以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
従来、偏光板保護フィルムの材料としてセルロースエステル樹脂を用いてフィルム製造する場合、該樹脂を溶媒に溶解した溶液を流延し、次いで溶媒を蒸発し乾燥することによって製膜する、所謂溶液流延法が行われている。溶液流延法では、ダイから吐出されたドープがある程度乾燥されるまでフィルムの自己支持性が得られないため、生産速度の向上に限界があり、かつ用いる溶媒が環境負荷の高い塩素系の溶媒であるために溶媒回収等の施設が必要であるため、生産量に比して割高な設備投資が必要であったため、市場からの増産要請に対応することが難しくなっていた。
そこで製膜時に蒸発及び乾燥させる溶媒がなければ、溶液流延法で抱えている課題を回避出来ることが期待出来る。
本発明は、セルロースエステルを熱溶融することによって製膜する方法を究明するためになされたもので、特定のセルロースエステルを最適な組成・プロセスで溶融・流延することによってフィルム状に製膜することにより光学フィルムを提供することが出来、これらを光学補償フィルムや偏光板保護フィルムとして用いて偏光板化することで、表示品質が改善された液晶表示装置を提供することが出来る。
以下、本発明を詳述する。
本発明は、溶融流延によって製膜されたセルロースフィルムを光学フィルムとして用いることを特徴とする。前記溶液流延のように溶媒に溶解させることなしに、フィルム構成材料を加熱することにより流動可能な状態として流延することを、本発明においては溶融流延と定義する。
加熱溶融する成形法は、更に詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類出来る。これらの中で、機械的強度及び表面精度などに優れる光学フィルムを得るためには、溶融押出し法が優れている。ここでフィルム形成材料を加熱し、その流動性を発現させた後ドラム上またはエンドレスベルト上に押出し製膜する方法を溶融流延製膜法として本発明の溶融流延法に含まれる。
(セルロースエステル)
本発明の光学フィルムは、下記のセルロースエステルを主とする組成物を溶融して製膜された光学フィルムであるが、主とするとは該セルロースエステルが該組成物中に、好ましくは80質量%〜95質量%含有されていることを意味する。
セルロースエステルとしては、一般にトリアセチルセルロースが写真用ネガフィルムや偏光板保護フィルム用に溶液製膜によって製膜されており、一方プロピオン酸や酪酸と、酢酸が混合されてセルロースと結合したセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートは溶融製膜によってフィルムを得ることが行われている。しかし一般に溶融製膜によって得られるフィルムは平面性に劣り、溶液製膜によって得られたトリアセチルセルロースフィルムが用いられているような光学用途のフィルムとして用いられていないのが現状である。
他方、前述のように溶液流延製膜は生産速度が比較的遅く、かつ環境的な要請からも市場からの増産要請にこたえることが難しくなっている。
偏光板保護フィルムとして最低限必要な特性は、無色かつ透明であり、フィルム表面が均一な平面であること、低複屈折であること、偏光子と貼合可能であること等である。従って、このような特性を満たすことが出来る材料であれば、偏光板保護フィルムを構成する高分子材料としては、トリアセチルセルロースに限定されることなく用いることが出来る。
しかし溶融製膜プロセスでは、溶媒の乾燥等の負荷がない故にダイから吐出されてから固化するまでの時間が短く出来、生産速度を高められる反面、フィルムがレベリングして平坦化する時間が短いため、平面性の高いフィルムを得ることが難しくなるという課題があり、フィルムの平面性を確保することが重要な課題となっている。
フィルムの平面性を向上させる手段として、延伸を行うことが一般的であるが、延伸操作はフィルムの複屈折の大幅な上昇をもたらすため、PETなどの一般的な透明プラスチックでは光学用のフィルムを得ることは出来ていない。また近年、延伸しても複屈折の発生しにくいシクロオレフィン系のポリマーの溶融製膜が検討されているが、シクロオレフィン系ポリマーは非常に疎水的なポリマーであるために親水的な高分子を用いて形成されている偏光子との接着性に劣り、偏光板保護フィルムとして用いることは困難なフィルムである。
他方、セルロースエステルは、延伸時の複屈折の発生も比較的小さく、偏光子との接着性に優れたポリマーであるが、溶融粘度が高く、光学用フィルムに用いることが出来るような平面性の高いフィルムを得ることは困難であった。また、平面性を改良する手段として、フィルムの延伸が効果的であることは良く知られているが、セルロースエステルの延伸が可能な倍率は低く高倍率な延伸が困難な高分子であることが知られている。例えば、特許文献1の9頁、例IIに記載のセルロースアセテートプロピオネートでは、破断伸度は室温で20%程度(1.2倍)程度である。
ポリマーの溶融粘度を低減させ、かつフィルムの延伸倍率を高めることが出来る方法としては、可塑剤を添加する方法が有用であることも知られている。しかし、可塑剤の添加量を多くすると、経時で可塑剤がブリードアウトし、フィルムにヘイズが発生したり、接着がはがれてしまったりするため、これまで偏光板保護フィルムに用いられるセルロースエステルフィルムへの可塑剤の添加は、実質的には10%程度が上限であり、実用上も偏光板保護フィルムとしてのセルロースエステルフィルムは、この程度の添加量で製造(溶液製膜)されている。
無論、セルロースエステルフィルムへの可塑剤の添加量の上限は、可塑剤の種類によっても異なるが、後述するように、偏光板保護フィルムとして用いられるセルロースエステルフィルムに添加される可塑剤としては、併せてフィルムの透湿度を低減させる機能も求められている。特開2003−12823公報で開示されているように、脂環式カルボン酸構造または芳香族カルボン酸構造を有する可塑剤、中でも芳香族カルボン酸構造を有する可塑剤が透湿度低減機能が高く、好ましい可塑剤である。一方このような可塑剤は、公知のセルロースエステルとは相溶性の低いものが多く、最大でも10%程度の添加量が限界となっていた。
本発明の研究者らが鋭意検討したところ、下記式(1)、(2)をともに満たす構造を有するセルロースエステルが、溶融製膜性を有しながら、得られるフィルムの耐湿熱性が十分であり、かつ偏光板保護フィルムに添加する可塑剤として好ましい種類の可塑剤を比較的高濃度に添加することが出来るため、その溶融時の粘度を低減出来、さらには延伸可能倍率も高くすることが出来るため、非常に平面性の高いセルロースエステルフィルムを溶融製膜によって得ることが出来ることを見出した。
式(1) 2.4≦X+Y≦2.9
式(2) 0.3≦Y≦1.5
(Xは酢酸による置換度、Yは芳香族カルボン酸による置換度を表す)
芳香族カルボン酸によって、セルロースエステルのユニットあたり0.3個以上の水酸基を置換することによって、溶融製膜が可能で、可塑剤との親和性が高く、ひいては平面性が良好で、高倍率の延伸工程にも耐えうるセルロースエステルフィルムとすることが出来る。芳香族カルボン酸による置換度の上限としては、1.5以下であることが好ましい。1.5以下とすることで、製膜されたセルロースエステルフィルムとPVAからなる偏光子との接着性を十分なものとすることが出来る。また、複屈折値を好ましい範囲とすることが出来る。より好ましくは、芳香族カルボン酸による置換度は0.5〜1.0である。
また、セルロースエステルの総置換度としては、2.4以上2.9以下であることが好ましい。このような範囲とすることで、セルロースエステルの溶融温度、溶融粘度を良好な範囲とすることが出来、得られるセルロースエステルフィルムの各種物性を良好なものとすることが出来る。中でも好ましくは、2.5以上2.8以下であり、さらに好ましくは2.6以上2.7以下である。
本発明において、芳香族カルボン酸とは、分子中に芳香族基を1つ以上有するカルボン酸を表し、カルボキシル基が直接芳香族環に結合していなくても良い。
このような芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸、2−フェニル安息香酸、4−フェニル安息香酸、2−フェノキシ安息香酸、4−ベンゾイル安息香酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、9−アントロン酸、9−フェナントレンカルボン酸、9H−フルオレンー9−カルボン酸、9−フルオレノン−2−カルボン酸、1−ピレンカルボン酸、ピコリン酸、イソニコチン酸、2−フランカルボン酸、ベンゾフラン−2−カルボン酸、2−チオフェンカルボン酸、3−チオフェンカルボン酸、3−ピロールカルボン酸、N−メチルピロール−2−カルボン酸、1H−ベンゾイミダゾール−5−カルボン酸、インドール−2−カルボン酸、フェニル酢酸、ジフェニル酢酸、トリフェニル酢酸、フェノキシ酢酸、ベンゾイル酢酸、4−ビフェニル酢酸、1−ナフチル酢酸、9H−フルオレン酢酸、2−チオフェン酢酸、3−チオフェン酢酸、4−イミダゾール酢酸、3−インドール酢酸、けい皮酸、ヒドロけい皮酸、ヒドラトロピン酸、2,2−ジフェニルプロピオン酸、3,3−ジフェニルプロピオン酸、3,3,3−トリフェニルプロピオン酸、2−フェノキシプロピオン酸、3−ベンゾイルプロピオン酸、2−フェニル酪酸、4−フェニル酪酸、フルオロ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、クロロ安息香酸、ブロモ安息香酸、トルイル酸、クミン酸、p−tert−ブチル安息香酸、2,4,6−トリメチル安息香酸、アニス酸、ベラトル酸、3,4,5−トリメトキシ安息香酸、2−アセチル安息香酸、サリチル酸、没食子酸、バニリン酸、アセチルサリチル酸、トリアセチル没食子酸、モノメチルフタル酸、アントラニル酸、N−メチルアントラニル酸、などが挙げられる。
これらの芳香族カルボン酸の中でも、炭素・水素・酸素のみから構成されている芳香族カルボン酸を用いることが好ましい。ハロゲン原子や窒素、硫黄原子などを有していると、溶融時にセルロースエステルフィルムに着色が生じる場合がある。また、あまり炭素数の多い芳香族カルボン酸を用いると、セルロースエステルフィルムが疎水性となりすぎ、偏光子との接着性に劣ることがあるため、芳香族カルボン酸の炭素原子数としては、5個以上12個以下であることが好ましい。
なお、得られるセルロースエステルフィルムの、偏光子との接着性を向上させるために、置換基を有する芳香族カルボン酸を用いても良い。偏光子との接着性を向上させうる置換基としては、親水性の置換基またはケン化処理によって親水性基が生成するような置換基が好ましい。そのような置換基の例としては、ホルミル基、アセチル基、アセトキシ基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、β−アシルカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、アミノ基、ジメチルアミノ基、スルフィド基、スルホキシド基、スルホン基などが挙げられる。これらの置換基の中でも、溶融製膜時の加熱によって着色が生じたりするような効果のないものが好ましく、ホルミル基、アセトキシ基、カルボキシメチル基、カルボキシエトキシ基、β−アシルカルボニル基が好ましい。これらの中でも、アセトキシ基が好ましいため、本発明のセルロースエステルを置換する芳香族カルボン酸としては、下記一般式(1)で表されるような芳香族カルボン酸が好ましい。
(式中、nは1〜3の整数を表す)
安息香酸を置換するアセトキシ基の数nとしては、1〜3であることが好ましい。1以上とすることで、セルロースエステルのケン化性をより良いものとすることが出来る。一方、アセトキシ基の数が3より多くなると、溶融温度・溶融粘度が上昇してくるため、3以下であることが好ましい。
このような芳香族カルボン酸としては、アセチルサリチル酸、3−アセトキシ安息香酸、4−アセトキシ安息香酸、2,3−ジアセトキシ安息香酸、2,4−ジアセトキシ安息香酸、3,4−ジアセトキシ安息香酸、2,5−ジアセトキシ安息香酸、3,5−ジアセトキシ安息香酸、2,6−ジアセトキシ安息香酸、2,3,4−トリアセトキシ安息香酸、2,4,6−トリアセトキシ安息香酸、3,4,5−トリアセトキシ安息香酸(トリアセチル没食子酸)などが挙げられる。
なお、上記のカルボン酸にさらに置換基を有しているような、3−メチル−アセチルサリチル酸、4−メチル−アセチルサリチル酸、5−メチル−アセチルサリチル酸、3−メトキシアセチルサリチル酸、5−メトキシアセチルサリチル酸、4−アセトキシ−3−メトキシ安息香酸、2−メチル−3−アセトキシ安息香酸、2,6−ジアセトキシ−4−メチル安息香酸なども好ましく用いることが出来る。
フィルムを構成する(溶融プロセスを経た後の)セルロースエステルの重量平均分子量としては、15万以上であることが好ましい。15万以下では、フィルムの延伸時に破断が起きたり、搬送中に割れたりすることがあり、安定して生産出来なくなることがある。より好ましくは18万以上であり、さらに好ましくは20万以上である。なお重量平均分子量は、市販のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することが出来る。
