JP2006283160A - 被覆鋼材 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明は、陰極剥離メカニズムを阻害する物質を非環境負荷物質で構成し、さらに密着力を低下させない形で化成処理組成を施し、重防食被覆鋼材に要求される性能を満足させる被覆鋼材を提供する。
【解決手段】 鋼材に、化成処理層、有機樹脂層を順次積層して成る有機樹脂被覆鋼材において、化成処理層が、Al、Ga、In、Tlの水酸化物あるいはオキシ水酸化物から成る群から1つ以上選ばれた組成物を含み、その金属元素の付着量が合計で0.01〜10g/m2であることを特徴とする被覆鋼材である。
【選択図】 なし
【解決手段】 鋼材に、化成処理層、有機樹脂層を順次積層して成る有機樹脂被覆鋼材において、化成処理層が、Al、Ga、In、Tlの水酸化物あるいはオキシ水酸化物から成る群から1つ以上選ばれた組成物を含み、その金属元素の付着量が合計で0.01〜10g/m2であることを特徴とする被覆鋼材である。
【選択図】 なし
Description
本発明は、環境負荷物質を含まない、特に重防食用塗覆装鋼材向けの被覆鋼材に関するものである。
輸送ライン、橋梁、杭、桟橋、屋外鋼構造物等の社会インフラは、海浜大気環境を始め、海水中、地中、河川中等の腐食環境の厳しい場所に多く、これに用いられる塗覆装鋼材は、高い耐久性が要求される。そのため、通常は下地処理にクロメート化成処理をすることが行なわれている。しかし、クロム(VI)は環境負荷物質であるため、これを用いない代替化成処理が求められているが、一次密着性、耐水密着性、耐陰極剥離性等の性能を落とすことはできない。ここで、一次密着性とは、大気中における鋼材被覆層の接着性のことであり、耐水密着性とは、鋼材が水中、電解質溶液中に長期浸漬されている時の鋼材被覆層の接着性のことであり、耐陰極剥離性とは、さらにその浸漬中の鋼材にカソード防食が印加されている時の鋼材被覆層の接着性を言う。
ここで、カソード防食について、少し詳しく説明する。カソード防食は、基材金属を自然腐食電位より卑にすることにより、望ましくは、与えられた環境中で基材金属を熱力学的安定領域の電位にすることにより、金属の腐食速度を低減させるものであり、高い信頼性を有する防食原理として広く用いられている。本来、鋼裸材に対して行なわれるが、干満帯のように電気防食が継続し難い部分の防食性向上、樹脂被覆が困難な裸鋼材の防食、景観性向上、電力経費節減、防食電流到達範囲拡大のために、塗装や被覆された鋼材に行われることもよくある。
カソード防食の電位は、鋼材表面を十分に防食し、かつカソード剥離の促進を抑制できる電位として、−2.0〜−0.7V(vs.飽和塩化カリウム/塩化銀/銀電極、以下同じ)が奨められ、海洋中、河川中、水中であれば、−1.2〜−0.7Vが好ましく、さらに好ましくは−1.1〜−0.9Vで、また、地中であれば、−2.0〜−1.5Vが奨められる。−0.7V超では、カソード剥離速度は低減するが、防食効果も低減する可能性がある。また、海、河川中で−1.5V、地中で−2.0Vより卑の電位では、十分に防食されるものの、カソード剥離速度が無視できなくなる可能性がある。
カソード防食電流(電圧)を印加するためには、外部電源あるいはアルミ合金、マグネシウム合金、亜鉛、亜鉛合金等の流電電極を用いることができる。
実際の陰極剥離はゆっくり進行するため、評価試験では、温度を上げた促進試験で耐陰極剥離性を評価することがよく行われている。
実際の陰極剥離はゆっくり進行するため、評価試験では、温度を上げた促進試験で耐陰極剥離性を評価することがよく行われている。
ここで、陰極剥離について説明しておく。カソード防食中の塗覆装鋼材では、被覆端部から塗膜や被覆の剥離(カソード剥離又は陰極剥離)が進行する。一般に、カソード防食時の電位が卑なほど、防食性は高くなるが、陰極剥離も顕著になり、大きな課題となっている。塗膜剥離速度が塗覆装系の寿命を決定するので、被覆層の陰極剥離現象を抑制する技術が望まれている。このカソード防食時に起きる陰極剥離は、通常の大気中で起きる剥離とは原理が異なる。
