つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1にこの発明の一例をスケルトン図で示してあり、入力部材1が二つの可変容量型流体圧ポンプモータ2,3に連結されている。この入力部材1は、図示しないエンジンや電動機などの動力源のトルクを可変容量型流体圧ポンプモータ2,3に伝達するためのものであって、回転軸や歯車あるいは巻き掛け伝動機構などによって構成されている。なお、以下の説明では、入力部材1を入力軸1と記す。
可変容量型流体圧ポンプモータ2,3は、主として、入力側の部材と出力側の部材との間でのトルクの伝達を行うためのものであり、斜板ポンプやラジアルピストンポンプあるいはベーンポンプなどのポンプ容量を連続的に変えることができ、またポンプとしての吐出側から圧力流体を強制的に供給することにより、軸トルクを発生するモータとしても機能する装置である。したがって、斜板の傾斜角度を変更し、あるいはロータのハウジングに対する偏心量を変更するためのアクチュエータ(図示せず)を備えている。さらに、可変容量型流体圧ポンプモータ2,3は、ポンプとして機能している際にその吐出圧を高くするべく流体を閉じ込めることにより、斜板やロータなどの回転部材に連結されている軸の回転を規制し、その軸にトルクが入力されている場合には、その入力トルクに対抗する反力トルクを生じるように構成されている。以下の説明では、可変容量型流体圧ポンプモータを、単にオイルポンプと記す。
図1に示すオイルポンプ2,3は、同一軸線上に軸線方向に並べて配列され、いわゆるタンデム型のツインポンプとして構成されている。すなわち、前記入力軸1が連結された入力側の部材は、円筒状を成すハウジング4であり、そのハウジング4の内部に、出力側の部材である二つのロータ6,7が、同一軸線上で軸線方向に並んで配列されている。斜板ポンプの場合には、そのロータ6,7が角度の変更可能な斜板であって、プランジャなどの一回転する間に往復動して流体を吸入・加圧する部材が保持されている。また、ラジアルピストンポンプやベーンポンプの場合には、公転軌道円の偏心量を変更可能なロータ6,7にピストンあるいはベーンが保持されている。
したがって、各オイルポンプ2,3は、入力側回転部材であるハウジング4と出力側回転部材であるロータ6,7とが相対回転することにより、オイルを吸入するとともにそのオイルを加圧して吐出するいわゆる差動ポンプとして構成されている。また、オイルの吸入もしくは吐出を制限すると、すなわち吐出圧を高くすると、オイルが封入された状態となり、そのオイルが実質的に非圧縮性であることにより、ポンプとしての動作が制限もしくは阻止される。その結果、ハウジング4とロータ6,7との相対回転が阻止もしくは制限される。すなわち、ハウジング4とロータ6,7との間で伝達されるトルク(もしくは伝達トルク容量)が増大する。
さらに、各オイルポンプ2,3の吐出口同士が連通されている。したがって、各オイルポンプ2,3のポンプ容量をゼロより大きい容量に設定した状態で、一方のオイルポンプ2(もしくは3)をポンプとして機能させ、その吐出した圧力流体である圧油を他方のオイルポンプ3(もしくは2)に供給することにより、該他方のオイルポンプ3(もしくは2)がモータとして機能するようになっている。また、ポンプ容量をゼロとした場合には、オイルの給排が生じず、あるいは圧油を供給しても回転しないので、オイルポンプ2,3を通過するオイルの流通が生じない。そのため、一方のオイルポンプ2(もしくは3)をポンプとして機能させ、かつ他方のオイルポンプ3(もしくは2)のポンプ容量をゼロとすると、前記一方のオイルポンプ2(もしくは3)から他方のオイルポンプ3(もしくは2)を介したオイルの吐出が規制される。すなわち、オイルを吐出できなくなり、いわゆるオイルの閉じ込みが成立する。
各オイルポンプ2,3から後述する伝動機構にトルクを伝達する中間軸17,18が設けられている。すなわち、一方のオイルポンプ(入力軸1側、もしくは図2の左側のオイルポンプ)2におけるロータ6には、その回転中心軸線に沿って延びる中間軸(以下、仮に第1中間軸と記す)17が一体化して設けられており、その第1中間軸17は、他方のオイルポンプ(入力軸1とは反対側、もしくは図2の右側のオイルポンプ)3におけるロータ7を貫通して、入力軸1と同一軸線上でかつ入力軸1とは反対方向に延び、ハウジング4の外部に突出している。この第1中間軸17の外周側に他の中間軸(以下、仮に第2中間軸と記す)18が相対回転自在に嵌合されている。すなわち、第2中間軸18は中空軸であって、オイルポンプ3におけるロータ7の一方の側面の中心部に一体化するように取り付けられている。そして、この第2中間軸18は、第1中間軸17と同様に、入力軸1と同一軸線上でかつ入力軸1とは反対方向に延び、ハウジング4の外部に突出している。
なお、これらの中間軸17,18は変速機全体のケーシング(図示せず)などの固定部もしくは筐体部によって回転自在に支持され、その支持部もしくはその近傍で固定部あるいは筐体部に密着嵌合している。そして、前記吸入口や吐出口は、各中間軸17,18の内部を貫通して、固定部あるいは筐体部との密着嵌合部に延び、ここから、固定部あるいは筐体部に形成されている油路(図示せず)に連通している。
ここで、各オイルポンプ2,3からのオイルの吐出状態を制御するための油圧回路について説明すると、図2に示すように、各オイルポンプ2,3の前記吐出口同士が、吐出油路19によって連通されている。したがってこの吐出油路19は、モータとして機能するオイルポンプに対して吸入油路となっている。この吐出油路19の途中には、この発明における制御弁に相当するオン・オフ弁20が介装されている。このオン・オフ弁20は、吐出油路19を開閉して各オイルポンプ2,3の吐出口同士を連通させ、また遮断するバルブであって、リターンスプリング21の弾性力に対抗するように制御圧(制御信号)を加えることによりオン状態となり、吐出油路19を閉じるように構成されている。すなわち、制御圧(制御信号)が作用していないオフ状態では、吐出油路19の遮断を解くいわゆるノーマルオープンタイプのバルブである。
上記の制御圧(制御信号)は、特には図示しないが、ソレノイドで発生させた電磁力やソレノイドバルブで制御された油圧、カムなどによって変更できるバネ力などであってよく、好ましくは電気的に制御可能な押圧力である。この制御圧(制御信号)を制御するための電子制御装置(ECU)27が設けられている。この電子制御装置27は、マクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータならびにプログラムに従って演算を行い、その演算の結果に応じて所定の制御信号を出力するように構成されている。その制御信号は、例えば上記の各オイルポンプ2,3のポンプ容量を変更する制御信号やオン・オフ弁20を開閉動作させる制御信号などである。
一方、各オイルポンプ2,3の吸入口には、各オイルポンプ2,3毎に吸入油路28が連通した状態で設けられており、その各吸入油路28がオイルパンなどのオイル溜め部30に連通されている。
この発明に係る変速機は、上記の入力軸1からオイルポンプ2,3を介して伝達されたトルクをギヤ列などの伝動機構を介して出力するように構成されている。その伝動機構の一例を説明すると、図1に示すように、各中間軸17,18と平行に出力軸32と副軸33とが配置されている。前記第1中間軸17は第2中間軸18の先端側(図1の右側)に突出しており、その第1中間軸17の先端部側から基端部側に順に、第1速ギヤ対34、第3速ギヤ対35、第5速ギヤ対36が設けられている。また、第2中間軸18の先端部側から基端部側に順に、第2速ギヤ対37、第4速ギヤ対38が設けられている。なお、第1速ギヤ対34、第2速ギヤ対37、第3速ギヤ対35、第4速ギヤ対38ならびに第5速ギヤ対36は、ここに挙げてある順にギヤ比が小さくなるように構成されている。
より具体的に説明すると、第1速駆動ギヤ34Aと第3速駆動ギヤ35Aとが互いに隣接して第1中間軸17に取り付けられており、その第1速駆動ギヤ34Aに噛み合っている第1速従動ギヤ34Bと第3速駆動ギヤ35Aに噛み合っている第3速従動ギヤ35Bとが、互いに隣接した状態で、出力軸32に回転自在に嵌合されている。これらの従動ギヤ34B,35Bを出力軸32に対して選択的に連結するクラッチ機構が、各従動ギヤ34B,35Bの間に配置されている。このクラッチ機構は、一例として、従来知られている同期連結機構(シンクロナイザー)39によって構成されており、出力軸32と共に回転するスリーブを軸線方向に移動させていずれかの従動ギヤ34B,35Bにスプライン嵌合させることにより、出力軸32に対して各従動ギヤ34B,35Bを選択的に連結するようなっている。
第1中間軸17には、前記第3速駆動ギヤ35Aに隣接して第5速駆動ギヤ36Aが取り付けられており、この第5速駆動ギヤ36Aに噛み合っている第5速従動ギヤ36Bが、副軸33に回転自在に嵌合して保持されている。