セルロースエステルは、180℃〜220℃程度から熱分解が始まり、分子量が低下する。従って、溶融プロセス後にフィルムを構成するセルロースエステルの重量平均分子量を15万以上とするためには、原料の(溶融プロセス前の)セルロースエステルとしては、重量平均分子量が15万以上であることが好ましく、より好ましくは20万以上であり、更に好ましくは22万以上である。特に上限はないが、通常100万以下の範囲である。なお50万以上であると溶融時の粘度が高くなりすぎ、押出し成形機への負担が高くなることがある。溶融プロセス中の分子量低下は、可塑剤を添加することによって溶融温度を低減したり、後述する酸化防止剤・ヒンダードアミン光安定化剤・酸掃去剤等によって抑制することも出来る。
しかし、上記の添加剤を用いても、溶融温度が270℃以上ではセルロースエステルの重量平均分子量を15万以上とすることが困難であるため、溶融製膜時の温度は270℃以下が好ましく、より好ましくは260℃、更に好ましくは250℃以下である。他方、溶融製膜時の温度が低すぎると、不均一な溶解となったり、溶融粘度が高く平面性の高いフィルムを得ることが難しくなるため、180℃以上の温度で溶融することが好ましい。また、あまり低温で溶融出来るセルロースエステルでは、得られるフィルムの耐湿熱性が不足するため、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上である。
上記のような構造・分子量を有するセルロースエステルは、公知の方法で合成することが出来る。
また、セルロースを有機酸が置換する位置は、グルコースユニットの2位、3位、6位があり、2位と3位は2級の水酸基、6位は1級の水酸基であり、芳香族カルボン酸がどの位置を置換するかによってセルロースエステルの高次構造や物性が多少変化することがあるが、本発明の光学フィルムにおいては芳香族カルボン酸がいずれの置換位置にあるセルロースエステルでも好ましく用いることが出来る。
本発明に用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することが出来る。
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることが出来る。
フィルム形成材料中のセルロースエステルを80質量%〜95質量%の範囲とし、他にフィルムを構成する材料として1〜20質量%を、後述する安定化剤、可塑剤及び紫外線吸収剤を含有させることによって、溶融粘度や溶融温度の低下や、溶融プロセス時の分子量の低下を抑制することが出来る。セルロースエステルの含有量が80質量%以下であると、添加剤がブリードアウトしてしまうために好ましくない。また光学フィルムとして必要な他の添加剤の添加量が5質量%以下であると(セルロースエステルの含有量が95%以上であると)、光学フィルムとして要求される各種の物性を満たすことが難しい。より好ましくはセルロースエステルの含有量は83〜92質量%、さらに好ましくは85〜90質量%である。
(可塑剤)
本発明の溶融流延による光学フィルムに形成においては、フィルム形成材料中に少なくとも1種の可塑剤を添加することが好ましい。
可塑剤とは、一般的には高分子中に添加することによって脆弱性を改良したり、柔軟性を付与したり、延伸性を向上させたりする効果のある添加剤であるが、本発明においては、フィルム形成材料の溶融温度を低下させる添加剤、または同じ溶融温度においてフィルム形成材料の粘度を低下させる添加剤、フィルムの延伸性を向上させる添加剤として用いる。溶融温度或いは溶融粘度を低下させることにより、溶融プロセス中におけるセルロースエステルの劣化を抑制することが出来る。本発明ではこのような効果を有する材料であれば制限なく可塑剤として用いることが出来る。このような融点低下効果・粘度低減降下は、添加する可塑剤がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度をもつ可塑剤を用いると、より大きい効果が得られやすい。
また、可塑剤を添加することによってセルロースエステルフィルムの機械的性質向上、引き裂き強度(延伸可能伸度)向上、耐吸水性付与、透湿度の低減等の効果が見られることもあるため、このような効果を有する材料を可塑剤として用いることがより好ましい。
中でも透湿度は、偏光子が水分によって劣化することを防ぐため、偏光板保護フィルムとして重要な物性であり、透湿度を低減出来るような効果を有する可塑剤を用いることはほぼ必須である。なお、透湿度としては、80μm厚のフィルム場合は200〜800g/m2/dの範囲であることが好ましい。透湿度が低すぎると、偏光子と水系接着剤によって貼合した際に、水分を乾燥させる時間が長くなってしまうために、一定以上の透湿度を有していることが好ましい。より好ましくは250〜500g/m2/dであることである。なお、透湿度はほぼ膜厚と反比例するため、40μm厚のフィルムの場合には、200〜1000g/m2/dであることが好ましく、より好ましくは400〜800g/m2/dであることである。
なお可塑剤も、上記のように添加によってセルロースエステルの熱溶融プロセスにおける劣化を抑制する効果があるが、その効果は物理的な効果によるものであり、化学的な効果に起因するものではないため、本発明においては後述する安定化剤としては分類しない。
上記のような条件を満たし、本発明に用いられる可塑剤としては、例えば、リン酸エステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤(エチレングリコールエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、ジグリセリンエステル系可塑剤など)、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤、ホスファゼン系可塑剤、シロキサン系可塑剤等が挙げられる。この中でも、セルロースエステルフィルムの透湿度を低減する効果の高い、多価アルコールエステル系可塑剤及び多価カルボン酸エステル系可塑剤が好ましく、更に多価アルコールエステル系可塑剤が好ましい。また、可塑剤は液体であっても固体であっても良く、組成物の制約上無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であり、かつ揮発しないことが好ましく、乾燥空気下における1%質量減少温度Td(1.0)が200℃以上、更に230℃以上、特に250℃以上が好ましい。乾燥空気下における1%質量減少温度Td(1.0)は、市販の示差熱重量分析(TG−DTA)装置で測定することが出来る。
添加量は光学物性・機械物性に悪影響がない範囲で、保留性が保たれる範囲でなるべく多く添加することが好ましい。本発明に係るフィルム組成物中において5〜20質量部、より好ましくは7〜15質量部である。特に8〜13質量%が好ましい。
以下、本発明に用いられる可塑剤について具体例に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
多価アルコールエステル系の可塑剤:本発明においては、一分子中に複数の水酸基を有する化合物と、複数の1価の有機酸とが縮合した化合物を、多価アルコールエステル系可塑剤と称する。
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものをあげることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ガラクチトール、グルコース、セロビオース、イノシトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることが出来る。特に、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが好ましい。
また、好ましい有機酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、ナフトエ酸等が挙げられるが、セルロースエステルの透湿度を低減する効果が高い不飽和カルボン酸によって多価アルコールエステルを形成していることが好ましい。
多価アルコールエステルに用いられる不飽和カルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中の水酸基は、全てエステル化してもよいし、一部を水酸基のままで残してもよい。
このような多価アルコールエステル系可塑剤の具体例のうち、例えば、エチレングリコール系の可塑剤としては、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジブチレート等のエチレングリコールアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジシクロプロピルカルボキシレート、エチレングリコールジシクロヘキルカルボキシレート等のエチレングリコールシクロアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジベンゾエート、エチレングリコールジ4−メチルベンゾエート等が挙げられる。
またグリセリンエステル系の可塑剤の具体例としては、トリアセチン、トリブチリン、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンオレートプロピオネート等のグリセリンアルキルエステル、グリセリントリシクロプロピルカルボキシレート、グリセリントリシクロヘキシルカルボキシレート等のグリセリンシクロアルキルエステル、グリセリントリベンゾエート、グリセリン4−メチルベンゾエート等のグリセリンアリールエステル、ジグリセリンテトラアセチレート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンテトララウレート、等のジグリセリンアルキルエステル、ジグリセリンテトラシクロブチルカルボキシレート、ジグリセリンテトラシクロペンチルカルボキシレート等のジグリセリンシクロアルキルエステル、ジグリセリンテトラベンゾエート、ジグリセリン3−メチルベンゾエート等が挙げられる。
上記以外の多価アルコールエステル系可塑剤の具体例としては、特開2003−12823公報の段落30〜33記載の化合物、または特願2004−356546公報の化2〜化12に記載の化合物、が挙げられる。
なお上記に挙げた可塑剤は、多価アルコール部または有機酸部ともに、さらにアルキル基、アルコキシ基、アシル基、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基等によって更に置換されていても良く、またこれら置換基同士が共有結合で結合していても良い。或いはこれらの構造がポリマーの一部であったり、或いは規則的にペンダントされていても良く、また酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造が、一部に導入されていても良い。
多価カルボン酸エステル系の可塑剤:本発明においては、一分子中に複数のカルボン酸基を有する化合物と、複数の1価のアルコールまたはフェノールとが縮合した化合物を、多価カルボン酸エステル系可塑剤と称する。
二価のカルボン酸からなるジカルボン酸エステル系の可塑剤の具体例としては、ジドデシルマロネート(二価のカルボン酸を連結する炭素の数が1つ=C1)、ジオクチルアジペート(C4)、ジブチルセバケート(C8)等のアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロペンチルサクシネート、ジシクロヘキシルアジーペート等のアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルサクシネート、ジ4−メチルフェニルグルタレート等のアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジヘキシル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、ジデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロヘキシル−1,2−シクロブタンジカルボキシレート、ジシクロプロピル−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニル−1,1−シクロプロピルジカルボキシレート、ジ2−ナフチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロプロピルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルフタレート、ジ4−メチルフェニルフタレート等のアリールジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。
