以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明は、新規な可塑剤、および溶融製膜されたセルロース樹脂であっても、十分な平面性を有し、かつ優れた光学特性、寸法安定性を有するセルロースエステルフィルムを得るものである。
このようなセルロースエステルフィルムを用いることで、高品質の偏光板用保護フィルム、反射防止フィルム、位相差フィルム等の光学フィルムを得ることができ、さらには表示品質の高い液晶表示装置を得ることができる。
本発明者らは鋭意研究の結果、熱溶融法、即ち、環境負荷の大きいハロゲン系溶剤を使用しない溶融流延法にて製膜する方法において光学特性、寸法安定性に優れると共に、平面性が高いセルロースエステルフィルムを得るには、キャスティング時において、セルロースエステル中に含有される可塑剤として、ある特定の化合物を選択することにより、飛躍的に前記得られるセルロースエステルフィルムの平面性が向上することを見いだした。
即ち、溶融したセルロースエステルを冷却ドラムまたは冷却ベルト上にキャスティングする溶融流延法において、本発明に係わる可塑剤を用いることにより、レベリングし易く平面性の高いフィルムが得やすいことを見いだした。
本発明のセルロースエステルフィルムは、可塑剤として、前記一般式(1)で表される有機酸と2価以上の多価アルコールが縮合した構造を有するエステル化合物を、可塑剤として1〜25質量%含有することを特徴とするセルロースエステルフィルムである。1質量%よりも少ないと平面性改善の効果が認められず、25質量%よりも多いとブリードアウトが発生しやすくなり、フィルムの経時安定性が低下するために好ましくない。より好ましくは可塑剤を3〜20質量%含有するセルロースエステルフィルムであり、さらに好ましくは5〜15質量%含有するセルロースエステルフィルムである。
可塑剤とは、一般的には高分子中に添加することによって脆弱性を改良したり、柔軟性を付与したりする効果のある添加剤であるが、本発明においては、セルロースエステル単独での溶融温度よりも溶融温度を低下させるため、また同じ加熱温度においてセルロース樹脂単独よりも可塑剤を含むフィルム構成材料の溶融粘度を低下させるために、可塑剤を添加する。また、セルロースエステルの親水性を改善し、セルロースエステルフィルムの透湿度改善するためにも添加されるため透湿防止剤としての機能を有する。
ここで、フィルム構成材料の溶融温度とは、該材料が加熱され流動性が発現された状態の温度を意味する。セルロースエステルを溶融流動させるためには、少なくともガラス転移温度よりも高い温度に加熱する必要がある。ガラス転移温度以上においては、熱量の吸収により弾性率あるいは粘度が低下し、流動性が発現される。しかしセルロースエステルでは高温下では溶融と同時に熱分解によってセルロースエステルの分子量の低下が発生し、得られるフィルムの力学特性等に悪影響を及ぼすことがあるため、なるべく低い温度でセルロースエステルを溶融させる必要がある。フィルム構成材料の溶融温度を低下させるためには、セルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度をもつ可塑剤を添加することで達成することができる。本発明に用いられる、前記一般式(1)で表される有機酸と多価アルコールが縮合した構造を有する多価アルコールエステル系可塑剤は、セルロースエステルの溶融温度を低下させ、溶融製膜プロセスや製造後にも揮発性が小さく工程適性が良好であり、かつ得られるセルロースエステルフィルムの光学特性・寸法安定性・平面性が良好となる点で優れている。
前記一般式(1)においてRは置換基を表し、これらはさらに置換基を有していて良い。mは0〜5の整数を表す。
Rで表される置換基としては、ハロゲン原子、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい)、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい)、フェノキシ基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい)、アセチル基、プロピオニル基等の炭素数2〜8のアシル基、またアセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等の炭素数2〜8の無置換のカルボニルオキシ基等が挙げられる。
なおmが2以上である場合には複数のRのうちのいずれか同士で互いに連結し、環構造を形成していても良い。
一般式(1)においてRとして好ましくは、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基または無置換であり
より好ましくはアルキル基、アルコシキ基、または無置換であり、さらに好ましくはアルキル基または無置換である。
前記一般式(1)においてAは多価アルコール残基すなわち多価アルコールの水酸基がエステル化された残基を表す。
本発明においてAで表される多価アルコール残基を与える多価アルコール化合物、すなわち、2価以上の多価アルコール化合物としては、好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールであり、本発明おいて2価以上の多価アルコールは下記の一般式(2)で表されるものが好ましい。
一般式(2) R′−(OH)n
式中、R′はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性水酸基を表す。好ましいのは、nとしては2〜4価の多価アルコールであり、より好ましくは3価または4価の多価アルコールである。
なお本発明においては2価以上の多価アルコールの水酸基を置換する有機酸は単一種であっても複数種であってもよい。
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、アドニトール、アラビトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ガラクチトール、グルコース、セロビオース、イノシトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることが出来る。特に、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが好ましい。
一般式(1)で表される有機酸と2価以上の多価アルコールのエステルは、公知の方法により合成できる。以下に代表的合成例を示すが、前記一般式(1)で表される有機酸と、多価アルコールを例えば、酸の存在下縮合させエステル化する方法、また、有機酸を予め酸クロライド或いは酸無水物としておき、多価アルコールと反応させる方法、有機酸のフェニルエステルと多価アルコールを反応させる方法等があり、目的とするエステル化合物により、適宜、収率のよい方法を選択することが好ましい。
この様にして得られる多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、400〜1000であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
以下に、本発明に係わる多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
(一般式(1)で表される化合物の代表的合成例)
化合物例1−11の合成
100℃に保持した45質量部のトリメチロールプロパン、93質量部のピリジンと700質量部のトルエンの混合溶液を攪拌しながら、158質量部のクロロ蟻酸フェニルを1時間掛けて滴下し、さらに1時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却して純水を加えて沈殿物を溶解後、塩酸水、純水で順次洗浄し有機相を分取してトルエンを減圧留去した。留去終了後、エタノール400質量部を加えて加熱溶解後冷却して析出結晶を濾別して133質量部(収率80%)の白色の結晶を得た。なおこの化合物の分子量は495である。
化合物例1−19の合成
100℃に保持した77.3質量部のジトリメチロールプロパンと、122質量部のピリジンと940質量部のトルエンの混合溶液を攪拌しながら、194質量部のクロロ蟻酸フェニルを1時間掛けて滴下し、さらに1時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却して純水を加えて沈殿物を溶解後、塩酸水、純水で順次洗浄し有機相を分取してトルエンを減圧留去した。留去終了後、n−ヘキサン450質量部を加えて加熱溶解後冷却して析出結晶を濾別して158質量部(収率70%)の白色の結晶を得た。なおこの化合物の分子量は731である。
化合物例1−29の合成
34質量部のペンタエリスリトールと、101質量部のトリエチルアミンと、2000質量部の酢酸エチルの溶液に対し、157質量部のクロロ蟻酸フェニルを室温下で30分かけて滴下し、そのまま1時間攪拌を続けた。生成した白色沈殿をろ過した後、純水を加えて洗浄し、有機相を分取したのち有機溶媒を減圧留去して116質量部(収率75%)の白色結晶を得た。なおこの化合物の分子量は617である。
その他の、開示した一般式(1)で表される化合物も上記と同様に合成した。
本発明で用いられるセルロースエステルフィルムは、少なくとも前記本発明に係わる一般式(1)で表される有機酸および2価以上の多価アルコールから製造されるエステル化合物を可塑剤として1〜25質量%含有するが、それ以外の可塑剤と併用してもよい。
