JP2007009290A - 温水容器 - Google Patents
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Abstract
【課題】溶接隙間部での耐食性に優れ、かつ水道直結タイプとしての使用に適した溶接部の強度を有する温水容器を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.025%以下、Si:0.6超え〜2%、Mn:1%以下、P:0.045%以下、S:0.01%以下、Ni:0.6%以下、Cr:17〜23%、Mo:0.5〜1.7%、Nb:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、Cu:0.6%以下、Al:0.02〜0.3%、N:0.025%以下、残部Feおよび不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼板部材の溶接接合により構築され、その溶接部の温水に接触する部位に隙間構造をもつ温水容器。特にその溶接部が「溶接まま」の状態で使用されるものが好適な対象となる。
【選択図】図4
【解決手段】質量%で、C:0.025%以下、Si:0.6超え〜2%、Mn:1%以下、P:0.045%以下、S:0.01%以下、Ni:0.6%以下、Cr:17〜23%、Mo:0.5〜1.7%、Nb:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、Cu:0.6%以下、Al:0.02〜0.3%、N:0.025%以下、残部Feおよび不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼板部材の溶接接合により構築され、その溶接部の温水に接触する部位に隙間構造をもつ温水容器。特にその溶接部が「溶接まま」の状態で使用されるものが好適な対象となる。
【選択図】図4
Description
本発明は、溶接部を温水に曝して使用する温水機器の容器であって、特に水道直結タイプの温水機器に適した耐圧性の高い温水容器に関する。
電気温水器や貯湯槽などの温水容器は、一般にステンレス鋼板からなる構成部材(例えば鏡、胴など)を溶接で接合して作られる。ステンレス鋼の溶接部ではCr酸化物の形成によりCr欠乏層が生じやすく、耐食性低下が問題となることがある。このため、温水容器には耐食性レベルの高い鋼が使用される。例えばSUS444(低C、Nの18Cr−2Mo−Nb、Ti系)などのフェライト系ステンレス鋼は、耐孔食性、耐隙間腐食性に優れ、しかもオーステナイト系ステンレス鋼で問題となる応力腐食割れの心配がないことから、上水を用いる電気温水器や貯湯槽などの温水機器に広く使用されている。
温水容器の「鏡」と呼ばれる部材と「胴」と呼ばれる部材の接合箇所には、温水に接する部位に隙間構造が形成されるような態様で溶接施工される場合が多い(図4参照)。こうすることにより各部材の寸法精度の許容量が広がるとともに、溶接施工による製造性も向上する。溶接部に隙間構造を有する場合、ステンレス鋼の耐隙間腐食性は溶接状態や隙間構造の形態によって大きく変化しうるので、SUS444を用いた温水機器でも上水程度の希薄なNaCl環境で溶接部の腐食が問題となることがあった。
特許文献1には鏡への胴の挿入深さを20mmまでとし隙間腐食の発生を避けた構造の温水器缶体が開示されている。これにより隙間部での腐食環境は緩和される。しかし、溶接時に生じるCrの酸化ロスを防止することは考慮されておらず、溶接状態により変化しやすい耐隙間腐食性を安定的に改善する手段にはなっていない。
溶接部での温水による腐食を軽減するには、溶接施工後に酸洗、研磨等の「後処理」を施して酸化スケールを除去することが有効である。しかし、そのような「後処理」は工程負荷を増大させ温水機器のコスト増に繋がるので好ましくない。したがって、後処理を施すことなく「溶接まま」の状態で使用しても、隙間構造を有する溶接部で安定した高耐食性が発揮されるステンレス鋼の開発が強く望まれてきた。
溶接部の耐食性を改善したステンレス鋼として、特許文献2にはAlとREM(希土類元素)を添加したものが開示されている。これは、還元性の雰囲気で焼鈍し、鋼表面にAl酸化物主体の皮膜を形成させることにより溶接時のCrの酸化を最小限にとどめ、溶接部での耐食性を向上させたものである。しかし、この鋼材では耐孔食性が向上するものの、隙間腐食については十分な検討がなされていない。また、希少で高価なREMの添加を必要とすることや、表面仕上げが限られること、疵が多発しやすいことなどの問題があり、実用化には至っていない。