3価以上のカルボン酸からなる可塑剤の具体例としては、トリドデシルトリカルバレート、トリブチル−meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロヘキシルトリカルバレート、トリシクロプロピル−2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート、テトラ3−メチルフェニルテトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、テトラヘキシル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、テトラブチル−1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、テトラシクロプロピル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、トリシクロヘキシル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート、ヘキサ4−メチルフェニル−1,2,3,4,5,6−シクロヘキシルヘキサカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、トリドデシルベンゼン−1,2,4−トリカルボキシレート、テトラオクチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロペンチルベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、テトラシクロヘキシルベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤トリフェニルベンゼン−1,3,5−テトラカルトキシレート、ヘキサ4−メチルフェニルベンゼン−1,2,3,4,5,6−ヘキサカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。
上記の可塑剤におけるアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でも良く、これらの置換基は更に置換されていても良い。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでも良く、またこれら置換基同志が共有結合で結合していても良い。更にフタル酸の芳香環も置換されていて良く、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でも良い。またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にポリマーへペンダントされていても良く、酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていても良い。
リン酸エステル系の可塑剤:具体的には、トリアセチルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸アルキルエステル、トリシクロベンチルホスフェート、シクロヘキシルホスフェート等のリン酸シクロアルキルエステル、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート等のリン酸アリールエステルが挙げられる。これらの置換基は、同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていても良い。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでも良く、また置換基同志が共有結合で結合していても良い。
またエチレンビス(ジメチルホスフェート)、ブチレンビス(ジエチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアルキルホスフェート)、エチレンビス(ジフェニルホスフェート)、プロピレンビス(ジナフチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアリールホスフェート)、フェニレンビス(ジブチルホスフェート)、ビフェニレンビス(ジオクチルホスフェート等のアリーレンビス(ジアルキルホスフェート)、旭電化製アデカスタブPFR等のフェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、)、旭電化製アデカスタブFP500等のフェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)、旭電化製アデカスタブFP600等のビスフェノールAジフェニルホスフェート、ナフチレンビス(ジトルイルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアリールホスフェート)等のリン酸エステルが挙げられる。これらの置換基は、同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていても良い。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでも良く、また置換基同士が共有結合で結合していても良い。
更にリン酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていても良く、また酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていても良い。上記化合物の中では、リン酸アリールエステル、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)が好ましく、具体的にはトリフェニルホスフェート、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
ポリマー可塑剤:具体的には、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。数平均分子量は、1000〜500000程度が好ましく、特に好ましくは、5000〜200000である。1000以下では揮発性に問題が生じ、500000を超えると可塑化能力が低下し、セルロースエステル誘導体組成物の機械的性質に悪影響を及ぼす。これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でも良い。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いても良く、他の可塑剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤、滑り剤及びマット剤等を含有させても良い。
上記可塑剤の中でも熱溶融時に揮発成分を生成しないことが好ましい。
また、上記以外の可塑剤として好ましい例としては、ヘキサフェノキシホスファゼン、オクタフェノキシホスファゼン等のホスファゼン系化合物、ヘキサフェニルジシロキサン、ヘキサフェニルシクロトリシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン等のシロキサン系化合物を可塑剤として用いても良い。
また、これらの可塑剤は、複数の種類を混合して用いても良い。その際にも、総添加量は5〜20質量%の範囲となることが好ましい。
(安定化剤)
安定化剤とは、高分子が熱や酸素、水分、酸などによって分解されることを、化学的な作用によって抑制する材料のことである。本発明の光学フィルムは、150〜250℃程度の高温下で成形されるため、高分子の分解・劣化が起きやすい系であり、安定化剤をフィルム形成材料中に含有させることが好ましい。
フィルム形成材料中に安定化剤を添加することによって、熱や酸素、光などによって発生するラジカル種や酸、アルカリ等に起因するフィルム形成材料の酸化・熱劣化を防止したり、分解により発生する酸などの低分子を捕捉したりすることが出来、着色や分子量低下に代表される変質や材料の分解による工程の汚染や、得られるフィルムの物性劣化等を防ぐことが出来る。
安定化剤としては、例えば、酸化防止剤、酸捕捉剤、ヒンダードアミン光安定剤、紫外線吸収剤、過酸化物分解剤、ラジカル捕捉剤、金属不活性化剤、などが挙げられるが、これらに限定されない。これらは、特開平3−199201号公報、特開平5−1907073号公報、特開平5−194789号公報、特開平5−271471号公報、特開平6−107854号公報などに記載がある。これらの中でも、本発明の目的のためには、安定化剤として酸化防止剤、ヒンダードアミン光安定化剤、酸捕捉剤のうち、少なくとも1種を、フィルム形成材料中に含むことが好ましい。
本発明に用いられるフィルム形成材料中の安定化剤は、少なくとも1種以上選択出来、添加する量は、セルロースエステルの質量に対して、安定化剤の添加量は0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上3質量%以下であり、更に好ましくは0.3質量%以上2質量%以下である。
安定化剤の添加量が上記添加量の範囲よりも少ないと、熱溶融時の材料の安定化作用が低いために安定化剤の効果が得られず、また上記添加量の範囲よりも多いと樹脂への相溶性の観点から光学フィルムとしての透明性の低下を引き起こしたり、フィルムが脆くなることもあるために好ましくない。
また、これらの安定化剤は熱的にはより高温において安定であることが好ましく、1%質量減少温度Td(1.0)が200℃以上、更に230℃以上、特に250℃以上が好ましい。
フィルム形成材料は、材料の変質や吸湿性を回避したり、製膜工程を簡略化する目的で、複数の材料を製膜に先だって混合し、1種または複数種のペレットとして保存することが出来る。ペレット化は、加熱時の溶融物の混合性または相溶性が向上出来、または得られたフィルムの光学的な均一性が確保出来ることもある。また、バレルの設計を簡略化することが出来、バレル内の滞留物の発生が抑制され、得られる溶融フィルムの品質を向上することが出来る。
フィルム形成材料を、製膜に先だってペレット化する際にも、加熱溶融によってペレット化することが出来る。ペレット化の際にも、上述の安定化剤が存在することは、材料の劣化や分解に基づく強度や光学的透明性の劣化を抑制すること、または材料固有の強度を維持出来る観点で優れている。
フィルム構成材料が加熱により著しく劣化すると、着色が発生して光学フィルムとしては用いることが出来なくなってしまうことがある。また、フィルムの平面性向上のために、流延工程の後に延伸工程が実施されるが、フィルム構成材料が加熱により著しく劣化し、分子量が低下すると、形成されたフィルムが脆くなり、該延伸工程において破断が生じやすくなったり、目的のリターデーション値が発現出来なくなることがある。
そこで、上述の安定化剤の存在は、加熱溶融時において可視光領域の着色物の生成を抑制すること、またはフィルムを構成する材料が分解して生じた揮発成分等によって生じる透過率やヘイズ値の低下といった光学フィルムとして好ましくない劣化を抑制または消滅出来る点でも優れている。
本発明において液晶表示装置の表示画像は、用いる光学フィルムのヘイズ値が1%を超えると影響を与えるため、好ましくはヘイズ値は1%未満、より好ましくは0.5%未満である。ヘイズ値はJIS−K7136に基づいて測定することが出来る。また着色性の指標としては黄色度(イエローインデックス、YI)を用いることが出来、好ましくは3.0以下、より好ましくは1.0以下である。黄色度はJIS−K7103に基づいて測定することが出来る。
上述のフィルム形成材料の保存或いは製膜工程において、空気中の酸素或いは水分による劣化反応が併発することがある。この場合、上記安定化剤の安定化作用とともに、空気中の湿度・酸素濃度を低減させることも本発明を具現化する上で好ましく併用出来る。これは、公知の技術として不活性ガスとして窒素やアルゴンの使用、減圧〜真空による脱気操作、及び密閉環境下による操作が挙げられ、これら3者の内少なくとも1つの方法を上記安定剤を存在させる方法と併用することが出来る。フィルム構成材料が空気中の酸素と接触する確率を低減することにより、該材料の劣化が抑制出来、本発明の目的のためには好ましい。
また、本発明の光学フィルムは、偏光板保護フィルムとして活用するため、本発明の偏光板及び偏光板を構成する偏光子に対して経時保存性を向上させる観点からも、フィルム構成材料中における上述の安定化剤の存在が重要な役割を担う。
本発明の偏光板を用いた液晶表示装置において、本発明の光学フィルムに上述の安定化剤が存在すると、上記の変質や劣化を抑制する観点から光学フィルムの経時保存性が向上出来るとともに、液晶表示装置の表示品質向上においても光学的な補償設計が長期にわたって機能発現出来る点で優れている。
(酸化防止剤)
セルロースエステルは高温下では熱だけでなく酸素によっても分解が促進されるため、本発明の光学フィルムにおいては、安定化剤として酸化防止剤を含有することが好ましい。本発明において有用な酸化防止剤としては、酸素によるフィルム形成材料の劣化を抑制する化合物であれば制限なく用いることが出来るが、中でも有用な酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、耐熱加工安定剤、酸素スカベンジャー等が挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、溶融成型時の熱や熱酸化劣化等による成形体の着色や強度低下を防止出来る。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることが出来、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明に係る光学フィルム中において0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%であることが好ましい。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤化合物は既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,839,405号明細書の第12〜14欄に記載されており、2,6−ジアルキルフェノール誘導体化合物が含まれる。このような化合物のうち好ましい化合物として、下記一般式(2)の化合物が挙げられる。
