JP4767146B2 - 高圧力水用ステンレス鋼容器 - Google Patents

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Description

本発明は、ポンプタンク等の高圧力水用ステンレス鋼容器に関する。
高圧力水を貯水する容器として、井戸用ポンプタンクや水道水を対象としたポンプタンクがある。ポンプタンクは吸入した水を空気の圧力で吐出する構造のため、使用時にはタンク内部に液相部と気相部が形成される。
ポンプタンクは鋼板部材を溶接やかしめ加工などで接合することによって組み立てられる。このため、接合部での優れた耐食性が要求される。また、ポンプタンクは貯湯タンクとは異なり、ポンプ稼働時には例えば90〜300kPaといった圧力が内部に付与されるので、接合部には高い強度が要求される。さらに、気相部に曝されるタンク内面(特に天井部)には結露による水滴が付着し、これがポンプ稼働時に高圧付与による熱によって蒸発する。水道水を対象とする場合には、蒸発時に水道水に含まれる残留塩素が濃縮するため、気相部に曝される部位での高耐食性(特に耐孔食性)も要求される。
従来のポンプタンクは普通鋼を成形した後、溶接施工を行い、防食のため重塗装を施したものが多く使用されている。溶接部は酸化スケールが生成しているため塗膜密着性に劣り、溶接部に腐食が生じて漏水するという問題があった。そこで防食のための塗装を省略できるタンク素材として耐食性に優れたステンレス鋼の適用が求められるようになってきた。しかしステンレス鋼といえども溶接によって耐食性が低下することがあり、さらに溶接による隙間構造(以下「溶接隙間」といいう)が形成されると隙間腐食が生じて早期に漏水に至ることが考えられる。貯湯槽用のステンレス鋼として実績のあるSUS444(18Cr−2Mo−Nb,Ti)を用いたとしても、溶接部を無手入れで使用するポンプタンクでは十分な耐食性が発揮できない恐れがある。また、溶接構造の貯湯槽用として新たなフェライト系ステンレス鋼も開発されているが(特許文献1)、高圧力が付与されるポンプタンク用途にそのまま適用できるものではない。
最近ではステンレス鋼を用いたポンプタンクも実用化されているが、タンク内面のステンレス鋼表面に表面処理を施したうえで使用されているのが現状である。
特開2006−97908号公報
本発明は、このような現状に鑑み、液相部に曝される溶接隙間での耐隙間腐食性に優れ、気相部に曝されるステンレス鋼表面での耐孔食性に優れ、かつ溶接部の接合強度に優れるステンレス鋼製の高圧水用容器であって、内面に塗装や表面処理を施すことなく使用可能なものを提供することを目的とする。
上記目的は、質量%で、C:0.015%以下、Si:0.05〜1%好ましくは0.4〜1%、Mn:1%以下、P:0.045%以下、S:0.005%以下、Cr:16〜20%、Mo:0.5〜1.7%、Ni:0.6超え〜5%、Cu:0.8%以下、N:0.02%以下、Al:0.03〜0.2%、Nb:0.2〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%であり、必要に応じてB:0.005%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼板部材どうしを溶接してなる高圧力水用ステンレス鋼容器によって達成される。
ここで、鋼板部材とは、鋼板を成形加工して得られる部材である。前記フェライト系ステンレス鋼板部材どうしの溶接部には隙間構造(溶接隙間)を有していて構わない。隙間構造は、2つの板状部材が接触しながら重なっているか、あるいは極めて近接しており、両部材の間に液(水)の浸入が可能であるが、周囲の液(バルク)との間で液の交換が行われない環境にある部分である。本発明のステンレス鋼容器は、容器内面をステンレス鋼の金属肌で構成することができる。すなわち前記フェライト系ステンレス鋼板部材に由来する内面の部分に塗装や特殊な表面処理を施さないものが提供される。また、容器内面の溶接部が無手入れのまま使用される、すなわち溶接部に研磨等による酸化スケールの除去操作を施さずに使用されるステンレス鋼容器が提供される。
本発明によれば、接合部の耐食性及び強度に優れ、かつ気相部に曝される部位での耐孔食性に優れた高圧水用ステンレス鋼容器が提供される。この容器は、内面に塗装や特殊な表面処理を施すことなく、ステンレス鋼の金属肌のままの状態で使用できる。また、溶接部を無手入れのまま使用することもできる。このため、容器製造工程での負荷が大幅に軽減され、ポンプタンク等の高圧水容器において信頼性を向上させながらコスト低減が同時に実現できる。