特許文献3にはTiとAlを複合添加したステンレス鋼が開示されている。この鋼は溶接時にAl酸化物の形成を容易にしてCrの酸化ロスを抑制することにより溶接部(熱影響部を含む)での耐食性向上を図ったものである。しかし、この鋼の場合も、耐孔食性に関しては顕著な向上効果が認められるものの、耐隙間腐食性については必ずしも十分考慮されているとは言えない。発明者らの調査によれば、この鋼を用いて溶接部に隙間構造を有する温水機器を作った場合、その隙間部での耐食性は改善されるものの、その改善効果が不安定であることがわかった。Cr含有量をかなり高めたとしても、溶接部に隙間構造を有する温水機器において溶接ままの状態で安定的な高耐食性を期待するには不安が残る。
一方、溶接施工上の工夫により溶接部の耐食性を向上させることも可能である。例えば、耐食性低下の原因となるCrの酸化ロスを防ぐためには、Arなどを用いた不活性ガスシールを徹底的に行うことが有効である。しかしこれには、トーチサイドでアフターガスシールをステンレス鋼の表面が酸化しない温度まで行い、かつバックサイドでもバックガスシールを同温度まで厳密に行うことが必要となる。これでは製造性が悪く、大量生産現場に適用するには無理がある。
このように、フェライト系ステンレス鋼を用いた温水機器においては、隙間構造を有する溶接部で高耐食性を安定的に実現することは必ずしも容易ではない。
さらに最近では、水道に直結して使用するタイプの電気温水器が主流になりつつある。このタイプの温水機器では、優れた耐食性だけでなく、高圧力に耐え得る「耐圧性」がその溶接部に要求される。すなわち、健全な溶接部であっても、溶接部の強度が低いと容器内部からの圧力によって溶接部に微視的な開口が生じることがある。したがって、信頼性の高い温水機器を構築するには、溶接部に「高耐食性」と「高耐圧性」の両方を同時に付与しなければならない。
さらに最近では、水道に直結して使用するタイプの電気温水器が主流になりつつある。このタイプの温水機器では、優れた耐食性だけでなく、高圧力に耐え得る「耐圧性」がその溶接部に要求される。すなわち、健全な溶接部であっても、溶接部の強度が低いと容器内部からの圧力によって溶接部に微視的な開口が生じることがある。したがって、信頼性の高い温水機器を構築するには、溶接部に「高耐食性」と「高耐圧性」の両方を同時に付与しなければならない。
発明者らの調査によると、特許文献2、3に開示される鋼を用いた温水容器では、溶接部での「高耐食性」を安定して得ることが難しいのに加え、水道直結タイプの電気温水器として高い信頼性を確保するに足る「高耐圧性」を安定して実現することも難しいことがわかった。
本発明は、「溶接まま」の状態で使用しても隙間構造を有する溶接部で温水に対する優れた「耐食性」が安定して発揮され、かつ水道直結タイプの温水機器として十分な「耐圧性」を具備する信頼性の高い温水容器を提供しようというものである。
発明者らは詳細な検討の結果、フェライト系ステンレス鋼において、AlとTiの複合添加に加え、更にSiを一定量以上添加したフェライト系ステンレス鋼を素材に用いることにより、溶接部での耐隙間腐食性と、溶接部の強度が同時に改善されることを見出した。
すなわち本発明では、質量%で、C:0.025%以下、Si:0.6超え〜2%、Mn:1%以下、P:0.045%以下、S:0.01%以下、Ni:0.6%以下、Cr:17〜23%、Mo:0.5〜1.7%、Nb:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、Cu:0.6%以下、Al:0.02〜0.3%、N:0.025%以下、残部Feおよび不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼板部材の溶接接合により構築され、その溶接部の温水に接触する部位に隙間構造をもつ温水容器を提供する。特にその溶接部が「溶接まま」の状態で使用されるものが好適な対象となる。
前記フェライト系ステンレス鋼板部材は、TIG溶接による溶着金属部の硬さがビードに垂直な断面において180HV10以上となるものが好ましい。
