JP2009293745A - 可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】最高速段での変速機の動力伝達効率を向上できる可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置を提供すること。
【解決手段】2つの差動機構と2つのポンプモータと、中間軸と出力部材との間を選択的に動力伝達可能にする変速段用伝動機構とを有する可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置において、油圧を蓄圧する蓄圧器と、動力源と出力部材との間を動力伝達可能にしかつ一方の差動機構,ポンプモータと出力部材との間を動力伝達不可能にする直結段用伝動機構と、出力部材からトルクが入力される場合に、動力源と出力部材との間を動力伝達可能にしかつ一方の差動機構,ポンプモータと出力部材との間を動力伝達不可能にしかつ出力部材と他方の差動機構,ポンプモータとの間を動力伝達可能にしてその際に発生する油圧を蓄圧器に蓄圧させる流体圧回生手段(ステップS18〜S20)を設ける。
【選択図】図5
【解決手段】2つの差動機構と2つのポンプモータと、中間軸と出力部材との間を選択的に動力伝達可能にする変速段用伝動機構とを有する可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置において、油圧を蓄圧する蓄圧器と、動力源と出力部材との間を動力伝達可能にしかつ一方の差動機構,ポンプモータと出力部材との間を動力伝達不可能にする直結段用伝動機構と、出力部材からトルクが入力される場合に、動力源と出力部材との間を動力伝達可能にしかつ一方の差動機構,ポンプモータと出力部材との間を動力伝達不可能にしかつ出力部材と他方の差動機構,ポンプモータとの間を動力伝達可能にしてその際に発生する油圧を蓄圧器に蓄圧させる流体圧回生手段(ステップS18〜S20)を設ける。
【選択図】図5
Description
この発明は、内燃機関などの動力源を差動機構および変速用伝動機構を介して出力部材に伝達し、かつその差動機構に対して可変容量型ポンプモータで反力トルクを与えることにより出力部材のトルクを制御できる変速機に関するものである。
この種の変速機の一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された変速機は、2組の差動機構における入力要素のそれぞれにエンジンを連結する一方、各差動機構における反力要素に可変容量型の油圧ポンプモータを連結するとともに、いずれかの油圧ポンプモータは押出容積を正負の両方向に変化させることのできるいわゆる両振り型とし、さらに各差動機構における出力要素と出力部材との間に、同期連結機構(例えばシンクロナイザー)を介して選択的にトルク(動力)伝達可能とされる複数の変速段用ギヤ対を設けて構成されている。さらに、それらの油圧ポンプモータは、いわゆる正回転状態で圧油を吐出する吐出口同士、および圧油を吸入する吸入口同士を連通させる閉油圧回路によって接続されている。
したがって、特許文献1に記載されている変速機では、それぞれの油圧ポンプモータの押出容積を所定の容積に設定するとともに、隣接する変速段を設定するための変速段用ギヤ対を出力部材に対してトルク伝達が可能な状態にすることにより、一方の油圧ポンプモータがポンプとして機能して油圧を発生し、それに伴う反力が一方の差動機構における反力要素に作用する。その差動機構では、入力要素に動力源からのトルクが作用し、反力要素には油圧ポンプモータによる反力トルクが作用しているので、これらのトルクを合成したトルクが出力要素から所定の変速段用ギヤ対に出力される。そして、その変速段用ギヤ対のギヤ比に応じて増幅されたトルクが出力部材に伝達される。
これに対して、他方の油圧ポンプモータは閉油圧回路を介して圧油が供給されることによりモータとして機能し、そのトルクが他方の差動機構における反力要素に伝達される。その他方の差動機構では、入力要素に動力源からのトルクが入力されているので、そのトルクと反力要素に伝達されたトルクとが合成されて出力要素から所定の変速段用ギヤ対に出力される。そして、その変速段用ギヤ対のギヤ比に応じて増幅されたトルクが出力部材に伝達される。すなわち、出力部材には2組の変速用ギヤ対を介して伝達されたトルクを合成したトルクが現れる。そして、そのトルクは、油圧を介して伝達されるトルクの割合すなわちポンプモータの押出容積に応じて変化し、したがって変速比を連続的に変化させることができる。
さらに、特許文献1に記載された変速機では、いずれか一方のポンプモータの押出容積を“0”にすれば、閉油圧回路での圧油の流動が阻止されるので、他方のポンプモータがロックされる。その結果、そのポンプモータが連結されている差動機構の反力要素が固定されるので、動力源が出力した動力は、その差動機構および所定の変速段用ギヤ対を介して出力部材に伝達される。そして、その変速用ギヤ対のギヤ比に応じた固定段変速比(固定変速段)が設定される。したがってこの場合、油圧を介した動力の伝達が生じないので、動力伝達効率が相対的に良好になる。
なお、特許文献2には、油圧による動力伝達と機械的な動力伝達とを行う油圧−機械式(動力分割式)の変速装置(ハイドロ・メカニカル・トランスミッション;HMT)であって、入力軸から出力軸への動力伝達を遊星歯車機構のみにより行う機械的直結領域が設定できるようにして、この機械的直結領域において油圧伝動部における圧油の流動を阻止する手段(ロッククラッチ、連通弁など)を設けた構成のHMTに関する発明が記載されている。
また、特許文献3には、4段の変速比を選択して設定できる主変速機構と、減速状態および直結状態を設定できる副変速機構とを並列に組み合わせた自動変速機であって、主変速機構を3速(直結)状態で保持するとともに副変速機構を直結状態にすることにより、変速比が1となる第4速(直結変速段)を設定することができ、その第4速の状態から副変速機構を直結状態で保持するとともに主変速機構を4速(増速)状態にすることにより、変速比が1より小さくなる第5速(いわゆるオーバードライブ)を設定することができるように構成した自動変速機に関する発明が記載されている。
また、特許文献4には、機械式トランスミッション(MT)が入力軸と出力軸との間に設けられ、さらにそのMTと並列に静液圧式トランスミッション(HST)が設けられたハイドロメカニカルトランスミッション(HMT)を搭載した車両の動力回収装置であって、減速時に、HSTの可変容量ポンプを作動させて発生させた高圧の作動油を蓄圧器に蓄えるように構成した発明が記載されている。
そして、特許文献5には、第1,第2プラネタリギヤ列の第1,第2サンギヤを第1サンギヤ軸で結合し、第1キャリアと第2リングギヤとを第1伝動軸で結合して構成した主変速ユニットと、第3,第4プラネタリギヤ列の第3,第4サンギヤを第2サンギヤ軸で結合し、第3キャリアと第4リングギヤとを第2伝動軸で結合して構成した副変速ユニットとを備え、主変速ユニットを第1リングギヤを介して変速機の入力軸に結合し、副変速ユニットを第3リングギヤを介して第1伝動軸に結合した自動変速機に関する発明であって、第1,第2サンギヤ軸のそれぞれを制動する第1,第2ブレーキ機構を設けた構成が記載されている。
上述したように、上記の特許文献1に記載されている変速機では、一方のポンプモータの押出容積を“0”にして他方のポンプモータをロックすれば、他方の差動機構における反力要素が固定されるので、動力源が出力した動力は、その差動機構および所定の変速段用ギヤ対を介して出力部材に伝達される。これは、動力を油圧の流動に変換することのないいわゆる機械的な動力伝達になるので、変速機の動力伝達効率が相対的に良好になる。この動力伝達効率が良好な油圧を介さない機械的な動力伝達状態、すなわち固定段変速比(固定変速段)を設定した状態で、動力源の出力トルクを直接(すなわち直結状態で)もしくは増速して(すなわちオーバードライブ状態で)出力軸側に伝達することができれば、変速機の動力伝達効率は一層良好なものになる。
さらに、制動時に発生する油圧、すなわちこの変速機の出力軸側から変速機に入力されるトルクによりポンプモータを駆動し、その際に発生する油圧を回収して有効に利用することができれば、その分変速機の動力伝達効率あるいは動力源の燃費を向上させることができる。
しかしながら、上記の特許文献1に記載されている変速機は、動力源の出力トルクを直結状態もしくはオーバードライブ状態で出力軸側に伝達できる構成にはなっておらず、また、制動時にポンプモータで発生する油圧の回生についても考慮されておらず、変速機の、特に高速段での動力伝達効率あるいは動力源の燃費を向上させるためには、未だ改良の余地があった。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、最高速段もしくはこれに近い変速比での変速機の動力伝達効率を向上させることができる可変容量型ポンプモータ式変速機を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、流体圧を発生することに伴う反力を、動力源が連結されている2つの差動機構のそれぞれに該動力源から伝達される入力トルクに対する反力トルクとして与える2つの可変容量型ポンプモータと、該差動機構から出力されたトルクが伝達される中間軸と出力部材との間に設けられ、該中間軸と該出力部材との間を選択的に動力伝達可能な状態する複数の変速段用伝動機構とを有する可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置において、前記可変容量型ポンプモータが発生させた流体圧を蓄圧する蓄圧器と、前記動力源およびいずれか一方の前記差動機構と前記出力部材との間に設けられ、選択的に、前記動力源と前記出力部材との間を動力伝達可能な状態にしかつ前記一方の差動機構および該一方の差動機構に連結している一方の前記可変容量ポンプモータと前記出力部材との間を動力伝達不可能な状態にする直結段用伝動機構と、前記出力部材側からトルクが入力される場合に、前記変速段用伝動機構および前記直結段用伝動機構を制御して、前記動力源と前記出力部材との間を動力伝達可能な状態にしかつ前記一方の差動機構および前記一方の可変容量型ポンプモータと前記出力部材との間を動力伝達不可能な状態にするとともに、前記出力部材と他方の前記差動機構および該他方の差動機構に連結している他方の前記可変容量型ポンプモータとの間を前記中間軸を介して動力伝達可能な状態にし、該他方の前記可変容量型ポンプモータを駆動してその際に発生する流体圧を前記蓄圧器に蓄圧させる流体圧回生手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、少なくとも前記他方の差動機構はサンギヤおよびキャリアならびにリングギヤを回転要素とする遊星歯車機構により構成され、前記流体圧回生手段が、前記出力部材側からトルクが入力される場合に、前記リングギヤの回転を規制し、前記他方の差動機構を介して前記出力部材側から入力されるトルクを増速もしくは減速して前記他方の可変容量型ポンプモータに伝達させる手段を含むことを特徴とする制御装置である。
