と貴金属元素とから構成される。また前記第1磁性層26及び強磁性層28内部に拡散した貴金属元素は、前記第1磁性層26の下面側よりも前記第1磁性層26の表面側の方が多く、強磁性層28の表面側よりも下面側の方が多い。拡散した貴金属元素の組成比は、前記第1磁性層26の表面から下面に向うに従って、及び強磁性層28の下面から表面に向うにしたがって従って徐々に減るものと考えられる。このような組成変調は、SIMS分析装置などで確認することが可能である。
またこの第2の磁場中アニールを図15工程の後、すなわち非磁性層27上に強磁性層28、第2反強磁性層29及び保護層35を成膜した後、施してもよい。かかる場合、第2の磁場中アニールを施すと、前記第2反強磁性層29全体は規則化変態し、前記第2反強磁性層29と強磁性層28との間で大きな交換結合磁界が生じ、前記強磁性層28との間で強磁性的な結合を生じる第1磁性層26全体の磁化は、一旦、トラック幅方向(図示X方向)に固定されやすくなるが、図16工程で、第2反強磁性層29の中央部Cや前記第2反強磁性層29及び強磁性層28の中央部Cを削り込むことで、前記第1磁性層26の中央部C上に形成された強磁性層28の中央部Cと第2反強磁性層29の中央部C間の交換結合磁界は弱まりあるいは消滅し、前記第1磁性層26の中央部Cを磁化反転しやすい程度に弱い磁化に変えることができるものと考えられる。
図17は、電極層30の形成工程を示す一工程図である。図面は記録媒体との対向面側から部分拡大断面図である。
図16に示すマスク層50がレジストなど、残しておいても電極層とはなり得ない材質の場合、前記マスク層50を除去した後、電極層30を前記第2反強磁性層29上に形成しなければならない。
図17工程に示すように、前記第2反強磁性層29間の間隔29dから、さらに前記第2反強磁性層29の一部の上面にまでレジスト層51を形成する。なお前記間隔29d内にのみレジスト層51を設けてもよい。そして前記レジスト層51に覆われていない前記第2反強磁性層29上に電極層30を成膜し、前記レジスト層51を除去する。これによって前記第2反強磁性層29上に電極層30を形成できる。
以上、図11ないし図17に示す工程図に基づいて図1ないし図6に示す磁気検出素子の製造方法について説明したが、本形態では、まず第1磁性層26上に非磁性層27を成膜している。前記非磁性層27をRuなど、大気暴露によっても酸化されにくい材質で形成し、この非磁性層27を3Åから20Å程度、より好ましくは3Åから10Å程度の薄い膜厚で成膜している。このため前記非磁性層27をイオンミリングで削る工程のとき、低エネルギーによるイオンミリングを使用でき、前記非磁性層27の途中でイオンミリングを止めやすく、前記第1磁性層26にイオンミリングによるダメージを与えてしまうといった問題が発生しない。
またこのように非磁性層27をイオンミリングで薄く形成することで、前記第1磁性層26の両側端部Sと、その上に前記非磁性層27を介して形成された強磁性層28間に強磁性的な結合を生じさせることができ、磁場中アニールによって前記強磁性層28及び第1磁性層26の両側端部Sをトラック幅方向(図示X方向)の同一方向に強固に磁化固定することができる。
一方、前記第1磁性層26の中央部C上には、前記強磁性層28及び第2反強磁性層29が形成されていないか、形成されていても前記強磁性層28には第2反強磁性層29からの強い交換結合磁界は与えられず、前記第1磁性層26の中央部Cの磁化は外部磁界に対し磁化反転可能な程度に弱く単磁区化され、フリー磁性層として機能する。
以上のように磁気検出素子の製造方法によれば、Ruなどで形成された膜厚の薄い非磁性層27の存在によって、低エネルギーのイオンミリングを使用でき、また前記非磁性層27の両側端部27aを介して強磁性層28と第1磁性層26の両側端部Sとを対向させることで、前記強磁性層28と第1磁性層26間に強磁性的な結合を生じさせることができ、狭トラック化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能になっている。
ところで図1ないし図6に示す磁気検出素子は、電極層30,30から、固定磁性層24、非磁性材料層25、第1磁性層26を有する多層膜内に流れる電流が、前記多層膜内を各層の膜面に対して平行な方向に流れるCIP(current in the plane)型の磁気検出素子と呼ばれる構造である。
