本発明は、駆動系にトルクコンバータを備えた車輌の制動力制御装置に係り、更に詳細には車輪と共に回転する回転部材に対し摩擦材を押圧し、それらの押圧力を制御することにより制動力を制御する制動力制御装置に係る。
駆動系にトルクコンバータを備えた自動車等の車輌に於いては、車輌が制動停止状態よりクリープ走行状態になる場合には、制動力が漸次低下される過程に於いて俗にグー音と呼ばれるグローン音が発生する。かかるグローン音の発生を低減する自動車等の車輌の制動力制御装置の一つとして、例えば下記の特許文献1に記載されている如く、グローン音の発生が検出されると、ブレーキ圧を脈動させながら減圧するよう構成された制動力制御装置が既に知られている。
特開2000−211493号公報
しかし上述の如き従来の制動力制御装置に於いては、ブレーキパッドの振動を検出し、ブレーキパッドの振動のレベルによりグローン音の発生を判定しなければならず、グローン音発生の検出精度が悪いとグローン音の発生を確実に且つ効果的に低減することができず、またブレーキパッドの振動を検出するセンサが必要であると共にグローン音発生の判定に必要な演算負荷が大きいという問題がある。
また近年、安全性確保の観点からブレーキの効き性能に対する要求が高くなっているが、ブレーキの効き性能を向上させるべく高性能の摩擦材が使用されると、広いブレーキ圧の範囲に於いてグローン音が発生し易くなり、そのためグローン音の発生が確実に低減されるようブレーキ圧が減圧される場合には、運転者の制動操作量と車輪の実際の制動力との乖離が大きくなり、運転者が違和感を覚えるという問題がある。
本発明は、グローン音の発生が検出されるとブレーキ圧を脈動させながら減圧するよう構成された従来の制動力制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、グローン音はブレーキ圧が漸減されることにより車輌が制動停止状態よりクリープ走行状態へ移行しブレーキ圧が特定の範囲にあるときにしか発生せず、また車輌が実質的に制動されることなく走行している状態、即ち車輪が実質的に制動されることなく回転している状態に於いて、ブレーキ圧が前記特定の範囲に増圧されてもグローン音は発生しないことに着目することにより、グローン音の発生を検出するセンサや多大な演算を要することなく運転者が違和感を覚える虞れを低減しつつグローン音の発生を効果的に低減することである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち駆動系にトルクコンバータを備えた車輌に適用される車輌の制動力制御装置であって、運転者の制動操作量を検出する手段と、各車輪に設けられ車輪と共に回転する回転部材に対し摩擦材を押圧することにより制動力を発生する制動力発生手段と、少なくとも運転者の制動操作量に基づき前記制動力発生手段の押圧力を制御することにより各車輪の制動力を制御する制御手段とを有する車輌の制動力制御装置に於いて、車輌の停止状態及び走行状態を検出する手段を有し、前記制御手段は車輌が制動停止状態よりクリープ走行状態へ移行した場合には、前記押圧力がグローン音発生領域の押圧力よりも低い値になるよう前記押圧力を瞬間的に低下させることを特徴とする車輌の制動力制御装置によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、第一及び第二の基準値をそれぞれグローン音発生領域の上限押圧力及び下限押圧力として、前記制御手段は前記押圧力が前記第一の基準値以下になった後に前記押圧力が前記第二の基準値よりも低い値になるよう前記押圧力を瞬間的に低下させるよう構成される(請求項2の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記制御手段は少なくとも二輪について互いに異なるタイミングにて前記押圧力を瞬間的に低下させるよう構成される(請求項3の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、車輌は左右前輪及び左右後輪を有し、前記制御手段は全ての車輪について互いに異なるタイミングにて前記押圧力を瞬間的に低下させるよう構成される(請求項4の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、車輌は左右前輪及び左右後輪を有し、前記制御手段は左右前輪について互いに同一のタイミングにて前記押圧力を瞬間的に低下させると共に、左右後輪について互いに同一であり且つ左右前輪とは異なるタイミングにて前記押圧力を瞬間的に低下させるよう構成される(請求項5の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至5の構成に於いて、前記制御手段は後輪の制動力を前輪よりも低く制御する状況に於いては、前輪の前記押圧力を瞬間的に低下させる際に後輪の前記押圧力を増加させるよう構成される(請求項6の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至6の構成に於いて、前記運転者の制動操作量を検出する手段は運転者による制動操作子の操作量を検出し、前記押圧力の増減は制動操作子へ伝達されないよう構成される(請求項7の構成)。
上記請求項1の構成によれば、車輌が制動停止状態よりクリープ走行状態へ移行した場合には、押圧力がグローン音発生領域の押圧力よりも低い値になるよう押圧力が瞬間的に低下されることにより押圧力が瞬間的に且つ一時的に低下された後回復されるので、グローン音が発生していても確実にグローン音の発生を終了させることができ、押圧力の瞬間的な低下が完了した後にグローン音が発生することがなく、これによりグローン音の発生を効果的に低減することができる。
またグローン音の発生を検出する必要がなく、押圧力の低下は瞬間的であるので、グローン音の発生を検出するセンサや多大な演算は不要であると共に、運転者の制動操作量と車輌の制動力との乖離に起因して運転者が違和感を覚える虞れを確実に低減することができる。
また上記請求項2の構成によれば、第一及び第二の基準値をそれぞれグローン音発生領域の上限押圧力及び下限押圧力として、押圧力が第一の基準値以下になった後に押圧力が第二の基準値よりも低い値になるよう押圧力が瞬間的に低下されるので、押圧力が第一の基準値よりも大きい状況に於いて押圧力が瞬間的に低下され、グローン音の発生を効果的に終了させることができなくなることを確実に防止することができる。