大気中で起きる剥離は、塗膜やフィルム等の被覆の欠陥から、厚み方向に水、酸素が侵入し、鋼材に到達した地点で起きる腐食(アノード反応)のために起きる。したがって、被覆の厚さを厚くしたり、防食性に優れた化成処理をすることにより、水、酸素の侵入を防ぐことができる。しかし、カソード防食中に起きる剥離は、外部から、ナトリウム等のカチオンが、鋼材/樹脂被覆界面に進入し、その領域で酸素還元(カソード反応)が起こると、アルカリ化し、それが樹脂と鋼材間の結合を破壊する。電気化学的には、全く逆の反応によって剥離する。したがって、防食性を高める方法で、陰極剥離を防ぐことはできない。
ところで、従来賞用されてきたクロメート化成処理は、6価クロムに対する環境の配慮から、制限されつつある。しかし、化成処理を行わないと(無処理)、重防食被覆鋼材に要求される性能が満足できない。そのため、多種多様なアイディアに基づいて、代替品を模索する研究開発が行われてきている。最近注目を浴びている代表的な6価クロム代替化成処理の一つに、シランカップリング剤やその縮合重合物が挙げられる。これらの加水分解物は、金属基材原子MとM−O−Siと言う結合を生成し、基材との高い密着力を示すと考えられている。また、特性向上のため、特定の有機樹脂、有機インヒビター、シリカ、金属イオンを添加することも行われている。
しかし、シランカップリング剤系の処理も、クロメートの性能を十分に代替しているとは言えない。実際、一次密着や耐水性密着性は向上しても、耐陰極剥離性はあまり向上しない。他の6価クロム代替処理にも同様の傾向がある。特開平11−12719号公報(特許文献1)には、耐食性皮膜が形成された鋼材表面にアニオンとカチオンの選択透過性物質を交互に積層する技術が開示されている。この技術思想は、カチオンとアニオンが外部環境から塗面を垂直に横切って鋼材基材へ移動する現象を、塗膜面の積層構造によって抑制し、鋼材基材の2次密着性向上を狙う、と言うものである。
一方、カソード防食中のカソード剥離は、環境中のナトリウムイオン等のカチオンが、鋼材/被覆樹脂界面に沿って横から侵入し、その領域のアルカリ化が進むと、密着性が劣化し、剥離に至る。こうして、外観は劣化していないにもかかわらず、カソード剥離は、被覆下で常時進行、拡大して行く。大気中の塗膜剥離と一見似た現象ではあるが、原理が異なるため、被覆の厚さを厚くする、あるいは非透過性層を積層する等して腐食因子を遮断したり、インヒビターで金属のアノード反応速度を抑制すると言う一般的な表面処理技術思想を安易に適用しても、このカソード剥離を防ぐのに無力であるか、あるいはさほど有効ではない。
特公平2−45984号公報(特許文献2)には、プライマーを用いずとも、十分な耐温塩水性、一次接着性に優れたノンクロポリオレフィン樹脂被覆鋼材を提供するために、(A)分子末端に水酸基を有している有機樹脂層、(B)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリオレフィン樹脂層及び(C)ポリオレフィン樹脂層を順次積層する技術が開示されている。有機樹脂中の水酸基が鋼材表面と水素結合を生成し、耐温塩水性、一次密着性に優れると考えられる。しかし、耐陰極剥離性は十分ではない。金属/有機樹脂層の水素結合は、カチオンの進入を阻害する能力が乏しいからである。
特開2000−144444号公報(特許文献3)には、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板を素材鋼板とする、耐白錆性・耐食性に優れた表面処理鋼板の製造方法が開示されている。