さらに、上記の第1中間軸17の外周側に位置する第2中間軸18の先端部側から順に、第2速駆動ギヤ37Aと第4速駆動ギヤ38Aとが取り付けられており、その第2速駆動ギヤ37Aに噛み合っている第2速従動ギヤ37Bと第4速駆動ギヤ38Aに噛み合っている第4速従動ギヤ38Bとが、互いに隣接した状態で、出力軸32に回転自在に嵌合されている。これらの従動ギヤ37B,38Bを出力軸32に対して選択的に連結するクラッチ機構が、各従動ギヤ37B,38Bの間に配置されている。このクラッチ機構は、一例として、従来知られている同期連結機構(シンクロナイザー)40によって構成されており、出力軸32と共に回転するスリーブを軸線方向に移動させていずれかの従動ギヤ37B,38Bにスプライン嵌合させることにより、出力軸32に対して各従動ギヤ37B,38Bを選択的に連結するようなっている。
前記第2速駆動ギヤ37Aの外周側には、この第2速駆動ギヤ37Aに噛み合っているアイドルギヤ41が配置されており、このアイドルギヤ41に噛み合っているリバース従動ギヤ42Bが副軸33に回転自在に嵌合して支持されている。したがってこのリバース従動ギヤ42Bと前記第5速従動ギヤ36Bとは、副軸33上で互いに隣接しており、これらの従動ギヤ36B,42Bを副軸33に対して選択的に連結するクラッチ機構が、各従動ギヤ36B,42Bの間に配置されている。このクラッチ機構は、一例として、従来知られている同期連結機構(シンクロナイザー)43によって構成されており、副軸33と共に回転するスリーブを軸線方向に移動させていずれかの従動ギヤ36B,42Bにスプライン嵌合させることにより、出力軸32に対して各従動ギヤ36B,42Bを選択的に連結するようなっている。したがって、第2速駆動ギヤ37Aは、後進段(リバースギヤ)を設定するためのギヤ対における駆動ギヤの機能を備えている。
上記の副軸33と出力軸32との間で動力を伝達するための伝動機構が設けられている。この伝動機構としては、歯車機構や巻き掛け伝動機構などを必要に応じて採用することができ、図1に示す例では、アイドルギヤ44を用いた歯車機構が採用されている。なお、その歯車機構におけるギヤ比は“1”に設定され、副軸33と出力軸32との間では加減速が生じないようになっている。
上記の各同期連結機構39,40,43(以下、仮に第1シンクロ39、第2シンクロ40、第3シンクロ43と記す)は、この発明における切換機構に相当し、スリーブを左右いずれかに移動させることにより、いずれかの従動ギヤを出力軸32もしくは副軸33に対して連結し、スリーブが中央に位置する状態ではその連結を解除してニュートラルとなるように構成されている。スリーブのこのような移動は手動操作によって直接行うように構成することもできるが、電気式アクチュエータや油圧式アクチュエータ(それぞれ図示せず)によってスリーブを動作させるように構成することが好ましい。この種のアクチュエータを前記電子制御装置27からの制御信号によって動作させることにより、電気的な変速制御が可能になるからである。
つぎに、上述した変速機の作用について説明する。図3は、各変速段を設定する際の各オイルポンプ2,3、および各シンクロ39,40,43の動作状態をまとめて示す図表であって、この図3における各オイルポンプ2,3についての「OFF」は、ポンプ容量を実質的にゼロとし、前記ハウジング4とロータ6,7もしくは中間軸17,18との間でトルクの伝達が生じない状態を示し、「LOCK」は、ポンプ容量を最大にするとともにオイルの吐出を制限してハウジング4とロータ6,7もしくは中間軸17,18との間でのトルク伝達を生じさせている状態を示している。さらに「油圧発生」は、ポンプ容量を実質的なゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当するオイルポンプ2,3はポンプとして機能している。また、「油圧回収」は、一方のオイルポンプが吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当するオイルポンプは軸トルクを発生し、対応する中間軸17,18に駆動トルクを伝達している。
そして、各シンクロについての「右」、「左」は、それぞれのシンクロにおけるスリーブの図1での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「−」はスリーブが中央に位置して中立状態となっていることを示す。
図示しないシフト装置でニュートラルポジションが選択されるなどのことによってニュートラル(N)状態を設定する際には、各オイルポンプ2,3が「OFF」状態とされ、また各シンクロ39,40,43のスリーブが中央位置に設定され、いずれのギヤ対も出力軸32もしくは副軸33に連結されていないニュートラル状態となる。すなわち、各オイルポンプ2,3が、ポンプ容量が実質的にゼロとなるように制御され、その結果、いわゆる空回り状態となるので、入力軸1からハウジング4にトルクが伝達されても、ロータ6,7あるいは中間軸17,18にはトルクが伝達されない。したがって、各オイルポンプ2,3ではオイルの吸入や吐出が生じない。その場合、オン・オフ弁20は、オン状態とオフ状態とのいずれであってもよい。
車両が発進する場合、先ず、第1シンクロ39のスリーブが図1の右側に移動させられて第1速従動ギヤ34Bが出力軸32に連結され、第1中間軸17と出力軸32とが第1速ギヤ対34を介して連結される。その状態で、第1中間軸17に連結されているオイルポンプ2のポンプ容量を次第に増大させて油圧を発生させ、またその吐出圧を次第に高くして最終的には「LOCK」状態に制御する。すなわち、そのオイルポンプ2のポンプ容量を所定値に設定した状態で、前記オン・オフ弁20をオン状態にして吐出油路19を閉じる。
その結果、油圧を発生するために要するトルクが、ハウジング4とロータ6との相対回転を制限する反力トルクとなるので、ハウジング4からロータ6およびこれに連結されている中間軸17にトルクが伝達される。そして、そのトルクが第1速ギヤ対34を介して出力軸32に伝達されるから、車両の駆動トルクが滑らかに増大し、滑らかな発進をおこなうことができる。
その場合、第2シンクロ40および第3シンクロ43は、ニュートラル状態に制御されている。したがって、第1速ギヤ対34以外のギヤ対および第2中間軸18が連結されている他のオイルポンプ3が、出力軸32に対して連結されていないので、車両の発進に伴って出力軸32が回転しても、当該他のオイルポンプ3や第1速ギヤ対34以外のギヤ対が回転することがない。その結果、発進の際の動力が、変速段の設定に直接関与しない回転部材あるいは発進のためのトルクの伝達に直接関与しない回転部材を回転させることに消費されることや、当該他のオイルポンプ3でオイルを吸入・吐出することに消費されることを回避できる。そのため、いわゆる引き摺り損失を抑制して動力性能を向上させ、また車両の全体としての燃費を向上させることができる。このようにシンクロをニュートラル状態と後述する待機状態とに選択的に設定する手段がこの発明の選択手段に相当する。
第1中間軸17が連結されているオイルポンプ2の吐出圧を高くしてその吐出流量を最大限制限した「LOCK」状態となると、そのオイルポンプ2および第1中間軸17ならびに第1速ギヤ対34を介して出力軸32にトルクが伝達され、第1速の変速段(変速比)が設定される。第1速からの変速は、アップシフトのみであるから、第2速ギヤ対37を出力軸32に連結し、アップシフト待機状態とする。すなわち、第2シンクロ40のスリーブを図1の右側に移動させて、第2速従動ギヤ37Bを出力軸32に連結する。その場合、第2中間軸18が連結されているオイルポンプ3は、ポンプ容量が実質的にゼロとなるいわゆる「OFF」状態であってトルクを伝達していないので、いわゆる二重係合によるロック状態が生じることはない。
第1速における上記のアップシフト待機状態では、トルクを伝達している一方のオイルポンプ2が「LOCK」状態となっていてハウジング4とロータ6との回転数差はほぼゼロであるが、他方のオイルポンプ3におけるロータ7が、出力軸32およびこれに第2速ギヤ対37を介して連結されている中間軸18側から入力されるトルクによって回転させられているため、その回転数差が生じている。この状態から、第2速側のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に増大させると、このオイルポンプ3がポンプとして機能し、圧油を吐出する。この状態が図3に「油圧発生」と記載している状態である。
したがって、第2速側のオイルポンプ3のポンプ容量を増大させた状態で、もしくはポンプ容量を増大させつつ、オン・オフ弁20をオフ状態にして各オイルポンプ2,3を連通させると、第2速側のオイルポンプ3から第1速側のオイルポンプ2に圧油が供給され、この第1速側のオイルポンプ2が油圧モータとして機能する。すなわち、供給された圧油に応じたトルクを中間軸17に生じさせる。図3に「油圧回収」と記載してある状態である。
これが第1速と第2速との間の変速過渡状態(あるいは中間段の状態)であり、出力軸32に対しては、各中間軸17,18および第1速ギヤ対34および第2速ギヤ対37を介してトルクが伝達され、その変速比は、第1速の変速比と第2速の変速比との中間の値になり、かつ第2速側のオイルポンプ3のポンプ容量の増大に伴って変速比が次第に小さくなる。すなわち、変速比が連続的に変化し、無段変速状態となる。このように、第2速側のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に増大させるとともに、第1速側のオイルポンプ2のポンプ容量を次第に減少させ、そしてオン・オフ弁20によって第2速側のオイルポンプ3の圧油の吐出を制限すると、この第2速側のオイルポンプ3が「LOCK」状態となるとともに、第1速側のオイルポンプ2が「OFF」状態となり、第2速が設定される。