また上記請求項3の構成によれば、少なくとも二輪について互いに異なるタイミングにて押圧力が瞬間的に低下されるので、少なくとも二輪について互いに同一のタイミングにて押圧力が瞬間的に低下される場合に比して、車輌全体の制動力が低下する度合を低減し、これにより運転者が違和感を覚える虞れを効果的に低減することができる。
また上記請求項4の構成によれば、車輌は左右前輪及び左右後輪を有し、全ての車輪について互いに異なるタイミングにて押圧力が瞬間的に低下されるので、何れか二つ以上の車輪について互いに同一のタイミングにて押圧力が瞬間的に低下される場合に比して、車輌全体の制動力が低下する度合を低減し、これにより運転者が違和感を覚える虞れを確実に低減することができる。
また上記請求項5の構成によれば、車輌は左右前輪及び左右後輪を有し、左右前輪について互いに同一のタイミングにて押圧力が瞬間的に低下されると共に、左右後輪について互いに同一であり且つ左右前輪とは異なるタイミングにて押圧力が瞬間的に低下されるので、全ての車輪について互いに同一のタイミングにて押圧力が瞬間的に低下される場合に比して、車輌全体の制動力が低下する度合を低減し、これにより運転者が違和感を覚える虞れを確実に低減することができると共に、左右輪の制動力差に起因して車輌に不必要なヨーモーメントが作用することを確実に防止することができる。
また上記請求項6の構成によれば、後輪の制動力を前輪よりも低く制御する状況に於いては、前輪の押圧力が瞬間的に低下される際に後輪の前記押圧力が増加されるので、車輌全体の制動力が瞬間的に低下し運転者が違和感を覚えたり車速が瞬間的に上昇したりする虞れを確実に低減することができる
また上記請求項7の構成によれば、運転者の制動操作量を検出する手段は運転者による制動操作子の操作量を検出し、押圧力の増減は制動操作子へ伝達されないので、押圧力の瞬間的な低下が制動操作子へ伝達されることに起因して運転者が制動操作子の操作量の急変として違和感を感じることを確実に防止することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の構成に於いて、制御手段は押圧力を瞬間的に低下させた後、少なくとも運転者の制動操作量に基づき押圧力を制御する状況に復帰するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7又は上記好ましい態様1の構成に於いて、制御手段は所定の時間に亘り押圧力を低下させることにより押圧力を瞬間的に低下させるよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、所定の時間は予め設定された時間であるよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7又は上記好ましい態様1乃至3の構成に於いて、制動力発生手段は制動液圧により回転部材に対し摩擦材を押圧することにより制動力を発生し、制御手段は制動液圧を制御することにより押圧力を制御するよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7又は上記好ましい態様1乃至3の構成に於いて、制動力発生手段は電磁力により回転部材に対し摩擦材を押圧することにより制動力を発生し、制御手段は電磁力を制御することにより押圧力を制御するよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3乃至5又は上記好ましい態様1乃至5の構成に於いて、制御手段は押圧力を低下させる時間が車輪間に於いて重複しないよう押圧力を低下させることにより互いに異なるタイミングにて押圧力を瞬間的に低下させるよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5又は上記好ましい態様1乃至6の構成に於いて、制御手段は押圧力を低下させる時間が車輪間に於いて少なくとも互いに重複するよう押圧力を低下させることにより互いに同一のタイミングにて押圧力を瞬間的に低下させるよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様7の構成に於いて、制御手段は押圧力を同時に低下させることにより互いに同一のタイミングにて押圧力を瞬間的に低下させるよう構成される(好ましい態様8)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6又は上記好ましい態様1乃至8の構成に於いて、制御手段は前輪の押圧力を瞬間的に低下させている間後輪の押圧力を増加させるよう構成される(好ましい態様9)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項7又は上記好ましい態様1乃至9の構成に於いて、制動力発生手段は制動液圧により回転部材に対し摩擦材を押圧することにより制動力を発生し、制御手段は制動液圧を制御することにより押圧力を制御し、運転者によって制動操作子が操作されることにより圧力が増減するマスタシリンダと制動力発生手段との連通を遮断することにより押圧力の増減が制動操作子へ伝達されないようよう構成される(好ましい態様10)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は油圧式の制動力制御装置として構成された本発明による車輌の制動力制御装置の実施例1の油圧回路を示す概略構成図及び制御系を示すブロック図である。尚図1に於いては、簡略化の目的で各弁のソレノイドの図示は省略されている。
図1に於いて、10は電気的に制御される油圧式のブレーキ装置を示しており、ブレーキ装置10は運転者によるブレーキペダル12の踏み込み操作に応答してブレーキオイルを圧送するマスタシリンダ14を有している。ブレーキペダル12とマスタシリンダ14との間にはドライストロークシミュレータ16が設けられている。
マスタシリンダ14は第一のマスタシリンダ室14Aと第二のマスタシリンダ室14Bとを有し、これらのマスタシリンダ室にはそれぞれ左前輪用のブレーキ油圧供給導管18及び右前輪用のブレーキ油圧制御導管20の一端が接続されている。ブレーキ油圧制御導管18及び20の他端にはそれぞれ左前輪及び右前輪の制動力を制御するホイールシリンダ22FL及び22FRが接続されている。