本発明は、図25以降に示すCPP(current perpendicular to the plane)型の磁気検出素子にも適用できる。CPP型とは、例えば図25に示すように、固定磁性層24、非磁性材料層25、第1磁性層26を有する多層膜T1の上下に上部電極層72、下部電極層70が設けられ、上部電極層72、下部電極層70からの電流が多層膜T1内を膜面と垂直な方向に流れる構造のことである。
CPP型の磁気検出素子においても、図1ないし図6のCIP型の磁気検出素子と同じ効果を期待することができる。
すなわち、第1磁性層26の両側端部S,S上には非磁性層27が形成され、この非磁性層27の上に強磁性層28が形成されている。このため、第1磁性層26の両側端部S,Sは非磁性層27の存在によって適切にイオンミリングから守られ、すなわち従来のように第1磁性層26の両側端部S,Sがイオンミリングによるダメージを受けておらず、第1磁性層26の両側端部S,Sの磁気特性は良好に保たれている。
従って、第1磁性層26の両側端部S,Sを非磁性層27を介した強磁性層28との間で発生する強磁性的な結合によって効果的に磁化固定することができ、第1磁性層26の中央部は外部磁界に対し磁化反転できる程度に弱く単磁区化できる。よって狭トラック化においても適切に第1磁性層26の磁化制御が可能な磁気検出素子の製造をすることができる。
成膜段階における非磁性層27の膜厚を適切に調整し、低エネルギーのイオンミリングによって非磁性層27の両側端部S,Sがすべて除去されないようにできるので、第1磁性層26の両側端部S,S上に非磁性層27を残すことができる。
また、非磁性層27の成膜段階の膜厚が強磁性層28及び第1磁性層26間に効果的に強磁性的な結合を生じさせる場合には、非磁性層27の両側端部S,Sをイオンミリングで削る必要がない。
ところで図25に示す磁気検出素子は、下地層22から非磁性層27までの多層膜の構造は図1に示す磁気検出素子と同じである。図25の磁気検出素子と図1の磁気検出素子は以下の点で構造が異なる。
図25に示す前記多層膜の下には下部シールドを兼ねた下部電極層70が設けられている。下部電極層70はパーマロイ(NiFe)などの磁性材料でメッキ形成されたものである。
また図25に示すように第2反強磁性層29及び非磁性層27上には絶縁層71が設けられている。絶縁層71は、例えばAl2O3、SiO2、AlN、Al−Si−O、Al−Si−O−N、Si3N4などの絶縁材料で形成される。この絶縁層71には非磁性層27の中央部上に開口する穴部71aが設けられ、この穴部71aを通じて、上部電極層72と前記多層膜が導通している。穴部71aのトラック幅方向(図示X方向)間距離が光学的トラック幅Twになる。絶縁層71は分流ロスを防ぐことができる適度な膜厚を有して形成される。
また、絶縁層71上から非磁性層27上にかけて上部シールド層を兼ねた上部電極層72が設けられている。上部電極層72はNiFeなどの磁性材料からなる。
このように図25に示す磁気検出素子では前記多層膜の上下にシールド層を兼た上部電極層72及び下部電極層70が設けられ、上部電極層72及び下部電極層70間に流れる電流は、前記多層膜内を膜面に対し垂直な方向に流れるようになっている。
図25に示す磁気検出素子では、第2反強磁性層29の上面が絶縁層71によって覆われているので、上部電極層72から前記多層膜内に流れる電流が、第2反強磁性層29等に分流せず、電流は絶縁層71の穴部71aのトラック幅寸法で決定されるトラック幅Tw内を適切に流れる。よって図25に示す構造の磁気検出素子であれば、電流経路がトラック幅Twから広がるのを抑制でき再生出力の大きいCPP型の磁気検出素子を製造することが可能になる。
また図25に示すように絶縁層71上から非磁性層27上にかけて点線で描かれた非磁性層73が設けられていてもよい。非磁性層73は、Ta、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuなどの非磁性導電材料で形成されることが好ましい。非磁性層73は、上部ギャップ層としての役割を有するものであるが、電流経路の出入口となる非磁性層27上を例えば絶縁材料からなる非磁性層73で覆うことは電流が前記多層膜内に流れにくくなるため好ましくない。よって本発明では非磁性層73を非磁性導電材料で形成することが好ましい。