また、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記直結段用伝動機構により前記動力源と前記出力部材との間を動力伝達不可能な状態から動力伝達可能な状態に切り替える際に、前記動力源の回転を制動する同期補助機構を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
そして、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記直結段用伝動機構が、前記動力源からのトルクを前記出力部材へ伝達する場合の前記出力部材の回転数に対する前記動力源の回転数の比である変速比が前記変速段用伝動機構のいずれの変速段の変速比よりも小さくかつ“1”以下の所定値に設定された機構を含むことを特徴とする制御装置である。
請求項1の発明によれば、直結段用伝動機構により差動機構と出力部材との間を動力伝達可能な状態にするとともに動力源と出力部材との間の動力伝達を遮断し、かつ可変容量型ポンプモータで流体圧を発生させることにより差動機構に対して反力トルクを与えている状態では、動力源が出力したトルクと反力トルクとが差動機構で合成され、そのトルクが所定の変速段用伝動機構を介して出力部材に伝達される。これに対して、直結段用伝動機構により一方の差動機構と出力部材との間の動力伝達を遮断するとともに動力源と出力部材との間を動力伝達可能な状態にすることにより、動力源の出力トルクがそのまま出力部材に伝達されて、いわゆる直結段となる。その場合、前記の一方の差動機構に連結している一方の可変容量型ポンプモータが反力を出力する必要がなく、また動力源から出力部材への動力伝達経路と一方の可変容量型ポンプモータとの間の動力伝達が遮断されている。そのため、油圧の漏れやギヤでの摩擦などによる動力損失あるいは可変容量型ポンプモータの引き摺り損失の発生を回避もしくは抑制し、変速機の動力伝達効率を向上させることができる。
さらに、上記のように一方の差動機構と出力部材との間の動力伝達が遮断されかつ動力源と出力部材との間の動力伝達が可能にされた状態で、出力部材側から変速機へトルクが伝達される場合には、他方の差動機構およびそれに連結している他方の可変容量型ポンプモータと出力部材との間が動力伝達可能な状態にされ、その他方の可変容量型ポンプモータが出力部材側から伝達されるトルクにより駆動される。すなわち他方の可変容量型ポンプモータがモータとして駆動されて流体圧を発生する。そして、その他方の可変容量型ポンプモータで発生させられた流体圧が蓄圧器に蓄圧される。したがって、いわゆる直結段が設定された状態で出力部材側からトルクが伝達される場合に、その出力部材側からのトルクにより流体圧を発生させて蓄圧することができる。そのため、直結段設定時に外部から入力される動力を回生して流体圧として利用することができ、動力源および変速機全体としての効率を向上させることができる。
なお、上記のようにして流体圧を蓄圧する際には、変速機の変速比は直結段で設定される変速比で一定に維持されるため、流体圧を発生して蓄圧している間に例えば変速比が変化するなどして変速ショックが発生したりすることがない。したがって、流体圧を蓄圧する際に変速ショックなどについて考慮する必要がなく、そのために特別な装置を設けたり特別な制御等を行う必要もなくなり、簡単な構成および制御内容により効率を向上させることができる。
また、請求項2の発明によれば、直結段設定時に出力部材側からのトルクが伝達される側の他方の差動機構が、サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つを回転要素とする遊星歯車機構によって構成されていて、一方の差動機構と出力部材との間の動力伝達が遮断されかつ動力源と出力部材との間の動力伝達が可能にされた状態で、出力部材側から変速機へトルクが伝達される場合に、他方の差動機構のリングギヤの回転が規制される。言い換えるとリングギヤが固定される。リングギヤが固定されると、サンギヤとキャリアとの他の2つの回転要素間での動力伝達は、入力トルクに対して出力トルクが増速もしくは減速されることになる。すなわち、キャリアもしくはサンギヤに入力されたトルクの全てが減速もしくは増速されてサンギヤもしくはキャリアに出力されることになる。したがって、直結段が設定された状態で出力部材側からトルクが伝達される場合に、他方の可変容量型ポンプモータを効率良く駆動して流体圧を回生することができる。
また、請求項3の発明によれば、直結段用伝動機構により動力源と出力部材との間を動力伝達を遮断した状態から動力伝達可能な状態へ切り替える際に、動力源の出力トルクにより駆動されている入力側の回転部材の回転数と、その入力側回転部材と係合して出力部材へ動力源の出力トルクを伝達する出力側の回転部材の回転数との同期が必要になる。特に、動力源と出力部材との間を動力伝達を遮断した状態から動力伝達可能な状態へ切り替えることにより変速比が小さくなる場合すなわちアップシフトされる場合は、入力側の回転部材の回転数を低下させる必要がある。その場合、同期補助機構で動力源の回転を制動することにより、入力側の回転部材の回転数を低下させることができる。そのため、入力側の回転部材の回転数と出力側の回転部材の回転数との同期を促進して、動力源と出力部材との間の動力伝達状態の切り替えをスムーズに行うことができる。また、その際の同期連結機構による各回転部材間の同期を、同期補助機構によって補助することができるので、同期連結機構を小容量の小型のものとすることができる。
そして、請求項4の発明によれば、直結段用伝動機構によって動力源と出力部材との間を動力伝達可能な状態にすることにより、変速段用伝動機構によって設定される他の変速段の変速比よりも小さくかつ変速比が“1”以下の変速段、すなわち変速機の直結段もしくは増速段が設定される。したがって、直結段もしくは増速段設定時の変速機の動力伝達効率を向上させることができる。例えば、内燃機関を動力源としてこの発明の変速機に連結した場合、変速機を動力伝達効率の良い直結段もしくは増速段にして内燃機関を運転効率の良い領域で運転させることができ、内燃機関の燃費を向上させることができる。
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1にこの発明に係る変速機TMの構成の一例を示す。この図1に示す構成例は、伝達するべき動力(エネルギ)の形態を変更せずに設定できるいわゆる固定変速比(固定変速段)として4つの前進段および1つの後進段を設定するように構成した例であり、特にエンジンなどの動力源1を車両の前後方向に向けて搭載するFR車(フロントエンジン・リヤドライブ車)に適するように構成した例である。すなわち、動力源1が出力した動力を伝達する入力軸2と同一の軸線上、もしくはこれに平行な軸線上に、動力を分配し、また伝達および遮断する機構が配置されている。
ここで、動力源1は、内燃機関や電気モータあるいはこれらを組み合わせた構成など、車両に使用されている一般的な動力源であってよい。以下の説明では、動力源1をエンジン(ENG)1と記す。また、入力軸2はエンジン1の出力した動力を伝達できる部材であればよく、ドライブプレートや回転軸であってよい。これらエンジン1と入力軸2との間に、ダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させることができる。なお、符号3はサブポンプあるいはチャージポンプと称されるオイルポンプで、変速機TM内の各部への潤滑油の供給や、後述する各油圧ポンプモータとの間に形成されている油路への圧油の補給などのために使用されるものである。
前記各軸線上に配置されている機構は、入力された動力をそのまま出力し、あるいはその一部をそのまま出力するとともに、他の動力を、エネルギ形態を変換して出力し、さらには空転して動力の伝達を行わないように構成された伝動手段の一種である。図1に示す例では、差動機構と、これに反力を与えかつその反力の可変な反力機構とによって構成されている。差動機構は、要は、3つの回転要素によって差動作用を行うものであればよく、歯車やローラを回転要素とした機構であり、そのうちの歯車式差動機構としてはシングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構を使用することができる。また、反力機構は、選択的にトルクを出力できる機構であればよく、油圧などの流体圧式のポンプモータや電気的に動作するモータ・ジェネレータなどを用いることができる。
図1に示す例では、差動機構としてシングルピニオン型遊星歯車機構が用いられ、また反力を生じさせるための反力機構として可変容量型油圧ポンプモータが用いられている。以下の説明では、エンジン1および入力軸2に平行な第1ドライブ軸4およびこれに回転自在に嵌合させられている第2ドライブ軸5と同一軸線上に配置された遊星歯車機構を第1遊星歯車機構6と記し、また油圧ポンプモータを第1ポンプモータ7と記す。さらに、これらと平行に配置されている遊星歯車機構を第2遊星歯車機構8と記し、また油圧ポンプモータを第2ポンプモータ9と記す。なお、図では、第1ポンプモータ7をPM1と記し、第2ポンプモータ9をPM2と記している。
第1ドライブ軸4と第2ドライブ軸5とはこの発明における中間軸に相当し、これらのうち一方のドライブ軸(この例では、第2ドライブ軸5)は中空構造であって、第1ドライブ軸4の外周側に相互に回転自在に嵌合している。そして、これらの各ドライブ軸4,5は、第1遊星歯車機構6を挟んで第1ポンプモータ7とは軸線方向で反対側(図1の右側)に配置されている。
第1遊星歯車機構6は、外歯歯車であるサンギヤ6Sと、これと同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ6Rと、これらのサンギヤ6Sとリングギヤ6Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリア6Cとを回転要素とするシングルピニオン型の遊星歯車機構である。前記の入力軸2にカウンタギヤ対10のカウンタドライブギヤ10Aが取り付けられており、これに噛み合っている一方のカウンタドリブンギヤ10Bが、第1ポンプモータ7および第1遊星歯車機構6と同一軸線上に回転自在に配置されている。そして、このカウンタドリブンギヤ10Bは、スタート(S)シンクロ11を介してリングギヤ6Rに連結されている。
ここで、スタートシンクロ11は、いわゆる発進用切替機構であり、第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rとエンジン1との間を選択的にトルク伝達可能な状態にするとともに、リングギヤ6Rの回転を規制すること、すなわちリングギヤ6Rを固定することができるように構成されている。したがってリングギヤ6Rが入力要素となっている。また、サンギヤ6Sに反力機構としての第1ポンプモータ7のロータ軸7Aが接続されている。したがってサンギヤ6Sが反力要素となっている。そして、キャリア6Cに第1ドライブ軸4が連結されている。したがって、キャリア6Cが出力要素となっている。