上式中、R1、R2及びR3は、更に置換されているかまたは置換されていないアルキル置換基を表す。ヒンダードフェノール化合物の具体例には、n−オクタデシル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−アセテート、n−オクタデシル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオ−ドデシル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル=β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル=α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル=α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル=α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコール=ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミド−N,N−ビス−[エチレン=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノ−N,N−ビス−[エチレン=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル=7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコール=ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコール=ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコール=ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコール=ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−l−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリトリトール−テトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタン−トリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル=7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル=7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオール−ビス[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトール−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)が含まれる。上記タイプのヒンダードフェノール系酸化防止剤は、例えばCiba Specialty Chemicalsから、”Irganox1076”及び”Irganox1010”という商品名で市販されている。
その他の酸化防止剤としては、具体的には、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等の耐熱加工安定剤、特公平08−27508記載の3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン系化合物、3,3′−スピロジクロマン系化合物、1,1−スピロインダン系化合物、モルホリン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、ピペラジン骨格を部分構造に有する化合物、特開平3−174150号記載のジアルコキシベンゼン系化合物等の酸素スカベンジャー等が挙げられる。これら酸化防止剤の部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にポリマーへペンダントされていても良い。
また、前述のヒンダードフェノール系酸化防止剤と併用しても良く、ヒンダードフェノール基と、上記リン系酸化防止剤やイオウ系酸化防止剤等が一分子に結合された化合物を使用しても良い。
(ヒンダードアミン光安定剤)
本発明において、フィルム構成材料の熱溶融時の安定化剤、また製造後に偏光板保護フィルムとして晒される外光や液晶ディスプレイのバックライトからの光に対する安定化剤として、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)化合物が挙げられ、これは既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,619,956号明細書の第5〜11欄及び米国特許第4,839,405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含等まれる。このような化合物としては、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
上式中、R1及びR2は、Hまたは置換基である。ヒンダードアミン光安定剤化合物の具体例には、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−アリル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(4−t−ブチル−2−ブテニル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−エチル−4−サリチロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル−β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1−ベンジル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルマレイネート(maleinate)、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アジペート、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1−アリル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−4−イル)−フタレート、1−アセチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、トリメリト酸−トリ−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)エステル、1−アクリロイル−4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ジブチル−マロン酸−ジ−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジベンジル−マロン酸−ジ−(1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジメチル−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オキシ)−シラン,トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフィット、トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフェート,N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアミン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアセトアミド、1−アセチル−4−(N−シクロヘキシルアセトアミド)−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン、4−ベンジルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジブチル−アジパミド、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジシクロヘキシル−(2−ヒドロキシプロピレン)、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−p−キシリレン−ジアミン、4−(ビス−2−ヒドロキシエチル)−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリルアミド−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、α−シアノ−β−メチル−β−[N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)]−アミノ−アクリル酸メチルエステル。好ましいヒンダードアミン光安定剤の例には、以下のHALS−1及びHALS−2が含まれる。
また、ヒンダードアミン光安定剤の中には、同一分子中にヒンダードフェノール構造を有する、チヌビン144(チバ・スペシャルティケミカルズ社製)等も市販されており、このような複合型安定化剤も、好ましい安定化剤の例である。
(酸捕捉剤)
セルロースエステルは、高温下では酸によっても分解が促進されるため、本発明の光学フィルムにおいては安定化剤として酸捕捉剤を含有することが好ましい。本発明において有用な酸捕捉剤としては、酸と反応して酸を不活性化する化合物であれば制限なく用いることが出来るが、中でも米国特許第4,137,201号明細書に記載されているような、エポキシ基を有する化合物が好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシドなどの縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテルなど、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22この炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)など)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリドなど(例えば、エポキシ化大豆油など)の組成物によって代表され例示され得るエポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらはときとしてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している)が含まれる。また、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物として、EPON 815C、及び下記一般式(4)の他のエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物も好ましく用いることが出来る。
上式中、nは0〜12を表す。
更に上記以外に用いることが可能な酸捕捉剤としては、オキセタン化合物やオキサゾリン化合物、或いはアルカリ土類金属の有機酸塩やアセチルアセトナート錯体、特開平5−194788号公報の段落68〜105に記載されているものが含まれる。
なお酸捕捉剤は酸掃去剤、酸捕獲剤、酸キャッチャー等と称されることもあるが、本発明においてはこれらの呼称による差異なく用いることが出来る。
(紫外線吸収剤)
本発明の光学フィルムを液晶セルに対して外側に用いる偏光板保護フィルムとして用いる場合には、安定化剤として更に紫外線吸収剤を含有することが好ましい。紫外線吸収剤とは、製造後に使用される環境下で紫外線によってフィルムを構成する材料が分解することを防ぐ効果のある材料である。セルロースエステル自体は比較的紫外線に対して強い材料であるが、その他の添加剤については紫外線に対して弱い化合物である場合もあるし、偏光子や液晶セルにおいては紫外線に弱い化合物も含有されているため、少なくとも外光があたる側の偏光板保護フィルムや、液晶ディスプレイのバックライトが入射する側の偏光板保護フィルムに付いては紫外線吸収剤を含有することが好ましい。
このような紫外線吸収剤としては、偏光子や表示装置の紫外線に対する劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることが出来るが、ベンゾフェノン系化合物や着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物が好ましく、特に好ましくはベンゾトリアゾール系化合物である。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤を用いてもよい。
有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。