ステンレス鋼の中でもポンプタンク素材としては、耐応力腐食割れ性やコスト低減の観点からフェライト系ステンレス鋼が有利であるが、フェライト系ステンレス鋼の耐食性は溶接により阻害されやすく、鋼本来の耐食性を十分に活かすことは必ずしも容易ではない。一般にステンレス鋼の溶接部(溶接金属および溶接熱影響部)の耐食性低下は、溶接時の加熱によりCrが酸化し、酸化物の直下でCr欠乏層ができるためと考えられる。ところが本発明者らは、ポンプタンクの耐食性に及ぼす要因を種々検討した結果、従来のフェライト系ステンレス鋼の場合、目視で酸化スケールが確認できない程度のごく僅かな溶接酸化が生じていても耐食性が低下することを知見した。ただし腐食形態が孔食の場合は、温水中での耐食性改善を図ったSUS444等の高耐食性鋼種ではいったんCr欠乏層が腐食するものの孔食は進行せず、ステンレス鋼表面は再不動態化する。しかし、腐食形態が隙間腐食の場合は、隙間内の液が隙間外部の水溶液(バルク)と交換できないため、再不動態化が起こりにくく腐食は継続する。したがって、特に溶接隙間では耐食性確保に留意する必要がある。さらに、気相部に曝される部位における耐孔食性および溶接部の強度確保にも配慮する必要がある。
発明者らの詳細な検討の結果、鋼組成の調整により、溶接隙間での耐隙間腐食性、気相部に曝される部位での耐孔食性、および溶接部の接合強度を高レベルで具備するものが得られることがわかった。特に、Niの添加がこれらの特性改善に極めて有効であることが明らかになった。以下、本発明を特定するための事項について説明する。
CおよびNは、鋼中に不可避的に含まれる元素である。C、N含有量を低減すると鋼は軟質になり加工性が向上するとともに、炭化物、窒化物の生成が少なくなり溶接性および溶接部の耐食性が向上する。このため、これらの元素含有量は低い方が好ましい。Cは0.015質量%まで、Nは0.02%まで含有が許容される。
Mnは、鋼中に存在するSと結合し、化学的に不安定な硫化物MnSを形成して耐食性を低下させる。さらに固溶Mn自体も耐食性を阻害する要因となる。このためMn含有量は低い方が好ましく、1質量%以下の含有量に制限される。0.5質量%以下とすることがより好ましい。
Pは、母材および溶接部の靭性を損なうので少ないほど望ましいが、含Cr鋼の脱Pは難しく、Pの低減には製造コストの上昇を伴う。P含有量は0.045質量%まで許容できる。
Sは、Mnと硫化物を形成して孔食の起点となり、耐食性を阻害するが、孔食の成長を促進する作用はない。しかし、溶接部の高温割れに悪影響を及ぼすためS含有量は低いほど好ましい。S含有量は0.005質量%以下に制限される。
Niは、本発明において重要な元素である。Niの添加によって、耐候性、耐孔食性、耐酸性、耐隙間腐食性が改善される。特にNiはポンプタンク特有の内圧がかかる構造で要求される強度(特に溶接部の強度)を上昇させるうえで極めて有効な元素であることがわかった。発明者らの詳細な検討によれば、ポンプタンク用途においてこれらの特性を十分に発揮させるには、0.6質量%を超えるNi含有量を確保する必要がある。ただし、Ni含有量が5質量%を超えると加工性が低下し、経済性も悪くなるので、Ni含有量は0.6超え〜5質量%の範囲とする。0.9〜3.5質量%とすることがより好ましい。
Crは、不動態皮膜の構成元素であり、耐孔食性、耐隙間腐食性および一般の耐食性を向上させるが、16質量%未満ではポンプタンクの用途においてその効果は不十分である。Cr含有量の増大に伴って耐食性向上効果も増大する。しかし反面、Cr量が多くなると機械的性質や靭性が損なわれ、コスト増につながる。種々検討の結果、本発明で対象とする高圧力水用ポンプタンクの用途ではCrを20質量%以下の範囲で含有させればよい。