このようにして設定される第2速では、モータとして機能していたオイルポンプ2のトルク容量が実質的にゼロに設定されていわゆる空回り状態となり、また第2速側のオイルポンプ3の吐出する圧油が供給されないので、第1速側(すなわち第1中間軸17側)のオイルポンプ2が、第1中間軸17と共に回転するとしても、いわゆる引き摺りトルクが殆ど生じず、動力損失が防止もしくは抑制される。この状況は、第1速などの他の変速段、すなわちいずれか一つのギヤ対を介してトルクを伝達して設定されている変速比でも同様である。
ここで、各ギヤ対によって決まる変速比同士の間の値となる変速比における出力トルクToおよびモータとして機能するオイルポンプ側の油圧回路の圧力Pを、第1速と第2速との間の変速比を例に採って説明すると、その出力トルクToは、
To≒(κ1・q1+κ2・q2)/(q1+q2)×Tin
であり、また前記油圧回路の圧力Pは、
P≒2π/(q1+q2)×Tin
である。ここで、κ1は第1速ギヤ対34のギヤ比、q1は第1中間軸17側の油圧ポンプ2の1回転当たりのオイルの吐出量、κ2は第2速ギヤ対37のギヤ比、q2は第2中間軸18側の油圧ポンプ3の1回転当たりのオイルの吐出量、Tinは入力軸1への入力トルクである。
第2速から第3速へのアップシフトや第2速から第1速へのダウンシフトは、上述した変速の場合と実質的に同様にして実行され、要は、いずれかのシンクロを、目的とする変速段のギヤ対側に移動させておき、その状態で、トルクを伝達するオイルポンプ2,3を上述のようにして切り替えることにより実行される。これを簡単に説明すると、第2速から第1速へのダウンシフトは、第1シンクロ39におけるスリーブを図1の右側に移動させて第1速ギヤ対34を出力軸32に連結した状態で、第2速側のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に低下させ、かつ第1速側のオイルポンプ2のポンプ容量を次第に増大させる。その変速の過程では、変速の前後で高速段側を設定する第2速側のオイルポンプ3がポンプとして機能し、低速段側を設定する第1速側のオイルポンプ2がモータとして機能する。また、その過程での変速比は、第1速ギヤ対34で決まる変速比と第2速ギヤ対37で決まる変速比との間の変速比であって、変速の進行に伴って連続的に変化する変速比となる。
第2速から第3速へのアップシフトは、第2速が設定されている状態で第1シンクロ39におけるスリーブを図1の左側に移動させて第3速ギヤ対35を出力軸32に連結した状態で、第2速側(第2中間軸18側)のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に低下させ、かつ第3速側(第1中間軸17側)のオイルポンプ2のポンプ容量を次第に増大させる。その変速の過程では、変速の前後で高速段側を設定する第2速側のオイルポンプ3がポンプとして機能し、低速段側を設定する第3速側のオイルポンプ2がモータとして機能する。また、その過程での変速比は、第2速ギヤ対37で決まる変速比と第3速ギヤ対35で決まる変速比との間の変速比であって、変速の進行に伴って連続的に変化する変速比となる。そして、第3速は、第1中間軸17側のオイルポンプ2を「LOCK」状態とし、かつ第2中間軸18側のオイルポンプ3を「OFF」状態とすることにより設定される。
第3速から第2速へのダウンシフトは、第2シンクロ40におけるスリーブを図1の右側に移動させて第2速ギヤ対37を出力軸32に連結した状態で、第3速側(第1中間軸17側)のオイルポンプ2のポンプ容量を次第に低下させ、かつ第2速側(第2中間軸18側)のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に増大させる。その変速の過程では、変速の前後で高速段側を設定する第3速側のオイルポンプ2がポンプとして機能し、低速段側を設定する第2速側のオイルポンプ3がモータとして機能する。また、その過程での変速比は、第3速ギヤ対35で決まる変速比と第2速ギヤ対37で決まる変速比との間の変速比であって、変速の進行に伴って連続的に変化する変速比となる。
第3速から第4速へのアップシフトは、第3速が設定されている状態で第2シンクロ40におけるスリーブを図1の左側に移動させて第4速ギヤ対38を出力軸32に連結した状態で、第3速側(第1中間軸17側)のオイルポンプ2のポンプ容量を次第に低下させ、かつ第4速側(第2中間軸18側)のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に増大させる。その変速の過程では、変速の前後で高速段側を設定する第4速側のオイルポンプ3がポンプとして機能し、低速段側を設定する第3速側のオイルポンプ2がモータとして機能する。また、その過程での変速比は、第3速ギヤ対35で決まる変速比と第4速ギヤ対38で決まる変速比との間の変速比であって、変速の進行に伴って連続的に変化する変速比となる。そして、第4速は、第2中間軸18側のオイルポンプ3を「LOCK」状態とし、かつ第1中間軸17側のオイルポンプ2を「OFF」状態とすることにより設定される。
第4速から第3速へのダウンシフトは、第1シンクロ39におけるスリーブを図1の左側に移動させて第3速ギヤ対35を出力軸32に連結した状態で、第4速側(第2中間軸18側)のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に低下させ、かつ第3速側(第1中間軸17側)のオイルポンプ2のポンプ容量を次第に増大させる。その変速の過程では、変速の前後で高速段側を設定する第4速側のオイルポンプ3がポンプとして機能し、低速段側を設定する第3速側のオイルポンプ2がモータとして機能する。また、その過程での変速比は、第4速ギヤ対38で決まる変速比と第3速ギヤ対35で決まる変速比との間の変速比であって、変速の進行に伴って連続的に変化する変速比となる。
第4速から第5速へのアップシフトは、第4速が設定されている状態で第3シンクロ43におけるスリーブを図1の右側に移動させて第5速ギヤ対36を副軸33に連結した状態で、第4速側(第2中間軸18側)のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に低下させ、かつ第5速側(第1中間軸17側)のオイルポンプ2のポンプ容量を次第に増大させる。その変速の過程では、変速の前後で高速段側を設定する第5速側のオイルポンプ2がポンプとして機能し、低速段側を設定する第4速側のオイルポンプ3がモータとして機能する。また、その過程での変速比は、第4速ギヤ対38で決まる変速比と第5速ギヤ対36で決まる変速比との間の変速比であって、変速の進行に伴って連続的に変化する変速比となる。そして、第5速は、第1中間軸17側のオイルポンプ2を「LOCK」状態とし、かつ第2中間軸18側のオイルポンプ3を「OFF」状態とすることにより設定される。
第5速から第4速へのダウンシフトは、第2シンクロ40におけるスリーブを図1の左側に移動させて第4速ギヤ対38を出力軸32に連結した状態で、第5速側(第1中間軸17側)のオイルポンプ2のポンプ容量を次第に低下させ、かつ第4速側(第2中間軸18側)のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に増大させる。その変速の過程では、変速の前後で高速段側を設定する第5速側のオイルポンプ2がポンプとして機能し、低速段側を設定する第4速側のオイルポンプ3がモータとして機能する。また、その過程での変速比は、第5速ギヤ対36で決まる変速比と第4速ギヤ対38で決まる変速比との間の変速比であって、変速の進行に伴って連続的に変化する変速比となる。
なお、後進段は、第3シンクロ43のスリーブを図1の左側に移動してリバース従動ギヤ42Bを副軸33に連結した状態で、第2中間軸18側のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に増大させ、最終的には、このオイルポンプ3を「LOCK」状態とする。したがって、入力軸1から第2中間軸18に伝達されるトルクが次第に増大し、またトルクを伝達するギヤ列が後進段を設定するためのものであるから、駆動トルクが徐々に増大して車両が後進走行する。
各変速段およびその変速過渡状態(中間比)について述べたように、この発明に係る上記の変速機では、各オイルポンプ2,3のポンプ容量を変化させることにより、各ギヤ対で決まる各変速比の中間の値の変速比を設定することができ、いわゆる無段変速機として機能させることができる。また、各ギヤ対で決まる変速比に対する中間の値の変速比を設定する場合や各ギヤ対で決まる変速比同士の間で変速する過渡状態では、いずれか一方のオイルポンプ2(もしくは3)がポンプとして機能し、その吐出した圧油を他方のオイルポンプ3(もしくは2)に供給してこれをモータとして機能させるから、圧油の吐出に要した動力を他方のオイルポンプ3(もしくは2)を介して駆動トルクとして回収することになり、そのため動力の損失を抑制して車両の燃費を向上させることができ、またオイルの発熱を抑制してオイルクーラーなどの冷却機構(図示せず)を小型化もしくは廃止できるとともに、オイルの耐久性を向上させることができる。