ブレーキ油圧供給導管18及び20の途中にはそれぞれ連通制御弁として機能する常開型の電磁開閉弁(所謂マスタカット弁)24L及び24Rが設けられ、電磁開閉弁24L及び24Rはそれぞれ第一のマスタシリンダ室14A及び第二のマスタシリンダ室14Bと対応するホイールシリンダ22FL及び22FRとの連通を制御する遮断弁として機能する。またマスタシリンダ14と電磁開閉弁24FLとの間のブレーキ油圧供給導管18には常閉型の電磁開閉弁(常閉弁)26を介してウェットストロークシミュレータ28が接続されている。
マスタシリンダ14にはリザーバ30が接続されており、リザーバ30には油圧供給導管32の一端が接続されている。油圧供給導管32の途中には電動機34により駆動されるオイルポンプ36が設けられており、オイルポンプ36の吐出側の油圧供給導管32には高圧の油圧を蓄圧するアキュムレータ38が接続されている。リザーバ30とオイルポンプ36との間の油圧供給導管32には油圧排出導管40の一端が接続されている。リザーバ30、オイルポンプ36、アキュムレータ38等は後述の如くホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RR内の圧力を増圧するための高圧の圧力源として機能する。
尚図1には示されていないが、オイルポンプ36の吸入側の油圧供給導管32と吐出側の油圧供給導管32とを連通接続する導管が設けられ、該導管の途中にはアキュムレータ38内の圧力が基準値を越えた場合に開弁し吐出側の油圧供給導管32より吸入側の油圧供給導管32へオイルを戻すリリーフ弁が設けられている。
オイルポンプ36の吐出側の油圧供給導管32は、油圧制御導管42により電磁開閉弁24Lとホイールシリンダ22FLとの間のブレーキ油圧供給導管18に接続され、油圧制御導管44により電磁開閉弁24Rとホイールシリンダ22FRとの間のブレーキ油圧供給導管20に接続され、油圧制御導管46により左後輪用のホイールシリンダ22RLに接続され、油圧制御導管48により右後輪用のホイールシリンダ22RRに接続されている。
油圧制御導管42、44、46、48の途中にはそれぞれ常閉型の電磁式のリニア弁50FL、50FR、50RL、50RRが設けられている。リニア弁50FL、50FR、50RL、50RRに対しホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RRの側の油圧制御導管42、44、46、48はそれぞれ油圧制御導管52、54、56、58により油圧排出導管40に接続されており、油圧制御導管52、54の途中にはそれぞれ常閉型の電磁式のリニア弁60FL、60FRが設けられ、また油圧制御導管56、58の途中にはそれぞれ常閉型の電磁式のリニア弁よりも低廉な常開型の電磁式のリニア弁60RL、60RRが設けられている。
リニア弁50FL、50FR、50RL、50RRはそれぞれホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RRに対する増圧弁(保持弁)として機能し、リニア弁60FL、60FR、60RL、60RRはそれぞれホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RRに対する減圧弁として機能し、従ってこれらのリニア弁は互いに共働してアキュムレータ38内より各ホイールシリンダに対する高圧のオイルの給排を制御する増減圧制御弁を構成している。
尚電磁開閉弁等が異常であり制動力を正常に制御することができないときには、各電磁開閉弁、各リニア弁及び電動機34に駆動電流は供給されず、電磁開閉弁24L及び24Rは開弁状態に維持され、電磁開閉弁26、リニア弁50FL〜50RR、リニア弁60FL及び60FRは閉弁状態に維持され、リニア弁60RL及び60RRは開弁状態に維持され(非制御モード)、これにより左右前輪のホイールシリンダ内の圧力は直接マスタシリンダ14により制御される。
図1に示されている如く、第一のマスタシリンダ室14Aと電磁開閉弁24Lとの間のブレーキ油圧制御導管18には該制御導管内の圧力を第一のマスタシリンダ圧力Pm1として検出する第一の圧力センサ66が設けられている。同様に第二のマスタシリンダ室14Bと電磁開閉弁24Rとの間のブレーキ油圧制御導管20には該制御導管内の圧力を第二のマスタシリンダ圧力Pm2として検出する第二の圧力センサ68が設けられている。ブレーキペダル12には運転者によるブレーキペダルの踏み込みストロークStを検出するストロークセンサ70が設けられ、オイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管32には該導管内の圧力をアキュムレータ圧力Paとして検出する圧力センサ72が設けられている。
それぞれ電磁開閉弁24L及び24Rとホイールシリンダ22FL及び22FRとの間のブレーキ油圧供給導管18及び20には、対応する導管内の圧力をホイールシリンダ22FL及び22FR内の圧力Pfl、Pfrとして検出する圧力センサ74FL及び74FRが設けられている。またそれぞれ電磁開閉弁50RL及び50RRとホイールシリンダ22RL及び22RRとの間の油圧制御導管46及び48には、対応する導管内の圧力をホイールシリンダ22RL及び22RR内の圧力Prl、Prrとして検出する圧力センサ74RL及び74RRが設けられている。
電磁開閉弁24L及び24R、電磁開閉弁26、電動機34、リニア弁50FL〜50RR、リニア弁60FL〜60RRは電子制御装置78により制御される。電子制御装置78はマイクロコンピュータ80と駆動回路82とよりなっている。尚マイクロコンピュータ80は図1には詳細に示されていないが例えばCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のものであってよい。