第1ポンプモータ7は、押出容積を変更できる可変容量型であり、この図1に示す例では、特に押出容積を“0”から正負のいずれか一方向に変化させることのできるいわゆる片振り型のものであり、第1遊星歯車機構6に対してエンジン1側(図1の左側)に、第1遊星歯車機構6と同一軸線上に配置されている。この種の第1ポンプモータ7としては、各種の形式のものを採用することができ、例えば斜板ポンプや斜軸ポンプ、あるいはラジアルピストンポンプなどを用いることができる。
一方、第2遊星歯車機構8は、上記の第1遊星歯車機構6と同様の構成であって、サンギヤ8Sとリングギヤ8Rとこれらに噛み合っているピニオンギヤを自転および公転自在に保持しているキャリア8Cとを回転要素とし、これら3つの回転要素によって差動作用を行うシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
そして上記の第1遊星歯車機構6と同様に、入力軸2に取り付けられたカウンタドライブギヤ10Aに噛み合っている他方のカウンタドリブンギヤ10Cが、リングギヤ8Rに連結されている。すなわち、リングギヤ8Rに入力軸2がカウンタギヤ対10を介して連結されている。したがってリングギヤ8Rが入力要素となっている。また、サンギヤ8Sに反力機構としての第2ポンプモータ9のロータ軸9Aが接続されている。したがってサンギヤ8Sが反力要素となっている。そして、キャリア8Cに、直結用シンクロ12を介してこれらと同一軸線上にあるキャリア軸13上に配置された第3速ギヤ対14の第3速駆動ギヤ14Aが連結されている。したがってキャリア8Cが出力要素となっている。
上記のキャリア軸13には、第4速ギヤ対15の第4速従動ギヤ15B(もしくは第4速遊転ギヤ15B)が回転自在に嵌合されており、その第4速従動ギヤ15Bに噛み合っている第4速駆動ギヤ15Aが、入力軸2に一体となって回転するように設けられている。また、直結用シンクロ12は、いわゆる直結段形成用の切替機構であり、第2遊星歯車機構8のキャリア8Cと上記のキャリア軸13との間を選択的にトルク伝達可能な状態にするとともに、第4速従動ギヤ15Bとキャリア軸13との間を選択的にトルク伝達可能な状態にすること、すなわち第4速ギヤ対15を介して入力軸2とキャリア軸13との間を選択的にトルク伝達可能な状態にすることができるように構成されている。上記の第3速ギヤ対14および第4速ギヤ対15およびスタートシンクロ11ならびに直結用シンクロ12の詳細については後述する。
第2ポンプモータ9は、第1ポンプモータ7と同様に、押出容積を変更できる可変容量型であり、図1に示す例では、押出容積を“0”から正負のいずれか一方向に変化させることのできるいわゆる片振り型のものであり、第2遊星歯車機構8に対してエンジン1側(図1の左側)に、第2遊星歯車機構8と同一軸線上に配置されている。この種の第2ポンプモータ9としては、各種の形式のものを採用することができ、例えば斜板ポンプや斜軸ポンプ、あるいはラジアルピストンポンプなどを用いることができる。
ここで、発進用切替機構としてのスタートシンクロ11について説明すると、このスタートシンクロ11は、例えば同期連結機構(シンクロナイザー)や噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)もしくは摩擦式クラッチからなるものであって、図1には同期連結機構からなるスタートシンクロ11が記載されている。このスタートシンクロ11は、第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rに一体のハブにスプライン嵌合したスリーブ11Sを備えており、このスリーブ11Sを挟んだ両側に、前述のカウンタギヤ対10のカウンタドリブンギヤ10Bおよび例えば変速機TMのケーシング(図示せず)などに固定された固定部16に一体化させたスプラインが配置されている。さらに、このスタートシンクロ11は、カウンタドリブンギヤ10Bの側に、そのカウンタドリブンギヤ10Bとハブすなわちリングギヤ6Rとを制動するブレーキ機構17が設けられている。
具体的には、スリーブ11Sの図1の右側に、固定部16に一体化させたスプラインが配置され、スリーブ11Sの図1の左側に、カウンタギヤ対10のカウンタドリブンギヤ10Bに一体化させたスプラインが配置されている。そして、スリーブ11Sの図1の更に左側に、スリーブ11Sの図1での左端面側に形成されたスリーブ側摩擦部材17Aと、例えば固定部16に一体化させた固定側摩擦部材17Bとから構成されるブレーキ機構17が配置されている。
すなわち、このスタートシンクロ11は、そのスリーブ11Sを図1の右側(「S」の位置)に移動させることにより、第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rを固定部16に連結してリングギヤ6Rの回転を規制し、すなわちリングギヤ6Rを固定し、スリーブ11Sを図1の左側(「D」の位置)に移動させることにより、カウンタギヤ対10のカウンタドリブンギヤ10Bを第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rに連結し、さらに、スリーブ11Sを図1の「D」の位置よりも左側(「B」の位置)に移動させることにより、カウンタドリブンギヤ10Bとリングギヤ6Rとを連結した状態でブレーキ機構17を係合してそれらカウンタドリブンギヤ10Bおよびリングギヤ6Rの回転を制動するように構成されている。そして、スリーブ11Sを中央(「N」の位置)に位置させることにより、カウンタドリブンギヤ10Bあるいは固定部16のいずれとも係合せず、またブレーキ機構17が解放されているニュートラル状態となるように構成されている。
したがって、スタートシンクロ11のスリーブ11Sを図1の最も左側(「B」の位置)に移動させてスリーブ11Sのスリーブ側摩擦部材17Aを固定側摩擦部材17Bに当接させることにより、ブレーキ機構17を係合もしくは半係合状態にして、カウンタドリブンギヤ10Bおよびリングギヤ6Rの回転数を低下させること、すなわちカウンタドライブギヤ10Bおよび第4速駆動ギヤ15Aの回転を制動することができる。言い換えると、スタートシンクロ11のスリーブ11Sを図1の最も左側(「B」の位置)に移動させてカウンタドリブンギヤ10Bおよび第4速駆動ギヤ15Aの回転を制動することにより、カウンタドライブギヤ10Aを介してカウンタドライブギヤ10Bと連結しているエンジン1および第4速駆動ギヤ15Aと噛み合っている第4速従動ギヤ15Bの回転を制動することができる。
上記のように、このスタートシンクロ11と、そのスタートシンクロ11に設けられたブレーキ機構17とによって、前述のこの発明における直結段用伝動機構によりエンジン1と出力軸18との間を動力伝達不可能な状態から動力伝達可能な状態に切り替える際に、エンジン1の回転を制動することができる。したがって、上記のスタートシンクロ11とブレーキ機構17とが、この発明における同期補助機構に相当している。
この発明における出力部材に相当し、各ドライブ軸4,5から動力が伝達される出力軸18が、各ドライブ軸4,5と平行になるように、また入力軸2と同一軸線上に配置されている。したがって、図1に示す変速機TMは、その主要部分がいわゆる2軸構造になっている。これら各ドライブ軸4,5と出力軸18との間には、異なる変速比を設定するための複数の伝動機構が設けられている。これらの各伝動機構は、トルクの伝達に関与した場合にそれぞれの回転数比に応じて、入力軸2と出力軸18との間の変速比を設定するためのものであり、歯車機構や巻き掛け伝動機構、摩擦車を使用した機構などを採用することができる。図1に示す例では、前進走行のための3つのギヤ対14,19,21と後進走行のためのギヤ対20とが設けられている。
すなわち、出力軸18上には、エンジン1側から順に、第3速従動ギヤ14B、第1速従動ギヤ19B、リバース従動ギヤ20B、第2速従動ギヤ21Bが配置されるとともに、これら各従動ギヤ14B,19B,20B,21Bは、出力軸18に対して回転自在に嵌合している。
これに対して、第2ドライブ軸5上には、上記の第3速従動ギヤ14Bに噛み合っているカウンタギヤ14Cと、上記の第1速従動ギヤ19Bに噛み合っている第1速駆動ギヤ19Aとが、それぞれ第2ドライブ軸5に一体となって回転するように設けられている。なお、第1速駆動ギヤ19Aは、第1速従動ギヤ19Bより歯幅の広い歯車であって、第1速従動ギヤ19Bに隣接して配置されているリバース従動ギヤ20Bとの間に設けられたアイドルギヤ20Aにも噛み合っている。したがって、第1速駆動ギヤ19Aはリバース駆動ギヤを兼ねている。さらに、第1ドライブ軸4は、その外周側の第2ドライブ軸5からその先端側(図1の右側)に突出しており、その突出部分には、上記の第2速従動ギヤ21Bに噛み合っている第2速駆動ギヤ21Aが第1ドライブ軸4に一体となって回転するように設けられている。
上述した各ギヤ対14,19,20,21のうち、前進走行のための変速比(変速段)を設定する第1速ないし第3速の各ギヤ対19,21,14のギヤ比(従動側のギヤの歯数に対する駆動側のギヤの歯数の比)は、ここに挙げたギヤ対19,21,14の順に小さくなっている。すなわち、「第1速ギヤ対19のギヤ比」>「第2速ギヤ対21のギヤ比」>「第3速ギヤ対14のギヤ比」となっている。
そして、上記の各ギヤ対14,19,20,21を選択的に動力伝達可能な状態にするための切替機構が設けられている。この切替機構は、各ギヤ対14,19,20,21におけるいずれかの回転自在なギヤを、そのギヤが取り付けられている軸に対してトルクを伝達できるように連結する機構であり、したがって従来の手動変速機などにおける同期連結機構(シンクロナイザー)を使用することができ、あるいは噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)や摩擦式クラッチなどを使用することができる。
図1に示す例では、切替機構として同期連結機構が使用されており、上記の出力軸18上で、第3速従動ギヤ14Bと第1速従動ギヤ19Bとの間に第1シンクロ22が配置され、また同様に出力軸18上で、リバース従動ギヤ20Bと第2速従動ギヤ21Bとの間に第2シンクロ23が配置されている。これらのシンクロ22,23は、従来の手動変速機で用いられているものと同様であって、出力軸18に一体のハブにスリーブがスプライン嵌合され、そのスリーブを軸線方向に移動することにより次第にスプライン嵌合するチャンファーもしくはスプラインが各従動ギヤに一体に設けられ、さらにスリーブの移動に伴って、従動ギヤ側の所定の部材に次第に摩擦接触して回転を同期させるリングが設けられている。すなわち、同期機構を備えたクラッチ機構である。
したがって第1シンクロ22は、そのスリーブ22Sを図1の右側(「1st」の位置)に移動させることにより、第1速従動ギヤ19Bを出力軸18に連結し、またスリーブ22Sを図1の左側(「3rd」の位置)に移動させることにより、第3速従動ギヤ14Bを出力軸18に連結し、さらにスリーブ22Sを中央(「N」の位置)に位置させることにより、いずれの従動ギヤ19B,14Bとも係合せずにニュートラル状態となるように構成されている。