つぎにこの発明の他の具体例を説明する。なお、以下に掲げるスケルトン図における太い矢印は、回転方向あるいはトルクの伝達方向を示す。図4に示す例は、オイルポンプ2,3を軸線方向に並べて配列(タンデム配列)せずに、半径方向に離隔して平行に配置(パラレル配列)し、それに伴って第1中間軸17および第2中間軸18を平行に配置し、さらに各オイルポンプ2,3とそれぞれに対応する中間軸17,18との間に差動歯車機構を介在させることにより各オイルポンプ2,3から差動歯車機構に反力を与えて、入力軸1から各中間軸17,18に伝達するトルクを制御するように構成した例である。すなわち、図4に示す各オイルポンプ2,3は、それぞれ、ハウジングと、ロータとを備えており、そのハウジングは固定され、これに対してロータは出力軸(図示せず)に連結され、あるいはポンプとして機能する場合にはロータが入力側の部材となりかつモータとして機能する場合にはロータに出力トルク(軸トルク)が現れるようになっている。
そして、これらのオイルポンプ2,3の吐出口2D,3D同士が吐出油路19によって連通され、これが高圧側油路となっている。この吐出油路19にオン・オフ弁20が介装されている。また、各オイルポンプ2,3の吸入口2S,3Sが、共に、吸入油路28を介してオイル溜め部30に連通され、これが低圧側油路となっている。
これらのオイルポンプ2,3が連結されている差動歯車機構は、入力要素と、出力要素と、反力要素との三つの要素が相互に差動作用をなすように構成された歯車機構であり、図4に示す例では、シングルピニオン型遊星歯車機構48,49が用いられている。これらの遊星歯車機構48,49は、それぞれに対応する中心軸17,18と同一軸線上に配置されており、外歯歯車であるサンギヤ48S,49Sと、そのサンギヤ48S,49Sと同心円状に配置された、内歯歯車であるリングギヤ48R,49Rと、これらサンギヤ48S,49Sとリングギヤ48R,49Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在かつ公転自在に保持したキャリヤ48C,49Cとを備えている。そして、このリングギヤ48R,49Rが入力要素となっていて、連結ギヤ対46を介して入力軸1に連結されている。また、キャリヤ48C,49Cが出力要素となっていて、中間軸17,18にそれぞれ連結されている。さらに、サンギヤ48S,49Sが反力要素となっていて、オイルポンプ2,3のロータに連結されている。
上記の各中間軸17,18と平行に出力軸32が配置されており、これら中間軸17,18と出力軸32との間に前進5速・後進1速の変速比を設定するギヤ列が設けられている。すなわち、第1中間軸17には、第1速駆動ギヤ34Aと、第3速駆動ギヤ35Aと、第5速駆動ギヤ36Aとが、ここに挙げた順に軸線方向に配列されて回転自在に嵌合されている。そして、第1速駆動ギヤ34Aと第3速駆動ギヤ35Aとの間に、これらの駆動ギヤ34A,35Aを第1中間軸17に対して選択的に連結する第1シンクロ39が配置されている。また、第5速駆動ギヤ36Aを第1中間軸17に対して選択的に連結する第3シンクロ43が、その第5速駆動ギヤ36Aに対して図4の左側に隣接して配置されている。
一方、出力軸32には、第1速駆動ギヤ34Aに噛み合っている第1速従動ギヤ34Bと、第3速駆動ギヤ35Aに噛み合っている第3速従動ギヤ35Bと、第5速駆動ギヤ36Aに噛み合っている第5速従動ギヤ36Bとが、ここに挙げた順に軸線方向に配列され、かつ出力軸32と一体回転するように取り付けられている。その第1速従動ギヤ34Bに噛み合っている第2速駆動ギヤ37Aが、第2中間軸18に回転自在に嵌合されて支持されている。したがって第1速従動ギヤ34Bは第2速従動ギヤを兼ねている。また、第3速従動ギヤ35Bに噛み合っている第4速駆動ギヤ38Aが、第2中間軸18に回転自在に嵌合されて支持されている。したがって第3速従動ギヤ35Bは第4速従動ギヤを兼ねている。
上記の第2速駆動ギヤ37Aと第4速駆動ギヤ38Aとは、軸線方向に互いに隣接しており、これらの駆動ギヤ37A,38Aの間に、これらの駆動ギヤ37A,38Aを第2中間軸18に対して選択的に連結する第2シンクロ40が設けられている。
さらに、第2中間軸18には、前記第5速従動ギヤ36Bにアイドルギヤ41を介して連結されているリバース駆動ギヤ42Aが回転自在に嵌合されて支持されている。したがって、第5速従動ギヤ36Bがリバース従動ギヤを兼ねている。そして、このリバース駆動ギヤ42Aを第2中間軸18に対して選択的に連結する同期連結機構(シンクロナイザー)47が、リバース駆動ギヤ42Aに隣接して配置されている。この同期連結機構47は、前述した第1ないし第3のシンクロ39,40,43と同様の構成のいわゆるクラッチ機構であり、スリーブを軸線方向に移動させることにより、そのスリーブをリバース駆動ギヤ42Aにスプライン嵌合させ、リバース駆動ギヤ42Aを第2中間軸18に選択的に連結するように構成されている。なお、以下の説明ではこの同期連結機構47を、仮に第4シンクロ47と記す。
一方、図5に示す例は、上述した図4に示す構成におけるオン・オフ弁20を圧力制御弁50に置き換えた例である。この圧力制御弁50は、この発明の吐出圧制御手段あるいはカット弁に相当するものであって、一例として、開弁方向にスプリング51によって押圧されているスプールなどの弁体(図示せず)に対して、スプリング51とは反対方向に制御圧を作用させ、さらに前記吐出油路19の油圧をスプリング51と同方向に弁体に対して作用させるように構成されている。そして、その制御圧を、電気的に制御可能なソレノイドバルブ52によって発生させるようになっている。すなわち、圧力制御弁50は、制御圧を高くすることによりいわゆる調圧レベルが高くなって吐出油路19の油圧が高くなり、制御圧を低くして所定の下限圧力になると、吐出油路19をオイル溜め部30などのドレーン箇所に完全に連通させて、その油圧をほぼゼロとするように構成されている。したがって、図5に示す構成では、ポンプとして機能するオイルポンプ2,3の吐出圧あるいはそれに関連する軸トルクを、ソレノイドバルブ52を介して電気的に制御できるように構成されている。他の構成は、図4に示す構成と同様であり、したがって図5に図4と同様に符号を付してその説明を省略する。
つぎに、上記の図4に示す構成の変速機および図5に示す変速機の作用について説明する。これら図4あるいは図5に示す変速機では、入力軸1のトルクが遊星歯車機構48,49を介して中間軸17,18に伝達されるから、入力軸1から中間軸17,18に伝達されるトルクが、オイルポンプ2,3による反力の状態に応じて変化する。すなわち、入力軸1から中間軸17,18に伝達するトルクをオイルポンプ2,3によって制御する点では、前述した図1に示す例と同様であるが、オイルポンプ2,3がトルクの伝達を直接媒介しないので、オイルポンプ2,3で受け持つトルクが、図1に示す例に比較して小さくなる。
具体的に説明すると、図6は、図4あるいは図5に示す変速機で各変速段およびそれらの中間の変速比を設定するための各オイルポンプ2,3および各シンクロ39,40,43,47の動作状態をまとめて示す図表であり、また図7は、発進から第1速が設定される過渡状態における各遊星歯車機構48,49について共線図である。なお、共線図は、サンギヤ、キャリヤ、リングギヤを遊星歯車機構におけるギヤ比に応じた間隔を空けた平行な線で表し、「0」で示す横線の上下方向に回転数を採った線図である。
ニュートラル状態では、入力軸1のトルクを伝達しないようにするから、各オイルポンプ2,3のポンプ容量は最低もしくは実質的にゼロに設定され、また、各シンクロ39,40,43,47は中立位置(中立状態)に設定される。その状態から第1速を設定するためには、第1シンクロ39のスリーブを図4あるいは図5の右方向に移動して第1速駆動ギヤ34Aを第1中間軸17に連結し、その状態で第1中間軸17側のオイルポンプ2のポンプ容量を次第に増大させる。
入力軸1から連結ギヤ対46を介してリングギヤ48Rにトルクが伝達されてそのリングギヤ48Rが所定の回転数で回転しているが、サンギヤ48Sにトルクが作用していない状態では、出力要素であるキャリヤ48Cにトルクが現れず、回転しない。これに対してオイルポンプ2のポンプ容量を増大させることにより、その反力トルクがサンギヤ48Sに作用すると、その回転が次第に制限され、それに伴ってキャリヤ48Cにトルクが現れて、リングギヤ48Rと同方向に次第に回転し始める。図7の(a)はその状態を示している。
そのキャリヤ48Cのトルクが第1速ギヤ対34を介して出力軸32に伝達されるので、車両としての駆動力が次第に増大し、車両を発進させることができる。そして、オイルポンプ2のポンプ容量を所定の容量に設定した状態でその吐出圧を最大にすることにより、すなわちオイルの吐出を遮断してオイルを閉じ込めることにより、オイルポンプ2が「LOCK」状態となり、第1速ギヤ対34のギヤ比に応じて決まる変速比すなわち第1速が設定される。