それは、(a)シリカ及び/又はシリカゾルをSiO2量として0.001〜3モル/L、(b)リン酸イオン及び/又はリン酸化合物をP2O5換算で0.001〜6モル/L、(c)Al、Mg、Ca、Sr、Ba、Hf、Ti、Y、Sc、Ce、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Ni、Co、Fe、Mnの内のいずれかの金属イオン、前記金属の内の少なくとも1種を含む水溶性イオン、前記金属の内の少なくとも1種を含む酸化物、前記金属の内の少なくとも1種を含む水酸化物からなる群の中から選ばれる1種又は2種以上を、前記金属の金属量換算の合計で0.001〜3モル/L、を含有するpH0.5〜5の酸性水溶液でめっき鋼板を処理し、しかる後、加熱乾燥することによりめっき鋼板表面に膜厚が0.005〜2μmの化成処理皮膜を形成する、と言うものである。この方法で作った化成処理皮膜を用いて、カソード防食を試してみたが、効果が認められなかった。それは、金属イオンの有効電荷をリン酸イオンが中和してしまうためと考えられる。
このように、従来技術ではまだ満足な性能に至っていない耐陰極剥離性を始め、重防食被覆鋼材に要求される種々の性能を満足し、かつ環境負荷物質を用いない重防食被覆鋼材が強く望まれている。
そこで、本発明は、陰極剥離メカニズムを阻害する物質を非環境負荷物質で構成し、さらに密着力を低下させない形で化成処理組成を施し、重防食被覆鋼材に要求される性能を満足させる被覆鋼材を提供する。
そこで、本発明は、陰極剥離メカニズムを阻害する物質を非環境負荷物質で構成し、さらに密着力を低下させない形で化成処理組成を施し、重防食被覆鋼材に要求される性能を満足させる被覆鋼材を提供する。
(1)鋼材に、化成処理層、有機樹脂層を順次積層して成る有機樹脂被覆鋼材において、化成処理層が、Al、Ga、In、Tlの水酸化物あるいはオキシ水酸化物から成る群から1つ以上選ばれた組成物を含み、その金属元素の付着量が合計で0.01〜10g/m2であることを特徴とする被覆鋼材。
(2)前記化成処理層が、さらに、水性有機樹脂、水性シリカ、亜鉛の水酸化物あるいはオキシ水酸化物あるいは炭酸塩、Mgの水酸化物あるいはオキシ水酸化物あるいは炭酸塩、から選ばれる1種類以上を合計で、前記金属元素の付着量に対し、1〜20質量%含む請求項1記載の被覆鋼材。
(3)前記有機樹脂層が、酸性樹脂プライマー層、接着剤樹脂層、ポリエチレンあるいはポリウレタン樹脂層を積層して成る、請求項1記載の被覆鋼材にある。
(2)前記化成処理層が、さらに、水性有機樹脂、水性シリカ、亜鉛の水酸化物あるいはオキシ水酸化物あるいは炭酸塩、Mgの水酸化物あるいはオキシ水酸化物あるいは炭酸塩、から選ばれる1種類以上を合計で、前記金属元素の付着量に対し、1〜20質量%含む請求項1記載の被覆鋼材。
(3)前記有機樹脂層が、酸性樹脂プライマー層、接着剤樹脂層、ポリエチレンあるいはポリウレタン樹脂層を積層して成る、請求項1記載の被覆鋼材にある。
従来技術であるクロメート化成処理は、一次密着性、二次密着性(耐陰極剥離性等)共に優れており、ノンクロ化成処理では到達が困難であったが、本発明は、クロムを用いず、これに匹敵する性能を実現した。
本発明に用いる鋼材は、鉄が主成分であれば限定するものではなく、普通鋼材、低合金鋼材や耐海水鋼等のステンレス鋼材が例示できる。有機樹脂被覆鋼材は、鋼材表面を有機樹脂で被覆したもので、塗装あるいは樹脂シートで被覆(ライニング)する。塗装の場合は、化成処理した鋼材に、直接塗装するが、ライニングの場合は、化成処理した鋼材に、プライマー層、接着剤層を介して、トップ樹脂層を形成するのが普通である。耐久性の面からは、塗装よりもライニングが奨められ、本発明も主にライニングで説明する。
化成処理は、通常、化成処理液により鋼材表面が化学変化を起こし、表面が改質される処理を言う。本発明では、表面との化学反応が明確ではないものの、鋼材表面と本発明の物質層が接して界面結合を形成していると言う意味で用いた。
また、本発明は、化成処理層の発明であるが、一般に、化成処理層の組成に対応する組成を有する化成処理液を鋼材表面に塗布し乾燥することにより得られる。
また、本発明は、化成処理層の発明であるが、一般に、化成処理層の組成に対応する組成を有する化成処理液を鋼材表面に塗布し乾燥することにより得られる。
