JP2007008738A - 水素化物複合体及び水素貯蔵材料、並びに、これらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 X(BH4)m(mは、元素Xのイオンの価数)で表される1種又は2種以上のボロハイドライドと、Y(NH2)n(nは、元素Yのイオンの価数)で表される1種又は2種以上のアミドとを機械的混合プロセスで複合化することにより得られる水素化物複合体及びその製造方法。また、水素化物複合体に含まれる水素の全部又は一部を放出させることにより得られる水素貯蔵材料及びその製造方法。
【選択図】 図1
Description
しかしながら、LaNi5、TiFe等の水素吸蔵合金は、La、Ni、Ti等の希少金属を含んでいるため、その資源確保が困難であり、コストも高いという問題がある。
また、LaNi5等の希土類系合金のように、初めから容易に水素を吸蔵するものもあるが、水素吸蔵合金は、一般に、合金表面に吸着しているガスや酸化被膜のため、水素吸蔵能力は低い。そのため、このような合金においては、清浄な合金表面を露出させるための前処理(初期活性化)が必要となる。特に、TiFeは、初期活性化が難しく、相対的に多量の水素を吸蔵・放出させるためには、高温・高圧下での水素の吸蔵と吸蔵された水素の放出とを複数回繰り返す処理(活性化処理)が必要となる。
さらに、従来の水素吸蔵合金は、合金自体の重量が大きいために、単位重量当たりの水素密度が小さい、すなわち、大量の水素を貯蔵するために極めて重い貯蔵材料を必要とするという問題がある。
(1) LiNH2、LiBH4等のリチウム(Li)を含む錯体水素化物/水素貯蔵材料(例えば、特許文献1、非特許文献1等参照)、
(2) NaAlH4等のナトリウム(Na)を含む錯体水素化物/水素貯蔵材料、
(3) Mg(NH2)2等のマグネシウム(Mg)を含む錯体水素化物/水素貯蔵材料、
などが知られている。
また、単相の金属間化合物ではなく、複数の相を複合化させることによって、水素吸蔵量を増大させたり、あるいは、水素の吸蔵・放出温度を低下させる試みがなされている。軽元素を含み、かつ、複数の相の複合体からなる水素化物/水素貯蔵材料としては、LiNH2+LiH、LiBH4+MgH2などが知られている。
また、非特許文献2には、LiNH2+LiHの複合体が分解して水素を放出する際の反応メカニズムが提案されている。同文献には、LiNH2の分解によってNH3が放出され、放出されたNH3がLiHと速やかに反応し、水素が生成すると考えられる点、及び、複合体が相対的に低温で水素を放出するのは、LiHとLiNH2との間の相互作用によると考えられる点、が記載されている。
本発明に係る水素貯蔵材料の製造方法は、X(BH4)m(mは、元素Xのイオンの価数)で表される1種又は2種以上のボロハイドライドと、Y(NH2)n(nは、元素Yのイオンの価数)で表される1種又は2種以上のアミドとを機械的混合プロセスで複合化する複合工程と、該複合工程で得られた水素化物複合体に含まれる水素の全部又は一部を放出させる脱水素化工程とを備えていることを要旨とする。また、本発明に係る水素貯蔵材料は、本発明に係る方法により得られたものからなる。
(1) ボロハイドライドとアミドとを複合化させることによって、両者が熱的に不安定となり(すなわち、水素を放出しやすい不安定物質(新規な化合物)が生成し)、より低温での分解が生ずること、及び、
(2) 特に、元素X又は元素Yの少なくとも一方がNa又はMgである場合には、水素が放出されることによって、水素の吸蔵が極めて容易な化合物(中間生成物を含む)が生成すること、
によると考えられる。
本発明に係る水素化物複合体の製造方法は、1種又は2種以上のボロハイドライドと、1種又は2種以上のアミドとを機械的混合プロセスにより複合化する複合工程を備えている。また、本発明に係る水素化物複合体は、本発明に係る方法により得られたものからなる。
本発明において、「アミド」とは、組成式:Y(NH2)n(nは、元素Yのイオンの価数)で表されるものをいう。アミドを構成する元素Yの種類は、特に限定されるものではなく、金属元素であれば良い。特に、元素Yがアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素であるときには、高い水素吸蔵/放出能力が得られる。出発原料には、(1)1種類の元素Yを含むアミド又はその混合物、(2)2種以上の元素Yを含むアミドの固溶体、(3)これらの組み合わせ、のいずれを用いても良い。