その過程で、第1中間軸17側のオイルポンプ2から第2中間軸18側のオイルポンプ3に圧油が供給されるが、そのオイルポンプ3のポンプ容量が実質的にゼロに設定されているので、このオイルポンプ3がモータとして機能することはない。したがって、第2中間軸18側の遊星歯車機構49におけるリングギヤ49Rが連結ギヤ対46を介して入力軸1に連結されていても、第2中間軸18にトルクが現れることはない。図7の(b)はその状態を示している。
ここで、第1速におけるオイルポンプ2による反力トルクT1と出力トルク(出力軸32のトルク)Toとの関係を示すと、
T1=PH・q1/2π
To=(1+ρ1)・κ1・T1/ρ1
なお、PHはオイルポンプ2の吐出圧(吐出油路19の油圧)、q1はその1回転当たりの吐出量、ρ1は遊星歯車機構48のギヤ比(サンギヤ48Sの歯数とリングギヤ48Rの歯数との比)、κ1は第1速ギヤ対34のギヤ比である。
第1中間軸17側のオイルポンプ2の吐出圧を最大まで高くしてその吐出を実質的に止めると、「LOCK」状態となり、第1速ギヤ対34を介して出力軸32にトルクが伝達される第1速の変速比が設定される。また、第2速へのアップシフトに備えるために、第2シンクロ40におけるスリーブを図5の右側に移動させて第2速駆動ギヤ37Aを第2中間軸18に対して連結する。その状態を図8に示し、また各遊星歯車機構48,49についての共線図を図9に示す。
したがって第1中間軸17側の遊星歯車機構48におけるサンギヤ48Sが固定されてオイルポンプ2から反力トルクT1を受け、その状態で、リングギヤ48Rに入力軸1からトルクTinが伝達される。すなわち、この遊星歯車機構48は、サンギヤ48Sを固定した状態でリングギヤ48Rにトルクを入力する状態となり、キャリヤ48Cから第1中間軸17にトルクが出力される。これに対して第2中間軸18側のオイルポンプ3は、ポンプ容量が実質的にゼロに設定され、いわゆる空転状態に制御されるので、遊星歯車機構49におけるサンギヤ49Sにはトルクが作用しない。そのため、リングギヤ49Rが連結ギヤ対46を介して入力軸1に連結され、かつキャリヤ49Cが第2中間軸18および第2速ギヤ対37を介して出力軸32に連結されていても、サンギヤ49Sおよびこれに連結されているオイルポンプ3が遊星歯車機構49のギヤ比に応じた回転数で回転するのみであって、反力トルクおよび駆動トルクのいずれも生じない。すなわち、入力軸1から遊星歯車機構48および第1中間軸17ならびに第1速ギヤ対34を介して出力軸32にトルクが伝達されるので、第1速ギヤ対34のギヤ比に応じた変速比の第1速が設定される。
この第1速状態での油圧、トルク、回転数について説明すると、各オイルポンプ2,3の吐出口2D,3Dを連通している吐出油路19の油圧PHは、
PH=2π・κin・Tin・ρ1/q1
となる。なお、Tinは入力トルク(入力軸1のトルク)、κinは連結ギヤ対46のギヤ比である。また、オイルポンプ2による反力トルクT1は、
T1=PH・q1/2π=Tin・κin・ρ1
となる。そして、出力トルクToおよび出力軸32の回転数ωoは、
To=κin・(1+ρ1)・κ1・Tin
ωo=ωin/{κin・(1+ρ1)・κ1}
となる。
上記のように第2速へ変速するためのアップシフト待機状態において、第2中間軸18側のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に増大させ、かつそのポンプ容量を第1中間軸17側のオイルポンプ2のポンプ容量より大きくすると、第2中間軸18側のオイルポンプ3がポンプとして機能して遊星歯車機構49のサンギヤ49Sに対して反力トルクを与え、同時にそのオイルポンプ3が吐出した圧油が第1中間軸17側のオイルポンプ2に供給されてそのオイルポンプ2がモータとして機能し、遊星歯車機構48のサンギヤ48Sに対して駆動トルクを出力する。これは、第1速から第2速への変速過渡状態もしくはこれらの変速段の中間の変速比を設定する無段変速状態であり、その状態を図10に示し、またその共線図を図11に示してある。
この変速過渡状態もしくは無段変速状態では、入力軸1から入力されたトルクが、各中間軸17,18側の遊星歯車機構48,49に分配されて伝達され、また第2中間軸18側の遊星歯車機構49では、リングギヤ49Rに伝達されたトルクがサンギヤ49Sを介してオイルポンプ3と、キャリヤ49Cを介して第2中間軸18とに分割されて伝達される。そのオイルポンプ3はサンギヤ49Sを介して伝達されたトルクによって駆動されてポンプとして機能する。また、第2中間軸18に伝達されたトルクは、第2速ギヤ対37を介して出力軸32に伝達される。これに対して第1中間軸17側では、そのオイルポンプ2がモータとして機能するので、リングギヤ48Rに伝達されたトルクと、オイルポンプ2からサンギヤ48Sに伝達されたトルクとが合成され、そのトルクがキャリヤ48Cから第1中間軸17に伝達される。そして、その第1中間軸17から第1速ギヤ対34を介して出力軸32にトルクが伝達される。
この場合の油圧、トルク、回転数について説明すると、各オイルポンプ2,3の吐出口2D,3Dを連通している吐出油路19の油圧PHは、
PH=2π・κ1・Tin/(q1/ρ1+q2/ρ2)
となる。なお、q2は第2中間軸18側のオイルポンプ3における1回転当たりの圧油の吐出量、ρ2は第2中間軸18側の遊星歯車機構49のギヤ比である。また、オイルポンプ2による駆動トルクT1およびオイルポンプ3による反力トルクT2は、
T1=PH・q1/2π=Tin・κin・q1/(q1/ρ1+q2/ρ2)
T2=PH・q2/2π=Tin・κin・q2/(q1/ρ1+q2/ρ2)
となる。そして、出力トルクToおよび出力軸32の回転数ωoは、
To=Tin・{q1・(1+ρ1)・κ1+q2・(1+ρ2)・κ2}/{(q1+q2)・κin}
ωo=ωin・κin・(q1+q2)/{q1・(1+ρ1)・κ1+q2・(1+ρ2)・κ2}
となる。
ポンプとして機能する第2中間軸18側のオイルポンプ3からの圧油の吐出を止めてこれを「LOCK」状態とし、同時に第1中間軸17側のオイルポンプ2のポンプ容量を実質的にゼロとしてこれを「OFF」状態とすることにより、第2速の変速比が設定される。その場合、第1シンクロ39と第2シンクロ40との動作状態を従前のままとすれば、第1速へのダウンシフトに備えたいわゆるダウンシフト待機状態での第2速となる。この状態を図12および図13に示してある。
すなわち、第2中間軸18側の遊星歯車機構49においては、そのリングギヤ49Rに入力軸1からトルクが入力されるとともに、そのサンギヤ49Sにオイルポンプ3による反力トルクT2が作用するので、第2中間軸18には、これらのトルクを合成したトルクが現れ、これが第2速ギヤ対37を介して出力軸32に伝達される。これに対して第1中間軸17側の遊星歯車機構48では、そのリングギヤ48Rに入力軸1からトルクが伝達されるものの、オイルポンプ2がポンプ容量を持たずにいわゆる空転状態となるから、キャリヤ48Cに連結されている第1中間軸17にはトルクが現れない。したがって、第2ギヤ対37のギヤ比で決まる変速比が設定される。
この場合の油圧、トルク、回転数について説明すると、各オイルポンプ2,3の吐出口2D,3Dを連通している吐出油路19の油圧PHは、
PH=2π・κin・Tin・ρ2/q2
となる。また、オイルポンプ2による駆動トルクT1およびオイルポンプ3による反力トルクT2は、
T1=PH・q1/2π=Tin・κin・q1/(q1/ρ1+q2/ρ2)=0
T2=PH・q2/2π=Tin・κin・ρ2
となる。そして、出力トルクToおよび出力軸32の回転数ωoは、
To=Tin・κin・(1+ρ2)
ωo=ωin/{κin・(1+ρ2)・κ2}
となる。
第2速から第3速へのアップシフトが可能であり、そのアップシフト待機状態は、図14および図15に示すとおりである。すなわち、第2中間軸18側の遊星歯車機構49やオイルポンプ3の挙動は、上述した第2速の状態と異なるところはないが、第1中間軸17側では、第1シンクロ39のスリーブが図14に示すように左側に移動させられて第3速駆動ギヤ35Aが第1中間軸17に連結されるので、第1中間軸17およびこれに連結されてキャリヤ48Cが、出力軸32の回転数および第3速ギヤ対35のギヤ比に応じた回転数で回転する。また、その遊星歯車機構48におけるリングギヤ48Rが入力軸1の回転数および連結ギヤ対46のギヤ比に応じた回転数で回転している。したがってサンギヤ48Sが、遊星歯車機構48のギヤ比に応じた回転数で回転するが、オイルポンプ2がいわゆる空転状態であって、サンギヤ48Sにオイルポンプ2側からトルクが作用しないので、第1中間軸17から出力軸32にはトルクが伝達されない。