Moは、Crとともに耐食性を高める有効な元素である。Moの耐食性改善効果の発現にはCrが必須で、Cr含有量が高い鋼ほど耐食性改善効果は大きくなる。本発明で対象とするポンプタンクは構造上、使用時に液相部と気相部が形成される。水道水を使用する場合、塩素を含む水がタンク内部を循環し、かつ溶接隙間を有する構造であることを考慮すると、Mo含有量が0.5質量%未満では十分な耐食性を安定して確保することは難しい。一方、Mo含有量が多くなると加工性が低下する。本発明の対象鋼はAlとTiを複合添加している効果等により溶接によるCr欠乏層の生成が抑制され、またMoにはCr欠乏層の生成自体を抑制する作用はほとんどないことから、あまり多量のMoを含有させる必要はない。種々検討の結果、ポンプタンクを構成する部材への成形性確保と耐食性向上作用のバランスから、Mo含有量は1.7質量%以下に抑えることが望ましいことがわかった。したがって、Mo含有量は0.5〜1.7質量%の範囲に制限される。
Alは、Tiと複合して添加することで、溶接時に鋼表面にAl酸化物皮膜を優先的に形成し、Crの酸化を抑制する作用がある。これにより、溶接部での耐食性低下が顕著に改善される。このようなAlの作用を十分に得るためにはAl含有量を0.03質量%以上確保する必要がある。一方、Al含有量が多くなると表面品質や溶接性が低下するのでAl含有量は0.2質量%以下に制限される。0.15質量%以下の範囲で含有させことがより好ましい。
Cuは、フェライト系ステンレス鋼の孔食電位を向上させ、腐食の進行を抑える作用を有するので0.01質量%以上の含有させることが望ましい。ただし、過剰に添加するとむしろ耐食性を阻害する。本発明ではCuを0.8質量%以下の範囲で含有させる。0.5質量%以下に制限することもできる。
Nbは、Tiと同様にC、Nとの親和力が強く、フェライト系ステンレス鋼で問題となる粒界腐食を防止するのに有効な元素である。また、ポンプタンクでは付与される圧力に耐えるレベルの強度が要求されるが、Nbを添加することで再結晶温度が高くなり、結晶粒径が微細化されて鋼の引張強さが高くなるので効果的である。これらの作用を十分に発揮させるためにはNbを0.2質量%以上含有させる必要がある。ただし、過剰のNb含有は溶接高温割れの原因となり、また溶接部の靭性も低下させるので0.5質量%以下の範囲とする。
Tiは、Alとの複合添加により、溶接時に鋼の表面にAl皮膜を形成させ、Cr酸化ロスを防止する作用を呈する。さらにNbと同様にC、Nを固定する作用も有する。これらの作用を有効に引き出すためには0.05質量%以上のTi含有量を確保する必要があり、0.1質量%以上とすることがより好ましい。しかし、Ti添加量が多くなると素材の表面品質や溶接性が低下するので、Ti含有量は0.3質量%以下の範囲に制限される。
Siは、脱酸作用を有するほか、鋼を硬質にする作用を有する。ポンプタンクの用途では内部に圧力が付与されるにより容器が膨張するため、Siの添加は高圧水用容器として要求される強度を得るため有効である。このため本発明では0.05質量%以上のSi含有量を確保する。特に高い強度を得るためには0.2質量%以上のSi含有量とすることが望ましく、0.4質量%以上とすることが一層効果的である。ただし、Siは溶接部の高温割れや溶接部靭性に対して有害であるので、上限を1.0質量%とする。
Bは、フェライト系ステンレス鋼の二次加工性を改善する元素である。また、溶接熱影響部における結晶粒の粗大化を抑制し、溶接部の強度低下に対して有効に作用する。このため本発明では、必要に応じてBを添加することができる。ただし、過剰にBを添加すると結晶粒界等にCr硼化物として析出するので、Bを添加する場合は耐食性の観点から0.005質量%以下の範囲で行う。
その他の元素として、例えば、REM(希土類元素):0.01質量%以下、Ca:0.01質量%以下、Mg:0.01質量%以下、V:0.01質量%以下等の含有は本発明の効果を阻害せず、これらの元素が混入していても構わない。
以上のような成分組成に調整されたフェライト系ステンレス鋼を通常のステンレス鋼板製造工程により製造し、例えば板厚1.0〜2.0mm程度のステンレス鋼板とする。表面仕上げは例えば2D仕上げとすることができる。このようなステンレス鋼板をプレスなどにより成形して、例えば高圧水用容器の胴から天井部分を構成する「胴体部材」を一体成形し、また、当該容器の底部を構成する「鏡部材」を成形する。そしてこれらの部材をTIG溶接等により接合することにより本発明の高圧水用ステンレス鋼容器が構築される。高圧水を導入する「吸入管」と当該容器から外部へ水を送り出す「吐出管」を例えば胴体部材に溶接等により接続することで、ポンプタンクとしての機能を発揮する高圧水用ステンレス鋼容器が得られる。