マイクロコンピュータ80には、圧力センサ66及び68よりそれぞれ第一のマスタシリンダ圧力Pm1及び第二のマスタシリンダ圧力Pm2を示す信号、ストロークセンサ70よりブレーキペダル12の踏み込みストロークStを示す信号、圧力センサ72よりアキュムレータ圧力Paを示す信号、圧力センサ74FL〜74RRよりそれぞれホイールシリンダ22FL〜22RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号、車速センサ76より車速Vを示す信号が入力される。
マイクロコンピュータ80は、後述の如く図2に示されたフローチャートによる制動力制御ルーチンを記憶しており、正常時には電磁開閉弁26を開弁状態に維持すると共に、電磁開閉弁24L及び24Rを閉弁状態に維持し、圧力センサ66、68により検出されたマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2及びストロークセンサ70より検出された踏み込みストロークStに基づき車輌の目標減速度Gtを演算し、車輌の目標減速度Gtに基づき各車輪の目標ホイールシリンダ圧力Pti(i=fl、fr、rl、rr)をマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2よりも高い値に演算し、各車輪の制動圧Piが目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう各リニア弁50FL〜50RR及び60FL〜60RRを制御する。
以上の説明より解る如く、マイクロコンピュータ80は運転者の制動操作量に基づき各車輪の目標ホイールシリンダ圧力をマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2よりも高い値に演算し、電磁開閉弁24L及び24R、電磁開閉弁26、電動機34、リニア弁50FL〜50RR、リニア弁60FL〜60RR、電子制御装置78、圧力センサ66等の各センサと共働して高圧の圧力源の圧力を使用して電磁開閉弁24L及び24Rを閉弁させた状態で各車輪のホイールシリンダ圧力が対応する目標ホイールシリンダ圧力になるようリニア弁50FL〜50RR及びリニア弁60FL〜60RRを制御する。
この場合ブレーキ装置10のオイルポンプ36、リニア弁50FL〜50RR、リニア弁60FL〜60RR等は各車輪の制動圧、即ちホイールシリンダ22FL〜22RR内の圧力PIを制御する制動圧制御手段として機能する。また図1に示されている如く、ホイールシリンダ22FL〜22RRはそれらの内部の圧力Piが増減されることにより、各車輪に設けられ車輪と共に回転するローターディスクやブレーキドラムの如き回転部材86FL〜86RRに対しブレーキシューの如き摩擦材88FL〜88RRを押圧し制動力を発生し増減する制動力発生装置90FL〜90RRの一部を構成している。
また図1には示されていないが、エンジンの駆動力はトルクコンバータ及びトランスミッションを含む自動変速機を介してプロペラシャフトへ伝達され、プロペラシャフトの駆動力はディファレンシャル等を介して左右の駆動輪へ伝達される。尚駆動輪は左右の前輪又は左右の後輪であってよく、また左右の前輪及び左右の後輪の四輪であってもよい。
図示の実施例1に於いては、マイクロコンピュータ80は車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行し、グローン音発生防止のために各車輪の制動圧を瞬間的に低下させる必要があるか否かを判定し、各車輪の制動圧を瞬間的に低下させる必要があると判定したときには、リニア弁50FL〜50RRを閉弁させた状態にてリニア弁60FL〜60RRを瞬間的に開弁することにより、各車輪の制動圧Piをグローン音発生領域の下限制動圧Pg2よりも低い圧力まで急激に低下させ、しかる後各車輪の制動圧Piを急激に上昇させて目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御する状況に復帰する。
次に図2に示されたフローチャートを参照して実施例に於ける制動力制御について説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御はマイクロコンピュータ80が起動されることにより開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
また図2に示されたフローチャートによる制御に先立ち、電磁開閉弁26が閉弁されると共に、電磁開閉弁24L及び24Rが開弁され、これによりマスタシリンダ14とウェットストロークシミュレータ28との連通が遮断されると共に、マスタシリンダ14と各車輪のホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RRとが連通接続され、ステップ40に於いては電磁開閉弁26が開弁され又は開弁状態が維持されると共に、電磁開閉弁24L及び24Rが閉弁され又は閉弁状態が維持され、これによりマスタシリンダ14とウェットストロークシミュレータ28とが連通接続されると共に、マスタシリンダ14と各車輪のホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RRとの連通が遮断される。
まずステップ10に於いては圧力センサ66により検出されたマスタシリンダ圧力Pm1を示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いてはマスタシリンダ圧力Pm1及びPm2の平均値Pmaに基づき図4に示されたグラフに対応するマップよりマスタシリンダ圧力に基づく目標減速度Gptが演算される。
ステップ30に於いてはストロークセンサ70により検出された踏み込みストロークStに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより踏み込みストロークに基づく目標減速度Gstが演算される。
ステップ40に於いては前回の最終目標減速度Gtfに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより目標減速度Gptに対する重みα(0≦α≦1)が演算される。尚図示の実施例に於いては、重みαは前回の最終目標減速度Gtfに基づき演算されるようになっているが、目標減速度Gpt又はGstに基づき演算されるよう修正されてもよい。
ステップ50に於いては下記の式1に従って目標減速度Gpt及び目標減速度Gstの重み付け和として最終目標減速度Gtが演算される。