また図25に示す磁気検出素子では前記多層膜を構成する非磁性材料層25がCuなどの非磁性導電材料で形成されてもよいし、あるいは非磁性材料層25がAl2O3やSiO2などの絶縁材料で形成されてもよい。前者の磁気検出素子はスピンバルブ型GMR磁気抵抗効果素子と呼ばれる構造であり、後者の磁気検出素子はトンネル型磁気抵抗効果型素子と呼ばれる構造である。
トンネル型磁気抵抗効果型素子は、トンネル効果を利用して抵抗変化を生じさせるものであり、磁性層24cと第1磁性層26との磁化が反平行のとき、最も非磁性材料層25を介してトンネル電流が流れにくくなって、抵抗値は最大になり、一方、磁性層24cと第1磁性層26との磁化が平行のとき、最もトンネル電流は流れ易くなり抵抗値は最小になる。
この原理を利用し、外部磁界の影響を受けて第1磁性層26の磁化が変動することにより、変化する電気抵抗を電圧変化または電流変化としてとらえ、記録媒体からの洩れ磁界が検出されるようになっている。
図26は、図2に示す磁気検出素子を図25と同様にCPP型の磁気検出素子にした実施形態である。
図27は、図4に示す磁気検出素子を図25と同様にCPP型の磁気検出素子にした実施形態である。
図27の磁気検出素子と図4の磁気検出素子は以下の点で構造が異なる。
図27に示す下地層22から非磁性層27までの多層膜の下には下部シールドを兼ねる下部電極層70が設けられている。下部電極層70はパーマロイ(NiFe)などの磁性材料でメッキ形成されたものである。
また図27に示すように第2反強磁性層29の上面29eには絶縁層74が設けられている。絶縁層74は、例えばAl2O3、SiO2、AlN、Al−Si−O、Al−Si−O−N、Si3N4などの絶縁材料で形成される。
また第2反強磁性層29のトラック幅方向の中央に対向する内側端部29a上には、絶縁層75が形成されている。絶縁層75は、例えばAl2O3、SiO2、AlN、Al−Si−O、Al−Si−O−N、Si3N4などの絶縁材料で形成される。
第2反強磁性層29の上面29e上に形成された絶縁層74と、内側端部29aに形成された絶縁層75とは別体で形成される。後述する製造方法によれば、絶縁層74、75を別々に形成することができ、それぞれの絶縁層74、75は分流ロスを防ぐことができる適度な膜厚を有して形成される。
また図27に示すように、絶縁層74上から非磁性層27上にかけて上部シールドを兼ねた上部電極層72が設けられている。
このように図27に示す磁気検出素子では前記多層膜の上下にシールドを兼ねた下部電極層70、上部電極層72が設けられ、下部電極層70、上部電極層72間に流れる電流は、前記多層膜内を膜面に対し垂直な方向に流れるようになっている。
図27に示す磁気検出素子では、第2反強磁性層29の上面29eおよび内側端部29a、さらに、強磁性層28の内側端部28aが絶縁層74、75によって覆われているので、上部電極層72から前記多層膜内に流れる電流が、第2反強磁性層29等に分流せず、前記電流は前記絶縁層75,75間の間隔で決定されるトラック幅Tw内を適切に流れる。よって図27に示す構造の磁気検出素子であれば、電流経路がトラック幅Twから広がるのを抑制でき再生出力の大きいCPP型の磁気検出素子を製造することが可能になる。
また図27に示すように絶縁層74上から絶縁層75上、および非磁性層27上にかけて点線で描かれた非磁性層73が設けられていてもよい。非磁性層73は、Ta、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuなどの非磁性導電材料で形成されることが好ましい。非磁性層73は、上部ギャップ層としての役割を有するものであるが、非磁性層73は非磁性層27の上に接して形成されるため、非磁性導電材料で形成することが好ましい。
図28は図5に示す磁気検出素子を図25と同様にCPP型の磁気検出素子にした実施形態であり、図29は図6に示す磁気検出素子を図25と同様にCPP型の磁気検出素子にした実施形態である。
すなわち図28及び図29に示す磁気検出素子はいずれも、第1反強磁性層23の下に下部シールドを兼用した下部電極層70が設けられ、また第2反強磁性層29上には絶縁層74、75が設けられ、さらに上部シールドを兼用した上部電極層72が設けられている。