本発明に係わる前記一般式(1)で表される有機酸と2価以上の多価アルコールからなるエステル化合物は、セルロースエステルに対する相溶性が高く、高添加率で添加することができる特徴があるため、他の可塑剤や添加剤を併用してもブリードアウトを発生することがなく、必要に応じて他種の可塑剤や添加剤を容易に併用することができる。
なお他の可塑剤を併用する際には、本発明の可塑剤が、可塑剤全体の少なくとも50質量%以上含有されることが好ましい。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上含有される。このような範囲で用いれば、他の可塑剤との併用によっても、溶融流延時のセルロールエステルフィルムの平面性を向上させることが出来るという、一定の効果を得ることができる。
併用するその他の可塑剤としては、脂肪族カルボン酸−多価アルコール系可塑剤、特開2003−12823公報段落30〜33に記載されているような、無置換の芳香族カルボン酸またはシクロアルキルカルボン酸−多価アルコールエステル系可塑剤、あるいはジオクチルアジペート、ジシクロヘキシルアジペート、ジフェニルサクシネート、ジ2−ナフチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、トリシクロヘキシルトリカルバレート、テトラ3−メチルフェニルテトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボキシレート、テトラブチル−1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボキシレート、トリフェニル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート、トリフェニルベンゼン−1,3,5−テトラカルボキシレート、フタル酸系可塑剤(例えばジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等)、クエン酸系可塑剤(クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等)等の多価カルボン酸エステル系可塑剤、トリフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、ブチレンビス(ジエチルホスフェート)、エチレンビス(ジフェニルホスフェート)、フェニレンビス(ジブチルホスフェート)、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)(旭電化製アデカスタブPFR)、フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)(旭電化製アデカスタブFP500)、ビスフェノールAジフェニルホスフェート(旭電化製アデカスタブFP600)等のリン酸エステル系可塑剤、例えば特開2002−22956の段落番号49〜56に記載のポリマーポリエステル等、ポリエーテル系可塑剤等が挙げられる。
しかし前述の通り、リン酸系可塑剤はセルロースエステルの溶融製膜に使用すると着色が発生しやすいため、フタル酸エステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤を使用することが好ましい。
なお本発明のセルロースエステルフィルムは、着色すると光学用途として影響を与えるため、好ましくは黄色度(イエローインデックス、YI)が3.0以下、より好ましくは1.0以下である。黄色度はJIS−K7103に基づいて測定することができる。
(セルロースエステル)
次に、本発明に用いられるセルロースエステルについて、詳述する。
本発明のセルロースエステルフィルムは、溶融流延法により製造される。溶融流延法はフィルム製造時の有機溶媒使用量を、大幅に少なくすることが出来るため、従来の有機溶媒を多量に使用する溶液流延法に比較して、環境適性が大幅に向上したフィルムが得られる。
本発明における溶融流延とは、実質的に溶媒を用いずにセルロースエステルを流動性を示す温度まで加熱溶融しこれを用いて製膜する方法であり、例えば流動性のセルロースエステルをダイスから押し出して製膜する方法である。なお溶融セルロースエステルを調製する過程の一部で溶媒を使用してもよいが、フィルム状に成形を行う溶融製膜プロセスにおいては実質的に溶媒を用いずに成形加工する。
セルロースエステルフィルムを構成するセルロースエステルとしては、溶融製膜可能なセルロースエステルであれば特に限定はされず、例えば芳香族カルボン酸エステルなども用いられるが、光学特性等の得られるフィルムの特性を鑑みると、セルロースの低級脂肪酸エステルを使用するのが好ましい。本発明においてセルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が5以下の脂肪酸を意味し、例えばセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースピバレート等がセルロースの低級脂肪酸エステルの好ましいものとして挙げられる。炭素原子数が6以上の脂肪酸で置換されたセルロースエステルでは、溶融製膜性は良好であるものの、得られるセルロースエステルフィルムの力学特性が低く、実質的にセルロースエステルフィルムとして用いることが難しいためである。力学特性と溶融製膜性の双方を両立させるために、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレート等のように混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
なお溶液流延製膜で一般に用いられているセルロースエステルであるトリアセチルセルロースについては、溶融温度よりも分解温度の方が高いセルロースエステルであるため、溶融製膜には用いることはできない。
したがって、最も好ましいセルロースの低級脂肪酸エステルは炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、酢酸による置換度、即ちアセチル基の置換度をXとし、炭素数3〜5の有機酸による置換度、即ち、特に炭素数3〜5の脂肪族有機酸から導かれるアシル基、例えば、プロピオニル基またはブチリル基等のアシル基による置換度をYとした時、下記式(2)、(3)を満たすセルロースエステルが好ましい。
式(2) 2.5≦X+Y≦2.9
式(3) 0.1≦Y≦2.0
この中でも、特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも1.0≦X≦2.5であり、0.5≦Y≦1.5であるセルロースエステルを用いることが好ましい。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらは公知の方法で合成することが出来る。
本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.0〜5.5のものが用いられ、特に好ましくは1.4〜5.0であり、更に好ましくは2.0〜3.0である。また、Mwは10万〜50万、中でも20万〜40万のものが好ましく用いられる。
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で測定することが出来る。これを用いて数平均分子量、重量平均分子量を算出する。
測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔にすることが好ましい。
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することが出来る。
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることが出来る。
セルロースエステルは、例えば、原料セルロースの水酸基を無水酢酸、無水プロピオン酸及び/または無水酪酸を用いて常法によりアセチル基、プロピオニル基及び/またはブチル基を上記の範囲内に置換することで得られる。このようなセルロースエステルの合成方法は、特に限定はないが、例えば、特開平10−45804号あるいは特表平6−501040号に記載の方法を参考にして合成することができる。
アセチル基、プロピオニル基、ブチル基等のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に準じて測定することができる。
また、その他(酢酸等)残留酸を含めたトータル残留酸量は1000ppm以下が好ましい。
また、工業的にはセルロースエステルは硫酸を触媒として合成されているが、この硫酸は完全には除去されておらず、残留する硫酸が溶融製膜時に各種の分解反応を引き起こし、得られるセルロースエステルフィルムの品質に影響を与えるため、本発明に用いられるセルロースエステル中の残留硫酸含有量は、硫黄元素換算で0.1〜40ppmの範囲である。これらは塩の形で含有していると考えられる。残留硫酸含有量が40ppmを超えると熱溶融時のダイリップ部の付着物が増加するため好ましくない。また、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際に破断しやすくなるため好ましくない。少ない方が好ましいが、0.1未満とするにはセルロース樹脂の洗浄工程の負担が大きくなりすぎるため好ましくないだけでなく、逆に破断しやすくなることがあり好ましくない。これは洗浄回数が増えることが樹脂に影響を与えているのかもしれないがよく分かっていない。さらに0.1〜30ppmの範囲が好ましい。残留硫酸含有量は、同様にASTM−D817−96により測定することができる。