密着性を高めるために、化成処理前に、鋼材表面にブラスト処理、酸洗、アルカリ脱脂のいずれかを行って、表面を十分に研磨・洗浄しなくてはならない。なぜなら、酸化物層や油脂層を含まない金属/化成処理皮膜層界面の形成が本発明の作用を発現するために必要だからである。ブラスト処理は、現場で鋼材表面の酸化物層、スケールを簡便に確実に除去できる手段であり、ツール、サンドブラスト、ショットブラスト等が例示できる。表面調製の程度は、鋼面の赤錆、黒錆、その他のスケールを除去したレベル(望ましくはSa2 1/2以上)でなくてはならない。酸洗は、例えば、5質量%塩酸等で洗浄することにより、表面に形成された赤錆等の酸化物を除去する。アルカリ脱脂は、アルカリ性の界面活性剤溶液で表面に付着した防錆油等を除去する処理を言う。
本発明における化成処理層を構成する成分として、Al、Ga、In、Tlの水酸化物、オキシ水酸化物が陰極剥離低減に有効であることを、我々は見出した。Al、Ga、In、Tlは、第III(b)族の元素である。水酸化物は、Al、Ga、In、TlをMで表すと、M(OH)3で表され、同様に、オキシ水酸化物(即ち、水酸化酸化物)は、M2O3・H2OあるいはMO(OH)で表される。これらは、フーリエ型赤外線吸光分析やX線光電子分光分析で測定することにより、存在を確かめることができる。
一般に、M(OH)3を加熱すると脱水し、MO(OH)になる。M(OH)3とMO(OH)が混合している場合の平均組成式は、MOx(OH)3-2xとなる(0≦x≦1)と書ける。どちらも効果があり、混合比率xは特に限定するものではない。
MO(OH)を強く加熱するとさらに脱水し(1<x≦1.5)、M2O3等の酸化物になる。加熱により無水酸化物が多く(1.2<x)生成すると、体積収縮により皮膜が脆くなり、発明本来の効果がでなくなる。ただ、通常の熱風乾燥や加熱接着工程では、無水酸化物の生成はほぼ無視できるため、M(OH)3とMO(OH)の混合物(0≦x≦1)とみなすことができる。
MO(OH)を強く加熱するとさらに脱水し(1<x≦1.5)、M2O3等の酸化物になる。加熱により無水酸化物が多く(1.2<x)生成すると、体積収縮により皮膜が脆くなり、発明本来の効果がでなくなる。ただ、通常の熱風乾燥や加熱接着工程では、無水酸化物の生成はほぼ無視できるため、M(OH)3とMO(OH)の混合物(0≦x≦1)とみなすことができる。
Al、Ga、In、Tlの水酸化物とオキシ水酸化物の金属付着量の合計は、10mg/m2未満では、効果が乏しく、10g/m2超では、効果が飽和するので経済的ではない。化成処理の立場から、10g/m2以下と規定するが、化成処理とは別に本発明の化成処理組成を有する被覆をした被覆鋼材とすることも可能であり、その場合は100〜20000/m2の付着量でも実用に供することができる。
なお、ここで言う付着量は、水酸化物、オキシ水酸化物中のAl、Ga、In、Tl金属元素の合計の質量を塗布面積で割ったものである。
なお、ここで言う付着量は、水酸化物、オキシ水酸化物中のAl、Ga、In、Tl金属元素の合計の質量を塗布面積で割ったものである。
Al、Ga、In、Tlの水酸化物、オキシ水酸化物の層は、基材がAl、Ga、In、Tl金属であれば、表面を水蒸気酸化、アノード電解処理等を用いて容易に形成できるが、基材にAl、Ga、In、Tlが殆ど含まれない鋼材の場合、形成するのは容易ではなく、工夫がいる。
我々は鋭意研究の結果、鋼材にはAl、Ga、In、Tl水酸化物ゾルを塗布・乾燥したものが有効であることを突き止めた。一般に、Al、Ga、In、Tl水酸化物ゾルは、コロイド状のAl、Ga、In、Tl水酸化物が通常は水に分散したものである。コロイド状になることにより、凝集力が高くなり、耐水密着性も向上する。Al、Ga、In、Tl水酸化物ゾルは、これらの金属のみょうばん溶液にアルカリ溶液を加えても得られるが、その場合、Al、Ga、In、Tl水酸化物の他に、カリウム等のアルカリ金属が含まれているものが得られるので、精製する必要がある。本発明で言うAl、Ga、In、Tl水酸化物ゾルは不純物を含まない純粋なものを言い、化成処理層の耐陰極剥離性を低下させるので、特にアルカリ金属イオンは可能な限り(望ましくは100ppm以下に)除去しなくてはならない。
