JP5594044B2 - 有機樹脂被覆鋼材 - Google Patents
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(「クレーム1」の引き写し)
鋼材表面に、鋼材側から順に、りん酸鉄化成処理層、りん酸アルミ系化成処理層、有機樹脂層が積層された有機樹脂被覆鋼材であって;
前記りん酸アルミ系化成処理層がP、Al、B、及び、MgあるいはCaから選らばれる金属Mを含み、
該りん酸アルミ系化成処理層の組成が、無水酸化物換算のモル比で、Al2O3/P2O5=0.2〜0.6、B2O3/P2O5=0.01〜0.1、MO/P2O5=0.01〜0.2を与えるバインダーと、無機体質顔料とを含むことを特徴とする有機樹脂被覆鋼材。
前記りん酸鉄化成処理層の平均膜厚が0.1〜1μmである[1]に記載の有機樹脂被覆鋼材。
前記無機質顔料が、前記りん酸アルミ系化成処理層の乾燥皮膜に対して10〜50vol%添加されたものである[1]または[2]に記載の有機樹脂被覆鋼材。
前記有機樹脂層が、化成処理層の直上に形成されるプライマー層と、ウレタンエラストマー樹脂から成るトップ層から構成されることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の有機樹脂被覆鋼材。
前記プライマー層が、エポキシ樹脂から成る[4]に記載の有機樹脂被覆鋼材。
前記プライマー層の厚みが100〜500μmである[4]または[5]に記載の有機樹脂被覆鋼材。
前記トップ層の厚みが2〜4mmである[4]〜[6]のいずれかに記載の有機樹脂被覆鋼材。
前記りん酸アルミ化成処理層の厚さが5〜40μmであることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の有機樹脂被覆鋼材。
前記金属MがMgであることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか1項に記載の有機樹脂被覆鋼材。
前記りん酸アルミ系化成処理層中の無機体質顔料がアルミナであることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか1項に記載の有機樹脂被覆鋼材。
本発明の有機樹脂被覆鋼材は、鋼材と、(該鋼材の表面上から順に)その上に配置されたりん酸鉄化成処理層と、その上に配置されたりん酸アルミ系化成処理層と、その上に配置された有機樹脂層とを、少なくとも含む。このように、本発明の有機樹脂被覆鋼材においては、化成処理層が「2層構造」になっている点が重要である。
鋼種は特に限定されない。コストの点からは、SS400等の構造材用汎用鋼材である鋼種を用いることが好ましい。
鋼材(すなわち、鋼種の形状)も、特に限定されない。形状の点からは、鋼管、鋼管矢板、鋼矢板、厚板等が例示できる。これら鋼材表面から錆、スケール、汚染物等を除去するため、サンドブラスト処理、グリッドブラスト処理、ショットブラスト処理等の下地処理行なって、清浄な金属表面を露出させておくことが、極めて好ましい。
上記の鋼材表面上に配置されるべきりん酸鉄化成処理層(すなわち、りん酸鉄皮膜)は特に限定されない。耐こすれ破壊性の点からは、FePO4・2H2OとFe2O3、不可避に混入する前述の添加物イオンの混合物から成る、緻密で薄い微結晶皮膜であることが好ましい。このような好適なりん酸鉄化成処理層は、例えば、市販のりん酸鉄用化成処理液を使用して得ることができる。りん酸鉄化成処理層の厚さは、通常は、せいぜい0.1〜0.4μm程度である。本発明においては、(例えば、基材表面がブラスト処理され、表面のデコボコが激しい態様においては)、成膜のバラつきを考慮し、皮膜厚さが0.1〜1μmであることが好ましい。この皮膜厚さは、更には、0.1〜0.5μm(特に0.2〜0.5μm)であることが好ましい。この皮膜厚さが0.1μmより薄いと、皮膜の均一性が失われ、発明の効果が低下する傾向がある。また皮膜厚さが1μm超では、皮膜の形成が困難になり易い傾向がある。
上述したりん酸鉄化成処理層上に配置されるべきりん酸アルミ系化成処理層の構成は、特に限定されない。耐水密着性の点からは、りん酸アルミ系化成処理層は、バインダー相中に(後述するような)無機体質顔料が分散しているものであることが好ましい。無機体質顔料としてアルミナを用いた場合、バインダー相、顔料の固相、双方にアルミが含まれることとなる。このような態様においては、例えばEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)で断面を観察すると、バインダーにはP(りん)が含まれているが、アルミナにはPが含まれていないので、両者の相を区別することは容易である。