Gt=α・Gpt+(1−α)Gst ……(1)
ステップ60に於いては最終目標減速度Gtに対する各車輪の目標ホイールシリンダ圧力の係数(各車輪のブレーキ効き係数を考慮した正の係数)をKi(i=fl、fr、rl、rr)として、下記の式2に従って各車輪の目標ホイールシリンダ圧力Pti(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
Pti=Ki・Gt ……(2)
ステップ70に於いてはグローン音発生防止のための制動圧の低下制御中であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ110へ進み、否定判別が行われたときにはステップ80へ進む。
ステップ80に於いては車輌が制動状態でのクリープ走行状態にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ100へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ90へ進む。
ステップ90に於いてはグローン音発生防止のための制動圧の低下制御の開始条件が成立したか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ120へ進み、否定判別が行われたときにはステップ100へ進む。この場合、制動圧の低下制御の開始条件が成立したか否かの判別は、例えば車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行した時点より予め設定された時間To(正の定数)が経過したか否かの判別であってよい。
ステップ100に於いては各車輪のホイールシリンダ圧力Piが対応する目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう油圧フィードバックにより制御され、これにより各車輪の制動力が運転者の制動操作量に応じて制御される。
ステップ110に於いてはグローン音発生防止のための制動圧の低下制御が完了したか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ120へ進む。
ステップ120に於いては全ての車輪について予め設定された所定の低減時間Td(正の定数)に亘り保持用のリニア弁50FL〜50RRが閉弁された状態で減圧用のリニア弁60FL〜60RRが開弁されることにより、各車輪のホイールシリンダ圧力Piがグローン音発生領域の下限値P2よりも低い圧力にまで急激に低下され、しかる後各車輪のホイールシリンダ圧力Piが急激に上昇され、ホイールシリンダ圧力Piが対応する目標ホイールシリンダ圧力Ptiになる直前に於いてホイールシリンダ圧力Piが対応する目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう油圧フィードバックにより制御される状況に戻されることにより、各車輪の制動圧が瞬間的に低下される。
かくして図示の実施例1によれば、ステップ20〜60に於いてブレーキペダル12の踏み込みストロークSt及びマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2の平均値Pmaに応じて各車輪の目標制動圧Ptiが演算され、ステップ100に於いて各車輪の制動圧Piが目標制動圧Ptiになるよう制御されることにより運転者の制動操作量に応じて制御される。
そしてステップ70〜90に於いてグローン音発生防止のために各車輪の制動圧を瞬間的に低下させる必要があるか否かの判定が行われ、各車輪の制動圧を瞬間的に低下させる必要があると判定されたときには、ステップ120に於いて各車輪の制動圧Piがグローン音発生領域の下限制動圧Pg2よりも低い圧力にまで瞬間的に低下された後、各車輪の制動圧Piが目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御される状況に戻される。
従って図示の実施例1によれば、運転者の制動操作量が漸減されることにより車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行し、各車輪の制動圧がグローン音発生領域の値になっても、各車輪の制動圧がグローン音発生領域の下限制動圧よりも低い圧力に瞬間的に低下されるので、その後にグローン音が発生することを確実に防止することができると共に、各車輪の制動圧が比較的長い時間をかけて低下される場合に比して、制動圧の低下により車速が不自然に上昇するなどの現象に起因して運転者が違和感を覚える虞れを効果的に低減することができる。
例えば図6及び図7はそれぞれ従来の一般的な制動力制御装置及び実施例1の制動力制御装置が搭載された車輌に於いて、運転者の制動操作量が漸減されることにより車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行する場合に於ける制動圧Pi及び車速Vの変化及びグローン音の発生状況の例を示すグラフである。
図6及び図7に示されている如く、時点t1に於いて制動圧の低下が開始され、時点t2に於いて車輌が制動状態にてクリープ走行を開始し、時点t3に於いて制動圧Piがグローン音発生領域の上限値Pg1になったとする。図6に示されている如く、従来の一般的な制動力制御装置の場合には、時点t3に於いてグローン音が発生し始め、グローン音は制動圧Piがグローン音発生領域の下限制動圧Pg2よりも低い圧力に低下する時点t6まで継続する。
これに対し図示の実施例1によれば、図7に示されている如く、時点t2より所定の時間Toが経過した時点t4に於いて制動圧の急激な低下が開始され、制動圧Piがグローン音発生領域の下限値Pg2よりも低くなった時点t5に於いてグローン音は停止し、その後制動圧Piが下限値Pg2以上に上昇してもグローン音は発生しない。
また図示の実施例1によれば、各車輪の制動圧の瞬間的な低下は車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行した時点より予め設定された時間Toが経過した時点に於いて行われるので、各車輪の制動圧Piがグローン音発生領域の上限制動圧Pg1よりも高い圧力である状況に於いて各車輪の制動圧が無駄に低下されグローン音の発生を効果的に防止することができなくなる虞れを低減することができる。