Al、Ga、In、Tl水酸化物ゾル溶液を塗布した鋼材が乾燥過程で鉄が腐食する場合、液性をアルカリに調整して、これを低減することができる。アンモニア水等でpHを8〜10に調整するとよい。Al、Ga、In、Tl水酸化物ゾル塗布以外には、Al、Ga、In、Tlカップリング剤の加水分解物溶液を塗布・乾燥する方法を用いることができる。
これらの金属のカップリング剤は、一般式M(OCnH2n+1)3で表されるアルコレートを言い、M(OC2H5)3、M(OC3H7)3、M(OC4H9)3、M(OC3H7)2(OC4H9)を例示できる。これらは、加水分解反応を起こしてM−OHを生成する。通常は、0.05〜5質量%の範囲で、望ましくは0.1〜1質量%の範囲で有機溶剤に溶解させて調製する。有機溶剤は、特に限定するものではないが、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、酢酸エステル類、アセトン、キシレン等同士の混合物が例示できる。
Al、Ga、In、Tlカップリング剤溶液を十分に加水分解させてから鋼材を処理したものでも陰極剥離低減には有効であるが、Al、Ga、In、Tl水酸化物ゾルの方を推奨する。ゾルタイプの方が、処理層の水酸化物密度が高く、緻密な被膜が形成でき、耐陰極剥離性以外の密着性、例えば、耐水密着性等も優れるからである。
Al、Ga、In、Tlの中で特に奨められる元素はアルミニウムである。水酸化アルミニウムは、化学式がAl(OH)3で表され、また、水酸化酸化アルミニウム又はオキシ水酸化アルミニウム、アルミニウム水和酸化物、ベーマイトアルミナ、ダイアスポアと呼ばれるものは、AlO(OH)で表されるが、これらの混合が起きている場合は、AlOx(OH)3-2xとなる(0≦x≦1)。物性的にはどちらも効果があり、混合比率xは特に限定するものではない。しかし、水酸化アルミニウムゾル(x=1)を塗布する場合、加熱・乾燥によりAlO(OH)が多く生成すると、化成処理皮膜の体積収縮が起こり、皮膜が劣化する。この場合は、AlO(OH)の生成をx<0.2に、望ましくはx<0.06に抑えることが奨められる。
当該化成処理層を形成するためには、化成処理液を塗布した後、これを十分に乾燥させなくてはならない。乾燥は、熱風乾燥か基材の加温が奨められる。このとき、乾燥によりM−OH基の一部が脱水縮合すると、酸化物が生成するが、この時、体積収縮が起きるので、なるべく避けなくてはならない。
例えば、Al、Ga、In、Tlの水酸化物含有水溶液を塗布する場合、60〜120℃の熱風乾燥が奨められ、その後の被覆工程でも、最高到達温度200℃未満で持続時間1時間未満、望ましくは、最高到達温度150〜190℃で持続時間5〜30分に抑えることが奨められる。ただし、Tlの場合は、100℃以上で3価が1価になる可能性があるので、60〜80℃、30分以内程度の熱履歴が望ましい。
化成処理層の耐食性、密着性、塗装・接着等の後処理性をさらに向上させるために、水性有機樹脂、水性シリカ、無機顔料を好適に添加できる。これらの化合物は、Al、Ga、In、Tlと結合しているOH基と水素結合し、ネットワークに取り込まれ、化成処理被膜をより強固なものにする。これら添加物は、化成処理液に溶解・懸濁させておくのが望ましい。
ここで言う、添加物の合計の含有比率の計算方法は、化成処理層中に存在しているAl、Ga、In、Tl元素の質量の合計に対する、乾燥化成処理皮膜中に含まれる全添加物の質量の百分率である。これらが20質量%より多いと、Al、Ga、In、Tl元素の界面存在濃度が小さくなり、また陽電荷が中和され、陰極剥離効果が低減する。また、1%より少ないと、効果が見られなくなる。
化成処理層中に水性有機樹脂を含有させることができる。水性有機樹脂は、樹脂粒子を水に分散させたものを言うが、乾燥後、水は揮発し、再び水に浸漬しても、再分散してはならない。水性有機樹脂としては、特に限定するものではないが、以下に例示する各種樹脂を用いることができる。エポキシ系樹脂は、ビスフェノールAとエピクロヒドリンの反応物のように、エポキシ官能基−OCH(O)CH2を有する物質を、アミン系硬化剤等を用いて、硬化重合させたものの総称を言う。