合成したセルロースエステルの洗浄を、溶液流延法に用いられる場合に比べてさらに十分に行うことによって、残留硫酸含有量を上記の範囲とすることができ、溶融流延法によってフィルムを製造する際に、リップ部への付着が軽減され、平面性に優れるフィルムが得られ、寸法変化、機械強度、透明性、耐透湿性、後述するRt値、Ro値が良好なフィルムを得ることができる。
また、セルロース樹脂の極限粘度は、1.5〜1.75が好ましく、さらに1.53〜1.63の範囲が好ましい。
また、本発明で用いられるセルロースエステルはフィルムにした時の輝点異物が少ないものであることが好ましい。輝点異物とは、2枚の偏光板を直交に配置し(クロスニコル)、この間にセルロースエステルフィルムを配置して、一方の面から光源の光を当てて、もう一方の面からセルロースエステルフィルムを観察した時に、光源の光が漏れて見える点のことである。このとき評価に用いる偏光板は輝点異物がない保護フィルムで構成されたものであることが望ましく、偏光子の保護にガラス板を使用したものが好ましく用いられる。輝点異物はセルロースエステルに含まれる未酢化若しくは低酢化度のセルロースがその原因の1つと考えられ、輝点異物の少ないセルロースエステルを用いる(置換度の分散の小さいセルロースエステルを用いる)ことと、溶融したセルロースエステルを濾過すること、あるいはセルロースエステルの合成後期の過程や沈殿物を得る過程の少なくともいずれかにおいて、一度溶液状態として同様に濾過工程を経由して輝点異物を除去することもできる。溶融樹脂は粘度が高いため、後者の方法のほうが効率がよい。
フィルム膜厚が薄くなるほど単位面積当たりの輝点異物数は少なくなり、フィルムに含まれるセルロースエステルの含有量が少なくなるほど輝点異物は少なくなる傾向があるが、輝点異物は、輝点の直径0.01mm以上が200個/cm2以下であることが好ましく、更に100個/cm2以下であることが好ましく、50個/cm2以下であることが好ましく、30個/cm2以下であることが好ましく、10個/cm2以下であることが好ましいが、皆無であることが最も好ましい。また、0.005〜0.01mm以下の輝点についても200個/cm2以下であることが好ましく、更に100個/cm2以下であることが好ましく、50個/cm2以下であることが好ましく、30個/cm2以下であることが好ましく、10個/cm2以下であることが好ましいが、皆無であることが最も好ましい。
輝点異物を溶融濾過によって除去する場合、セルロースエステルを単独で溶融させたものを濾過するよりも可塑剤、劣化防止剤、酸化防止剤等を添加混合した組成物を濾過することが輝点異物の除去効率が高く好ましい。もちろん、セルロースエステルの合成の際に溶媒に溶解させて濾過により低減させてもよい。紫外線吸収剤、その他の添加物も適宜混合したものを濾過することが出来る。濾過はセルロースエステルを含む溶融物の粘度が3000Pa・s以下で濾過されるこが好ましく、更に好ましくは2000Pa・s以下が好ましく、1000Pa・s以下であることが更に好ましく、500Pa・s以下であることが更に好ましい。濾材としては、ガラス繊維、セルロース繊維、濾紙、四フッ化エチレン樹脂などの弗素樹脂等の従来公知のものが好ましく用いられるが、特にセラミックス、金属等が好ましく用いられる。絶対濾過精度としては50μm以下のものが好ましく用いられ、30μm以下のものが更に好ましく、10μm以下のものが更に好ましく、5μm以下のものが更に好ましく用いられる。これらは適宜組み合わせて使用することも出来る。濾材はサーフェースタイプでもデプスタイプでも用いることが出来るが、デプスタイプの方が比較的目詰まりしにくく好ましく用いられる。
別の実施態様では、原料のセルロースエステルは少なくとも一度溶媒に溶解させた後、溶媒を乾燥させたセルロースエステルを用いても良い。その際には可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、酸化防止剤及びマット剤の少なくとも1つ以上と共に溶媒に溶解させた後、乾燥させたセルロースエステルを用いる。溶媒としては、メチレンクロライド、酢酸メチル、ジオキソラン等の溶液流延法で用いられる良溶媒を用いることができ、同時にメタノール、エタノール、ブタノール等の貧溶媒を用いてもよい。溶解の過程で−20℃以下に冷却したり、80℃以上に加熱したりしても良い。このようなセルロースエステルを用いると、溶融状態にした時の各添加物を均一にしやすく、光学特性を均一にできることがある。
本発明のセルロースエステルフィルムはセルロースエステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにした時の透過率が80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上であることが好ましい。
(その他の添加剤)
本発明のセルロースエステルフィルムには、セルロースエステルと可塑剤の他に、安定化剤、滑り剤、マット剤、フィラー、無機高分子、有機高分子、染料、顔料、蛍光体、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、二色性色素、屈折率調整剤、リターデーション制御剤、ガス透過抑制剤、抗菌剤、導電性付与剤、生分解性付与剤、ゲル化防止剤、粘度調整剤等の各種の機能を有する添加剤を所望により添加しても良い。
本発明のセルロースエステルは200〜250℃といった高温下で溶融して製膜されるため、従来の溶液留延製膜に比べてセルロースエステルの分解・劣化が起きやすいプロセスであるため、上記の添加剤の中でも安定化剤をフィルム形成材料中に添加されることが好ましい。
安定化剤としては、例えば、酸化防止剤、酸捕捉剤、ヒンダードアミン光安定剤、紫外線吸収剤、過酸化物分解剤、ラジカル捕捉剤、金属不活性化剤、などが挙げられるが、これらに限定されない。これらは、特開平3−199201号公報、特開平5−1907073号公報、特開平5−194789号公報、特開平5−271471号公報、特開平6−107854号公報などに記載がある。これらの中から選ばれる少なくとも1種を、フィルム形成材料中に含むことが好ましい。
また、偏光子保護フィルム、位相差フィルム等として本発明のセルロースエステルフィルムを用いる場合、偏光子が紫外線に対して弱いため、少なくとも偏光子に対して光が入射する側のセルロースエステルフィルムには紫外線吸収剤を含有していることが好ましい。
また、本発明のセルロースエステルフィルムを位相差フィルムとして用いる場合には、リターデーションを調節するための添加剤を含有させることができる。リターデーションを調節するために添加する化合物は、欧州特許911,656A2号明細書に記載されているようなリターデーション制御剤を使用することもできる。
また、加熱溶融時の粘度制御やフィルム加工後のフィルム物性を調整するために、有機高分子または無機高分子をセルロースエステルフィルムに添加することもできる。
セルロースエステル樹脂にこれらの添加剤を添加する際は、それらを含めた総量が、セルロース樹脂の質量に対して1〜30質量%であることが好ましい。1質量%以下では溶融製膜性が低下し、30質量%以上では得られるセルロースエステルフィルムの力学特性や保存安定性などが確保できなくなることがあるためである。
(酸化防止剤)
セルロースエステルは、溶融製膜が行われるような高温環境下では熱だけでなく酸素によっても分解が促進されるため、本発明のセルロースエステルフィルムにおいては安定化剤として酸化防止剤を含有することが好ましい。
本発明において有用な酸化防止剤としては、酸素による溶融成形材料の劣化を抑制する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも有用な酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、耐熱加工安定剤、酸素スカベンジャー等が挙げられ、これらの中でも、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、が好ましい。
これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、溶融成型時の熱や熱酸化劣化等による成形体の着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤化合物は既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,839,405号明細書の第12〜14欄に記載されており、2,6−ジアルキルフェノール誘導体化合物が含まれる。このような化合物のうち好ましい化合物として、下記一般式(3)で表される化合物が含まれる。
式中、R21、R22及びR23は、さらに置換されているかまたは置換されていないアルキル置換基を表す。ヒンダードフェノール化合物の具体例には、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−アセテート、n−オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオ−ドデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシルβ(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミドN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−l−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリトリトール−テトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタン−トリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオール−ビス[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトール−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)が含まれる。上記タイプのヒンダードフェノール化合物は、例えば、Ciba Specialty Chemicalsから、”Irganox1076”及び”Irganox1010”という商品名で市販されている。