図30及び図31に示す磁気検出素子は、図25ないし図29と同様にCPP型の磁気検出素子であるが、下部電極層80の形状が図25ないし図29のそれとは異なっている。
図30及び図31がそれぞれ図25及び図27と異なっている点は、下部シールドを兼用した下部電極層80のトラック幅方向(図示X方向)の中央部に、下地層22から非磁性層27までの多層膜の方向(図示Z方向)に突出した突出部80aが設けられ、この突出部80aの上面80a1が前記多層膜の下面に接しており、突出部80aから前記多層膜内に(あるいは前記多層膜から突出部80aに)電流が流れるようになっている点である。
そして図30及び図31に示す形態では下部電極層80のトラック幅方向(図示X方向)における両側端部80bと前記多層膜間に絶縁層81が設けられている。絶縁層81は、Al2O3、SiO2、AlN、Al−Si−O、Al−Si−O−N、Si3N4などの絶縁材料で形成される。
図30及び図31に示す形態では、下部電極層80は、突出部80aの形成によって前記多層膜に対する電流経路が絞り込まれ、さらに下部電極層80の両側端部80bと前記多層膜間に絶縁層81が設けられたことで、両側端部80bから前記多層膜内に電流が分流することを適切に抑制でき、より効果的に再生出力の大きい磁気検出素子を製造することが可能になる。
図30及び図31に示す形態では、下部電極層80の突出部80aの上面80a1のトラック幅方向(図示X方向)の幅寸法は領域Cのトラック幅方向(図示X方向)における幅寸法と一致しているが、上面80a1の幅寸法が領域Cの幅寸法より広くてもよい。より好ましくは上面80a1の幅寸法がトラック幅Twと一致することである。これによってより効果的に前記多層膜に対しトラック幅Twの領域内にのみ電流を流すことができ再生出力の大きい磁気検出素子を製造することが可能である。
また図30、31に示す形態では、下部電極層80に形成された突出部80aのトラック幅方向(図示X方向)における両側面80a2は、突出部80aのトラック幅方向における幅寸法が、前記多層膜から離れる(図示Z方向と逆方向)にしたがって徐々に広がる傾斜面あるいは湾曲面で形成されているが、両側面80a2は、トラック幅方向(図示X方向)に対して垂直面であってもかまわない。
なお、下部電極層80に突出部80aが形成され、第2反強磁性層29上に絶縁層71、または絶縁層74、75が設けられていない磁気検出素子であってもよい。この場合、上部電極層72と第2反強磁性層29間が絶縁されていないので、電流経路はトラック幅Twよりも広がりやすく再生出力は劣るものと考えられるが、前記多層膜の下面側で、下部電極層80に突出部80aが形成されることによって電流経路を絞り込むことができ、電流経路の広がりを抑えて再生出力の低下を抑制することができる。
また図30及び図31に示す磁気検出素子では、下部電極層80に形成された突出部80aの上面80a1と、その両側に形成された絶縁層81の上面81aとが同一平面で形成されていることが好ましい。これによって突出部80a上から絶縁層81上にかけて形成される前記多層膜の各層の膜面をトラック幅方向に、より平行に形成でき、再生特性に優れた磁気検出素子を製造することが可能になる。
なお、図25ないし図31に示すCPP型の磁気検出素子ではいずれも下部電極層70または80及び上部電極層72を多層膜の上下に接して形成し、シールド層の機能を持たせているが、このような構成によって電極層とシールド層とを別々に形成する必要性が無くなり、CPP型の磁気検出素子の製造を容易化することが可能になる。
しかも電極機能とシールド機能とを兼用させれば、シールド層間の間隔で決定されるギャップ長G1を非常に短くすることができ(図25を参照、なお非磁性層73が設けられる場合は、非磁性層73の膜厚も含めてギャップ長Glが決定される)、今後の高記録密度化により適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能になる。
ただし本発明では、図25ないし図31に示す実施形態に限るものではなく、多層膜の上面及び/または下面に、例えばAu、W、Cr、Taなどからなる電極層を設け、多層膜と反対側の電極層の面にギャップ層を介して磁性材料製のシールド層を設ける構成であってもかまわない。