そして、80℃の200ppmCl-+2ppmCu2+水溶液を当該容器内に6ヶ月間循環させたとき前記溶接部に侵食深さ0.1mm以上の腐食が発生しない耐食性を有するものが提供され、あるいはさらに当該容器内に0.4MPaのエアーを充填した状態で水没させたとき前記溶接部からのエアー漏れが認められない耐圧性を有するものが提供される。このような温水容器は水道直結タイプの高圧力型溶接構造温水容器として好適なものである。
そして、80℃の200ppmCl-+2ppmCu2+水溶液を当該容器内に6ヶ月間循環させたとき前記溶接部に侵食深さ0.1mm以上の腐食が発生しない耐食性を有するものが提供され、あるいはさらに当該容器内に0.4MPaのエアーを充填した状態で水没させたとき前記溶接部からのエアー漏れが認められない耐圧性を有するものが提供される。このような温水容器は水道直結タイプの高圧力型溶接構造温水容器として好適なものである。
本発明によれば、隙間構造を有する溶接部において温水に対する優れた耐隙間腐食性を安定して発揮するフェライト系ステンレス鋼製の温水容器が提供された。この温水容器は溶接後に工程負荷の大きい後処理を施すことなく「溶接まま」の状態で使用できる。溶接施工においても特殊な酸化防止手段を必要としない。また、その溶接部は強度が高いため、水道直結タイプの温水容器として耐えうる耐圧性を有する。さらに、この鋼は一般的なフェライト系ステンレス鋼の成分元素で構成されるので、特殊元素を多量に添加することによるコスト増を伴わない。したがって、本発明は温水機器の信頼性向上とコスト低減に寄与するものである。
一般的にステンレス鋼の耐隙間腐食性は、その鋼の耐孔食性レベルの上昇に伴って向上する傾向にあることから、耐孔食性を主体とした試験によって耐隙間腐食性を比較的良好に推定することができる。しかしながら、溶接部に形成される隙間(以下「溶接隙間」という)においては事情が異なる。溶接部ではCrの酸化ロスによって周囲の母材部よりもCr濃度の低い領域が形成され、これによる耐食性の低下が生じる。その上で更に隙間構造が形成されると、「Cr欠乏+隙間形成」のダブル効果によって一般的な隙間部では通常生じないような著しい耐食性低下を引き起こすことがある。このことが溶接隙間での安定した耐食性改善を難しくしている一因になっていると考えられ、現に前記特許文献に示されるような溶接部の耐食性向上を意図して開発された鋼においても、温水に曝される溶接隙間では本来の優れた耐食性が発揮されない場合が生じた。
発明者らは、このような厳しい条件にある溶接隙間での耐食性を安定的に付与する上で、従来、溶接部の耐食性改善元素として考慮されていなかったSiの添加が極めて有効であることを突き止め、本発明に至った。以下、各成分元素について説明する。元素含有量における「%」は特に示さない限り「質量%」を意味する。
C、Nは、鋼中に不可避的に含まれるが、その含有量を低減することにより鋼は軟質になり加工性が向上するとともに、炭化物、窒化物の生成が少なくなり溶接性および溶接部耐食性が向上する。このため本発明ではCおよびNは少ない方が好ましい。C、Nとも概ね0.025%までの含有が許容される。
Siは、一般的に鋼の脱酸元素として添加されるが、本発明では溶接隙間における安定した耐食性を実現する上で極めて重要な元素である。種々検討の結果、Siを0.6%を超えて添加すると、溶接隙間で安定した高耐食性を示すようになることがわかった。その耐食性レベルは、Cr含有量あるいはさらにMo含有量に応じた鋼本来の耐食性レベルを反映したものとなる。Siが0.6%以下ではこの効果は十分発揮されない。Si添加による溶接隙間での耐食性改善メカニズムについては、現時点では未解明であるが、Siを添加すると溶接酸化スケールの発生が抑制され、このことが何らかの要因になっているものと推察される。Si含有量は0.7%以上とすることが好ましく、1%を超えるSi含有量に規定することも有効である。ただし、Siは鋼を硬質にする元素であり、溶接部の低温靱性を損なうという面もある。このため、Si含有量は2%以下の範囲で調整することが望ましい。
Mnは、鋼中に不純物として存在するSと結合し、化学的に不安定な硫化物MnSを形成して耐食性を低下させる。さらに固溶Mnも耐食性にはマイナス要因となる場合がある。このためMnは1%以下の含有量に制限される。
Pは、母材および溶接部の靱性を損なうのでできるだけ少ないことが望ましいが、Cr含有鋼の脱Pは困難でありかつ製造コストの上昇を招く。本発明では0.045%程度までのP含有が許容される。
Sは、Mnと硫化物を形成し孔食の起点となるが、孔食の成長を促進する作用はない。しかし、Sは溶接部の高温割れに悪影響を及ぼすため少ない方が好ましく、0.01%以下に規制される。