リン系酸化防止剤化合物は既知の化合物であり、例えば、特開2002−138188号明細書の一般式(1)で表される化合物が好ましい。また、市販品として、スミライザーGP(住友化学工業社製)が挙げられる。
酸化防止剤は0.1〜10質量%添加することが好ましく、さらに0.2〜5質量%添加することが好ましく、さらに0.5〜2質量%添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
(酸捕捉剤)
セルロースエステルは溶融製膜が行われるような高温環境下では酸によっても分解が促進されるため、本発明のセルロースエステルフィルムにおいては安定化剤として酸捕捉剤を含有することが好ましい。本発明において有用な酸捕捉剤としては、酸と反応して酸を不活性化する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも米国特許第4,137,201号明細書に記載されているような、エポキシ基を有する化合物が好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシドなどの縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテルなど、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22この炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)など)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリドなど(例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油など)の組成物によって代表され例示され得るエポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらはときとしてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している)が含まれる。また、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物として、EPON 815C、及び下記一般式(4)の他のエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物も好ましく用いることができる。
式中、n1は0〜12の整数である。用いることができるその他の酸捕捉剤としては、特開平5−194788号公報の段落87〜105に記載されているものが含まれる。酸捕捉剤は0.1〜10質量%添加することが好ましく、さらに0.2〜5質量%添加することが好ましく、さらに0.5〜2質量%添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
なお酸捕捉剤は酸掃去剤、酸捕獲剤、酸キャッチャー等と称されることもあるが、本発明においてはこれらの呼称による差異なく用いることができる。
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤は、偏光子や表示装置の紫外線に対する劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。本発明に用いられる紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、トリアジン系化合物等を挙げることができるが、ベンゾフェノン系化合物や着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号、同8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号、特開2003−113317号公報記載の高分子紫外線吸収剤を用いてもよい。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)234、チヌビン(TINUVIN)360(いずれもチバ−スペシャルティ−ケミカルズ社製)、LA31(旭電化社製)が挙げられる。
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本発明においては、紫外線吸収剤は0.1〜5質量%添加することが好ましく、さらに0.2〜3質量%添加することが好ましく、さらに0.5〜2質量%添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
またこれらのベンゾトリアゾール構造やベンゾフェノン構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にポリマーへペンダントされていても良く、可塑剤、酸化防止剤、酸掃去剤等の他の添加剤の分子構造の一部に導入されていても良い。
(ヒンダードアミン化合物)
上記の酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤以外に、熱および光によってセルロースエステルが分解されることを抑制しうる添加剤として、ヒンダードアミン化合物が挙げられ、必要に応じてセルロースエステルフィルム中に添加しても良い。
本発明に用いられるヒンダードアミン化合物(HALS)としては、例えば、米国特許第4,619,956号明細書の第5〜11欄及び米国特許第4,839,405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含まれる。このような化合物には、下記一般式(5)で表される化合物が含まれる。
式中、R31及びR32は、Hまたは置換基である。ヒンダードアミン化合物の具体例には、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−アリル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(4−t−ブチル−2−ブテニル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−エチル−4−サリチロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル−β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1−ベンジル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルマレイネート(maleinate)、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アジペート、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1−アリル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−4−イル)−フタレート、1−アセチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、トリメリト酸−トリ−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)エステル、1−アクリロイル−4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ジブチル−マロン酸−ジ−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジベンジル−マロン酸−ジ−(1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジメチル−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オキシ)−シラン,トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフィット、トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフェート,N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアミン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアセトアミド、1−アセチル−4−(N−シクロヘキシルアセトアミド)−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン、4−ベンジルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジブチル−アジパミド、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジシクロヘキシル−(2−ヒドロキシプロピレン)、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−p−キシリレン−ジアミン、4−(ビス−2−ヒドロキシエチル)−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリルアミド−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、α−シアノ−β−メチル−β−[N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)]−アミノ−アクリル酸メチルエステル。好ましいヒンダードアミン化合物の例には、以下のHALS−1及びHALS−2が含まれるがこれのみに限定されない。