第2速から第3速へのアップシフト待機状態で、第1中間軸17側のオイルポンプ2のポンプ容量を次第に増大させ、かつそのポンプ容量を第2中間軸18側のオイルポンプ3のポンプ容量より大きくすると、第1中間軸17側のオイルポンプ2がポンプとして機能して遊星歯車機構48のサンギヤ48Sに対して反力トルクを与え、同時にそのオイルポンプ2が吐出した圧油が第2中間軸18側のオイルポンプ3に供給されてそのオイルポンプ3がモータとして機能し、遊星歯車機構49のサンギヤ49Sに対して駆動トルクを出力する。これは、第2速から第3速への変速過渡状態もしくはこれらの変速段の中間の変速比を設定する無段変速状態であり、その状態での各遊星歯車機構48,49についての共線図を図16に示してある。
上記の第2速から第3速への無段変速状態を経て、第1中間軸17側のオイルポンプ2を「LOCK」状態とし、かつ第2中間軸18側のオイルポンプ3のポンプ容量を実質的にゼロにして「OFF」状態とすることにより、第3速状態が設定される。その第3速でのダウンシフト待機状態を図17に共線図で示し、またアップシフト待機状態を図18に共線図で示してある。すなわち、第3速では第1中間軸17側のオイルポンプ2が反力トルクを受け持ち、第1中間軸17から第3速ギヤ対35を介して出力軸32にトルクが伝達され、第2中間軸18側のオイルポンプ3がいわゆる空転状態となる。したがって、第3速でのダウンシフト待機状態では、第2中間軸18側の遊星歯車機構49におけるサンギヤ49Sが、リングギヤ49Rやキャリヤ49Cと同方向に正回転する。これに対してアップシフト待機状態では、第2シンクロ40によって第4速駆動ギヤ38Aが第2中間軸18に連結されるので、ダウンシフト待機状態に比較してキャリヤ49Cの回転数が小さくなり、それに伴ってサンギヤ49Sおよびこれに連結されているオイルポンプ3が逆回転する。
第3速ないし第5速の変速比の設定およびこれらの変速比の間での変速制御も、上述した例と同様に実行される。例えば、第4速へのアップシフトは、第1速から第2速へのアップシフトの場合と同様に、第2中間軸18側のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に増大させるとともに、その吐出を制限して圧力を増大させ、またその第1中間軸17側のオイルポンプ2をモータとして機能させるとともに、そのポンプ容量を次第に小さくする。そして、第4速でのダウンシフト待機状態は、第2シンクロ40によって第4速駆動ギヤ38Aを第2中間軸18に連結した状態で、第1シンクロ39のスリーブを図14の左側に移動させて第3速駆動ギヤ35Aを第1中間軸17に連結して設定する。また、アップシフト待機状態は、第2シンクロ40によって第4速駆動ギヤ38Aを第2中間軸18に連結した状態で、第3シンクロ43のスリーブを図14の右側に移動させて第5速駆動ギヤ36Aを第1中間軸17に連結して設定する。
第4速から第5速へのアップシフト過程では、第1中間軸17側のオイルポンプ2をポンプとして機能させ、その圧油を第2中間軸18側のオイルポンプ3に供給して、これをモータとして機能させる。そして、第5速は、第1中間軸17側のオイルポンプ2を「LOCK」状態とし、かつ第2中間軸18側のオイルポンプ3を「OFF」状態とすることにより設定される。
なお、後進段は、第4シンクロ47によってリバース駆動ギヤ42Aを第2中間軸18に連結し、かつ他のシンクロ39,40,43を中立位置とし、その状態で、第2中間軸18側のオイルポンプ3のポンプ容量を次第に増大させ、これをポンプとして機能させてサンギヤ49Sに反力トルクを与えることにより設定される。その場合、第1中間軸17側のオイルポンプ2は「OFF」状態に制御する。
したがって、各オイルポンプ2,3を半径方向に離隔して並列に配置した構造であっても、各ギヤ対34,35,36,37,38およびリバース用のギヤ42A,42Bのギヤ比で決まる変速比と、前進側のそれらの変速比の間の値の変速比を適宜に設定でき、全体として変速比を連続的に変化させるいわゆる無段変速が可能である。そして、各ギヤ対34,35,36,37,38およびリバース用のギヤ42A,42Bのギヤ比で決まる変速比を設定する場合には、いずれかのオイルポンプ2,3をポンプとして機能させるとともに、圧油を吐出させない「LOCK」状態(いわゆる閉じ込み状態)に制御するから、入力軸1から出力軸32にトルクを伝達するための動力が特には必要とならず、したがって動力損失を低減し、車両の全体としての燃費を向上させることができる。
また、各オイルポンプ2,3を半径方向に離隔して並列配置した構成では、ハウジングに相当する部分を固定しておく通常の可変容量型流体圧ポンプを使用することが可能になり、その結果、構成を簡素化し、また低コスト化することができる。さらに、上記の遊星歯車機構48,49などの差動歯車機構の反力要素にオイルポンプ2,3を連結した構成では、所定の変速比を設定している際にオイルポンプ2,3に掛かるトルクが、図1に示す構成に比較して小さくなるので、オイルポンプ2,3を小型化でき、しかも軸線方向に配列する部材の数が少なくなって、変速機の全長を短くすることができる。その結果、小型軽量で、車載性に優れた変速機を得ることができる。
上述したように、変速を実行する場合、各オイルポンプ2,3の容量を増大あるいは低下させる。その容量制御として、いわゆる逐次制御と同時制御とが可能であり、これは例えば前述した電子制御装置27によって実行され、したがってこの電子制御装置27がこの発明の変速制御手段に相当する。
逐次制御とは、変速に関与する二つのオイルポンプ2,3の一方の容量の変更が完了した後に他方のオイルポンプ3,2の制御を実行する形態の制御であり、その例を図19に線図で示してある。ここに示す例は、第2オイルポンプ3の押し出し容積(吐出容量)をゼロから増大させ、また第1オイルポンプ2の押し出し容積(吐出容量)をゼロにまで低下させる変速の例である。上述したギヤトレーンを有する変速機を対象とする場合には、第1速、第3速、第5速のいずれかの固定段から第2速もしくは第4速のいずれかの固定段に変速(アップシフト)する場合の例である。
この場合、先ず、第1オイルポンプ2の押し出し容積q1を維持(固定)したまま、第2オイルポンプ3の押し出し容積q2を次第に増大させる(t1時点)。その結果、第2中間軸18にトルクが生じるので、変速比γが変速前の値γ1から変速後の値γ2に向けて次第に低下する。また、第2オイルポンプ3の押し出し容積q2を次第に増大させることにより、オイルの循環が生じて各オイルポンプ2,3の吐出圧が変速開始前の油圧PAから次第に低下する。
こうして第2オイルポンプ3の押し出し容積q2が変速後の容積(例えば最大容積)まで増大すると(t2時点)、第1オイルポンプ2の押し出し容積q1を次第に減少させる。すなわち、第2オイルポンプ3の制御が終了した後に、第1オイルポンプ2の制御を開始する。その場合、変速比γは、さらに継続して低下する。すなわち、変速前の固定段を設定しているギヤ対のギヤ比をκ1、変速後の固定段を設定するギヤ対のギヤ比をκ2とすると、変速比γは、
γ≒(κ1・q1+κ2・q2)/(q1+q2)
で表されるから、各押し出し容積q1,q2が全体として連続的に変化することにより、変速比γが連続的に変化する。
また、第2オイルポンプ3の押し出し容積q2を固定して第1オイルポンプ2の押し出し容積q1を減少させる状態は、上記のt1時点からt2時点までの間で第1オイルポンプ2の押し出し容積q1を固定して第2オイルポンプ3の押し出し容積q2を増大させる状態とは反対の状態であり、したがって各オイルポンプ2,3の吐出圧がt2時点の油圧PBから変速後の油圧PAに向け次第に上昇する。そして、第1オイルポンプ2の押し出し容積q1が変速後の容積(最小容積もしくはゼロ)にまで減少する(t3時点)ことにより、変速比γが変速後の固定段の値になり、また吐出圧が変速前の油圧PAと同じ油圧まで上昇する。
したがって、図19に示すいわゆる逐次制御の場合には、固定段同士の間の変速過渡状態で吐出圧あるいは油圧回路での圧力を低くすることができるので、オイルポンプ2,3を動作させることに伴う動力損失を低減し、車両の燃費を向上させることができる。また、変速に関与する複数のオイルポンプ2,3を順に制御すればよいので、変速制御が容易になる。
つぎにいわゆる同時制御について説明すると、同時制御とは、変速に関与する二つのオイルポンプ2,3の容量を同時に変化させて変速を実行する形態の制御であり、その例を図20に線図で示してある。ここに示す例は、第1オイルポンプ2の押し出し容積(吐出容量)をゼロにまで低下させ、また第2オイルポンプ3の押し出し容積(吐出容量)をゼロから増大させる変速の例である。上述したギヤトレーンを有する変速機を対象とする場合には、第1速、第3速、第5速のいずれかの固定段から第2速もしくは第4速のいずれかの固定段に変速(アップシフト)する場合の例である。
この変速制御では、変速の判断が成立した後に、第1オイルポンプ2の押し出し容積q1を次第に減少させると同時に、第2オイルポンプ3の押し出し容積q2を次第に増大させる(t11時点)。この場合でも、前述した変速比γについての式
γ≒(κ1・q1+κ2・q2)/(q1+q2)
が成立するので、各押し出し容積q1,q2の変化に応じて変速比γが次第に低下する。またその場合、各オイルポンプ2,3が所定の押し出し容積q1,q2を持つので、吐出圧は変速開始前の油圧PAに維持される。