同様に、アクリル樹脂は、アクリル酸あるいはアクリル酸誘導体の重合・共重合物で、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチルが例示でき、ウレタン系樹脂は、ウレタン結合を有するポリマーで、ヘキサメチレンジイソシアネートブタンジオールの重合・共重合物が例示できる。ポリエステルは、エステル基(−COOR;Rは有機官能基)を有するポリマーである。ユリア樹脂は、エキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジアミンの重合・共重合物が例示できる。ここで、重合・共重合物とは、これらの製造方法で作られた生成物を指し、化学構造式が同じであれば、製造方法は限定しない。
これらの樹脂は、単体の他に、変性やポリマーブレンド、ポリマーアロイの構成要素として存在してもよい。通常は、化成処理液に微粒子として分散させて用いるが、処理液中に樹脂と硬化剤の形で含有し、塗布後重合させてもよい。
化成処理層中に水性シリカを好適に添加することができる。水性シリカとは、シリカ(SiO2)粒子を水あるいは水/アルコールに分散させたものを言い、乾燥後、水、アルコールは揮発している。化成処理層の耐陰極剥離性を低下させるので、不純物としてナトリウムイオンを含んではならない。水性シリカは、塗膜の凝集力を高め、密着性を向上させる。粒径は限定しないが、10nm以下が奨められる。
化成処理層中に水性シリカを好適に添加することができる。水性シリカとは、シリカ(SiO2)粒子を水あるいは水/アルコールに分散させたものを言い、乾燥後、水、アルコールは揮発している。化成処理層の耐陰極剥離性を低下させるので、不純物としてナトリウムイオンを含んではならない。水性シリカは、塗膜の凝集力を高め、密着性を向上させる。粒径は限定しないが、10nm以下が奨められる。
亜鉛の水酸化物あるいはオキシ水酸化物あるいは炭酸塩、Mgの水酸化物あるいはオキシ水酸化物あるいは炭酸塩を化成処理層中に好適に添加できる。これらは、Al、Ga、In、Tl元素の陽電荷を中和せずに、化成処理層中の凝集力を向上させ、一次密着性を向上させる。当該化成処理層の上に形成する被覆有機樹脂層は、耐候性、耐久性に優れ、外部環境因子を遮断するものが望ましい。被覆有機樹脂層は、プライマー層、接着剤層、最表面のトップ層等が例示できる。
トップ層には、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリオレフィン等が例示できる。一般にトップ層は、接着剤層、又はプライマー層と接着剤層を介し積層するのが普通である。接着剤層を介してトップ有機樹脂層を被覆する場合、接着剤が酸性樹脂であると高い密着性が得られる。同様に、プライマー層、接着剤層、トップ有機樹脂層と順次積層する場合、プライマー層が酸性樹脂であると高い密着性が得られる。なぜなら、化成処理層が塩基性であるため、その直上の有機樹脂層(プライマー層か接着剤層)を(ルイス)酸性樹脂にすると、両界面間に結合が効果的に生じ、耐水密着力を高めることができるからである。
酸性樹脂プライマー層、(酸性樹脂)接着剤層は、通常は吹き付け、刷毛塗り、接着シート貼り付け等の工程で各層を順次積層する。酸性樹脂としては、塩素化ゴム、アクリル系樹脂、PVC/PVA共重合物(ビニル系)、酢酸ビニル樹脂、ケトン樹脂、マレイン酸樹脂、ポリイソシアネート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及びこれらの変性樹脂が例示できるが、これに限定するものではない。この他に、Si−N結合、Si−O結合を持った変性酸性樹脂でもかまわない。
プライマー層、接着剤層の樹脂には、熱可塑性、硬化型樹脂のいずれでもかまわないが、熱可塑性の方が生産速度が速くでき、奨められる。この場合、150〜200℃で樹脂を軟化させ、有機樹脂被覆層を積層するとよい。