また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン171、チヌビン360、チヌビン384−2、チヌビン900、チヌビン928(何れもチバ−スペシャルティ−ケミカルズ社製)を用いることも出来る。
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン、旭電化製LA−51等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。
またトリアジン系化合物の具体例としては、チヌビン400、チヌビン405、チヌビン460、チヌビン1577、CGL−479、CGL−777(何れもチバ−スペシャルティ−ケミカルズ社製)等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。
更に上記の紫外線吸収剤の部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていても良く、また酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていても良い。例えば、特表2002−518485号公報に開示されているような、トリアジン基とヒンダードフェノール基とが同一分子中に複合化されたような化合物を用いることも好ましい。
本発明においては、紫外線吸収剤は0.1〜5質量%添加することが好ましく、更に0.3〜3質量%添加することが好ましく、更に0.5〜2質量%添加することが好ましい。これらは吸収波形による紫外光の透過を補完するために、2種以上を併用してもよい。
(マット剤)
本発明のセルロースエステルフィルムは、滑り性や光学的、機械的機能を付与するためにマット剤を添加することが出来る。マット剤としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
マット剤の形状は、球状、棒状、針状、層状、平板状等の形状のものが好ましく用いられる。マット剤としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の金属の酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を挙げることが出来る。中でも、二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを低く出来るので好ましい。これらの微粒子は有機物により表面処理されていることが、フィルムのヘイズを低下出来るため好ましい。
表面処理は、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等で行うことが好ましい。微粒子の平均粒径が大きい方が滑り性効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の一次粒子の平均粒径は0.01〜1.0μmの範囲である。好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、さらに好ましくは、7〜14nmである。これらの微粒子は、セルロースエステルフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させるために好ましく用いられる。
二酸化ケイ素の微粒子としては、日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることが出来、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。
2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することが出来る。平均粒径や材質の異なる微粒子、例えば、アエロジル200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用出来る。
これらのマット剤の添加方法は混練する等によって行うことが好ましい。また、別の形態として予め溶媒に分散したマット剤とセルロースエステル及び/または可塑剤及び/または紫外線吸収剤を混合分散させた後、溶媒を揮発または沈殿させた固形物を得て、これをセルロースエステル溶融物の製造過程で用いることが、マット剤がセルロース樹脂中で均一に分散出来る観点から好ましい。
上記マット剤は、フィルムの機械的、電気的、光学的特性改善のために添加することも出来る。
なおこれらの微粒子を添加するほど、得られるセルロースエステルフィルムの滑り性は向上するが、添加するほどヘイズが上昇するため、含有量は好ましくは0.001〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.005〜1質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.5質量%である。
(その他の添加剤)
本発明においては、セルロースエステルに可塑剤、安定化剤、マット剤の他、種々の添加剤を含有することが出来る。
例えば、フィラー、シリカやケイ酸塩等の無機化合物、有機高分子、染料、顔料、蛍光体、二色性色素、リターデーション制御剤、赤外線吸収剤、屈折率調整剤、ガス透過抑制剤、抗菌剤、生分解性付与剤、ゲル化防止剤、粘度調整剤、剥離剤などが挙げられる。また、上記機能を有するものであれば、これに分類されない添加剤も用いることが出来る。
そして、これらの添加剤をセルロースエステルに含有させる方法としては、各々の材料を固体或いは液体のまま混合し、加熱溶融し混練して均一な溶融物とした後、流延して光学フィルムを形成する方法であっても、予め全ての材料を溶媒等を用いて、溶解して均一溶液とした後、溶媒を除去して、添加剤とセルロースエステルの混合物を形成し、これを加熱溶融し、流延して光学フィルムを形成してもよい。
(溶融流延工程)
本発明のセルロースエステルフィルムは溶融流延によって形成される。
溶液流延法において用いられる溶媒(例えば塩化メチレン等)を用いずに、加熱溶融する溶融流延による成形法は、さらに詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等に分類出来る。これらの中で、機械的強度及び表面精度等に優れる偏光板保護フィルムを得るためには、溶融押出し法が優れている。
本発明のセルロースエス手得るフィルムの巻きの長さとしては、500〜5000mが好ましく、1000〜5000mがより好ましい。幅手両端部には膜厚の0〜25%の高さのナーリングを設けて巻き取ることも好ましい。
このような非常に長大なフィルムを安定して生産するためには、溶融製膜中に分子量をいかに低下させないかが重要である。分子量が低下すると、フィルムが脆くなり、破断が発生しやすくなり、上記のような長さのフィルムを得ることは難しい。分子量の低下を防ぐためには、前述のような安定化剤を添加するのみならず、材料の購入前または合成時に混入している溶媒や不純物や、酸素・水分などを、溶融プロセス前になるべく除去しておくことが重要である。溶融流延法による製膜は、溶液流延法と比べるとその製膜時の温度が著しく高いため、酸素や水分、或いは化学的に活性な不純物が混入していると、セルロースエステルの分解が促進されてしまうためである。また、セルロースエステルの分解を助長するような不純物・混入物ではなくても、流延する材料に揮発成分が存在すると、製膜時にそれらの添加剤が揮発して製膜装置に付着し、製膜されるフィルムの膜厚の変動を引き起こしたり、各種の故障を引き起こすため、フィルムや偏光板保護フィルムとしての機能を活用するためのフィルムの平面性及び透明性確保の点から好ましくない。特にダイに付着した場合には、フィルム表面に筋が入る要因となり平面性劣化を誘発することがある。従って、フィルム構成材料を製膜加工する場合、加熱溶融時に揮発成分の発生を回避する観点から、製膜するための溶融温度よりも低い温度で揮発する成分が存在することは好ましくない。本発明のセルロースエステルフィルムに添加する材料は、いずれも1%熱質量減少温度(Td1)が250℃以上である材料を用いることが好ましい。
前記水分や不純物等の揮発成分は、製膜する前に、または溶融前に除去されていることが好ましい。この除去する方法は、乾燥による方法が適用出来、加熱法、減圧法、加熱減圧法等の方法で行うことが出来る。乾燥は空気中または不活性ガスとして窒素或いはアルゴン等の不活性ガスを選択した雰囲気下で行ってもよい。これらの不活性ガスは水や酸素の含有量が低いことが好ましい。酸素濃度は0.1%以下であることが好ましく、ガスの露点は−30℃以下であることが好ましい。最も好ましくは、実質的に含有しないことである。これらの公知の乾燥方法を行うとき、フィルム構成材料が分解しない温度領域で行うことがフィルムの品質上好ましい。例えば、前記乾燥工程で除去した後の残存する水分または溶媒は、各々フィルム構成材料の全体に質量に対して1質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5質量%以下にすることである。
特にセルロースエステル樹脂の水分は、0.3質量%未満のものが好ましく用いられる。これらの特性値はASTM−D817−96により測定することが出来る。セルロースエステルは、さらに熱処理することで水分を低減させて0.1〜1000ppmとして用いることが好ましい。
また残留有機溶媒量は、ヘッドスペースガスクロ法により測定出来る。即ち、既知量のセルロースエステルフィルムを密閉容器内で120℃で20分間加熱し、その密閉容器内の気相に含まれる有機溶媒をガスクロマトグラフにより定量する。この結果から残留有機溶媒量(%)を算出することが出来る。
フィルム構成材料は、製膜前に乾燥することにより、揮発成分の発生を削減することが出来、樹脂単独、または樹脂とフィルム構成材料の内、樹脂以外の少なくとも1種以上の混合物または相溶物に分割して乾燥することが出来る。好ましい乾燥温度は80℃以上、かつ乾燥する材料のTgまたは融点以下であることが好ましい。材料同士の融着を回避する観点を含めると、乾燥温度は、より好ましくは100〜(Tg−5)℃、さらに好ましくは110〜(Tg−20)℃である。好ましい乾燥時間は0.5〜24時間、より好ましくは1〜18時間、さらに好ましくは1.5〜12時間である。これらの範囲よりも低いと揮発成分の除去率が低いか、または乾燥に時間がかかり過ぎることがあり、また乾燥する材料にTgが存在するときには、Tgよりも高い乾燥温度に加熱すると、材料が融着して取り扱いが困難になることがある。乾燥は1気圧以下で行うことが好ましく、特に真空〜1/2気圧に減圧しながら行うことが好ましい。乾燥は、樹脂等の材料は適度に撹拌しながら行うことが好ましく、乾燥容器内で下部より乾燥空気もしくは乾燥窒素を送り込みながら乾燥させる流動床方式が、より短時間で必要な乾燥を行うことが出来るため好ましい。
乾燥工程は2段階以上に分離してもよく、例えば予備乾燥工程による材料の保管と、製膜する直前〜1週間前の間に行う直前乾燥を行った素材を用いて製膜してもよい。
乾燥工程によって、フィルム形成材料中の水分・不純物等の揮発性成分を除去した後、フィルム形成材料は個別に、或いは事前に混合/ペレット化されて、加熱されたバレルに送られ、溶融・流動化したのち、Tダイによってシート状に押出され、例えば、静電印加法等により冷却ドラム或いはエンドレスベルト等に密着させ、冷却固化されてシート状に固化し、未延伸シートを得る。これらの工程は、流延工程と呼ばれる。
得られるセルロースエステルフィルムの物性を鑑みると、溶融温度(バレル内の温度)は180〜270℃の範囲であることが好ましく、200℃〜260℃であることがより好ましく、さらに好ましくは220℃〜250℃である。冷却ドラムの温度は、冷却ドラムの温度は90〜150℃に維持されていることが好ましい。ドラムの温度が90℃以下であると、ダイから押出されたシートが急冷されてフィルム内の構造が膜厚方向に不均一となったり、もろくなったりすることがあるため、90℃以上であることが好ましい。他方、150℃以上であると、未延伸シートの冷却速度が遅くなり、生産性が低下するために好ましくない。
本発明の光学フィルムを偏光板用保護フィルムとした場合、該保護フィルムの厚さは10〜500μmが好ましい。特に10〜100μmが好ましく、20〜80μmが好ましく、特に好ましくは30〜60μmである。上記領域よりもセルロースエステルフィルムが厚いと、例えば、偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板加工後の偏光板が厚くなり過ぎ、ノート型パソコンやモバイル型電子機器に用いる液晶表示においては、特に薄型軽量の目的には適さない。一方、上記領域よりも薄いとフィルムの透湿性が高くなり偏光子に対して湿度から保護する能力が低下してしまうために好ましくない。また、位相差フィルムにおいてはリターデーションの発現が困難となるためことがある。
なお溶液流延法ではフィルムの厚みが増えると乾燥負荷が著しく増加してしまうが、本発明では乾燥工程が不要なため、膜厚が厚いフィルムを生産性よく製造することが出来る。そのため、必要な位相差の付与や透湿性の低減等の目的に応じてフィルムの厚みを増やすことが今まで以上にやりやすくなるという利点がある。また、膜厚の薄いフィルムを製造する場合であっても、このような厚手のフィルムから延伸して得ることで、高い生産性で生産することが出来ると言う効果を有する。なお、延伸した際のフィルムの膜厚は、延伸倍率と反比例して薄くなる。例えば、未延伸シートが200μmであった場合、2倍に延伸すると約100μmのフィルムが得られる。