そして、第1オイルポンプ2の押し出し容積q1が最小値(もしくはゼロ)に減少するとともに、第2オイルポンプ3の押し出し容積q2が変速後の値(もしくは最大値)に達する(t12時点)ことにより、変速比γが変速後の値γ2になり、変速が完了する。
したがって、上記のいわゆる同時制御によれば、吐出圧が殆ど変化しないので、変速制御を安定化しやすくなる。また、各オイルポンプ2,3の押し出し容積q1,q2(もしくはポンプ容量)を同時に変化させるので、変速に要する時間が短くなるので、変速応答性を向上させることができる。
上記のいわゆる同時制御をおこなう場合、各オイルポンプ2,3を、その押し出し容積q1,q2が同時にかつ反対方向に変化するように制御することになる。そのための機構として、例えば図21あるいは図22に示す連動機構60を採用することができる。図21に示す連動機構60は確動カム形式の機構であって、二本のカム溝61,62を正面に形成したカム板63が、各オイルポンプ2,3の中間位置に、その中心部を中心に回転可能に配置されている。各カム溝61,62は、カム板63の中心部から外周部に延びる円弧状の溝であって、それぞれ対象形状に形成されている。これらのカム溝61,62に移動自在に係合しているカムフォロアー64,65がそれぞれ、オイルポンプ2,3のポンプ容量を変化させるための可動部2A,3Aに、リンク66,67を介して連結されている。
そして、一方のカムフォロアー64,65がカム溝61,62の外周側の端部に位置している状態では、他方のカムフォロアー65,64がカム溝62,63の中心側の端部に位置するように設定されている。それに伴って一方のオイルポンプ2,3の押し出し容積q1,q2が最大の場合に、他方のオイルポンプ3,2の押し出し容積q2,q1が最小となるように構成されている。したがって、カム板63を回転させることにより、各カムフォロアー64,65がカム溝61,62に沿ってカム板63の半径方向に移動し、その結果、各オイルポンプ2,3の可動部2A,3Aが互いに反対方向に動作するので、各オイルポンプ2,3の押し出し容積q1,q2が互いに反対方向に変化させられる。
また、図22に示す連動機構60について説明すると、ここに示す例では、直動型シリンダ68が用いられており、ピストン69が各オイルポンプ2,3の配列方向(各オイルポンプ2,3の回転中心軸線に対して垂直な方向)に向けて前後動するようにシリンダ68が配置されている。そして、各オイルポンプ2,3の可動部2A,3Aに連結されている前記のリンク66,67が、そのピストン69の両側から延びるようにピストン69に連結されている。
したがって、図22に示す構成では、ピストン69が図22での上下のいずれかの方向に移動すると、一方のオイルポンプ2,3における可動部2A,3Aが、押し出し容積q1,q2を増大させる方向に動作させられるとともに、他方のオイルポンプ3,2における可動部3A,2Aが、押し出し容積q2,q1を減少させる方向に動作させられる。その結果、各オイルポンプ2,3の押し出し容積q1,q2を互いに反対方向に同時に変化させることができる。
ところで、図5に示す構成では、吐出油路19の圧力を制御する圧力制御弁50を備えている。この圧力制御弁50で制御される油圧は、前掲の各式で「PH」で表される油圧であり、その油圧PHに応じて各オイルポンプ2,3での反力トルクや駆動トルクが定まる。したがって、発進時には、この油圧PHにより発進トルクを制御でき、発進制御が容易になる。また、各オイルポンプ2,3の吐出圧の最高値を上記の圧力制御弁50で制御できるから、吐出圧が異常に高圧になることを回避し、ポンプ効率の向上により燃費を改善でき、またオイルポンプ2,3の小型化や耐久性の向上を図ることができる。
これに対して図4に示す構成では、各オイルポンプ2,3の吐出口2D,3Dを連通している吐出油路19に、開閉弁(カット弁)として機能するオン・オフ弁20を設けてあるから、一方のオイルポンプ2(または3)をポンプとして機能させるとともに、その圧油の吐出を制限して「LOCK」状態とし、かつ他方のオイルポンプ3(もしくは2)を空転状態である「OFF」状態に設定する場合、「OFF」状態のオイルポンプ3(もしくは2)に対して高圧の圧油が供給されることがないので、そのオイルポンプ3(もしくは2)によるいわゆる引き摺り損失や圧油が漏洩することによる動力損失を未然に回避して燃費の向上を図ることができる。また、何らかの異常によっていずれか一方のオイルポンプ2(または3)が故障した場合であっても、他方のオイルポンプ3(もしくは2)をポンプとして機能させるとともに、前記オン・オフ弁20でその吐出口を閉じれば、いずれかの中間軸18,17に入力軸1からトルクを伝達させて、駆動トルクを発生させることができる。すなわち、このような異常時(あるいは故障時)であっても駆動トルクを生じさせて退避走行することが可能になる。
上述したオン・オフ弁20と圧力制御弁50との両方を用いることができ、図23はその例を示している。図23に示すオン・オフ弁20は、電気的に制御されて吐出油路19を開閉するように構成され、特に、通電が遮断されたいわゆるオフ状態で開動作するノーマル・オープンタイプの弁によって構成されている。また、圧力制御弁50は、ソレノイドバルブ52が出力する信号圧に応じて、オイルポンプ2,3の吐出圧を設定するように構成されており、そのソレノイドバルブ52は、通電が遮断されていわゆるオフ状態で信号圧がゼロになるように、すなわち信号圧の出力を止めるように構成されている。いわゆるノーマル・クローズタイプのソレノイドバルブ52である。
図23に示す構成を備えていれば、いずれかギヤ対のギヤ比で決まる変速比を設定している状態での動力損失の抑制や故障時の退避走行を可能にすることができ、また吐出圧を制御することによる損失の抑制などの作用に加え、断線などの電気的な故障が生じた場合、オン・オフ弁20が開動作して各オイルポンプ2,3の吐出口2D,3D同士が連通するとともに、圧力制御弁50の調圧レベルが最低になって、その吐出油路19がオイル溜め部30などのドレーン箇所に連通させられるので、いずれのオイルポンプ2,3も反力トルクや駆動トルクを生じなくなる。すなわち、断線などの電気的な異常が生じた場合には、入力軸1と各中間軸17,18との間のトルクの伝達が行われなくなる。そのため、電気的な異常に伴って車両が停止する場合に、急激なエンジンブレーキが効くことを未然に防止することができる。なお、このような電気的な異常は、電子制御装置27に予め組み込まれた通常の異常検出プログラムによって検出することができ、その場合には、電子制御装置27がこの発明の異常検出手段に相当する。
前述したようにこの発明に係る変速機は、いずれかのギヤ対のギヤ比で決まる変速比を設定している場合には、いずれかのオイルポンプ2,3をポンプとして機能させるとともに、オイルポンプ2,3からの圧油の吐出を止めるから、入力軸1からいずれかの中間軸17,18もしくは出力軸32にトルクを伝達するための動力が特には必要とならない。これに対して各ギヤ対のギヤ比で決まる変速比の間の値の変速比を設定する場合は、いずれかのオイルポンプ2,3をポンプとして機能させると同時に、他のオイルポンプ2,3をモータとして機能させるから、これらのオイルポンプ2,3の間で圧油の受け渡しが生じる。そのオイルの受け渡しに伴って動力の損失が生じるから、いわゆる中間の変速比を設定する無段変速状態では、変速機の動力伝達効率が幾分低下する。一方、エンジンなどの動力源の運転効率は、回転数や出力トルクによって変化する。
図24には、この発明に係る変速機の入力回転数毎の動力の伝達効率と、所定の出力に対する動力源としてのエンジンの運転効率とを模式的に示してある。なお、エンジンの運転効率は、図24に楕円で示してあり、これは、等しい効率の点を結んだものであり、中心側の楕円が、より効率のよい運転状態を示している。この図24に示すように、この発明に係る変速機では、例えば第2速での効率ηT2や第3速での効率ηT3が、これらの変速比の中間の変速比での効率ηTrより高い効率となるが、第2速では入力回転数(すなわちエンジン回転数)が高くなってその運転効率ηE2が相対的に悪くなり、また第3速では入力回転数(すなわちエンジン回転数)が低くなってその運転効率ηE3が相対的に悪くなる。これに対していわゆる中間の変速比では、運転効率ηErの良い入力回転数(すなわちエンジン回転数)となる。
したがってこの発明に係る変速機は、設定すべき変速比を、それ自体の動力伝達効率のみによって決定せずに、動力源の運転効率を加味した総合効率(トータル効率)に基づいて変速比を選択するように構成されている。その総合効率(トータル効率)とは、例えば変速機での動力伝達効率と動力源の運転効率との積である。また、このような変速比制御は、各効率をマップ化して電子制御装置27に記憶させておき、アクセル開度などから求められる要求駆動力や車速あるいはエンジン回転数などの検出データに基づいて電子制御装置27で演算を行い、その演算結果に基づいて変速比指令信号を出力することにより行うことができる。このように構成した場合には、電子制御装置27がこの発明の変速比選択手段に相当する。したがってこの発明に係る変速機によれば、各ギヤ対のギヤ比で決まる変速比の間の値の変速比を設定するいわゆる無段変速状態を有効に利用して、エネルギー効率の良い走行が可能になり、燃費を向上させ、また排ガスの抑制効果が得られる。