これらの中でも、元素X及び元素Yが、それぞれ、Li、Na及びMgから選ばれる1種以上の元素であるときには、高い水素吸蔵/放出能力が得られる。特に、元素X及び元素Yの少なくとも1つがNa又はMgであるときには、高い水素吸蔵/放出能力が得られる。一方、元素X及び元素YがいずれもLiのみからなるときには、高い水素放出能力を示すが、水素の再吸蔵能力に乏しいという欠点がある。
(1) LiBH4、NaBH4などのアルカリ金属ボロハイドライド、
(2) Mg(BH4)2、Ca(BH4)2などのアルカリ土類金属ボロハイドライド、
などがある。
また、アミドとしては、具体的には、
(1) LiNH2、NaNH2などのアルカリ金属アミド、
(2) Mg(NH2)2、Ca(NH2)2などのアルカリ土類金属アミド、
などがある。
(1/m)X(BH4)m+(2/n)Y(NH2)n ⇔ X1/mY2/nBN2+4H2↑ ・・・(a)
(但し、mは、元素Xのイオンの価数。nは、元素Yのイオンの価数。)
従って、ボロハイドライドとアミドの配合比(モル比)が1/m:2/nであれば、理想的には、ボロハイドライドとアミドからボロナイトライド(X1/mY2/nBN2)が生成し、出発原料に含まれるすべての水素を放出させることができる。
しかしながら、ボロハイドライドとアミドの配合比が化学量論比(1/m:2/n)から多少ずれた場合であっても、過剰成分は、反応に寄与しないだけであり、水素吸蔵放出反応を阻害することはない。但し、化学量論比からのずれが大きくなりすぎると、水素の吸蔵/放出量が低下するので好ましくない。高い水素の吸蔵/放出量を得るためには、ボロハイドライド及びアミドに対するボロハイドライドの配合比(モル比)は、化学量論比(=(1/m)/{(1/m)+(2/n)}=n/(n+2m))の0.5倍以上1.5倍以下が好ましく、さらに好ましくは、0.8倍以上1.2倍以下、さらに好ましくは、0.9倍以上1.1倍以下である。
例えば、ボロハイドライド及びアミドがいずれもアルカリ金属のみを含む場合、(a)式におけるボロハイドライドとアミドの化学量論比は、1:2である。従って、この場合、ボロハイドライドの配合比(モル比)は、0.33±0.165が好ましく、さらに好ましくは、0.33±0.066、さらに好ましくは、0.33±0.033である。
なお、本発明に係る水素化物複合体及び水素貯蔵材料は、必ずしも(a)式に従って水素の吸蔵放出を可逆的に繰り返すものではなく、(a)式の反応の途中で生成する中間生成物の間で水素の吸蔵放出が起こる場合もある。この点については、後述する。
すなわち、まず、出発原料であるボロハイドライド及びアミドを所定の比率で配合する。この場合、出発原料の形態は、特に限定されるものではないが、通常は、粉末を用いる。また、出発原料として粉末を用いる場合、その粒径は、特に限定されるものではない。一般に、出発原料として粒径の細かい粉末を用いるほど、複合化させる際の負荷を軽減することができる。一方、必要以上に細かい粉末を出発原料として用いると、粉末表面が酸化等により被毒されるおそれがある。従って、粉末の粒径は、作業性、コスト、被毒の有無等を考慮して、最適な粒径を選択するのが好ましい。
なお、ボロハイドライド及びアミドの組み合わせは、他の水素化物と比べて反応が容易であり、相対的に粒径が粗い(具体的には、平均粒径100μm程度)場合であっても、容易に水素を吸蔵/放出できるという利点がある。
ここで、「機械的混合プロセス」とは、出発原料に機械的応力を与え、粉砕しながら均一に混合するプロセスをいう。このような機械的混合プロセスとしては、具体的には、遊星ボールミル、回転ミル、振動ミル等の粉砕機で原料粉末を混合粉砕する方法、乳鉢で原料粉末を混合粉砕する方法などがある。
機械的混合プロセスは、出発原料の酸化を防ぐために、非酸化雰囲気下(例えば、アルゴン雰囲気下、水素雰囲気下など)で行うのが好ましい。
また、機械的混合プロセスの処理時間は、出発原料の均一かつ微細な混合物が得られるように、処理方法、出発原料の種類、形態等に応じて、最適な処理時間を選択する。一般に、処理時間が長くなるほど、出発原料が微細に粉砕され、粉砕された粉末が均一に混合した複合体が得られる。但し、必要以上の処理は、効果に差がなく、実益がない。例えば、遊星ボールミルを用いて混合粉砕する場合において、出発原料として粉末を用いる時には、処理時間は、1〜十数時間が好ましい。
複合工程で得られた水素化物複合体は、ボロハイドライド及びアミドを出発原料に用いており、既に水素を貯蔵している状態にある。また、本発明に係る水素化物複合体は、熱的に不安定であり、水素を放出しやすい状態になっている。この水素化物複合体に対して脱水素化処理をすると、水素化物複合体から水素が放出され、水素貯蔵材料となる。