図25に示される磁気検出素子を製造するときには、下部電極層70をメッキまたはスパッタ形成し、この下部電極層70上に、下地層22から非磁性層27まで成膜し、第1の磁場中アニールを行った後、非磁性層27のトラック幅Twの領域を覆うリフトオフ用のレジストを形成する。次に、非磁性層27の前記レジスト層に覆われない両側端部S,Sを、低エネルギーのイオンミリングで部分的に削り、強磁性層28、第2反強磁性層29をスパッタにより連続成膜する。次に、強磁性層28、第2反強磁性層29のスパッタ入射角度(前記多層膜の膜面垂直方向からの角度)より大きなスパッタ入射角度から絶縁層71を成膜する。さらに、第2の磁場中アニール、上部電極層72のスパッタまたはメッキ形成を行う。
第1の磁場中アニール、非磁性層27の両側端部S,Sのイオンミリング条件及び削り量は図1の磁気検出素子を製造方法と同様である。
次に、図27に示されたCPP型磁気検出素子の製造方法を説明する。
まずメッキ形成された磁性材料製の下部電極層70上に、下地層22、第1反強磁性層23、固定磁性層24、非磁性材料層25、第1磁性層26、非磁性層27、強磁性層28を連続成膜し、これを第1の磁場中アニールにかける。次に、非磁性層27の表面を低エネルギーのイオンミリングによって除去した後、第2反強磁性層29及び絶縁層74を連続スパッタ成膜し第2の磁場中アニールにかける。熱処理条件等については上述した通りである。
次に、絶縁層74の上に露光現像によってトラック幅方向(図示X方向)の中央部に穴部が設けられたレジスト層或いは金属材料からなるメタルマスク層を形成する。前記レジスト層または前記メタルマスク層の内側端面は、絶縁層74の表面に対する垂直面である。あるいは、前記レジスト層または前記メタルマスク層の内側端面は、下面から上面にかけて徐々に前記穴部のトラック幅方向への間隔が広がる傾斜面あるいは湾曲面で形成される。
次に絶縁層74の膜面垂直方向からのイオンミリング或いは反応性イオンエッチング(RIE)によって前記レジスト層または前記メタルマスク層に覆われていないトラック幅方向中央部を削る。図27に示された磁気検出素子を形成するときには、絶縁層74、第2反強磁性層29、強磁性層28を完全に削り込む。
なお前記レジスト層の内側端面が垂直面であるときは、第2反強磁性層29のトラック幅方向の中央に対向する内側端部29a、及び強磁性層28のトラック幅方向の中央に対向する内側端部28a上は、絶縁層74の上面74aに対する垂直面になる。なお、前記レジスト層の内側端面が傾斜面あるいは湾曲面であるとき、あるいは、イオンミリングの入射角度が斜め方向になるときは、内側端部29a、及び側面内側端部29aも傾斜面あるいは湾曲面になる。そして前記レジスト層を除去する。なお、前記レジスト層の代わりに前記メタルマスク層を用いるときには、このメタルマスク層を除去しなくともよい。
または、第2反強磁性層29の成膜後、絶縁層74をベタ膜状に成膜する代わりに、第2反強磁性層29のトラック幅Twの領域を覆うリフトオフ用のレジストを形成し、第2反強磁性層29の前記レジスト層に覆われない領域上に絶縁層を成膜することにより、トラック幅方向の中央部に穴部が形成された絶縁層を形成し、この絶縁層をマスクとして、第2反強磁性層29、強磁性層28を削り込むようにしてもよい。トラック幅方向の中央部に穴部が形成された絶縁層をマスクとするときには、前述のレジスト層やメタルマスク層の形成を省略することができる。
図32に示す工程では、第2反強磁性層29の上面29eから内側端部29a及び強磁性層の内側端部28a、非磁性層27の表面にかけてAl2O3、SiO2、AlN、Al−Si−O、Al−Si−O−N、Si3N4などの絶縁材料からなる絶縁層75をスパッタ成膜する。スパッタ法には、イオンビームスパッタ法、ロングスロースパッタ法、コリメーションスパッタ法などを使用できる。
ここで注意すべき点は、絶縁層75を形成する際のスパッタ角度θ1にある。図32に示すようにスパッタ方向Gは、多層膜の各層の膜面の垂直方向に対しθ1のスパッタ角度を有しているが本発明では前記スパッタ角度θ1をできる限り大きくして(すなわちより寝かせて)、第2反強磁性層29のトラック幅方向の中央に対向する内側端部29a、及び強磁性層28のトラック幅方向の中央に対向する内側端部28aに絶縁層75が成膜されやすいようにすることが好ましい。例えば前記スパッタ角度θ1は50°から70°である。