上記化合物は、少なくとも1種以上含有させることが好ましく、セルロースエステル樹脂の質量に対して、含有量は0.01〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量%であり、さらに好ましくは0.2〜2質量%である。
上記化合物の含有量が上記範囲よりも少ないと、セルロースエステル樹脂の熱分解が生じやすく、また上記添加量の範囲よりも多いと樹脂への相溶性の観点から偏光板保護フィルムとしての透明性の低下を引き起こし、またフィルムが脆くなるために好ましくない。
(マット剤)
本発明のセルロースエステルフィルムは、滑り性や光学的、機械的機能を付与するためにマット剤を添加することができる。マット剤としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
マット剤の形状は、球状、棒状、針状、層状、平板状等の形状のものが好ましく用いられる。マット剤としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の金属の酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を挙げることができる。中でも、二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを低くできるので好ましい。これらの微粒子は有機物により表面処理されていることが、フィルムのヘイズを低下できるため好ましい。
表面処理は、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等で行うことが好ましい。微粒子の平均粒径が大きい方が滑り性効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の一次粒子の平均粒径は0.01〜1.0μmの範囲である。好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、さらに好ましくは、7〜14nmである。これらの微粒子は、セルロースエステルフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させるために好ましく用いられる。
二酸化ケイ素の微粒子としては、日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることができ、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。
2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。平均粒径や材質の異なる微粒子、例えば、アエロジル200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
これらのマット剤の添加方法は混練する等によって行うことが好ましい。また、別の形態として予め溶媒に分散したマット剤とセルロースエステル及び/または可塑剤及び/または紫外線吸収剤を混合分散させた後、溶媒を揮発または沈殿させた固形物を得て、これをセルロースエステル溶融物の製造過程で用いることが、マット剤がセルロース樹脂中で均一に分散できる観点から好ましい。
上記マット剤は、フィルムの機械的、電気的、光学的特性改善のために添加することもできる。
なおこれらの微粒子を添加するほど、得られるセルロースエステルフィルムの滑り性は向上するが、添加するほどヘイズが上昇するため、含有量は好ましくは0.001〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.005〜1質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.5質量%である。
なお本発明のセルロースエステルフィルムとしては、ヘイズ値が1.0%を超えると光学用材料として影響を与えるため、好ましくはヘイズ値は1.0%未満、より好ましくは0.5%未満である。ヘイズ値はJIS−K7136に基づいて測定することができる。
(溶融流延法)
本発明のセルロースエステルィルムは溶融流延によって形成される。溶液流延法において用いられる溶媒(例えば塩化メチレン等)を用いずに、加熱溶融する溶融流延による成形法は、さらに詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等に分類できる。これらの中で、機械的強度及び表面精度等に優れる偏光板保護フィルムを得るためには、溶融押し出し法が優れている。得られるセルロースエステルフィルムの物性を鑑みると、溶融温度は120〜280℃の範囲であることが好ましく、200℃〜250℃であることがより好ましい。
即ち、粉体またはペレット状に成形された原料のセルロースエステルを熱風乾燥または真空乾燥した後、フィルム構成材料と共に、加熱し溶融し、その流動性を発現させた後、溶融押し出し、Tダイよりシート状に押し出して、例えば、静電印加法等により冷却ドラム或いはエンドレスベルト等に密着させ、冷却固化させ、未延伸シートを得る。冷却ドラムの温度は90〜150℃に維持されていることが好ましい。
冷却ドラムから剥離され得られたフィルムは、1つまたは複数のロール群及び/または赤外線ヒーター等の加熱装置を介して、再度加熱して長手方向に一段または多段縦延伸後冷却することが好ましい。このとき、本発明のフィルムのガラス転移温度をTgとすると(Tg−30)〜(Tg+100)℃、より好ましくは(Tg−20)〜(Tg+80)℃の範囲内で加熱して搬送方向(長手方向;MD)あるいは幅手方向(TD)に延伸することが好ましい。(Tg−20)〜(Tg+20)℃の温度範囲内で横延伸し次いで熱固定することが好ましい。また延伸工程の後、緩和処理を行うことも好ましい。
セルロースエステルフィルムのTgは、フィルムを構成する材料種及び構成する材料の比率によって制御することができる。本発明の用途においてはフィルムのTgは120℃以上が好ましく、さらに135℃以上が好ましい。これは液晶表示装置に本発明のセルロースエステルフィルムを用いた場合、該フィルムのTgが上記よりも低いと、使用環境の温度やバックライトの熱による影響によって、フィルム内部に固定された分子の配向状態に影響を与え、リターデーション値及びフィルムとしての寸法安定性や形状に大きな変化を与える可能性が高くなる。逆に該フィルムのTgが高過ぎると、フィルム構成材料の分解温度に近づくため製造しにくくなり、フィルム化するときに用いる材料自身の分解によって揮発成分の存在や着色を呈することがある。従って200℃以下、より好ましくは170℃以下が好ましい。このとき、フィルムのTgはJIS K7121に記載の方法などによって求めることができる。
横延伸(幅手方向:TD)する場合、2つ以上に分割された延伸領域で温度差を1〜50℃の範囲で順次昇温しながら横延伸すると幅方向の物性の分布が低減でき好ましい。更に横延伸後、フィルムをその最終横延伸温度以下でTg−40℃以上の範囲に0.01〜5分間保持すると幅方向の物性の分布が更に低減でき好ましい。
熱固定は、その最終横延伸温度より高温で、Tg−20℃以下の温度範囲内で通常0.5〜300秒間熱固定する。この際、2つ以上に分割された領域で温度差を1〜100℃の範囲で順次昇温しながら熱固定することが好ましい。
熱固定されたフィルムは通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、横方向及び/または縦方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。また冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことがフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。尚、冷却速度は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からT2に達するまでの時間をtとした時、(T1−T2)/tで求めた値である。
これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するセルロースエステルにより異なるので、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
セルロースエステルフィルムの好ましい延伸倍率は、長手方向・幅手方向ともに1.01〜3.00倍に延伸されたものである。より好ましくは1.01〜2.50倍、更に好ましくは1.01〜2.00倍に延伸されたものである。これにより、光学的等方性に優れたセルロースエステルフィルムを好ましく得ることと共に、平面性の良好なセルロースエステルフィルムを得ることが出来る。製膜工程のこれらの幅保持或いは横方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