これら有機樹脂層の厚さは限定するものではないが、プライマー層、接着剤層は50〜500μm、トップ層は200μm〜3mmが奨められ、トップ層にウレタンを用いる場合は、10mmが例示できる。
これら有機樹脂層の厚さは限定するものではないが、プライマー層、接着剤層は50〜500μm、トップ層は200μm〜3mmが奨められ、トップ層にウレタンを用いる場合は、10mmが例示できる。
陰極剥離現象は、ナトリウムイオン等のカチオンが鋼材と塗膜の界面に沿って横から侵入し、その領域がアルカリ化すると、密着性が劣化し、剥離に至ると考えられるが、我々は鋭意研究の結果、上述の化成処理層が、陰極剥離現象を阻害する効果を有することを見出した。詳細な理由の解明は今後の課題であるが、Al、Ga、In、Tlの各イオンの陽電荷が横から侵入する外部環境のナトリウムイオン等の移動を阻害していると考えられる。
これに比べ、従来の鋼材/樹脂界面間の結合(有機樹脂層が寄与する水素結合やシランカップリング剤系処理で生成するSi−O結合)では、界面に接している原子は、正に荷電している度合いが低いため、密着性や皮膜の強固さは十分だが、鋼材/被覆界面に沿って侵入するカチオンをあまり阻害できない。そのため、密着性は高いが、耐陰極剥離性がなかなか向上できないものと考えられる。このように、本発明の技術思想は、耐陰極剥離性は密着性と別メカニズムが作用しているので、耐陰極剥離性向上のためには、基材/被覆層間の結合力を高めるのではなく、鋼材/化成処理界面に沿ったカチオン移動の抑制をしなければならないものである。
サンプル作成として、6mm×100mm×100mmの圧延普通鋼材をショットブラスト処理(Sa2 1/2レベル)した。各化成処理液を塗布後、100℃熱風乾燥させた。この上に、体質顔料5%含有のポリアミドアミン硬化型エポキシ粉体プライマーを200μm、100μmの変性ポリエチレン樹脂接着剤シート、厚さ2mmのポリエチレンクリア樹脂シートを順次積層した。プライマー焼付け温度、シート接着温度は190℃、3分である。化成処理液は、水酸化アルミニウムゾルを、付着量に合わせて水で希釈し、アンモニア水を加えてpHを9に調整した。AlO(OH)は、乾燥・焼付過程で若干生成する。水性樹脂にアクリルエマルジョンを用いた。
比較例として、シランカップリング剤処理(ノンクロ系化成処理)では、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1質量%水溶液(加水分解して溶解)に浸漬、引き上げ、乾燥後、120℃1時間の熱処理をした。カップリング剤処理は、Al(OC2H5)3の0.2%プロパノール溶液に若干量の水を添加して4時間攪拌したものを同様に処理した。無処理サンプルは、同様に化成処理と熱処理をせずにサンプルを作成した。
1次密着性試験は、作製したポリエチレン被覆サンプルをそのまま1cm幅のピール試験をした。
1次密着性試験は、作製したポリエチレン被覆サンプルをそのまま1cm幅のピール試験をした。
耐水密着試験は、サンプルの一辺を幅約10mmはつって被覆層を剥離して金属面を露出させ、50℃3質量%塩化ナトリウム水溶液に1ヶ月浸漬後、残りの被覆層をはつり、最初にはつった剥離部からの平均剥離距離を測定した。
カソード剥離試験を25℃で2ヶ月おこなった。試料板中央に直径6mmの素地に達する穴を開け、3質量%塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、鋼材の電位を−1.5V(vs.sat.−KCl/AgCl/Ag)に調整した。試験終了後、被覆層をはつり、穴の円周からの平均剥離距離を求めた。試験結果を表1に示す。ピール強度は全て15kg/cm以上(測定中にポリエチレン被覆が破断)であった。