このように前記スパッタ角度θ1を大きくすることで、第2反強磁性層29の内側端部29a及び強磁性層28の内側端部28aに形成される絶縁層75のトラック幅方向(図示X方向)への膜厚tz1を、絶縁層74の上面74a及び非磁性層27の表面に形成される絶縁層75の膜厚tz2よりも厚く形成できる。このように絶縁層75の膜厚を調整しないと次工程でのイオンミリングで、内側端部29a及び内側端部28aの絶縁層75がすべて除去されてしまい、あるいは絶縁層75が残ってもその膜厚は非常に薄くなり、適切に分流ロスを低減させるための絶縁層として機能させることができない。
次に図33に示すように多層膜の各層の膜面と垂直方向(図示Z方向と平行な方向)あるいは垂直方向に近い角度(多層膜の各層表面の垂直方向に対し0°から20°)からイオンミリングを施す。このとき非磁性層27の表面27cに形成された絶縁層75を適切に除去するまでイオンミリングを施す。このイオンミリングによって絶縁層74の上面74aに形成された絶縁層75も除去される。一方、内側端部29a及び内側端部28aに形成された絶縁層75も若干削れるものの、非磁性層27の表面27cに形成された絶縁層75よりも厚い膜厚tz1を有し、しかもイオンミリングのミリング方向Hは、内側端部29a、内側端部28aに形成された絶縁層75から見ると斜め方向になるため、内側端部29a、内側端部28aに形成された絶縁層75は、非磁性層27の表面27cに形成された絶縁層75に比べて削られ難く、よって内側端部29a及び28aには適度な膜厚の絶縁層75が残される。
その状態が図33である。第2反強磁性層29の内側端部29a及び強磁性層28の内側端部28aに残される絶縁層75のトラック幅方向における膜厚tz3は5nmから10nmであることが好ましい。
図33に示すように第2反強磁性層29の上面29eは絶縁層74によって覆われ、また第2反強磁性層29の内側端部29a及び強磁性層の内側端部28a絶縁層75によって覆われた状態になっている。そして必要ならば、絶縁層74、75から非磁性層27の表面27cにかけて図27に示す非磁性層73を形成した後、上部シールドを兼ね備えた上部電極層72をスパッタまたはメッキ形成する。
以上のようにして形成された磁気検出素子では、第2反強磁性層29の上面29eは絶縁層74によって覆われ、また第2反強磁性層29の内側端部29a及び強磁性層の内側端部28aは絶縁層75によって覆われた状態にでき、電極層から流れる電流の分流ロスを適切に抑制できるCPP型の磁気検出素子を製造することが可能になる。
なお図28、図29に示す多層膜の上側領域も同じ工程によって形成することができるので、説明を省略する。
図30及び図31に示す磁気検出素子では下部電極層80に突出部80a及び下部電極層80の両側端部80bと多層膜間に絶縁層81を形成するものであるが、これはまず下部電極層80をメッキ形成した後、下部電極層80のトラック幅方向(図示X方向)の中央部上にレジスト層を形成し、このレジスト層に覆われていない下部電極層80の両側端部80bをイオンミリングで途中まで削り込む。これによって下部電極層80のトラック幅方向の中央部に突出部80aを形成することができる。
さらに前記レジスト層に覆われていない下部電極層80の両側端面80b上に絶縁層81をスパッタ成膜し、絶縁層81の上面が下部電極層80の突出部80aの上面80a1とほぼ同一平面となった時点で前記スパッタ成膜を終了する。そして前記レジスト層を除去する。なお前記レジスト層を除去した後、前記下部電極層80の突出部80aの上面80a1及び絶縁層81の上面をCMPなどを用いて研磨し、突出部80aの上面80a1と絶縁層81の上面81aを高精度に同一平面となるようにしてもよい。
なお上述したCIP型の磁気検出素子を用いて磁気ヘッドを構成するときには、磁気検出素子上に、絶縁性材料からなる上部ギャップ層31、及びこの上部ギャップ層31上に積層される磁性合金からなる上部シールド層32が形成される。なお、CPP型の磁気検出素子の場合には、既に上部シールドを兼用する上部電極層が形成されている。また、前記上部シールド層32または上部電極層72上に書き込み用のインダクティブ素子が積層されてもよい。
また本発明における磁気検出素子はハードディスク装置に内蔵される磁気ヘッドに装備されるほか磁気センサなどにも使用可能である。