また、第2シンクロ23は、そのスリーブ23Sを図1の右側(「2nd」の位置)に移動させることにより、第2速従動ギヤ21Bを出力軸18に連結し、またスリーブ23Sを図1の左側(「R」の位置)に移動させることにより、リバース従動ギヤ20Bを出力軸18に連結し、さらにスリーブ23Sを中央(「N」の位置)に位置させることにより、いずれの従動ギヤ21B,20Bとも係合せずにニュートラル状態となるように構成されている。
上記のように、この構成例では、第1速ギヤ対19および第2速ギヤ対21および第3速ギヤ対14ならびにリバースギヤ対20の各伝動機構と、第1シンクロ22および第2シンクロ23の各切替機構とによって、各ドライブ軸4,5と出力軸18との間を選択的に動力伝達可能な状態にすることができる。したがって、上記の各ギヤ対19,21,14,20と各シンクロ22,23とが、この発明における変速段用伝動機構に相当している。
ここで、前述した直結段形成用の切替機構としての直結用シンクロ12について説明すると、この直結用シンクロ12は、前述のスタートシンクロ11と同様に、例えば同期連結機構(シンクロナイザー)や噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)もしくは摩擦式クラッチからなるものであって、図1には同期連結機構からなる直結用シンクロ12が記載されている。この直結用シンクロ12は、キャリア軸13に一体のハブにスプライン嵌合したスリーブ12Sを備えており、このスリーブ12Sを挟んだ両側に、前述の第2遊星歯車機構8のキャリア8Cおよび第4速従動ギヤ15Bに一体化させたスプラインが配置されている。具体的には、スリーブ12Sの図1の左側に、第2遊星歯車機構8のキャリア8Cに一体化させたスプラインが配置され、スリーブ12Sの図1の右側に、第4速従動ギヤ15Bに一体化させたスプラインが配置されている。
したがって、直結用シンクロ12は、そのスリーブ12Sを図1の左側(「CV」の位置)に移動させることにより、第2遊星歯車機構8のキャリア8Cを第3速駆動ギヤ14Aが一体化されているキャリア軸13に連結し、スリーブ12Sを図1の右側(「4th」の位置)に移動させることにより、第4速従動ギヤ15Bを第3速駆動ギヤ14Aが一体化されているキャリア軸13に連結し、さらにスリーブ12Sを中央(「N」の位置)に位置させることにより、キャリア8Cあるいは第4速従動ギヤ15Bのいずれとも係合せずにニュートラル状態となるように構成されている。
このように、直結用シンクロ12のスリーブ12Sを図1の左側(「CV」の位置)に移動させて第2遊星歯車機構8のキャリア8Cとキャリア軸13とを連結することにより、変速機TMを、前述した複数の伝動機構すなわち第1速ないし第3速の各ギヤ対18,20,14のギヤ比に応じた第1速ないし第3速の各変速段を設定する状態、およびそれら第1速ないし第3速の各変速段の間で変速比を連続的に変化させる無段変速状態にすることができる。
そして、この発明の変速機TMは、前述の第1速ないし第3速の各ギヤ対19,21,14のギヤ比に応じて設定されるいずれの変速比よりも小さな、すなわち第3速の変速比よりも小さなこの変速機TMの最高速段としての第4速を設定できるように構成されている。すなわち、第3速ギヤ対14を出力軸18に対してトルク伝達可能な状態にするとともに、上記のように直結用シンクロ12のスリーブ12Sを図1の右側に移動させて第4速従動ギヤ15Bとキャリア軸13とを連結することにより、入力軸2に伝達されたエンジン1の出力トルクを、第4速ギヤ対15および第3速ギヤ対14を介して出力軸18に伝達すること、すなわちエンジン1の出力トルクを第2ポンプモータ9および第2遊星歯車機構8を経由させずに出力軸18に直接伝達するができる。言い換えると、直結用シンクロ12のスリーブ12Sを図1の右側に移動させて第4速従動ギヤ15Bとキャリア軸13とを連結することにより、第2ポンプモータ9および第2遊星歯車機構8と出力軸18との間の動力伝達を遮断しかつエンジン1と出力軸18との間を第4速ギヤ対15および第3速ギヤ対14を介して動力伝達可能な状態にすることができる。
さらに、上記の第4速ギヤ対15のギヤ比が、エンジン1の出力トルクが第4速ギヤ対15および第3速ギヤ対14を経由して出力軸18へ伝達される際の変速比が“1”もしくは“1”よりも小さい所定値となるように設定されている。したがって、この変速機TMは、直結用シンクロ12によって第2ポンプモータ9および第2遊星歯車機構8と出力軸18との間の動力伝達を遮断しかつエンジン1と出力軸18との間を第4速ギヤ対15および第3速ギヤ対14を介して動力伝達可能な状態にすることにより、変速比が“1”となるいわゆる直結段、もしくは変速比が“1”よりも小さな増速段を設定することができる。
上記のように、この変速機TMでは、第4速ギヤ対15と、直結用シンクロ12とによって、選択的に、エンジン1と出力軸18との間を動力伝達可能な状態にしかつ第2遊星歯車機構8と出力軸18との間を動力伝達不可能な状態にすることができる。したがって、上記の第4速ギヤ対15と直結用シンクロ12とが、この発明における直結段用伝動機構に相当している。
上記の各シンクロ11,12,22,23の各スリーブ11S,12S,22S,23Sは、リンケージ(図示せず)を介して手動操作によって切り替え動作させるように構成することができ、あるいはそれぞれに個別に設けたアクチュエータ(図示せず)によって切り替え動作させるように構成することができる。また、前述の各ポンプモータ7,9の押出容積、あるいは各アクチュエータの動作は、電子制御装置(ECU)24によって電気的に制御される。この電子制御装置24は、マイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータや予め記憶しているデータおよびプログラムに従って演算を行い、押出容積を設定し、あるいは各シンクロ11,12,22,23を動作させるための指令信号を出力するようになっている。
つぎに、上記の各ポンプモータ7,9を制御するための流体圧回路(油圧回路)について説明する。各ポンプモータ7,9がいわゆる正回転した場合の吸入口7S,9S同士、および吐出口7D,9D同士が、図2に示すように、油路25,26によって互いに連通され、全体として閉回路を構成している。その油路25,26同士の間には、一方の油路25の圧力が設定圧力を超えた場合に開弁して圧油を他方の油路26に排出する電磁リリーフ弁27と、他方の油路26の圧力が設定圧力を超えた場合に開弁して圧油を一方の油路25に排出する電磁リリーフ弁28とが設けられている。なお、これらの電磁リリーフ弁27,28は、設定圧(リリーフ圧)を電気的に制御し、あるいは設定圧を“0”にする制御を電気的に行うことのできる電磁弁である。
また、上記の閉回路には流体(具体的にはオイル)を補給するためのチャージポンプ(もしくはブーストポンプ)29が設けられている。このチャージポンプ29は、上記の閉回路からの漏れなどによるオイルの不足を補うためのものであって、前述したエンジン1や図示しないモータなどによって駆動されて、オイルパン30からオイルを汲み上げて閉回路に供給するようになっている。このチャージポンプ29の吐出口は、閉回路における油路25と油路26とにそれぞれ油路31およびチェック弁32,33を介して連通されている。なお、これらのチェック弁32,33は、チャージポンプ29からの吐出方向に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。さらに、チャージポンプ29の吐出圧を調整するためのリリーフ弁34が、チャージポンプ29の吐出口に連通されている。このリリーフ弁34は、スプリングによる弾性力とパイロット圧もしくはソレノイドによる押圧力との和より高い圧力が作用した場合に開いてオイルをオイルパン30に排出するように構成されており、したがってチャージポンプ29の吐出圧をパイロット圧に応じた圧力に設定するように構成されている。
そして、圧油を蓄圧するとともにその蓄圧した圧油を第1ポンプモータ7もしくは第2ポンプモータ9に供給するアキュムレータ35が設けられている。このアキュムレータ35は、第1ポンプモータ7で発生させた油圧を蓄える蓄圧器であって、油路26に、チェック弁36および切替弁37を介して、その切替弁37により選択的に連通させられるように構成されている。車両の制動時に第1ポンプモータ7を駆動して油圧を発生させる場合、第1ポンプモータ7のロータ軸7Aは逆回転し、第1ポンプモータ7では吐出口7Dから圧油を吐出することになる。したがって、閉回路では油路26が高圧側になる。そのため、アキュムレータ35は油路26に連通するように設けられている。
チェック弁36は、閉回路から切替弁37およびアキュムレータ35に向けて圧油が流れる場合に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。そして切替弁37は、アキュムレータ35と閉回路を接続する油路38を連通させる開位置と、その油路38を閉じる閉位置とに弁体(図示せず)を選択的に移動させるように構成されている。なお、その弁体の切替動作は、ソレノイドなどに通電することにより電気的に制御するように構成されている。具体的には、通常(無通電,OFF)時は、弁体は閉位置に位置して油路38を遮断し、通電(ON)時に、弁体を開位置に移動させて油路38を連通させるようになっている。したがって、この切替弁37の代わりにノーマルクローズ形の開閉弁などを用いることもできる。
また、アキュムレータ35の油圧を検出するための油圧センサ39が設けられていて、そして前述の油路31とオイルパン30との間には、チャージポンプ29と並列して、チェック弁40を備えた油路41が設けられている。このチェック弁40は、オイルパン30から油路31および閉回路に向けて圧油が流れる場合に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。したがって、第1ポンプモータ7で発生させた油圧をアキュムレータ35に蓄圧する際に、チャージポンプ29により閉回路内に供給される作動油の量が不足した場合であっても、図3の破線で示すように、この油路41を介してオイルパン30の作動油を閉回路に供給することができる。
つぎに、上述した変速機TMの作用について説明する。図4は、いずれかのギヤ対19,21,14,15,20のギヤ比で決まる各変速段を設定する際の各ポンプモータ(PM1,PM2)7,9、および各シンクロ11,12,22,23、ならびに各電磁リリーフ弁27,28の動作状態をまとめて示す図表であって、この図4における各ポンプモータ7,9についての「0」は、ポンプ容量(押出容積)を実質的に“0”(ゼロ)とし、そのロータ軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されてもロータ軸が回転しない状態(フリー)を示し、「LOCK」はそのロータの回転を止めている状態を示している。さらに「PUMP」は、ポンプ容量を実質的な“0”より大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当するポンプモータ7(もしくは9)はポンプとして機能している。また、「MOTOR」は、一方のポンプモータ7(もしくは9)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当するポンプモータ9(もしくは7)は軸トルクを発生している。