なお、位相差フィルムを得る場合には、長手方向と幅手方向の延伸比率を変化させ、どちらか一方の延伸倍率が他方の延伸倍率よりも大きくなるように延伸することで光学異方性のフィルムを得ることができる。その際の幅手方向と長手方向との延伸倍率比は1.1〜2.0が好ましく、より好ましくは1.2〜1.5である。
本発明のセルロースエステルフィルムを偏光板用保護フィルムとした場合、該保護フィルムの厚さは10〜500μmが好ましい。特に10〜100μmが好ましく、20〜80μmが好ましく、特に好ましくは30〜60μmである。上記領域よりもセルロースエステルフィルムが厚いと、例えば、偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板加工後の偏光板が厚くなり過ぎ、ノート型パソコンやモバイル型電子機器に用いる液晶表示においては、特に薄型軽量の目的には適さない。一方、上記領域よりも薄いと位相差フィルムとしてのリターデーションの発現が困難となり、加えてフィルムの透湿性が高くなり偏光子に対して湿度から保護する能力が低下してしまうために好ましくない。
なお溶液流延法ではフィルムの厚みが増えると乾燥負荷が著しく増加してしまうが、本発明では乾燥工程が不要なため、膜厚が厚いフィルムを生産性よく製造することができる。そのため、必要な位相差の付与や透湿性の低減等の目的に応じてフィルムの厚みを増やすことが今まで以上にやりやすくなるという利点がある。また、膜厚の薄いフィルムであっても、このような厚手のフィルムを延伸することで高い生産性で生産することができると言う効果を有する。
また、セルロースエステルフィルム支持体の膜厚変動は、±3%、さらに±1%、さらに好ましくは±0.1%の範囲とすることが好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムの幅は1〜4mが好ましく、特に1.4〜4mが好ましい。
本発明の前記一般式(1)で表される有機酸の多価アルコールエステル化合物を可塑剤として用いたセルロースエステルフィルムは、平面性に優れた光学フィルムが得られるため、広幅のセルロースエステルフィルムに適用することが出来る。特に幅1.4〜4mのものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.4〜2mである。4mを超えると搬送が困難となる。
巻きの長さとしては500〜5000mが好ましく、1000〜5000mがより好ましい。幅手両端部には膜厚の0〜25%の高さのナーリングを設けて巻き取ることも好ましい。
このような非常に長大なフィルムを安定して生産するためには、流延する材料に揮発性の成分が混入していないことが重要である。溶融流延法による製膜は、溶液流延法とその製膜時の温度が著しく異なり、流延する材料に揮発成分が存在すると製膜時にそれらの添加剤が揮発して製膜装置に付着し、各種の故障を引き起こすため、フィルムや偏光板保護フィルムとしての機能を活用するためのフィルムの平面性及び透明性確保の点から好ましくない。特にダイに付着した場合には、フィルム表面に筋が入る要因となり平面性劣化を誘発することがある。従って、フィルム構成材料を製膜加工する場合、加熱溶融時に揮発成分の発生を回避する観点から、製膜するための溶融温度よりも低い領域に揮発する成分が存在することは好ましくない。
前記揮発成分とは、フィルム構成材料中のいずれかが吸湿した水分、あるいは混入している酸素、窒素等のガス、または材料の購入前または合成時に混入している溶媒や不純物が挙げられ、加熱による蒸発、昇華あるいは分解による揮発が挙げられる。ここでいう溶媒とは溶液流延として樹脂を溶液として調製するための溶媒と異なり、フィルム構成材料中に微量に含まれるものである。従ってフィルム構成材料を選択することは、揮発成分の発生を回避する上で重要である。
本発明において溶融流延に用いるフィルム構成材料は、前記水分や前記溶媒等に代表される揮発成分を、製膜する前に、または加熱時に除去することが好ましい。この除去する方法は、乾燥による方法が適用でき、加熱法、減圧法、加熱減圧法等の方法で行うことができる。乾燥は空気中または不活性ガスとして窒素あるいはアルゴン等の不活性ガスを選択した雰囲気下で行ってもよい。これらの不活性ガスは水や酸素の含有量が低いことが好ましく、実質的に含有しないことが好ましい。これらの公知の乾燥方法を行うとき、フィルム構成材料が分解しない温度領域で行うことがフィルムの品質上好ましい。例えば、前記乾燥工程で除去した後の残存する水分または溶媒は、各々フィルム構成材料の全体に質量に対して3質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以下にすることである。
特にセルロースエステル樹脂の水分は、0.5質量%未満のものが好ましく用いられる。これらの特性値はASTM−D817−96により測定することができる。セルロースエステルは、さらに熱処理することで水分を低減させて0.1〜1000ppmとして用いることが好ましい。
フィルム構成材料は、製膜前に乾燥することにより、揮発成分の発生を削減することができ、樹脂単独、または樹脂とフィルム構成材料の内、樹脂以外の少なくとも1種以上の混合物または相溶物に分割して乾燥することができる。好ましい乾燥温度は80℃以上、かつ乾燥する材料のTgまたは融点以下であることが好ましい。材料同士の融着を回避する観点を含めると、乾燥温度は、より好ましくは100〜(Tg−5)℃、さらに好ましくは110〜(Tg−20)℃である。好ましい乾燥時間は0.5〜24時間、より好ましくは1〜18時間、さらに好ましくは1.5〜12時間である。これらの範囲よりも低いと揮発成分の除去率が低いか、または乾燥に時間がかかり過ぎることがあり、また乾燥する材料にTgが存在するときには、Tgよりも高い乾燥温度に加熱すると、材料が融着して取り扱いが困難になることがある。乾燥は1気圧以下で行うことが好ましく、特に真空〜1/2気圧に減圧しながら行うことが好ましい。乾燥は、樹脂等の材料は適度に撹拌しながら行うことが好ましく、乾燥容器内で下部より乾燥空気もしくは乾燥窒素を送り込みながら乾燥させる流動床方式が、より短時間で必要な乾燥を行うことができるため好ましい。
乾燥工程は2段階以上に分離してもよく、例えば予備乾燥工程による材料の保管と、製膜する直前〜1週間前の間に行う直前乾燥を行った素材を用いて製膜してもよい。
本発明に係るセルロースエステルフィルムの面内リターデーション値(Ro)および厚さ方向のリターデーション値(Rt)は、偏光子保護フィルムとして用いる場合には0≦Ro、Rt≦70nmであることが好ましい。より好ましくは0≦Ro≦30nmかつ0≦Rt≦50nmであリ、より好ましくは0≦Ro≦10nmかつ0≦Rt≦30nmである。位相差フィルムとして用いる場合には、30≦Ro≦100nmかつ70≦Rt≦400nmであリ、より好ましくは35≦Ro≦65nmかつ90≦Rt≦180nmである。また、Rtの変動や分布の幅は±50%未満であることが好ましく、±30%未満であることが好ましく、±20%未満であることが好ましい。更に±15%未満であることが好ましく、±10%未満であることが好ましく、±5%未満であることが好ましく、特に±1%未満であることが好ましい。最も好ましくはRtの変動がないことである。
なおリターデーション値Ro、Rtは以下の式によって求めることが出来る。
Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
ここにおいて、dはフィルムの厚み(nm)、屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈率、遅相軸方向の屈折率ともいう)、ny(フィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率)、nz(厚み方向におけるフィルムの屈折率)である。
尚、リターデーション値(Ro)、(Rt)は自動複屈折率計を用いて測定することが出来る。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmで求めることが出来る。
また、遅相軸はフィルムの幅手方向±1°若しくは長手方向±1°にあることが好ましい。より好ましくは幅手方向または長手方向に対してに±0.7°、更に好ましくは幅手方向または長手方向に対して±0.5°である。
本発明のセルロースエステルフィルムは製膜工程で実質的に溶媒を使用することがないため、製膜後巻き取られたセルロースエステルフィルムに含まれる残留有機溶媒量は安定して0.1質量%未満であり、これによって従来以上に安定した平面性とRtをもつセルロースエステルフィルムを提供することが可能である。特に100m以上の長尺の巻物においても安定した平面性とRtを持つセルロースエステルフィルムを提供することが可能となった。該セルロースエステルフィルムは巻きの長さについては特に制限はなく、1500m、2500m、5000mであっても好ましく用いられる。
残留有機溶媒量は、ヘッドスペースガスクロ法により測定出来る。即ち、既知量のセルロースエステルフィルムを密閉容器内で120℃で20分間加熱し、その密閉容器内の気相に含まれる有機溶媒をガスクロマトグラフにより定量する。この結果から残留有機溶媒量(%)を算出することが出来る。
また、フィルムが水分を含む場合は、更にセルロースエステルフィルムに含まれている水分量(g)を別の方法で求め、前記の加熱処理前後のセルロースエステルフィルムの質量差(g)から水分の質量(g)を差し引いて求めた値により、残留有機溶媒含有量(%)を求めることが出来る。