一般に、加熱温度が高くなるほど、水素放出量は多くなる。但し、加熱高温が高くなりすぎると、水素放出量が飽和し、実益がないだけではなく、構成物質の結晶構造が壊れるなど変質する場合があるので好ましくない。
また、一般に、加熱時の雰囲気圧力が低くなるほど、加熱時間が長くなるほど、及び/又は、加熱時の昇温速度が小さくなるほど、相対的に低温で大量の水素を放出させることができる。
また、水素化物複合体を脱水素化することにより得られる水素貯蔵材料と水素ガスとを所定の条件下で反応させると、再び水素が吸蔵され、最終的には水素化物複合体に戻る。最適な水素との反応条件は、出発原料の組成によって異なるが、通常は、水素ガスの圧力:0.1〜50MPa程度、温度:20〜400℃(293〜673K)程度である。
例えば、ボロハイドライドとアミドのいずれか一方にNa又はMgを含む水素化物複合体から水素を放出することにより得られる水素貯蔵材料の場合、水素ガスの圧力:0.1〜10MPa、温度:293〜423Kの条件下において水素と反応させると、2.5mass%相当又はそれ以上の水素ガスを吸蔵することができる。
本発明に係る水素化物複合体及び水素貯蔵材料は、500K程度の低温において、相対的に多量(5wt%程度)の水素を放出/吸蔵することができる。このような優れた水素放出/吸蔵特性を示す理由の詳細については、明らかではないが、以下のような理由によると考えられる。
また、ボロハイドライド及びアミドのいずれか一方にNa又はMgを含む場合、可逆的な水素の吸蔵/放出がさらに容易になる。これは、
(1)Na系物質又はMg系物質を出発原料に用いると、水素を放出させた際に水素化物複合体がボロナイトライドまで完全に分解せず、中間生成物(新規な化合物)が生成すること、及び、
(2)生成した中間生成物の水素の再吸蔵特性が極めて高いこと、
によると考えられる。
そのため、これを例えば、燃料電池システム用の水素貯蔵物質に応用すれば、燃料電池システムのエネルギー効率を飛躍的に向上させることができる。
純化したArで満たされたグローブボックス中でNaBH4とLiNH2とをモル比で1:2となるように混合し、さらにAr雰囲気下で遊星ボールミル装置を用いて2時間ミリング処理した。ミリング処理後、グローブボックス中で評価用セルに入れ、容量法を用いて300℃における水素放出量を測定した。その結果、7.9mass%の水素が放出された。また、ミリング処理後の試料を不活性ガス気流中で示差熱分析を行ったところ、水素放出に伴う吸熱ピークが観測された。
次に、水素放出前後の粉末について、粉末X線回折測定を行った。図1に、その結果を示す。図1より、
(1)水素放出前後において、結晶構造が変化していること、
(2)水素放出後において、ボロナイトライド以外の新規な化合物が生成していること、
がわかる。
次に、水素放出後の粉末(水素貯蔵材料)に対し、9MPaの水素圧力、温度300℃の条件下で水素の再吸蔵を行わせた。その結果、2.5mass%の水素が吸蔵された。図2に、水素放出後及び水素再吸蔵後の粉末のX線回折パターンを示す。図2より、水素を再吸蔵させることによって結晶構造が変化していることがわかる。なお、図1の水素放出前のX線回折パターンと図2の水素再吸蔵後のX線回折パターンが完全に一致しないのは、吸蔵水素量が放出水素量より少ないため、水素放出前の水素化物複合体が生成していないためと考えられる。
純化したArで満たされたグローブボックス中でLiBH4とNaNH2とをモル比で1:2となるように混合し、さらにAr雰囲気下で遊星ボールミル装置を用いて2時間ミリング処理した。ミリング処理後、グローブボックス中で評価用セルに入れ、容量法を用いて400℃における水素放出量を測定した。その結果、6.4mass%の水素が放出された。また、粉末X線回折測定から、水素放出前後で結晶構造が変化していることを確認した。
純化したArで満たされたグローブボックス中でLiBH4とLiNH2とNaNH2とをモル比で2:3:1となるように混合し、さらにAr雰囲気下で遊星ボールミル装置を用いて2時間ミリング処理した。ミリング処理後、グローブボックス中で評価用セルに入れ、容量法を用いて250℃及び300℃における水素放出量を測定した。その結果、250℃、300℃で、それぞれ、4mass%、8.7mass%の水素が放出された。また、粉末X線回折測定から、水素放出前後で結晶構造が変化していることを確認した。
次に、250℃で水素放出後の粉末(水素貯蔵材料)に対し、10MPaの水素圧力、温度200℃の条件下で水素の再吸蔵を行わせた。その結果、3.5mass%の水素が吸蔵された。図3に、水素放出後及び水素再吸蔵後の粉末のX線回折パターンを示す。図3より、水素を再吸蔵させることによって結晶構造が変化していることがわかる。