Niは、フェライト系ステンレス鋼の靱性改善に有効な元素であるとともに、腐食の進行を抑制する作用がある。しかし、鋼を硬質にし加工性を阻害するので0.6%以下に規制される。
Crは、不動態皮膜の構成元素であり、耐孔食性、耐隙間腐食性および一般の耐食性を向上させる。これらの作用を温水機器用途において十分発揮させるには17%以上のCr含有が望まれる。Cr含有量の増加に伴い耐食性レベルが向上する反面、機械的性質や靱性が損なわれコスト増に繋がる。種々検討の結果、温水容器においては23%以下のCr含有量範囲で十分な耐食性を確保できることがわかった。このため、本発明ではCr含有量を17〜23%とする。
Moは、Crとともに耐食性を高めるために有効な元素である。Moの耐食性改善作効果の発現にはCrが必須であり、Cr量が高い鋼ほど耐食性改善効果は大きくなる。上記Cr含有量範囲において温水環境での十分な耐食性レベルを確保するには、0.5%以上のMo含有が望まれる。しかし、多量のMo含有は加工性低下やコスト増加を招く。本発明の鋼では、Siの添加等により溶接時のCr欠乏層形成が効果的に抑制されており、またMo自体は溶接時のCr欠乏層形成を抑制する作用をほとんど示さないので、Mo含有量は1.7%以下の範囲とすればよい。
Alは、本発明において重要な元素である。すなわち本発明では、AlとTiを複合添加することにより溶接時の加熱で鋼表面にAl酸化物皮膜を形成させ、Crの酸化ロスを防止する、というAlとTiの複合添加作用を利用する。Al含有量が0.02%未満では有効なAl酸化物皮膜が形成しない。一方、多量のAl添加は素材の表面品質の劣化や溶接性の低下を招く。検討の結果、0.3%以下のAl含有量範囲にて良好な結果が得られることがわかった。このためAl含有量を0.02〜0.3%とする。
Cuは、適量の含有でフェライト系ステンレス鋼の孔食電位を上昇させるとともに、局部腐食の進行を抑える作用を呈する。しかし過剰に添加すると逆に耐食性を阻害する要因になるのでCu含有量は0.6%以下に制限される。0.02〜0.6%のCu含有量を確保することが特に好ましい。
Nbは、C、Nとの親和力が強く、フェライト系ステンレス鋼で問題となる粒界腐食を防止するのに有効であり、その作用を十分に得るには0.05%以上のNb含有が必要とする。しかし、過剰に添加すると溶接高温割れが生じるようになり、溶接部靱性も低下するのでNbの上限は0.5%とする。
Tiは、本発明において重要な元素である。すなわち上述のようにAlとの複合添加によってCrの酸化ロスを抑える。さらにNbと同様にC、Nを固定して粒界腐食を抑制する作用もある。これらの作用を有効に発揮させるには0.05%以上のTi含有が必要である。ただし多量のTi含有は素材の表面品質の低下や溶接性の低下を招くので、Ti含有量の上限は0.3%に規制される。
なお、耐酸化性や熱間加工性を向上させる目的でREM(希土類元素)やCa、Mg、Bを添加したり、さらに各種の特性向上を目的としてV等の合金元素を添加することもできる。
以上の組成に調整されたフェライト系ステンレス鋼を通常の手法で溶製し、板厚0.7〜2.0mm程度の冷延焼鈍鋼板を製造する。表面仕上げは酸洗肌とすればよい。この鋼板を用いて温水容器の主要部材である鏡および胴の各部材を通常の手法で作る。そして、例えば図4に示すように胴の端部と鏡の側面とを一般的なTIG溶接により接合し、温水容器を構築する。TIG溶接に際しては特に厳重な酸化防止手段を採用する必要はなく、トーチから供給されるイナートガスを利用すれば足りる。溶接部には鏡部材と胴部材の間に隙間構造が形成される。その隙間部を含めた溶接部は、特段の化学的あるいは機械的な表面除去加工(後処理)を施すことなく、そのまま温水に曝した使用に供することができる。
鏡および胴として使用するステンレス鋼板部材は、当該ステンレス鋼板の試料に対してビード・オン・プレートのTIG溶接試験(ただし溶接裏波が形成する条件で行う)を行ったとき、ビードに垂直な断面における溶着金属部の中央位置について測定した硬さが180HV10以上となるものであることが望ましい。このような特性を有する部材を用いて上記のような溶接施工により温水容器を構築した場合、水道直結タイプの温水容器に適した溶接部の強度が得られることがわかった。
図4のような隙間構造を有する温水容器において、その隙間部分の耐食性を評価する方法として、80℃の200ppmCl-+2ppmCu2+水溶液を当該容器内に6ヶ月間循環させる腐食試験が適用できる。この試験後において、溶接部に侵食深さ0.1mm以上の腐食が発生しなげれば、温水容器として長期間の実用に耐えうる溶接隙間部での耐食性を有していると評価できる。