バインダー相の組成の説明に入る前に、組成表記に用いた「酸化物組成式」について説明する。酸化物組成式は、含水無機酸化物の場合、その組成と等しい酸化物と水の和で表すもので、セラミック・鉱物学の分野でよく用いられている。また、本願の「特許請求の範囲」では、各組成物をP2O5に対するモル比で表現しているが、残部は、P2O5、水(水素イオンと水酸化物イオンに分かれている場合も含む)、不可避の不純物酸化物である。
バインダーの構成元素は、クロメート処理に匹敵する密着性・耐久性と低環境負荷を両立する元素の点からは、Al、P、B、M、O、H、であることが好ましい。これらの元素のうち、通常は、OとHは酸化物イオン、あるいは水酸化物イオンとして存在し(酸化物組成式では、通常は、併せてH2Oで表現されているが)、他の陽イオンと不定比例化合物を構成する。すなわち、本発明の化成処理バインダーは、通常は、もともと整数比で示されるような元素比率を有さない化合物である。上記の「酸化物表記」を用いた理由の一つも、ここにある。
Pはりん酸塩として化成処理層の陰イオンの主成分をなし、リンは皮膜中でH2PO4 −、HPO4 2−、リン酸イオン、あるいはこのn量体(メタ燐酸イオン、ポリリン酸イオン)として存在し、アルミ(III)イオン、ホウ素(III)イオン、金属Mイオンをつなげる役目をしている。そしてIII 価ホウ素、金属Mイオンも、アルミと同様に、りん酸イオンと複雑な不定比例化合物を成している。
Alは耐陰極剥離性・耐水密着性を向上させる主役であるが、通常は、Al(III)として存在する。本発明においては、モル比でAl2O3/P2O5=0.2〜0.6(更に好ましくは0.3〜0.5、特に好ましくは0.38〜0.41)である。本発明において、モル比でAl2O3/P2O5=0.2〜0.6の範囲では、リン酸イオンとアルミイオンの結合したネットワークに欠陥が(実質的に)存在せず、良好な成膜性と耐久性を示すことができる。このモル比が0.6を超えると、耐水密着性・造膜性が悪くなる傾向がある。他方、該モル比が0.2未満であると、耐陰極剥離性は充分なほど向上しない傾向がある。
Bは、皮膜の焼付け時の造膜性を向上させる性質を有する。本発明においては、モル比でB2O3/P2O5=0.01〜0.1が優れる。このモル比は、0.05〜0.1(更には0.08〜0.1)であることが更に好ましい。このモル比が規定値(すなわち、0.01)より少ないと造膜性が悪くなる傾向がある。他方、規定値(すなわち、0.1)よりも多く入れても効果は飽和し、更には向上しない傾向がある。Bは、通常はIII価ホウ素として存在し、Al(III)と同様に、りん酸イオンと複雑な不定比例化合物を成している。
金属M(MgあるいはCa)は、無機イオン性皮膜を形成する際、皮膜を緻密にして造膜性を向上させ、下地密着力を高め、構造欠陥を減少させる効果を有する。本発明において、MO/P2O5=0.01〜0.2が効果的である。このモル比は、0.05〜0.15(更には0.07〜0.12)であることが更に好ましい。この比(MO/P2O5)が規定量(すなわち、0.01)より少ないと、前記効果が弱くなる傾向がある。他方、規定量(すなわち、0.2)より多いと密着性が低下し、また、皮膜がチョーキングを起こしたり、塗布液が急速にゲル化し、処理液の段階で製造が困難になる傾向がある。請求項2記載の樹脂被覆構成(すなわち、「有機樹脂層が、化成処理層の直上に形成されるエポキシ樹脂から成るプライマー層と、ウレタンエラストマー樹脂から成るトップ層より構成され、該プライマー層の厚みが100〜500μmであって、該トップ層の厚みが2〜4mm」である態様)の場合は、CaよりもMgの方が適している。
無機体質顔料は、リン酸アルミ化成処理皮膜の成膜性向上のために、必要に応じて添加しても良い。 耐水密着性の点からは、無機体質顔料を添加することが好ましい。りん酸アルミ化成処理液が酸性のため、酸に不溶であり、処理液によく分散するものであれば、特に制限されない。 分散性、塗布性の点からは、粒径が5〜15μmのアルミナ、チタニア、シリカ等を用いることが好ましい。これらの粒子の表面に、分散性・不溶性を向上させるための表面処理を、必要に応じて施すことができる。
上記のりん酸アルミ系化成処理層の上に配置されるべき有機樹脂層は、鋼材から水・酸素・電解質等の腐食因子を遮断し、鋼材の防食性を著しく向上させる機能を有する。有機樹脂層の厚さは、コストと耐久性の兼ね合いの点から、全体で1〜5mmが好ましい。この厚さは、更には1〜3mm(特に2〜3mm)が好ましい。
とりわけ、海洋構造物に用いる有機樹脂層は、密着性、耐食性、耐久性ともに非常に優れている必要がある。このため、通常は 有機樹脂層を2〜3層構造とし、化成処理層側に樹脂プライマー層として1〜2層、大気側には膜厚を厚くした保護層を設けることが一般的である。