また、セルロースエステルフィルム支持体の膜厚変動は、±3%、さらに±1%、さらに好ましくは±0.1%の範囲とすることが好ましい。これらの膜厚変動は、延伸することによって低減することが出来る。
近年の液晶ディスプレイの大型化を鑑みると、偏光板保護フィルムの幅は1m以上が好ましい。他方で、4mを超えると装置が大型化し、また搬送が困難となるため、本発明のセルロースエステルフィルムの幅は1〜4mが好ましく、特に好ましくは1.4〜2mである。バレルから流動してきたセルロースエステルを、1.4m以上の幅手に均一にダイから押出すことは困難であるため、1.4m以上の幅を有するフィルムは、横延伸しなければ得ることは困難である。
(延伸工程)
次に延伸工程について説明する。
本発明のセルロースエステルを用いたセルロースエステルフィルムは、可塑剤の添加量を多くすることが出来るために溶融温度・溶融粘度を低くすることが出来、溶融押出し後のセルロースエステルの分子量低下を抑えることが出来るため、搬送時の破断が起こりにくく、高収率かつ高速に製造出来る。また高倍率延伸が可能となるため、さらに生産性を高めることが出来、しかも平面性に優れた光学フィルムを得ることが出来る。従って、セルロースエステルフィルムを生産性よく製造することが出来る。
バレルから押出され、冷却ドラムに密着させられた後、冷却ドラムから剥離されたフィルムは、横延伸や縦延伸、或いは特開2004−226465号公報に開示されているような、斜め方向の延伸を行うことによって、平面性を向上させ、かつ生産速度を向上させることが出来る。これらの延伸は、複数回行っても良く、複数回行う際には、同時であっても逐次であっても良い。複数回の延伸を行った際には、全ての延伸倍率の積が、最終延伸倍率となる。例えば、2倍の延伸を2回行えば、最終延伸倍率は4倍となる。
なおセルロースエステルは、延伸された方向に対して屈折率が上昇し、遅相軸が形成される。従って、最終的に得られるフィルムが満たすべき光学特性に従って、延伸倍率は決定される。
フィルム面内の位相差をなるべく低減したい場合には、2軸延伸することが好ましい。1回目の延伸軸と直交する方向に、同倍率程度の延伸を行うにより、1回目の延伸による複屈折の発生がキャンセルされ、等方性のフィルムを得ることが出来る。
他方で、液晶ディスプレイの視野角を拡大する効果のあるような位相差フィルムを得る場合には、1回目の延伸と2回目の延伸の比率を変化させ、どちらか一方の延伸倍率が他方の延伸倍率よりも大きくなるように延伸することで光学異方性のフィルムを得ることが出来る。その際の幅手方向と長手方向との延伸倍率比は1.03〜2.00が好ましく、より好ましくは1.10〜1.50である。
複数回の延伸を行う際には、長手方向から延伸しても、幅手方向から延伸しても良いが、幅手方向の延伸工程を経たのちにはフィルムの搬送幅が大きくなり、搬送装置の大型化を招くため、長手方向の延伸の後に幅手方向の延伸を行うことが好ましい。
また、セルロースエステルフィルムの最終延伸倍率は1.2〜4.0倍であることが好ましい。1.2倍未満では、得られるフィルムの平面性に劣ることがある。他方、4.0倍よりも大きく延伸することは、本発明のセルロースエステル組成物を用いても困難であり、延伸工程中で破断が起きる可能性が高くなるため好ましくない。また、リターデーション値が高くなりすぎることがある。より好ましくは最終延伸倍率が1.5〜3.0倍のものである。
次に、長手方向(MD)の延伸方法について説明する。
バレルから押出され、冷却ドラムに密着させられた後、冷却ドラムから剥離されたフィルムは、1つまたは複数のロール群及び/または赤外線ヒーター等の加熱装置を介して、再度加熱して長手方向に一段または多段MD延伸してもよい。
延伸する際は、本発明のフィルムのガラス転移温度をTgとすると(Tg−30)〜(Tg+100)℃、より好ましくは(Tg−20)〜(Tg+80)℃の範囲内で加熱して搬送方向(長手方向;MD)或いは幅手方向(TD)に延伸することが好ましい。(Tg−20)〜(Tg+20)℃の温度範囲内で横延伸し次いで熱固定することが好ましい。また延伸工程の後、緩和処理を行うことも好ましい。
セルロースエステルフィルムのTgは、フィルムを構成する材料種及び構成する材料の比率によって制御することが出来る。本発明の用途においてはフィルムの乾燥時のTgは110℃以上が好ましく、さらに120℃以上が好ましい。これは液晶表示装置に本発明のセルロースエステルフィルムを用いた場合、該フィルムのTgが上記よりも低いと、使用環境の温度や湿度、バックライトの熱による影響によって、フィルム内部に固定された分子の配向状態に影響を与え、リターデーション値及びフィルムとしての寸法安定性や形状に大きな変化を与える可能性が高くなる。また、フィルムの形状を保持出来なくなることがある。逆に該フィルムのTgが高過ぎると、フィルム構成材料の分解温度に近づくため製造しにくくなり、フィルム化するときに用いる材料自身の分解によって揮発成分の存在や着色を呈することがある。従ってガラス転移温度は180℃以下、より好ましくは150℃以下であることが好ましい。このとき、フィルムのTgはJIS K7121に記載の方法などによって求めることが出来る。
次に、幅手方向(TD)の延伸方法について説明する。
TD延伸する場合、2つ以上に分割された延伸領域で温度差を1〜50℃の範囲で順次昇温しながら横延伸すると幅方向の物性の分布が低減でき好ましい。更に横延伸後、フィルムをその最終TD延伸温度以下でTg−40℃以上の範囲に0.01〜5分間保持すると幅方向の物性の分布が更に低減でき好ましい。
熱固定は、その最終TD延伸温度より高温で、Tg−20℃以下の温度範囲内で通常0.5〜300秒間熱固定する。この際、2つ以上に分割された領域で温度差が1〜100℃となる範囲で順次昇温しながら熱固定することが好ましい。
熱固定されたフィルムは通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、横方向及び/または縦方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。また冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことがフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。尚、冷却速度は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からTgに達するまでの時間をtとした時、(T1−Tg)/tで求めた値である。
これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するセルロースエステルや可塑剤等の添加剤種により異なるので、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
本発明に係るセルロースエステルフィルムの面内リターデーション値(Ro)及び厚さ方向のリターデーション値(Rth)は、偏光板保護フィルムとして用いる場合には0≦Ro、Rth≦70nmであることが好ましい。より好ましくは0≦Ro≦20nmかつ0≦Rth≦50nmであリ、より好ましくは0≦Ro≦10nmかつ0≦Rth≦30nmである。VAモードの液晶パネルの位相差フィルム(液晶パネルの両側に2枚使用する場合)として用いる場合には、30≦Ro≦100nmかつ70≦Rth≦400nmであリ、より好ましくは35≦Ro≦65nmかつ90≦Rth≦180nmである。位相差を液晶パネルの片側のフィルムのみで稼ぐ場合には、この倍の位相差を有していることが好ましい。
また、Rthの変動や分布の幅は±10%未満であることが好ましく、より好ましくは±5%未満である。更に好ましくは±1%未満であることが好ましく、最も好ましくはRthの変動がないことである。
なおリターデーション値Ro、Rthは以下の式によって求めることが出来る。
Ro=(nx−ny)×d
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
ここにおいて、dはフィルムの厚み(nm)、屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈折率、遅相軸方向の屈折率ともいう)、ny(フィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率)、nz(厚み方向におけるフィルムの屈折率)である。
上記の式からわかるように、フィルムのリターデーション値は膜厚と比例するため、リターデーション値はフィルムの膜厚によっても調整することが出来る。本発明のセルロースエステルフィルムは、セルロースエステル自体の透湿性も低く、可塑剤の含有率も高くすることが出来、また、延伸によって発生するリターデーション値もトリアセチルセルロースやセルロースアセテートプロピオネートなどよりも大きいため、比較的薄膜(30〜60μm厚)の位相差フィルムとして用いることが出来るといった効果があり、その結果、偏光板の軽量化に寄与することが出来る。
尚、リターデーション値(Ro)、(Rth)は自動複屈折率計を用いて測定することが出来る。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmで求めることが出来る。
また、遅相軸はフィルムの幅手方向±1°若しくは長手方向±1°にあることが好ましい。より好ましくは幅手方向または長手方向に対してに±0.7°、更に好ましくは幅手方向または長手方向に対して±0.5°である。このような範囲とすることで、得られる液晶ディスプレイのコントラストを高めることが出来る。
本発明のセルロースエステルフィルムは製膜工程で実質的に溶媒を使用することがないため、製膜後巻き取られたセルロースエステルフィルムに含まれる残留有機溶媒量は安定して0.1質量%未満であり、これによって従来以上に安定した平面性とRthをもつセルロースエステルフィルムを提供することが可能である。特に100m以上の長尺の巻物においても安定した平面性とRthを持つセルロースエステルフィルムを提供することが可能となる。該セルロースエステルフィルムは巻きの長さについては特に制限はなく、1500m、2500m、5000mであっても好ましく用いられる。
溶液流延法で作製されたセルロースエステルフィルムの残留有機溶媒量(%)を0.1質量%以下とすることは困難であり、そのためには長い乾燥工程が必要であるが、この方法によれば安いコストで極めて低い残留有機溶媒含有量のセルロースエステルフィルムを得ることが出来、光学フィルムとして優れた特性を持つセルロースエステルフィルムを得ることが出来る。
また、製膜工程において、カットされたフィルム両端のクリップ把持部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料としてまたは異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。
(機能性層)
本発明の光学フィルム製造に際し、延伸の前及び/または後で帯電防止層、透明導電層、ハードコート層、反射防止層、防汚層、易滑性層、易接着層、易けん化層、平滑化層、防眩層、ガスバリア層、光学補償層等の機能性層を塗設してもよい。特に、帯電防止層、ハードコート層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選ばれる少なくとも1層を設けることが好ましい。この際、コロナ放電処理、プラズマ処理、薬液処理等の各種表面処理を必要に応じて施すことが出来る。なお、薬液処理としては、化学的に活性な薬品ではなく、単に有機溶媒を塗布して、セルロースエステルフィルムの表面を溶解または膨潤させ、平面性を向上させるなどといった操作も含まれる。
又、本発明にセルロースエステルフィルムにおいて、セルロースエステルの種類・或いは添加剤の種類は含有量の異なる層を共押出しして、積層構造を有するセルロースエステルフィルムとしても良い。
例えば、スキン層/コア層/スキン層といった構成のセルロースエステルフィルムを作ることが出来る。例えば、マット剤等の微粒子は、スキン層に多く、またはスキン層のみに入れることが出来る。また、スキン層には、けん化が容易なジアセチルセルロースによる溶融押出し層を形成しても良い。ジアセチルセルロースの溶融押出しは、公知の方法に従って達成することが出来る。また、スキン層に低揮発性の可塑剤及び/または紫外線吸収剤を含ませ、コア層に可塑性に優れた可塑剤、或いは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することも出来る。スキン層とコア層のガラス転移温度が異なっていてもよく、スキン層のガラス転移温度よりコア層のガラス転移温度を低くしてもよい。また、溶融流延時のセルロースエステルを含む溶融物の粘度もスキン層とコア層で異なっていてもよく、スキン層の粘度>コア層の粘度でも、コア層の粘度≧スキン層の粘度でもよいが、薄い方の層(通常スキン層)の粘度が高いほうが、均一な膜厚の積層体を得ることが出来る。
(偏光板)
本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルムとして偏光板に用いる場合は、少なくとも一方の面の偏光板保護フィルムが本発明の光学フィルムであることが好ましく、より好ましくは両面が本発明の光学フィルムである。更に、液晶表示装置に用いる偏光板は、少なくとも液晶セルの一方の面に配置される偏光板が本発明の偏光板であることが好ましく、両面が本発明の偏光板であることがより好ましい。