水道直結タイプとして使用に耐えうる優れた耐久性を有するかどうかの評価方法としては、当該容器内に0.4MPaのエアーを充填した状態で水没させる試験が適用できる。この試験中に溶接部からのエアー漏れが認められない耐圧性を有していれば、水道直結タイプの高圧力型溶接構造温水容器として実用に耐えうる溶接部の強度を有していると評価できる。
表1に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3mmの熱延板を得た。その後板厚1.0mmまで冷間圧延し、1000〜1070℃で仕上焼鈍を施し、酸洗したのち供試材とした。
各供試材鋼板について、ビード・オン・プレートにてTIG溶接を行った。溶け込みが板厚を貫通する条件で行い、酸化防止手段はトーチからのArシールガスのみとした。溶接後の板からビード方向に対し垂直な断面をもつ試料を切り出し、その断面内の溶着金属の中央部についてビッカース硬度計によりHV10で硬さを測定した。図1に硬さ測定位置を模式的に示す。
結果を表2に記載した。本発明対象鋼を用いたNo.1〜3では溶接部の硬さが180HV10以上となった。このうちNo.1、2ではCr含有量が19%以下と比較的低く、Mo含有量も約1%とあまり高くないにもかかわらず、Mo含有量が2%に近いNo.5(SUS444)やCr含有量が23%に近いNo.6(SUS445J1)と同等以上の高い硬度が得られている。これは溶着金属がSiの固溶強化で硬くなったものと考えられる。なお、溶接部の硬さと耐圧性の関係は実施例3において述べる。
実施例1で用いた板厚1mmの各供試材から20mm×40mmの板を複数切り出し、図2に示すように、2枚の板を少しずらせて重ね、TIG溶接により1枚の板の短辺側を他の1枚の広面の一部に接合させた。そして、2枚の板の間に図2のようにφ5mmのガラス棒を差し込んで溶接隙間を形成させた。このようにして得た試験片を80℃の1000ppmCl-水溶液中に30日間浸漬して腐食電流の変化を監視した。図3には試験方法の構成を模式的に示してある。腐食を促進させるため、Pt補助カソードを試験片に接続している。この試験では容量300Lの温水缶体に相当するカソード能力を有している。試験は各鋼ともn数=3で行った。30日間試験後の試験片における腐食状況を侵食深さの測定によって調べた。そして、腐食電流および腐食状態について以下に示す基準で評価し、腐食電流と腐食状態のいずれもが○評価となったものを総合評価で○(良好)、それ以外を×(不良)と判定した。なお、腐食電流は1μA以下の場合に「消滅」とみなした。
〔腐食電流の評価基準〕
○:30日以内に3個すべての試料において腐食電流が消滅した。
×:30日経過時点で1個以上の試料において腐食電流が継続していた。
〔腐食状態の評価基準〕
○:3個すべての試料において浸食深さ0.1mm以上の腐食が認められなかった。
×:1個以上の試料において侵食深さ0.1mm以上の腐食が認められた。
○:30日以内に3個すべての試料において腐食電流が消滅した。
×:30日経過時点で1個以上の試料において腐食電流が継続していた。
〔腐食状態の評価基準〕
○:3個すべての試料において浸食深さ0.1mm以上の腐食が認められなかった。
×:1個以上の試料において侵食深さ0.1mm以上の腐食が認められた。
結果を表2に「ラボ隙食試験」として記載した。本発明対象鋼を用いた試料はいずれも温水環境において溶接隙間での優れた耐食性を安定して呈するものであった。No.5はMo含有量が2%に近いSUS444であるが、溶接隙間での耐隙間腐食性は必ずしも良好ではなく、結果として不合格評価となった。本発明対象鋼は、NbとTiを添加し、適量のCr、Mo含有量を確保しつつ0.6%を超えるSiと適量のAlを添加した効果により、温水環境における溶接隙間での耐食性が顕著に向上したものと考えられる。なお、このラボ試験による耐隙間腐食性と実機温水容器の耐食性の関係は実施例4で述べる。