なお、この発明は、上述した各具体例に限定されないのであって、オイルポンプ2,3や遊星歯車機構48,49あるいは歯車機構の配置は、適宜に変更することができる。その一例を図25に示してあり、ここに示す例は、エンジンなどの動力源を車両の幅方向に向けて搭載するフロントエンジン・フロントドライブ(FF)式車両に適するように構成した例である。すなわち、入力軸1の延長線上に第1中間軸17が配置されるとともに、その第1中間軸17を挟んで入力軸1側に遊星歯車機構48が配置され、かつこれとは反対側にオイルポンプ2が配置されている。換言すれば、入力軸1とオイルポンプ2とが、第1中間軸17および伝動機構であるギヤ対もしくは歯車機構を挟んだ互いに反対側に配置されている。したがって入力軸1がその遊星歯車機構48のリングギヤ48Rに連結されている。
また、前記遊星歯車機構48の半径方向での外側に他の遊星歯車機構49が配置され、そのリングギヤ49Rと入力軸1とが、カウンタギヤ対53を介して連結されている。さらに、この遊星歯車機構49に対して第2中間軸18を挟んだ反対側にオイルポンプ3が配置されている。すなわち、各オイルポンプ2,3は、入力軸1とは反対側で、互いに半径方向に離隔して配置されている。そして、出力軸32におけるカウンタギヤ対53側の端部からデファレンシャル54に所定の伝動機構55を介してトルクを伝達するように構成されている。
さらに、第1中間軸17には、遊星歯車機構48側から順に、第5速駆動ギヤ36Aと第3速駆動ギヤ35Aと第1速駆動ギヤ34Aとが取り付けられており、これらのうち第5速駆動ギヤ36Aと第3速駆動ギヤ35Aとは、回転自在に第1中間軸17に取り付けられ、これに対して第1速駆動ギヤ34Aは第1中間軸17と一体化されている。そして、第5速駆動ギヤ36Aと第3速駆動ギヤ35Aとの間に、これらのギヤ36A,35Aを第1中間軸17に対して選択的に連結する第3シンクロ43が配置されている。
上記の第5速駆動ギヤ36Aに噛み合っている第5速従動ギヤ36Bと第3速駆動ギヤ35Aに噛み合っている第3速従動ギヤ35Bとが、各中間軸17,18に対して平行に配置された出力軸32と一体となって回転するように配置されている。また、この出力軸32には、前記第1速駆動ギヤ34Aに噛み合っている第1速従動ギヤ34Bが、回転自在に取り付けられている。さらに、この第1速従動ギヤ34Bを挟んで前記第3速従動ギヤ35Bとは反対側に、リバース従動ギヤ42Bが回転自在に取り付けられている。そして、これら第1速従動ギヤ34Bとリバース従動ギヤ42Bとの間にこれらのギヤ34B,42Bを出力軸32に対して選択的に連結する第1シンクロ39が配置されている。
他方、第2中間軸18には、前記第5速従動ギヤ36Bに噛み合っている第4速駆動ギヤ38Aと、前記第3速従動ギヤ35Bに噛み合っている第2速駆動ギヤ37Aとが回転自在に取り付けられている。そして、第4速駆動ギヤ38Aと第2速駆動ギヤ37Aとの間に、これらのギヤ38A,37Aを第2中間軸18に対して選択的に連結する第2シンクロ40が配置されている。なお、リバース駆動ギヤ42Aが、第2中間軸18に一体となって回転するように取り付けられており、このリバース駆動ギヤ42Aは、アイドルギヤ41を介して前記リバース従動ギヤ42Bに噛み合っている。他の構成は、図4もしくは図5に示す構成とほぼ同様であり、したがって図25に図4もしくは図5と同様の符号を付してその説明を省略する。
図25に示すように構成した場合、各オイルポンプ2,3は、入力軸1に対してその軸線方向で反対側に配置され、この位置は、変速機の全体を収容しているハウジングHの端部である。したがって、各オイルポンプ2,3をハウジングHもしくはその一部を構成するエンドカバー(図示せず)によって保持することが可能になる。また、各オイルポンプ2,3についての油路をハウジングHの肉部もしくはエンドカバーの肉部の内部に形成することができる。そのため、オイルポンプ2,3や油路をハウジングHの一部もしくはエンドカバーと併せてユニット化することができ、それに伴って全体としての構成を小型・軽量化でき、さらには圧油の漏洩を抑制して高効率化や信頼性の向上を図ることができる。
また、図25に示す構成の変速機で設定される変速段もしくは変速比およびそのための各オイルポンプ2,3ならびに各シンクロ39,40,43の動作状態を図26にまとめて示す。この図26における各表記の意味は、前述した図3あるいは図6における各表記の意味と同じである。なお、図26におけるアスタリスクは、シンクロを解放状態(中立位置)とすることにより、いわゆる引き摺りもしくは供回りやそれに起因する損失が生じないことを意味している。
すなわち、いずれか一方のオイルポンプ2,3を「LOCK」状態とし、かつ他方のオイルポンプ3,2を「OFF」状態として変速比を設定すれば、「LOCK」状態のオイルポンプ2,3に連結されている中間軸17,18およびこれにトルク伝達可能に連結されているギヤ対のギヤ比に応じて変速比が決まり、またそのギヤ対を介して出力軸32にトルクが伝達される。これに対して、「OFF」状態のオイルポンプ3,2はトルク伝達もしくは変速比の設定に関与する必要がないので、このオイルポンプ3,2に連結されている中間軸18,17は、出力軸32に対して遮断されていてもよい。
したがって、いずれかのギヤ対のギヤ比で決まる変速比を設定する場合には、そのギヤ対とは反対側の中間軸側のギヤ対を該中間軸もしくは出力軸32に対して遮断するようにシンクロを解放制御することとしたのである。その結果、その中間軸側のオイルポンプ3,2と出力軸32とはトルク伝達しないように遮断されるので、オイルポンプ3,2が引き摺られて回転することがなく、不必要にオイルを加圧したり、あるいは撹拌もしくは流動させたりして動力を損失することが防止される。
その状況を図27に模式的に示してあり、図27で横軸はトータルギヤ比を示して、縦軸は動力の伝達効率を示している。第1速(1st)から第5速(5th)の各ギヤ対のギヤ比で定まる変速比(いわゆる固定段)では、一方のオイルポンプ2,3が「LOCK」状態とされ、かつ他方のオイルポンプ3,2が「OFF」状態とされるから、これらのオイルポンプ2,3の間でのオイルの受け渡しがないのに対して、これらの変速比の間の変速比を設定する場合には、オイルの受け渡しが生じるため、オイルの流動抵抗や撹拌などに起因する動力の損失が生じる。そのため、各固定段の間における伝達効率が幾分小さくなる。しかしながら、各固定段においても、「OFF」側のオイルポンプ3,2が、出力軸32に対して連結されている場合、すなわちシンクロを係合させて待機状態とされている場合には、そのオイルポンプ3,2を回転させることによる動力損失が生じる。そこで、待機状態を設定するシンクロを解放してオイルポンプ3,2と出力軸32とを遮断すれば、図27に上向きの矢印で示すように、オイルポンプ3,2を回転させることがなくなり、その分の動力消費が回避されるので、伝達効率が向上する。このように、いわゆる固定段でシンクロを解放状態に選択もしくは設定する手段が、この発明の選択手段に相当する。
さらに、この発明における中間軸と出力部材との間に設けられる複数の変速比を設定する伝動機構は、上述した複数のギヤ対に限られないのであり、巻き掛け伝動機構や摩擦伝動機構、あるいはこれらを利用した無段変速機構などを採用することができる。図28には、図25に示すギヤトレーンのうち、各固定段を設定するギヤ対およびカウンタギヤ対に替えて、第1速用ないし第5速用のチェーンドライブ機構134,135,136,137,138と、カウンタチェーンドライブ機構153を設けた変速機を示してある。なお、第一速と第二速、および第三速と第四速とで、従動側の回転部材を共用しないように構成してある。図28における他の構成は図25に示す構成と同様であり、したがって図28に図25と同様の符号を付してその説明を省略する。なお、図28には後進段を設定する機構は省略してある。
またさらに、この発明では、差動歯車機構としてシングルピニオン型遊星歯車機構以外の機構を使用することができ、例えばダブルピニオン型遊星歯車機構を使用した構成であってもよい。また、この発明における可変容量型流体圧ポンプモータは、オイルポンプに限られず、他の適宜のポンプモータであってよく、要は、吸入量および吐出量を変更できるポンプモータであればよい。さらに、この発明では、可変容量型流体圧ポンプモータおよびこれに連結された中間軸は、二組に限られないのであり、三組以上設けてもよい。さらにまた、同期連結機構などの切換機構は、出力軸側と中間軸もしくは副軸側とのいずれに設けてもよい。
1…入力部材(入力軸)、 2,3…可変容量型流体圧ポンプモータ(オイルポンプ)、 17,18…中間軸、 19…吐出油路、 20…オン・オフ弁、 27…電子制御装置、 32…出力部材(出力軸)、 34…第1速ギヤ対、 35…第3速ギヤ対、 36…第5速ギヤ対、 37…第2速ギヤ対、 38…第4速ギヤ対、 39,40,43,47…同期連結機構、 48,49…遊星歯車機構、 50…圧力制御弁、 134,135,136,137,138,153…チェーンドライブ機構。