カソード剥離試験を25℃で2ヶ月おこなった。試料板中央に直径6mmの素地に達する穴を開け、3質量%塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、鋼材の電位を−1.5V(vs.sat.−KCl/AgCl/Ag)に調整した。試験終了後、被覆層をはつり、穴の円周からの平均剥離距離を求めた。試験結果を表1に示す。ピール強度は全て15kg/cm以上(測定中にポリエチレン被覆が破断)であった。
Claims (3)
- 鋼材に、化成処理層、有機樹脂層を順次積層して成る有機樹脂被覆鋼材において、化成処理層が、Al、Ga、In、Tlの水酸化物あるいはオキシ水酸化物から成る群から1つ以上選ばれた組成物を含み、その金属元素の付着量が合計で0.01〜10g/m2であることを特徴とする被覆鋼材。
- 前記化成処理層が、さらに、水性有機樹脂、水性シリカ、亜鉛の水酸化物あるいはオキシ水酸化物あるいは炭酸塩、Mgの水酸化物あるいはオキシ水酸化物あるいは炭酸塩、から選ばれる1種類以上を合計で、前記金属元素の付着量に対し、1〜20質量%含む請求項1記載の被覆鋼材。
- 前記の有機樹脂層が、酸性樹脂プライマー層、接着剤樹脂層、ポリエチレンあるいはポリウレタン樹脂層を積層して成る請求項1記載の被覆鋼材。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2005106976A JP2006283160A (ja) | 2005-04-04 | 2005-04-04 | 被覆鋼材 |
Applications Claiming Priority (1)
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JP2005106976A JP2006283160A (ja) | 2005-04-04 | 2005-04-04 | 被覆鋼材 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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JP2006283160A true JP2006283160A (ja) | 2006-10-19 |
Family
ID=37405367
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JP2005106976A Withdrawn JP2006283160A (ja) | 2005-04-04 | 2005-04-04 | 被覆鋼材 |
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Country | Link |
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JP (1) | JP2006283160A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2008105052A1 (ja) * | 2007-02-26 | 2008-09-04 | Nihon Parkerizing Co., Ltd. | 金属材料の表面処理用組成物および処理液ならびに表面処理金属材料、塗装金属材料およびそれらの製造方法 |
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2005
- 2005-04-04 JP JP2005106976A patent/JP2006283160A/ja not_active Withdrawn
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WO2008105052A1 (ja) * | 2007-02-26 | 2008-09-04 | Nihon Parkerizing Co., Ltd. | 金属材料の表面処理用組成物および処理液ならびに表面処理金属材料、塗装金属材料およびそれらの製造方法 |
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