表1に示す化学組成のフェライト系ステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3.0mmの熱延鋼板とし、その後、板厚1.0mmまで冷間圧延し、1000〜1070℃の温度範囲で仕上焼鈍を施し、酸洗することにより2D仕上げのステンレス鋼板を製造した。比較鋼No.7はSUS444に相当する鋼種である。
Figure 0004767146
各鋼板から切り出した20mm×40mmの試料鋼板2枚をTIG溶接することにより図1に示す形状の溶接隙間試験片を作製した。2枚の板は同一鋼種とし、2枚の板を少しずらして重ね合わせ、短辺側の一端をTIG溶接するとともに、他端には直径5mmのガラス棒を差し込んだ構造の試験片を作製した。溶接部には溶接隙間構造が形成されている。リード線をスポット溶接にて取り付け、リード線は樹脂で被覆した。この試験片について図2に示す構成の試験装置により45℃の1000ppmCl-水溶液で30日間の浸漬試験を行った。腐食を促進させるためPt補助カソードを試験片に接続している。この試験では容量300L(リットル)の容器に相当するカソード能力を有している。各鋼種ともn=3で試験を行い、試験中、試料とPt補助カソードの間に生じる腐食電流をモニターした。30日間試験後の試験片について2枚の板を機械的に分断し、溶接隙間を形成している部分に生じた侵食深さを光学顕微鏡を用いた焦点深度法により測定して腐食状態を調べた。
腐食電流については、7日以内に電流が消滅したものを○(良好)、7日経過時点では電流が継続していたが30日経過時点で電流が消滅していたものを△(やや不良)、30日経過時点でも電流が継続していたものを×(不良)と評価し、n=3の全てにおいて○評価が得られた鋼種を合格と判定した。なお、電流値が1μA未満の場合に電流が消滅したとみなした。
腐食状態については、腐食が認められなかったものを◎(優秀)、最大侵食深さが0.1mm未満と軽微なものを○(良好)、最大侵食深さが0.1mm以上のものを×(不良)と評価し、n=3の全てにおいて○評価以上が得られた鋼種を合格と判定した。
個々の試験片の結果を表2に示す。腐食電流、腐食状態ともに合格判定であった鋼種を総合判定○(合格)、それ以外を×(不可)と表示した。
Figure 0004767146
表2からわかるように、本発明の対象となるステンレス鋼は、いずれも7日以内で腐食電流が消滅し、かつ隙間部での侵食深さも0.1mm以上にはならなかった。すなわち、塩素を含む水道水に用いるポンプタンクを構成したとき、溶接隙間での隙間腐食が進行しない優れた耐隙間腐食性を有していることが確認された。なお、これらの本発明対象鋼は、そのCrおよびMo含有量のレベルから、ポンプタンクの気相部に曝される部位における耐孔食性について、全く問題ないことが確認されている(後述実施例3参照)。
一方、比較鋼No.7(SUS444相当鋼)はTiが不足しNiも少ないため、溶接部での耐隙間腐食性に劣った。この鋼種はMoを多量に含有するものであるが、溶接による耐食性低下に関し、Moの効果は小さいと言える。No.8はAlが不足しNiも少ないものであり、No.9はCrおよびMoレベルが低くNiも少ないものである。これらについても溶接部での耐隙間腐食性は悪かった。
表1のNo.2(発明対象鋼)およびNo.8(比較鋼)を用いて、それぞれポンプタンクを模した高圧水用容器を製造して耐圧試験に供した。図3に高圧水用容器の構造を模式的に示す。実施例1で得られた板厚1mmの2D仕上げ材を用いて胴部と天井部をプレス成形にて一体成形して「胴体部材」を作製し、また、プレス成形にて底部に用いる「鏡部材」を作製した。両部材をTIG溶接にて接合することにより溶接構造容器を構築した。そのTIG溶接箇所には、容器内部の液相部に曝される部位に溶接隙間が形成されている。胴体部材と鏡部材は同一鋼種である。胴体部材の天井部には吸入管がTIG溶接にて取り付けられ、容器外部から吸入管を通して高水圧が付与できるようになっている。また胴体部材の胴部(液相部)にはバルブを有する吐出管がTIG溶接により取り付けられている。この容器の寸法は胴部の最大径が約320mm、底部の鏡部材の最上部から天井部までの高さが約300mmである。容器内面はステンレス鋼の金属肌で構成され、塗装や表面処理は施されていない。また、溶接部については無手入れ(溶接のまま)の状態である。