純化したArで満たされたグローブボックス中でLiBH4とMg(NH2)2とをモル比で1:1となるように混合し、さらに水素雰囲気下で遊星ボールミル装置を用いて2時間ミリング処理した。ミリング処理後、グローブボックス中で評価用セルに入れ、容量法を用いて250℃における水素放出量を測定した。その結果、7.2mass%の水素が放出された。また、粉末X線回折測定から、水素放出前後で結晶構造が変化していることを確認した。図4に、水素放出前後の粉末のX線回折パターンを示す。図4より、水素放出前後において結晶構造が変化していることがわかる。
純化したArで満たされたグローブボックス中でLiBH4とLiNH2とをモル比で1:2となるように混合し、さらにAr雰囲気下で遊星ボールミル装置を用いて2時間ミリング処理した。ミリング処理後、グローブボックス中で評価用セルに入れ、容量法を用いて250℃における水素放出量を測定した。その結果、8mass%の水素が放出された。また、粉末X線回折測定から、水素放出前後で結晶構造が変化していることを確認した。
次に、水素放出後の材料(水素貯蔵材料)について、水素圧力10MPa、温度100〜400℃の条件下で水素の再吸蔵を行わせた。しかしながら、この条件下では、水素の再吸蔵はほとんど生じなかった。
第一原理計算を用いて、以下の2つの脱水素化反応のエンタルピー変化(ΔH)を見積もった。
LiBH4+2LiNH2→Li3BN2+4H2 ・・・(1)
NaBH4+2NaNH2→Na3BN2+4H2 ・・・(2)
反応式(1)と(2)のΔHは、それぞれ、23kJ/molH2、42kJ/molH2であった。この結果から、(Li1-xNax)BH4+2(Li1-yNay)NH2→(Li1-zNaz)3BN2+4H2(z=(x+2y)/3)の反応において、zの値を変えることにより、ΔHの調節が可能であることが予測される(図5)。
また、反応式(1)及び(2)において、エンタルピー変化ΔHが大きいことは、水素の再吸蔵が容易であることを示す。図5より、ΔHの小さいLi系物質にNa系物質を添加すると、ΔHが大きくなることがわかる。
Claims (12)
- X(BH4)m(mは、元素Xのイオンの価数)で表される1種又は2種以上のボロハイドライドと、Y(NH2)n(nは、元素Yのイオンの価数)で表される1種又は2種以上のアミドとを機械的混合プロセスで複合化する複合工程を備えた水素化物複合体の製造方法。
- 前記元素X及び前記元素Yは、それぞれ、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素から選ばれる1種以上の元素である請求項1に記載の水素化物複合体の製造方法。
- 前記元素X及び前記元素Yは、それぞれ、Li、Na及びMgから選ばれる1種以上の元素である請求項1又は2に記載の水素化物複合体の製造方法。
- 前記元素X又は前記元素Yの少なくとも一つがNa又はMgである請求項1から3までのいずれかに記載の水素化物複合体の製造方法。
- 前記ボロハイドライドの配合比(前記ボロハイドライドのモル数/(前記ボロハイドライドのモル数と前記アミドのモル数の和))は、前記ボロハイドライドと前記アミドからボロナイトライドが生成する反応の化学量論比の0.5倍以上1.5倍以下である請求項1から4までのいずれかに記載の水素化物複合体の製造方法。
- 前記ボロハイドライドは、NaBH4であり、
前記アミドは、LiNH2である
請求項1から5までのいずれかに記載の水素化物複合体の製造方法。 - 前記ボロハイドライドは、LiBH4であり、
前記アミドは、NaNH2である
請求項1から5までのいずれかに記載の水素化物複合体の製造方法。 - 前記ボロハイドライドは、LiBH4であり、
前記アミドは、LiNH2とNaNH2との混合物である
請求項1から5までのいずれかに記載の水素化物複合体の製造方法。 - 前記ボロハイドライドは、LiBH4であり、
前記アミドは、Mg(NH2)2である
請求項1から5までのいずれかに記載の水素化物複合体の製造方法。 - 請求項1から9までのいずれかに記載の方法により得られる水素化物複合体。
- 請求項1から9までのいずれかに記載の複合工程と、
該複合工程で得られた水素化物複合体に含まれる水素の全部又は一部を放出させる脱水素化工程とを備えた水素貯蔵材料の製造方法。 - 請求項11に記載の方法により得られる水素貯蔵材料。
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