そして、各シンクロ11,12,22,23についての「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「D」、「S」、「R」、「CV」は、それぞれのスリーブ11S,12S,21S,22Sの図1での位置を示し、また、「N」は該当するシンクロ11,12,22,23をOFF状態(中立位置)に設定する位置を示している。そして、スタートシンクロ11についての「B」は、シンクロ11Sを、エンジン1の回転を制動する状態の位置を示している。
図示しないシフト装置によってニュートラルポジションが選択されていることによりニュートラル状態を設定する際には、各ポンプモータ7,9の押出容積が“0”とされ、また各シンクロ11,12,22,23がOFF状態とされる。すなわちそれぞれのスリーブ11S,12S,22S,23Sが「N」の位置(図1の中央位置)に設定される。したがって、いずれのギヤ対19,21,14,15,20も出力軸18に連結されていないニュートラル状態となる。その結果、各ポンプモータ7,9がいわゆる空回り状態となる。したがって、各遊星歯車機構6,8のリングギヤ6R,8Rにエンジン1からトルクが伝達されても、サンギヤ6S,8Sに反力が作用しないため、出力要素であるキャリア6C,8Cに連結されている各ドライブ軸4,5にはトルクが伝達されない。なお、この場合、閉回路の各電磁リリーフ弁27,28は、開状態すなわちリリーフ圧が“0”となるように制御されるのが好ましい。
シフトポジションがドライブポジションなどの走行ポジションに切り替えられると、スタートシンクロ11のスリーブ11Sが「S」の位置(図1の右側)に、直結用シンクロ12のスリーブ12Sが「CV」の位置(図1の左側)に、第1シンクロ22のスリーブ22Sが「1st」の位置(図1の右側)に、第2シンクロ23のスリーブ23Sが「2nd」の位置(図1の右側)に、それぞれ移動させられる。したがって、第1速従動ギヤ19Bおよび第2速従動ギヤ21Bが出力軸18に連結されて、出力軸18に対してトルク伝達可能な状態になる。その結果、第2ドライブ軸5と出力軸18とが第1速ギヤ対19を介して連結され、第1ドライブ軸4と出力軸18とが第2速ギヤ対21を介して連結される。また、第2遊星歯車機構8のキャリア8Cとキャリア軸13すなわち第3速駆動ギヤ14Aとが連結される。したがって、キャリア軸13と出力軸18とが第3速ギヤ対14および第2ドライブ軸5ならびに第1速ギヤ対19を介して連結される。そして、第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rがスタートシンクロ11を介して固定される。
すなわち、各変速段を設定する伝動機構すなわち各ギヤ対の連結状態としては、第1速および第2速を設定する状態となる。そして、第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rが固定されるので、第1遊星歯車機構6は、サンギヤ6Sにロータ軸7Aを介して第1ポンプモータ7の出力したトルクが入力された場合にそのサンギヤ6Sの回転数に対して第1遊星歯車機構6の出力要素であるキャリア6Cの回転数が減速される減速機構、言い換えると、サンギヤ6Sにロータ軸7Aを介して第1ポンプモータ7の出力したトルクが入力された場合にそのサンギヤ6Sのトルクに対して第1遊星歯車機構6の出力要素であるキャリア6Cのトルクが増幅されるトルク増幅機構として機能する状態となる。
したがって、車両の発進時に、シフトポジションが走行ポジションに切り替えられることに伴い、エンジン1の動力が第2遊星歯車機構8および第3速ギヤ対14およびカウンタギヤ14Cおよび第2ドライブ軸5ならびに第1速ギヤ対19を介して出力軸18に伝達される動力伝達経路と、第1ポンプモータ7が出力したトルクが第1遊星歯車機構6で増幅されて第1ドライブ軸4ならびに第2速ギヤ対21を介して出力軸18に伝達される動力伝達経路との2つの動力伝達経路が形成されることになる。
この状態では、車両が未だ停止しているので、第2遊星歯車機構8では、キャリア8Cが停止している状態でリングギヤ8Rにエンジン1から動力が入力され、したがってサンギヤ8Sがリングギヤ8Rの回転方向とは反対の方向に回転する。この状態で、各ポンプモータ7,9の押出容積を次第に大きくすると、第2ポンプモータ9がポンプとして機能して油圧を発生する。すると、それに伴う反力が第2遊星歯車機構8におけるサンギヤ8Sに作用するので、キャリア8Cにこれをリングギヤ8Rと同方向に回転させるトルクが現れる。その結果、第3速ギヤ対14およびカウンタギヤ14Cならびに第1速ギヤ対19を介して出力軸18に動力が伝達される。
上記の第2ポンプモータ9はいわゆる逆回転してポンプとして機能しているから、その吸入ポート9Sから圧油を吐出し、これが第1ポンプモータ7の吸入ポート7Sに供給される。その結果、第1ポンプモータ7がモータとして機能し、そのロータ軸7Aからいわゆる正回転方向のトルクが出力され、そのトルクが第1遊星歯車機構6におけるサンギヤ6Sに入力される。このとき、第1遊星歯車機構6は、上記のようにリングギヤ6Rが固定されてキャリア6Cを出力要素とする減速機構として機能するので、サンギヤ6Sに入力されたトルクは、第1遊星歯車機構6で増幅されて第1ドライブ軸4ならびに第2速ギヤ対21を介して出力軸18に伝達される。すなわち第1ポンプモータ7から出力されたトルクが増幅されて出力軸18へ伝達される。なお、この場合、閉回路の各電磁リリーフ弁27,28は、上記の各ポンプモータ7,9間での圧油の給排制御と併せてそれらのリリーフ圧が所定の圧力に適宜に制御される。
このように、車両の発進時には、エンジン1から入力された動力の一部が第2遊星歯車機構8および第3速ギヤ対14およびカウンタギヤ14Cならびに第1速ギヤ対19を介して出力軸18に伝達され、また他の動力が圧油の流動の形にエネルギ変換され、これが第1ポンプモータ7に伝達され、さらにこの第1ポンプモータ7から出力軸18にトルクが増幅されて伝達される。このように発進時には、いわゆる機械的な動力伝達と流体を介した動力伝達が行われ、しかも流体を介した動力伝達の際にはトルクが増幅されて、これらの動力を合算した動力が出力軸18に出力される。すなわち、発進時には、第1ポンプモータ7が出力するトルクを増幅して変速機TMが出力するトルクに付加することができる。言い換えると、車両の発進時に、第1ポンプモータ7の出力トルクを増幅して出力軸18へ伝達することができ、第2遊星歯車機構8および第2ドライブ軸5ならびに第1速ギヤ対19を介して出力軸18へ動力が伝達される動力伝達系統と併せて、2つの動力伝達系統を成立させることができる。その結果、大きな駆動力が要求される車両の発進時に、より大きな駆動トルクを得ることができ、車両の発進加速性を向上することができる。
上記のような動力の伝達状態では、出力軸18に現れるトルクは、第1速ギヤ対19を介した機械的伝達のみの場合のトルクより大きくなり、したがって変速機TMの全体としての変速比は、第1速ギヤ対19によって決まるいわゆる固定変速比より大きくなる。また、その変速比は、流体を介した動力の伝達割合に応じて変化する。そのため、第1遊星歯車機構6におけるサンギヤ6Sおよびこれに連結されている第1ポンプモータ7の回転数が次第に“0”に近づくのに従って流体を介した動力伝達の割合が低下し、変速機TMの全体としての変速比は第1速の固定変速比に近づく。そして、第1ポンプモータ7の押出容積が“0”になると、閉回路での圧油の流動が阻止されるので第2ポンプモータ9がロックされ、固定変速比である第1速となる。
こうして第2ポンプモータ9がロックされると、第2遊星歯車機構8のサンギヤ8Sにはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第2遊星歯車機構8ではサンギヤ8Sを固定した状態でリングギヤ8Rに動力が入力されるので、出力要素であるキャリア8Cにはこれをリングギヤ8Rと同方向に回転させるトルクが生じ、これがキャリア軸13および第3速ギヤ対14およびカウンタギヤ14Cおよび第2ドライブ軸5ならびに第1速ギヤ対19を介して、出力軸18に伝達される。こうして固定変速比である第1速が設定される。
なお、この第1速の状態で第2シンクロ23をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ22Sを中立位置に設定すれば、第1ポンプモータ7を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、この第1速から後述する第3速を設定するまで間は、閉回路の各電磁リリーフ弁27,28は、所定のリリーフ圧となる閉状態に制御される。
第1速から第2速へのアップシフトでは、第1ポンプモータ7およびこれに連結されているサンギヤ6Sがリングギヤ6Rとは反対の方向に回転している。したがって第1ポンプモータ7の押出容積を正の方向に増大させると、第1ポンプモータ7がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤ6Sに作用する。その結果、リングギヤ6Rに入力されたトルクとサンギヤ6Sに作用する反力とを合成したトルクがキャリア6Cに作用し、これが正回転し、かつその回転数が次第に増大する。言い換えれば、エンジン1の回転数が次第に引き下げられる。そのキャリア6Cから第1ドライブ軸4ならびに第2速ギヤ対21を介して出力軸18にトルクが伝達される。
第1ポンプモータ7がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入ポート7Sから第2ポンプモータ9の吸入ポート9Sに供給される。そのため、第2ポンプモータ9がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第2遊星歯車機構8のサンギヤ8Sに作用する。第2遊星歯車機構8のリングギヤ8Rにはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤ8Sに作用するトルクとが合成されてキャリア8Cからキャリア軸13および第3速ギヤ対14ならびにカウンタギヤ14Cを介して第2ドライブ軸5に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、出力軸18にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。
そして、第1ポンプモータ7の回転数が次第に低下することにより、第1遊星歯車機構6および第2速ギヤ対21を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機TMの全体としての変速比は、第1速ギヤ対19で決まる変速比から第2速ギヤ対21で決まる変速比に次第に低下する。すなわちアップシフトする。その変化は、上述した発進後に固定変速比である第1速に変化する場合と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第1ポンプモータ7の押出容積が最大まで増大し、かつ第2ポンプモータ9の押出容積が“0”になって閉回路での圧油の流動が阻止されることにより、第1ポンプモータ7がロックされて、固定変速比である第2速となる。