図8は油圧式の制動力制御装置として構成された本発明による車輌の制動力制御装置の実施例2に於ける制動力制御の制動圧低下制御ルーチンを示すフローチャート、図9は実施例2に於いて運転者の制動操作量が漸減されることにより車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行する場合に於ける各車輪の制動圧の変化の例を示すグラフである。
この実施例2に於いては、図には示されていないがステップ10〜110は上述の実施例1の場合と同様に実行され、ステップ120に於いては図8に示されたルーチンに従って各車輪の制動圧が瞬間的に低下される。
図8に示されている如く、ステップ130に於いては左前輪の制動圧Pflの瞬間的な低下が完了したか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ150へ進み、否定判別が行われたときにはステップ140に於いて左前輪の制動圧Pflの瞬間的な低下が上述の実施例1の場合と同様の要領にて実行されると共に、左前輪以外の車輪の制動圧がそれぞれ対応する目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御され、しかる後ステップ10へ戻る。
ステップ150に於いては右前輪の制動圧Pfrの瞬間的な低下が完了したか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ170へ進み、否定判別が行われたときにはステップ160に於いて右前輪の制動圧Pfrの瞬間的な低下が左前輪の場合と同様の要領にて実行されると共に、右前輪以外の車輪の制動圧がそれぞれ対応する目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御され、しかる後ステップ10へ戻る。
ステップ170に於いては左後輪の制動圧Prlの瞬間的な低下が完了したか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ190へ進み、否定判別が行われたときにはステップ180に於いて左後輪の制動圧Prlの瞬間的な低下が左前輪の場合と同様の要領にて実行されると共に、左後輪以外の車輪の制動圧がそれぞれ対応する目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御され、しかる後ステップ10へ戻る。
ステップ190に於いては右後輪の制動圧Prrの瞬間的な低下が完了したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ200に於いて右後輪の制動圧Prrの瞬間的な低下が左前輪の場合と同様の要領にて実行されると共に、右後輪以外の車輪の制動圧がそれぞれ対応する目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御され、肯定判別が行われたときにはステップ210に於いて各車輪の制動圧の瞬間的な低下が完了した旨の判定が行われ、ステップ200又は210が完了するとステップ10へ戻る。
かくして図示の実施例2によれば、全ての車輪の制動圧Piが同時に瞬間的に低下されるのではなく、図9に示されている如く、各車輪の制動圧が順次瞬間的に低下されるので、上述の実施例1の場合と同様制動圧の瞬間的な低下後にグローン音が発生することを確実に防止することができるだけでなく、上述の実施例1の場合に比して車輌全体の制動力の低下量を低減し、これにより車速が不自然に上昇するなどの現象に起因して運転者が違和感を覚える虞れを更に一層効果的に低減することができる。
特に図示の実施例2によれば、各車輪の制動圧Piの低下は時間的に重複することなく行われるので、各車輪の制動圧の低下が時間的に重複して行われる場合に比して車速が不自然に上昇するなどの現象に起因して運転者が違和感を覚える虞れを確実に低減することができる。
尚図示の実施例2に於いては、制動圧の瞬間的な低下は左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の順に実行されるようになっているが、制動圧の瞬間的な低下はこの順に限定されるものではなく、例えば左前輪、右前輪、右後輪、左後輪の順に実行されてもよい。
図10は油圧式の制動力制御装置として構成された本発明による車輌の制動力制御装置の実施例3に於ける制動力制御の制動圧低下制御ルーチンを示すフローチャート、図11は実施例3に於いて運転者の制動操作量が漸減されることにより車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行する場合に於ける各車輪の制動圧の変化の例を示すグラフである。
この実施例3に於いても、図には示されていないがステップ10〜110は上述の実施例1の場合と同様に実行され、ステップ120に於いては図10に示されたルーチンに従って各車輪の制動圧が瞬間的に低下される。
図10に示されている如く、ステップ230に於いては左右前輪の制動圧Pfl、Pfrの瞬間的な低下が完了したか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ250へ進み、否定判別が行われたときにはステップ240に於いて左右前輪の制動圧Pfl、Pfrの瞬間的な低下が上述の実施例1の場合と同様の要領にて実行されると共に、左右前輪の制動圧の瞬間的な低下が行われる際に左右後輪がロックしない程度に左右後輪の制動圧Prl、Prrが瞬間的に上昇され、しかる後ステップ10へ戻る。尚この場合の左右後輪の制動圧Prl、Prrの瞬間的な上昇量は左右前輪の制動圧Pfl、Pfrの瞬間的な低下量の大きさよりも小さい。
ステップ250に於いては左右後輪の制動圧Prl、Prrの瞬間的な低下が完了したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ260に於いて左右後輪の制動圧Prl、Prrの瞬間的な低下が左右前輪の場合と同様の要領にて実行されると共に、左右前輪の制動圧Pfl、Pfrがそれぞれ対応する目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御され、肯定判別が行われたときにはステップ270に於いて各車輪の制動圧の瞬間的な低下が完了した旨の判定が行われ、ステップ260又は270が完了するとステップ10へ戻る。