溶液流延法で作製されたセルロースエステルフィルムの残留有機溶媒量(%)を0.1質量%以下とすることは困難であり、そのためには長い乾燥工程が必要であるが、この方法によれば安いコストで極めて低い残留有機溶媒含有量のセルロースエステルフィルムを得ることが出来、光学フィルムとして優れた特性を持つセルロースエステルフィルムを得ることが出来る。
フィルム構成材料を加熱溶融すると分解反応が著しくなり、この分解反応によって着色や劣化を伴うことがある。また、分解反応によって好ましくない揮発成分の発生が併発することもある。
フィルム構成材料は、材料の変質や吸湿性を回避する目的で、1種以上のペレットとして保存し、これを用いて溶融物を作製することができる。ペレット化は、溶融する際のフィルム構成材料の混合性または相溶性が向上でき、フィルムの光学的な均一性を得ることにも寄与する。セルロース樹脂以外の構成材料を溶融前に該樹脂と均一に混合しておくことは、加熱溶融させる際に均一な溶融性を与えることに寄与できる。
液晶表示装置に本発明のセルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして偏光板を形成し用いる場合、少なくとも一方の面の偏光板が本発明の偏光板であることが好ましく、両面が本発明の偏光板であることがより好ましい。
なお、従来の偏光板保護フィルムとしては、コニカミノルタタックKC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC12UR、KC8UXW−H、KC8UYW−HA、KC8UX−RHA(コニカミノルタオプト(株)製)等のセルロースエステルフィルムが用いられる。
本発明のセルロースエステルフィルムを用いる偏光板においては、表示装置の品質を向上したり各種の機能を付与するために、他の機能性層を配置することも可能である。例えば、帯電防止層、透明導電層、ハードコート層、反射防止層、防汚層、易滑性層、易接着層、防眩層、ガスバリア層等公知の機能性層を塗設してもよい。また、液晶あるいはポリイミド等から形成された光学異方性層を設けることもでき、偏光板保護フィルムとこれらの光学異方性層とを組み合わせて最適な光学補償を行うこともできる。この際、コロナ放電処理、プラズマ処理、薬液処理等の各種表面処理を必要に応じて施すことができる。
又、本発明にセルロースエステルフィルムにおいて、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロースエステル樹脂を含む組成物を共押し出しして、積層構造を有するセルロースエステルフィルムを作製することもできる。例えば、スキン層/コア層/スキン層といった構成のセルロースエステルフィルムを作ることができる。例えば、マット剤等の微粒子は、スキン層に多く、またはスキン層のみに入れることができる。可塑剤、紫外線吸収剤はスキン層よりもコア層に多く入れることができ、コア層のみに入れてもよい。また、コア層とスキン層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えば、スキン層に低揮発性の可塑剤及び/または紫外線吸収剤を含ませ、コア層に可塑性に優れた可塑剤、あるいは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。スキン層とコア層のガラス転移温度が異なっていてもよく、スキン層のガラス転移温度よりコア層のガラス転移温度を低くすることができる。また、溶融流延時のセルロースエステルを含む溶融物の粘度もスキン層とコア層で異なっていてもよく、スキン層の粘度>コア層の粘度でも、コア層の粘度≧スキン層の粘度でもよい。
本発明の長尺状のセルロースエステルフィルムは、溶融流延法によってフィルムを製造するため、溶液流延法と異なり揮発させるための溶媒が存在しないため、寸法変化の少ない点で優れている技術である。本発明は、溶融流延によって製造されたフィルムを、連続的に延伸処理することによって長尺状のフィルムが得られる。
セルロースエステルフィルムの寸法の変動が大きいと、経時で偏光子の光軸が変化して液晶ディスプレイの画質が低下するため、23℃55%RHに24時間放置したフィルムの寸法を基準としたとき、80℃90%RHにおける寸法の変動値が±0.2%未満であることが好ましく、さらに好ましくは±0.1%未満であり、さらに好ましくは±0.05%未満である。
本発明の偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られた偏光板保護フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全鹸化ポリビニルアルコール水溶液を用いて、偏光子の両面に偏光板保護フィルムを貼り合わせることができる。この方法は、少なくとも片面に本発明の偏光板保護フィルムを偏光子に直接貼合できる点で好ましい。
また、上記アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、同6−118232号に記載されているような易接着加工を施して偏光板加工を行ってもよい。
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、輸送時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは粘着層をカバーする目的で用いられる。
(液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムフィルムを含む偏光板で構成された液晶表示装置は、偏光板に用いるセルロースエステルフィルムの平面性が良好なため、高い表示品質を発現させることができる。特にマルチドメイン型の液晶表示装置、より好ましくは複屈折モードによってマルチドメイン型の液晶表示装置に使用することが本発明の効果をより発揮できる。
マルチドメイン化は、画像表示の対称性の向上にも適しており、種々の方式が報告されている「置田、山内:液晶,6(3),303(2002)」。該液晶表示セルは、「山田、山原:液晶,7(2),184(2003)」にも示されているが、これらに限定されない。
本発明の偏光板は垂直配向モードに代表されるMVA(Multi−domein Vertical Alignment)モード、特に4分割されたMVAモード、電極配置によってマルチドメイン化された公知のPVA(Patterned Vertical Alignment)モード、電極配置とカイラル能を融合したCPA(Continuous Pinwheel Alignment)モードに効果的に用いることができる。また、OCB(Optical Compensated Bend)モードへの適合においても光学的に二軸性を有するフィルムの提案が開示されており「T.Miyashita,T.Uchida:J.SID,3(1),29(1995)」、本発明に係わる偏光板によって表示品質において、本発明の効果を発現することもできる。本発明の偏光板を用いることによって本発明の効果が発現できれば、液晶モード、偏光板の配置は限定されるものではない。
液晶表示装置はカラー化及び動画表示用の装置しても応用されつつあり、本発明における表示品質は、コントラストの改善や偏光板の耐性が向上したことにより、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
実施例1〜3に用いるセルロースエステル1と、比較の可塑剤を以下の合成例1〜4にしたがって合成した。
(合成例1)
セルロースエステル1の合成
特表平6−501040号公報の例Bを参考にして合成した。
以下のような混合液A〜Eを作製した。
A:プロピオン酸:濃硫酸=5:3(質量比)
B:酢酸:純水=3:1(質量比)
C:酢酸:純水=1:1(質量比)
D:酢酸:純水:炭酸マグネシウム=12:11:1(質量比)
E:純水14.6kg中に、炭酸カリウム0.5モル、クエン酸1.0モルを溶解した水溶液
機械式撹拌機を備えた反応容器に、綿花から精製したセルロース100質量部、酢酸317質量部、プロピオン酸67質量部を添加し、55℃で30分間攪拌した。反応容器の温度を30℃に低下させた後、溶液Aを2.3質量部添加し、30分間攪拌した。反応容器の温度を−20℃に冷却した後、無水酢酸100質量部および無水プロピオン酸250質量部を添加し、1時間攪拌した。反応容器の温度を10℃に昇温した後、溶液Aを4.5質量部添加し、60℃に昇温して3時間攪拌した。さらに溶液Bを533質量部添加し、17時間攪拌した。さらに溶液Cを333質量部、溶液Dを730質量部添加し、15分間攪拌した。不溶物をろ過した後、溶液を攪拌しながら、沈殿物の生成が終了するまで水を添加した後、生成した白色沈殿をろ過した。得られた白色固体は、洗浄液が中性になるまで純水で洗浄した。この湿潤生成物に、溶液Eを1.8質量部添加し、次いで真空下70℃で3時間乾燥し、セルロースアセテートプロピオネートを得た。
得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度をASTM−D817−96に基づいて算出すると、アセチル基による置換度が1.9、プロピオニル基による置換度が0.7であった。また下記の条件でGPCを測定したところ、重量平均分子量は20万であった。
〔GPC測定条件〕
溶媒: 塩化メチレン
カラム: Shodex K806,K805,K803(昭和電工(株)製を3本接続して使用)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
(合成例2)
トリメチロールプロパントリベンゾエート(TMPTB)の合成