すなわち、各ポンプモータ7,9を連通させている閉回路が第2ポンプモータ9によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第1ポンプモータ7は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第1遊星歯車機構6のサンギヤ6Sにはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第1遊星歯車機構6ではサンギヤ6Sを固定した状態でリングギヤ6Rに動力が入力されるので、出力要素であるキャリア6Cにはこれをリングギヤ6Rと同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1ドライブ軸4ならびに第2速ギヤ対21を介して、出力軸18に伝達される。こうして固定変速比である第2速が設定される。
なお、この第2速の状態で第1シンクロ22をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ22Sを中立位置に設定すれば、第2ポンプモータ9を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第1シンクロ22のスリーブ22Sを「3rd」の位置(図1の左側)に移動させて第3速従動ギヤ14Bを出力軸18に連結しておけば、固定変速比である第3速へのアップシフト待機状態となる。一方、第1シンクロ22のスリーブ22Sを「1st」の位置(図1の右側)に移動させて第1速従動ギヤ19Bを出力軸18に連結しておけば、第1速へのダウンシフト待機状態となる。
第2速から第3速へのアップシフトでは、第2ポンプモータ9およびこれに連結されているサンギヤ8Sがリングギヤ8Rとは反対の方向に回転している。そのため、第2ポンプモータ9の押出容積を正の方向に増大させると、第2ポンプモータ9がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤ8Sに作用する。したがって、リングギヤ8Rに入力されたトルクとサンギヤ8Sに作用する反力とを合成したトルクがキャリア8Cに作用してこれが正回転し、第1シンクロ22のスリーブ22Sを「3rd」の位置(図1の左側)に移動させて第3速従動ギヤ14Bを出力軸18に連結することにより、キャリア8Cに作用するトルクがキャリア軸13および第3速ギヤ対14を介して出力軸18に伝達される。また、変速比の低下に伴ってエンジン1の回転数が次第に引き下げられる。
第2ポンプモータ9がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入ポート9Sから第1ポンプモータ7の吸入ポート7Sに供給される。そのため、第1ポンプモータ7がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第1遊星歯車機構6のサンギヤ6Sに作用する。第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rにはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤ6Sに作用するトルクとが合成されてキャリア6Cから第1ドライブ軸4に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、出力軸18にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。そして、第2ポンプモータ9の回転数が次第に低下することにより、第2遊星歯車機構8およびキャリア軸13ならびに第3速ギヤ対14を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機TMの全体としての変速比は、第2速ギヤ対21で決まる変速比から第3速ギヤ対14で決まる変速比に次第に低下する。すなわち、アップシフトする。その変化は、上述した発進後に固定変速比である第1速に変化する場合や第1速から第2速にアップシフトする場合と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第2ポンプモータ9の押出容積が最大まで増大し、かつ第1ポンプモータ7の押出容積が“0”になって閉回路での圧油の流動が阻止されることにより、第2ポンプモータ9がロックされて、固定変速比である第3速となる。
すなわち、第2遊星歯車機構8のサンギヤ8Sにはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第2遊星歯車機構8ではサンギヤ8Sを固定した状態でリングギヤ8Rに動力が入力されるので、出力要素であるキャリア8Cにはこれをリングギヤ8Rと同方向に回転させるトルクが生じ、これが第2ドライブ軸5およびカウンタギヤ14Cならびに第3速従動ギヤ14Bを介して、出力軸18に伝達される。こうして固定変速比である第3速が設定される。
なお、この第3速の状態で第2シンクロ23をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ23Sを中立位置に設定すれば、第1ポンプモータ7を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第2シンクロ23のスリーブ23Sを「N」の位置に移動させて第2シンクロ23をOFF状態に設定しておけば、この変速機TMの最高速段の固定変速比である第4速へのアップシフト待機状態となる。
第3速から第4速へのアップシフトでは、第3速の各ポンプモータ7,9の状態、すなわち第1ポンプモータ7の押出容積が“0”にされて第2ポンプモータ9がロックされた状態のまま、また第1シンクロ22のスリーブ21Sを「3rd」の位置に設定したまま、第2シンクロ23がOFF状態にされる。すなわち第2シンクロ23のスリーブ22Sが「N」の位置に設定される。また直結用シンクロ12が一旦OFF状態とされる。すなわち直結用シンクロ12のスリーブ12Sが「N」の位置に設定される。
そして、その状態から直結用シンクロ12のスリーブ12Sを「4th」の位置(図1の左側)に設定することにより、この変速機TMの最高速段である第4速が設定されるが、このとき、直結用シンクロ12のスリーブ12Sが「4th」の位置に移動させられて押し付けられることによりキャリア軸13すなわち第3速駆動ギヤ14Aと第4速従動ギヤ15Bとの回転同期が行われるのに併せて、スタートシンクロ11のスリーブ11Sが「B」の位置に移動させられて押し付けられることにより、その回転同期が補助される。
すなわち、直結用シンクロ12のスリーブ12Sが「4th」の位置に移動させられると、第2遊星歯車機構8のキャリア8Cとキャリア軸13すなわち第3速駆動ギヤ14Aとの間の動力伝達が遮断されるとともに、第4速従動ギヤ15Bがキャリア軸13に連結される。したがって、直結用シンクロ12の同期連結機構によって第4速従動ギヤ15Bの回転とキャリア軸13すなわち第3速駆動ギヤ14Aの回転とが同期させられるが、この場合は第3速から第4速へのアップシフトであるため、エンジン1の回転数が第3速での回転数に対して低下させられることになる。このとき、スタートシンクロ11のスリーブ11Sを「B」の位置に移動して押し付けることにより、カウンタギヤ対10の回転すなわちエンジン1の回転が制動されてエンジン1の回転数が低下させられる。すなわち、第3速から第4速へのアップシフトの際の直結用シンクロ12における回転同期が促進される。
そして、直結用シンクロ12のスリーブ12Sが「4th」の位置で係合されることにより、入力軸2を介してエンジン1の動力が直接伝達される第4速ギヤ対15が、キャリア軸13および第3速ギヤ対14を介して出力軸18に対して動力伝達可能な状態になる。その結果、エンジン1の動力が各ポンプモータ7,9および各遊星歯車機構6,8に伝達されることなく、第4速ギヤ対15および第3速ギヤ対14を介して直接出力軸18に伝達される状態、すなわち直結段である第4速が設定される。
この第4速の状態でスタートシンクロ11をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ11Sを中立位置に設定すれば、第1ポンプモータ7を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、この第4速へのアップシフトを実行する場合、あるいはこの第4速から第3速へのダウンシフトを実行する場合、閉回路の各電磁リリーフ弁27,28は、第2ポンプモータ9のロック状態を維持するようにそれらのリリーフ圧が所定の圧力に適宜に制御されるとともに、固定変速段である第4速もしくは第3速が設定される際に、所定のリリーフ圧となる閉状態に制御される。
つぎに後進段について説明する。シフトポジションがニュートラルポジションからリバースポジションに切り替えられるなどのことによって後進段を設定する指示が行われると、直結用シンクロ12のスリーブ12Sが「CV」の位置に移動させられて、第2遊星歯車機構8のキャリア8Cがキャリア軸13に連結させられ、また、第1シンクロ22のスリーブ22Sが「N」の位置に移動させられてニュートラルの状態にされる。
そして、第2シンクロ23のスリーブ23Sが「R」の位置(図1の左側)に移動させられて、リバース従動ギヤ20Bが出力軸18に連結される。このように、後進段での発進時には、入力軸2から第2遊星歯車機構8および第3速ギヤ対14およびカウンタギヤ14Cおよび第2ドライブ軸5ならびにリバースギヤ対20を経由して出力軸18に到る動力伝達経路が形成される。なお、スタートシンクロ11のスリーブ11Sの位置は、この場合「S」、「N」、「D」のいずれでもよく、後進発進した後に前進で発進することを考慮して、ここではスリーブ11Sを「S」(もしくは「N」)に位置に移動しておくのが好ましい。
この状態で第1ポンプモータ7の押出容積が“0”にされ、第2ポンプモータ9の押出容積が最大にされる。したがって、第2ポンプモータがロックされて閉回路内に油圧が発生する。この油圧が第2遊星歯車機構8における反力となり、第2遊星歯車機構8のリングギヤ8Rに入力されたエンジン1のトルクが増幅されて第2遊星歯車機構8のキャリア8Cから第3速ギヤ対14およびカウンタギヤ14Cを介して第2ドライブ軸5に出力される。すなわち、第2遊星歯車機構8の出力要素であるキャリア8Cにはこれを前進走行時と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第3速ギヤ対14およびカウンタギヤ14Cを介して第2ドライブ軸5に伝達される。
このとき、第2遊星歯車機構8のキャリア8Cから第2ドライブ軸5へのトルクの伝達をスムーズに行うために、閉回路の各電磁リリーフ弁27,28のリリーフ圧が適宜制御される。具体的には、上記のように第1ポンプモータ7の押出容積が“0”の状態で第2ポンプモータ9ロックされることにより閉回路内に発生した油圧による反力が、第2遊星歯車機構8のサンギヤ8Sに徐々に作用するように、すなわち閉回路内の油圧が徐々に増大するように各電磁リリーフ弁27,28のリリーフ圧が制御される。