かくして図示の実施例3によれば、全ての車輪の制動圧Piが同時に瞬間的に低下されるのではなく、図11に示されている如く、左右前輪及び左右後輪の制動圧が順次瞬間的に低下されるので、上述の実施例1及び2の場合と同様制動圧の瞬間的な低下後にグローン音が発生することを確実に防止することができるだけでなく、上述の実施例1の場合に比して車輌全体の制動力の低下量を低減し、これにより車速が不自然に上昇するなどの現象に起因して運転者が違和感を覚える虞れを更に一層効果的に低減することができる。
また図示の実施例3によれば、左右の車輪の制動圧が同時に瞬間的に低下されるので、制動圧の瞬間的な低下に起因する左右の車輪の制動力差及びこれに起因するヨーモーメントは発生せず、従って左右の車輪の制動圧が順次瞬間的に低下される場合に比して制動圧の瞬間的な低下に起因する車輌挙動の悪化の虞れを確実に低減することができる。
特に図示の実施例3によれば、左右前輪の制動圧の瞬間的な低下が行われる際に左右後輪の制動圧Prl、Prrが瞬間的に上昇されるので、左右前輪の制動圧の瞬間的な低下が行われる際に左右後輪の制動圧Prl、Prrがそれぞれ対応する目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御される場合に比して、車輌全体の制動力の低下量を低減し、これにより車速が不自然に上昇するなどの現象に起因して運転者が違和感を覚える効果的に低減することができ、この効果は図示の実施例の如く後輪の制動力が前輪の制動力よりも低く制御される車輌の場合に顕著である。
尚図示の実施例3に於いては、左右前輪の制動圧の瞬間的な低下が行われる際に左右後輪の制動圧Prl、Prrが瞬間的に上昇されるようになっているが、左右前輪の制動圧の瞬間的な低下が行われる際に左右後輪の制動圧Prl、Prrが瞬間的に上昇されることなくそれぞれ対応する目標ホイールシリンダ圧力Ptiに制御されるよう修正されてもよい。
また前輪の制動圧の瞬間的な低下が行われる際に後輪の制動圧を瞬間的に上昇させる制御は上述の実施例2や後述の実施例4に於いても行われてよい。
また図示の実施例3に於いては、制動圧の瞬間的な低下は左右前輪、左右後輪の順に実行されるようになっているが、制動圧の瞬間的な低下はこの順に限定されるものではなく、例えば左前輪及び右後輪、右前輪及び左後輪の順や右前輪及び左後輪、左前輪及び右後輪の順に実行されてもよい。また制動圧の瞬間的な低下がこれらの順に実行される場合には、制動圧の瞬間的な低下が行われている前輪と左右同一の側の後輪の制動圧が瞬間的に上昇されることが好ましい。
図12は実施例2の修正例として構成された本発明による車輌の制動力制御装置の実施例4に於ける制動力制御の制動圧低下制御ルーチンを示すフローチャートである。尚図12に於いて図8に示されたステップと同一のステップには図8に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
この実施例4に於いては、図には示されていないが、各車輪にはグローン音を検出する音波センサが設けられており、音波センサにより各車輪毎にグローン音発生の有無及び制動圧の瞬間的な低下によるグローン音の発生防止効果を確認し得るようになっている。但し音波センサは制動圧の瞬間的な低下を開始すべきか否かを判定するためにグローン音の発生を検出するものではない。
またこの実施例4に於いては、ステップ10〜110は上述の実施例1の場合と同様に実行され、ステップ120に於ける制動圧低下制御は図12に示されたルーチンに従って実行され、図12に示されている如く、ステップ135、155、175、195を除く他のステップは上述の実施例2の場合と同様に実行される。
ステップ130、150、170、190に於いて肯定判別が行われると、それぞれステップ135、155、175、195に於いて音波センサの検出結果に基づきグローン音の発生防止効果の判定、即ち対応する車輪に於いてグローン音が発生した後制動圧の瞬間的な低下によりグローン音の発生が停止したか否かの判定が行われる。
またステップ135、155、175、195が完了すると、それぞれステップ150、170、190、210へ進み、ステップ210が完了すると、ステップ220に於いて次回の制動圧低下制御に備えて予め設定された時間To及び所定の低減時間Tdの最適化が行われる。即ちグローン音の発生防止効果が認められたとき及びグローン音が発生しなかったときには時間To及びTdが小さい値に修正され、グローン音の発生防止効果が認められなかったときには時間To及びTdが大きい値に修正される。この場合時間To及びTdが所定の最低値になってもグローン音の発生防止効果が認められたときには、当該車輪について次回の制動圧低下制御が省略されてもよい。
かくして図示の実施例4によれば、上述の実施例2の場合と同様制動圧の瞬間的な低下後にグローン音が発生することを確実に防止することができるだけでなく、予め設定された時間To及び所定の低減時間Tdを最適化してグローン音の発生を一層確実に防止することができると共に、不必要に長い時間に亘る制動圧の低下や不必要な制動圧の低下が行われることを防止することができる。
尚この実施例4と同様のグローン音の発生防止効果の判定及び時間To、Tdの最適化が上述の実施例1若しくは3に適用されてもよい。