吐出管のバルブを閉じた状態で吸入管から容器内部に水道水を導入し、液相部と気相部が概ね図3のような状態となった時点で水道水の導入を止めた。一旦バルブを操作して吐出管の中の空気を排除した。そして、容器外部から吸入管を通してゲージ圧0.5MPaの水圧を10秒間付与したのち、圧力付与を10秒間止める操作を、最大50000回まで繰り返した。その間、吐出管のバルブは閉じたままである。途中、10000回毎に胴体部材と鏡部材の接合部を観察し、漏水の有無を調べた。
その結果、本発明例であるNo.2鋼を用いた高圧水用ステンレス鋼容器は、50000回終了時においても漏水は認められなかった。この試験の加圧力は通常のポンプタンクで使用される圧力を大きく超えるものであるが、本発明の容器は極めて優れた耐久性を有することが確認された。これに対し、No.8鋼を用いた高圧水用ステンレス鋼容器は、20000回の時点で溶接部が一部で破損し、漏水が生じていた。Ni含有量が不十分であったことにより接合部の強度が不足したものと考えられる。
No.2鋼、No.8鋼を用いて実施例2と同じ寸法、構造の高圧水用ステンレス鋼容器を作製した。この容器に実施例2と同様の手順で液を導入した。ただし、ここでは上水に200ppmの塩素イオンを加え、さらに2ppmの残留塩素を添加した液を使用した。そして、容器外部から吸入管を通してゲージ圧0.2MPaの水圧を1分間付与したのち、圧力付与を1分間止める操作を繰り返す耐久試験を1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、および12ヶ月行った。液温は45℃に維持した。また、容器内部の液を7日毎に新しいものに交換した。各試験期間終了後に容器を解体し、天井部の内面における侵食深さ、および胴体部材と鏡部材の溶接隙間部における侵食深さを光学顕微鏡による焦点深度法により測定した。いずれの部位についても、最大侵食深さが0.2mm未満のものを○(良好)、0.2〜0.3mm未満のものを△(やや不良)、0.3mm以上のものを×(不良)と評価し、○評価を合格と判定した。結果を表3に示す。
Figure 0004767146
表3からわかるように、水道水よりも腐食条件がかなり厳しい試験液を用いて実際の使用に近い圧力を繰り返し付与する長期耐久試験において、本発明例であるNo.2鋼を用いた高圧水用ステンレス鋼容器は12ヶ月を超える耐久性を示した。したがって、この容器は優れた耐久性を有すると評価できる。これに対し比較例であるNo.8鋼を用いた容器は耐久性に劣った。この結果から、Cr、Moの含有量レベルを適正化したものにおいて、Ti、Alの複合添加とNiの適量添加がポンプタンクに求められる耐久性を付与する上で極めて有効であると言える。
溶接隙間試験片の構造を模式的に示した図。 隙間腐食試験装置の構成を模式的に示した図。 実施例2、3で使用した高圧水用ステンレス鋼容器の構造を模式的に示した図。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.015%以下、Si:0.05〜1%、Mn:1%以下、P:0.045%以下、S:0.005%以下、Cr:16〜20%、Mo:0.5〜1.7%、Ni:0.6超え〜5%、Cu:0.8%以下、N:0.02%以下、Al:0.03〜0.2%、Nb:0.2〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、残部Feおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼板部材どうしを溶接してなる高圧力水用ステンレス鋼容器。
  2. 前記フェライト系ステンレス鋼板部材のSi含有量が0.2〜1%である請求項1に記載の高圧力水用ステンレス鋼容器。
  3. 前記フェライト系ステンレス鋼板部材がさらにB:0.005%以下を含有するものである請求項1または2に記載の高圧力水用ステンレス鋼容器。
  4. 前記フェライト系ステンレス鋼板部材どうしの溶接部は隙間構造を有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の高圧力水用ステンレス鋼容器。
  5. 前記フェライト系ステンレス鋼板部材に由来する容器内面部分はステンレス鋼の金属肌で構成されている請求項1〜4のいずれかに記載の高圧力水用ステンレス鋼容器。
  6. 容器内面の溶接部が無手入れのまま使用される請求項1〜5のいずれかに記載の高圧力水用ステンレス鋼容器。
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