このようにして第2ドライブ軸5にトルクが伝達されると、第2ドライブ軸5と出力軸18との間に配置されているリバースギヤ対20は、アイドルギヤ20Aを備えているので、第2ドライブ軸5が前進走行時と同方向に回転すると、出力軸18はこれとは反対に方向に回転し、したがって後進走行することになる。すなわち、固定変速比としての後進段が設定される。
前述したように、この発明で対象とする変速機TMにおいては、車両Veの制動時、すなわち出力軸18側から変速機TMへトルクが入力される際に、その出力軸18側からのトルクにより第1ポンプモータ7をポンプとして駆動し、その際に発生する油圧を回収して有効に利用することにより、変速機TMの動力伝達効率あるいはエンジン1の燃費を向上させることができる。そこで、この発明に係る制御装置では、変速機TMで最高速段すなわち直結段が設定された状態で車両が制動される場合に、以下に示す制御を実行するように構成されている。その制御例を以下に説明する。
(第1制御例)
図5は、この発明の制御装置による第1制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図5において、先ず、変速機TMで設定される変速段が有段最高速段であるか否か、すなわち、この変速機TMの最高速段であって直結段である第4速が設定されているか否かが判断される(ステップS11)。これは、例えば、変速機TMの各シンクロ11,12,22,23の各スリーブ11S,12S,22S,23Sの位置を検出することなどにより判断することができる。
図5は、この発明の制御装置による第1制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図5において、先ず、変速機TMで設定される変速段が有段最高速段であるか否か、すなわち、この変速機TMの最高速段であって直結段である第4速が設定されているか否かが判断される(ステップS11)。これは、例えば、変速機TMの各シンクロ11,12,22,23の各スリーブ11S,12S,22S,23Sの位置を検出することなどにより判断することができる。
この発明は、変速機TMの直結段設定時の車両の制動時における油圧の回生を目的としているため、変速機TMで設定される変速段が直結段の第4速でないことにより、このステップS11で否定的に判断された場合は、以降の制御は実行せずに、このルーチンを一旦終了する。これに対して、変速機TMで設定される変速段が第4速であることにより、ステップS11で肯定的に判断された場合には、ステップS12へ進み、車両が制動状態であるか否かが判断される。これは、例えば、エンジン1のスロットル開度や回転数、あるいは車両の制動装置におけるブレーキスイッチの信号等を検出することにより判断することができる。
車両が制動状態でないことにより、このステップS12で否定的に判断された場合は、油圧の回生は行われず、通常の変速制御が実行される。すなわち、ステップS13へ進み、油圧回路(閉回路)がニュートラルの状態にされる。例えば、各ポンプモータ7,9の押出容積をいずれも“0”にする、あるいは、各電磁リリーフ弁27,28のリリーフ圧をいずれも“0”にすることなどによって、閉回路内をニュートラルの状態にすることができる。
次いで、切替弁37が操作されて油路38が遮断される(ステップS14)。具体的には、切替弁37がOFFにされてその弁体が閉位置に位置するように制御される。そして、第2シンクロ23のスリーブ23Sが、「N」の位置に移動させられ(ステップS15)、またスタートシンクロ11のスリーブ11Sが、「N」もしくは「D」の位置に移動させられる(ステップS16)。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記のように、油圧の回生を行わない場合に、閉回路がニュートラルの状態にされ、また、第2シンクロ23のスリーブ23Sが「N」の位置にされ、スタートシンクロ11のスリーブ11Sが「N」もしくは「D」の位置にされて、出力軸18と第1ポンプモータ7との間の動力伝達を遮断することにより、油圧の回生を行わない場合の引き摺り損失を低減することができる。
一方、車両が制動状態であることにより、前述のステップS12で肯定的に判断された場合は、ステップS17へ進み、アキュムレータ35が高圧であるか否かが判断される。すなわち、アキュムレータ35に新たに油圧を蓄圧する余裕があるか否かが判断される。例えば、アキュムレータ35の許容蓄圧量に相当するような所定の閾値を予め定めておき、油圧センサ39により検出したアキュムレータ35内の油圧と上記の閾値とを比較することにより、このステップS17における判断を行うことができる。
アキュムレータ35が高圧であって、新たに油圧を蓄圧できないことにより、このステップS17で肯定的に判断された場合は、油圧の回生は行われないため、前述のステップS13ないしS16で示した通常の変速制御が実行され、その後、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、アキュムレータ35が新たに油圧を蓄厚できないほど高圧ではなく、未だ油圧を蓄圧する余裕があることにより、ステップS17で否定的に判断された場合には、車両の制動力による油圧回生制御が実行される。すなわち、ステップS18へ進み、切替弁37が操作されて油路38が開通される。具体的には、切替弁37がONにされてその弁体が開位置に位置するように制御され、閉回路の油路26とアキュムレータ35とが連通させられる。
次いで、第2シンクロ23のスリーブ23Sが、「2nd」の位置に移動させられる(ステップS19)。すなわち、出力軸18に対して第2速ギヤ対21が動力伝達可能に連結され、したがって出力軸18と第1ドライブ軸4とが第2速ギヤ対21を介して動力伝達可能な状態にされる。
そして、第1ポンプモータ7の押出容積が制御されてその第1ポンプモータ7で発生させた油圧をアキュムレータ35に蓄圧させる(ステップS20)。ここでの第1ポンプモータ7の押出容積は、例えば、図6に示した第1ポンプモータ7の押出容積(ポンプモータ容量)と車両の制動力との関係のように、車両の制動力の大きさに応じて制御される。また、車両の制動力は、例えば、車両の制動装置のブレーキ圧やブレーキペダルのストロークなどから求めることができる。このようにして、制動時における油圧の回生が行われると、その後、このルーチンを一旦終了する。
上述した制動時の油圧回生制御を実行する際の、各ポンプモータ(PM1,PM2)7,9、および各シンクロ11,12,22,23、ならびに各電磁リリーフ弁27,28の動作状態をまとめて示すと、図7の上段(第1制御例)のようになる。第1ポンプモータ7がポンプとして駆動される間、第2ポンプモータ9の押出容積は“0”にされ、また各電磁リリーフ弁27,28は閉状態に制御される。すなわち各電磁リリーフ弁27,28のリリーフ圧は最大に設定される。また、上記のように第2シンクロ23のスリーブ23Sが「2nd」の位置に設定されるのに対して、スタートシンクロ11のスリーブ11Sは「N」もしくは「D」の位置に設定され、第1シンクロ22のスリーブ22Sは「3rd」に位置に設定され、そして直結用シンクロ12のスリーブ12Sは「4th」の位置に設定される。
また、この場合のトルクの伝達経路を図示すると図8のようになる。すなわち、この場合は図8に示すように、出力軸18から第3速ギヤ対14および第4速ギヤ対15ならびに入力軸2を経由してエンジン1に至る動力伝達経路と、入力軸18から第2速ギヤ対21および第1ドライブ軸4ならびに第1遊星歯車機構6を経由して第1ポンプモータ7に至る動力伝達経路との2つの伝達経路が形成されることになる。なお、この場合に第1ドライブ軸4からキャリア6Cを介して第1遊星歯車機構6に入力されたトルクは、サンギヤ6Sを介して第1ポンプモータ7に伝達されるとともに、一部はリングギヤ6Rを介して入力軸2およびエンジン1に伝達されることになる。
そして、このときの第1遊星歯車機構6の各回転要素、すなわちサンギヤ6S、キャリア6C、リングギヤ6Rの回転状態を図9の共線図に示す。図9の(a)は、エンジン1のエンジンブレーキ力が大きい場合の共線図を示し、図9の(b)は、エンジン1のエンジンブレーキ力が小さい場合の共線図を示している。この場合のサンギヤ6Sの回転数、すなわちサンギヤ6Sから出力されるトルクによって第1ポンプモータ7が駆動されることにより発生する油圧は、エンジン1のエンジンブレーキ力に依存して変化することになる。
(第2制御例)
図10は、この発明の制御装置による第2制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。この第2制御例は、車両の制動時における油圧回生の際に、第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rを固定することにより、第1ポンプモータ7を効率良く駆動するようにした制御例である。この図10のフローチャートにおけるステップS19’以外の各ステップの制御内容は、前述の第1制御例での図5のフローチャートにおける各ステップの制御内容と同一であるので、詳細な説明は省略する。
図10は、この発明の制御装置による第2制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。この第2制御例は、車両の制動時における油圧回生の際に、第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rを固定することにより、第1ポンプモータ7を効率良く駆動するようにした制御例である。この図10のフローチャートにおけるステップS19’以外の各ステップの制御内容は、前述の第1制御例での図5のフローチャートにおける各ステップの制御内容と同一であるので、詳細な説明は省略する。
図10において、変速機TMで設定される変速段が有段最高速段すなわち直結段である第4速であって、かつ車両が制動状態であって、なおかつアキュムレータ35に蓄圧する余裕がある場合に、油圧の回生を行う場合、この第2制御例では、スタートシンクロ11のスリーブ11Sが、「S」の位置に移動させられる(ステップS19’)。すなわち、第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rと固定部16とが連結されて、リングギヤ6Rの回転が停止した状態で固定される。
この場合の各ポンプモータ(PM1,PM2)7,9、および各シンクロ11,12,22,23、ならびに各電磁リリーフ弁27,28の動作状態をまとめて示すと、図7の下段(第2制御例)のようになる。第1ポンプモータ7がポンプとして駆動される間、第2ポンプモータ9の押出容積は“0”にされ、また各電磁リリーフ弁27,28は閉状態に制御される。すなわち各電磁リリーフ弁27,28のリリーフ圧は最大に設定される。また、第2シンクロ23のスリーブ23Sが「2nd」の位置に設定され、そしてスタートシンクロ11のスリーブ11Sが「S」の位置に設定されるのに対して、第1シンクロ22のスリーブ22Sは「3rd」に位置に設定され、そして直結用シンクロ12のスリーブ12Sは「4th」の位置に設定される。