100℃に保持した45質量部のトリメチロールプロパン、101質量部のトリエチルアミンの混合溶液を攪拌しながら、141質量部の塩化ベンゾイルを30分間かけて滴下し、さらに30分間攪拌した。反応終了後室温まで冷却して沈殿物を炉別した後、酢酸エチル・純水を加えて洗浄し、有機相を分取して酢酸エチルを減圧留去し、126質量部(収率85%)の白色の結晶を得た。なおこの化合物の分子量は446である。
(合成例3)
ペンタエリスリトールテトラピバレート(PETP)の合成
特開平11−124445号においてPL2として実施例に用いられている、ペンタエリスリトールテトラピバレートを合成した。
34質量部のペンタエリスリトールと、101質量部のトリエチルアミンと、2000質量部の酢酸エチルの溶液に対し、121質量部の塩化ピバロイルを室温下で30分かけて滴下し、そのまま1時間攪拌を続けた。生成した白色沈殿をろ過した後、純水を加えて洗浄し、有機相を分取したのち有機溶媒を減圧留去して89質量部(収率75%)の白色結晶を得た。なおこの化合物の分子量は473である。
(合成例4)
ソルビトールヘキサベンゾエート(SHB)の合成
100℃に保持した30質量部のソルビトール、101質量部のトリエチルアミンの混合溶液を攪拌しながら、71質量部の塩化ベンゾイルを30分間かけて滴下し、さらに30分間攪拌した。反応終了後室温まで冷却して沈殿物を炉別した後、酢酸エチル・純水を加えて洗浄し、有機相を分取して酢酸エチルを減圧留去し、100質量部(収率74%)の白色の結晶を得た。なおこの化合物の分子量は809である。
なお、比較に用いたTPPはトリフェニルホスフェートの略、PETBはペンタエリスリトールテトラベンゾエートの略であり、いずれもアルドリッチ社より購入した。またFP500は旭電化社より購入した。
実施例1
上記合成例で作製した各種化合物、また市販の各種化合物を可塑剤として用いて、溶融流延によりセルロースエステルフィルムの製膜を実施した。
可塑剤を表1に記載の化合物とし、下記の化合物を下記の混合比で混合した粉体を2軸押し出し機に投入し、溶融流延製膜を実施した。但し常温で液体の添加剤については、2軸混練部に入る直前でフィーダーによって添加した。
〈フィルム101〜118の作製〉
セルロースアセテートプロピオネート(セルロースエステル1) 100質量部
表1に記載の可塑剤 表1に記載の添加量
LA31(紫外線吸収剤) 1.0質量部
イルガノックス1010(酸化防止剤) 0.5質量部
スミライザーGP(酸化防止剤) 3.0質量部
エポキシ化大豆油(酸捕捉剤) 1.0質量部
アエロジルR972V(マット剤) 0.3質量部
溶融押出し条件は、回転数200rpm、バレル温度240℃、キャスティングドラム温度90℃とし、得られるフィルムの膜厚は80μmとなるように調節して製膜した。なおセルロースエステルは、事前に減圧下70℃で3時間乾燥したものを用いた。
得られたセルロースエステルフィルム101〜118について、下記の評価を実施した。
《透湿度測定》
JIS Z0208に記載の方法に従い、透湿度を測定した。なお測定時の条件は40℃90%RHである。
《寸法安定性・ブリードアウト評価》
各セルロースエステルフィルム試料を幅手方向150mm×長手方向120mmサイズに裁断し、該セルロース誘導体フィルム表面に、幅手方向(TD)及び長手方向(MD)それぞれに100mm間隔で2カ所カミソリで十文字型の印を付ける。該セルロースエステルフィルムを23±3℃、55±3%RHの環境下で24時間以上調湿し、測定顕微鏡で十文字の印の間隔の距離L0を測定した。次に該試料を80℃90%RHの環境下で2週間放置したのち、再び前記23±3℃、55±3%RHの環境下で24時間以上調湿したフィルムについて、再び測定顕微鏡で十文字の印の間隔の距離L1を測定した。下記式によりそれぞれ幅手方向(TD)及び長手方向(MD)の寸法変化率(%)を求めた。
寸法変化率(%)={(L1−L0)/L0}×100
また、ブリードアウト性の評価として、高温高湿環境から取り出して再び23℃55%RHで調湿した後にフィルムに対し、ウェスによる拭き取りテストと、マジックにじみテストを行った。フィルム表面をウェスで拭いて拭き後ができるものは×、フィルムにマジックで記入して、にじみが発生するものは×、双方とも見られないものは○とした。どちらかが若干発生している場合は△とした
《黄色度(YI)測定》
日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−3310を用いて、得られたセルロースエステルフィルムの吸収スペクトルを測定し、三刺激値X、Y、Zを算出した。この三刺激値X、Y、Zから、JIS−K7103に基づいて黄色度YIを算出した。
《平面性評価》
溶融製膜を開始して1時間が経過した時点でのサンプルを採取し、長さ100cm×幅40cmのサンプルを切り取った。
平坦な机の上に黒紙を貼り、その上に上記の試料フィルムを置き、斜め上方に配置した3本の蛍光灯をフィルムに映して蛍光灯の曲がり具合で平面性を評価し、次の基準でランク付けした。
◎:蛍光灯が3本とも真っ直ぐに見える
○:蛍光灯が若干曲がったように見えるところがある
△:蛍光灯が曲がって見える
×:蛍光灯が大きく畝って見える。
以上の結果を表1に示す。
表1から明らかなように、多価アルコール−アルキルカルボン酸エステルを用いたフィルム111は、透湿度が大きく好ましくない。他方、多価アルコール−芳香族カルボン酸エステルを用いたフィルム107、110、113では透湿度はいずれも550g/m2/d以下に抑えられているが、フィルムの平面性が低く好ましくない。また、ブリードアウトしやすい傾向がある。
他方、本発明の化合物を用いた実施例のフィルム103〜106、108、112、114〜117では、透湿度も低く抑えられ、ブリードアウトも起きておらず、平面性についても改良された好ましいフィルムであった。
また分子量が1000を超えると平面性の改良効果が低下するため、多価アルコールエステル化合物の分子量としては400〜1000が好ましいことがわかる。なお本発明の化合物はセルロースエステルに対する相溶性が高く、高添加率で添加することができるが、他の相溶性の低い化合物と併用することによっても(フィルム110)、一定の効果を得ることができる。
またリン酸系エステルを用いたフィルム101、102では溶融製膜によって着色が発生し、好ましくないフィルムであった。また、芳香族基に置換基を有するリン酸系エステルを用いても、本発明の化合物のようなフィルムの平面性の改良効果は見られなかった。
実施例2
用いる可塑剤を化合物例1−20の化合物に固定し、セルロースエステルを表2に記載した通りに変更した以外は、実施例1と同様にして溶融製膜を行い、セルロースエステルフィルム201〜205を得た。なお合成例1で作製したセルロースエステル1以外のセルロースエステルは、合成例1と同様の方法で、アシル基の置換度を変化させて。分子量はすべて20万であった。それぞれのセルロースエステルについて溶融製膜可能な最低温度に溶融温度を設定した。それぞれの溶融温度についても表2に記載した。
得られたフィルム201〜205について、以下の評価を行った。
《弾性率の測定》
上記作製した201〜205の各フィルム試料を、幅手方向(TD方向)で10mm、搬送方向(MD方向)で200mm切り出し、23℃、相対湿度55%の雰囲気下で12時間調湿を行った後、オリエンテック社製のテンシロン(RTA−100)を用い、搬送方向(MD方向)の上下端をチャックで固定し、チャック間の距離を100mmに設定して、引張り速度100mm/minで引張り、MD方向の弾性率(GPa)を測定した。数値が大きいほど、引張りに対する強度が高いことを表す。
また、ブリードアウト、平面性について実施例1と同様に評価した。
表2から明らかな通り、多価アルコール−芳香族カルボン酸エステルの芳香族カルボン酸を置換することによって相溶性が変化し、本発明の化合物はプロピオニル基による置換度(Y)が2.0より低いセルロースエステルを用いた方が、多価アルコール−芳香族カルボン酸エステルの相溶性が高いことがわかる。また、フィルムの弾性率についても、プロピオニル基またはブチリル基による置換度(Y)が2.0より低いセルロースエステルを用いた方が良好であり、好ましいフィルムを得ることができた。
実施例3
(偏光板の作製)
次に、上記作製したセルロースエステルフィルム101〜118について下記のアルカリケン化処理を施し、それぞれ偏光板101〜118を作製した。
(アルカリケン化処理)
ケン化工程 2mol/L NaOH 50℃ 90秒
水洗工程 水 30℃ 45秒
中和工程 10質量%HCl 30℃ 45秒
水洗工程 水 30℃ 45秒
ケン化処理後、水洗、中和、水洗の順に行い、次いで80℃で乾燥した。
(偏光子の作製)
厚さ120μmの長尺ロールポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で6倍に搬送方向に延伸して偏光子を作製した。
偏光子の両側に上記作製したセルロースエステルフィルムを、アルカリケン化処理面を偏光子側とし完全鹸化型ポリビニルアルコール5質量%水溶液を接着剤として両面から貼合し、偏光板用保護フィルムが貼合された偏光板を作製した。
(液晶表示装置としての特性評価)
32型TFT型カラー液晶ディスプレーベガ(ソニー社製)の偏光板を剥がし、上記で作製した各々の偏光板を液晶セルのサイズに合わせて断裁した。液晶セルを挟むようにして、前記作製した偏光板2枚を偏光板の偏光軸がもとと変わらないように互いに直交するように貼り付け、32型TFT型カラー液晶ディスプレーを作製し、セルロースエステルフィルムの偏光板としての特性を評価したところ、本発明のセルロースエステルフィルムから作製した偏光板はコントラストも高く、優れた表示性を示した。これにより、液晶ディスプレーなどの画像表示装置用の偏光板として優れていることが確認された。