プライマー層は、金属と樹脂層との密着性・接着面の耐水性を向上させるのが主な目的で、必要に応じて(本発明においては、金属とりん酸鉄化成処理層との間に)設けることができる。海洋構造物用の塗装樹脂であれば、エポキシ樹脂等が適している。この場合、エポキシ樹脂の膜厚は、100〜500μmが優れ、鋼材とトップ層を強固に接着させることができる。エポキシ樹脂の膜厚は、更には200〜500μm(特に300〜500μm)であることが好ましい。該膜厚が100μmより薄いと、腐食の起点となる塗装欠陥が多くなり、耐食性が劣化する傾向がある。他方、該膜厚が500μmより厚くても、プライマー層の接着効果が飽和する傾向がある。
保護層は、主に防食を担い、耐久性に優れ、電解質・水・酸素を遮断する樹脂層であり、必要に応じて、(最外層として)設けるのが好ましい。高耐久性、形成性、経済性の点からは、保護層は、ウレタン樹脂系、ポリオレフィン樹脂系、エポキシ樹脂系のものが好ましい。これらの変性物や、さらに硬化剤、無機顔料を好適に添加したものを、必要に応じて用いてもよい。
この鋼材表面に、市販のりん酸鉄処理液(日本パーカーライジング社製、パルホス3454)をスプレー塗布・乾燥した。尚、噴霧量・処理時間によって皮膜厚さを変化させたが、1μm以上の皮膜を得ることはできなかったため、これを上限値とした。比較として、りん酸鉄処理を行わないサンプル(皮膜厚さ0μm)も用意した。また、リン酸鉄処理と異なるりん酸塩処理サンプル(比較用)として、りん酸亜鉛処理と同様に、日本パーカー製のエナレス20を推奨条件下でスプレー塗布し、作製した。
りん酸アルミ系化成処理には、酸化ホウ素1.5wt%含有の50mass%第一リン酸アルミニウム水溶液に対して、100wt%の水、1.8wt%の酸化マグネシウム、分散性を改善するために表面処理されたアルミナ顔料あるいはチタニア顔料を15wt%をそれぞれ添加・混合した溶液を用いた。この無機組成モル比率は、Al2O3/P2O5=0.4、B2O3/P2O5=0.05、MgO/P2O5=0.2であり、無機体質顔料は乾燥皮膜中で16vol%を占めている。
有機樹脂被覆は、プライマーとして、エポキシ樹脂塗料を所定の膜厚になるように、スプレー塗布・硬化させ、その上にカオリンクレー微粉末含有2液硬化ウレタンエラストマーをスプレー塗装で、所定の厚さになるようにポリウレタン樹脂層を形成した。
評価方法(こすれ破壊試験)を以下に述べる。10kgの鉄球の下に、鉛直方向に対して30度の角度を持ってサンプルを置いて固定し、サンプル中央に鉄球を自由落下・衝突させる。落下高さを、最低20cmから、10cmづつ段階的に高くして自由落下させ、樹脂被覆が鉄球のこすれによって剥離する最小高さを記録した。ここでは、樹脂被覆の一部がサンプルから脱離したものがあれば剥離と判断した。
Claims (9)
- 鋼材表面に、鋼材側から順に、りん酸鉄化成処理層、りん酸アルミ系化成処理層、有機樹脂層が積層された有機樹脂被覆鋼材であって;
前記りん酸アルミ系化成処理層がP、Al、B、及び、MgあるいはCaから選らばれる金属Mを含み、
該りん酸アルミ系化成処理層の組成が、無水酸化物換算のモル比で、Al2O3/P2O5=0.2〜0.6、B2O3/P2O5=0.01〜0.1、MO/P2O5=0.01〜0.2を与えるバインダーと、無機体質顔料とを含み、
前記無機質顔料が、前記りん酸アルミ系化成処理層の乾燥皮膜に対して10〜50vol%添加されたものであることを特徴とする有機樹脂被覆鋼材。 - 前記りん酸鉄化成処理層の平均膜厚が0.1〜1μmである請求項1に記載の有機樹脂被覆鋼材。
- 前記有機樹脂層が、化成処理層の直上に形成されるプライマー層と、ウレタンエラストマー樹脂から成るトップ層から構成されることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の有機樹脂被覆鋼材。
- 前記プライマー層が、エポキシ樹脂から成る請求項3に記載の有機樹脂被覆鋼材。
- 前記プライマー層の厚みが100〜500μmである請求項3または4のいずれか1項に記載の有機樹脂被覆鋼材。
- 前記トップ層の厚みが2〜4mmである請求項3〜5のいずれか1項に記載の有機樹脂被覆鋼材。
- 前記りん酸アルミ化成処理層の厚さが5〜40μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機樹脂被覆鋼材。
- 前記金属MがMgであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機樹脂被覆鋼材。
- 前記りん酸アルミ系化成処理層中の無機体質顔料がアルミナであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機樹脂被覆鋼材。
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