実施例1で得た厚さ1mmの供試材(冷延焼鈍酸洗鋼板)を用いて、温水容器の部材である鏡と胴を作製した。鏡はお椀状の形状を有し、胴は円筒状の形状を有する。胴は鋼板の端部どうしをTIG溶接して円筒状にしたものであり、その溶接部は隙間構造をもたない。これらの部材をTIG溶接により接合して図4に示すような構造の温水容器を構築した。この温水容器の大きさは、高さ1430mm、幅(胴部の外径)520mm、容量300L(リットル)である。胴と、上下の鏡との溶接部は、温水容器内部すなわち温水に接触する部分に隙間構造をもつ。いずれのTIG溶接に際しても、Arガスバックシールは行わず、酸化防止手段はTIG溶接のトーチから吹き出すArガスのみとした。
各温水容器について、下部の口金を密封し、上部の口金から0.4MPaのエアーにより内部を加圧し、その状態で容器全体を水槽の中に強制的に水没させた。そして、TIG溶接部からのエアー漏れ(気泡の発生)を調べた。
結果を表2に記載した。
結果を表2に記載した。
表2からわかるように、本発明例のものはいずれもエアー漏れは認められず、その溶接部は水道直結タイプの高圧力型溶接構造温水容器に耐えうる強度を有している。これらはいずれも実施例1の試験により、溶着金属の硬さが180HV10以上となった鋼板を用いたものである。これに対し、実施例1で溶着金属の硬さが180HV10に達しなかった鋼板を用いた比較例のものは鏡と胴の溶接部でエアー漏れが認められた。
実施例1で得た厚さ1mmの供試材(冷延焼鈍酸洗鋼板)を用いて、実施例3と同様の溶接方法で温水容器を作った。大きさ、形状も実施例3のものと同様である。各温水容器について、上下の口金に配管を接続し、80℃の試験液を常時10L/minの速度で下部の口金から導入し上部の口金から排出するようにして循環させた。試験液は山口県周南市上水で調整した200ppmCl-に酸化剤としてCu2+を2ppm添加したものを用いた。この試験液を6ヶ月間循環させた。Cu2+は温水中の残留塩素の酸化力にほぼ匹敵する能力を有しているが、時間経過により試験液中のCu2+濃度は減少することから、1週間毎に液の更新あるいはCu2+の投入を行った。Cl-はNaCl、Cu2 +はCuCl2・2H2O試薬により調整した。試験液の温度は容量300Lの試験容器内において80℃になるよう制御した。
試験液を6ヶ月循環した後の容器を解体し、最も腐食が問題視される鏡と胴の溶接隙間部について腐食状況を調べた。隙間部に浸食深さ0.1mm以上の腐食が認められなかったものを○、浸食深さ0.1mm以上の腐食が認められたもの×とし、○評価以上を合格と判定した。
結果を表2に「実機腐食試験」として記載した。
結果を表2に「実機腐食試験」として記載した。
表2からわかるように、本発明例のものは溶接隙間部に全く腐食が見られず、極めて安定した耐食性を有することが確認された。これに対し比較例のものは溶接隙間部に浸食深さ0.1mm以上の腐食が見られた。なかには溶接隙間部に板厚を貫通する腐食が生じたものもあった(No.5)。このような実機での溶接隙間における耐食性は、実施例2の隙間腐食試験により比較的精度良く評価できることが確かめられた。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.025%以下、Si:0.6超え〜2%、Mn:1%以下、P:0.045%以下、S:0.01%以下、Ni:0.6%以下、Cr:17〜23%、Mo:0.5〜1.7%、Nb:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、Cu:0.6%以下、Al:0.02〜0.3%、N:0.025%以下、残部Feおよび不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼板部材の溶接接合により構築され、その溶接部の温水に接触する部位に隙間構造をもつ温水容器。
- 前記溶接部の温水に接触する部位に「溶接まま」の状態の隙間構造をもつ請求項1に記載の温水容器。
- 前記フェライト系ステンレス鋼板部材は、TIG溶接による溶着金属部の硬さがビードに垂直な断面において180HV10以上となるものである請求項2または3に記載の温水容器。
- 80℃の200ppmCl-+2ppmCu2+水溶液を当該容器内に6ヶ月間循環させたとき前記溶接部に侵食深さ0.1mm以上の腐食が発生しない耐食性を有する請求項1〜3に記載の温水容器。
- 当該容器内に0.4MPaのエアーを充填した状態で水没させたとき前記溶接部からのエアー漏れが認められない耐圧性を有する請求項1〜4に記載の温水容器。
- 当該温水容器は水道直結タイプの高圧力型溶接構造温水容器である請求項1〜5に記載の温水容器。
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