以上の説明より解る如く、図示の各実施例によれば、制動圧の瞬間的な低下を開始すべきか否かを判定するためにグローン音の発生を検出するセンサや多大な演算は不要であり、低コストにてグローン音の発生を効果的に防止することができ、特に通常の制動時にはマスタシリンダ14と各車輪のホイールシリンダ22FL〜22RRとの連通がマスタカット弁としての常開型の電磁開閉弁24L及び24Rにより遮断されるので、制動圧の瞬間的な低下によるショックがブレーキペダル12へ伝達されること及びこれに起因する違和感を運転者が覚えることもない。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の各実施例に於いては、車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行した時点より予め設定された時間Toが経過したときにグローン音発生防止のための制動圧の低下制御の開始条件が成立したと判定され、制動圧の低下制御が実行されるようになっているが、車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行した後に制動圧Piがグローン音発生領域の上限制動圧Pg1よりも低い圧力になったとき又はマスタシリンダ圧力Pm1及びPm2の平均値Pmaが上限制動圧Pg1に対応する基準値Pmg1よりも低い圧力になったときに制動圧の低下制御が実行されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例1乃至3に於いては、予め設定された時間To及び所定の低減時間Tdは一定であるが、これらの時間は可変設定されてもよく、例えば時間Toは運転者の制動操作量の低減による制動圧の低下勾配が大きいほど小さくなるよう運転者の制動操作量の低減による制動圧の低下勾配に応じて可変設定され、時間Tdは制御開始時の制動圧又はマスタシリンダ圧力が低いほど小さくなるよう制御開始時の制動圧又はマスタシリンダ圧力に応じて可変設定されるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、時間Tdは全ての車輪について同一であるが、特に制動圧の低下が順次行われる場合には、後になるほど制動圧の低下開始時の制動圧が低くなり、短時間の低下により制動圧がグローン音発生領域の下限制動圧Pg2よりも低い圧力になるので、後になるほど時間Tdが短くなるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、制動圧の瞬間的な低下は時間Tdに亘り行われるようになっているが、制動圧がグローン音発生領域の下限制動圧Pg2よりも低い圧力になったことが確認された時点で制動圧の上昇に転じるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、二つの圧力センサ66及び68により検出されるようになっているが、マスタシリンダ圧力は一つの圧力センサにより検出されるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、各車輪の目標制動圧Ptiは運転者の制動操作量を示す値としてのマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2の平均値Pma及びブレーキペダルの踏み込み量Stに基づいて運転者の要求減速度Gtが演算されるようになっているが、制動力の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。
また上述の各実施例に於いては、各車輪のホイールシリンダ圧力Piを制御する増減圧制御弁は増圧制御弁としてのリニア弁50FL〜50RR及び減圧制御弁としてのリニア弁60FL〜60RRよりなっているが、これらの弁は増減圧及び保持の機能を備えた制御弁に置き換えられてもよい。
また上述の各実施例に於いては、通常時にはマスタシリンダ14と各車輪のホイールシリンダ22FL〜22RRとの連通がマスタカット弁としての常開型の電磁開閉弁24L及び24Rにより遮断されるようになっているが、本発明の制動力制御装置はマスタカット弁を有さずマスタシリンダ14の圧力により各車輪のホイールシリンダ22FL〜22RR内の圧力が増減される制動装置を備えた車輌に適用されてもよく、また制動装置は車輪と共に回転する回転部材に対し摩擦材を押圧することにより制動力を発生するものである限り、押圧力が電磁式に発生される制動装置であってもよい。
油圧式の制動力制御装置として構成された本発明による車輌の制動力制御装置の実施例の油圧回路を示す概略構成図及び制御系を示すブロック図である。
実施例1に於ける制動力制御ルーチンを示すフローチャートである。
マスタシリンダ圧力の平均値Pmaと目標減速度Gptとの間の関係を示すグラフである。
ブレーキペダルの踏み込みストロークStと目標減速度Gstとの間の関係を示すグラフである。
前回の最終目標減速度Gtfと目標減速度Gptに対する重みαとの間の関係を示すグラフである。
従来の一般的な制動力制御装置が搭載された車輌に於いて、運転者の制動操作量が漸減されることにより車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行する場合に於ける制動圧及び車速Vの変化及びグローン音の発生状況の例を示すグラフである。
実施例1の制動力制御装置が搭載された車輌に於いて、運転者の制動操作量が漸減されることにより車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行する場合に於ける制動圧及び車速Vの変化及びグローン音の発生状況の例を示すグラフである。
油圧式の制動力制御装置として構成された本発明による車輌の制動力制御装置の実施例2に於ける制動力制御の制動圧低下制御ルーチンを示すフローチャートである。
実施例2に於いて運転者の制動操作量が漸減されることにより車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行する場合に於ける各車輪の制動圧の変化の例を示すグラフである。
油圧式の制動力制御装置として構成された本発明による車輌の制動力制御装置の実施例3に於ける制動力制御の制動圧低下制御ルーチンを示すフローチャートである。
実施例3に於いて運転者の制動操作量が漸減されることにより車輌が制動停止状態より制動状態でのクリープ走行状態へ移行する場合に於ける各車輪の制動圧の変化の例を示すグラフである。
実施例2の修正例として構成された本発明による車輌の制動力制御装置の実施例4に於ける制動力制御の制動圧低下制御ルーチンを示すフローチャートである。
符号の説明
10 ブレーキ装置
12 ブレーキペダル
14 マスタシリンダ
22FL〜22RR ホイールシリンダ
24F、24R、26 電磁開閉弁
50FL〜50RR リニア弁
60FL〜60RR リニア弁
66、68 圧力センサ
70 ストロークセンサ
72、74FL〜74RR 圧力センサ
76 車速センサ
78 電子制御装置