なお、従来の偏光板保護フィルムとしては、コニカミノルタタックKC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、vKC4UY、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC12UR、KC8UXW−H、KC8UYW−HA、KC8UX−RHA(コニカミノルタオプト(株)製)等のセルロースエステルフィルムを用いることが出来る。
本発明の偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することが出来る。得られた偏光板保護フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全鹸化ポリビニルアルコール水溶液を用いて、偏光子の両面に偏光板保護フィルムを貼り合わせることが出来る。この方法は、少なくとも片面に本発明の偏光板保護フィルムを偏光子に直接貼合できる点で好ましい。
また、上記アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、同6−118232号に記載されているような易接着加工を施して偏光板加工を行ってもよい。
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することが出来る。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、輸送時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは粘着層をカバーする目的で用いられる。
(液晶表示装置)
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明の光学フィルムを適用した偏光板保護フィルムは平面性・リターデーションの均一性が高いため、どの部位に配置しても優れた表示性が得られる。液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには、クリアハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられた偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが好ましい。また光学補償層を設けた偏光板保護フィルムや、延伸操作等によりそれ自身に適切な光学補償能を付与した偏光板保護フィルムの場合には、液晶セルと接する部位に配置することで、優れた表示性が得られる。特にマルチドメイン型の液晶表示装置、より好ましくは複屈折モードによってマルチドメイン型の液晶表示装置に使用することが本発明の効果をより発揮することが出来る。
マルチドメイン化とは、1画素を構成する液晶セルをさらに複数に分割する方式であり、視野角依存性の改善・画像表示の対称性の向上にも適しており、種々の方式が報告されている「置田、山内:液晶,6(3),303(2002)」。該液晶表示セルは、「山田、山原:液晶,7(2),184(2003)」にも示されており、これらに限定される訳ではない。
表示セルの表示品質は、人の観察において左右対称であることが好ましい。従って、表示セルが液晶表示セルである場合、実質的に観察側の対称性を優先してドメインをマルチ化することが出来る。ドメインの分割は、公知の方法を採用することが出来、2分割法、より好ましくは4分割法によって、公知の液晶モードの性質を考慮して決定出来る。
本発明の偏光板は垂直配向モードに代表されるMVA(Multi−domein Vertical Alignment)モード、特に4分割されたMVAモード、電極配置によってマルチドメイン化された公知のPVA(Patterned Vertical Alignment)モード、電極配置とカイラル能を融合したCPA(Continuous Pinwheel Alignment)モードに効果的に用いることが出来る。また、OCB(Optical Compensated Bend)モードへの適合においても光学的に二軸性を有するフィルムの提案が開示されており「T.Miyashita,T.Uchida:J.SID,3(1),29(1995)」、本発明の偏光板によって表示品質において、本発明の効果を発現することも出来る。本発明の偏光板を用いることによって本発明の効果が発現出来れば、液晶モード、偏光板の配置は限定されるものではない。
該液晶表示装置はカラー化及び動画表示用の装置としても高性能であるため、本発明の光学フィルムを用いた液晶表示装置、特に大型の液晶表示装置の表示品質は、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
《セルロースエステルの合成》
〈セルロースエステルA1〉
比較例のセルロースエステルとして特許文献1の8項例Bに記載の方法で合成した。
まず、以下のような混合液A〜Eを作製した。
A:プロピオン酸:濃硫酸=5:3(質量比)
B:酢酸:純水=3:1(質量比)
C:酢酸:純水=1:1(質量比)
D:酢酸:純水:炭酸マグネシウム=12:11:1(質量比)
E:純水14.6kg中に、炭酸カリウム0.5モル、クエン酸1.0モルを溶解した水溶液
機械式撹拌機を備えた反応容器に、綿花から精製したセルロース100質量部、酢酸317質量部、プロピオン酸67質量部を添加し、55℃で30分間攪拌した。反応容器の温度を30℃に低下させた後、溶液Aを2.3質量部添加し、30分間攪拌した。反応容器の温度を−20℃に冷却した後、無水酢酸100質量部及び無水プロピオン酸250質量部を添加し、1時間攪拌した。反応容器の温度を10℃に昇温した後、溶液Aを4.5質量部添加し、60℃に昇温して3時間攪拌した。さらに溶液Bを533質量部添加し、17時間攪拌した。さらに溶液Cを333質量部、溶液Dを730質量部添加し、15分間攪拌した。不溶物を濾過した後、溶液を攪拌しながら、沈殿物の生成が終了するまで水を添加した後、生成した白色沈殿を濾過した。得られた白色固体は、洗浄液が中性になるまで純水で洗浄した。この湿潤生成物に、溶液Eを1.8質量部添加し、次いで真空下70℃で3時間乾燥し、セルロースエステルA1を得た。得られたセルロースエステルの置換度、分子量は後述の測定法に従って実施し、測定結果については表1に記載した。
〈セルロースエステルA2〉
イーストマンケミカル製セルロースアセテートプロピオネート、CAP482−20を使用した。
〈セルロースエステルA3〉
イーストマンケミカル製セルロースアセテートブチレート、CAB171−15を使用した。
〈セルロースエステルA4〉
イーストマンケミカル製セルロースアセテートブチレート、CAB381−20を使用した。
〈セルロースエステルB1〉
Polymers for Advanced Technologies,vol.14(2003),p478を参考にしてセルロースエステルを合成した。
まず、セルロースの活性化を行った。セルロース100質量部に対し、500質量部の純水を加え、一昼夜攪拌後、水を減圧濾過した。得られたスラリーは、400質量部のメタノールに加え、室温で1時間攪拌し、再び減圧濾過を行った。このような操作をさらに2回繰り返した。その後、溶媒をメタノールからジメチルアセトアミドに変更して、同様の操作を3回行い、活性化されたセルロースのスラリー210質量部を得た。
ジメチルアセトアミド1000質量部に対して84質量部の塩化リチウムを加え、80℃に加熱して溶解した後、40℃まで冷却し、活性化したセルロースのスラリーを210質量部添加し、40℃で1時間攪拌を行った。
その後室温まで冷却し、安息香酸を226質量部を添加し、さらにジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を380質量部、ジメチルアミノピリジン130質量部、ジメチルアミノピリジン−トシル酸塩130質量部を室温で加え、DCCが完全に消費されるまで24時間攪拌した。反応終了後、5000質量部の蒸留水を加えて生成した白色沈殿を濾別した。濾別した固形物を純水で数回洗浄した後、メタノールで24時間ソックスレー抽出を行い、最後に70℃で真空乾燥することでセルロースエステルB1を得た。得られたセルロースエステルの置換度、分子量は後述の測定法に従って実施し、測定結果については表1に記載した。
酢酸280モル部=104質量部、安息香酸300モル部=226質量部。
〈セルロースエステルB2〉
安息香酸226質量部を、酢酸48質量部と、安息香酸128質量部に変更した以外は、セルロースエステルB1と同様にして合成を行い、セルロースエステルB2を得た。
〈セルロースエステルB3〉
安息香酸226質量部を、酢酸78質量部と、安息香酸68質量部に変更した以外は、セルロースエステルB1と同様にして合成を行い、セルロースエステルB3を得た。
〈セルロースエステルB4〉
安息香酸226質量部を、酢酸93質量部と、安息香酸38質量部に変更した以外は、セルロースエステルB1と同様にして合成を行い、セルロースエステルB4を得た。
〈セルロースエステルB5〉
安息香酸226質量部を、酢酸104質量部と、安息香酸15質量部に変更した以外は、セルロースエステルB1と同様にして合成を行い、セルロースエステルB5を得た。
〈セルロースエステルC1〉
酢酸78質量部を酢酸63質量部に、DCC380質量部を315質量部に変更した以外は、セルロースエステルB3と同様にして合成を行い、セルロースエステルC1を得た。
〈セルロースエステルC2〉
酢酸78質量部を酢酸70質量部に、DCC380質量部を340質量部に変更した以外は、セルロースエステルB3と同様にして合成を行い、セルロースエステルC2を得た。
〈セルロースエステルC3〉
酢酸78質量部を酢酸89質量部に、DCC380質量部を420質量部に変更した以外は、セルロースエステルB3と同様にして合成を行い、セルロースエステルC3を得た。
〈セルロースエステルC4〉
酢酸78質量部を酢酸96質量部に、DCC380質量部を450質量部に変更した以外は、セルロースエステルB3と同様にして合成を行い、セルロースエステルC4を得た。
〈セルロースエステルD1〉
安息香酸68質量部を、トルイル酸76質量部に変更した以外は、セルロースエステルB3と同様にして合成を行い、セルロースエステルD1を得た。
〈セルロースエステルD2〉
安息香酸68質量部を、アニス酸85質量部に変更した以外は、セルロースエステルB3と同様にして合成を行い、セルロースエステルD2を得た。
〈セルロースエステルD3〉
安息香酸68質量部を、フェニル酢酸76質量部に変更した以外は、セルロースエステルB3と同様にして合成を行い、セルロースエステルD3を得た。
〈セルロースエステルD4〉
安息香酸68質量部を、アセチルサリチル酸100質量部に変更した以外は、セルロースエステルB3と同様にして合成を行い、セルロースエステルD4を得た。
〈セルロースエステルD5〉
安息香酸68質量部を、トリアセチル没食子酸165質量部に変更した以外は、セルロースエステルB3と同様にして合成を行い、セルロースエステルD5を得た。なお、トリアセチル没食子酸は、以下のように合成した。
〈トリアセチル没食子酸〉
没食子酸1水和物を100質量部に対し、アセトニトリルを200質量部、ピリジンを170質量部を添加したのちに反応容器を氷冷し、攪拌しながら無水酢酸を200質量部を滴下し、滴下終了後、反応容器を60℃まで昇温させ、4時間反応を行った。反応終了後に再び反応容器を氷冷し、氷冷しながら純水を400質量部、次いで1N塩酸を100質量部添加し、10分間攪拌を行った。酢酸エチルを400質量部添加し、攪拌した後に静置し、有機相を抽出した。抽出した有機相は、2%炭酸水素ナトリウム水溶液400質量部で2回、純水で3回洗浄し、酢酸エチルを留去した。
得られた白色結晶は、酢酸エチルで再結晶を行い、200質量部(収率64%)の白色結晶を得た。
〈セルロースエステルの分子量測定〉
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定出来るので、これを用いて溶融製膜前後の重量平均分子量(Mw)を算出することが出来る。
測定条件は以下の通りである。
溶媒: 塩化メチレン
カラム: Shodex K806,K805,K803(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
〈セルロースエステルの置換度測定〉
ASTM D817−96に基づき、下記のようにして酢酸による置換度X、酢酸以外の酸による置換度Yを求めた。
乾燥したセルロースエステル1.90gを精秤し、アセトン70mlとジメチルスルホキシド30mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。攪拌しながら1モル/L水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水100mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示約として0.5モル/L硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行なった。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、常法により有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
TA=(B−A)×F/(1000×W)