また、このときの第1遊星歯車機構6の各回転要素、すなわちサンギヤ6S、キャリア6C、リングギヤ6Rの回転状態を図11の共線図に示す。そして、この場合のトルクの伝達経路を図12に示す。すなわち、この場合は図12に示すように、出力軸18から第3速ギヤ対14および第4速ギヤ対15ならびに入力軸2を経由してエンジン1に至る動力伝達経路と、入力軸18から第2速ギヤ対21および第1ドライブ軸4ならびに第1遊星歯車機構6を経由して第1ポンプモータ7に至る動力伝達経路との2つの伝達経路が形成されることになる。なお、この場合は、第1ドライブ軸4からキャリア6Cを介して第1遊星歯車機構6に入力されたトルクは、前述の第1制御例の場合のように2つに分割されることなく、全てサンギヤ6Sを介して第1ポンプモータ7に伝達されることになる。
前述したように、第1制御例の場合は、第1ドライブ軸4からキャリア6Cを介して第1遊星歯車機構6に入力されたトルクが2方向に分割され、その一方がエンジン1に入力されることになるので、制動時に第1ポンプモータ7が駆動されることにより発生する油圧は、エンジン1のエンジンブレーキ力に依存することになる。これに対して、この第2制御例の場合は、上記のように油圧回生時に第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rが固定されることにより、出力軸18側から第1ドライブ軸4を経由して入力されたトルクが、全て第1ポンプモータに入力されることになり、エンジン1のエンジンブレーキ力に依存することなく、効率良く油圧の回生を行うことができる。
以上のように、この発明の可変容量型ポンプモータ式変速機TMによれば、第4速ギヤ対15と直結用シンクロ12とからなるこの発明における直結段用伝動機構により、第1遊星歯車機構6もしくは第2遊星歯車機構8と出力軸18との間を動力伝達可能な状態にするとともにエンジン1と出力軸18との間の動力伝達を遮断し、かつ第1ポンプモータ7もしくは第2ポンプモータ9で油圧を発生させることにより第1遊星歯車機構6もしくは第2遊星歯車機構8に対して反力トルクを与えている状態では、エンジン1が出力したトルクと反力トルクとが第1遊星歯車機構6もしくは第2遊星歯車機構8で合成され、そのトルクが各ギヤ対19,21,14,20からなる所定の変速段用伝動機構を介して出力軸18に伝達される。
一方、上記の第4速ギヤ対15と直結用シンクロ12とからなるこの発明における直結段用伝動機構により、第1遊星歯車機構6もしくは第2遊星歯車機構8と出力軸18との間の動力伝達を遮断するとともにエンジン1と出力軸18との間を動力伝達可能な状態にすることによって、エンジン1の出力トルクがそのまま出力軸18に伝達されて、いわゆる直結段となる。その場合、各ポンプモータ7,9が反力を出力する必要がなく、またエンジン1から出力軸7への動力伝達経路と各ポンプモータ7,9との間の動力伝達が遮断されている。そのため、油圧の漏れやギヤでの摩擦などによる動力損失あるいは各ポンプモータ7,9の引き摺り損失の発生を回避もしくは抑制し、変速機TMの動力伝達効率を向上させることができる。
また、上記の第4速ギヤ対15と直結用シンクロ12とからなるこの発明における直結段用伝動機構により、第4速へのアップシフトを実行するためにエンジン1と出力軸18との間を動力伝達を遮断した状態から動力伝達可能な状態へ切り替える際に、スタートシンクロ11とブレーキ機構17とからなるこの発明における同期補助機構でエンジン1の回転を制動することにより、入力側の回転部材の回転数を低下させることができる。そのため、第4速へのアップシフトの際の直結用シンクロ12における回転同期を促進して、エンジン1と出力軸18との間の動力伝達状態の切り替えをスムーズに行うことができる。また、その際の直結用シンクロ12による同期を、上記の同期補助機構によって補助することができるので、直結用シンクロ12を小容量の小型のものとすることができる。
そして、一方の第2遊星歯車機構8と出力軸18との間の動力伝達が遮断されかつエンジン1と出力軸18との間の動力伝達が可能にされた状態すなわち直結段が形成された状態で、車両が制動されることにより出力軸18側から変速機TMへトルクが伝達される場合には、他方の第1遊星歯車機構6およびそれに連結している第1ポンプモータ7と出力軸18との間が動力伝達可能な状態にされ、その第1ポンプモータ7が出力軸18側から伝達されるトルクにより駆動される。すなわち第1ポンプモータ7がモータとして駆動されて油圧を発生する。そして、その第1ポンプモータ7で発生させられた油圧がアキュムレータ35に蓄圧される。したがって、いわゆる直結段が設定された状態で出力軸18側からトルクが伝達される場合に、その出力軸18側からのトルクにより油圧を発生させて蓄圧することができる。そのため、最高速段であって直結段である第4速の設定時に、車両が制動されることなどにより外部から入力される動力を回生して油圧として利用することができ、エンジン1および変速機TM全体としての効率を向上させることができる。
また、第2制御例として示したように、直結段設定時に出力軸18側からのトルクが伝達される側のこの発明における他方の差動機構が、サンギヤ6S、キャリア6C、リングギヤ6Rの3つを回転要素とする第1遊星歯車機構6によって構成されていて、一方の差動機構である第2遊星歯車機構8と出力軸18との間の動力伝達が遮断されかつエンジン1と出力軸18との間の動力伝達が可能にされた状態で、出力軸18側から変速機TMへトルクが伝達される場合に、第1遊星歯車機構6のリングギヤ6Rの回転が規制される。言い換えるとリングギヤ6Rが固定される。リングギヤ6Rが固定されると、サンギヤ6Sとキャリア6Cとの他の2つの回転要素間での動力伝達は、入力トルクに対して出力トルクが増速もしくは減速されることになる。すなわち、上述した構成例の場合、出力軸18からキャリア6Cに入力されたトルクの全てが増速されてサンギヤ6Sに出力されることになる。したがって、最高速段であって直結段である第4速が設定された状態で出力軸18側からトルクが伝達される場合に、第1ポンプモータ7を効率良く駆動して油圧を回生することができる。
ここで上述した各具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、前述したステップS18ないしS20、およびステップS19’を実行する機能的手段が、この発明の流体圧回生手段に相当する。
なお、この発明は上述した具体例に限定されないのであって、この発明における変速用伝動機構はギヤ対に限られず、ベルトやチェーンを用いた機構、あるいはローラ式伝動機構などであってもよい。また、各ポンプモータ7,9から排圧する手段として上述した電磁リリーフ弁に替えて適宜の開閉弁を設けてもよい。さらに、この発明における出力部材は出力軸以外にギヤなどの回転部材であってもよい。
1…エンジン(動力源,ENG)、 2…入力軸、 4…第1ドライブ軸、 5…第2ドライブ軸、 6…第1遊星歯車機構、 7…第1ポンプモータ(PM1)、 8…第2遊星歯車機構、 9…第2ポンプモータ(PM2)、 11…スタートシンクロ、 12…直結用シンクロ、 13…キャリア軸、 14…第3速ギヤ対、 15…第4速ギヤ対、 17…ブレーキ機構、 18…出力軸、 19…リバースギヤ対、 20…第1速ギヤ対、 21…第2速ギヤ対、 22…第1シンクロ、 23…第2シンクロ、 24…電子制御装置(ECU)、 35…アキュムレータ(蓄圧器)、 TM…可変容量型ポンプモータ式変速機。
Claims (4)
- 流体圧を発生することに伴う反力を、動力源が連結されている2つの差動機構のそれぞれに該動力源から伝達される入力トルクに対する反力トルクとして与える2つの可変容量型ポンプモータと、該差動機構から出力されたトルクが伝達される中間軸と出力部材との間に設けられ、該中間軸と該出力部材との間を選択的に動力伝達可能な状態する複数の変速段用伝動機構とを有する可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置において、
前記可変容量型ポンプモータが発生させた流体圧を蓄圧する蓄圧器と、
前記動力源およびいずれか一方の前記差動機構と前記出力部材との間に設けられ、選択的に、前記動力源と前記出力部材との間を動力伝達可能な状態にしかつ前記一方の差動機構および該一方の差動機構に連結している一方の前記可変容量ポンプモータと前記出力部材との間を動力伝達不可能な状態にする直結段用伝動機構と、
前記出力部材側からトルクが入力される場合に、前記変速段用伝動機構および前記直結段用伝動機構を制御して、前記動力源と前記出力部材との間を動力伝達可能な状態にしかつ前記一方の差動機構および前記一方の可変容量型ポンプモータと前記出力部材との間を動力伝達不可能な状態にするとともに、前記出力部材と他方の前記差動機構および該他方の差動機構に連結している他方の前記可変容量型ポンプモータとの間を前記中間軸を介して動力伝達可能な状態にし、該他方の前記可変容量型ポンプモータを駆動してその際に発生する流体圧を前記蓄圧器に蓄圧させる流体圧回生手段と
を備えていることを特徴とする可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置。 - 少なくとも前記他方の差動機構はサンギヤおよびキャリアならびにリングギヤを回転要素とする遊星歯車機構により構成され、
前記流体圧回生手段は、前記出力部材側からトルクが入力される場合に、前記リングギヤの回転を規制し、前記他方の差動機構を介して前記出力部材側から入力されるトルクを増速もしくは減速して前記他方の可変容量型ポンプモータに伝達させる手段を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置。 - 前記直結段用伝動機構により前記動力源と前記出力部材との間を動力伝達不可能な状態から動力伝達可能な状態に切り替える際に、前記動力源の回転を制動する同期補助機構を更に備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置。
- 前記直結段用伝動機構は、前記動力源からのトルクを前記出力部材へ伝達する場合の前記出力部材の回転数に対する前記動力源の回転数の比である変速比が前記変速段用伝動機構のいずれの変速段の変速比よりも小さくかつ“1”以下の所定値に設定された機構を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置。
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WO2013080633A1 (ja) * | 2011-12-01 | 2013-06-06 | 株式会社小松製作所 | 作業車両の回生制御装置および作業車両の回生制御方法 |
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2008
- 2008-06-06 JP JP2008149877A patent/JP2009293745A/ja active Pending
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