X=(162.14×TA)/{1−42.14×TA+(1−SA×TA)×(Y/X)}
Y=X×(Y/X)
DS=X+Y
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:0.5モル/L硫酸の力価
W:試料質量(g)
TA:全有機酸量(mol/g)
Y/X:イオンクロマトグラフで測定した酢酸と酢酸以外の酸とのモル比
X:酢酸による置換度
Y:酢酸以外の酸による置換度
SA:酢酸以外の酸が、セルロースエステルの水酸基を置換した際に増加する分子量であり、酢酸以外の酸の分子量から水の分子量(18.02)を減じた値。例えば安息香酸のとき104.10、アセチルサリチル酸のとき162.14。
〈製膜方法〉
合成例で用意したセルロースエステル(A1〜A4、B1〜B5、C1〜C4、D1〜D5)を86.3質量部と、可塑剤を13.0質量部と、紫外線吸収剤を0.7質量部とを粉体のまま混合後、2軸押し出し機へフィードした。スクリュ回転数は100rpmとし、バレル内の温度(溶融温度)は透明なフィルムが得られる最も低い温度を選択し、その温度は表1に記載した。溶融し、流動化したセルロースエステル組成物は、130℃に保持された冷却ドラム上にキャスティングされた後、流れ方向(MD)に25%、幅手方向(TD)に25%延伸を行い(最終延伸倍率は1.56倍)、フィルムの膜厚は40μmとなるように製膜し、セルロースエステルフィルムA1〜A4、B1〜B5、C1〜C4、D1〜D5を作製した。
なお、使用した各種添加剤及びその1%質量減少温度(Td1.0)を下記に示した。1%質量減少温度(Td1.0)については、セイコーインスツルメンツ製示差熱熱質量同時測定装置、EXSTAR6000TG/DTAによって昇温速度10℃毎分、乾燥空気(露点−30℃)下で測定した。
・多価アルコールエステル系可塑剤:アルドリッチ製ペンタエリスリトールテトラベンゾエート(320℃)、表中では、「PETB」と略す。
・トリアジン系紫外線吸収剤:チバスペシャルティケミカルズ製CGL777(294℃)
なお上記化合物中、CGL777は、市販の状態では20%の溶媒を含有しているため、減圧下120℃で溶媒を留去した後に使用した。
上記の処方に基づいて得られた光学フィルムA1〜A4、B1〜B5、C1〜C4、D1〜D5について下記の評価を行い、その結果についても表1に記載した。
〈製膜前後の分子量の測定〉
溶融製膜前の、原料セルロースエステルの重量平均分子量と、溶融製膜によってえられた光学フィルムの重量平均分子量を、GPCによって分子量を測定した。
〈耐湿熱性の評価〉
フィルム試料を幅手方向50mm×長手方向150mmのサイズに断裁し、23℃55%RHの環境室に24時間保管した後、長方形のサンプルの短軸方向の辺に10gの重りをぶら下げて、80℃90%RHの環境室に48時間保管した後、再び23℃55%RHの環境室に24時間保管して調湿したのち、フィルムの変形量を評価した。
◎:環境室から出した後の長軸方向の長さの変化が1%以下
○:環境室から出した後の長軸方向の長さの変化が3%以下
△:環境室から出した後の長軸方向の長さの変化が10%以下
×:環境室から出した後の長軸方向の長さの変化が10%以上
〈保留性の評価〉
フィルム試料を幅手方向50mm×長手方向150mmのサイズに断裁し、23℃55%RHの環境室に24時間保管した後、長方形のサンプルを80℃90%RHの環境室に保管した。48時間、300時間の時点での、フィルムの表面を観察し、以下の基準に従ってブリードアウト性を評価した。
◎:300時間後でもフィルム表面に粉体が発生していない
○:48時間後でもフィルム表面に粉体が発生していない
△:48時間後に、フィルム表面に若干の粉体がみられる
×:48時間後に、フィルム表面に多量の粉体が見られる
〈黄色度の測定〉
延伸前の各透明フィルムの黄色度を、23℃55%RH環境下で日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−3310を用いて、得られたセルロースエステルフィルムの吸収スペクトルを測定し、三刺激値X、Y、Zを算出した。この三刺激値X、Y、Zから、JIS−K7103に基づいて黄色度YIを算出した。
〈平面性の評価〉
上記の延伸操作によって作製したフィルム表面の平面性(ユラギ)を、蛍光灯の反射度合いで評価した。
◎:蛍光灯がまっすぐに写り、細かい凹凸がほとんどみられない
○:蛍光灯がまっすぐに写り、ごく僅かに細かい凹凸がみられる
△:蛍光灯が僅かにゆがんで写る
×:蛍光灯がかなりゆがんで写る、または評価出来る延伸フィルムが得られなかった
〈ケン化性の評価〉
5cm×10cmに切断したフィルム試料を用意し、各温度の2N−KOHに90秒浸漬し、流水で90秒洗浄後、1昼夜乾燥したセルロースエステルフィルムの純水に対する接触角を測定し、接触角が40°以下となる温度によって、下記の5段階で評価した。なお接触角は、FACE社製自動・動的接触角計DCA−VZ型を用いて測定し、水滴を落とした3秒後の接触角で評価した。
◎:50℃の2N−KOHに90秒浸漬することでケン化出来た
○:70℃の2N−KOHに90秒浸漬することでケン化出来た
△:90℃の2N−KOHに90秒浸漬することでケン化出来た
×:90℃の2N−KOHに90秒浸漬してもケン化出来なかった、或いはケン化によってフィルムが白濁した
〈透湿度の測定〉
JIS−Z−0208に記載の条件B(40℃、90%RH)で測定した。
〈複屈折値Ro、Rthの測定〉
23℃55%RH環境下で王子計測機器(株)製自動複屈折計KOBRA−21ADHを用いて測定し、上記2軸延伸が終わった後の各透明フィルムの面内複屈折Ro、膜厚方向の複屈折Rtを測定した。
表1において、公知のセルロースエステルを用いた比較のフィルムA1、A3では、保留性が低く、13質量%といった高添加量の可塑剤をセルロースエステルフィルムに添加出来ないセルロースエステルであることがわかる。また、溶融製膜中に分解が発生し、黄色度が高くなり好ましくない。また、40μmのような薄膜では透湿度が大きく、好ましくない。
一方、公知のセルロースエステルを用いた比較のフィルムA2、A4では、可塑剤の保留性は比較的高く、フィルムの平面性も比較的良好であるものの、耐湿熱性が低いため好ましくない。
このように、公知のセルロースエステルからなるフィルムでは、溶融製膜性と、得られるフィルムの物性の両立が困難である。
一方、本発明のフィルムB2〜B4では、可塑剤13%といった高添加量でも保留性が十分であり、平面性も高く、透湿度も低いため、溶融製膜によって物性も十分であるフィルムが得られていることがわかる。
なお、芳香族カルボン酸の置換度として本発明の範囲以上の置換度を有するフィルムであるB1では、フィルムのケン化性が低下し、また複屈折量が高くなりすぎるために好ましくない。なお、セルロースエステルフィルムA1〜A4に比べてB1〜B5のセルロースエステルフィルムの複屈折値は大きいが、フィルムB2程度の複屈折量のものでは、1枚でVA型液晶セルの複屈折量を補償出来る程度の複屈折値であり、位相差フィルムとして有用である。フィルムB3程度の複屈折値では、VA型液晶セルの両側に2枚用いる位相差フィルムとして有用である。フィルムB4程度の複屈折値は、通常の偏光板保護フィルムに近い複屈折値であり、偏光板保護フィルムとして好ましい。なお、比較例のセルロースエステルフィルムB5では、溶融製膜温度が高くなり、溶融製膜中にセルロースエステルが劣化し、着色や分子量低下を起こすために好ましくないフィルムであった。
また、セルロースエステルの総置換度を変化させたセルロースエステルフィルムC1〜C4の結果からわかるように、総置換度が2.4から2.8の範囲とすることで、溶融製膜時の温度を抑制出来、セルロースエステルが溶融製膜中に劣化して着色等が起こることを防げるため、総置換度としては2.4から2.8の範囲が好ましいことがわかる。
さらに、他の芳香族カルボン酸を用いたセルロースエステルでも、本発明の範囲の置換度を有するセルロースエステルでは、溶融製膜性と得られるフィルムの物性が両立され、好ましいセルロースエステルフィルムであることがわかる。
これらの中でも、アセトキシ置換基を有する芳香族カルボン酸を用いたセルロースエステルフィルムであるD4、D5では、ケン化性も良好となり、さらに好ましいセルロースエステルフィルムであることがわかる。
実施例2
溶融製膜に用いるセルロースエステルをセルロースエステルB3(酢酸による置換度1.9、安息香酸による置換度0.7、製膜前分子量239000)に固定し、可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤種、添加量を変化させて溶融製膜を行った。溶融条件はバレル温度240℃、スクリュ回転数100rpmであり、添加剤の種類は表2に記載した。表2中の略号は、以下の化合物を表す。尚、比較例はセルロースエステルA1を用いた。
また、酸化防止剤、酸捕捉剤はいずれも1.0質量%添加した。
・I1010:チバスペシャルティケミカルズ社製イルガノックス1010、ヒンダードフェノール系酸化防止剤
・T144:チバスペシャルティケミカルズ社製チヌビン144、ヒンダードフェノール−ヒンダードアミン複合型酸化防止剤
・V7190:アトフィナ社製 バイコフレックス7190、エポキシ系酸捕捉剤
・T360:チバスペシャルティケミカルズ製 チヌビン360、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤
・LA−51:旭電化社製 5,5′−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4メトキシベンゾフェノン)、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤
・Di−TPP:以下に記載する合成例によって合成した、リン酸エステル系可塑剤
〈リン酸エステル系可塑剤Di−TPPの合成〉
前記特許文献1の8頁例Aを参考に、合成を行った。
窒素下でヒドロキノン32.7gをピリジン500ml中に溶解した後、5℃に冷却した。この溶液に対し、ジフェニルクロロホスフェートを200g添加し、滴下終了後、反応容器を室温まで暖め、一昼夜保持した。この溶液を水200mlと混合した後、この溶液を水3Lの容器に投入し、白色沈殿を得た。白色沈殿を濾取した後、メタノールで再結晶を行い、白色個体を得た。収率は90%であり、融点は107℃であった。
得られたルロースエステルフィルムE1〜E5、F1〜F5について、実施例1と同様に240℃で溶融製膜し、次いで延伸(MDに25%、TDに25%)した後の分子量、耐湿熱性、黄色度、平面性、保留性の評価を行った。
特許文献1の8頁の表I、例1に記載の構成とほぼ同様の構成である、比較例のセルロースエステルフィルムE1では、保留性に問題があり、偏光板保護フィルムとして用いることが出来ないことがわかる。セルロースエステルを、本発明のセルロースエステルとした、本発明のセルロースエステルフィルムE2では保留性が改善されるが、本発明のセルロースエステルフィルムB3と比較するとフィルムの黄色度が高く、多価アルコールエステル系可塑剤のほうが好ましい可塑剤であることがわかる。
また本発明のセルロースエステルフィルムB3、E3〜E5の比較から明らかなように、可塑剤の添加量が高くなるほど、溶融製膜後のフィルムの平面性が高くなることがわかるが、一方でフィルムの保留性が若干低下するため、より好ましい可塑剤の添加量の範囲としては、8〜13%であることがわかる。
また、溶融製膜フィルムに各種安定化剤を添加したセルロースエステルフィルムF1〜F3では、溶融製膜後の分子量が向上し、好ましいフィルムが得られることがわかる。
なお、紫外線吸収剤を変化させたセルロースエステルフィルムB3、F4,F5を比較すると、偏光子保護に必要な吸収波形を得るために必要な添加量が、トリアジン系可塑剤、ベンゾトリアゾール系可塑剤、ベンゾフェノン系可塑剤の順に多くなり、保留性が低下することがあるため、紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系化合物かトリアジン系化合物、中でもトリアジン系化合物が好ましいことがわかる。
実施例3
実施例2で得られた未延伸のセルロースエステルフィルムF3の組成で、溶融押出し直後の膜厚を160μmに変化させてセルロースエステルフィルムG1〜G5を製膜した。得られた未延伸のフィルムを切り出し、表3に記載された延伸倍率で延伸を行った。得られたフィルムの膜厚、平面性、複屈折値の評価と、下記に記載する延伸性の評価を行った。
〈延伸性の評価〉
10cm×10cmに切断したフィルム試料を10枚用意し、2軸延伸を行った。延伸倍率は下記の表3に記載の倍率で行い、MD延伸、次いでTD延伸の順に2軸延伸を行った。延伸温度は160℃、延伸速度は100%毎分で行った。
このような延伸操作を10枚のフィルムについて行い、破断せずに2軸延伸出来たフィルムの枚数を評価した。
◎:10枚とも延伸出来た
○:8枚以上延伸出来た
△:5枚以上延伸出来た
×:5枚未満しか延伸出来なかった
××:1枚も延伸出来なかった
表3から明らかなように、セルロースエステルフィルムの平面性は、延伸倍率を高めるほどに向上することがわかる。実用上は最終延伸倍率が1.5倍以上であるセルロースエステルであり、好ましくは2.0倍以上であることがわかる。
他方、延伸倍率が4.0倍を超えると、安定した延伸が困難となること、フィルムの複屈折値、特にRthが上昇してくることなどから、延伸倍率としては1.5倍〜3.0倍が好ましいことがわかる。